輸液フィルターへの薬剤吸着状況に関する検討...tokllshima red cross hospital...

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輸液フィルターへの薬剤吸着状況に関する検討 松島弥栄 1) 蔵本和彦 1) 大久保真由美 1) 田志朗2) 矢野里香1 ) 杉本満美2) 山川 和宜1 ) 岡野 善郎2) 1 )徳 島 赤 十 字 病 院 薬 剤 部 2 )徳 島 文 理 大 学 薬 学 部 要旨 当院で繁用さ れている抗悪性腫傷剤と蛋自分解酵素阻害剤について i 愉液フ ィルター前後の経時的濃度変化及び吸着率 について検討した。試料溶液の採取は輸液フィルターの直前後にて行い、 HPLC 法もしくは吸光度測定法にて測定した 。 抗悪性腫揚斉I jの中には輸液フィルターに吸着する薬剤 も認められたが力 1il i 低下への影響は少ないと考え られる。 キーワー ド :輸液フィルタ一 、薬剤j 吸着 、抗悪性腫),嘉剤 はじめに 当院内科病棟においてアン トラサ イク 1) ン系抗悪性腫揚抗生剤を輸液 フィルターに通して投与した際、図 l のように輸液フィ ルター櫨過液に 退色が観察されフィ ルターへの薬剤 吸着によ る力価低下が懸念された。 今回、当院で繁用されている注射剤 について輸液フィルタ一前後の経時 的濃度変化及び吸着率について検討 した 。 方法 輸液セッ ト 東レ TF-C1505 輸液フィルター 0.22μm ラッ トタイプ 輸液セットを図 2 の よう に輸液フィルタ ー前後に三 方活栓がくるよう 加工 しこ の三方活栓より溶液100μl 採取した。そしてペ リス タ ポンプに より滴下速度を設 局 溶液採取 定した。 VO L. 7 NO. 1 MARCI-I2002 図矢印 方向に進む 2 溶液採取時間は表 1 に示す。 1 溶液採取時間 点滴時間 30 O 10 20 30 40 秒→ l →1. 5 2 3 5 10 30 l IM1 ペン 1 時間 2 ィシ .5 時間→ 2 時間 3 一吃.5 I'M1 ー砂 3 時間 24 20 時間]一吃 4 時間 薬物濃度測定 1)I-IPLC 条件 カラム : Wakosil-I5 C18HG (4.6X250mm) 流速 1ml/min 出: uv 2 )吸光度測定法 試験注射剤、溶解液、点滴時間は表 2 に示す。 当院で使用頻度が高いもの(薬剤部にて調整する抗 とった)を選んだ。 なお、添付文書中に低用量の投与記載のあったノパ ントロン ・オンコピン ・フィルテ。シンの 3 I J について は低用量での実験も行った。 輸液フィルターへの薬剤吸着状況に関する検討 91

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Page 1: 輸液フィルターへの薬剤吸着状況に関する検討...Tokllshima Red Cross Hospital Medical JOllrnal 7: 91-94 , 2002 94 il命液フィルターへの薬剤l汲新状況に|刻する検討

輸液フィルターへの薬剤吸着状況に関する検討

松島 弥 栄1)

蔵本和彦1)

大久保真由美1)

石田志朗2)

矢野里香1)

杉本満美2)

山川 和宜1)

岡野 善郎2)

1 )徳島赤十字病院薬剤部

2 )徳島文理大学薬学部

要旨

当院で繁用されている抗悪性腫傷剤と蛋自分解酵素阻害剤についてi愉液フ ィルター前後の経時的濃度変化及び吸着率

について検討した。試料溶液の採取は輸液フィルターの直前後にて行い、HPLC法もしくは吸光度測定法にて測定した。

抗悪性腫揚斉Ijの中には輸液フィルターに吸着する薬剤 も認められたが力1illi低下への影響は少ないと考え られる。

キーワー ド:輸液フィルタ一、薬剤j吸着、抗悪性腫),嘉剤

はじめに

当院内科病棟においてアン トラサ

イク 1)ン系抗悪性腫揚抗生剤を輸液

フィルターに通して投与した際、図

lのように輸液フィ ルター櫨過液に

退色が観察されフィ ルターへの薬剤

吸着によ る力価低下が懸念された。

今回、当院で繁用されている注射剤

について輸液フィルタ一前後の経時

的濃度変化及び吸着率について検討

した。

方法

輸液セッ ト 東レ TF-C1505

輸液フィルター 0.22μmフ

ラッ トタイプ

輸液セットを図 2の よう

に輸液フィルタ ー前後に三

方活栓がくるよう 加工 しこ

の三方活栓より溶液100μlを

採取した。そしてペ リス タ

ポンプに よ り滴下速度を設 局 溶液採取

定した。

VOL. 7 NO. 1 MARCI-I 2002

図矢印の

方向に進む

図 2

溶液採取時間は表 1に示す。

表 1 溶液採取時間

点滴時間 ~1t料採取Il寺間

30分O→10→20→30→40秒→ l→1.5→ 2→ 3

→ 5→10→30分

l 時IM1 ペン が 1時間

2 ィシ リ.5時間→2時間

3 ク 一吃.5時I'M1ー砂3時間

24 ク 砂20時間]一吃4時間

薬物濃度測定

1) I-IPLC法

条件 カラム :Wakosil-II 5 C18HG

(4.6X250mm)

