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長期療養施設におけるケアの 質改善に関する意向調査 報告書 【問い合わせ先】 東京大学 大学院 健康科学・看護学専攻 成人看護学分野 山本則子 Tel:03-5841-3508 Fax:03-5841-3502

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長期療養施設におけるケアの

質改善に関する意向調査

報告書

【問い合わせ先】

東京大学 大学院

健康科学・看護学専攻 成人看護学分野

山本則子

Tel:03-5841-3508

Fax:03-5841-3502

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はじめに

2014年6~12月にかけ、貴院をはじめとする療養病床を有する病院の職員のみなさまにご協力を頂き、

ケアの質改善に関するご意見を伺う面接調査を実施させていただきました。このたび、調査でわかった

ことをまとめましたので、ご報告いたします。

本研究にご協力いただき、誠にありがとうございました。今後ともよろしくお願い申し上げます。

2015年 4月

研究代表者 山本則子

研究班 メンバー

東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻 教授 山本則子

同上 講師 高井ゆかり

同上 助教 五十嵐歩

同上 修士課程 齋藤弓子

同上 藤井文香

同上 二見朝子

調査の概要

<背景>

日本では高齢化が急速に進み、日常生活に支援の必要な高齢者が居住し、必要なケアを受けられる療

養型医療施設、介護老人保健施設、介護老人福祉施設などの長期療養施設に対する社会的期待が高まっ

ている。このような長期療養施設では、ケアニーズの高い高齢者に対して、人的・物的資源の限られた

状況下でケアを提供する必要がある。しかし、このような長期療養施設におけるケアの質保証・改善に

関する検討は、米国を中心として諸外国において長い歴史がある一方で、我が国においてはほとんどな

されてこなかった。

特に、医療保険下の制度である療養病床におけるケアの質に関する検討は限られている。地域包括ケ

アシステム下の医療の在り方を考える上で、療養病床の役割機能に関する検討の一部として、ケアの質

について今後の検討が求められている。

<目的>

ケアの質確保に関する認識、ケアの質確保のために実施されている工夫や今後に向けた課題、外部機

関との協働の可能性など、ケアの質確保のための今後のさらなる仕組み作りについて、長期療養施設、

特に医療療養型病床のケアの実務者の意向を把握する。

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<対象>

医療療養型病床のある 3病院で就業中の職員(医師/看護部長/看護師長/看護・介護職/薬剤師/PT・OT・

ST/社会福祉士/栄養士/事務職 など、病院ごとにインタビューの可能な職種)。一定の職場での勤務経

験がインタビュー内容に反映されるように、現職場での勤務が 1年以上である方に依頼することにした。

<方法>

個別または同職種間のグループによる面接調査を行った。面接時間は、個別で約 30-60 分、グループ

で 60-90 分とした。面接内容は、提供しているケアの質の評価、ケアの質確保のための取り組み、今後

実施したいことなどであった。面接内容は、施設間・職種間で比較し共通点と相違点を検討した。

面接内容は録音し、概要を文書化して分析した。分析は以下の手順で実施した。

1. 文書を熟読し、内容の分節ごとに、その内容を要約する短い言葉をコードとしてつけた(コーディ

ング)。

2. 類似するコードを分類し、分類ごとに内容を要約する言葉をカテゴリーとしてつけた。

3. 以上の手順を繰り返し、インタビュー内容を要約するいくつかのテーマにまとめた。

4. 以上の手順を繰り返す際、職種の違い・病棟種類の違いによる内容の差に注目し、認められる相違

はメモを残しておいた。

以上の分析は複数の研究者(山本、高井、五十嵐)及び大学院生(齋藤、藤井)が共同で実施した。

