食品リサイクルと土壌肥料 · 70 日本土壌肥料学雑誌第86巻第1号 (2015) 表1...

3
食品リサイクルと土壌肥料 誌名 誌名 日本土壌肥料學雜誌 = Journal of the science of soil and manure, Japan ISSN ISSN 00290610 巻/号 巻/号 861 掲載ページ 掲載ページ p. 69-70 発行年月 発行年月 2015年2月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

Upload: others

Post on 14-Sep-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 食品リサイクルと土壌肥料 · 70 日本土壌肥料学雑誌第86巻第1号 (2015) 表1 各国における食品廃棄物の発生量等 日本!1 母国 米国 英国 ドイツ

食品リサイクルと土壌肥料

誌名誌名 日本土壌肥料學雜誌 = Journal of the science of soil and manure, Japan

ISSNISSN 00290610

巻/号巻/号 861

掲載ページ掲載ページ p. 69-70

発行年月発行年月 2015年2月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: 食品リサイクルと土壌肥料 · 70 日本土壌肥料学雑誌第86巻第1号 (2015) 表1 各国における食品廃棄物の発生量等 日本!1 母国 米国 英国 ドイツ

69

資料

食品リサイクルと土壌肥料

犬伏和之1・牛久保明邦2

世界的な穀物価格高騰や約8億人の飢餓人口がいる中

で,食品廃棄物の削減は,国際連合食糧農業機関 (FAO).

経済協力開発機構 (OECD) などで国際的な課題とされ

ており,欧州、|では 2020年までに食品廃棄物を半減させる

という目標の達成に向け,各加盟国が具体的な行動に着手

している.我が国の一人当たりの食品廃棄物 1)発生量は

比較的少ないものの,依然として年間約 1700万トンに達

し(表 1). このうち,本来食べられるにもかかわらず廃

棄されている,いわゆる「食品ロスjが約 500""'800万ト

ンあると推計される 2) また,食品関連事業者による食品

廃棄物等の発生抑制率は平成 23年度で,平成 19年度を

基準年として約 9%3)にとどまっている(図 1).食料自

給率や飼料自給率がOECD加盟国中,最低レベルのなか

で, こうした状況は非常に深刻な事態といえる.

我が国では,天然資源の消費を抑制し,環境への負荷を

できる限り低減させる「循環型社会Jを形成することを目

指し循環型社会形成推進基本法が平成 12年に制定され,

これに基づき,循環型社会形成推進基本計画を策定し,関

連施策を総合的かつ計画的に推進してきた.循環型社会形

成推進基本法における優先順位においては,原材料,製品

等が廃棄物となることをできるだけ抑制しなければならな

いとされており,資源消費の抑制,温室効果ガスの排出削

減を含めた環境負荷の低減により,持続的に発展すること

が可能な社会を実現する観点から,食品廃棄物等の発生抑

制を第一に優先し,発生した食品廃棄物等については,資

源の有効な利用の確保の観点から再生利用等を行うことが

必要とされている.

平成 25年 5月に閣議決定された第三次循環型社会形成

推進基本計画においては 再生利用(リサイクル)に比べ

優先順位が高い 2R(発生抑制(リデュース).再利用(リ

ユース))の取組が遅れており これら 2Rが更に進む社

Kazuyuki INUBUSHI and Akikuni USHIKUBO: Recycle of food waste and soil scIences and plant nutrition

l千葉大学大学院園芸学研究科 (271-8510松戸市松戸

648) 2東京情報大学 (265-8501千葉市若葉区御成台 4-1)2014年9月25日受付・ 2014年11月4日受理日本土壌肥料学雑誌第86巻第1号 p.69""'70(2015)

会経済システムの構築を目指した取組を行っていくべきで

あるとされ,食品関連事業者や消費者が一体となって取り

組むべき課題として食品ロスへの対応が挙げられている.

「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律J.所謂

食品リサイクル法は平成 13年5月の施行から 12年が経

過し食品関連事業者の努力により,食品廃棄物等 4)の

発生量は年々減少するとともに,食品循環資源の再生利用

等実施率は上昇傾向にある.特に,食品廃棄物等の発生量

が年間 100トン以上である食品関連事業者の再生利用等

実施率は,食品製造業及び食品小売業で目標を達成し,登

録再生利用事業者は肥料化・飼料化を中心に年々増加する

とともに,食品リサイクルルーフ。の認定件数も順調に伸び

ている. このように,食品リサイクル法は一定の効果を発

揮してきたと評価できるが,同法は前回の改正から既に5

年が経過し,今般,施行状況の点検時期を迎えている.農

林水産省食料・農業・農村政策審議会食料産業部会食品リ

サイクル小委員会及び環境省中央環境審議会循環型社会

部会食品リサイクル専門委員会は著者の牛久保と神戸大

学・石川雅紀教授を座長として平成 25年3月から 7固に

わたって合同会合を開催し 食品リサイクル法の施行状況

の点検,食品リサイクル法関係者からのヒアリングを行な

い,その中間報告として論点整理をとりまとめ,その後,

「今後の食品リサイクル制度のあり方について(案)Jがノf

ブリックコメント用に公表された.本稿ではこれを紹介し

土壌肥料学分野との関連に触れたい.

