フランスにおける研究者の養成と雇用 - jsps海外学 …...1.1. 修士課程2...

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フランスにおける研究者の養成と雇用 日本学術振興会 ストラスブール研究連絡センター長 宮本博幸 平成 29 8

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フランスにおける研究者の養成と雇用

 

日本学術振興会

 ストラスブール研究連絡センター長

宮本博幸

平成 29年 8月

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目 次

第 1章 修士課程の学生について 11.1 修士課程 2年に在籍する学生について . . . . . . . . . . . . . . . . . 11.2 エコール・ダンジェニュールの学生 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

第 2章 今後 10年間における学生数の予測 7

第 3章 博士課程在籍者と博士号取得者 93.1 博士課程の在籍者数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 93.2 博士課程 1年次に在籍する学生 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 103.3 女性の博士課程在籍者 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 123.4 博士号取得者 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 133.5 博士課程在籍期間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 133.6 博士課程第 1学年に在籍する学生の資金繰り . . . . . . . . . . . . . 153.7 研究を通したトレーニングに関する産業契約(CIFRE) . . . . . . 183.8 さらに詳しく知るために . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

第 4章 博士号を取得し専門家となる 294.1 博士論文を完成して 5年後に専門家となること . . . . . . . . . . . . 294.2 博士号取得後 5年間における職業活動の変遷 . . . . . . . . . . . . . 314.3 研究分野に由来する雇用条件と待遇 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 324.4 博士号 2001年取得ジェネレーション以降の公的機関ならびに民間

機関における雇用動向 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 344.5 公的研究機関就職希望の後退 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 354.6 新しく博士号を取得者した者の失業率は低いが非正規雇用となる可

能性が高い . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 36

本報告書は高等教育・研究省が2016年に発行したL’état de l’emploiscientifique en France Rapport 2016の第 2章 LE VIVIER DEL’EMPLOI SCIENTIFIQUEを抜粋・翻訳したものである.原文はhttp://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/cid105632/l-etat-de-l-emploi-scientifique-en-france-edition-2016.htmlにある.

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図 目 次

1.1 修士課程 2年次登録数とその内訳:2004-2005~2014-2015 . . . . . . . . . . . 11.2 修士課程のコース別に見る博士課程進学率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21.3 分野別にみる修士課程から博士課程への進学率(%) . . . . . . . . . . . . . 31.4 分野別にみる修士課程から博士課程への進学率(%- 職業コースを除く) . . . . 31.5 設置者別に見るエコール・ダンジェニュール年間修了者数の変遷(%) . . . . 41.6 設置者別に見る博士課程への進学率の変遷(%) . . . . . . . . . . . . . . . 5

3.1 2009-2010~2014-2015の博士課程在籍者数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 93.2 2009-2010~2014-2015の博士課程初回登録者数 . . . . . . . . . . . . . . . . 113.3 2014-2015の博士課程 1年次に登録した学生の分野別年齢層 . . . . . . . . . . 113.4 性別,分野別に見る博士課程学生の分布(2014-2015) . . . . . . . . . . . . 123.5 博士号授与数の変遷 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 133.6 分野別に見る博士号取得に要した期間(2014) . . . . . . . . . . . . . . . . 143.7 博士号取得に要した期間・分野別に見る割合の変遷 . . . . . . . . . . . . . . 153.8 資金源別の分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 173.9 CIFRE契約数の変遷 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 183.10 地方別に見る CIFRE契約数(2015)契約受入企業.研究所の所在地別 . . . . . 193.11 専門分野別に見る CIFREの分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 203.12 雇用主別に見る CIFREの分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 203.13 業種別に見る CIFREの分布(2015) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 213.14 CIFRE契約博士課程学生の出身地 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 223.15 CIFRE契約博士課程学生の収入分布(2015) . . . . . . . . . . . . . . . . . 223.16 2010~2014に CIFRE契約を終了した者の成果発表 . . . . . . . . . . . . . . 233.17 CIFRE契約博士が就職するのに要した期間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

4.1 2010年博士号取得者のその後 5年間の失業率の変遷 . . . . . . . . . . . . . 314.2 4ジェネレーション別に見る博士号取得 3年後の就職状況 . . . . . . . . . . . 344.3 4ジェネレーション別に見る博士号取得 3年後の失業率(2004~2013) . . . . 36

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表 目 次

2.1 研究者数の予測 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

3.1 2014-2015にフランスの大学の博士課程に登録した学生の前年度履歴 . . . . . . 103.2 2014-2015に博士課程 1年次に登録した学生の平均年齢 . . . . . . . . . . . . 123.3 博士課程 1年次登録時の資金調達 (2009~2014新学期) . . . . . . . . . . . . 163.4 主要資金源による分類(2009~2014新学期) . . . . . . . . . . . . . . . . . 163.5 博士課程 1年次学生の資金源(2014-2015) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 173.6 2015年に初めて CIFRE契約をした博士課程学生がそれ以前に取得した免状 . . 22

4.1 2010年修了者の 2013年,2015年における状況(%) . . . . . . . . . . . . . 304.2 Docteurと Ingénieurの共通専門分野,非共通専門分野 . . . . . . . . . . . . 314.3 2010年に実社会に出て以降 5年間をどう過ごしたか,期間の割合(%) . . . . 324.4 雇用の安定:職に就いている学位取得者の 2013年,2015年の状況比較 . . . . 334.5 高等教育修了 3年後の雇用レベル(2013) . . . . . . . . . . . . . . . . . . 334.6 2015年現在の博士号取得者の雇用状況(%) . . . . . . . . . . . . . . . . . 344.7 2010年,2013年における学位取得 3年後の部門別雇用状況 . . . . . . . . . . 354.8 2007年,2010年における学位取得時の実務研究プロジェクト . . . . . . . . . 354.9 免状取得 3年後の失業率と雇用状況 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

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第 1章 -修士課程の学生について

第1章 修士課程の学生について

1.1 修士課程2年に在籍する学生について

学生登録と在籍生数

将来の若い研究者の雇用の推移を適確に予測するには,修士課程を修了した後,博士課程に進む者であろうと,修士課程後すぐに就職する者であろうと,すべての修士号取得者を考慮に入れなければならない.大学,またはそれに相当する機関に在籍する学生をすべて合わせた数は,修士課程 2年に在籍する学生が 2010-2011に最大に達し,その後緩やかな減少に転じ,2013-2014には 155,141人となった(3.8%減).2014年新学期までの,研究と就業と同時に行う混成修士課程の新設は,大学,国,そして学生が修士課程での教育が将来の職業につながるものであってほしいという要望に応えたものである.