すなわち、独立して分析した結果を持ち寄り分析・意見の相違を話し合って摺合せることを繰り返し、

分析内容が一部の研究者・学生の意向により偏らないように努めた。

<倫理的配慮>

調査にあたっては、参加者に対し、研究の目的と意義、調査への参加は各自の自由意志に基づくこと、

個人が特定されないような形で結果を報告書や学会に公表すること等を、口頭及び文書で説明し、書面

による同意を得た。本研究は、東京大学医学部倫理委員会の承認を受けて実施した。

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調査結果の概要

【調査参加者】

以下に示す計 39名の方に協力を得た。

職種 参加病院数 人数

医師・理事長 2 4

事務部長 3 3

看護部長 3 3

看護師長 3 3

スタッフ看護師・准看護師 3 6

介護職 3 6

PT・OT・ST 3 6

社会福祉士 2 2

薬剤師 3 3

栄養士 1 1

クラーク 1 2

合計 39

【各施設の共通点】

以下のような実務者の認識・意見が、職種・施設に関わらず共通点として挙げられるように思われた。

施設・職種に共通する内容

1) 高齢者の生命を守り、診療を実施するという基準は満たしている。

2) 多職種間でのカンファレンスの実施により、情報共有や意思統一を図っている。実施できれば効果

を実感しているが、課題もあると感じている。

3) 各種の勉強会等を実施し質改善に努めている。

4) 直接的ケアに関わる看護・介護職等の人手が、年々増加するケアの必要度に比べて足りないと感じ

ており、自分たちが実施したいと願うケアに手が届かないことを残念に感じている。疲弊感も強い。

看護・介護職もそれ以外の職種も、個別に温度差はあるものの、この現状をなんとかしたいと願っ

ている。

5) 高齢者の個別性を把握するという点に課題を感じている。

6) 長期療養におけるケアのモデルや評価基準がみつからず、ケアのゴールを考えることが難しい。そ

の結果、提供しているケアの達成感ややりがい、肯定的な自己評価やプライドを職員が持ちにくい。

7) 組織理念(多様な理念がある)の職員への浸透度は病院ごとにさまざまであるが、より浸透させた

いとその方策を検討している。

8) 高齢者ケアをめぐる最近の制度の変化に、現場がついてゆくのに精いっぱいの状況がある。制度上

の改善点も多いと考えている。

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【職種ごとの特徴】

個人としての意見にばらつきはあったものの、ケアの質に関する回答には、職種ごとに一定の特徴が認

められた。大まかにまとめると、以下のようになった。

職種 特徴

看護・介護職 生命の維持と診療、安全確保に精一杯なところがあり、高齢者や家

族の個別の意向に沿えないことや、自身の身体的負担が増すことに

対する辛さを抱えている。

子育てなどの事情等により、ケアの質改善への意欲には多様性があ

る。

意欲の高い場合には、専門職上の主要な役割と考えていること(看

護師なら安楽の提供や自立の促進など、介護職なら各種のアクティ

ビティなど)に手が届かないことを残念に感じている。

学習意欲には個人差があるが、意欲の高い場合にも勤務条件等から

院内の研修等でも出席が難しい場合もある。院外の研修や専門職組

織への参加は限られる。

看護・介護職以外の専門職種 忙しい看護・介護職を気遣い、積極的に病棟に出向いて、高齢者の

状況を把握する、業務改善を工夫する、必要な知識を補う、など、

看護・介護職の負担軽減のための支援に努めている。

専門職ごとの協会・学会や研修会など、院外に出てのケアの質改善

の努力が見られる。

医師・事務・管理者 スタッフの困難を積極的に聞き取り改善に努力する姿勢を持って

いる。業務改善を模索している。

【職種間の比較】

インタビューの結果は、ケアの質とそれに関連する要素となるいくつかのカテゴリーに分類された。

そのカテゴリーをもとにして、対象者の方にお話しいただいた内容を、職種ごとに比較できるようなテ

ーマを挙げてまとめた。

1)ケアの質の評価

