技術展望・技術解説 アルミニウムの腐食のやさしいおはなし ~ … · 54...

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52 UACJ Technical Reports ,Vol.3(1) (2016) UACJ Technical Reports, Vol.3 (2016),pp. 52-56 技術展望・技術解説 * (株)UACJ 技術開発研究所 第二研究部,博士(工学) No. 2 Research Department, Research & Development Division, UACJ Corporation, Ph. D. (Eng.) ** (株)UACJ 技術開発研究所 第二研究部 No. 2 Research Department, Research & Development Division, UACJ Corporation *** (株)UACJ 技術開発研究所 第二研究部,博士(工学) No. 2 Research Department, Research & Development Division, UACJ Corporation, Ph. D. 1.はじめに アルミニウムを利用する多くの方々に,アルミニウ ムの腐食を正しくご理解いただくことで,アルミニウ ム産業の発展に寄与できればとの考えのもと,本誌 (UACJ Technical Reports)ならびに前身のFurukawa- Sky Reviewに「アルミニウムの腐食のおはなしその1 ~ 9」を連載してきた。これらの解説記事に対して「非 常に役に立つ」,「新人教育に活用している」などのあり がたいお言葉をいただいている一方で,「内容が専門的 すぎて理解するのが難しい」といったお声も耳にした。 本稿「アルミニウムの腐食のやさしいおはなし」は,こ うしたお声にお応えするために,アルミニウムの腐食 に関する基本的な事項のなかから,特にお客様からの ご質問の多い事項についてご紹介する。平易な言葉を 用いた記述とし,「アルミニウムの腐食のおはなし」本 編への橋渡しとなるように努める。 2.アルミニウムの耐食性 2.1 アルミニウムの耐食性はとても良い アルミニウムの大気環境における耐食性は非常に良 い。アルミニウム合金を 53年間もの期間に渡り大気暴 露した結果が日本アルミニウム協会から報告されてい 1) Fig. 1)。名古屋地域(現UACJ技術開発研究所屋 上)において,炭素鋼の0.5 mmt試験片が10年程度で 腐食により消失したのに対して,アルミニウム合金 (1200,2024(alclad),3003,5052および6061)では, 深さ 50 ~ 150 µm の局部的な腐食孔が認められたもの の,全体としては暴露前の表面形状を保っていた。純 アルミニウムでできている一円玉は,ものによっては かなりの長期間,生活環境に暴露されており,アルミ ニウムの高い耐食性を最も身近に実感できる。今,小 職の財布にある最も古い一円玉は,昭和 53 年製で 38 年 が経過していた。さすがに金属光沢が失われているが, 表面形状は何ら変化していない。皆様もぜひお手元の 一円玉でアルミニウムの耐食性をご実感いただきたい。 2.2 アルミニウムの耐食性は酸化皮膜のおかげ 標準電極電位という金属の酸化のしやすさの熱力学 アルミニウムの腐食のやさしいおはなし ~酸化皮膜と腐食との関係~ 大谷 良行*,小山 高弘**,兒島 洋一*** The Fundamentals of the Aluminum Corrosion - Relationship between the Oxide Film and the Corrosion - Yoshiyuki Oya*, Takahiro Koyama** and Yoichi Kojima*** Fig. 1 Corrosion depth of the aluminums and the iron observed at UACJ (Nagoya) for 53 years. 0 10 20 30 40 50 60 Exposure period / year Corrosion depth /μm 1200 2024 (alclad) 3003 5052 6061 Fe Area : UACJ (Nagoya) Angle : 30° Direction : south 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500

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52   UACJ Technical Reports,Vol.3(1) (2016)

UACJ Technical Reports, Vol.3 (2016),pp. 52-56

技術展望・技術解説

* (株)UACJ 技術開発研究所 第二研究部,博士(工学) No. 2 Research Department, Research & Development Division, UACJ Corporation, Ph. D. (Eng.)** (株)UACJ 技術開発研究所 第二研究部 No. 2 Research Department, Research & Development Division, UACJ Corporation*** (株)UACJ 技術開発研究所 第二研究部,博士(工学) No. 2 Research Department, Research & Development Division, UACJ Corporation, Ph. D.

