外国旅行の動向jnto…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア6…市場編)...

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174 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編) 外国旅行の動向 1 タ…イ 1 外国旅行の現状と展望 ①タイ人の外国旅行と訪日旅行 ■タイ人の外国旅行が盛んになったのは 1980 年代後半から である。それまで外国旅行は一部の富裕層に限られていた が、タイの経済発展や LCC(格安航空会社)の就航など により、近隣諸国への旅行を中心に、中間層・若年齢層 にも一般化している。 ■タイ王国観光・スポーツ省の統計によると、2017 年のタイ 人の外国旅行者数は 896 万 3,000 人であった。 ■タイ人の訪問者数が最も多かった国は隣国マレーシア(183 万 6,522 人)で、次いでラオス(179 万 7,803 人)、ミャン マー(152 万4,516人)、日本(98 万 7,211人)、中国(77 万 6,700 人)、シンガポール(53 万 1,307人)、韓国(49 万 8,511 人)、香港(43 万 356人)、カンボジア(39 万 4,934 人)、ベトナム(30 万 1,587 人)の順となった。 ■上位 10カ国・地域は全て東アジアと東南アジアに属してい る。タイ人観光客が短期間、これら 10 カ国・地域を旅行 する場合、2019 年 1 月時点で、中国以外は査証を必要と しない。 ■隣国ラオスへの旅行は、タイの複数の地点から陸路での入 国が可能な上、ラオス国内ではタイバーツを両替せずにそ のまま使用できる。しかも、ラオス人がタイ語を大体理解 できるため、タイ人は国内旅行に近い感覚を持つようであ る。 ■タイのカシコン銀行系のカシコンリサーチセンターが発表し た「Economic and Tourism Industry Outlook 2018」による と、タイ人の外国旅行は、団体旅行が 26.2%、個人旅行 が 73.8% となっている。平均旅行期間は団体旅行が 4.5 日、個人旅行が 5.9 日で、個人旅行の期間が団体旅行よ りも長い傾向にある。 ■外務省が 2017 年 11 月に発表した「ASEAN における対日 世論調査結果」によると、タイ人が日本に関してもっと知り たいと思う分野は、観光情報(69%)が首位となっており、 訪日旅行に対する関心の高さがうかがえる。 ■訪日タイ人数は、2013 年 7 月の訪日短期滞在査証の免除 によりハードルが低くなった。これに加えて、2014 年以降、 LCC の新規就航が相次ぎ、旅行者層の裾野が拡大した結 果、ここ数年、毎年過去最多を更新している。 ■2016 年には、LCC の割引セールや地方交通パスの販売 拡大などが個人旅行者・リピーター客の訪日意欲を刺激 し、訪日タイ人数は前年比 13.2% 増の 90 万 1,525 人となっ た。 ■2016 年 10 月にプミポン国王が崩御し、2017 年 10 月末ま での 1 年間、服喪期間となった。一部で旅行が手控えら れ、訪日旅行の誘致活動も一部自粛・延期された。しか し、訪日旅行の個人旅行化・リピーター化に合わせて、ウェ ブサイトなどを使った地方への誘致活動が奏功し、2017 年 の訪日タイ人数は、前年比 9.5% 増の 98 万 7,211 人となっ た。 ■国際民間航空機関(ICAO)は、2015 年 6 月以来、タイ航 空当局に対して指定していた「重大な安全上の懸念 (SSC)」を、2017 年 10 月に解除した。その結果、日本へ の新規路線就航の再開が可能となった。これを受けて、 2018 年夏期スケジュール以降、バンコクから日本への新規 就航、増便が相次ぎ、2018 年の訪日タイ人数は前年比 14.3% 増の 113 万 2,100 人となり、東南アジアの送客市場 として、初めて 100 万人を突破した。 2 旅行に対する一般消費者の考え方 ①生活習慣に基づく感覚の違い ■タイ経済は、1990 年代後半に経済危機に見舞われたが、 概ね順調に回復してきた。政治不安などで一時的な落ち 込みが見られた時期もあるが、2017 年の 1 人当たり名目 GDP は 6,000 ドルを超え、東南アジアではシンガポール、 マレーシアに次ぐ水準となっている。 ■経済的な豊かさを得るにつれ、タイ人の旅行への関心は高 まっている。2017 年の外国旅行者数は 896 万 3,000 人と 10 年間で 2 倍以上増加した。世界観光機関(UNWTO) の調査によると、2017 年のタイ人の国内宿泊旅行者は、前 年比 8.5% 増の延べ 1 億 2,500 万人超となり、3 年間で 3 割近く増加した。 ■タイは主食の米が年に 2 〜 3 回収穫できる豊饒な国であ る。気候は 1 年を通じて日中の最高気温が 30 度を超える。 暑さが厳しいとはいえ、寒さに凍えることはなく、人々はお おらかでのんびりとした気質がある。タイ人気質を表す言 葉として、「マイペンラーイ」(気にしない、大丈夫の意)や、 「サバーイ」(快適だの意)がよく知られている。旅行におい てもわずかな時間の遅れやスケジュールの変更には「マイ ペンラーイ」と受け流すが、買い物の時間が短い、食事場 所がくつろげないなど、「サバーイ」でない環境にはストレス を感じるようである。 ■暑い気候のせいか、タイ人は歩くことをあまり好まない。わ

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174 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

外国旅行の動向第 1 章タ…イ

1 外国旅行の現状と展望①タイ人の外国旅行と訪日旅行■タイ人の外国旅行が盛んになったのは 1980 年代後半から

である。それまで外国旅行は一部の富裕層に限られていたが、タイの経済発展や LCC(格安航空会社)の就航などにより、近隣諸国への旅行を中心に、中間層・若年齢層にも一般化している。

■タイ王国観光・スポーツ省の統計によると、2017 年のタイ人の外国旅行者数は 896 万 3,000人であった。

■タイ人の訪問者数が最も多かった国は隣国マレーシア(183万 6,522 人)で、次いでラオス(179 万 7,803 人)、ミャンマー(152 万 4,516 人)、日本(98 万 7,211 人)、中国(77万 6,700人)、シンガポール(53 万 1,307人)、韓国(49 万8,511 人)、香港(43 万 356 人)、カンボジア(39 万 4,934人)、ベトナム(30 万 1,587人)の順となった。

■上位10カ国・地域は全て東アジアと東南アジアに属している。タイ人観光客が短期間、これら10カ国・地域を旅行する場合、2019 年 1月時点で、中国以外は査証を必要としない。

■隣国ラオスへの旅行は、タイの複数の地点から陸路での入国が可能な上、ラオス国内ではタイバーツを両替せずにそのまま使用できる。しかも、ラオス人がタイ語を大体理解できるため、タイ人は国内旅行に近い感覚を持つようである。

■タイのカシコン銀行系のカシコンリサーチセンターが発表した「Economic and Tourism Industry Outlook 2018」によると、タイ人の外国旅行は、団体旅行が 26.2%、個人旅行が 73.8% となっている。平均旅行期間は団体旅行が 4.5日、個人旅行が 5.9 日で、個人旅行の期間が団体旅行よりも長い傾向にある。

■外務省が 2017 年 11月に発表した「ASEAN における対日世論調査結果」によると、タイ人が日本に関してもっと知りたいと思う分野は、観光情報(69%)が首位となっており、訪日旅行に対する関心の高さがうかがえる。

■訪日タイ人数は、2013 年 7月の訪日短期滞在査証の免除によりハードルが低くなった。これに加えて、2014 年以降、LCC の新規就航が相次ぎ、旅行者層の裾野が拡大した結果、ここ数年、毎年過去最多を更新している。

■2016 年には、LCC の割引セールや地方交通パスの販売拡大などが個人旅行者・リピーター客の訪日意欲を刺激し、訪日タイ人数は前年比 13.2% 増の90万1,525人となっ

た。■2016 年 10 月にプミポン国王が崩御し、2017 年 10 月末ま

での1 年間、服喪期間となった。一部で旅行が手控えられ、訪日旅行の誘致活動も一部自粛・延期された。しかし、訪日旅行の個人旅行化・リピーター化に合わせて、ウェブサイトなどを使った地方への誘致活動が奏功し、2017 年の訪日タイ人数は、前年比 9.5% 増の 98 万 7,211 人となった。

■国際民間航空機関(ICAO)は、2015 年 6 月以来、タイ航空当局に対して指定していた「重大な安全上の懸念

(SSC)」を、2017 年 10 月に解除した。その結果、日本への新規路線就航の再開が可能となった。これを受けて、2018 年夏期スケジュール以降、バンコクから日本への新規就航、増便が相次ぎ、2018 年の訪日タイ人数は前年比14.3% 増の113 万 2,100人となり、東南アジアの送客市場として、初めて 100 万人を突破した。

2 旅行に対する一般消費者の考え方①生活習慣に基づく感覚の違い■タイ経済は、1990 年代後半に経済危機に見舞われたが、

概ね順調に回復してきた。政治不安などで一時的な落ち込みが見られた時期もあるが、2017 年の1 人当たり名目GDP は 6,000ドルを超え、東南アジアではシンガポール、マレーシアに次ぐ水準となっている。

■経済的な豊かさを得るにつれ、タイ人の旅行への関心は高まっている。2017 年の外国旅行者数は 896 万 3,000人と10 年間で 2 倍以上増加した。世界観光機関(UNWTO)の調査によると、2017 年のタイ人の国内宿泊旅行者は、前年比 8.5% 増の延べ 1 億 2,500 万人超となり、3 年間で 3割近く増加した。

■タイは主食の米が年に 2 〜 3 回収穫できる豊饒な国である。気候は1年を通じて日中の最高気温が30 度を超える。暑さが厳しいとはいえ、寒さに凍えることはなく、人々はおおらかでのんびりとした気質がある。タイ人気質を表す言葉として、「マイペンラーイ」(気にしない、大丈夫の意)や、

「サバーイ」(快適だの意)がよく知られている。旅行においてもわずかな時間の遅れやスケジュールの変更には「マイペンラーイ」と受け流すが、買い物の時間が短い、食事場所がくつろげないなど、「サバーイ」でない環境にはストレスを感じるようである。

■暑い気候のせいか、タイ人は歩くことをあまり好まない。わ

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韓国

中国

台湾

香港

タイ

シンガポール

第1章 外国旅行の動向

ずかな距離でも二輪や四輪タクシー、自家用車を使う。歩きを好まないだけでなく、歩くスピードもかなり遅い。理由はなるべく汗をかかないようにするためと言われている。タイ人がタイで働く日本人に持つ代表的な印象の一つは、

「よく歩く」である。タイ人にとって長い時間を歩かされる状況は「サバーイ」ではない。

■タイ国家統計局などがまとめた 2016 年のタイ人の旅行調査によると、タイ人の国内旅行目的の1 位は家族・親戚・友人に会うこと(33.1%)、2 位は観光・レジャー(20.2%)、3 位は瞑想・寺への参拝(11.7%)で、続いて買い物と外食が 7〜 8% となった。調査からは、タイ人が親戚を含む一族の結び付きをとても大事にする国民で、敬虔な仏教徒として身近な存在である寺に頻繁に出掛けている暮らしぶりが見て取れる。

②海外旅行の支出と日数、金銭感覚■国家統計局の 2015 年家計調査によると、全国平均の世帯

支出は月2 万 1,157バーツ(約 7 万4,000 円)であった。ただし、バンコク(周辺県含む)と地方の経済格差は大きい。バンコクの世帯支出は 3 万 882 バーツ(約 10 万 8,000 円)と全国平均を大きく上回る反面、最も低いタイ北部の1万5,628 バーツ(約 5 万 3,400 円)とはおよそ 2 倍の開きがある。

■2016 年のタイ人 1 人当たりの海外旅行支出(統計局調査)は、平均 1日 5,592 バーツ(1万 9,572 円)であった。これに対し、訪日タイ人旅行者の支出は 6,223 バーツ(2 万1,780 円)で、平均額を上回る。

■観光スポーツ省の調査では、団体旅行のほうが個人旅行よりも1 人当たりの 1日の支出額が多いことが示された。2016年は団体旅行による旅行者の支出が7,548バーツ(約2 万 6,400 円)であったのに対し、個人旅行は 5,809 バーツ(約 2 万 300 円)であった。

