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「例題で学ぶアナログ電子回

路入門」

サンプルページ

この本の定価・判型などは,以下の URL からご覧いただけます.

http://www.morikita.co.jp/books/mid/076131

※このサンプルページの内容は,初版 1 刷発行時のものです.

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i

まえがき

電子回路は,アナログ電子回路とディジタル電子回路に大別されるが,アナログ電

子回路はディジタル電子回路の基礎としての役割も担う.本書は,アナログ電子回路

の入門部分を解説した教科書である.この分野では,すでに多くの良書が出版されて

いるが,全般に,ページ数に比して多くの内容が盛り込まれている.したがって,個々

の項目(テーマ)に関する記述は簡潔になりがちであり,式の導出などもあまり丁寧

ではないものが多く,学力が多様化している現在の学生にとっては荷が重いのが実態

である.

そこで本書では,基本的なテーマのみを取り上げ,それらについてはできるだけ詳

しく解説し,アナログ電子回路の考え方を定量的かつ実感として理解してもらえる内

容の教科書となるよう心がけた.記述にあたって,とくに留意したのは次の点である.

(1) 必要最小限と考えられるテーマのみを取り上げ,それらについてはできるだけ

詳しく説明した.とくに,通常のトランジスタ(接合トランジスタ)を用いた

回路をおもに扱い,電界効果トランジスタ (FET)については,動作原理と等価

回路の考え方を述べるにとどめた.

(2) 回路方程式を立てる際に不可欠となる,回路に流れる電流や回路素子にかかる

電圧の電気的極性の考え方を明確にした.

(3) 回路方程式の導出とその解法については,目視でフォローできる程度まで詳し

く記述した.

(4) 随所に例題を設け,得られた結果が具体的にどのような値になるか,数値例に

より確認した.

(5) 章末の問題には本文の記述を補足する基本的な問題を含め,巻末に詳細な解答

例を付けた.

以上の方針により,入門レベルのアナログ電子回路の内容を,通年用の教科書とし

て適当と思われる分量にまとめたが,筆者の浅学のため,思わぬ間違いがあるかも知

れない.読者諸賢のご指摘をお願いする次第である.

終わりに,本書の出版に際して,いろいろお世話になった森北出版株式会社の石田

昇司氏をはじめとして,同社の方々に厚くお礼申し上げる.

2012年 10月

著 者

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目 次

1 章 電子回路の基礎 1

1.1 電気回路と電子回路 ··············································· 1

1.2 アナログ電子回路とディジタル電子回路 ··················· 2

1.3 回路素子の特性 ····················································· 3

1.4 電子回路の基本定理 ··············································· 10

演習問題 ····································································· 16

2 章 半導体素子 18

2.1 半導体 ································································· 18

2.2 pn接合とダイオード ············································· 21

2.3 トランジスタ ························································ 26

2.4 電界効果トランジスタ ············································ 33

演習問題 ····································································· 39

3 章 トランジスタ増幅回路の基礎 41

3.1 トランジスタ増幅回路 ············································ 41

3.2 増幅回路の動作量 ·················································· 42

3.3 動作量の図式解法 ·················································· 44

3.4 線形能動四端子回路 ··············································· 47

3.5 T形等価回路と hパラメータ ·································· 55

3.6 バイアス回路 ························································ 58

3.7 FETを用いた増幅回路 ·········································· 63

演習問題 ····································································· 66

4 章 低周波増幅回路 67

4.1 増幅回路の分類 ····················································· 67

4.2 RC結合増幅回路 ·················································· 68

4.3 差動増幅回路 ························································ 79

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目 次 iii

4.4 負帰還増幅回路 ····················································· 83

4.5 インピーダンス変換増幅回路 ·································· 93

4.6 電力増幅回路 ························································ 95

演習問題 ····································································· 105

5 章 電源回路 107

5.1 整流回路の特性量 ·················································· 107

5.2 整流回路 ······························································ 108

5.3 平滑回路 ······························································ 114

5.4 直流定電圧回路 ····················································· 120

演習問題 ····································································· 122

6 章 正弦波発振回路 124

6.1 発振条件 ······························································ 124

6.2 RC発振回路 ························································ 125

6.3 LC発振回路 ························································· 130

6.4 水晶発振回路 ························································ 135

演習問題 ····································································· 137

7 章 変調・復調回路 140

7.1 変調・復調方式の分類と変調の利点 ························· 140

7.2 振幅変調の原理 ····················································· 141

7.3 振幅変調回路 ························································ 144

7.4 振幅復調回路 ························································ 148

7.5 角度変調の原理 ····················································· 151

7.6 周波数変調回路 ····················································· 155

7.7 周波数復調回路 ····················································· 158

演習問題 ····································································· 162

8 章 演算増幅回路とその応用 164

8.1 理想演算増幅器 ····················································· 164

8.2 仮想接地 ······························································ 165

8.3 理想演算増幅器の応用 ············································ 167

8.4 正弦波に対する演算増幅回路 ·································· 176

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iv 目 次

演習問題 ····································································· 178

演習問題解答 180

付録 ベッセル関数と周波数変調波の周波数帯域幅 212

参考文献 214

索 引 215

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1 章電子回路の基礎

抵抗やコンデンサなどの受動素子と,トランジスタや FET(電界効果トランジスタ)

などの能動素子を組み合わせて,電気信号の処理(増幅,発振,演算,変調など)を

行う電気回路を,とくに電子回路とよぶ.