1.はじめに

アルミニウムを利用する多くの方々に,アルミニウムの腐食を正しくご理解いただくことで,アルミニウム産業の発展に寄与できればとの考えのもと,本誌

(UACJ Technical Reports)ならびに前身のFurukawa-Sky Reviewに「アルミニウムの腐食のおはなしその1~ 9」を連載してきた。これらの解説記事に対して「非常に役に立つ」,「新人教育に活用している」などのありがたいお言葉をいただいている一方で,「内容が専門的すぎて理解するのが難しい」といったお声も耳にした。本稿「アルミニウムの腐食のやさしいおはなし」は,こうしたお声にお応えするために,アルミニウムの腐食に関する基本的な事項のなかから,特にお客様からのご質問の多い事項についてご紹介する。平易な言葉を用いた記述とし,「アルミニウムの腐食のおはなし」本編への橋渡しとなるように努める。

2.アルミニウムの耐食性

2.1 アルミニウムの耐食性はとても良い

アルミニウムの大気環境における耐食性は非常に良い。アルミニウム合金を53年間もの期間に渡り大気暴露した結果が日本アルミニウム協会から報告されている1)(Fig. 1)。名古屋地域(現UACJ技術開発研究所屋上)において,炭素鋼の0.5 mmt試験片が10年程度で腐食により消失したのに対して,アルミニウム合金

(1200,2024(alclad),3003,5052および6061)では,深さ50 ~ 150 µmの局部的な腐食孔が認められたものの,全体としては暴露前の表面形状を保っていた。純アルミニウムでできている一円玉は,ものによってはかなりの長期間,生活環境に暴露されており,アルミニウムの高い耐食性を最も身近に実感できる。今,小職の財布にある最も古い一円玉は,昭和53年製で38年が経過していた。さすがに金属光沢が失われているが,表面形状は何ら変化していない。皆様もぜひお手元の一円玉でアルミニウムの耐食性をご実感いただきたい。

2.2 アルミニウムの耐食性は酸化皮膜のおかげ

標準電極電位という金属の酸化のしやすさの熱力学

アルミニウムの腐食のやさしいおはなし~酸化皮膜と腐食との関係~

大 谷 良 行 * , 小 山 高 弘 * * , 兒 島 洋 一 * * *

The Fundamentals of the Aluminum Corrosion - Relationship between the Oxide Film and the Corrosion -

Yoshiyuki Oya*, Takahiro Koyama** and Yoichi Kojima***

Fig. 1 Corrosion depth of the aluminums and the iron observed at UACJ (Nagoya) for 53 years.

0 10 20 30 40 50 60Exposure period / year

Corr

osio

n de

pth

/μm

12002024(alclad)300350526061Fe

Area : UACJ (Nagoya)Angle : 30°Direction : south

0

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100

150

200

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500

 UACJ Technical Reports,Vol.3(1) (2016)   53

アルミニウムの腐食のやさしいおはなし~酸化皮膜と腐食との関係~ 53

的な指標がある。この標準電極電位の低い金属ほど酸化しやすい。アルミニウムの標準電極電位は,-1.68 V

(SHE)で,この値は実用金属の中ではMgに次いで低い。こうした低い標準電極電位を理由にして,アルミニウムは耐食性が悪いといわれることがある。しかし,安心して下さいっ!これは“まっ裸”のアルミニウムがもし存在すればというはなしであって,実際のアルミニウム製品は,その表面にアルミニウムと酸素とが結合した“酸化皮膜(不働態皮膜)”を着込んでいる。この酸化皮膜は,アモルファスの酸化アルミニウム(Al2O3)からなる緻密なバリヤ層,および酸化アルミニウムの水和物(Al2O3・xH2O)からなる粗なポーラス層でできている。酸化皮膜は,“まっ裸”のアルミニウムが地上環境に曝されるやいなや急速に成長し,合金成分や環境に応じた一定厚さに達した後,それ以上の酸化を抑制する保護皮膜となる。バリヤ層の厚さは乾いた大気,水中などの環境によらず数nm,ポーラス層の厚さは乾いた大気では数十nmで,水中では数µmまで成長する場合もある2)。陽極酸化や塗装などの表面処理を施したアルミニウム製品に対して,表面処理を施していない製品について,“ハダカ使用”などと呼ぶ場合がある。

