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E ner gy Outlook International Institute for Carbon-Neutral Energy Research 炭素サイクル から 水素サイクル Special Interview 2013 OCTOBER 一橋大学 特任教授 兼 資源エネルギー PJ ディレクター 電気通信大学 客員教授 RIETI コンサルティングフェロー 安藤 晴彦 九州大学カーボンニュートラル・ エネルギー国際研究所 水素適合材料研究部門 主任研究者 教授 杉村 丈一 ~すぐそこまで来た 近未来エネルギーへの転換を加速する~ Haruhiko Ando Joichi Sugimura

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Page 1: EnergyOutlook OCTOBER Energy Outlooki2cner.kyushu-u.ac.jp/upload_file/prpub/ENERGYOUTLOOK...Energy Outlook Special Interview 炭素のサイクルから水素のサイクルへ C H

Energy OutlookInternational Institute for Carbon-Neutral Energy Research

炭素のサイクルから水素のサイクルへ

Special Interview

2013OCTOBER

一橋大学 特任教授 兼 資源エネルギー PJ ディレクター

電気通信大学 客員教授RIETI コンサルティングフェロー

安藤 晴彦九州大学カーボンニュートラル・

エネルギー国際研究所水素適合材料研究部門 主任研究者 教授

杉村 丈一

~すぐそこまで来た

近未来エネルギーへの転換を加速する~

Haruhiko Ando

Joichi Sugimura

EnergyOutlook 表紙 A4 210×297mm

Page 2: EnergyOutlook OCTOBER Energy Outlooki2cner.kyushu-u.ac.jp/upload_file/prpub/ENERGYOUTLOOK...Energy Outlook Special Interview 炭素のサイクルから水素のサイクルへ C H

研究者が自然に集まってくる場、

それがI

2CNER

だと納得しました。

杉村 

いよいよ2015年から

燃料電池自動車が市場投入されま

す。これに備えて、今年度から水素

ステーションの整備が本格化し、

水素時代の幕開けを迎えるわけ

ですが、改めて水素エネルギー

の位置づけについてお聞かせく

ださい。

安藤 

水素はクリーンな近未来の

エネルギー媒体として、極めて重要

なポジションにあります。日本で

はあまり知られていませんが、

原油輸入の生命線となるホルムズ

海峡は、イラン問題で危機的状況

にあります。万一、ここが封鎖さ

れれば日本への原油・天然ガス

輸送がほぼストップするでしょう。

原子力発電所も停止している現状

を踏まえるなら、たちまち日本中が

計画停電に陥りかねません。

杉村 

そこまで切羽詰まった状況だ

とは、ほとんど認識されていません

ね。それでなくとも発電用の燃料費

高騰で、日本の貿易収支は赤字に

なっている。石油や天然ガスに

替わるエネルギー開発は、日本に

とって喫緊の課題です。

安藤 

エネルギーの安全保障を考え

る時、最も重要な論点は多様性の

確保です。例えば、ドイツのメルケル

首相が進めている「デザーテック計画」

があります。

杉村 

北アフリカのサハラ砂漠で

太陽光発電を行い、その電力をドイツ

まで引っ張ってくる壮大なプラン

ですね。

安藤 

欧州と北アフリカが一体と

なって実に52兆円もの投資を企て

ています。しかも環境先進国であ

りながら、その主目的は

CO2

削減

だけではない。ロシアに依存する

天然ガスの途絶に対するエネルギー

セキュリティ確保こそが第一で、

第二が大型投資による欧州と

北アフリカ経済の活性化、第三

が水資源の創出で、C

O2

削減は

最後です。

杉村 

エネルギーセキュリティ上、

水素は間違いなくキーファクターで

す。水素の入手方法については、どう

お考えでしょうか。

安藤 

画期的技術を日本企業が

開発済みです。触媒を使って

水素をトルエンに添加し、通常

のタンカーで常温・常圧で運べます。

デモプラントを既に自力で作り、

東京湾にクリーンな水素発電所を

建設します。当面は中東や東南アジア

の余剰水素を活用しますが、世界中の

膨大な未活用水力・風力からの

「カーボンフリー水素」が視野に入り

ます。

杉村 

ただ、水素普及を進める上で

は、まだいくつか課題があります。

水素を貯蔵するタンクや配管など

のインフラ整備をどう進めていく

か。我々の研究テーマの一つ、金属

材料の水素脆化など悩ましい問題

があります。

杉村丈一(以下・杉村) 

安藤先生が

燃料電池や水素に関わることになっ

た、そもそものきっかけは何だった

のでしょうか。

安藤晴彦(以下・安藤) 

1984年

頃、大学生時代に書店の本棚で『燃料

電池』を見かけて読んだのが最初の

出会いです。面白い技術だと思いま

した。

杉村 

私は十代で経験したオイル

ショックにより、エネルギーに対す

る関心が芽生えました。1974年、

サンシャイン計画

がスタートした時

には、まだ学生でしたが太陽光発電

や水素に興味を持ちました。

安藤 

仕事として燃料電池と関わるよ

うになったのは2003年からです。

資源エネルギー庁の新設の企画官に

就任し、燃料電池と国際戦略の担当

となりました。ブッシュ大統領が

年頭の一般教書演説で「クリーン

な水素燃料電池自動車の開発で

世界の先頭に立つ」と打ち上げ

たのを受けて、日本も早急な対応を

迫られたのです。

杉村 

そこで材料としての水素研究

を進める施設造りに奔走されたので

すね。

安藤 

何としても世界で唯一無二の

水素先端材料の研究機関を創るんだ

と。これが後の産業技術総合研究所

水素材料先端科学研究センター(現:

