心肺蘇生プロトコール2007(要点)kenji/01.pdf · 2013-01-15 ·...

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心肺蘇生プロトコール 2007(要点) ○ 心肺蘇生における年齢区分を、新生児(生後28日未満)、乳児(生後 28 日~1 歳未満)、小児(1歳~15歳未満)、成人(15 歳以上)とする。除細動は1歳以 上を対象とし、気管挿管、静脈路確保、薬剤投与は8歳以上を対象とする。気管挿 管を除く器具を用いた気道確保は年齢区分を設定しない。 「絶え間ない胸骨圧迫」を確保するため、心肺蘇生を次のように定める。 ※成人(15 歳以上) ・胸骨圧迫を 100 回/分の速さで実施する。 ・人工呼吸を2回実施した後、[胸骨圧迫 30 回:人工呼吸2回 ]を1サイク ルとし、5サイクル(約2分間)を1クールとする ※小児(1歳~15歳未満)、幼児、新生児 ・胸骨圧迫を 100 回/分の速さで実施する。 ・1人で実施する場合 人工呼吸を2回実施した後、[胸骨圧迫 30 回:人工呼吸2回 ]を1サイ クルとし、5サイクル(2分間)を1クールとする ・2人で実施する場合 人工呼吸を2回実施した後、[胸骨圧迫 15 回:人工呼吸2回 ]を1サイ クルとし、10 サイクル(2分間)を1クールとする 心肺蘇生1クール後に、必ず調律確認、心拍再開の確認および適応があれば電気的 除細動を実施する。このためECG 調律確認プロトコールを別に定める。 ○ [心肺蘇生1クール ― ECG 調律確認プロトコール]の繰り返しを基本とし、薬剤 投与救急救命士は心肺蘇生4クール程度、非薬剤投与救急救命士は3クール程度を 発生現場での最大限度とし、迅速な搬送に努める。 ○ 傷病者接触時に入電後5分以内の場合は、直ちにECG調律確認プロトコールを実施 する(shock-first)。入電後5分以上が経過している場合は、約2分間(1クール) の心肺蘇生(CPR-first)を行った後、ECG調律確認プロトコールを実施する。 ○ 電気的除細動を次のように実施する。 ※電気的除細動のエネルギー量 ・8歳以上は、二相性除細動器で既定の設定量、単相性除細動器で初回 200J、2 回目以降は 360J を上限とする。

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Page 1: 心肺蘇生プロトコール2007(要点)kenji/01.pdf · 2013-01-15 · 2.気道確保は外傷性の傷病者に対してであっても、下顎挙上法(jaw thrust)ではなく、

心肺蘇生プロトコール 2007(要点)

○ 心肺蘇生における年齢区分を、新生児(生後28日未満)、乳児(生後 28 日~1

歳未満)、小児(1歳~15歳未満)、成人(15歳以上)とする。除細動は1歳以

上を対象とし、気管挿管、静脈路確保、薬剤投与は8歳以上を対象とする。気管挿

管を除く器具を用いた気道確保は年齢区分を設定しない。

○ 「絶え間ない胸骨圧迫」を確保するため、心肺蘇生を次のように定める。

※成人(15歳以上)

・胸骨圧迫を 100 回/分の速さで実施する。

・人工呼吸を2回実施した後、[胸骨圧迫 30 回:人工呼吸2回 ]を1サイク

ルとし、5サイクル(約2分間)を1クールとする

※小児(1歳~15歳未満)、幼児、新生児

・胸骨圧迫を 100 回/分の速さで実施する。

・1人で実施する場合

人工呼吸を2回実施した後、[胸骨圧迫 30回:人工呼吸2回 ]を1サイ

クルとし、5サイクル(2分間)を1クールとする

・2人で実施する場合

人工呼吸を2回実施した後、[胸骨圧迫 15回:人工呼吸2回 ]を1サイ

クルとし、10サイクル(2分間)を1クールとする

○ 心肺蘇生1クール後に、必ず調律確認、心拍再開の確認および適応があれば電気的

除細動を実施する。このため、ECG 調律確認プロトコールを別に定める。

○ [心肺蘇生1クール ― ECG 調律確認プロトコール]の繰り返しを基本とし、薬剤

投与救急救命士は心肺蘇生4クール程度、非薬剤投与救急救命士は3クール程度を

発生現場での最大限度とし、迅速な搬送に努める。

○ 傷病者接触時に入電後5分以内の場合は、直ちにECG調律確認プロトコールを実施

する(shock-first)。入電後5分以上が経過している場合は、約2分間(1クール)

の心肺蘇生(CPR-first)を行った後、ECG調律確認プロトコールを実施する。

○ 電気的除細動を次のように実施する。

※電気的除細動のエネルギー量

・8歳以上は、二相性除細動器で既定の設定量、単相性除細動器で初回 200J、2

回目以降は 360J を上限とする。

Page 2: 心肺蘇生プロトコール2007(要点)kenji/01.pdf · 2013-01-15 · 2.気道確保は外傷性の傷病者に対してであっても、下顎挙上法(jaw thrust)ではなく、

・1歳以上8歳未満の小児は、小児用減衰機能付の電極パッドを使用することを

原則とする。小児用減衰機能付の電極パッドを備えていない除細動器を使用せ

ざるを得ない場合は、暫定措置として当面の間、成人用電極バッドの使用を容

認する。

※ 電気的除細動の回数

・発生現場での除細動の実施回数は2回までとし、車内への早期移送に努める。

・車内収容後は、最初の ECG 調律確認プロトコール実施中に、電気的除細動を1

回施行することができる。搬送中の電気的除細動の実施は、オンライン MC の

指示に従う。

○ 静脈路確保、器具を用いた気道確保は心肺蘇生中に実施するが、アドレナリン投与

は ECG 調律確認プロトコール中に心拍再開がないことを確認した後、速やかに実施

する。

○ 救急救命処置に優先順位は、

① 薬剤投与認定救急救命士の場合

a)BVM 換気が良好な場合は、静脈路の確保→アドレナリン投与→気道確保

b)BVM 換気が不良の場合、気道確保→静脈路確保→アドレナリン投与

② 非薬剤投与認定救急救命士の場合、気道確保→静脈路確保

○ 心肺蘇生の中断時間は特殊な状況でない限り 10秒以内を原則とする。ただし、気

管挿管実施時は 30秒以内、電気的除細動(ECG 調律確認・解析時間を含む)実施

時は 10数秒以内とする。

○ 薬剤投与認定救急救命士が搭乗している場合、発生現場での2クールの心肺蘇生の

間(約4分間)に静脈路を確保するものとする。そのため、2クールの心肺蘇生中

は、静脈穿刺の回数を限定せず、また、複数の救急救命士が同時に静脈穿刺を実施

できるものとする。静脈路が確保できない場合は、静脈路確保を中止し、早期移送

に努める。

薬剤投与認定救急救命士が搭乗していない場合、1回目の静脈穿刺に失敗すれば、

静脈路確保を中止し、早期移送に努める。

車内収容後は、薬剤投与認定救急救命士が搭乗している場合に限り、停車・走行に

かかわらず安定した車内で静脈路確保およびアドレナリン投与に努める。

○ 静脈路確保に関する指示要請は初回のみとし、登録指示医師の指示により、静脈

路確保プロトコールに従い静脈路確保を実施する。

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○ PEA、Asystole に対するアドレナリン投与の回数は制限しないが、VF/VT に対する

アドレナリン投与は 3回までを原則とする。

○ PEA、Asystole に対するアドレナリン投与に関する指示要請は初回のみとし、登録

指示医師の指示により、薬剤投与プロトコールに従い薬剤投与を実施する。

VF/VT が継続した場合のアドレナリン投与は、初回の指示要請と登録指示医師の指

示により 3 回まで実施できる。4 回以降のアドレナリン投与は、オンライン MC の

指示に従う。

○ 初回の ECG 調律確認プロトコールで VF/VT を確認した場合は、先ず電気的除細動を

実施する。心肺蘇生中にアドレナリン投与の準備を完了した場合、VF/VT の継続ま

たは再発が確認できれば、電気的除細動に先立ってアドレナリンを投与する。

○ アドレナリンを投与した場合の効果判定は、心肺蘇生1クール後の ECG 調律確認プ

ロトコール実施中に行う。2回目のアドレナリン投与は、何らかの原因で現場滞在

が延長する場合を除いて、車内収容直後の ECG 調律確認プロトコール実施中に心拍

再開がないことを確認した後、速やかに実施する。搬送中のアドレナリン投与は、

2クールの心肺蘇生を実施した後の ECG 調律確認プロトコール実施中に行う。

○ 気管挿管を実施する場合は、電話を切らずにオンライン下に置き、実施プロセスを

登録指示医師がリアルタイムに把握し、その都度必要な指示、指導を与えることが

できるようにする。

○ 複数の救急救命士が諸種の特定行為を同時に実施する場合、特定行為の実施が認め

られている救急救命士が、指示要請を代行し、MC 登録指示医師からの具体的指示

を他の救急救命士に伝達することができる。

○ 二次救命処置は、発生現場が停車した救急車の近傍である場合や周囲の状況から処

置の実施が困難な場合を除き、発生現場から実施することを原則とする。しかし、

発生現場で処置が困難な場合、救急車内への移送は、早い段階で臨機応変に行うも

のとする.

