サイエンスパークのさらなる発展に向けて -...

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サイエンスパークのさらなる発展に向けて 鶴岡市委託事業 慶應義塾連携協定地域経済波及効果分析等業務 調査結果概要 2019年3月29日

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  • サイエンスパークのさらなる発展に向けて

    鶴岡市委託事業 慶應義塾連携協定地域経済波及効果分析等業務

    調査結果概要

    2019年3月29日

  • 1

    はじめに

    この資料は、慶應義塾連携協定に基づき行われてきた慶應義塾大学先端生命科学研究所の研究教育活動や、それらから派生したベンチャー企業の活動など、鶴岡市のサイエンスパークを中心として行われているさまざまな活動が、現状で鶴岡市に及ぼしている影響や効果について、当行が、鶴岡市からの委託を受けて調査・分析した結果の概要についてとりまとめたものです。 サイエンスパークの中核である慶應義塾大学先端生命科学研究所の設立や取組を振り返るとともに、派生したベンチャー企業等を含む現状を明らかにし、それらが鶴岡市に及ぼす影響を定量的に捉えることを主眼として、人口や経済の効果の測定を試みています。また、当行の調査に基づき、サイエンスパークの将来や発展に向けた課題の提言を行っております。 本調査の調査結果が、今後の鶴岡市の発展に向けた検討の一助となれば幸いです。

    株式会社 山形銀行

    目次

    1 サイエンスパークが目指すもの ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    2 鶴岡市・山形県・慶應義塾の三者連携によるプロジェクトの推進 ・・・・

    3 先端研の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    4 ベンチャー企業各社の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    5 サイエンスパークの広がり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    6 サイエンスパークが鶴岡市に現在もたらしている効果 ・・・・・・・・・・・・・・・

    7 サイエンスパークの今後の展望 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    8 さらなる発展に向けた課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    2頁

    2頁

    3頁

    5頁

    6頁

    7頁

    10頁

    12頁

    写真提供/サイエンスパーク特定建設工事共同企業体

  • 1999年、第1期協定の調印 高橋県知事、鳥居慶應義塾長、富塚市長(当時)

    2

    1 サイエンスパークが目指すもの

    2 鶴岡市・山形県・慶應義塾の三者連携によるプロジェクトの推進

    ・鶴岡は、旧庄内藩校「致道館」に象徴されるように、藩政時代から文教都市として発達してきた。また、基幹産業である農業にみるように、恵まれた自然を活かした知的・創造的努力の積み重ねにより、今日の産業や社会の姿を形成してきたと言える。 ・戦後、1949年に「山形大学農学部」が、1963年に「鶴岡工業高等専門学校」が開設され、時代に即した高等教育機関の立地が、鶴岡に優れた人材をもたらし、産業の発展に大きな貢献を果たしてきた。 ・人口減少や経済構造の変化が進む中、庄内地方の各市町村と県は、1996年に、庄内に新しい大学を設置する方針を決め、慶應義塾の協力のもとにこれを進めた結果、2001年に「東北公益文科大学」が酒田市に、「慶應義塾大学先端生命科学研究所」が鶴岡市に、また2005年には「東北公益文科大学大学院」が鶴岡市に開設された。

    ・慶應先端研の開設に先立ち、1999年には、庄内広域行政組合が地方拠点法に基づき定める、庄内地方拠点都市地域基本計画の拠点地区として、旧鶴岡市北部地区におけるサイエンスパーク整備を位置付け、企業、試験研究機関、業務機能等をさらに誘致し、世界レベルの科学技術開発拠点として、地域産業の高度化や地域活性化を目指すこととした。 2001年、先端研のバイオラボ棟開設間

    もないころのサイエンスパークのエリア

    ◇第1期(2001~2005年度/5年間) 先端研開設、メタボローム※1解析技術「CE/MS法」を開発、第1回メタボローム国際会議を鶴岡で開催、HMT(株)創業、鶴岡市先端研究産業支援センター開設

    ◇第2期(2006~2010年度/5年間) 急性肝炎のバイオマーカー※2を発見、アルツハイマー病診断法開発の共同研究開始、オイル産生藻プロジェクト開始、唾液検査でがんを発見する新技術を開発、第1回メタボロームシンポジウムを鶴岡で開催、高校生研究助手制度を開始、Spiber(株)創業

    ◇第3期(2011~2013年度/3年間) 高校生バイオサミットin鶴岡を初開催、高校生特別研究生制度を開始、鶴岡みらい健康調査を開始、(株)サリバテック創業、HMT(株)東証マザーズ上場

    ◇第4期(2014~2018年度/5年間) 【現在】 大腸がん発症の原因遺伝子を発見、国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点開設、 (株)メタジェン創業、(株)メトセラ創業、(株)モルキュアがラボ開設、ヤマガタデザイン(株)による宿泊滞在施設と子育て支援施設整備

    協定期間と主な出来事 協定に定められたそれぞれの役割 (第4期協定)

    (慶應義塾の役割) ①世界的なバイオ研究拠点の形成に向けた研究教育活動の展開 ②山形県や鶴岡市と連携した地域活性化の取組み

    (鶴岡市及び山形県の役割) 先端研の研究教育活動について支援を行うとともに、研究成果等を積極的に活用した多様な地域活性化を図る

    ※1メタボローム=細胞内の全ての代謝物 ※2バイオマーカー=血液や細胞等の中で特に量が変動する物質。病気の目印となる。

    ①若年層の人口減少が続く中で、次の時代を担う人材と魅力ある産業を育てるための基盤づくりのため、庄内14市町村と県が核となる研究所 を誘致。慶應義塾大学先端生命科学研究所(先端研)の開設が実現 ②庄内地方拠点都市地域基本計画の拠点地区としてサイエンスパークを位置付け

    ①鶴岡市・山形県・慶應義塾の三者は、協定に基づき、先端研の研究教育活動の成果を踏まえた地域活性化を目指し、先端研を核とした 研究教育活動プロジェクトを推進 ②鶴岡市と山形県は、協定に基づき先端研の研究教育活動を補助金で支援するととともに、バイオクラスター形成を推進 ③現在も第4期協定(2014~2018年度の5年間)に基づき、三者で連携してプロジェクトを推進中

