サービス提供組織における顧客満足・職務満足・ 生産性の関係に...

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香川大学経済論叢 69 巻第 4 1997 3 51-126 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・ 生産性の関係についての理論的・実証的考察 一→す析枠組みとしての「場面」概念の導入とそれによる医療サービスの分析一一 藤村和宏 1.はじめに 顧客満足は現代マーケティングの思考と実践における中核的概念であり,顧 客のニーズを満たすことで満足を提供し,そのみかえりに企業も満足な利益を 得る,というのはマーケティングの基本である。この顧客満足が一時ブームに なり多くの企業がこの向上を標梼したが,いつの聞にか下火になってしまった。 その原因は,業績の評価指標には様々なものがあるにもかかわらず,顧客満足 のみに目を奪われ,その向上のための改善や戦略が他の評価指標に及ぼす影響 を考慮しなかったことにある。顧客満足の向上を目標とした改善や戦略はそれ を高めることには貢献したが,他の評価指標,例えば収益性の向上には結び付 かなかったり,あるいはそれを低下させてしまったことにある。 顧客満足向上のための改善や戦略はそれを向上させるだけでなく,他の重要 な評価指標も同時に向上させるものでなければならない。あるいは他の評価指 標の向上を目標とするものであったとしても,顧客満足も向上させるものでな ければならない。そのようなことは可能なのであろうか。改善や戦略の方向や 内容に大きく依存するが,可能でトあろう。特にサービス提供組織においては, 製造企業においてよりも容易であろう。それは,サービスは販売されたから生 産と消費が同時に行われるために,顧客もデリパリー(生産及び提供)・プロセ スに関与し,顧客,従業員及びサービス提供組織の協働過程でサービスはデリ OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

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香川大学経済論叢

第 69巻 第4号 1997年3月 51-126

サービス提供組織における顧客満足・職務満足・

生産性の関係についての理論的・実証的考察

一→す析枠組みとしての「場面」概念の導入とそれによる医療サービスの分析一一

藤村和宏

1.はじめに

顧客満足は現代マーケティングの思考と実践における中核的概念であり,顧

客のニーズを満たすことで満足を提供し,そのみかえりに企業も満足な利益を

得る,というのはマーケティングの基本である。この顧客満足が一時ブームに

なり多くの企業がこの向上を標梼したが,いつの聞にか下火になってしまった。

その原因は,業績の評価指標には様々なものがあるにもかかわらず,顧客満足

のみに目を奪われ,その向上のための改善や戦略が他の評価指標に及ぼす影響

を考慮しなかったことにある。顧客満足の向上を目標とした改善や戦略はそれ

を高めることには貢献したが,他の評価指標,例えば収益性の向上には結び付

かなかったり,あるいはそれを低下させてしまったことにある。

顧客満足向上のための改善や戦略はそれを向上させるだけでなく,他の重要

な評価指標も同時に向上させるものでなければならない。あるいは他の評価指

標の向上を目標とするものであったとしても,顧客満足も向上させるものでな

ければならない。そのようなことは可能なのであろうか。改善や戦略の方向や

内容に大きく依存するが,可能でトあろう。特にサービス提供組織においては,

製造企業においてよりも容易であろう。それは,サービスは販売されたから生

産と消費が同時に行われるために,顧客もデリパリー(生産及び提供)・プロセ

スに関与し,顧客,従業員及びサービス提供組織の協働過程でサービスはデリ

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52- 香川大学経済論叢 702

パリーされるからである。サービス・デリパリーのための協働過程では,顧客

もデリパリーに必要な役割や行為を果たすし,従業員との間で直接的な人的相

互作用(サービス・エンカウンター)も展開する。このようなことがサービス・

デリパリー・システムで起こるために,サービス品質,顧客満足,職務満足,

生産性,収益性などの評価指標聞には循環的影響関係が生じやすいと考えられ

る。従って,サービス提供組織においてはこれらの複数指標でデリパリー・シ

ステムが評価されるとともに,指標聞の影響関係を考慮しながら各指標を向上

させるための改善や戦略が行なわれる必要があるであろう。

本稿は,以上のような問題意識を出発点として,サービス提供組織の評価に

おいては複数指標,例えばサービス品質,顧客満足,職務満足,生産性,収益

性が用いられるべき必要性とそれらの聞の循環的影響関係について理論的・実

証的に考察したい。実証分析は顧客満足,職務満足,生産性に絞り,それらの

聞の関係について,病院における医療サービスを取り上げて行いたい。また,

指標聞の影響関係を分析するための有用な枠組みが構築されていないことか

ら分析枠組みとして「場面」概念を導入し,これを用いて分析を行いたい。

11.サービス・デリパリー・システムの評価指標としての

顧客満足・職務満足・生産性とその関係

1 複数指標でのサービス・デリパリー・システム評価の必要性

サービス・デリパリー・システムとは,サービス・デリパリーを顧客及びサー

ビス提供組織の両観点から見て効果的且つ効率的に行うための諸要素の体系で

あり,フロントルーム,パックルーム,サービス・エンカウンターから構成さ日)

れている。このシステムでは従業員,顧客,サービス提供組織の間で協働が行

われ,その過程でサービスはデリパリーされ同時に消費される(藤村, 1996)。

(1) フロントルームとは,日常的に顧客と相互作用を行う組織部分であり,顧客へのサービス・デリパリーを直接的に担当している。パックルームとは,顧客と直接的に棺互作用を行わないが,フロントルームでのサービス・デリパリーが効果的且つ効率的に行われるように後方から支援する組織部分である。また,サービス・エンカウンターとは,フロントルームにおける顧客と従業員との直接的な人的相互作用である。これらの詳細については藤村(1995a)を参照のこと。

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703 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 53

このサービス・デリパリー・システムの評価は複数指標で行われる必要があ

り,中でもサービス品質,顧客満足,職務満足,生産性,収益性は重要な評価

指標となる。このように考える第一の理由は,次節以下で詳細に論じるが,こ

れらの指標はいずれもサービス提供組織が市場において存続・成長していくた

めに向上させる必要のあるものであり,またそれらの聞には循環的な影響関係

が存在しているからである。例えば,職務満足はサービス品質を媒介として顧

客満足に影響を及ぽし,さらに顧客満足は生産性と収益性に影響を及ぼすであ

ろう。また,収益性は顧客満足や職務満足を向上させるための改善への投資水

準を決定するために,収益性も循環的に職務満足や顧客満足に影響を及ぽすで

あろう。このような循環的影響関係が存在するために,サービス品質,顧客満

足,職務満足,生産性,収益性の向上は同時にしかもバランスを保ったかたち

で行われなければならず,いずれかが犠牲にされるならば,他の評価指標の向

上も阻害されると考えられる。従って,これらの評価指標すべてあるいはいず

れかについて最大化を目指すのではなく,外部環境及び経営資源の制約の中で

バランスを保ったかたちで最適化が行われる必要がある。

複数指標での評価が必要とされる第二の理由は,システムの改善成果が複数

の指標に分散して現れる可能性があるからである。一指標だけでの評価では改

善の成果を過小評価し,その改善を中止してしまう危険性がある。システムあ

るいはその構成要素であるフロントルームやパックルームのオペレーションを

改善したとしても,即時的にはそれらは生産性や収益性の向上には結び付かな

いことが多い。例えば,オペレーションの改善がサービス品質を向上させ,そ

れによって顧客満足が向上したとしても,それが生産性や収益性に結び付くま

でにはタイムラグが存在している。また,オペレーションの改善によって従業

(2 ) 例えばサービス品質については,“highquality"ではなく“rightquality"が目標とさ

れるべきであり,サービス提供組織の市場でのポジショニングやターゲット顧客のニー

ズや期待に適合した品質が追求されなければならない。サービスに対する顧客のニーズ

や期待を基準としていない品質向上努力は,顧客満足を向上させないばかりか,職務満

足,生産性,収益性などを低下させる危険性を苧んでいる。顧客のニーズや期待に適合し

た品質が目標とされることで,他の指標とのバランスを保ちながら,同時に向上させるこ

とが可能となるであろう。

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-54ー 香川大学経済論叢 704

員の活動や役割を変更したとしても,生産性や収益性は即時的には向上しない

が,サービス品質や顧客満足は向上しているかもしれない。改善の成果を生産

性や収益性指標だけで評価していると,その改善の便益は顧客に還元されてい

るにもかかわらず,組織にとっては何らの直接的な財務上の便益がないために,

その改善は過小評価されすぐに中止されてしまうかもしれない。その結果,改

善への投資は抑制され,サービス品質や顧客満足の向上も阻害されてしまう危

険性があるため,サービス・デリパリー・システムは複数指標で評価される必要

カまある。

2わ サービス・デリバリー・システムにおける

サービス品質・職務満足・生産性・収益性の循環的影響関係

(1) 循環的影響関係の概要

製造企業においてと問様に,サービス提供組織においても生産性や収益性の

向上は重要な経営課題であるが,サービス品質及び顧客満足,職務満足を伴わ

ない生産性や収益性の向上は商業的な自殺行為である。なぜなら,それらの聞

には循環的な影響関係が存在しているからである。この循環的な影響関係につ

いては,例えば Heskett,J ones, Loveman, Sasser and Schlesinge (1994)に

よって,図II-1のような“サービス・プロフィット・チェーン"としてモデル

化されている。このモデノレでは,サービス品質には外部顧客である消費者に対

するものと内部顧客である従業員に対するものがあると捉えられており,前者

は外部サービス品質,後者は内部サービス品質と呼ばれている。内部サービス

品質の具体的内容は,従業員が職務,同僚(従業員同士が互いに対して持って

いる態度や組織内部での従業員聞の接し方など),そして会社をどのように思っ

ているかを測定したものである。そして,この内部サービス品質は職務満足に

影響を及ぽし,職務満足は外部顧客である消費者のサービスに対する満足やロ

イヤリティ,さらに収益性にも影響を及ぼしていくため,内部サービス品質の

(3) Heskett, J L, T 0. Jones, G W. Loveman, ~λ E. Sasser, J r, and L A Schlesin-g巴町r(19ω94仏),March一April,p 168

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叶 ( ) 印

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川 財 閥 、 醇 一 S 湿 致 F H a u τ パ 見 ) 錨 部 3 ・ M m 剛 聞 き 峠 澗 ?

的顧

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ニー

ズに

適合

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計と

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図11-1

サービス・プロフィット・チェーンにおける連鎖

出所

Heskett, J. L.,

T. O. Jones, G. W

. Loveman, W. E. S

a田er,Jr.,

and L. A. Schlesmger (1994),

p. 166

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706

向上はサービス提供組織において重要な課題であるとされている。そのため,

増加した収益は内部サービス品質を向上させるための投資原資として利用され

る必要性も強調されている。

Heskett, Sasser and Hart (1990)によって,図II-2の同様な影響関係は,

このモような“自己強化的サービス・サイクノレ"としてもモデノレ化されている。

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香川大学経済論議56

デノレにおいても,人的資源への投資による従業員の職務満足やモチベーション

サービス・デリパリー・システムへの投資による優れたテクノロジーのの改善,

それによって収サービス品質や顧客満足に反映され,導入やその改善などは,

そして,増加した収益は投資原資としてさらに改善の益性の向上が導かれる。

自己強化的なサービス・サイクルの駆動輪は完成すために利用されることで,

るとされている。

サービス品質,顧客満足,職務満足,生産性,収益性の聞には, Heskett,Sasser

Heskett, Jones, Loveman, Sasser and Schlesinge (1994)

などが指摘するように複雑で循環的な影響関係が存在していると考えられるの

サービス・デリパリー・システムの評価はこれら複数指標で総合的に行われ

そのような関係のために,各指標とも最大化が目標と

and Hart (1990),

で,

さらに,る必要がある。

されるのではなく,他の指標とバランスのとれた最適化が目標とされるべきで

あろう。特に,顧客満足,職務満足,生産性の聞におけるバランスのとれた最

それらの聞には特に強い影響関係が存在す

この影響関係について詳細に検討して

適化は重要であろう。なぜならば,

ると考えられるからである。以下では,

(4 ) 内部サービス品質や職務満足の向上が重要であることが認識されるようになったため,従業員を内部顧客,職務を内部製品と見倣すことで,組織目標と取り組みながら,内部顧客のニーズとウォンツを満足させるような内部製品を提供しようと努力する,インタ一ナル・マーケテイングも重要な研究領域になっている (Berry,1984; Gronroos, 1983)。尚, Edvardsson, Thomasson and Ovretveit (1994, p. 54)によると,インターナノレ・マーケテイングは以下のような目的を持つとされている。(1月子われていることを明確にする。(2)労働に対する態度に影響を及ぽす。(3)外部及び内部顧客の行動を変更する。(4)コミットメントを橋大させる。(5)外部顧客とのコミュニケーションを改善する。(6)内部顧客間のコミュニケーションを改善する。

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図11-2

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クル

出所

Heskett,

J. L.,

W. E. S

a田er,Jr. and C. W. L. H

art (1990),

P. 12

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-58- 香川大学経済論叢 708

いきたい。

(2) 顧客満足と生産性の影響関係

モノの消費においては顧客満足は顧客のロイヤリティやポジティブな口コミ

の形成などにおいて重要な役割を果たすが,このことは多くのサービス消費に

おいても妥当するであろう。 IV章で分析結果を示すが,病院における医療サー

ビスにおいてもこのような役割は確認されている。サービス提供組織もその提

供サービスによって顧客を満足させ,サービスあるいは組織に対して顧客のロ

イヤリティを形成することができ,さらにポジティブな口コミによって新規顧

客を獲得できるならば,サービス提供組織はその存続と成長にとって必要不可

欠な顧客を安定的・長期的に確保することができる。

さらに顧客満足の向上による顧客ロイヤリティの形成は,サービス提供組織

に以下のような思恵をももたらすであろう(藤村, 1992, p.. 144)。

①需要曲線を上方にシフトさせる(価格弾力性を下げる)ことができる。

②既存顧客の維持率を高めることで,シェアの維持・拡大のために獲得しな

ければならない新規顧客数を低減すu ることができる。新規顧客の獲得に必

要なマーケティング・コストは既存顧客の維持に必要なそれよりも高いの

で,既存顧客の維持率の向上と新規顧客の獲得数の低減はマーケティン

グ・コストの節約につながる。

③顧客の離脱率低下によって,収益性を大幅に改善することができZ。

④顧客のロイヤリティの向上は,自社の顧客をスイッチさせようとする競争

者のマーケティング・コストを増加させる。

⑤継続的な取引によって,取引コストを削減することができる。

⑥顧客一人当たりの提供サービス数を増加させることができる。

(5 ) 例えばスウェーデンの自動車会社であるボルボは,新規顧客の獲得には既存顧客の維

持にかかるコストの 3倍は必要であると評価している (FornelIand Wernerfelt, 1987)。

(6 ) 顧客の離脱率低下がその収益性を大幅に改善することについては,多くの研究者に

よって実証されている。例えば Reichheldand Sasser (1990)は,顧客のロイヤリティが

5%増加すれば,利益は 25~85% も増加すると推定している。

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709 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -59-ー

