インドネシア -...

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2015.1 金属資源レポート 1 480インドネシア 鉱物資源高付加価値化政策の動向 はじめに インドネシアにおいて新たな鉱業法「鉱物・石炭鉱業 に関する法律」 (2009年法律第4号。以下「新鉱業法」) 1 公布・施行された2009年1月から5年が経過した。同法 で新たに盛り込まれ、同国にとって重要な施策の一つ である鉱物の高付加価値化義務に関し、その施行期限 となっていた2014年1月、様々な議論を経て、政府は 最終的な方針を打ち出し、関連する政令、大臣令を相 次いで発効した。その結果、一部の金属鉱物について は中間鉱産物となる精鉱などの輸出は時限的に認めら れることになったものの、大部分の金属鉱物には製精 錬処理が義務付けられることとなり、未処理鉱石の輸 出が認められなくなった。 本稿では、インドネシア鉱業法の中で、最も耳目を 集める鉱物資源高付加価値化政策 2 の概要や、2012年 以降、ここに至るまでの経緯、今後の見通しなどを取 り上げる。施行から1年が過ぎた今、当該政策が撤回 されることはないというのが市場の認識であるが、新 鉱業法成立の背景や高付加価値化政策施行までの経緯 を整理することで、同国あるいは他の資源国における 鉱業の行方を占う一つの材料としたい。 なお、本稿は2014年6~9月発行のカレント・トピッ クス『インドネシアにおける鉱石輸出禁止政策の動向』 (その1~4) (高橋健一・山本万里奈)を基に執筆したも のであることを申し添える。 1. 鉱物資源高付加価値化の概要 鉱物資源の高付加価値化義務は、新鉱業法の施行日 (2009年1月12日)から5年以内での実施が同法に規定さ れていたところ、期限前日となる2014年1月11日、ユ ドヨノ(Susilo Bambang Yudhoyono)大統領は、関係閣 僚を招集の上、約5時間に及ぶ会議を実施し、次のよ うな方針・内容を決定した。 鉱業事業許可(IUP)事業者又は旧鉱業法による鉱 業事業契約(Contract of WorkCOW)事業者に対し、 改めて鉱物の選鉱又は製精錬処理を義務化し、未処 理鉱石は原則輸出禁止 一部の金属鉱物については、輸出税の課税を条件 に、選鉱処理済み鉱産物(精鉱)の輸出を3 年間に限 り認める 精鉱輸出への輸出税は、2014年1月当初の税率 20%から、6か月又は1年ごとに段階的に引き上げ ることとし、最終的に2016年7月以降は60%の税率 とする 2014年1月12日以降の鉱産物の輸出は、許可制と する 以上の決定内容は、同日公布された以下の政令及び 3つの各大臣令に規定され、即時施行された。 (1)「鉱物・石炭鉱業の事業活動の実施」に関する政 令2010年第23号を改正する政令(政令2014年第1号、 政令2010年第23号の2次改正政令) (2)「国内における鉱物の選鉱・加工処理と製精錬活 動を通じた鉱物の付加価値の増加」に関するエネル ギー・鉱物資源大臣令(同大臣令2014年第1号) (3)「輸出税の課税対象品と税率」に関する財務大臣 令2012年PMK.011第75号を改正する財務大臣令 (2014 PMK.011第6号) (4)「選鉱・精錬済み鉱産物の輸出規定」に関する商 業大臣令(2014年M-DAG/PER/1第04号) (1)~(4)の各大臣令の主な規定内容は、次のとおり である。 (1)の改正政令では、製精錬処理後の鉱産物に加え、 選鉱処理後の鉱産物も輸出できる内容が盛り込まれ、 詳細規定はエネルギー・鉱物資源大臣令に委任するこ ととした。 (2)のエネルギー・鉱物資源大臣令は、関連する大 臣令中最もポイントとなる規定であり、同大臣令にお いては、対象となる鉱物は金属鉱産物、非金属鉱産物、 岩石鉱産物の3区分に大別され、それぞれ個別鉱物毎 にインドネシア国内での選鉱、加工、製精錬処理の最 低基準が規定された。基準に満たないものの国外への 輸出・販売は許可されないこととなった。 金属鉱産物の最低加工基準は表1のとおり。ニッケ ル、ボーキサイト、金、銀、クロムは製精錬製品のみ 輸出が認められる一方、銅、鉄鉱石、マンガン、鉛・ 亜鉛等の一部の金属鉱物については、輸出税課税(20 ~60%)が条件となるが、中間製品となる精鉱も本大 調査部金属資源調査課 山本 万里奈 1 新鉱業法の概要については、小岩孝二(2009) 『インドネシア新鉱業法について』 (http://mric.jogmec.go.jp/public/kogyojoho/2009-03/MRv38n6-04. pdf)、JOGMEC金属資源レポート2009年3月号を参照されたい。 2 以後、本稿では「高付加価値化政策」を「(インドネシア)国内において一定水準まで製精錬処理することを義務付ける政策」と定義する。

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Page 1: インドネシア - JOGMEC金属資源情報mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/...ドヨノ(Susilo Bambang Yudhoyono)大統領は、関係閣 僚を招集の上、約5時間に及ぶ会議を実施し、次のよ

2015.1 金属資源レポート 1(480)

インドネシア鉱物資源高付加価値化政策の動向

はじめに インドネシアにおいて新たな鉱業法「鉱物・石炭鉱業に関する法律」(2009年法律第4号。以下「新鉱業法」)1 が公布・施行された2009年1月から5年が経過した。同法で新たに盛り込まれ、同国にとって重要な施策の一つである鉱物の高付加価値化義務に関し、その施行期限となっていた2014年1月、様々な議論を経て、政府は最終的な方針を打ち出し、関連する政令、大臣令を相次いで発効した。その結果、一部の金属鉱物については中間鉱産物となる精鉱などの輸出は時限的に認められることになったものの、大部分の金属鉱物には製精錬処理が義務付けられることとなり、未処理鉱石の輸出が認められなくなった。 本稿では、インドネシア鉱業法の中で、最も耳目を集める鉱物資源高付加価値化政策2 の概要や、2012年以降、ここに至るまでの経緯、今後の見通しなどを取り上げる。施行から1年が過ぎた今、当該政策が撤回されることはないというのが市場の認識であるが、新鉱業法成立の背景や高付加価値化政策施行までの経緯を整理することで、同国あるいは他の資源国における鉱業の行方を占う一つの材料としたい。 なお、本稿は2014年6~9月発行のカレント・トピックス『インドネシアにおける鉱石輸出禁止政策の動向』(その1~4)(高橋健一・山本万里奈)を基に執筆したものであることを申し添える。

1. 鉱物資源高付加価値化の概要 鉱物資源の高付加価値化義務は、新鉱業法の施行日(2009年1月12日)から5年以内での実施が同法に規定されていたところ、期限前日となる2014年1月11日、ユドヨノ(Susilo Bambang Yudhoyono)大統領は、関係閣僚を招集の上、約5時間に及ぶ会議を実施し、次のような方針・内容を決定した。▶  鉱業事業許可(IUP)事業者又は旧鉱業法による鉱業事業契約(Contract of Work:COW)事業者に対し、改めて鉱物の選鉱又は製精錬処理を義務化し、未処理鉱石は原則輸出禁止▶  一部の金属鉱物については、輸出税の課税を条件に、選鉱処理済み鉱産物(精鉱)の輸出を3 年間に限り認める

▶  精鉱輸出への輸出税は、2014年1月当初の税率20%から、6か月又は1年ごとに段階的に引き上げることとし、最終的に2016年7月以降は60%の税率とする▶  2014年1月12日以降の鉱産物の輸出は、許可制とする

 以上の決定内容は、同日公布された以下の政令及び3つの各大臣令に規定され、即時施行された。(1)  「鉱物・石炭鉱業の事業活動の実施」に関する政

令2010年第23号を改正する政令(政令2014年第1号、政令2010年第23号の2次改正政令)

(2)  「国内における鉱物の選鉱・加工処理と製精錬活動を通じた鉱物の付加価値の増加」に関するエネルギー・鉱物資源大臣令(同大臣令2014年第1号)

(3)  「輸出税の課税対象品と税率」に関する財務大臣令2012年PMK.011第75号を改正する財務大臣令(2014 年PMK.011第6号)

(4)  「選鉱・精錬済み鉱産物の輸出規定」に関する商業大臣令(2014年M-DAG/PER/1第04号)

  (1)~(4)の各大臣令の主な規定内容は、次のとおりである。 (1)の改正政令では、製精錬処理後の鉱産物に加え、選鉱処理後の鉱産物も輸出できる内容が盛り込まれ、詳細規定はエネルギー・鉱物資源大臣令に委任することとした。 (2)のエネルギー・鉱物資源大臣令は、関連する大臣令中最もポイントとなる規定であり、同大臣令においては、対象となる鉱物は金属鉱産物、非金属鉱産物、岩石鉱産物の3区分に大別され、それぞれ個別鉱物毎にインドネシア国内での選鉱、加工、製精錬処理の最低基準が規定された。基準に満たないものの国外への輸出・販売は許可されないこととなった。 金属鉱産物の最低加工基準は表1のとおり。ニッケル、ボーキサイト、金、銀、クロムは製精錬製品のみ輸出が認められる一方、銅、鉄鉱石、マンガン、鉛・亜鉛等の一部の金属鉱物については、輸出税課税(20~60%)が条件となるが、中間製品となる精鉱も本大

調査部金属資源調査課 山本 万里奈

1 新鉱業法の概要については、小岩孝二(2009)『インドネシア新鉱業法について』(http://mric.jogmec.go.jp/public/kogyojoho/2009-03/MRv38n6-04.pdf)、JOGMEC金属資源レポート2009年3月号を参照されたい。2 以後、本稿では「高付加価値化政策」を「(インドネシア)国内において一定水準まで製精錬処理することを義務付ける政策」と定義する。

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インドネシア 鉱物資源高付加価値化政策の動向

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2015.1 金属資源レポート2(481)

臣令施行後3年間は経過的に認められることとなった。この点について、エネルギー・鉱物資源大臣の会見によると、この決定は鉱山労働者の大量解雇や地域経済へのダメージに加え、輸出額減少による経済への悪影響を回避することが重要であるとの認識に立ったものである、としている。 また、選鉱・加工又は製精錬事業は、鉱業事業許可(IUP)事業者等が自ら実施するか、あるいは他の事業

者と協力実施するかの方法によるが、他事業者との協力実施の場合、原鉱石(原料又は鉱石)又は精鉱の売買による協力も可能である。 なお、これら新たな大臣令が公布・施行されたことに伴い、2013年11月に最高裁判所が違法判決を下し、取消を命じられていた2012年2月公布の旧エネルギー・鉱物資源大臣令2012年第07号(最終改正同大臣令2013年第20号)は廃止された。

