スポンジを使用した皮膚のたるみ シワによるアーチ...

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22 866日本診療放射線技師会誌 2016. vol.63 no.766 Key words: Elderly, Supine chest radiographs, Skinfold artifact, Sponge cushion SummaryWe sometimes encounter skinfold artifacts, such as curvilinear lines or ill-defined shadows, on supine chest radiographs of the elderly. We investigated the usefulness of placing a sponge cushion between the X-ray table and the patient for the purpose of skinfold artifact reduction and compared the results with artifacts seen on previous chest radiograph. We were able to completely or partially reduce the skinfold artifacts of all 103 patients, which confirmed the utility of the sponge cushion. 【要 旨】 高齢者臥位胸部 X 線撮影では,肺野内皮膚のたるみシワによる円弧状陰影陰影増強などのアーチファクト(以下,皮膚 アーチファクトをしばしば経験する.時画像診断影響えることがあるそこでわれわれはこれら皮膚アーチファクト目的,過去皮膚アーチファクトがられた 103 症例経過観察において,背部にスポンジクッションをいて撮影その有用性について検討をしたその結果,全 103 症例において皮膚アーチファクトの除去効果められたので報告する学 術 Arts and Sciences 資 料 緒 言 胸部X 線撮影における代表的撮影法には立位後 前撮影法,座位前後撮影法,臥位前後撮影法などがあ るが,一般的には診断的情報量立位後前撮影法 選択される 12しかし,高齢者では立位座位保 困難場合があり,臥位体位での撮影余儀なく されることがある.高齢者臥位胸部X 線撮影(以下, 臥位撮影)では,皮膚アーチファクト 134X 線写 むことをしばしば経験する.若年者高齢者皮膚弾力性柔軟性減少,皮膚のたる シワが傾向にあるまた筋肉柔軟性減少,臥位撮影において両背側部撮影台天板との 隙間にたるんだ皮膚,皮膚アーチファクト じやすくなっている.皮膚アーチファクトは,胸 X 線画像において肺野内円弧状陰影陰影増強 としてめられ,時気胸肺炎,胸水などとの鑑別 必要になり,画像診断影響えることがあるそこでわれわれはこれらの皮膚アーチファクト除去 目的,当院医局会承認下,被検者背部スポンジクッションを臥位撮影いその有用性 について検討をした1.方 法 1-1使用機器 使用機器 ,島津製作所社製 X 線撮影装置 UP150L-30E 富士フイルムメディカル株式会社製 imaging plateIPカセッテをいて撮影富士フイルムメディカル株式会社製PROFECT りをった.画像表示,横河医療ソリューシ ョンズ株式会社製画像情報統合サーバーPACSShadeQuest/Serv およびDICOM 画像ビューワー ShadeQuest/ViewR 使用,画像表示モニターは EIZO 株式会社製RadiForce MX270W 使用した1-2.使用スポンジクッション 胸部背部全体うことのできる50cm ×50cm × スポンジを使用した皮膚のたるみシワによるアーチファ クト除去―高齢者臥位X線撮影における評価― The use of sponge cushion for skinfold artifact reduction on the supine chest radiographs of the elderly 柴田 真治 146449) 村上 純滋 2栗原 145513) 久家 一陛 150480黒木 和美 140994) 穴井 章子 1谷口 真帆里 1484811)社会医療法人原土井病院 診療支援部 放射線科 診療放射線技師 2)社会医療法人原土井病院 診療支援部 放射線診断専門医師    Shibata Shinji 146449, Murakami Junji 2, Kurihara Tadashi 145513, Kuge Kazunori 150480, Kuroki Kazumi 140994, Anai Noriko 1, Taniguchi Shiori 1484811Syakaiiryouhoujin Haradoi Hospital, Depart- ment of Medical care supporting, Radiology Radiology Technician 2Syakaiiryouhoujin Haradoi Hospital, Depart- ment of Medical care supporting, Board Cer- tified Diagnostic Radiologist

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Page 1: スポンジを使用した皮膚のたるみ シワによるアーチ …2015年1月1日から10月31日の10カ月間に,当 院X線撮影室で撮影する高齢者(65歳以上)の臥位

22(866)◆ 日本診療放射線技師会誌 2016. vol.63 no.766

Key words: Elderly, Supine chest radiographs, Skinfold artifact, Sponge cushion

【Summary】 We sometimes encounter skinfold artifacts, such as curvilinear lines or ill-defined shadows, on supine chest radiographs of the elderly. We investigated the usefulness of placing a sponge cushion between the X-ray table and the patient for the purpose of skinfold artifact reduction and compared the results with artifacts seen on previous chest radiograph. We were able to completely or partially reduce the skinfold artifacts of all 103 patients, which confirmed the utility of the sponge cushion.