  • 3

    3 先端研の現状

    研究所の概況 財政的な基盤

    ◇施設 慶應義塾大学鶴岡タウンキャンパス(TTCK) 市内二つの研究拠点 ・キャンパスセンター (写真左) →鶴岡公園内に位置し、東北公益文科大学大学院や 致道ライブラリーと併設

    ・バイオラボ棟 (写真右) →サイエンスパーク内に位置し、実験を伴う研究活動を展開

    ◇設備 世界最先端、最大規模のメタボローム解析装置 ・先端研が世界に先駆けて解析技術を開発。細胞内 に存在する数千種類の代謝物質を一斉に測定する ことを可能とした画期的な高精度解析機器群 →人材と並び先端研の国際的な競争力の源泉

    ◇人材 ・約150人のスタッフが活動 →うち約110人が庄内地方に在住 ・約30人の慶大の学生が在籍 →湘南藤沢キャンパス(神奈川県)に在籍する学部生 や大学院生が、鶴岡に長期滞在して活動

    ・約30人の地元高校生の研究スタッフも活躍 →研究助手や特別研究生として活動

    研究教育活動の展開 (次頁)

    先端研が進める「統合システムバイオロジー」 最先端のバイオテクノロジーを用いて生体や微生物の細胞活動を網羅的に計測・分析し、コンピュータで解析・シミュレーションして医療、環境、食品などの分野に応用

    【参考】先端研開設から現在までの市・県等の支援状況(累積)

    ◇市・県からの毎年の補助金 →鶴岡市からの3.5億円、山形県からの3.5億円、計7億円は、 人材や設備を駆使し、鶴岡における研究教育活動を展開して いくために支出

    (使途の状況) ※2017年度の実績 ・技術スタッフ等の人件費や派遣委託料・・・ 2.1億円 ・機器の保守等にかかる委託費・・・・・・・・・ 1.4億円 ・機器の更新や購入経費・・・・・・・・・・・・・ 1.2億円 ・実験用試薬等の消耗品費・・・・・・・・・・・・ 0.6億円 ・研究所の水道光熱費・・・・・・・・・・・・・・・・ 0.6億円 ・機器リース料 その他・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1.1億円 計7億円

    ◇市・県が過去に造成した研究教育基金 →市・県が2001年から5年間で計35億円を出資して基金を造成。 慶應義塾が保有する基金全体の運用果実から、毎年1.4億円を 先端研に配分し、20名の研究者・教員の経費に充当

    ◇先端研独自の資金 →慶應義塾の自主財源(教職員の経費など)のほか、国や関係機関 の競争的資金(研究プロジェクトに対する補助金)や、企業等との 共同研究費など、外部資金を獲得し、研究活動を拡大。

    県 市※ 町村※ 先端研開設のための施設整備 28.7 5.1 1.7

    基金造成のための出資金 19.3 15.7 -

    研究教育費補助金(第1~4期合計) 52.9 48.4 -

    ※「市」は、2005年以前は合併前の旧鶴岡市 ※「町村」は、合併前の旧鶴岡市と酒田市を除く庄内地方の12町村

    単位:億円

    ①第4期協定(2014~2018年度の5年間)に基づき、市と県は先端研の研究教育活動に対してそれぞれ年間3.5億円(計7億円)の財政 支援を実施 (このほか、市と県が造成した基金の運用益も充当) ②先端研では、市と県の支援をメタボローム解析技術などの基礎研究の安定的な財源とすることで、同研究所の強みを伸長、発揮 ③さらに、国の補助金や企業からの共同研究費なども得ながら、がん研究や農産物の分析など、応用研究を拡大。その事業化も進展

    ④研究のみならず、若者の人材育成として、高校生、大学生の研究教育プログラムを展開

  • 4

    研究教育活動

    遺伝子研究 Genomics 生物のもつ全ての遺伝子(ゲノム)

    を対象に、その機能を解析

    実績 研究成果がベンチャー企業により事業化 第4期協定期間中も着実な成果

    応用研究 人類が直面する問題の解決や 地域産業の活性化に貢献

    基盤技術 最新の網羅的な解析手法・機器を用いて 生命現象を包括的に理解

    ◇医療バイオ ・がん医療…診断方法・治療薬の研究 ・鶴岡みらいコホートプロジェクト…生活習慣病のメカニズムを明らかにし、予防方法の確立を目指す

    ・人体常在菌…健康との関係を明らかにし、疾患予防・先制医療システムを構築

    ・大腸がんの発症に関わる代謝の仕組みを解明、原因遺伝子を特定 ・鶴岡みらい健康調査の第2回包括調査を2018年から実施 ・血液、唾液、尿からがんやうつ病など各種疾患を発見する技術の開発、向上→HMT、サリバテック等のベンチャー企業の活動へ展開 ・メタジェンとの共同研究により、腸内環境の評価手法など、同社の基盤技術の確立・強化に貢献

    人材育成、健康、地域活性化 大学教育のみならず、地元高校生をはじめとした将来の人材を幅広く育成 健康づくりの取組や、交流人口拡大など地域活性化へ寄与

    ◇環境バイオ ・オイル産生藻…石油代替資源を産生する新しいシステムの開発

    ・環境微生物…微生物解析により、地球環境に与える影響や生物の多様性を明らかに

    ・宇宙生物学…極限環境における生命体の維持や、生命の発生、進化の研究

    ◇食品バイオ ・米や伝統野菜など農産物や食品の特徴解析 …栽培条件や加工過程が与える食味や機能性成分への影響をメタボローム解析により分析し高品質化

    ・オイル産生藻類の代謝解析を進め、産業利用に向けた優良株の作出や、培養技術を開発 ・Spiberを中心として取り組む国の「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)に参画、超高機能タンパク質の設計・製造を目指した研究を支援 ・宇宙生物学では、アメリカ航空宇宙局(NASA)等との連携により紫外線耐性菌に関する研究を展開

    ・県産米「つや姫」、だだちゃ豆、庄内柿、西洋なし、マッシュルーム、生ハムなど、地元産の農産物や食品について、メタボローム解析により、機能性成分や栽培条件の最適化、保管・加工技術を向上→県内企業による商品化に展開