鉱物 選鉱製品 製精錬製品 最低製品基準銅(製錬プロセス) 銅精鉱 - ≧ 15% Cu

- a. 銅カソード Metal Cu ≧ 99%b. 陽極泥 (アノードスライム)

a. Metal Au ≧ 99%b. Metal Ag ≧ 99%c. Bullion Pb ≧ 90%d. Metal Pd ≧ 99%e. Metal Pt ≧ 99%f. Metal Se ≧ 99%g. Metal Te ≧ 99%h. PbO ≧ 98%i. PbO2 ≧ 98%j. SeO2 ≧ 98% k. 希少金属及び希土類

(錫における希土類 の条件を参照)c. テルル化銅 a. Metal Cu ≧ 99%

b. Metal Te ≧ 99%c. TeO2 ≧ 98%d. Te(OH)2 ≧ 98%

銅(リーチング・プロセス) - 金属 a. Metal Cu ≧ 99%b. Metal Au ≧ 99%c. Metal Ag ≧ 99%d. Metal Pd ≧ 99%e. Metal Pt ≧ 99%f. Metal Se ≧ 99%g. Metal Te ≧ 99%h. 希少金属及び希土類

(錫における希土類の条件を参照)ニッケル及び(又は)コバルト(製錬プロセス)a. サプロライトb. リモナイト

- ニッケルマット、合金及びニッケル金属

a. Ni Mate ≧ 70% Nib. FeNi ≧ 10% Nic. Nickel Pig Iron (NPI)  ≧ 4% Nid. Metal Ni ≧ 93% e. Metal Fe ≧ 93%f. NiO ≧ 70% Ni

ニッケル及び(又は)コバルト(リーチング・プロセス)リモナイト

- 金属、金属酸化物、金属硫化物、混合水酸化物 / 硫化物、炭酸水酸化ニッケル

a. Metal Ni ≧ 93%b. 混合水酸化物 (MHP) ≧ 25% Nic. 混合硫化物 (MSP) ≧ 45% Nid. 炭酸水酸化ニッケル (HNC) ≧ 40% Nie. NiS ≧ 40% Nif. Metal Co ≧ 93%g. CoS ≧ 40% Coh. Metal Ni ≧ 99% Nii. Cr2O3 ≧ 40% Nij. MnO2 含有量 Mn ≧ 15%

ニッケル及び(又は)コバルト(還元)a. サプロライトb. リモナイト

- 合金 a. FeNispon (Sponge FeNi) ≧ 4% Nib. Luppen FeNi ≧ 4% Nic. Nuget FeNi ≧ 4% Ni

表1. 金属鉱産物の選鉱加工処理・精錬の最低基準

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2015.1 金属資源レポート 3(482)

鉱物 選鉱製品 製精錬製品 最低製品基準ボーキサイト - 金属酸化物 / 水酸化物、金属 a. スメルター・グレード・アルミナ

  ≧ 98% Al2O3

b. ケミカル・グレード・アルミナ   ≧ 90% Al2O3

  ≧ 90% Al(OH)3c. Metal Al ≧ 99%

鉄鉱石 鉄精鉱 - ≧ 62% Feラテライト鉄精鉱 - ≧ 51% Fe

含有量(Al2O3+SiO2)≧ 10%

- スポンジ、金属及び合金 スポンジ鉄≧ 75% Fe銑鉄 ≧ 90% Fe合金 ≧ 88% Fe

砂鉄 砂鉄精鉱 ≧ 58% Fe 及び(又は)ペレット ≧ 56% Fe

- 金属 スポンジ鉄≧ 75% Fe       及び(又は)銑鉄≧ 90% Fe 

スラグ a. TiO2 ≧ 90%b. TiCl4 ≧ 98%c. 合金≧ 65% Tid. V2O5 ≧ 90%e. 合金≧ 65% Vf. 希少金属及び希土類

(錫における希土類の条件を参照)錫 ジルコン、イルメナイ

ト及びルチル精鉱の副産物

- 非金属鉱物のジルコンにおけるジルコン、イルメナイト、ルチルの条件を参照

モナザイト及びゼノタイムの精鉱

- a. 酸化希土類 (REO) ≧ 99%b. 水酸化希土類 (REOH) ≧ 99%c. 希土類≧ 99%

- 金属 Metal Sn ≧ 99.90%スラグ a. Metal W ≧ 90%

b. Ta2O5 ≧ 90%c. Nb2O5 ≧ 90%d. Sb2O5 ≧ 90%

マンガン マンガン精鉱 - ≧ 49% Mn.- 金属、合金、化学マンガン a. フェロマンガン (FeMn), Mn ≧ 60%

b. シリコマンガン (SiMn),Mn ≧ 60%c. 一酸化マンガン (MnO), 0  Mn ≧ 47.5% , Mno2 ≦ 4%d. 硫化マンガン (MnSO4) ≧ 90%e. 塩化マンガン (MnCl2) ≧ 90%f. 合成炭酸マンガン (MnCO3) ≧ 90%g. 過マンガン酸カリウム (KMnO4) ≧ 90%h. 酸化マンガン (Mn3O4) ≧ 90%i. 合成二酸化マンガン (MnO2) ≧ 98%j. スポンジマンガン(還元マンガン) Mn ≧ 49% , MnO2 ≦ 4%

鉛及び亜鉛 亜鉛精鉱 - ≧ 52% Zn.鉛精鉱 - ≧ 57% Pb.

- 金属、金属酸化物 / 水酸化物 a. Bullion ≧ 90% Pbb. PbO ≧ 98%c. Pb(OH)2 ≧ 98%d. PbO2 ≧ 98%e. Bullion ≧ 90% Znf. ZnO ≧ 98%g. ZnO2 ≧ 98%h. Zn(OH)2 ≧ 98%i. Metal Au ≧ 99%j. Metal Ag ≧ 99%

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2015.1 金属資源レポート4(483)

鉱物 選鉱製品 製精錬製品 最低製品基準金 - 貴金属 Metal Au ≧ 99%銀 - 貴金属 Metal Ag ≧ 99%クロム - 金属及び合金 a. Metal Cr ≧ 99%

b. 合金 ≧ 60% Cr.

(出所:エネルギー・鉱物資源省)

(出所:エネルギー・鉱物資源省)

 (3)の財務大臣令では、エネルギー・鉱物資源大臣令2014年第1号によって時限的な輸出が認められた精鉱類への課税が定められ、その税率が規定された。最初の期間となる2014年1月からは20%(銅精鉱のみ

25%)、以後、6か月又は1年ごとに10%又は5%引き上げられ、最終期間の2016年7月以降は税率60%となる。個別の税率は表2のとおり。

明 細

輸出税率(%)

2014 2015 2016

1/12 ~6/30

7/1 ~12/31

1/1 ~6/30

7/1 ~12/31

1/1 ~6/30

7/1 ~12/31

銅精鉱 含有率≧ 15% Cu 25% 25% 35% 40% 50% 60%

鉄精鉱(赤鉄鉱、磁鉄鉱、黄鉄鉱)含有率 ≧ 62% Te 20% 20% 30% 40% 50% 60%

鉄 精 鉱( 針 鉄 鉱、 ラ テ ラ イト ) 含 有 率 ≧ 51 % Fe 及 び(Al2O3+SiO2) ≧ 10%

20% 20% 30% 40% 50% 60%

マンガン精鉱含有率≧ 49% Mn 20% 20% 30% 40% 50% 60%

鉛精鉱、含有率 ≧ 57% Pb 20% 20% 30% 40% 50% 60%

亜鉛精鉱含有率 ≧ 52% Zn 20% 20% 30% 40% 50% 60%

イルメナイト精鉱、Fe 含有率≧ 58%(砂状)、Fe 含有率 ≧ 56%(パレット状)

20% 20% 30% 40% 50% 60%

チ タ ン 精 鉱、Fe 含 有 率 ≧58%(砂状)、Fe 含有率 ≧56%(パレット状)

20% 20% 30% 40% 50% 60%

 (4)の商業大臣令は、エネルギー・鉱物資源大臣令2014年第1号によって2014年1月12日以後も、輸出可能となる鉱産物に関し、具体的な輸出手続きが規定されている。主な規定内容は次のとおり。 1)輸出事業者の認定  ▶  当該鉱産物の輸出事業者は、商業大臣から認

定を取得することが求められる  ▶ 上記の認定申請には、以下の書類の提出が必要   ・  鉱業生産許可、特別鉱業生産許可又は工業

事業許可のコピー   ・‌‌ 納税者番号のコピー   ・‌‌ 会社登記証のコピー   ・‌‌ 関連の省庁からの推薦状:鉱業生産許可、

特別鉱業生産許可の所有者はエネルギー・鉱物資源大臣から、工業事業許可の所有者は工

業大臣から取得  ▶‌ 輸出事業者の認定は3 年間有効

 2)鉱産物の輸出承認・検査  ▶‌ 鉱産物の輸出時に、商業大臣の指定機関によ

る検査を実施  ▶‌ 一部の鉱産物の輸出には、商業大臣からの事

前承認が必要。同承認申請には以下の書類の添付が求められる

   ・‌‌ 生産活動許可又は加工・精錬専門生産活動許可のコピー

   ・‌‌ 納税者番号のコピー   ・‌‌ 会社登記証のコピー   ・‌‌ エネルギー・鉱物資源大臣からの推薦状  ▶‌ 鉱産物の輸出承認の有効期間は6か月

表2. 輸出税が課税される鉱産物の輸出税率

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2015.1 金属資源レポート 5(484)

2. 高付加価値化政策施行までの動向 本項では、新鉱業法成立までの状況や、高付加価値化政策施行までの動きを振り返り、インドネシア政府の鉱業政策の問題点やその対策を詳らかにする。

2.1 新鉱業法成立の背景 2.1.1 旧鉱業法下の鉱業政策と体制転換   スハルト(Haji Muhammad Soeharto)政権下で制定された旧鉱業法(1967年)は、世界的に資源ナショナリズムの機運が高まっていた中で、COW(Contract of Work:鉱業事業契約)制度に見られるように外資導入に積極的な政策として国際社会から評価された反面、手続きが煩雑で、恣意性が強く、透明性、環境保護規定への配慮や国家の経済発展に寄与する視点が欠如しているという問題が残されていた3 。また、後に制定された地方自治法(1999年)や森林法(同年)と矛盾が生じることとなり、特に1998年5月のスハルト体制崩壊以後は経済・政治の混迷も影響してこれら問題が表層化、鉱業投資も停滞した。さらに、民主化と経済成長への道を歩む中で汚職の是正や富の再分配を求める動きも高まりつつある中、2004年に発足したユドヨノ政権下で、政府は憲法第3条33節に規定される「インドネシアの土、水、自然資源は国家が管理し、国民の幸福のために利用しなければならない」という理念に基づき、鉱業法の近代化に取り掛かるのである4 。