九州大学水素材料先端科学研究

センター(H

YDROGEN

IUS

))とな

るわけですが、そのためには日本で

水素研究が最も進んでいた九州大学

のお力が欠かせないと考えました。

杉村 

茨城県つくば市の産業総合

技術研究所におられた秋葉悦男先生

にも、安藤さんが勧誘に行かれたと

伺いました。

安藤 

大雪の日に伺ってやんわりと

断られたのに、いつの間にかI

2CNER

にいらっしゃる(微笑)。燃料電池や

水素に熱い志を持つサムライ

~すぐそこまで来た近未来エネルギーへの転換を加速する~

02 01

燃料電池や水素に関わる

サムライが集まる梁山泊

西原 正通(にしはら まさみち) 

Energy Outlook Energy Outlook

エネルギーへの転換を加速する~Special InterviewSpecial Interview

一橋大学 特任教授 兼 資源エネルギー PJ ディレクター電気通信大学 客員教授RIETI コンサルティングフェロー

安藤 晴彦

Haruhiko Ando

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所水素適合材料研究部門 主任研究者 教授

杉村 丈一

JoichiSugimura

今そこにある

エネルギー危機と

救世主としての水素

求められる

炭素のサイクルから

水素のサイクルへの転換

Energy Out look

Special Interview

のサイクルから炭素 のサイクルへ水素

C

H2

1859 年、アメリカ・ペンシルバニア州で石油が掘り当てられた。 これ以降、人類と石油の蜜月時代が始まる。

その後約 150 年間、我々は石油から膨大な恩恵を受けてきたけれども石油は諸刃の剣。

いま世界に、資源枯渇問題と地球温暖化問題を突きつけている。

近未来のクリーンなエネルギー媒体、「水素」への転換は、どう進めれば良いのだろうか。

1859 年、アメリカ・ペンシルバニア州で石油が掘り当てられた。 これ以降、人類と石油の蜜月時代が始まる。

その後約 150 年間、我々は石油から膨大な恩恵を受けてきたけれども石油は諸刃の剣。

いま世界に、資源枯渇問題と地球温暖化問題を突きつけている。

近未来のクリーンなエネルギー媒体、「水素」への転換は、どう進めれば良いのだろうか。

Page 3: EnergyOutlook OCTOBER Energy Outlooki2cner.kyushu-u.ac.jp/upload_file/prpub/ENERGYOUTLOOK...Energy Outlook Special Interview 炭素のサイクルから水素のサイクルへ C H

研究者が自然に集まってくる場、

それがI

2CNER

だと納得しました。

杉村 

いよいよ2015年から

燃料電池自動車が市場投入されま

す。これに備えて、今年度から水素

ステーションの整備が本格化し、

水素時代の幕開けを迎えるわけ

ですが、改めて水素エネルギー

の位置づけについてお聞かせく

ださい。

安藤 

水素はクリーンな近未来の

エネルギー媒体として、極めて重要

なポジションにあります。日本で

はあまり知られていませんが、

原油輸入の生命線となるホルムズ

海峡は、イラン問題で危機的状況

にあります。万一、ここが封鎖さ

れれば日本への原油・天然ガス

輸送がほぼストップするでしょう。

原子力発電所も停止している現状

を踏まえるなら、たちまち日本中が

計画停電に陥りかねません。

杉村 

そこまで切羽詰まった状況だ

とは、ほとんど認識されていません

ね。それでなくとも発電用の燃料費

高騰で、日本の貿易収支は赤字に

なっている。石油や天然ガスに

替わるエネルギー開発は、日本に

とって喫緊の課題です。

安藤 

エネルギーの安全保障を考え

る時、最も重要な論点は多様性の

確保です。例えば、ドイツのメルケル

首相が進めている「デザーテック計画」

があります。

杉村 

北アフリカのサハラ砂漠で

太陽光発電を行い、その電力をドイツ

まで引っ張ってくる壮大なプラン

ですね。

安藤 

欧州と北アフリカが一体と

なって実に52兆円もの投資を企て

ています。しかも環境先進国であ

りながら、その主目的は

CO2

削減

だけではない。ロシアに依存する

天然ガスの途絶に対するエネルギー

セキュリティ確保こそが第一で、

第二が大型投資による欧州と

北アフリカ経済の活性化、第三

が水資源の創出で、C

O2

削減は

最後です。

杉村 

エネルギーセキュリティ上、

水素は間違いなくキーファクターで

す。水素の入手方法については、どう

お考えでしょうか。

安藤 

画期的技術を日本企業が

開発済みです。触媒を使って

水素をトルエンに添加し、通常

のタンカーで常温・常圧で運べます。

デモプラントを既に自力で作り、

東京湾にクリーンな水素発電所を

建設します。当面は中東や東南アジア

の余剰水素を活用しますが、世界中の

膨大な未活用水力・風力からの

「カーボンフリー水素」が視野に入り

ます。

杉村 

ただ、水素普及を進める上で

は、まだいくつか課題があります。

水素を貯蔵するタンクや配管など

のインフラ整備をどう進めていく

か。我々の研究テーマの一つ、金属

材料の水素脆化など悩ましい問題

があります。

杉村丈一(以下・杉村) 

安藤先生が

燃料電池や水素に関わることになっ

た、そもそものきっかけは何だった

のでしょうか。

安藤晴彦(以下・安藤) 

1984年

頃、大学生時代に書店の本棚で『燃料

電池』を見かけて読んだのが最初の

出会いです。面白い技術だと思いま

した。

杉村 

私は十代で経験したオイル

ショックにより、エネルギーに対す

る関心が芽生えました。1974年、

サンシャイン計画

がスタートした時

には、まだ学生でしたが太陽光発電

や水素に興味を持ちました。

安藤 

仕事として燃料電池と関わるよ

うになったのは2003年からです。

資源エネルギー庁の新設の企画官に

就任し、燃料電池と国際戦略の担当

となりました。ブッシュ大統領が

年頭の一般教書演説で「クリーン

な水素燃料電池自動車の開発で

世界の先頭に立つ」と打ち上げ

たのを受けて、日本も早急な対応を

迫られたのです。

杉村 

そこで材料としての水素研究

を進める施設造りに奔走されたので

すね。

安藤 

何としても世界で唯一無二の

水素先端材料の研究機関を創るんだ

と。これが後の産業技術総合研究所

水素材料先端科学研究センター(現:

