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2018/11/7 1 プラズマ 『プラズマ パラメータ』 えられた MHD

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2018/11/7 1

プラズマ輪講

『プラズマの基礎パラメータ』『与えられた場の中での粒子運動』

『MHD方程式の導出』

近藤 光志

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目 次

第 1章 プラズマの基礎パラメータ 3

1.1 Debye遮蔽 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

1.1.1 Debye半径 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

1.2 プラズマ振動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.2.1 プラズマ振動数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

1.3 サイクロトロン運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

1.3.1 サイクロトロン振動数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

1.3.2 ラーマー半径 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

第 2章 与えられた場の中での粒子運動 7

2.1 不変な電磁場中での粒子運動 1:(B �= 0 & E = 0) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

2.2 不変な電磁場中での粒子運動 2:(B �= 0 & E �= 0)

電場ドリフト (E ×B ドリフト) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.2.1 電場ドリフト速度 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.2.2 ドリフトの一般式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.3 時間的に変化する電場中での粒子運動:

(B �= 0 & E �= 0 & dE/dt �= 0) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.4 非一様磁場中での粒子運動 1:(B �= 0 & E = 0 & gradB �= 0)

磁場勾配ドリフト (gradient B ドリフト) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

2.5 非一様磁場中での粒子運動 2:(B �= 0 & E = 0)

磁力線湾曲ドリフト (Curvature ドリフト) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

第 3章 MHD方程式の導出 14

3.1 プラズマ運動論の基礎方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

3.1.1 クリモントビッチ方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

3.1.2 ブラソフ方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

3.2 流体方程式の導入 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

3.3 磁気流体力学 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

3.3.1 磁気流体方程式の導出 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

3.3.2 MHD方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

3.3.3 MHD方程式の適用範囲 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

3.3.4 理想MHD方程式と磁場の凍りつき . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

2

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第1章 プラズマの基礎パラメータ

プラズマは、考えている時間/空間スケールに応じて、あるときは、『連続流体』的に、あるときは、『粒

子』的に振る舞う。

この章では、電離気体が『プラズマ』として集団的に振る舞う条件を明らかにする。

1.1 Debye遮蔽

プラズマのもつ大きな特徴の 1つは、プラズマに加えられた電気的ポテンシャルを周りの電子・イオン

雲が遮蔽してしまうことです。このことを Debye遮蔽と呼びます。電荷Qを持つある点電荷をプラズマ中

に配置すると、即座に反対電荷の粒子が取り囲み、その静電場を遮蔽してしまいます。

では、その雲の厚さ (Debye半径)は、どれぐらいになるかを求めてみましょう。

1.1.1 Debye半径

静電場は、静電ポテンシャルで表すと、E(r) = −∇φ(r)となります。

微分形のガウスの法則から、divE = ρε0

= −∇2φとなります。

ここで、遮蔽するイオン・電子雲の電荷を e(ne − n0)とする。ここで、eを単位電荷、ne を電子数密度、

n0を平均粒子数密度とする。

−∇2φ =ρ

ε0=

Q

ε0δ(r) +

e

ε0(ne − n0) (1.1)

ここで、遮蔽するイオン・電子雲の電荷がボルツマン分布 n = n0exp[− eφkT ]していると仮定し、テイラー

展開すると、

e

ε0(ne − n0) =

e

ε0n0[exp(− eφ

kT)− 1]

=e

ε0n0[1 +

−eφ

kT− 1]

= −n0

ε0

e2φ

kT(1.2)

(1.2)を (1.1)に代入して、

−∇2φ =Q

ε0δ(r)− n0

ε0

e2φ

kT

=Q

ε0δ(r)− φ

λ2D

(1.3)

3

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4 近藤光志

0

10

20

30

40

50

60

-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4

exp(-x)exp(-1)

ここで、λ2D = (ε0kT )/(n0e

2)と定義した。

∴ (−∇2 +1

λ2D

)φ =Q

ε0δ(r) (1.4)

この解は、φ = Qr exp(− r

λD)となる。先ほど定義した λD がデバイ長と呼ばれる特性長で、遮蔽の距離の

目安になります。つまり、距離 rが、デバイ長の時、静電ポテンシャルは、ほぼゼロに漸近するというこ

とです。

Debye半径に関する考察

ここで、デバイ長に関する考察をしておきましょう。

デバイ長は λ2D = (ε0kT )/(n0e

2)と定義しました。つまり、

密度が高いと、より多くの電子を含むことになり、遮蔽しやすいためにデバイ長が短くなる。

温度が高いと、遮蔽する電子が薄くなるためにデバイ長が長くなる。

ということです。イメージできますか?

