ラジカルの構造と安定性 ラジカルの反応 連鎖反応...
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ラジカル反応
ラジカルの構造と安定性
ラジカルの反応
連鎖反応
アルカンの塩素化と臭素化
ベンジル位・アリル位のラジカル臭素化
1
ラジカル=不対電子を持つ化学種
ラジカル反応
H•
������
Cl•
������
CH
H H�������
H3CC
CH3
H
���������
・ラジカルは一般に反応性が高い(他の物質と反応して、電子対=共有結合を作ろうとするため)
水素原子、塩素原子と全く同じ(反応の中間体として現れる時に「ラジカル」と呼ぶ)
2
ラジカルの電子配置
�������
CH
H H
�������
CH
H H
メチルラジカルの電子配置
炭素は sp2 混成不対電子は p 軌道に入る
電子を1つ加える
3
超共役による安定化
CR
R RCR
R H CR
H HCH
H H> > >
����� ���� ����� �������
共鳴による安定化
CC
C
HH
H
H
HC
CC
HH
H
H
H�������
CH
HCH
HCH
HCH
H��������
ラジカルの構造と安定性
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反応の種類 どんな反応か 特徴
ホモリシス ラジカルの数が増える
ラジカルカップリング
ラジカルの数が減る
原子引き抜きσ結合が切れて新しいσ結合が
できる二重結合へのラジカルの付加
二重結合がなくなる
β開裂 二重結合ができるC
CR R + C
C
R + CC
CC
R
R + A–R' R–A + R'
R + R R–R
R–R R + R
ラジカル反応の分類
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ホモリシス
この共有結合を作っている2個の電子が…
結合の両側の原子に1個ずつ残る
Cl Cl�����
Cl• + •Cl
片カギ矢印:電子1個の移動を表す
Cl Cl�����
Cl Cl+
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ラジカルカップリング
対になって共有結合を作る
2つのラジカルの不対電子が…
ラジカルカップリング = ホモリシスの逆反応
Cl• + •CH3 Cl CH3
片カギ矢印による表記
2本の片カギ矢印が、何もない空間に向かう=2つの電子がペアで新しい結合を作る
Cl• + •CH3 Cl CH3
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原子引き抜き
ラジカル 共有結合 共有結合 ラジカルラジカルが他の分子中の原子を「奪い取る」 (水素原子またはハロゲン原子)原子を奪い取られた分子はラジカルになる
Cl• + H CH3 Cl H + •CH3
片カギ矢印による表記
もう一つが Cl 上の不対電子とペアになって新しい結合を作る
結合電子のうち一つが C 上に残る
Cl• + H CH3 Cl H + •CH3
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二重結合へのラジカルの付加・β開裂
ラジカル 二重結合 単結合二本
付加したのと反対側の原子上にラジカルができる
ラジカルC CCl• CCCl+
【二重結合へのラジカルの付加】
ラジカル 二重結合単結合二本
ラジカル
「二重結合へのラジカルの付加」の逆反応
C CCl•CCCl +
【β開裂】
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【練習問題】下の表は、原子間の標準的な結合エネルギーを示すものである。
この表に基づいて、次の化合物をホモリシスを起こしやすい順に並べなさい。
結合 H‒H C‒H C‒C O‒H O‒O Cl‒Clエネルギー (kcal/mol) 103 99 83 112 35 57
H2 CH3CH3 H2O2 Cl2
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【練習問題】次の化合物から水素原子を1個引き抜いてラジカルを生成する。得られる可能性のあるラジカルをすべて書きなさい。また、その中で最も安定なものはどれか。
CHH3C
H3CCH2 CH3
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高エネルギーの中間体(連鎖担体、chain carrier)が反応・生成する一つ以上の反応が連続的に起こり、目的物を生成しながら連鎖担体を再生する反応
連鎖反応
連鎖反応の三段階
開始段階
成長段階
停止段階
連鎖担体を生成する
連鎖担体が反応して、生成物と別の連鎖担体を生成する
連鎖担体が反応して失われる
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開始段階
成長段階1
停止段階
Cl• + H CH3 Cl H + •CH3
•CH3 + Cl Cl CH3 Cl + •Cl
Cl• + •CH3 Cl CH3
CH3• + •CH3 CH3 CH3
Cl• + •Cl Cl Cl
ラジカル連鎖反応の例:メタンの塩素化
Cl Cl�����
Cl• + •Cl
�����CH4 + Cl2 CH3Cl + HCl
連鎖担体1
連鎖担体2生成物1
連鎖担体1生成物2
連鎖担体が失われる
成長段階2
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ラジカル連鎖反応:開始段階�����
CH4 + Cl2 CH3Cl + HCl
開始段階 Cl Cl�����
Cl• + •Cl連鎖担体1
・ホモリシスによってラジカルが生成して、連鎖担体になる
・反応物がホモリシスを起こしやすい場合(Cl2, Br2 など)は反応物から直接連鎖担体が生成する
