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行動ファイナンス 人間の行動バイアスが 投資行動に及ぼす影響

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行動ファイナンス人間の行動バイアスが 投資行動に及ぼす影響

投資の世界では、株式市場の動向を 左右するものとして、欲と恐怖が果たす役割についてよく語られます。行動ファイナンスはこの分析をさらに掘り下げ、例えば複雑な投資の意思決定を下すにあたって単純(で大雑把)な経験則を当てはめるといった、意思決定におけるバイアス(偏見、先入観)の役割を検討するものです。言い換えると、行動 ファイナンスとは、心理学を応用して、人々が投資の意思決定をどのように 行うかを理解しようとするものです。

このガイドは、教育のみを目的として作成されたものであり、投資アドバイスに代わるものではあり ません。投資商品の価額や投資から得られる収益は変動する可能性があり、投資元金を割り込む 可能性があります。

行動ファイナンスの研究によって明らかにされた主な原則には、以下のようなものがあります。

• 自信過剰は、投資の意思決定に悪影響をもたらす。

• リスクおよびリターンに対する特定の態度は、投資の成功を

制約するような行動につながる。

• 惰性は、投資のために必要な変更を行うことから人を遠ざ

ける。

• 複雑なトピックについて、単純化した意思決定を下すことは、 不測の投資結果をもたらす。

このガイドでは、これらの原則について解説し、バイアスを克服

する方法を考察します。

目次 2 投資行動に対するバイアスの影響 4 自信過剰 5 損失回避

6 惰性の問題 8 精神的な近道を通る傾向 9 投資の近道を通る傾向 10 情報の誤用 11 次のステップは? 12 参考文献

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投資行動に対する バイアスの影響

心理学は、意思決定に影響する様々なバイアスについて研究してきました。バイアスの多くは、マネーや投資に関する意思決定にも影響します。

バイアス(偏見、先入観)は、私たちの心の奥深くに潜み、人間性の本質として、プロフェッショナル投資家・個人投資家を問わずあらゆる投資家に影響を及ぼします。バイアスを理解することで、 投資家はその対処法を学ぶことができます。

投資の意思決定に影響する主なバイアスには以下のようなものがあります。

• 自信過剰。これにより、不適切な投資、ハイリスクな投資につながることがあります。

• 損失や後悔を何としてでも避けようとする。これにより、投資目標の達成に本当に必要な投資ができないことがあります。

• 投資の意思決定そのものを完全に回避する。これにより、将来に備える貯蓄をまったくしない、あるいは不適切な戦略に固執する、といったことが考えられます。

• 複雑なトピックを理解しようとしない。これにより、情報に基づいた意思決定ができないことがあります。結果として、投資目標を達成する見込みが低くなることがあります。

このガイドでは、こうしたバイアスの仕組みについて簡単に説明します。

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行動とは、私たちの心の奥深くに潜むものです。それは私たちに誤った意思決定をさせることがあります。人間性の本質として、行動は、プロフェッショナル投資家・個人投資家を問わずあらゆる投資家に影響を及ぼします。行動を理解することで、それらを克服できる可能性があり ます。

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自信過剰

心理学は、「人は自分の能力や意思決定について理不尽な自信を抱く傾向がある」ことを明らかにしました。

全員が平均を上回ることは不可能誰もが人生において過剰な自信を抱く傾向があり、客観的な尺度で測った場合よりも自分自身を高く評価しがちだと言われています。例えば、大半の人が、自分が車を運転する能力の高さは全人口の上位3分の1以内に入ると思っている、ということが調査に よって明らかになりました。しかし全人口の50%は平均より下にいるはずです。また、多くの研究が、最高経営責任者から医師・ 弁護士・学生にいたるまであらゆる階層の人々が自信過剰の影響を受けている、と報告しています。いずれの階層の人も、自分には将来を正確に予測する能力があると過大評価する傾向がある、というのです。1

自信過剰は、世界を前向きに見る傾向と密接に関わっています。溢れる自信は、人生の落胆から早く立ち直るためには有益ですが、一方で、誤った意思決定の原因となる可能性も常にあります。

自信過剰と投資自信過剰は、投資家にとって厄介な問題を引き起こしかねま せん。

幸運を手腕と勘違い―意思決定をした後にうまくいくと、自分が正しい決定をしたからだと考えます。しかし、うまくいかないと、 単に運が悪かった、あるいは災難だったと考えがちです。

過剰なリスク―多くの投資家が、「自分は有望な投資先を選ぶ ことができると信じる」という罠にはまります。その結果、資産を 単一の投資先につぎ込んでしまうことがあります。これは非常に危険です。研究によれば、成功する投資先を選ぶのは、プロの投資家ですらきわめて難しいことなのです。