いずれの病院・職種でも「生命の維持」や「診療の実施」といった面で一定のケアの質が保たれてい

るという認識が持たれていた。看護・介護職以外はそこまでで一定の満足感を得て更に+αとして個別

性を目指す様子が見られたが、看護・介護職に関しては、看護・介護職としてもっとやってあげたい・

やるべきことがあるのにできていない、という否定的な思いになるようだった。一方で、このような「も

っとやってあげたい・やるべきことがある」内容は「手を抜こうと思えば抜ける」とも言え、職員間で

姿勢のばらつきにつながり、それが一部の職員に困難に感じられるようだった。

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職種 評価内容

医師 褥瘡、嚥下、離床、排泄ケアや終末期ケアのレベルは高いと評価している。

個別性に留意したケアを展開することができていないと感じている。

事務 急性期医療で必要とされる処置は出来ている。

職種によっては、急性期病院でのやり方を踏襲しており、療養病床でのケアへ

の理解が十分ではないと感じている。

看護部長 介護職のケアの質は比較的保たれていると評価する。

看護師のケアの質はまだ発展途上と感じている。

師長 高齢者へのケアと急性期医療の違いを感じている。

職員と高齢者・家族との関わりをもっと持たせたいと願う。

看護師 生命を守る、というケアは概ねできていると感じている。

個別性に応じたケアをもっと展開したいと願う。

丁寧な清拭等、もっとやってあげたいことがある。

介護 実践しているケアは評価している。

個別の希望に対応できず、きめ細かいサービスができないと感じている。

アクティビティ等、もっとやってあげたいことがある。

リハビリ

高齢者の個別性を捉えることの重要性を感じ、ケアを実践している。 SW

栄養士

薬剤師

2)長期ケアのモデルを模索している

参加者は、「ケアの質」について問われた時に、生命の維持・診療という意味では評価が可能だが、そ

の次の質をどのように考えたらよいのか、何をゴールとし、何を手掛かりに質を評価したらよいのか、

考えあぐねている様子が窺われた。急性期ケアとは異なる「長期ケア」のモデル・ゴールの設定が求め

られているようだった。

職種 内容

医師 看護・介護職の終末期ケア・在宅療養に対する意識が低く、意識変革の困難さ

を感じている。

事務 多職種で患者ケアの共通目標を持つ必要性があると感じている。

看護部長 患者中心の看護を展開しきれていないと感じている。

看護師 長期ケアのモデルがなく悩みながらケアを実践している。

介護 ケアを良くしたい気持ちや具体的に取り組みたいことはあるが、どうしたらよ

いかわからない、時間的にできないなどの理由で変えられないジレンマを抱え

ている。

リハビリ 患者の目標が立てにくく評価ができないと感じている。

SW 緩和ケアや看取りの支援に困難を感じている。

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3)ケアする人を守り育てたい

直接的なケアの担い手であるスタッフ看護師・介護職を守り育てるための、多様な工夫が実施されて

いた。

A教育・スキルトレーニングをする

さまざまな勉強会が院内でも積極的に行われていたが、勤務形態の違いもあり、教育への参加とその

意欲は職種により温度差があった。看護・介護職は院内研修への参加が中心である一方で、それ以外の

職種は院外研修や専門職団体等への参加も積極的だった。看護・介護職は院内研修に時間的な制約で参

加できないことが困難とされることもあった。特に介護については新人教育に手が足りない・新人の院

外研修参加の困難などが述べられた。研究の実施は一部の職種に関心が見られた。

職種 内容

医師 高齢者ケアのモデルとなる病院を目指している。

独自に研究に取り組もうとしている。

事務 看護師教育に課題を感じている。

病院として、学会発表に積極的に取り組みたい。

看護部長 現場や職員に適した教育体制、老年看護の知識と技術が必要である。

学会発表や症例研究に関心がある。

師長 外部研修への参加が困難である。

看護師 院内研修会に積極的に参加している。

