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SFC ディスカッションペーパー SFC-DP 2015-002 ユーラシア経済圏と交通ネットワーク 小坂弘行(総合政策学部名誉教授) [email protected] 2015 7

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SFC ディスカッションペーパー

SFC-DP 2015-002

ユーラシア経済圏と交通ネットワーク

小坂弘行(総合政策学部名誉教授)

[email protected]

2015 年 7月

Page 2: ユーラシア経済圏と交通ネットワーク® xzy6 cV ¯ N P601()ÿR. 1 î16J0ßÑá ¾ í á ë î kO 9E,- . 016î¯ß1+B< H8 PG< CM 01R . î¯ß 1á s 1á ¯1á ßÀk+

ユーラシア経済圏と交通ネットワーク1

小坂弘行

総合政策学部名誉教授

〒252-8520 藤沢市遠藤 5322E-mail:[email protected]

要約

昨年から今年にかけて、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立をめぐる日本の参加問題を契機として、ユーラシア経済圏の動きが急浮上した。こうした動きのでてくることは、中

国の経済発展の暁には地政学的に当然のことであると予想された。しかし昨年秋あたりか

ら具体的動きのあるのは認識されたが、動きは急である。AIIB の今後の帰趨については不確定要素は多々あるが、AIIB の動きとは別に、ユーラシア経済圏の台頭は長期にわたって、関連する国や世界の経済と政治に影響を与え続けるだろう。

筆者はそれとは別に、国際多部門システムのモデル化と、交通・輸送問題を経済モデルに

込める研究をしてきた。そうした研究上の事柄と、ユーラシア経済圏の動きは幸いに符合

している。本稿は、それらを反映し、ユーラシア経済圏にとり重要であるが、あまり日本

では周知されていない交通ネットワークの在り方を取り上げ論ずるものである。同時に、

ユーラシア経済圏への各国の対応は、AIIB への参加に対する反応に明敏に表れている。そうした各国の思惑、戦略というものを浮かび上がらせたい。

1 本稿は、2014 年夏の ERSA2014(於サンクト・ペテルスブルグ)での「New FrontierSession」への発表への草稿を加筆、修正し日本語化したものである。こうした動きへの注意を最初に喚起してくれたのは、80 年代に米国ペンシルバニア大学に研究留学中、同大Middle East Research Center の J.C.Ciprut 氏である。遅ればせながら同氏に感謝する次第である。

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1.イントロダクション-交通の役割-

近年、ユーラシア経済圏の動きが顕在化してきている。オランダ、フロニンゲン大学の WIOD

の国際多部門表の時系列データから、各国の製造業の自国通貨建て実質生産の総生産に占

める比率を一瞥してみると、米国は 3 割を切り 2 割の方に漸減している。日本、ドイツ、

フランスといった先進国は 3 割少し上方に安定している。ロシアは 3 割下方で安定、これ

はオイルに傾斜した特殊経済とみるべきである。一方、中国と韓国は漸増して 6 割と高く、

異常な数字に映る。ペティ・クラークの法則にしたがえば、社会が成熟すれば、製造業か

らサービス業に移行するというのが歴史の教えるところ。しかしそれも国民経済を個別に

みての議論で、ことユーラシア経済圏という広い範囲でみた時、その法則性が個別経済を

支配するか原理になっていない。それは裏を返せば、すでにユーラシア経済圏が始動して

いることを物語る。

再び WIOD の時系列で自国通貨名目表示で、各国の名目生産に占める付加価値(利潤と賃金

総額)の比率を算定すると、米国と日本は製造業では 3 割超、サービス業では 6 割超を占

めている。これは逆に言えば、製造業で中間投入が 7 割弱、サービス業では 3 割弱である。

また中国と韓国では、数値は若干異なり、製造業では 2 割中端から近年 2 割を切っており、

サービス業では 5 割超の水準を維持している。ここから言えることは、製造業ではより複

雑なグローバル・サプライ・チェインを強いられ、当面の製造業が中心のユーラシア経済

圏を考えると、グローバル・サプライ・チェインを組む上で交通の果たす役割は大きい。

一方、サービス業は中間投入は少なく、極端なことを言えば、建物と人手さえあれば営業

は可能で海外進出も容易である、しかもサービスは在庫ができないので生産地で消費され

る。したがって交通の役割も製造業ほどでない。

歴史を振り返ると、古代には陸路と海路、大航海時代には帆船を中心とした海路、産業革

命後には蒸気船を中心として海路、第一次大戦後は航路、第二次大戦後は陸路では新たに

高速道路、高速鉄道が導入され、経済は果たした役割は測り知れない。筆者らは、1965 年

から 2000 年までの全国 9 地域間産業連関表から多地域多部門の計量経済モデルを作成し、

高度成長期の日本経済に、特に高速鉄道と高速道路の果たした役割を実証した。(柴田・小

坂 2012)(T.Shibata&H.Kosaka(2012)) 交通には、時間と距離をマネー評価した交通利便

指数を作成し、モデルの中に組み込む必要性がある。従来の経済学はスペースの概念が欠

け、重要であるのにも拘わらず、分析俎上に載らなかった。しかし近年、距離概念を導入

した経済学が流布している。

学問の世界から離れて現実にも交通の役割は十分に認識されており、例えば日本企業が中

国に入る前に、ODA を通して空港や地下鉄、道路を整備し、その後で民間企業がはいって

いったことは周知の事実である。経済発展する前には、まずは交通インフラの整備が不可

欠である。

2.ユーラシア経済圏の始動と交通ネットワークの整備

従来の中国沿岸部の産業集積は主に中国市場内部に限定したものであり、欧州に通じるも

のではなかった。従来あまり知られていなかったが、2014 年になりユーラシア経済圏が

着々と準備されている様子が顕在化してきている2。以下の論稿はユーラシア経済圏をにら

んだ展開を示す。経済圏が形成されるためには、2 点間の物流だけではなく、2 点間を結ぶ

線上にサプライ・チェインを形成することが重要である。どのように線上にチェインが形

成されるかは今後の展開次第となる。形成されるためには、良質な労働力を前提に中間財

2 2014 年 11月 7 日~8 日に北京で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の主催国を代表してを習近平国家主席が陸路の「シルクロード経済圏」(中央アジアから欧州に至る)