⑦不満足を感じた顧客に対処するためのコストを削減したり,そのような顧

客が口コミを通じて他の消費者に及ぼすネガティブな影響を低減させるこ

とができる。

また,顧客満足はサービス・デリパリー・プロセスにおいてもサービス提供

組織に思恵をもたらすであろう。サービス・デリパリー・プロセスは顧客,従

業員及びサービス提供組織の協働過程であるため,顧客もサービス・デリパリー

を効果的Eつ効率的に行うためにサービス提供組織あるいはその従業員から期

待されている役割や行為を積極的Eつ適切に果たすことが必要とされている

(藤村, 1996)。この顧客に期待されている役割や行為は,それを行うことが彼

自身の便益や満足の向上につながることが認識できる場合,デリパリー・プロ

セスやそこにおけるエンカウンターに満足している場合,あるいはロイヤリ

ティを形成している場合などに最も適切且つ積極的に遂行される可能性が高い

であろう。また,サービスあるいはサービス提供組織に対してロイヤリティを

形成しており,そのサービス・デリパリー・プロセスを何度も経験している顧

客は,そこにおける彼らの役割や期待されている行為を理解しているため,そ

れらを積極的且つ適切に遂行できるであろう。あるいはサービス・エンカウン

ターに関与する従業員との聞に相互理解を形成しているために,エンカウン

ターを効果的且つ効率的に展開することに貢献できるであろう。これらのこと

によってサービス提供組織はサービス品質を高めながら,同時にそのデリパ

リー・コストを低下させることが可能である。

以上のように顧客満足は売上高や収益の向上に貢献するだけでなく,マーケ

ティングやサービス・デリパリーにかかるコストの削減にも貢献することから,

(7) このことは,セルフサービスのサラダ・パーを思い浮かべると理解しやすいであろう。

最近,厨房で料理人がサラダを盛り付け,ウェイトレスがそれを配膳するというような従

来の方式に代えて,顧客に自分でサラダを皿に盛りつけさせるというようなセルフサー

ビスのサラダ・パーを導入するレストランが増加しているが,顧客がそのようなセルフ・

サービスを受砂入れているのは,好きなときに好きなサラダを好きな震だけとることが

できるという便益があるためである。自分でサラ夕、を血に盛り付けるという行為を積極

的に行うことで,支払価格を削減しながら便益を向上させることができるからである。

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6(ド 香川大学経済論叢 710

顧客満足はサービス提供組織の生産性に対してポジティブな影響を及ぼすと考

えられる。また逆に,生産性向上によってもたらされる利益がサービス・デリ

パリー・システムやそのオペレーションの改善,従業員の職務満足やモチベー

ションの向上などのために適切且つ積極的に利用されるならば,それはサービ

ス品質を媒介として顧客満足にポジティブな影響を及ぽすであろう。

(3) 職務満足と生産性の影響関係

従業員は雇用組織の提供するサービスの顕在的あるいは潜在的利用者である

だけでなく,顧客を満足させるようなサービスの開発やデリパリーに携わる者

である。従業員はサービス提供組織が市場においてサービス・デリパリーを行

うのに必要な様々な職務の継続的遂行者であるため,彼らの職務に対するロイ

ヤリティと満足度は彼らの職務遂行水準を決定し,サービス品質とそのデリパ

リー効率に重大な影響を及ぽすであろう。従業員の職務満足に関するこれまで

の研究では,このようなポジティブな影響関係の存在が発見されている。図II

-3はこれまでの研究成果の一部をまとめたものであるが,職務満足は従業員の

パフォーマンス水準を高める一方で,その離職率を低下させることが明らかに

されている。また,離職率は役割コンフリクトや役割の暖昧さの増大とともに

高まることも明らかにされている。

職務満足がパフォーマンスの向上を導くのは,一部には職務満足がもたらす

ポジティブな情動のためであることが明らかにされている。心理学分野の研究

(8 ) 職務満足とパフォーマンスとの関係は直感的には明らかなように思われるが,経験的

には必ずしも支持されていない。 Brayfieldand Crockett (1955)やVroom(1964)は両

者の関係に関する文献レビューを行っているが,両者の聞にそれほど高い正の相関関係

は見いだされていなし〉。しかし,このような結果は,パフォーマンスが職務満足以外の要

因(規則,マニュアノレ,協働関係)によっても影響されることや,職務満足とパフォーマ

ンスの測定尺度に問題があること,などによっても生じていると考えられる。

(9 ) 役割コンフリクトとは,二人以上の役割パートナーが役割要求を行うが,それらが相い

れなかったり,同時に満たすことのできないような状況である。

(10) 役割の障壁味さとは,従業員がパフォーマンス期待に関する適切な情報を保有していな

かったり,期待されるパフォーマンス水準を達成するための方法に関して適切な指示(教

育)を与えられていない状況である。

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711 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・

生産性の関係についての理論的・実証的考察 -61ー

では,ポジティブな情動を経験している個人は社会的に容認された行動や援助

的行動を最もとる傾向があること (Isen,Clark and Schwartz, 1976; Rosen-

han, Salovey and Hargis, 1981),職務満足は思いやりや親切をともなった行

動と結びつく傾向があること (Motowidlo,1984),職務満足はサービス提供者

の顧客志向に直接的にポジティブな影響を及ぽすこと (Douglas,1988),などが

発見されている。

また,職務満足の向上は離職率を減少させるが,そのことは人事管理コスト

の低減を可能にするだけでなく,サービス・デリパリーを効果的且つ効率的に

行うのに必要とされる知識,情報,技能などを各従業員及び組織が取得・蓄積す

ることを可能にする。また,サービス・デリパリーにおいてエンカウンターが

重要な役割を果たすようなサービスにおいては,顧客とそのエンカウンターに

関与する従業員との聞に強い繋がりが形成され,従業員が組織を変わることで

顧客も一緒にスイチイングしてしまう危険性もある。このようなことのために,

従業員の職務満足は生産性や収益性に対してポジティブな影響を及ぼすと考え

られる。例えば,ペプシ社のファースト・フードの子会社であるタコ・ベノレ社

が各庖舗の従業員離職率を調査した結果では,離職率が低かった上位 20%の庖

舗では,離職率が高かった上位 20%の庖舗に比べて 2倍の売上と 55%も高い利

+0ボジティプな影響関係

一:ネガティプな影響関係

図11-3 職務満足の効果

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62 香川大学経済論叢 712

益を上げていた。

さらに,従業員の職務満足はパフォーマンスの向上を通じて顧客満足,ロイ

ヤリティ,口コミなどの形成に影響を及ぽすことで,前述のような恩恵の発生

にも貢献するであろう。さらに,従業員の態度や行動はサービス提供組織やそ

の従業員に対する顧客のイメージ形成に影響を及ぼすことから,従業員の職務

満足は彼らの態度や行動を通じて顧客の選択意思決定にも重大な影響を及ぽす

可能性がある。なぜならば,サービス自体の無形性やその生産と消費の同時性

のために,サービスの選択意思決定過程では顧客はサービス品質を直接的に示

すような手掛かりを利用できないことが多く,口コミやイメージを重要な情報

として評価に利用する傾向があるからである(藤村, 1990)。従って,従業員の

態度や行動を通じて形成されたイメージが顧客にとって好ましいものであれば

売上高につながり,好ましいもの?なければ逆の結果を導くということからも,

職務満足は生産性や収益性に対してポジティブな影響を及ぽすと考えられる。

また逆に,生産性向上によってもたらされる利益がサービス・デリパリーシ

ステムやそのオペレーションを改善,従業員の職務満足やモナペーションの向

上などのために利用されるならば,生産性も投資を媒介として職務満足にポジ

ティブな影響を及ぼすことになる。

(4) 顧客満足と職務満足の影響関係

サービス・デリパリー・プロセスにおいてサービス・エンカウンターが時間的

あるいは頻度的に比較的多く展開されるようなサービスにおいては,顧客と従

業員が相互にそれぞれの態度や行動に影響を及ぽし合うために,顧客のサービ

スに対する満足と従業員の職務満足との聞にはポジティブな影響関係が生じる

(1l) Heskett, Jones, Loveman, Sasser and Schlesinge (1994,), op cil, pp..169-170. (12) サービス品質が複数の部分品質から構成されていると考えるならば,サービス提供組

織やそこにおける従業員のイメージも重要な部分品質の一つであり,顧客の購買意思決

定過程において重要な役割を果たす (Lehtinenand Laitamaki, 1989;藤村, 1995 b)。詳細はIV章 l節及び藤村(1995b)を参照のこと。

(13) サービス・エンカウンターの過程における従業員と顧客の相互影響関係の詳細につい

ては,藤村(1995a)を参照のこと。

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713 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -63ー

可能性が高いであろう。前述のように職務満足がパフォーマンスに対してポジ

ティブな影響を及ぼし,従業員がサービス・エンカウンターへ積極的Eつ顧客

志向的に関与するならば,サービス自体だけでなくそのデリパリー・プロセス

にかかわる品質も顧客にとって高いものとなるために,顧客満足は高まるであ

ろう。すなわち,サービス・エンカウンターの過程で職務満足は従業員の態度や

行動に反映され,サービス品質に影響を及ぽすことで,顧客満足にポジティブ

な影響を及ぼすと考えられる。

また逆に,顧客満足が従業員の職務満足に対してポジティブな影響を及ぽす

ことも考えられる。なぜならば,サービス・デリパリー・プロセスあるいはサー

ビス・エンカウンターの過程で満足を感じた顧客は従業員に対して好意的な態

度や行動をとり,不満足な顧客は否定的あるいは反発的な態度や行動をとる傾

向があるからである。すなわち,サービス・エンカウンターの過程で顧客満足

は顧客の態度や行動に反映され,従業員の感情に影響を及ぽすことで,職務満

足度にポジティブな影響を及ぽすことが考えられる。

顧客満足と職務満足の聞に関係が生じることについては,サービス・エンカウ

ンターの過程で顧客及び従業員がそれぞれの行動や態度を通して相互に影響を

及ぽし合うからという説明以外に,顧客及び従業員がそれぞれに保有するスク

リプトの観点からも説明が可能である。但し,このスクリプトによる説明では

両満足間に直接的な影響関係は存在せず,結果として関係が生じるにすぎない。

サービス・デリパリー・プロセスやそこにおけるサービス・エンカウンターの

過程は顧客及びサービス提供組織,その従業員の協働過程であり,この協働の

あり方もそれらの効果及び効率を決定する重要な一要因である。この協働をス

ムーズに行うには,演劇における舞台の役者たちが共通の台本を持っているよ

うに,デリパリー・プロセスやヱンカウンターに関与する顧客と従業員もそれら

の展開に関して共通の認識や知識を保有していなければならない。すなわち,

デリパリーやエンカウンターを効果的Eつ効率的に展開するには,それに関与

する従業員と顧客が,デリパリー・プロセスやエンカウンターを構成する一連

の出来事とそれらの時間的順序,各出来事に関与する従業員や他の顧客の特性,

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-64- 香川大学経済論叢 714

各出来事内での従業員や顧客の役割や必要とされる行為,各出来事が起こる状

況などに関する認識や知識を共有していなければならない(藤村, 1995 c)。この

共有されるべき知識体系はスクリプトと呼ばれている。

Smith and Houston (1983, p.. 60)によると,スクリプトはイベント・スキー

マあるいは知識の心的表象であり,日々の反復的な出来事における相互作用を

容易にする一般的知識である。また Schankand Abelson (1977, p..41)による

と,スクリプトは行動のあらかじめ決定された型にはまった順序であり,見慣

れた状況を明確にするものである。 Abboottand Black (1980, pゎ 5)はSchank

and Abelsonの定義を拡張して,平凡な出来事のためのスクリプトは日常生活

で頻繁に行われるために,行動が型にはまっている出来事に関する知識であれ

出来事;に関連する標準的行動,性質,対象から構成される,と定義している。

また Smithand Houston (1983)によると,スクリプトには因果的・時間的

順序において関連している一連の行動が含まれるので,将来の出来事に関するO~

予測を容易にするという機能や,規範体系として経験することを評価するため

の基準を提供するという機能もある。デリパリー・プロセスやエンカウンターの

過程では,従業員や顧客はこの後者の評価基準機能を用いてそこでの経験を評

価し,それらに対する評価を形成していることが考えられる。すなわち,顧客

も従業員もそれぞれにデリパリー・プロセスやエンカウンターの過程で経験す

る出来事と彼らが保有するスクリプトを比較しており,両者の適合度が高けれ

ばそこでの経験に対して満足し,適合度が低ければ不満を感じているというこ

とが考えられる。

(14) スクリプトは予測可能性と確実性を高めたり,役割遂行に必要とされる心的努力丞を削減したりする (Langerand 1mber, 1979; Langer and Newman, 1979)。さらに,精神的疲労によるストレスの削減を可能にするために,スクリプトに基づく行動はプラスの感情的効果を持っている (Humphreyand Ashforth, 1994)。また,ひとたび行為者がスクリプトを学習すると,その行為者はもはや問題解決に従事

する必要はなくなり,思考を働かせることなく迅速に複雑な行為を遂行することができる。しかしながら,スクリプトによる思考を働かさない行為は,その行為が頻繁に繰り返されるという状況の下では間違いを増加させる可能性もある (Langerand 1mber, 1979; Langer and Newman, 1979)。そのような状況の下では,無意識に遂行することによってモニタリングが省かれるために,因果連鎖における重要なステップを認識することなくそのステップを忘れてしまう可能性がある。

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715 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 65-

顧客と従業員がそれぞれに学習したスクリプトに基づいてデリパリー・プロ

セスやエンカウンターに関与し,さらにそれを基準としてそこでの経験を評価

しているとするならば,顧客と従業員とがそれぞれに異なるスクリプトを保持

している場合に,デリパリーやエンカウンターの効果的且つ効率的な展開が阻

害されるだけでなく,そこでの経験もそれぞれのスクリプトからの逸脱したも

のとなり,両者ともそれぞれに保有するスクリプトと経験との適合度は低くな

る。その結果,顧客だけでなく従業員も,そこでの経験に対する満足は低下し

てしまう。しかし逆に,両者が共通のスクリプトを保持している場合には,デ

リパリーやエンカウンターが効果的且つ効率的に行われるだけでなく,それぞ、

れが保有するスクリプトと経験との適合度が高くなるため,両者ともそこでの

経験に対する満足は高くなる。このように,顧客と従業員がそれぞれに保有す

るスクリプトと経験の適合度の結果として,顧客満足と職務満足の聞に関係が

生じるということも考えられる。

(5) 評価指標聞の循環的影響関係の要約

本主主では,顧客満足,職務満足,生産性についてそれぞれの聞の循環的影響

関係を詳細に検討したが,サービス品質と収益性も含めて理想的な状況での循

環的影響関係をモデル化するならば図II-4のようになる。

タイムラグが存在するために影響関係の評価は困難であるが,この顧客満足,

職務満足,生産性の関係については, V章で実証的に検討したい。

(15) 経験あるいは出来事を保持するスクリプトから逸脱させ適合度を低下させる要因には,顧客と従業員のそれぞれが保持するスクリプトの違い以外のものもある。その一つに,活動の連続的生起を可能にする条件の欠如がある (Schankand Abelson, 1977)。例えば,銀行でATMによる現金引出しサービスを利用する場合,もし ATMが故障しているならば,そこで活動は中断してしまう。この場合, ATMの回復を待つか,あるいは窓口で引き出しをするかによって欠如している条件を補うことが要求されるが,これらはスクリプトからの逸脱を意味している。このような逸脱に伴う待ち時間や不便さは怒ゃいらいらにつながり,結果として顧客に不満を感じさせてしまう。

(16) スクリプトがサービス・デリバリー・プロセスやエンカウンターの過程において行動基準及びその評価基準として働いているとすれば,サービス提供組織としては,顧客と従業員に適切でしかも共通なスクリプトを学習・保持させるような戦略を策定・実施する必要がある。もしこのような戦略を効果的に展開できるならば,サービス・デリパリーの効果及び効率の向上だけでなく,部分的ではあるかもしれないが顧客満足と従業員の職務満足も高めることが可能になるであろう。