■同じ調査で、訪日旅行の平均滞在日数は、団体旅行が 4.64日、個人旅行は 7.61日であった。団体旅行はツアーを催行する旅行会社の仲介料などが高いとみることもできるが、個人旅行者は、切り詰めるところは切り詰めるといった支出面の工夫をしていることもうかがえる。

■東京で昼食をとる場合、費用は概ね 1,000 円程度かかる。これに対し、バンコクでは、屋台ではない飲食店で食事をとれば 100 〜150 バーツ(約 350 〜 525 円)ほどかかるが、多くの会社員は一般的に屋台を利用し、30 〜 50 バーツ(約 105 〜175 円)ほどで済ませている。タイ社会で生活していると、タイの高額紙幣である1,000 バーツ札は日本の「3,500 円」以上に使い手のある金額である。

■日本人とタイ人の金銭感覚には 10 倍ほどの差があるとの指摘もある。タイの世帯収入や可処分所得を日本の金銭感覚で判断すると、かなり低いように思えるが、タイの金銭感覚を踏まえるとずいぶん印象が変わる。

③旅行目的、旅行先での関心事■観光庁の「訪日外国人消費動向調査」(2017 年)によると、

訪日タイ人が「訪日前に期待していたこと(複数回答)」の第 1 位は、「日本食を食べること」(81.9%)であった。次いで「ショッピング」(68.3%)、「自然・景勝地観光」(54.4%)、

「繁華街の街歩き」(49.3%)が続いた。■同調査によると、訪問した都道府県は、東京(55.8%)、千

葉(50.4%)、大阪(30.2%)、京都(16.9%)、北海道(12.0%)、山梨県(11.5%)であった。東京は団体ツアーでも個人旅行でも起点となり、ショッピングの中心でもある。北海道は夏の景色の美しさ、タイ人には珍しい雪、豊富な海産物が魅力となり、人気旅行先となっている。富士山とその周辺の湖、日光など首都圏近郊の観光地も人気がある。

■タイ人の行き先の好みは多様化している。特に自然・景勝地観光の行き先は広がりを見せ、観光地巡りにとどまらず、ハイキングや登山などに興味を持つ旅行者も増えているようである。

■同調査で「次回の訪日旅行」に期待することを聞いたところ、「スキー・スノーボード」、「自然体験ツアー・農漁村体験」が年を追うごとに増加しており、体験型観光への関心の高まりがうかがわれる。

■JTB 総合研究所が 2015 年に行ったアンケート調査によると、「日本の日常生活に触れたい」、「地域の人と触れ合えるところに泊まりたい」、「ホテルや観光案内所の人と雑談してみたい」、「英語で日本人と話したい」という回答が 4 〜 6割となっており、日本人との交流を望んでいることが浮き彫りとなった。

■仏教徒が 9 割を占めるタイ人の伝統的な休日の過ごし方は、寺へタムブン(功徳を積むこと)に行くことである。タイ人仏教徒は、人の幸福と不幸は功徳や善行の多寡によるところが大きいと考えている。布施や寄付だけでなく、悩みごとなどがあれば読経や瞑想を目的に出掛けることも多い。タイ人は誕生日や年末年始などの休暇、旅先など、さまざまな機会を見つけて寺へ行く。タイ人にとって寺は日々の生活に極めて密着した存在となっている。

■訪日旅行でも神社仏閣巡りは根強い人気がある。しかし、神社仏閣の歴史的価値や遺産を見学するだけでは物足りない思いを抱くこともあるようである。タイ人にとって寺は、観光地というより、祈りや気持ちを静めるために行く場所

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である。年 10 回近く日本を訪れるタイ人観光ガイドによると、最近では「座禅」や「写経」といった日本ならではの体験型観光に関心を寄せる旅行者も増えているという。

④旅行先の広がり■日本の鉄道、バスなどの公共交通機関が安全で時間に正

確なことは、タイ人にもよく知られている。スマートフォンさえあれば、行き先への所要時間や乗り換え案内も簡単に知ることができることから、旅行先の選択肢の幅を広げている。

■激しい交通渋滞に慣れたタイ人にとって、日本の高速道路などの道路事情は快適に映る。日本人の運転は総じて安全なため、カーナビゲーションの信頼性と合わせ、レンタカーによる観光への関心は高い。移動手段は大型バスから、個人旅行に適したレンタカーの利用が増えていくと思われる。

■タイでは国際免許が容易に取得できる。レンタカーを使用すれば、旅行先の選択肢が格段に増え、東京や関西に集中しがちであった旅行者は、より遠くの観光地へと足を延ばすことが容易となる。

⑤情報収集■タイの書店ではタイ語版の訪日旅行ガイドが数多く販売さ

れているが、現在はインターネットによる情報収集が中心になっている。

■タイ王国デジタル経済社会省とタイ国家統計局が実施した「The 2017 Household Survey on the Use of Information and Communication Technology」によると、タイ全土のインターネットユーザーは3,340万人で6歳以上の人口に占める浸透率は 52.9% に達している。

■観光局や旅行会社、地方観光協会のウェブサイトを閲覧するだけでなく、インフルエンサーと呼ばれる影響力のある有名人のブログや、一般のタイ人が投稿したソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)も貴重な情報源となっている。

■JNTO が 2017 年にバンコク、チェンマイの旅行フェア会場で実施した入場者アンケート調査によると、観光する国を決定する際に参考にした媒体として、SNS が首位を占めた

(バンコク64%、チェンマイ82%)。■旅行前は大雑把な情報収集にとどめ、観光地に着いて初

めてその場所を検索するといったことも珍しくない。近くのお勧めのレストランや、「行くべきでない」とされるレストランを、過去にその地を訪れたタイ人旅行者が発信した SNSで直ちにチェックする人もいる。

■タイのカシコン銀行系のカシコンリサーチセンターが発表した「Economic and Tourism Industry Outlook 2018」によると、旅行計画時にタイ人が影響を受けるオンラインメディアは、フェイスブック 87.3%、インスタグラム 45.2%、パンティップ(タイで人気のある電子掲示板)33.7%、旅行会社の LINE(ライン)22.9%、ツイッター15.1%、ユーチューブ15.1%、スマートフォンの様 な々アプリ13.3% の順であった。また、自分の旅行体験をSNS 上でシェアをする人は 77%に達している。

■タイ人は日本人以上に SNS を好み、旅行者の多くが訪れた場所や店を自分の姿とともに SNS に投稿する。もともと口コミを重視する国民性のため、SNS の影響力は大きく、現地で入手できるパンフレットも貴重な情報源となっている。

3 一般消費者の志向の変化①健康志向■タイ人の健康志向が高まっている。バンコクや周辺県のコ

ンドミニアム、一戸建てが集まる団地には大抵、共用のフィットネスジムが完備されている。気温が高いため、早朝を除き、屋外でジョギングする人を見かけることはない。

■それでもジョギング、ランニングがブームとなっている。気温が低く、交通量が少ない未明にスタートするマラソン大会が多数開催されている。郊外へ向かう幹線道路沿いではサイクリングチームも見掛ける。テニスやバドミントン、ゴルフも人気のあるスポーツである。

■タイで人気のあるムエタイ(キックボクシング)のジムは多いが、健康のためにムエタイジムへ通うという習慣はまだない。サッカーも人気があるが、若者が中心でどちらかと言えば見るほうが主体のようである。

②飲食■健康志向の高まりを背景に、日本食の人気が高まってい

る。すしやラーメン、丼ものなどは既にタイ人の食生活に溶け込んでいる。中華料理、韓国料理も人気があるが、外国料理では日本料理が飲食店の数、人気の面で群を抜いている。

■日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所の「2018 年度タイ国日本食レストラン店舗数調査」によると、タイ国内の日本食レストランは前年度比 8.29% 増の3,004 店であった。新規開店の店舗は 891 店、閉店は 661 店であった。2014 年度〜 2015 年度は 15% 前後の高い伸びを示していたが、2016 年度〜 2017 年度は 2% 〜 3% と低迷し、2018

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韓国

中国

台湾

香港

タイ

シンガポール

第1章 外国旅行の動向

年度は再び盛り返した。■ただし、バンコクの日本食レストランは 1.2% 減、2 年連続

での減少となった。一方、地方では 24.2% 増と大幅な伸びを示し、日本食の人気が地方に広がっていることをうかがわせる。バンコクでの競争は激しく、新規出店も多い反面、閉店も多い。

■内容別では、「寿司(すし)」は 2018 年度に 454 店(2017年度 253 店)、前年度比 79.4% 増(201 店舗増)を記録した。増加の地域別内訳は、バンコクが 69 店増、地方が132 店増となっている。料亭・総合和食・定食などを含む

「和食」は前年度比 3.7% 増、「居酒屋」は同 15.1% 減であった。

■タイ料理は、鶏肉や豚肉、海産物が中心で、牛肉を使った料理はあまりない。その理由としては諸説あるが、農業国であるタイでは、水牛が農作業に欠かせなかったこと、食肉とするには飼育に時間がかかること等が理由として挙げられている。

■屋台では安く手軽に食べることができ、例えばグリーンカレーなど手の込んだ料理も買えるため、少し前までタイでは台所のない家が珍しくなかった。また、朝昼晩と1日 3 度の食事を取るより、空腹を感じたときに少量を買って食べるという昔ながらの習慣が今も残っている。日本で食べる一人前の量が多いとこぼすタイ人は多い。

■家族でそろって外食することが多く、ある民間調査によれば、家族との外食が「週 1 回以上」との回答が 7 割を超えている。

4 気候・風土が外国旅行に与える影響①春・秋・冬のファッション■タイの季節は、暑季(3 月〜 5月)、雨季(6 月〜10 月)、

乾季(11月〜 2 月)に分けられる。日中の気温は 1 年を通じて 30 度以上になるが、暑季は 40 度前後まで上昇する日が珍しくない。雨季は日本の梅雨時のようなしとしと降る雨ではなく、急激に降ってじきにやむスコールが多い。乾季は朝晩が 25 度を下回る日もあり、降雨量が少なく湿度も低下して過ごしやすい日が続く。

■日中の気温がほぼ常に 30 度を超えるため、寒さへの備えがおろそかになりがちである。バンコクでは数年に 1 度、乾季に最低気温が 15 度前後まで低下する日があるが、その時、現地紙は「異常気象」、「寒波襲来」と大々的に報じたりする。地方の山間部で霜が降りることもニュースとして伝えられる。

■1 年を通じて薄着で過ごせるタイ人にとって、厚着は憧れで

もある。特に若い女性にとって、重ね着などのおしゃれができる秋冬ファッションは大きな楽しみとなっている。乾季が始まる11月、肌寒いと感じる日が数日間あり、バンコクの百貨店ではこの数日間に向けて秋冬ファッションに身を包んだマネキンが展示される。

■訪日タイ人にとって、日本の春・秋・冬は、重ね着のファッションを楽しめる季節でもある。例えば、セーターやコートを着ることは、タイ人にとっては非日常的な体験となる。タイ人に北海道の人気が高いのは、このことも理由の一つである。秋に魅力が深まる日本の他の観光地や降雪地帯も、訪日タイ人を引き付けるチャンスであることを示唆している。

■毎年冬に開催されるさっぽろ雪まつりは、タイ人にとっても関心の高いイベントである。雪像コンクールでタイは入賞の常連となっている。「雪のないタイでなぜ ?」と思うかもしれないが、それは高級ホテルのロビーやパーティー会場などに展示される氷像づくりで鍛えた彫刻家たちが参加するからである。タイで涼しさの提供は最大のおもてなしである。冷房が効きすぎ、寒いとさえ感じる高級ホテルは、氷像を飾り、涼しさを提供している。

■タイ社会で雪や氷はぜいたくな存在であり、客をもてなす重要な対象物となっている。バンコクの商業施設では、イベントの一つとして、数年前からアイススケートリンクを設置している所がある。雪を見たことがないタイ人は多いが、冬のレジャーは一部富裕層だけのものではなくなりつつある。

②桜と紅葉■タイの国花は、最も暑い 3 月〜 5月ごろに咲き誇るラチャ

プルク(英語名ゴールデンシャワー)と呼ばれる黄色い花である。街路や公園で一斉に咲く黄色い花は、青空に見事に映える。2016 年に崩御したプミポン前国王の誕生日の色が黄色であったこともあり、黄色はタイ国民に愛されている色である。

■タイでラチャプルクが咲く頃、日本は桜の季節を迎える。両国の花の季節は、タイ最大の旅行シーズンである 4月中旬のソンクラーン(タイ正月)休暇と重なる。4 月は 1 年で訪日タイ人数が最も多い月となっている。