現状では,食品リサイクル法に基づき食品廃棄物等は再

生利用等が求められている.これについて,食品廃棄物の

発生量が年間 100トン未満の事業者を含めた全食品産業

の再生利用等実施率は約 85%であるが,分別の困難性等

から食品流通の川下である「卸売J.I小売J.I外食Jにいく

ほど再生利用等実施率が低下(食品製造業約 95%. 卸売

業約 58%.小売業約 45%.外食産業約 24%) しており,

うち廃棄物として排出される約 715万トン中,依然とし

て約 379万トンが焼却・埋立処分されている.

一方,家庭系の食品廃棄物については,発生量の1,041

万トンに対し再生利用されている割合は約 6%で,残り

の約 952万トンが焼却・埋立処分されている 5) 埋立処分

場の新設・拡張が難しい中で,処分場の確保に苦慮してい

る自治体も存在しており,食品廃棄物の再生利用,最終処

Page 3: 食品リサイクルと土壌肥料 · 70 日本土壌肥料学雑誌第86巻第1号 (2015) 表1 各国における食品廃棄物の発生量等 日本!1 母国 米国 英国 ドイツ

70 日本土壌肥料学雑誌第 86巻第 1号 (2015)

表 1 各国における食品廃棄物の発生量等

日本 !1母国 米国 英国 ドイツ フランススウェーデン

人仁I (万人)① 12,745 4,888 30,905 6,222 8,170 6,278 938

食品廃棄物の発生量(万トン)② 1,713 約 490 5,540 約 1,400 約 1,100 約 2,210 約 101

1人当たり発生金 (kg/人)②/① 134 約 100 179 約 225 約 135 約 352 約 108

平成 24年度食品リサイクノレの進捗状況等に係る調査委託事業等を基に農林水産省食料産業局バイオマス循環資源課で作

「食品廃棄物の発生illJは家庭系廃棄物だけでなく事業系廃棄物も含む.

-眠磁繍留置・

分量の削減を進める必要がある.

食品廃棄物等の発生抑制については,本来食べられるに

もかかわらず捨てられている食品ロスからその削減を図っ

ていくことが必要であるが,食品ロスは,食品の生産工程,

流通の商慣習,国民の食生活やライフスタイル等に密接に

関連しているため,個別の業界や企業による取組だけでは

解決が難しい状況にある.これまでの取組により食品流通

の川上では飼料化・肥料化によって再生利用が進んだが,

食品流通の)11下における再生利用は進んでいない.これら

の課題としては,食品廃棄物等の分別にコストがかかるこ

と,性状が不均質のため飼料化 ・肥料化が難しいこと,民

間の再生利用料金が公共サービスである地方自治体の処理

料金よりも割高となっていること,発生場所の周辺地域に

おける再生利用施設の不足を含め需給のマッチング等がよ

り困難であること等が挙げられている.

以上から, これまで再生利用が進んでいない川下を中心

に発生した食品廃棄物等の再生利用の取組を加速化させる

必要があると考えられる.そこで,今後の目指すべき方向

として,地方自治体, 食品関連事業者,再生利用事業者等

の連携の強化および,事業者等の分別による,持続的な再

生利用事業のための環境整備等により,食品循環資源を利

用した地域農業振興やエネルギー自立型の地域づくりを活

性化させ,同時に食品廃棄物等の単純焼却量及び埋立処分

量の削減につなげていくことが必要ではないか, また飼料

化・肥料化等の再生利用と熱回収の優先順位の明確化を図

り,既存の再生利用用途に影響を及ぼさないようにするこ

とが必要ではないか,と提言している.

さらに,環境保全を前提として,まず飼料化,肥料化を

進め,異物混入等によりこれが困難なものはメ夕、ノ化等を

.II'!間制化1¥..崎万トン}

行い,そのエネルギ一利用,さらに, これらの再生利用が

困難なものは熱回収とい う順序で対応を進めることが適当

ではないかω と述べている.今後,土壌肥料学でも従来の

飼料化,肥料化に加えてメタン発酵残誼の利用にともなう

影響評価など新たな課題への対応が求められるであろう.

1)食品廃棄物 -廃棄物処理法第2条第2項に定める一般廃棄物の

うち,家庭等において食品が廃棄されたもの又は廃棄物処理法

施行令第2条第4'号における食品製造業において原料として使用

した動物若しくは植物に係る固形状の不要物をいう.

2) I平成21年度食品ロス統計調査J(農林水産省統計部)等を基

に農林水産省食料産業局で試算.

3)食品リサイクノレ法に基づく食品関連事業者による食品循環資源

の再生利用等実施率(平成23年度)のうち発生抑制率

4)食品廃棄物等 :食品リサイクノレ法第2条第2項に定める「食品

廃棄物等Jをいい,有価Ii取引される製造副産物と事業系廃棄物

の合計を指す.

5)食品廃棄物全体としてみた場合,約1,700万ト ンの食品廃棄物

のうち再生利用されているものは約2害IJであり,残り8害IJに相当

する約1,300万トンが地方自治体により焼却 ・埋立処分されて

し、る.

6)再生利用手法の優先順位の例 既存のモノからモノへのリサイ

クノレである飼料化 ・肥料化への影響を回避する観点から, ①飼

料化,②肥料化及びメタン化(消化液を肥料利用する場合に限

る.), ③エネノレギ一利用(メ タン化(消化液を肥料利用しない

場合),液体 ・固形燃料化等)

文献

今後の食品リサイクノレfl,iJl支のあり方について (案)

食料 ・農業 ・農村政策審議会食料産業部会食品リサイクノレ小委員

会・中央環境審議会循環型社会部会食品リサイクノレ専門委員会

2014農林水産省