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一一

一一

一一

一一

一一

手 嚇 ヱ 一 対 一 品 川 論 議 即 時 機 叶 H A山

図11-4

サー

ビス

品質

・顧

客満

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職務

満足

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産性

・収

益性

の循

環的

影響

関係

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察

vatstghasti旬酔

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-67-717

直 r場面」概念の導入による分析枠組み

デリパリー・プロセスにおいてヱンカウンターが比較的高頻度にあるいは長

エンカウンターにかかわる従業員時間にわたって展開されるサービスの場合,

それらの相互作用の及び顧客の聞には行動的及び感情的に相互作用が存在し,

内容もサービスの知覚品質及び両者の満足に影響を及ぽすであろう。また,サー

ピス・デリパリーはフロントルームとパックルームにおいて順次あるいは同時

フロントルーム及びパッ平行的に遂行される諸活動を通じて行われるために,

クルームにおける諸活動やそれらの聞の関係もサービス品質及びデリパリー効

デリパリー・プロセスにおいて従率に対して影響を及ぼすであろう。

業員及び顧客が使用する機器や器具の使いやすさ,

さらに,

その場を構成する様々な物

オペレーションなどもサービス品質及びそのデリパリー効率に影

サービス品質,顧客満足,職務満足,生産性,収益性

の聞の循環的影響関係を考慮し,各指標を最適化するには,

わる以下の要素それ自体とそれらの聞の相互作用関係を改善する必要がある。

①フロントルーム及び、パックルームの従業員の特性と行動

②顧客の特性と行動

③デリパリ一環境を形成する物的要素

④オペレーションを構成する諸活動の選択・組合わせと順序

デリパリーにかか

響を及Iまずであろう。

このようなことから,

的環境要素,

しかし,実際のデリパリー・プロセスにおいてこれらの改善を図るには,第

ーに,現状でのサービス・デリパリー・システムにおけるサービス品質,顧客

満足,職務満足,生産性,収益性の聞の循環的な影響関係とそれらに作用して

いる他の要因を分析しなければならない。次いで,上記の要素の改善によって

指標聞の影響関係及び他の要因の影響度がどのように変化するのかを把握しな

がら,各指標が最適になるような改善策を模索していかなければならない。 そ

サービス品質,顧客満足,職務満足,生産性,収益性の聞の影響関係のため,

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!i

68 香川大学経済論叢 718

を分析する枠組みが必要であるが,現段階ではまだ適切なものが構築されてい

ない。そこで以下では,その分析枠組みとして「場面」概念を提示したい。

1 演劇における幕のアナロジーとしての「場面」概念

「場面」概念は,演劇における幕のイメージをサービス・デリパリー・プロセ

スにおけるエンカウンターに当てはめたものである。幕とは一つの幕が聞いて

から下りるまでの聞である。演劇が複数の幕から構成されている場合には,一

幕目,ニ幕目と進む過程で舞台の登場人物やその服装,背景が変化し,物語が

展開し完結していく。サービス・デリパリー・プロセスでもいくつかのサービ

ス・エンカウンターが時間的に分離したかたちで,時には場所を変えて,一幕

目,二幕目というように展開される。例えば患者が医療サービスを外来で受け

る場合,エンカウンターは受付で受付職員と,診療室で医師及び看護婦と,薬

局で薬剤師と,会計で会計職員との間で順次展開される。これらのエンカウン

ターはそれぞれ時間的にも場所的にも分断されているばかりか,演劇における

幕のように各エンカウンターにおいて重要な役割を果たす職員や物的環境要素

も異なっている。このような時間的に分離した,ときに場所的にも分離したエ

ンカウンターのそれぞれが「場面」である。

サービスを生産・提供し,顧客がそれを消費するシステムはサービス・デリ

パリー・システムと呼ばれるが,それはフロントルーム,パックルーム,サー

ビス・エンカウンターから構成されている。そして,それらの三つにおいて顧

客,従業員及びサービス提供組織が協働することによってサービスはデリパ

リーされる。場面は,この三つの構成要素の中のサービス・エンカウンター,

すなわち顧客が従業員と直接的に相互作用を行う聞に焦点を当て,それらの時

間的分断(時には空間的分断を伴うが)によってそれらを区分したものである。

外来で医療サービスを受ける場合では,受付,診療,受薬,会計のそれぞれが

一つの場面として規定される。

この「場面」概念においては,フロントルームの従業員は舞台で演じている

役者に相当し,またサービス・デリパリ一環境を形成する物的要素は舞台の背

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719 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 69-

景に,パックルームの従業員は舞台の背後で音楽やライティングなどによって

役者達の演技を支援している裏方に,サービス・デリパリー・プロセスあるい

はオペレーション全体を計画・監督を担当しているマーケティング担当者ある

いは経営者は脚本家に,顧客は観客に相当する。そして,演劇の各幕の評価は

その幕に登場する役者,舞台設備,裏方,脚本家によって決まるように,場面

のサービス品質,顧客満足,生産性はフロントノレームの従業員だけでなく,サー

ビス・デリパリ一環境の物的要素,パックルームの従業員,マーケティング担

当者あるいは経営によっても決まる。さらに,演劇における観客は舞台を観る

ことで沸き上がってくる感情を表情や行動に表し,役者の感情に影響を及ぽす

ことで,その演技に作用して演劇の質を高めることに貢献しているように,各

場面における顧客もサービス・デリパリーを効果的Eつ効率的に行うのに必要

な役割を果たすことでサービス品質及び生産性の向上に貢献している。すなわ

ち,演劇が観客を含む劇場内のすべての人と物的環境によって作り上げられて

いるように,各場面も顧客を含むサービス提供組織の従業員とそれにかかわる

その他の要素すべてによって創造されている。

尚 i場面」概念を用いてサービス品質,顧客満足,職務満足,生産性,収益

性の聞の関係を分析する場合に,それらの指標も場面にかかわるものに限定さ

れる。すなわち,分析されるのはサービス・デリパリー・システム全体に関す

る各指標の水準や指標関係の関係ではなく,場面特定的な指標の水準や関係で

ある。例えば,外来での医療サービスのデリパリーについて受付,診療,受薬,

会計という場面が設定されるならば,受付という場面についてのサービス品質,

顧客満足,職務満足,生産性などが測定され,診療,受薬,会計という場面に

ついても同様にそれぞれに特定的なものが測定される。従って,各指標の水準

と指標聞の関係にかかわる分析は設定した場面数だけ行われることになる。

2.. i場面」概念を用いることの利点

時間的,時には空間的にも分離したサービス・エンカウンターを「場面」と

して,場面ごとに指標(サービス品質,顧客満足,職務満足,生産性,収益性)

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-70ー 香川大学経済論議. 720

聞の関係とその関係に影響を及ぼす要因を分析することには,以下のような利

点がある。

①場面によって各指標及び指標聞の関係に重大な影響を及ぽす司能性のある

要因,すなわち各場面で顧客と相互作用を行うフロントルームの従業員及

びその活動,その場面を後方から支援するパックルームの従業員及びその

活動,その場面に関係した物的要素及びオペレーションなどは異なってい

るが,場面ごとに分析することで重要な影響要因の絞り込と特定化が容易

になり,指標間の影響関係の分析も容易になる。さらに,各場面ごとに重

要な影響要因を特定化できるので,指標聞のバランスを保ちながらそれぞ

れを最適化するのに必要な改善点が明確になる。

②各場面には,顧客にサービス・デリパリーを行うのに必要な活動やその他

の要因の質や効率が反映されている。サービス・デリパリー・システムは

フロントルーム,パックルーム,サービス・エンカウンターから構成され

ているので,サービス・エンカウンターで区分された場面,すなわち顧客

とフロントルームの従業員が相互作用を展開するシステム部分だけで指標

聞の関係を分析するのは不適切であるように思われるかもしれない。しか

しながら,演劇の評価も観客から見える舞台に基づいて行われるが,その

評価が正当化されるのはその舞台に役者の演技や能力だけでなく,裏方や

脚本家などの活動や能力がすべて反映されているからである。同様なこと

は場面についても妥当し,各場面におけるサービス品質,顧客満足,職務

満足,生産性などには顧客がエンカウンターを行う従業員の態度や行動,

顧客から見えるデリパリ一環境を構成する物的要素だけでなく,顧客から

見えないパックルームの活動も反映されている。従って,特定の場面にお

いて指標のすべてあるいはその一部が低い場合,それは顧客とサービス・

エンカウンターを展開しているフロントルームの従業員やその環境を形成

する物的要素,その管理システムが劣っていることの現われであることも

あれば,顧客から見えないパックルームの従業員やそれにかかわるオペ

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721 サービス提供組織におげる顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -71

レーションが劣っていることの現われであることもある。このように顧客

がフロントルームの従業員とエンカウンターを展開する部分だけを場面と

して各指標や指標聞の関係を分析したとしても,そこには顧客にサービ

ス・デリパリーを行うのに必要な活動やその他要素がすべて凝縮・反映さ

れているので問題はないと考えられる。

しかしながら r場面」概念による指標聞の関係分析にも問題がないわけで

はない。第一の問題点として,サービス・デリパリー・プロセスはサービスの

販売とともに始まり,生産と提供が行われ,顧客による消費が終了するまで続

くが r場面」はこのプロセスの中の一部分に過ぎないということがある。すな

わち,デリパリー・プロセスでもサービス・エンカウンターが展開されていな

い部分,あるいは場面と場面の聞は分析対象とされないので,デリパリー・プ

ロセス全体の分析はできない。

第二の問題点として,第一の問題と関連しているがこのような還元主義的方

法では,場面の聞に存在する影響関係が無視されてしまい,デリパリー・プロ

セス全体が生み出すサービス品質,顧客満足,職務満足,生産性,収益性など

が過小あるいは過大評価されるということがある。演劇の場合,役者も観客も

前幕の流れを引き継ぎ次の幕に望む,あるいは次の幕のための準備をその前の

幕で行っている。つまり,一幕目で役者は演技を行いながら彼自身の感情や気

分を高め,第二幕目の演技につなげようとするし,顧客も第一幕目で次の幕を

見るために準備,例えば笑うための準備,泣くための準備,物語の展開を予測

するための準備を行う。そのため,第二幕目における役者の演技は第一幕目の

彼自身や他の役者の演技,それによって生じる彼自身の感情や気分に影響され

るであろうし,観客の感情や気分,態度も前幕における彼ら自身のそれらに影

響される。同様なことはサービス・デリパリー・プロセスにおいても起こるで

あろう。前場面での相互作用から生じた感情や気分を従業員も顧客も引きずり

ながら次の場面に進むであろうから,各指標はその場面における従業員や顧客,

その他の要素の影響を受けるだけでなく,前場面のそれらの影響も受けるであ

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

72 香川大学経済論叢 722

ろう。

このようなことがあるために,サービス・デリパリー・システム全体は場面

の総和以上の意味をもっているかもしれない。サービス・デリパリー・システ

ム全体には「場面」概念だけでは捉えきれない,サービス品質,顧客満足,職

務満足,生産性,収益性の関係や,それらに影響を及ぽす要素が存在している

かもしれない。従って,サービス・デリパリー・システムの分析には r場面」

概念とともに全体論的アプローチによる分析枠組みも同時に用いられる必要が

あると考えられる。

「場面」概念にはこのような問題点もあるが,本稿では利点の方を重視して,

V章ではこれを用いて顧客満足,職務満足,生産性の聞の影響関係を実証分析

したい。また,前述のような問題点を補うために,場面レベルとともにオペレー

ション・レベルでも分析を行いたい。尚,このオペレーションについてはV章

で詳細に説明することにする。

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サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 73-723

N.医療サービスにおける顧客満足と職務満足の分析

本稿の中心課題は,-場面」概念を用いて顧客満足,職務満足,生産性の聞

の影響関係を分析することにある。分析は病院における医療サービスを取り上

げて行うが,本章ではその準備として,医療サービスにおける顧客満足及び職

その形成要因,各満足が及ぽす影響について分析を行いたい。

宇多??itLLPtis-ιkplfvhy}telFieritlilt-詐lt43aziもや

務満足の構造,

顧客(患者)満足調査の実施概要及び分析結果

調査実施の概要)

1

(

すなわち患者満足とその形成に影響を及ぽ医療サービスにおける顧客満足,

その調査概要は以下の通りであす要因を明らかにするために調査を実施した。

る。

調査対象者:神奈川県内に立地するK病院における外来及び入院患者

票:外来患者用調査票,入院患者用調査票とも A4版 9頁

法:調査員による面接調査依頼・郵送回収(外来患者に対す

る調査依頼は待合室で,入院患者に対する依頼は病室で

調

調

実施)

期:1996 年 2 月 19~24 日時査調

調査票配付数及び回収数;

(17) 調査は社会経済生産性本部のサービス企業生産性研究委員会において実施したもので

あるが,顧客満足調査と職務満足調資の設計・実施・分析は筆者自身が中心となって行っ

たものである。

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-74- 香川大学経済論叢 724

有効回収票の構成:外来患者の診療科別回収数及び入院患者の病棟別回収数

は以下の通りである。尚, K病院では,外来部門は診療

科ごとに,入院部門は病棟ごとに管理が行われている。

[外来患者の診療科別回収数】

受診診療科 人数 構成比(%)

内科 291 39..9 神経科 18 2..5 小児科 74 10..2 小児外科 3 0.4 外科(脳外科) 47 6A 書生形外科 31 4..3 形成外科 4 0..5 皮膚科 39 5..3 産婦人科 123 16..9 版科 32 44 耳鼻咽喉科 29 4..0. 泌尿器科 23 3.2 理学診療科 2 0...3 東洋医学 8 1.1 その他 。..1

無&!l答 4 0..5

合計 729 100..0.

【入院患者の病棟別回収数】

入院病棟 人数 構成比例)

本館4階 17 124 本館5階 23 16.8 来館2階 18 131 東館3階 19 139 東館4階 13 9.5 東館5階 19 139 東館6階 19 13.9 無回答 9 6,6

合計 137 100,0.

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725 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・

生産性の関係についての理論的・実証的考察

(2) 顧客満足の分析結果

【顧客の総合満足度が再利用意向に及ぼす影響]

75-

モノに関する消費者行動研究では,顧客満足は購買後の態度に影響を及ぼし,

その態度は再購買意図や口コミ行動などに影響を及ぼすという経験的証拠が多

く得られている。病院における医療サービスの消費においても,このような影

響関係が存在するかどうかの分析を行った。尚,医療サービス品質は様々な部

分品質から構成されており,それに対する満足あるいは不満足は各部分品質に

対する評価を総合することで形成されると考えられることから,以下では,医

療サービスに対する満足度を総合満足度と呼ぶことにする。

表IV-1は,外来・入院患者別に総合満足度と再利用意向との関係を分析した

結果である。尚,再利用意向とは,将来,もし病院にかからなければならなく

なった時に,当病院を利用したいという意向である。

外来及び入院の両患者において,総合満足度が高い患者層においてほど再利

用意向を持つ人が多くなっている。外来患者においては r満足である」と回

答した 216人中 202人(約 94%)が「利用したい」あるいは「やや利用したい」

と回答しているが r不満足である」と回答した人でそのように回答したのは 16

人中 2人(約 13%)にすぎない。入院患者においても同様に r満足である」と

回答した 50人中 49人(約 98%)が「利用したい」あるいは「やや利用したい」

と回答しており,医療サービスに対する総合満足度と再利用意向との聞には正

の相関関係が見られる。

表IV-2は,総合満足度が再利用意向に及ぽす影響度を回帰分析を用いて分析

した結果である。総合満足度は再利用意向に対して有意にポジティブな影響を

及ぼしており,再利用意向を説明する重要な変数となっている。同様な結果はω

1994年に他の病院において実施した調査でも得られていることから,病院にお

(18) 医療サービスを含む専門サービスの品質を構成する部分品質については,本章 79-80

頁と藤村(1995b)を参照のこと。

(19) 総合満足度は 1 不満足であるJ~'5= r満足である」の 5点尺度で,再利用意向

は 1= r利用したくないJ~5 = r利用したい」の 5点尺度で聴取している。

(20) 調査実施概要及び分析結果は,藤村(1995d)を参照のこと。

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-76~ 香川大学経済論叢 726

ける医療サービスの消費においても総合満足度は再利用意向にポジティブな影

響を及ぽすと言えるであろう。

このような影響関係は以下のような三つの理由から,モノの消費においてよ

りもサービスの消費においての方が強く生じやすいと考えられる。

①サービス自体とそのデリパリー・プロセスの特性のために,サービスの選択

意思決定過程においては比較的大きなリスクが知覚される(藤村, 1990)。

その結果,利用したサービスあるいはサーどス提供組織が大きく不満足な

ものでない限りは,知覚リスク削減手段として利用経験のあるサービス提

供組織を再利用しようとするであろう。

表IV-l:総合満足度と再利用意向の関係

[外来患者] 【入院患者]

|、¥再利用意向

|総合両足度¥

6

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4H31一63F吐

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|¥。利用意向|用 ち 用 |小

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-------ヨム宇,~~!......L......L.~?,~.~. ?Q,~ .l.1 ?;7 .I.!主Q.

10,9 : 50,9 : 382 I 414

・ 46I ゆ満足である l ・ j 2D 1 1 1

1: 25: 36: 71 I 133 018,8 : 27,1 : 53.4 11飢 O

小宮十小 E十

表IV-2 総合満足度と再利用意向に及ぼす影響

戸よさ 定数項 総合満足度 自由度調整済み決定係数

外来患者の再利用意向2.090 0.550. 言2= 0.333

-・.(18ω6)*.