“ハダカ使用”といえども上述の酸化皮膜に覆われた状態であり,“まっ裸”は,これとの区別を目的に使用した。

2.3 酸化皮膜の消失=アルミニウムの腐食

2.1項のアルミニウムの高い耐食性は,2.2項で述べたように表面に着込んでいる酸化皮膜によって担保されている。何らかの要因によってこの酸化皮膜が消失した時に,消失した場所でアルミニウムの腐食がはじまる。つまり,アルミニウムの耐食性とは,実質的には酸化皮膜の耐食性である。こう考えると,“まっ裸”の金属アルミニウムに関する熱力学的な指標である標準電極電位から,アルミニウムの耐食性が判断できないことは自明となる。

2.4 腐食の電気化学反応

上述の通りアルミニウムの腐食は酸化皮膜の消失した場所での金属アルミニウムの酸化である。腐食が進行するためには,金属アルミニウムの酸化(アノード反応という,Al → Al3+ + 3e-など)で生じた電子を消費するために,同じ速度で還元反応(カソード反応という,O2 + 2H2O + 4e- → 4OH-,2H+ + 2e- → H2など)が同時進行する必要がある。したがって,酸化皮膜の安定性とともにカソード反応の進みやすさも腐食進行を左右する重要な要素となる。

3.アルミニウムの腐食形態

3.1 腐食形態は2種類

アルミニウムの腐食形態は均一腐食と局部腐食の2種類に大別される。酸化皮膜が均一に溶解すると均一腐食が発生し,酸化皮膜が局部的に破壊されると孔食に代表される局部腐食が発生する。局部腐食はさらに,孔食,すきま腐食,粒界腐食,応力腐食割れ(SCC),はく離腐食,糸状腐食などに細分化される。

3.2 アルミニウム全面が溶解する均一腐食

均一腐食とは,酸化皮膜全体が均一に溶解してアルミニウムの全面で腐食が進行する腐食形態である。酸化皮膜全体の均一溶解の原因は,多くの場合酸性あるいはアルカリ性環境である。アルミニウムの均一腐食速度のpH依存性をFig. 2 3)に示す。アルミニウムの均一腐食速度は,pHの低下(酸性),もしくは,上昇(アルカリ性)とともに増大する。このように酸性・アルカリ性の双方に反応する金属を両性金属という。こうした均一腐食は,アノード反応とカソード反応とが同じ領域で起こることが特徴である。腐食速度はアノード反応速度に支配される場合が多い。

3.3 アルミニウムの一部が溶解する局部腐食

局部腐食とは,酸化皮膜の一部が局部的に破壊されアルミニウムの一部で腐食が進行する腐食形態である。多くのアルミニウムは,中性付近のpHで使用され

Fig. 2 pH influence on the corrosion rate of the aluminum in buffer solutions.

0.0001

0.001

0.01

0.1

1

10

0 5 10 15pH

Corr

osio

n ra

te /

g m

-2 h

-1

54   UACJ Technical Reports,Vol.3(1) (2016)

アルミニウムの腐食のやさしいおはなし~酸化皮膜と腐食との関係~54

均一腐食速度は実用上無視できるほど小さいため,実使用で問題となる腐食形態は主にこの局部腐食である。腐食が局部的に集中するため深く進行する傾向があり,アルミニウム製品の機能に甚大な損傷を与えることがある。局部腐食の発生因子は,Cl-に代表されるハロゲン化物であり酸化皮膜を局部的に破壊する作用を持つ。一方でハロゲン化物以外の多くのアニオン(陰イオン)は,ハロゲン化合物の作用を抑え局部腐食を抑制する4)。

アルミニウムの孔食の成長の模式図をFig. 3 5)に示す。孔食ではアノード反応とカソード反応との場所的分離が起こり,アノード反応が腐食孔底部で,主なカソード反応が孔食外の材料表面で進行する。アルミニウムの局部腐食においては,一般にカソード反応速度が腐食進行に多大な影響を及ぼす。孔食の進行とともに,イオンの泳動等により腐食孔底部の液は濃縮して低pH・高Cl-濃度環境となる。この環境では腐食孔底部のアノード反応が促進され,ますます局部的に腐食が進行する。孔食以外の局部腐食のメカニズムも,基本的には孔食と同等として考えることができる。例えば,すきま腐食は,すきまの分だけ液が濃縮しやすい孔食と説明でき,粒界腐食は粒界に,はく離腐食は繊維組織に沿ってアノード反応の起こりやすい層・相で優先的に孔食が進行する現象であると理解できる。「酸化皮膜が破壊されることで発生する局部腐食は,

