センチュウのからだのしくみ -...
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「みんなが知らない、線虫と野菜との土の中での闘い」し せんちゆう や さ い つ ち な か たたか
どうして、にんじんやだいこんがゆがんでしまうの?
これは、「線虫」(センチュウ)という、土の中にいる小さな線の 形つち なか ちい せん かたち
をした動物に食べられた、にんじん、だいこんの写真です。皆さんどうぶつ たべ しやしん みな
は、このように「ゆがんだ野菜」を、スーパーの売り場で見たことはあや さ い う ば み
りますか?
どうして、このように、にんじんやだいこんが、ゆがんでしまうので
しょうか?
これから、「みんなが知らない、線 虫と野菜との土の中での 闘し せんちゆう や さ い つち なか たたか
い」について、紹 介します。しようかい
枝のように根が伸びた、にんじんえだ ね の
表 面に茶色の"でこぼこ"ができたり、ひようめん ちやいろ
枝のように根が伸びた、だいこんえだ ね の
「線虫」(センチュウ)ってどんな「虫」?むし
「線 虫」は、長さ400μmせんちゆう なが
(マイクロメートル)・幅20μはば
mの、線の 形 をしています。せん かたち
「線" 虫 "」とはいっても、昆 虫せん ちゆう こんちゆう
ではなく、土の中で暮らしてつち なか くら
いる動物です( 注 )。どうぶつ ちゆう
「μm(マイクロメートル)」
は、物差しに小さくきざまれも の さ ちい
ている「1mm(ミリメートル)」
の"1/1,000"の大きさです。おお
とっても小さいですね。ちい
( 注 )動 物の分類で、線 虫は「線形動物門」に、昆 虫は「節足動物門」の「昆 虫 綱」に分類されます。ちゆう どうぶつ ぶんるい せんちゆう せんけいどうぶつもん こんちゆう せつそくどうぶつもん こんちゆうこう ぶんるい
センチュウのからだのしくみ
口(くち)の針(はり)(ストローになっている)
神経環(しんけいかん)=脳(のう)
卵(たまご)のもと
こうもん
せいしが入っているフクロ
卵がとどまる部屋
しっぽ
卵巣(らんそう)は2つある
卵を産むあな
腸(ちょう)
おしっこをするあな
● 線虫(せんちゅう)には胃(い)がありません。食道(しょくどう)からすぐ腸(ちょう)になります。● 神経環(しんけいかん)という「脳」(のう)があります。
う
中部食道球(ちゅうぶしょくどうきゅう):ここをふくらませて、口から食べ物を吸い取ります。
たまご
くち た もの す と
はい
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線 虫は小さいながら、動物として必要な 体 のつくせんちゆう ちい どうぶつ ひつよう からだ
りを備えています。ヒトと同じく、食 道、ヒトの脳にあそな おな しよくどう のう
たる「神経環」、 腸 をもっています。線 虫の 体 は、簡単しんけいかん ちよう せんちゆう からだ かんたん
なつくりながら、とてもよくできているといえます。
なお、線 虫には、眼がありません。せんちゆう め
皆さんが食べている野菜は、 畑 で育てられています。線 虫は、 畑 の野菜が大好物です。 畑 の土みな た や さ い はたけ そだ せんちゆう はたけ や さ い だいこうぶつ はたけ つち
の中では、線 虫と野菜との 間 に、次のような「みんなが知らない 闘 い」がくりひろげられています。なか せんちゆう や さ い あいだ つぎ し たたか
皆さんは、暗い所でさがし物をするのは大変ですよね。みな くら ところ もの たいへん
⇒線虫は、眼が無いのに、どうやって土の中の野菜の位置がわかるのでしょうか?せんちゆう め な つち なか や さ い い ち
皆さんが、生のにんじんを "丸かじり" したら、とってもかたいですよね。みな なま まる
⇒線虫はどうやって野菜を "かじって" いるのでしょうか?せんちゆう や さ い
線 虫 野菜せんちゆう や さ い
線 虫は、野菜が呼吸して出している、二酸 にんじんは、線 虫に食べられた部分の組織せんちゆう や さ い こきゆう だ に さ ん せんちゆう た ぶ ぶ ん そ し き