... N=691 (17542) F依 346184

入院患者の再利用意向1495 0.686 Rーう-= 0. 478

N=133 (5.711) (11.038) -h・0 F値 121844..

ホホ・ P<o.∞I

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727 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -77-

②サービス品質を構成する部分品質の一つである過程品質あるいは相互作用(22)

品質は,顧客がサービス提供組織を反復利用することによって向上してい

くと考えられる(藤村, 1991)。すなわち,サービス・デリパリー・プロセス

でサービス・エンカウンターが時間的あるいは頻度的に比較的多く展開さ

れるようなサービスの消費においては,反復的利用によって従業員が顧客

のニーズや特性を理解したり,あるいは両者聞に相互理解が形成されたり

するために,エンカウンターが効果的Eつ効率的に展開されるようになる。

その結果,顧客の視点からみた過程品質や相互作用品質は反復的利用とと

もに高まるために,顧客はより高い満足を求めて同一サービス提供組織を

反復的に利用していこうとするであろう。

③サービス・デリパリー・プロセスでサービス・エンカウンターが時間的ある

いは頻度的に比較的多く展開されるようなサービスの消費においては,顧

客と従業員の聞に経済的取引関係を越えた社会的人間関係が形成されるこ

とがあり,デリパリーされるサービスが大きく不満足なものでないかぎり

は,社会的人間関係のために再利用が促されるであろう。

このようなことから,総合満足度を向上させ,同時に再利用意向の生成を阻

害しないようにすることで,病院を含むサービス提供組織においてもロイヤリ

ティのある固定客を創り出すことが可能であろう。

(21) サービス品質はいくつかの部分品質から構成されていると考えられているが,ごつの

部分品質から構成されているとする品質モデルでは成果品質 (outputquality)と過程品

質 (processquality)とに分解されることが多い。前者はサービスの購入動機となった基

本的ニーズを満たす便益にかかわる品質であり,後者は成果品質を生成する過程での相

互作用にかかわる品質である。尚,この相互作用には,顧客と従業員との人的相互作用

(サービス・エンカウンター),顧客と物理的環境との相互作用,顧客間の相互作用が含

まれている(藤村, 1991, p 192)。これと類似したものに, Gronroos (1984)の技術的品質

(technical quality)と機能的品質 (functionalquality)への分解がある。前者はサービス

提供組織との相互作用で消費者が得るものの品質であり,後者はサービスを受ける過程

にかかわる品質である。

(22) 相互作用品質については,本意 80頁と藤村(1995b)を参照のこと。

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78 香川大学経済論叢 728

【顧客の総合満足度が口コミに及ぼす影響】

次に,患者の総合満足度が家族・友人への紹介意向につながるかどうかを分

析すると,表IV-3のようになり,この 2変数聞にも正の相関関係が見られる。

外来患者においても入院患者においても,総合満足度が高い層においてほど

「紹介できる」という回答が多くなっている。外来患者においては「満足であ

る」と回答した人の約 67%が,入院患者においても約 80%が「紹介できる」と

回答している。

表IV-4は,回帰分析で総合満足度が紹介意向に及ぽす影響度を分析した結果仰)

である。総合満足度は紹介意向に対してもポジティブな影響を及ぼしており,

紹介意向を説明する重要な変数となっている。但し,総合満足度が紹介意向と

再利用意向に及ぼす影響度を比較すると,再利用意向に対する方が大きくなっ

ている。

医療サービス提供組織の選択意思決定過程では大きな知覚リスクを伴うが,

その知覚リスクの削減には口コミが重要な役割を果たすことから(藤村, 1990),

病院を含む医療サービス提供組織は自組織にとってポジティブな口コミが利用

経験者から発せられるように努力しなければならない。そのためには,今回の

分析結果から明らかなように,利用者の満足度を向上させることが必要である。

以上のように,医療サービスに対する総合満足度は再利用意向及び口コミに

対して重大な影響を及ぼすことから,患者の総合満足度の向上は医療サービス

提供Pι織にとっても重要な経営課題である。それはII章で考察したように,顧

客の再利用意向あるいはロイヤリティの向上は顧客離脱率を低下させ,その結

果として収益性を大幅に改善するだけでなく,ポジティブな口コミの流布に

よって新規顧客獲得に必要なマーケティング・コストの削減を可能にするから

である。

(23) 紹介意向はこの病院なら安心して家族や友人に紹介できる」というステートメント

に対して 1= rそう思わないJ ~5 = rそう思う」の 5点尺度で聴取している。

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729

X 不満足である

ー・-_........開・・・・・

--_..ーー・-_..-_....どちらとも

言えない-・・・ーーー・................

.....---_..・ー・・・・・・・

満足である

小富十

サービス提供組織におげる顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -79-

表IV-3 総合満足度と紹介意向との関係

[外来患者】

紹 lど: :紹

介 -ち・ :介

で iら言 i :で

e ・. :とえ j :き

な iもな i .るU 、. ,>・

8 : 214 :143 :57.1 71 -ー・・・・ト・一._p-"-・・4・・・ー・・.--司---

4 18 91 : 12.1 : 54.5 : 18.2 6.1 ._---ート・.....・_.',・・4・一._-............ 4: 7: 84 32 21

...~:.~.t ・・4・・7・・・i ・5・6・8・・・・2・・1.ー~-L!~:~-73 102 69

0.4: 0.4: 29.7 : 41.5 : 28.0 ・・・ F ・・~・_......................----・------

2 : 25 38 129 1.0 : 12.9 : 19.6 : 66.5

13 i 14: 208 i 178 : 222 ... . 2.0: 2.2: 32.8 : 28.0 : 35.0

14

33 5.2

23.3

2461 38.7

194 30.6

635

1∞o

[入院患者】

紹: :ど: :紹

介 :ち!で : 1ら4目.・ 1 で

き: :とえ: jき 百十

総合満足度 な: :もな i .るし、. ,>・

1-;空Tff.i.in----LE--.j一一--i一一-.L..-J-二.1: 1: 1: 1: 4

l3~,~-i月.~_L~::?_j-f-5,立L.___j___~~.どちらとも 1: 2: 11: 6: 41 24

言えない 4.2: 8.3: 458: 25.0: 16.71 19.0

満足である

小計

1: 10・20: 211 52 1.9: 19.2: 385: 柑 .4141.3

3・ 6: 371 46 ι5: 13.0: 80.4 1 36.5

2: 4: 25: 33: 621 126 1.6: 3.2: 19.8: 26.2 : 49.211∞.0

表IV-4 総合満足度の紹介意向に及ぼす影響

エよさ 定数項 総合満足度 自由度調主主1青み決定係数

外来患者の紹介意向1894 0518 言2= 0.265

-・0

N=635 (13.786) (15.166) H直230018

入院患者の紹介意向1386 0680 買2= 0329

(3.837) ...

(7.896)" F値 62343命・.

N=126

山 Pく0∞l

【顧客の総合満足度に影響を及ぼす部分品質】

藤村(1995b)はLehtinenand Laitamaki (1989)の品質次元モデルに修正を

加えることで専門サービスの品質次元モデルを提案しているが,そのモデノレで

は,医療サービスを含む専門サービスの品質は以下の 5つの部分品質から構成

されると仮定されている。

①外在的組織品質:サービス提供組織のイメ}ジ

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

-8(}-- 香川大学経済論叢

②外在的個人品質:専門家個人の名声や評判

@物理的品質:サービス・デリパリー・システムの物理的特徴

(a)物理的環境の品質:装飾,外の風景など

(b;物的設備の品質:医療機器,待合い室の設備など

(c)デリパリー中あるいは後に消費される財の品質:食事,飲料など

(d)成果品質:健康の回復,不快感や痛みからの開放など

④相互作用品質:従業員と顧客の相互作用過程で生み出される品質

730

⑤専門的知識・技能品質専門サービスのデリパリーに必要な知識・技能の

質と量

病院における医療サービスも,これら 5つの部分品質から構成されていると

考えられる。しかしながら,専門的知識・技能品質の評価には専門的知識が必

要とされ,一般の患者ではその評価が困難なことから,顧客側から見た医療サー

ビスの品質は外在的組織品質,外在的個人品質,物理的品質,相互作用品質に

よって構成されていると考えられる。ここでは,これらの部分品質の中の相互

作用品質と物理的品質の一部である成果品質に焦点を当て,それらに対する評

価が総合満足度に及ぼす影響について分析を行いたい。尚,相互作用品質とし

ては,医師,看護婦,医療技術者,事務系職員にかかわる品質を,成果品質と

しては治療成果に対する知覚を取り上げている。

表IV-5は,各部分品質に対する評価が総合満足度に対してどのような影響をæ~

及ぽしているのか,を回帰分析で分析した結果である。外来患者を医療技術者

(薬剤師,臨床検査技師など)と接触した患者層と接触しなかった患者層に分け

ると,接触した患者層の総合満足度に対しては治療成果,医師,看護婦が,非

接触の患者層の総合満足度に対しては治療成果と医師が有意にポジティブな影

響を及ぼしている。入院患者の総合満足度に対しては,治療成果と看護婦が有

意にポジティブな影響を及ぼしている。

(24) 部分品質に対する評価は総合満足度を構成する部分満足度として捉えることができる

ので,各部分品質に対する評価は 1= r不満足であるJ~5 = r満足である」の 5点尺

度で聴取している。

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

731 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・

生産性の関係についての理論的・実証的考察 81ー

この分析結果から,以下のような 3つの興味深い仮説を導くことができる。

第 1の仮説は「サービス・デリパリー・プロセスにおいて時間的に長く,ある

いは頻度的に多く顧客との間でサービス・エンカウンターを展開する従業員は

顧客満足に対して重大な影響を及ぼす」というものである。このことは,患者

の総合満足度に対して治療成果の次に大きな影響を及ぼしているのが,外来患

者の場合には医師であり,入院患者の場合には看護婦であることや,入院患者

においては医師がその総合満足度に対して有意な影響を及ぼしていないこと,

などから導くことができる。この仮説が支持されるならば,医療サービス以外

のサービスにおいても,そのデリパリー・プロセスで顧客との間で長時間あるい

は頻繁にサービス・エンカウンターを展開する従業員を明らかにし,彼らの態

度や行動を患者のニーズに合ったものにすることは,顧客満足の向上にとって

大きな意味がある。

第 2の仮説は「サービス・エンカウンターの頻度や時間的長さは,それを顧

表IV-5・総合満足度に有意な影響を及ぼす部分品質

患『者』カ『テ『コ』リ』ご、-独『立』変数 定数項 医師 看護婦 医療技術者 事務系職只 治療成果 自由度調整済み決定係数

医 全 体 021327951 T 0325

G0160403 V 0.440 主=0485

療 N=553 7.043)'"車市 8.157事事 F値 174.師 6車場寧

外J土 長期通院 0.219 0.279 0166 0.461 R=0487 持f N=341 1.014 4.515申ホ (3.3231・市 6.691車場 F値 108.417"''''申

来者接

短期通院 00.9併2が2事*

0.415 -0.160 05542747 }*摩

買=0504と触 N=21 (6.037)" -2.720l'市 F値 72.371 "'*宇

害 17; 全体 0129 0..402 0543 ~=O 562

蝶 N=IIO (0.402) (4.375)申申 (5.2481" F値 70.98'7**申

者技 長期通院 -0.288 0338 0(46.0915 9r-撒

買=0573持UF N=48 卜0.564)** <2.372)市 F値 32.490 **申

者接 短期通院 0424 046317 5Tホ

0.450 R=0548 と触 N=62 (1.013) (3 事 (3.479)" F値 37.916...u

ノ:@:ニ 体 0561 0(328622 6} 2・ホe

0581 R=0550 入 N=12 (1.809)' (8.883)" F値 75.596帥申

院長期入院 1343372 3}

0190 0457 ~=O.467 串b

2位1)' ~伺I{'" F値 24.667*...事|

者N=55

短期入院 -0..433 0.461 惨事捗 。1640564) •

N=47 -0.932 3.829 (5 市 F値 52.132**市

命事・ P<OOOI 市 Pぐ001 *P<OI

注 1)外来患者における長期通院とは慢性病による 3ヶ月以上の通院であり,短期通院とはそれ以外の通院である。

注 2)入院患者における長期入院とは 11日以上の入院であり、短期入院とは 10日以下の入院である。注 3)入院患者において,長期入院患者数と短期入院患者数の合計が全体数よりも少ないのは、入院期間について

回答していない入院患者を分析対象から除外しているためである。

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

-82ー 香川大学経済論叢 732

客との間で展開する従業員が顧客満足に有意な影響を及ぼすかどうかを決定す

る重要な要因である」というものである。これは,外来患者を医療技術者と接

した層と接しなかった層とに区分すると,看護婦が総合満足度に対して有意に

ポジティブな影響を及ぼしているのは医療技術者と接した外来患者層において

のみであることから導くことができる。それは,医療技術者と接した患者の方

が症状が重く,その結果として看護婦とサービス・ヱンカウンターを展開する

機会も多かったと考えられるからである。

第 3の仮説は「顧客満足に対する各部分品質の影響度は時間とともに変化す

る」というものである。これは,入院期間あるいは通院期間によって患者を区

分した場合,各患者層の総合満足度に対して有意な影響を及ぼしている部分品

質の影響度が異なっていることから導くことができる。具体的には,短期通院

患者の場合には,その総合満足度に対して治療成果と医師が同程度に有意な影

響を及ぽしているが,長期通院患者の場合には,治療成果の方が医師よりも大

きく影響を及ぼしている。すなわち,通院期間が長くなるほど,医師よりも治

療成果の方が外来患者の総合満足度にとってより重要になっている。同様な傾

向は入院患者についても見られ,短期入院患者の場合には,その総合満足度に

対して治療成果と看護婦がほぼ同程度に有意な影響を及ぼしているが,長期入

院患者の場合には,治療成果の方が看護婦よりも大きく影響を及ぼしている。

すなわち,入院期聞が長くなるほど,入院患者の総合満足度に対する看護婦の

影響度は相対的に低下し,治療成果の方がより重要になっている。このような

ことから,医療サービスにおいては,通院あるいは入院期間は患者満足に影響

を及ぽす要因の重要性を決定することにかかわっていると考えられるが,他の

サービスにおいても利用期間がこのような役割を果たすか否かの検討は重要でト

あろう。

以上のことから,病院における医療サービスのデリパリーに対する患者満足

の分析やその向上のための施策・戦略の展開においては,患者と各職種の従業員

との間で展開されるサービス・エンカウンターの時間的長さや頻度,通院ある

いは入院期間などの考慮は重要であると考えられる。また,今後の研究課題で

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

733 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -83-

あるが,他のサービスにおいても提示したような仮説が検証されるならば,顧

客のセグメント化によってマーケティング課題が明確になるだけでなく,従業

員に対するインターナル・マーケテイングの焦点も絞れることから,効果的E

つ効率的にサービス品質及び顧客満足,生産性を向上させることが可能となる

であろう。

2" 職務満足調査の実施概要及び分析結果

(1) 調査実施の概要

医療サービスの提供組織である病院における従業員の職務満足とその形成に

影響を及ぽす要因を明らかにするために調査を実施した。その調査概要は以下

の通りである。

調査対象者 :K病院の従業員(医師,看護婦,医療従事者,事務系職

員)

調 査 票:医師用調査票,医療技術者用調査票,事務系職員用調査

票はA4版 7頁,看護婦用調査票はA4版 8頁

調 査 方 法:各部署の管理者による調査依頼・郵送回収

調査時期::1996 年 2 月 19~24 日

調査票配付数及び回収数:

¥ ¥¥ 配布数 回収数 lu]以中(%)

医師 150 51 34,,0

看護婦 250 167 66“8

医療技術者 130 44 33.,8

事務系職員 150 40 26..7

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

84 香川大学経済論叢 734

有効回収票の構成:医師の診療科別回収数,看護婦の所属別回収数,医療技

術者の職種別回収数,事務系職員の所属・職務別回収数

は以下の通りである。

【医師の診療科別回収数]

診療科 人数 構成比(%)

内科 12 23.5

神絞科 3 5.9

小児科 5 98

外科(脳外科) 8 15..7

形成外科 2..0

皮膚科 2.0

産婦人科 7 13..7

眼科 2..0

耳鼻咽喉科 2 3.9

泌尿器科 2 3り9

麻酔科 2 3.9

放射線科 3 5..9

健康管理センター 2 3.9

そのf也 2..0

無問答 2..。λfr ai ト 51 100..0

[看護婦の所属別回収数】

所属 人数 構成比(%)

外来患者担当 34 204

入院患者担当 109 653

健康管理センター 2 12

手術室 5 3..0

集境整備室 3 18

そのf也 0.6

無問答 13 7..8

合計 167 1000

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -85ー735

【事務系職員の所属・織務別回収数】

所属職務 人数 構成比(%)

総務課 8 20..0.