酸化皮膜が均一溶解する酸性環境においては発生しない」と誤解されていることがあるが,実際には酸性環境でもpHに応じた厚さの酸化皮膜が存在しており,局部腐食が発生することがある。例えば,アルミニウムの代表的な促進腐食試験であるSWAAT(ASTM G85)のpHは2.8-3.0で酸性であるが,人工海水由来のCl-に起因

して局部腐食が発生する。3.4 局部腐食が促進される異種金属接触腐食

アルミニウムの異種金属接触腐食とは,アルミニウムと,アルミニウムよりも自然電位の高い異種金属とが電気化学的に接触したときにアルミニウムの「局部腐食」が促進される現象である。ここに,自然電位とは使用環境中で各金属が示す電極電位である。また,電気化学的な接触とは,金属中における自由電子による電荷の移動と,溶液中におけるイオンによる電荷の移動の両方が起こり,腐食(電池)回路が形成された状態

(Fig. 4)を意味している。腐食回路は,異種金属表面で起こるカソード反応をアルミニウムのアノード反応で負担させる作用を与え,アルミニウムの腐食が増大される。この異種金属接触で促進される腐食は,「局部腐食」であることにご注意いただきたい。「均一腐食」の速度は異種金属接触によってほとんど促進されない。なぜなら「均一腐食」の速度は2.3項で述べたとおりアノード反応に律速され,異種金属との接触によって増大するカソード反応の影響を受けにくいからである。

各種金属の自然電位および異種金属接触腐食の影響度をFig. 5 6)およびFig. 6 7)にそれぞれ示す。多くの金属の自然電位は,アルミニウムよりも高く,Cu,Cu合金,Fe,SUSなどとの異種金属接触は,アルミニウムの「局部腐食」を著しく促進させる。これらの異種金属はアルミニウムよりも自然電位が高いことに加えカソード分極が小さい(カソード反応速度が速い)ことが特徴である。特殊な異種金属接触腐食として,Fig. 6に示すように自然電位がアルミニウムより低いMgと接触させた場合でもアルミニウムの腐食が促進される現象がおこる。これは通常のアルミニウムの異種金属接触腐食とは異なる現象で,著しく自然電位の低いMgとの接触によってアルミニウム表面でのカソード反応

(H2O + 2e- → H2 + 2OH-)が非常に活性に起こり,アルミニウム表面近傍のpH上昇(OH-の増加)を招き,アルミニウムの「均一腐食」が促進されることで起こる。

3.5 局部腐食は防食できる

局部腐食の防食方法は,環境面と材料面とに分けられる。環境面では,構造的に水がたまらないようにする,塗装などによって水との接触を遮断する,Cl-の混入を避ける,Cl-の影響を抑制するインヒビターを使用する,カソード反応物質である酸素を除く(脱気),酸化剤の混入を防ぐ,などが該当する。異種金属との接触がある場合には,金属側で電気的に絶縁する,絶縁が無理な場合には接触部付近を塗装などで覆い,環境と遮断する必要がある。これら環境面の発生要因を取

Fig. 3 Schematic illustration for the pitting corrosion reaction of the aluminum in the chloride solution.

Al3+

O2OH-

e- e-

H+

H+H+

Aluminum

Oxide layer

Al(OH)3

Cl-Cl-

O2OH-

 UACJ Technical Reports,Vol.3(1) (2016)   55

アルミニウムの腐食のやさしいおはなし~酸化皮膜と腐食との関係~ 55

り除くことが困難な場合には材料面で防食を行うことがある。材料面では,合金成分,組織制御による高耐食化,ベーマイト,化成処理,アルマイトなどの表面処理,カソード防食などが該当する。カソード防食とは,異種金属接触腐食の現象を逆に利用してアルミニウムを防食する方法で,防食したいアルミニウム材(防食対

象物)を,それより腐食しやすい(自然電位の低い)別のアルミニウム材(犠牲陽極材)と電気化学的に接触させ,防食対象物をカソード,犠牲陽極材をアノードにすることで防食対象物の腐食を抑制する方法である。防食対象物上で発生したカソード反応は犠牲陽極材のア

Fig. 4 Schematic diagrams and the equivalent circuits of galvanic corrosion occurrence between aluminum and stainless steel.

