一般検査...2019/03/02 · 施設の結果が陰性となった。これら11...

一般

一般検査(便潜血)

【はじめに】

現在、便潜血検査は消化管出血のスクリーニング検査として広く行われている。かつてヘモグロビン（以下 Hb)および

その誘導体などのペルオキシダーゼ反応を応用した化学法も広く実施されてきたが、食物や薬物の影響などにより偽陽

性が生じるため、特異性が高い免疫学的検査法（免疫法）が主流となっている。多くの測定キットや試薬が各メーカーか

ら発売されているが、いずれも簡便で迅速に結果を報告可能である。しかし、採便容器に含まれる緩衝液量や必要な便

量が各メーカーで異なることや、検体性状が均一でない糞便を用いる検査であることから、標準化がなされているとはい

えないのが現状である。2 日法・3 日法など大腸癌検診をはじめとした検診事業において下部消化管出血のマススクリー

ニングは広く行われており、自動分析装置を用いた免疫法による便潜血検査の精度管理、標準化の重要性も高くなった

と考えられる。兵庫県下においても、多種におよぶ定性用手検査と自動分析検査による検査結果の実態を調査・把握し

標準化を目指すことを目的として、擬似便によるコントロールサーベイを実施している。

【実施項目】

便中ヒトヘモグロビン（定性・定量）

【方法】

試料：ヒト Hb 添加擬似便(極東製薬工業株式会社) 2 濃度（表 1）

試料作成：粉末試料に Hb 添加溶解液を加えて静置後よく混和する

採便作業：各施設で使用している別々の採便容器に 3 回サンプリング

測定：U1・U2 各 3 本ずつ、計 6 本測定

表 1 サーベイ試料の構成

【解析方法】

定性検査実施施設と定量測定実施施設に分けて解析した。

【評価基準】

定性検査、定量検査ともに U1・U2 とも「陰陽判定で陽性」を A 評価とした。

また、定量測定については、「陰陽判定が陽性で、測定値が2SD～3SDの範囲内にある施設」及び「陰陽判定が陰性だ

が、測定値が±3SD の範囲内にある施設」を B 評価、「±3SD を外れた施設」を C 評価とした。

【参加施設数】

2018 年度の定性検査参加施設は 61 施設、定量測定参加施設は 40 施設であった。

試料構成品内容

試料 U1(低濃度) 溶解液 U1 2 mL×1 本

粉末試料 U1 2 g×1 本

試料 U2(高濃度) 溶解液 U2 2 mL×1 本

粉末試料 U2 2 g ×1 本

試料撹拌棒 2 本

【解析結果】

①定性検査

表 2 に定性検査参加施設 61 施設の結果一覧を示した。

機器測定で実施している施設が 37 施設(60.7%)、用手法により測定している施設が 24 施設(39.3%)であった。評価は試料

U1・U2 それぞれに分けて行った。試料 U1 では、まず陽性の 50 施設を A 評価とした。

11 施設の結果が陰性となった。これら 11 施設ではいずれも機器測定（OC センサー DIANA:7 施設、OC センサー io:2

施設、OC センサー PLEDIA:1 施設、ヘモテクト NS-Prime:1 施設）を行っており、陰性と報告した測定機器及びメーカー

別の平均値では、100.2～102.1ng/ml という結果が得られた。カットオフ値は 6 施設が 100ng/ml、5 施設が 150ng/ml と、

一部の施設では比較的高値に設定されていた。そこで、それぞれの測定機器やメーカー、試薬における試料 U1 の実測

値からそれぞれの標準偏差（±2SD）を求めると、どの施設も±2SD の範囲内におさまったため、測定上の誤りの可能性

は低いと考えて B 評価とした。一方試料 U2 では、全参加施設が陽性と報告していたため、全て A 評価とした。

【定量測定結果】

１）各施設の使用測定試薬と測定機器

表 3 に施設別の測定機器、メーカー名及びカットオフ値を示す。栄研化学が 28施設（OCセンサーDIANA;13施設、OC

センサーio;8 施設、OC センサーPLEDIA;6 施設、OC センサーμ;1 施設）、富士フィルム和光純薬が 7 施設（Quick Run; 4

施設、FOBITWAKO; 3 施設）、アルフレッサファーマが 5 施設（ヘモテクト NS-Plus C, C15, C30; 3 施設、ヘモテクト

NS-Prime; 2 施設）であった。カットオフ値は使用目的により 50.0～150.0ng/ml だった。単位については、すべての施設が

「ng/ml」で報告していた。

２）メーカー・試薬別測定結果

表 4 にそれぞれの施設の測定値(実測値：ng/mL、g 便換算値：μg/g 便)、陰陽判定及び評価を示した。実測値と換算

値の平均値と標準偏差は、機器別（表 5、表 6）、試薬別（表 7、表 8）にまとめた。そして、図 1（試料 U1）および図 2(試料

U2)に機器別の分布（g 便換算値）を、図 3 に各施設の試料 U1・U2 の g 便換算値の分布と±2SD・±25%平均値・±50%