2013-2014は,主に国民教育省における教員養成を行うための機関である教職・教育高等学院 ESPEにおける,教員養成のための修士課程MEEF(職業としての教職・教員養成)1の創設の年である.国民教育省が行うコンクールに備えるコースにおいて,コンクールの優秀者には,修士課程 2年次において<勤めながら就学する> : <alternance>のコースに進学できる機会を与える.2014-2015年度にこのコースを創設したことにより,在籍者数は増加した.修士課程 2年次における登

図 1.1. 修士課程 2年次登録数とその内訳:2004-2005~2014-2015

1修士課程修了見込み,または修了者に対してはコンクールが免除され,各免状に適応した別のカリキュラムが行われる.

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1.1. 修士課程 2年に在籍する学生について

図 1.2. 修士課程のコース別に見る博士課程進学率

録者数は 161,430人であり,実質学生数は 159,727人であった.この新しい教員養成修士課程MEEFの影響は,2015年度新学期での博士課程の在籍学生数に反映されると予想される.

2013-2014と 2014-2015との間で,最終的な学生数増加を比較することは不可能である.それは,以前には存在しなかったMEEFコースが,2014-2015大学年に創設されたためである.

分野別に見ると,2004-2005から 2009-2010までに再均衡の時期を経て,文学,人文学の学生は著しい伸びを示し,2014-2015の修士 2年では 40%の増加となった.これに対し,他の分野では 1/4,またはそれ以下の伸びに留まった.修士課程の全てのタイプの数の割合が,全体の総数に対して均衡化したのちに,新たに人文学分野の学生数の大幅な増加を占め,他の分野の学生数は全体の割合に対して 1/4,またはそれ以下であった.

博士課程への進学

2008年以降,博士課程への進学者数は大幅に減少している.修士課程 2年次に在籍し,修了後博士課程に進学する学生数の割合は,2008年-2009には 7%であったが,2014-2015には 4%となった.研究コースに属する修士課程の学生は,他のコースよりも多く博士課程に進学することがわかった.それでも,研究コースに属する学生の博士課程への進学率も同様に減少が見られ,2008-2009では 19%が進学していたのに対して,2014-2015にはわずか 12%に留まった.就労と研究のどちらも準備する混成修士課程(修了後研究に従事,または就業のどちらかを選択することができるコース)に在籍していた学生が博士課程に進学する割合は,研究コー

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第 1章 -修士課程の学生について

図 1.3. 分野別にみる修士課程から博士課程への進学率(%)

スに属する者よりも低く,2008年から 2012年の間に進学率は 11%から 5%に減少し,それ以降,5%台で推移している.

就業コースに属する修士課程の学生の博士課程への進学率は,修了後は進学するよりも就職することを目的としていることもあり,非常に低い割合で推移している(1%から 1.5%の間).修士課程に在籍する学生すべてについてみると,博士課程に進む学生の割合が一番多いのは,科学技術分野(2014-2015において,修士課程 2年次の学生の 9%が次年度に博士課程に進学している.2012-2013での割合は11%であった),ならびに健康科学分野(論文演習を行うものを除いて,7%の学生が博士課程に進学した)であった.これら以外の分野における博士課程への進学率は 3%に満たなかった.

図 1.4. 分野別にみる修士課程から博士課程への進学率(%- 職業コースを除く)

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1.2. エコール・ダンジェニュールの学生

修士課程の就労と学業を行う混成コース,または研究コースに焦点を当てると,科学技術分野または健康科学の博士課程への進学率が際立つ.両コースからの博士課程への進学率は,工学系分野において 13%(2012-2013は 16%),健康科学において 12%であり,法学(6%),人文学(4%)と続いた.スポーツ科学,そして経済・経営学分野の博士課程進学率は 3%であった.

1.2 エコール・ダンジェニュールの学生

免状取得者

2009年以降,Ecole d’Ingénieurs(エコール・ダンジェニュール)2 が授与する免状の取得者の大幅な増加が見られる.2014-2015において,32,800人に免状が授与され,過去 5年間で 18%増加している(年平均 3.4%の増加).Ingénieur(アンジェニュール)免状の 56%が国民教育・高等教育・研究省の所管のエコールから授与されている.このエコールは大学に属するものも,そうでないものもどちらも含む.その他の免状は,省庁所管のエコール(18%),ならびに私立のエコール(26%)から授与されている.この内訳は毎年変化がなく,同じ割合で推移している.

図 1.5. 設置者別に見るエコール・ダンジェニュール年間修了者数の変遷(%)

博士課程への進学

博士課程への進学率は 2010年以降,同水準で推移している.2014年において,科学技術分野で修士号を取得し,博士課程に進学する学生の割合は 4.0%であった.進学率は,国民教育・高等教育・研究省の所管であるエコール・ダンジェニュールの免状取得者の場合に,より多く(2014-2015において 4.9%),私立のエコール・ダンジェニュールではわずか 1.9%であった.

2大学に属するエコール,国立工科大学に属するエコール,国立技術大学,ENI(国立技師学校),INSA(国立応用科学学校),エコール・サントラルなど

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第 1章 -修士課程の学生について

図 1.6. 設置者別に見る博士課程への進学率の変遷(%)

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第 2章 -今後 10年間における学生数の予測

第2章 今後10年間における学生数の予測

2016年 2月,«SIES (systèmes d’information et des études statistiques) »: <情報システムと統計研究>は情報メモの中で,今後 10年間においてリセの最終学年の生徒のうち何人が修士課程,または博士課程に進学するかについての予測を公表した.予測モデルは,国民教育省の評価・予測・実績局によって作成されたリセの最終学年の学生数の予測をベースとし,<情報システムと統計研究>がこれからの推移を予測したものである.リセの最終学年の学生数の予測は,主に 2024年を目途に上昇傾向になるとしており,世代の規模に応じた人口動態を考慮したものである.

この学生数の予測モデルによって立てられた仮説によれば,主な学系において,リセに在籍している学生数と,新しくバカロレア取得者の進路に関する予測は現状と大きく変わることはない.全体として,2014年から 2024年にかけて高等教育に在籍する学生数は 13.6%上昇すると予測されている.2024年における学生数は 2,806,000人となり,これは 2014年と比較し,335,000人の増加である.学士課程(14.2%増),ならびに修士課程(15.2%増)の学生数も同様に増加が見込まれている.

博士課程の学生数も同様に増加を見込んでいるが,増加の割合は他の課程と比べて限定的である(4.9%増).大学に設置されたすべての分野において,学生数の増加が見込まれているが,過去 2年間においてが見られた急激な増加はそのまま続き,科学技術分野での上昇率(31%増)が特に顕著であると見込まれている.一方,人文学・社会科学では 14%,法学では 7%,経済学では 5%,健康科学では 4%の増加がそれぞれ見込まれている.