1.2 プラズマ振動

一様に電荷が分布している状態のとき、熱運動等の原因で図 1.1に示されるような電荷のずれが生じた

とする。このとき、これらの電荷間に電場が生じ、変位を無くそうとする方向へ電子が動き出す。(なぜな

ら、電子はイオンに比べて 1000倍程軽いから)しかし、変位がゼロになるところでは、慣性のため電子は

止まることができず、行き過ぎて、初期とちょうど逆の変位付近で折り返す。この運動が繰り返されるた

め、プラズマが振動することになる。

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2018/11/7 5

++++

----

X

δX

図 1.1: イオン成分に対する電子成分の変位

1.2.1 プラズマ振動数

それでは、この振動の振動数を求めることにしましょう。ここで、簡単のために、いくつかの仮定をし

ておきます。

• 磁場がない。

• 熱運動はない。

• イオンは空間中に一様分布し、固定されている。

• プラズマは無限に大きい。

• 電子の運動は x方向のみである。

変位 δxに対して、ガウスの式から、Ex = 4πenδxとなるので、運動方程式は、

meδx = −eEx = −4πne2δx (1.5)

で与えられる。ここで、nは、単位体積あたりの粒子数 (以下密度と呼ぶ)、meは、電子の質量である。こ

の微分方程式を解けば、特定振動数

ωpe =

√4πne2

me(1.6)

が得られる。これが、プラズマ振動数である。

1.3 サイクロトロン運動

プラズマ中に磁場が存在するとき、荷電粒子はローレンツ力により磁場に巻き付く旋回運動を行う。回

転の向きは、旋回運動により生じるループ電流が元の磁場を弱める『反磁性 (diamagnetic)』方向である。

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6 近藤光志

1.3.1 サイクロトロン振動数

まず、この運動の振動数を求めよう。プラズマ中に磁場B0 が存在し、電荷 qs 質量msを持つ粒子が速

度 vで運動するとき、この電荷は、磁場からローレンツ力F = qsvc ×B0を受ける。よって、粒子の運動

方程式は、

msd2x

dt2= qs

v

c×B0

dx

dt= v (1.7)

となる。この方程式を解けば、旋回運動の振動数として、

ωc =qs|B0|msc

(1.8)

が得られる。この振動数をサイクロトロン振動数 (cyclotron frequency)とよぶ。ここで、cは光速である。

1.3.2 ラーマー半径

サイクロトロン運動の旋回半径を求めよう。ローレンツ力は、遠心力と等しいため、v⊥を磁場に垂直な回転運動の速さとすると、

qsv⊥B0

c= ms

v2⊥ρL

(1.9)

となる。ここで、ρL は旋回半径である。

よって、旋回半径 ρL = v⊥/|ωc|となる。この旋回半径をラーマ-半径と呼ぶ。

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第2章 与えられた場の中での粒子運動

この章では、与えられた場の中で、単独粒子 (テスト粒子)がどのような運動をするかについて調べる。

以下では、相対論的な効果は無視し、荷電粒子の運動は、ニュートンの運動方程式で表されるとする。

2.1 不変な電磁場中での粒子運動 1:(B �= 0 & E = 0)

時間・空間的に不変な磁場中では、荷電粒子は磁場に巻き付く一定の旋回運動を行う。質量m、電荷 q

をもつ粒子に対する運動方程式は、

mdv

dt= q(E +

v

c×B) (2.1)

である。

図 2.1のように、磁場に沿う方向を z軸、それに垂直面内に x、y軸をとる。(以降特別なことわりがな

い限り同様の座標軸をとる。)

B0

X

Y

図 2.1: 基本とする座標系

電場E = 0の場合、

x = ρLcos(ωct) (2.2)

y = −ρLsin(ωct) (2.3)

z = v‖t (2.4)

7

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8 近藤光志

なる解がある。

実際これらを運動方程式に代入してみれば、旋回運動の角振動数が |ωc|(ωc = qB/mc)、すなわち、サイク

ロトロン振動数であり、また旋回半径 ρL(ラーマ-半径)が粒子速度 v⊥と、ρL = v⊥/|ωc|の関係で結ばれていることがただちにわかる。

2.2 不変な電磁場中での粒子運動 2:(B �= 0 & E �= 0)

電場ドリフト (E × Bドリフト)

次に、電場・磁場が粒子のラーマ-半径程度では、空間的に一様とみなせて、また、サイクロトロン周

期程度では、時間的にあまり変化しない場合を考える。

図 2.2に示すように、電場が磁場に垂直な成分をもつ場合、磁場があるために粒子は電場方向に直線的に

加速され続けることができず、磁場に垂直な面内 (x-y平面)で見るとサイクロイド状の運動を行う。この

旋回半径は、一周期のうちでも、電場で加速されて v⊥が大きくなった後は大きく、逆に減速された後は小さくなる。その結果、粒子の平均位置である案内中心 (guiding center 図中点線)は、電場・磁場双方に垂

直な方向へ一定速度でドリフトしていく。

X

Y

E0

B0

(+)

(-)

guiding center

図 2.2: 電場ドリフト。粒子の荷電符号により旋回方向が異なる。旋回中心は、同じ方向へ動く。

2.2.1 電場ドリフト速度

それでは、このドリフトの速度を求めましょう。運動方程式 (2.1)で、粒子の速度 v がサイクロトロン

運動 vC と一定のドリフト速度 vE の和であるとして、時間について 1周期の平均をとる。

〈dvdt

〉 = 0 =q

m

(E0 +

vE

c×B0

)(2.5)

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この両辺に磁場B0 をベクトル積としてかけ、電場ドリフト (E ×B drift)速度として、

0 = cE0 ×B0 + (vE ×B0)×B0

0 = cE0 ×B0 + (vE ·B0)B0 − (B0 ·B0)vE

(∵ (A×B)×C = (A ·C)B − (B ·C)A)

∴ vE =cE0 ×B0

B20

(2.6)