九州大学水素材料先端科学研究

センター(H

YDROGEN

IUS

))とな

るわけですが、そのためには日本で

水素研究が最も進んでいた九州大学

のお力が欠かせないと考えました。

杉村 

茨城県つくば市の産業総合

技術研究所におられた秋葉悦男先生

にも、安藤さんが勧誘に行かれたと

伺いました。

安藤 

大雪の日に伺ってやんわりと

断られたのに、いつの間にかI

2CNER

にいらっしゃる(微笑)。燃料電池や

水素に熱い志を持つサムライ

~すぐそこまで来た近未来エネルギーへの転換を加速する~

02 01

燃料電池や水素に関わる

サムライが集まる梁山泊

西原 正通(にしはら まさみち) 

Energy Outlook Energy Outlook

エネルギーへの転換を加速する~Special InterviewSpecial Interview

一橋大学 特任教授 兼 資源エネルギー PJ ディレクター電気通信大学 客員教授RIETI コンサルティングフェロー

安藤 晴彦

Haruhiko Ando

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所水素適合材料研究部門 主任研究者 教授

杉村 丈一

JoichiSugimura

今そこにある

エネルギー危機と

救世主としての水素

求められる

炭素のサイクルから

水素のサイクルへの転換

Energy Out look

Special Interview

のサイクルから炭素 のサイクルへ水素

C

H2

1859 年、アメリカ・ペンシルバニア州で石油が掘り当てられた。 これ以降、人類と石油の蜜月時代が始まる。

その後約 150 年間、我々は石油から膨大な恩恵を受けてきたけれども石油は諸刃の剣。

いま世界に、資源枯渇問題と地球温暖化問題を突きつけている。

近未来のクリーンなエネルギー媒体、「水素」への転換は、どう進めれば良いのだろうか。

1859 年、アメリカ・ペンシルバニア州で石油が掘り当てられた。 これ以降、人類と石油の蜜月時代が始まる。

その後約 150 年間、我々は石油から膨大な恩恵を受けてきたけれども石油は諸刃の剣。

いま世界に、資源枯渇問題と地球温暖化問題を突きつけている。

近未来のクリーンなエネルギー媒体、「水素」への転換は、どう進めれば良いのだろうか。

Page 4: EnergyOutlook OCTOBER Energy Outlooki2cner.kyushu-u.ac.jp/upload_file/prpub/ENERGYOUTLOOK...Energy Outlook Special Interview 炭素のサイクルから水素のサイクルへ C H