本章では,まず,電気回路と電子回路,およびアナログ電子回路とディジタル電子

回路の違いを簡単に述べる.次に,電子回路でよく用いられる素子(デバイス)およ

び回路定理について学び,2章以降の準備とする.

1.1 電気回路と電子回路

抵抗やコンデンサ,コイルなどの素子 (element, device)を導線で接続し,電気信号

(電圧,電流)や電力を伝送するものを,一般に電気回路 (electric circuit)という.電

気回路には種々の回路素子が用いられるが,これらの素子を分類するのに二つの視点が

よく用いられる.一つは線形素子か非線形素子かというものである.線形素子 (linear

element)は,図 1.1のように,電圧を印加した端子間の電圧と電流の値が比例する(電圧と電流の関係が直線的に変化する)ものであり,抵抗,コンデンサなどがこれに

該当する.非線形素子 (nonlinear element)は,電圧と電流の関係が曲線となるもの

であり,ダイオード,トランジスタなどが該当する.

図 1.1 線形および非線形素子の電圧-電流特性

もう一つの視点は,受動素子か能動素子かというものである.能動素子 (active ele-

ment)は,その素子を動作させるのに電源が必要なもので,受動素子 (passive element)

は電源が不要なものである.能動素子の代表例はトランジスタや FETであり,受動

素子の代表例は抵抗やコンデンサ,コイルなどである.表 1.1は,回路素子をこれら

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2 1 章 電子回路の基礎

表 1.1 回路素子の分類

線形素子 非線形素子

受動素子抵抗

コンデンサコイル

ダイオード

能動素子 電池(電源)オペアンプ

トランジスタFET

の観点で大まかに分類したものである.この表では,電源とオペアンプを線形・能動

素子としているが,電源は所定の電圧または電流を発生させる点を除いて,線形素子

とみなせる場合が多い.また,オペアンプ(演算増幅器)は,トランジスタ回路を集

積化した増幅器であるが,回路上はきわめて大きな増幅率をもつ一つの線形素子とし

て扱われる.

電気信号の増幅,発振,演算,変調などを行うには,特殊な場合を除いて非線形・能

動素子が必要である.そこで,トランジスタや FETなどの非線形・能動素子を含む回

路を,一般に電子回路 (electronic circuit)という.これに対して,電気回路の範囲は

電子回路よりも広く,必ずしも非線形・能動素子を含むわけではなく,線形・受動素子

だけからなる場合も多い.図 1.2に代表的な電気回路と電子回路の例を示す.図 (a)

は抵抗 (R),コンデンサ (C),コイル (L)からなる電気回路の例である.図 (b)はト

ランジスタ (Tr)を用いた増幅回路の例である.トランジスタは 3端子素子であり,そ

の特性は 2章で概観する.RL は負荷抵抗である.トランジスタを動作させるのに必

要な電源が省略されているが,電源の用い方については 2,3章で説明する.

図 1.2 電気回路および電子回路の例

1.2 アナログ電子回路とディジタル電子回路

電子回路は,扱う電圧 v(t)または電流 i(t)の時間変動波形により,アナログ電子回

路とディジタル電子回路に大別される.アナログ電子回路 (analog electronic circuit)

は,図 1.3(a)のように,なめらかに変化する電圧・電流波形(アナログ波形)を扱

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1.3 回路素子の特性 3

う回路である.ディジタル電子回路 (digital electronic circuit)は,図 (b)のように,

矩形波状に変化する電圧・電流波形(ディジタル波形)を扱う回路である.ディジタル

電子回路は,パルス回路 (pulse circuit)または論理回路 (logic circuit)ともよばれ,

電圧・電流波形は「高レベル H」と「低レベル L」,または “1” と “0” の 2値をとる

信号として処理され,2値の時系列が情報とみなされる.これに対し,アナログ電子

回路では,刻々と変化する電圧・電流波形そのものが情報とみなされる.本書ではア

ナログ電子回路を対象とする.

図 1.3 アナログ波形とディジタル波形

1.3 回路素子の特性

本節では,電子回路を構成する線形素子の特性を,電子回路を理解するのに必要な

範囲で簡単に述べる.オペアンプ(演算増幅器)は 8章で述べる.ダイオード,トラ

ンジスタなどの非線形素子の特性は 2章で述べる.

1.3.1 抵抗

抵抗 (resistor)は電流の値を制御する 2端子素子で,回路記号は図 1.4(a)のよう

に表示される.通常は文字 R(または r)で表され,単位は [Ω](ohm;オーム)であ

る.2端子間に電圧 v [V]を印加すると,図 (b)に示すように,高電圧側から低電圧側

に向かって電流 i [A]が流れる.電流が流入する端子が高電圧側で,高電圧側に+,低

図 1.4 抵抗

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4 1 章 電子回路の基礎

電圧側に −をつけて印加電圧の極性を表示する方法と,高電圧側を矢印の頭(先端)にして印加電圧の極性を表示する方法がある.矢印の場合は,その向きで極性を,長

さで印加電圧の大きさを表すこともできる.本書では矢印表示を用いることにする.