■訪日タイ人はこの時期、日本の桜を鑑賞し、桜並木や幻想的な夜桜を堪能する。ただ、ソンクラーン休暇は 4月15 日前後であるため、東京の桜は既に散っていることが多い。リピーターの訪日客は、桜前線を追うように旅行先に東北の名所を組み入れ、満開の桜を楽しむ。

■4月中旬から下旬にかけて訪日する場合、例えば山形駅か

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178 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

ら徒歩で行ける霞城公園の桜は満開となる。タイでは、東京を中心とした桜の開花時期が報じられるが、実際に桜の開花時期は、桜前線に伴い 3 月中旬から5月中旬と 2 カ月近くにわたるため、地域性に幅を持たせた桜鑑賞の観光が可能である。

■タイの学校が休暇に入る10 月は、4月に次いで訪日客の多い月である。東京では 11月中旬ごろに紅葉が最も美しいが、地方や山へ行けば、10 月に見事な紅葉を堪能できる。

5 外国旅行の旅行形態別特色①個人旅行(FIT)■タイのカシコン銀行系のカシコンリサーチセンターが発表し

た「Economic and Tourism Industry Outlook 2018」によると、タイ人の外国旅行者のうち、個人旅行者は 73.8% を占めている。また、観光庁が実施した「訪日外国人消費動向調査(平成 29 年)」(以下、消費動向調査)によると、訪日タイ人観光客に占める個人旅行者の割合は 74.8% である。

■日本を例に、タイ人の個人旅行化が進んだ背景を分析すると、二つの理由が指摘できる。一つ目は LCC の日本就航である。2014 年 6 月以降、LCC がタイから日本へ相次いで就航し、訪日旅行の低廉化が進んだ。これにより、訪日旅行が繰り返され、訪日旅行の知識や経験を蓄積したリピーターが生み出された。消費動向調査によると、今や訪日タイ人観光客の 67.1% はリピーターである。自分の希望どおりの気ままな旅行を楽しんでいる。

■二つ目は、タイ人の訪日個人旅行者をめぐる環境が年々良くなっていることである。タイの旅行会社では、個人旅行者を対象に、航空券、鉄道パス、並びに航空券と宿泊のみを組み合わせた、日本・近隣諸国・ヨーロッパなどへのパッケージ旅行商品を販売している。また、個人旅行者が好んで利用するアゴダ、ブッキングドットコム、エクスペディアといった主要なオンライン旅行会社(OTA)もタイ語サイトを開設している。これらに加えて、外国人を対象に割引乗車券の販売に注力する一部の鉄道会社や、ドライブ旅行需要の獲得を目指す一部のレンタカー会社は、タイ語版ウェブサイトで情報を発信するようになっている。日本の地方自治体によるタイ語版ウェブサイトの開設も、今では珍しいことではない。タイ人はタイ国内にいても旅行情報を収集し、出発前にある程度準備した上で訪日することが可能となっている。

■2018 年 2 月に バンコクで 開 催され た第 22 回 Thai International Travel Fair(TITF)の会場内で、日本政府

観光局(JNTO)が行った来場者アンケートによると、過去3 年間に日本を旅行したことのある人に対して、「どんなスタイルで旅行を手配したか」と質問したところ、「団体パッケージツアー」が 33%、「個人旅行(FIT)」が 80%(内訳はFIT 型パッケージツアーが 24%、全て自己手配の個人旅行が 56%)であった。前年 2017 年 2 月の第 20 回 TITFで行った来場者アンケートで、「団体パッケージツアー」が35%、「個人旅行(FIT)」が 64%(内訳は FIT 型パッケージツアーが 28%、全て自己手配の個人旅行が 36%)であったことと比較すると、この1 年で個人旅行化が一層進んだことが分かる。今後もタイ人の訪日旅行はリピーター化と個人旅行化が一体となって進んでいくであろう。

■JNTO が行った上記の来場者アンケートによると、過去に自己手配で外国旅行をした際、「航空券は航空会社のウェブサイト、店舗、カウンターで購入した」が最多の 38%、「ホテルはホテルのウェブサイトか電話、メールで予約した」が最多の 38% であった。旅行会社を通さずに、事業者(サプライヤー)から直接購入する傾向が強い。

■鉄道・バスといった外国旅行先での交通手段や、テーマパーク等の観光施設の入場券は、「旅行会社のウェブサイトで購入した」が 24% と最も多くなっている。交通機関や観光施設のウェブサイトで直接購入することができないため、旅行会社を通じて購入している。

②団体パッケージツアー■前述のとおり個人旅行の需要は拡大しているものの、言葉

の壁や、交通機関が不便であることによる行きにくさ、宿泊先確保の難しさ、個人旅行と比較した場合の安さなどの理由により、団体パッケージツアーを利用したいという旅行者も存在している。

■熟年層や超富裕層は自身で手配をすることが少なく、旅行会社が企画・手配する団体パッケージツアーや、手配型

(オーダーメード型)のパッケージツアーを利用したいという声が多い。

■旅行に不慣れな人々は、タイからの直行便が運航されている都市へは自己手配で旅行できたとしても、直行便が運航されていない都市へは、自身で宿泊や移動手段を手配できず、団体パッケージツアーに参加することを希望する傾向がある。

■個人手配よりも経済的であるか、顧客にとって魅力的であると判断される団体パッケージツアーは、今後も生き残ると思われる。

■前出の「Economic and Tourism Industry Outlook 2018」によると、タイ人にとって言語障壁は大きい。また、個人旅

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JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編) 179

韓国

中国

台湾

香港

タイ

シンガポール

第1章 外国旅行の動向

行では旅行費用が高くなると考えられている東欧やロシアへの旅行は、団体ツアー形式が過半数を占めている。

③インセンティブ旅行■日本はインセンティブ旅行の行き先として非常に人気があ

り、高いシェアを誇っている。行き先としての評価が高いだけに、初めて外国へのインセンティブ旅行を実施する企業は、日本を選ぶ割合が高い。

■インセンティブ旅行は参加者の種別に基づき、3 種類に分類できる。一つ目は、代理店の経営者が参加するインセンティブ旅行である。インセンティブ旅行の実施企業(オーガナイザー)が、代理店による自社製品の取り扱い増を期待して実施する。

■二つ目は、営業担当者、代理店セールスマンが参加するインセンティブ旅行である。オーガナイザーが自社の営業担当者、代理店セールスマンのやる気の向上や社員同士のコミュニケーションの活性化を期待して実施する。

■三つ目は、商品購入顧客が参加するインセンティブ旅行である。オーガナイザーが、高額商品を購入した顧客に継続して自社製品を購入してもらうことを期待して実施する。

■インセンティブ旅行の参加人数は、数十人レベルから数百人レベルまで様々である。

■インセンティブ旅行の一人当たりの費用は、参加者が代理店の経営者や大口顧客などであれば、豪華な行程となり、時には単価が100万バーツ以上にもなり得る。安価であれば 3 万〜 8 万バーツのものもあり、価格帯は幅広い。高価格帯の行き先は欧州、低価格帯の行き先は韓国、台湾などが多い。

■近年、オーガナイザーが旅行会社に対して、一般募集ツアーの「ラストミニッツ」(出発前の 2 〜 3 日前に販売される激安商品)並みの料金によるインセンティブ旅行の実施を求めることがある。この場合、旅行会社は格安の団体パッケージツアーを活用し、終日フリーの日に視察などを組み入れることで、価格を抑えたインセンティブ旅行を実現している。

■インセンティブ旅行の実施時期は 3 月〜 4 月と10 月〜12月が比較的多い。3 月〜 4月は機械、電気製品、保険、10月〜12 月は医薬・バイオ、情報通信、保険以外の金融関連企業による実施が多い。日本での宿泊数は 3 泊〜 5 泊が多く、訪問先は東京と北海道に集中している。

■オーガナイザーが旅行先の検討を開始するのは、旅行実施日の 3 カ月前ほどが多い。

■日本での旅行内容は、温泉入浴、ショッピング、和食、自然・景勝地観光などで、産業・行政施設視察もある。これ

らの旅行内容は、インセンティブ旅行を手配する旅行会社にとって、企画コンペの際に他社との明確な差別化につながるだけでなく、特別感を求める参加者の満足度を高めるために必要なものである。例えば食事の場所として、旅行会社は大自然の中にある隠れ家的なカフェや、日本庭園を見ながら食事を楽しめるレストランなどを行程に組み込んだりする。

■日本側に期待する意見が多い支援メニューは、オーガナイザー、旅行会社とも共通して、記念品の贈呈と、空港でのファーストレーンの利用(優先対応)である。受け入れ側の自治体・観光協会からのウェルカムレター(招待状)を期待する意見は少ない。

■オーガナイザーが旅行先を選定する際に重視する事項は、費用、ホテルの等級、料理の質、観光地の多様性などである。

■タイでは中央・地方政府や民間企業によって、見本市・展示会や先進地域・先進事例などを巡る視察旅行が行われている。これらの視察旅行には必ずショッピングや観光などの要素が含まれており、その意味ではインセンティブ旅行と実質的な差異はない。ただし、政府関係者の外国への視察旅行は 2014 年の軍事クーデター以降、催行しにくい状況となっている。

④語学研修旅行■タイでは高い英語力を持つと就職に有利であり、学生の英

語学習に対する関心も高い。このため、英語学習と旅行を合わせた「サマーコース」を実施する学校がある。

■行き先は主に、英国、米国、豪州である。■日本への語学研修旅行については、タイの日本語学校が、

日本の日本語学校で学ぶ数週間のツアーを実施している。

6 日本の競合旅行地■タイ人の外国旅行需要は、東南アジアと東アジアのシェア

が全体の 8 割を超える。そのうち、タイ人が訪日旅行と比較検討する旅行地は、韓国、香港、中国、台湾といった東アジアである。

■東南アジア諸国はタイと気候が似ており、短時間で訪問できるため、日本との比較の対象にはなりにくい。

■一方、日本と同様に旅行料金が高価格帯に属している欧州諸国は、日本への旅行を検討する際に比較の対象となっているようである。

■東アジアの競合旅行地が共通して日本よりも優位な点は、タイの地方都市からも直行便が運航されていることが挙げ

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180 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

られる。■タイでの誘致活動が特に活発な政府観光局は、韓国と台

湾である。欧州の政府観光局は旅行会社に対する誘致活動が中心である半面、東アジアの政府観光局は一般消費者への広告宣伝も積極的に展開している。

■各旅行地の主な観光魅力、観光インフラ、マイナス要素、政府観光局や旅行業界による外客誘致活動は次のとおりである。

①韓国主な観光魅力■K-POP、韓国ドラマ、韓国の伝統衣装(韓服)、食事、

ショッピング(化粧品や衣料品など)、美容整形、桜、雪観光インフラ■査証が不要■複数の LCC(格安航空会社)が直行便を運航■タイの地方都市から直行便が運航■韓国の地方都市へ直行便が運航マイナス要素■リピーターを獲得できるような観光資源が限定的■ソウル以外の地方の魅力が乏しい■格安ツアー商品が定着しており、高額な高級ツアーが売れ

ない政府観光局による主な外客誘致活動■K-POP、韓国ドラマを活用した誘致・宣伝■タイの旅行会社の広告費用に対する補助■高架鉄道(BTS)車両の全面車体広告など、交通広告を実

施■ツアー商品の参加者に対するお土産、割引クーポンの提供■旅行会社に対する説明会の開催■韓国観光大使の任命・活用■インセンティブ旅行の実施企業(オーガナイザー)を対象と

した説明会の開催■タイで開催される旅行博にブースを出展旅行業界などによる外客誘致活動■韓流をテーマにしたツアーを造成■旅行博、新聞広告、旅行雑誌などを通じ、一般消費者に

対して積極的な宣伝活動を展開■韓国の地方自治体とタイの旅行会社が覚書(MOU)を締結

②香港主な観光魅力■食事、ショッピング、寺院

観光インフラ■査証が不要■複数の LCC が直行便を運航■タイの地方都市から直行便が運航■治安が良好■英語が通じる■公共交通が充実マイナス要素■インフルエンザ、SARS(新型肺炎)などの感染症の流行政府観光局による主な外客誘致活動■タイの旅行会社の広告費用に対する補助■一般消費者を対象とした PRイベントの開催■旅行雑誌等への記事掲載を通じた PR■タイで開催される旅行博にブースを出展旅行業界などによる外客誘致活動■旅行博、新聞広告、旅行雑誌などを通じ、一般消費者に