01

02

安藤 

ノーベル物理学賞受賞者でも

あるスティーブン・チュー前米国

エネルギー省長官は、着任当初、水素社会

の実現には製造、貯蔵、供給インフラ、

燃料電池という4つの課題を同時解決

しなければならず、「天使だってミラクル

は3回まで」と否定的でした。ご退任前に

は少し前向きに変わられたようですが。

杉村 

水素脆化のほか、シールなどの

部品の材料特性やトライボロジー、

水素の物性自体なども十分に解明さ

れているとは言えないのが現状です。

安藤 

九州大学のご奮闘に大いに期待

しております。水素問題に関するあ

らゆる研究領域に横断的かつ総合的

に取り組む世界で唯一無二のラボ

が、ここ九州大学にあります。燃料電池

と水素の問題は、日本のためではな

く、人類の未来のために解決すべき

重要課題だと考えています。

杉村 今後、燃料電池を一般家庭に普及さ

せていくには、どんな課題があるでしょうか。

安藤 

利便性、経済性を語る前に、

まず安全性です。安全性が確保されな

い技術を、一般に普及させてはならな

い。そこで考えなければならないのは、

確保すべき安全性のレベルです。普及

のためには経済合理性も併せて考慮す

ることが必要です。安全性に関する

合理的な線引が求められます。

杉村 

安全性に関する国際的な基準

が必要になるわけですが、そこに国

ごとの思惑が絡んでくると話がやや

こしくなりますね。

安藤 

国際標準をまとめる際には

サイエンティストによる世界共通の

理解がベースとなります。九州大学は、既

に世界のコアとして活躍されています。

杉村 

国レベルの価値観の違いを

クリアするためにサイエンスによる

基準を予め用意しておく。その国際標準

の礎を作る世界的機関として、まず

HYDROGEN

IUS

を構想された。

そして、材料問題を研究する

HYDROGENIUS

に加えて、低炭素

社会実現に向けた取り組みを行う

I2CNER

も具現化されました。

安藤 

日本の規制レベルが世界と比

べて高すぎるという話もあります

が、科学の目で合意した世界的な

共通理解があれば、いずれそのライン

に向けた合理化が進むはずです。そ

うなれば日本企業が世界で活躍す

る機会も一気に広がるでしょう。

杉村 

水素に対するネガティブな

イメージを払拭することも、私たち

科学者の義務ですね。

安藤 

安心は情緒的な問題、安全は

科学的な問題であり、この2つは切

り離して議論する必要があります。

福岡県の麻生渡前知事がリードされ、

小川

洋知事が引き継がれた「福岡

水素戦略(Hy-Life

プロジェクト)」

は、水素の安全性を訴求する素晴ら

しいプロモーションだと思います。

杉村 

一般家庭への普及を考えれば、

エネファームの存在も大きいですね。ま

だ使ったこともない人に、水素は安全だ

から安心しなさいといっても説得力があ

りません。けれども隣の家がエネファーム

を使っていれば、安心を実感できます。

安藤 

エネファームには、産業界も

経済産業省も力を入れており、8万台

までの普及は見込まれています。こ

うした普及活動の一方で、I 2CN

ER

はぜひ最先端研究を強力に推進し

ていただきたいのです。水素脆性、

き裂進展、延性破壊などの問題を更

に解明するには、量子力学まで踏み

込む必要も出てくるでしょう。

最先端の水素研究に関して、引き

続き世界をリードしていただきた

いですし、そのためにも若い研究者

を、どんどん世界に送り出してい

ただきたいと願っています。

杉村 

未来を創るのは、間違いなく

若者です。I

2CNER

には海外から

着任している研究者も多く、

コスモポリタンな雰囲気に満ちて

います。恵まれた環境を活かして、

世界で勝負できる研究者を育てるこ

と、これが我々の義務と心得ています。

熱活性化遅延蛍光を利用した高効率有機発光ダイオードの有望な動作安定性Hajime Nakanotani, Kensuke Masui, Junichi Nishide, Takumi Shibata, Chihaya AdachiScientific Reports, 3, 2127, P.1-5 (2013) DOI: 10.1038/srep02127

図1.TADF-OLEDの発光特性

図 2.TADF-OLEDの輝度減衰特性

機発光ダイオード(OLED)は、高い EL 効率、フレキシビリティー、低コスト製造が見込まれることから、次世代ディスプレイや照明用途として魅力的

な発光デバイスである。最近、熱活性化遅延蛍光(TADF)過程により発光する材料を用いて高効率な OLED を実現する新しい手段が実証された。しかし、TADF 過程で発光するデバイスに信頼性があるかどうかは不明であった。今回、我々は、キャリア再結合位置を制御することによって、トリス(2-フェニルピリジナト)イリジウム (III) を用いた従来のリン光 OLED に匹敵する耐久寿命が得られることを実証した。この結果は、TADF が電気励起下において本質的に安定であることを示しており、今後、周囲材料を最適化していくことによって、デバイスの信頼性はさらに向上すると期待される。

04 03Energy Outlook Energy Outlook

1985 年東京大学法学部卒業後、通産省入省。2001 年内閣府企画官(経済財政)、2003 年資源エネルギー庁企画官(国際戦略・燃料電池担当)、2004 年燃料電池推進室長、2005 年新エネルギー対策課長、2008 年内閣府参事官(科学技術)、2010 年内閣参事官(知的財産)などを経て、2012 年から現職。

安藤 晴彦一橋大学 特任教授 兼資源エネルギーPJディレクター電気通信大学 客員教授RIETI コンサルティングフェロー

1981 年東京大学工学部航空学科卒業、1983 年東京大学大学院工学系研究科航空学専門課程修士課程修了、1986 年東京大学大学院工学系研究科航空学専門課程博士課程修了後、九州大学工学部講師、1988 年同助教授、2004 年同大学院工学研究科教授。2006 年から、(独)産業技術総合研究所水素材料先端科学研究センター(HYDROGENIUS)の水素トライボロジー研究チーム長を兼務。2010 年九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER) 主任研究者を兼務。2013 年から現職。

杉村 丈一工学博士九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所水素適合材料研究部門 主任研究者 教授 九州大学水素材料先端科学研究センター長 

高圧水素ガス用耐水素透過皮膜Junichiro Yamabe, Saburo Matsuoka, Yukitaka MurakamiInternational Journal of Hydrogen Energy, 38, P.10141-10154(2013) DOI: 10.1016/j.ijhydene.2013.05.152

自の配合を施したアルミ合金を用いて、アルミ系二層皮膜(アルミナ/ Fe-Al合金)とアルミ系三層皮膜(アルミナ

/アルミニウム/ Fe-Al 合金)を基材(SUS304)の全面に形成した。皮膜試験片を圧力 10 ~ 100 MPa,温度 270 ℃の水素ガス中に 200時間曝露し、皮膜の耐水素侵入特性を調査した。アルミ系二層皮膜では、水素ガス圧力の増加に伴い、皮膜の耐水素侵入特性は低下した。これに対して、アルミ系三層皮膜では、圧力 10 ~ 100 MPa において、優れた耐水素侵入特性を示した。

独 図1.皮膜構造とビッカース圧痕の光学顕微鏡写真(基材:SUS304)。アルミナ層は薄い(~ 1 nm)ため、光学顕微鏡では観察できない。純アルミニウムを用いた皮膜と比べて、独自の配合を施した皮膜は薄く、皮膜を構成する Fe-Al 合金層の靭性が高い。

図 2. 水素侵入量(CH)とフガシティー( )の関係。アルミ系二層皮膜とアルミ系三層皮膜を全面に付与した円柱試験片(基材:SUS304)とパイプ試験片(基材:SUS304)を圧力 10~ 100 MPa、温度 270 ℃の水素ガス中に 200時間曝露し、皮膜の耐水素侵入特性を調査した。