    核酸・RNA研究 Transcriptomics 核酸の一つRNAに注目し、情報科学や分子生物学を駆使して、遺伝子制御の新しいパラダイムに挑戦

    タンパク質研究 Proteomics 独自技術によるプロテオーム(タンパク質)解析を行うことで生命現象の解明に取り組む

    代謝物質の研究 Metabolomics 細胞内の物質を短時間で一斉に測定するメタボローム解析技術をさらに高め、各分野へ応用

    バイオとITの融合 Bioinformatics 上記のような網羅的解析手法で得た膨大なデータをコンピュータで解析し、生命現象の包括的な理解を目指す

    →メタボローム測定の高感度化に成功し、国内外に特許出願するなど、基盤技術の競争力も強化

    ◇人材育成 ・地元高校生を対象とした「高校生研究助手プログラム」「特別研究生制度」 2009年の開始以来、現在では毎年約30人の地元高校生が先端研での研究に携わる。慶大への進学を経て、先端研で活躍する地元出身者も輩出 ・全国の高校生を対象とした「高校生バイオサミットin鶴岡」 生命科学を志す全国の高校生が鶴岡に集い、研究発表や議論を展開。2011年以来毎年開催し、2018年は72校、238人が参加 ・ 「Keio Astrobiology Camp」 宇宙生物学をテーマに、全国の高校生や大学生等が鶴岡に集い、国内外の研究者によるレクチャーや意見交換を実施 ・大手生損保や法人との新たな連携 先端科学技術を活用した社会課題の解決に向けた人づくりを展開 →教育効果のみならず、将来を見据えた高度人材の集積、若者のUIJターンへの好影響

    ◇健康や医療 ・「からだ館」健康情報ステーションを拠点とした地域の健康づくり 地元医療関係者や、慶大医学部と連携しながら、子供から高齢者まで、市民が疾患予防について学び考える機会の提供や、地域の健康づくりの担い手を育成するための活動を展開 ・長期的な視野に立った鶴岡みらいコホートプロジェクト (再掲) 市民1万1千人の協力により、血液・尿についてメタボローム解析・遺伝子解析等を行い、25年間にわたって追跡調査を行う「鶴岡みらい健康調査」を2012年から実施。データの蓄積、解析による成果を鶴岡市の健康診断や健康づくりに活用することを目指す →市民の健康に対する意識や知識の向上に寄与

    ◇学会、国際会議の誘致 最近では、2018年9月に荘銀タクトを会場に、第7回生命医薬情報連合大会(IIBMP2018)が開催され、研究者約400人が参加。また2018年10月に開催された第12回メタボロームシンポジウムには研究者約420人が参加 →先端研の存在により毎年様々な学会や国際会議が鶴岡で開催

  • 5

    4 ベンチャー企業各社の現状

    ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社(HMT) 代謝物質の網羅的解析技術を核とし、企業及び大学・公的機関向けに研究開発支援やバイオマーカー開発を行う

    YAMAGATA DESIGN株式会社(ヤマガタデザイン) サイエンスパークにおける街づくり(不動産開発運営)から、庄内地方全体をフィールドとした街づくり会社へ ・先端研の存在をきっかけに、大手不動産会社での開発業務を経験した人材が鶴岡にIターンして起業 ・サイエンスパーク整備の未着手部分を民間主導で開発、2018年に宿泊滞在施設「ショウナイ ホテル スイデン テラス」、全天候型の子育て支援施設「キッズ ドーム ソライ」を開設 ・庄内地方を主なフィールドとして、分野横断的な街づくりのプロジェクトを推進

    Spiber株式会社(スパイバー) 人工合成クモ糸をはじめとした構造タンパク質素材を開発、新世代の産業基盤素材としての大規模な普及を目指す

    株式会社サリバテック がんを早期発見するための唾液検査を展開

    株式会社メタジェン 独自に開発した腸内環境評価技術による個別化ヘルスケアで病気ゼロ社会の実現を目指す

    株式会社メトセラ 心不全向けの再生医療等製品の研究・開発

    株式会社MOLCURE(モルキュア) 次世代シーケンサーと人工知能(AI)を使った抗体医薬品の開発

    設立 2007年9月 従業員 200名 / 資本金 224億43百万円 (2018.12現在)

    設立 2013年12月 従業員 18名 / 資本金 2億6百万円 (2018.12現在)

    設立 2015年3月 従業員 16名 / 資本金 35百万円 (2018.12現在)

    設立 2016年3月 従業員 11名 / 資本金 73百万円 (2018.12現在)

    設立 2013年5月、鶴岡への研究室開設 2017年9月 従業員 7名 / 資本金 204百万円 (2018.12現在)

    設立 2003年7月 従業員 72名 / 資本金 14億61百万円 (2018.12現在)

    ・受託解析事業を中心に事業を展開、2013年に東証マザーズに株式上場し、鶴岡市内に本社を置く唯一の上場企業に ・うつ病バイオマーカーの実用化に向けた研究を進め、うつ病関連バイオマーカー測定試薬キットの提供を開始 ・2017年7月には、米国に続き、オランダに2ヵ所目の海外拠点を開設、海外への事業展開を推進

    ・大手自動車部品製造企業やスポーツ用品製造販売企業と共同し、製品化に向けて研究開発を展開 ・国の「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」に採択され、産業化に向け取り組む ・2018年11月には、世界最大規模の構造タンパク質発酵生産拠点をタイに整備することを発表。出荷されるタンパク質は鶴岡の本社で繊維に加工される計画で、紡糸設備の拡張・増設も予定

    ・唾液によるがんの早期診断技術を用いた検査事業を中心として事業を展開 ・すい臓がん、大腸がん、乳がん、肺がんなどの検査が可能となっており、今後さらに検査可能な疾病を増やすために開発を推進 ・2017年9月には、大手生命保険会社とがん早期発見検査の高度化や普及に向けた業務提携を実施

    ・「便」から得られるデータを活用して、腸内環境を解析、次世代健康診断の技術など、新たなサービスの開発に向けた研究を展開 ・大手医薬品製造企業や食品研究企業と共同研究、腸内環境のタイプ分けによる商品開発を推進 ・2018年には、さらに機能性食品素材の製造企業や、ヘルスケア事業を展開する企業との共同研究も相次いで開始

