バレエ『くるみ割り人形』 -...

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バレエ『くるみ割り人形』 ~初演『くるみ割り人形』は本当に失敗だったのか~ 文学部文学科演劇学専攻 4 年 5 組 35 番 学籍番号 1415150119 曽根 芳織

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バレエ『くるみ割り人形』

~初演『くるみ割り人形』は本当に失敗だったのか~

文学部文学科演劇学専攻

4 年 5 組 35 番 学籍番号 1415150119

曽根 芳織

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目次

1、 序論

① このテーマを扱う理由

② 前提、方法

2、 本論

① バレエ『くるみ割り人形』概要

・初演の制作背景

② 物語の一貫性

・初演『くるみ割り人形』あらすじ

③ 時代の変化

・ピーター・ライト版『くるみ割り人形』

・ワシリー・ワイノーネン版『くるみ割り人形』

・モーリス・ベジャール版『くるみ割り人形』

・ミハイル・シェマーキン版『くるみ割り人形』

3、結論

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【序論】

バレエ『くるみ割り人形』は、100 年以上再演され続けている有名なバレエ作品の 1 つで

ある。世界中のバレエ団が、毎年クリスマスシーズンの演目のレパートリーに入れており、

日本でも、ほとんどのバレエ団がクリスマスシーズンになると公演を行っている。私も、ク

リスマスの時期になると観たくなる作品が『くるみ割り人形』である。今では、子供から大

人まで誰もが楽しめる人気の作品となっているが、実は、他のクラシック・バレエ作品とは

異なり、バレエ『くるみ割り人形』は、初演が失敗したために、現代でも新しい演出・振付

が多く作られている作品である。

私が、バレエ『くるみ割り人形』を知ったのは、5 歳から習っていたバレエの 2 回目の発

表会である。また、親に連れられて観に行った初めてのバレエも『くるみ割り人形』であっ

た。その後の発表会では、『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』、『ドン・キホーテ』など、有