が得られる。

電場ドリフトが、粒子の質量・電荷及び速度によらず、電磁場だけで決まることに注意すべきである。す

なわち、図 2.2にあるように、電子とイオンは同じ方向へ同じ速度で移動することになる。このため、準

中性プラズマでは電子とイオンの電流が打ち消しあって、正味の電流は生じない。

2.2.2 ドリフトの一般式

電場の場合と同様に、粒子に対して磁場と垂直に一定の力 F⊥ ≡ mg⊥ (例えば、重力)が働いている時

には、式 (2.6)で qE → F⊥ の置換を行い、

vF =c

q

F⊥ ×B0

B20

=g⊥ × b0

ωC(2.7)

という磁場に垂直方向のドリフトが生じる。ここで、b0 = B0/|B0|は磁場方向の単位ベクトル、gは加速

度である。この場合は、電場ドリフトと異なり、サイクロトロン振動数を分母に含むため、電子とイオン

では、ドリフト速度の方向と大きさが異なり、正味の電流が生じる。

2.3 時間的に変化する電場中での粒子運動:

(B �= 0 & E �= 0 & dE/dt �= 0)

図 (2.2)で示したように、電場を x方向、磁場を z方向とすると、電場ドリフトは、y方向であった。こ

の節では、電場の強さが時間的に変化するが、その変化がサイクロトロン周期に比べてゆっくりしている

場合を考える。このときは、電場ドリフトの大きさも電場の時間変化と同じ速さで変化する。これは、y方

向に等価的な力が働いていることを意味し、ドリフトの一般式 (2.7)を参照すると、この力により、新たに

y × z方向、すなわち−x方向にドリフトが生じることがわかる。以上の考察から粒子の速度を、電場のな

い時のサイクロトロン運動の速度v0、電場ドリフトの速度 vE、及び新たなドリフトの速度vP に分ける。

v = v0 + vE + vP (2.8)

これを運動方程式 (2.1)に代入すると、

m(v0 + ˙vE + ˙vP ) = qE + (q/c)(v0 + vE + vP )×B0

m(v0 + ˙vE) = qE + (q/c)(v0 + vE + vP )×B0 (2.9)

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10 近藤光志

ここで、vP の時間変化は、さらに高次の微小量であるとして無視した。

この式で、v0を含む左辺の第 1項と右辺の第 2項がつりあい、また電場ドリフトに対応する右辺第 1項と

第 3項がつりあうので、最終的に

m ˙vE = (q/c)vP ×B0 (2.10)

がバランスすることになる。ここからドリフト速度 vP を取り出すために、両辺に磁場ベクトル B0 を掛

けてベクトル積を作り、vE = cE ×B0/B20 であったことに注意すると、

m ˙vE ×B0 = (q/c)(vP ×B0)×B0

mc2

q

d

dt

(E⊥ ×B0)×B0

B20

= (vP ×B0)×B0

vP =mc2

qB20

dE⊥dt

=c

B0

dE⊥ωCdt

(2.11)

を得る。これは、分極ドリフト (polarization drift)と呼ばれており、分母にサイクロトロン振動数 ωC が

入っていることからわかるように、主にイオンについてのドリフトである。(∵ me/mi � 1)

したがって、垂直電場の大きさが時間的にゆっくり変化するときは、その電場方向に正味の電流が生じる。

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2.4 非一様磁場中での粒子運動 1:(B �= 0 & E = 0 & gradB �= 0)

磁場勾配ドリフト (gradient B ドリフト)

磁場の強さがラーマ-半径に比べて空間的に緩やかに変化する場合、1サイクロトロン周期の中でもラー

マ-半径 v⊥/|ωC |が変化する。つまり、図 (2.3)のように、磁場の強い側では、ラーマ-半径が小さくな

り、磁場の弱い側では、大きくなる。このため、粒子は磁場および磁場勾配の両方に垂直な方向へ一定の

X

Y

gradB0

B0

(+)

(-)

large

small

図 2.3: 磁場勾配ドリフト。粒子電荷の符号によりドリフト方向が逆になる。

速度でドリフトする。

磁場の非一様性を解析的にとり入れるためにテイラー展開を用いる。

磁場の強度は、一次の展開式で、

B(r) B0 + (r · ∇)B0 (2.12)

と表される。ここで B0は粒子の旋回中心での磁場、rは旋回中心からの位置ベクトルである。

これを運動方程式 (2.1)に用いて、

dv

dt=

q

mc[v ×B0 + v × (r · ∇)B0] (2.13)

ここで、右辺の第 1項が第 2項に比べて大きいことを考えると、粒子の運動は、第 0次近似では、『磁場垂

直面内の旋回運動と平行方向の等速運動を重ね合わせたスパイラル運動』となる。

この運動の速度を v0、残りの部分を v1として、式 (2.13)より一次量 v1に対する式を求めると、

dv1

dt=

q

mc[v1 ×B0 + v0 × (r0 · ∇)B0] (2.14)

となる。この式をサイクロトロン運動の 1周期にわたって平均すると、時間変化 〈dv1/dt〉は消えて、右辺第 1項からはドリフト部分だけが残る。

vB ×B0 + 〈v0 × (r0 · ∇)B0〉 = 0 (2.15)

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12 近藤光志

ここで、vB = 〈v1〉である。第 2項では、v0, r0 が共にサイクロトロン運動から出てくることに注意すれ

ば、磁場強度が x方向に変化するとして、

r0 = (ρLcosωCt,−ρLsinωCt, 0)

v0 = (−ρLωCsinωCt,−ρLωCcosωCt, 0)