・反応物よりもホモリシスを起こしやすい物質を少量添加して連鎖担体の原料にすることもある(ラジカル開始剤)
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ラジカル開始剤ホモリシスを起こしやすい物質
開始段階のためのラジカルを供給する
OO
O
O
過酸化ベンゾイルbenzoyl peroxide (BPO)
【例】
OO
O
OO
O
2 2 + 2 CO2
O
O
+ H CH3OH
O
+ CH3 連鎖担体
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ラジカル連鎖反応:成長段階�����
CH4 + Cl2 CH3Cl + HCl
成長段階1 Cl• + H CH3 Cl H + •CH3
•CH3 + Cl Cl CH3 Cl + •Cl
連鎖担体2生成物1
連鎖担体1生成物2成長段階2
・連鎖担体が反応して、生成物と(別の)連鎖担体を与える・原子引き抜き反応であることが多い・高分子のラジカル重合反応では「生長段階」と書くこともある
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ラジカル連鎖反応:停止段階�����
CH4 + Cl2 CH3Cl + HCl
停止段階Cl• + •CH3 Cl CH3
CH3• + •CH3 CH3 CH3
Cl• + •Cl Cl Cl連鎖担体が失われる
・連鎖担体同士が反応して、ラジカルでない生成物を与える(連鎖反応を「止める」効果がある)
・連鎖担体は濃度が低いため、停止段階が起きる確率は低い(連鎖担体以外の反応物と出会う確率の方が圧倒的に高い)
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【練習問題】次の反応について、連鎖反応の開始段階・成長段階を書きなさい。(「hν」は「光照射」を表す)
CH2BrCH3+ Br2
hν+ HBr
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アルカンの塩素化・臭素化炭化水素に官能基を導入するのに有用
CH3 CH3 + Cl2Δ or hv
CH3 CH2Cl + HCl
+ Br2Δ or hv
+ HBrBr
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ラジカル塩素化・臭素化の位置選択性
CH3CH2CH2CH3 + Cl2Δ or hv
CH3CH2CH CH3 CH3CH2CH2CH2+
Cl Cl
CH3CH2CH2CH2 + Br2Δ or hv
CH3CH2CH CH3 CH3CH2CH2CH2+
Br Br
71% 29%
98% 2%
・より安定なラジカルを経由するものが主生成物
・塩素化よりも臭素化の方が選択性が高い(反応性が低い=選択性が高い)
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ラジカル塩素化・臭素化の位置選択性:無理なケース
+ Br2Δ Br
BPO
選択的に作れる??Br
これも副生する
Br
これは抑制できる
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【練習問題】次の変換を行う合成経路を示しなさい。
Br
Br
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ベンジル位の臭素化ベンジル位の臭素化は実用性が高い
CH3+ Br2
Δ
CH2BrBPO+ HBr
CH2 CH3+ Br2
CH CH3Br
+ HBrBPOΔ
ベンジル位が優先的に反応
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ベンジル位のラジカル反応
CCH3
CH3H BPO
Δ+ O2 C
CH3
CH3OOH
クメンヒドロペルオキシドイソプロピルベンゼン(クメン)
CCH3
CH3H + O
O
CCH3
CH3+ OH
O
CCH3
CH3+ O2 C
CH3
CH3OO
CCH3
CH3OO + C
CH3
CH3H C
CH3
CH3OOH + C
CH3
CH3
開始段階:
成長段階:
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【練習問題】次の変換を行う合成経路を示しなさい。
CH3 CHO
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アリル位の臭素化
CH2 CH CH3Br2
CH2 CH CH3
Br
Br
アリル位=反応性高い(はず)
付加反応が優先してしまう!
CH2 CH CH3NBS, BPO
ΔCH2 CH CH2
BrN
O
O
Br
NBS(N-ブロモ
こはく酸イミド)
アリル位の臭素化が選択的に起きる
Wohl‒Ziegler 臭素化
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Wohl‒Ziegler 臭素化の反応機構Br2 Br•
Δ
BPO
CH2 CH CH3 Br•+ CH2 CH CH2 + H Br
CH2 CH CH2 + Br2 CH2 CH CH2Br
+ Br•
N
O
O
Br + HBr N
O
O
H + Br2
開始段階:
成長段階:
NBS に少量混入している ここの機構はやや複雑なので割愛(光照射なら簡単)
Br2 の補充:
常に少量ずつ供給される=Br2 の付加が抑えられる
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【練習問題】次の変換を行う合成経路を示しなさい。O CH3
O
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