と「21 世紀の海のシルクロード」(中国沿岸部からアラビア半島に至る)を建設しようと呼びかけたことにより急浮上した。この構想は本稿のユーラシア経済圏は多少異なるが、

同様の趣旨であると考えてよい。そのための資金をアジアインフラ投資銀行(AIIB)で賄う予定。AIIB への参加問題で一般にも知られるようになった。また急ではあるが、ロシアが旧ソビエトのベラルーシとカザフスタン、それにアルメニアと経済を再統合し、昨年末ま

でに各国が条約を批准し、ユーラシア経済同盟が 2015 年 1 月1日発足した。

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の投入とあいまり、工場が誘致され、近隣の消費地へ製品が配送されることが重要となる。

以下、陸路の高速鉄道と高速道路について述べてみよう。東の日本、中国から欧州へは、

東西に 3 つの北回廊、中央回廊、南回廊のルートがある。鉄道は陸路で長距離の輸送に適

しており、道路は鉄道と連携して短距離に適している。

2.1 高速鉄道

北回廊

北回廊には幾つかのルートがあり、一貫してシベリア鉄道を進むコースは、西からベルリ

ン->ミンスク(バラルーシ)->モスクワ->エカテリンブルグ...->ウラジオスト

ックに至る。このコースはロシアを走り続けるコースである。以下の図を参照。

図1:高速鉄道の北回廊ルート

出展:UN ESCAP

中国が関心を示すのは、途中から南下するつぎの支線である。シベリア鉄道の支線ルート

としてロシアのエカテリンブルグを南下し、アスタナ(カザフスタン)->モインティ(カ

ザフスタン)->ウルムチ->西安をへて重慶に至るコースである。(このコースは下の中

央回廊の一部を利用している)ドイツと重慶を結ぶ路線は、2011 年に本格稼働している。

この途中の西安には経済特区である保税区ができあがっており、将来産業集積の一つを担

うものと思われる。保税区では各国から工場が誘致され、当地では雇用がなされる。生産

物は中国、または他地域に輸出される。ドイツと中国が近年近い関係が模索されているの

は、こうした背景がある。2014 年 11 月 16 日の新華社電によると、新彊ウイグル自治区の

ウルムチと甘粛省蘭州の間を結ぶ「蘭新高速鉄道計画」で、同自治区内の 530 キロが完成、

11 月 16 日に運行が始まった。年末までに蘭州までの全線 1176 キロが開通すると言う。3

年後には北京まで繋がる。また 2014 年 12 月 10 日の AFP 電によれば、世界最長の 1 万 3000

キロを超える中国とスペイン間を結ぶ貨物列車の第 1 号が 2014 年 12 月 9 日、マドリード

に到着したという。今回走ったのは、通常運行の開始に先立つ試験走行であり、消費財の

卸売取引の中心地である中国東部・浙江省の義烏市を先月 18 日に出発し、カザフスタンと

ロシア、ベラルーシ、ポーランド、ドイツ、フランスを走り抜け、21 日間かけ目的地のマ

ドリッドに到着した。中央アジアではなく、アスタナ(カザフスタン)からエカテリンブ

ルグを経由している。本来のシルクロード構想は中央アジアを通過するものだが、北回廊

の一部を利用している。

また別の支線としてロシア東部のチタから中国に入り、満州里->チチハル->ハルピン

->ウラジオストックのルートは中国の東北を経由している。それを受けてウラジオスト

ックへの中国側の国境の町、黒龍江省綏芬河は整備されつつある。日本からの欧州への物

流はここを通過する可能性がある3。たとえば BMW の瀋陽工場では自動車の生産に、部品を

3 韓国紙、東亜日報は 2014 年 6 月 2日に、島根県境港と北朝鮮北東部の羅津港を結ぶ航路開設について日朝双方が協議していると伝えている。海路から高速鉄道で北回廊にリンク。

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ドイツから鉄道輸送で運び入れている。海路では 60 日かかったものが 2 週間程度で届くよ