    ・世界において死因第1位である虚血性心疾患に対して、低価格で効果的な新たな再生医療提供を目指す ・心組織の作製や、心不全の治療に特に適した「線維芽細胞群」の存在を明らかにし、これを活用した新しい心不全の治療法の実用化に向けて研究開発 ・2017年9月には、心不全向け細胞医薬品のラットを用いた試験で高い治療効果を確認し、臨床応用に向けて研究をさらに推進

    ・遺伝情報を高速で解析する装置「次世代シーケンサー」と人工知能の技術を活用し、医薬品となる抗体(体の中に入った細菌などの抗原を取り除くために、体内で作られる物質)の研究開発を推進 ・製薬会社の創薬プロセスの短縮化につながる世界発の抗体医薬品プラットフォームを開発 ・2018年11月には、大手生命保険会社が同社に対して大型の投資を実施

    設立 2014年8月 従業員62名 / 資本金22億82百万円 (2018.12現在)

    ①これまでに先端研から生まれたバイオベンチャー企業は合計6社に ②創業後も先端研との連携により事業化を着実に加速 ③HMT社は、庄内地方の企業で唯一の東証(マザーズ)上場を果たし、スパイバー社は、海外での原料生産の開始を発表。後発の各社も 大手企業との連携などにより、事業拡大の動き ④まちづくりを行うベンチャー企業の誕生など、バイオにとどまらない新たな産業的な派生も

  • 6

    ◇鶴岡市先端研究産業支援センター (2005年開設、2011年拡張)

    5 サイエンスパークの広がり

    慶應先端研 バイオラボ棟 (2001年開設)

    ◇民間開発エリア ・宿泊滞在施設、子育て支援施設 (2018年開設) ヤマガタデザイン社により、宿泊滞在施設「ショウナイ ホテル スイデン テラス」、全天候型の子育て支援施設「キッズ ドーム ソライ」を開設。広く市民も利用可能な施設がサイエンスパーク内にオープン →子育て支援施設の整備には鶴岡市も総額2億円を支援(財源として国の 補助金を活用) ・国道7号線側の敷地では、民間による研究開発施設の整備が予定される

    ◇Spiber社 試作研究棟、本社研究棟 (2013、2015年開設) ・2013年に愛知県豊田市に本社を置く次世代の自動車部品開発を手掛ける小島プレス工業(株)と提携し、試作研究棟を整備。 ・2015年には、人工合成クモ糸繊維等の構造タンパク質素材の実用化に向けて本社研究棟を建設

    国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点 がんメタボロミクス研究室 国の政府関係機関の地方移転の方針により鶴岡・サイエンスパークに2017年に開設。国立がん研究センター、慶應義塾、県、市の4者による連携協定の下、研究成果の事業化、医療分野のクラスター形成を目指す。 →市と県は、2016~2020年の5年間で総額約12億円を支援(うち市は5割を負担。財源として国の地方創生 交付金を活用) 現在、2つの研究チームが国立がん研究センターと慶應先端研の双方の強みを生かした共同研究を展開 先端研発バイオベンチャー企業

    ・ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社 ・株式会社サリバテック ・株式会社メタジェン ・株式会社モルキュア

    バイオ関連企業 ・西川計測株式会社 ・アジレント・テクノロジー株式会社 ・株式会社フェイバーエンジニアリング ・日本ユニシス株式会社

    研究機関・学術機関 ・国立研究開発法人 理化学研究所 植物科学研究センター ・鶴岡工業高等専門学校 K-ARC ・国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点 がんメタボロミクス研究室

    横山チーム がんの発症に関わるタンパク質と代謝の関係性を明らかにし、小児がん等の新たな創薬、診断法の開発に取り組む

    主な入居企業・機関

    牧野嶋チーム 発がんを誘導する代謝物質やがん細胞特有の代謝抑制機構を明らかにし、有効な新規治療法の開発に取り組む

    ・先端研究の成果を産業へと結びつけることを支援するため、企業や研究機関が実験や研究用として活用できる貸室施設として、市が2005年に開設。需要の増加により、2011年にさらに拡張整備を実施 →開設・拡張整備費は総額約34億円(財源として国の交付金や合併特例債を 活用) 維持管理は家賃収入により市が実施 ・すでに全62室の貸室は満室の状態にあり、需要に応えられないことから、近隣の廃校舎(旧栄小学校)を利用した別棟を整備しており、2019年にオープン予定

    ①バイオベンチャー企業の事業拡大により、サイエンスパークが拡大 ②関連企業や研究機関、学術機関も進出。2017年には国立がん研究センターの研究拠点が開設 ③まちづくり企業により、宿泊滞在施設や子育て支援施設などの厚生施設も整備 ④現状で約500人が働く産業エリアに成長 ⑤事業用地(21.5ヘクタール)はすべて開発目途が立ち、鶴岡市先端研究産業支援センターは満室の状態

    写真提供/サイエンスパーク特定建設工事共同企業体

  • 6 サイエンスパークが鶴岡市に現在もたらしている効果 (1)人口面

    ①雇用創出効果:サイエンスパークは、現状で約500人の雇用を創出。増加の傾向が続いている。 ②交流人口増加効果:サイエンスパーク関連での鶴岡市への訪問者数は、現状で年間3,000人規模。宿泊や飲食、運輸などへ好影響 ③高度な専門人材の集積:サイエンスパークの拡大とともに増加傾向で、他都市に比較しても高い水準。高度な専門人材の集積によるイノ ベーティブな風土の醸成が、若者のUIJターンにも効果をもたらすと期待される。

    ①雇用創出効果 ・先端研、ベンチャー企業各社、鶴岡市先端研究産業支援センターに入居するバイオ関連企業や研究・学術機関等を合計したサイエンスパークの雇用規模は、2017年度で407人で、うち市内在住者は332人※1となっており、雇用が創出され、定住人口の増加にもつながっている。 ・雇用規模は、ベンチャー企業の事業拡大や国立がん研究センター鶴岡連携研究拠点の設置等により、直近3年間では増加傾向にあり、足もとにかけてさらに増加している。