平均値のそれぞれの範囲を図示した。その結果、今回の実測値の平均値は各機器で試料U1：100.2～207.8ng/ml、試料

U2：466.8～697.9ng/ml となった。更にメーカー間差を是正するために採便容器の採便量と緩衝液量から g 便換算を行っ

た値でメーカー・機器・試薬別の測定値の比較を行った（表 5～8）。平均は試料 U1 で 24.5μg/g 便、試料 U2 で 121.6μ

g/g 便であった。さらに、図 1 に示す通り、富士フィルム和光純薬 QUICK RUN を使用している 4 施設では他の施設に比

べて測定値が大きい傾向がみられ、この現象は昨年度と同様であった。評価については、各施設のカットオフ値から陰

陽判定を行い、陽性をまず A 評価とした。試料 U1 では 15 施設が陰性判定だったが、カットオフ値近辺の値が得られた

施設が多かった。そこで同一の機器や試薬、メーカー内において実測値が大きく逸脱していないかを調べ、「陰陽判定が

陽性で測定値（実測値）が同機器や試薬、メーカーの施設間で 2SD～3SD の範囲内にある施設」および「陰陽判定で陰

性で測定値（実測値）が同機器や試薬、メーカーの施設間で±3SD の範囲内である施設」を B 評価とし、結果試料 U1 で

15 施設、試料 U2 で 1 施設が B評価となった。「測定値が±3SDの範囲外である施設」を C評価としたが、今回は無かっ

た。今年度も昨年度と同様、富士フィルム和光純薬の機器（QUICK RUN、FOBIT WAKO）が高値である傾向が今年も見

られた。しかしこれらの結果を除くと、試料 U1：100.2～111.0ng/ml、試料 U2：466.8～597.0ng/ml と g 便換算しなくても例

年と比べてデータの収束が見られた。

表 2 定性検査実施施設集計結果

施設 No 【U1】【U2】

測定装置方法試薬製造販売元主結果評価主結果評価

8000035 ＋ (陽性) A ＋ (陽性) A 用手法目視判定富士フイルム和光純薬

8000037 ＋ (陽性) A ＋ (陽性) A 用手法目視判定栄研化学

9280002 ＋ (陽性) A ＋ (陽性) A OC センサーμ 機器判定栄研化学


9280010 ＋ (陽性) A ＋ (陽性) A OC センサー DIANA 機器判定栄研化学

9280012 －（陰性） B ＋ (陽性) A OC センサー DIANA 機器判定栄研化学


9280020 ＋ (陽性) A ＋ (陽性) A ヘモテクト NS-Plus

C, C15, C30 機器判定アルフレッサファーマ



9280035 ＋ (陽性) A ＋ (陽性) A 用手法目視判定富士フイルム和光純薬






9280069 ＋ (陽性) A ＋ (陽性) A 用手法目視判定ミズホメディー

9280091 ＋ (陽性) A ＋ (陽性) A OC センサー PLEDIA 機器判定栄研化学







9280130 ＋ (陽性) A ＋ (陽性) A Quick Run 機器判定富士フイルム和光純薬

9280135 ＋ (陽性) A ＋ (陽性) A OC センサー io 機器判定栄研化学





9280149 －（陰性） B ＋ (陽性) A ヘモテクト NS-Prime 機器判定アルフレッサファーマ





施設 No 【U1】【U2】

測定装置方法試薬製造販売元主結果評価主結果評価


9280176 －（陰性） B ＋ (陽性) A OC センサー io 機器判定栄研化学




9280206 ＋ (陽性) A ＋ (陽性) A ヘモテクト NS-Prime 機器判定アルフレッサファーマ









9280314 ＋ (陽性) A ＋ (陽性) A FOBITWAKO 機器判定富士フイルム和光純薬


9280350 －（陰性） B ＋ (陽性) A OC センサー io 機器判定栄研化学


9280405 －（陰性） B ＋ (陽性) A OC センサー PLEDIA 機器判定栄研化学










表 3 定量測定参加各施設のカットオフ値と分析機器一覧

施設 No カットオフ値（ng/ml）測定装置試薬製造販売元

8000035 100.0 FOBITWAKO 富士フイルム和光純薬

8000037 150.0 OC センサー PLEDIA 栄研化学

9280001 100.0 OC センサー io 栄研化学

9280002 100.0 OC センサーμ 栄研化学

9280010 100.0 OC センサー DIANA 栄研化学



9280020 100.0 ヘモテクト NS-Plus C, C15, C30 アルフレッサファーマ










9280130 100.0 Quick Run 富士フイルム和光純薬



9280149 100.0 ヘモテクト NS-Prime アルフレッサファーマ





9280206 101.0 ヘモテクト NS-Prime アルフレッサファーマ













実測値(平均値)

ｇ便換算値（平均値）

陰陽判定

評価実測値(平均値)