高齢者の特徴を学びたいと考えている。

介護 介護職の新人教育に課題があり負担感がある。

院内研修の内容が仕事に活かされていないと感じる。

リハビリ 院外研修に参加している。

臨床の疑問を研究で解決したい。

SW 外部研修への参加が難しい。

栄養士 嚥下機能に関する勉強会を行っている。

薬剤師 高齢者ケア、認知症ケアの教育、薬剤についての知識の普及が必要である。

Bケアする人のやりがいやプライドを育てる

看護・介護職が仕事にやりがいを持てるような工夫がなされていた。一方、長期ケアのモデルがない

ために、ケアのゴールや評価指標が見えないことが、特に介護職のやりがいやプライドの持ちにくさに

つながっているようだった。ケアの効果として実感するのは患者の生活の質(QOL)、人間的な関わり、

褥瘡が治ることなどであり、このようなもので自分がやっていることの意義を実感できると、それがや

りがいやプライドにつながるようだった。SWやリハスタッフは院外の組織(療法士協会など)に参加し、

そこから職業的アイデンティティやプライドを得る仕組みを得るように思われたが、看護・介護職にお

いては院外の組織へのつながりは限られるようだった。同僚等から低く見られると感じ、それが仕事へ

の否定的な認識や姿勢になってゆく可能性が窺われた。

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職種 内容

看護部長 目標管理により職員のやりがいを見出したい。

師長 やりがいの感じ方には個人差がある。

看護師 高齢者や家族との関わりにやりがいを見出している。

介護 高齢者や家族との関わりにやりがいを見出しており、さらに満足してもらえる

ケアを目指している。

リハビリ 看護師や介護職のやりがいが見出せるように働きかけたい。

栄養士 高齢者や家族へのケアに関われることがやりがいとなる。

C労働環境を整備する

看護・介護職は制度上の人員が満たされていても非常に重労働であり、近年の制度変更の中、ますま

す厳しい勤務に追われている。管理者は業務改善を試みて負担の軽減をしたいと願い、他職種は何とか

看護・介護職を支援したいと心を砕いているが、具体的な打開策があるとは言い難い。看護・介護職を

支援するために事務職が入浴の準備やカルテ準備等をなるべく肩代わりするなどの工夫が見られた。

13:1 が可能になり機能別から部屋持ちになると多少良いようではある。このような状況で、子育てのた

めの配慮などがあると現場は助かるようだった。

職種 内容

医師 人手不足であり、長期療養で働く人は余裕がない。

事務 看護・介護職が不足しており、職員確保を重要視している。

看護部長 人手不足で看護・介護職が疲弊している。

スタッフ・師長の笑顔を保ちたい。

看護師 人手不足を感じており、ケアで手一杯の状況である。

患者が亡くなるとさらに忙しくなる。

介護 人手不足が患者に影響している。

介護職者自身の負担を減らしたい。

リハビリ 職種ごとの価値観が異なり、変革に抵抗を示す職種がいる。

SW 仕事量が多く、ルーチンワークで精一杯。

D物理的環境を整える

物理的な環境の改善ニーズとしては、以下の点が挙げられていた。

職種 内容

看護師 託児所が必要。

介護 車いすなどの物品不足や、設備面が不十分。

リハビリ 安心・安全に働けるような設備が不十分。

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4)多職種の連携を重視している

ケアの質を確保する上で、職種間のコミュニケーションや連携が重要であることを多くの方が認識し

実践していたが、特にケアワーカーが、他の職種との連携に困難を感じているようだった。

職種 内容

医師 多職種間でのカンファレンスの開催を評価している。

情報共有に改善の余地があると感じている。

事務 多職種間で連絡は取り合うが、問題意識の共有までには至っていない、と評価

している。

看護部長 多職種間での問題の抽出が出来ておらず、患者のためのカンファレンス実施に

課題が残ると評価している。

師長 看護師と介護職の連携はうまくいっていると評価している。

処置に手が取られるため、看護師が介護職に協力できていない。