うになったと言う。これらのコースは中国とロシアの協力が重要で、中国もロシアもその

重要性を認識していると思われる。またあまり注目されないが、シベリア鉄道からモンゴ

ルに入り、北京に至るコースもある。

中央回廊

中央回廊は東半分は中国が握り、中央アジアが西半分を占める。関連する国は、グルジア、

アルメニア、アゼルバイジャン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キ

ルギスタン、カザフスタン。中央アジアはもともと中国の意図とは別に個々に鉄道は整備

されている。中央アジアを横断する「高速鉄道建設計画」は、新疆ウイグル自治区から中

央アジア、東欧、ドイツを結ぶもので、中国の起点は重慶となる。すなわち中国側のウル

ムチから一旦カザフスタンに抜け、モインティ(カザフスタン)を南下4、キルギス北縁か

らシムケント(カザフスタン)、サマルカンド(ウズベキスタン)、メルブ(トルクメニス

タン)を通過し、イランのマシュハドを結ぶゆく路線である5。1996 年、イランの東北部

の聖地マシュハド、サラフス国境をへてトルクメニスタンの町タジャンを結ぶ鉄道が既に

開通。2014 年 12 月 15 日の報道によれば、カスピ海湾岸東部のイラン領内 88 キロ(東北

部でカスピ海、湖岸の町ゴルガーン)、トルクメニスタン領内 700 キロ(インチェブルーン、

アトゥラク、バラカット、カザフスタンとの国境の町ウズルキヤ)、カザフスタン領内 120

キロ(ウゼン)を結ぶ。

中央回廊は日本の利用可能性は低い。とはいえ、日本も指をくわえてみている訳ではない。

日本企業はトルコを足がかりに、資源や潜在成長力で世界的に注目される中央アジア・カ

フカス地域の市場を開拓する動きが広がってきている。この地域のうち 5 カ国はトルコ語

系の言葉を使い、トルコと民族的に近い「トルコ語系諸国」と呼ばれている。

以上 2 つの回廊は、ロシアと中国が握り統合されている。日本にとりロシアでビジネスを

展開するというモデルはリスキーであり、北回廊や中央回廊は期待がもてないとの懸念が

強い。

南回廊

南回廊は、中国を南に抜けるコースで、中国沿海部からベトナムに入り、カンボジア、タ

イ、ミャンマー6からバングラデシュに至る。このルートの中核をなす、タイ、ミャンマー、

ベトナム、ラオス、カンボジアの東南アジア 5 カ国と中国が参加する大メコン圏首脳会議、

通称GMS首脳会議がある。ここでも中国が顔をだし南下政策を推進しようとしている。

バングラデシュから西へはインド、パキスタン、アフガニスタン、イランを抜けて、トル

コに入る。パキスタン、アフガニスタンは政治的に不安定であるが、イランは近年軟化の

兆しがある。イランのエブカテール副大統領兼環境庁長官が来日、2014 年 4 月 2 日には会

見し、環境、自動車、石油分野での投資を促している。ボスポラス海峡地下鉄が 2013 年

10 月に開通し、南回廊の欧州側がわずかに整備された。鉄道を多国間で走らせるためには

軌道の違いが重要である。参考までにロシアは広軌、中国は狭軌等。

4 モインティを北上してアスタナに至るコースは、北回廊の支線として既に述べた。5 古代のシルクロードのコースには、アケメネス朝ペルシャの交通に掛かる税を回避する

ため、カスピ海の北側を通過するコースがあったと言う。6 タイからミャンマー南部のパヤートンズへは、旧日本陸軍によって建設運営された旧泰

緬鉄道がある。現在はタイのナムトックサイヨークノイ停車場で途切れている。ヤンゴン

からマンダレーの北部まで鉄道はあるが、バングラデシュへつなぐ鉄道がない。

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図2:高速鉄道の南回廊ルート

出展:UN ESCAP

ところで南回廊のインドから西は、パキスタンのハイダラバード->サッカル->クエッ

タという南部を抜けて、イランのザヘダンに入るコースが利用できる7。イランは、ザヘダ

ン->ケルマーン->テヘラン->ダブリーズに行き、トルコに至る。テヘラン->マシ

ュハド->サマルカンドを経て、中央回廊に接続することも可能である。

南回廊の難点は、日本と韓国が海をへだて北朝鮮が特殊な政治状況下で交通が整備される

に至っていないことである。そこで最近浮上しているのが、沖縄を経由してのアジアとの

接合である。那覇をハブ化して大陸沿岸部と接合すれば、陸路の鉄道と連結できる。また

海路からの接合の可能性もある。南回廊の別の難点は、中国とベトナム間、タイとカンボ

ジア間は接続されているが、ベトナムとカンボジアの間、ミャンマーが孤立している点に

ある。今後鉄道の整備が必要となろう。

統括する組織として、西側の「国際鉄道連合」に対して、旧ソ連をはじめとする東欧諸国

が中心となって組織された「鉄道国際協力機構」がある。各国政府の鉄道運輸所轄閣僚で

構成する閣僚級会議には 27 事業体が加盟している。主な加盟国は、旧ソ連邦諸国、イラン、

中国、北朝鮮など、日本や韓国は入っていない。韓国は加盟に熱心で提携会員として参加

している。

7 イランは、パキスタンの国境の町クイ・タフタンからイランに入り、ザヘダン、バム、

ケルマーン、イスファーハンからテヘランに至る。ここを関連の列車が通過するのは先の

先で、最も困難なルート。

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図3:高速鉄道網

出展:UN ESCAP

2.2 高速道路

アジアハイウエイの経緯について述べると、1959年に国際連合アジア極東委員会(ECAFE)により提唱され、1968 年国際連合アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)に AHP 事務局が設立。1988 年に中国が加盟、遅れて日本も 2003 年に路線参加を表明した。主要幹線ルートは 8 本が企画されているが、主要高速道路についてみてみよう。アジアハイウエーのネットワークが北回廊、中央回廊、南回廊を通りぬける。北から順に説明すると以下となる。

北回廊

アジアハイウエー 6 号(AH-6、総延長 10,407km)が北回廊を形成している。ほぼロシアを

東西に縦断する。釜山(起点)->平壌->ウラジオストク->ハルピン->イルクーツ

ク->ノボシビルスク->オムスク->チェリャビンスク->モスクワ->クラスノエ

(ロシア連邦、ベラルーシ国境・終点)、となる。

中央回廊

アジアハイウエー 5 号(AH-5、総延長 9,842km)が中央回廊を形成している。上海(起点)