名なバレエ作品をやっていた。だが、その頃の私にとって、『くるみ割り人形』が1番好き

な作品であった。その頃は、『くるみ割り人形』の耳に残る可愛らしい陽気な音楽、華やか

な舞台セットや衣装に魅了されていた。また、『くるみ割り人形』の音楽に合わせて踊るこ

とが大好きで、自分が担当する踊り以外も、練習中に見て覚え、家でこっそり踊るほど、好

きな作品であった。その後、怪我をしてバレエを辞め、しばらくするとバレエを観ることも

なくなっていた。大学に入り、バレエを観る機会があり、約 10 年ぶりにバレエ『くるみ割

り人形』を観た。そのバレエの舞台は、私が昔魅了された、華やかさがあった。そして、改

めて観たバレエのテクニックや豪華なセットに心打たれ、もっとバレエについて知りたく

なり、大学のゼミの研究テーマにすることを決めた。

私の中で、クラシック・バレエとは、作品ごとに決まった振付があると思っていた。よく

バレエのコンクールの映像を観ることがあり、その中で踊られる踊りは、作品や登場人物に

よって決まっていて、その作品のその登場人物の踊りなら、バレエを踊る人なら誰もが知っ

ているほど、バレエの振付というのは決まったものだと思っていた。だが、『くるみ割り人

形』を 10 年ぶりに観た時に、昔と違うバレエ団の公演を観たため、演出や振付が異なって

いることに気づいた。私は、自分の知っている『くるみ割り人形』を観たかったために、そ

の後動画であらゆるバレエ『くるみ割り人形』の公演を観た。すると、どのバレエ団の公演

も演出や振付が異なっており、今まで自分の持っていた、「クラシック・バレエは、作品ご

とに演出・振付が決まっている。」というバレエのイメージが崩された。その後、授業の一

貫でより深く調べていくと、バレエ『くるみ割り人形』は、初演が失敗したために、決まっ

た演出・振付がないことが分かった。

ゼミの研究で、あらゆる演出・振付の『くるみ割り人形』を調べた。調べていくうちに、

初演と同じような演出をしているにも関わらず、定番の演出となっているのもあった。年月

が経った後では、初演と同じような演出であるのに、失敗ではなく、観客に受け入れられ、

何度も再演されているのか疑問に思った。そして、初演が失敗したために、様々な演出が作

られているが、本当に初演は失敗だったのか疑問に思った。そこで、バレエ『くるみ割り人

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形』の初演は、本当に失敗だったのかを考察していきたい。

【方法、前提】

前提として、クラシック・バレエとは、何を重視するものかを述べておきたい。私自身、

クラシック・バレエを習っていたこともあり、バレエを観る際に注目するのは、やはりバレ

エダンサーのテクニックである。言葉のない舞台であるからこそ、演劇的な面よりも、技術

的な面を多く魅せてくれる演出のほうが、バレエの作品としては合っているように思われ

る。また、昔、バレエの舞台を観てときめいた、あの豪華で華かなセットや衣装、照明を観

ると、バレエという舞台はとても素敵だと感じる。暗いセットや現実的なセットよりも、私

にとってのバレエのイメージはそれである。実際、クラシック・バレエを観る時、何を重視

するのか、何が良い演出なのかは、はっきりとした定義はなく、人によって様々である。だ

が、どのバレエ作品にも、もちろん物語はある、しかし、バレエを観る側としては、物語性

よりも技術面を重視するのではないだろうか。バレエについて、平林正司が述べている。「よ

く知られている物語を運び、それを素材にバレエを仕立てる手法は、バレエを制作する一つ

の方法である。神話、お伽噺、伝説、演劇、オペラ、小説、詩などによって、人々が馴染ん

でいる題材を、バレエに改作する遣り方である。」(平林正司著・訳『十九世紀フランス・バ

レエの台本:パリ・オペラ座』慶応義塾大学出版会 2000 年 p.390)観客は、すでに、上演す

る作品についての予備知識を持っているために、バレエを観ても内容が全く分からないと

いうことにならないのである。また、十九世紀のフランスでは、バレエが初演される際に、

台本の小冊子が出版されていたそうだ。観客は、台本を読んで、物語の筋立てを理解してか

らバレエを観ていたという。つまり、台本がないと、観客は筋立てを理解することができな

かったのだ。確かに、多くのバレエの作品は、原作がある。『眠れる森の美女』は、誰もが

幼い頃に読んだり、ディズニーアニメとして見たことがあるだろう。今回取り上げている

『くるみ割り人形』も、原作は、小説である。また、『ロミオとジュリエット』も世界中で

よく知られているウィリアム・シェイクスピアの戯曲であるし、バレエ以外の舞台化や映画

化もされている。言葉のないバレエという舞台では、踊りやマイム、顔の表現だけで、物語

上の筋立てを全て理解することは難しいだろう。そこで、誰もが知っている作品や、知らな

くても調べたり読んだりすれば分かる作品をバレエに改作しているのである。そして、物語

が分からず、バレエの素晴らしいテクニックを見過ごすことのないよう、テクニックを見れ

るような工夫がされているである。 また、守山実花は、「バレエは、踊りながら手話やジェ

スチャーで意味を伝えるものではない。間違っても『…は置いといて』なんてやらない。そ

れどころか、バレエで用いられているポーズやパ(ステップのこと)は意味のない、たんなる

動きや形でしかない。バレエとはそもそも無意味な動きの組み合わせなのだ。つまり、日常

的な身振りや感情を表す仕草とは切り離された、一種の人工的な動きだということ。-多く

のバレエ作品にはストーリーがあって、登場人物が嬉しいだの哀しいだのという感情を表

している。だが、嬉しいときにも哀しいときにも同じパが用いられていたりするのだ。-だ

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いいちストーリーを伝えるだけなら、わざわざ不自由なポーズをとったり、複雑なステップ

なんて必要ないのだ。」(守山実花著 『バレエに連れてって!簡単楽々入門書』青弓社 p.14-

p.15)と述べている。さらに、同書で「バレエは、初めから見られることを意識したものだ

ということだ。つまり『鑑賞するもの』。自分が参加して楽しむものというよりも、『見て楽

しむ』ダンスなのだ。」(守山実花同書 p.21)と述べている。バレエは、他のダンスとは異な

り、「自分が踊るダンス」ではなく、「見せるダンス」なのである。バレエは、物語を見せる

のではなく、複雑で不自由な体の動きから生まれる美しい体の形を見せているのである。バ

レエ作品が、原作のあるもので、テクニック重視としているならば、クラシック・バレエは、

バレエの歴史の中でもより一層テクニックを重視する時代に生れたバレエであるため、ク

ラシック・バレエの作品は、他のバレエ作品よりも、物語よりも技術を重視すると考えられ

る。

考察していく方法としては、主に初演と再演、時代背景を比較していく。初演の映像を見

つけることが出来なかったため、初演は台本の訳を見て比較する。この台本であるが、基本

は場面ごとの説明となっており、 詳しい振付は分からないが、物語の流れは追うことがで

きる。また、再演のものは、映像資料やプログラムや資料から比較していく。再演のものと

して、ロシアで定番の演出となっているワシリー・ワイノネーン版とフランスで定番の演出

となっているピーター・ライト版、そして二十世紀後半と二十一世紀世紀に作られたモーリ

ス・ベジャール版とキリル・シモノフ/ミハイル・シェミャーキン版を比較する。バレエの

演出は、それぞれ再演される度に、振付家の名前をとって「○○版」というのが常である。

ここでも、そのように明記していく。比較の対象として、この 4 つの演出版を選んだ理由

は、まず、ワシリー・ワイノネーン版とピーター・ライト版は、『くるみ割り人形』の上演

歴を調べた際に、それぞれロシアとフランスで標準的な改訂版とされていると書かれてい

たからである。また、日本で上演されているのも、この 2 つのどちらかの版を改変している

のを多く見るからである。モーリス・ベジャール版とキリル・シモノフ/ミハイル・シェミ

ャーキン版は、全く『くるみ割り人形』の世界観とは異なり、政治的なメッセージが込めら

れていたりと、新しい演出であるため選んだ。

【本論】

バレエ『くるみ割り人形』は、1892 年 12 月 18 日サンクトペテルブルクのマリインスキ

ー劇場で初演された。音楽は、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーで、原作は、E・

T・A ホフマン『くるみ割り人形とねずみの王様』に基づき、アレクサンドル・デュマが翻

案した『くるみ割り人形の物語』と言われている。台本は、クラシック・バレエの基礎を築

いた人物で、ダンサー・振付師・台本作家であるマリウス・プティパである。振付は、マリ

ウス・プティパがリハーサル直前に病に倒れたため、後輩のイフ・イワーノフに委ねられた。

このバレエ作品は、一幕もののオペラ『イオランダ』とともに上演された。オペラとバレエ

が同時に上演されるのは、十八世紀以来パリ・オペラ座では習慣的に行われていたことであ

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るという。この時の主要な演目は、オペラ『イオランダ』であり、バレエ『くるみ割り人形』