ｇ便換算値（平均値）

陰陽判定

評価

8000035 145.7 36.4 ＋ A 666.7 166.7 ＋ A

8000037 111.1 22.2 － B 588.4 117.7 ＋ A

9280001 83.7 16.7 － B 529.7 105.9 ＋ A

9280002 111.0 22.2 ＋ A 552.0 110.4 ＋ A

9280010 134.0 26.8 ＋ A 755.3 151.1 ＋ A

9280012 83.0 16.6 － B 450.7 90.1 ＋ A

9280017 65.0 13.0 － B 420.0 84.0 ＋ A

9280020 100.7 20.1 ＋ A 465.3 93.1 ＋ A

9280031 103.7 20.7 － B 541.7 108.3 ＋ A

9280033 110.0 22.0 ＋ A 613.3 122.7 ＋ A

9280042 106.7 21.3 － B 638.3 127.7 ＋ A

9280051 107.3 21.5 ＋ A 553.3 110.7 ＋ A

9280083 107.0 26.8 ＋ A 529.7 132.4 ＋ A

9280091 94.7 18.9 ＋ A 615.3 123.1 ＋ A

9280095 95.3 19.1 － B 587.7 117.5 ＋ A

9280100 115.3 23.1 ＋ A 573.7 114.7 ＋ A

9280115 95.0 19.0 － B 632.7 126.5 ＋ A

9280130 189.7 47.4 ＋ A 943.3 235.8 ＋ A

9280135 111.7 22.3 ＋ A 627.7 125.5 ＋ A

9280143 102.0 20.4 ＋ A 605.7 121.1 ＋ A

9280149 97.3 19.5 － B 477.0 95.4 ＋ A

9280153 116.3 23.3 － B 555.3 111.1 ＋ A

9280160 103.0 20.6 ＋ A 581.0 116.2 ＋ A

9280169 123.0 24.6 ＋ A 582.3 116.5 ＋ A

9280176 83.7 16.7 － B 665.0 133.0 ＋ A

9280187 115.3 23.1 ＋ A 573.3 114.7 ＋ A

9280206 106.9 21.4 ＋ A 456.5 91.3 ＋ A

9280209 117.0 23.4 ＋ A 680.3 136.1 ＋ A

9280232 113.7 22.7 ＋ A 643.0 128.6 ＋ A

9280237 236.7 59.2 ＋ A 689.3 172.3 ＋ A

9280259 89.0 17.8 － B 403.0 80.6 ＋ A

9280265 104.1 20.8 ＋ A 550.3 110.1 ＋ A

9280280 215.0 53.8 ＋ A 541.0 135.3 ＋ A

9280305 87.0 17.4 － B 491.0 98.2 ＋ A

9280314 148.7 37.2 ＋ A 580.0 145.0 ＋ A

9280350 89.0 17.8 － B 608.0 121.6 ＋ A

9280405 68.0 13.6 － B 352.0 70.4 ＋ B

9280512 190.0 47.5 ＋ A 618.0 154.5 ＋ A

9780014 113.7 22.7 ＋ A 625.3 125.1 ＋ A

9780060 108.0 21.6 ＋ A 621.0 124.2 ＋ A

表4　定量測定結果単位；測定値(ng/mL), g便換算値（μg/g便）

試料U1 試料U2

施設No

表 5 実測値の機器別平均値と標準偏差(単位；ng/ml)

機器名メーカー名 N 数 U1

平均値

U2

平均値

U1

標準偏差

U2

標準偏差

OC センサー DIANA 栄研化学 13 101.6 565.7 18.5 100.7

OC センサー io 栄研化学 8 100.3 597.0 13.2 45.9

OC センサー PLEDIA 栄研化学 6 100.2 550.1 17.3 100.5

OC センサー μ 栄研化学 1 111 552 ― ―

QUICK RUN 富士フィルム和光純薬 4 207.8 697.9 22.6 174.5

FOBIT WAKO 富士フィルム和光純薬 3 133.8 592.1 23.3 69.3

ヘモテクト NS-Plus C,C15,C30 アルフレッサファーマ 3 108.3 566.3 8.2 108.1

ヘモテクト NS-Prime アルフレッサファーマ 2 102.1 466.8 ― ―

表 6 g 便換算値の機器別平均値と標準偏差(単位；㎍/g 便)