   このように鉱業の振興による「国家利益の最大化、国民福祉の向上」を目指した鉱業法改正であったが、2005年の法案上程後、3年7か月の議論を経て成立した時には、国益至上主義で具体性にやや欠ける法律となっていた。この間、中国の需要急増や投機資金流入により金属価格は高騰(図1)し、これに呼応する形で資源採掘・輸出量が拡大5 した。インドネシアもこの恩恵を享受したが、乱掘による環境汚染と過去に例を見ない規模での資源流出、外資企業の莫大な利益計上は、経済危機からの回復を切望する同国にとって看過できない状況であり、かねてより既存法に対し「外資優遇」との批判があった中で、資源ナショナリズムの潮流が激しくなった6 。こうした状況での議論では、既存COWの取扱い、高付加価値化義務、鉱業権付与プロセスとその付与権限やロイヤルティ等と争点が多岐にわたり7 、多くの利害関係者間(議会、中央政府、地方政府、外国投資家、環境 NGO、大学関係者等)の調整に時間を要することとなる。また、2009年には総選挙及び大統領選挙を控えており、政治的な思惑も議論を難化させる要因となった。その結果として、国の経済発展に寄与するための鉱業という理念が先行し、実現性を含めた重要な議論が政省令という形で法律制定後に持ち越される。このことは政省令制定の遅延をもたらし、業界も対応に苦慮することになる。

3 千原宏典・井田龍二(2013)『インドネシアの鉱業と鉱業政策の行方』, p.43ほか, 一般社団法人日本メタル経済研究所.4 ユドヨノ氏は、ワヒド政権下(1999〜2001)でエネルギー・鉱物資源大臣を務めていた。この時から改正の必要性を強く感じていたと推察される。5 後述するが、地方政府による鉱業ライセンスの乱発もこれを助長したと推察される。6 鉱業法改正の議論が進む間にも、外資企業に対する現地住民の反対活動も起きた。7 当時の報道によると、法案の審議項目は414に上った(JOGMECニュース・フラッシュ、2007年2号)。

(出所:LMEを基にJOGMEC作成)図1. 主要非鉄金属価格推移(2003年5月を1とした時の指数)

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インドネシア 鉱物資源高付加価値化政策の動向

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2015.1 金属資源レポート6(485)

 2.1.2 ユドヨノ政権の経済政策   2004年に同国史上初の大統領直接選挙によって選出されたユドヨノ政権の発足によって、インドネシアはスハルト体制崩壊後の混乱を収束、政治体制の安定化に成功した。一方で、非権威主義体制下での経済成長は、汚職、外国援助の削減、財政難によるインフラ整備の遅れ等によりかつての『東アジアの奇跡』のポジションに戻れずにいた。また輸出構造も、スハルト体制下では工業製品の割合が5%→59%と上昇し、従来の産油国型から新興国工業型への転換が果たされたように見えたが、2000年代に入ると工業製品の輸出割合は2010年には1991年の水準である41%に減少、一次産品の輸出が再び増加し再び資源輸出国に逆戻りすることになった8 。

   こうした中、ユドヨノ大統領は2011年5月、「経済開発迅速化・拡大マスタープラン」(MP3EI)という長期発展計画を発表した。これは、2025年までに名

8 佐藤百合(2011)『経済大国インドネシア 21世紀の成長条件』, p.118, 中央公論新社.9 MASTERPLAN - ACCELERATION AND EXPANSION OF INDONESIA ECONOMIC DEVELOPMENT 2011〜2025

目GDPを2010年の6倍超にし、GDP規模世界トップ10入り、「世界の主要な食糧サプライヤーであり、農業・水産業・天然資源の加工センターであり、そしてグローバル・ロジスティックのセンター9 」となる目標が示された野心的な計画である(図2)。MP3EIでは8つの主要なプログラム―農業、鉱業、エネルギー、工業、海運、観光業、通信の発展と、戦略的地域の発展―に焦点を当てている。さらにこれらプログラムは、MP3EIの中でも重要な6つの回廊(スマトラ、ジャワ、カリマンタン、スラウェシ、バリ-ヌサ・テンガラ、パプア-マルク)のもつ潜在的・戦略的価値に基づいて計画された、22の主要な経済活動によって構成されている。この22の経済活動の一つとして、鉱業においてはニッケル(スラウェシ及びパプア-北マルク)、銅(パプア-マルク)、ボーキサイト(カリマンタン)の開発も明確に示されている。

 2.1.3 新鉱業法の成立   このように、新鉱業法は国の大きな構造転換が進む中で成立したもので、特に第二期ユドヨノ政権では「競争力のある経済発展と天然資源の活用」が政府の最優先課題と位置付けられていた。資源輸出国というポジションからの脱却、下流産業の振興が叫ばれる中、高付加価値化政策は鉱業法審議の過程で大きな反対が見られず、自明のこととして詳細の検討は行われなかった。また鉱区設定、鉱業事業許可、

既存COWの取扱いといった意見の対立が生じた他の点に議論が集中したこともあり、現実的なグランドデザインがないまま鉱業法施行後5年以内の実施が法律にて定められることとなったのである。

2.2 新鉱業法に係る政省令の公布 2009年1月12日に施行された新鉱業法において、関連政令及び大臣令は1年以内に制定し、それまでの間は旧政令及び大臣令を矛盾しない範囲で適用するとさ

(出所:MP3EI資料を基に筆者作成、経済回廊地図及び写真はMETI)図2. MP3EIの概要

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インドネシア 鉱物資源高付加価値化政策の動向

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10 この高付加価値化実施には、自らによる製錬所の建設に加え製錬所建設への支援、即ち他社が計画する製錬所への鉱石供給も含まれる。

れた。政令については予定していた4つ全てが2010年中に公布されたが、これも詳細については下位のエネルギー・鉱物資源大臣令に委任する内容であった。大臣令は公布の時期がまちまちとなり、特に高付加価値

化(初出2012年2月)と資本委譲(2013年)、鉱業許可競売(同年)については大幅に遅延した。 図3に主要関連政省令を示す。改正があったものについては最新の公布年号のみ記している。

2.3 鉱物資源高付加価値化と輸出規制を巡る動き 2.3.1  鉱物資源高付加価値化に係るエネルギー・

鉱物資源大臣令の制定(2012年2月)   鉱業事業活動に関する政令2010年第23号では、

KP(既存鉱業権)からIUP(新鉱業権)へ移行する鉱業権者に対しても高付加価値化を義務付けたところ、政府は2012年2月、エネルギー・鉱物資源大臣令2012年第7号で以て高付加価値化の具体的な内容を初めて正式に示した。同大臣令では、2014年1月以降に高付加価値化が義務付けられる対象鉱物、鉱物の最低製精錬処理基準、違反者の罰則が規定された。対象鉱物は銅、金、銀、錫、鉛・亜鉛、クロム、モリブデン、白金族金属、ボーキサイト、鉄鉱石、ニッケル、コバルト、マンガン、チタン、アンチモン及びこれらの副産物で、地金または中間製品までの高付加価値化が求められた(この時点では精鉱の輸出は認められていない)。石炭については精製・改質技術が未確立である等の理由によりこの時点で高付加価値化の対象外となることが決定した。   本大臣令公布後、政府は国内鉱山事業に対し、3か月以内に高付加価値化実施に係る計画書10 の提出を指示した。この時、ジェロ・ワチック(Jero Wacik)エネルギー・鉱物資源大臣はメディアに対し「この期限内に提出しない場合には輸出許可が取り消される可能性がある」と述べた。この発言を巡っては、当該大臣令内における矛盾、即ち「COW保有者は

2014年1月までに高付加価値化の実施が求められる」(24条)と「IUP保有者は大臣令発効後3か月以内に鉱石を国外販売することが禁じられる」(21条)との記載と併せて業界に混乱をもたらし、2012年5月から鉱石輸出が停止されるのではないかとの懸念が市場に広がった。これに対し、後にワチック大臣は企業が提出した計画の内容によっては調整の余地を与えるとし、全ての企業に対し鉱石輸出停止措置を取るわけではないと説明した。

 2.3.2  輸出規制の導入と関連政省令の改定及び制定(2012年5月)

   疑惑の「3か月」という期限直前の5月4日、エネルギー・鉱物資源省は、鉱物資源輸出に対し、今後公布する商業大臣令にて輸出規制を実施することを発表した。その後、5月7日付で公布された商業大臣令2012年第29号では、以下のとおり主要鉱物65品目 (うち金属鉱物は21品目)の輸出に関して以下のような条件が定められた。  ▶  鉱産物登録輸出業者として商業省による認定

取得が求められる  ▶‌ 認定企業は、3か月毎に見直される割り当て

量に基づき輸出が許可される  ▶‌ 認定には事前にエネルギー鉱物資源省による

推薦状が必要。推薦状発行の条件として、IUPのClean & Clear認証(CnC, IUPの適法性に関す

(出所:JOGMEC作成)図3. 新鉱業法に係る主な政省令

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2015.1 金属資源レポート8(487)

る認証のこと。後述)、国内における製精錬設備建設又は同建設協力計画、エンドユーザーとの鉱業品売買契約、新鉱業法各規定の遵守に関する同意書(Integrity Pact)などの書類が求められる

   さらに、16日には財務大臣令2012年第6号が公布され、輸出規制の対象となる鉱物には20%の輸出税が課されることが明らかになった。また、高付加価値化を規定した先のエネルギー・鉱物資源大臣令2012年第7号も、これら大臣令と矛盾のないよう2012年第11号として改正された。

   政府は、この突発的な輸出規制導入の目的を「新鉱業法施行以後の鉱物資源の輸出が急激に増大したことにより資源の乱掘や環境への影響を防止すること」としている。確かに2012年の鉱石輸出量は、図4及び5のとおり(鉱業法施行前である)2008年比ニッケルは357%増、ボーキサイトは同76%増と大きく増加した。この増加は、2014年の鉱石輸出禁止を見越したものとされるが、そもそもこのような急増を許したのは鉱業ライセンスを乱発した地方政府に因るところが大きい。

(出所:2000~2005年はエネルギー・鉱物資源省、2006年以降はGTA)

(出所:2000~2005年はエネルギー・鉱物資源省、2006年以降はGTA)

図4. インドネシアのニッケル鉱石輸出量推移(2000〜2013)

図5. インドネシアのボーキサイト鉱石輸出量推移(2000〜2013)

