覆工コンクリートにおける部分パイプクーリング工法の ......1. はじめに...

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覆工コンクリートにおける部分パイプクーリング工法のひび割れ抑制効果について 安藤ハザマ 土木事業本部 ○白岩誠史 川中政美 東北支店 菅原一智 山根 丈 高橋拓真 1. はじめに 本報告は、インバートコンクリート施工区間の覆工コンクリートの温度ひび割れ抑 制対策として、パイプクーリングの範囲を限定して実施する新たな概念を取り入れた 新工法“部分パイプクーリング工法(Localized Pipe Cooling:以下、LP クーリン グ)”を「国道 115 号線馬舘山トンネル工事」にて適用した効果について述べる。 2. 業務の目的 インバートを施工する区間の覆工コンクリートは、セメントの水和熱および外気温 の変動による温度収縮ひずみがインバートに拘束され、ブロック中央に温度ひび割れ の発生が懸念される。鉄筋を有する区間の覆工コンクリートは、ひび割れからの劣化 因子の侵入により鉄筋が腐食し、ひび割れの拡大や剥落により耐久性が低下する。 LP クーリングは、ひび割れの発生が懸念される範囲を限定して短期間冷却するこ とでひび割れを抑制し、作業量および対策費用を低減してトンネルの長期耐久性を向 上させることを目的としている。 3. LP クーリングの選定理由 LPクーリングを含めた様々なひび割れ対策の効果および評価の比較を表-1に示す。 その結果、従来のひび割れ対策であるパイプクーリングや膨張コンクリート等による 対策と比較して、同等のひび割れ抑制効果を確保しながら、経済性の面で向上が図ら れる LP クーリングを選定した。 4. 3 次元 FEM 温度応力解析による LP クーリングの事前検討 LP クーリングを計画するため、図-1 に示すモデルにおいて、3 次元 FEM 温度応力 解析を実施し、冷却範囲およびクーリングパイプへの通水停止時期を検討した 1) 。図 -2中の①に示すように、無対策の場合の部材中心の最高温度およびひび割れ指数(以 下、指数)は、44.1℃および 0.95 となり、ひび割れ発生確率(以下、発生確率)が 58%となるため、ひび割れが発生する可能性が大きい結果となった。また、LP クー リングの冷却範囲は、図-3 に示すように解析により指数が 1.0 以下の範囲(延長方 向 6m×高さ方向 1.0m)とした。通水停止時期は、部材中心が最高温度に達し、通 水停止による再上昇が発生せず、冷却部以外の発熱が継続している時(2 日間)とし た。解析結果を図-2中の②に示す。最高温度が 37.2℃、指数が 1.29(発生確率 21%) となり、ひび割れが発生する確率が 37%低減した。

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Page 1: 覆工コンクリートにおける部分パイプクーリング工法の ......1. はじめに 本報告は、インバートコンクリート施工区間の覆工コンクリートの温度ひび割れ抑

