バリオン重力場変動に対する ダークマターハローの...
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○扇谷 豪 (筑波大)
森 正夫 (筑波大)
バリオン重力場変動に対する ダークマターハローの非線形力学応答
まずは自己紹介
名前〆扇谷 豪 (おおぎや ごう)
所属〆筑波大宇宙理論研究室(学部は茨城大)
出身〆富山県
趣味〆サッカー々野鳥観察
目次
宇宙項入りコールドダークマター(ΛCDM)宇宙論
コアーカスプ問題
銀河質量と超新星爆発の関係
DMハローへのバリオン重力場変動の影響 ガス放出モデル
ガス振動モデル
全体のまとめ々今後の展開
ΛCDM宇宙論
宇宙項入りコールドダークマター(ΛCDM)宇宙論
現在、宇宙の構造形成のパラダイムとなっているシナリオ
銀河々銀河団などの構造は、小さいものから順に形成され、合体々衝突を繰り返して成長
大きなスケール(>Mpc)では観測結果をよく説明
しかし、小スケール(<Mpc)ではいくつかの問題が指摘
大スケールでの成功の例
物質密度揺らぎのパワースペクトル
Tegmark et al. 2004
各スケールの構造を赤方偏移z=0での値に換算してフーリエ変換
実線がCDMの理論曲線
熱いDMを仮定すると、小スケール側が大きく削れる
観測から得られる
・銀河分布の2点相関関数
・宇宙背景放射の温度ゆらぎ
もΛCDM宇宙論を強く支持
Small scale crisis
ΛCDM→大スケール(>Mpc)では観測結果を非常によく再現する
しかし、小スケール(<Mpc)では観測との間にいくつかの矛盾点が指摘されている
ミッシング々サテライト問題
角運動量問題
コアーカスプ問題
コア―カスプ問題 ~宇宙論的N体シミュレーション~
DMハローのユニバーサルな密度構造?
中心部で密度が発散する構造=カスプ
・DMハローの質量によってαは変化する (Jing & Suto 2000)
・現在最大級のシミュレーション⇒ 中心部のべき α=α(r) (Ishiyama et al. 2011 など)
Navarro et al.1997 (α=1.0) Moore et al. 1999 (α=1.5)
log(r) [kpc]
log(ρ
)
[ 1
01
0M☉
kpc
-3]
log(r/rvir)
log(ρ
/ρ0)
log(ρ
) [
M☉
pc
-3]
1 3 10 30
log(r) [kpc]
Fukushige & Makino 1997 (α>1.0)
コア―カスプ問題 ~矮小銀河などの観測~
回転曲線(Hα,HⅠ)→密度分布(矮小銀河,LSB)
*矮小銀河やLSBは力学的にDMが支配的
log(ρ
)
[10
-3 M
☉ p
c-3
]
-1 0 1
log(r) [kpc]
van Eymeren et al. 2009
log(ρ
)
[ M
☉ p
c-3
]
log(r) [kpc]
Oh et al. 2010
中心部で密度が一定となる構造=コア または、シミュレーションより小さなα(典型的にα~0.2-0.3 Spekkens et al. 2005 )
理論と観測の不一致⇒コア―カスプ問題
実は抜け落ちている大事なこと
ΛCDM宇宙論の枠組み内でコアーカスプ問題は解決できないのか?
先のシミュレーションの結果はDMのみの場合
特に銀河以下のスケールでは、バリオンの効果は無視できない
銀河中心部(カスプ/コア)ならばなおさら
バリオンの効果を考慮すれば観測結果を説明できる?
銀河質量と超新星爆発の関係
Ⅱ型超新星爆発(SNe)⇒矮小銀河内のガスを加熱
矮小銀河と超新星爆発
SNeによるガス放出
DMハロー
銀河風 バリオン
SNe
SNeによるガス振動
SNeによるガス加熱
⇒ガス膨張
⇒ガス冷却・収縮 ⇒再び星形成・SNe
一連の繰り返し
(ガスへの影響小)
|Φ|
近傍の矮小銀河はそれぞれに個性的な星形成史 (Tolstoy et al. 2009; Weisz et al. 2011 etc.)