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 スハルトの中央集権体制崩壊以後、「reformasi(レフォルマシ:改革)」の名のもとに進められた民主化プロセスの中で、中央集権体制の脱却、即ち地方分権化への道に邁進することとなり11 、1999年、地方自治法の一環として地方政府に鉱業ライセンス付与権限が移譲された(旧鉱業法では中央政府に当該権限が与えられており、新鉱業法においてこの矛盾が解消される)。加えて、中央・地方財政均衡法(同年)によって、中央政府によって人口比に基づき分配されていた資源歳入は、その80%が地元に還元される12 ことが定められた。 しかし、この権限移譲は、地方政府の管理能力の欠如あるいは怠惰と伴って鉱区の重複や鉱業ライセンスの乱発を招いた。矛盾を解消した新鉱業法の施行や中国の需要増大がこれに拍車をかけ、2011年頃にはIUP保有者数が10,000件超に及んだため、政府はIUP保有者に鉱区の重複等無しに適正に発行されたことを証明できる資料の提出を求め、Clean & Clear(CnC)という認証システムを導入することで事態収拾を図っていた。 輸出規制にあたり、政府は登録輸出業者認定の条件にこのCnC認証取得と製精錬所建設計画を組み込むことで、膨大な数の鉱区重複及びIUP保有者の存在、大量の資源流出、進まない企業の高付加価値化への対応といった状況の打開を試みたのであるが、拙速な対応は却って混乱を深めた。条件付きで未加工鉱物の輸出継続が可能となったものの、輸出企業認定の手続きに時間がかかり、実質1か月程度輸出が停滞し、インドネシア商工会議所(KADIN)によればこの間の損失額は1兆IDR(ルピア)(約1億US$)に達した。企業からは300件近くの製精錬設備建設又は同建設協力計画が提出されたが、大部分は輸出許可を得ることを目的とした計画であり、これらの実現性を評価する手間が生じた。また、ニッケル中小鉱山団体のインドネシア・ニッケル協会(Indonesia Nickel Association :ANI)及び地方 自 治 政 府 協 会(Association of Municipality Governments:APKASI)は、輸出規制の根拠とされるエネルギー鉱物資源大臣令2012年7号及びその改正令11号について、同年4月に最高裁に違法の訴えを起こし、2012年9月、最高裁はこれを認める判決を下した。政府はこの結果を受け、2回目の改正となる同大臣令2013年第20号(2013年7月)で規定の変更を行うこととなった。さらに、折悪しく2013年に入り米国金融緩和縮小観測や中国景気減速によって新興国からの資金流出が起こり、政策の変更を余儀なくされる。インドネシアはIDR安や株価下落、貿易収支の赤字化に陥り、政府は経常収支の改善を目的に緊急政策パッケージの実施を発表し、鉱石の輸出についても割当制度を撤廃したため、結局この輸出規制は完全な解決策とはならなかった。 2012年は、この他にも外資企業のCOWからIUPへの

移行や国内資本委譲等、新鉱業法において規定された内容の具体的な施策について政府から次々と方針が示された年であった。新鉱業法施行の2009年から3年が経過し、山積した課題に危機感を抱いてのこととも捉えられるが、これらについても未だ決着を見ていないのが現状である。

2.4 高付加価値化の実現性を巡る議論  鉱物資源の高付加価値化を総論的に反対する者は皆無である。しかし、実際には必ずしもその方向に邁進していた訳ではなく、2012年2月以降の高付加価値化基準の発表、輸出規制の導入がなされる以前は、国営PT Antamや中国企業との合弁による20件弱の計画が提出されるのみで、またその進捗も遅々としたものであった。加えて、インドネシアの政策は、これまで多くの変更・追加などが成されてきた経緯から、高付加価値化政策についても、製錬事業の採算性やインフラ未整備といった課題があることから、何らかの緩和策が採られるという楽観的な見方があった。こうした中で、エネルギー・鉱物資源大臣令2012年第7号において厳格な製精錬義務とその計画書提出が課されて以降、業界団体や企業は上記の問題に加えタイムスケジュールの観点から期限どおりの高付加価値化は困難と認識しながらも、いよいよその実現可能性について本格的に検討・議論を始めることになる。 インドネシア鉱業協会(Indonesia Mining Association:IMA)を中心とした業界関係者は、度重なる会合を通じ、製精錬所建設計画の実現性について独自の検討に取り掛かった。IMAは外資系も含む大手鉱山事業者を中心とした業界団体組織であるが、他方で利害分野がやや異なる国内の中小鉱山事業者を中心としたインドネシア鉱物経営者協会(APEMINDO)や、インドネシア・ニッケル協会(Indonesia Nickel Association :ANI)などの業界団体もロビー活動を始めるに至った。 IMAは、2012年8月~11月にかけて、政府が進める鉱物資源高付加価値化政策の鉱業に与えるインパクトやその実現性を鉱物毎に関係者全体で集中的に議論するFocused Group Discussion(FGD)を開催した。これは、国内経済に最大の利益をもたらす施策を探り、加えて鉱山業界に対し鉱物資源高付加価値化政策への対応策などを示すことを目的とし、前述の新設業界団体も含め、政・官・民の主だったステークホルダーが参加した。 また、個別の会合終了に伴い開催された総括会合では、①第三者(バンドン工科大学)による国内鉱物資源高付加価値化義務の経済・技術的実現可能性に係る研究(FS)結果が示された(参考として表3に掲載)ほか、一連のセミナーを通じ②同国政府関係者の口から資金調達や経済性という現実的な問題の存在についての言

11 松井和久編(2003)『インドネシアの地方分権化―分権化をめぐる中央・地方のダイナミクスとリアリティー―』, p.6, IDE-JETRO.12 石油・ガスは地元への還元率は15%と30%と抑えられた。

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及が見られた。一方、総括会合においてエネルギー・鉱物資源省タムリン・シヒテ(Thamrin Sihite)総局長の直前の出席キャンセルや、FS結果を踏まえての政令改定を求める意見に対しては応じないなど、政府の対応には不明瞭な点が残った。

NPV(百万 US$)

IRR(%)

Pay Back Period(年)

スポンジ鉄 40.7 16.0 11

銑鉄 89.6 18.7 9

フェロニッケル 639.7 19.7 8

ニッケル地金 283.9 15.2 12

SGA 132.9 13.0 20

銅地金 negative - -鉛・亜鉛地金 negative - -

No. 企業 場所 鉱種 生産物 生産規模(/ 年)

投資額(US$)

1 PT Antam 北マルクHalmahera ニッケル FeNi 6.8 万 t 10 億

2 PT Indonesia Chemical Alumina 西カリマンタンSanggau ボーキサイト CGA 80 万t 4.5 億

3 PT Bintang Delapan Enrgy 中部スラウェシMorowali ニッケル FeNi 35 万t 2.82 億

4 PT Stargate Pasific Resources 南東スラウェシKonawe Utara ニッケル NPI 5 万t 18 億

5 PT Meratus Jaya Iron Steel 南カリマンタンBatu Licin 鉄 銑鉄 31.5 万t 1.1 億

6 PT Sebuku Iron Lateritic Ore(PT Siro) 南カリマンタンKotabaru 鉄 スポンジ銑鉄 270 万t:

Phase1 11.6 億

 本会合では、製精錬所建設には巨額の投資が必要である一方、鉱物毎に経済性が大きく異なり個別の検討が必要なこと、また、製精錬所建設には少なくとも4 ~5年の期間は必要であり、2014年1月の実施期限までに充分な時間がないこと、電力供給等のインフラ未整備の問題などが改めて指摘されることとなった。具体的には、ニッケル、ボーキサイト、砂鉄等は複数の建設プロジェクトが進行していることもあり、2014年中にある程度の実現可能性は有るものとも考えられるが、銅、亜鉛等に関しては、そもそも経済性に大きな問題があり、少なくとも2014年1月までの実現は不可能なことは明らかとされた。こうした結果を踏まえ、業界関係者は、政府に対し鉱物毎の政策の検討や、実施期限の2017年までの延長、製精錬所建設に対する税軽減策の導入、インフラ整備の支援などを要求していく動きとなった。

 上述のような業界からの指摘・要求を踏まえつつ、エネルギー・鉱物資源省を始めとする政府は企業から提出された製精錬所建設計画について、ワーキング・チームを設置し、個々の計画に係る実現性の評価作業に着手した。この評価作業は2013年11月に完了し、各

計画は事業の進捗段階別に区分され、進捗度が高い28 件に関しては更に詳細評価がなされた。結果15件(表4)が最も実現性が高いものとされたものの、これら15件についても2014年1月までの完成は殆ど見込めないものであった。

表3. LAPI-ITB(バンドン工科大学)による経済性評価結果

(出所:筆者撮影)写真1. IMA主催FGDの総括会合Downstreaming Miningセミナーの様子(2012年11月開催)

表4. 実現可能性の高い建設計画(エネルギー・鉱物資源省資料より)

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2015.1 金属資源レポート 11(490)

No. 企業 場所 鉱種 生産物 生産規模(/ 年)

投資額(US$)

7 PT Indoferro バンテンCilegon 鉄 銑鉄 50 万t 1.335 億

8 PT Harita Prima Abadi Mineral 南カリマンタンTahan Laut ボーキサイト CGA 200 万t 22.8 億

9 PT Putra Mekongga Sejahtera 南東スラウェシKolaka ニッケル スポンジ、

FeNi

6t/ 日・炉10 炉:

Phase101.4 億

10 PT Indosmelt 南スラウェシMaros 銅 銅カソード 12 万t 7 億

11 PT Sumber Suyadaya Prima 西ジャワSukabumi 砂鉄 鉄ペレット 50 万t 2 億

12 Shandon Nanshan Aluminium リアウ諸島Bintan ボーキサイト アルミニウム

インゴット 53 万t 50 億

13 PT Vale Indonesia 南スラウェシSorowako ニッケル ニッケル

マット 4.5 万t 15 億

14 PT Vale Indonesia 南東スラウェシBahudopi ニッケル 酸化ニッケル 3.6 万t 5 億

15 PT Weda Bay Nickel 北マルクWeda ニッケル 水酸化

ニッケル 6 万t N/A

2.5 高付加価値化政策の緩和に向けた動き このような状況が表面化してくる中で、政府には次第に焦りが見られるようになる。ユドヨノ大統領は、2013年2月13日付けで関係各省庁及び地方政府に対し鉱物資源高付加価値化促進に関する大統領指示(2013年第3号)を発令した。それぞれの職務、権限に応じ、同政策を促進するための調整と同調、サービスの向上と許可手続の迅速化などを行うことにより国内での鉱物資源高付加価値化を促進することが目的とされた。例えばエネルギー・鉱物資源大臣には加工製錬事業へのエネルギー供給の促進や関係法令の評価、工業大臣には鉱物資源を基盤とした産業のロードマップの策定、また経済担当調整大臣には高付加価値化促進に係る各機関の権限に関する調整といった中心的な役割を果たすことが求められた。6か月以内の施策実施とその報告が求められていたが、この結果が明らかになることはなかった。2013年4月には、エネルギー・鉱物資源省の複数幹部による条件付きの鉱石輸出継続措置の言及についてしばしば報道され、もっぱら高付加価値化政策の緩和に議論が費やされることとなるのである。 2014年1月の政策施行まで残り2か月を切った2013年11月、エネルギー・鉱物資源省の示した案では、以下のような条件をクリアする企業に対し、2014年1月以降も鉱石輸出を認める方針を固めた。

 【鉱石輸出条件案】 (1)製精錬所建設のコミットメント (2) 製精錬所建設資金の一定金額について、コミッ

トメントボンドとして指定国内金融機関への担保差入れ

 (3)環境マネジメントの遵守 (その他、輸出税を賦課する案など)