絞理課 4 10..0.

医事課 4 100.

健康管理センター 6 15.0.

クラーク 11 27.5

牧師 l 25

,t';-イカル /晶シ骨,~ ワーカ- 2 5..0.

その他 3 7.5 無回答 2.5

合計 40. 100,0.

i

i

B

i

l

l

i

-

-

[医療技術者の職種別回収数]

職干草 人数 構r&Jヒ(%)

薬剤師 4 9,1

臨床検査技師 8 18,.2

診療放射線技師 7 15..9

f型学療法 J: 2..3

作業療法士 23

言語療法一f:. 23

銭灸マァサージ師 2 4,.5

臨床,レ理士 2..3

視能訓練i 3 6..8

聡)J検査上 2 4..5

栄養士 2 4..5

トレーナー 2 4.5

調理師調理員 9 20.5

無同答 2.3

合計 44 100,0.

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86~ 香川大学経済論叢 736

(2) 職務満足の分析結果

【従業員の総合満足度が勤務継続意向に及ぼす影響】

従業員の職務満足は職務にかかわる様々な要素に対する評価を総合すること

で決定されると考えられることから,以下では,職務満足を従業員(医師,看護

婦,医療技術者,事務系職員)の総合満足度,あるいは単に総合満足度と呼ぶ、こ

とにする。

表IV-6は,職種別に従業員の総合満足度と勤務継続意向の関係を分析したも

のである。尚,勤務継続意向とは,現在勤務している病院で今後とも勤務を続

けたいという意向である。

総合満足度についてみると r満足である」あるいは「やや満足である」とい

う評価が最も多いのは医師であり(約 78%),逆に最も少ないのは看護婦である

(約 38%)。医療技術者及び事務系職員においても半数以下の職員しか満足して

おらず,組織内で総合満足度が高いのは医師だけとなっている。勤務継続意向

についても同様な傾向が見られ r続けたい」あるいは「やや続けたい」という

評価が最も多いのはやはり医師であり(約 76%),逆に最も少ないのは看護婦で

ある(約 65%)。看護婦,医療技術者,事務系職員においては,職務に満足して

はいないが勤務は継続したいという人が比較的多く見られる。

職種別に総合満足度と勤務継続意向との関係をみると,どの職種においても,

総合満足度が高い層においてほど勤務を継続したいという意向を持つ人が多く

なっている。例えば医師においては r満足である」と回答した 16人中 15人(約

94%)は「続けたい」あるいは「やや続けたい」と回答しているが rやや不満

足である」と回答した人では, 3人中 1人しか「やや続けたい」と回答していな

い。看護婦においても r満足である」と回答した 12人中 11人(約 92%)は

「続けたい」と回答しているが r不満足である」と回答した人では, 10人中 2

人(20%)しか「続けたい」あるいは「やや続けたい」と回答していない。この

ようなことから,従業員の総合満足度と勤務継続意向の聞には正の相関関係が

存在しているようである。

表IV-7は,総合満足度が勤務継続意向に及ぽす影響度を回帰分析を用いて分

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

737 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -87

[医師1

表IV-6 職種別の総合満足度と勤務継続意向の関係

I看護婦1

|¥勤務継続意向|続 i l¥lけ 1

¥|た:…・|¥!く:

|総合両足度¥ !な : 一 -" ,,~斗

ちら百 jとえ!もな jし、:

続けたい

不満足である

l-~nl ー!"?.i お~-L____~__~}どちらとも 6: 1: 1/

首えない:75.0 : 12 5: 12.51 163

3・ 10: 9122 ・ 13.6 ・ 455 ・ 40.91 判~.9

1: 1: 141 16 63・ 6.3: 87.5 I 32.7

1 : 11 13 24 1 49

2.0 : : 22.4 : 26.5 : 49.0 11∞D

満足である

小計

[医療技術者]

代勤務継続意向|統l¥lけ

| ‘¥ lた

|¥|く

|総合満足度¥ !な

....,じ

どち iら言!

とえ jもな!し、:

J川

4.,

続けたい

不満足である 1: 11 U.Q立:------:----..-i--?9,Qi--..---J 日

1: 3: 4: 1: 9

~-_!!:~~--~~必然心 __l}, U______j__~~主どちらとも 1; 4: 2; 61 13 ._.__...~~主 ~_v_~l・…--,一口iAAjAU--4641-ZM

1: ・ 6・ 111 18

--_..--~一品 ~------f----.-}.ぷλj--c!斗j-'似21

11∞.01 4.5

3: 4: 8: 10: 191 判

6.8・9.1: 18.2・22.7: 43.21 100.0

満足である

小百十

l¥総合勤献務権£錐¥意向

統け: ど: i統1ち: iけ

た: :ら討: jた

!とえ i . " 計な j jもな:

: し、. "・

不満足である5: 1 : 2: I : 10

---・・M・.....-・・-- ・5・0・・.~-i-_19,~ _~ _ ?9,Q _~ _} 9:9 -l-}.9:9_ 63

2: 4: 9: 24 8.3, 16.7: 37.5, 12.5: 250 15.0

-------・・ー・・ーーー-- _..:.:,:.:・-------~・--"_.'・ r-::-;:-~_._-_.

とちらとも 1 : 1: 26: 15: 23 66

-----_.亘Jもゑv' ・一1一~-:.一一1.5一U?・.・4・・~-~~一7一U~一.~ 41.3

2: 2: 13: 31 48 目・30.0 ---ー・・・・.._---園田--・・・刷ー・:__;I;?・・ 1・・・・4ー2・・ :-?7:!L~:~

満足である 11 12

8.3 ; 91.7 7.5

小計8 : 8: 40,32: 72 160

5.0: 5.0: 25.0: 20.0: 45.0 100.0

富十

[事務系聡員]

1又勤務開雨続l¥ け

l¥1た

l¥ く

総合満足度¥| なl 、.1 ,、

iど.:ち jiら首:!とえ ljもな i:ぃ

7

げ工.2Eft-lm;j-..j--.j.....j..…-L~~-

: 剖).0: 仙 0: 叩 01 1フ弓

+---ー+一一--....-..・・.ト-----.-.. ・ーゅ-----三どちらとも 1: 5: 3: 51 14

----~.~さゑ~;-1---_ _ -.~ _ _7:! _~ J?, 1..: _ _~ L~: _ _ ~~, 11_ _ ~?,Q

ι3: 50.0: 43.81 40.0

-I∞.01 7.5

2: 2: 9: 11・ 161 40 5.0 : 5.0: 22.5 : 27.5: 40.011ωb

満足である

小宮十

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

88 香川大学経済論叢 738

ω) 析した結果である。 どの職種においても総合満足度は勤務継続意向に対して有

意にポジティブな影響を及ぼしており,勤務継続意向を説明する重要な変数と

なっている。但し,看護婦の場合,総合満足度が勤務継続意向を説明する程度

は他の職員に比べて低くなっており,職務満足以外の要因が勤務継続意向を促

しているようである。

この結果から,医療サービス提供組織においても有能な従業員を安定的に確

保し, デリパリーを効果的Eつ効率的に行うのに必要な知識や技能を組織的に

蓄積・向上していくには,職務満足の向上は重要な経営課題であると言える。こ

のことはまた,次章で分析結果を示すが,職員の職務満足はサービス・エンカ

ウンターの過程で患者の総合満足度に影響を及ぽす可能性が高いことからも言

えるであろう。

表IV-7 従業員の総合満足度の勤務継続意向に対する影響度

〉ぶiff定数項 総合満足度 自由度調整済み決定係数

医師の勤務継続窓向1325 0.713 言2= 0423

N=49 (2706)" (60¥0) F値 36123...

看護婦の勤務継続意向1915 0641 安2=0.291

(7.318) 暗唱駒市

F値 66263a刷同..

N=160 (8.140)

医療技術者の勤務継続意向1355 0.783 R2= 0.350

(2.538) 調制

(4.911) F値 24115-・・ー

N=44

事務系職員の勤務継続意向 1305 0788 ]2 = 0435

N=40 (2667)' (5572)山 F値 31043

...

帥*P<O∞l ** pく001 ホ Pく0.1

(25) 総合満足度は 1= r不満足であるJ~5 = r満足である」の 5点尺度で聴取している。

勤務継続意向も同様に 1= r続けたくないJ~5 = r続けたい」の 5点尺度で聴取して

いる。

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

aJlii

739 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 8会一

[従業員の総合満足度に影響を及ぼす要因]

医療サービスの提供組織である病院においても総合満足度の向上は重要な経

営課題であるが,それを向上させるために組織として従業員にどのような方策

や戦略を展開すればよいのであろうか。このことを明らかにするために,ここ

では各職種の従業員の総合満足度に影響を及ぽす要因について分析したい。

表IV-8は,職種別に総合満足度に影響を及ぼす要因を回帰分析で分析した結ω

果である。職種によってそれぞれの総合満足度に対して有意な影響を及ぽして

いる要因に差異が見られる。医師全体で見ると,その総合満足度に対しては

「他の医師との関係J r給与J r仕事の内容そのもの」が有意にポジティブな

影響を及ぽしている O 同様に,看護婦全体では「仕事の内容そのものJ r勤務

体制J r病院全体の管理・監督」が,医療技術者全体では「仕事の内容そのも

の」と「直属の上司の管理・監督」が,事務系職員全体では「仕事の内容その

もの」が有意にポジティブな影響を及ぼしている。どの職員においても共通に

見られる影響要因は「仕事の内容そのもの」である。また,看護婦と医療技術

者においては,組織内でのレベルは異なるが管理・監督のあり方が重要な影響

要因となっている。

また,医師を常勤と非常勤に区分すると,常勤医師では「他の医師との関係」

と「給与」が,非常勤医師では「患者との関係」と「給与」がそれぞれの総合

満足度に対して有意にポジティブな影響を及ぼしている。看護婦の中の外来患

者担当と入院患者担当についてみると,前者では「勤務体制J r給与J r事務

系職員との関係」が,後者では「仕事の内容そのものJ r勤務体制J r能力向

上のための教育援助」がそれぞれの総合満足度に対して有意にポジティプな影

(26) 各職種の総合満足度に影響を及ぽす可能性のある要因として分析に用いたのは,表IV-8に独立変数として記載している 15の項目である。尚,調査票作成過程におけるヒアリ

ングで,医師という職業には「昇進」や「能力向上のための教育援助」という項目は当て

はまり難く,回答も困難であるという意見が出されたので,医師についてはこの 2項目を

聴取していない。また,事務系職員の中には派遣社員がいるが,彼らには当てはまり難い

項目が多いために彼らは分析対象から除外している。

各項目に対する評価は総合満足度を構成する部分満足度として捉えることもできるの

で, 15項目それぞれの評価は 1= r不満足であるJ~5 = r満足である」の 5点尺度で

聴取している。

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

-90ー 香川大学経済論議 740

響を及ぼしている。

職種間におけるこのような影響要因の差異は,職種によってプロフェッショ聞

ンの特徴を備えている程度や日々の勤務環境などが異なることから生じている

と考えられる。例えば医師,特に常勤医師において, その総合満足度に対して

「他の医師との関係」が強く影響を及ぽしているのは, プロフェツションの自

律性が生み出す独自の文化や行動規範によって,医師という集団内での結束が

促されていることと関係があるかもしれない。また,来担当看護婦の総合満足

度に対して「勤務体制」及び「給与」が強く影響を及ぽしているのは,外来担

当看護婦は既婚者が多く夜勤を望んでいないことと関係があるかもしれない。

さらに I事務系職員との関係」も有意な影響を及ぼしているが, これは外来担

当看護婦は医療サービスのデリパリー・プロセスにおいて事務系職員との接触

(受付け及びカルテの受渡し)が多いことと関係があると考えられる。

このように職種によってそれぞれの総合満足度に影響を及ぽす要因が異なっ

(27) 医療サービス提供組織はプロブエツションとそれを支援する一般職から構成される,

複合型あるいは合衆悶型組織である(藤村, 1994)。田尾(1995,PP 74-76)によると,プロ

フzッションとは単に高度の知識や技術を必要とする職業ではなく,理念的には以下の

ような特徴を備えた職業である。

(a)専門的知識・技能の修得

体系的な高等教育を受けることで高度な知識や技能を修得しており, fiつそれを実

際に活用できる。この専門的知識・技能はそれを修得していない一般の人々に対して

専門的な権威を生み出している。

(b)自律性

専門的な権威によって組織内の公式的権限関係から離れ,自らの職業上の要請に

従って相対的に自由に職務を遂行できる。この自律性は独自の文化と行動規範を生

み出す傾向があり,同業者内の結束を促している。

(c)仕事へのコミットメント

仕事は金銭的報酬を得るための手段ではなしそれ自体が目的であり,それ自体のた

めに働くように内発的に動機づけられている。

(d)同業者への準拠

組織内の他の職種の従業員よりも外部の同業者集団との関係を重視し,それに準拠

する。その結果,外部の規範が彼らの意思決定や行動を強く律し,組織の公式的規律

の無視や軽視が行われることがある。例えば医師の場合,その勤務する病院よりも彼

らの出身大学の医局に関心が向けられる傾向がある。

(e){j命理性

専門的知識や技能がもたらす権威の行使は独自の倫理性に基づいて拘束される。

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

743 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・

生産性の関係についての理論的・実証的考察 93

ていることから,管理のあり方や勤務条件などを各職種の従業員のニーズに合

わせて変えていくことが必要とされるであろう。

【医師と看護婦の総合満足度聞の関係]

表IY-9は,外来担当医師の総合満足度と外来診療に対する満足度,外来担当

看護婦の総合満足度と外来看護に対する満足度の平均値を所属診療科別に分析ω

したものである。また,図IY-1は医師及び看護婦の満足度の関係を散布図に描

いたものであるが,両者の総合満足度聞においても,医師の外来診療に対する

満足度と看護婦の外来看護に対する満足度聞においても負の相関関係が見られ

る。すなわち,各診療科における医師の総合満足度や外来診療に対する満足度

が高くなるほど,看護婦の総合満足度や外来看護に対する満足度は低下してい

る。但し,この分析には,各診療科に属する医師及び看護婦数が少ないとか,

分析対象の診療科数が少ないという問題がある。

表IY-10と図IY-2は,入院担当の医師と看護婦について同様な分析を行った

結果である。入院担当の医師と看護婦については,総合満足度聞には負の相関

関係が見られるものの,入院診療に対する満足度と入院看護に対する満足度聞

には明確な関係は見られない。

外来担当においても入院担当においても医師と看護婦の総合満足度聞に負の

相関関係が見られるが,その原因としては以下のようなことが考えられる。

第 1の原因としては,医療サービスのデリパリー・プロセスでは医師は判断業

務に傾いており,現場での具体的なルーティン業務は主に看護婦が担当させら

れているということがあると考えられる。デリパリー・プロセスにおける医師の

労働が頭脳労働に傾くほど医師の専門的知識に基づく権威は高まるが,医師の

周辺的肉体労働が看護婦に移転されることで,看護婦の肉体的労働は増加し,

肉体的・精神的ストレスも過多に負荷される(田尾, 1995)。この結果として,医

師の職務に対する総合満足度は高まり,それに反比例するかたちで看護婦のそ

(28) 総合満足度及び外来診療・看護に対する満足度はいずれも, 1 =r不満足であるJ~5 =

「満足である」の 5点尺度で聴取している。

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

-94ー 香川大学経済論叢 744

表IV-9 外来担当の医師と看護婦の満足度(診療科別)

外来担当医師 外;肘11、Jill護婦

診 療 科総合満足度

外来診療に対総合満足!文

外来看護に対する満足度 する満足度

[AJ科 3.83 (12) 3..42 (12) 2.83 (12) 2.69 (13)

神経科 4.50 (2) 3..50 (2) 3..00 (1) 300 (1)

小児科 4.00 (4) 400 (4) 3..50 (2) 2.50 (2)

外科(脳外科) 4.33 (6) 4..33 (6) 2.50 (2) 5..00 (1)

皮膚科 500 (1) 3.00 (1) 3.00 (1) 3..50 (2)

産婦人科 4..00 (7) 414 (7) 3.50 (4) 3. 00 (2)

眼科 3..00 (1) 4.00 (1) 3.50 (2) 350 (2)

耳鼻咽喉科 5..00 (2) 3..00 (2) 3..50 (2) 3.50 (2)

泌尿器科 3..50 (2) 4.00 (2) 4..00 (1) 3..00 (1)

注)カッコ無し数字は診療科別の満足度の平均値であり,カッコ付き数字は回答者数である。尚,各満足度は, 1 = r不満足であるJ ~ 5 = r満足である」の 5点尺度で聴取している。

タト来 45担

当看

橿

揖 35の輯

足 25度

2

2 25

.