星形成に依存する重力場変動 ⇒ カスプからコアへの遷移
星活動
少し流体力学を使って解析
静水圧平衡を満たす流体系に、銀河中心から熱エネルギーを与えた時の流体の振る舞いを調べる
球対称系を仮定し、Lagrange的にシェルの運動方程式々エネルギー方程式を解く (Williams & Christiansen 1985; Umemura & Ikeuchi 1987)
Set up
バリオン(シェル)初期分布
Hernquist model (Hernquist 1990)
総質量はDMハローの17%(Komatsu et al. 2011)
典型的大きさはDMハローの1/10を仮定
重力場(NFW model; Navarro et al. 1997)と静水圧平衡を満たす圧力
星形成時間 𝑇𝑆𝐹=107yr 間シェルを加熱
𝑇𝑆𝐹=107yr はⅡ型SNを起こす重い星の寿命、ガス球中心部の自由落下時間より
同時に星形成が起こった仮定
Equations etc.
運動方程式
エネルギー方程式
中心からの加熱
Hernquist model
NFW model
M-L diagram
加熱の強さ
系の質量
星形成率
・Salpeter IMF
・SFE=0.1
を仮定してLから算出
(Instantaneous)ガス放出 DMハローのスケール長で
脱出速度を超えた
影響なし シェルはバリオンのスケール長
まで膨張しない
ガス振動
膨張したガス球はその後収縮
ガス球の振る舞いの変化
⇒おおよそ∝ 𝑀2の関係 (ポテンシャル∝M)
(ガス質量∝M)
考慮されていない点
ガスの放射冷却過程
各線はより高L側へシフト
星形成のタイムスケール
全部の星が同時に形成されたと仮定した
加熱が穏やかでも、長期間熱せられれば、ガス球は似たような運動をする可能性
各線がより低L側へシフト
ガス放出, ガス振動の時間スケールは星形成史に依存
DMハローへのバリオン重力場変動の影響 1〄ガス放出モデル
(Ogiya & Mori 2011)
天体の質量とバリオン量
WMAPの観測から、全質量に対するバリオン質量の割合fb~0.17
fd≡Mdetect/fbM500
小質量銀河は非常にバリオンに乏しい(fd~0)
大質量になるにつれて、バリオンは天体内に留まるようになる(fd増加)
例外もあり
構造中心部の質量 M500(M☉)
(Spergel et al. 2007, Komatsu et al. 2009)
McGaugh et al. 2010
先行研究と問題点 (Navarro, Eke & Frenk 1996; Gnedin & Zhao 2002;
Read & Gilmore 2005)
・ガス放出モデルに沿ったN体シミュレーション
・カスプ―コア遷移が起こる(バリオン質量が大きなほど、バリオンが集中するほど)
概要・結果
問題点 1.ガス放出の時間スケール 2. 人工的二体緩和 先行研究では考慮されていない。
ガス放出時間は星形成と密接に関係
矮小銀河は各々異なる星形成史を持つ。
⇒ガス放出時間も考慮しなければならない
二体緩和が起こった範囲では、バリオンの影響なしでもカスプ―コア遷移が発生
二体緩和が起こる時間は粒子数に比例
⇒十分な粒子数を用いたシミュレーション
r [kpc]
ρ [M☉
pc
-3]
本研究のモデル
1.カスプを持つ、力学平衡なN体系(DMハロー)を生成
2.中心部に外場(バリオン)をTinかけて加え、平衡に達せさせる
3. 加えたバリオンを放出時間Toutかけ取り除く
4. 平衡状態に達せさせる
シミュレーションの手順
粒子数 N 1048576
DMハローの質量 MDM 109 M☉
DMハローのスケール長 Rs 2kpc
ビリアル半径Rvir 10kpc
ソフトニングパラメータ(解像度) ε ~8pc
←中心部では
先行研究の100倍以上
↓
人工的二体緩和の影響を無視できる
Numerical simulations: FIRST simulator , T2K-Tsukuba (筑波大CCS)
共通パラメータ
結果 ~質量放出時間依存性~