 この他、2014年1月12日以降の鉱石輸出継続を実現するためには、法改正が必須との認識がある中、実際の法改正は時間的に困難なことから、インドネシア法制特有の緊急時等に発動する「法律に代わる特別政令」(Perpu)を制定し、暫定的に対処する案も浮上した。 2013年10月、KADINは2014年1月以降も例外的に鉱石輸出を認めるための具体的な提案を政府及び国会に行うため、この問題を検討するタスクフォースを結成した。このタスクフォースからは、製錬所建設が実現していない現状を指摘し、建設に着手している企業に対しては建設完了までの期間、インセンティブとして条件付きにより引き続き鉱石輸出許可を与えるといった案も出された。その他、IMAからは、「法律改正によらず、関連政令及び大臣令を改正することにより、鉱物毎の最低輸出処理基準等の内容を現実的な基準にすることは可能である」との指摘や、経済・金融アナリストからは、「資源国インドネシアの鉱業政策として高付加価値化政策は経済的に重要な手段の一つのであるが、準備不足な中での実行は、同国の当面のマクロ経済に少なからず悪影響を及ぼすことに加え、現在進行中の製錬所建設プロジェクトのファイナンスにも影響を与える可能性がある」との指摘など、様々な議論が巻き起こった。

2.6 最終方針の決定 2013年12月5日、エネルギー・鉱物資源大臣は、インドネシア国会第7委員会(エネルギー鉱物資源、技術、

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2015.1 金属資源レポート12(491)

環境等担当)会合において、前項で示したような内容を含む鉱石輸出禁止緩和措置に関する提案を行った。ところが、同委員会で完全に拒否され、新鉱業法(2009 年法第4号)の規定どおり、例外なく完全実施するよう求められた。更に、両者間で鉱石輸出禁止緩和措置のための同法改正や法律に代わる特別政令(Perpu)の制定も行わない方針で合意を余儀なくされ、同委員会に押し切られる格好となった。同会合では、「直前になってからの提案では遅すぎる」といった意見や、「元々、国会は法律施行から7年間の猶予期間を提案していたが、政府側の方針で5年間となった経緯があり、緩和策は受け入れられない」などの指摘がなされた。 また、鉱石輸出禁止により予想される国家収入減や鉱山労働者の失業に関し、それらの結果は受け入れざるを得ないものとの認識を示し、それ故、鉱山企業は製錬所建設を早めるべきであるとも指摘された。 エネルギー・鉱物資源大臣は、この結果を受け、施行は間近に迫っており、混乱は避けられないものの、2014年中に10件が、さらに2~3年の後には28件の製錬所が稼働する予定であり、混乱は長期化する問題ではないとの考えを示し、また、鉱山企業からは国内裁判所や国際仲裁機関への提訴が予想されることから、それに備える方針であることも示した。 以前から、政府より鉱石輸出禁止を緩和する方向が示された場面では、その度に同委員会委員から法律改正無しに2014年1月以降の鉱石輸出はできない等の牽制がなされてきたが、結局、政府はこの壁を崩すまでには至らなかった。 施行期限まで1か月を切る中、その後も政府内では幾度となくエネルギー・鉱物資源大臣のほか工業大臣、経済調整大臣、財務大臣、商業大臣などの関係閣僚による検討が行われ、法改正を実施せずに法に違反すること無く、製錬所建設を進める企業に対しては2014年1月以降も鉱石輸出を継続可能とするための方策を模索し続けたが、最終的には、ユドヨノ大統領の政治的決断によるものとなった。そして、ついに施行期限の前日となる2014年1月11日、関係閣僚を招集し、ユドヨノ大統領はその方針を決定するに至った。大統領が国会に巻き返しを図るのではといった期待もあったが、結果的に、中間生産品となる一部鉱物の精鉱の輸出は、課税を条件に可能となったものの、未処理鉱石の輸出は例外なく禁止されることとなった。

3. 鉱物資源高付加価値化政策施行後の動向 鉱物資源高付加価値化政策施行に伴う鉱石輸出停止により、直接の打撃を受けたのが鉱山事業者であり、特に主要輸出鉱石であったニッケル、ボーキサイトは例外無しに一切の鉱石輸出が禁止されたため、採掘事業者への影響は深刻となった。その中には、ニッケル

鉱石が売上総額の1/3を占める国営PT Antamも含まれる。一方、3年間の期間限定で中間製品となる精鉱の輸出が認められた銅などは、当面輸出の途は開かれたものの、輸出税が高率であったため、輸出は事実上非常に困難なものとなり、銅企業はその緩和を訴えることとなる。 本項では、政策施行後の関係者の動向を纏める。 2014年1月以降の政策関連の主な動きは以下のとおり。高付加価値化政策施行後の主な動き(政策関連):1月: インドネシア鉱物経営者協会(APEMINDO)ら、

憲法裁判所に司法審査請求2月: インドネシア商工会議所(KADIN)、輸出税率の

見直しを要請4月: エネルギー・資源大臣令「加工・精錬済みの鉱物

の国外販売の実行についての推薦状の付与の方法及び条件」公布(4月17日付)

5月: ハイルル・タンジュン(Chairul Tanjung)新経済担当調整大臣就任13 (5月19日)

7月: 財務大臣第3改正令「輸出税賦課対象輸出品及び輸出税率の決定」公布(7月25日付)→翌日PT Freeport Indonesiaは銅精鉱の輸出許可を取得、8月7日輸出再開

9月: PT NNT、19日に銅精鉱の輸出許可を取得、29日輸出再開/ワチックエネルギー・鉱物資源大臣、汚職及び恐喝容疑で摘発

10月: 20日、ジョコ・ウィドド(Joko Widodo)新政権発足

12月:憲法裁判所、APEMINDOの司法審査請求を棄却

3.1 鉱山業界の動き 3.1.1 KADIN ―高率な輸出税に懸念表明―   KADINは、精鉱などの一部の中間鉱産物に課される20~60%輸出税が極めて高率であるため、多大な鉱山企業の経営圧迫、多数の鉱山労働者解雇を招くとし、強い反対を表明した。中間鉱産物への輸出税課税は基本的に無税とすべきとしながらも、仮に課税する場合でも鉱物毎に各業界の利益幅に基づいて税率を決定すべきとした(例えば鉄鉱石の場合、税率5%など)。中間鉱産物の輸出は認められたものの、現在の極めて高率となる税制下では鉱山の減産、休止が余儀なくされ、これにより約10万人の鉱山失業者が、鉱石輸出が禁止された鉱物も含めた鉱山業界全体では40~60万人の鉱山失業者が発生すると警告した。

 3.1.2 中小鉱山事業者     ―憲法裁判所への司法審査請求―   鉱石輸出禁止後、APEMINDO他、地元鉱山企業数社は、鉱石輸出禁止措置に対し憲法裁判所に司法

13 ハッタ・ラジャサ(Hatta Rajasa)経済調整大臣が7月9日の大統領選挙に向け副大統領候補となり辞任したため、5月19日にタンジュン国家経済委員会(大統領諮問機関)委員長が新たに経済調整大臣に就任した。

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2015.1 金属資源レポート 13(492)

審査請求を行った。同請求の趣旨は、今回の措置は、インドネシア憲法(1945年)の規定「天然資源は国民に最大限の利益を享受できるように活用されなければならない」に違反しており、特に鉱物資源の高付加価値化に関連する2009年新鉱業法の第102条、第103条の規定では、鉱石禁輸は規定されておらず、今回政府の取った措置はその範囲を超えているとの主張に基づくものとなっている。2013年末に国会と輸出緩和策案が決裂した時点で、エネルギー・鉱物資源大臣が懸念していた業界からの司法提訴の動きがすぐさま現実化したものとなった。   さらにAPEMINDOは、当該政策が加盟企業約680社に与える影響に懸念を示し、引き続き猶予措置を求めた。一部の企業は製精錬所の建設を進めていたが、猶予期間もなく禁輸措置が打ち出されたことを問題視し、輸出禁止を前にした昨年12月頃から従業員を解雇する企業も増えているとも指摘。本政策が続く限り、鉱業界はさらに窮地に追い込まれるとの懸念を示した。   しかし、12月3日、憲法裁判所は鉱石輸出停止に係る違法審査請求を棄却し、政府はこれを以て未加工鉱石輸出に係る議論は終結したとの見方を示している。

 3.1.3 国営PT Antam  ―赤字転落、新規プラント建設の資金調達難化―   国営PT Antamは、2013年末までは政府案で示されていた鉱石輸出緩和条件を満たすものとして2014年1月以降も鉱石輸出が認められる見通しであったため楽観的であった。しかし、主力のニッケル鉱石の輸出が完全不可へ急転したことにより苦境に陥ることとなった。   同社は国営企業という性質上、政府の方針に従わざるを得ない。ニッケル鉱石は全量自家消費に切り替え、フェロニッケル及び金の増産、またランプアップ段階のTayanケミカルグレードアルミナ(CGA Tayan)工場におけるアルミナ生産によってその減収分を補うとした。しかし、売上の36%を占めていたニッケル鉱石14 の影響は甚大との判断から、2014年3月、Moody’s及びS&Pは早々に同社の格付けをそれぞれBa3からB2、B+からB-へ2段階引き下げた15 。

   結果として、Q1~3(1~9月期)の生産実績は、ボーキサイトが同19.7%増、石炭16 が同57.1%増を見たものの、ニッケル鉱石生産は同87.7%減、フェロ

ニッケルは鉱石の品位調整により同18.1%減、金は品位低下により同5.4%減となり、売上高は前年同比34%減の5兆8,124億IDRとなった。2014年Q1~3(1~9月)決算は、当期損益が前年同期4,849億IDRの黒字から5,639億IDRの赤字に転落した。   他方、同社は数年前から鉱物資源高付加価値化政策の実施に備えTayan以外にも複数の製精錬所建設を進めてきた。北マルク州東Halmaheraでのフェロニッケルプロジェクト(Haltim FeNi)は2014年9月現在6%の進捗率17 。Pomalaaフェロニッケル製錬所の拡張プロジェクト(P3FP)は、2014年8月現在68%の進捗率で、10月2日には輸送設備等の稼働開始を明らかにした18 。完了した際には、生産能力は18,000~19,000t/年から27,000~30,000t/年に増強される。しかし、西カリマンタン州Mempawahスメルターグレードアルミナプロジェクト(SGA Mempawah)は、2013年8月からパートナーを探しているが、Antam関係者によると、2015年1月初旬現在、その目途はたっていない19 。その他にもスポンジ鉄やニッケル銑鉄(NPI)、またPT Freeportとの銅製錬所建設の計画が一時報じられたものの、上記のような財務状況では困難を極めることが推測される。なお、同社は対処策として、2014年5月に国営Eximbankから100百万US$のクレジットファシリティ契約を取りつけた旨発表した。また、9月にはこれらプロジェクト推進のため2015年に1.5兆IDRの投資を行うとし、3割を自己資金、7割を外部から調達する方針であることを同社幹部が明らかにしている20 。

3.2  銅精鉱の輸出再開を巡る動き―外資大手銅鉱山の動向―

 インドネシアにおいて銅鉱山といえば、米Freeport McMoRan(FCX社)子会社PT Freeport Indonesia(PT FI)によるパプア州Grasberg鉱山と米Newmont Mining及び日系企業連合ヌサ・テンガラ・マイニングのJVである PT Newmont Nusa Tenggara(PT NNT)に よ る Batu Hijau鉱山に代表される。二社とも、精鉱の一部は国内唯一のGresik銅製錬所(PT Smelting:三菱マテリアル 60.5% 三菱商事9.36% JX日鉱日石金属 5.0% PT Freeport Indonesia 25%による操業、生産能力30万t/年)21