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表 2.1. 研究者数の予測

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第 3章 -博士課程在籍者と博士号取得者

第3章 博士課程在籍者と博士号取得者

3.1 博士課程の在籍者数

国民教育・高等教育・研究省が博士学院で行ったアンケートによれば,2014年新学期に博士課程に 75,600人が在籍している.これは 2009年新学期と比較すると,7%減少している.社会科学分野(法学,経済学,経営学,社会科学,人類学 3),ならびに人文学(文学,言語学,芸術学,歴史学,スポーツ科学)の博士課程における減少があった(2014年の学生数は 2009年に比べると 13%減少した).科学技術分野の博士課程の在籍者数は,過去 5年間,ほぼ変わりない(1%の減少).

図 3.1. 2009-2010~2014-2015の博士課程在籍者数

外国人留学生の博士課程在籍者に占める割合は,2002年には 30%ほどであったが,2010年に 42%となり,2002年から 2010年に急激に増加した.2010年以降,

3学術分野分類,および GER(groupes d’experts recherche)による

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3.2. 博士課程 1年次に在籍する学生

この増加傾向は収まり,およそ 32,000人の留学生が博士課程に在籍していると見られる.

3.2 博士課程1年次に在籍する学生

博士課程に入学する前の経歴

2014年新学期において,博士課程 1学次に登録した学生の半数以上は,前年にはフランス国内の大学に在籍していなかったことがわかった.フランス国内に在籍した者の割合は,37%が修士課程,6%が工学系グラン・ゼコールであった.

表 3.1. 2014-2015にフランスの大学の博士課程に登録した学生の前年度履歴

博士課程 1年次に在籍する学生数

博士課程在籍者数の減少,その内の大多数が大学在籍者であるが,これは 1年次に登録する人の割合がこの時期に減ったことが主な理由である.およそ 17,300人の学生が 2014年の新学期に博士課程に初めて登録しているが,これは 2009年の新学期と比較すると 13%減少している.2009年と 2014年を比較すると物理学で1%増,生物学,医学,健康科学で 8%増加したが,その他のすべての分野で 1年次に登録する学生は減少した.

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第 3章 -博士課程在籍者と博士号取得者

図 3.2. 2009-2010~2014-2015の博士課程初回登録者数

すべての分野を総合してみると,初めて博士課程に登録する学生の割合は,26歳以下の学生が 38%,26歳から 30歳の学生が 35%である.26歳以下の学生の割合が最も多いのは科学技術分野ならびにスポーツ科学 4 (55%)で,26歳以下の割合が最も少ないのは文学,言語学,ならびに人文学(19%)である.博士課程 1年次に登録する学生の平均年齢は 29歳である.科学技術分野,ならびにスポーツ科学では,平均年齢は 26歳であり,他の分野の平均年齢は,健康科学が 28歳,文学,言語学,ならびに人文学の分野では 33歳であった.

図 3.3. 2014-2015の博士課程 1年次に登録した学生の分野別年齢層

文学,言語学,ならびに人文学の分野において 1年次に登録する者の平均年齢は,4前出の分類に基づく

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3.3. 女性の博士課程在籍者

表 3.2. 2014-2015に博士課程 1年次に登録した学生の平均年齢

他の分野のそれよりも高いことがわかった.その理由として,これらの学生は博士課程進学前にすでに研究以外の分野で就労した経験があるためである(例として,文学,言語学,人文学,法学,経済学の学生の多くが,初等中等教育(大学教育前)の教員として働いた経験をもつ).

3.3 女性の博士課程在籍者

2014-2015における女性の博士課程在籍者数は全体の 48%で,2010年以降,安定している.しかしながら,分野ごとの大きな偏りが見られる.経済学,経営学の分野における女性の割合は 50%以下で,健康科学や基礎科学分野における女性の割合は他の分野に比べ,最も少ない(31%).一方,医学,人文学・社会科学,生命科学,地球・宇宙科学の分野では 50%を超え,薬学,文学,言語学の分野では60%を超え,最大で 66%に達する.

図 3.4. 性別,分野別に見る博士課程学生の分布(2014-2015)

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第 3章 -博士課程在籍者と博士号取得者

3.4 博士号取得者

2014年度の博士号取得者数は 14,440人であった.取得者の 2/3が自然科学,応用科学,生命科学 5 ,21%が人文学,14%が社会科学の学生であった.

2009年から 2012年にかけて博士号の取得者は毎年増加傾向にあり,2013年および 2014年には減少に転じている.しかしながら,2014年の博士号取得者の数は2009年よりも多いことがわかった(2009年と 2014年を比較すると,博士号取得者は 7%増加した).

2002年から 2012年の間に,博士課程に在籍する外国人留学生が全体に占める割合は 22%から 40%と急激に増加した.2012年以降,わずかに減少に転じた.2014年の博士課程に在籍する外国人留学生の数は,およそ 6,000人であった.

2014年,博士号を取得した者のうち,54%が男性で,46%が女性であった.2003年と比較すると,女性の博士号取得者数は 4ポイント上昇した.

図 3.5. 博士号授与数の変遷

3.5 博士課程在籍期間

2014年現在,40%強の学生が 40ヶ月以内に論文の公開審査を受けている.これは,博士協定の規定の期間とおおよそ一致する.約 1/3の学生は 1年延長が必要であり,11%の学生は公開審査まで 6年以上を要した.

5学術分野分類,GER 分類による

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3.5. 博士課程在籍期間

図 3.6. 分野別に見る博士号取得に要した期間(2014)

博士論文の準備期間,ならびにその変遷は,研究の指針や資金繰りと強く結びついている.それにもかかわらず,博士号取得までの所要期間の違いは分野ごとに大変顕著であった(以下の表では,自然科学・応用科学,生命科学,人文学・社会科学の 3つの学系に分類).

自然科学,ならびに応用科学の学生が博士号を取得するまでの所要期間は他の分野よりも短く,93%の学生が 52ヶ月以下で博士号を取得し,その内 60%の学生が40ヶ月以内に博士号を取得した.これとは対照的に,およそ 30%の人文学・社会科学の学生は,博士号取得までに 6年以上を要しており,40ヶ月以内に取得した者は 14%に過ぎなかった.

期間別に分けたグループの年度別の分析によって,いくつかの要素を抽出することが可能である.

すべての分野において,2007年から 2010年にかけて在籍期間に変化は見られないようである.2010年以降,学位論文作成に時間を多く要するものの割合が減少し,論文に時間を多く要さないものの割合が上昇したため,在籍期間の短縮傾向が始まった.

 このグラフから,大きな 3つの学系のグループは同じ傾向を示さない.自然科学,ならびに応用科学において,博士号取得までの期間が短縮され始めたのは,おおよそ 2009年であり,その後変化が見られなかった.生命科学においては,期間の短縮は本調査が始まった時点ですでに顕著であった.人文学・社会科学における期間の短縮は顕著ではなく,2010年にのみに見られた.