電流 iと電圧 vの関係は,次式で与えられる.

i =v

R[A] (1.1)

この関係をオームの法則 (Ohm’s law)という.電圧 v が一定のとき,抵抗 Rが大き

いほど電流 iは小さくなるので,抵抗 Rは電流の流れにくさの程度を表す.特別な事

情がない限り,抵抗 Rは電圧 v および電流 iに依存しない一定値をとるものとする.

したがって,電圧 vと電流 iは比例するので,抵抗 Rは線形素子である.図 1.1にお

いて,直線的に変化する電圧-電流特性の傾きが 1/Rに対応する.なお,導線部分の

抵抗は 0 [Ω]とみなす.

電圧 vが vm sin ωtのように,振幅 vm,角周波数 ωの正弦波で時間的に変動すると

き,式 (1.1)より,電流 iも次式のように,電圧 vと同位相の正弦波で変動する.

i =vm

Rsin ωt = im sin ωt

(im ≡ vm

R

)(1.2)

1.3.2 コンデンサ

コンデンサ (condenser)はキャパシタ (capacitor)ともよばれ,誘電体によって互

いに絶縁された二つの電極からなる 2端子素子である.回路記号は図 1.5(a)のよう

に表示される.2端子間に電圧 v [V]を印加すると,図 (b)に示すように,高電圧側の

電極には+q [C](coulomb;クーロン)の電荷が,低電圧側の電極には−q [C]の電荷

が誘起される.電荷 qと印加電圧 vの関係は次式で与えられる.

q = Cv [C] (1.3)

比例係数C をコンデンサの静電容量 (electrostatic capacitance)または単に容量 (ca-

図 1.5 コンデンサ(キャパシタ)

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1.3 回路素子の特性 5

pacitance)といい,単位は [F](farad;ファラド)である.容量 C の値が大きいほど

電荷が誘起されやすく,通常,C は電荷 qおよび電圧 vに依存しない定数である.二

つの電極間は絶縁されているので,両電極間を直流電流が定常的に流れることはない

が,電圧 v が時間的に変動する場合には電流が流れる.たとえば,図 (c)のように,

電圧 vが時間的に増加する場合は電荷 qも増加するので,高電圧側の電極に電流 iが

流入する.逆に,電圧 v が時間的に減少する場合は電流 iが流出する.すなわち,交

流電流は見かけ上,コンデンサを流れる.電流 iは電荷の時間変化率で定義されるか

ら,式 (1.3)の両辺を時刻 tで微分することにより電流 iを求めることができる.

i(t) ≡ dq(t)dt

= Cdv(t)dt

[A] (1.4)

電流 iは電圧 vを時刻 tで微分(線形演算)したものに比例するから,電流 iと電圧 v

は比例し,コンデンサは線形素子である.

式 (1.2)と同様に,v = vm sin ωtのとき,式 (1.4)より,

i = ωCvm cos ωt = ωCvm sin(ωt +

π

2

)= im sin

(ωt +

π

2

)(im ≡ ωCvm) (1.5)

となり,電流 iは電圧 v より π/2だけ位相が進む.v = vm sin ωtを位相(偏角)ゼ

ロの複素数とみなせば,vm sin(ωt + π/2)は j × v (j ≡ √−1)に対応するから,式

(1.5)は複素平面上で次式に対応する.

i = jωCv =v

1/(jωC)(1.6)

角周波数 ω,容量Cは実数であるが,電流 iと電圧 vは一般に複素数となる.式 (1.1),

(1.6)の比較より,容量 C は 1/(jωC)という複素数の抵抗と等価となる.複素数を用

いることにより,角周波数 ωの交流に対する回路計算を機械的に行うことができる.

1.3.3 コイル

コイル (coil)はインダクタ (inductor)ともよばれ,導線を同心円状に n回巻いた 2

端子素子である.回路記号は図 1.6(a)のように表示される.2端子間に図 (b)に示

すような電流 iが流れると,電流が上方から見て左回りの場合は上向きの磁束 φ [Wb]

(weber;ウエーバー)が,右回りの場合は下向きの磁束 φが発生する.電流 iと磁束

φの大きさの関係は次式で与えられる.

φ = Li [Wb] (1.7)

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6 1 章 電子回路の基礎

図 1.6 コイル(インダクタ)

比例係数Lをコイルの自己インダクタンス (self inductance)といい,単位は [H](henry;

ヘンリー)である.インダクタンス Lの値が大きいほど磁束が発生しやすく,Lはコ

イルの形状により定まる定数値をとる.コイルの導線の抵抗は 0 [Ω]とみなせるので,

電流 iの値が時間変化しない一定値の場合は,コイルの端子電圧は 0 [V]である.時間

的に変化する電流 i(t)がコイルに流入する場合,電流の変化に応じて磁束も変化する

が,自己誘導 (self induction)により,この変化を妨げる向きの起電力,すなわち反

抗起電力 (counter electromotive force) v(t)が図 (c)のように発生する.これに打ち

勝って電流を増加させるには,コイルの端子間に電圧を印加する必要がある.この電

圧 v(t)は,式 (1.7)より次式で与えられる.