に供給しているが、約半量は銅精鉱として輸出している。両社は施行前から政府に対し見直しを訴えたりメディアにおいて高付加価値化完全施行時のインパクトを明らかにしたりといった行動をとってきた。施行後

14 2013年実績。同社のその他の製品別売上シェアは、金銀その他貴金属精錬44%、フェロニッケル18%、ボーキサイト2%。15 なお、Moody’sはその後同社の格付けから撤退する旨を明らかにした(2014年10月27日)。16 子会社PT Indonesia Coal Resourceの生産による。17 現地報道Rambu Energy, 2014年9月24日。18 PT Antam 2014年Q3生産レポート19 現地報道Okezone.com, 2014年1月6日。一時中国企業と合意の途上にあったが、2014年8月に決裂した。20 現地報道Berita Satu.com, 2014年9月10日。21 当初、銅回収後の電解スライムも輸出が認められない方針であったが、銅精鉱と同じく2017年までの輸出が許可された。

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インドネシア 鉱物資源高付加価値化政策の動向

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2015.1 金属資源レポート14(493)

も高率な輸出税率に反発し、既存COWの改定や製錬所建設計画の具体化と併せて政府と交渉に臨んだ。結果「輸出推薦状発出要件に係る細則」に係るエネルギー・鉱物資源大臣令2014年第11号(4月17日公布)、「輸出税賦課対象輸出品及び輸出税率の決定」に係る改正財務大臣令2014年第11号(7月25日公布)において製錬所進捗計画に応じた輸出税率軽減が定められた。しかし、その後も政府からの輸出許可の取得にあたっての個別交渉が続き、二社はそれぞれ駆け引きに奔走した。また、精鉱輸出許可は6か月毎に更新する仕組みとなっており、更新の条件は製錬所建設計画が60%まで進捗していることと定められている。以下、二社の対応について纏める。

 3.2.1 Freeport McMoRan(PT Freeport Indonesia)   PT FIは、エネルギー・鉱物資源大臣令2012年第7号において輸出可能な最低製精錬基準が銅99.9%と定められて以降、政府の高付加価値化政策を支援する姿勢を見せながら、2014年以降の銅精鉱輸出継続を模索し始めた。2012年4月、これまで拒否し続けていた政府とのCOW再交渉に応じる姿勢を示した22

他、2013年8月には現地企業PT Indosmelt及びPT Indovasi Mineral Indonesiaと銅精鉱の供給に関するMOUを締結した23 。さらに10月、PT Petrokimia Gresik社、PT Semen Indonesia Tbk (SMGR)社、及び国営電力会社PT PLN と共同で銅製錬所のFSを実施中であることを明らかにした。この共同FSは東ジャワ州Gresikで2か所、パプア州で1か所の計3か所を対象にしていたが、結局これらはプロジェクトとして実現しなかった。結果的に製精錬基準が15%に引き下げられ、精鉱は輸出可能となったものの、25%の輸出税ではコストに見合わず、2014年1月以降、鉱石生産量を6割カットすることを余儀なくされた。   政府は製錬所建設の進捗に応じて輸出税率を軽減する姿勢を見せたものの、条件や関係閣僚の調整に難航した。PT FIは事態を打開するため、2014年4月、国営Antamと共同で銅製錬所の建設を表明し、さらに米FCX社CEOが自ら訪尼しインドネシア政府と交渉を進め、同年7月25日に改正財務大臣令に基づいた精鉱輸出税および製錬所建設保証金の支払い等を内容とした覚書を同政府と締結し、これにより翌26日に輸出許可を取得、8月7日に輸出を再開した。改正大臣令では、問題となっていた輸出税率を当初7.5%とし、製錬所建設の進捗に応じ、進捗率7.5%を超えた場合5.0%、進捗率30%超で0%とされた。覚書にはこれに加えて、建設保証金として投資額23

億US$の5%に相当する1億1,500万US$を指定金融機関に預け入れることにも合意したとしている。また、別途懸案となっていた鉱業事業契約(COW)の再交渉内容となるロイヤルティの引き上げ(銅3.75%→4.00%、金1.00%→3.50%)、外資持分の引き下げ(新たに21%のローカル資本化)、鉱区縮小に関し、政府側の要求を受け入れることとし、以後6か月以内に新たな鉱業事業契約を締結することで合意した。交渉期限は2015年1月26日であるが、1月初旬現在もCOW再交渉中の模様である。製錬所建設計画については、2015年1月現在、東ジャワ州での建設を目指し調整中と報道されている24 。なお、当初精鉱処理能力160万t/年(銅カソード40万t)としていたが、2021年にはGrasberg鉱山の生産量が増大するため200万t/年(銅カソード50万t)へ引上げることを政府に対し要望している。   また、同社は1月7日、ロジク・スチプト(Rozik

Soetjipto)社長の定年に伴い後任としてマルフ・シャムスディン(Maroef Sjamsoeddin)氏を指名したことを発表した。Sjamsoeddin氏は元インドネシア空軍副元帥、国家情報庁(BIN)の前副長官であり、ユドヨノ政権下で国防副大臣を務めたシャフリ・シャムスディン(Sjafrie Sjamsoeddin)氏の弟にあたる人物。

 3.2.2 PT Newmont Nusa Tenggara   PT NNTは2014年1月以降、政府と輸出再開の交渉を続ける一方、Batu Hijau鉱山の銅精鉱の生産を継続し、精鉱をストックしてきた。交渉が難航する中、精鉱ストックヤードの容量が限界となったため、6月3日に生産活動を停止し、約8,000千人の従業員の一部を一時帰休させるに至った。7月には、鉱石輸出禁止措置は現状のCOW違反だとし、国際投資紛争解決センター(ICSID)に提訴した。同社は、同時に政府との協議による解決を求めたが、政府は提訴の取り下げがなされてから交渉が再開されるべきと対立姿勢を強めたため、8月26日に提訴を取り下げた。同社と政府は9月4日にCOW改定等に係るMOUを締結し、250百万US$の建設保証金の預入、製錬所建設計画の進捗に基づいた輸出税の支払いについて合意した。これにより19日に輸出許可を取得、29日に輸出再開に至った。   2014年12月時点の報道によると、同社はFCX社と共同で2020年までに投資規模15億US$、精鉱処理能力160万t/年の製錬所を建設する可能性がある25 。本件は政府がPT FIに対し上述東ジャワの計画とは別に要請した製錬所計画にあたるものとされているが、PT NNTとPT FIはコメントしていない。PT

22 新鉱業法では、COWはIUPへの移行が定められ、また2003年の政令税外収入規則によってロイヤルティ引き上げが求められていた一方、COWは期限まで有効とされる矛盾があった。また、IUP移行によって条件が不利になるために、外資は反発していた。23 2013年8月13日付同社ウェブサイト。24 現地報道SINDOnews.com、2015年1月6日25 ロイター、2014年12月23日

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2015.1 金属資源レポート 15(494)

NNTも輸出許可の更新を3月19日に控え、政府と調整を継続しているところである。

3.3 世界へのインパクト 本項では、鉱物資源高付加価値化政策の施行において懸念されていたマクロ経済の実績と、施行から現在までの状態および国際市場(ニッケル)へのインパクトについて纏める。 現時点で高付加価値化政策による直接的な影響をマクロデータから明確に読み取ることは難しい。貿易収支の悪化にはやや影響したであろうが、むしろ天然ゴム、パーム油、石炭価格の下落がより大きな要因と考えられる。とはいえ、2012年5月の輸出規制がマクロ経済環境の悪化により緩和されたことや、銅精鉱輸出に係る協議が一時停滞を見た時、タンジュン経済担当調整大臣が「鉱物輸出規制による輸出の低迷が経済成長率を鈍化させている」と発言しPT FI、PT NNTとの協議を早々に設けたことを鑑みれば、経済の動向によっては必要に応じ鉱業政策に変更が加わる可能性があることを示している。また、中央銀行のマルトワルド

ヨ(Martowardojo)総裁は、最大のリスクは経常赤字の拡大と指摘し、原油輸入の増加と鉱石輸出の制限が、貿易収支改善のための中銀の取り組みを妨げているとの懸念を示しており、一定の影響があることを認めている。

 3.3.1  マクロ経済(GDP成長率, 貿易収支)   インドネシア経済は、他の新興国と同様に中国の経済成長鈍化や米国の量的緩和策の縮小といった世界経済の影響を受け、2012年から悪化傾向にある。米国量的緩和策の縮小観測が強まり通貨安、株安、債券安のトリプル安が進行した2013年にはさらに加速した。2014年に入っても実質GDP成長率は低迷し、Q3は5年ぶり低水準の5.01%を記録し、政府目標の5.5~6%には届かなかった(図6)。ルピア安傾向も継続している(図7)。また、2014年Q1~3の貿易収支は15.9億US$の赤字となり(図8)、商業省によれば2014年の輸出額は、世界経済の減速や天然ゴムやパーム油など輸出商品価格の下落が原因で、目標の1,843億US$を下回る1,780億US$となる見通し。

(出所:BPSデータを基に作成)

(出所:インドネシア中央銀行データを基に作成)

図6. インドネシアの実質GDP成長率(2011年第1四半期〜2014年第3四半期)

図7. 為替推移(IDR/USD)(2011年1月〜2014年12月)

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インドネシア 鉱物資源高付加価値化政策の動向

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2015.1 金属資源レポート16(495)

 3.3.2 市場への影響26

   ニッケル価格は、世界経済成長の鈍化による需要減退/新規プロジェクトからの供給量増加による供給過剰で、2011年を直近のピークに下落基調が続いていた。インドネシアの高付加価値化政策は潜在的なリスクとしてしばしば言及されながらも、市場はインドネシア国内での議論の行方を静観するという状況であった。したがって、価格にはさほど反映されず、2013年6月以降は13,000~15,000US$/tという4年ぶりの低水準を軟調に推移していた。実際に完全施行となった際にも、直後はやや値を上げたものの、1月末には再び下落した。   しかし、関係業界から施行に対し反発の声が上がりながらも、政府は未加工鉱石の輸出停止については一貫して継続する姿勢を見せ、また統計からも輸

26 最も顕著に高付加価値化の影響が表れるのはニッケルとして、ここではニッケル価格についてのみ言及する。

出を停止したことが明らかとなり、徐々に中長期的な供給リスクとして認識され始めた。これに加えて、ウクライナ情勢を巡る対露制裁懸念(2月末以降)、ニューカレドニア・VNCプロジェクトでの供給障害懸念(5月初旬)といった主要生産国からの供給不安が次々に浮上したことで価格は急騰、わずか4か月の間に50~60%の上昇を見、一時2年3か月ぶりの高値を記録した(図9)。その後は落ち着きを取り戻し 9月まで18,000~20,000US$/tで推移した。その間、インドネシアの代替鉱石供給源となったフィリピンで未加工鉱石禁輸を盛り込んだ鉱業法改正案が提出されたことで一時急騰する場面が見られたものの、Q4(10~12月)は経済指標悪化とドル高の影響を受け15,000US$/t前後を軟調に推移した。