->南京->西安->蘭州->ウルムチ(以上中国)->アルマトイ(カザフスタン)-

>ビシュケク(キルギスの首都)->タシケント(ウズベキスタン)->アシガバート(ト

ルクメニスタンの首都)->トルクメンバシ(トルクメニスタン)->バクー(アゼルバ

イジャンの首都)->トビリシ(グルジアの首都)->イスタンブール->カビクレ(ト

ルコ、ブルガリア国境・終点)、となっている。

中央回廊の支線として、新疆ウイグル自治区カシュガルからパキスタンを縦に縦断し、ア

ラビア海沿岸に面する港町グワダル(イラン国境まで間近)までの約 3000 キロを「中パ経

済回廊」として開発の予定。山岳地帯で道路が中心だが、鉄道も計画されている。パキス

タンのシャリフ首相は 2014 年 11 月に北京を訪れて習近平国家主席と会談、関係強化に期

待感を表明し、両首脳はインフラ整備に関連した約 20 の覚書に調印した。2030 年の完成

を予定している。第1段階として 2017 年までにグワダル港の開発や国際空港を建設、中国

に向かうカラコルム・ハイウエーの拡幅、南部カラチ―東部ラホール―北部ペシャワル間

の鉄道網の改良を進める8。当初の計画ではアフガニスタン側を走る予定であったが、ラホ

8 パキスタン政府は中国が主導して設立する AIIB の融資案件になると期待している。計

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ール等、東のコースに変更されたようだ。

南回廊

アジアハイウエー 1 号(AH-1、総延長 20,710km)が最も長い南回廊を形成している。東京

から日本の高速道路を抜け、福岡の博多港国際ターミナルから出ているフェリーで韓国の

釜山。そこから釜山->ソウル->板門店->開城->平壌->新義州->丹東->瀋陽

->北京->石家荘->鄭州->信陽->武漢->長沙->湘潭->広州->南寧->友

誼関->ハノイ->フエ->ホーチミン->プノンペン->バーンパイン(バンコク近郊)

->パヤジ(ミャンマー、ヤンゴン近郊)->ダッカ(バングラデシュ)->コルカタ-

>ニューデリー->ラホール->ペシャワール->カイバル峠(アフガニスタン国境)-

>カブール->カンダハル->テヘラン->アンカラ->イスタンブール->カピクレ

(トルコとブルガリア国境、終点)、となる9。チベットの高原を回避し、中国沿海部、南ア

ジアを経由してイスタンブールに至るルートである。高速道路がザーヘダーンとテヘラン

を結び、さらに北にはマシュハド、南にはアラビア海のバンダル・チャーバハールに、東

にはパキスタンのクエッタに通じる。

図4:アジアハイウエー路線図

出展:UN ESCAP

注:図中の数値はハイウエー番号

上の 4 つの輸送手段の選択は、専ら輸送手段のコストの比較を通して行われる。そのコス

トの中には、輸送のための待ち時間、輸送自体にかかる時間等が考慮される。この点の評

価は、先に述べた日本の九地域多部門モデルでおこなった。多国間で生産をおこなう企業

は、為替変動をも内生的に組み込んだ複雑なサプライ・チェイン・システムを構築する必

要があろう。

画・開発・改革省高官は「日本からの政府開発援助にも期待したが、インドの支援に傾斜

して、我々を見ようとしない」と供述している。なおこのルートは海のシルクロードを補

完強化する。AIIB の参加締め切り後の 2015 年 4月 20 日、習近平国家主席はパキスタンを訪問、中国が力を入れていることを内外に示した。9 運輸関係者によると中国と他国との国境では積み荷を積み替えることが必要なようであ

る。

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2.3 海上ルート

残り 2 つの交通手段は空路と海路となる。空路では、注目すべきは先に述べた沖縄の物流

基地化があげられよう。また海路では、南と北の 2 つの海上ルートがある。日本の海路に

関していうと阪神淡路大震災で神戸の役割が低下したと言われる。

南ルート

海のシルクロードは古代からある。中国の提唱する「21 世紀海のシルクロード」は、イン

ドネシアから、インド、スリランカ、ケニア、ギリシャを経てオランダにいたるルートで、

南シナ海はその開口部にあたる。そのため着々と海上に構造物を構築している 10。このル

ートの最大の意義は、陸のユーラシア経済圏から外れているフィリピン、ブルネイ、イン

ドネシア、スリランカ等を取り込むことにある。他の注目すべき動きとして、タイの南に

細長く伸びたマレー半島中部にクラ運河をつくる計画が中国とタイにある。そうすればマ

ラッカ海峡を経ずに海上輸送が可能であるが、これにはシンガポールが反対のようである。

顧みれば、日本にも近世以降にも豊かな海外との人的交易があった。フィリッピンのマニ

ラ、ベトナムのホイアンやフエ、インドネシアにも日本人街があった。

北極ルート

将来モノの移動に重要な役割を果たす可能性を秘めるが、現状では期待がもてない。ロシ

アはこのルートの航行について、国際海洋法上、氷に覆われた水域については沿岸国に特

別な規則を設定することを認めているとし、公海自由の原則の適用除外、ロシアへの事前

の届け出と原子力砕氷船による同行を義務付けるとする。ルートの利用を活発化するには

許認可手続、砕氷船の料金、航路のルール等についてのルールつくりが必要である。しか

し北極圏利用のルール作りはまだ始まったばかりである。2015 年 4 月下旬、カナダ北東部イカルイトで開催された北極評議会であるが、メンバーは関連する国は関連する米ソ、北

欧の 8 ヶ国のみ。まだ危険がともなうルートであり、商業ベースに乗るためには時間が必要であると言える。ただ地球温暖化で氷が溶けると、ロシアの主張がくずれ、期待がもて

るかも知れない。

空路については今回触れなかったが、別の機会に述べる予定である。

3.各国の経済圏への取組と AIIB

a)AIIB 設立への経緯

ユーラシア経済圏の構築には、まずは生産のインフラを整えること、つぎにインフラを使

って生産された財貨の販路の確保がされなければならない。アジアインフラ投資銀行(AIIB)

はインフラ整備の資金を提供することを意図したものである。中国はそのインフラ整備の

ためアジア開発銀行(ADB)に増資と理事ポストを要請したが、日本財務省が支配権の喪失とアジア開銀が中国の 21 世紀の海のシルクロード経済ベルトのインフラ構築に利用されることを嫌って拒否した結果、中国はインドに働きかけて AIIB を設立。資金をアジア各国