f

Profile Profile

Energy Out look

Special Interview

今後のI

2CNER

求めること

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01

02

安藤 

ノーベル物理学賞受賞者でも

あるスティーブン・チュー前米国

エネルギー省長官は、着任当初、水素社会

の実現には製造、貯蔵、供給インフラ、

燃料電池という4つの課題を同時解決

しなければならず、「天使だってミラクル

は3回まで」と否定的でした。ご退任前に

は少し前向きに変わられたようですが。

杉村 

水素脆化のほか、シールなどの

部品の材料特性やトライボロジー、

水素の物性自体なども十分に解明さ

れているとは言えないのが現状です。

安藤 

九州大学のご奮闘に大いに期待

しております。水素問題に関するあ

らゆる研究領域に横断的かつ総合的

に取り組む世界で唯一無二のラボ

が、ここ九州大学にあります。燃料電池

と水素の問題は、日本のためではな

く、人類の未来のために解決すべき

重要課題だと考えています。

杉村 今後、燃料電池を一般家庭に普及さ

せていくには、どんな課題があるでしょうか。

安藤 

利便性、経済性を語る前に、

まず安全性です。安全性が確保されな

い技術を、一般に普及させてはならな

い。そこで考えなければならないのは、

確保すべき安全性のレベルです。普及

のためには経済合理性も併せて考慮す

ることが必要です。安全性に関する

合理的な線引が求められます。

杉村 

安全性に関する国際的な基準

が必要になるわけですが、そこに国

ごとの思惑が絡んでくると話がやや

こしくなりますね。

安藤 

国際標準をまとめる際には

サイエンティストによる世界共通の

理解がベースとなります。九州大学は、既

に世界のコアとして活躍されています。

杉村 

国レベルの価値観の違いを

クリアするためにサイエンスによる

基準を予め用意しておく。その国際標準

の礎を作る世界的機関として、まず

HYDROGEN

IUS

を構想された。

そして、材料問題を研究する

HYDROGENIUS

に加えて、低炭素

社会実現に向けた取り組みを行う

I2CNER

も具現化されました。

安藤 

日本の規制レベルが世界と比

べて高すぎるという話もあります

が、科学の目で合意した世界的な

共通理解があれば、いずれそのライン

に向けた合理化が進むはずです。そ

うなれば日本企業が世界で活躍す

る機会も一気に広がるでしょう。

杉村 

水素に対するネガティブな

イメージを払拭することも、私たち

科学者の義務ですね。

安藤 

安心は情緒的な問題、安全は

科学的な問題であり、この2つは切

り離して議論する必要があります。

福岡県の麻生渡前知事がリードされ、

小川

洋知事が引き継がれた「福岡

水素戦略(H

y-Life

プロジェクト)」

は、水素の安全性を訴求する素晴ら

しいプロモーションだと思います。

杉村 

一般家庭への普及を考えれば、

エネファームの存在も大きいですね。ま

だ使ったこともない人に、水素は安全だ

から安心しなさいといっても説得力があ

りません。けれども隣の家がエネファーム

を使っていれば、安心を実感できます。

安藤 

エネファームには、産業界も

経済産業省も力を入れており、8万台

までの普及は見込まれています。こ

うした普及活動の一方で、I 2CN

ER

はぜひ最先端研究を強力に推進し

ていただきたいのです。水素脆性、

き裂進展、延性破壊などの問題を更

に解明するには、量子力学まで踏み

込む必要も出てくるでしょう。

最先端の水素研究に関して、引き

続き世界をリードしていただきた

いですし、そのためにも若い研究者

を、どんどん世界に送り出してい

ただきたいと願っています。

杉村 

未来を創るのは、間違いなく

若者です。I

2CNER

には海外から

着任している研究者も多く、

コスモポリタンな雰囲気に満ちて

います。恵まれた環境を活かして、

世界で勝負できる研究者を育てるこ

と、これが我々の義務と心得ています。

熱活性化遅延蛍光を利用した高効率有機発光ダイオードの有望な動作安定性Hajime Nakanotani, Kensuke Masui, Junichi Nishide, Takumi Shibata, Chihaya AdachiScientific Reports, 3, 2127, P.1-5 (2013) DOI: 10.1038/srep02127

図1.TADF-OLEDの発光特性

図 2.TADF-OLEDの輝度減衰特性

機発光ダイオード(OLED)は、高い EL 効率、フレキシビリティー、低コスト製造が見込まれることから、次世代ディスプレイや照明用途として魅力的

な発光デバイスである。最近、熱活性化遅延蛍光(TADF)過程により発光する材料を用いて高効率な OLED を実現する新しい手段が実証された。しかし、TADF 過程で発光するデバイスに信頼性があるかどうかは不明であった。今回、我々は、キャリア再結合位置を制御することによって、トリス(2-フェニルピリジナト)イリジウム (III) を用いた従来のリン光 OLED に匹敵する耐久寿命が得られることを実証した。この結果は、TADF が電気励起下において本質的に安定であることを示しており、今後、周囲材料を最適化していくことによって、デバイスの信頼性はさらに向上すると期待される。

04 03Energy Outlook Energy Outlook

1985 年東京大学法学部卒業後、通産省入省。2001 年内閣府企画官(経済財政)、2003 年資源エネルギー庁企画官(国際戦略・燃料電池担当)、2004 年燃料電池推進室長、2005 年新エネルギー対策課長、2008 年内閣府参事官(科学技術)、2010 年内閣参事官(知的財産)などを経て、2012 年から現職。

安藤 晴彦一橋大学 特任教授 兼資源エネルギーPJディレクター電気通信大学 客員教授RIETI コンサルティングフェロー

1981 年東京大学工学部航空学科卒業、1983 年東京大学大学院工学系研究科航空学専門課程修士課程修了、1986 年東京大学大学院工学系研究科航空学専門課程博士課程修了後、九州大学工学部講師、1988 年同助教授、2004 年同大学院工学研究科教授。2006 年から、(独)産業技術総合研究所水素材料先端科学研究センター(HYDROGENIUS)の水素トライボロジー研究チーム長を兼務。2010 年九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER) 主任研究者を兼務。2013 年から現職。

杉村 丈一工学博士九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所水素適合材料研究部門 主任研究者 教授 九州大学水素材料先端科学研究センター長 

高圧水素ガス用耐水素透過皮膜Junichiro Yamabe, Saburo Matsuoka, Yukitaka MurakamiInternational Journal of Hydrogen Energy, 38, P.10141-10154(2013) DOI: 10.1016/j.ijhydene.2013.05.152