Schematic illustration for the

galvanized structure

Equivalent corrosion circuit

Contact throughthe metal Yes Yes No

Contact through the water Yes No Yes

Galvanic corrosion Occur Not occur Not occur

Water

Al SUS

Water

Al SUS

Water

Al SUS

Resin

SUSAl

e- e-

SUSAl

e- e-

SUSAl

Al3+Al3+ Al3+

e- e-

H2↑H2↑

Fig. 5 Corrosion potentials of the aluminums and the other metals based on ASTM G69.

-1600

-1400

-1200

-1000

-800

-600

-400

-200

0

200

400

1100

2024

-T4

3003

5052

6061

-T4

7075

-T6

mag

nesi

um zinc

cadm

ium

mild

ste

elle

ad tinco

pper

bism

uth

stai

nles

s st

eel

silv

erni

ckel

Corr

osio

n po

tent

ial/

mV

vs.

SHE

ASTM G691 M NaCl + 9 mL/L H2O225℃

Aluminums Other metals

Fig. 6 Influence of the coupling metal on the galvanic corrosion amount of the aluminum in 1 M NaCl + 9 mL/L H2O2 at 25 ℃ for 100 h. The corrosion amount was calculated from the mass loss.

1.28

400375

350

200150 130 120

25 12 1.070

50

100

150

200

250

300

350

400

450

alum

inum

with

out c

oupl

ing

copp

er

stai

nles

s st

eel (

13Cr

)

bras

s

iron

stai

nles

s st

eel (

18Cr

-8N

i)

lead

nick

el

cadm

ium

mag

nesi

um zinc

Corr

osio

n am

ount

/ x1

0-5 m

m

99.99%Al (1 x 25 x 50 mm)Other metal (t x 10 x 25 mm)1 M NaCl + 9 mL/L H2O225℃100 h

56   UACJ Technical Reports,Vol.3(1) (2016)

アルミニウムの腐食のやさしいおはなし~酸化皮膜と腐食との関係~56

ノード反応で負担され,防食対象物のアノード反応が抑制される。犠牲陽極材にはアルミニウムにZnを添加した合金(Al-Zn合金)が使用されることが多い。Cl-環境下における自然電位はZn濃度とともに低下し,アルミニウムとAl-Zn合金とを接触させた場合には自然電位の高いアルミニウムの局部腐食が抑制される(Fig. 6)。

4.おわりに

本稿では,アルミニウムの腐食に関する基本的な事項についてご説明した。アルミニウムの腐食をご理解頂くために特に重要な項目について簡潔にまとめ結論とする。皆様のご理解の一助となれば幸甚である。(1) アルミニウムの“まっ裸”の標準電極電位は低い

が,表面に形成される酸化皮膜によりアルミニウムは高い耐食性を有する。

(2) アルミニウムの腐食は,酸化皮膜が消失する場合に発生し,環境に応じて,均一腐食(強酸あるいはアルカリ性環境)と孔食に代表される局部腐食(塩化物イオン環境)の2種類の腐食形態を示す。

(3) アルミニウムの一般的な腐食は,孔食に代表される局部腐食で,その発生には塩化物イオンが必要である。酸性およびアルカリ性環境においても塩化物イオン存在下では局部腐食の発生する場合がある。

(4) アルミニウムの異種金属接触腐食とは,アルミニウムの局部腐食が加速される現象である。このため塩化物イオンが存在しなければ発生しない。

参考文献

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小山 高弘 (Takahiro Koyama)(株)UACJ  技術開発研究所 第二研究部

大谷 良行 (Yoshiyuki Oya)(株)UACJ  技術開発研究所 第二研究部 博士(工学)

兒島 洋一 (Yoichi Kojima)(株)UACJ  技術開発研究所 第二研究部博士(工学)