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日本版救急蘇生ガイドラインおよび湘南MC心肺蘇生ガイドライン2007年

1 日本版救急蘇生ガイドラインの基本的考え方

① 効果的な救急蘇生を行うには、できるだけ早期から十分な強さと十分な回数の胸骨

圧迫が絶え間なく行われることが重要であり、強調した。

② 胸骨圧迫の効果を上げるために、心肺蘇生法開始の判断と手順、人工呼吸の吹き込

み時間、胸骨圧迫と人工呼吸の比率、AEDによる連続ショック回数、ショック後の

対応などを変更した。

③ 一次救命処置は大きな枠組みとして、主に市民が行う一次救命処置(心肺蘇生法、A

ED使用法など)と、日常的に蘇生を行う者やALSを習得した者が行う成人と小児

(乳児を含む)の一次救命処置に区分された。

※ 日本版救急蘇生ガイドラインとは、2005 年 11 月に国際蘇生連絡協議会(ILCOR)が

発表した心肺蘇生に関わる科学的根拠と治療勧告コンセンサス(CoSTR)にそって、わが

国の新しい心肺蘇生ガイドラインを策定したものです。

2 一般市民の救命処置のG2005との大きな変更点

旧 新

① 患者の確認 意識の確認 反応の確認

② AED の対象年齢 8 歳以上 1 歳以上

③ 人工呼吸と心臓マッサージの比 15:2 30:2

④ 人工呼吸の吹き込み時間 1.5~2.0 秒 1 秒

⑤ 心臓マッサージの強さ 3.5~5cm 4~5cm

⑥ 心肺停止の判断 循環のサイン 正常な呼吸

⑦ AED の実施後の処置 AED による解析 すぐに心肺蘇生法

3 ガイドライン 2005 での主な変更点のうち、市民救助者(Lay Rescuer)向けのCPR(心

肺蘇生)に関するものは次の通りである。

1.救助者ひとりで意識のない幼児もしくは小児に対応する場合は、119 番通報をするた

め、もしくは他の救助者を呼びにその場を離れる前に、約 5 サイクルの胸部圧迫(心

臓マッサージ)と人工呼吸(約2分間)を行なう。

⇒従来は、心臓マッサージと人工呼吸の割合が 15:2 だったため、「約 1 分間のCPR」

とされてきたが、ガイドライン 2005 からはCPRの割合が 30:2 と改められたため、

時間も2分となった。

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2.気道確保は外傷性の傷病者に対してであっても、下顎挙上法(jaw thrust)ではなく、

頭部後屈顎先挙上法(head tilt - chin lift)を使うべきである。

⇒市民救助者の場合、下顎挙上法は修得も実践も難しく、しばしば十分な気道確保に

ならない可能性が高いため勧めない。頸椎損傷があったとしても、確実な気道確保の

方が優先される。

3.意識のない成人、もしくは呼吸停止で無反応な幼児・小児に対して、5 秒から 10 秒の

間(10 秒は越えてはいけない)で、「正常な呼吸」があるか確認する。

⇒「死戦期あえぎ呼吸」などを見逃さないため、呼吸の有無ではなく、「正常な呼吸」

があることを確認する。ふつうとは異なる呼吸の場合は、すべて人工呼吸の適応とな

る。

4.人工呼吸前に深呼吸は不要

⇒これまでは、マウス・トゥ・マウスなどの人工呼吸を行なう際には、吹き込み前に

深呼吸することが勧告されてきたが、新ガイドラインでは、深呼吸の必要はなく通常

の呼吸で十分であるとされた。

5.人工呼吸は1秒以上かけて行ない、傷病者の胸部が上がる程度に息を吹き込む

⇒これまでは 2 秒以上掛けることが勧められていたが、最も重要な心臓マッサージを

なるべく中断しないために、1秒以上かければよいとされた。短くて強い呼気吹き込

みを避けるのは従来とおなじ。胃膨満となり嘔吐を誘発する可能性があるため。

6.一回息を吹き込んで胸の挙上が確認されなかったら、2回目の息を吹き込む前に頭部

後屈顎先挙上で再気道確保する。

7.循環のサインの確認はしない。2回呼気を吹き込んだらすぐに胸部圧迫をはじめる。

そのままひたすらCPRを続ける

⇒以前は心マの前には頸動脈で脈拍の触知を行なうことになっていました。またその

後に改定されたガイドライン 2000 では脈拍触知を廃止して、呼気吹き込みに対する反

応(息、咳、体動=「循環のサイン」)の有無を心臓マッサージ開始の目安としました。

しかし今回のガイドライン 2005 では、さらに簡略化し、循環サインの確認すらを廃止

して、「正常な呼吸がない」というだけで「生命の徴候」(sign of life)なしと判断

する方針に変わりました。

8.心マを伴わない人工呼吸だけの救助法は教えない。

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9.胸部圧迫と人工呼吸の比率は、対象に関わらず常に 30:2 に統一する。

⇒これまでは乳児と成人では、心マ:呼気吹き込みの比率が異なっていたが、簡略化

のため統一された。

10. 小児の心マは、乳頭部を結んだ胸の中央を片手もしくは両手で圧迫する。乳児の場合

は、乳頭を結んだライン上の胸骨を2本指で圧迫する。

11. AEDを使う場合、1回のショックを与えたら、すぐにCPRを開始し、リズムチェ

ック(心電図解析)は約2分間CPRを続けたあとに行なう。

12. 気道内異物除去の方法が簡略化された。

13. 応急処置に関する勧告が諸々増えた。頸椎保護や酸素の使用に関することなど。

4 一般市民と日常的に蘇生を行う者との主な違い

(1)年齢区分

① 一般市民

成人(8 歳以上)、小児(1 歳~8 歳未満)、乳児(1 歳未満)、新生児(28 日未満)

② 日常的に蘇生を行う者

成人(思春期以上(年齢:15 歳超が目安))、 小児(1 歳から 15 歳程度まで)、乳児(1

歳未満)、新生児(28 日未満)

(2)気道確保

① 一般市民

全て頭部後屈・あご先挙上

② 日常的に蘇生を行う者

頭部後屈・あご先挙上(外傷の場合は下顎挙上法で気道確保)

GL2000 は、一般市民でも外傷で頚椎損傷が疑われるときは、下顎挙上を指導してい

た。2005 では、日常的に蘇生をする者のみが下顎挙上法を実施

(3)人工呼吸(成人)

① 一般市民

口対口人工呼吸により一回あたり約 1 秒かけて胸の上がりが見える程度の量を 2 回

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吹き込む。感染防護具を持っていない場合などにより口対口人工呼吸がためらわれ

る場合には、人工呼吸を省略してもよい。

② 日常的に蘇生を行う者

一回あたり約 1 秒かけて胸の上がりが見える程度の量(送気量:6̃7ml/・)を 2 回吹き

込む。人工呼吸を行う際には、感染防護具を使用すべきである。可能な場合にはで

きるだけ高濃度の酸素で人工呼吸を行うこと。呼吸数 10 回/分以下の除呼吸も呼吸

停止(無呼吸)と同様に対応すべき。

(4)心停止の確認

① 一般市民

反応がない場合には、呼吸で確認し、呼吸がなければ心停止と判断。

② 日常的に蘇生を行う者

反応がない場合には、呼吸と脈拍を同時に確認する。呼吸がなく、頚動脈が確実に

触知できなければ CPR が必要である。脈拍の確認に自信がもてない救助者は、呼吸

確認に専念し、反応と呼吸がないことを根拠に CPR を開始する。

(5)前胸部叩打法

① 一般市民

なし。

② 日常的に蘇生を行う者

モニター下で発生した目撃のある心室細動と無脈性心室頻拍は直ちに除細動の使用

ができない場合は、即座に 1 回だけの前胸部叩打を行ってもよい(拳で約 20cm の高

さから振り下ろし胸骨の下半分を鋭く叩く。)

(6)圧迫・換気比

① 一般市民

1 人法、2 人法とも全て 30:2

② 日常的に蘇生を行う者

成人 1 人法、2 人法とも 30:2。小児・乳児・新生児 1 人法 30:2、2 人法 15:2

(新生児については分娩室と NICU では、3:1 を原則としているが、その他の場所で

は一般小児と同じく救助者が 2 人の場合は 15:2、救助者が 1 人の場合は 30:2 を原

則とする。救急救命士が自宅分娩、救急車内で新生児への CPR は一般小児と同様の

CPR でよい。)

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湘南MC 心肺蘇生プロトコール(要点)

○ CPR における年齢区分を、新生児(生後 28 日未満)、乳児(生後 28 日~1 歳未満)、小児

(1 歳~15 歳未満)、成人(15 歳以上)とする。除細動は 1 歳以上を対象とし、器具を用い

た気道確保、静脈路確保、薬剤投与は 8 歳以上を対象とする。

O 「絶え間ない胸骨圧迫」を確保するため、CPR を次のように定める。

※成人(15 歳以上)

・胸骨圧迫を 100 回/分の速さで実施する。

・人工呼吸を 2 回実施した後、[胸骨圧迫 30 回:人工呼吸 2 回]を 1 サイクルとし、5

サイクル(約 2 分間)を 1 クールとする

※小児(1 歳~15 歳未満)、幼児、新生児

・胸骨圧迫を 100 回/分の速さで実施する。

・1人で実施する場合

人工呼吸を 2 回実施した後、[胸骨圧迫 30 回:人工呼吸 2 回]を 1 サイクルと

し、5 サイクル(2 分間)を 1 クールとする

・2 人で実施する場合

人工呼吸を 2 回実施した後、[胸骨圧迫 15 回:人工呼吸 2 回]を 1 サイクルと

し、10 サイクル(2 分間)を 1 クールとする

○ 心肺蘇生 1 クール後に、必ず調律確認、心拍再開の確認および適応があれば電気的除

細動を実施する。このため、ECG 調律確認プロトコールを別に定める。

○ [心肺蘇生 1 クール-ECG 調律確認プロトコール]の繰り返しを基本とし、薬剤投与救

急救命士は心肺蘇生4クール程度、非薬剤投与救急救命士は3クール程度を発生現場で

の最大限度とし、迅速な搬送に努める。

○ 心肺蘇生 1クールの間に 150 回の胸骨圧迫を実施するため、ECG 調律確認プロトコール

実施中に胸骨圧迫の要員を交代させることが望ましい。安定した胸骨圧迫を実施する

ために、装着が容易で移送中も位置ズレの少ない新しい自動心臓マッサージ器の使用

を考慮する。

○ 電気的除細動を次のように実施する。

※電気的除細動のエネルギー量

・8 歳以上は、二相性除細動器で設定量、単相性除細動器で初回 200J、2 回目以降は

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300J または 360J とする。

・1歳以上 8 歳未満の小児は、小児用減衰機能付の電極バッドを使用することを原則と

する。小児用減衰機能付の電極バッドを備えていない除細動器を使用せざるを得な

い場合は、暫定措置として当面の間、成人用電極バッドの使用を容認する。

※電気的除細動の回数は 2 回までとし、3 回目以降はオンライン MC の指示に従う。

○ CPR 実施中の 2 分間に、順次、静脈路確保、薬剤投与および器具を用いた気道確保を

実施する。このため、静脈路確保プロトコール、薬剤投与プロトコールおよび気道確保

プロトコール、気管挿管プロトコールを別に定める。

○ 薬剤投与認定救急救命士が 1 回目で静脈穿刺に失敗した場合は、次の CPR 中に、2 回

目の静脈穿刺を実施できる。非薬剤投与認定救急救命士が 1 回目で静脈穿刺に失敗し

た場合は、静脈路確保を中止する。

○ 接触時の「呼吸なし脈あり」の症例または心拍再開した症例に対応するため、呼吸管

理プロトコールを別に定める。

○ 薬剤投与および器具を用いた気道確保は、発生現場が停車した救急車の近傍である場

合や周囲の状況から救急救命処置の実施が困難な場合を除き、発生現場で実施するこ

とを原則とする。

○ 気管挿管の実施者は気管挿管認定救急救命士、薬剤投与の実施者は、薬剤投与認定

救急救命士に限る。

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ガイドライン2005の変更点 1 気道確保は、脊椎損傷の恐れがある傷病者であっても下顎挙上法でなく、頭部後屈顎

