アザミウマ類が媒介するウイルス(tswv) -...
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アザミウマ類が媒介するウイルス(TSWV)
トマ ト黄化 えそ ウ イル ス(Tomato spotted wilt virus,
以下TSWV)は 、熱帯 、亜 熱帯 、温帯地域 を中心に世
界的 に広 く分布 し 、 トマ ト、ピーマ ン 、レタス等 で甚大
な被害 を発生 させ問題 とな っている 。TSWVの 宿主植
物は極 めて広範囲 である。 日本 では 、1970年 に岡山県 と
北海道 で激 しいえ そ輪 紋の発 生 したダ リア葉 からTSW
Vが 検 出された。 その後 、ピー マン 、 トマ ト、タバコで
被害が発 生 した 。これ までの発生 は茨城 県の ピー マンの
事例 を除 きいずれ も突発的 なもので あ った。 しかしなが
ら、1994年 の静 岡県 のキ ク 、ガーベ ラでTSWVが 発 生
し、ミカンキイ ロアザ ミウマによ って伝 搬されて いるこ
とが確認 された。後 に 、ミカンキイ ロアザ ミウマの分布
拡大に伴 い 、各地でTSWVの 発生報告 が相 次 ぎ全 国的
に問題 とな ってい る(表 参照)。
〔TSWV〕
宿主植 物は 、アカザ科 、アカネ科 、キク科 、タデ科 、
ナ ス科 、マメ科 、バ ラ科 、 トウダイグ サ科等の約50科 、
500種 に及 ぶ。
TSWVの 伝染は主 にアザ ミウマ類に よるもの と考 えら
れる。汁液接 種可能 であるが 、接 触伝染 は弱 く、土壌伝
染 、種子伝染 は しな い。宿主範囲 が広 いこと 、虫媒伝染
するこ とから 、侵入す ると定着 しやす く 、根 絶防除 は非
常 に困難で ある。
本 ウイ ルス は 、動物 ウイル ス を主 とす るBunyaviridac
科 に属す るTospovirus属 に分類 され 、植物 ウイル ス とし
ては珍 しく外被膜 を有す る擬球状 ウイル スである。粒子
はタンパ ク質 、リン脂質 及び核酸 か ら構成 され 、大 きさ
は直径80~100nmで あ り形状 は変化 に富んで いる。
本 ウイ ル スの診 断 は 、ELISA法 等の 血清 学 的方 法 によ
り行 われてい るが 、最近で は 、遺伝子診 断法(RT-PCR
法)も 開発され ている。
〔TSWVの 媒介虫(ア ザ ミウマ類)〕
TSWVが 、ア ザミウマ類 によ って永続 伝搬され るこ
とは以前 から知 られ ている。TSWVの ベクター として
は、ヒラズハナアザミウマ(Frankliniella intonsa)、 ミ
カン キイ ロアザ ミ ウマ(F.occidentalis)、 ダ イズ ウスイ
ロ ア ザ ミ ウ マ(Thrips setosus)、 ネ ギ ア ザ ミ ウ マ(T.