    ②交流人口増加効果 ・サイエンスパーク関連の学会、視察、ビジネス、イベント等による鶴岡市への訪問者数は、2017年度では年間3,060人※3となっている。これに含まれない、マスコミ取材による来訪や、従業者・教職員への私的な来訪等もあることから、実際の交流人口の規模はさらに大きいものと考えられる。こうした交流人口の増加は、宿泊や飲食、運輸などに好影響を与えていることが予想される。 ・加えて、2018年には宿泊滞在施設「ショウナイ ホテル スイデン テラス」、子育て支援施設「キッズ ドーム ソライ」がオープンしており、さらなる効果拡大が期待される。

    ③高度な専門人材の集積 ・2015年国勢調査抽出詳細集計(全世帯の10分の1の世帯の調査票を用いて集計した詳細結果)によると、市内在住の「研究者」は130人、市内を従業地とする研究者は140人となっている。先端研開設以降、増加傾向で推移しており、サイエンスパークの拡大とともに増加してきた様子がうかがえる。 ・就業者数に占める「研究者」の割合は0.20%で、東北地方の人口10万人以上の都市の中では、仙台市、盛岡市に次ぐ高い水準にある。「研究者」に代表される高度な専門人材が鶴岡に集積することによって、学術分野にとどまらず、経済、産業にも及ぶイノベーティブな風土が醸成されつつあると考えられる。 ※1 先端研、ベンチャー企業

    各社(ヤマガタデザインを含む)、鶴岡市先端研究産業支援センター入居機関へのヒアリングによる当行推計。ベンチャー企業に関しては、鶴岡以外の拠点に常駐する雇用者を除外している。 ※2 2018年度については、2018年12月時点で雇用者数の増加が把握できた分を集計し直近参考値として記載している。

    ※3 先端研、ベンチャー企業各社(ヤマガタデザインを含む)へのヒアリングと、鶴岡市先端研究産業支援センターへの視察者数による当行集計。市内からの視察等は除外している。

    国勢調査の職業分類における「研究者」は、試験・研究施設において、学問上・技術上の問題を解明するため、新たな理論・学説の発見や技術上の革新を目標とする専門的・科学的な仕事に従事する者とされている。 大学教員など、講座を持つ研究者は「教員」に分類され、「研究者」には含まれていない。

    総務省「国勢調査」より当行作成

    就業者数に占める研究者の 割合上位都市

    (東北地方人口10万人以上の都市)

    1 仙台市 0.27%

    2 盛岡市 0.22%

    3 鶴岡市 0.20%

    4 福島市 0.19%

    5 秋田市 0.17%

    6 いわき市 0.12%

    7 郡山市 0.12%

    4060

    80

    130

    0.08% 0.08%

    0.12%

    0.20%

    0.00%

    0.05%

    0.10%

    0.15%

    0.20%

    0.25%

    0

    50

    100

    150

    200

    2000 05 10 15年

    人 市内研究者数の推移

    人数 就業者に占める割合(右目盛)

    7

  • 8

    6 サイエンスパークが鶴岡市に現在もたらしている効果 (2)経済面 ―経済波及効果―

    ①経済波及効果推計のまとめ

    ・「経済波及効果」とは、消費・投資等の需要を満たすために誘発される年間生産額の合計のことを指す。ここでは、サイエンスパークを構成する先端研、ベンチャー企業各社、鶴岡市先端産業支援センターに入居する研究機関等の活動によって発生する消費・投資等の需要が、市内各産業にどの程度新たな生産を誘発するかを、「サイエンスパークの経済波及効果」として産業連関分析※1によって推計した。 ・サイエンスパークを構成する事業体の活動による需要としては、「①事業活動による物的経費」、「②従業者・教職員・学生の消費」、「③施設整備費」、「④訪問者の消費」の4つを想定し、ヒアリング等により推計を行った。また、年度ごとの振れも考慮し、2015~2017年度の平均を求めた。 ・こうして得られた経済波及効果は30億77百万円となった。期間中にはヤマガタデザイン㈱による宿泊施設建設等のハード整備が発生したが、施設整備費を除いたベースでも経済波及効果は23億32百万円と推計され、ベンチャー企業各社の事業活発化により経済波及効果は足もとではさらに拡大していると考えられる。

    ※1 環境省・㈱価値総合研究所「地域経済循環分析用データ」における「地域産業連関表(2013年版、39部門)」を用いて、レオンチェフの均衡産出高モデル」による産業連関分析を実施。

    ②市内の各産業部門への波及状況 ・サイエンスパークの経済波及効果を産業部門別にみると、事業活動による物的経費の支出先の多くを占める「対事業所サービス」や、宿泊施設整備等があったことで「建設業」などに効果が大きく表れている。また、サイエンスパークの企業等と直接的に事業のつながりがない産業部門に関しても、企業間の取引関係を通して、間接的に広く効果が波及している様子がうかがえる。

    物品賃貸業、法務・財務・家計サービス、建物サービス、労働派遣サービス等

    教育、研究、医療・保健等に関するサービス全般

    飲食店、宿泊業、洗濯業、理美容業、娯楽サービス等

    経済波及効果の構成比上位8部門

    ③税収効果 ・サイエンスパークを構成する先端研、ベンチャー企業、その他研究機関等が負担する固定資産税は33百万円、これらの雇用者のうち市内在住者が負担する個人市民税は25百万円と推計される(それぞれ2015~2017年度平均)。 ・これに加えて、30億77百万円の経済波及効果に伴い増加する市内事業者の法人市民税、およびそれらの雇用者の個人市民税の増加額は、合計で26百万円と推計され、上記とあわせた全体の税収効果は全体で84百万円になるとみられる。経済波及効果が拡大することにより、幅広い産業部門からの税収効果の発揮が期待できる。