は、その後に余興として上演された。『白鳥の湖』と『眠れる森の美女』と立て続けに傑作

バレエを作っていたロシアであったが、マリインスキー劇場は、パリ・オペラ座に対抗して、

オペラとバレエの同時上演の企画を立てたそうだ。

このオペラとバレエのセットの初演時、超満員の観客からは熱狂的な大歓迎を受けたそ

うだが、新聞の批評では、いずれも不評であったそうだ。その理由として、クララの夢物語

の結末が曖昧、主に子どもを中心としたマイムの続く一幕と、お菓子の精の踊りが続くディ

ベルティスマンに終始した二幕とで、作品の一貫性に欠けているという点である。また、19

世紀後半は、ロシアでクラシック・バレエが確立した。このクラシック・バレエとは、クラ

シック・バレエの前に確立されていたドラマ主体のロマンティック・バレエに、物語とは無

関係のダンスシーンを取り入れ、そのダンスのテクニックもより高度なものとなっていっ

たバレエである。この時代、観客は、バレリーナが、全幕を通して出演し、主役として舞台

に立ち、物語を運び、最後にクラシック・バレエの最大の見せ場であるパ・ド・ドゥを踊る

ことを期待していた。

そもそもバレリーナという用語は、バレエ発祥の地であるイタリアの言葉で、女性のダン

サーという意味だが、十九世紀末ロシアで、バレエ団の最高位の女性ダンサーを指すように

なり、これが世界に広まり使われているそうだ。日本でも、バレリーナという用語は有名で

ある。ロマンティック・バレエやクラシック・バレエが全盛期で踊られていた時代、女性ダ

ンサー、つまりバレリーナが舞台の中心を占めていた。男性ダンサーも人気ではあったそう

だが、ロマンティック・バレエ、クラシック・バレエの主人公はほぼ女性であり、作品の最

大の見せ場は女性ダンサーが踊っている。十九世紀のバレエでは、監督も台本を書くバレエ

マスターも男性であったが、舞台で観客の称賛を浴びるのは女性ダンサーであった。なぜ、

この時代女性ダンサーが人気だったのか。その理由を鈴木晶は大きく二つあると述べてい

る。一つ目は、ポアント技法の流行である。ポアント技法の明確な発祥は未だに不明だそう

だが、考えられる理由として、ピルエットを容易にするためや、背や脚を長く見せるためな

ど、あらゆる評論家が推測している。どのようにポアント技法ができたかは不明だが、女性

ダンサーが踊る時に必要となるポアント技法は、世界中に広まった。この技法について、鈴

木は、「コメディ・バレエ団のトロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団や、日本の観客向け

に結成されたグランディーババレエ団を見ればわかるように、男性が爪先で立てないわけ

ではない。ではどうしてバレエてまは女性だけの技法になったのかといえば、男性よ爪先立

ちは 19 世紀のジェンダーにはふさわしくないと見なされた、つまり観客にとって美しくな

いもの、男らしくないもの見なされたせいである。」(鈴木昌著『バレエとダンスの歴史 欧

米劇場舞踊史』平凡社 p.51)と述べている。19 世紀、あるいはそれ以前から、ポアント技法

は女性だけのものとなっていたのである。そして、女性ダンサーのポアント技法を用いた高

度な技術を観に行ったのである。そのため、男性ダンサーよりも、女性ダンサーのほうが人

気であったのだろう。

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もう一つの理由は、観客の変化である。同書では、「1830 年頃から、王侯貴族に替わって

新興ブルジョワジーの男性が観客の中心となるにつれ、男が女を見るという構図ができあ

がり、したがってフェミニストのいう『男の眼差し(male gaze)が形成されたことはいうま

でもない。』(鈴木昌同書 p.55)と書かれているように、現代の日本で、バレエの上演を観に

行く我々にとっては想像しずらいが、当時は女性よりも男性の観客が多かったのである。そ

のため、女性ダンサーが人気であったと考えられる。

また、クラシック・バレエには、物語とは関係のないディベルティスマンという踊りだけ

を見せる場面があるように、クラシック・バレエは踊りに重きが置かれていることが分かる。

だが、この作品の初演は、主役のバレリーナは話の筋とはほとんど関係なく、終わりの方

に、パ・ド・ドゥという主役の男女が組んで踊るクラシック・バレエ作品の最大の見せ場を

一曲踊るだけであった。これらの理由により、初演のバレエ『くるみ割り人形』は失敗だと

言われている。その後あらゆる演出がされてきた。主な振付・演出としては、1919 年のア

レクサンドル・ゴルスキー版(ボリショイ・バレエ団)、1934 年のワシリー・ワイノーネン

版(キーロフ・バレエ団)、1934 年のニコライ・セルゲーエフ版(ヴィック・ウェルズ・バレ

エ団)、1954 年のジョージ・バランシン版(ニューヨーク・シティ・バレエ団)、1966 年のユ

ーリ・グリゴローヴィチ版(ボリショイ・バレエ団)、1971 年のジョン・ノイマイヤー版(フ

ランクフルト・バレエ団)、1984 年のピーター・ライト版(英国ロイヤル・バレエ団)、1985

年のルドルフ・ヌレエフ版(パリ・オペラ座バレエ団)、1998 年のモーリス・ベジャール版

(モーリス・ベジャール・バレエ団)、2001 年のキリル・シモノフ振付、ミハイル・シェミャ

ーキン演出版(マリインスキー劇場)などがある。

これらの新しく改訂された『くるみ割り人形』のほとんどは、初演にはできていなかった

とされる、物語の一貫性を持たせていると言われている。この一貫性を持たせるためにされ

た演出として主として、主人公の少女クララとお菓子の国に登場する金平糖の精を同じバ

レエダンサーが演じるか、別のバレエダンサーが演じるかの二つの演出のパターンがある。

それぞれの演出について、守山実花によると、「前者では、ヒロインの憧れとほのかな恋心

の対象は王子に向けられるが、後者では、王子への思慕だけでなく、少女の理想の女性であ

る金平糖の精への憧れもはっきりと描かれるのが特徴」(守山実花著「原作とさまざまな改

訂版について」『華麗なるバレエ第 10 巻 チャイコフスキー くるみ割り人形 英国ロイヤ

ル・バレエ』小学館 2009 年 p.17)であるそうだ。ヒロインの憧れや恋心を描き一貫性を持

たせようとしたのである。

<物語の一貫性>

さっそく、1892 年に初演された『くるみ割り人形』は、本当に失敗だったのか考察して

いきたいと思う。まず、初演時に批判されていた物語の一貫性という点であるが、初演の台

本から考察したい。初演の台本に書かれている物語を日本語に訳してある、森田稔著『永遠

の「白鳥の湖」 チャイコフスキーとバレエ音楽』新書館 1999 年からまとめた。

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【第一幕】

第一場

舞台は、ジルベルハウス家のクリスマス・イブ。降りしきる雪の中、来客たちが次々にパ

ーティーに訪れる。豪華に飾られたクリスマス・ツリーを見て、子供たちは大喜び。ドロッ

セルマイヤーが、子供たちへのプレゼントにと、いろいろな人形を持ってきて、クララに、

くるみ割り人形をプレゼントする。しかし、兄のフリッツが人形を取り上げ、壊してしまう。

悲しんだクララは、人形を抱き、ベッドに寝かせる。大人たちの踊りが終わり、来客たちは

家路へと急ぐ。

誰もいなくなった部屋に、クララが、くるみ割り人形を探しにやってくる。真夜中になり、

時計が 12 時を打つ。おびえるクララの目の前で、クリスマス・ツリーがどんどん大きくな

っていく。どこからかねずみの一群がやってきて、クララをとり囲む。続いて兵隊人形が現

われ、ねずみたちと戦いを始める。くるみ割り人形とねずみの王様が対決。クララが、くる

み割り人形を助けようと、ねずみの王様にスリッパを投げつけると、王様は倒れ、ねずみた

ちは退散する。くるみ割り人形はクララに近づき、ひざまづくと、美しい王子に変身し、彼

女に自分のあとに付いてきてくれるように頼む。クララはくるみ割り人形が生き残り、元気

であるのを見て満足し、彼に手を差し出す。彼らはクリスマス・ツリーに向かい、その枝の

なかに姿を消す。

第二場

広間は冬の樅の森に変わる。大きな雪片となり、雪が降り始め、次第に粉雪と吹雪が起こ

る。だんだん雪が収まり、月明かりのなかで、雪がダイヤモンドのように光っている。

【第二幕】

お菓子の宮殿、コンフィテュレンブルグ。

ドラジェの精とコクリューシ王子が、イルカたちで装飾された砂糖のあずまやのなかに立

っている。イルカたちの口からは、すぐりのシロップや、アーモンド・シロップやレモネー

ドや、その他の飲みものの噴水が流れ出ている。妖精たちの女王が、クララとくるみ割り人

形の王子の到着を待っている。お祝いの宴と、新来者の出迎えの準備がすっかり整っている。

ドラジェの精は、もっとも喜ばしい歓迎に相応しい、賢く素直な娘クララを楽しませてくれ

るように、皆にお願いする。

お菓子の宮殿、コンフィテュレンブルグに到着したクララとくるみ割り人形の王子。宮殿

のものたちは、くるみ割り人形の王子のコンフィテュレンブルグ城への無事帰還にお祝い

を述べる。歓迎に感動したくるみ割り人形はクララの手を取り、自分が奇跡のように救われ

たのは、彼女ただ一人のお陰であると付け加えていう。そして、ドラジェの精は、クララに

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感謝の気持ちを伝えるためにお祝いの宴を始めるよう、皆に命令する。ドラジェの精によっ