NFW profile (α0=1.0, RDM,0=2kpc)
Mb,tot/MDM=0.17
Rb/RDM=0.02
Tin = 10tdyn
Tout = instantaneous
50tdyn
速い質量放出モデルの方が、
ゆっくり質量放出するモデル
より密度を浅くする。
ρ [M☉
pc
-3]
r [kpc]
最小二乗法によるフィッティング
速い質量放出:α=0.42, RDM=2.1kpc
遅い質量放出:α=0.89, RDM=1.9kpc
結果 ~質量放出時間依存性~
NFW profile (α0=1.0, RDM,0=2kpc)
Mb,tot/MDM=0.17
Rb/RDM=0.02
Tin = 10tdyn
Tout = instantaneous
50tdyn
Time [tdyn]
速い質量放出モデルの方が、
ゆっくり質量放出するモデル
より密度を浅くする。
ρ [M☉
pc
-3]
r [kpc]
Time [tdyn] バリオン降着
外場と
緩和
バリオン放出
最小二乗法によるフィッティング
速い質量放出:α=0.42, RDM=2.1kpc
遅い質量放出:α=0.89, RDM=1.9kpc
r [kpc]
結果 ~質量放出時間依存性~
FMM profile (α0=1.5, RDM,0=2kpc)
Mb,tot/MDM=0.17
Rb/RDM=0.02
Tin = 10tdyn
Tout = instantaneous
1tdyn
10tdyn
50tdyn
速い質量放出モデルの方が、
ゆっくり質量放出するモデル
より密度を浅くする。
r [kpc]
最小二乗法によるフィッティング
速い質量放出:α=1.2, RDM=6.0kpc
遅い質量放出:α=1.5, RDM=2.7kpc
tdyn=tdyn(0.2kpc)
r [kpc]
結果 ~質量放出時間依存性~
FMM profile (α0=1.5, RDM,0=2kpc)
Mb,tot/MDM=0.17
Rb/RDM=0.02
Tin = 10tdyn
Tout = instantaneous
1tdyn
10tdyn
50tdyn
速い質量放出モデルの方が、
ゆっくり質量放出するモデル
より密度を浅くする。
r [kpc]
Time [tdyn] Time [tdyn] バリオン降着
外場と緩和
バリオン放出
最小二乗法によるフィッティング
速い質量放出:α=1.2, RDM=6.0kpc
遅い質量放出:α=1.5, RDM=2.7kpc
tdyn=tdyn(0.2kpc)
力学進化
FMMモデルの結果
(左)一瞬で放出の場合
ハローは膨張し、一旦コア形成
その後カスプが再形成
(右)断熱的に放出の場合
ハローは初期条件に戻る
NFWモデルでも同様
系の安定性
Doremus-Feix-Baumann theorem
(Doremus et al. 1971)
df(E)/dE<0 の平衡系に動径方向の摂動を与えても系は安定
線形領域の議論
シミュレーションは非線形領域だが、適用すれば説明できる
分布関数
粒子エネルギーの絶対値
上から、外場と緩和・初期条件・断熱放出・一瞬で放出 の各準平衡状態
ガス放出モデルのまとめ々議論
DMハローの密度構造
ガス放出時間が短いほどカスプのべきは緩くなる
観測の値(α=0.2-0.3)は再現できない
球対称系に対して、このモデルは有効ではなさそう
DMハローへのバリオン重力場変動の影響 2〄ガス振動モデル
(Ogiya & Mori in prep.)
複数回の星形成期を持つ銀河
複数回の星形成期を経たと考えられる矮小銀河
HR図とSFH (Tolstoy et al. 2009)
星形成史に見える兆候
McQuinn et al. 2010
シミュレーションで起こった バリオンの振動
宇宙論的N体+SPHシミュレーションの例 Pontzen & Governato 2011
星形成の条件などをパラメータにしている
条件によっては、星形成の時間スケールは大きく変化するはず
・DMハローの応答の重力場変動時間スケールへの依存性?
・ガスの振動でカスプ―コア遷移を起こすための条件は?