B0 = (0, 0,−B0)

∴ (r0 · ∇)B0 = (0, 0,−ρLcosωCt∂B0

∂x) (2.16)

v0 × (r0 · ∇)B0 = (ρLωCcosωCt · ρLcosωCt∂B0

∂x, ρLcosωCt

∂B0

∂x(−ρLωCsinωCt), 0)

= (ρ2LωCcos2ωCt

∂B0

∂x,−ρ2LωCsinωCtcosωCt

∂B0

∂x, 0) (2.17)

〈v0 × (r0 · ∇)B0〉 = ρ2LωC(〈cos2ωCt〉x− 〈sinωCt cosωCt〉y)∂B0

∂x

=1

2ρ2LωC

∂B0

∂xx (2.18)

となる。これを式 (2.15)に代入して、

vB ×B0 = −1

2ρ2LωC

∂B0

∂xx (2.19)

つまり、

vB =1

2B0ρ2LωC

∂B0

∂xy (2.20)

ρL = v⊥/|ωC |なので、

vB =v2⊥

2ωCB0

∂B0

∂xy

〈vBy 〉 =v2⊥

2ωCB0

∂B0

∂x(2.21)

これを一般的にベクトル表示すると、

vB =v2⊥2ωC

B0 ×∇B0

B20

=cW⊥qB0

B0 ×∇B0

B20

(2.22)

これは、『磁場勾配ドリフト (gradient-B drift)』と呼ばれている。ここで、W⊥は磁場垂直方向の粒子の運動エネルギーである。

したがって、磁場強度が空間的に変化するプラズマ中では、主として磁場垂直方向に高エネルギーの粒

子が磁場勾配ドリフトを起こし、正味の電流をもたらすことになる。

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2.5 非一様磁場中での粒子運動 2:(B �= 0 & E = 0)

磁力線湾曲ドリフト (Curvature ドリフト)

これまでは、磁力線が直線的であるという仮定の上で話を進めてきた。しかし、磁力線が湾曲している

場合は、磁力線に沿って運動している粒子には、曲率中心から外向きの遠心力

F⊥ =mv2‖R

R (2.23)

が働く。ここで、Rは曲率半径であり、Rは曲率中心から外向きの単位ベクトルである。この遠心力を、外

力 Fによるドリフト速度の一般式 (2.7)に代入して、

vC =c

q

mv2‖RB0

R× b0

=v2‖

RωCR × b0 (2.24)

で与えられる『磁力線湾曲ドリフト (curvature drift)』が得られる。これは前節の磁場勾配ドリフトとよ

く似た表式である。実際、真空磁場では、∇B0 = (−B0/R)Rであるので、磁場勾配ドリフト、湾曲ドリ

フトを合わせて、

vmag =v2‖ + (1/2)v2⊥

RωC(R × b0) (2.25)

と書ける。

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第3章 MHD方程式の導出

3.1 プラズマ運動論の基礎方程式

プラズマは、電磁的に相互作用しあう多数個の荷電粒子の集合体である。それら個々の運動を考慮に入

れてプラズマを取り扱うのがこれから述べる運動論である。はじめに、運動論の最も基礎となるクリモン

トビッチ方程式を導入する。

しかし、全ての粒子の軌道運動を正確に取り入れて方程式を解くことは限りなく不可能に近い。そのた

め、様々な近似を導入する。このようにして、クリモントビッチ方程式からブラソフ方程式を導く。

3.1.1 クリモントビッチ方程式

プラズマ中の粒子の運動は、初期時刻の位置・速度を指定すれば、以降の位置・速度は運動方程式から

決定できる。ある j 番目のプラズマ粒子が座標 x、速度 vからなる 6次元空間を運動するとき、その軌跡

を (Xj(t),V j(t))とする。ここで、大文字のX,V はラグランジュ座標による表示であり、その時間発展

は運動方程式

dXj

dt= V j (3.1)

dV j

dt=

qjmj

(E +V j

c×B) (3.2)

により記述される。ここで、電場 E、磁場B は時刻 tでの粒子位置 x = Xj(t)における値であり、電磁

場は、マクスウェル方程式を用いて求められる。

マクスウェル方程式に現れる電流密度、電荷密度はラグランジュ座標で表された粒子量と、関係式

j(x, t) =∑j

qjV jδ(x−Xj(t)) (3.3)

ρ(x, t) =∑j

qjδ(x−Xj(t)) (3.4)

により結ばれている。

ここで、∑

j は全ての粒子について和をとることを意味する。

以上の運動方程式、マクスウェル方程式、そして電流・電荷密度の定義式は、閉じた方程式系をなして

おり、これらを解くことにより、原理的にはプラズマの全ての振る舞いを知ることができる。

14

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2018/11/7 15

プラズマを集団的に扱うために、粒子種 s(例えば、電子とイオン。イオンのとき、s = イオン) 毎にオ

イラー座標での密度関数を定義する。

Ns(x,v, t) =

Ns0∑j=1

δ(x−Xj(t))δ(v − V j(t)) (3.5)

ここで、和の計算は粒子種ごとに、すべての粒子について行う (j = 1, 2, · · · , Ns0)。この場合、粒子と場

の量を結ぶ式 ( 3.3 ) ,( 3.4 )は、

j(x, t) =∑s

qs

∫Ns(x,v, t)vd

3v (3.6)