先挙上法で行なう。 ① 頚椎損傷の発生率は、鈍的外傷後では 2.4%であったが、頭蓋顔面外傷、GCS 8 未満、

あるいはその両方を併発している患者ではさらに高率であった。

② 損傷した頚椎を固定し忘れると、二次的な神経学的損傷のリスクは増大する。受傷し

た患者に頚椎固定をしたかどうかに関するケースコントロール研究では、以前に考え

られていたより二次的な損傷は少なかった。

③ どんな気道操作も頚椎の動きを伴う。遺体での研究では、あご先挙上(頭部後屈の有無

にかかわらず)および下顎挙上法は、ともに頚椎に大きな動揺を与えている。

④ 用手による正中固定または頚椎カラーの使用では、脊椎の動きを防ぐことはできなか

った。その他の研究では、気道操作時における正中固定の適用により、脊椎の動きを

生理学的なレベルまで減じると報告している。

⑤ 気道操作は正中固定を用いた方が、カラーを使用するより安全である。しかし、麻酔

下で筋弛緩状態のボランティアにおける小規模な研究では、下顎挙上を実施しても頭

部が正中位である場合には、放射線学上の気道開通性は改善していないことが分かっ

た。脊椎損傷が疑われる患者での蘇生処置を評価した研究はない。

⑥ 脊椎損傷が疑われる患者であっても、気道の管理と充分な換気が最も優先される。脊

椎損傷が疑われたり気道が閉塞した患者であっても、頭部後屈・あご先挙上法または

下顎挙上(頭部後屈を伴う)の手技は実行可能であり、また気道開放にも効果があると

思われる。どちらの手技も頚椎の動きを生じさせる。もし、適切なトレーニングを受

けた救助者が充分にいる場合には、頭部の動揺を最小限にとどめるために正中固定を

適用することが妥当である。

2 意識のない成人や、反応がなく呼吸が停止している小児、乳児における、正常な呼吸

の確認は5~10秒で行なう(10秒以上かかってはいけない) ① 一般市民では、乳児や小児が刺激に反応せず、身動きや息がなければ、胸骨圧迫を開

始すべきである。医療従事者では脈拍を確認してもよいが、10 秒以内に脈拍を触知で

きない場合や脈があるかどうか確信が持てない場合は、蘇生を開始すべきである。

② 頚動脈のチェックは、循環の有無を確認するには不正確な方法である。しかし、体動、

呼吸、咳(つまり"循環のサイン")のチェックが診断的に優れているというエビデン

スもない。

③ 死戦期のあえぎは心停止の初期段階で一般的に見られる。救助者はしばしば、心停止

の患者が死戦期のあえぎを示していることを"呼吸している"と通信指令に報告してい

る。このことは本来 CPR の恩恵を受けたであろう患者に、実際には CPR が差し控えら

れる可能性があるということである。

④ 患者の意識がなく(反応がなく)、体動がなく、呼吸をしていなかったら、救助者は CPR

を開始すべきである。患者が時折あえいでいても、救助者は心停止が起きていること

を疑い CPR を開始すべきである。

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3 1回の吹き込みは1秒以上かけて行なう。傷病者の胸が軽く膨らむ程度。 4 1回吹き込んだあと、傷病者の胸が軽く膨らまなかった場合、2回目の吹き込みをす

る前に、もう一度、頭部後屈顎先挙上法により気道確保を行なう。 ① マネキンでの研究とヒトでの研究では、二次的気道確保器具(気管チューブ、コンビ

チューブ、LMA など)が留置されていない場合、一回換気量 1,000mL の方が換気量

500mL の場合より明らかに顕著な胃膨張を生じることが示された。

② 二次的気道確保器具を留置されていない麻酔下の患者での研究は、一回換気量 455mL

の室内気による換気は受け入れられるが、719mL に比較して明らかに酸素飽和度が低

下することを示している。一回換気量 624ml と 719mL では酸素飽和度には違いは見ら

れなかった。100%酸素にて 12 回/分の人工換気中に患者に気道確保器具を用い、一回

換気量 500mL と 1,000mL を比較した心停止患者における研究が報告されている。少な

い換気量は、動脈血 PCO2 の上昇とアシドーシスの悪化に相関したが、PaO2 には違いが

無かった。

③ 小規模の症例累積研究と動物実験の両方を含んだ報告では、過換気は胸腔内圧の上昇、

冠潅流および脳潅流の低下を伴い、特に動物では心拍再開(ROSC)の減少を示した。

④ 病院外心停止の後、二次的気道確保器具を留置された患者を含む症例累積研究の二次

分析で、10 回/分以上の換気回数と 1 秒以上の吸気時間の組み合わせでは生存した者

はいなかった。

⑤ 重症ショックの動物モデルによる研究から推測すると、6回/分の換気回数は 12 回/

分以上の換気回数に比して、適切な酸素化とより良い循環動態をもたらすことが示唆

された。

⑥ 要約すると、より大きな一回換気量と換気回数は合併症に相関する可能性があり、こ

れに対して、小さな換気量で観察される悪影響は容認できる。

⑦ 呼気による口対口人工呼吸または大気下または酸素を用いたバッグ・バルブ・マスク

換気に関しては、胸部が上がる程度に吸気時間 1 秒以内の人工呼吸を実施することは

妥当である。

⑧ 二次的気道確保器具(例えば気管チューブ、コンビチューブ、LMA)を留置した後は、

酸素を用いて、胸が上がる程度に換気する。二次的気道確保器具を留置して実施する

CPR では、換気を行なうために胸骨圧迫を中断することなく、8~10 回/分の速さ(呼

吸回数)で換気することが適当である。心停止の原因に関係なく、同じ初期一回換気

量と回数で実施すること。

5 循環のサインは確認しない。2回息を吹き込んだあと、すぐに心臓マッサージを始め

る。 ① 頚動脈のチェックは、循環の有無を確認するには不正確な方法である。しかし、体動、

呼吸、咳(つまり"循環のサイン")のチェックが診断的に優れているというエビデン

スもない。死戦期のあえぎは心停止の初期段階で一般的に見られる。救助者はしばし

ば、心停止の患者が死戦期のあえぎを示していることを"呼吸している"と通信指令に

報告している。このことは本来 CPR の恩恵を受けたであろう患者に、実際には CPR が

差し控えられる可能性があるということである。このことから患者の意識がなく(反

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応がなく)、体動がなく、呼吸をしていなかったら、救助者は CPR を開始すべきである。

6 全ての傷病者に対して、心臓マッサージと人工呼吸の回数の比率は30:2に統一す

る。 ① 病院外心停止の処置中に、挿管された患者に対し、必要以上の頻度で換気を行なっていることが調査の結果わかった。また、病院内研究においても、二次的気道確保器具

の留置の有無に関わらず、患者に対する必要以上の頻度で換気が実施されていた。そ

して2つの動物研究で、過換気が胸腔内圧の増加と冠潅流と脳潅流の減少、および生

存率の減少という結果となった。 ② 心室細動性心停止に関する多数の動物研究では、中断の少ないまたは全く無い胸骨圧

迫心臓マッサージを続ける方が、現行の CPR に比べて血行動態も生存率も良かった。

③ 挿管した動物モデルにおける実験結果、および理論上の計算においても、圧迫-人工

呼吸の比率を変えた場合、功罪相半ばする結果が生じている。100 対 2 の圧迫-人工呼

吸比は 24 時間後の神経学的機能に関して 15 対 2 または持続圧迫 CPR に比較して明ら

かに改善していたが、潅流圧や生存率には有意な差は無かった。50 対 2 の圧迫-人工

呼吸比を使った心停止の動物実験では、15 対 2 または 50 対 5 のどちらを使った時より

も胸骨圧迫心臓マッサージの数が明らかに多かった。頸動脈血流は 50:2 のほうが 50:

5 に比べて明らかに多く、15:2 との比較では差がなかった。動脈血酸素化、並びに脳

への酸素供給量に関しては 15:2 比が、50:2 もしくは 50:5 の場合と比較して有意に

高かった。30:2 の圧迫-人工呼吸比で行なった動物実験では、ROSC までの時間は、

中断のない継続的な胸骨圧迫心臓マッサージに比較して有意に短く、かつ全身及び脳

への酸素化が良好であった 。理論上の解析結果によると、30 対2の圧迫-人工呼吸比

が最も良い血流と酸素供給を生じる可能性を示唆している。

④ 観察研究では、救助者の実際の圧迫回数は、現在推奨されている回数より少ないこと

が示された。動物実験では速度の速い CPR (120~150/分)の方が現行の CPR と比べて血行動態を改善し外傷も少なかったという報告と、効果はないとする報告がある。

他の動物実験では圧迫時間比などのその他の要素による改善も報告されている。人体

での研究報告では圧迫回数の多い CPR(120回/分)が現行の CPRに比べ血行動態を改善している。しかし、ヒトに対する機械的な CPR では、圧迫回数の多い CPR(140 回/分まで)は 60 回/分の場合と比べて血行動態を改善しない。

7 AEDを使用する際は、1ショック後すぐにCPRを行なう(すぐに心臓マッサージ

を開始する)。解析は2分ごとに行なわれる。 1 回ショックプロトコルと 3 回連続ショックとを比較した研究結果は発表されていない。初回またはその後の通電の成功の度合いは特定の患者群、初期リズム、あるいは設定され

た結果によって異なっていた. 除細動の成功はショック後 5 秒以上の VF の停止と定義された。蘇生の成功とは心拍再開と生存退院の2つの基準がありうるが 蘇生の際に優先されるべきこととして、除細動の必要性を迅速に評価すること(第2部;

成人の一次救命処置参照)、除細動器が使えるまで CPR を実施すること、胸骨圧迫の中断を最小限にすることがある。救助者が最善の CPR を行い、CPR 重視の通電タイミングや

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通電波形とエネルギーレベルの組み合わせを最適化することにより、除細動が成功する公

算を最大限にできる。1 回ショック戦略は、胸骨圧迫の中断を減らすことにより転帰を改善する可能性がある。3 回連続通電については(リズムに関係なく)、初回通電後すぐに有効な胸骨圧迫を再開し、リズム解析に要する CPR 中断時間を最小限にすることによりその効果を最大限にできる。