て前もって企画されたプログラムに沿って組まれた踊りから成る、美しいディベルティス

マンで、客たちを慰めようと努める。

クララは、起こっている事柄を夢中になって見つめている。すべてが夢のなかで起こって

いると考え、目が覚めるのが恐ろしく思われる。くるみ割り人形の王子は、自分の若くて可

愛い救済者をもてなすことができた喜びに目を輝かせて、お菓子の国のお伽話のような奇

跡と珍しい制度について、彼女にお話する。

初演の台本を読む限り、バレエ『くるみ割り人形』は、アレクサンドル・デュマ著の小説

『くるみ割り人形の物語』の要素が強いように感じられた。バレエ『くるみ割り人形』の原

作は、アレクサンドル・デュマの書いた『くるみ割り人形の物語』であるが、元々は、E・

T・A ホフマンの書いた『くるみ割り人形とねずみの王様』である。二つともあらすじに大

きな違いはないが、ホフマン著のほうが、暗く、怪奇ムードが濃厚であり、デュマ著のほう

は、明るく、子どもにも親しみやすい。バレエという現実とは異なる世界観を描くことが多

い舞台にとって、アレクサンドル・デュマの書いた小説を基にしたのだと考えられる。初演

は、この小説を基に作られているが、なぜ、くるみ割り人形の王子は、醜いくるみ割り人形

に変えられてしまったのか、なぜ、ネズミに襲われてしまうのかバレエの舞台では描かれて

いない。小説では、クララがネズミの王様からくるみ割り人形を助け、王子に戻ったくるみ

割り人形は、自分の住む世界であるお菓子の国にクララを招待する。そして、そのお菓子の

国で、クララとくるみ割り人形の王子は結婚し、小説は終わる。バレエの『くるみ割り人形』

が初演されたときの批評では、このクララの夢物語の結末が曖昧だとされてきた。これは、

クララが体験している夢のような出来事は、本当に現実で起こっているのか、それともクリ

スマスに見るクララの夢であったのかがはっきりせず、物語の終わりもクララはジルベル

ハウス家に戻ることなく幕が閉じるためだと思われる。

だが、序論で述べたように、バレエ作品は原作が存在し、この『くるみ割り人形』も小説

が原作である。また、この初演時には、台本も出版されている。それらを読んで舞台を見れ

ば、クララの夢物語の結末が曖昧であるほうが、物語本来が持つ、少女が夢を見ているのか、

現実に起こっているのか分からない不思議さがでる。また、結末がはっきりしないほうが、

夢が完結しないで終わるため、観客が自由に考えられる余地もあると思われる。また、この

物語の一貫性についてだが、そもそもオペラとバレエのセットでの上演であったため、バレ

エの台本の不備はあっても理解できるという意見もある。森田稔は、「『くるみ割り人形』の

問題点も、『イオランダ』との関係で考えれば、理解できる面もある。『くるみ割り人形』が

本来独立した作品としては意図されておらず、めでたく結婚式で終わるオペラ『イオランダ』

への余興であって、このバレエ全体が独立した演目ではなく、オペラへのディベルティスマ

ンを目指したものであったとすれば、『くるみ割り人形』の第一幕と第二幕のアンバランス

という、台本上の不備も、理解できるといえるだろう。」(森田稔前掲書 p.225)と語ってい

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る。また、『イオランダ』は、登場人物も少なく、静かで美しい感動的な一幕オペラであり、

明るく活発な『くるみ割り人形』と見事な対比をなしているという意見もある。バレエ『く

るみ割り人形』だけを見て、批評するのではなく、オペラの『イオランダ』とセットの上演

であることを念頭におき、見る必要があるのである。今となっては、このオペラとバレエの

セットでの上演を決めた本当の意図は分からない。ただ、このどちらの作品もチャイコフス

キーが作曲、マリインスキー劇場総裁フセウォオジスキーが監修していることからも、チャ

イコフスキーやフセウォオジスキーらは、オペラとバレエのセットで上演することを考え

て、このようなアンバランスな台本となっているのかもしれない。セットでの上演で、しか

も、オペラの方が主要であったことからも、他のバレエ作品と同様に、バレエだけを見て批

評するのは、この初演時の『くるみ割り人形』には当てはまらいと考えられる。

<時代の変化>

もう一つ、初演の『くるみ割り人形』には、主役のバレリーナの出番が少ないという批判

がある。これは、この作品が初演された十九世紀がバレリーナの時代であったためだと考え

られる。十九世紀のロシアでは、クラシック・バレエが確立し、より高度なテクニックが登

場してきた。このバレエが確立される前のバレエは、歴史上ロマンティック・バレエと言わ

れているが、このバレエでは、踊りと物語が融合していた。そして、その後のクラシック・

バレエでは、物語と踊りの分離が起きた。マイムを用いて物語を進行する演劇的な側面と、

高度に発展したテクニックやバレエ独特の様式美を魅せるための場面がそれぞれ作られた。

そして、主役のバレリーナが全幕を通して出演し、物語を運び、パ・ド・ドゥを踊ることを

観客は期待していた。

バレエでは、バレエ団によって、主役級のエトワール、プリンシパル、バレリーナ、それ

に次ぐ準主役級のソリスト、コール・ド・バレエ(群舞)を踊るカドリーユ、アーチストな

ど、それぞれ階級がある。観客は、主役級のダンサーの踊りを観に来ていたのである。しか

し、時代が経つにつれ、二十世紀の観客がバレエに求めるものが変化したと考えられる。

それは、1984 年に初演された、ピーター・ライト版のくるみ割り人形から考えられる。

この版は、英国ロイヤル・バレエ団で、初演された。私が映像で観たのは、1985 年英国ロ

イヤル・バレエ収録の舞台である。原台本はマリウス・プティパ、制作と台本改訂はピータ

ー・ライト、振付はレフ・イワーノフとピーター・ライト、音楽はピョートル・イリイチ=

チャイコフスキー、デザインはジュリア・トレヴェリアン・オーマンである。出演は、ジュ

リー・ローズ、レスリー・コリア、アンソニー・ダウエルである。

この版は、初演と同じように、第一幕に登場するクララと、第二幕に登場する金平糖の精

を別のダンサーが演じている。初演と同じ演出であるにも関わらず、この版は今でも再演さ

れ続けるほど人気の演出となっている。まず、この版のあらすじである。

ドロッセルマイヤーは魔術的な時計製造者で、機械仕掛けの玩具の製作者である。宮殿に

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雇われていた時、彼は罠を発明し、その罠によって、鼠は半ば絶滅した。復讐として、邪な