機器名メーカー名 N 数 U1

平均値

U2

平均値

U1

標準偏差

U2

標準偏差

OC センサー DIANA 栄研化学 13 20.3 113.1 3.7 20.1

OC センサー io 栄研化学 8 20.1 119.4 2.6 9.2

OC センサー PLEDIA 栄研化学 6 20.0 110.0 3.5 20.1

OC センサー μ 栄研化学 1 22.2 110.4 ― ―

QUICK RUN 富士フィルム和光純薬 4 52.0 174.5 5.7 43.6

FOBIT WAKO 富士フィルム和光純薬 3 33.4 148.0 5.8 17.3

ヘモテクト NS-Plus C,C15,C30 アルフレッサファーマ 3 21.7 113.3 1.6 21.6

ヘモテクト NS-Prime アルフレッサファーマ 2 20.4 93.4 ― ―

表 7 実測値の試薬別平均値と標準偏差（単位；ng/ml）

試薬名メーカー名 N

数

U1

平均値

U2

平均値

U1

標準偏差

U2

標準偏差

OC ヘモディアオートⅢ

（OC センサー DIANA・OC センサー PLEDIA）栄研化学 19 101.2 560.8 17.7 98.1

OC ヘモディアオート S

（OC センサー io・OC センサー μ）栄研化学 9 101.5 592.0 12.9 45.4

IG オート Hem

（QUICK RUN）富士フィルム和光純薬 4 207.8 697.9 22.6 174.5

L タイプ IG オート Hem

（FOBIT WAKO）富士フィルム和光純薬 3 133.8 592.1 23.3 69.3

ネスコートヘモ plus・ネスコート Hb オート

（ヘモテクト NS-Plus C,C15,C30・ヘモテクト

NS-Prime）

アルフレッサファーマ 5 105.8 526.5 7.5 94.2

表 8 g 便換算値の試薬別平均値と標準偏差（単位；µg/g 便）

試薬名メーカー名 N

数

U1

平均値

U2

平均値

U1

標準偏差

U2

標準偏差

OC ヘモディアオートⅢ

（OC センサー DIANA・OC センサー PLEDIA）栄研化学 19 20.2 112.2 3.5 19.6

OC ヘモディアオート S

（OC センサー io・OC センサー μ）栄研化学 9 20.3 118.4 2.6 9.1

IG オート Hem

（QUICK RUN）富士フィルム和光純薬 4 52.0 174.5 5.7 43.6

L タイプ IG オート Hem

（FOBIT WAKO）富士フィルム和光純薬 3 33.4 148.0 5.8 17.3

ネスコートヘモ plus・ネスコート Hb オート

（ヘモテクトNS-Plus C,C15,C30・ヘモテクトNS-Prime）アルフレッサファーマ 5 21.2 105.3 1.5 18.8

図 1 試料 U1 のｇ便換算値の機器別分布

0

10

20

30

40

50

60

70（

µg/g便）

OCセンサー DIANA

OCセンサー io

OCセンサー PLEDIA

OCセンサーμ

Quick Run

FOBITWAKO

ヘモテクト NS-Plus C, C15, C30ヘモテクト NS-Prime

図 2 試料 U2 の g 便換算値の機器別分布

0

50

100

150

200

250

（µg

/g便）


OCセンサー io

OCセンサー PLEDIA

OCセンサーμ

Quick Run

FOBITWAKO

ヘモテクト NS-Plus C, C15, C30

ヘモテクト NS-Prime

図 3 試料 U1・U2 の g 便換算値の分布

0

50

100

150

200

250

0 10 20 30 40 50 60 70

試料

U2(µ

g/g便

)

試料U1(µg/g便)