のみならず、欧州をも巻き込んで経済圏を盛り上げている。中国の意図は、交通ネットワ

ーク形成にまつわる道路や鉄道の建設工事や車両の納入などの利権を得るところにあると

思われる。本来、各国が責任をもって推敲すべき事項であるが、対象が広範になり、統一

体による施工が望ましい。ただ中国の意図を反映した形となり、各国の経済成長を促すよ

う配慮されるか疑問とも言われている。

各国の参加までの経緯を参考までに記すと以下である。当初、中国の周辺国だけであった

が、3月末の締切近くなって、イギリス 2015/3/12の参加が契機になり、フランス 2015/3/17、ドイツ 2015/3/17、イタリア 2015/3/17 がなだれ込んだ。欧州の流れが止まらず、ルクセンブルク 2015/3/18、スイス 2015/3/20、オーストリア 2015/3/24、オランダ 2015/3/28、

10 中国が南シナ海への進出の切っ掛けをなしたのは、冷戦後、米国がフィリピンのスービ

ック海軍基地を 1991年 11月放棄したことにあると言われる。米国は使用延長を望んだが、フィリピン上院の反対にあった。

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グルジア 2015/3/28、デンマーク 2015/3/28 となる。アジアでもトルコ 2015/3/26、熟慮の末に韓国 2015/3/26、オーストラリア 2015/3/29 が参加。米大陸で唯一ブラジル 2015/3/28が参加。エジプト 2015/3/30、フィンランド 2015/3/30、慎重なロシア 2015/3/30 まで入り、キルギスタン 2015/3/31、スウェーデン 2015/3/30、台湾 2015/3/30、イスラエル 2015/3/31、ポルトガル2015/3/31、アイスランド2015/3/31、ポーランド2015/4/2、ハンガリー 2015/4/2

となっている。逆に参加していない国は、有力なところで、日米以外ではカナダ、ベルギ

ー、チェコ、スロバキア、エストニア、リトアニア、ベラルーシ、ギリシャ、ブルガリア、

ルーマニア、と言ったところである11。北朝鮮と台湾は参加申請したが中国に拒否された。

結果として2015年6月16日に、参加国57国12をえて設立協定最終案の全容が判明した。資本

金1000億ドル(約12兆4000億円)のうち、中国の出資額は297億ドルと30%近くを占め、最

大となる。中国は組織運営を決める議決権も25%を超え、増資などの重要案件で事実上の

拒否権を持つことになった。資本金のうち2%弱を57カ国の創設メンバーに配分せずに残し

た。経済規模の小さな国が後から参加する余地を作ったとみられる。欧州勢にオーストラ

リア、ニュージーランド、韓国の「先進国グループ」の出資額を合計して、中国に匹敵す

る規模に達する。中国の独断専行を抑えることは困難と言われる。資本金の規模について、

5年以内に適正かどうかを検討する方針も明記している。恣意的に変更される可能性もあ

る。

表1:参加国の出資額

域内メンバー 域外メンバー

中国 29,780① ドイツ 4,484④

インド 8,367② フランス 3,375⑦

ロシア 6,536③ ブラジル 3,181⑨

韓国 3,738⑤ 英国 3,054⑩

オーストラリア 3,691⑥ イタリア 2,571

インドネシア 3,360⑧ スペイン 1,761

トルコ 2,609 オランダ 1,031

サウジアラビア 2,544 ポーランド 831

イラン 1,580 スイス 706

タイ 1,427 エジプト 650

(注)単位 100 万ドル、横の数字は出資額の順位

運営の中心となる理事会は、アジアなど域内から9人、欧州を含む域外から3人の計12人で

構成。中国は出資額2位インド、3位のロシアとともに、それぞれ1つずつ理事ポストを得

る。総裁の任期は5年、初代総裁は中国の金立群・元財政次官が就く予定。副総裁は「1人

以上置く」とした。また北京に本部を置く。理事はコスト削減を理由に本部の北京に常駐

しないため、日常業務を指揮する総裁に権限が集まり、その分、中国の影響力は増すだろ

う。理事会の構成変更や増資、総裁の選出など、最重要と位置づける案件は議決権の75%

以上の賛成を必要とする。25%超の議決権を握る中国が反対すれば可決できない仕組みで、

11 6 月 24 日、中国の楼継偉財政部長は AIIB への参加を見送っている日米に対し、ドアを開けていると述べている。12 AIIB への参加国は以下。アジア太平洋 25 ヶ国(中国、バングラデシュ、インド、カザフスタン、モリジブ、モンゴル、ネパール、パキスタン、スリランカ、タジキスタン、ウ

ズベキスタン、キルギス、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、以下アセアン 10ヶ国のブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリ

ピン、シンガポール、タイ、ベトナム)、中東 10 ヶ国(ヨルダン、カタール、クエート、サウジアラビア、オマーン、トルコ、エジプト、イラン、アラブ首長国連邦、イスラエル)、

欧州 20 ヶ国(英国、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルグ、スイス、オーストリア、オランダ、グルジア、ロシア、デンマーク、フィンランド、ノルウエー、マルタ、ス

ペイン、アイスランド、ポルトガル、ポーランド、スウエーデン、アゼルバイジャン)、米

州 1 ヶ国(ブラジル)、アフリカ 1ヶ国(南アフリカ)である。

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中国が事実上の拒否権を持つ。創設メンバーの57カ国は6月29日、北京で設立協定に署名し

た。年末までの業務開始する予定。ただしフィリピン、デンマーク、クウェート、マレー

シア、ポーランド、南アフリカ、タイの7カ国は29日の署名を見送った。AIIBの設立準備事務局は「年末の運営開始まで7カ国の署名を待つ」としたが、署名見送りの理由は