研究目的
粒子系を流体近似
平衡系(0)に摂動外場(ex)を加え、その結果、密度などが誘起される(ind)
線形化流体方程式〃ポアソン方程式などを用いて
とし、波数 について考えることにすると、
斉次解々外場ともに振動解であると仮定すると、調和振動子の強制振動問題となる
共鳴モデル
ジーンズ波数: (Binney & Tremaine 2008 参考) 音速:
共鳴モデル
を定数、また、 とすると、
大雑把に、 ,
と見積もると、
を満たす位置で粒子群と外場の共鳴的現象が起こり、コアが形成されるのでは?
共鳴モデル々倍音
ここまではある特定の波数kのフーリエ成分についての議論
他の成分についても考える
ある共鳴を起こす波数を𝑘1とすると、
もフーリエ成分の1つ
これも共鳴を起こすとすると、その共鳴条件は同様にして
N体シミュレーションモデル
バリオン: Hernquistポテンシャル(Hernquist 1990)
DMハロー: ・α=1.0: NFWモデル (Navarro et al. 1997)
・α=1.5: FMMモデル
(Fukushige & Makino 1997; Moore et al. 1998)
粒子数 N 1048576
109 M☉
2kpc
10kpc
ソフトニングパラメータ ε 8pc
Opening angle θ 0.8
DMハロー バリオン
1.7×108 M☉
40pc
2kpc
0.1, 1, 3, 10, 50 𝒕𝒅
振動後の密度構造と速度スペクトル NFWモデルの場合
それぞれ振動5回後の様子
振動周期に依存してコアの大きさ
または、形成位置が変化
NFWモデル
共鳴?
𝑻𝒗𝒊𝒃=1𝒕𝒅=10Myr
3𝒕𝒅
10𝒕𝒅
振動後の密度構造と速度スペクトル FMMモデルの場合
それぞれ振動10回後の様子
振動周期に依存してコアの大きさ
または、形成位置が変化
FMMモデル
共鳴?
𝑻𝒗𝒊𝒃=1𝒕𝒅=4Myr
3𝒕𝒅
10𝒕𝒅
さらに詳しくスペクトル
r [kpc]
ω=2π/𝑡𝑑 ω=2π/5𝑡𝑑
ω=2π/10𝑡𝑑 ω=2π/6𝑡𝑑
ω=2π/4𝑡𝑑 ω=2π/3𝑡𝑑 ω=2π/2𝑡𝑑
ω=2π/7𝑡𝑑 ω=2π/8𝑡𝑑 ω=2π/9𝑡𝑑
n×Ω = ω の場合にピークのあるスペクトル (n=1,2,3…; Ω:外場の角速度)
1
3
10 5
1 2
1
𝑀𝑏 , 𝑅𝑏,𝑚𝑎𝑥 への依存性
𝑀𝑏 =1.7×108 M☉,
𝑅b,max = 2kpc
𝑀𝑏 =1.0×108 M☉,
𝑅b,max = 2kpc
𝑀𝑏 =1.7×108 M☉,
𝑅b,max = 1kpc
・𝑇𝑣𝑖𝑏以外のパラメータへの
依存性を調べた。
・初期条件はFMMモデル。
・𝑇vib=3𝑡𝑑で10回振動後の
密度分布。
バリオンの質量や、振動の振幅を変えても密度分布にほとんど違いは現れない
ガス振動モデルのまとめ
共鳴的現象
DMハローの密度構造
カスプ⇒コアには、DMハローの密度波とガスの振動間の共鳴が重要
全体のまとめ々今後の展開
全体のまとめ
コア―カスプ問題@銀河以下のスケール
矮小銀河などの小質量天体では、超新星爆発による加熱でガスの運動が活発
ガス放出モデル
ガス放出時間が短いほどカスプは緩くなる
ガス振動モデル
密度波とガス振動の間の共鳴
カスプ⇒コアには共鳴が重要
今後の展開
DMハローの密度構造と銀河の星形成史の関係
振動タイプについては候補天体あり
シミュレーション
分布関数 f(E)⇒f(E,L)
非球対称系について
流体etc.を取り入れる