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第 3章 -博士課程在籍者と博士号取得者

図 3.7. 博士号取得に要した期間・分野別に見る割合の変遷

3.6 博士課程第1学年に在籍する学生の資金繰り

2014-2015新学期において,69%の博士課程の学生が,博士課程に必要な費用を奨学金,または政府からの資金援助により賄っており,11%の学生は全く援助を受けておらず,17%の学生が研究とは無関係な仕事に従事することにより資金繰りを行っている.資金繰りがはっきりしている博士課程の学生のみに絞った場合,1年次に在籍する博士課程の学生の 72%が政府から資金援助を受けていることがわかった.

 博士課程に在籍する学生の資金繰りは分野によって大きく異なる.2014年の新

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3.6. 博士課程第 1学年に在籍する学生の資金繰り

表 3.3. 博士課程 1年次登録時の資金調達 (2009~2014新学期)

表 3.4. 主要資金源による分類(2009~2014新学期)

学期において,自然科学分野の 1次年に在籍する学生の 79%以上が何らかのの資金援助を受けているが,人文学,ならびに社会科学の分野に在籍する学生のわずか 1/3が資金援助を受けていないことがわかった.

2014-2015では,主な資金源は,32%の学生は博士協定,10%の学生が「研究を通したトレーニングに関する産業契約」(CIFRE)であった.資金源には多くの種類が存在する.したがって,複数の資金源を利用する場合があるので,以下に振り分けたカテゴリーによって資金源の比率を算出することができない.例えば,地方団体と研究機関,もしくは企業と研究機関からの共同資金援助の場合,資金源の割合を算出できない.

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第 3章 -博士課程在籍者と博士号取得者

表 3.5. 博士課程 1年次学生の資金源(2014-2015)

図 3.8. 資金源別の分布

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3.7. 研究を通したトレーニングに関する産業契約(CIFRE)

3.7 研究を通したトレーニングに関する産業契約(CIFRE)

研究を支援する企業内教育協定であるCIFREは,公的研究機関と社会経済界との交流を推進し,企業による博士号取得者の雇用に貢献することが目的である.

図 3.9. CIFRE契約数の変遷

CIFREは,つぎの 3つの柱によって成り立っている.

• 博士課程に在籍する学生に,その研究に関係する職を提供し,それは博士論文の課題となる(多くの場合,企業が雇用主 6),

• 企業外にある研究機関は博士課程の学生の技術的アプローチをサポートし,

• 修士号取得済みの博士課程の学生を対象とする.

企業は,修士号を取得した学生を 3年間の無期雇用契約,または有期雇用契約によって雇用し,税込み年収 23,484ユーロ(月 1,957ユーロ)を支払い,学位論文の対象となる研究に関係した仕事に従事させる.企業は,研究を担当する省庁の企業内教育協定を管理する国家研究・科学技術機構(ANRT)から,3年間,毎年 14,000ユーロの補助金を受け取る.博士課程に在籍する学生の研究結果に関する所有権を定めた条項,ならびに研究の進め方の条件について同意した上で,企業と研究機関は協力協定を結ぶ.博士課程の学生が従事する仕事は研究税額控除(CIR)の対象であり,控除の基準は企業で働くすべての研究者と同等である.CIFRE制度は 1981年から存在し,この 35年間で,25,400人の博士課程の学生,8,500の企業,4,000の研究機関がこの制度を利用した.

CIFREの数の増加

CIFREの希望者は 2011年まで増加傾向にあったが,2013年以降は横ばいとなった.2015年には,1,575件の応募があり,その内 1,383件のCIFREを受け入れ,国会が法律で認めた支援額は 528億ユーロであった.この金額は,CIFREの制度創

62006年以降,公的,あるいは社会的用務を行う協会・地域団体も CIFRE契約の対象となる

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第 3章 -博士課程在籍者と博士号取得者

設以来最高となった.採択率(応募数に対する採択数)は 90%に上った.CIFREを結ぶ博士課程の学生は,資金援助を受ける学生全体の 10%に相当する.

地理的分布

2015年において,CIFREを利用する新たな博士課程学生の 45%が,イル・ド・フランス地域圏に拠点を置く企業と締結した.つぎに,オーヴェルニュ-ローヌ・アルプ地域圏,オクシタニー地域圏,プロヴァンス-アルプ-コート・ダジュール地域圏(PACA)が続く.

図 3.10. 地方別に見る CIFRE契約数(2015)契約受入企業.研究所の所在地別

研究機関の地理的分布は契約締結の数と一致する.イル・ド・フランス地域圏では研究機関の数はわずかに契約締結の数を下回り,オクシタニー地域圏において研究機関の数はわずかに協定締結の数を上回った.CIFREを結ぶ学生の 30%近くがイル・ド・フランス地域圏の研究機関に受け入れられ,つづいてオーヴェルニュ-ローヌ・アルプ地域圏,オクシタニー地域圏,プロヴァンス-アルプ-コート・ダジュール地域圏(PACA)の順であった.

研究分野の分布

2015年に,新たにCIFREを結ぶ 1,383人の学生は,743の公的研究室に配属され,そのうち 2/3が大学等の高等教育機関やその他の研究機関と共同で立ち上げた研究機関(UMR)である.

研究分野ごとの分布について変化はない.研究計画書は主に 2つの科学分野から提出されている.«les sciences et technologies de l’information et de la commu-

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3.7. 研究を通したトレーニングに関する産業契約(CIFRE)

図 3.11. 専門分野別に見る CIFREの分布

nication»: <情報通信理工学> (STIC)と工学分野が,CIFREを結ぶ学生全体の40%を占める.つぎに,人文学・社会科学分野が 1/4を占め,続いて健康科学分野が 9%であった.

受け入れ団体の種類

2015年に,CIFRE契約を新たに結ぶ 1,383人の学生は,784の異なる団体に配属された.受け入れ団体(過去に一度も,または過去 5年間にCIFREの締結がない団体が対象)の更新率は 60%であった.他の契約と同様に,契約加入・解除数の多くは中小企業である.雇用側全体の 2/3が中小企業であり,大企業は全体のわずか 13%であった.中小企業と CIFRE契約を結ぶ学生の 42%は,10人以下の従業員で構成された中小企業との契約であった.

図 3.12. 雇用主別に見る CIFREの分布

2015年に,CIFRE契約を結ぶ博士課程学生の 45%が大企業に,40%が中小企業に,

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第 3章 -博士課程在籍者と博士号取得者

10%がミドルマーケット企業 7 に雇用された.CIFREを結ぶ学生の割合は,相対的に大企業が優勢であった.このようにして,2013年には 5,000人以上の従業員で構成された企業が研究税額控除の 35%を受け取った.毎年,本契約を初めて利用する会社・団体が 10社ほど現れ,15件から 60件のCIFRE契約を締結する.CIFREを新たに結ぶ全体の 5%は,地方団体もしくは地方組織であった.