(出所:中央銀行データを基に作成)

(出所:LMEデータを基に作成)

図8. インドネシア貿易収支推移(2011年第1四半期〜2014年第3四半期)

図9. ニッケル価格と在庫の推移(2013年1月〜2014年12月)

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LMEニッケル在庫

LMEニッケル価格

2014.1.12①インドネシア鉱石輸出停止

2月末~

②ウクライナ情勢緊迫化

2014.5.7③ニューカレドニア供給障害

2014.5.1321,200US$/t

2年3か月ぶり高値

2013.7.913,160US$/t

4年2か月ぶり安値

価格

(US$

/t)

在庫

(千t)

2014.9.3フィリピン未加工鉱石

禁輸法案提出

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2015.1 金属資源レポート 17(496)

27 アダロ・エナジーとシェンファ・エナジー15億US$で東カリマンタンに300MW発電所×2基等

   一時期の急上昇は、実需を超えた過剰な反応だったという見方が大勢である。しかし、市場から3割の鉱石が消えたということは事実であり、しかもこのインドネシア鉱石の最大需要国である中国は、世界のニッケル需要の半分を占める。ニッケル市場においては中国の動向がますます注目される。

 3.3.3 各国の対応(日本、中国、米国、ロシア、OECD)   インドネシア新鉱業法における高付加価値化政策は、資源国が常に切望する「資源をドライビングフォースとした経済発展」の実現策として鉱業界の注目を集めていた。そして勿論、インドネシアに投資する国、インドネシアから鉱物資源を輸入する国、ニッケル・銅・アルミニウム産出国等は特に動向を注視し、ロビー活動を積極的に行っていた。本項では関係国・組織の高付加価値化施行前後の対応を纏める。  ①日本    日本は戦前からインドネシアのニッケル資産に

投資していた他、技術協力や人材育成に取り組んできた。新鉱業法が施行された2009年以降、関連企業及び政府はそれぞれ製錬事業の採算性や日本の資源輸入の状況を繰り返し訴え、これまでの関係を考慮した対応を求めた。2011年5月には、官民合同ミッションを派遣し、関係各省と面談を行った。そこでは、政府の高付加価値化政策に賛同の意を示しながらも、製錬事業は鉱山事業に比べマージンが低く、(インドネシアの現状においては)採算性が合わないことを説明した上で、「ベストミックスオプション」を提案した。これは、鉱石全量を一律輸出禁止とはせず、国内の製錬供給能力が追い付かないうちは、その余剰鉱石を輸出することとし、製錬事業と鉱石輸出を組み合わせて鉱業による経済発展を追求するというものである。その後も、政府高官やエネルギー・鉱物資源省、経済担当調整大臣との面談や日尼経済フォーラムといった場を通して何度も理解を求めたが、

期待する対応は得られずにいた。そして、遂に鉱石輸出が停止された2014年1月以降は、日本のフェロニッケル生産企業3社はインドネシア以外の日本に比較的近いニッケル酸化鉱生産国、即ちフィリピンとニューカレドニアからの輸入量を増加させることで原料を確保しつつ、宮川日本鉱業協会長によるMETIへのWTO規則に基づく紛争解決の申し入れ(4月)や岸田外務大臣とウィドド次期大統領(当時)との面談(8月)を通して現状の打開を試みている。また、11月の北京APECにおける日尼首脳会談でも、安倍首相はウィドド大統領に「新鉱業法を含む経済上の懸案は互恵関係全体を踏まえ解決していきたい」旨伝達した。

  ②中国    中国は、2000年代初め以降の自国の需要増大に伴い、特にニッケル鉱石とボーキサイトについてはインドネシアからの輸入に依存していたが、鉱業政策自体には表だって見直しを訴えることはしていない。2013年秋に習近平主席がインドネシアに訪問した際には、ニッケル、アルミニウム、鉄に関する9件の製錬所建設計画について合意するなど、むしろインドネシアへの積極的な進出を図っている。APECでも、製錬所関係を含む12事業209億US$の投資27 に合意したとされる。ウィドド大統領は港湾、発電所、製錬所への更なる投資を求めたと報道されている。

  ③米国    米国は、Freeport McMoRanとNewmontが二大銅

鉱山を操業していることから、大使館や商工会議所等を通して積極的なロビー活動を行ってきた。銅精鉱の輸出が施行直前になって許可されたのも、製錬所建設計画がニッケル・アルミニウムに比べて少なかったことやGDPへの影響が大きいことの他、米国のロビー活動も大きかったと見られている。

  ④ロシア    インドネシア Hidayat前工業大臣が2014年3月に

メディアに語ったところによると、RusalやNorilskはインドネシア当局に「輸出禁止政策が投資のための条件として提示」し、ニッケル鉱石とボーキサイトの輸出を止めれば数十億US$単位の投資を行うとの強いメッセージを発していた。Rusal CEOのオレグ・デリパスカ(Oleg Deripaska)氏は2013年、6か月間に3回ジャカルタを訪問していたという。なお、Rusalは2月に30億US$の西カリマンタンのアルミナ製錬所に係るMOUを締結している。また、この他マントゥロフ(Denis Manturov)商業貿易大臣は同国企業によるアルミナ製錬所・フェロニッケル製錬所建設計画(計15億US$)について言及している。インドネシア政(出所:外務省/提供:内閣情報室)

写真2. 日尼首脳会談

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2015.1 金属資源レポート18(497)

府は、他国の働きかけによる影響を否定しているが、ロシアからのロビー活動があったことは認めている。

    しかし、Norilskは2013年時点で海外事業の撤退を明言しており、既にボツワナや豪州のニッケル鉱山の売却を済ませ、国内製錬所の近代化に注力している。したがって、もしインドネシア政府に対する働きかけを行っていたとしても、実際に投資をする意思があったかは不明である。

  ⑤OECD    2014年11月にパリで開催されたOECD主催の原材料貿易会議では、原材料の輸出規制がどのような影響をもたらすか、また効果的な代替策はあるかをテーマに議論された。「輸出規制は誰も利することはなく摩擦とコストが発生する」との見解が成され、透明性と対話の必要性が訴えられたが、インドネシアはこの席には急遽欠席したとのこと。

4. 同政策の今後の行方 インドネシアでは2014年10月、10年ぶりの政権交代が行われた。新政権となってからも、鉱業政策に転換の萌芽は見られず、副大統領と鉱物・石炭総局長は鉱石輸出停止の継続を明言、新エネルギー鉱物資源大臣も政策を維持する方針としている。また、12月3日には憲法裁判所が鉱石輸出停止に係る違法審査請求を棄却し、当該政策の正当性が(少なくとも国内では)認められることとなった。他方、政府は7月に30のニッケル製錬所建設計画を含む資料を公表したが、その後、進捗に関する前向きなニュースは入ってきていない。 最後に、注視すべきものとして新政権における高付加価値化政策の位置づけ、インドネシア経済の行方、製錬所建設計画の動向を纏める。

4.1 新政権にとっての高付加価値化政策 ユドヨノ政権では、非権威主義体制下での経済発展を目指し、2004年の就任から一年以内で鉱業法改正案

を国会に上程し、時間を要しかつやや現実味に欠けたとはいえ新鉱業法を施行、さらに2期目には「(ア)国民福祉の向上、(イ)民主主義の確立、(ウ)正義の実践を今後の五カ年計画の核とし、特に、競争力のある経済発展と天然資源の活用及び人的資源の向上を政府の最優先課題と位置付」28 け、MP3EIのような鉱業の積極的な活用を推進してきた。また、急進的に進められた地方分権による鉱区重複、IUP乱発の整理といった政策の修正もあり、この10年間の鉱業政策はインドネシアの構造転換後の安定を図り試行錯誤されてきたものと言える。 「ジョコウィ」新政権においても、高付加価値化は勿論目指すべき方向であることは間違いなく、後戻りするものではない。スディルマン・サイド(Sudirman Said)新エネルギー・鉱物資源大臣も、「未加工鉱物輸出禁止措置は、加工産業の強化に取り組む政府にとり必要なもの」との見方を示している。他方、現政権の目下の関心は、どちらかといえば石油・ガス法の改正29

と汚職のイメージ払拭にあり、鉱物資源政策そのものの優先順位は現状高いものとは言えない。ユドヨノ政権の大きな功績の一つともいえるKPK(汚職撲滅委員会)による汚職摘発は、鉱業においても不透明な契約管理や軍事関係者による不正な税・ロイヤルティ滞納といった問題に立ち向かったが、政権末期でSKK Migas長官の収賄容疑、ワチック大臣の汚職・恐喝容疑も明らかにした。特にウィドド大統領はクリーンな政治家として国民の支持を得たためにイメージ悪化は求心力低下をもたらすものとして、閣僚の選定には何よりも潔白であることが優先された人物本位の登用と推測されている(写真3)。 インドネシアでは、植民地支配、スハルト体制崩壊後の揺り戻しによって経済ナショナリズムに傾きがちな国会の力が強く、更に現在の国会は野党連合が多数派をしめているため、鉱石禁輸解除について政府が検討したとしても、前提条件となる鉱業法の改正には難航が予想される。さらに、ユスフ・カラ(Jusuf Kalla)

28 外務省ウェブサイト29 新政権下の石油・ガス分野の動向については高橋衛『インドネシア新政権の石油ガス部門動向』(http://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/5/5411/1411_b01_takahashi_id.pdf)2014年11月JOGMEC石油・天然ガスブリーフィング資料を参照されたい。

(出所:Wikipedia)

ジョコ・ウィドド大統領(通称「ジョコウィ」)

ユスフ・カラ副大統領 スディルマン・サイドエネルギー・鉱物資源大臣

ソフヤン・ジャリル経済担当調整大臣

写真3. ジョコ・ウィドド新政権の顔ぶれ(鉱物資源関連)

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インドネシア 鉱物資源高付加価値化政策の動向

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2015.1 金属資源レポート 19(498)

30 IMF統計による。31 佐藤百合(2011)『経済大国インドネシア 21世紀の成長条件』, p.18, 中央公論新社.32 Indonesia: Avoiding The Trap, The World Bank Office Jakarta, May 201433 さらにその後の報道によると、国家開発庁が取り纏めるインフラ開発に係る5か年計画では、5,500兆IDRが投じられる見通し。34 同氏は、新政権後も留任。35 現地報道Rambu Energy, 2015年1月10日

副大統領は、第1期ユドヨノ政権でも副大統領を務め、まさにこの高付加価値化政策を推進してきた「当事者」であり、政策継続を明言している。 現在の政府としては、山積する課題の対応の一つであるスムーズな許認可取得を促すためのワンストップサービスの整備に注力している模様である。投資調整庁(BKPM)のフランキー・シバラニ(Franky Sibarani)長官によると、電力プラント許認可発行を含む電力分野の許認可プロセスは、2015年初めにエネルギー鉱物資源省からBKPMに移管され、2015年6月にも、探査・開発事業及び製錬設備の建設に必要な鉱物及び石炭分野に関する許認可を取扱う予定であるという。