鼠の女王は、ドロッセルマイヤーの甥に魔法をかけ、彼を醜い胡桃割りに変えた。魔法を破

る唯一の方法は、胡桃割りが鼠の王を殺し、それによって、大いに勇敢な行為を成し遂げ、

また、若い娘が、彼の無様な外見にもかかわらず、彼を愛し、大切にすることであった。

シュタームバウム家の催したクリスマス・パーティに招かれた時、ドロッセルマイヤーは、

これが求めてきた好機であろうと、意を定めた。つまり、彼は、シュタームバウム家の娘、

クララの名付け親で、彼女は、胡桃割りの中に閉じ込められた彼の甥よりも、少し年下なの

だ。鼠の王と胡桃割りが対決するためには、鼠がしょうが入りケーキを盗むのに忙しいクリ

スマスほど、都合の良い機会はあろうか。クララが務めを果たすのを導くであろう、特別の

クリスマス・エンジェルを、彼は送る決心をした。

お客たちが皆、パーティを去り、ドロッセルマイヤーは、空想の中で、彼自身の特別な幻

想の世界に、クララを連れてゆく。そこでは、時間が停止している。熾烈な戦いの後、胡桃

割りは鼠の王を殺すが、それは偏に、憐れみの情から彼の生命を救うクララのお蔭である。

胡桃割りは本当の自分に再び変貌し、ドロッセルマイヤーは二人を魔法の旅に送る。雪の国

を通り、お菓子の国に至る旅である。お菓子の国では、ドラジェの精と王子が若い二人を祝

して、素晴らしい催し物をする。

パーティの後、ドロッセルマイヤーは、自分が仕事場に戻っているのに気付き、そして、

長い間、行方不明であった甥が本当に帰っているのを見出だす-魔法は破られたのだ。

(平林正司著『胡桃割り人形-至上のバレエ-』三嶺書房 1998 年 p.202-p.203)

初演と異なる演出としては、初演のプティパによる台本では、子ども向けに書き換えられ

たアレクサンドル・デュマ著の『くるみ割り人形の物語』を基に作られていたが、この版で

は、E・T・A ホフマン著の『くるみ割り人形とねずみの王様』を基に作られているところ

である。この小説は、読んでいて、暗く、怪奇的な雰囲気がある。この怪奇的な雰囲気をピ

ーター・ライトは、バレエの中でも表現させている。特に、ドロッセルマイヤーは、他の演

出版では、子どもたちにクリスマス・プレゼントをあげる優しいおじさんだが、この版では、

魔術師として登場し、片目に眼帯をした恐ろしく謎めいた容貌で、子どもたちを怯えさせて

いる。そして、舞台で起こるすべての不思議な出来事は、ドロッセルマイヤーによって、あ

らかじめ企てられたもの、あるいは、ドロッセルマイヤーの魔法によるものであるという演

出にみてとれる。また、初演の結末が、少女クララはお菓子の国に行った後どうなったか描

かれていなかったが、この版では、少女クララが体験した夢のような出来事は、全て現実に

起こっていることとして描かかれている。

この版は、結末もはっきりしているため、初演の『くるみ割り人形』よりも物語としては、

良いかもしれない。だが、初演から問題となっていた主役のバレリーナの登場が少ないとい

う点は変わっていない。映像を見ても、ほとんどの場面で少女クララが登場し、踊っている

が、大人のバレリーナが演じる金平糖の精は、二幕に少しだけ登場し、パ・ド・ドゥを踊る

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だけである。この点は、初演と変わらないにも関わらず、あらゆるバレエ団で、踊られ続け