看護師 多職種間で情報共有は出来ていると評価している。

介護 カンファレンスの開催は評価する。

他職種との情報共有の仕方が分からない。

リハビリ 職種間で目標を共有することが難しく、特に介護職への情報の伝わりづらさが

ある。

看護師の人員不足を感じており、現場が忙しい時には手伝いたいと考えている。

SW 職種間の連携促進のために活動している。

関係調整の困難感を感じている。

栄養士 看護師とのコミュニケーションはとれていると評価している。

薬剤師 カンファレンスの開催は評価する。

情報の伝わりづらさを感じている。

看護師の負担を減らすような薬剤や器具の工夫に取り組んでいる。

5)理念の共有の必要性を認識している

多くの職種が理念の共有を重視していた。理念の内容には病院により多少のばらつきがあった。比較

的開院後年数が経っていない病院だったためか、理念のスタッフへの浸透度に関する懸念が共通してみ

られた。

職種 内容

医師 明確な組織の理念がある。

事務 理念を職員に伝えることを重要視している。

看護部長 看護部として明確な理念を掲げ定着を目指している。

師長 理念をケアに活かすことに困難感を感じている。

介護 理念を理解している。

リハビリ 理念は理解しているが+αを考える余裕がない。

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栄養士 理念を理解してケアをしている。

薬剤師 理念に沿った医療を確立していきたいと考えている。

6)制度の移行期としての困難を感じている

超高齢社会を迎えた我が国は、増大する高齢者人口と、その中で医療・介護を要する人々の増加への

対処方法を模索して制度が揺れ動いている。そのような制度の度重なる変換のなかで、亜急性期・慢性

期の医療や長期ケアの位置づけにも厳しい状況が訪れている。各職種はその点を、現場で身を持って実

感していることが窺われた。

職種 内容

医師 制度に課題がある。

事務 国の政策と現場の実態の乖離がある。

看護部長 長期ケアの制度、職種の教育制度に課題がある。

看護師 介護職の報酬を見直す必要がある。

介護 介護職の教育体制、報酬を見直す必要がある。

リハビリ

専門職として制度に課題を感じている。 SW

栄養士

薬剤師

7)地域に視線を向けてゆく

地域包括ケア病床が始まり、退院を見越した長期ケア患者の支援のあり方が模索されている。調査時

点では、管理者や看護・介護職以外が地域とのつながりを模索していたのに対し、看護・介護職には地

域までを見越したケアの質の視点は育っていないようだった。

職種 内容

医師 地域に根ざした病院を目指している。

事務

看護部長 在宅復帰のための仕組みづくりが必要。

師長 在宅復帰機能強化加算のため退院支援が必要。

リハビリ 退院支援が困難。

SW 入院中に退院支援を考え、在宅復帰を進める必要がある。

薬剤師 在宅療養や転院を見据えた薬剤管理が必要である。

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【看護・介護職者のまとめ】

看護・介護職者(18名)に絞って内容を整理すると、以下のようになった。

1.長期ケアとしての質を維持・向上する

① 生命の維持・診療の実施

生命の維持とその先のケアはなんとかできている

② もう一歩先:患者の QOLを目指したケアを実施したい

質指標:褥瘡・カテ熱・誤嚥性肺炎・入浴回数などが考えられる

緩和(症状マネジメント)・快さ・自立・個別・人間的・活動性などに働きかけたい

看護の「もう一歩先」は快さの追求・介護の「もう一歩先」は活動

家族の喜ぶケアをしたい

手を抜こうと思えば抜ける、という認識もある

計画・文字化・研究の困難がある

2.病院における長期ケア(long-term care)モデルの探索

病院だから治療しなければいけないと考える

尊厳と延命という二つの方向性を追求しなければならない

長期ケア看護のモデルがないのでどうしていいかわからない・やりがいがない

全体とパートの整合・不整合がある

3.地域包括ケアシステムにおける療養病床の位置づけへの移行(制度)