自の配合を施したアルミ合金を用いて、アルミ系二層皮膜(アルミナ/ Fe-Al合金)とアルミ系三層皮膜(アルミナ

/アルミニウム/ Fe-Al 合金)を基材(SUS304)の全面に形成した。皮膜試験片を圧力 10 ~ 100 MPa,温度 270 ℃の水素ガス中に 200時間曝露し、皮膜の耐水素侵入特性を調査した。アルミ系二層皮膜では、水素ガス圧力の増加に伴い、皮膜の耐水素侵入特性は低下した。これに対して、アルミ系三層皮膜では、圧力 10 ~ 100 MPa において、優れた耐水素侵入特性を示した。

独 図1.皮膜構造とビッカース圧痕の光学顕微鏡写真(基材:SUS304)。アルミナ層は薄い(~ 1 nm)ため、光学顕微鏡では観察できない。純アルミニウムを用いた皮膜と比べて、独自の配合を施した皮膜は薄く、皮膜を構成する Fe-Al 合金層の靭性が高い。

図 2. 水素侵入量(CH)とフガシティー( )の関係。アルミ系二層皮膜とアルミ系三層皮膜を全面に付与した円柱試験片(基材:SUS304)とパイプ試験片(基材:SUS304)を圧力 10~ 100 MPa、温度 270 ℃の水素ガス中に 200時間曝露し、皮膜の耐水素侵入特性を調査した。

f

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Special Interview

今後のI

2CNER

求めること

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06 05Energy Outlook Energy Outlook

図1.地震探査データの位置 

図2.これまでの弾性波速度(上)と本研究で推定した弾性波速度(下)

メタルボロハイドライドの水素再吸蔵特性に関する比較研究Hai-Wen Li, Etsuo Akiba, Shin-ichi OrimoJournal of Alloys and Compounds, in press (2013) DOI: 10.1016/j.jallcom.2013.03.264

図1.Mg(BH4)2における水素再吸蔵量の温度依存性

図 2.Mg(BH4)2およびCa(BH4)2の水素放出・再吸蔵反応

密度水素貯蔵材料として期待されるMg(BH4)2と Ca(BH4)2 において、40 MPa の水素を用いた水素再吸蔵特性の比較を

実施した。473 K の比較的低い水素再吸蔵温度でもMg(BH4)2の生成が確認され、再吸蔵温度の上昇に伴い水素再吸蔵量が増加し、673 K で最大値(7.6質量%、51%のMg(BH4)2に相当)となった。一方、Ca(BH4)2では、90% 以上の水素再吸蔵量が確認され、Mg(BH4)2より優れた水素再吸蔵特性を示した。両者の水素放出・再吸蔵特性の比較から、水素放出生成物の制御が再吸蔵特性を向上させるために重要なアプローチであると示唆される。

海底地震計データへの波形トモグラフィの適用:高精度化に向けた手法開発R. Kamei, R. G. Pratt and T. TsujiGeophys. J. Int., 194, P.1250‒1280(2013)  DOI: 10.1093/gji/ggt165

入 CO₂をモニタリングする際には、地下の弾性波速度の変化を利用することが有効であることから、弾性波速度を高解像度に推定することが求められ

ている。我々は波形トモグラフィとよばれる手法を改良することにより、深部の弾性波速度を超高解像度に推定することを可能にした。本手法を南海トラフの海底地震計データに適用した結果、深部地震断層周辺の弾性波速度構造を高精度に推定することに成功した。推定された弾性波速度構造から、深部地震断層やプレート境界の位置が初めて明らかになり、これまでの巨大地震断層の解釈が見直された。

開発した燃料電池の耐久テスト結果。(赤)ポリビニルホスホン酸を用いた燃料電池、(黒)リン酸を用いた燃料電池。

ポリビニルホスホン酸をドープしたポリベンズイミダゾールからなる超高耐久性の高温型固体高分子形燃料電池開発Mohamed R. Berber, Tsuyohiko Fujigaya, Kazunari Sasaki , Naotoshi NakashimaSCIENTIFIC REPORTS 3 : 1764 P1-7(2013) DOI: 10.1038/srep01764

料電池の低コスト化のために、高温・無加湿運転が必要である。ポリベンズイミダゾール(PBI)にリ

ン酸を含浸した電解質は高温無加湿でも水素イオンを輸送するため有望であるが、液体リン酸の漏出により劣化が生じる。そこで、リン酸に替えて固体のポリビニルホスホン酸を導入した新規電極触媒および電解質膜を開発し、リン酸使用時より飛躍的な耐久性向上を実現した。現行触媒を使った燃料電池と比較し、100 倍以上の耐久性を達成した。

化学的膨張とホスト陽イオン半径に対する依存性Dario Marrocchelli, Sean R. Bishop, John KilnerJ. Mater. Chem. A, 1, P.7673‒7680(2013) DOI: 10.1039/c3ta11020f

図1.ZrO2における空孔周囲のイオン緩和

図 2.酸素空孔半径がCe4+の近くで最大

極の格子欠陥 ( 化学的膨張 ) は、触媒作用を利用している固体酸化物形燃料電池 (SOFC) の電極および酸素吸蔵材

のようなエネルギー関連材料の破壊の原因になり う る。我 々 は、 酸 素 欠 陥 の 周 囲 の 緩 和パ タ ー ン ( 図 1 ) における蛍石型立方晶構造の酸化物によるホスト陽イオン・イオン半径(rh)の 機能を調べた(図2)。計算的アプローチにより、酸素空孔周辺の格子緩和は、陽イオンサイズに著しく依存することを示した。空孔緩和が、酸素イオン伝導性におよぼすインパクトについて考察した。

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図1.地震探査データの位置 

図2.これまでの弾性波速度(上)と本研究で推定した弾性波速度(下)

メタルボロハイドライドの水素再吸蔵特性に関する比較研究Hai-Wen Li, Etsuo Akiba, Shin-ichi OrimoJournal of Alloys and Compounds, in press (2013) DOI: 10.1016/j.jallcom.2013.03.264