ρ(x, t) =∑s

qs

∫Ns(x,v, t)d

3v (3.7)

(d3v = (dvxdvydvz))

のように、粒子和の代わりに密度関数を速度空間で積分することで得られる。

密度関数が時間的にどのように発展するかを考える。式 ( 3.5 )の時間微分をとると1、

∂Ns

∂t(x,v, t) = −

∑j

Xj · xδ(x−Xj(t))δ(v − V j(t))

−∑j

V j · vδ(x−Xj(t))δ(v − V j(t)) (3.8)

ここで、記号の上のドットは時間微分を表し、微分オペレータはx = (∂/∂x, ∂/∂y, ∂/∂z),v = (∂/∂vx, ∂/∂vy, ∂/∂vz)

を表す。運動方程式 ( 3.1 ) ~ ( 3.2 )を用いて、式 ( 3.8 )から Xj ,V j を消去して、式 ( 3.9 )となる。

∂Ns

∂t(x,v, t) = −

∑j

V j · xδ(x−Xj(t))δ(v − V j(t))

−∑j

qjmj

(E +V j

c×B) · vδ(x−Xj(t))δ(v − V j(t)) (3.9)

次に、粒子和において、δ 関数が値を持つのは引数が0 (ゼロ)の時だけである。したがって、

Xjδ(x−Xj(t)) = xδ(x−Xj(t))

V jδ(v − V j(t)) = vδ(v − V j(t))

と書けることを利用して、微分オペレーターを粒子和の外に出せる。そして、式 ( 3.5 )であることを思い

出すと、式 ( 3.10 )を得られる。

∂Ns

∂t+ v · xNs +

qsms

(E +v

c×B) · vNs = 0 (3.10)

式 ( 3.10 )は、クリモンドビッチ方程式 (Klimontovich equation)とよばれ、プラズマ粒子個々の情報を

スパイク的なデルタ関数の集合として含む密度関数の時間発展を、オイラー座標で記述している。1関数 f(x− y) に対して ∂

∂xf(x − y) = − ∂

∂yf(x− y) が成立するため。

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16 近藤光志

3.1.2 ブラソフ方程式

前節のクリモントビッチ方程式は、時刻 tに個々の粒子が 6次元空間 (x, v)のある点に存在することを

表すスパイク的密度関数の時間発展を記述するものであった。しかし、高温プラズマを扱う上で必要とな

るのはデバイ半径程度もしくは、それ以上の空間スケールでの情報であり、この体積中には極めて多数個

の粒子が含まれる。そのため、プラズマ運動論の基礎方程式において実際に必要になるものは、クリモン

トビッチ方程式の密度関数を座標、速度空間の微小体積 ΔxΔvで平均化して得られる空間的に滑らかな分

布関数である。

すなわち、スパイク的密度関数Ns(x,v, t)を、空間的に平均化された滑らかな部分とその残りのデルタ

関数的振る舞いをする部分に分けて以下のように表す。

Ns(x,v, t) = fs(x,v, t) + δNs(x,v, t)

fs(x,v, t) ≡ < Ns(x,v, t) >

}(3.11)

これに対応して、マクスウェル方程式においても場の量を平均部分とその残り部分に分ける。

実際に、クリモントビッチ方程式 (3.10)において平均化を行うと、第 1、2項は、Ns が単に fs に置き

替わる。第 3項のローレンツ項は場の量及び粒子量が積となった非線形項なので、平均化した後も短いス

ケールでの変動に対応する非線形項が残る。

∂fs∂t

+ v · ∇xfs +qsms

(E +v

c×B) · ∇vfs = −(

qsms

) < (δE +v

c× δB) · ∇vδNs > (3.12)

この方程式をプラズマ運動論方程式 (Plasma Kinetic Equation)と呼ぶ。左辺はすべて (x,v)空間にお

いて滑らかに変化する関数であり、右辺は電磁場を介しての離散的粒子同士の相関であり、衝突効果を表

す。

ただし、興味のあるスペースプラズマでは、多くの運動論的プラズマ現象においてクーロン衝突を無視

することができる。式 3.12の右辺を無視すると

∂fs∂t

+ v · ∇xfs +qsms

(E +v

c×B) · ∇vfs = 0 (3.13)

この方程式を、無衝突ボルツマン方程式、あるいはブラソフ方程式 (Vlasov Equation)と呼ぶ。

3.2 流体方程式の導入

運動論の基礎であるブラソフ方程式を改めて書き出すと、

∂f

∂t+ (v · ∇x)f +

q

m(E +

v

c×B) · ∂f

∂v= 0 (3.14)

である。これに速度の n乗を掛けて、速度空間で積分すると、速度空間における粒子分布情報を低次のモー

メントから順に抽出した方程式を得ることができる。空間・時間の関数である流体密度、速度 (大文字で表

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2018/11/7 17

す)を、速度分布関数 f(x, v, t)を用いて以下のように定義する。

n(x, t) =

∫f(x,v, t)d3v (3.15)

V (x, t) =1

n(x, t)

∫vf(x,v, t)d3v (3.16)