覆工コンクリートにおける部分パイプクーリング工法のひび割れ抑制効果について

安藤ハザマ 土木事業本部 ○白岩誠史

川中政美

東北支店 菅原一智

山根 丈

高橋拓真

1. はじめに

本報告は、インバートコンクリート施工区間の覆工コンクリートの温度ひび割れ抑

制対策として、パイプクーリングの範囲を限定して実施する新たな概念を取り入れた

新工法“部分パイプクーリング工法(Localized Pipe Cooling:以下、LP クーリン

グ)”を「国道 115 号線馬舘山トンネル工事」にて適用した効果について述べる。

2. 業務の目的

インバートを施工する区間の覆工コンクリートは、セメントの水和熱および外気温

の変動による温度収縮ひずみがインバートに拘束され、ブロック中央に温度ひび割れ

の発生が懸念される。鉄筋を有する区間の覆工コンクリートは、ひび割れからの劣化

因子の侵入により鉄筋が腐食し、ひび割れの拡大や剥落により耐久性が低下する。

LP クーリングは、ひび割れの発生が懸念される範囲を限定して短期間冷却するこ

とでひび割れを抑制し、作業量および対策費用を低減してトンネルの長期耐久性を向

上させることを目的としている。

3. LPクーリングの選定理由

LPクーリングを含めた様々なひび割れ対策の効果および評価の比較を表-1に示す。

その結果、従来のひび割れ対策であるパイプクーリングや膨張コンクリート等による

対策と比較して、同等のひび割れ抑制効果を確保しながら、経済性の面で向上が図ら

れる LPクーリングを選定した。

4. 3次元 FEM 温度応力解析による LP クーリングの事前検討

LP クーリングを計画するため、図-1 に示すモデルにおいて、3 次元 FEM 温度応力

解析を実施し、冷却範囲およびクーリングパイプへの通水停止時期を検討した 1)。図

-2 中の①に示すように、無対策の場合の部材中心の最高温度およびひび割れ指数(以

下、指数)は、44.1℃および 0.95 となり、ひび割れ発生確率(以下、発生確率)が

58%となるため、ひび割れが発生する可能性が大きい結果となった。また、LP クー

リングの冷却範囲は、図-3 に示すように解析により指数が 1.0 以下の範囲(延長方

向 6m×高さ方向 1.0m)とした。通水停止時期は、部材中心が最高温度に達し、通

水停止による再上昇が発生せず、冷却部以外の発熱が継続している時(2 日間)とし

た。解析結果を図-2中の②に示す。最高温度が 37.2℃、指数が 1.29(発生確率 21%)

となり、ひび割れが発生する確率が 37%低減した。

Page 2: 覆工コンクリートにおける部分パイプクーリング工法の ......1. はじめに 本報告は、インバートコンクリート施工区間の覆工コンクリートの温度ひび割れ抑

表-1 ひび割れ対策の効果および評価の比較

対策種類

効果の比較 評

特徴

ひび

割れ

抑制

工程

確保

施工

性 長所 短所

膨張材・収縮低

減剤の適用 ○ × ○ ○ △

・施工手間の増加なし

・実績多数

・材料費大

低発熱系セメント

の適用 ○ × × × ×

・施工手間の増加なし

・温度ひび割れ抑制効果大

・型枠脱枠が遅

・材料費大、納

入先

プレクーリン

グの実施 △ × ○ × ×

・コンクリート打込み温度を直

接低減できる。

・特別な設備必

打設長の低減 ○ ○ × ○ △ ・打設方法変更なし ・打設回数増

繊維コン・アラミド

繊維シートの設置 △ △ ○ △ △

・ひび割れ幅を抑制 ・ひび割れ自体

の抑制効果小

全体クーリング(全

体を冷却)の実

○ △ △ × △

・温度ひび割れ抑制効果大 ・肩や天端部等

への適用困難

LPクーリング

の実施 ○ ○ ○ △ ○

・対策費用小

・脱型時期に影響なし

・施工手間微増

図-1 解析モデル(1/4 モデル) 図-3 冷却範囲の検討(指数分布図)

0.8m

0.9

1.0

1.1

1.2

1.1m

0.5m

1.7m 3.0m

3.7m

図-2 計画時の最高温度・指数分布図(無対策、LP クーリング)

指数

44.1℃ 0.95

最高温度 最高温度 指数

37.2℃ 1.29

1.30

1.35

43.4℃

43.1℃

①無対策 ②LPクーリング

Page 3: 覆工コンクリートにおける部分パイプクーリング工法の ......1. はじめに 本報告は、インバートコンクリート施工区間の覆工コンクリートの温度ひび割れ抑

5. 実構造物への LPクーリング適用結果

LP クーリングのシステム概要図を

図-4に示す。覆工コンクリート左右の

側壁内部に、クーリングパイプ(内空

直径 25mm、延長 5.5m の鋼製の亜鉛メ

ッキパイプ)を 400mmピッチで 3段設

置した。打設開始直後から、セントル

に設置したサプライタンクから 20℃

以下の冷水をクーリングパイプに毎

分 4L で送水した。また、躯体内部の

コンクリートの水和熱を吸収して温

度上昇した水をリターンタンクに戻

し冷却装置にて 20℃以下の温度に冷

却したのちに、再びサプライタンクに

戻し、循環させた。

また、実施工時には、ブロック No.2

~4 において温度およびひずみを測

定し、測定データを取り込んだ事後

解析を実施した 2),3)。その結果を表-2

および図-5に示す。表-2 に示すよう

に、LPクーリングを実施することで、

指数が 0.2 程度、発生確率が 20%以

上改善できたことが確認できた。

2015 年 11 月時のひび割れ調査では、

幅 0.2mm以上の有害なひび割れの

発生はなかった。

ブロック

No.