いったん二次気道確保(例えば、気管チューブ、ラリンジアルマスクエアウェイ(以下

LMA)、あるいは食道・気管コンビチューブが挿入されれば、一人の救助者は、他の救助

者が 100 回/分の胸部圧迫をする間に8~10 回/分の換気をすべきである。胸骨圧迫心臓マ

ッサージをしている救助者は、換気のために胸骨圧迫を止めるべきではない。

冠灌流圧:冠灌流圧は,胸骨非圧迫時における上行大動脈と右心房の圧較差であり,自己

心拍の再開率と相関する重要な因子である.CPR では,胸骨非圧迫時の上行大動脈圧を上昇させ,かつ右心房圧を上昇させないことが必要であるが,標準的

CPR で得られる冠灌流圧は自己心拍の再開には不十分なことが多い 脳潅流圧:脳潅流圧は脳血流量であり、頭蓋内圧から平均動脈血圧を引いたものである。

ROSC:自己心拍再開 (Restoration Of Spontaneous Circulation: ROSC)

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救急蘇生ガイドライン(骨子) 急性冠症候群および脳卒中への対応 急性冠症候群とは、急性心筋梗塞およびその類縁疾患の総称である。急性冠症候群も脳

卒中(正確には、脳卒中のうち急性虚血性脳卒中または脳梗塞といわれる疾病)も、それ

ぞれ心臓および脳に栄養を供給する動脈に血液の塊(血栓という)が詰まるために、臓器

の一部の活動が停止するという点において、非常に似かよった疾患であるといえる。また、

いずれも心臓や脳といった最重要臓器に発生する不具合であるため、直ちに生命に関わる

事態に進展することがあるだけでなく、一命を取り留めた場合でも、その後の活動が制限

される、手足の動きが不自由になるなど、傷病者の生活の質を大きく低下させる可能性を

はらんでいる。 近年、発症の原因となった血液の塊(血栓)を効果的に溶かす薬(線溶薬という)が使

用できるようになった。発注後の早い時期に線溶薬を使用して、原因となった血栓を溶か

せば、それまで流れが途絶えていた血管に再び血液が流れるようになる。この治療(線溶

療法)がうまくいけば急性冠症候群や脳卒中の傷病者の症状は大きく改善することになる。 ただし、この治療には厳しい時間的制限がある。たとえば脳卒中の場合、線治療法を行

うことができるタイムリミットは発症後3時間である。多くの傷病者の場合、初期の症状

に気づくのが遅れるなどのために、このタイムリミット内に治療を受けることができるの

は傷病者全体のごく一部に過ぎない。ガイドラインでは、通報元の傷病者が、一見軽症傷

病者に思われるような場合でも、その背景に潜んでいるかもしれない急性冠症候群や脳卒

中の症状を鋭く見抜くことができるような救急隊員を養成するために、適切な初期および

継続教育を行うことを求めている。また、救急隊が急性冠症候群や脳卒中が疑われるよう

な傷病者を発見した場合には、ただちに適切な病院が選定され、かつ、その病院内で進や

かに治療を開始することができるような地域医療体制を構築すべきであるとしている。 成人の定義 一次救命処置に関する限り、成人と小児との境目は、年齢にして概ね8歳、体重にして

概ね 25kg というのが従来から使用されてきた目安である。今回のガイドラインでは、この境目の目安を改め、「思春期に達しているかどうか」で成人と小児とを見分けるよう求め

ている。髭が生えている(男性)、あるいは乳房のふくらみがある(女性)などの傷病者で

あれば、既に思春期に達している証であり、心肺蘇生法等の手順については、成人として

取り扱う。これらの兆し(二次性徴)がない傷病者は小児として取り扱う。年齢的には 15歳前後が境目の目安となろう。この変更は、心肺停止の原因や生理学的特徴が思春期を境

に大きく変わるという考え方に基づいている。 自動体外式除細動器(AED)を用いて電気ショックを行う場合には、成人と小児を従

来どおり「8歳」を境目に区別する。これは電気ショックのために必要な子不ルギーに関

する体格の影響を考慮した結果である。詳細は後述する。

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心肺蘇生の手順 発見時の対応手順 傷病者が心肺停止に陥っているかどうかを確認する第一歩は「反応があるかないか」を

確かめることである。反応は肩を叩きながら大声で呼びかけて、傷病者に何らかの応答が

あるかどうかによって確認する。この場合の「何らかの応答」とは、目を開ける、目的の

ある仕草が見られるなどである。反応がない場合には心肺停止に陥っているのかもしれな

いと考えて、次のステップ「心停止の確認」に進む。 従来、この段階は「意識の確認」と称されてきた。「意識」という言葉を使っても決し

て誤りではないが、ガイドラインでは、救助者がとるべき行動をより直接的に表現すると

の方針に従って「反応の確認」という表記を用いた。 心停止の確認 従来、心停止の確認は「循環のサイン」の有無で判定していた。これは、特に市民の救

助者にとって、脈拍の確認が困難である、または確認に長時間を要するためである。しか

し、従来のガイドラインに基づいた過去5年間の経験によれば、「循環のサイン」を用いる

ことによって心停止の判定がより正確になったとはいえない。また、前述のとおり、心停

止直後の死戦期呼吸を見て「呼吸あり」と認識してしまう市民の例も多数報告されている。

そこでガイドラインでは、市民に対し「正常な呼吸があるかないか」によって心停止かど

うかの判定を行うよう求めることになった。この場合の「正常な呼吸」とは、無呼吸およ

び死戦期呼吸以外の呼吸状態を指す。10 秒以内に「正常な呼吸」が確認できない場合、その時点で心停止とみなし、ただちにCPRを開始する。脈の確認や「循環のサイン」など

の評価は行わない。なお、医療従事者(救急隊員や消防職員も含む)が心停止かどうかを

判定する場合には、できれば総頸動脈など体幹部の太い動脈における脈拍も判定基準のひ

とつに加える。すなわち、呼吸を評価すると同時に頸動脈を触れ、呼吸がなく(死戦期呼

吸は呼吸がないものと取り扱う)かつ確実な脈が触知できない場合には心停止と判定する。

通常業務において心肺蘇生に携わる機会の少ない一般吏員の場合には、必ずしも脈の確認

を行う必要はなく、呼吸がない、あるいは死戦期呼吸が見られることをもって心停止と判

定しても良い。 人工呼吸 人工呼吸の方法については、従来のガイドラインとほぼ同様であるが、空気を吹き込む

(あるいは蘇生用の人工呼吸バッグなどを用いて空気を送り込む)ときには約1秒かける

ことを推奨している。 従来のガイドラインでは、人工呼吸の方法によっても異なるが、概ね 1.5~2秒かけて送り込むことを推奨していた。従来のガイドラインが新しいガイドラインに比べ、よりゆ

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っくりと送り込むことを推奨していた背景には、そのことによって胃に空気が入る可能性

を少なくするという目論見があった。空気を性急に送り込むと、口や喉の圧力が高くなり

過ぎるため、空気の一部が肺ではなく胃に向かってしまうからである。しかし、過去5年

間の経験では、このように「ゆっくりと」送り込むと、送り込む空気の量が多くなり過ぎ

るだけで、胃に空気が入ることを必ずしも防止できないことがわかった。また、人工呼吸

に時間をかけることは、結果的に胸骨圧迫(後述)にかけられる時間が短くなるという弊

害があると考えられるようになった。 なお、救急隊員等の医療従事者が人工呼吸を行う場合には、やむを得ない場合を除いて

感染防護具を使用することを推奨する点については、従来のガイドラインと同様である。 胸骨圧迫 心臓マッサージのための胸骨圧迫では、圧迫位置の目安が変更された。従来は、肋骨縁

(胸壁の下端、最も下側の肋骨が走行している部分)を指先でなぞり、胸骨下端の剣状突

起を探す方法を推奨していた。しかし、この方法では圧迫位置を探すたびに貴重な時間が

浪費されることが問題とされた。新しいガイドラインでは、従来の方法に代えて、「胸の真

ん中」と思われる位置、あるいは、乳頭と乳頭を結ぶ直線の真ん中を圧迫位置の目安とす

ることを推奨している。いくつかの研究報告では、この簡易な方法によっても従来とほぼ

同程度の正確さで、かつ、より素早く圧迫位置を見つけることができるとされている。な

お、新しいガイドラインは従来の方法を否定するものではない。胸骨圧迫までに時間的余

裕があるような場合においては、従来の方法を用いるほうが好ましいとさえいえるかもし

れない。 胸骨圧迫の深さとテンポに関する推奨値は従来どおり、それぞれ4~5cm および 100回/分である。ただし、実際のCPR手技を調査した報告によれば、胸骨圧迫の約 60%は圧迫の深さが4cm に満たなかった。また、圧迫のテンポが速すぎる場合には圧迫の効果

に大きな違いがないが、テンポが遅すぎる場合には圧迫の効果が明らかに低下するともい

われている。そこでガイドラインでは、圧迫の深さとテンポの推奨値を従来どおりとしつ

つも、「強く」「速い」圧迫をこころがけるよう推奨している。 胸骨圧迫が効果的に行われているか否かは、従来、圧迫に伴って動脈に拍動が生じてい

るかどうかで評価されてきた。しかし、胸骨圧迫中は動脈だけでなく、静脈にも拍動が生

じているため、この評価方法は必ずしも適切ではないことが指摘された。従来の方法に代

わる信頼できる評価方法がない現状では、胸骨圧迫の評価は圧迫の位置や深さ、テンポで

行う以外になかろう。 人工呼吸と胸骨圧迫の回数比 胸骨圧迫:人工呼吸の回数比(C:V 比)は、この 10 年間に 5:1(成人の二人法、および

すべての小児)から 30:2(小児に対する二人法を除く全年齢層に共通)へと大きく変化した。結果的には、胸骨圧迫の(連続)数が増え、その分、人工呼吸の回数が減ったことに

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なる。 胸骨圧迫の数を増やせば、胸骨圧迫を行っている時間が延びるため、より多くの血液を