OCセンサー io

OCセンサーPLEDIA

OCセンサーμ

Quick Run

FOBITWAKO

ヘモテクト NS-

Plus C, C15, C30

ヘモテクト NS-

Prime

±25%平均値

±50%平均値

±2SD

【まとめ】

便潜血定量測定は採便容器の緩衝液量と採便量の割合が異なるためメーカー間差は大きい。このため実測値で施

設間のデータを評価するのは本来困難であり、施設間でのデータ相互利用するためには換算値を併記する必要がある

と考えられた。実際今年度も昨年度と同様、富士フィルム和光純薬の機器（QUICK RUN、FOBIT WAKO）が高値である傾

向が今年も見られた。しかしこれらの結果を除くと、実測値でも試料U1：100.2～111.0ng/ml、試料U2：466.8～597.0ng/ml

と実測値でも例年と比べてデータの収束が見られた。

今回試料 U1 の結果が例年と比べて低値であり、どうしても陰性と報告する施設が多くなった。そこで、同じ機器や試

薬、メーカー内での±3SD を重視して評価すると、全体的にデータの収束が見られ、比較的良い結果になった施設が多

かったように考えられる。ただし、図 3 で示すように、±25%平均値や±50%平均値の範囲と比較してもより幅広いので、

平均値から値が離れた施設には、±2SD 範囲内でも測定操作の確認をお願いしたい。

試薬間差や機器間差を是正し標準化を図るためにも、一部の機器で高めの値が認められている原因の解明など、今

後さらなる解析が必要であると考えられる。

【一般検査精度管理委員】

正宗大史（医療法人協和会協立病院）

大沼健一郎（神戸大学医学部附属病院）

尿沈渣フォトサーベイ

【はじめに】

尿検査の自動化として有形成分分析装置が普及しているが、機器で判定できる成分は限られ

ており、正確な尿沈渣検査の実施には目視検査は必要不可欠である。特に近年、尿沈渣検査に

関するエビデンスが蓄積されつつあり、病態をよく反映するものや診断に大きく寄与する成分が報

告されている。尿沈渣検査は染色時間も短く簡単に実施できる一方で、迅速な結果報告が求めら

れることが多く、正確かつ迅速な鑑別能力が必要とされる。我々一般検査研究班では、兵庫県内

における尿沈渣検査の鏡検レベルを把握するだけでなく、標準化の進展具合を把握することによ

り、より尿沈渣検査レベルを向上させることを目的としてフォトサーベイを実施している。

【実施項目】

フォトサーベイの出題は、「尿沈渣検査法 2010」に基づいて尿沈渣成分を 8 問出題した。日常検

査において遭遇する頻度が高く、かつ鑑別を要する成分を中心に設問を構成した。うち 2 問につ

いては、日常検査で遭遇する頻度は決して高くはないものの、病態を反映する成分として重要で

あり、診断に大きく寄与する可能性のある成分であることから、教育的な意味を込めて出題し評

価対象外とした。成分の鑑別にあたり、無染色と Sternheimer 染色の両方を掲載した。また、成分

の鑑別に関りの深い患者・検体情報を設問に付加した。

【解析方法】

設問毎に、参加件数、回答結果、回答内容毎の比率（％）を算出した。

【評価基準】

設問毎に、正解：A 評価、許容正解：B 評価、不正解：C 評価とした。尿沈渣成分については「尿

沈渣検査法 2010」の分類に従い正解と必要であれば許容正解を設定した。正解率が 80%を下回

った場合には対象外とすることを考慮した。

今年度からは、例年の正解数による評価ではなく、設問ごとの評価を実施した。

【参加施設数】

今年度は 89 施設（設問 6 は 88 施設）の参加を得た。

【解析結果】

①総評