説明しなかった。内部で中国の一方的なやり方に対する不満がある可能性が高い。

開発金融の専門性確保のため、すでに米国や英国から著名な専門家を採用したと言われる。

世界銀行からインフラ投資などの専門家、米国からは法律専門家、英国からは環境基準の

専門家など、世界的に著名な人材を招聘と言われる。

AIIB の発行する債券の格付けはシングル A 程度の可能性が高く、せいぜいダブル A 位にしかならないだろうと言われている13。世界銀行やアジア開発銀行(ADB)のようにトリプル A を取得するのは難しいとなると、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)よりも貸出金利は高くならざる得ない、という指摘がある。

b)各国の取組

AIIB への各国の態度はユーラシア経済圏への期待度を示している。ユーラシア経済圏への

取組は各国は様々である。以下で、AIIB への参加と絡めながら俯瞰してみよう。まずは当

事国から順次述べよう。

中国

陸の中央回廊と海のシルクロードが中心の構想を描いていて、中央回廊から南回廊にも関

心を示し、海のシルクロードと連携する意図がある。

図 5:中国の陸と海のシルクロード構想

出展:Wall Street Journal

図中、黒線が陸のシルクロード、青線が海のシルクロードである。陸と海のシルクロード

を一体化する構想はパキスタンやメコン圏会議にでていることはその表れ。中国の意図は

最終的には元経済圏の構築と地域の覇権獲得にある。したがってそれはドル経済圏、EU と

元が共存することになる。

米国

地政学的にみて、大西洋からも太平洋からもユーラシア経済圏から距離がある。それがオ

バマ政権の腰のひけた対応につながっているかも知れない。日本とは同盟関係は強化し、

中国とも決定的な対立を避け、大国関係を担う方向か。また長い将来の構想としてロシア

と協力して、ベーリング海峡に橋とトンネルをつくるという遠大な計画もある。当面孤立

化し力は低下するだろう。ここ 20 年、30 年の間に経済圏への動きが加速するであろうが、

そこで浮かび上がってくることは、南北米大陸の孤立化ではないか。空路と海路によるユ

13 格付け会社には、ムーディーズ(米国)、S&P(米国)、フィッチ等(米英、フランス)がある。各国長期国債の格付けは、2015年 3月 28日時点の S&Pで言うと、ドイツ AAA、米国 AA+、日本 AA-、中国 AA-、韓国 A+、ロシア BB+、インド BBB-、ブラジル BBB-等となっている。格付けは市場が判断するものであり、発行主体の思惑とは独立になる。

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ーラシア経済圏への両端からのアクセスは可能だが、鉄道や道路による陸路の重要性は、

空路や海路にまさると思われる。

英国

英国はユーラシア経済圏とは、日本と同じように陸では繋がっておらず、その分やや焦り

があると思われる。それが故、米国を出し抜いて、AIIB に、2015 年 3 月 12 日に至り、参加申請した。主要 7 カ国(G7)で参加するのは初めてで、これにより AIIB は国際金融機関として信認が高まることになるだろう。英国は AIIB の債券発行等での業務の推進に国際金融面で一役果たしたい意図が窺える。英国の参加で発行債券などの格付けが上がり、

低金利での資金調達が可能となる。その意味で英国の動きは重要であった。

他 EU

英国の参加表明を受けて、2015 年 3 月 17 日、ドイツ、フランス、イタリアも参加すると表明。当面、道路建設や鉄道建設への参加が目的であろう。この動きを反映して欧州の主