v(t) ≡ dφ(t)dt

= Ldi(t)dt

[V] (1.8)

電圧 vは電流 iを時刻 tで微分(線形演算)したものに比例するから,電圧 vと電流 i

は比例し,コイルは線形素子である.

i = im sin ωtのとき,式 (1.8)より,

v = ωLim cos ωt = ωLim sin(ωt +

π

2

)= vm sin

(ωt +

π

2

)(vm ≡ ωLim) (1.9)

となり,電圧 vは電流 iより π/2だけ位相が進む.i = im sin ωtを位相(偏角)ゼロ

の複素数とみなせば,im sin(ωt + π/2)は j × i (j ≡ √−1)に対応するから,式 (1.9)

は複素平面上で次式に対応する.

v = jωLi, ∴ i =v

jωL(1.10)

式 (1.1),(1.10)の比較より,インダクタンス Lは jωLという複素数の抵抗と等価と

なる.

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1.3 回路素子の特性 7

1.3.4 電圧源

電流の値にかかわらず一定電圧を発生する素子を,定電圧源 (constant voltage

source) または単に電圧源という.図 1.7 に定電圧源の回路記号を示す.いくつかの記号が用いられるが,直流電圧源の場合は図 (a)が用いられる.電圧可変を明示し

たい場合,図 (b)の矢印付き記号が用いられることがある.図 (c)は交流電圧源に多

く用いられ,図 (d)は一般の電圧源に用いられる.+−または矢印は,正の半周期の極性を表す.定電圧源の抵抗(内部抵抗)は理想的には 0 [Ω] である.0 [Ω]でない場

合,内部抵抗を流れる電流により電圧降下が生じ,出力電圧が低下するため,定電圧

源にならないからである.内部抵抗が 0 [Ω] の定電圧源を理想電圧源 (ideal voltage

source)という.図 1.7の各記号は理想電圧源を表す.実際の電圧源は内部抵抗をも

つため,その値を r [Ω]とすると,図 1.8のように表示されることが多い.乾電池の出力電圧特性はこれに近い.電圧源を流れる電流の向きは,通常は電圧が増加する向

き(電圧の矢印の向き)と一致する.一方,電圧源を除く回路素子では,電流の向き

と電圧(反抗起電力)の矢印の向きは逆になる.

図 1.7 定電圧源の記号 図 1.8 内部抵抗 r をもつ電圧源

1.3.5 電流源

電圧の値にかかわらず一定電流を発生する素子を定電流源 (constant current source)

または単に電流源という.図 1.9に定電流源の回路記号を示す.図 (a)は直流電流源

に,図 (b)は交流電流源に用いられることが多く,図 (c)は一般の電流源に用いられ

る.定電流源の抵抗(内部抵抗)は,理想的には∞ [Ω]である.∞ [Ω]でない場合,両

端子に印加された電圧に依存する電流が流れ,定電流源にならないからである.内部

抵抗が∞[Ω]の定電流源を理想電流源 (ideal current source)という.図 1.9の各記

号は理想電流源を表す.実際の電流源は有限の内部抵抗をもつため,その値を r [Ω]と

すると,図 1.10のように表示されることが多い.2章で述べるトランジスタの出力

特性はこれに近い.

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67

4 章低周波増幅回路

本章では,汎用の低周波増幅回路である RC結合増幅回路,負帰還増幅回路,B級

電力増幅回路などを学ぶ.低周波増幅回路は,取り扱う信号振幅の大小により,小信

号増幅回路と大信号増幅回路に分けられる.スピーカや継電器などを駆動する電力増

幅回路は比較的大きな振幅出力を扱うので,大信号増幅回路に分類されるが,RC結

合増幅回路,負帰還増幅回路など,あまり大きな電力を扱わないものは小信号増幅回

路とみなせる.

小信号増幅回路の動作量を求める場合は,3章で学んだ hパラメータを用いた交流

等価回路(小信号等価回路)の手法が有効であるが,大信号増幅回路の場合は図式解

法が有効となる.

4.1 増幅回路の分類

3.1節で述べたように,増幅回路は入力信号の交流分の振幅を増幅する回路であるが,

取り扱う信号の振幅と周波数により,大まかに表 4.1のように分類される.可聴周波数(20 [Hz]~20 [kHz])を含んで,数十~100 [kHz]程度以下の周波数帯を扱う増幅回

路を低周波増幅回路 (low frequency amplifier),それ以上の周波数帯を扱うものを高

周波増幅回路 (high frequency amplifier)という.低周波増幅回路の代表例は RC結

合増幅回路,B級電力増幅回路などである.高周波増幅回路の代表例は周波数選択増

幅回路,C級電力増幅回路などである.一方,出力が 10 [mW]程度以上の信号を扱う

増幅回路を大信号増幅回路 (large signal amplifier),それ以下の出力を扱うものを小

信号増幅回路 (small signal amplifier)という.大信号増幅回路の代表例はB,C級電

力増幅回路などであり,小信号増幅回の代表例は RC結合増幅回路,周波数選択増幅

表 4.1 増幅回路の分類

低周波増幅回路 高周波増幅回路

小信号増幅回路

RC 結合増幅回路差動増幅回路負帰還増幅回路

周波数選択増幅回路

大信号増幅回路

電力増幅回路(B 級)

電力増幅回路(C 級)

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68 4 章 低周波増幅回路

回路などである.