.

35 45

〈外来担当医師の輯合満足度〉

来 5I~ 当看 45

掃 4のタト晃i35 看

瞳 3

対す 25

満 2.@ 直〉

2.5

.

1・・ 、¥ ・ ・・、、、・

、¥ ・ノ

35 45

〈外来担当医師の外来睦療に対する満足直〉

図IV-l 外来担当の医師と看護婦の満足度の関係(診療科別)

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

745 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察

表IV-l0:入院担当の医師と看護婦の満足度(病棟別)

入院担当医師 入院111、lHi・議婦

病 棟総合満足度

入院診療に対総合満足度

入院看護に対する満足度 する満足度

本館4階 3..80 (17) 3..95 (17) 3..35 (23) 3.10 (20)

本館5階 3.43 (22) 3.26 (22) 3..54 (13) 3.00 (11)

来館2階 4..32 (17) 4.19 (17) 250 (14) 290 (10)

東館3階 345 (9) 382 (9) 3.06 (16) 291 (11)

来館4階 3. 33 (12) 3.17 (12) 3..00 (17) 288 (16)

東館5階 3..35 (19) 3.26 (19) 3.07 (15) 3..00 (10)

東館6階 4..03 (15) 3.12 (15) 3.00 (10) 267 (9)

-95-

注)カツコ無し数字は病棟別の満足度の平均値であり,カッコ付き数字は回答者数である。尚,各満足度は, 1 = r不満足である J ~ 5 = r満足であるJ の5点尺度で聴取している。

院〈 担入 当院 45 看 45担 薗当 4 掃看 の瞳 。 入掃 35 院 35σコ

I十Jr.・・.、・/、1 輯 3 績 3会

満対Lするこ 25

足 25度

2 満 2

2 25 35 45 足 2 2.5 35 4 45 度

{入院担当医師の韓合満足度} 〉 〈λ院担当医師のλ院酔曜に対する満足度〉

図IV-2 入院担当の医師と看護婦の満足度の関係(病棟別)

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

-96'- 香川大学経済論議 746

れは低下しているのかもしれない。

第 2の原因としては,医療サービス提供組織内にはプロフェッションの階層

構造が存在しているために,医師が看護婦の意思決定や行動を制約していると

いうことが考えられる。田尾(1995)によると,プロフェッションとは脚注(27)

のような特徴を備えた職業であり,それらの特徴を保有する程度によりフルプ

ロブエツション(完成された専門職),セミプロプエツション(準専門職),パラ

プロフェッション(補助専門職)に区分され,組織内においてこれらは階層構造

をなしている。病院の場合,フノレプロフエツションは医師,セミプロブエツショ

ンは看護婦や医療技術者,パラプロブエツションは看護助手や付添婦などであ

る。医師はピラミッドの頂点に位置し,看護婦や医療技術者に周辺的な肉体労

働や雑事を移転するとともに彼らの意思決定や行動を制約し,看護婦や医療技

術者も現場労働や雑事を看護助手や付添婦に委ねるとともに彼らの意思決定や

行動を制約するという,階層構造が組織内に形成されている。

この階層構造のために,医師は医療サービスのデリパリーにおいて中心的役

割を果たし,独自の判断で行動できるだけでなく,看護婦の行動をもコントロー

ルできる。一方,看護婦は医師の指示内で判断や行動をせざるを得なく,コン

トローJレされているという感覚が存在しているであろう。このコントロールを

行う側とされる側の関係(あるいは主従的,上下的関係)がそれぞれの職務に対ω)

する総合満足度に反映し,負の相関関係を生じさせているのかもしれない。

第 3の原因としては,プロフエツションの階層構造のために,看護婦は医師

の指示を仰ぎ,彼の制約を受けながら現場業務を行うが,現場の具体的状況は

(29) サービス・デリパリー・プロセスあるいはエンカウンターの過程で顧客や従業員が知覚

する状況に対するコントロール水準は,知覚コントロール (perceivedcontrol)と呼ばれ

ている。この知覚コントロールは人的相互作用における満足にとって必要不可欠であり,

顧客及び従業員がそれぞれに持つ知覚コントロール程度はそれぞれの満足度(顧客にお

いてはサービスに対する満足度,従業員においては職務満足度)を高める重要な要因であ

る(Bateson,1991)。これは,人間は環境の中に多くのコントローJレがあると知覚したとき

の方がよりポジティブに感じ,行動する傾向があるからである (Proshansky,Ittelson

and Rivlin, 1974)。尚,知覚コントロールは必ずしも行動的なコントロールを伴っている

とは限らない。詳細は藤村(1995b)を参照のこと。

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

747 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -97-ー

その指示や制約内では対応できないことが多いということがあるかもしれな

い。また,現場において処置が患者にとって適切ではないと判断しても,医師

の指示を拒否することが難しいかもしれない。このような状況のために葛藤が

生じ,看護婦の職務に対する総合満足度は低下しているということも考えられ

る。

第 4の原因としては I医師と看護婦間の人的相互作用あるいはコミュニ

ケーションの機会が多くなるほど,看護婦の医師との葛藤が多くなる(田尾,

1995 p引 103)Jということが生じていることが考えられる。人的相互作用は好意

的な関係を生み出す反面で,競合や対立関係も生み出すが,このことが医療サー

ビスのデリパリー・プロセスにおいて看護婦の葛藤を増加させ,医師と看護婦の

総合満足度聞に負の相関関係を生じさせているということも考えられる。

いずれの理由によるにしろ,両者の総合満足度聞に負の相関関係が見られる

ということは,医療サービスのデリパリー・プロセスにおける協働関係に歪みが

生じているということである。短期的には,この歪みはどのような影響も及ぼ

さないかもしれないが,長期的には,デリパリーの効果的且つ効率的な遂行を

阻害して患者の総合満足度を低下させるだけでなく,職員の勤務継続意向も低

下させて離職率を高める危険性を苧んでいる。このことは利益の減少とコスト

の増大を招くため,各従業員のプロフェッションの程度(あるいはプロブエツ

ションの階層構造における位置),そのことがもたらす意思決定や行動に対する

制約の程度,先に分析した総合満足度に影響を及ぼしている要因などを考慮す

ることで,各職種の従業員がそれぞれに満足できるような方策が計画・実施さ

れなければならないであろう。

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98 香川大学経済論叢 748

V.顧客満足・職務満足・生産性の関係を医療サービスにおいて検証

II章で顧客満足,職務満足,生産性の聞に存在するであろう循環的影響関係

について詳細に検討したが,理想的な状況では,タイムラグはあるが三者聞に

は図V-lの(A)のようなポジティブな循環的影響関係が存在すると考えられる。

但し,生産性の上昇によって導かれた収益増加分の一部が,サービス品質向上

のための投資原資や職務環境や条件改善のための投資原資と活用された場合に

おいてのみ成立する影響関係である。もしそのような投資が適切Eつ積極的に

実施されないならば,このような循環的影響関係は分断されてしまうであろう。

本章では,前章での顧客満足及び職務満足の分析に基づいて,病院における

医療サービスのデリパリーにおいてこのような望ましい三者間の関係が存在す日目

るのか,あるいは存在しない場合にはどのような要因が影響しているのか,を

実証的に検討していきたい。尚,この関係分析は「オペレーション」レベルと

III章で提示した「場面」レベノレの両方で行いたい。

(A)顧客満足 υ 職務満足 生産性の関係 (B)顧客満足職務満足 コストの関係

図V-l 三者聞の理想的な関係

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

749 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -99-

しかしながら,重大な問題として,医療サービスの生産性の指標として適切

なものが開発されていないということがある。そこで以下の分析では,生産性

の代わりに ABCの適用によって計算されたコストを用いることにする。この

代用のため,理想的な状況での顧客満足,職務満足,生産性の聞の循環的影響

関係は,図V-lの(B)のような顧客満足,職務満足,コストの関係に書き換える

ことができるであろう。尚,今回の分析ではこのようなコストを用いているこ

とや,またタイムラグを考慮していないことから,顧客満足及び職務満足から

のコストへの影響については十分な分析ができないであろう。

1 オペレーション・レベルでの三者聞の関係

ここでのオペレーションとは,サービス・デリパリー・システムに内包されて

いる,利益管理単位としてサービスをデリパリーするために組織化されたシス

テムを意味している。このようにオペレーションを定義するならば,一つのサー

ビス提供組織が複数のサービスをデリパリーしており,各サービスごとに利益

(30) 顧客満足,職務満足,生産性の間にポジティブな影響関係が成立するかどうかは,様々

な要因に依存していると考えられる。例えばJTBの調査によると, JTBの営業所の収益

性と顧客満足との聞には負の相関関係が見られたということである。ターミナル駅前の

ような利便性の良い場所に立地する営業所は,収益性は高いが顧客満足度は低く,逆に,

立地条件の惑い営業所は,収益性は低いが顧客満足度は高いとのことである。このような

ことは,駅前庖のような立地条件の良い営業所では,次から次へと訪れる来庖客を捌くの

に精一杯で個々の顧客に十分な時間をかけて対応することができないが,立地条件の悪

い営業所では,来!吉客が少ないために個々の顧客に十分な時聞をかけて彼らの個々の

ニーズに応えられることから生じている(関西生産性本部主催の第2期中之島フォーラ

ム(第 6図例会)での,側日本交通公社CS推進室長永田英雄氏の講演 iJTBにおけるカ

スタマー・サティスフアクションの取車Eみ」より)。

この JTBの例の場合には,顧客の選択意思決定過程における買回コストや利便性の重

視が顧客満足と収益性との聞に負の相関関係を生み出していると考えられる。このよう

なことは顧客満足,職務満足,生産性の間の関係にも生じる可能性は大きいであろうか

ら,三者聞にポジティブな関係が存在するかどうかだけでなく,関係の成立に影響を及ぽ

す要因の考察も重要である。

(31) 医療サービスへの ABC適用とそれによるコスト分析は,社会経済生産性本部のサービ

ス企業生産性研究委員会において実施したものである。しかし,この分析は横浜国立大学

大学院生の小林仁氏が中心となって行ったものであるので,ここでは分析結果の一部だ

けを三者聞の関係分析に利用させてもらうことにする。医療サービスへの ABCの適用と

コスト分析の詳細は小林(1996)を参照のこと。

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

10ひー 香川大学経済論叢 750

責任と管理体制が明確にされている場合には,その組織はデリパリーしている

サービス数だけオペレーションを保有していると考えることになる。そして,

それらの複数オペレーションすべてを包含したものがそのサービス提供組織の

サービス・デリパリー・システムということになる。例えば,ホテルがその提

供しているサービスを宿泊サービス,宴会サービス,飲食サービス,小売りサー

ビスという形に分割し利益管理を行っている場合には,このホテノレは 4つの

サービスとそれをデリパリーするための 4つのオペレーションをそのサービス

提供システム内に持っていることになる。これとは対照的に,サービス提供組

織がその提供しているサービスについて単一の利益管理しか行っていない場合

には,その組織は一つのサービスとそれをデリパリーするための一つのオペ

レーションしか持っていないということになる。

オペレーションをこのように定義するならば,今回の調査対象病院では,外

来では各診療科が,入院では各病棟がそれぞれ一つのオペレーションを形成し

てしユることになる。

(1) 外来におけるオペレーション・レベルでの三者聞の関係

外来における診療科(オペレーション)別の顧客満足,職務満足,コストのω

関係を分析したのが表V-lであり,その散布図が図V-2である。尚,医師及

び看護婦の二者を分析対象として取り上げたのは,第 1節での分析結果から明

らかなように,外来患者の総合満足度に対して両者が重要な役割を果たしてい

るからである。さらに,単位コストにおいて医師の外来診療及び看護婦の外来

看護・診療補助にかかるコストが比較的大きな割合を占めているからである。

図V-2の散布図をみると,患者の総合満足度と医師の総合満足度の聞には正

の相関関係が見られ,患者の総合満足度と看護婦の総合満足度の聞には負の相

関関係が見られる。つまり,外来担当医師の職務にかかわる総合満足度が高く

(32) 顧客満足の測度にはIV章で分析した外来患者の総合満足度を,職務満足の測度にもIV主主で分析した外来担当の医師及び看護婦の職務にかかわる総合満足度を用いている。ま

た,単位コストとは,一人の患者にー聞の医療サービス(受付から,診療を終えて会計を

済ませるまで)を提供するのに必要なコストである。

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

751 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -101

なるほど外来患者の総合満足度は高くなり,逆に,外来担当看護婦の職務にか

かわる総合満足度が高くなるほど患者の総合満足度は低くなる傾向がある。尚,

このように患者の総合満足度に対して医師と看護婦それぞれの総合満足度が逆

の関係となっているのは, IV章で明らかにしたように,医師と看護婦の職務に

かかわる総合満足度の聞には負の相関関係が存在しているからである。

また,患者の総合満足度と単位コストの関係をみると,二つの相反する関係

の可能性を読み取ることができる。一つの関係は 8診療科全体の平均単位コ

ストを基準としてそれ以上のコストのかかっている診療科(内科,外科,泌尿

器科,神経科)とそれ以下のコストしかかかっていない診療科(眼科,耳鼻咽

喉科,小児科,産婦人科)のニグループに分けると,各グループにおいて患者

の総合満足度と単位コストの聞には負の相関関係が見られるというものであ

る。もう一つの関係はその逆で,全体でみると,外れ値はあるが正の相関関係

が見られるというものである。しかし,どちらの関係が存在する可能性が高い

のかは,分析単位(診療科)数が少ないので判断することはできない。また,

表V-l 外来における患者・医師・看護婦の総合満足度及びコスト

外来患者の 外来担当医師 外来担当看護婦 中j,)コスト診 療 科 総合満足度 の総合満足度 の総合満足度 (1 'j)

内科 3.78(274) 3..83 (12) 2..83 (12) 18,953

神事正科 441 (17) 4..50 (2) 3..00 (1) 13,721

小児科 3..95 (73) 4.00 (4) 3.50 (2) 7,588

外科(脳外科) 439 (46) 4.33 (6) 2.50 (2) 15,838

産婦人科 3..91 (121) 4..00 (7) 3.50 (4) 4,768

眼科 368 (28) 3.00 (1) 3.50 (2) 11,884

耳鼻咽喉科 3..61 (28) 5..00 (2) 3.50 (2) 10,276

泌尿器科 418 (22) 3..50 (2) 4.00 (1) 14,792

注1)総合満足度におけるカッコ無し数字は,各診療科を主に受診している外来愚者の総合満足度の平均値,各診療科で外来を担当している医師及び看護婦の職務にかかわる総合満足度の平均値である。カ yコ付き数字は回答者数である。但し,満足度は「不満足であるJをr1 J, r満足であるJをr5Jとする, 5点尺度で聴取している。

注2)単位コストとは、外来患者一人に医療サービスを 回(あるいは 1日)提供するのにかかるコストである。このコストには,受付から,診療を終えて会計を済ませるまでにかかるすべてのコストが含まれている。