要国の参加が表明された。特にドイツは、東欧をへて直接中国とつながることを模索して

いる。旧社会主義国である旧東ドイツが重要な役割を果たしているものと思われる。

日本

日本はユーラシア経済圏を海を隔てて最東端に位置している。経済圏は単にモノが通過す

るのでは意味がなく、途中で生産のサプライ・チェインが形成されることが重要となる。

途中の地域での豊富で良質な労働力、交通を含めたインフラ整備、治安等が重要性を増す。

経済圏に関して安倍政権は南回廊への傾斜を強めている。首相就任後早速、ラオス、カン

ボジアまで含めて東南アジアを歴訪し、トルコまで足をのばした。残るのは、パキスタン、

アフガニスタン、イランであるが、イランは従来から強いパイプがある。南回廊の難関は

インド以西で、パキスタンやアフガニスタンは北部が山岳地帯なので、南部の砂漠地帯を

抜けてイランに至るのがよりよいルートとなろう。北回廊もシベリア鉄道の東に支線、チ

タからウラジオストック経由の日本には多少の期待はもてる。その途中には旧満州の中国

東北部がある。鉄道と道路の双方で、日本は南回廊を志向している。中国からベトナム、

タイ、ミャンマー、インドあたりがターゲットになっている。欧州まで到達しなくともイ

ンドまででも十分な経済的利益は大きい。経済圏を睨んだ技術戦略であるが、技術を、模

倣を許す技術と先端技術を企業を超えた上方のレベルで選別し、許す技術は流し、発展の

途上の差を利用して競わせるという戦略が必要である14。

日本は AIIB の中国の提案に、3 月末の期限までに融資条件の透明性を問題に参加表明しな

かった。中国は日米の参加を見越して 6 月まで期限を延長してきて、期待のほどを窺がわ

せた。日米の参加は国際金融機関としての信用に大きく影響を与える筈だった。

韓国・北朝鮮

韓国は中国に相乗りして中央回廊に賭けている。朴槿恵大統領の「ユーラシア・イニシア

チブ戦略」がそれで、ユーラシア大陸をひとつの大陸として経済、政治、文化を発展させ

る。そのために韓国の釜山を起点に北朝鮮、ロシア、中国、中央アジア、モスクワを経由

して欧州各地につながる国際列車のダイヤを組もうという構想。ユーラシア経済圏を睨ん

で「look east」ならぬ「look west」に転換したのではないかと思われる。習近平国家主

席が 2014 年 7 月 3 日訪韓、朴大統領と大統領府で会談、交渉中の中韓自由貿易協定(FT

A)について「年内妥結を目指し努力する」ことで合意した。韓国はいずれ米国を離れ中

国に呑み込まれるに違いない。

韓国は AIIB に参加し、それを通して北朝鮮も経済圏に組み込まれることを期待し、将来的

には南北の統一をして大きな勢力になりたいと希望している。しかし北朝鮮は金融システ

ムが未熟だと AIIB への加盟を中国から拒否された。北朝鮮は経済圏の東端に位置している

が、まだ構想に乗り切れていない。長いタイムスパンでみればいずれは経済圏に組み込ま

14 中国自動車市場は、2014 年累計で、民族系で 38.4%、独系 20.0%、日系 15.7%、米国系 12.8%、韓国系 9.0%、仏系 3.7%となっている。2014 年 12 月のみだと、民族系と独系が低下、日系が急速に伸びている。これを受けてトヨタは中国に新たな工場の建設を計画

している。こうしたことは、当地と競争相手との技術戦略が重要であることを物語る。

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れるだろう。当面北朝鮮への AIIB の投資は難しいだろう。中国と北朝鮮が外交的にギクシ

ャクしている上に、AIIB の融資は危険をともなうことが予想され、融資には日本の戦後賠

償と一体化することが望ましいだろうが、その前に日朝間の拉致問題を解決されねばなら

ない。

ロシア

ユーラシア経済圏の北回廊に賭けたいが、2014 年以来のウクライナ問題などで躓きがある。

シベリア鉄道の西半分は中国と協力できるが、東半分は閑古鳥がないている。東シベリア

の開発は日本の協力を仰ぎたいが、北方領土が足枷となっている。その打開のため日ロが

動き出す可能性もある。

インド

ユーラシア経済圏は歓迎で南回廊に位置している。中国が中央回廊から南回廊をへて海の

シルクロードと結び付ける上で最大の反対勢力となっている。北にヒマラヤを抱えるので、

中央回廊にはあまり期待できない。東西の勢力を結ぶメリットがあろう。

ミャンマー・スリランカ

AIIB に参加しているが慎重である。ミャンマーのテイン・セイン大統領は、中国が北部の

カチン州で計画していたミッソンダム・プロジェクトを 2011 年 9 月に白紙撤回。中国が資

金をだす発電所建設計画であったが、中国に送電する計画であったようだ。そのため中国

に対する警戒感が強い。一方、スリランカは過去 30 近くインドのこともあり年中国の支援

を受けていたが、中国が軍港はじめ様々な施設を建設してきて、こちらも警戒感が強いと

言われる。中国の提唱する海のシルクロードに関係している。両国の懸念が他国に波及す

るかが今後の焦点となるだろう。

アセアン諸国

歓迎ムードのようである。自国の開発に、アジアインフラ投資銀行と IMF や ADB などの選

択肢が増える。南回廊の一部を形成する。ただベトナムは中国と南沙諸島問題で領土問題

を抱えている。日本と中国の争奪戦が予想される。インドネシアは AIIB には躊躇したが加

盟。フィリピンもベトナム同様領土問題を抱えている。

中央アジア諸国

トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、カザフスタンの 5 ヶ国で

は期待が大きい。ただ中央アジア諸国はイスラム国の影響の懸念がある。

トルコ・イラン

両国の期待は大きい。中央回廊と南回廊のいずれとも通過する。両国はユーラシア経済圏

の中継国で大変な繁栄をするのではないか。イランはこれを見越し、欧米との関係改善に

傾いたのではないか。

豪州・ NZ

両国は AIIB にも加盟していて海のシルクロードに期待している。海路や空路を通して連携

を模索するだろう。

イラク・アフガニスタン・パキスタン

現状では経済圏にとり最も危険地帯、どこの国も積極的に関わりを持とうとしないだろう。

例外は中国でパキスタンにアプローチしている。

4.多国間多部門システム15

現代経済学は物理学の質点の力学を借りていることから、広がりを記述する「面の記述」

には向いていない。したがって現状では、広がりを点を連ねることで表現し、面全体の記

述は可能でない。とはいえ、現状でこうした広域な国際経済圏のネットワークを記述する

経済モデルは、先に触れた国際物流を含めた多国間多部門システムが適切であり、そのデ

ータ的基礎は、代表的には、オランダ・フロニンゲン大学のプロジェクト WIOD や JETRO

15 多国間多部門システムの詳細は、筆者の HPhttp://web.sfc.keio.ac.jp/~hkosaka/MCMS/index.htmlを参照されたい。

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アジア経済研究所の作成機関が作成した分析用の国際表がある16 。全体のイメージが掴む