ているのには、やはり時代が関係しているように考えられる。もし、初演の『くるみ割り人

形』が、クラシック・バレエの全盛期である十九世紀に上演していなかったら、こんなにも

批判されなかったのではないだろうか。

また、ロシアでは、初演が失敗したとされ、すぐ後に改訂版が作られた。それは、1919 年

にボリショイ・バレエ団で初演されたアレクサンドル・ゴルスキー版と 1934 年キーロフ・

バレエ団で初演されたワシリー・ワイノーネン版である。どちらも、初演で批判されていた

バレエダンサーの出番の少なさを補う演出を作っている。この二つの中でも、特に、ワシリ

ー・ワイノーネン版は、最初の標準的改訂版として認められ、今でも踊られ続けている。こ

の版では、少女クララを七歳から十代半ばに変更し、名前もマーシャと変え、大人のバレエ

ダンサーが演じても不自然にならないようにした。そして、マーシャと金平糖の精を同じバ

レエダンサーが演じ、作品全体に主役のバレエダンサーが登場する演出に変えた。また、こ

の版では、クリスマスの夜に起きた夢のような出来事は、全てマーシャの夢であった演出に

もなっている。映像資料で見たのは、2011 年収録の振付ワシリー・ワイノーネン、音楽ピ

ョートル・イリイチ=チャイコフスキー、出演アリーナ・ソーモワ、ウラジーミル・シクリ

ャローフ、フョードル・ロプホーフである。この映像では、最初からくるみ割り人形の呪い

が解けるまでを子どものダンサーが演じ、くるみ割り人形が王子に戻った時にマーシャを

演じるダンサーも大人になっていた。

初演が失敗されたとされ、その後、初演の失敗を補おうと新しい演出が作られたため、主

役のバレエダンサーの出番を多くした演出をしている。だが、1984 年に初演されたピータ

ー・ライト版では、主役のバレエダンサーの出番が少ないにも関わらず好評となっている。

このことからも分かるように、十九世紀のクラシック・バレエの全盛期に初演されたために、

主役のバレエダンサーの出番の少なさが指摘されたが、時が経つにつれ、絶対にそうでなく

てはならないという概念はなくなり、出番が少なくても、批判されない時代になったのだと

考えられる。

また、時代の変化に伴うバレエの見方の違いによる考えがもう一つある。それは、新しい

バレエの登場である。その中でも、二十世紀、二十一世紀になると、全く新しいバレエ『く

るみ割り人形』が作られ始めた。そのバレエは、音楽のみが『くるみ割り人形』で、物語は

小説やバレエと異なっている。例えば、1998 年にモーリス・ベジャール・バレエ団で初演

された、モーリス・ベジャール版である。これは、『くるみ割り人形』の物語ではなく、ベ

ジャールの自伝的作品である。映像資料では、2000 年にモーリス・ベジャール・バレエ・

ローザンヌで収録されたものである。振付は、マリウス・プティパ、モーリス・ベジャール、

音楽ピョートル・イリイチ=チャイコフスキー、舞台装置ロジェ・ベルナール、出演ダマー

ス・ティース、エリザベット・ロス、ジル・ロマン、小林十市である。母への思慕とクラシ

ック・バレエの確立者であり振付家のマリウス・プティパへの憧憬の感情を描いている作品

である。主人公は、ベジャールの少年時代の分身であるビム。クララを夢の世界へと導くド

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ロッセルマイヤーにあたる役は M…で、ビムの成長を見守り将来へと導く役である。ベジ

ャールの父、師として尊敬する振付家マリウス・プティパ、子供の頃から夢中になっている

「ファウスト」のメフィストほかの複合像として描かれている。ベジャールは、この作品を

通して、子ども時代や、青春時代、仕事への目覚め、振付家の仕事がどんなものであるかを

語ろうとしたそうだ。

【第一幕】

クリスマスの夜、男の子がひとり、ちっぽけなモミの木のそばにすわっている。その枝に

は、去年のクリスマスからずっと残されたままの飾りが、寂しげに揺れている。母親は亡く

なったのだ。男の子ビムは、父にもらったくるみでひとり寂しく遊んでいる。部屋には父(M

…)と飼い猫のフェリックスがいる。と、夢なのか魔法なのか、男の子のそばに白いスーツ

に身を包んだ母親が現れて、モミの木の下に小さなプレゼントを置こうとする。

背景の幕が落とされ、夢のような夜が始まる。

まず、赤と白のレオタードのダンサーたちがあらわれ、クラス・レッスンが始まる。ビム

のバレエとの出会いである。マントを羽織った M…(ここではマリウス・プティパ)がダン

サーたちの間をゆっくりした足取りでみて回っている。ビムもダンサーたちについて一生

懸命に踊る。

猫のフェリックスが呪文を唱えると赤いカーテンから、かわいらしい緑のマントをつけ

た女の子が現れる。ビムの妹である。小さい頃ふたりはよくこんな扮装をして、ビムの大好

きな「ファウスト」のお芝居をして遊んだのだ。懐かしい家族団欒の雰囲気に誘われたのか、

ふたたび母が、今度はマリンルックで現れる。待ちかねていたかのように母の元に、ビム、

妹、フェリックスが集まってきて、M…(ここでは、父)は母の手の甲にキスをする。

母や妹が去ってしまい、夢は次の場面へ。M…が杖でリズムをとると、それに合わせて規

律正しく行進してきたのは、ボーイスカウトの少年たち。ビムも嬉々として一緒に踊る。や

がて疲れ果ててみんなが寝袋に入って眠りについてしまうと、森の奥からまばゆく光り輝

く天使がふたり、そうっと現れる。やがてふたりの妖精も加わって、少年たちを見守るよう

に、暖かく包み込むように舞い踊る。朝がきてビムと少年たちは目覚め、ふたたび元気に動

き出す。すると、彼らの目の前に現れたのは…

大きくそびえる聖母像だった。ビムは像に母の面影を見出し、一生懸命によじ登ろうとす

るが、なかなかうまく登れない。ついには足を滑らし、落ちてしまう。M…はそんなビムを

突き飛ばし、荒荒しく猛るように踊り出す。

やがて、像がくるりと回転し、美しいほこらが現れ、そこにはビムの捜し求めていた母の

姿が。そしてビムと母の愛情溢れるパ・ド・ドゥ。

ビムと母のふたりがほからに消え、光の天使と妖精たちが踊り出す。と、それに誘われる

ように雪が降りだし、それに乗ってサンタクロースならぬ、マジック・キューピーが登場。

アコーディオンの暖かなメロディーにのせ、華やかなマジックを披露して、やっと母とふた

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たび出会えたビムを祝福するのだった。

【第二幕】

やっと出会えた大切な時間に、互いをいとおしむように踊るビムと母。が、M…に促され

ビムは、精一杯母を喜ばせようと、趣向を凝らした踊りの数々を母に見せるのだった。

楽しく踊るうちに、ビムはバレエの世界に惹き込まれていく。M…(マリウス・プティパ)

がお手本を見せるかのように踊りだし、ビムの目は釘づけになる。

白いドレスを身にまとっている母も、「花のワルツ」にのせて若い娘のように軽やかに踊

りだす。タキシードの男たちも加わって、ビムも母も嬉しそうだ。

そして M…(マリウス・プティパ)の紹介で、グラン・パ・ド・ドゥが踊られる。

場面は冒頭のシーンに戻る。ビムはクリスマス・ツリーのかたわらで眠り込んでしまって

いたのだ。夢から覚めると目の前にプレゼントが。包みを開けるとそれは、愛しい母の面影

を宿した像なのだった。(NBS 日本舞台芸術振興会 ベジャールの「くるみ割り人形」:作品

紹介 https://www.nbs.or.jp>stages>stage 最終閲覧日 2018 年 12 月 18 日)