対して積極的な宣伝活動を展開

③中国主な観光魅力■雄大な景色、豊富な景勝地、寺院、ショッピング、食事観光インフラ■査証の取得が容易■複数の LCC が直行便を運航■タイの地方都市から直行便が運航■中国の地方都市へ直行便が運航マイナス要素■英語が通じにくい■高齢者が訪問する国というイメージが強い政府観光局による主な外客誘致活動■タイで開催される旅行博にブースを出展旅行業界などによる外客誘致活動■様 な々旅行地へのツアーを造成している■個人旅行者を対象にした旅行商品も多い■旅行博、新聞広告、旅行雑誌などを通じ、一般消費者に

対して積極的な宣伝活動を展開■ファムトリップ(旅行会社を対象とした視察旅行)の実施

④台湾主な観光魅力■食事、ショッピング、台湾のスイーツ、桜、温泉、夜市観光インフラ■査証が不要■複数の LCC が直行便を運航

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韓国

中国

台湾

香港

タイ

シンガポール

第1章 外国旅行の動向

■タイの地方都市から直行便が運航■台湾の地方都市へ直行便が運航■治安が良好■物価が安いマイナス要素■台北以外の地方の魅力が乏しい政府観光局による主な外客誘致活動■旅行会社に対する説明会の開催■タイの旅行会社の広告費用に対する補助■BTS 車両の全面車体広告など、交通広告を実施■ツアー商品の参加者に対するお土産の提供■タイで開催される旅行博にブースを出展旅行業界などによる外客誘致活動■ファムトリップの実施

⑤ヨーロッパ主な観光魅力■歴史的な遺跡・建築物、芸術文化、ショッピング、ドライ

ブ、自然景観(雪、紅葉、オーロラ)観光インフラ■総じて英語が通じやすい■個人旅行者が容易に車や鉄道を利用できる■シェンゲンビザにより複数国の訪問が可能マイナス要素■一般的に査証の取得が難しい■治安(テロ)への不安感政府観光局による主な外客誘致活動■旅行会社に対する説明会の開催■ファムトリップの実施旅行業界などによる外客誘致活動■航空会社との共同広告を実施■鉄道パスなど個人旅行者向けの商品を紹介・販売

7 訪日旅行の価格競争力①訪日ツアーの価格帯■訪日ツアーの価格帯は、大まかに言うと、ヨーロッパと同

程度か若干安く、韓国、香港、中国、台湾より高い。■現在、タイからの訪日旅行者はリピーターが 7 割弱に達し

ており、様 な々ニーズに応じるために、訪日ツアー商品は多様化している。

■2018 年 10 月出発の訪日ツアーの価格帯を複数の旅行会社のウェブサイトで閲覧した結果をまとめると、次のとおりである。九州は LCCが就航している地域と比べて価格帯

に幅がない。 ・北海道:5 日〜 8 日の期間で 3 万〜 8 万バーツ台 ・ 東京を含む関東:4日〜 6日の期間で 2万〜5 万バーツ

台 ・ 東京⇔大阪間(ゴールデンルートツアー):6日〜7日の期

間で 5 万〜 6 万バーツ台 ・ LCC(格安航空会社)の運航がない九州:5日間のツアー

が 5 万バーツ台 ・ LCCだけが直行便を運航している沖縄:5日〜6日の期

間で 2 万弱〜 3 万バーツ台■国際民間航空機関(ICAO)が、2015 年 6 月以降、タイ航

空当局に指定していた「重大な安全上の懸念(SSC)」を、2017 年 10 月に解除した。これにより、2018 年に入ってから、LCC の日本への新規就航が相次いでいる。

■LCCを利用した訪日ツアーの中には、3泊5日で1万3,999バーツ(約 4 万 8,000 円)といった極端な格安ツアーも出てきている。

■タイでは LCC が国内線のシェアの 7 割を占め、広告出稿も大量なため、存在感が非常に大きい。タイ人の中には訪日旅行のきっかけとして、LCC が運航されていることを挙げる人も少なくない。LCC を利用した廉価な訪日ツアー商品は、訪日タイ人の増加に大きく貢献している。

②他の主要地域のツアー価格に対する競争力②−1 韓国■タイから韓国へは、ソウル、プサンなどへ複数の FSC(主

要航空会社)、LCC が定期便を運航している。■5日または 6 日の訪韓ツアー商品の価格は、タイ国際航空、

大韓航空など FSC 利用ツアーが概ね 2万台〜 5 万バーツ台、ジンエアー、イースター航空などの LCC 利用ツアーが概ね 1万 4,000 〜1万 9,000 バーツと、1万バーツ台が普通である。

■同一旅行会社で同一滞在日数の訪日ツアーと比較すると、訪韓ツアーの方が1万〜1万 5,000 バーツ程度安い。しかし、訪日ツアーも2013 年の訪日短期滞在査証の免除や相次ぐ LCC の就航により、低価格化が進行しており、訪韓旅行の訪日旅行に対する価格面での優位性は低下している。

■価格面での競合に加えて、韓国は桜、紅葉、雪、ショッピング、果物(イチゴなど)といった訴求対象となる観光資源が日本と類似しており、旅行内容の面でも競合している。

②− 2 香港■タイから香港へは、タイ系、香港系の航空会社に加えて、

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182 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

バンコク発外国ツアー価格比較表

旅行地 航空会社 主な訪問先 旅行

日数価格

(タイバーツ)価格

(日本円)

1 ★ 日本(北海道) LCC小樽運河、小樽オルゴール堂、イオンモール、黒岳ロープウェイ、大雪山国立公園銀河の滝、旭山動物園、旭川平和通り商店街、三井アウトレットモール北広島、旧道庁、札幌時計台、狸小路商店街

5 31,999 110,717

2 ★ 日本(東京) LCC 酒々井プレミアム・アウトレット、牛久大仏、国営ひたち海浜公園、忍野八海、富士山五合目、富士の駅…地震体験館、新宿、イオンモール成田 4 23,999 83,037

3 ★ 日本(大阪、高山) LCC 伏見稲荷、金閣寺、貴船神社、名古屋、高山陣屋、さんまち通り、イオン、白川郷、大阪城、心斎橋、りんくうプレミアム・アウトレット 5 24,999 86,497

4 ★ 日本(名古屋、高山) FSC 高山さんまち通り、白川郷、松本城、黒部平、香嵐渓、土岐プレミアム・アウトレット、大須観音 5 37,900 131,134

5 韓国 LCCソウル…永宗大橋、エバーランド、ソウルキムチアカデミー(キムチ作り体験、韓服体験)、 北漢山…国立公園、昌徳宮、免税店、明洞、現代シティアウトレット、化粧品のアウトレット

5 15,999 55,357

6 香港 FSC 尖沙咀(チムサーチョイ)、黄大仙祠、紅磡觀音廟、ティンハウ廟、志蓮淨苑… 3 15,999 55,3577 台湾 LCC 台北(台北 101、士林夜市、西門町、龍山寺)、 九份、野柳地質公園、日月潭 5 13,900 48,0948 中国 LCC 張家界、…天門山、長沙…黄興路歩行街… 4 9,777 33,8289 ミャンマー LCC ヤンゴン、バゴー 2 6,888 23,832

10 シンガポール LCC マリーナベイサンズ、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ、マーライオン、セントーサ島、観音堂 3 9,888 34,212

11 ベトナム LCC サパ(ハムロン丘、キャットキャットビレッジ)、ハノイ(ホーチミン廟、玉山祠、旧市街)、シルバーフォール 4 9,888 34,212

12 欧州 FSC 英国(エディンバラ、ロンドン、マンチェスター、リヴァプール、カーディフ、バース) 9 52,999 183,377

13 米国 FSC

ロサンゼルス(ビバリーヒルズ…-…チャイナタウン、ユニバーサルスタジオハリウッド、グリフィスパーク)、ラスベガス(ラスベガス…プレミアム…アウトレット…ノース・ストリップ通り)、グランド・キャニオン国立公園、バーストウアウトレット、サンフランシスコ(ツインピークス、セブンシスターズ、パレス…オブ…ファイン…アーツ、ゴールデンゲートブリッジ、ロンバード・ストリート、ピア…39、アルカトラズ島)

8 72,888 252,192

14 ロシア FSC モスクワ(赤の広場、クレムリン宮殿)、…サンクトペテルブルク(冬宮、エルミタージュ美術館、聖イサアク大聖堂、エカテリーナ宮殿) 6 52,888 182,992

15 ★ 日本(北海道) FSC

イシヤチョコレートファクトリー、北海道神宮、富良野チーズ工房、美瑛(青い池)、あさひかわラーメン村、旭山動物園、層雲峡温泉、流星の滝・銀河の滝、北海道アイス…パビリオン、小樽、イオンモール、小樽運河、小樽オルゴール堂、小樽堺町通り、札幌狸小路商店街、旧道庁、札幌時計台

6 56,900 196,874

16 ★ 日本(ゴールデンルート) FSC 金閣寺、伏見稲荷、なばなの里、白川郷、高山、上高地、松本城、白樺湖、大石公園、

新宿、TDR、浅草 7 66,900 231,474

17 ★ 日本(大阪、高山) FSC 白川郷、高山、郡上温泉、食品サンプル制作体験、伏見稲荷、心斎橋、USJ(別料金)、

大阪城、伊賀忍者村、伊賀流忍者博物館、イオンモール 6 46,900 162,274

18 ★ 日本(東京、東北) FSC 牛久大仏、ひたち海浜公園、大内宿、会津若松城、蔵王キツネ村、松島湾、瑞巌寺、

円通院、新宿、明治神宮、原宿、お台場、ダイバーシティ東京プラザ 7 62,900 217,634

19 ★ 日本(沖縄) LCC

波上宮、首里城、イオンモール沖縄ライカム、美ら海水族館、ブセナ海中公園、万座岬、アメリカンビレッジ、国際通り(買い物)、知念岬公園、おきなわワールド(玉泉洞)、琉球村、沖縄アウトレットモールあしびなー

6 32,900 113,834

20 韓国 FSC ソウル(明洞、奉恩寺、仁寺洞、昌徳宮、免税店、キムパプ作り体験、ロッテワールドタワー)昭陽江スカイウォーク、ソクチョ(新興寺)、Seoraksan…National…Park 6 49,900 172,654

21 台湾 FSC埔里、日月潭クルーズ、文武廟、野柳地質公園、 九份、タロコ国立公園、台北(西門町、中正紀念堂、台北 101展望台、国立故宮博物院)、三井アウトレットパーク台湾林口

5 43,900 151,894

22 中国 LCC 鳳凰古城、天門山、天子山、張家界、長沙黄興路歩行街 5 49,900 172,654

23 中国 FSC 上海(南京路、バンド観光トンネル、上海タワー、田子坊、玉仏寺、上海雑技団鑑賞)、無錫、杭州(西湖)、烏鎮、蘇州 5 59,900 207,254

24 ミャンマー FSC ヤンゴン、チャイティーヨー・パゴダ、ゴールデンロック、シリアム 4 17,900 61,934

25 シンガポール FSCマリーナベイサンズ、ユニバーサルスタジオ、マーライオン、シンガポールリバークルーズ、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ、シンガポールフライヤー、DFS、オーチャードロード

3 23,500 81,310

26 ベトナム FSC ハノイ(ホーチミン廟、ホーチミン博物館、ホアンキエム湖)、ハロン湾、ニンビン 4 19,900 68,85427 欧州 FSC 英国(ロンドン、マンチェスター、ヨーク、バーミンガム、バース) 8 92,900 321,434

28 欧州 FSCイタリア(ローマ /トレヴィの泉・コロッセオ、ピサの斜塔、ヴェネツィア /サン・マルコ広場、ミラノのドゥオーモ)、スイス(ルツェルン /瀬死のライオン像・カペル橋・ユングフラウヨッホ)、フランス(ヴェルサイユ宮殿、エトワール凱旋門、ルーブル美術館、エッフェル塔、ノートルダム大聖堂、ギャラリー・ラファイエット)

10 112,900 390,634

注:2018年 10月時点。★は訪日ツアー。価格(日本円)は 1バーツ= 3.46 円で算出。ツアー価格は旅行会社ごとに大きな差がある。1〜 14、15〜 18はそれぞれ同一の旅行会社の商品である。