tabaci)、ミナ ミキイロア ザミウ マ(T.palmi)等 がある。
この中でも ミカンキイ ロアザ ミウマは 、寄主範 囲が極め
て広 く 、耐寒性 もあ り 、薬 剤抵抗性 が非常 に発 達 してい
る うえ効率良 くウイル スを伝搬 するこ とか ら重 要なベク
ター とな って いる。
この ミカ ンキ イロアザ ミウマ(本 誌第33、50号 参 照)
は 、ふ化 直後の1齢 幼虫が 感染植物 を摂食す ることによ
りTSWVを 獲得 するが 、2齢 幼虫 ・成 虫は 、ウイルス
を獲得 するこ とはできない 。1齢 幼虫 によ って体内 に取
り込 まれ たウイル スは中腸 か ら体内 に侵入 し、幼虫体 内
で増殖す る。ウイル スを増殖 させた1齢 幼虫 は 、2齢 幼
TSWV 粒子
ダイズウスイロアザミウマ(幼虫)の中腸に局存するTSWV ダイズウスイロアザミウマ(成虫)の唾液腺に局存するTSWV
茨 城 県 農 業 総 合 セ ン タ ー 生 物 工 学 研 究 所 津 田 新 哉 氏 提 供
植物防疫病害虫情報 第54号(1998年3月15日)
虫になってからTSWV伝 搬能力を持ち、羽化し成虫と
なり飛翔能力をもってから実際に被害面積を広げること
となる。この保毒アザミウマが健全植物を摂食した際に、
唾液腺からウイルスを含んだ唾液を分泌することでウイ
ルスが植物体に感染する。ウイルスを獲得したアザミウ
マは終生伝搬能力を保持する。本ウイルスの経卵伝染は
なく、アザミウマ虫体に対する病原性は低いようである。
〔被害〕
TSWVの 感染症状は宿主植物によって若干異なるが
主な症状としては、葉では、褐色のえそ輪紋 ・えそ斑点
を生じ、芽は黄化し、モザイク症状を呈する。成育初期
に感染すると枯死することがある。茎では、えそ条斑が
生じ内部が空洞化する。また、偏平や湾曲を生じること
もある。果実では、褐色のえそ斑点や奇形果等が生じる。
キ ク トル コギ キ ヨウ ガー ベラ
静岡県農業試験場 加 藤 公 彦 氏 提供
〔防除法〕
TSWVの 防除法としては、り病植物を速やかに抜取
り焼却等の処理を実施する。ベクターであるアザミウマ
類の圃場内への侵入を阻止するため施設栽培圃場では、
開口部に防虫ネット(1mmメ ッシュ)等 を張り飛来によ
る侵入を阻止することが重要である。
また、TSWVの 発生地域によって主要ベクターは異
なるが、難防除害虫であるミカンキイロアザミウマが侵
入した圃場では、各作物で農薬登録されている数種類の
薬剤(有 機リン剤;プ ロチオホス乳剤 ・アセフェート水
和剤等、合成ピレスロイド剤;ア クリナトリン水和剤)
を使用し、薬剤抵抗性を発達させないために同一薬剤の
継続使用を避けることが大切である。
さらに、圃場周辺にミカンキイロアザミウマの寄主と
なる植物を植え付けないことと、周辺雑草の本アザミウ
マ客主植物に対しても薬剤散布、除草等の防除が必要で
ある。最近、キクでは遺伝子組替えによりTSWV抵 抗
性品種の開発も進められている。
各部道府県発生予察特殊報
ミカンキイロアザミウマ
発表年
1990
1992
1993
都 道 府 県 名
埼玉 ・千葉
発表年
1994
1995
1996
TSWV
都道府県名
静 岡
千 葉
福 島
愛 知
宮 城
山 形
栃 木
埼 玉
神奈川
岐 阜
徳 島
高 知
宮 崎
群 馬
対 象 植 物
キク ・ガー ベラ
静岡 ・岐阜
茨城 ・栃 木 ・群 馬 ・東 京
愛知 ・広 島 ・高 知
山梨 ・佐 賀 ・宮 城 ・山形
福島 ・山梨 ・長 野 ・三 重
大阪 ・奈良 ・福 岡 ・宮崎
1997
ピーマン
トマ ト キ ク
キ ク ・ガー ベラ
1994
1995
1996
1997
岩手 ・新潟 ・石 川 ・富山
京都 ・兵 庫 ・奈 良 ・鳥取
島根 ・岡山 ・徳 島 ・香川
長崎 ・大分 ・熊 本
鹿児島
北海道 ・愛媛
1998
トマト
キク
キク
観賞用 トウガラシ
ピーマン
トマ ト・キク
トマ ト
キク ・アスター
キク
神奈川 ミニ トマ ト
ミカンキイロアザミウマ 上;夏 型 下;冬 型
静岡県病害虫防除所 池田二三高 氏 提供
植物防疫病害虫情報 第54号(1998年3月15日)