クーリング

実施の

有無

最高温度(℃) 最小

ひび割れ

指数

ひび割

れ発生

確率

(%) No.3 No.7

2 実施 32.9 39.1 1.10 37

未実施 38.8 39.8 0.89 68

3 実施 29.2 34.9 1.26 23

未実施 34.7 35.7 1.00 50

4 実施 28.3 33.5 1.23 25

未実施 33.2 34.1 1.01 48

延長10m 延長9,7,5m 延長5.5m

2段 3段 4段

400

400

200

600

200

300

300

300

200

図-4 LPクーリング概要図

表-2 事後解析の結果

*部材中心の着目位置

No.3:インバート天端から 0.4mの高さ

No.7:インバート天端から 1.6mの高さ

図-5 事後解析時の最高温度・指数分布図(2 ブロックの結果例)

最高温度 ひび割れ指数

1.23

1.10 1.32

32.9℃

39.1℃

40.1℃

最高温度 指数

0.89 38.8℃

39.8℃

最高温度 指数

①無対策 ②LPクーリング

Page 4: 覆工コンクリートにおける部分パイプクーリング工法の ......1. はじめに 本報告は、インバートコンクリート施工区間の覆工コンクリートの温度ひび割れ抑

6. 従来対策との比較

ひび割れ抑制効果を比較するため、3 次元 FEM温度応力解析により、事後解析の条

件にて、従来の対策技術である膨張コンクリートおよび覆工コンクリート全体をクー

リング(以下、全体クーリング)したときの解析を実施した。その結果を図-6 に示

す。“①膨張コンクリート”の場合では指数が 1.15(発生確率 32%)となり、“②全

体クーリング”の場合では指数が 1.02(発生確率 47%)となった。図-5中の“②LP

クーリング”の場合は、指数が 1.10(発生確率 37%)であるため、LP クーリングの

ひび割れ抑制効果は、従来技術と同程度であることが確認できた。

また、LP クーリングは部分的な対策であることから、躯体全体へ対策を実施する

膨張コンクリートや全体クーリングに対し、対策費用を 40%程度低減できた。

7.まとめ

(1)LPクーリングを実施することで、指数が 0.2程度、発生確率が 20%以上改善で

き、幅 0.2mm以上の有害なひび割れの発生を防止できた。また、ひび割れ抑制効果

は膨張コンクリートおよび全体クーリングと同程度であることが確認できた。

(2)一般的に覆工コンクリートのひび割れ対策として用いられる従来技術(膨張コ

ンクリート)と比較して、対策費用は 40%程度低減できる。

8.参考論文

(1) 新居秀一・荒井匠・白岩誠史・表康弘:部分パイプクーリングによる覆工コンクリートの温度ひ

び割れの解析的検討,土木学会第70回年次学術講演会,VI-652, pp.1303-1304, 平成27

年 9月

(2) 川中政美・高橋拓真・白岩誠史・表康弘:覆工コンクリートの温度ひび割れに対する部分パイ

プクーリングの適用,土木学会第 70回年次学術講演会,VI-651, pp.1301-1302, 平成 27

年 9月

(3) 白岩誠史・高橋拓真・川中政美・佐藤正:覆工コンクリートへの部分パイプクーリングの適用と

その効果確認,コンクリート工学会年次論文集投稿済み,2016年 7月

最高温度

1.02 33.8℃

指数

1.15 40.3℃

最高温度 指数

①膨張コンクリート ②全体クーリング(通水 3日間)

図-6 従来技術のひび割れ抑制効果の解析結果(膨張コンクリート、全体クーリング)