ために、全取引のレイアウトを示してみたい。

図 6:多国間多部門システムのレイアウト

表は、日米 EU を含めたブリックス諸国(除南アフリカ)の 7 国・地域間の取引を模式的に

示している。横の流れが中間財と最終財であり、縦が投入構造を表している。オランダの

WIOD の表では、40 ヶ国、アジア経済研究所では 10 ヶ国が対象となっている。産業活動の

分類は、WIOD では 37 部門、アジア経済研究所では詳細なもので 78 部門となっている。今

後こした表がユーラシア経済圏を対象に作表されると、経済圏内の経済活動がよくわかる

だろう。

交通の 3 つの役割

ユーラシア経済圏のような広域圏での経済における交通の役割は 3 つある。

a)物流への効果

最初は物流への効果である。これについては上で述べているので詳述しない。特に中間財

の輸送が主に関与しているが、この世界は経済合理性が強く働いている。

b)人の移動にともなう消費

残りは人の移動に関連しているが、2 番目の効果は、人が一時的に移動することにより生

ずる消費への効果である。ここで交通の利便性の向上が一方的に消費を増加させるかとい

うと必ずしもそうとは言えない。最近の事例をみれば、竹島領有をめぐる日韓の紛争が、

両国の交流を減少せしめ、両国間の観光絡みの消費を停滞せしめた。交通の利便性は漸次

高まってきているのにも拘わらず17。

c)定住型移動、ないし移民

3 番目は、定住型の人の移動から生ずる移民による雇用への効果である。これは 1999 年の

EU の発足による移民の大きさをみれば明らかである。日本でも 90 年代初頭に移民を受け

入れるか否かで論争があり 18、移民抑制派が優勢となり現在までに至っている。しかし少

子高齢化で人口が減少している現状から移民を増加すべしとの声が次第に高まりつつあ

る。定住型の人の移動は雇用面のみならず、人が定住すれば、受入国で社会や政治に影響

16 フロニンゲン大学の世界表は 1995 年~2011 年まで毎年次で利用可能であるが、今後継続して作成される予定はない。一方、JETRO アジア経済研究所は 1985 年~2005 年で 5年毎の表であり延長表の作表が望まれる。17 こうした現象への対処は、交通の利便性の指数の作成だけでは有効でなく、国民に横た

わる意識の指標が必要であろう。筆者はこれについて、経済学と異分野ではあるが、オペ

レーションズ・リサーチの AHP の手法が有効あろうと考えている。18 受入積極派は経済評論家の石川好氏、慎重派は哲学者の西尾幹二氏であった。石川氏は

自身の米国カリフォルニアでの農業体験から、西尾氏は哲学者としてドイツ留学での経験

から説をなしている。

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を及ぼすことは明らかである。移住する側の人と、移住を受け入れる側の人の間の文化的

宗教的な違いは短期間には解消されない。それは政治的軋轢となって表れる19。近年、欧

州で移民排斥の動きがあるのはその表れである。

グローバル SCM

経済学のモデルでは需給調整は、価格であるとか企業数であるとか言われるが 20、多くの

生産企業では企業自体が需給調整をしている。いま生産はコンピュータが担い、そのコア

になるものはサプライ・チェイン・システム(SCM)である21。ユーラシア経済圏では生産

は国際的に広がるから SCM もグローバルにならざるを得ない。したがってユーラシア経済

圏をベースにした生産企業は、経営的な課題としてどのように SCM を組むかが課題となる。

技術と生産のネットワークの編成の仕方が問われている。こうした動きを反映して、今後、

ユーラシア世界の広がりと学問の世界が相互に手を携えて進展することが期待される22。

5.結語

ユーラシア経済圏は僅かではあるが着々と前進している。日本としてもそのことをはっき

りと認識し、今後起こるであろうことを考えて行動することが必要である。その意味でこ

うした抄論が少しても役立当てばと思う次第である23。

参考文献

01)Berry,B.J.L.,EC.Conkling and D.M.Ray,1993,The Global Economy,Prentice Hall.

02)藤田昌久・クルーグマン・ベナブルズ(小出博之訳),2004,空間経済学,東洋経済新報社。

03)堀江則雄,2010,ユーラシア胎動,岩波書店.

04)クルーグマン(高中公男訳),1999,経済発展と産業立地の理論,文真堂.

05)レイプハルト(内山秀夫訳),1979,多元社会のデモクラシー,三一書房。原著:

A.Lijphart,1977,Democracy in Plural Societies: A Comparative Explorations,Yale

University Press.

06)松原宏,2006,経済地理学,東京大学出版会.

44)日本建築学会編,1992,モデル分析の手法,井上書院.

07)Paelinck,J.H.P.&L.H.Klaassen,1981,Spatial Econometrics,Gower Publishing

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08)柴田つばさ&小坂弘行,2012,"交通インフラ効果のモデル分析-全国 9 地域産業連関モ

デルを用いて-",運輸政策研究,Vol.14,No.4,pp12-23.

09)T.Shibata&H.Kosaka,2012,"The Internal and External Effect of Demand on the

Japanese Economy with a Special Focus on its Transportation System using an

International and Interregional Input-Output System," The Journal of Econometric

Study of Northeast Asia,Vol.8,No.1,pp1-20.

10)山口誠・石川隆司,1996,"北関東自動車道整備効果の計量経済学的分析",地域学研究,

第 27 巻,37-50.

11)山野紀彦,2002,"高速道路網の整備が地域間交易構造に及ぼす影響",社会経済研究,第

19 レイプハルトは、文化的宗教的分断社会での民主主義の在り方を論じている。レイプハ

ルト著(内山秀夫訳)「多元社会のデモクラシー」,三一書房。20 完全競争では価格、いま主流の独占的競争では企業数がそれを担う。21 最近は、IoT(Internet of Things)と言われ、インターネットに機械類などのモノが結び付く。生産の形態が様変わりする可能性がある。22 関連する学会や研究組織として、日本交通学会(http://koutsu-gakkai.jp/)、アジア交通学会(http://www.easts.info/eastsjapan/)、国土技術総合研究所 (http://www.nilim.go.jp/)、日本船舶海洋工学会(http://www.jasnaoe.or.jp/)、日本港湾経済学会(http://port-economics.jp/)、環日本海経済研究所(https://www.erina.or.jp/jp/Info/riji.htm)、ユーラシア研究所(http://www.yuken-jp.com/)等がある。23 なお筆者のこの分野の HP、http://web.sfc.keio.ac.jp/~hkosaka/eurasia/index.htmlを参照されれば幸いである。

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47 号,45-61.