業種区分における分布

CIFREは,すべての業種区分で結ばれており,中でも 2つの部門での割合が多い.電子情報通信分野がCIFREの全体の 19%を,研究開発,ならびに産業技術分野が全体の 17%を受給しており,合わせて,この 2つの分野がCIFREの全体の約 40%を占めている.2015年における医薬分野の受給率は 4%であった.

図 3.13. 業種別に見る CIFREの分布(2015)

CIFRE契約を結ぶ博士課程学生の特徴

2015年に博士課程に在籍する女性の割合に変化はない.CIFREを新たに結ぶ 1/3の学生が女性であり,国内における博士課程の学生全体に対する女性博士課程学生の割合よりも低い(2014-2015における女性の博士課程学生は全体の 48%であった).

CIFREを結ぶ学生の多くが 22歳から 26歳であった.採用される外国人留学生の割合は減少傾向にあり,21%が外国籍であり,そのうちの 6.4%がマグレブ地域の出身であり,4.5%が欧州連合加盟国出身の学生であった.

2015年にCIFREを新たに結んだ学生のうち,47%の学生が修士号の学位を,21%の学生が Ingénieurの免状を,また 21%の学生が修士号および Ingénieurの免状を取得済みであった.

2015年における,CIFREを締結した学生に対する税込みの平均年収は 28,972ユーロであった.最低賃金(23,484ユーロ)を受け取る学生の割合は 12%に留まり,大多数の学生が最低賃金よりも多い賃金を受けていることがわかった.

7Entreprise de taille intermédiaire

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3.7. 研究を通したトレーニングに関する産業契約(CIFRE)

図 3.14. CIFRE契約博士課程学生の出身地

表 3.6. 2015年に初めて CIFRE契約をした博士課程学生がそれ以前に取得した免状

図 3.15. CIFRE契約博士課程学生の収入分布(2015)

学位論文公聴会,論文発表,特許

2014年にCIFRE契約の終了時に,学位論文公聴会を行った者はあらゆる分野を総合して,90%に達した.CIFRE契約終了後に論文公聴会を行う者はわずか 7%である.

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第 3章 -博士課程在籍者と博士号取得者

CIFRE契約終了 1年後と 5年後に実施したアンケート 8 によれば,CIFRE契約を結ぶ学生の 2/3が,Aランク以上の雑誌に最低 1本以上の論文を発表,ならびに最低 1回以上の国際会議での口頭発表の経験があった.博士論文の 18%が特許出願を行った.

図 3.16. 2010~2014に CIFRE契約を終了した者の成果発表

CIFREに採択された学生の就職

企業内教育協定を管理する(ANRT)によって 2013年に行われた調査によれば,博士号を取得した学生の 96%は契約終了後遅くとも 1年以内に就職口が見つかり,70%は 3ヶ月以内に職を見つけた 9 .企業のグループ別の割合に関しては,博士研究員に進んだ者(14%)を除いて,38%がCIFREを結んだ企業に,8%がCIFRE時の受け入れ研究室に就職が決まった.CIFREの契約終了後もフランスに留まる博士号取得者の 70%以上は民間企業に属し,そのうち 72%が無期雇用契約(常勤雇用,もしくは公務員として)で勤務し,4%が会社を立ち上げた.アンケート開始以来,大部分のCIFREを結んだ研究者は,博士課程修了後初めて就いたå 職に満足している.

図 3.17. CIFRE契約博士が就職するのに要した期間

8ANRTが 2010年,2014年に CIFRE契約を終了した者に対して実施した調査「n+1, n+5における学術研究発表・特許出願」に基づく

92011年に修了した博士学生の進路,ANRTによる 2013年の調査

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3.8. さらに詳しく知るために

CIFREを管理する(ANRT)によって 2012年 10 に行われた調査によれば,2000年から 10年間に契約締結をしたCIFRE契約博士課程学生の 2/3は,今でも分野を問わず企業で研究に従事している.1/3は公的研究機関で働き,1/4は高等教育,ならびに公的研究に特化している.

  CIFREを結ぶ学生のうち,2,000人以上の従業員をかかえるグループ企業で働く者の割合が一番多く,学位取得時とその後 8年間研究に従事した者の割合に変化はない(39%).高等教育,ならびに公的研究に従事する者の割合は就職後年々上昇傾向にあり,学位取得翌年で 23%,取得後 8年で 29%であった.中小企業やマイクロ企業 11 では,これら 2つの時期での割合は減少し,それぞれ 24%,15%であった.

3.8 さらに詳しく知るために

博士養成に関する法令

2016年 5月 25日に出された官報により発令された法令は,過去の法令にとって代わり再編成するものである(1998年 9月 3日に発令された博士論文憲章に関する法令,2005年1月6日に発令された国際共同指導博士課程 «la cotuelle internationalede thèse »: <国外の指導教員との共同指導の下で博士論文を作成>に関する法令,2006年 8月 7日に発令された博士養成に関する法令,2006年 8月 7日に発令された博士論文公聴会・提出・受理結果の発表,ならびに博士論文の配布・複製・公開・保管の方法に関する法令).

 上記の法令は,学士課程,職業学士課程,修士課程に関する公文書の基に,国家の教育改革の一環として公布され,2013年 7月 22日に発効した.本法令は博士協定の政令に関連するもので,2014年から,博士課程の担当者と教授全員による協議により,論文が適切なものであるか審査を行う.

主につぎの 3つの点に留意して本法令の作成を行った.

• 博士課程は,研究と研究に関する専門的な経験を通して教育を受ける場であり,研究に関する職業経験であるということを再確認

これは,博士学院,論文指導教員,博士課程の学生と社会法の導入の関係を明確にするものであり(例えば,特に博士論文作成に関する条件および博士課程の学生の立場を明確にした取り決めを作成),社会法を導入したもの(例えば,身体障害者にあっては論文作成期間の延長,育児休暇,病気休暇)である.

• 機関«ESR»: <高等教育と研究>(人事に関する再編成)

102000年から 10年間のCIFRE契約博士課程学生のその後の進路に関する調査結果に基づく.本調査は 2012年,ANRTと Technopolis ITDにより実施

11Très petite entreprise:社員 10人以下のマイクロ企業

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第 3章 -博士課程在籍者と博士号取得者

博士学院,ならびに研究機関の自治性(例えば,博士学院をまとめる<lescollèges doctoraux> : <コレージュ・ドクトラル>が,博士憲章や人事に関する最終決定をする権利を行使することによって,特に人事に関する衝突が生じた場合の調停の手立てを見越しておく)に配慮すること.

• 博士課程における質の強調

-高等教育機関,特に博士教育によって提供された外部の評価の役割を再確認すること,国と研究・高等教育評価高等評議会(HCERES)による評価.