音楽は全てチャイコフスキーが作曲した『くるみ割り人形』を使用していたり、ビムが体

験したことは夢であったように、バレエ『くるみ割り人形』の夢と現実がテーマとなってい

るが、物語は全く別物であった。また、衣装もクラシック・バレエのチュチュではなく、ス

ーツやワンピースなど、現代的な衣装であった。さらには、言葉のないバレエにも関わらず、

ビムの心情の説明や場面を解説するナレーションがつけられている。この版は、物語自体も

一般的に知られている『くるみ割り人形』とは異なっていることが分かる。また、ロマンテ

ィック・バレエやクラシック・バレエのほとんどが、女性ダンサーが主人公の作品が多い。

そして、女性ダンサーは、男性ダンサーは履かない爪先で立つトゥシューズを履いて踊る。

女性ダンサーの方が複雑で不自由な動きをすることが多い。だが、この作品の主人公は、ビ

ムという少年である。上述したように、十九世紀までのバレエが女性中心だったのに対し、

なぜ男性ダンサーが主人公のバレエが上演できたのか。それは、バレエ・リュスというバレ

エ団の影響が大きい。

二十世紀に入ると、クラシック・バレエの創始者マリウス・プティパのスタイルに反発す

る者が登場してきた。プティパのスタイルを批判し、新たなバレエを作り始めたのである。

そのバレエの特徴の一つとして、男性ダンサーの活躍である。十九世紀の女性中心の時代と

は対照的に、二十世紀は男性の時代であったそうだ。バレエ・リュスのメインダンサーであ

ったワスラフ・ニジンスキーなど、魅力をもった男性ダンサーが次々に出現し、男性ダンサ

ーが活躍するようになっていった。新しい時代となり、バレエは女性がメインで踊られるも

のという概念が少しずつ崩れていき、男性ダンサーが活躍できるようになったのだと考え

られる。

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2001 年にマリインスキー劇場で初演された、キリル・シーモノフ振付、美術家ミハイル・

シェミャーキン演出版も新しい『くるみ割り人形』である。映像資料は、2007 年マリイン

スキー劇場収録。原台本マリウス・プティパ、台本改訂ミハイル・シェミャーキン、原作 E・

T・A ホフマン、舞台装置・衣装デザインミハイル・シェミャーキン、振付キリル・シモノ

フ。出演は、イリーナ・ゴールプ、アントン・アダシンスキー、アレクサンドル・クリコフ、

レオニード・サラファーノ、オーリガ・バリンスカヤである。

この版は、ロシア版の特徴であるマーシャと王子の恋を描きながらも、一般的な『くるみ

割り人形』とは違い、旧ソ連の独裁政治を批判するような作品となっている。通常、シュタ

ールバウム家のあたたかいクリスマスパーティーが描かれる第一幕では、まずパーティー

の準備中の台所のシーンがあり、そこに独裁者を思わせるねずみがいる。マーシャの名付け

親で彼女にくるみ割り人形をプレゼントし、彼女を終始導いていくドロッセルマイヤーは、

その独裁者の手先として描かれている。また、この版では、マーシャが両親から冷遇されて

いるのも特徴的である。第二幕では、お菓子の国をお菓子屋に変え、華やかなディベルティ

スマンもこの演出では、毒々しさがある。最後王子とパ・ド・ドゥを踊り、愛を語り合った

途端に、ドロッセルマイヤーによって、二人はケーキの飾り付けにされてしまう。これは、

独裁者が二人を拘束したか、何らかの形で自由を奪い身動きできなくしたような演出をし

ており、独裁政治を彷彿とさせる。

この二つの演出以外にも、音楽はそのままで、演出だけ新しいものが多く作られている。

例えば、1971 年に初演されたジョン・ノイマイヤーが演出した『くるみ割り人形』は、音

楽や物語の構成をほとんど変えずに、コンセプトだけ変えた作品となっている。この版では、

主人公マリーの誕生日が舞台である。誕生日プレゼントとしてくるみ割り人形とトゥシュ

ーズをもらう。このプレゼントをきっかけにマリーは、バレリーナになることを夢見る。ド

ロッセルマイヤーはマリーのバレエの先生という設定である。また、この演出版では、マリ

ーはバレエのリハーサルをしている夢を見ており、『くるみ割り人形』の夢の世界であるこ

とを引き継いでいる。ジョン・ノイマイヤーはこの作品について、「『くるみ割り人形』のテ

ーマは、プティパのシナリオからいっても、チャイコフスキーの作曲からしても、私が考え

るに”子どもからの別れ”である。ちょうど子どもであることをやめ、しかしまだ大人でもな

い。あの微妙な時期である。」(うらわまこと著「ここがポイントーさまざまな演出に見るく

るみ割り人形の相違点」所収『バレエの本‘95 秋』音楽之友社 1995 年 p.61)と述べている。

バレエ『くるみ割り人形』は、振付家によって、解釈が異なり、多くの演出が存在するので

ある。

他にも、1992 年に初演されたマシュー・ボーン版は、孤児院が舞台。クララは孤児院を

視察に訪れた役人からくるみ割り人形をプレゼントされ、第二幕では、お菓子の国へ行こう

とするのだが、クララはくるみ割り人形とはぐれてしまいなかなか辿り着けない。ようやく

再会できたと思うと、くるみ割り人形は別の女の子と結婚してしまう。悪夢の中で目覚める

クララ…。(守山実花著「原作とさまざまな改訂版について」所収前掲書 p.18)や、亡くなっ

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たと思っていた母と再会する物語を描いたパトリス・パール版(1999 年)、老バレリーナの

