エドウイン・ ジーンズ発信のアンカー、 欧米市場 …...8 2008 vol.233 井川...

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8 2008 Vol.233 井川 精五さん ジーンズの特徴は、縫製工程の終了後に洗い・加工工程があること。付随工程と思われがちだが、ファッション製品としてこ の工程の役割は大きい。新技術の開発と効率化を目指すジーンズM.C.Dの取り組みを拝見した。 エドウイン・ジーンズ発信のアンカー、 欧米市場を見据え 洗い・加工技術を開発する 特集:世界へ日本ジーンズの挑戦 かつてジーンズ製品は織られたデニムの素材が縫製加工を 施され、糊を洗われるだけで最終製品として完成され、消費 者のもとに届けられた。 しかし、近年は新品だけでなくビンテージジーンズの人気が 高くなっており、新品においてもファッション性と個性化を求め る消費者の要求に応じて、縫製後に多様な加工処理が不可 欠になっている。 縫製技術とともに、加工技術やデザイン処 理の成否が若い層にアピールするための重要なポイントになっ ているのである。 ・ブリーチ ・ウォッシュ(洗い) ・ストーンウォッシュ ・シェービング ・ダメージ加工 ・ヒゲ加工 ・サンドブラスト加工 ……などなど、後工程で行う作業は多様である。ジーンズ生 産にとって、縫製工程と同時に、こうした後加工の効率化は 不可欠の命題になっているのである。 エドウインのジーンズは青森・秋田・宮城にある 17 の縫製 工場で作られているが、それらの洗い・加工を3つの工場が 担当しており、そのうちの1つがジーンズ M.C.D である。 M.C.Dとは、 処理能力は日産10,000本 NCフライス盤でヒゲ板加工 ジーンズの最終的な“顔”作り 重要性増す洗い・加工処理 「綿100%のジーンズの洗い加工技術 は世界一」と工場長の井川精五さん 工場全景。 イタリア製の洗濯機。 ダメージ加工 毛羽取り。教育も緻密に行われてい る。

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Page 1: エドウイン・ ジーンズ発信のアンカー、 欧米市場 …...8 2008 Vol.233 井川 精五さん ジーンズの特徴は、縫製工程の終了後に洗い・加工工程があること。付随工程と思われがちだが、ファッション製品としてこ

8 2008 Vol.233

井川 精五さん 

ジーンズの特徴は、縫製工程の終了後に洗い・加工工程があること。付随工程と思われがちだが、ファッション製品としてこの工程の役割は大きい。新技術の開発と効率化を目指すジーンズM.C.Dの取り組みを拝見した。

エドウイン・ジーンズ発信のアンカー、 欧米市場を見据え 洗い・加工技術を開発する

特集:世界へ日本ジーンズの挑戦

 かつてジーンズ製品は織られたデニムの素材が縫製加工を

施され、糊を洗われるだけで最終製品として完成され、消費

者のもとに届けられた。

 しかし、近年は新品だけでなくビンテージジーンズの人気が

高くなっており、新品においてもファッション性と個性化を求め

る消費者の要求に応じて、縫製後に多様な加工処理が不可

欠になっている。縫製技術とともに、加工技術やデザイン処

理の成否が若い層にアピールするための重要なポイントになっ

ているのである。

・ブリーチ

・ウォッシュ(洗い)

・ストーンウォッシュ

・シェービング

・ダメージ加工

・ヒゲ加工

・サンドブラスト加工

……などなど、後工程で行う作業は多様である。ジーンズ生

産にとって、縫製工程と同時に、こうした後加工の効率化は

不可欠の命題になっているのである。

 エドウインのジーンズは青森・秋田・宮城にある17の縫製

工場で作られているが、それらの洗い・加工を3つの工場が

担当しており、そのうちの1つがジーンズM.C.Dである。

 M.C.Dとは、

処理能力は日産10,000本 NCフライス盤でヒゲ板加工

ジーンズの最終的な“顔”作り 重要性増す洗い・加工処理

「綿100%のジーンズの洗い加工技術は世界一」と工場長の井川精五さん 

工場全景。 

イタリア製の洗濯機。 

ダメージ加工 毛羽取り。教育も緻密に行われている。

Page 2: エドウイン・ ジーンズ発信のアンカー、 欧米市場 …...8 2008 Vol.233 井川 精五さん ジーンズの特徴は、縫製工程の終了後に洗い・加工工程があること。付随工程と思われがちだが、ファッション製品としてこ