【要 旨】 高齢者の臥位胸部 X線撮影では,肺野内に皮膚のたるみ・シワによる円弧状の陰影や陰影増強などのアーチファクト(以下,皮膚アーチファクト)をしばしば経験する.時に画像診断に影響を与えることがある.そこでわれわれは,これら皮膚アーチファクト除去を目的に,過去に皮膚アーチファクトが見られた 103症例の経過観察において,背部にスポンジクッションを敷いて撮影を行いその有用性について検討をした.その結果,全 103症例において皮膚アーチファクトの除去効果が認められたので報告する.

学 術Arts and Sciences

資 料

緒 言 胸部X線撮影における代表的な撮影法には立位後前撮影法,座位前後撮影法,臥位前後撮影法などがあるが,一般的には診断的情報量の多い立位後前撮影法が選択される1)2).しかし,高齢者では立位や座位保持が困難な場合があり,臥位体位での撮影を余儀なくされることがある.高齢者の臥位胸部X線撮影(以下,臥位撮影)では,皮膚アーチファクト 1)3)4)がX線写真に写り込むことをしばしば経験する.若年者と比べ高齢者は皮膚の弾力性や柔軟性は減少し,皮膚のたるみ・シワが多い傾向にある.また骨や筋肉の柔軟性も減少し,臥位撮影において両背側部と撮影台天板との隙間にたるんだ皮膚が入り込み,皮膚アーチファクト

が生じやすくなっている.皮膚アーチファクトは,胸部X線画像において肺野内の円弧状陰影や陰影増強として認められ,時に気胸や肺炎,胸水などとの鑑別が必要になり,画像診断に影響を与えることがある.そこでわれわれは,これらの皮膚アーチファクト除去を目的に,当院の医局会の承認の下,被検者の背部にスポンジクッションを敷き臥位撮影を行いその有用性について検討をした.

1.方 法1-1.使用機器 使用機器は,島津製作所社製のX線撮影装置UP150L-30Eと富士フイルムメディカル株式会社製imaging plate(IP)カセッテを用いて撮影を行い,富士フイルムメディカル株式会社製PROFECTで読み取りを行った.画像表示は,横河医療ソリューションズ株式会社製の画像情報統合サーバー(PACS)ShadeQuest/ServおよびDICOM画像ビューワーShadeQuest/ViewRを使用し,画像表示モニターはEIZO株式会社製RadiForce MX270Wを使用した.

1-2.使用スポンジクッション 胸部背部全体を覆うことのできる50cm×50cm×

スポンジを使用した皮膚のたるみ・シワによるアーチファクト除去の試み―高齢者の臥位X線撮影における評価―The use of sponge cushion for skinfold artifact reduction on the supine chest radiographs of the elderly

柴田 真治1)(46449) 村上 純滋2) 栗原 央1)(45513) 久家 一陛1)(50480)黒木 和美1)(40994) 穴井 章子1) 谷口 真帆里1)(48481)

1)社会医療法人原土井病院 診療支援部 放射線科 診療放射線技師2)社会医療法人原土井病院 診療支援部 放射線診断専門医師   

Shibata Shinji1)(46449), Murakami Junji2), Kurihara Tadashi1)(45513), Kuge Kazunori1)(50480), Kuroki Kazumi1)(40994), Anai Noriko1), Taniguchi Shiori1)(48481)

1) Syakaiiryouhoujin Haradoi Hospital, Depart-ment of Medical care supporting, Radiology Radiology Technician

2)Syakaiiryouhoujin Haradoi Hospital, Depart-ment of Medical care supporting, Board Cer-tified Diagnostic Radiologist

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4cm(縦×横×厚み)の,表面加工をしていない柔らかいウレタンフォーム(密度16.5kg/m3)を使用した(Fig.1).

1-3.スポンジクッションを使用する期間・条件 2015年1月1日から10月31日の10カ月間に,当院X線撮影室で撮影する高齢者(65歳以上)の臥位撮影において,過去1年以内の臥位胸部X線画像の肺野内に皮膚アーチファクトが写り込んだ症例に対し,スポンジクッションを被検者の背部に敷き撮影を行うこととした.

1-4.X線撮影条件 臥位撮影条件は,実際に臨床に用いている条件とした.撮影条件は94kV,2~4mAs,X線焦点-IP間距離120cmで,グリッド(フォーカス距離120cm,グリッド比8対1,グリッド密度60本/cm)を使用した.

1-5.評価対象・評価方法 評価対象は,期間内にスポンジクッションを使用し

た症例とし,期間内重複症例については,1回目を評価対象とした.評価方法は,過去画像と比較し,皮膚アーチファクトの変化について視覚的評価(皮膚アーチファクトの完全消失・軽減・不変の3段階)を行うこととした.視覚的評価は,放射線診断専門医師1人,診療放射線技師1人による合議決定とした.