療養病床におけるケアの理念の変容を受け入れる(看護部長まで)・戸惑う(スタッフ)

患者像が変化し新たなケアの質の追求が必要

理念と現実:人員配置としては足りているが、実感としては「手が足りない」

介護職の身体的負担が圧倒的に大きい

看護師の早期離職が多い

基礎教育から看護モデルを転換してゆく必要がある

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4.ケアする人を守り育てたい

① ケアする人のやりがいやプライドを育てたい

ケアの効果には、QOL、人間的関わり、褥瘡がなおる、などがある

仕事にプライドを持ち、更なる良いケアへの動機づけを持ちたい

院外の組織(療法士協会など)への参加は、SW とリハビリ職はしているが、看護・介護はほとんどない

同僚から低く見られるという困難を持つ

クレーム・プライドの低さ(やりがい)から、やっつけ仕事・投げやりな仕事になってしまう

患者とケア提供者の利害が対立し、ケア提供者中心のケアになってしまう

情報共有したとおりに実施されない場合もある

② 整備したい労働環境がある

業務改善して負担軽減したい

負担を減らしたいがどうしたらいいかわからない

13:1は部屋持ちが可能になって良い

子育てのしやすさが大切と思う

③ 教育・スキルトレーニングをしたい

教育内容には、接遇・診療報酬・管理・IT・自分で考えること・アサーティブネス、などがある

新人教育と継続教育のどちらも必要である

新人教育に手が足りない

継続教育には出席が難しい

院外研修へは参加が困難である

目標管理(やりがい)をしたり、リーダーの後姿を見せたりして育てたい

5.ケアのためのシステムを整備したい

① 情報共有と協働のための連携をしている

情報の流れるラインづくり・結果としての理念の浸透に課題がある

多職種連携に課題がある

情報・認識の共有のどちらも必要である

協働で介入したい

2職種の連携・3職種以上の連携がある

共有の方法には、カンファ・ノート・計画・記録、などがある

役割分担の対立と調整が必要なことがある

② 設備の整備

車いすトイレ

負担軽減のための機器

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【看護・介護職以外の専門職及び病院職員】

看護師・介護職以外の専門職及び病院職員(21名)による長期ケアへの認識と姿勢について分析した結果、

以下のようなカテゴリが見られた。

1.長期ケアに対する認識

療養病床は見放された場所というスティグマを負っている

療養病床で働くことは、他の医療機関で働くことよりも低く見られる

療養病床は患者にとって、ただいるだけの場所と思われている

家族が離れていってしまう

スタッフは患者ケアにやりがいを保つことが困難

家に帰れない患者で一杯である

良いケアを提供することへの障壁がある

患者のニーズより看護業務優先にされてしまいがちである

良い看護ケアを提供するには時間が足りない

介護/介護職者が課題を抱えている

離職や人手不足により問題が起きてしまう(例:目標浸透への難しさ)

情報共有が難しい

リスク回避が優先になってしまう

小規模な病院であることの恩恵もある

顔がみえることのメリットがある

他の施設ではできないチャレンジができる

すぐその場で解決できる

2.長期ケアへの姿勢

病棟スタッフにとっても Win-winな提案をしたい

自分の実践を通して病棟スタッフの負担を減らしたい

事前に病棟スタッフに教育をすることで連携がスムーズになる

病棟スタッフにメリットのある提案をしたい

依頼することで自分もメリットを得ると思う

タイミングを計って提案したい

病棟スタッフと他の人々との橋渡しをしたい

他のスタッフや患者・家族との橋渡しができる

業務上できた穴を埋められる

役割を重ねられる(例:病棟スタッフが忙しい分、患者や家族と話すようにする。司令塔になる)