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

752 香川大学経済論叢-102-

外来世者の総合満足度と外来担当医師の

4量J総合満足度との関係にかかわる分布傾向

外来患者の総合満足度と外来担当看護婦の

ぶ--ー総合満足度との関係にかかわる分布傾向

• 4..5

4

3

35

〈外来担当医師/看稽婦の総合満足度〉

2.5

2

2 5

、1大

45 4

(外来患者の総合満足度〉

35 3 2.5

(円)

20,∞o

18,∞o

E会 16,∞o療

科 14ぷ)0別

2は側

3lo,側

i8.附

6,∞o

4,∞o

2;α)0

5 4..5 4 3..5 3 25

0

2

〈外来患者の総合満足度〉

-診療科別の外来患者の総合満足度と外来担当医師の総合満足度の関係

血診療科別の外来患者の総合満足度と外来担当看護婦の総合満足度の関係

・診療科別の外来患者の総合満足度と単位コストの関係

図V-2:外来における患者・医師・看護婦の総合満足度及びコストの関係(診療科単位)

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753 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -103

誌面の制約上,図は掲載していないが,単位コストと医師及び看護婦の総合満

足度の聞にも明確な関係は見られなかった。

以上のようなことから,外来における患者の総合満足度,医師及び看護婦の職

務にかかわる総合満足度,単位コストの関係をまとめると図V-3のようになる。

図V-3 外来における満足度とコストの関係

(2) 入院におけるオベレーション・レベルでの三者聞の関係

入院における病棟(オペレーション)別の顧客満足,職務満足,コストの関郎)

係をみると,表V-2のようになる。図V-4はその散布図である。

図V-4の散布図をみると,J患者の総合満足度と看護婦の総合満足度の聞には

正の相関関係が見られ,患者の総合満足度と医師の総合満足度の間には負の相

関関係が見られる。この結果は外来において見られる関係とは逆のものとなっ

ている。しかし,患者の総合満足度に対して医師と看護婦それぞれの総合満足

(33) 顧客満足の狽tl度にはIV章で分析した入院患者の総合満足度を,職務満足にもIV章で分

析した入院担当の医師及び看護婦の職務にかかわる総合満足度を用いている。

OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ

104 香川大学経済論叢 754

度が逆の関係となっているのは同じである。

また,患者の総合満足度と単位コストとの関係をみると,外れ値はあるが正

の相関関係が見られる。つまり,単位コストが高くなるほど,入院患者の総合

満足度は高くなる傾向がある。尚,図は掲載していないが,単位コストと医師

及び看護婦の総合満足度の聞には明確な関係は見られなかった。

以上のようなことから,入院における患者の総合満足度,医師及び看護婦の

総合満足度,単位コストの関係をまとめると図v-5のようになる。

外来においても入院においても,医師の総合満足度と単位コストの間,看護

婦の総合満足度とコストの聞には明確な関係は見られなかった。しかし,外来

においては患者と医師の総合満足度の聞に,入院においては患者と看護婦の総

合満足度の聞に正の相関関係が見られる。このような関係が生じた理由として

は,以下のようなことが考えられる。

表V-2 入院における患者・医師・看護婦の総合満足度及びコスト

入院患者の 入院担当医師 入院担当看護婦 単位コストf対 棟 総合満足度 の総合満足度 の総合満足度 (1リ)

本館4階 4..12 (17) 380 (17) 3..35 (23) 82,033

本館5階 4..17 (23) 343 (22) 3.54 (13) 56,392

東館2階 3.94 (17) 4..32 (17) 2.50 (14) 59,153

来館3階 3..89 (19) 345 (9) 3..06 (16) 40,908

東館4階 4..08 (12) 3.33 (12) 300 (17) 56,376

来館5階 4..61 (18) 3.35 (19) 3.07 (15) 53,018

東館6階 3.95 (19) 4..03 (15) 3.00 (10) 47,745

主主 1)総合満足度におけるカッコ無し数字は,各病棟に入院している患者の総合満足度の平均値,各病棟の入院患者を担当している医師及び看護婦の職務にかかわる総合満足度の平均値である。カッコ付き数字は回答者数である。但し,満足度は「不満足であるJ をr1 J, r満足である」を r5 J とする, 5g}そ度で聴取している。

注 2)単位コストとは、入院患者一人に医療サービスを一日提供するのにかかるコストである。

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-105-サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察755

入院忠者の総合満足度と入院担当医師の

"総合満足度との関係にかかわる分布傾向

ー一一入院患者の総合満足度と入院担当看護婦の

総合満足度との関係にかかわる分布傾向

5

4

35

4.5 〈入院担当医師/看穫婦の総合満足度〉

li--!lili

2.5

5 45 4 35 2.5

2

2

〈入院患者の総合満足度〉(円)

90,0∞ 80,0∞

病 70.0∞棟

別のω,0∞単

位 50,0∞コ

〉脚30,0∞

20,0∞

10,0∞

5 4..5 4 35 3 25

0

2

(入院患者の総合満足度〉

-病棟別の入院患者の総合満足度と入院担当医師の総合満足度の関啄、

A 病棟別の入院患者の総合満足度と入院担当看護婦の総合満足度の関係

・病棟別の入院患者の総合満足度と単位コストの関係

図V-4 入院における患者・医師・看護婦の総合満足度及びコストの関係(病棟単位)

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-106- 香川大学経済論議. 756

①サービス・エンカウンター過程で職務満足が顧客満足にポジティブな影響

を及ぽした。

IV章で患者の総合満足度に有意な影響を及ぽす要因を明らかにしたが,

最も大きな影響を及ぽすのは治療成果であり,次に大きな影響を及ぼすの

は患者との間で時間的あるいは頻度的に多くサービス・エンカウンターを

展開する従業員の態度や行動であった。その従業員とは,外来患者の場合

には医師であり,入院患者の場合には看護婦であるが,本章の分析におい

ても,外来患者の場合には医師の総合満足度と,入院患者の場合には看護

婦の総合満足との聞に正の相関関係が見られた。

このことから,外来においては,診療という医師と患者間のサービス・

エンカウンタ一過程で医師の職務満足が彼らの態度や行動に反映され,患

者の満足に対して影響を及ぼしているということが考えられる。入院にお

いても同様に,看護という看護婦と患者聞のエンカウンター過程で看護婦

の職務満足が彼女たちの態度や行動に反映され,患者の満足に影響を及ぽ

図V-5 入院における満足度とコストの関係

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757 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -107-

しているということが考えられる。このような因果関係で分析結果のよう

な関係が形成されているならば,この関係は理想的なものである。

~他の要因によって偶然の一致(疑似相関)が導かれた。

IV章の分析で明らかにしたように,医師と看護婦の総合満足度聞には,

プロフェションの階層性によって導かれたと考えられる,負の相関関係が

存在していた。そのため,患者の総合満足度と医師あるいは看護婦の総合

満足度の関係を分析した場合,疑似相闘が発生する可能性が高くなる。つ

まり,他の要因によって導かれた偶然によって患者と医師の総合満足度閣

に負の相関関係が見られるならば,患者と看護婦の聞には正の相関関係が

見られることになる。同様に,偶然によって患者と看護婦の総合満足度聞

に負の相関関係が見られるならば,患者と医師の聞には正の相関関係が見

られることになる。このように他の要因によって患者や医師,看護婦の総

合満足度が決定されており,疑似的に相関関係が見られているという可能

性もある。そのため疑似相関の可能性を確認する必要があるが,今回の分

析では,分析対象のオペレーション数が少ないことから十分にできなかっ

た。

③医師と患者聞における医療サービス品質に対する評価ギャップによって導

かれた。

1994年にも他の病院で同様な調査を実施したが,その過程である医師か

ら以下のような話があった。

「手術がうまくいき心配ないと思うと,医師はその患者のところにあまり足を運ばな

いので患者は満足しない。また,手術がうまくいくと,治療が少なく患者は早く退院

するので収益性が低い。逆に,手術が困難で合併症などが生じた患者に対しては,医

師も心配なので何度も足を運ぶので患者は満足する。さらに,そのような患者に対し

ては様々な治療を行うので収益性も高い。J (藤村, 1995 d, p 69)

今回の入院患者においても,このような現象が起こっている可能性があ

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-108ー 香川大学経済論叢 758

る。このような現象が生じた場合,医師の職務満足は手術や治療の成果で

高まるが,入院患者の満足はそのような職務満足が導く医師の態度や行動

によって低下する。逆に,医師の不安は彼の態度や行動を通じて入院患者

の満足を高めるだけでなく,収益性も高める。今回の入院に関する分析で

も,患者と医師の総合満足度聞には負の相関関係が,患者の総合満足度と

単位コストの聞には正の相関関係が見られることから,これと同じような

現象が起こっている可能性がある。従って,患者と医師の総合満足度聞に

見られる負の相関関係の方が現実に起こっている現象であり,患者と看護

婦の総合満足度聞に見られる正の相関関係は,医師と看護婦の総合満足度

聞に負の相関関係が存在することによって発生している疑似相関であると

考えることもできる。

他にも理由は考えられるであろうが,いずれにしても今後の継続的調査に

よって,どのような理由で今回のような関係が生じているのかを確認していく

必要がある。その結果, II章で提示したようなかたちで顧客満足と職務満足の

聞にポジティブな影響関係が存在し,外来の場合には患者と医師の総合満足度

聞に正の相関関係が生じ,入院の場合には患者と看護婦の総合満足度聞に正の

相関関係が生じているならば,これらの関係は理想的なものである。

2.場面レベルでの三者聞の関係

次に,場面レベルでの顧客満足,職務満足,コストの聞の関係を分析してい

きたい。尚,各場面に対する顧客満足及び職務満足はその場面の品質にかかわ

る複数の測度で測定していることから,各満足度の値には複数指標の平均値を

用いている。

(1 ) 場面を単位とした三者聞の関係

外来の場面としては外来診療場面,外来看護(あるいは診療補助)場面,検

査場面,受付・会計場面を取り上げ,入院の場面としては入院診療場面,入院

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759 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・

生産性の関係についての理論的・実証的考察 -109-

看護場面,検査場面,受付・会計場面を取り上げ,それらを一つの単位とする

ことで,顧客満足,職務満足,コストの関係を分析していきたい。

各場面における顧客満足,職務満足,コストの関係は表v-3の通りであり,(3~

その散布図は図v-6である。図v-6をみると,各場面に対する患者と関係従

業員の満足度の聞には正の相関関係が見られ,患者の満足度は関係従業員の満

表V-3 各場面における患者・関係従業員の満足度及びコスト

場 面 患者の満足度 関係従業員の満足度 単{、7コスト<f'1l

外来診療場面 4.05 (541) 3.51 (34) 5,634

外来看議場面 3..94 (549) 3. 22 (23) 2,259

入院診療場煽 4..14 (106) 349 (25) 6,352

入院看議場面 409 (121) 3.14 (95) 33,965

検査場面 4..01 (589) 345 (34) 1,965

受付 会計場面 3.75 (769) 283 (6) 818

注])患者及び関係従業員の満足度におけるカ yコ無し数字は各場面に対す

る満足度の平均値,カッコ付き数字は回答者数である。但し,満足度は「不満足である」を r1 J, r満足である」を r5 J とする, 5点尺度で

聴取している。また,各場面に対する満足度は複数の指標で測定してい

るので,満足度は複数指標の平均値である。注2)単位コストとは、各場面において患者一人当りにかかったコスト寸あ

る。

注3)外来診療及び外来看護婦場面に対する満足度は、 8診療科(内科,神経

科,小児科,外科,産婦人科,眼科,耳鼻咽喉科,泌尿器科)の中の一つを主に受診している外来患者とそれらの科を担当している戦貝(医師,看護婦)の満足度の平均値である。

注4)入院診療場面に対する満足度は, 7病棟(本館4,5 階,東館 2~6 階)

に入院している患者で 7診療科(内科,小児科,外科,産婦人科,眼科,

耳鼻咽喉科,泌尿科)の中の一つを主に受診している患者とそれらの科を担当している医師の満足度の平均値である。

注5)入院看護婦場面に対する満足度は, 7病棟(本館4,5 階,東館 2~6階)に入院している患者とそれらの病棟を担当している看議婦の満足度

の平均値である。注6)検査場面及び受付・会計場面に対する満足度は,外来及び入院患者の

満足度の平均値である。

(34) 職務満足の測度としては,外来診療と入院診療の場面についてはそれらを担当してい

る医師の各場面に対する満足度を,外来看護と入院看護の場面についてはそれら担当し

ている看護婦の各場面に対する満足度を,検査場面については患者との接触がある医療

技術者のその場面に対する満足度を,受付・会計場面についてはそれらの職務を担当して

いる事務系職員のその場面に対する満足度を用いている。

顧客満足の測度としては,各場面を経験している患者のそれらの場面に対する満足度

を用いている。また,単位コストとは,各場面において一人の患者にかかるコストである。

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110-ー 香川大学経済論叢 760

5

〈各場面に対する関係従業員の満足度〉

4.5

4

35 /1・1J ・II ・Ii・ /

3

25

2

2 2..5 3 35 4 4.5 5

(J斗)

35,000

〈各場面に対する患者の満足度〉

• 各 30,000

に 25,000お

る 20,000怠

一 15,000人当

り 10,000の

コス

4.5

5,000

0

2 2.5 3 3引5 4 5

〈各場面に対する患者の満足度〉

図V-6:;場面を単位とした患者・関係従業員の満足度及びコストの関係

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761 サービス提供品回哉における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -111-

足度が高くなるほど高くなっている。また,各場面に対する患者の満足度と単

位コストの聞にも正の相関関係が見られる。尚,図は掲載していないが,各場

面に対する関係従業員の満足度と単位コストとの聞にも正の相関関係が見られ

-r~

"-..。

これらの関係をまとめると図V-7のようになる。患者と関係従業員聞の満足

関係は理想的なものであるが,単位コストと患者及び関係従業員の満足度の関

係はそうではなかった。尚,このような関係が生じている理由としても様々な

ものが考えられるが,疑似相闘が存在しているかどうかの確認は今後の研究課

題である。

図V-7 場面を単位とした満足度とコストの関係

(2) 外来診療・看護場面における三者聞の関係

次に,外来診療場面と外来看護場面について,診療科を単位として顧客満足,

職務満足,コストの関係を分析していきたい。尚,外来診療場面には外来患者

と外来担当医師がかかわっていることから,満足度の関係は両者の聞で分析す

る。同様に,外来看護場面には外来患者と外来担当看護婦がかかわっているこ

とから,満足度の関係は両者の間で分析する。外来診療及び外来看護場面にお

ける三者の関係は表V-4の通りであり,その散布図は図V-8と図V-gであ

る。

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-112- 香川大学経済論議 762

外来診療場面については,その場面に対する患者の満足度,医師の満足度,

その場面にかかるコストの関係を分析しているが,患者と 医 師の満 足度 の間及

び患者の満足度と単位コストの聞には正の相関関係が見ら れ る。ま た誌 面の制

約上,医師の満足度と単位コストの関係を示す散布図 を 省略し て いるが ,両 者

の聞にも正の相関関係が見られた。すなわち外来診療場面においては,患者の

表V-4 外来診療・看護婦における患者・関係従業員の満足度及びコスト

外来診療場面 患者の満足度 医師の満足度 単{古コスト叩j)

内科 4..02 (241) 318 (11) 6,607

神経科 442 (16) 350 (2) 7,363

小児科 4..03 (63) 381 (4) 4,841

外科(脳外科) 4.42 (39) 3.75 (5) 9,709

産婦人科 4..03 (111) 3.89 (7) 2,880

眼科 3..65 (24) 3.25 (1) 6,471

耳鼻咽喉科 368 (27) 2.75 (2) 4,623

泌尿器科 4..60 (20) 375 (2) 9,112

外来看護場閥 患者の満足度 看護婦の満足度 単位コスト(円)1

内科 3..79 (246) 2..85 (11) 3,402

神経科 442 (16) 433 (1) 3,348

小児科 3..96 (64) 2.83 (2)