粒子数の連続の式

はじめに、式 3.14をそのまま速度空間で積分した 0次のモーメント方程式を導く。∫(v · ∇x)fd

3v = ∇x ·∫(vf)d3v = ∇x · (nV ) (3.17)∫

(E +v

c×B) · ∂f

∂vd3v = 0 (3.18)

となるので、結局∂n

∂t(x, t) +∇x · (nV ) = 0 (3.19)

となる。これは、粒子数の連続の式である。

プラズマ流体の運動方程式

次は、式 3.14に速度ベクトル vを掛けて積分し、1次のモーメント方程式を導く。左辺第 2項は、∫v(v · ∇xf)d

3v = ∇x ·∫

vvfd3v ≡ ∇x · (n < vv >) (3.20)

左辺第 3項は、 ∫v(E +

v

c×B) · ∂f

∂vd3v

=

∫[vE · ∂f

∂v+ v · ∂

∂v(f

v

c×B)]d3v

= −n(E +V

c×B) (3.21)

となる。したがって、∂nV

∂t(x, t) +∇x · (n < vv >) =

q

mn(E +

V

c×B) (3.22)

これは、プラズマ流体の運動方程式である。

この運動方程式の左辺第 2項は、粒子運動により生じる力である。この粒子運動による力の項を、熱運動

に基づく静圧力 (static pressure)と方向性を持った運動により生じる動圧力 (dynamic pressure)に分ける。

v ≡< v >= V として、

< vv > ≡ 1

n

∫fvvd3v

=1

n

∫f [(v − v)(v − v) + vv]d3v

=1

mnP + V V (3.23)

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18 近藤光志

上式において、静圧 P は一般に、磁場に沿う方向と垂直方向では大きさが異なるテンソルである。

以下では、圧力が等方的であると仮定して、スカラー圧力 P を用いる。

P = mnv2thI ≡ PI (3.24)

このとき、運動方程式を保存系のまま表すと、

∂t(nV ) +∇x · (nV V ) = − 1

m∇P +

qn

m(E +

V

c×B) (3.25)

と書ける。

左辺は、連続の式 (3.19)を用いてさらに書き換えることができて、

∂V

∂t+ (V · ∇x)V = − 1

mn∇P +

q

m(E +

V

c×B) (3.26)

が得られ、これが見慣れた運動方程式の形である。

3.3 磁気流体力学

これまでの流れを復習すると、はじめに、電磁力を介して相互作用する多粒子系としてプラズマを扱う

クリモントビッチ方程式から出発し、アンサンブル平均化と粒子衝突の無視によりプラズマ運動論の基礎

であるブラソフ方程式を得た。

次に、ブラソフ方程式の速度モーメント積分をとることで流体方程式を得た。

この段階で、運動論効果(プラズマの粒子性)は失われたが、プラズマの巨視的記述が可能になった。

本節では、2流体方程式を圧縮した 1流体方程式を導く。そこでは、電荷中性条件を仮定することで、

低周波数の磁気プラズマ現象に適用できる「磁気流体方程式 (Magnetohydrodynamic equations)」を

得る。

3.3.1 磁気流体方程式の導出

粒子種 sの連続の式 (3.19)および運動方程式 (3.26)は、右辺の衝突項を復活させて書き直すと、

∂ns

∂t(x, t) +∇x · (nsVs) = 0 (3.27)

msns∂Vs

∂t+msns(Vs · ∇x)Vs = −∇Ps + qsns(E+

Vs

c×B) +

∫msv

(∂fs∂t

)c

d3v (3.28)

となる。ここで、衝突の影響による粒子位置の変化は極めて小さいため、連続の式ではやはり、右辺はゼ

ロである。式 (3.28)右辺最後の項は、異種粒子間の衝突により生じる運動量交換項である。

この電子・イオンそれぞれに対する 2流体方程式を圧縮して、1流体方程式である磁気流体方程式を導

くことができる。はじめに、流体密度、速度を以下のように定義する。

ρ(x) ≡ mini(x) +mene(x) mini(x) (3.29)

V(x) ≡ (miniVi +meneVe)/ρ(x) (3.30)

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2018/11/7 19

これらに対するスカラー方程式として、連続の式 (3.27)に質量ms をかけて粒子種について加えあわせ

ると、∂ρ

∂t+∇ · (ρV) = 0 (3.31)

質量保存の式が得られる。

次に、電荷密度、電流密度を以下のように定義する。

Q(x) ≡ qini(x) + qene(x) = e(ni − ne) (3.32)

J(x) ≡ (qiniVi + qeneVe) (3.33)

ここで、イオンは 1価として qi = −qe = eとした。

連続の式 (3.27)に電荷 qs をかけて粒子種について加えあわせると、

∂Q

∂t+∇ · J = 0 (3.34)

電荷保存の式が得られる。

次に、ベクトル量V,Jについての方程式を得る。

まず、運動方程式 (3.28)を足しあわせることにより 1流体の運動方程式を得る。

∂t(ρV) +∇ · (ρVV) = −∇P +QE+

J

c×B (3.35)

ここで、P = Pi + Pe は全圧力である。運動量交換項は、イオンと電子で大きさが同じで符号が逆なので

相殺される。また、式変形の途中で、連続の式 (3.27)および

miniViVi +meneVeVe ρVV (3.36)