-欧州連合の教育における勧告を参考にすることによって,地域,あるいは国家規模で実践されてきた「良き慣習」を取り入れること(例えば,博士課程学生の進路希望を尊重し,研究倫理および科学的完全性についてのトレーニング・ミッション,ならびに個々の契約における状況調査委員会の一般化を行うこと).

デリケートないくつかの点について,本法令は均衡のとれた解決法を提供するであろう.例えば,博士課程在籍中に研究名目で資金援助を受けている場合の博士課程の期間の目安は 3年間,資金援助を受けておらず,自分で資金を工面する場合は 6年とする.他の課程と同様に,指導教官の意見や雇用主の同意に基いて,例外的に 1年間の期間延長を与える.分野別の博士課程の学生数は,学生数が少ない研究分野に配慮した上で,博士学院委員会が定める.博士論文の指導教官は論文審査の試験官であり,議論には参加するが,博士論文の合否についての決定権をもたない.本法令は,海外における博士課程に適応される規定が国内規定と矛盾が生じた場合,国内規定の修正権限を与え,国内の指導教員と国外の指導教員での共同指導を円滑にするものである.

博士協定

博士協定は 2009年 4月 23日の政令(№ 2009-464)によって創設され,博士課程学生の援助を主な目的としている.これは,特に旧研究手当にとって代わるものである.博士課程の学生は国立研究機関や高等教育機関での雇用を通して協定が結ばれる.主に修士号取得見込みの学生に対して,各博士学院を通して募集情報が広く配布された後,候補者は各研究機関において選考される.これは公募制で,修士号またはそれと同等の学位を有するすべての学生が対象であり,修士号の取得研究機関,取得日に関係なく選考に応募することができる.

博士協定は博士課程に入学の条件となる公法に基づく契約であり,初めて博士課程に入学してから最大 6ヶ月以内に本契約が締結されなければならない.3年間を満期とする本契約は,紛れもない職業経験として認知される.博士協定は研究の進み具合により例外的に 1年間延長されることもある.出産休暇,育児休暇,養子縁組休暇,長期の病気休暇の場合は本協定と別途扱いとなり,休暇に関する法律規定が適応される期間となる.

契約は専ら研究活動に専念できるようにするものであるが,他の活動も含む.例えば,教育,産業科学技術,研究への価値の付与,国や企業のために専門機関,も

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3.8. さらに詳しく知るために

しくは委員会での任務があげられる.研究外活動は,64時間の教育業務,または専門機関では 32日以内という条件を満たさなければならない.公務員法に準ずるため,博士協定は公務員との契約と同じ原則に従う.すなわち,試用期間が存在する.博士協定の場合,この期間は 2ヶ月と定めれており,更新することができない.博士協定は労働法に定められている社会保障が適用され,公務員法と合致する.特に,契約に定められた論文作成,もしくは与えられた研究外活動を含むすべての任務を達成するために必要な知識や活動を,雇用主は博士課程の学生に提供しなければならない. 

各研究機関には諮問委員会が設けられており,契約に関する係争に関する決定権をもつ(除名処分,契約中断).契約を締結している博士課程の学生,もしくは研究機関長のどちらも諮問する権利を有する.学術委員会と博士課程の学生によって選ばれた代表が,同数の割合で,この委員会に所属する.博士協定は同様に,期間満了以前に契約を終了する場合においても,協定締結者に損害賠償金を支払うことを保証する.

博士協定は最低額の手当を定めており,公務員の年収に準じる.2010年 7月 1日から,研究活動のみの場合,税込みの月収は 1,684.93ユーロであり,研究外活動を行う場合の税込みの月収は 2,024.70ユーロである.研究機関が本規定よりも多い手当を定める場合,これに異議を申し立てない.

国からの博士号の学位を授与する際の様式,ならびに教育の範囲を定めた 2016年5月 25日の法令によって実現した博士課程の改革において,博士協定に適応できる支援を一貫性をもって適用する必要がある.

高等教育省の技術委員会に提案し 2009年 4月 23日に改正された法令は,2016年9月 1日を実施日として,近いうちに施行されるだろう.以下が,実際に公布される法令 12 に掲載される改正事項である.

博士協定が実施される日付が緩和される.協定は以前のように 6ヶ月以内に実施される必要性はなくなり,博士課程に登録してから 1年以内に実施すればよくなった.博士協定の契約期間は従来と変わらず 3年間である.しかしながら,これからは研究機関長の同意のみではなく,博士課程の学生の希望によっても 1年間の契約期間延長が可能となった.他方,博士協定を結ぶ学生は以下に定める休暇(病気休暇,出産休暇,育児休暇,介護休暇)を取った場合,本来の労働契約に定められた期間とは別に休暇の期間が加算され,契約期間が延長される.その上,身体的なハンディキャップを抱える学生は,1年間延長することができる.最後に,所属する博士学院が休止期間を承認すれば,最大 1年間の休止期間が博士課程の学生に与えられる.本休暇は,博士協定における活動を(同時に,手当も)中断し,休暇の期間に応じて,協定期間も延長される.

今後,博士協定による研究の任務は雇用主の機関のみでなく,当機関のグループ会社,もしくは雇用主が属している博士学院内の機関など他の機関で適用されることがある.他方,今後,共同指導者として論文指導をしてもらう際には,教育,

12本レポート執筆時点では,新しい法令はまだ官報に掲載されていなかった.

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第 3章 -博士課程在籍者と博士号取得者

もしくは研究のどちらにもかかわらず,博士協定は部分的にフランス国内,もしくは国外の高等教育機関でも効力をもつ.

博士協定によって定めれた研究外活動は柔軟になり,最低期間が廃止された.活動は,研究の価値を高めるための活動,教育機関と他の専門機関での活動の両方を並行して行うことが可能となった.期間に制限はあるものの,博士協定外で,専門性を活かした業務,および教育業務の遂行は許可される.研究外活動を行う合計期間は従来と変わらないが,博士課程学生が研究活動に従事する時間を確保するために,1年の労働時間の 1/6を上限とする制限を設けた.

研究機関が学生に教育の役割をより多く割り当てることを推奨するために,この手当をすべて時給 41.14ユーロとし一律とする.その代わりに,博士協定による手当の最低賃金は上昇し,月 1,758ユーロとなった.

1986年 1月 17日の政令 86-83の 1-2条に基づいて非公務員によって構成された委員会に博士課程の学生が属することになり,契約する博士課程の学生によって構成された諮問委員会は廃止された.

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第 4章 -博士号を取得し専門家となる

第4章 博士号を取得し専門家となる

4.1 博士論文を完成して5年後に専門家となること

アンケート調査 «Génération 2010 »は,学位論文のテーマに沿って,博士課程学生の母集団 13 についてオーバーサンプリングが行なわれ,「博士論文」に関連した調査も行った.本アンケート調査は,博士号を取得後の研究職について期間別に比較可能であり,典型例を表わすことができた.