92008 Vol.233

・M=manufacture:製造

・C=cleaning:洗い加工

・D=development:開発

の3文字を取ったもので、設立は平成元年。

 以来、エドウインの自社工場として、ヨーロッパ、アメリカ市

場を見据えジーンズ洗い加工の分野で新しい技術開発を試み

る先端工場でもある。

 ジーンズ生産の最終工程にあるため、物流センターも兼ね

ていて、完成品をここから出荷し、また、返品などをここで受

けて再加工を行う。その意味ではエドウイン・ジーンズの後工

程と、さらに動脈の部分を担当する重要な拠点になっている。

 工場の生産能力は日産10,000 本。社員数 280名の平均

年齢は36歳と若く、その意味ではジーンズ世代が自分達の感

性を生かして世界にエドウインジーンズ・ファッションを発信す

る基地でもある。

 エドウイン・ジーンズの生産工程全体を考えると、ファッショ

ン性、高品質、低コスト生産を実現するには、縫製作業だけ

でなく、洗い加工も含めた全体の仕組みづくりが重要であり、

その点で、このジーンズM.C.Dにおいてもさまざまな高品質化、

高生産性の工夫がなされている。

 高生産性の一例として、たとえば、ヒゲ加工を行なうため

の型板を制作する工程では、デザインから製作まで、コンピュ

ータを使用した、独自のシステムが使用されている。

 また、近年のジーンズ加工ではなくてはならない工程となっ

たストーンを利用したバレルタイプの洗濯機、ストーンウォッシャ

ーは1980年にエドウイン横浜工場で開発したものである。人

手作業が避けられない……と思われがちな後加工の工程でさ

え、斬新な発想で効率化を目指すところに、エドウインの強さ

の秘密を見ることができる。

 この工場には、さらに物性試験室があり、洗濯強度などと

ともに、磨耗強度試験機、引裂強度試験機、摩擦堅牢度試

験機……など、工業技術センター並みの検査機で素材テスト、

物性テストなどの品質検査が1,000本に1本の割合でサンプリ

ングされて行われている。

「洗い加工は、どんな素材かによってやり方が異なります。

綿 100%の素材であれば、縫製も含めてエドウインの技術は

世界一です。デニム素材といってもさまざまなものがあり、そ

の素材や縫製に合わせて最適な洗い・加工法を採用すること

が必要で、ジーンズ生産の最終工程として付加価値を上げる

ことができます。」と工場長の井川精五さん。

 しばらく前までは、ダメージ加工と呼ばれる、穴あけ、ほつ

れなどの加工が多かったが、最近はシンプルなレギュラーウォ

ッシュ加工が増えたとか。「当社としては洗い加工が専門で、

この加工技術についてはどこにも負けませんが、戦略的には

後加工を減らして行きたいと思っています。その意味では、

レギュラーウォッシュが増えてきたのはうれしい傾向です」(同)。

 同工場はドイツの監査による「CSM2000」の認証を取得

した。洗濯に大量の水を使用するが排水処理もしっかり行い、

毎月の抜き打ち検査も難なくクリア。

 洗い・加工工程は作業環境づくりも難しいが、「CSM2000」

の取得はその点でもコンプライアンス遵守の強い姿勢の現れで

ある。

 消費者の使い手の感性でジーンズ加工を行う日本ジーンズ

が世界に発信する商品のポテンシャルの高さはこんなところに

もある。

工業技術センターレベルの検査機 物性テストで品質を確認

洗い・加工技術では負けない 使い手の感性で加工する

ヒゲ板を使ったヒゲ加工 ストーンウォッシュ

大量の水を使用するが、排水処理は完璧。月1回の保健所の抜き打ち検査も難なくクリア。きれいな水に浄化して放水されている。

工業技術センター並みの試験機が物性試験室に設置されている。引っ張り試験機によるテスト。