心臓から体に送り届けることができる。しかし、相対的に人工呼吸の回数が減るため、胸

骨圧迫によって送り届けた血液に含まれる酸素の量が少なくなるといった事態が生じうる。

このように、人工呼吸のために胸骨圧迫を中断せざるを得ない通常のCPRにおいては、

胸骨圧迫によって送り出すことのできる血液の量(これを増やすには胸骨圧迫の数を増や

せばよい)と、その血液に含まれている酸素の量(これを増やすには人工呼吸を増やす必

要がある)との兼ね合いが常に問題となる。 CPRの目的は、組織(特に脳と心臓)にできるだけ多くの酸素を届けることである。

運搬できる酸素の量(酸素運搬量)は、胸骨圧迫によって心臓から拍出される血液の量と、

その血液に含まれている酸素の量とを掛け合わせた数値として表される。鉄道で輸送する

ことのできる乗客の総数が、列車の本数(心臓から拍出される血液の量に相当する)と列

車1本あたりの乗客数(血液に合まれる酸素の量に相当する)とを掛け合わせた数字であ

ることと同じ理屈である。過去の動物実験およびヒトにおける研究から得られたデータを

総合して組み立てた数学モデルによる分析によれば、酸素運搬量は胸骨圧迫と人工呼吸を

約 50:2 の回数比で行った時に最大となる。これはあくまでも推定値に過ぎないが、少なくとも 15:2 の回数比では、胸骨圧迫の回数が少なすぎるという点については多くの研究者の合意がある。 胸骨圧迫では、それによって得られる血圧も重要な要素である。胸骨圧迫によって得ら

れる血圧は、圧迫を連続するにつれて次第に高くなる。この様子は、手押しの空気入れを

使って自転車のタイヤに空気を入れている場面に似ている。空気人れを押しても最初の2、

3回はポンプ内の圧力が増えるだけでタイヤには空気は入らない。実際にタイヤに空気が 入り始めるのは、空気人れを何度か押した後からである。胸骨圧迫の場合も、これと同様

で、たとえば 15 回連続で胸骨を圧迫した場合、初めの5回と最後の5回の平均血圧を比較すると、最後の5回の方が常に血圧が高い(図1),この結果も、一旦始めた胸骨圧迫は、

できるだけ多く続けた方が有利であることを示唆している, 市民がCPRを行う陽合には、2回の人工呼吸に平均 16 秒もの時間を要しているという報告も胸骨圧迫の数を増やすべきことを支持している。従来の 15:2 の比率で胸骨圧迫と人工呼吸を行った場合には、胸骨圧迫⇔人工呼吸の移り変わりを頻繁に行わなければなら

ないため、人工呼吸のための準備(気道確保や鼻をつまむなど)や胸骨圧迫の位置決めの

ために余分な時間を要する。このため、従来の方法で市民がCPRを行った場合、傷病者

の体内で血液循環が維持されている(胸骨圧迫が行われている)時間は、全体の半分にも

満たないという報告もある。 前記のような状況証拠を総合した結果、ガイドラインでは傷病者の年齢に関わらず、胸

骨圧迫と人工呼吸を 30:2 の比率で行うこととした。小児では呼吸状態の悪化が原因で心停止に至る事案が比較的多く、また、もともと呼吸に対する需要が高いため、生理学的には

15:2 の比率の方が好ましいとする意見が強い。それにも関わらず全年齢層で胸骨圧迫と人工呼吸の比率を統一したのは、主に市民に対するCPR教育の効率を考慮した結果である。

ただし、医療従事者が二人法でCPRを行う場合、小児では胸骨圧迫と人工呼吸を 15:2

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の比率で行う。 胸骨圧迫の連続回数が 30 回へと増えるにつれて、圧迫担当者の疲れによる影響が懸念される。疲れによって圧迫の深さが不十分になるだけでなく、圧迫のテンポも次第に遅く

なるといわれている。しかも、疲れによって胸骨圧迫が不適切になるにも関わらず、圧迫

担当者白身は疲れていることを自覚できないという。ガイドラインでは、このような疲れ

による悪影響を最小限とする目的で、約2分間おきに圧迫担当者を交代することを推奨し

ている。 非同期CPR 気管挿管などの高度な気道確保がなされた場合は人工呼吸のために胸骨圧迫を中断す

る必要がない。胸骨圧迫はただひたすら連続して行い、人工呼吸は胸骨圧迫とは無関係に、

一定の時間間隔で行えばよい。このように、胸骨圧迫と人工呼吸をそれぞれ独立して行う

ことを「非同期で行うCPR」という。この場合の人工呼吸回数は従来の 12 回/分から約 10 回/分へと少なくなった。非同期のCPRでは、胸骨圧迫を中断することなく人工呼吸を行えるにもかかわらず、あえて呼吸回数を少なくしたのは、人工呼吸回数が多すぎ

ると心停止後の生存率が低下することを示した動物実験が根拠である。人工呼吸とは、空

気(および酸素)を肺に「押し込む」操作である。これを陽圧人工呼吸と呼ぶ。陽圧で行

う人工呼吸の回数が増えると、肺など胸の内部の平均的圧力が上昇し、心臓へ戻る血液(静

脈)の流れが悪くなる。息こらえや「きばる」動作を続けていると、次第に顔が赤くなっ

たり、首筋の血管が浮きだってくる現象と同様の理屈である。心臓に戻るはずの血液量が

減少すれば、胸骨圧迫によって心臓から送り出される血液の量もまた減少する。この結果、

胸骨圧迫によって得られる血圧や臓器に届けられる血液や酸素の量が減少することになる。

実際の蘇生現場では、非同期CPRにおける人工呼吸回数が多すぎる傾向(ある調査によ

れば平均 20 回/分以上)が報告されている。また、人工呼吸の回数が適切であったとし ても、人工呼吸1回ごとに送り込む空気の量(1回換気量)が多すぎれば、やはり胸の内

部の平均的圧力が上昇して同様の弊害が起こることが予測される。非回期CPRを行う際

には、人工呼吸の回数および1回毎の空気の量、いずれも多すぎることのないように十分

な注意が必要である。 自動体外式除細動器(AED) 電気ショックの連続回数

心室細動(VFという)は、心臓が細かく震えたようになっている状態のことをいう。

心臓という一つの臓器を構成している何万本もの筋肉が、それぞれバラバラに収縮してい

る状態である。それぞれの筋肉としては動いているには動いているが、全休としての歩調

がそろっていないために、血液ポンプとしての機能はまったく果たせない。心室細動(V

F)による心停止でもっとも重要な治療法である電気ショックは、従来、最大3回まで連

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続で行うことになっていた。しかし、過去の報告によれば初回の電気ショックでVFを取

り除くことのできる確率、すなわち除細動成功率は 85%以上と非常に高く、電気ショックが2回以上必要となる事態は非常にまれであることがわかった。さらに、初回のショック

で除細動に失敗した場合、2回目以降の連続的ショックによって除細動に成功する確率は

低い。一方、ショックを連続的に行うと、心電図解析や除細動器の充電に伴う胸骨圧迫の

中断が延長する。2回目以降の電気ショックによって除細動に成功するわずかな可能性の

ために胸骨圧迫を中断することのデメリットを考慮した結果、ガイドラインでは従来の手

法、すなわちショックは最大3回まで連続的で行うという手順を改め、電気ショックを複

数回行う場合でも、ショックとショックの問には約2分間のCPRを行うこととした。 電気ショック後の効果確認 新しいガイドラインではVFに対して電気ショックを行った後は、脈拍や心電図の確認

をすることなく、直ちに胸骨圧迫および人工呼吸を開始することとした。電気ショックが

奏功したかどうか、あるいはそれによって傷病者自身の心拍(脈拍)が再開したかどうか

は、電気ショックに続いて2分間のCPRを行った後で評価することになる。 電気ショ

ックによって除細動に成功した症例のほとんど(90%~100%)において、ショック直後の心臓は、仮に動いているにしてもその動きは非常に弱いなど、事実上は止まっている

に等しい状態であり、実質的な自己心拍はショックの後、しばらくCPRを行った後に再

開していた。すなわち、電気ショックの直後は、除細動に成功したか否かに関わらず、ほ

とんどの症例でCPRが必要である。ショック後、直ちに自己心拍が再開する例外的な症

例のために心電図変化や脈拍を確認することは、胸骨圧迫を必要としている大多数の傷病

者にとって不利である。 心停止中の心臓は右心房と右心室(右心系)が著しく拡張する(図2)。心停止後もしば

らくの間、静脈からの血液が惰性によって心臓に戻り続けるためであろう。心臓は、一旦

拡張しすぎると、再び収縮(拍動)することが極めて困難な状況に陥るという宿命がある。

握力計で握力を測定する場合に、握るべき部分の幅が長すぎると、十分な握力を発揮でき

ない状況に似ている。除細動成功直後の心臓も同様であり、仮に心臓の組織的な拍動が回

復したとしても、右心室があまりにも拡張しているために心筋が力強く収縮するのは困難

な状況であり、有効な心拍出は期待できない。電気ショック直後に胸骨圧迫を開始するこ

とは、このような状況の心臓にとって非常に重要である。ショック後、直ちに胸骨圧迫を

開始することで、生存の可能性をより高くすることができるということが動物実験で確認

されている。 電気ショックが先か、CPRが先か? AED(自動体外式除細動器)による電気ショックが効果を奏する心室細動では一刻も

早い除細動か最重要事項である。しかし、近年の研究では、ある特殊な場合にはAEDに

よる電気ショックをあえて後回しにした方がよいとされている。すなわち、病院外心停止

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で救急隊が到着するまでに4~5分以上を要した場合には、AEDによる電気ショックを

行う前に2分間程度のCPRを行った方がよい。心停止の状態が長時間続くと、心臓の酸

素や栄養の状態が極端に悪化するため、そのまま電気ショックを行っても心拍が再び戻る

可能性は低い。そこで、まず2分同程度のCPRを行って、心臓の状態を改善した後に電

気ショックを行うのが得策であることがわかった。疲れ果てて倒れた兵を再び戦線に復帰

させるには、鞭で叩く(電気ショックを行う)よりも、まずは栄養補給と休養(CPR)

を与えるべきだというのである。新しい指針では、メディカルコントロールの裁量により、

場合によっては電気ショックを後回しにする手順を採用しても良いとされている。 小児への対応 従来、8歳未満の小児はAEDの対象外とされていた。これはAEDの作り出す電気エネ

ルギー量が成人の体格を前提に設定されており、小児にとっては強すぎること、および小

児においては除細動か必要な心電波形、すなわちVFはまれであるといわれてきたためで

ある。しかし、8歳未満の小児といえどもVFの発生が決してまれではないこと、および、

そのような場合に電気ショックをあきらめることは、すなわち生存の可能性を放棄するこ

とにつながるとの考えが強くなってきた。「小児に対する電気ショックの致死量は0ジュー

ルである」という言葉は、この考え方をよく表している。 幸いなことに一部のAEDについては小児専用の除細動パッドが開発され、小児への使

用が積極的に推奨できる状況になった。これらの小児専用パッドは、パッドの面積が小さ

いだけでなく、パッドのケーブルに電気抵抗が加えられており、AED本体で発生した電

気エネルギーをケーブル内で減少させることができる。その結果、たとえばAED本体の

電気エネルギーが 150Jであった場合でも、小児に実際に加えられるエネルギー量は 50J程度である。ガイドラインでは小児に対し、小児専用パッドがある場合には、これを使用