高周波増幅回路は,数百 [kHz]以上の周波数帯で,比較的狭い,特定の周波数帯だ

けを増幅する回路である場合が多く,負荷に LC並列共振回路が用いられ,同調増幅

回路ともよばれている.本書では,高周波増幅回路は扱わない.

4.2 RC結合増幅回路

RC結合増幅回路 (resistance-capacitance coupled amplifier) は,入力信号源と増

幅部および増幅部と負荷抵抗をコンデンサで接続した回路である.RC結合増幅回路

は構成が簡単であり,可聴周波数を含む広い周波数帯で一定の電圧増幅率が得られる

ため,低周波増幅回路の中でもっとも広く用いられている.

増幅部の回路構成は,図 4.1に示す電流帰還バイアス回路がおもに用いられる.入力信号源と増幅部および増幅部と負荷抵抗間を接続するコンデンサ C1,C2 を結合コ

ンデンサ (coupling capacitor)という.エミッタ抵抗 RE に並列に接続されているコ

ンデンサ CE は,交流分の電流帰還作用を除くために交流分を短絡するコンデンサで,

バイパスコンデンサ (bypass capacitor)という.バイパスコンデンサにより,増幅部

は交流分に対してエミッタ接地回路となる.結合コンデンサとバイパスコンデンサは

直流分に対し開放となるので,増幅部は,直流分に対し図 3.14の電流帰還バイアス回

路と等価になる.

図 4.1 RC 結合増幅回路

4.2.1 動作量

トランジスタ部分を hパラメータ等価回路に置き換えて,電圧・電流増幅率などの

動作量を求める.3.4.3項で述べたように,hre,hoeは小さいのでゼロとする.結合コ

ンデンサや配線間の浮遊容量 (stray capacitance) (図 4.1には表示していない)の

影響で動作量が周波数に依存し,低い周波数領域および高い周波数領域で動作量の絶

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4.2 RC 結合増幅回路 69

対値が低下するので,低域,中域,高域の三つの周波数領域に分けて動作量 (Av, Ai,

zi, zo)を求める.

(1)中域動作量

結合コンデンサ C1,C2のインピーダンスが小さく,無視できる領域を中域という.

増幅部の動作点が適切に設定されているとして,図 4.1に対する交流等価回路(小信

号等価回路)を描くと図 4.2となる.等価回路を得る手順は以下のとおりである.

1©C1,C2,CE を短絡する.

2©電源 VCC を短絡する(VCC 端子をアースに接続する).

3©トランジスタ部分を図 3.8の hパラメータ等価回路に置き換える.

入力側および出力側にキルヒホッフの電圧則を適用すると,次式が得られる.

v1 = hieib (4.1)

v2 = − 11/RC + 1/RL

ic = − RCRL

RC + RLhfeib = −Rlhfeib (4.2)

(Rl : RCと RLの並列合成抵抗)

図 4.2 中域周波数等価回路

式 (4.1),(4.2)より,中域電圧増幅率 Avm は次のようになる.

Avm ≡ v2

v1= −hfe

hieRl (4.3)

RA と RB の並列合成抵抗を Rb とすると,ib は i1 を Rb と hie の逆比に分割したも

のであり(例題 1.2),i2は icをRC とRLの逆比に分割したものであるから,それぞ

れ次式が得られる.

ib =Rb

Rb + hiei1 (4.4)

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70 4 章 低周波増幅回路

i2 =RC

RC + RLic =

RC

RC + RLhfeib (4.5)

式 (4.4),(4.5)より,中域電流増幅率 Aim は次のようになる.

Aim ≡ i2i1

=ibi1

· i2ib

=Rb

Rb + hie· RC

RC + RLhfe (4.6)

中域の入力インピーダンス zim,出力インピーダンス zomは,それぞれ次のようになる.

zim ≡ v1

i1=

11/RA + 1/RB + 1/hie

=1

1/Rb + 1/hie=

Rbhie

Rb + hie

=RARBhie

RARB + RBhie + hieRA≡ Rh (4.7)

zom = RC (4.8)

式 (4.8)は,ib = 0 [A](vs = 0 [V])と電流源の内部抵抗∞ [Ω]より明らかである.

例題 4.1 RA = 70 [kΩ],RB = 90 [kΩ],RC = 2 [kΩ],RE = 2 [kΩ],RL = 5 [kΩ],

hfe = 150,hie = 5 [kΩ]の RC結合増幅回路の Avm,Aim,zim を求めよ.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

解答 式 (4.3),(4.6),(4.7)より,それぞれ次のようになる.

Avm = −150

5× 2 × 5

2 + 5= −30 × 10

7� −42.9

Rb =70 × 90

70 + 90� 39.4 [kΩ], Aim � 39.4

39.4 + 5× 2

2 + 5× 150 � 38.0

zim � 39.4 × 5

39.4 + 5=

197

44.4� 4.44 [kΩ]

(2)低域動作量

周波数が低くなり,結合コンデンサ C1,C2 のインピーダンスが無視できなくなる

領域を低域という.結合コンデンサが信号を通しにくくなるため,出力が低下する.