2010年に教育機関を卒業した 723,000人の学生 14 のうち,3%が博士号を取得した.健康科学の分野を除くと,369,000人が高等教育機関を修了した 2010年に新たに博士号を取得した者はその 1.5%を占める.

2010年に博士号を取得して 2013年に職についた者の雇用環境は,その 3年前の2007年に博士号を取得した者よりも,全体的に悪化したことが 3年間実施されたアンケート調査 «Génération 2010 »により明らかになった.このようにして,教育機関を修了した 3年後である 2013年においても,労働力のある若者の 22%が職を探している状況である.この数値は資格調査・研究センターが今まで行ったアンケートの中で類を見ないほど高い水準である.アンケート調査«Génération 2004»と比較すると,今回の結果は学位をもたない者については 16ポイント,長期間をかけて学位を取得した者では 3ポイント上昇した 15 .就職難の背景には少なくとも 2つの要因が関係している.ひとつは,2010年に卒業した学生は,2008年の金融危機(リーマン・ショック),ならびに 2010年のサブプライムローン問題によって労働市場が悪化した時期に就職活動を行った.2011-2013に,労働人口の失業率は大幅に上昇した.

経済不況にかかわらず,2010年に博士号を取得した者の就職 3年後の雇用環境は彼らよりも先に(2007年に)博士号と取得した者よりも改善している.これにより,雇用条件の回復の兆しを見せた.健康科学の分野を除いて失業率は,2010年に 10%であったが,2013年に 9%に改善した.2010年以降,博士号取得者の失業率は修士号取得者よりも低くなった.2013年には,この差は大きく広がり,3ポ

13Céreqは 2010年に学位を取得した 1,400人以上の博士を対象に,3年後に調査を行った142009-2010にフランスの高等教育機関に登録した者に加え,同じ大学年内に退学した者で,そ

れ以前に 1年以上にわたり学業を中断しておらず,かつ退学後に第 1年次に復学もしていない者で2013年現在も引き続きフランスに居住する者をいう.

15C.Barret, F. Ryk & N. Volleによる «Enquête 2013 auprès de la «Génération 2010 »: Face àla crise, le fossé se creuse entre niveaux de diplôme », 2014.

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4.1. 博士論文を完成して 5年後に専門家となること

イントの差がついた.一方,博士号取得者の失業率は Ingénieur免状取得者よりも依然として高い.2004年以来,この差は 5ポイントである.2年後の 2015年には,2010年に博士号を取得した者の失業率は 7%に減少した.

2015年に見る分野別の失業率の差は大きい.1回目と 2回目のアンケートの間に,数学,物理学,化学分野の失業率は大幅に減少した.しかしながら,生命科学・地球科学(SVT)もしくは文学・人文学分野(LSH)における失業率は,学位取得 3年後においても,5年後と同様に,平均を上回る結果となった.生命科学・地球科学(SVT)では 2回の調査の間に,1ポイント上昇した.生命科学・地球科学(SVT)を除くすべての博士号取得者の失業率は,それぞれ 9%と 5%で,修士号取得者よりも就職口があることが確認された.

表 4.1. 2010年修了者の 2013年,2015年における状況(%)

Docteur-Ingénieur(Ingénieurの免状をもつ博士)16 取得者の失業率は,2013年には 5%であったが,2015年には 3%となった.その他の博士号取得者については,就業してから 5年後の失業率は 8%から 9%まで下がり,工学分野では 4ポイント改善,その他の分野では 1ポイントの改善に留まった.Docteur-Ingénieur取得者の 2013年の失業率は低く,Ingénieur免状の取得者と同等の水準(4%)であっ

16ここではDocteurを 3つのカテゴリーに分けて論じている.すなわち,Ecole d’Ingénieurs卒業後,博士号を取得したDocteur-Ingénieurと工学分野のDocteurではあるが,Ingénieur免状をもっていない(大学卒の)Docteur,そして工学以外のDocteurである.詳しくは図 4.2を参照のこと.ここでは 2015年 10月にD. Margolisと L. Miottiにより発表された«L’évaluation de l’impactdu dispositif jeunes docteurs du CIR »による.

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第 4章 -博士号を取得し専門家となる

た.これに反して,工学分野の博士号を取得した者の失業率は,より高い水準となった.

表 4.2. Docteurと Ingénieurの共通専門分野,非共通専門分野

4.2 博士号取得後5年間における職業活動の変遷

2010年から 2015年までの博士号取得者すべてについてみると,取得後 5年間のうち,10%の期間は失業しており,87%の期間は職に就いている.失業や大学に戻る者の割合は多くはない.

図 4.1. 2010年博士号取得者のその後 5年間の失業率の変遷

終身雇用されることの難しさはフランス国内における大きな問題であるが,これは他の経済協力開発機構(OECD)加盟国においても同様である.Docteur-Ingénieur

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4.3. 研究分野に由来する雇用条件と待遇

表 4.3. 2010年に実社会に出て以降 5年間をどう過ごしたか,期間の割合(%)

は,工学分野の博士号取得者に比べ,無期雇用(EDI,公務員ならびに正規雇用)される傾向にある.これに反して,工学分野の博士号を取得する者はDocteur-Ingénieurとは状況が異なり,彼らの 38%は有期雇用(EDD,公的機関または民間企業において非正規雇用)され,生命科学・地球科学において博士号を取得した者の 47%は有期雇用(EDD)であった.

4.3 研究分野に由来する雇用条件と待遇

2010年に博士号を得た者が就職してから5年後,21%は依然として有期雇用(EDD,公的機関または民間企業において非正規雇用)である.この割合は,特に工学系分野,ならびに生命科学・地球科学の博士取得者に多い.2013年には 33%であったものが,2年間で大きく減少したことは,公共機関における有期雇用契約に由来する.もし,大多数の博士号取得者が EDDによる雇用に留まらないとすれば,2004年からこの雇用形態での契約の増加が著しいことがわかる(下記を参照).2015年には博士号取得の 31%が公務員となり,その 2年前の 24%よりも増加した 17.

論文審査試験の 3年後において,雇用条件が大幅に向上しているように見える.雇用されている博士号取得者の中で,管理職のポストに属している者の割合は 93%に達し,博士課程による教育が実を結んでいることを示す結果となった.これに反して,Ingénieur免状を取得している者の割合はこの比率よりも 5ポイント低く(88%),ビジネススクール出身者の割合は 2/3程度であり,他の分野で修士号を取得している者の比率は 62%であった.