して積極的に除細動を試みることを推奨している。 現時点で小児用パッドが使用できるAEDは2機種のみであり、いずれも市民が使用す

ることを前提として設計された機種である。救急救命士が使用するような半自動式除細動

器に使用できる小児専用パッドは存在しない。これらの機種のAEDがマニュアルモード

にも設定可能である限り、将来にわたって小児専用パッドが開発される見込みもない。し

たがって、8歳未満の小児に対して半自動式除細動器を用いる場合には、成人用パッドを

貼付し、適応があれば成人用のエネルギー量を用いて電気ショックを行うべきである。ま

た、市民が除細動を行う場合でも、小児用パッドが使用できない場合には、成人用のパッ

ドで代用すべきであるとされている。 一部のAEDに付属する小児用電極パッドは、単に電極の面積が小さいだけで、エネル

ギーを減衰する機能はついていないので注意が必要である。また、小児用の面積の小さな

パッドを決して成人に使用してはならない。電極の面積が小さすぎる場合には、有効な電

気エネルギーが傷病者に届かないだけでなく、場合によっては電気による心臓の損傷が強

まる可能性もある。なお、1歳未満の乳児に対してはAEDを使用しない。

Page 23: 心肺蘇生プロトコール2007(要点)kenji/01.pdf · 2013-01-15 · 2.気道確保は外傷性の傷病者に対してであっても、下顎挙上法(jaw thrust)ではなく、

救急隊活動における新ガイドラインのポイント 成人心肺停止に対する一次救命処置 心肺停止状態では、胸骨圧迫を連続して行うことにより心臓や脳への血流量が徐々に

増える一方、人工呼吸時の胸骨圧迫の中断でもその血流量は急速に減少することが明らか

にされており、除細動成功率や心拍再開率へ大きな影響を与えていることが指摘されてき

た。そこで数ガイドラインでは、胸骨圧迫回数を増やし、胸骨圧迫と人工呼吸の回数比を

30 対2で行うよう、そして人工呼吸や救肋者の交代による胸骨圧迫の中断をできる限り短時間にするよう推奨している。また、胸骨圧迫の回数が増えたことにより、救肋者の疲労

によって胸骨圧迫の深さや回数が減少することが数告されている。このため、質の高い胸骨

圧迫を絶え間なく行うために胸骨圧迫実施者が一定時間(CPR を5サイクルまたは約2分)ごとに交代することが推奨されている。 電気的除細動については、胸骨圧迫中断から電気ショックまでのわずかな時間の遅れが

心拍再開率に影響を与える。例えば、胸骨圧迫を中断して電気ショックまでの時間が5秒

経過すると、胸骨圧迫直後に電気ショックした場合と比数して心拍再開率は約 50%低下し、10 秒経過すると1/3以下にまで低下することが報告されている。 一方、電気ショック後に胸骨圧迫を再開するまでの時間の遅れも心拍再開率および脳神

経予後へ大きな影響を与えることが明らかにされている。したがって、胸骨圧迫中断から

電気ショックまでの時間をできる限り短縮し、また、電気ショック後は直ちに胸骨圧迫を

再開することが推奨されている。 一次救命処置におけるポイント 1 素早い心肺停止判断と迅速な胸骨圧迫 CPR の開始

傷病者接触時に呼びかけなどの刺激に反応がない場合には、呼吸と脈拍の有無を短時

間で確認する。頚動脈での脈の触知に自信が持てない場合はいたずらに時間を費やすこ

となく、“呼吸の観察”に専念し、正常な呼吸がない場合には直ちに胸骨圧迫を指示す

る。人工呼吸はBVMの準備ができ次第、タイミングを見計らって間始する。 2 質の高い胸骨圧迫;適切な深さとテンポ、確実な圧迫解除、実施者の交代 胸骨圧迫は胸骨の適切な位置を、4~5cmほど沈む程度で圧迫し、そのテンポは約

100 回/分で行い、圧迫の解除は確実に実施する。より速い胸骨圧迫のテンポは許容されるが、結果として圧迫の深さが浅くなり、また圧迫解除が不十分になる場合があるの

で注意する。一定のテンポ、一定の胸骨圧迫の深さ、確実な圧迫解除を心がける。胸骨

圧迫の効果の確認は他の隊員(人工呼吸実施者あるいは隊長)が行い、胸骨圧迫の質(圧

迫位置、深さ、テンポ、圧迫解除)を絶えずチェックする。 CPR 5 サイクル、あるいは約2分を目安に胸骨圧迫実施者を交代するが、胸骨圧迫の質が確保できていないと判

断された場合は適宜交代する。

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3 自動体外式除細動器の使用上の留意点 (1)充電中の安全確認と充電終了直後の電気ショック 胸骨圧迫を中断してからショックボタンを押すまでの時間をできる限り短時間にす

るには、自動体外式除細動器が自動解析を開始する直前まで胸骨圧迫を継続し、充電

が終了した時点(ショックボタンが点滅した時点)で間髪を入れずにショックボタン

を押す必要がある。このため、ショックボタンを押す者は自動体外式除細動器のショ

ックボタンと音声メッセージに集中し、充電完了とともに直ぐにショックボタンが押

せるように準備しておく。他の隊員は心電図解析および充電中に安全確認や家族への

説明を行っておく。 (2)電気ショック直後の胸骨圧迫の開始 胸骨圧迫を担当する者は、電気ショック後直ちに開始できるように準備しておく。

旧ガイドライン対応機種では、電気ショック後に心室細動か持続する場合は引き続

き最大3回まで解析が入るようプログラムされている。この場合は胸骨圧迫中断時間

が長くなるが、音声メッセージに従って行動する。これは胸骨圧迫等の外力により

AED の自動解析が影響を受ける可能性があるためである。 なお、旧ガイドライン対応機種と比較して新ガイドライン対応機種を使用した場合、

一次救命処置による心拍再開率および社会復帰率の有意な上昇が確認されている。新

ガイドラインヘの対応ができない機種を使用している救急隊においては、可及的速や

かに新ガイドライン対応機種を導入することが推奨される。 4 CPR 中の頚動脈脈拍の確認は、いつ行うのか 一次救命処置において頚動脈で脈を確認するのは、傷病者に正常な呼吸(規則正しく、

十分な深さの呼吸)や目的のある仕草が出現した場合等に限る。それ以外は、原則とし

て頚動脈で脈拍確認を行わず、ひたすら CPR を続ける。 5 異物による完全窒息への対応

(1) 意識がある場合 意識のある傷病者への対応においては、腹部突き上げまたは背部叩打を実施する。

妊婦や肥満の傷病者に対しては胸部突き上げを行う。この問、喉頭鏡、マギール組子

およびBVMを準備しておく。 (2)目前で反応がなくなった場合の処置 救急隊の目前で意識を失い、反応がなくなった場合には、口腔内を確認し、異物が

視認できる場合には指で取り除く。準備ができていれば喉頭鏡およびマギール紺子を

使用してもよい。口腔内に異物を確認できない場合には、BVMによる人工呼吸を2

回試みる。この間、他の隊員は胸骨圧迫を開始する。胸骨圧迫が行われている問に喉

頭鏡およびマギール組子を使用して異物の確認と除去を試みる。

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救急救命士による二次救命処置(特定行為) 従前は、CPR 中にモニター波形が変化した場合には、その都度胸骨圧迫を一時中断して波形確認や脈拍の確認、あるいは電気ショックを行っていた。また、器具を用いた気道確

保を行う場合にも、その前後に胸骨圧迫の中断が頻繁に行われていた。しかしながら、繰

り返される短時間の胸骨圧迫中断が心肺停止傷病者の予後に大きな影響を与えている可能

性が示唆されている。 そこで、新ガイドラインでは CPR(胸骨圧迫)の中断をできる限り短時間とするために、モニターでの波形確認は CPR5 サイクル(約2分間)終了ごとにのみ実施し、かつ短時間で行うにとどめるとしている。さらに、頚動脈での脈拍のチェックもモニター確認時に

QRS 波形が認められた場合にのみ行い(心室細動や心静止では脈拍の確認は行わない)、電気ショック、薬剤投与やその効果の確認も、このタイミングに合わせて行うことを推奨

している。 つまり、5サイクル(約2分間)の CPR 中はモニター波形の変化にかかわらずひたすら CPR を継続し、CPR5 サイクル(約2分間)終了ごとに短時間 CPR を中断し、波形観察、必要に応じて(必要最小限に)脈拍を確認し、電気ショックおよび薬剤投与を行うこ

ととしている。 また、救急蘇生における気管挿管の位置付けは低下している。心肺停止における気管挿

管のメリットとしては、非同期人工呼吸によって人工呼吸時の胸骨圧迫の中断を最小限に

することがある。しかしながら、気管挿管操作により胸骨圧迫が頻回に、あるいは長時間

中断される場合には、そのメリットは著しく低下する。したがって、気管挿管に限らず、

器具を用いた気道確保を行う場合には胸骨圧迫の中断時間を可能な限り短時間とするよう

心がける。 救急救命士が行う二次救命処置のポイント 1 心肺停止への対応;気道確保を優先するのか、アドレナリン投与を優先するのか BVMによる送気にて胸郭の膨らみが確認でき、特定行為実施中も質の高い CPR(胸骨圧迫とBVM送気による胸郭の挙上)が維持できる場合には静脈絡確保およびアドレナ

リン投与を優先する。器具を用いた気道確保によって、BVMを用いた場合よりも質の高

い胸骨圧迫(絶え間のない)が実施できると考えられるときは器具を用いた気道確保を優

先する。 2 薬剤投与 (1)投与の適応 心臓機能停止状態において、モニターで心室細動・心室頻拍、QRS 波形を認めるもの、および目撃者のある心静止がアドレナリン投与の適応となる。波形確認は CPR5サイクル(約2分間)終了ごとに行うが、この波形確認時に迅速な対応ができるよう

CPR 実施中(2回の人工呼吸時など)も適宜モニターを観察し波形判断をしておく。

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(2)投与のタイミングと頚動脈触知による脈拍観察 アドレナリン投与の適応と判断された場合には、オンライン MC 指示を受けた後、