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JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編) 183

韓国

中国

台湾

香港

タイ

シンガポール

第1章 外国旅行の動向

エミレーツ航空などの第三国の航空会社も定期便を運航している。

■香港へのツアー商品は、主に 1 泊 2 日から2 泊 3 日、価格は 1万バーツ台前半〜 2 万バーツ台前半で、廉価な訪日ツアーとほぼ同じ価格帯である。FSC を利用するツアーでも1万バーツ台前半のものがあり、LCC を利用するツアーとの間に顕著な価格差はない。

■香港は訪日ツアーと比較すると、短い日数で、かつ安い価格で出掛けることができる旅行先と言える。

②− 3 中国■訪中ツアーは、タイから比較的近い中国西南地方を3 日間

訪問するものから、8 日に及ぶシルクロードツアーまで種類が豊富であるが、主流は 4 日〜 6 日のツアーである。価格帯は 1万バーツ台〜 5 万バーツ台まで幅広い。

■同一旅行会社で同一滞在日数の訪日ツアーと比較すると、訪中ツアーの方が1万バーツ〜1万5,000バーツ程度安い。中国は日本に対して、価格競争力を有している旅行地である。

②− 4 台湾■タイから台湾へは、複数の FSC、LCC が定期便を運航し

ている。■訪台ツアーは 5 日前後の商品が主流で、タイ国際航空、エ

バー航空などのFSCを利用するツアーが概ね1万バーツ台前半〜 4 万バーツ台、ノックスクート、タイガーエア台湾などのLCCを利用するツアーが概ね1万バーツ台前半〜2万バーツ台前半である。同一旅行会社で同一滞在日数の訪日ツアーと比較すると、訪台ツアーの方が 1 万バーツ〜 2 万バーツ安い。台湾は日本に対して、価格競争力を有している旅行地である。

②− 5 ヨーロッパ■ロシア以外のヨーロッパ諸国を旅行(短期滞在)する際、タ

イ人は査証が必要となるが、タイ人のヨーロッパに対する憧れは強く、複数の国を効率良く訪問できる数カ国周遊型ツアーは特に人気がある。

■ヨーロッパツアーは期間が 7日〜10 日程度と幅広く、日本よりも長い。価格帯も5 万バーツ弱から11万バーツ台までと幅広いが、概ね消費者の間では、訪日旅行より価格が高い旅行先との印象を持たれている。しかし、数あるヨーロッパツアーの中には、カタール航空、エミレーツ航空等を利用し、中東で乗り継いでヨーロッパへ向かう5 万バーツを下回るツアーも出てきており、ヨーロッパツアーの訪日ツ

アーに対する価格競争力は増していると言える。

8 日本のイメージ 8-1 一般的な日本のイメージ①日本に対する見方■2018 年 3 月、日本の新聞通信調査会が発表した米・英・

仏・中・韓・タイの 6 カ国を対象に実施した調査によると、6 カ国の調査対象者に、他の 5カ国および日本について好感度を聞いたところ、タイ人の 98.3% が日本に対し、「とても好感が持てる」または「やや好感が持てる」と回答した。信頼度に関する質問では、96.2% が日本に対し、「とても信頼できる」または「やや信頼できる」と回答した。

■米国の日本への好感度は 83.6%、信頼度は 81.0%、中国はそれぞれ 27.9%、23.9% で、いかにタイの数字が突出しているかが読み取れる。2017 年に発表された同調査と比較すると、タイ人の日本への好感度は 6.7 ポイント、信頼度は 7.2 ポイント、それぞれ上昇した。

■この調査では、日本に関する報道でメディアに期待する内容を聞いており、タイ以外の 5 カ国は「科学技術」が第 1位であったのに対し、タイの1 位は「観光情報」であった。

「観光情報」は中国では 2 位であったが、それ以外の 4 カ国では 6 位にとどまった。

■こうしたデータが示すように、タイは世界有数の親日国である。日本とタイは、1887 年 9 月に日タイ修好宣言により正式に国交を樹立し、両国は 2017 年、130 周年の記念行事を相次ぎ執り行った。

■日本旅行の経験があるタイ人に日本の印象を聞くと、「Cleanliness」(清潔)と並び、「discipline(ディシプリン)」(規律、自制心)といった言葉がよく聞かれる。近年、地震など自然災害が多く発生している日本だが、現地で伝えられる日本のニュースなどを通じ、タイ人は「一般の日本人の振る舞いや政府・自治体の対応に安心感や信頼感がある」との印象を抱いているようだ。

②「親日」の理由■2018 年 4月時点で、バンコク日本人商工会議所に加盟す

る日本企業の数は 1,764 社に達し、製造業を中心に商業、サービスなどあらゆる業種がタイ国内で企業活動を行っている。日系企業は多数のタイ人を雇用し、経済的に重要なパートナーとして関係を築いてきたほか、日本の皇室とタイ王室の長年にわたる交流もタイ国民が日本に強く信頼を寄せる理由の一つになったと考えられる。

■国民の間では、家電、家庭用品、食材を含め、日本製品

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184 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

への信頼は厚く、アニメや漫画、音楽などの人気も高い。■訪日タイ人のショッピング場所は、100 円ショップやドラッグ

ストアの人気が根強い。コンビニエンスストアやスーパーで売られている文房具や菓子などだけでなく、洗顔剤やシャンプー、化粧品などドラッグストアで売られている日用品も、職場や親戚、友人などに幅広く配る土産として重宝されている。

■タイの有名人などが SNS を通じて紹介する比較的高価なブランド品は、自分自身への土産として購入することが多い。数百円で買える日用品は、日本製品の品質に対する信頼から、土産として総じて喜ばれている。

■タイの若者が日本語を学ぶきっかけにもなるアニメや漫画、テレビドラマ、映画などの中で、1970 年代に初めて映画化された「クーカム(運命の人)」という有名なドラマがある。日本海軍大尉「コボリ」とタイ人女性の悲恋の物語で、現在に至るまでテレビや映画で再編版が繰り返し製作されている。今でも各種アンケート調査で「知っている日本人」を聞くと、必ず「コボリ」の名前が上位に入る。コボリはタイ人女性にとって理想の男性像とも言われている。

■アニメでは、仏教国だけあって「一休さん」の知名度が抜群である。「ドラえもん」や「忍者ハットリくん」はもちろん、

「クレヨンしんちゃん」も人気で、作者が亡くなった際にはタイ紙の1 面でその死が伝えられた。「ワンピース」や「ナルト」など、人気アニメは多数ある。

■森田健作千葉県知事は、「タイに剣道を広めた男」として知られている。1970 年代初頭に作られたテレビドラマ「おれは男だ!」はタイで「ケンドウ」という番組名で放映され、これをきっかけにタイで剣道が広まったという。同知事が2012 年 8 月に訪タイし、バンコクの剣道場を訪ねた際には、知事とタイ人剣士がドラマの主題歌「さらば涙と言おう」を合唱するという感動的な場面があった。

■AKB48の2013年のヒット曲「恋するフォーチュンクッキー」を、タイで結成された BNK48 が 2017 年暮れ、タイ語でカバーし大ヒットした。BNK48 は 2018 年の大晦日に行われた NHK 紅白歌合戦にも招かれ、タイ語バージョンが披露された。2018 年 9 月には AKB48 のメンバーが、タイのプラユット首相を表敬訪問し、首相官邸で「恋チュン」を披露した。軍出身のこわもての首相が曲に合わせてペンライトを振る姿は、タイ人の話題をさらった。

■2011 年 10 月のタイ大洪水の際は、日本から急遽派遣された排水ポンプ車が活躍した。2018 年 7月、北部チェンライの洞窟に閉じ込められたサッカーチームの少年らの救出でも、日本人関係者の貢献が広く伝えられた。この他、Jリーグ、ゴルフなどプロスポーツの分野でも人材交流が進

み、両国が相互に親近感を持つ関係が深まっている。

8-2 旅行地としての日本のイメージ■タイは、国土が日本の1.4 倍、南北の距離は約 2,500 キロ

に及ぶが、高温・多湿の気候に大きな差はない。四季があり、桜や紅葉、雪などによって町の景色や表情がめまぐるしく変わる日本の気候は、タイ人にとって新鮮に映る。

■日本では、地域によって気候も大きく変わり、食文化も異なることが知られている。タイ人の食に対するこだわりは強く、旅行先でしか味わえない食べ物への関心も高い。北海道の「カニ」や沿岸部での「刺身」など水産物だけでなく、りんごやいちご、ぶどう、柿、桃、みかんなどの果物の産地も知られるようになっている。

■タイの百貨店で日本産の果物が販売されたことなどがきっかけになり、他国産との違いが浸透しつつあることが認知度向上の理由である。最近では、北海道から東京へ向かう途中、青森のりんご農園でのりんご狩りを組み入れた団体旅行もあった。

■温泉への興味も高い。他人と入浴することに抵抗感を覚えるタイ人女性は多かったが、タイ国内で様 な々メディアを通じて、温泉の魅力や日本での入浴のルールなどが伝えられているため、リピーターが増えている。温泉宿で貸し出す色鮮やかな浴衣を着た自撮り写真をSNS に投稿するタイ人女性も多い。

■日本製の工業製品に対する信頼は厚い。タイ国内では韓国製・中国製の家電製品も目立つが、日本の多くの製造業がタイに進出しており、日本メーカーのブランド力は群を抜いている。タイの年間新車販売はトヨタ自動車など日本メーカーだけで 85%(2018 年)に達し、二輪車販売もホンダ、ヤマハ発動機が圧倒的なシェアを誇っている。

■タイ人にとって日本は、「美しい自然があり、どこへ行ってもおいしいものと温泉が楽しめる」という印象があるが、日本製の自動車や家電製品のイメージによって、「身近な工業製品を生み出す、最も近い先進国」とも考えられている。

■日本で販売されているスイーツやおもちゃ、雑貨・日用品なども精巧に作り込まれ、どれを取っても品質が良いというイメージがある。このため、タイ人旅行者は、百貨店、コンビニエンスストア、ドラッグストア、文具店、100 円ショップに至るまで、どこでもショッピングが楽しめると考えている。

■日本は「安全」な旅行先でもある。子どもの一人歩きや夜間の外出で恐怖を感じることがない治安の良い国と認識されている。観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、訪日タイ人の半数弱は「家族・親族」を同行者としており、三世代にわたることも珍しくない。これは安全・安心

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な国のイメージが強いためである。■タイ人は日本を清潔で、教育水準の高い国と見ており、子

どもの教育のために、という理由で親が日本を旅行先に選ぶこともある。世界的に知られるテーマパークは中国を含めタイの周辺国にもあるが、どうせ行くなら「清潔」な日本に、というのが一般的な考え方のようである。

■新幹線や在来線を含め、鉄道やバスなど公共交通機関の運行時間が正確で、車内が乱れていないことも安心感につながっている理由の一つである。

■訪日旅行経験のある複数のタイ人に日本旅行で感じた便利・不便な点を聞き取りしたところ、「子どもだけでも外出できる安心感があった」(50 代女性)との声が聞かれた。

■マイナス面では、言葉の問題が指摘され、「乗り換え案内や行き先案内の英語併記は地方に行くほど少なくなる」(30代女性)、「レストランでは指さしで注文できる料理の写真を掲載してほしい」(同)との要望があった。

■「階段が多い割にエレベーターが少ない」、「多くの駅にコインロッカーがあるが、スーツケースが入らない」(40 代女性)という不満も聞かれた。

■愛煙家の 50 代男性は、「喫煙できる飲食店は多いが、店内 OK、店外禁止とされていて困った」という。タイでは「店内禁止、店外 OK」が一般的なためとみられる。

9 評価の高い日本の旅行地①北海道■雄大な自然、パウダースノー、花畑、新鮮でおいしい海産

物などを楽しめる北海道は、タイ人憧れの旅行先の一つとなっており、初訪日、リピーターを問わず幅広い層から高い評価を得ている。

■4 月〜 6 月に出発する訪日旅行商品の広告では、富良野・美瑛地域の色鮮やかな花畑の写真を使用したものが多く掲載されるなど、初夏の定番観光地の一つとなっている。