図1.Mg(BH4)2における水素再吸蔵量の温度依存性

図 2.Mg(BH4)2およびCa(BH4)2の水素放出・再吸蔵反応

密度水素貯蔵材料として期待されるMg(BH4)2と Ca(BH4)2 において、40 MPa の水素を用いた水素再吸蔵特性の比較を

実施した。473 K の比較的低い水素再吸蔵温度でもMg(BH4)2の生成が確認され、再吸蔵温度の上昇に伴い水素再吸蔵量が増加し、673 K で最大値(7.6質量%、51%のMg(BH4)2に相当)となった。一方、Ca(BH4)2では、90% 以上の水素再吸蔵量が確認され、Mg(BH4)2より優れた水素再吸蔵特性を示した。両者の水素放出・再吸蔵特性の比較から、水素放出生成物の制御が再吸蔵特性を向上させるために重要なアプローチであると示唆される。

海底地震計データへの波形トモグラフィの適用:高精度化に向けた手法開発R. Kamei, R. G. Pratt and T. TsujiGeophys. J. Int., 194, P.1250‒1280(2013)  DOI: 10.1093/gji/ggt165

入 CO₂をモニタリングする際には、地下の弾性波速度の変化を利用することが有効であることから、弾性波速度を高解像度に推定することが求められ

ている。我々は波形トモグラフィとよばれる手法を改良することにより、深部の弾性波速度を超高解像度に推定することを可能にした。本手法を南海トラフの海底地震計データに適用した結果、深部地震断層周辺の弾性波速度構造を高精度に推定することに成功した。推定された弾性波速度構造から、深部地震断層やプレート境界の位置が初めて明らかになり、これまでの巨大地震断層の解釈が見直された。

開発した燃料電池の耐久テスト結果。(赤)ポリビニルホスホン酸を用いた燃料電池、(黒)リン酸を用いた燃料電池。

ポリビニルホスホン酸をドープしたポリベンズイミダゾールからなる超高耐久性の高温型固体高分子形燃料電池開発Mohamed R. Berber, Tsuyohiko Fujigaya, Kazunari Sasaki , Naotoshi NakashimaSCIENTIFIC REPORTS 3 : 1764 P1-7(2013) DOI: 10.1038/srep01764

料電池の低コスト化のために、高温・無加湿運転が必要である。ポリベンズイミダゾール(PBI)にリ

ン酸を含浸した電解質は高温無加湿でも水素イオンを輸送するため有望であるが、液体リン酸の漏出により劣化が生じる。そこで、リン酸に替えて固体のポリビニルホスホン酸を導入した新規電極触媒および電解質膜を開発し、リン酸使用時より飛躍的な耐久性向上を実現した。現行触媒を使った燃料電池と比較し、100 倍以上の耐久性を達成した。

化学的膨張とホスト陽イオン半径に対する依存性Dario Marrocchelli, Sean R. Bishop, John KilnerJ. Mater. Chem. A, 1, P.7673‒7680(2013) DOI: 10.1039/c3ta11020f

図1.ZrO2における空孔周囲のイオン緩和

図 2.酸素空孔半径がCe4+の近くで最大

極の格子欠陥 ( 化学的膨張 ) は、触媒作用を利用している固体酸化物形燃料電池 (SOFC) の電極および酸素吸蔵材

のようなエネルギー関連材料の破壊の原因になり う る。我 々 は、 酸 素 欠 陥 の 周 囲 の 緩 和パ タ ー ン ( 図 1 ) における蛍石型立方晶構造の酸化物によるホスト陽イオン・イオン半径(rh)の 機能を調べた(図2)。計算的アプローチにより、酸素空孔周辺の格子緩和は、陽イオンサイズに著しく依存することを示した。空孔緩和が、酸素イオン伝導性におよぼすインパクトについて考察した。

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「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」は、高いレベルの研究者を中核とした世界トップ

レベルの研究拠点を形成するため、文部科学省が 2007 年度より開始した事業です。第一線の

研究者が世界から多数集まってくるような、優れた研究環境と極めて高い研究水準を誇る「目に見

える研究拠点」の形成を目指しています。

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)

低炭素社会の実現に向けて、水素エネルギー利用と CO2 の回収・貯留に関する課題を、原子レベルから地球規模の科学の融合により解決する研究拠点です。

大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)

様々な生体イメージング(画像化)の技術と免疫反応を予測する生態情報学を用いて、体を病原体から守る免疫システムの全貌解明を目指す新しい免疫学の研究拠点です。

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)

「眠る」という現象のメカニズムや役割の解明を行い、睡眠障害および関連する疾患の制御を通して人類の健康増進に貢献することを目指した睡眠研究拠点です。

東京工業大学地球生命研究所(ELSI)

地球惑星科学および生命科学分野の世界一線の研究者を結集し、「生命の起源に関する研究は生命が生まれた初期地球環境の研究と不可分である」というコンセプトのもと、地球、さらには地球-生命システムの起源と進化の解明に挑みます。

名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所 (ITbM)

世界屈指の分子合成力を推進力とし、合成化学者と動植物分子生物学者の連携により、生命科学・技術を根底から変える革新的機能分子「トランスフォーマティブ生命分子」を生み出す研究拠点です。「分子をつなげ、価値を生み、世界を変える」、これが我々の思いです。

京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)

細胞科学と物質科学を統合した新たな学際領域の創出を目標とし、幹細胞研究(ES/iPS 細胞など)やメゾ科学を発展させ、医学・創薬・環境・産業に貢献する研究拠点です。

物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)

東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)

従来のナノテクノロジーを革新した材料開発の新しいパラダイム「ナノアーキテクトニクス」のもと、画期的な材料を開発する研究拠点です。

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)

物理学、化学、材料化学、バイオエンジニアリング、電子・機械工学の領域を融合させ、革新的な機能性材料を創製・開発します。さらに、材料科学の統一的学理の創成のため、2011 年度より数学ユニットが加わり、国際材料科学研究拠点の形成を目指しています。