1-6.評価症例 期間内にX線撮影室で撮影した胸部X線撮影件数は4,730症例であった.高齢者で1年以内の過去画像に皮膚アーチファクトが肺野内に写り込んだ症例は430症例(9.1%)であった.Fig.2に,年齢別の期間内胸部X線撮影件数に対するクッションを使用した割合を示す.そのうち,重複症例を除外した評価対象は103症例(男性29例,女性74例,平均年齢88.2

±7.8歳,平均体重36.2±6.7kg,平均BMI(body

mass index)16.0±2.7)であった.Fig.3に対象症例のBMI別症例数を示す.

Fig.1 Sponge cushion

Fig.2 Percentage of patients with cushion by age Fig.3 Number of patients with cushion by BMI

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2.結 果 結果をTable 1に示す.皮膚アーチファクトの完全消失は103症例中87症例(84%),軽減ありは16症例(16%),変化なしは0症例であった. Fig.4に,スポンジクッションを用いて皮膚アーチファクトが完全消失したX線像を示す.前回と比べ皮膚アーチファクトが明らかに消失していることが分か

Fig.5 Partial reduction of skin fold artifacts

Fig.4 Complete reduction of skin fold artifacts

る.Fig.5に軽減したX線像を示す.皮膚アーチファクトが肺野外側に移動していることが分かる.

3.考 察 高齢者の臥位撮影において,皮膚アーチファクトが肺野内に写り込むことは一般的に知られており,臨床においてしばしば経験する.一般X線撮影台は人体のいろいろな部位を撮影できる汎用型撮影台であり,当然,皮膚アーチファクトを除去する機構はない.X線撮影は体内の情報を正確に描出することが必要であり,アーチファクトは画像診断に影響を与えることがある.故に,撮影時におけるアーチファクトの除去は重要事項であり,撮影技術の基本である.しかし,皮膚アーチファクト除去を目的とした研究は,われわれの研究以外では調べた限り見当たらない.本研究以前は,皮膚アーチファクトを除去するために背部四方に,三角形のスポンジ補助具などを使用し軟部組織を整えたりしたが,効果は低く技師間による再現性も乏しかった.そこで比較的簡便かつ安定的に除去できる

Table 1 Artifactual change of the skin fold after using sponge cushion

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資 料スポンジを使用した皮膚のたるみ・シワによるアーチファクト除去の試み―高齢者の臥位X線撮影における評価―

学 術Arts andSciences

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表の説明Table 1 スポンジクッション使用後の皮膚アーチファクトの変化  アーチファクトの変化/症例数(n=103)  完全消失/87(84%)  軽減あり/16(16%)  変化なし/0

るほど発生割合が高くなる傾向があり,またBMIが

低くなるに従い増加する傾向があった.このことにより,皮膚アーチファクト発生が年齢や体格から予測可能であることが示唆された.さらに高齢者で痩せた方は,スポンジクッションを敷くことにより硬い撮影台による痛みの緩和にもつながり,心地よい検査が提供できると考えられる.今後は,患者さんの体格に応じた複数種のスポンジクッションを使い分ける必要があると思われた.

4.結 語 高齢者の臥位撮影は皮膚アーチファクトが肺野内に写り込む現象がしばしば起き,時に画像診断に影響を与える.本研究により,臥位撮影時にスポンジクッションを背部に敷くことで,皮膚アーチファクトの完全除去または軽減が可能であることが証明された.

方法を検討した結果,胸部背部全体を覆うことのできるスポンジクッションにたどり着いた.背部全体を覆うことにより,背部のたるみ・シワを比較的均一に安定して除去できると考えた.今回の研究において,皮膚アーチファクトの完全消失は103症例中87症例であり,評価症例の84%と高い数値となった.残りの16%の16症例においては完全消失には至らなかったが,軽減が認められた.この16症例においては,高齢者に多い圧迫骨折や寝たきりによる拘縮などにより円背が進行し,今回使用した4cm厚のスポンジクッションでは厚みが足りなかったこと,また体重の非常に軽い症例においてはスポンジクッションの沈み込みが浅く,肺野外まで皮膚のたるみ・シワを伸ばすことができなかったことが完全消失に至らなかった原因と推察される.また全ての臥位撮影においてスポンジクッションを被検者の背部に敷くことは撮影技師に労力がかかり,わずかではあるが撮影時間も延長する.今回の対象者では,皮膚アーチファクトは年齢が高くな

図の説明Fig.1 スポンジクッションFig.2 クッションを使用した各年齢別割合Fig.3 クッションを使用したBMI別症例数Fig.4 皮膚アーチファクトの完全消失症例Fig.5 皮膚アーチファクトの軽減症例

参考文献1) 林 邦明 他:新版 胸部単純X線診断 画像の成り立ちと読影の進め方.学研マーケティング,30-31,283,2011.

2) 小田敍弘 他:放射線技術学シリーズ X線撮影技術学.オーム社,44,2009.

3) Saurabh K. Singh et al.: New opacity. Respiratory Medicine CME. 3, 76-77, 2010.

4) James K. Fisher: Skin Fold versus Pneumothorax. Am J Roentgenol, 130, 791-792, 1978.