    産業部門 金額 構成比

    百万円 %

    ① 対事業所サービス 611 19.8

    ② 建設業 490 15.9

    ③ 公共サービス 274 8.9

    ④ 住宅賃貸業 256 8.3

    ⑤ 小売業 178 5.8

    ⑥ 卸売業 162 5.3

    ⑦ 対個人サービス 136 4.4

    ⑧ 運輸業 130 4.2

    ①サイエンスパークを構成する先端研、ベンチャー企業、その他の研究機関等の日々の活動に伴い発生する消費や投資は、現状で市内に 年間30億77百万円の経済波及効果を生み出していると推計 ②経済波及効果は、企業間の取引関係を通じて、市内の幅広い産業部門に間接的に波及 ③税収効果は、経済波及効果から生み出される分も含めて現状で年間84百万円と推計

    (次頁) 参考 経済波及効果の概念図

    経済波及効果 (総合効果) 30億77百万円

    事業体別の内訳

    ベンチャー企業 2,260 百万円

    先端研 703 百万円

    その他 114 百万円

    消費や投資の種類別の内訳 事業体別の内訳

    事業活動による物的経費 1,670 百万円

    従業者・教職員・学生の消費 595 百万円

    施設整備費 745 百万円

    訪問者の消費 67 百万円

    経済波及効果の発生要因別にみると

  • 9

    ①+②+③ 30億77百万円

    経済波及効果 (総合効果)

    直接効果

    参考 経済波及効果の概念図 ~需要の発生から鶴岡市内で経済波及効果が生まれるまで~

    間接一次効果

    ①市内の生産増

    19億99百万円 ②市内の生産増

    6億34百万円

    市内の所得増 9億70百万円

    ①+②の 内訳として 付加価値 が発生

    ③市内の生産増

    4億44百万円

    間接二次効果

    市内の消費増 5億89百万円

    購入

    購入

    サイエンスパークで 生まれる消費・投資年間 43億円

    市内で生産されていないものの生産増効果は除く

    消費・投資に 対応した生産増

    生産増に必要な 原材料の生産増

    一定割合が消費に回る (消費性向 0.607)

    消費増に 対応した生産増

    原材料の原材料の原材料…と生産増を可能な限り遡って合計

    ・事業活動による 物的経費

    ・従業者・教職員 ・学生の消費

    ・施設整備費

    ・訪問者の消費

    購入

    原材料の原材料の原材料…と生産増を可能な限り遡って合計

    市内で生産されていない原材料の生産増効果は除く

    市内で生産されていないものの生産増効果は除く

  • 10

    バイオクラスターの現状

    ・2013年以降ベンチャー企業の設立が相次ぎ、2015年以降はヤマガタデザイン㈱によるサイエンスパークのQOL(Quality of Life)向上や交流人口増加を目指したまちづくりが始動している。先端研設立を契機に形成された鶴岡のバイオクラスターの拡大ペースは、小規模ながら近年明らかに加速している。 ・EUの行政執行機関にあたる欧州委員会は、EUのバイオエコノミー戦略を策定するにあたり、世界16のバイオクラスターサンプルをもとに格付けした5段階のロードマップを作成している。これに照らし合わせると、先端研の設立(2001年)からは18年が経過しているが、バイオクラスターの形成を目指す山形県バイオクラスター形成推進会議の設立(2011年)から8年が経過している現在、鶴岡は「発達段階」のバイオクラスターに位置づけられるとみられ、さらなる知的集積・産業集積が期待される段階を迎えている。

    クラスターの成熟度

    クラスターの成果

    7 サイエンスパークの今後の展望 (1)バイオクラスターの形成状況

    北海道経済産業局「欧州委員会調査報告書『Regional Biotechnology(2011)』について」 より当行作成

    欧州委員会による世界のバイオクラスターの格付け

    初期段階のクラスター

    発足段階のクラスター

    発達段階のクラスター

    世界規模のクラスター

    成熟段階のクラスター

    Biocat(スペイン) Bioval(スペイン)

    Biotech Umea(スウェーデン) Biovalley(フランス・ドイツ・スイス) UAFC(オーストリア) Ghent(ベルギー) Food Valley(オランダ) IAR(フランス)

    鶴岡(想定)

    北海道バイオ産業クラスター・フォーラム Medicon Valley(デンマーク・スウェーデン) Saint-Hyacinthe(カナダ) Teknopol(ノルウェー) Genopole(フランス) Munich(ドイツ)

    Cambridge(英) San Diego(米)

    <発達段階のクラスターの定義> ・ 設立から5~10年が経過しており、1つの重点分野がある ・ 新会社の設立や、新しい職種の創出によりクラスターの成長が目に見える ・ インキュベーター、研究センター等、クラスターのインフラが確立されている ・ 国内等での競争においてクラスターが成功を収めている ・ クラスターの資金が、民間財源と共有されている ・ クラスターが、多数の資金調達イベントを成功させた ・ 国内での評判が高まり、地域および国からの支持が保証されている ・ 重要なサービス提供者がクラスター内に進出している ・ クラスターが人材をひきつける場所である

    <成熟段階のクラスターの定義> ・ 設立から10~20年が経過しており、2つあるいは3つの重点分野がある ・ クラスターの規模や成長およびクラスター組織の活動が注目されるとともに、広く 周知されている ・ 企業の再編や移転によって、クラスターの成長が鈍化しているため、さらなる成長 に向けて新たな原動力を探している ・ クラスターの研究機関が重点分野において国際的にもトップクラスに属している ・ クラスターが一部の重要産業をリードしている。また、新規事業・中小企業のロー ルモデル的な存在を有している ・ 国際的評価は低いかもしれないが、国内では高い評価が定まっている ・ クラスターの資金供給は保証されているが、クラスター組織の規模を拡大し評価 を高めるためには新しい資金を調達しなければならない ・ クラスターが強力な共有プラットフォームやインフラに依存している ・ クラスターが魅力的な複数のインセンティブを提供している

    鶴岡でも現状において多くが達成されている

    一部については達成されているものの、充実したクラスター組織の活動等によるインセンティブの提供や、クラスター新規参入者の手本となりうるような企業の存在、強力な共有プラットフォーム・インフラの支えといった点については未達成であり、依然発達段階にあると考えられる

    ①サイエンスパークの最近の状況を踏まえ、バイオクラスターの形成状況を世界の事例と照らし合わせて考えると、現状は「発達段階」にあると 考えられ、さらなる知的集積・産業集積が期待される段階を迎えている。 ②サイエンスパークがバイオクラスターとして「成熟段階」へと移行していく過程において、経済波及効果の拡大や、さらなる地域産業のイノベー ションが生まれていくと考えられる。