4.2 マクロ経済の動向 2014年3月、財務省は、高付加価値化政策に伴う鉱石輸出停止による2014年の歳入の逸失額が最大20兆IDR(約17.1億US$、2013年歳入の1.2%30 )になると試算し、その内訳は税収と税外収入で合わせて4~6兆IDR、ロイヤルティで14兆IDRになると見込んだ。一方、2015年以降は付加価値の付いた加工品の出荷が増えるため、この額は縮小すると予測している。当時の経済担当調整大臣も同様の見方を示しており、以降、製錬所が多数稼動する2017年からは禁輸政策による逸失額がなくなるとの見解を示しているが、一方で、歳入の回復には時間がかかるとの見方もある。また、世界銀行は、今回の鉱石輸出禁止が同国経済に悪影響を及ぼし、すでに減速感のある投資家心理をさらに悪化させるリスクを抱えていると指摘している。世界銀行の国別四半期レポート(2014年3月発表)では、2014年から17年までの期間において、鉱石輸出禁止措置が貿易収支を約125億US$押し下げ、またロイヤルティ、輸出税、法人税等の国家歳入も約65億US$の減収になると見積り、2014年においては貿易収支を55~65億US$下押しすると予測している。同銀行インドネシア担当エコノミストは、この政策により、長期にわたり収益を期待することは極めて不確実となり、加えて、同様の政策が成功した例はこれまで無いことも指摘している。 インドネシアの経済成長率は2014年Q3に世界金融危機以来最低水準の5.01%を記録した。同国の雇用維持には6%成長が必須31 という前提を置けば、現状から早急に脱する必要があり、ウィドド大統領は雇用創出と貧困削減のため7%の成長率を目標に掲げている。他方で、2014年12月、政府は歳出削減のため財政を大きく圧迫しているガソリン補助金を撤廃、また2015年

1月から燃料価格に変動制が導入された。補助金予算が当初予定の276兆IDRから81兆IDRへ大幅に削減された。この削減分がインフラ関連予算に回されたことで、インフラ予算は1.5倍の290兆IDRとなった。世界銀行のレポート(2014年5月発表)32 は、インドネシア政府による過去10年間のインフラ関連支出は対GDP比4%未満で、これはインフラ整備に必要な額の半分であり、この投資額の低さによって1%の成長を失ったとしている。2015年の大規模な予算増は、政府の経済対策の推進力となることが期待される33 。加えて、折しも記録的な安値となっている原油価格もこの勢いを後押しするであろう。IHSは、原油価格下落はアジア地域のGDPの伸びを0.25~0.5%押し上げると予想し、フィッチはインドネシアの2015年GDP伸び率は14年の推定5.1%から5.5%に加速する可能性があるとしている。 4.3 製精錬所建設計画の進捗  2014年5月にエネルギー・鉱物資源省が発表した資料によると、現在IUP保有者による製精錬所計画は178あり、そのうち進捗率81~100%(試運転または生産段階に至っているもの)は25か所、さらにそのうちニッケル製錬所は9か所である。それ以降、政府から公式の進捗の報告はない。8月にスキヤール(R.Sukhyar)鉱物・石炭総局長34 が報道に語ったところによると、「現在FSを完了した64の製錬所建設計画があり、これらへの投資額は49億US$に達しており、2017年には180億US$になる見込み」と述べた。この64の計画のうち、ニッケル製錬所は30か所という。 進捗率81~100%に達している9プロジェクトの1つであるTsingshan Holding(青山集団、Dingxin Group(鼎信集団)傘下)とインドネシアPT Bintang DelapanのJVであるPT Sulawesi Mining Investmentによるニッケル銑鉄プロジェクトは、2015年4月に操業を開始する見込みである35 。2014年8月に第1フェーズ(NPI年産能力30万t)の無負荷試験操業を完了しており、その際には1月に操業開始としていた。 安泰科の資料によると、中国企業によるインドネシアのNPIプラント建設計画は21か所で、年産能力は第1フェーズだけで262.8万tとされる。しかし、そのうち9件はまだ具体的な生産能力が不明、あるいは資金調達中の模様である。 また、銅についても、精鉱輸出が認められるのは2017年までであり、PT FIやPT NNTには前述のとおり製錬所建設が求められている。

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インドネシア 鉱物資源高付加価値化政策の動向

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4.4 インドネシアの鉱業政策に対する評価 4.4.1  Fraser Instituteによる投資環境調査アンケ

ート(2014年3月)    トニー・ウェナス(Tony Wenas)インドネシア鉱業協会副会長は、2014年5月21~22日に上海で開催されたChina Nickel Conferenceの講演において、「インドネシアは法的確実性の担保のため作業しているところであり、6か月以内には新政権が発足し、政策も安定するのでFraser Instituteの投資環境調査の96位という結果36 を恐れる必要はない。新鉱業法下では、外資/内資の区別はない。資源が豊富な我が国にぜひ投資してほしい」と述べた。   しかし、最新2013年版の調査結果(2014年3月発行)では更にランクを落とし、鉱業政策指標では112か国中104位であった(同国より下位はジンバブエ、アンゴラ、アルゼンチンの一部の州、フィリピン、ベネズエラ、キルギス)。   また、現行政策とベスト・プラクティス上での資源ポテンシャルを比較すると、ベスト・プラクティスの場合は87.3%が投資要因(うち、(c)投資促進要因13%(d)投資抑止要因ではない20.4%)となると回答した一方、現行政策の場合では30.4%(うち、(c)58.2%(d)29.1%)と半分にも満たなかった。いかに現行政策が鉱業投資意欲をそいでいるかがよく読み取れる。

 4.4.2 アナリストの評価(2014年8月)   一方、当初は世銀や投資銀行アナリストから批判を受けていた当該政策に対する評価が徐々に上向いているとする報道が見られる。例えば、S&Pアナリストは政府の(緩和を認めない)「ハードなスタンス」が鉱山企業に製錬所への投資を再考させたとし、雇用、税およびロイヤルティによる収入への影響は政府の想定範囲内としている。モルガン・スタンレーのアナリストは「政府による鉱物禁輸は成功しているか?」という問いに対し「Yes」と回答し、「禁輸の狙いどおり、中国企業は既に下流分野のプラント建設にコミットしている」と述べている。   彼らの「成功」とは何を指しているのであろうか。(彼らが願う)ニッケル価格の引き上げという意味であれば「Yes」かも知れない。しかし、この評価が重機等の関連産業への影響、地方経済への打撃、そして製精錬所の経済性をどれだけ考慮しているかは分からず、インドネシアの下流産業育成と雇用創出に繋がっているかといえば、まだ判断ができない段階であろう。   特に地方においては、鉱業は経済・雇用問題に直結する重要産業でもある。地方経済の問題は、数値

だけでなく同国が長らく課題にしてきた地方分権化や経済格差是正といった政策理念も絡むものであり、地方政治を経験し「庶民派」のジョコウィ次期大統領がこうした状況をどれだけ汲み取る(気がある)か、ということも考慮すべきポイントである。もともと地域間の経済格差が大きい中、雇用創出を掲げている新政権下で失業問題が顕在化すれば、地方議員・政府も腰をあげざるを得なくなる。全ての製精錬所が鉱山に隣接した地域に建設されるとは限らず、また、政府関係者らが主張するように製精錬所計画が順調に進むかは依然として不透明である。アチェ、パプア、東カリマンタンという独立心の強い地域を抱える中、地方の動向は常に注視すべき要因である。

5. まとめ インドネシアにとっては5年越しの高付加価値化政策の施行となり、銅精鉱の輸出については関係企業との交渉により条件付き緩和がなされたものの、ニッケル、ボーキサイト等の未加工鉱石の禁輸については一切の緩和条件なく一貫して継続する姿勢を見せている。 施行から1年が過ぎた現在、中国のNPI生産は当初予想より減少していないものの、中国のニッケル鉱石在庫の減少などから2015年には世界市場でのニッケル供給不足が懸念される。価格は一時期の高騰からは一服し、再び低迷しているが、2015年後半までには最も低い予測で17,000US$/t、高い予測では23,000US$/tに上昇するとされている。インドネシアでの製錬所建設計画の進捗と、これを積極的に進める中国の景気動向(即ちニッケル需要と製錬所建設資金力)がニッケル市場の今後に大きく影響を与えることは間違いない。 「政府による鉱石禁輸は成功しているか?」という質問に対し「Yes」と答えるのは未だ早計であろう。製錬所が稼働し経済性ある操業が一定期間持続するまでは、政府が目指す下流産業の振興が達成されたとは言えない。 莫大な量の有用資源が目の前から取り去っていかれる様子を目の当たりにしてしまえば、それを変革したいという考えが想起されることは自然な流れである。また、特定鉱種の市場において一定の影響力を有する資源国が経済発展を遂げる時に、資源をドライビングフォースとするために保護主義的な動きをすること自体は正当かつ妥当な手段の一つと思料される。このような動きの中、これまで資源産出国-資源消費国という関係で長らくwin-winであったとしても、このバランスがいつ崩れるか分からない時代が到来していることを我々は認識する必要がある。国家間関係、特に大きな発展を遂げる可能性のある国との間では尚更であ

36 Fraser Instituteが世界の鉱山会社4,100社を対象とした資源国の投資環境調査アンケート‘Survey of Mining Companies’。インドネシアは2012年、このアンケートの鉱業政策指標(Policy Perception Index)において、96か国中最下位と評価された。

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インドネシア 鉱物資源高付加価値化政策の動向

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2015.1 金属資源レポート 21(500)

り、常にwin-win関係の更新が求められる。 他方で、上に記したFraser Reportの結果からも明らかなように、政策に度々かつ急な変更が加わることは投資家にとってリスクに他ならない。もしインドネシアの高付加価値化政策が上述のような混乱の末に成功したとしても、手放しに喜ぶことは難しい。資源国が国際社会に対し新たなポジションを意識づけたいのであれば、自身が市場に与える影響の大きさを認識し、従来の構造に配慮した上で進めることが重要だからである。国際社会からacceptableであると支持される形でなければ、その成長を維持・発展することはできない。これはインドネシアに限らず、その他のアジア・

アフリカ諸国にも言えることである。 未曽有の金属価格の高騰、中国の資源爆食、米国量的緩和による新興国への資金流入、そしてこれらの終焉を経て、鉱業界は新たな局面を迎えつつある。このように大きく変動する世界の潮流の中、2015年中には高付加価値化改革の影響がインドネシアや金属市場で顕在化すると予測される。また、本稿では触れなかったが、インドネシアでは錫規制の強化や外資の国内資本移譲等、他にも注視すべきトピックがある。今後同国が鉱業政策をどのように進めて行くのか注視していきたい。

(2015. 1. 9)

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