■タイでは季節の変化を感じにくく、タイ人は紅葉や雪に対する憧れが強い。そのため、10 月には紅葉を、12 月〜 3月にかけては良質な雪を求めて北海道を訪れる。

■2016 年に公開され、タイで大ヒットした映画「One Day」の影響もあり、ロケ地となった北海道のキロロリゾート、小樽、函館、札幌の人気がさらに高まった。

■2018 年 4 月に、タイ・エアアジア X が新千歳便を再就航した。割引期間中には片道 3,990 バーツ(1万 4,000 円程度)で販売されるなど、中間所得層も気軽に北海道旅行を楽しめる環境が整った。

■団体パッケージツアーは従来 5 万バーツ以上が相場であっ

たものの、タイ・エアアジア Xを利用した団体パッケージツアーでは、2 万バーツ台(7 万円台〜)からの商品も販売されるなど、選択肢が広がっている。

■レンタカーを使った旅行プランが、個人旅行者を中心に定着してきている。新千歳空港の周辺でレンタカーを借りて道内各地を訪れている。

②東京■タイ人の間で一番知名度が高い日本の旅行先である。訪日

旅行の形態や訪日回数にかかわらず、常に人気の旅行先の一つであり、何度行っても飽きないと言われている。

■国際民間航空機関(ICAO)が 2017 年に、タイに対する「重大な安全上の懸念(SSC)」の指定を解除したことにより、タイの LCC(格安航空会社)による日本路線、特に成田への新規就航・増便が進んでいる。これらLCC の成田便の増加により、従来に比べて旅行日程を調整しやすい環境が整っている。

■歴史文化体験、ショッピング、食事、テーマパークなど、タイ人旅行者が求めるものを全て満たしている。

■東京を起点に、定番の富士山や河口湖を訪問したり、東京ディズニーリゾートを楽しんだりするなど、旅行者のニーズを満たせる多様な選択肢があるのも人気の理由である。

③富士山■世界遺産である富士山は日本の象徴として認識されてい

る。タイの飲料メーカーによるお茶の CM や、銀行・飲料メーカーの日本行きの旅行キャンペーン広告などでも度々登場していることから、訪日旅行では必ず訪れたい観光地の一つとなっている。

■富士吉田市にある新倉山浅間公園では、4月に「桜・富士山・日本の伝統的な建造物(寺社)」を一緒に見ることができることから、この景色を求めて個人旅行者を中心に多くのタイ人観光客が訪れている。また、タイ国内では、日本関係の広告や旅行商品の広告などにこの景色が使用されていることから、タイ人に広く認知されている。

■ゴールデンルートを巡る団体パッケージツアーでは、東京と大阪を結ぶ行程の途中に河口湖(温泉を含む)、忍野八海、富士五湖、御殿場プレミアム・アウトレットなどを訪問し、景色を堪能したりショッピングを楽しんだりすることが定番となっている。

■富士山麓一帯では、春には「桜・芝桜」、夏には「大石公園でのラベンダー鑑賞」、秋には「富士河口湖紅葉まつり」、冬には「ふじてんスノーリゾートでの雪遊び・河口湖オルゴールの森美術館でのイルミネーション」など、四季を通し

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てタイ人が好むイベントが多く、魅力的な景色に出会えることが人気の理由となっている。

■富士山周辺は、鉄道やバスでのアクセスも良く、東京から3 時間程度で行けることから、個人旅行者用の自由旅行パッケージツアーの自由時間を利用して、日帰りで富士山を楽しむタイ人観光客も多い。

④中部■豊かな自然、日本の伝統的な街並み、四季を通じた魅力

的な景観などを楽しめる中部地方は、初めての訪日客だけでなく、リピーター客からも人気が高い。

■世界遺産に登録されている白川郷の景観は、日本の四季が感じられると共に、雪のシーズンには幻想的な風景の写真を撮ることができるため、高い評価を受けており、人気の観光地の一つとなっている。

■飛騨高山も人気が高い。朝市や古い街並みを散策したり、奥飛騨温泉郷で温泉を楽しんだりして過ごしている。

■ゴールデンルートや関西を起点とした団体パッケージツアーでは、白川郷と飛騨高山をセットにして訪問することも多い。

■4 月から 5月に雪を求めて日本を旅行するタイ人にとって、立山黒部アルペンルートの雪の大谷は非日常的な雪の世界を体験できるだけでなく、写真映えもすることから人気の観光地の一つとなっている。立山黒部アルペンルートが開通する 4 月中旬がタイの長期休暇ソンクランと重なる時期でもあるので、旅行会社からは雪の大谷ウォークをセットにした旅行商品が多く販売されている。

■上高地は、神秘的な自然の造形美が広がっており、滞在時間や体力に合わせてハイキングを楽しめるため、写真好きのタイ人の心をつかむ場所となっている。

■バンコクから中部空港への直行便が就航していることに加え、タイに日系自動車メーカーの生産拠点があることや、タイに進出している中部地方のメーカーが多いことなどから、インセンティブ旅行の訪問先としての需要も多い。

⑤大阪■東京に次いで航空便が多く、FSC の他、タイ・エアアジア

X、ノックスクートなどの LCCも就航している。そのため、中間層から高所得者層までの幅広い客層が旅行を楽しんでいる。

■関西は、伝統文化、ショッピング、グルメなど、バラエティに富んだ観光魅力を有している。年間を通じて旅行を楽しめる環境が整っているため、リピーター層も多い。

■東京と同様に、交通網や外国人旅行者用の施設・環境が

整備されていることから、初めて日本を旅行するタイ人にとっても旅行しやすい地域として認知されている。

■訪日旅行を取り扱う各旅行会社から、ゴールデンルート・関西・白川郷などをセットにした団体パッケージツアーが多数販売されていることもあり、タイ人の大阪に対する認知度は非常に高い。

■道頓堀のグリコの看板は、大阪観光時の撮影場所として定番となっている。フェイスブックなどでもよく見かける写真の一つである。

■大阪城、心斎橋・道頓堀周辺でのショッピングは人気が高く、団体パッケージツアーに組み込まれている。

■たこ焼きはタイ国内でよく見かける日本食の一つであり、道頓堀で本場のたこ焼きを食べることも大阪観光の定番となっている。

■若年層、家族層を中心に、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンや海遊館の人気が高い。

■個人旅行者は訪日前に旅行場所を決めた上で、「スルッとKANSAI 大阪周遊パス」や「関西エリアパス」などの鉄道パスを購入して旅をしている。バンコク市内で大型の国際旅行博などが開催される際に、鉄道パスを安く購入できる機会もあるので、事前に購入して旅行をする人も多い。

⑥京都■タイ人は神社仏閣への関心が高い。神社仏閣が豊富な京

都は、ゴールデンルートや関西を巡る団体ツアーの参加者、大阪からの日帰り客など、様々な旅行者が訪れる場所となっている。

■伏見稲荷大社は、団体ツアーなどで訪れる定番の観光地の一つである。特に千本鳥居は写真映えすることから、タイ人観光客の定番の撮影場所となっている。

■景勝地の嵐山には、四季の魅力を体験できる絶景場所が点在している。渡月橋、天龍寺、竹林の道には、写真好きのタイ人観光客が好んで訪れている。紅葉シーズンは特に人気が高い。また、嵯峨野トロッコ列車に乗って、四季折々の保津峡の景観を楽しんでいる。

■京都らしさを楽しむために、舞妓や芸者に会いに祇園に行くことも楽しみとなっている。

■着物体験も訪日時の楽しみの一つである。京都の主要な観光地には、外国人への対応が可能な着物体験の店舗があり、着物で清水坂などを散策する姿を写真に収められることから、写真好きのタイ人にとって満足度の高い観光魅力になっている。

■リピーター客の中には、過去に訪れたことがない場所を求めて、伊根の舟屋なども訪れるようになっている。

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■抹茶の人気が高く、抹茶ラテ、抹茶アイス、抹茶チョコレートなどがタイでは広く流通している。そのため、京都を訪問した際には、本場の抹茶スイーツを楽しむことも旅行の一つの目的となっている。

⑦九州■タイ国際航空が福岡への直行便を週 7 便運航しているほ

か、年末年始は旅行会社によって、チャーター便を使ったツアーが催行されている。タイでは九州の知名度が高く、九州への団体ツアーは訪日旅行の定番商品の一つとなっている。

■九州は、初訪日の旅行者だけでなく、東京・大阪などの地域を旅行したことがあるリピーター客からも人気が高い。

■九州は、タイ人に人気の博多ラーメンや、果物狩り、黒豚など、本場の日本食を食べたいタイ人から高い評価を得ている。

■湯布院、別府など、日本有数の温泉地で良質な温泉を体験できることが、訪日旅行で温泉・旅館体験を楽しみたいタイ人のニーズを満たしている。

■九州の旅行先は九州北部が中心となっているが、新たな旅行先を求めて、九州南部の高千穂峡や指宿温泉の砂風呂などを訪問するリピーター客も増えてきている。

■4月下旬から5月初旬にかけて見頃を迎える北九州市内の藤の花は、知名度が高く、評価も高い。

■佐賀県内で撮影された映画やドラマの影響により、佐賀県の認知度が向上し、人気の観光地となっている。祐徳稲荷神社をはじめとするロケ地を巡るツアーが催行され、訪問者が増えている。

⑧沖縄■ピーチ・アビエーションが 2017 年 2 月に、スワンナプーム(バンコク)⇔那覇線を開設したことにより、タイから 4 時間で日本に行ける環境が整った。シーズンによっては片道4,000 バーツ(1万 4,000 円程度)で日本に行けることから、乗り継ぎで沖縄を訪問していた頃に比べると、料金・時間ともに節約でき、多くのタイ人観光客が気軽に沖縄を訪れるようになった。

■過去に東京や大阪などの訪日旅行を経験したことがあるリピーター客を中心に、新しい旅行先として沖縄が選ばれている。

■本土とは異なる沖縄の文化を求めて、首里城などを観光する人が増えている。

■那覇空港や那覇市内でレンタカーを借りて、日本最大の美ら海水族館をはじめ、沖縄本島の主な観光地を周遊する

タイ人が増えている。注:団体ツアーなどの日本円価格は、1バーツ=3.46円で算出。

10 訪日旅行の不満点①総論■観光庁の「訪日外国人消費動向調査(2017 年)」によると、

訪日タイ人の訪日旅行全体の満足度は総じて高く、「大変満足」と「満足」が 96.6% となっている。

■タイ人の訪日旅行時の満足度は高いが、JNTO バンコク事務所が実施した旅行博でのアンケートや、タイの電子掲示板「パンティップ」などには、訪日旅行時の不満として、以下のような声が一部上がっている。

②訪日旅行時の不満■食事、交通費などの費用が高い。■訪日旅行にもかかわらず、外国人が多いために日本らしさを

感じることができない。■英語を話せる人が少なく、コミュニケーションをとることが

難しい。■英語の標識が少なかったり、標識の記載が分かりにくかっ

たりするため、旅行地を見つけにくい。■地域や施設によっては 20 時に閉店することから、ショッピ

ングを十分に楽しめない。■広告で見る日本の景色ほど実際には感動しない。■日本人の接遇に関して冷たい印象を受ける。■自然災害が起こった場合の対応方法について、的確な情

報発信をしてほしい。■飲食店が禁煙でない。飲食店での喫煙はやめてほしい。■旅行地までの交通情報について入手しにくい。■鉄道、バス事業者が複数あり、乗り場や料金が異なってい

るため、分かりにくい。■無料 Wi-Fi が通じにくい。無料 Wi-Fi がない。■クレジットカードが使いにくい。クレジットカードが使えな

い。■クレジットカードで現金を引き出せるATM が少ない。

11 訪日旅行の買い物品目①総論■観光庁の「訪日外国人消費動向調査(2017 年)」によると、

訪日タイ人が旅行中にショッピングで消費する額は、一人当たり平均 4 万 7,316 円である。

■訪日旅行時に最も多くのタイ人が買った品目は「菓子類」

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で、購入者単価は 1万 2,595 円と、他の国籍・地域に比べて高い結果となった。

■訪日旅行時のショッピング場所については、タイ人調査対象者の 66.9% が「百貨店・デパート」を利用した。

■タイ国内で人気の日系食品メーカーのチョコレートやグミなどが、日本では安く購入できるため、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどを訪れて購入する人も多い。