参加施設全体の回答別集計結果と正解数の比率と分布を表 1 に示した。いずれの設問も正解

率は 92.1〜98.9%と非常に高く、兵庫県下で十分に標準化がなされていると考えられた。しかしな

がら、10施設でC評価が存在し、尿沈渣検査結果の精度保障に今後一層の努力が求められる結

果となった。これらの C 評価施設については、施設別に状況確認書を送付し、原因の究明と今後

の対策を実施した（表２）。

表 1 回答別集計結果

表 2 評価基準と C 評価施設・項目数、その対応について

評価基準

２０１8 年度

評価「C」

施設数と項目数

評価外施設への対応

一般検査フォトサーベイ

正解：A 評価

許容正解：B 評価

不正解：C 評価

10 施設、18 項目

状況確認報告書を送付して結果と不

正解の原因を考察いただき、その内

容を確認した

②設問の解説

設問の写真を解説する。例年同様、写真はすべて 400 倍で撮影されており、同一の条件で撮像

しており、画像間で大きさなどを比較可能な構成となっている。

設問 1 正解：004 扁平上皮細胞

画像の集塊をなす細胞は、細胞質が灰色調で厚め、細胞質表面構造は均質状である。集塊を

なしているが、核は中心性でN/C比は低く、異型性は認めない。またS染色では細胞質の染色性

は不良である。以上のことから、深層〜中層の扁平上皮細胞と考えられる。

設問 2 正解：050 コレステロール結晶

色調は無色で、歪めた正方形もしくは長方形の板状、角の欠けた形状を示す結晶であり、コレス

テロール結晶に特徴的な所見である。

設問 3 正解：006 尿細管上皮細胞

細胞質辺縁は凸凹とした顆粒状や鋸歯状を示し、細胞質表面構造は顆粒状である。核はやや

変性しているものも認められるが、赤血球大・濃縮状であり、偏在しているものや明瞭でないもの

がある。S 染色での染色性は良好であり、鋸歯型の尿細管上皮細胞と判定可能である。

設問 4 正解：025 脂肪円柱

無染色像でも辺縁構造を有する構造物であり、S 染色像においては青色に染色された硝子基質

をみとめ円柱と判定できる。内部に 3個以上封入されている顆粒は大小不同、光沢を有しており、

やや黄色調、さらに S 染色では染色されておらず脂肪顆粒と推測できる。以上のことから本成分

は脂肪円柱と判定できる。赤血球との鑑別は必要であるが、周囲の赤血球と比較すると、大きさ

は小さめのものが多く、不揃いである。脂肪顆粒については偏光顕微鏡で、マルタクロスと呼ばれ

る特徴的な重屈折性偏光像を確認すると容易に鑑別が可能である。

設問 5 正解：005 尿路上皮細胞

表面構造はザラザラ漆喰状でやや黄色調、辺縁構造は角状で平坦な部分が認められる。核は

白血球大とやや大きめ、ほぼ中心性である。N/C 比は大きめであるが、核の大きさは均一でクロ

マチン増量などもなく、異型性は否定できる。染色性は良好で、細胞質は濃赤紫色である。従って

中・深層の尿路上皮細胞と判定される。

設問 6 正解：014 異型細胞（尿路上皮癌細胞疑い）

許容正解：015 異型細胞（腺癌細胞疑い）

無染色における集塊を構成する細胞の細胞質の色調は黄色調である。細胞質表面構造はザラ

ザラ漆喰状である。S 染色での染色性は良好であり、細胞質は赤紫色に染色されている。核所見

は、N/C 比の増大、偏在性、大小不同、核形不整を認め、核小体が明瞭かつクロマチンの増量を

認める。以上のことから、異型細胞（尿路上皮癌細胞疑い）が考えられるが、異型細胞と判定して

いる、「015 異型細胞（腺癌細胞疑い）」も許容正解とした。

設問 7 正解：081 ヘモジデリン顆粒（評価対象外）

無染色像において、褐色調の顆粒成分であり、ヘモジデリン顆粒を含有した尿細管上皮細胞も