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考察

「地域包括ケアシステム」が始動し、療養病床の位置づけや役割が変化する中で、療養病床を擁する

病院で働いている多職種がケアの質をどのように考え、今後どのようにしたいと考えているかについて、

3 病院でインタビューを実施した。いずれの職種も重度化・急性期化(医療依存度が高い)・終末期化す

る療養病床の入院患者に対し、質の高いケアを提供するために奮闘していた。

看護・介護職はますます増加する圧倒的なケア量を前に、効率最優先のケア(機能別など)を提供す

るだけでも大変な様子が窺われた。ケアへの意欲は個別差があるようだったが、患者ケアのためにもス

タッフの負担軽減のためにも業務改善等で対応したいと願いつつ、どのようにすれば圧倒的なケア量を

これ以上効率化できるか悩んでいた。業務の効率化のために患者の個別性が把握しにくく、個別的なニ

ーズに対応するケアを提供したいという看護・介護職の職務上の意欲を実現できず不全感を持つことが

窺われた。また、急性期医療におけるのと同様の回復過程を望むことはしばしばできないために達成感

ややりがいを得られず、疲弊感を募らせている場合もあるようだった。介護職は特に疲弊感が強く、他

職種との情報交換や協働にも不全感を残しており、職務に対する肯定的評価やそこからくる就業意欲を

保つことの難しさが窺われた。このような中で、痛みのケアに対しての認識は非常に限られており、痛

みのケアに特化したケアの質改善の働きかけは、現時点では困難であると考えられた。

看護・介護職以外の専門職者や職員は、療養病床に横たわるスティグマや良いケアの提供を阻む多くの障壁

等の問題意識をもっていた。そして病棟スタッフの負担を軽くするため、よりよいケアを提供できるようにと、様々

な働きかけを行っていた。これらの病棟外からのサポートを看護師や介護職者がより活用することにより、ケア

の質向上への近道になる可能性がある。そのためには、看護・介護職が他職種や他職員の実践やその意図に

耳を貸すこと、ケアの質改善には他職種の意見や協力を含めた連携を図ることがその近道になる可能性が示

唆された。

地域包括ケアシステムの指導とともに、地域との密接な連携を保ちつつ在宅復帰を支援する病院としての役

割が重要になることについては、管理職以上の間には強く問題意識化されていたが、調査時点では病棟レベル

には明確に認識されてはいないようだった。この点は急速に認知が広がるものと予測される。

以上より、以下を結論としたい。

① 看護・介護職がプライドを持ち、大切にされているという安心感のもとで勤務を継続できるよう周囲

からの支援的姿勢が伝わる必要がある。特に介護職に対する肯定的なメッセージが求められる。

② 多忙な勤務の中で、看護・介護職が個別の患者の背景や状況をより理解し、個別性応えるケアを提供

しやすくする工夫が求められる。

③ 「長期ケア」としての質の評価を考えることから、達成感ややりがい感を得ることに結び付ける可能

性を探索することが、看護・介護職の職務意欲の維持・向上に役立つ可能性がある。

④ 看護・介護職も、ソーシャルワーカーやリハビリ職と同様に院外の研修・学会等に積極的に派遣する

ことにより、自らの職場の状況を相対化したり、新たな工夫を持ち込むことがより容易になる可能性

がある。

⑤ 看護・介護職以外の職種が病棟で行うことのできる支援について、看護・介護職を中心に検討するこ

とにより、協働を更に広げ、ケア量の拡大に対処する方策を共に開拓する。

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提言

介護・看護職への肯定的メッセージを強化する

高齢者の個別性を理解し共感性を高める働きかけ(病棟ケースカンファレンスなど)

地域包括ケアシステムにおける療養病床等長期ケアの質指標の開発

事例研究のとりくみ(学会発表)

看護・介護職以外のケアへの取り組みモデルの開発( IPW-事務部門も含めて cross-departmental

collaborative teams)

「長期ケア研究会」の立ち上げ