  • サイエンスパークの経済波及効果予測

    ・今後の経済波及効果の推移を展望すると、先端研、および鶴岡市先端産業支援センターに入居 するその他の研究機関等については大きな変化がないと想定されるが、ベンチャー企業については、 製品・サービスの本格的な提供開始に向けた準備段階にある企業が多く、今後事業を軌道にのせる べく活動規模を拡大させていくことが確実視される。これをふまえて、2015~2017年度における経済 波及効果の拡大ペース等を参考に将来予測を試みると、バイオエコノミーが拡大するなか、ベンチャー 企業が鶴岡市を拠点に着実に事業化を進展させていくことを前提とすれば、サイエンスパークの経済 波及効果は、5年後には現状の1.6倍、10年後には2.1倍になると推計される。 ・ただし、推計にあたっては、大型の施設整備や、さらなるベンチャー企業の増加、企業や研究機関 の新規参入については加味していない。今後、先行するベンチャー企業等に触発され、先端研の学 生等による起業が続く可能性や、研究機関や大手企業等が鶴岡に拠点を構えて共同研究を実施 する可能性も大いにあり、先端研による人材・企業・研究機関等の誘引効果や集積効果が継続 的に発揮されることで、経済波及効果がさらに拡大していくことが期待される。先端研の求心力の 維持は、ベンチャー企業が事業化を進展させ、成長軌道をたどる過程においても、鶴岡市を拠点とし 続けるという、将来予測の前提を保持するうえでも非常に重要である。

    2015 2016 2017 2023 2028 年度

    ベンチャー企業(施設整備費のみ) ベンチャー企業(施設整備費除く)

    その他 先端研

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    7 サイエンスパークの今後の展望 (2)バイオクラスターの将来展望

    今後さらに拡大が展望されるバイオエコノミー

    ・バイオエコノミー(Bioeconomy)とは、生物資源(バイオマス)やバイオテクノロジーを活用して地球規模の 問題を解決し、新たな産業を振興しながら、長期的に持続可能な成長を目指す考え方である。先端研から生 まれベンチャー企業等が社会実装を目指すテクノロジーは、臨床検査分野、再生医療分野、抗体医薬品分野、 生物由来製品分野など、いずれもバイオエコノミーに関するものである。 ・OECD(経済協力開発機構)は、2030年におけるバイオエコノミーの市場規模を、OECD加盟国のGDP 比率にして2.7%と予測している。これは約1.6兆ドル(約200兆円)に相当する。 ・また、日本経済再生本部「日本再興戦略」(H25)では、日本が国際的に強みを持ち、グローバル市場の成 長が期待でき、一定の戦略分野が見込めるテーマを「戦略市場創造プラン」として選定しているが、その多くがバイ オエコノミーに関するテーマとなっている。その一つである「国民の『健康寿命』の延伸」に関する市場規模予測を例 にみると、国内市場規模は2030年には37兆円、雇用規模は223万人と予測されており、2011~2020年、 2020~2030年にかけて、10年ごとに1.5倍程度の市場規模拡大が見込まれている。

    日本再興戦略(2013)「戦略市場創造プラン」 「国民の『健康寿命の延伸』」での市場規模の想定

    平均 約30億円 48億円

    65億円 5年後 1.6倍

    10年後 2.1倍 経済波及効果の推移イメージ

    ①バイオテクノロジーの進展と環境問題への注目から、今後バイオエコノミー市場の拡大が予測されている。 ②サイエンスパークの経済波及効果は、バイオエコノミー市場が拡大する中、鶴岡市での事業化が着実に進展されていくことで、現状に比べ 5年後には1.6倍、10年後には2.1倍になると推計 ③先端研による人材・企業・研究機関等の誘引効果や集積効果が発揮されることで、地域への経済波及効果がさらに拡大することが期待 される。

    経済波及効果の将来推計は、先端研、その他研究機関等については横ばいとし、ベンチャー企業については、鶴岡に拠点を有する6社の現状の事業計画を精査したうえで、事業活動による物的経費、従業者の消費、訪問者の消費について2015~2017年度における推移も加味してそれぞれ延長推計し、合計したものに、現状の波及倍率(経済波及効果/最終需要、0.71倍)を乗じて算出した。

    戦略分野

    年 国内市場 海外市場 雇用規模

    2011年 16兆円 163兆円 73万人

    2020年 26兆円 311兆円 160万人

    2030年 37兆円 525兆円 223万人

    健康増進・予防サービス、生活支援サー

    ビス、医薬品・医療機器、高齢者向け住

    宅等

  • 8 さらなる発展に向けた課題

    ① 先端研の安定的な研究教育活動継続 ・先端研は、サイエンスパークの中核的な存在であり、新たなビジネスを創出する源泉である。また、ベンチャー各社へのヒアリング等調査より、事業化および事業拡大には先端研との連携が必

    要であり、鶴岡に先端研が立地しているからこそ、当地での事業化に魅力を感じるとの意見もある。ベンチャー企業にとって、人員および資金等の経営資源は事業化に向けた取組みに集中的に投下されることなど、早期事業化が優先事項。事業化に向けた冨田所長を始めとした先端研によるアドバイス・共同研究等各種支援の重要性は高い。

    ・今後10年間は、既存ベンチャー企業の本格事業化・事業拡大、そして既存ベンチャーの成功事例を契機とした新規ベンチャーの起業やシナジー効果を見据えた企業進出等、クラスター成長に際し重要な時期である。

    ・先端研の安定的な研究活動および教育活動を支援することは、新たな先端研発 ベンチャー企業の誕生や既存ベンチャーの事業拡大支援だけでなく、域外企業・組織との 共同研究を契機とした誘致や共同研究成果を活用した事業化に寄与し、 産業の集積が期待される。