を使用した。さらに、流れの速さVe ∼ Vi のもとに、me/mi(� 1)のオーダーの量を無視している。

もう一つのベクトル方程式は、運動方程式に qs/msをかけ、足しあわせて得る。

∂J

∂t=

e

me∇Pe +

nee2

meE+

nee2

mecVe ×B+

emi

me

∫ (∂fe∂t

)c

v d3v (3.37)

この式を得る途中で、ne ∼ ni,Vi ∼ Ve とし、微小量 me/mi のオーダーの量を全て無視した。また、

∇ · (niViVi − neVeVe)の項を無視した。

ここから、電子の流体速度を消去するため、電流密度と流体速度の定義式を見比べて、O(me/mi)の精

度で、

−eneVe = J− eniVi J− e

miρV (3.38)

であることを用い、イオン密度を ni ∼ ρ/miで表すと、

∂J

∂t=

e

me∇Pe +

ρe2

memi

(E+

V

c×B

)− e

mecJ×B

+emi

me

∫ (∂fe∂t

)c

v d3v (3.39)

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20 近藤光志

となる。

右辺最後の項は衝突による電流の減衰を表す。したがって、この項は電気伝導度 σを用いて表すことがで

きる。上式の両辺にmemi/ρe2をかけることにより、

memi

ρe2∂J

∂t=

mi

ρe∇Pe +E+

V

c×B− mi

J

c×B− J

σ(3.40)

一般化されたオームの法則 (generalized Ohm’s law)が得られる。

右辺第 2、5項だけが大きいときは、普通のオームの法則 J = σEに帰着する。

以上で導いた、2つのスカラー方程式(質量・電荷保存の式)と 2つのベクトル方程式(運動方程式、一

般化オームの法則)をマクスウェル方程式

∇×E = −1

c

∂B

∂t(3.41)

∇×B =4π

cJ+

1

c

∂E

∂t(3.42)

∇ ·B = 0 (3.43)

と組み合わせて、さらに圧力をこれらの量で表せば、閉じた方程式系が構成される。

3.3.2 MHD方程式

一般に磁気流体 (MHD)方程式と呼ばれている、低周波現象に広く適用されている方程式系の場合、さ

らに簡略がなされる。

1. まず、ゆっくりした時間スケールでは電子の移動により空間電荷が中和されるので、電荷密度 Q =

e(ni − ne) = 0 となり、電荷保存の式は∇ · J = 0となる。

2. 1と同様の理由で、マクスウェル方程式の変位電流項 (1/c)∂E/∂tと∇×Bの比は、(ωE/c)/(ck2E/ω) =

(ω/ck)2 � 1となるので、変位電流項を落とすことができる。このため、アンペールの式は∇×B =

(4π/c)Jであり、∇ · J = 0が恒等的に満たされる。よって、電荷保存の式は不要である。

3. 一般化されたオームの法則では、1と同様の理由から電流の時間変化項を無視でき、また、低圧力、

低電流では、右辺第 1、4項を無視できる。

したがって、低周波数領域に適用される電磁流体方程式をまとめると、

∂ρ

∂t+∇ · (ρV) = 0 (3.44)

∂t(ρV) +∇ · (ρVV) = −∇P +

J

c×B (3.45)

1

c

∂B

∂t= −∇×E (3.46)

∇×B =4π

cJ (3.47)

E+V

c×B = ηJ (3.48)

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2018/11/7 21

ここで、最後の式における η ≡ 1/σである。

上の方程式系は、変数 ρ,V, P,J,B,Eに関する 4つのベクトル方程式と 1つのスカラー方程式で構成さ

れている。このままでは、変数の方が 1つ多いので、閉じた方程式系にするには、圧力項を密度など他の

量で表すか、エネルギーの流れの方程式を用いる必要がある。

MHD方程式が適用できる周波数領域のうちで、比較的速い現象では、熱の流体要素を横切る拡散が小さい

ので、断熱の式Pρ−γ = const.を用いることが多い。比熱比 γは、Dを現象の自由度として γ = (D+2)/D

で与えられ、3次元現象では γ = 5/3である。

一方、拡散項を含まない範囲で、エネルギーの流れの方程式は、

∂t

(1

2ρV2 +

P

γ − 1+

B2

)= −∇ ·

[(1

2ρV2 +

P

γ − 1+ P

)V − c

4πE×B

](3.49)