外科(脳外科) 4.29 (43) 333 (2) 2,817 I

産婦人科 4.11 (110) 367 (3) 864

眼科 3..69 (26) 3.67 (2) 3,043

耳鼻咽喉科 3.59 (27) 400 (1) 2,336

泌尿器科 433 (17) 367 (1) 1,880

注1)患者,医師,看護婦の満足度におけるカッコ無し数字は各場面に対する満足度の平均値,カッコ付き数字は図答者数である。但し,満足度は「不満足である」を r1 J, r満足である」を r5 J とする, 5点尺度で聴取している。また,各場面に対する

満足度は複数の指標で測定しているので,満足度は複数指標の平均値である。

注2)外来診療場面における単位コストとは,患者一人に一回の外来診療を提供するのにかかる,医師にかかわるコストである。外来治護婦場面における単位コストとは,患者一人に一回の外来看護を行うのにかかる,看護婦にかかわるコストである。従って,前者のコストには外来看護,検査,受付。会計なとにかかったコストは含まれていなし,後者のコストには外来診療,検査,受付・会計などにかかったコストは含まれていなし」

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763

〈外来診療場面に対する医師の満足度〉

~ 9000 外

診 8000療

場菌 7000

お 6000け

単 5000位

コス 4000卜

サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察

5

-113-

5

5

図V-8 外来診療場面における患者・医師の満足度及びコストの関係(診療科単位)

45

4

35

3

25

2

2 3 25 3.5 4 4.5

(円)

10000

〈外来診療場面に対する外来患者の満足度〉

3000

2000

2 2.5 3 35 4 45

〈外来E会療場面に対する外来患者の満足度〉

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764 香川大学経済論叢

5

4

3

25

4.5

35

〈外来看護場面に対する看護婦の満足度〉

-114-

!

j

l

i

i

5 45 4 35 3 2.5

2

2

〈外来看護場面に対する外来患者の満足度〉(円)

3,500

3,000

2,500

1,000

500

2,0∞

1,500

(外来看護場面における単位コスト〉

5 4.5 4 3.5 3 2.5

O

2

〈外来看謹場面に対する外来患者の満足度〉

図V-9:外来看護場面における患者・看護婦の満足度及びコストの関係(診療科単位)

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765 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -115-

満足度,医師の満足度,単位コストのいずれの二者聞においても正の相関関係

が見られ,先にオペレーション・レベルで分析した,外来における患者の総合

満足度,医師の総合満足度,単位コストの関係と同じような傾向となっている。

このことから,外来においては,医師と患者の聞にポジティブな影響関係が存

在している可能性が強いと考えられる。すなわち,外来担当医師の職務あるい

は診療場面に対する満足度は,彼らの態度や行動を通じて患者の満足度に影響

を及ぽす傾向があると考えられる。

外来看護場面については,その場面に対する患者の満足度,看護婦の満足度,

その場面にかかるコストの関係を分析している。この場面については,分析単

位である診療科を患者満足度の高低によって二つのグループに分けることがで

きそうである。患者の外来看護に対する満足度が比較的低いグループには耳鼻

咽喉科,眼科,内科が含まれ,比較的高いグループには神経科,泌尿器科,外

科,産婦人科,小児科が含まれている。患者満足度の低いグノレープでは,外来

看護場面に対する患者と看護婦の満足度聞に負の相関関係が,患者の満足度と

単位コストの聞に正の相関関係が見られる。一方,患者満足度の高いグループ

では,患者と看護婦の満足度聞及び患者の満足度と単位コスト聞において正の

相関関係が見られる。尚,誌面の制約上,看護婦の満足度と単位コストの関係

を示す散布図を省略しているが,両者の聞には明確な関係は見られなかった。

この結果及び先の分析結果から,各場面に対してコストをかげること(その場面

での患者と関係従業員のエンカウンターの延長など)は患者のその場面に対す

る満足度を高める傾向があるが,その場面に関係する従業員の満足度が患者の

満足度に影響を及ぽすかどうかは他の要因にも依存していると考えられる。

この外来診療と外来看護における患者の満足度,関係従業員の満足度,単位

コストの関係をまとめると,図V-IOのようになる。

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-116 香川大学経済論議 766

+ and一

{外来診療場面1 [外来看護場面]

図V-l0:外来診療・看護場面における満足度とコストの関係

(3) 入院診療・看護場面における三者聞の関係

ここでは,入院診療場面と入院看護場面について,病棟を単位として顧客満

足,職務満足,コストの関係を分析していきたい。尚,入院診療場面には入院

患者と入院担当医師がかかわっていることから,満足度の関係分析は両者の聞

で行う。同様に,入院看護場面には入院患者と入院担当看護婦がかかわってい

ることから,満足度の関係分析は両者の聞で行う。

入院診療及び入院看護場面における三者の関係は表V-5の通りであり,その

散布図は図V-llと図V-12である。

入院診療場面については,その場面に対する患者の満足度,医師の満足度,

その場面にかかるコストの間に明確な関係は見られない。三者聞に明確な関係

が見られなかったのは, IV章で分析したように,入院患者の総合満足度の決定

において医師が重要な役割を果たしていないことと関係があると考えられる。

入院看護場面については,その場面に対する患者と看護婦の満足度聞には負

の相関関係が見られ,また, J患者の満足度と単位コストの聞には正の相関関係

が見られる。患者と看護婦の満足度の聞に負の相関関係が見られるということ

は,患者の満足度が高くなるほど看護婦の満足度は低下するということである。

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767 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 -117-

このことは,寝たきり患者や重体患者が多く,看護婦の負担が大きいと推測さ

れる病棟においてほど,患者の入院看護場面に対する満足度は高く,逆に看護

婦の満足度は低くなっていることから生じている。例えば東館5階(内科のメイ

ン病棟)は,患者の満足度が最も高く,担当看護婦の満足度は最も低くくなって

いるが,この病棟では 1週間に平均 38..8人の患者を受け持っており,そのうち

15..8人(407%)は寝たきり患者である(日勤一人当り患者数 5..7人)。逆に,東

館 3階(整形外科,小児科,眼科の混合病棟)は患者の満足度が最も低く,看護

表V-5・入院診療・入院看護場面における患者・関係従業員の満足度及びコスト

入院診療場面 患者の満足度 医師の満足度 単f,iコスト(f'j)

本館4階 4..11 (14) 3..70 (12) 10,641

本館5階 403 (19) 3.08 (11) 7,658

来館2階 3..97 (17) 3..74 (6) 5,5∞ 東館3階 442 (9) 357 (10) 6,534

来館4階 442 (12) 3..00 (6) 4,749

来館5階 4.30 (19) 308 (8) 4,515

東館6階 3..87 (13) 306 (13) 4,787

入院看護場面 患者の満足度 看護婦の満足度 単fすコスト(ドj)

本館4階 4..31 (14) 3.23 (22) 51,976

本館5階 4..02 (21) 2..92 (13) 32,667

来館2階 4.02 (18) 3..20 (10) 37,082

東館3階 389 (19) 3..38 (14) 23,377

東館4階 4..18 (11) 3..16 (15) 36,585

東館5階 431 (18) 2..85 (11) 32,924

東館6階 4.02 (16) 3..13 (10) 29,639

注1)患者,医師,看護婦の満足度におけるカッコ無し数字は各場面に対する満足度の平

均値,カ yコ付き数字は回答者数である。但し,満足度は「不満足である」を r1 J,

「満足である」を r5 J とする. 5点尺度で聴取している。また,各場面に対する

満足度は複数の指標で測定しているので,満足度は複数指標の平均値である。

注 2)入院診療場面における単位コストとは,患者一人当りの一日の入院診療にかかっ

たコストであり,入院宥議場面における単位コストとは,患者一人当りの一日の入

院肴護にかかったコストである。尚,前者のコストには入院看護,検査,受付・会

計などにかかったコストは含まれていなし,後者のコストには入院診療,検査,受

付制会計なとにかかったコストは含まれていない。

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768

ノ'..・、、./ -.¥ f ・1

¥.・ ・ー/

香川大学経済論叢

5

4

3

4.5

35

〈入院診療場面に対する医師の満足度〉

-118

i

f

i

l

l

-

-

E

l

i

f

-

-

25

5 4..5 4 3..5 3 2.5

2

2

〈入院診療場面に対する入院患者の満足度〉

8,000

6,000

4,000

2,000

( f1J) 12,000

入 10,000

コスト

5 4..5 4 35 3 25

0

2

〈入院齢療場面に対する入院愈者の満足度〉

図V-ll:入院診療場面における患者・医師の満足度及びコストの関係(病棟単位)

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769 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察

5

入 4.5 院

場 4

M 35 す

看3 護

満 25 足

度〉

2

(円)

60,000

入 50,000院

護場 40,000面

お 30,000け'

単位 20,000

コス

と10,000

O

2

2

25 3 35

I・¥

¥I .・,1・ I¥・ I

4 4.5

〈入院看援場面に対する入院患者の満足度〉

25 3 3.5 4 45

〈入院看護場面に対する入院患者の満足度〉

-119-ー

5

5

図V-12:入院看護場菌における患者・看護婦の満足度及びコストの関係(病棟単位)

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120- 香川大学経済論叢 770

婦の満足度は最も高くなっているが,この病棟では 1週間に平均 32..1人の患者

を受け持つているが,寝たきり患者は 0..8人 (25%)にすぎない(日勤一人当

り患者数 5..0人)。このことから,入院看護という仕事は肉体的・精神的に負担

の大きい労働であるが,入院看護場面に対する患者の満足度は担当看護婦がそ

うした負担を引き受ける程度とともに高まり,逆に看護婦の満足度はそれとと

もに低下する傾向があると考えられる。

入院看護場面では,看護婦の肉体的・精神的犠牲の上に患者満足が成り立って

おり,理想的な関係が成立しているとは言えない。従って,両者の満足関係を

負から正に変えていくような努力が,今後,経営的及び社会制度的になされな

ければならないであろう。

入院診療と入院看護場面における患者の満足度,関係従業員の満足度,単位

コストの関係をまとめると,図V-13のようになる。

[入院診療場面] [入院希議場面]

図V-13 入院診療・看護場面における満足度とコストの関係

3れ 分析結果の要約と検討

本章では,病院における医療サービスを取り上げ,そのデリパリーのオペレー

ション・レベルと場面レベノレで顧客満足,職務満足,コストの聞の影響関係を

分析した。その分析結果を要約すると以下のようになる。

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-121-

①オペレーション・レベルで外来部門を分析した場合,患者の総合満足度と医

師の職務にかかわる総合満足度の聞には正の相関関係が見られたが,患者

あるいは医師,看護婦とコスト聞には明確な関係は見られなかった。

②オペレーション・レベルで、入院部門を分析した場合,患者の総合満足度と看

護婦の職務にかかわる総合満足度の聞には正の相関関係が見られ, また,

(

i

l

l

-

i

サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察771

患者の総合満足度とコストの聞にも正の相関関係が見られた。

③場面を単位として分析した場合,各場面に対する患者満足度,各場面に対

する関係従業員の満足度,コストの間には正の相関関係が見られた。

④外来診療場面について分析すると,外来診療に対する患者と医師の満足度

また,両者の満足度とコストの間にも正の聞には正の相関関係が見られ,

の相関関係が見られた。

⑤外来看護場面について分析すると,外来看護に対する患者と看護婦の満足

度の聞には明確な関係は見られなかったが,外来看護に対する患者の満足

度とコストの聞には正の相関関係が見られた。

⑥入院診療場面について分析すると,入院診療に対する患者と医師の満足度

の聞にも,両者の満足度とコストの間にも明確な関係は見られなかった。

⑦入院看護場面について分析すると,入院看護に対する患者と看護婦の満足

度の聞には負の相関関係が見られ,入院看護に対する患者の満足度とコス

トの聞には正の相関関係が,入院看護に対する看護婦の満足度とコストの

聞には負の相関関係が見られた。

以上の結果からすると,顧客満足と職務満足の聞に明確な関係(理想的な循環

的影響関係であるかどうかは別にして)が見られるかどうかは,その分析対象と

なる従業員が顧客満足の形成において重要な役割を果たしているかどうかに依

存しているようである。すなわち,外来患者の総合満足度に対して有意に重大

な影響を及ぼしているのは治療成果と医師であり,オペレーション・レベノレで

分析しても場面レベルで分析しても,外来患者と医師の満足度の聞には正の相

また,入院患者の場合には治療成果と看護婦がその総合満関関係が見られた。

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-122ー 香川大学経済論叢 772

足に対して有意に重大な影響を及ぼしており,オペレーション・レベルで分析

しでも場面レベルで分析しても,入院患者と看護婦の満足度の間に明確な関係

が見られた。但し,関係の方向は分析レベルで異なっており,オペレーション・

レベルでの分析では両者の聞に正の相関関係が見られ,場面レベルでの分析で

は負の相関関係が見られた。

このことは,デリパリー・プロセスで展開されるヱンカウンターに複数の従

業員がかかわっているようなサービスについて顧客満足と従業員の職務満足の

関係を分析する場合には,顧客とのエンカウンターにかかわっている従業員の

すべてについてその職務満足と顧客満足の関係を分析する必要はなく,顧客の

満足形成において重要な役割を果たしている(顧客満足に対して有意な影響を

及ぼしている)従業員の職務満足と顧客満足について分析すれば十分であるこ

とを示している。さらに,このことは顧客満足の形成において重要な役割を果

たす従業員の職務満足と顧客満足の聞に相互作用関係が存在していることも示

しているであろう。すなわち,顧客満足の形成において重要な役割を果たす従

業員は, IV章で考察したように顧客との聞で時間的あるいは頻度的に顧客と最

も多くエンカウンターを展開する従業員であるので,エンカウンターの過程で

相互に影響を及ぽし合っていることを示しているであろう。

さらに,顧客満足と職務満足の聞に明確な関係が見られた場合においてのみ,

顧客満足あるいは職務満足とコストの聞にも明確な関係が見られたという事実

を考慮するならば,顧客満足,職務満足,コストの聞の関係分析は顧客の満足

形成に有意な影響を及ぽす従業員が登場する場面について分析すれば十分であ

ると考えられる。

しかしながら今回の分析では, II章で仮定したような三者間の循環的影響関

係は必ずしも見られなかった。その原因としては,医療サービスという特殊性

もあるかもしれないが,今回の調査・分析では影響関係のタイムラグを考慮し

ていないということがあるであろう。三者聞に影響関係が生じるにはある程度

の時聞が必要でトある。どの程度の時聞が必要であるかはデリパリーされるサー

ビスの種類や内容,組織の構造・制度・文化,デリパリー・システムやオベレー

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773 サービス提供組織における顧客満足・職務満足・生産性の関係についての理論的・実証的考察 123-

ションの仕組み,などによって違いがあるであろうが,影響が及ぶ時聞を考慮

して調査・分析する必要があると考えられる。

VI.お わ りに

本稿では,サービス・デリパリー・システムの評価は複数指標,特にサービ

ス品質,顧客満足,職務満足,生産性,収益性などで行われるべき必要性とそ

れらの聞の循環的影響関係について論じた。さらに,顧客満足,職務満足,生

産性に絞り,それらの聞の関係について理論的・実証的分析を試みた。また,

指標聞の循環的影響関係を分析するための有用な枠組みが構築されていないこ

とから r場面」概念を提示し,これを用いて分析することの利点と問題につ

いても論じた。指標聞の影響関係の分析と各指標の最適化を目的とした「場

面」概念は未だアイデアの域を出ないものであるが,その利点、を重視して今回

の分析では用いた。

実証は病院における医療サービスを取り上げて行った。尚,医療サービスに

おける生産性概念が確立されていないことから,生産性指標の代用としてコス

トを用いて行った。分析の結果, II章で考察したような関係も一部見られたが,

分析対象数の少なさなどから十分な分析を行えなかったため,そのような関係

がII章で考察したような影響関係によって生じたものなのか,それとも疑似相

関などによって生じたものなのか,を判断することはできなかった。

また,分析過程では,興味深く新たな知見を導いてくれそうな結果も得られ

た。この興味深い結果をさらに深く理論的・実証的に検討するとともに, II章

で考察したような指標聞の循環的影響関係の理論的再考及び実証することが,

今後の研究課題として残された。また r場面」概念が指標聞の関係分析に有

用でありそうなことは確認されたが,未だアイデアの域を出ていないことから,

この概念の精微化も今後の課題である。多くの課題が残されたが,これらは今

後の継続的研究・調査の中で着実に解決していきたい。

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