CPR 実施中にアドレナリン投与の準備をしておく。例えば、アドレナリンプレフィルドシリンジを輸液回路の三方活栓に接続し、エア抜きをし、すぐに投与できる準備を

しておく。そして、CPR 約2分(または約5サイクル)終了ごとの波形確認後に速やかに投与する。アドレナリン投与直前の脈拍確認は、QRS 波形が認められた場合(VT含む)にのみ実施する。 追加投与の指示が出された場合のアドレナリンの投与間隔

は3~5分ごととする。 (3)効果の確認 アドレナリン投与後の効果の確認も CPR 5 サイクル(約2分間)終了ごとの波形

確認時に行う。CPR 中に波形変化を認めることもあるが、正常な呼吸や目的のある仕草等が出現しない限り、次の CPR5 サイクル(約2分問)終了ごとの波形確認までひたすら CPR を継続する。

3 気管挿管実施における留意点

気道確保器具は気道確保の一手段である。つまり、用手による気道確保と器具を使用

した気道確保とのどちらを選択したほうが、より効果的な CPR が行うことができるのか、速やかな薬剤投与を実施できるのかという観点に立つ。

(1)気管挿管の適応 心肺機能停止状態が気管挿管の適応となる。心停止直後や CPR 中に出現する“死

戦期呼吸”は呼吸機能停止とみなされるため、頚動脈にて脈を触れない場合には気管

挿管の適応となる。 (2)胸骨圧迫中断、開始のタイミング 気管挿管手技実施中も原則として胸骨圧迫を継続する。喉頭鏡による喉頭展開時に

胸骨圧迫に伴う振動等により声門部の視認が困難なときは胸骨圧迫を一時中断せざる

を得ない。ただし、このような場合も気管チューブが気管に挿入されたところで胸骨圧

迫を再開する等、胸骨圧迫中断時間をできる限り短縮するよう心がける。

(3) 気管チューブの位置確認 気管チューブをしっかりと保持し、聴診器の準備ができたところで、胸骨圧迫を一時

中断し、バッグ・バルブを加圧する。このとき、胸郭が膨らむことを確認し、次に上

腹部、両側胸部を聴診する(3点聴診)。 一次確認が終了したら胸骨圧迫を再開し、以後人工呼吸はおよそ 10 回/分の非同

期とし、決して過換気にならないように注意する。胸骨圧迫しながら、呼気 CO2 検知器を接続し、色調の変化を確認する。次に食道検知器を接続し、再膨張の有無を確

認する。 一次確認で気管チューブが気管内にあると判断され、呼気 CO2 検知器あるいは食道検知器の少なくとも一方が気管内であることを示した場合には、チューブは気管内

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にあると判断してよい。呼気検知器および食道検知器の両者ともチューブ位置が気管

内でないことを示した場合には、再度一次確認を行う。 一次確認にて気管チューブの位置に自信が持てない場合には、再度喉頭展開し、チ

ューブが声門部を通過していることを確認する。

チームワーク 絶え間のない、質の高い CPR を実施しながら特定行為を行うためには、救急隊員や消防職員間の良好なチームワークが必須である。隊長または隊の指導的役割を果たす隊員が

リーダーとなる。リーダーは傷病者の状態を的確に把握し、処置等の意思決定を行う。隊

員は、リーダーの指揮の下にそれぞれの役割を認識し活動を実施する一方で、観察結果や

処置の内容および効果等について適宜リーダーにフィードバックし、チームリーダーが傷

病者の状況を的確に把握できるようサポートする。リーダーはチーム活動がスムースかつ

安全に行われるようリーダーシップを発揮するとともに隊員が活動しやすい雰囲気の維持

に努める。 普段の訓練から良いチームワークを構築できるよう鍛錬を積んでおくと同時に、実際の

業務実施後の反省会等を通じて課題を抽出し、次の活動に活かせるようにしておく。 海外論文からみる新ガイドラインの効果 気道確保の変更点 一般人による気道確保としての下顎挙上法は廃止された。理由として第一に挙げられる

のは下顎挙上法が難しいことである。下顎挙上法に気を取られて胸骨圧迫を忘れかねない。

また、太った患者やあごが未発達の患者では下顎挙上法だけで気道を確保し続けるのは大

変であることも経験で分かるだろう。最近の文献を調べても、成人で下顎挙上法を積極的

に勧めるものは見当たらない。 患者に全身麻酔をかけたうえで気道確保を行った研究がある。それによれば、最もきれ

いに気道を開通させるのが頭部後屈下顎挙上法であり、また不完全ながらも気道を開通さ

せる能力に優れているのが頭部後屈あご先挙上法であったものの、気道確保の点では頭部

後屈あご先挙上法と大差はなかった(図1)。死体を使って舌根と咽頭後壁の距離(大さ)

を調べた実験では、通常のマスク換気の姿勢では気道の太さが 1.9mm であるのに対し、

首をめいっぱい反らせた体勢では気道の太さが 3.7mm と約2倍になった。麻酔をかけた

患者による実験では気道の開放に最も効果的なのは口を閉じた状態での頭部後屈であり、

修正下顎挙上法では気道開放には効果が少なかった(図2)。また下顎挙上法でもあご先挙

上法でも頸椎の動きには差がないことが示されている。 このように、成人では現在までに下顎挙上法の利点は見い出せなくなりつつあるが、小

児では下顎挙上法の利点が示されている。小児で扁桃が大きく気道が確保しづらい症例で

は、あご先挙上法より下顎挙上法の方が気道が広く取れることが示されている(図3)。

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外傷症例で頸椎保護をする場合でも、下顎挙上法で気道確保が困難な場合には頭部後屈

あご先挙上法に切り替えることが勧められている。

人工呼吸の変更点

G2005 では胸骨圧迫(心臓マッサージ)の重要性が強調されており、人工呼吸の重要性はとても下がっている。今までは 15回心臓を押した後人工呼吸が2回人ったのに対して、G2005 では 30 回押さないと人工呼吸にならない。心理的にはずっと心臓を押している感覚になる。また、吹き込む量も胸が上がる程度でよいし、吹き込む時間も1回につき1秒

でよい。 生きているときには、呼吸運動や筋肉が血液を流すポンプ作用をしている。心停止の患

者に胸骨圧迫をする場合、血液は心臓で押し出されるだけで、あとは圧力勾配だけで心臓

に戻ってくる。このため心臓の周りに圧力がかかると血液は心臓に入っていけなくなる。

人工呼吸で蘇生の障害となるのは胸腔内圧が上昇して心臓に戻る血液の量が減ることによ

る体血流量の減少、静脈圧が上がることによる冠状動脈血流量の減少、脳圧が上がること

による脳血流量の減少が主なものである。 このうち、冠状動脈血流量の減少については動物実験であるが生存率の差が示されてい

る。ガイドライン 2000(G2000)での1分間に 12 回からその倍以上の 30 回に増やしたところ、生存率が 80%から 10%へ急落した。仔細に調べてみると、平均動脈圧は呼吸回

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数が 30回の方が高いのに、冠状動脈圧は 30回の方が低かった。ブタの多くが死んだのは、冠状動脈を通じて心筋に回る血液が減少したためと考えられた(図4)。 1回の吹き込み量については、脳圧との関係で論文が出ている。脳は血管に富むため、

胸腔の圧力が血管を通じて迅速に脳に伝わる。また脳は骨に囲まれているため圧力の逃げ

場がない。この研究によると、脳圧は息の吹き込みに連動し、呼吸回数が多いほど、また

吹き込み時間が長いほど脳圧は上昇する(図5)。つまり、

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脳の血流量を減らして脳蘇生にマイナスに働くことを意味する。 胸骨圧迫の変更点

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国際蘇生連絡協議会(ILCOR)

頚椎損傷

脊髄損傷疑いの患者には、更なる時間をかけて呼吸と循環を慎重に評価する必要があり、

もし、患者が腹臥位であるなら、動かす必要もあるかもしれない。全脊柱固定は更なる脊

髄損傷のリスクを減じる効果的な手段である。

気道確保 W150A, W150B

科学的コンセンサス:

頚椎損傷の発生率は、鈍的外傷後では 2.4%であった(LOE 5)157 が、頭蓋顔面外傷(LOE

4)158、GCS 8 未満(LOE 4)159、あるいはその両方を併発している(LOE4)160 患者ではさらに

高率であった。大規模コホート研究(LOE4)161 では、専門の救助者が対処した場合に、受傷

機転、精神状態の変化、神経学的欠落、中毒の証拠、脊椎痛や圧痛、気がそらされるよう

な損傷(頚椎痛の自覚症状より患者の気をそらす別のケガ)などの徴候は脊髄損傷を予測す

る上で高い感度(94~97%)があった。損傷した頚椎を固定し忘れると、二次的な神経学的損

傷のリスクは増大する(LOE4)162,163。受傷した患者に頚椎固定をしたかどうかに関するケ

ースコントロール研究では、以前に考えられていたより二次的な損傷は少なかった(LOE

4)164。

どんな気道操作も頚椎の動きを伴う(LOE5)165。遺体での研究では、あご先挙上(頭部後屈

の有無にかかわらず)および下顎挙上法は、ともに頚椎に大きな動揺を与えている

(LOE6165-167;LOE7168,169)。用手による正中固定(manual in-line stabilization、MILS)169

または頚椎カラー (LOE6)165 の使用では、脊椎の動きを防ぐことはできなかった。その他

の研究では、気道操作時における正中固定の適用により、脊椎の動きを生理学的なレベル

まで減じると報告している(LOE5,6) 170,171。気道操作は正中固定を用いた方が、カラーを

使用するより安全である(LOE3,5)172-174。しかし、麻酔下で筋弛緩状態のボランティアにお

ける小規模な研究では、下顎挙上を実施しても頭部が正中位である場合には、放射線学上

の気道開通性は改善していないことが分かった。脊椎損傷が疑われる患者での蘇生処置を

評価した研究はない。

推奨される処置:

脊椎損傷が疑われる患者であっても、気道の管理と充分な換気が最も優先される。脊

椎損傷が疑われたり気道が閉塞した患者であっても、頭部後屈・あご先挙上法または下顎

挙上(頭部後屈を伴う)の手技は実行可能であり、また気道開放にも効果があると思われる。

どちらの手技も頚椎の動きを生じさせる。もし、適切なトレーニングを受けた救助者が充

分にいる場合には、頭部の動揺を最小限にとどめるために正中固定を適用することが妥当

である。

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新ガイドライン【BLS】の主な変更点について

全体を通しての基本的考え方

効果的な救急蘇生を行うには、できるだけ早期から十分な強さと十分な回数の胸骨圧迫が絶

え間なく行われることが重要であり、強調した。

胸骨圧迫の効果を上げるために、心肺蘇生法開始の判断と手順、人工呼吸の吹き込み時間、

胸骨圧迫と人工呼吸の比率、AEDによる連続ショック回数、ショック後の対応などを変更した。

一次救命処置は大きな枠組みとして、主に市民が行う一次救命処置(心肺蘇生法、AED使用

法など)と、日常的に蘇生を行う者や ALS を習得した者が行う成人と小児(乳児を含む)の一

次救命処置に区分された。

ガイドライン策定の科学的根拠や変更の理由等については「救急蘇生の指針」にも解説され

る。

主に市民による心肺蘇生法の主な変更点

呼吸については「正常かどうか」あるいは「普段どおりの呼吸か」を 10 秒以内で確認する。

反応がなく、正常な呼吸がなければ(特に喘ぎ呼吸のときは)CPR を開始する。

まず人工呼吸を 2 回行い、ついで胸骨圧迫心臓マッサージ(以下、胸骨圧迫)を開始する。

人工呼吸は約 1 秒かけて、胸の上がりが見える程度の吹き込みを 2 回試みる。

胸骨圧迫位置の目安は胸の真ん中または乳頭と乳頭を結ぶ(想像上の)線の胸骨上である。

胸骨圧迫と人工呼吸の比率は全年齢共通で 30:2 とする。

胸骨圧迫の回数は連続 30 回を目標とするが、必ずしも正確に 30 回である必要はない。

救助者が疲れると圧迫が不十分になるので、胸骨圧迫の役割を時々交代することが望まし

い。

救助者が人工呼吸を実施できない局面においては、胸骨圧迫だけでも実施する。

CPRは何らかの応答や目的のある仕草が現れる、または救急隊などに引き継ぐまで継続す

る。

主に市民による AED 使用法の主な変更点

AED 装着のタイミングは全年齢層において「AEDが到着し次第」とする。

適応があればショックを 1回行い、観察なしで直ちに胸骨圧迫を行う(ただし、薬事法上AEDに

よるショックを3回行う使用法により承認されている機種がある)。

ショック後は CPRを 2分間(または 5サイクル)実施後に、AEDにより再度心電図を解析する。

初回エネルギー量は二相性 AED ではメーカー推奨量、単相性 AED では 200J とする。

1 歳以上 8 歳未満の小児の場合は小児用パッドを用いる(ただし、2006 年 6 月時点で薬事法

上承認されているのは 2 種類である)。

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小児用パッドがない場合は成人用パッドで代用する(小児用のパッドが付属していない機種に

あっては、薬事法上、小児への使用は認められていないので、やむを得ない場合のみ慎重に

使用する)。

主に市民による気道異物除去法の主な変更点

傷病者に反応がある場合は背部叩打法と腹部突き上げ法を併用する。

背部叩打法と腹部突き上げ法の回数や順序は問わず異物が取れるか反応がなくなるまで続

ける。

乳児や妊婦では腹部突き上げ法は行わない。背部叩打法のみとする。

成人傷病者で反応がなくなった場合には、119 番通報後に CPR を開始する。

小児傷病者で反応がなくなった場合には、CPR を 5サイクル(2 分間)行った後に 119 番通報

する。

CPR で行う気道確保の際に、口の中に異物が見えれば取り除く。盲目的指拭法は行わない。

日常的に蘇生を行う者、ALS を習得した者による一次救命処置の主な変更点

成人は思春期以降(年齢としては 15 歳超が目安)と定義する。

発見時の対応手順の原則は、成人では緊急通報・AED 要請後に CPR開始とする。小児では

CPR(5サイクル・2分間)後に緊急通報・AED要請とする。ただし、以下のように臨機応変に対

応する。

小児が突然卒倒した場合は救助者が一人なら緊急通報・AED 要請後に CPR を開始する。

成人で呼吸原性の心停止を疑う場合は救助者が一人なら CPR(5 サイクル・2 分)後に緊急通

報する。

反応がない場合には、呼吸の観察と脈拍確認のための頸動脈触知を可能な限り同時に行う。

呼吸と脈拍の確認に 10 秒以上をかけてはならない。

正常な呼吸がなく、脈拍が確実に触知できれば人工呼吸(およそ 10 回/分で)のみを実施す

る。

正常な呼吸がなければ、脈拍が確実に触知できる場合を除いて CPR を開始する。

脈拍の確認に自信を持てない救助者は呼吸観察に専念し、反応と呼吸がないことを根拠に

CPR を開始する。

10 秒以内に脈拍があることを確信できない場合は心停止と判断して直ちに CPR を開始する。

直ちに人工呼吸を開始できる準備が整っている場合には胸骨圧迫の前に 2 回の人工呼吸を

行う。

この人工呼吸は胸が上がらなくても 2 回までとする。

成人の胸骨圧迫と人工呼吸の比率は 30:2 とし、胸骨圧迫の回数は連続 30回を目標とする。

気管挿管がなされた場合は胸骨圧迫を中断せず、人工呼吸と胸骨圧迫を非同期で行う。

コンビチューブ、LMA、Laryngeal Tubeの場合は「適切な換気が可能なら」非同期で換気す

る。

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非同期の場合の呼吸回数は 10 回/分程度とし、呼吸回数が過剰になりがちである点に注意す

る。

胸骨圧迫では胸骨の下半分(剣状突起は避ける)を圧迫する。

胸骨圧迫位置の目安は胸の真ん中または乳頭と乳頭を結ぶ(想像上の)線の胸骨上である。

胸骨圧迫の効果は圧迫の深さや速さで評価すべきであり、頸動脈の脈拍で評価すべきではな

い。

交代要員がいれば、胸骨圧迫を 5 サイクル(2 分)おきに 5 秒以内で交代することが望ましい。

CPRは充分な循環が戻るまで、または専門チームに引き継ぐまで継続する。

適応があればショックを 1 回行い、その後は観察なしで直ちに胸骨圧迫を行う。(ただし、薬事

法上AEDによるショックを3回行う使用法により承認されている機種がある)。

ショック後は 2 分間(または 5サイクル)の CPR後に、AEDにより再度心電図を解析する。

初回エネルギー量は二相性 AED ではメーカー推奨量、単相性 AED では 200J とする。

心電図モニターで発生を目撃した心室細動/無脈性 VT で、直ちに除細動器が使用できない場

合は、即座に1回だけ前胸部叩打を行なってもよい。

救急隊は、救急通報から現場到着までに 4~5 分以上を要した症例に対しては、短時間の

CPR を行った後に除細動を行うプロトコール(CPR-first)を考慮する。

除細動のために胸骨圧迫の中断は 10 秒を超えないよう配慮する。

傷病者に意識がある場合の気道異物除去は背部叩打法と腹部突き上げ法を併用する。

背部叩打法と腹部突き上げ法の回数や順序は問わず異物が取れるか反応がなくなるまで続

ける。

妊婦、極端な肥満者などに対しては腹部突き上げ法に代えて胸部突き上げ法を行う。

気道異物で窒息を来たした傷病者が意識を失った場合は緊急通報の後、通常のCPRを行う。

盲目的指拭法は行わず気道確保をするたびに口の中を覗き、異物が見えれば取り除く。

可能なら喉頭展開下で異物を除去する。

日常的に蘇生を行う者、ALS を習得した者の一次救命処置の主な変更点(小児と乳児)

(変更が成人と異なる点のみ)

乳児は新生児以降、1 歳までと定義し、小児は1歳から思春期(15歳程度)までと定義する。

小児や乳児では、心停止に至る以前の呼吸不全/ショックの認識と迅速な対応が特に重要で

ある。

発見時の対応手順では原則として緊急通報よりも CPR を優先するが、発症の状況によって異

なる。

脈拍の確認は、乳児では上腕動脈で、小児では頸動脈か大腿動脈で行う。

充分な酸素投与と人工呼吸にもかかわらず、心拍数が 60/min以下で、かつ循環が悪い(皮膚

蒼白、チアノーゼ等)場合は胸骨圧迫が必要である。

Page 35: 心肺蘇生プロトコール2007(要点)kenji/01.pdf · 2013-01-15 · 2.気道確保は外傷性の傷病者に対してであっても、下顎挙上法(jaw thrust)ではなく、

呼吸はないが充分な早さの脈拍が確実に触知できれば 12-20 回/分で人工呼吸のみを開始す

る。

CPRは、人工呼吸から開始することが望ましく、直ちに開始できる準備を整えておくことが望ま

れる。

呼気吹込み人工呼吸を行う場合、乳児では口対口鼻法を、小児では口対口法が適している。

小児や乳児の胸骨圧迫と人工呼吸の比率は救助が二人の場合 15:2 とする。

小児や乳児の胸骨圧迫と人工呼吸の比率は救助が一人の場合 30:2 とする。

小児の胸骨圧迫は乳頭と乳頭を結ぶ(想像上の)線の胸骨上を片腕または両腕で圧迫する。

乳児の胸骨圧迫は救助者が一人の場合は乳頭間線のすぐ下の胸骨を指 2 本で圧迫する。

乳児の胸骨圧迫は救助者が二人の場合は胸郭包み込み両母指圧迫法を用いる。

胸郭包み込み両母指圧迫法をおこなう際は、残り4本の指で胸郭を絞り込むような動作をくわ

える。

小児や乳児の胸骨圧迫は胸の厚みの 1/3 までしっかり圧迫する。

胸骨圧迫の交代要員がいる場合は、胸骨圧迫の担当を 10 サイクル(約 2 分)おきに交代する

のが望ましい。

小児や乳児に多い呼吸原性心停止においては、迅速な換気と胸骨圧迫の双方が必須であ

る。

1 歳以上 8 歳未満(体重として 25kg を目安)の小児の除細動では小児用パッド(できればエネ

ルギー減衰機能を有するもの)を用いることが望ましい。

小児用のパッドがない場合は成人用を使用する(ただし、小児用のパッドが付属していない機

種にあっては、薬事法上、小児への使用は認められていないので、やむを得ない場合のみ慎

重に使用する)。

小児では 2 分間の CPR後に AED を装着する。(ただし、突然の卒倒が目撃された場合を除

く。)

意識がある小児の気道異物除去は背部叩打法と腹部突き上げ法を併用し、その回数や順序

は問わない。

意識がある乳児の気道異物除去は背部叩打法、胸部突き上げ法を 5 回ごとに交互に行う。

小児や乳児の意識がなくなった場合は、通常の CPR 手順に従って緊急通報と CPR を行う。