頻繁すぎる取引―自分の投資手腕を過信している投資家は、 頻繁に売買し過ぎることで、リターンにマイナスの影響を与える可能性があります。研究によれば、頻繁に売買する投資家は、 長期的な視野を持つ投資家に比べて不利であることがわかっ ています。

1 Barber and Odean (1999), The courage of misguided convictions’ Financial Analysts Journal, November/December, p47.

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損失回避

損失を回避するために極端な方法に走りがちである、という人間の傾向は、投資の成功を妨げる行動につながります。

リスクとリターンに対する態度リスクとリターンに対する人間の態度は非常に複雑で微妙です。また、時の経過や状況の変化に伴い態度も変化することがあり ます。

損失の恐怖行動ファイナンスでは、投資家がより敏感に反応するのは、リスクやリターン予想に対してよりも、「損失」に対してである、と考えます。つまり、投資家は、投資で損失が生じてもそのうち取り戻せるのではないかと期待していつまでも手放さなかったり、一方で投資に利益が生じるとすぐに売却して利益を確定したりします。その結果、投資家のリスク特性は、損失と利益のいずれに直面しているかによって変わってしまいます。

実際のところ、成功した投資をすぐに手放し、失敗した投資をいつまでも手放さないという傾向は、投資のリターンに悪影響をもたらします。

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惰性の問題

惰性とは、人がそうしたいと思うこと、あるいは行動すると同意したことについて、結局は何も行動を起こさないでいることです。惰性は効果的なファイナンシャル・プランニングにとって障壁となり、人が貯蓄したり、投資に必要な変更を加えたりすることを妨げることがあります。

不確実性と混乱惰性の根底にあるのは、この先どのように進めばよいかわからない、という混乱です。先行きが不透明な場合、人々は最も抵抗の少ない道、つまり「現状維持・様子見」を選びがちです。私たちの日常生活によく顔を出すこの行動パターンによって、ファイナンスに関する意思決定はしばしば先送りにされます。

「自動操縦」で惰性を克服近年、行動学の様々な研究から、惰性バイアスの克服を助ける 「自動操縦」システムが開発されてきました。例えば、おそらくは惰性が原因で、多くの従業員が企業の年金制度に参加しないでいます。ここで、従業員ならば自動的に年金制度へ参加させるようにした場合、「自分は制度へは参加しない」という選択肢もあることを従業員へ明確に示してあっても、企業年金の参加者は増加します。ここでは惰性がポジティブな効果をもたらすように利用されています。

投資における「自動操縦」アプローチ「自動操縦」アプローチは投資とも関係しています。例えば、毎月定期的に投資を積み立てる、といった規律あるアプローチは、自信過剰などのバイアスを回避するのに役立つとともに、より合理的な行動を投資家に促します。

意思決定のガイドとして一定のスケジュール(例えば年次レビュ ーなど)を用いることは、「いま流行りの」投資商品の直近の運用実績などその時々の市場の状況に惑わされることを防ぐために役立ちます。定期的な投資も有益です。市場の下落時には、上昇時と比べ、同じ金額でより多くの株数またはユニット数を買付けることができるからです。

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人間性の本質は、日常生活において通常役立つものです。しかし、貯蓄や投資と いった長期的な行動においては、成功の妨げになることもあります。人間性の本質を「治す」ことはできませんが、バイアスの認識を高めることで、多くの落とし穴を回避することができます。

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精神的な近道を通る傾向

投資にあたって、大半の人は「精神的な近道」を使うか、あるいは非常に狭い視野を持って臨みます。このことは投資の意思決定に悪影響となる可能性があります。

狭い視野人は、個々の投資先の動向に目を奪われがちです。そして、ある一つの投資先の雲行きが怪しくなるや、しばしば過剰反応を起こします。

しかし、広い視野に立ってポートフォリオ全体を眺めれば、個別銘柄から短期的な損失が発生している場合も、長期的な投資目標の達成のためにはその短期的損失を受け入れることができるかもしれません。結果として、短期的な視点に基づいた望ましくない意思決定を防ぐことができます。

メンタル・アカウント私たちはよく、自分のお金や金融リスクを「メンタル・アカウント」に入れて区別しています。どういうことかというと、「老後の資金」 「教育資金」「新しいスポーツカーを買うため」といった特定の 目的や時間枠を決めて、頭の中でそれぞれにお金を割り振るのです。

私たちは、ある目的のためにはリスクの高い資産に投資して利益を追求、別の目的のためには保守的に運用、というように、それぞれのメンタル・アカウントをはっきり区別して考えがちです。資産全体の運用として大きく捉えるのではなく、一つ一つの目的別の運用として捉えてしまうのです。