■ドラッグストアの利用率も 48.3% と高い。美白に関する化粧品や、健康志向の向上からサプリメントを購入するために立ち寄るタイ人が増えている。

■ショッピング好きのタイ人にとって、旅行中のショッピング先の選定は重要な要素である。そのため、団体ツアーの日程には、イオンモールを初めとするショッピングモールやアウトレットモールなどが組み込まれている。

②食品・菓子について■「コロロ」や「メルティーキッス」を初めとする日本の菓子は、

タイ国内のデパート・コンビニなどで販売されているものの、販売価格が日本よりも高いことから、訪日旅行時のお土産として購入したり、滞在中に食べたりする人も多い。

■「プリッツ」、「ポッキー」、「キットカット」など、タイ国内でも販売されている人気の菓子で、日本のご当地でしか買えないご当地限定商品(例えば、「夕張メロンポッキー」など)は、その地域を訪問した記念になるので人気が高い。

■タイ国内での抹茶の人気は高く、抹茶ラテなど抹茶商品が広く流通している。このため、本場の日本で抹茶を使用したスイーツを食べたり、お土産を購入したりする人が多い。

■「東京ばな奈」、「白い恋人」、「じゃがポックル」、ロイズのチョコレートなどは、訪日旅行時のお土産の定番となっている。

■ふりかけは種類も豊富であり、かつ値段も安くかさばらないことから、タイ人に喜ばれるお土産の一つである。ふりかけのパッケージは日本的なものが多いため、鮭、おかか、肉(すきやき)など絵が描いてあり、日本語を読めなくても味がイメージできるものがよく購入されている。

■リンゴ、桃、イチゴなどの日本産果物はタイ国内でも流通しており、高級品として認知されている。健康志向の高まりから、中間所得者層、高所得者層が購入しているほか、贈答用としての需要も高い。そのため、訪日旅行時にスーパーマーケットで購入した季節の果物を食べたり、果物狩りをしたりして、日本産の果物を楽しんでいる。

③日用品・雑貨について■日用品を購入する場所として、100円ショップの人気が高い。

バンコク市内にも日系の100 円ショップ「ダイソー」などがあるものの、60 バーツ(約 200 円)で商品を販売していることから、日本で商品を購入した方が安い。そのため、訪日旅行時に 100 円ショップに立ち寄り、自分用に購入することが定番となっている。

■タイにも進出しているロフトや無印良品で販売されているような機能性、デザイン性のある文房具は、人気のお土産である。こちらも、タイ国内で購入するよりも、日本で購入した方が安価であるため、訪日旅行時のショッピング時に立ち寄り、購入する人も多い。

④化粧品・健康食品について■資生堂の化粧品や DHC のリップクリームなど、有名ブラン

ドの商品が人気である。タイ国内でも日系メーカーの商品や化粧品の広告がよく出るため、知名度が高い。タイ人女性の間では、色白が美人との認識もあることから、美白クリームは特に人気の高い商品となっている。

■健康意識の高いタイ人は、DHC のサプリメントなども購入している。

⑤ブランド商品・衣料品について■オニツカタイガー、アディダス、ナイキなどの日本限定のス

ニーカーが人気を集めている。日本で購入した方が安い商品もあるため、訪日旅行時に購入している。

■アネロのバックはタイ国内でも大ヒットし、若い女性を中心に人気が高い。タイ国内で購入するよりも日本で購入した方が安価であるため、訪日旅行時に購入されている。

■タイ国内にもユニクロ、無印良品の店舗はあるものの、販売価格が日本よりも高い物があることから、訪日旅行時にこれらの店舗で衣類を購入する旅行者も増えている。

⑥お守りについて■お守りは仏教を信仰するタイ人の間で人気がある。値段も

手頃であるため、様 な々種類のお守りを購入してお土産にする人も多い。寺社仏閣によっては、多言語化されたお守りを販売している所もある。佐賀県の祐徳稲荷神社では、タイ語のおみくじを購入して楽しんでいるタイ人も多い。

12 日本の食に対する嗜好①タイ国内における日本の食の位置付け■タイ国内、特にバンコクでは、日本のラーメン店、居酒屋、

トンカツ店の他、スイーツ専門店なども出店しており、多種多様な日本の食を味わう環境が整っている。

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■Fuji Restaurant(フジレストラン)、Oishi(オイシ)、やよい軒など、タイ人の中間所得者層を対象にした日本食レストランが、ショッピングモールを中心に店舗を展開している。バンコクだけでなく、地方都市でも、身近に日本食を楽しめる機会が増えている。

■タイ国内で日本食を食べる場合、一般的には 150 バーツから 300 バーツ(500 円〜1,000 円程度)で食べることが可能である。

■タイ人の高所得者層や日本人駐在員を対象にした高級日本食レストランは、高級デパート・ホテルを中心に出店している。ミシュラン 2018(タイ・バンコク)で 1つ星を獲得した日系の寿司店もある。高級寿司店で使用する生鮮食材は日本から空輸するなどしており、本物の日本食を楽しむことができる。

②タイ人が好む日本食■日本食は幅広い世代によって好まれている。■人気のメニューは、麺類(ラーメン・うどん・そば)、天ぷ

ら、寿司・刺身、たこ焼き、お好み焼きなどである。■タイのコンビニエンスストアでは、おにぎり、巻き寿司など

が販売されているほか、寿司(海老、蟹かまぼこ)も販売されている。

■洋菓子・スイーツは、ヨーロッパのものより日本のものの方が口に合うというタイ人が多く、ショッピングセンターでも、北海道ミルクなどをキーワードにしたソフトクリームや、たい焼き、チーズタルト、パンケーキなどの専門店が、若い女性を中心に人気を集めている。

③訪日旅行時に人気の日本食■タイ国内で日本食を楽しめる環境が整っているからこそ、

旅行博のアンケートでは、訪日旅行の動機として「本場の日本食を食べること」が常に上位に来ている。

■訪日旅行中は、新鮮で比較的安価な寿司や、旬の魚・刺身などが好まれている。

■タイ国内に進出しているチェーン店のラーメンやトンカツなどではなく、日本国内でしか食べることのできない店が好まれる傾向にある。

■タイ人はカニが好きであり、日本で食べることができるタラバガニ、ズワイガニなどは特に人気が高い。訪日旅行の商品広告では、タラバガニなどの写真が頻繁に使われている。ツアーではカニの食べ放題が人気となっている。

■カレーライス、オムライスなどの日本式洋食も、若年層を中心に人気がある。

④食の制限■タイでは 90% 以上の人が仏教を信仰している一方で、南

部地域を中心にイスラム教を信仰している人が一定数いる。

■大半のタイ人は宗教による食の制限がないものの、イスラム教徒の場合、豚肉・アルコール(豚、アルコールの成分が入ったものを含む)などの食べ物は口にしない。

■中華系タイ人の中には、観音信仰により牛肉を食べない人が一定数存在する。

■厳格なタイ人仏教徒の中には菜食主義者もいるが、出汁(だし)の取り方まで細かく確認することはほとんどなく、多少のものは受け入れる人が多い。

13 接遇に関する注意点①食事について■先に述べたように、大半のタイ人は宗教による食の制限が

ないが、牛肉を食べない中華系の人や、豚肉・酒類などを口にできないイスラム教徒もいる。団体ツアーなどを受け入れる場合には、事前に食に対する制限を確認する必要がある。

■タイ料理では、辛さ、酸っぱさなど料理の味を自分好みに調整することが一般的である。仮に、料理に対して辛さが足りないと感じた場合には、持参した香辛料を入れるなどして、自分好みの味に調整することが多い。そのため、提供した料理の味を調整する姿を見ても、不快感を示さないようにする必要がある。

■タイ人旅行者にとって、本場の日本食を食べることは旅の重要な目的の一つであり、日本人向けに通常提供している味付けで対応することが求められる。

■タイではご飯が主食であり、食事の際にはおかずと一緒にご飯が提供されることが一般的であることから、会席料理を提供する際にも、ご飯の提供を最後ではなく、最初にした方がタイ人旅行者には喜ばれる。

■タイ料理を食べる際、タイ人はスプーンとフォークを使用するが、麺料理については箸やレンゲを使用することも一般的である。一方で、タイには日本食レストランも多くあり、日頃から日本食に親しんでいるタイ人は、箸での飲食に慣れている。そのため、タイ人が日本滞在時に日本食をとる際は、基本的に箸で支障ないが、スプーンとフォークの希望があった場合には、すぐに提供できるように準備しておくと良い。

■高級なインセンティブ旅行では、作り置きされた弁当などの冷めた食事は不評である。

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■麺料理単品や精進料理などは、一般的なタイ人にとってメイン料理がないと感じる。そのため、招請事業などでタイから関係者などを呼んで食事をする際には、肉や魚を中心にした料理を提供することが重要である。

②言語について■個人で訪日旅行を楽しむ人に対しては、タイ語のパンフレッ

トがあれば喜ばれるものの、タイ語版を作成することが難しい場合は、英語のパンフレットで代用することになる。一般的にタイ人の英語力は高いとは言いがたいが、英語のパンフレットでも観光に必要な必要最小限の情報(地図やアクセス情報等)は理解してもらえることが多い。

■バンコクにはインターナショナルスクールが多く、高所得者層を中心に子女を入学させている人がおり、母国人並みの英語力を持っているタイ人が一定数存在する。大企業では英語を話せる人も多い。このような人々に対しては、訪日旅行時に英語での対応でほぼ問題ない。

③宿泊について■タイ人は温泉への関心が高いものの、入浴時を含めて人前

で裸になることに慣れていないため、大浴場を苦手とするタイ人も多い。そのため、露天風呂付きの個室や家族風呂など、貸し切りでの利用が可能な浴室を提供すると喜ばれる。

■タイでは、サクヤンと呼ばれる宗教的な意味合いを持つ魔除けの入れ墨を入れている人が一定数いるほか、若者を中心に、ファッションの一つとして入れ墨を入れている人もいる。入れ墨について入浴お断りの規則を設けている場合は、トラブルを避けるため、予約時やチェックイン時に丁寧に伝えておく必要がある。

■LGBT に寛容なタイでは、男女に分けられた日本の温泉文化に抵抗を持つ人が一定数いる。温泉入浴を希望する人に対しては、貸切風呂がある場合、チェックイン時に案内するなどの配慮も必要である。

■招請事業を実施する場合、LGBT にも対応できるよう、宿泊施設を手配する際には、シャワー(またはバスタブ)が付いている個室を手配することが重要になってくる。

■タイでは、使用済みのトイレットペーパーを流さずに、トイレの横に設置されたゴミ箱に廃棄することが一般的であるため、日本では使用済みのトイレットペーパーはトイレに流すように案内しておくことが望まれる。

■タイ人は日本滞在時に、スマートフォンなどを使って情報収集をする人が多い。ホテルや旅館などの室内で、無料Wi-Fi の使用を求める声が強い。なお、タイ国内のホテル

やゲストハウスでは通常、無料 Wi-Fi が完備されているので、日本の宿泊施設でも無料 Wi-Fi が完備されていると考えている人が多い。

■ビュッフェ会場や会席料理を提供する場合には、外国語の表記に加えて、原材料も表記することで、宗教上の問題、アレルギーの問題への対応が可能となる。

④飲酒について■タイではアルコール飲料の販売などに対する規制を法律で

定めている。具体的には、自動販売機での販売禁止、無料サンプル提供の禁止、アルコール飲料の試飲やお酒を紹介する記事などは禁止されている。

■タイ国内では、アルコール飲料に対する規制があるものの、飲酒行為自体は受け入れられている。スーパー、コンビニエンスストアなどでアルコール飲料を購入できるほか、飲食店、屋台などでも一般的にビールなどが飲まれているため、特段の依頼が入らない限り、日本側でアルコール飲料を提供することに問題はない。ただし、宗教上の観点から、アルコールを飲まない人も多くいることを理解する必要がある。

⑤喫煙について■タイ国内では喫煙を要因とする病気の予防の観点から、た

ばこ製品の販売規制、広告規制、警告表示義務があるほか、受動喫煙防止の観点から、公共の場所や飲食店では喫煙を禁止している。そのため、日本滞在中、飲食場所での喫煙は大変嫌がられ、タイ人用に禁煙を厳守する飲食場所を確保しておくことが望まれる。

■旅行者の中に喫煙者がいた場合には、飲食店の内外に用意されている専用の喫煙スペースへ案内できるように準備しておくと良い。

14 訪日旅行の有望な旅行者層■バンコク首都圏在住の高・中所得者層でリピーター層

属性

・バンコク首都圏居住・中間所得層・高所得者層・主に 30代〜 40代の女性

旅行形態

・団体パッケージツアー・…個人旅行(「フリー&イージー」パッケージの利用、もしくは航空券・宿泊の個別手配)