交流等価回路は,図 4.3のように,中域周波数等価回路の該当部分に結合コンデンサC1,C2 を入れたものとなる.

低域の入力インピーダンス zil と i1 はそれぞれ次のようになる.

zil ≡ v1

i1= Rh +

1jωC1

(4.9)

i1 =v1

zil=

v1

Rh + 1/(jωC1)(4.10)

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4.2 RC 結合増幅回路 71

図 4.3 低域周波数等価回路

ib は i1 を Rb と hie の逆比に分割したものであるから,次式が得られる.

ib =Rb

Rb + hiei1 (4.11)

出力側にキルヒホッフの電圧則を適用すると,次式が得られる.

v2 = −RLi2 (4.12)

i2は,icをRC とRL +1/(jωC2)の逆比に分割したものであるから,次式が得られる.

i2 =RC

RC + RL + 1/(jωC2)ic =

RC

RC + RL + 1/(jωC2)hfeib (4.13)

式 (4.10)~(4.13)および式 (4.2),(4.3),(4.7)より,低域電圧増幅率 Avl は次のよう

になる.

Avl ≡ v2

v1=

i1v1

· ibi1

· i2ib

· v2

i2

=1

Rh + 1/(jωC1)· Rb

Rb + hie· RChfe

RC + RL + 1/(jωC2)(−RL)

= −hfe

hieRl

11 + 1/(jωC1Rh)

· 11 + 1/{jωC2(RC + RL)}

= Avm1

1 − j(fl1/f)· 11 − j(fl2/f)(

fl1 ≡ 12πC1Rh

, fl2 ≡ 12πC2(RC + RL)

)(4.14)

fl1および fl2を低域遮断周波数 (lower cut off frequency)という.式 (4.6),(4.11),

(4.13)より,低域電流増幅率 Ail は次のようになる.

Ail ≡ i2i1

=ibi1

· i2ib

=Rb

Rb + hie· RChfe

RC + RL + 1/(jωC2)

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72 4 章 低周波増幅回路

=Rb

Rb + hie· RChfe

RC + RL· 11 + 1/{jωC2(RC + RL)}

=Aim

1 − j(fl2/f)(4.15)

ib = 0 [A](vs = 0 [V])と電流源の内部抵抗∞ [Ω]となることより,低域出力インピー

ダンス zol は次のようになる.

zol = RC +1

jωC2(4.16)

(3)高域動作量

周波数が高くなると,結合コンデンサのインピーダンスは無視できるが,配線間の

浮遊容量の影響が無視できなくなる.この領域を高域という.浮遊容量は回路素子と

してあらかじめ接続された容量ではないため,図 4.1には表示していないが,入力側,

出力側どちらも導線とアース間に接続された等価容量として表示される.入力側およ

び出力側浮遊容量をそれぞれ Ci,Coとすると,高域周波数等価回路は図 4.4となる.周波数が高くなるにつれて,浮遊容量を通してリークする信号成分が多くなるため,

出力が低下する.

図 4.4 高域周波数等価回路

入力側および出力側にキルヒホッフの電圧則を適用すると,次式が得られる.

v1 = hieib (4.17)

v2 = −RLi2 (4.18)

i2 は,ic を Co と RC の並列合成インピーダンスと RL の逆比に分割したものである

から,次式が得られる.

i2 =

1jωCo + 1/RC

RL +1

jωCo + 1/RC

ic =

RC

1 + jωCoRC

RL +RC

1 + jωCoRC

hfeib

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164

8 章演算増幅回路とその応用

演算増幅回路 (operational amplifier)は,アナログ計算機の演算素子として開発さ

れた 2入力端子,1出力端子をもつ直流増幅回路であり,理想増幅回路(電圧利得が無

限大とみなせる増幅回路)に近い特性をもつため,汎用性が高く,広く用いられてい

る.実際の演算増幅回路は集積回路化された素子であり,演算増幅器またはオペアン

プともよばれる.演算増幅器は,トランジスタや抵抗のように一つの素子(線形・能

動素子)として扱われる.

本章では,まず,理想演算増幅器の条件と,理想演算増幅器に対して成り立つ仮想

接地の考え方を説明する.この考え方を用いると,電圧増幅率や入出力インピーダン

スの導出など,種々の回路計算が大幅に簡単になることがわかる.次に,演算増幅器

を用いた各種回路の動作量の導出を行う.

8.1 理想演算増幅器

演算増幅器の回路記号と等価回路を,図 8.1に示す.図 (a)において,−符号の端子 Aの入力信号を反転入力 (inverting input),+符号の端子 Bの入力信号を非反転

入力 (non inverting input)という.Av は電圧利得(開ループ利得)である.通常は,

電源端子,接地(アース)端子などは省略する.図 (b)の等価回路において,zi は入

力インピーダンス(抵抗),zo は出力インピーダンスである.反転入力電圧を v1,非

反転入力電圧を v2 とすると,両者の差が Av 倍に増幅され,Av(v2 − v1) の出力電圧

源となる.

図 8.1 演算増幅器

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8.2 仮想接地 165

演算増幅器において,次の条件が満たされるものを理想演算増幅器 (ideal operational

amplifier)という.