化炭素やアミノ酸から、土の中の野菜の位置 が死んでしまい、そこから先に根を伸ばせないか た ん そ さん つち なか や さ い い ち し さき ね の
をさがしだすことができます。 ⇒ ので、水と養分を求めて横に伸びます。みず ようぶん もと よこ のび
線 虫の口には、カニの甲羅と同じキチン質 →だから、にんじんは、ゆがんだ 形 になりませんちゆう くち こ う ら おな しつ かたち
でできた、とがったストローのようになっている す。ゆがんだ 形 は、にんじんが水を求めてかたち みず
「口針」という針があります。線 虫は、「口針」 必死に伸びた結果なのですね。こうしん はり せんちゆう こうしん ひ つ し の け つ か
の根元の「節 球」についた「伸 出 筋」という だいこんやゴボウは、線 虫に食べられるね も と せつきゆう しんしゆつきん せんちゆう た
筋肉を使って針を出し入れし、かたい生野菜で と、それ以上、食べられないよう、食べられたきんにく つか はり だ い なまやさい いじよう た た
も穴を開けることが 部分の組織を 自 ら壊してしまいあな あ ぶ ぶ ん そ し き みずか こわ
できます。そして、 ます。→だから、表 面が、でこぼひようめん
線 虫は、開けた穴 この茶色に変わるのですね。せんちゆう あ あな ちやいろ か
から野菜の栄養分を (右上写真:ゴボウ)や さ い えいようふん みぎうえしやしん
吸い出します。 右横写真:す だ みぎよこしやしん
ネグサレセンチュ 左 2つ: 右4つ:ひだり みぎ
ウ正 常な 線 虫に食べせいじよう せんちゆう た
の前身部ぜんしんぶ
ゴボウ られたゴボウ
筋肉が伸び縮みします。
サツマイモネコブセンチュウの幼 虫ようちゆう
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線 虫 野菜せんちゆう や さ い
正 面から見たネグサレセンチュウ 線 虫に食べられたしようめん み せんちゆう た
穴からとがった針を出し入れします。 ⇒ 「さつまいも」は、裂けたりあな はり だ い さ
野菜から見たら、線 虫は「槍」のような くびれたりします。や さ い み せんちゆう やり
怖い生き物に見えるでこわ い もの み
しょうね。
筋肉を伸び縮みさせて、針でかたい生野菜にきんにく の ちじ はり なまやさい
穴を開けるために、線 虫の 体 では、筋肉を留あな あ せんちゆう からだ きんにく と
める前身部だけ、骨格(「唇部骨格」)がしっかぜんしんぶ こつかく しんぶこつかく
りしています(右図の灰色のかご型の部分)。 図 提 供 協 力:み ぎ す はいいろ がた ぶ ぶ ん ずていきようきようりよく
線 虫 学 会せんちゆうがつかい
線 虫 さつまいもせんちゆう
さつまいもは線 虫にとってよい住み家ですせんちゆう す か
(「宿 主」といいます)。しゆくしゆ
⇒「サツマイモネコブセンチュウ」のメスは、 卵 を
たまご
400~800個もかかえて、「ボール」のようになりこ
ます。線 虫の 卵 は4週 間でかえるので、線 虫せんちゆう たまご しゆうかん せんちゆう
はあっという間に増えてしまいます。ま ふ
さつまいもは、線 虫に食べられた部分の組織 さつまいもは、せんちゆう た ぶ ぶ ん そ し き
を 自 ら壊してしまうので、このままでは線 虫はさつ これ以上、線 虫みずか こわ せんちゆう いじよう せんちゆう
まいもから栄養分をとることができず、死んでしまいます。 に食べられないよえいようぶん し た
う、食べられたた
線 虫はどうするのでしょうか?せんちゆう
部分の組織を 自ぶ ぶ ん そ し き みずか
この「ボール」のようになったメスの前身部でぜんしんぶ
ら壊して、線 虫こわ せんちゆう
は、「植 物ホルモン」という、植 物の成 長をうしよくぶつ しよくぶつ せいちよう
に対抗します。たいこう
ながす物質を植 物に出させて、前身部の先にぶつしつ しよくぶつ だ ぜんしんぶ さき
栄養分の固まりの細胞である「ジャイアントセル」えいようぶん かた さいぼう
を作らせ、そこから栄養分をとります( 注 )。つく えいようぶん ちゆう