過ぎ去った日々への追憶を描いたグレアム・マーフィー版(1992 年)など、様々な演出があ

る。これらの作品は、『くるみ割り人形』と呼んでいいのか疑問に思うような作品も多くあ

るが、どの演出版も日本でも上演されるほど人気の演出である。また日本でも、海外の演出

版を再演するバレエ団もあるが、バレエ団独自で作った演出版を上演している。

このように、多くの人が知っているバレエ『くるみ割り人形』のイメージとは全く異なる

と言っていいほどの演出版が多く作られ、好評であるのは、二十世紀以降、新しいバレエが

登場してきたからだと考えられる。それは、クラシック・バレエを批判して出来たバレエで

ある。クラシック・バレエの動きにとらわれない、より自由な動きなが出来るバレエであり、

モダン・バレエなどと呼ばれるものである。モダン・バレエは、バレエ・リュスが生まれる

少し前、アメリカのイザドラ・ダンカンによって創始された。これは基本的に、「型にはま

った」、「様式美を魅せる」バレエに対抗する、自由なダンスである。クラシック・バレエ特

有のトゥシューズではなく裸足で踊ったり、重心を上に上げるクラシック・バレエに対して、

重心をさげて踊ったりするなど、多くの人がイメージするバレエとは、真逆と言っていいほ

どの新しいダンスである。

他にも、物語性を重視したドラマティック・バレエも登場してきた。こういった時代や新

しい考えによる新しいバレエの登場から、バレエも様式を変えていき、バレエの演出も様々

なものが生れた。バレエ『くるみ割り人形』も、この新しいバレエの流れを受けている。初

演が失敗とされたことにより、有名な振付家たちが、初演の失敗を補う演出を考え作ってき

たが、今では、どんな演出、振付でも受け入れられる時代になっているように思われる。と

いうよりも、バレエという定義が広くなっているように思われる。

【結論】

このように、初演のバレエ『くるみ割り人形』は、初演された当時は、観客が求めるバレ

エや時代などから失敗だったかもしれないが、現代のバレエという広い定義の中で考える

と失敗とは言えない。当時の観客が求めるバレエや背景があったからこそ初演時の時代背

景、オペラとセットで上演されバレエがメインでなかったことからも、このバレエが失敗で

あったとは言い切れないと分かる。もし、オペラとセットでの上演ではなく、バレエ単体で

の上演であったならば、初演のような台本ではなかったかもしれない。また、クラシック・

バレエの全盛期ではなく、現代に初演されていたら、主役のバレリーナの登場が少ないなど

と言われなかっただろう。初演が失敗だとされ、今でも新しい演出・振付が作られる『くる

み割り人形』であるが、時代や国によっても様々であり、何が成功で失敗なのかも、その時

代や国によって違いがある。初演が失敗だと言って、その後も上演されないままではなく、

百年以上経った今でも毎年上演されている。時代に合わせた演出・振付が作られているため、

今でも毎年クリスマスの定番レパートリーとして上演されているのだろう。

今回は、演出や時代から『くるみ割り人形』について考察したが、そもそもバレエとは「台

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本、舞踊(振付)、音楽、美術からなる。」(鈴木昌前掲書 p.82) 総合舞台芸術なのである。そ

のため、バレエを語るにあたり、他の要素についても触れるべきであっただろう。そして、

その中でも、この作品で考察するうえで大切なものは、音楽である。日本でも、クリスマス

の時期になると街中で流れているのを耳にしたり、CM にも使われているものもある。クラ

シック・バレエの中で有名な作品である『眠れる森の美女』、『白鳥の湖』、『くるみ割り人形』

は、チャイコフスキー三大バレエと言われているほど、チャイコフスキーが作曲した音楽も

作品を語るうえで大切な要素である。今回、このチャイコフスキーの音楽についても考察し

たかったが、作曲経緯を調べると深く、また、今回私が考察したかったこととずれてしまう

ため、この音楽については触れなかった。チャイコフスキーは、子ども向けのバレエを依頼

された時、自分の一生を振り返りながら、このバレエ曲を自叙伝として創りあげたそうだ。

音楽と踊りの融合が大切であるバレエにとって、クリスマス・イブの夜の少女の夢物語の台

本と、チャイコフスキーの音楽がはらむ深い感情とのギャップがこの作品、音楽にはある。

このような、チャイコフスキーの作曲経緯やそれぞれの音楽の意味を調べると、『くるみ割

り人形』の物語性についてもっと詳しく分かるように思ったので、音楽と物語の関係につい

ても調べてみたい。また、調べていくうちに、バレエ『くるみ割り人形』は、とても深い作

品であると感じた。ただ、クリスマスになると見たくなる夢物語の作品という、本来持って

いたものとは異なるイメージが生れた。そのため、チャイコフスキーの音楽などからもっと

深くこの作品について調べてみたいと思う。

【参考文献】

・東京バレエ団 モーリス・ベジャール

https://thetokyoballet.com/repertory/Maurice-Bejart/bejart-nuts.html

(最終閲覧日 2018 年 12 月 18 日)

・ NBS 日本舞台芸術振興会 ベジャールの「くるみ割り人形」 : 作品紹介

https://www.nbs.or.jp>stages>stage (最終閲覧日 2018 年 12 月 18 日)

・鈴木晶著 『バレエの魔力』講談社現代新書 2000 年

・鈴木晶著 『バレエとダンスの歴史 欧米劇場舞踊史』 平凡社 2012 年

・森田稔著『永遠の「白鳥の湖」 チャイコフスキーとバレエ音楽』新書館 1999 年

・平林正司著・訳『十九世紀フランス・バレエの台本:パリ・オペラ座』慶応義塾大学出版会

2000 年

・平林正司著『胡桃割り人形論-至上のバレエ-』三嶺書房 1998 年

・守山実花著 『バレエに連れてって!簡単楽々入門書』青弓社 1998 年

・守山実花著『もっとバレエに連れてって!』青弓社 2000 年

・池辺晋一郎、佐々木涼子、村山久美子、守山実花著

『華麗なるバレエ 第10巻 チャイコフスキー くるみ割り人形 英国ロイヤル・バレエ』

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小学舘 2009 年

・うらわまこと著「ここがポイントーさまざまな演出に見るくるみ割り人形の相違点」『バ

レエの本‘95 秋』音楽之友社 1995 年 10 月 1 日

・柴崎政夫著「世界の著名バレエ団⦅名作 9 選⦆-ロシア・欧州・米大陸の゛主要版゛を観

る-」所収『別冊バレリーナの道 27 くるみ割り人形』文園社

・長野由紀著『バレエの見方』新書館 2003 年

・池野恵著『バレエ・ダンスの饗宴 20世紀末の身体を表現する人々』洋泉社 1995 年

・薄井憲二著『キエフ・バレエ くるみ割り人形』音楽之友社 1988 年

・渡辺真弓著『バレエの鑑賞入門 物語とみどころがわかる』世界文化社 2006 年

・アレクサンドル・デュマ作、小倉重夫訳『くるみ割り人形』東京音楽社 1991 年

・E.T.A.ホフマン著、種村季弘訳『くるみ割り人形とねずみの王様』河出書房新社

1996 年

・ミハイル・シェマーキン/キリル・シモノフくるみ割り人形 DVD ハンドブック

ユニバーサルミュージックジャパン 2007 年

・モーリス・ベジャールくるみ割り人形 DVD ハンドブック

TDK コア 2003 年

論文

・播野尚子著「バレエにおける演出について」所収『藝術研究』第十二号 広島芸術学会

1999 年

映像

・バレエ「くるみ割り人形」マリインスキー劇場 ワシリー・ワイノーネン振付

Kultur Video 2011 年収録 2012 年発売

・バレエ「くるみ割り人形」モーリス・ベジャール・バレエ・ローザンヌ

モーリス・ベジャール振付 TDK コア 2000 年収録 2003 年発売

・バレエ「くるみ割り人形」マリインスキー劇場 キリル・シモノフ振付

ユニバーサルミュージックジャパン 2006 年収録 2007 年発売

・映像 DVD「くるみ割り人形」所収池辺晋一郎、佐々木涼子、村山久美子、守山実花著

『華麗なるバレエ 第10巻 チャイコフスキー くるみ割り人形 英国ロイヤル・バレエ』

小学舘 2009 年

英国ロイヤル・バレエ ピーター・ライト振付 収録 1985 年