・プライベート旅行、家族旅行・インセンティブ旅行

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第1章 外国旅行の動向

訴求ポイント

・自然・伝統文化・高付加価値体験・鉄道パス・レンタカーなどの活用・地方での体験観光

費用、日数など

・…パッケージ旅行商品の主力は、3泊 4日、3泊 5 日、4 泊 5 日、4 泊 6 日、5 泊 7 日である。

・…団体パッケージツアーは、FSCと LCCを利用するかにより価格帯が大きく異なる。

・…FSCを利用した団体パッケージツアーは、4万バーツ〜 7万バーツ(14万円〜 24万円)程度が主流である。

・…LCCを利用したパッケージ商品は、2万バーツ〜 4万バーツ(7万円〜 14万円)程度が主流である。

・…航空券とホテルがセットになった個人旅行商品の場合、FSCで約 2万 5,000 バーツから、LCCで約 1万 5,000 バーツから販売されている。

・…旅慣れたタイ人旅行者は、各航空会社のウェブサイトで航空券を手配すると共に、アゴダなどの宿泊予約サイトを通じて宿泊施設を手配する人も増えている。

 ……注:旅行商品は、シーズン・休日のタイミングによって料金が変動すると共に、訪問先によっても異なる。

 …注:金額は、1バーツ= 3.46 円で算出。

選定の背景

・…タイの人口 6,910 万人のうち、現在の主たる訪日旅行者が住むバンコク首都圏の人口は、そのうち 20%弱(約 1,500 万人)。

・…タイ国家統計局によると、2017年の平均世帯別月収は、約 2万 3,800 バーツ(約 8万円)である一方、バンコク首都圏における平均世帯別月収は約 3万 6,600 バーツ(約12 万 7,000 円)であり、タイ国内の地方都市に比べて高い。

・…FSC および LCCともに、日本への直行便はバンコクからのみ運航している。

・…旅行会社が出発日直前に販売するラストミニッツ商品(出発の 2日〜 3日前に販売される激安ツアー商品)を購入して訪日旅行を楽しむことができる。

効果的な宣伝方法

・…JNTOバンコク事務所が 2017 年に行ったアンケート調査によると、バンコクでは約7割の人が旅行フェアへの訪問経験があると回答した。そのため、バンコク市内で年2 回開催されている Thai… International…Travel…Fair(TITF) や FIT フ ェ ア(Visit…Japan…FIT…Travel…Fair、JNTOバンコク事務所主催)などの旅行フェアに出展し、訪日旅行を検討している消費者に対して、最新の観光情報や移動手段など、有効な情報を提供すると良い。

・…個人旅行化が進んでいるものの、旅行会社を通じた商品販売も多いため、旅行会社を直接訪問してセールスをしたり、旅行会社を対象に訪日招請をしたりすることは重要である。ただし、日本各地の関係者が旅行会社を訪問したり、訪日招請をしたりしているため、売り込む旅行会社の選定(団体ツアー向けか、個人旅行向けか、インセンティブ旅行向けか)を事前にしっかり行っておくと共に、旅行会社の目線に立って観

効果的な宣伝方法

光素材を紹介していくことが必要となる。・…日本人に人気のある観光地は、タイ人にとっても旅行してみたい観光地の一つになるため、日本人向けの旅行需要を掘り起こすと共に、旅行博の機会などを利用して、定期的に新しい観光資源について発信していくようにすると良い。

・…新規需要を開拓するため、ユニークな旅行商品の造成や特定テーマの取り扱いを希望する旅行会社に対して、スキー、ドライブ、サイクリングなどの深掘りした情報を提供すると、他社との差別化を図った旅行商品の造成につなげられる。

・…個人旅行者でも旅行が可能であることを伝えるため、旅行者の目線に立った旅行行程を組み立てられるよう、日本の主要空港や主要都市からの移動手段や、自然景観・伝統的な街並みなどの観光情報を混ぜながら、モデルプランを提供すると良い。

・…タイ王国デジタル経済社会省とタイ国家統計局が実施した「The…2017…Household…Survey…on…the…Use…of… Information…and…Communication…Technology」によると、タイ全土のインターネット利用者は 3,340万人で、6歳以上の人口に占める浸透率は52.9%に達しており、そのうち、インターネットを利用する際の端末はスマートフォンが 93.7%を占めている。旅行の決定に影響力の大きい媒体は、①インターネットテレビ、ユーチューブ、② SNS(フェイスブック、ブログ、ラインなど)、③ウェブサイトのバナー広告、④テレビ、⑤雑誌である。そのため、オンラインを活用した情報発信が効果的である。

・…上記の手段を通じた情報発信や、高所得者層をターゲットとした旅行会社への誘致活動に加え、口コミ効果を狙った SNS での情報発信、ウェブ広告なども視野に入れておく必要がある。

・…プライベート旅行やインセンティブ旅行を専門に取り扱う旅行会社に対して、おしゃれなカフェや日本ならではの体験ができる飲食店の情報を提供すると共に、通常のパッケージ旅行や個人旅行では体験できないような観光地の情報を紹介することで、差別化を図る必要がある。ただし、一つの地域の情報では旅行商品の造成に結び付きにくいため、移動なども考慮したモデルルートを提供すると良い。

・…高所得者層や大手企業で働いている人は英語ができる人が多いが、タイ語でのパンフレット制作などが進んできていることから、タイ語での情報発信をする方がより効果的である。ただし、タイ語のスペルミスなども見られることから、地名などについては英語のスペルも記載して、インターネットでの地名検索が容易にできるようにすることも重要である。

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192 JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編)

■バンコク首都圏在住の高・中所得者層(訪日旅行未経験者)

属性

・バンコク首都圏に居住・中間所得者層・高所得者層・主に 20歳代

旅行形態 ・団体パッケージツアー、個人旅行

訴求ポイント

・…都市観光と地方観光のセット(ゴールデンルート、京都・大阪と白川郷、東京と富士山など)

・…SNS 映えする四季の魅力(カラフルな風景、朱色の寺社など)

・LCCを活用した気軽な旅行・ショッピング

費用、日数など

・…パッケージ旅行商品の主力は、3泊 4日、3泊 5 日、4 泊 5 日、4 泊 6 日、5 泊 7 日である。

・…パッケージ旅行商品は、FSCと LCCのどちらを利用するかにより価格帯が大きく異なる。

・…FSC を利用したパッケージ旅行商品は、4万バーツ〜 7万バーツ(14万円〜 24万円)程度である。

・…LCC を利用したパッケージ旅行商品は、2万バーツ〜 4万バーツ(7万円〜 14万円)程度である。

選定の背景

・…タイの人口 6,910 万人のうち、現在の主たる訪日旅行者が住むバンコク首都圏の人口は、そのうち 20%程度(1,500 万人弱)。

・…タイ国家統計局によると、2017年の平均世帯別月収は、約 2万 3,800 バーツ(約 8万円)である一方、バンコク首都圏における平均世帯別月収は約 3万 6,600 バーツ(約12万 7千円)であり、タイ国内の地方都市に比べて高い。

・…FSC、LCC とも、日本への直行便はバンコクからのみ運航している。

・…旅行会社が出発日直前に販売するラストミニッツ商品を購入して訪日旅行を楽しむことができる。

効果的な宣伝方法

・…バンコクでは約 7割の人が旅行フェアへの訪問経験があると回答している。バンコク市内で年 2 回開催されている TITF や FITフェアなどの旅行フェアには、多くの一般消費者が訪れ、訪日旅行に関する旅程相談を行う機会にもなっていることから、その場を有効に活用して誘客促進を図ると良い。

・…個人旅行化が進んでいるものの、旅行会社を通じた商品販売も多いため、旅行会社を直接訪問してセールスをしたり、旅行会社を対象に訪日招請をしたりすることは重要である。ただし、日本各地から関係者が旅行会社を訪問したり、訪日招請をしたりしているため、売り込む旅行会社の選定(団体ツアー向けか、個人旅行向けか、インセンティブ旅行向けか)を事前にしっかり行っておくと共に、旅行会社の目線に立って観光素材を紹介していくことが必要である。

・…初めての旅行先として日本を選択してもらうためには、訪日旅行の未経験者の目に触れやすい交通広告やオンライン広告などの媒体を使うと宣伝効果がある。

・…四季に応じたカラフルな風景(花畑や朱色

効果的な宣伝方法

を基調とした寺社など)の写真を活用しつつ、各時期に何が楽しめるのかを紹介すると宣伝効果がある。

・…日本国内の旅行の拠点となる直行便の就航都市とその周辺地域に関する観光情報を、ウェブサイトや SNS を通じて発信すると、団体ツアー客、個人旅行者の双方にとって、有益な情報源となる。

・…タイで人気のある訪日旅行を取り扱うウェブサイトなどを通じて、旅行者の日程に合わせたモデルルートや、歴史文化体験、日本食などの魅力を発信すると、有益な情報源となる。

■地方都市在住 高・中所得層(訪日旅行未経験者)

属性・地方都市に居住・中間所得者層・高所得者層

旅行形態

・…家族で団体パッケージツアーを利用した旅行が主流。

・…リピーター層を中心に個人旅行化も進んでいる。

訴求ポイント

・自然景観・…日本食(寿司・刺身、天ぷら、ラーメンなど)・ショッピング・伝統文化

費用、日数など

・…パッケージ旅行商品の主力は、3泊 5日、3泊 6 日、4 泊 5 日、4 泊 6 日、5 泊 7 日である。

・…パッケージ旅行商品は、FSCと LCCのどちらを利用するかにより価格帯が大きく異なる。

・…FSC を利用したパッケージ旅行商品は、5万バーツ〜10万バーツ(17万円〜34万円)程度である。

・…LCC を利用したパッケージ旅行商品は、2万 5,000 バーツ〜 4万バーツ(8万 5,000円〜 14万円)程度である。

・…タイの地方都市からの訪日旅行商品は、タイの国内線が充実しているため、バンコクを経由して日本を訪れる商品が中心である。

・…地方の旅行会社が新たに旅行商品を造成すると、旅行代金が高くなるため、バンコクのホールセラーが提供するパッケージ旅行商品を活用する地方の旅行会社が増えている。タイ国内を LCCで移動し、上記のパッケージ旅行商品を購入すると、地方都市から 2万バーツ代で訪日旅行を楽しむことができる。

選定の背景

・…タイの人口 6,910 万人のうち、現在の主たる訪日旅行者が住むバンコク首都圏の人口は、そのうち 20%程度である。訪日旅行需要を底上げするためには、地方都市からの誘客も重要になってくる。

・…地方都市のチェンマイと第三国の間では国際線が運航されており、第三国を経由して日本へ行くことが可能である。

・…また、チェンマイからバンコクへの国内線(LCCを含む)も充実している。チェンマイからバンコクを経由して外国へ向かうことが比較的容易であるため、訪日旅行商品を

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JNTO…訪日旅行誘致ハンドブック…2019(アジア 6…市場編) 193

韓国

中国

台湾

香港

タイ

シンガポール

第1章 外国旅行の動向

選定の背景

造成しやすく、今後の市場拡大が期待できる。

・…チェンマイ以外の都市とバンコクを結ぶLCCも多数運航されており、比較的安価にバンコクまで移動することができる。また、バンコクのドンムアン空港を基点としてLCCの乗り換えが容易であるため、日本への旅行もしやすい。

効果的な宣伝方法

・…バンコクに比べると旅行会社の数が少なく、ある程度有力な旅行会社が限られるため、送客実績の多い旅行会社の情報などを航空会社から事前に入手しておくと良い。

・…タイの地方都市で JNTOが開催する説明会・商談会に参加し、最新の観光情報を旅行会社の担当者に提供して、旅行商品の造成につなげることも重要である。

・…タイの地方都市では、日本の自治体などによるセールスが十分に行われていない。他の自治体に先駆けて説明会などを開催すれば、地方の旅行会社に新たな旅行商品を造成してもらう機会となる。

・…外国旅行(日本、ヨーロッパなど)の取り扱いが多い旅行会社への誘致活動に加え、口コミ効果を狙った SNS(フェイスブック、ラインなど)での情報発信や、ウェブ広告の掲出なども必要である。