→このように工夫して生き延びる線 虫はすごいく ふ う い の せんちゆう
ですね。 ( 注 ) 線 虫が植 物に「ジャイアントセル」を作らせる仕組みは、ちゆう せんちゆう しよくぶつ つく し く
まだわかっていません。
「ボール」のようになったメス
「ジャイアントセル」
さつまいもネコブセンチュウのメス
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畑で線虫に食べらてしまう野菜を減らすには、どうしたらよいのでしょうか?はたけ せんちゆう た や さ い へ
畑 では、線 虫が増えすぎないよう、栽培の順 番を工夫したり、食べ物の安全のことを 考 えて、はたけ せんちゆう ふ さいばい じゆんばん く ふ う た もの あんぜん かんが
正しく農薬をまいたりしています。食 卓に野菜が届くまで、 畑 ではこのような栽培の工夫や取組がただ のうやく しよくたく や さ い とど はたけ さいばい く ふ う とりくみ
されています。
また、線 虫の天敵となる生物を利用することも 考 えられせんちゆう てんてき せいぶつ り よ う かんが
ます。
例えば、「パスツーリア・ペネトランス」という細菌がいまたと さいきん
す。この細菌は「ネコブセンチュウ」だけに付いて、さいきん つ
線 虫が産卵するのを抑えます。このことを利用して、このせんちゆう さんらん おさ り よう
細菌を 畑 にまいてネコブセンチュウを減らす栽培技術がさいきん はたけ へ さいばいぎじゆつ
実用化されています。じつようか
線 虫に食べられた野菜は、 形 が悪いので売り物にならなくなってしまいます。農家の人たちは、せんちゆう た や さ い かたち わる う もの の う か ひと
線 虫に食べられて 形 が悪くなった野菜を市場やスーパーに出さないよう、取り 除 いています。せんちゆう た かたち わる や さ い しじよう だ と のそ゜
だから、野菜売り場では、このようなゆがんだ野菜は並んでいないのですね。もっとも、ゆがんだや さ い う ば や さ い なら
野菜も、ゆがみや茶色のでこぼこの部分を取り除けば、ゆがんでいない野菜と味に変わりなく食べらや さ い ちやいろ ぶ ぶ ん と のぞ や さ い あじ か た
れます。
「野菜が畑で育ち、食卓に届くまで」を想像してみましょう。や さ い はたけ そだ しよくたく とど そうぞう
きれいな野菜が並ぶ売り場、食卓から、野菜が育つ畑の環境や野菜に関係する生や さ い なら う ば しよくたく や さ い そだ はたけ かんきよう や さ い かんけい い
き物のことを想像してみましょう。もし、畑で「ゆがんだ野菜」を見かけたら、「どうしもの そうぞう はたけ や さ い み
てかな?」と"問い"を立ててみましょう。そして、食卓の野菜から、野菜が育つ環境やと
た しよくたく や さ い や さ い そだ かんきよう
生物多様性(注 )のことを考え、調べてみましょう。せ い ぶ つ た よ う せ い ちゆう かんが しら
このように、「野菜が畑で育ち、食卓に届くまで」について、想像力、イメージをめや さ い はたけ そだ しよくたく とど そうぞうりよく
ぐらせれば、食卓の野菜が「食べ物」としてだけでなく、畑や自然の中の生物多様性しよくたく や さ い た もの はたけ し ぜ ん なか せ い ぶ つ た よ う せ い
や食べ物の安全について考えるきっかけになりますよ。た もの あんぜん かんが
( 注 )生物多様性ちゆう せいぶつたようせい
生き物の種類が豊かになり、食べたり、食べられたりする生き物の関係(「食物連鎖」)が増えれば増えるい もの しゆるい ゆた た た い もの かんけい しよくもつれんさ ふ ふ
ほど、特定の生き物だけが増えすぎたりせず、生き物の 間 の関係(「生態系」)のバランスがとれた、自然にとくてい い もの ふ い もの あいだ かんけい せいたいけい しぜん
なります。この生き物の種類・関係の豊かさのことを「生物多様性」といいます。い もの しゆるい かんけい ゆた せいぶつたようせい
「パスツーリア・ペネトランス」菌がきん
付いたネコブセンチユウつ