認められる。S 染色では、赤褐色に染色されている。ベルリン青染色で青藍色に染色されることを

確認する、あるいは患者背景を調査し溶血性疾患などを有する患者でないかなどの確認が必要

とされるが、まず、尿沈渣検査所見で疑いをかけることが重要である。定性検査で潜血反応陽性

でも沈渣で赤血球を認めないことが多い。

画像では、尿細管上皮細胞も許容正解となりうるかと考えられるが、尿沈渣検査において、ヘモ

ジデリン顆粒をまず疑うことこそがスクリーニング検査としての尿沈渣検査の重要な点と考え、ま

た、評価対象外の設問としていることから不正解とした。

設問 8 正解：082 マルベリー小体（評価対象外）

無染色像において、光沢のある顆粒成分で特徴的な渦巻き構造をもつことがわかる。大きさは

赤血球大で、S 染色でも染色されていない。このマルベリー小体はファブリー病患者で検出される

特徴的な成分であり、本疾患の診断に有用な成分である。成分は糖脂質と考えられているため、

偏光顕微鏡で重屈折性の偏光像を示すが、脂肪顆粒と比較すると弱いことが多い（自験例）。ま

た、脂肪顆粒は重症ネフローゼ患者で検出されることが多いが、本症例のように尿定性試験で潜

血反応陰性やタンパク陰性の時期でも尿中で検出される。定性試験の結果との比較も鑑別に有

用である。

【まとめ】

今回出題した設問も、尿沈渣検査標準法である「尿沈渣検査法 2000」・「尿沈渣検査法 2010」

に記載されている成分の特徴のみで鑑別が可能である。基本成分の鑑別に重点を置くサーベイ

において良好な成績をおさめられた施設が各設問で 90%を占めた結果は、兵庫県下の標準化が

達成されているものを反映していると考えられた。しかしながら、約一割の施設においては C 評価

となり、今後も引き続き研修会や鏡検実習あるいはコントロールサーベイを通じて学術・標準化活

動を充実させ、更なる高い目標を達成できるよう事業を継続させていかなければならないと考えら

れた。今年度は教育問題として、比較的出現頻度の低い成分ではあるが、マルベリー小体とヘモ

ジデリン顆粒を出題した。評価対象外としたもののこれらの成分は病態や疾患の存在をより直接

的に示唆する成分であり、確実に検出し報告することで次の検査につなげることが重要である。

特にマルベリー小体については、これまでに当技師会においても、講義に加え鏡検実習も実施し

ているが不正解の施設も見受けられ、今後より一層周知していく必要があると考えられた。今後

の課題として、基本成分の標準化の継続はもちろんのこと、異型細胞の鑑別法、細胞の変性像の

特徴、細胞成分に関して鑑別が必要であることのエビデンスに関してなど、研鑽を積むことができ

るよう学術事業の充実をはかることが重要であることを再認識した。

【一般検査精度管理委員】

正宗大史（医療法人協和会協立病院）

大沼健一郎（神戸大学医学部附属病院）

一般検査【U3】尿沈渣フォトサーベイ ①

【設問 1 】【設問 1 】

（フォト 1-A 無染色 X400）（フォト 1-B S 染色 X400）

【設問 2 】【設問 2 】


【設問 3 】【設問 3 】


平成３０年度（第３８回）兵庫県精度管理調査

一般検査【U3】尿沈渣フォトサーベイ ②

【設問 4 】【設問 4 】


【設問 5 】【設問 5 】


【設問 6 】【設問 6 】



一般検査【U3】尿沈渣フォトサーベイ ③

【設問 7 】【設問 7 】


【設問 8 】【設問 8 】



一般検査...2019/03/02 · 施設の結果が陰性となった。これら11...

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