    ② 起業支援・成長支援を目的とし、産学官金の連携を一層深めたプラットフォームの開設

    サイエンスパークが次の成熟段階に移行し更なる発展を遂げるために、研究開発・創業から事業化まで一貫した支援体制の構築と県内外企業・クラスターとの連携促進が課題であり、次の取組みが必要 ― ①先端研の安定的な研究教育活動の継続 ― ②起業支援・成長支援を目的とし、産学官金の連携を一層深めたプラットフォームの開設 ― ③サイエンスパーク用地拡大を始めとした企業の事業ステージに即した成長を促す支援の充実

    他地域ではバイオクラスター参画企業同士および域内企業との連携やクラスター参画企業の課題解決を進める機関が存在 (例)北海道バイオクラスターにおける中核団体 <ノーステック財団(公益財団法人北海道科学技術総合振興センター)> 2001年に経産局系の財団と北海道庁系の財団を統合し設立。 科学技術・産業技術の振興に関する事業を総合的・横断的に推進し、研究開発から実用化・

    事業化まで一貫した支援活動を実施。 <一般社団法人北海道バイオ工業会> 2006年に北海道のバイオ関連企業が集結し設立。課題解決や発展に向けた交流、調査、提

    言等実施

    ・サイエンスパークの更なる発展を促す体制として、①サイエンスパーク全体を把握し、各種情報の集約および対外的な一次窓口機能の整備、②従来の新たな起業を支援する『インキュベーション』機能に加え、既存企業の成長を加速化させる『アクセラレーション』機能の追加が必要。現在、庄内産業振興センターにおいて、先端研の研究と県内企業を結びつける取組が行われているが、情報収集並びに企業の成長支援の強化が求められる。

    ・①サイエンスパークのニーズ・課題や技術・知見を集約するとともに、各支援機関専門的知見を結集し、必要に応じて域外組織からの協力を得る体制を整備し(右図)、②結集した情報をもとにベンチャー各社の課題解決を図る。これらにより、ベンチャー企業の成長に伴うサイエンスパークの発展のみならず、県内企業の連携により産業全体の底上げが期待される。

    ・また、各種専門機関参画による創業期における専門的知見の提供等、インキュベーション機能の拡充にもつながり、新規企業マインドの醸成にも寄与するほか、情報収集機能の向上により、行政機関における今後の政策立案への寄与が期待される。

    12

  • ③ サイエンスパーク用地拡大を始めとした企業の事業ステージに即した成長を促す支援の充実

    企業は事業の段階によって、必要とする設備や情報は異なる。また、サイエンスパークそして鶴岡で事業化を目指す多くの企業は、事業拡大に重要な役割を担う先端研と連携しやすい立地であることを一つの理由としている。これらを踏まえた、支援内容の検討が必要。

    1 起業に係る専門職紹介/企業マッチング支援 : 新設プラットフォームにて支援 2 資金調達支援 バイオベンチャー企業は、事業化までの期間が他産業に比べ長期化する傾向にあり、比較的資金調達が困難。産業育成を目的とした調達支援の実施により、潤沢な 研究開発資金を背景とした企業の早期事業化が期待される。資金調達に際し、魅力的な地域であることにより、新たな起業や企業進出機運の高まりが期待される。 ・資本による調達 : 準備段階および事業軌道化段階(シード~アーリー期)に対応したファンドの創設 (例)神奈川県官民ファンド ・借入による調達 : 金融機関が資本と見做せる県制度等による劣後ローンの創設 3 共同利用設備拡大/サイエンスパーク拡大 創業期におけるバイオベンチャー各社は、資金面および事業化までの期間等を背景に、大規模な設備投資が難しい状況にある。設備面の支援拡充により、研究開発 の加速化を促すことで、早期事業化が期待される。 ・共同利用設備 : 次世代シーケンサー等高額な機器の共同利用拡充 (例)SHIP 品川産業交流施設 ・サイエンスパーク用地拡大:現状すべて開発目途が立ち、事業用地が不足の状態 ⇒ 事業用地を確保し、事業が本格化した企業については、 レンタルラボから自社施設への独立を促す ・レンタルラボ増設: 現状ほぼ満室であり、新たな起業や誘致のネック ⇒ ラボ増設や入居条件等の見直し ・レンタル工場 : 事業ステージが上がり、製造スペースを求める企業を受入 (レンタルラボからの卒業企業を想定) (例)テクノフロンティア八戸

    起業に係る専門職紹介

    資金調達支援(バイオベンチャーに強みを持つファンド設立/融資制度検討)

    共同利用設備の拡大

    サイエンスパーク用地拡大(レンタル工場・自社工場設立用地)

    企業マッチング支援

    支援項目 自社設備保有

    既存制度資金活用/株式公開

    サイエンスパーク支援設備拡大 (事業拡大に向けたレンタル工場)

    サイエンスパーク支援設備拡大 (レンタルラボ増設)

    自社工場保有

    シード期 (準備段階)

    アーリー期 (事業を軌道化させる期間)

    ミドル期 (事業本格化)

    ステージ レイター期

    (事業黒字化)

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    自社用地拡大

    自社対応 項目

  • 14

    おわりに 当行所見

    ○ 2001年の先端研設立を契機に、先端研の研究成果を基としたバイオベンチャー企業の誕生、先端研・ベンチャー企業との共同研究を目的とした企業・研究機関が進出し、鶴岡のサイエンスパークは全国的に注目されるバイオクラスターに成長しつつある。

    ○ 企業の集積および交流人口の拡大等、新たな人との流れを創出し、民間主導のまちづくりへと発展している。

    ○ 先端研の功績は、研究による新たな発見等にとどまらず、地域の健康増進や教育への貢献もある。また、サイエンスパークの中核的存在として、研究成果をベンチャー企業だけでなく、県内企業に還元している。

    ○ 現在、バイオクラスター形成過程にあるが、6社のバイオベンチャー企業とまちづくり企業の誕生等による産業集積で、サイエンスパークに約500人の新たな雇用が創出された。さらに、サイエンスパーク全体の消費活動により、約30億円の経済波及効果が創出されたと推定される。新たな企業誕生や進出、ベンチャー企業の本格事業化等クラスターの成長により、これら効果の増加が期待される。

    ○ 更なるクラスター成長のため、一貫した支援体制の構築・県内外企業やクラスターとの連携強化を図るべく、安定的な先端研の研究教育活動継続支援、並びにハード・ソフト面の支援強化が求められる。