さらに,手取り月収の中央値が 2,200ユーロに達することから,修士号取得者よりも高い給料を受けていることがわかった(15%多い).博士号取得者の手当は,グラン・ゼコール出身者よりもわずかに低水準である(Docteur-Ingénieurの給料はエコール・ダンジェニュール出身者のそれより 6.5%,ビジネススクール出身者のそれよりも 4%低い).

17本報告書作成時では,博士号取得者の雇用に関する正確なデータ(給与,業種,公的・民間研究機関)は,guillemotleft Génération 2010 »のアンケートを行った 3年後までデータが参照可能であった.

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第 4章 -博士号を取得し専門家となる

表 4.4. 雇用の安定:職に就いている学位取得者の 2013年,2015年の状況比較

分野別に見ると,数学物理学,工学,電子情報理工学,さらに法学,経済学における博士号取得者の雇用において,手取り月収の中央値は 2,300から 2,400ユーロを推移しており,グラン・ゼコール出身の Ingénieurやビジネススクールの卒業者と同等である.しなしながら,グラン・ゼコール出身者の修業期間は博士号取得よりも短い.文学,特に人文学・社会科学分野の博士号取得者の学位の価値は評価されていると言いがたく,手取り手当の中央値は 2,000ユーロとなった.

表 4.5. 高等教育修了 3年後の雇用レベル(2013)

2015年において,博士号取得者の 1/4が自分たちの力量を過小評価された上で雇用されており,工学以外の分野で学位を取った者の 30%以上が不満に思っている.最後に,就業してから 5年経っても,2010年に博士号を取得した者の 23%は別の

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4.4. 博士号 2001年取得ジェネレーション以降の公的機関ならびに民間機関における雇用動向

仕事を探していると回答した.

表 4.6. 2015年現在の博士号取得者の雇用状況(%)

4.4 博士号2001年取得ジェネレーション以降の公的機関ならびに民間機関における雇用動向

2010年の博士号取得者の雇用主としては,公的研究機関が群を抜き一番であり(48%),民間研究機関がこれに続いた(19%).研究以外に従事するもの割合は,民間機関(17%)と公的機関(15%)を合わせて,博士号取得者の 1/3に上った.2007年を除けば,2001年に調査が行われて以来,この区分による割合はほぼ横ばいである.

図 4.2. 4ジェネレーション別に見る博士号取得 3年後の就職状況

一方,主に雇用機関の種類によって,博士号取得者の給与に違いが見られる.2013年において,公的機関に雇用されている者の月収(2,170ユーロ)は,民間企業の者のそれ(2,350から 2,400ユーロ)よりも低いことがわかった.

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第 4章 -博士号を取得し専門家となる

表 4.7. 2010年,2013年における学位取得 3年後の部門別雇用状況

4.5 公的研究機関就職希望の後退

«Génération »のアンケート期間中,博士号取得者の大部分(70%)が学術,もしくは公的な研究に携わりたいと考えていたが,«Génération 2010 »の調査ではわずかに減少した.実際,大学,もしくは公的研究機関で働きたいと考えている博士号取得者の割合は,2つの調査の間に,70%から 58%に減少した.同時に,民間企業の研究開発部門で働きたいと考える博士号取得者の割合が 5ポイント上昇し,15%から 20%になり,全く別の道に進みたいと考えている者の割合も 4ポイント上昇し,6%から 10%となった.しかしながら,職業選択の変化は,«Génération2010 »の調査時点では,就業状況にはまだ反映されていないようである.

表 4.8. 2007年,2010年における学位取得時の実務研究プロジェクト

大学,もしくは公的研究機関で働きたいと考えている博士号取得の割合は,主に化学(17%減),数学物理学(14%減)の分野で減少した.この両分野における減少は,民間企業の研究開発部門で働きたい者の割合が増えたことが理由である(それ

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4.6. 新しく博士号を取得者した者の失業率は低いが非正規雇用となる可能性が高い

ぞれ,15%,13%上昇).制度整備により,公的研究機関,および学術機関のみでなく,その他の分野で働くことで成果が出ることを示している.しかしながら,公的研究機関の正規雇用における競争の激化,もしくは就職初期の民間企業の給与が公的機関よりも高いことが,この現象に結びついているとも考えられる.

4.6 新しく博士号を取得者した者の失業率は低いが非正規雇用となる可能性が高い

博士号取得ジェネレーションごとの比較は,修了 3年後についてのみ可能である.

経済不況にかかわらず,特に 2010年において,博士号取得者の雇用状況は以前よりも改善されているようである.健康科学分野を除いて,修了 3年後における失業率は 2004年で 11%であったが,2007年には 10%,2013年には 9%となった.

しかしながら,有期雇用(EDD)による者の割合は 8ポイント上昇し,2004年には24%であったが,2013年には 32%となった.この割合は修士号取得者よりもわずかに高く,Ingénieur免状取得者よりも大幅に高いものであった.前述のように,Docteur-Ingénieurの有期雇用(EDD)の割合は他の博士号取得者よりも大幅に低く,工学分野の博士号取得者の就職後 3年後における雇用は不安定であった.

図 4.3. 4ジェネレーション別に見る博士号取得 3年後の失業率(2004~2013)

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第 4章 -博士号を取得し専門家となる

表 4.9. 免状取得 3年後の失業率と雇用状況

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索 引

ANRT, 18, 23, 24

CIFRE, 16, 18, 21CIR, 18

Docteur-Ingénieur, 30

Ecole d’Ingénieurs, 4EDD, 32, 36

MEEF, 1

育児休暇, 25

エコール・ダンジェニュール, 4

外国人留学生, 9, 13, 21学生の資金繰り, 15管理職, 32

休止期間, 26教員養成のための修士課程, 1

契約期間延長, 26月収, 26, 32, 34研究税額控除, 18研究に関する職業経験, 24研究を通したトレーニングに関する産

業契約, 16, 18

工学分野の博士号, 31国際共同指導博士課程, 24国家研究・科学技術機構, 18, 23, 24混成修士課程, 1

最低賃金, 21サブプライムローン問題, 29

資格調査・研究センター, 29諮問委員会, 26修士課程, 1

終身雇用, 31就労した経験, 12出産休暇, 25試用期間, 26職業活動の変遷, 31職業としての教職・教員養成, 1女性の博士課程在籍者, 12女性の博士号取得者, 13

長期の病気休暇, 25

博士課程 1年次に登録する学生の平均年齢, 11

博士課程に入学する前の経歴, 10博士学院, 24博士課程在籍期間, 13博士課程における質の強調, 25博士課程の在籍者数, 9博士課程への進学, 2, 4博士協定, 13, 16, 25博士号取得者, 13博士号取得までの所要期間, 14博士養成に関する法令, 24博士論文, 29

平均年収, 21

ミドルマーケット企業, 21

無期雇用, 32—契約, 18

有期雇用, 32, 36—契約, 18

養子縁組休暇, 25予測モデル, 7

リーマン・ショック, 29