数学、物理学、天文学等の研究者が集まり、宇宙の始まり、進化の解明など、宇宙の謎に迫る研究拠点です。

07

Hello! I2CNER vol.8 October 2013I²CNERでは、さまざまなイベントを開催しています。 詳しくは ➡ http://i2cner.kyushu-u.ac.jp/ja/results/seminar.php (I2CNERのイベント情報)

[発 行] 九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)    〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡744 I²CNER支援部門(九州大学伊都キャンパス)    Tel. +81-(0)92-802-6935 Fax. +81-(0)92-802-6939    Email:[email protected]    URL: http://i2cner.kyushu-u.ac.jp    Facebook: https://www.facebook.com/I2CNER.news    Twitter: https://twitter.com/I2CNER [編集・デザイン] 株式会社 石田大成社 [取材文] 竹林 篤実 [カメラ] 入江 修[企画・編集] I²CNER支援部門(増本 有美子・髙田 智美・藍谷 早苗)

I2CNER で 検 索

編集後記

"Hello! I2CNER”は発刊から3年目を迎えました。これからも、皆さんと共にエネルギー問題について考えていきたいと思っております。皆様のご意見・ご感想お待ちしております。

西南学院高等学校2013年度西南祭にて藤川准教授が講演2013年7月12日(金)、13日(土)の2日間、西南学院高等学校

(福岡市早良区百道浜1-1-1)において『2013年度西南祭』が

行われました。

初日の文化講演会では、九州大学カーボンニュートラル・

エネルギー国際研究所CO2分離・転換研究部門長 藤川 茂紀准教授が

『職業:科学者、世界で一番最初に発見者になる魅力!』をテーマに講演を行いま

した。地球温暖化の一つの要因と考えられる二酸化炭素排出量の上昇についてや、

世界最薄の人工膜を利用して二酸化炭素の排出を抑える研究について、参加した

全校生徒約1,300名に分かりやすく説明しました。また、科学者という職業を選んだ

理由や、研究の道を歩むきっかけとなった恩師の言葉を紹介しながら、科学者の

魅力について語りました。最後に学生から寄せられた様々な質問に答え、学生との

交流を深めました。

第67回(平成24年度)日本セラミックス協会学術賞石原 達己 教授

(副所長 水素製造研究部門長 主任研究者)

「ペロブスカイト類縁化合物のイオン伝導性と燃料電池への応用」の研究成果が、セラミックスの科学・技術に関する貴重な研究であり、その業績が特に優秀であるとして、学術賞を受賞しました。

第39回(平成24年度)繊維学会学会賞田中 敬二 教授

(水素製造研究部門)

「固体界面における高分子の凝集状態と熱運動特性に関する研究」の研究成果が、繊維科学において独創的で優秀な研究であり、今後の研究の発展が期待されるとして、学会賞を受賞しました。

2012-2013 Hydrogen Student Design Contest Grand Prize

木村 誠一郎 ポスドク研究員(エネルギーアナリシス研究部門)

本学大学院工学府水素エネルギーシステム専攻の修士課程の学 生 が、Hydrogen Education Foundation が 主 催 す るHydrogen Student Design Contest で Grand Prize(最優秀賞)を受賞しました。木村ポスドク研究員はアドバイザーとして参画し、チームの受賞に貢献しました。

第10回本多フロンティア賞堀田 善治 教授

(水素貯蔵研究部門 主任研究者)

「巨大ひずみ加工による高性能材料の創製」の研究成果が、金属材料などの無機材料、有機材料及びこれらの複合材料の分野で学術面・技術面において画期的な発見・発明を行ったとして、本多フロンティア賞を受賞しました。

日本物理探査学会奨励賞

辻 健 准教授(CO2貯留研究部門長 主任研究者)

日本物理探査学会の会誌に発表した「Global optimization by simulated annealing for common reflection surface stacking and its application to low-fold marine data in southwest Japan」が、若手会員の論文等の中でも特に今後の研究成果が期待されるとして、奨励賞を受賞しました。

07Energy Outlook

Awards

BreakingNews!!

01Event

02Event E

ventR

e ports

International Symposium on Innovative Materials for Processes in Energy Systems (IMPRES) 2013

2 0 1 3 年 9 月 4 日(水)から 9 月 6 日(金)の 3 日間、カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)にお い て「Internat ional Symposium on Innovat ive Mater ials f o r P r o c e s s e s i n E n e r g y S y s t e m s (IMPRES) 2013」が開催されました。このシンポジウムは、エネルギー変換における多相プロセスの様々な側面に着目し、研究分野を超えた活発な意見・アイディアの交換を促進することを目的として開催されています。IMPRES は、2007 年に京都、2010 年のシンガポールに続き、今回で 3 度目の開催となりました。実 行 委 員 長を髙田保之教授(副所長、熱科学研究部門長)が務め、各分科会・ポスターセッション等を催しました。1 8 0 名 以 上 の 国内 外 の 研 究 者・学 生 が 参 加し、大盛況のうちに閉会しました。

2013 年 9 月 13 日(金)、米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校において I2CNER サテライトが主催した「Catalytic Concepts for Energy」を開催しました。このシンポジウムは、触媒を利用したエネルギーについて、最新の研究成果を発表することを目的としており、英国オックスフォード大学 Fraser Armstrong 教授の基調講演をはじめ、米国内外の著名な研究者が講演しました。I2 CNER からは中嶋直敏教授(燃料電池研究部門主任研究者)、Aleksandar Staykov 助教(水素製造研究部門)、松本崇弘助教(触媒的物質変換研究部門)が参加し、I2 CNER での研究実績を発表しました。 参加した 50 名以上の研究者・学生は、活発な質疑応答、意見交換を行いました。

Catalytic Concepts for Energy