(条件 1) Av → ∞(条件 2) zi → ∞ [Ω]

(条件 3) zo � 0 [Ω]

実際の演算増幅器は,4.3節で述べた差動増幅回路を初段とする多段増幅回路であ

り,電圧利得が 1万~数万,入力抵抗が数~数十 [MΩ],出力抵抗が数十 [Ω]程度のも

のが実現されている.したがって,理想演算増幅器は実在しないが,実際の回路計算

では,これら 3条件が近似的に成り立つとみなしてよい場合が非常に多い.そこで本

章では,以下の節において,演算増幅器は理想演算増幅器とみなせるものとして動作

量を導出する.演算増幅器は電圧利得が非常に大きいため,通常は負帰還をかけて使

用する.

8.2 仮想接地

図 8.2 は演算増幅器を用いた増幅回路の代表例であり,反転増幅回路 (inverting

amplifier)とよばれている.この回路により仮想接地の考え方を説明する.

抵抗R1を通して反転入力電圧 v1を入力し,非反転入力端子は接地する (v2 = 0 [V]).

非反転入力端子を基準とした反転入力端子(点 P)の電圧を vi とすると,演算増幅器

の出力電圧源は −Avvi となる.出力電圧の一部を抵抗 Rf により点 Pに帰還してい

る.出力電圧が上昇すると,点 Pの電圧 vi も上昇するが,この電圧は電圧源 −Avvi

により逆位相で増幅されて出力されるため,この増幅回路は負帰還増幅回路である.

まず,Av および zi の値が有限,かつ zo > 0として,電圧増幅率(閉ループ利得)

vo/v1 を求める.図のように,R1,Rf を流れる電流をそれぞれ i1,if とし,点 Pか

図 8.2 反転増幅回路

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166 8 章 演算増幅回路とその応用

ら反転入力端子に流入する電流を iiとすると,点 Pにおけるキルヒホッフの電流則よ

り,次式が成り立つ.

i1 = ii + if , ∴ v1 − vi

R1=

vi

zi+

vi − vo

Rf,

∴ v1

R1=(

1R1

+1zi

+1

Rf

)vi − vo

Rf(8.1)

出力電源電圧 −Avvi および出力電圧 vo と if は次式を満たす.

vo − (−Avvi)zo

= if =vi − vo

Rf(8.2)

式 (8.2)より,vi は次のようになる.

vi =1/zo + 1/Rf

1/Rf − Av/zovo =

1 + zo/Rf

zo/Rf − Avvo (8.3)

式 (8.3)の vi を式 (8.1)に代入して整理すると,閉ループ利得 Avf は次のように求め

られる.

Avf ≡ vo

v1=

1R1

/{(1

R1+

1zi

+1

Rf

)1 + zo/Rf

zo/Rf − Av− 1

Rf

}

=Rf

R1

/{(Rf

R1+

Rf

zi+ 1)

1 + zo/Rf

zo/Rf − Av− 1}

(8.4)

式 (8.4)において,理想演算増幅器の条件 1~3を用いると,次式が得られる.

vo

v1= −Rf

R1(8.5)

電圧増幅率の絶対値は Rf と R1 の比にのみ依存し,かつ,負の値をとるので,vo は

v1 と逆位相で増幅されて確定値をとる.このため,この回路は反転増幅回路とよばれ

ている.式 (8.3) より,vi = 0 [V],ii = 0 [A] となる.すなわち,点 P の電位は接

地電位 (0 [V])となるが,接地点(非反転入力端子)に対するインピーダンスは∞ [Ω]

(= zi)となっているため,回路的には開放の状態である.このような点 Pを仮想接地

(virtual ground, virtual earth) または仮想短絡 (imaginal short)された点という.

そこで,最初から点 Pが仮想接地されているとして,式 (8.5)の結果を導いてみよ

う.図 8.3は,図 8.2の点 Pが仮想接地されている場合の等価回路である.

抵抗 R1 を流れる電流 iは点 Pで分流しないので,抵抗 Rf を流れる電流も iとな

る.点 Pの電位は 0 [V]であるので,次式が成り立つ.

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8.3 理想演算増幅器の応用 167

図 8.3 反転増幅回路の等価回路(点 P 仮想接地)

v1 = R1i (8.6)

Rf i + vo = 0 (8.7)

− Avvi = vo (8.8)

式 (8.6),(8.7)より電流 iを消去すると,ただちに式 (8.5)が得られる.理想演算増幅

器では,Av → ∞,vi → 0 [V]であるから,−Avvi → −∞ · 0 [V]となり,これは数

学的には不定であるが,式 (8.8)によれば確定値 vo をとる.すなわち,帰還回路では

−Avvi の値は確定値をとる.そこで,以降の等価回路では −Avvi = vo とみなす.

仮想接地が成り立つ場合には,電圧増幅率のほかに,入出力インピーダンスなども容

易に求めることができる.式 (8.6)より,入力インピーダンス v1/i = R1 [Ω]である.

電圧源 −Avvi の内部抵抗は 0 [Ω]であるから,出力インピーダンスは 0 [Ω]である.