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投資の近道を通る傾向

投資家それぞれの状況を反映

した投資ポートフォリオを構築・

保有することの重要性はよく

知られています。しかし、行動

ファイナンスの研究によると、 それを実践に移すことは難しいようです。

単純すぎる経験則投資家は投資ポートフォリオを構築する際に、単純すぎる経験則を当てはめがちなことがわかっています。例えば、投資先一つ一つのリスク・リターン特性や、それらの互いの関係性を無視して、全ての投資先に同じ金額を投資したり、あるいは全ての投資先を同じ比率でポートフォリオに組入れたりすることがあります。

また、投資家は、「幅広い分散投資」の重要性は理解していても、その実践方法がわからないので、代わりに単純なアプローチを とってしまうことがあります。その結果、投資家の実際のリスク許容度に合わない投資ポートフォリオになったり、あるいは投資目標を達成できなくなったりする可能性があります。

慣れ親しんだものへの投資人は、自分が慣れ親しんだものに投資する傾向があります。自分が知っている投資先であればリスクは低いと考えてしまうのです。従って、例えば、日本の投資家は日本企業に投資することを好む傾向があるかもしれません。このアプローチの危険性は、ポートフォリオが十分に分散されたものにならないため、ある一つの銘柄や市場の価格下落の影響を大きく受けやすいことです。

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情報の誤用

行動ファイナンスが明らかにしたのは、人が投資するにあたってどのように情報をふるいにかけがちであるか、また誤用しがちであるか、ということです。複雑な状況について、単純化した意思決定戦略を用いることが、私たちにはよくあります。そうした戦略が役に立つときもありますが、誤った決定につながるときもあり

ます。

情報のアンカーリングある情報の提示されかたが意思決定に影響を与える場合があります。例えば、きりのよい大きな数字が意思決定の「アンカー (碇)」すなわち基準となって重要視される場合などです。ある インデックスの値動きが「5000ポイント」を記録すると、それは値動きの中の一つの数値に過ぎないのですが、必要以上に注目されたりします。

最近の出来事最近に目にした、あるいは経験した出来事が意思決定に強い影響を与えることも示されています。例えば、交通事故を目撃したばかりの人は、自分が交通事故に遭う確率が高いように感じるものです。最近の記憶によって、将来を予想したイメージが一層鮮明になり、実際に起こる可能性が高いように感じさせるのです。

投資の例で挙げると、株式市場の暴落を経験した投資家は、その後しばらく、暴落というものに対して極端におびえるようになったりします。

表面的な意思決定私たちは、現実を詳細に分析・評価する代わりに、その表面上の特徴、見かけだけを判断材料にして意思決定を下すことがあります。つまり、ステレオタイプに基づいて意思決定を行うということです。例えば、過去の運用実績は将来の成績を映し出すものだと考えるようなときです。実際には、過去のパフォーマンスが将来のパフォーマンスを映し出すということはないので、そのように考えるべきではありません。

また、私たちは、長期的な視点を持つよりも、短期的な視点で運用実績を見てその実績が今後も続くと考える傾向があります。

保守性 人は多くの場合、いったん決定を下してしまうと、相反する情報が後から新たに出てきても、下した決定を変更することに対して強い保守性を示します。例えば、有名企業の株に投資した投資家は、その後その企業の収益性が低下しても、自分の投資の見通しについて見解を修正するのに時間がかかる場合があります。

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次のステップは?

このガイドでは、行動ファイナンスの概要、また、投資目標達成のためのプラン作成において行動ファイナンスが意味すること、について説明しました。

人間性の本質の奥深くに潜み、投資の成功を妨げる様々な行動について、これまでの章を通じて説明してきました。

ここで得られた知識は、投資家が長期的な投資プランを作成するときの役に立つでしょう。それはまた、投資家が投資目標を達成するより大きなチャンスを手にすることにもつながるでしょう。

参考文献

行動ファイナンスについて詳しく知りたい方のために、次のような文献をご紹介します。

行動ファイナンスの入門書:

• Shefrin, Hersh, 2000. Beyond Greed and Fear: Finance and the Psychology of Investing [邦訳] ハーシュ・シェフリン(著) 『行動ファイナンスと投資の心理学―ケースで考える欲望と 恐怖の市場行動への影響』(東洋経済新報社)

行動経済学の役割を概説:

• Thaler, Richard and Sunstein, Cass, 2008. Nudge: Improving Decisions about Health, Wealth and Happiness [邦訳] リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン(共著) 『実践行動経済学―健康、富、幸福への聡明な選択』 (日経BP社)

新しい学問分野である神経経済学の最近の研究:

• Zweig, Jason, 2007. Your money and your brain [邦訳] ジェイソン・ツヴァイク(著) 『あなたのお金と投資脳の秘密―神経経済学入門』 (日本経済新聞出版社)

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、鈴木一功(訳)

、遠藤真美(訳)

、堀内久仁子(訳)

2009年発行

© 2012 The Vanguard Group, Inc. All rights reserved.

BFGBJ 092012

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