で与えられる。ここで、左辺の各項はそれぞれ、運動エネルギー、熱エネルギー、磁場のエネルギーの

時間変化であり、右辺のはじめの 2項はプラズマ運動に伴う運動エネルギー、熱エネルギーの移流を、第

3項は圧力による仕事を表し、最後の項は電磁場のポインティングフラックスである。

3.3.3 MHD方程式の適用範囲

MHD方程式は、分布関数がボルツマン分布に向けて十分緩和されるような、クーロン衝突が多重回起

こるゆっくりした時間スケールにおいて正しいと思われている。ところが、MHD方程式は、太陽風・磁気

圏相互作用の研究に用いられ、バウショック、磁気圏の形成を定量的にも良く記述している。ここで驚くべ

きことは太陽風プラズマ粒子の平均自由行程は1 AU程度であり、磁気圏のサイズをはるかに越えている。

これらの事実は、MHD方程式の適用範囲がクーロン衝突時間に束縛されないことを我々に教えている。

ここでMHD方程式の導きかたを良く検討してみると、MHD時間スケールで各空間において分布関数

がボルツマン分布に近いという条件さえ満たされていれば、その緩和の原因がクーロン衝突である必要は

ない。実際、非平衡なプラズマ状態は自発的にミクロ不安定性を励起して、その結果分布関数はω−1pe 、ω−1

pi

または ω−1ci の速い時間スケールでボルツマン分布に向かって緩和していく。したがって、これらのミクロ

過程のうちもっともゆっくりした特性時間を表すイオンサイクロトロン振動数より低い振動数であれば、

事実上「無衝突プラズマ」においても、MHD方程式が成り立つと考えて差し支えない。

3.3.4 理想MHD方程式と磁場の凍りつき

MHD方程式において、オームの法則 (3.48)をファラデーの式 (3.46)に代入して電場を消去すると、磁

場の発展を記述する式が得られる。

∂B

∂t= ∇× (V ×B)− c∇× (ηJ) (3.50)

ここで電気抵抗 ηが空間によらず一様と仮定し、さらにアンペールの式 3.47を用いると、

∂B

∂t= ∇× (V ×B) +

c2η

4π∇2B (3.51)

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22 近藤光志

が得られる。あとで述べるように、式 3.51の右辺の第 1項はプラズマの動きと一緒に磁力線が運ばれる効

果を、第 2項は磁場が流体要素を横切って拡散する効果を表す。この 2つの効果の大きさの比は磁気レイ

ノルズ数と呼ばれていて、

Rm ≡ 磁場の対流項磁場の拡散項

=∇× (V ×B)

(c2η)/(4π)∇2B∼ 4πavA

c2η(3.52)

である。ここで aは磁場を横切る方向のプラズマの広がり、vA はアルヴェン速度である。磁気レイノル

ズ数は2つの特性時間の比としても表せる。すなわち、アルヴェン波がプラズマを横断するアルヴェン時

間 τA ≡ a/vA(Alfven transit time)と、式 (3.51)の第 2項で決まる電気抵抗により磁場が拡散する時間

τR ≡ 4πa2/cη(抵抗性表皮時間,resistive skin time)の比として、

Rm = τR/τA (3.53)

と書き表される。磁気レイノルズ数は、地球の磁気圏で Rm > 104程度である。ゆえに、クーロン衝突だ

けで異常抵抗が効かないプラズマでは、磁場の対流効果と拡散効果は時間的に十分分離されている。した

がって、Rm � 1においては η = 0としたオームの法則E+ (V/c)×B = 0をよい近似で用いることがで

きる。これをファラデーの式に代入して電場を消去すると、磁場の時間発展を記述する方程式が得られる。

これは、理想磁気流体方程式 (ideal MHD equations)とよばれており、

∂ρ

∂t+∇ · (ρV) = 0 (3.54)

∂t(ρV) +∇ · (ρVV) = −∇P +

J

c×B (3.55)

∇×B =4π

cJ (3.56)

∂B

∂t= ∇× (V ×B) (3.57)

である。

式 (3.56)を用いて、運動方程式 (3.55)右辺の力の項 (J/c)×Bから電流を消去すると、

J

c×B =

1

4π(∇×B)×B

=1

4π[(B · ∇)B− 1

2∇B2] ≡ ∇ · ΠM (3.58)

ここで、応力テンソル ΠM は、

ΠM =1

4π(BB− 1

2B2I)

=1

⎛⎜⎝

B2x − (1/2)B2 BxBy BxBz

ByBx B2y − (1/2)B2 ByBz

BzBx BzBy B2z − (1/2)B2

⎞⎟⎠ (3.59)

である。式 (3.58)の最後の行では∇·B = 0を用いた。したがって、圧力と合わせ、運動方程式の力の項は、

−∇P +J

c×B = −∇(P +

1

8πB2) +

1

4π∇ · (BB) (3.60)

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2018/11/7 23

S(t+dt)

Vdt

S(t)

dl

図 3.1: 理想磁気流体における磁場のプラ

ズマへの凍りつきの証明。曲面 Sは流体と

ともに運動する表面を表す。

と書き表せる。第 1項のスカラー部分は磁気圧を含めた全圧力を、第2項は磁場の張力を表している。

式 3.57が、「磁場のプラズマへの凍りつき」状態 (frozen-in state)を表していることは、次のように証明可

能である。図 3.1のように流体とともに運動する曲面 Sについて、この曲面を貫く磁束Ψ ≡ (d/dt)∫S(t)

B·dSの時間変化は、磁場そのものの時間変化と、2つの時刻における曲面 S(t)と S(t + dt)で囲まれる側面か

ら逃げ出す磁束として表される。

dΨ ≡∫S(t+dt)

B(t+ dt) · dS−∫S(t)

B(t) · dS

= dt

∫S(t)

∂B

∂t· dS−

∫B(t) · (dl×Vdt)

= dt

∫S(t)

∂B

∂t· dS− dt

∫∇× (V ×B) · dS (3.61)

これより、dΨ

dt=

∫S(t)

[∂B

∂t−∇× (V ×B)

]· dS (3.62)

が得られる。式 (3.57)が成り立つときは、上記の積分値はゼロであり、電気抵抗がゼロである理想磁気流体

においては、一つの体積要素をしめるプラズマと磁力線は離れず一体となって運動することを示している。

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参考文献

・プラズマ物理入門 内田岱二郎訳 丸善株式会社

・高温プラズマの物理学 田中基彦/西川恭治著 丸善株式会社

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