例題 8.1 図 8.2の反転増幅回路において,R1 = 500 [Ω],Rf = 20 [kΩ] のとき,閉

ループ利得 Avf を求めよ.ただし,演算増幅器は理想演算増幅器とみなせるものとする.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

解答 式 (8.5)より,次のように求められる(演習問題 8.1も参照してほしい).

Avf ≡ vo

v1= −Rf

R1= −20 × 103

500= −40

8.3 理想演算増幅器の応用

8.3.1 非反転増幅回路

図 8.4(a)を非反転増幅回路 (non inverting amplifier)という.反転入力端子を抵

抗R1 を通して接地し,非反転入力端子に電圧 v1を印加する.出力電圧の一部は抵抗

Rf を通して点 Pに帰還している.図 (b)は点 Pが仮想接地されている場合の等価回

路である.仮想接地の本質は仮想接地された点の電位がいつも仮想 0 [V]になるとい

うことではなく,反転入力端子と非反転入力端子間の電位差 vi = 0 [V] (式 (8.3)参

照)となるということである.したがって,点 Pの電位は v1 [V]となる.左向きに電

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168 8 章 演算増幅回路とその応用

図 8.4 非反転増幅回路とその等価回路

流 iが流れるとすると,抵抗 Rf を流れる電流は点 Pで分流しないので,抵抗 R1 を

流れる電流も iとなり,次式が成り立つ.

v1 = R1i (8.9)

vo − v1

Rf= i (8.10)

式 (8.9),(8.10)より電流 iを消去すると,電圧増幅率 vo/v1 は次のようになる.

vo

v1= 1 +

Rf

R1(8.11)

電圧増幅率は 1以上の正の確定値をとり,vo は v1 と同位相で増幅されるので,この

回路は非反転増幅回路とよばれている.非反転入力端子に電流は流入しないので,入

力インピーダンスは∞ [Ω]である.電圧源 voの内部抵抗は 0 [Ω]であるから,出力イ

ンピーダンスは 0 [Ω]である.

8.3.2 電圧フォロア

図 8.5(a)の回路を電圧フォロアという.これは,非反転増幅回路において抵抗 R1

を開放(∞ [Ω]),抵抗 Rf を 0 [Ω]としたものである.図 (b)は点 Pが仮想接地され

ている場合の等価回路である.図 (b)より,v1 = vo,入力インピーダンスは∞ [Ω],

図 8.5 電圧フォロアとその等価回路

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8.3 理想演算増幅器の応用 169

出力インピーダンスは 0 [Ω]である.すなわち,入力インピーダンスが∞ [Ω]であるた

め,回路前段の電気的影響は後段に及ばず,出力側から見ると電圧 v1,内部抵抗 0 [Ω]

の理想電源である.このため,この回路は電圧フォロア(voltage follower;電圧追随

回路)とよばれ,4.5節で述べたエミッタフォロアと同様に,前段と後段の影響を避け

る緩衝増幅器として使用されることが多い.

8.3.3 差動増幅回路と減算回路

図 8.6(a)を差動増幅回路または減算回路 (subtracter)という.反転入力端子側は

反転増幅回路と同様の接続であるが,非反転入力端子には抵抗R2を通して電圧 v2を

印加し,抵抗 R3 を通して接地している.反転入力端子の電位を v−,非反転入力端子

の電位を v+ とすると,仮想接地が成り立つ場合の等価回路は図 (b)となり,v− = v+

である.抵抗 R1 を流れる電流を i1,抵抗 R2 を流れる電流を i2 とすると,次式が成

り立つ.

i1 =v1 − v−

R1=

v− − vo

Rf, ∴ v− =

Rfv1 + R1vo

R1 + Rf(8.12)

v+ = R3i2 = R3v2

R2 + R3(8.13)

図 8.6 差動増幅回路とその等価回路

v− = v+ であるから,式 (8.12),(8.13)より,vo は次のようになる.

vo =R3

R1· R1 + R

f

R2 + R3v2 − Rf

R1v1 (8.14)

ここで,R1 = R2,R3 = Rf とすると,

vo =Rf

R1(v2 − v1) (8.15)

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著 者 略 歴樋口 英世(ひぐち・ひでよ)

1972 年 3 月 群馬大学工学部電気工学科卒業1977 年 3 月 東京工業大学大学院電子物理工学専攻博士課程修了,工学博士1977 年 4 月 三菱電機株式会社入社,半導体レーザの開発に従事2000 年 4 月 大阪電気通信大学教授

現在に至る

編集担当 富井 晃(森北出版)編集責任 石田昇司(森北出版)組 版 ウルス印 刷 エーヴィスシステムズ製 本 協栄製本

例題で学ぶアナログ電子回路入門 C© 樋口英世 2012

2012 年 12月 3日 第 1版第 1刷発行 【本書の無断転載を禁ず】

著 者 樋口英世発 行 者 森北博巳発 行 所 森北出版株式会社

東京都千代田区富士見 1–4–11(〒102–0071)電話 03–3265–8341/ FAX 03–3264–8709

http://www.morikita.co.jp/

日本書籍出版協会・自然科学書協会・工学書協会 会員<(社)出版者著作権管理機構 委託出版物>

落丁・乱丁本はお取替えいたします.

Printed in Japan/ISBN978–4–627–76131–5