流速 1ml/min

検 出 :uv 2 )吸光度測定法

試験注射剤、溶解液、点滴時間は表 2に示す。

当院で使用頻度が高いもの(薬剤部にて調整する抗

ガン剤点滴注射せんより H12年 1 月 ~ 7 月まで統計を

とった)を選んだ。

なお、添付文書中に低用量の投与記載のあったノパ

ントロン ・オンコピン ・フィルテ。シンの 3斉IJについて

は低用量での実験も行った。

輸液フィルターへの薬剤吸着状況に関する検討 91

Page 2: 輸液フィルターへの薬剤吸着状況に関する検討...Tokllshima Red Cross Hospital Medical JOllrnal 7: 91-94 , 2002 94 il命液フィルターへの薬剤l汲新状況に|刻する検討

表 2 試験注射剤

分類 商品名 (一般名) 量 (mg) 溶解液 試験11寺!日]

アントラキノン系抗生青IJ ノパントロン (塩酸 ミトキサン トロ ン) 3, 10 生理食jj[水 100llle 30min

アクラシノン(抗酸アクラルビシン) 20 アン トラサイク リン

ダウノマイシン (塩酸ダウノルビシ ン) 生理食塩水 100/llg系抗生剤

20 30min

ファルモルビシン (塩酸エピルビシン) 40

オンコビン (硫酸ピンクリスチン) 0.5, 2 生理食I昆水 100lllg 30min

アルカロイド系薬剤lフィルデシン (硫酸ピンデシン) 1, 4.5

抗~じEρ

' I~: タキソテール (ドセ タキセル水和物) 80 生理食塩水 500/llg

!匝 ベプシド (エ トポシド) 150 ソリタT3 500llle 2hr 斉iZ|l-

抗生斉IJ マイト マイシ ンIZHns(マイトマイシン C) ソリタ T1 200me

サンラビン (エノシタビン) 200 3hr ピリミジン代謝措抗

5 -FU協和 (フlレオロウラシル) 750 生理食塩水 500me 2hr 斉IJ

キロサイド (シタラビン) 100 24hr

葉酸代謝措抗剤 メソトレキセート (メ トトレキサー卜 ) 100 生理食塩水 100lllg 1hr

I~I ~製剤l ラン ダ(シス プラチ ン) 10

FOY (メシル酸ガベキサー 卜) 1000 24hr 蛋自分解酵素阻害剤

フサン (メシル酸ナフ ァモスタ ット)5%ブドウ糖液 5001lle

10 2hr

結果

1 )フィルター前後における注射剤の経時的濃度変化の例

検jl~1I に時間 (分) 、

縦j/!1l1に相対 濃度 (%)

(輸液フィルタ 一前濃度又はi愉液フ ィルター後濃度)

(輸液パック内濃度)

120

)伸100 'r・ -'』 t=-1 100 ,・h

T • 80 田 一首健

MR理 60.1 世 60アクラシノン 電型 5-FU協和

40

20, 20 。 。o 5 10 15 20 25 30 o 20 40 60 80100120

時間Im;n) 時間Im;n)

吋・ー輸液フィルター前 明・ー輸液フィ ルター後 In=11

漕度(耳1=輸液フィルタ 前 or後湧度/輸液パ γず内漉度

図3 輸液フィルタ 一前後における注射剤の経時的濃度変化

アクラシノンではフィ ルタ 一通過直後に濃度低下が

認められるものの約 1分経過時には、ほぼ100%に回

復し平衡状態に達した。

92 輸液フィ ルターへの薬剤JI吸着状況に|刻する検討

5FUではフ ィlレタ ー通過直後から濃度低下は認め

られず100%近 くまであり平衡状態と なった。

2 )注射斉IJ低用量時の輸液フ ィルターへのl吸着率を図

4に示す。

オンコピンは低用量 と常用量では平均吸着率に差は

認められなかったが、フィルデシン、ノノてン トロンは、

低用量 に平均l吸着率の増大は認められた。 しかし、吸

着率 としては約 1%以下だった。

1.2

1.0

迫害ミ

- 0.8 帯十

理0.6

E 04 0.2

05mg 2mg lmg 4.5mg オンコビン フィルテεシン

(硫酸ピンクリスチン硫酸ピンデシン)

3mg 10mg ノ,¥ントロン

(塩酸ミ トキサン トロン)

n=2-3

図4 低用量時の輸液フィルターへの吸着率

Tokushima Red Cross I-Iospital Medical Journal

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表 3 注射剤の輸液フィ ルタ ーに対する吸着率

分類 商品名 (一般名)

アントラキノン系抗生剤 ノパントロン (塩酸ミトキサントロン)

アクラシノン(塩酸アクラルピシン)

アン トラサイクリン系抗生剤 ダウノマイシン (塩酸ダウノルビシン)

ファ ルモルビシン (塩酸エピルビシン)

オンコピン(硫酸ピンクリスチン)

アルカロイ ド系薬剤フィルデシン(硫酸ピンデシン)

互,じEρ

'1生 タキソテール(ドセタキセル水和物)

JI重 ベプシ ド (エ トポシ ド)

場斉IJ 抗生剤 マイトマイシン協和 s(マイトマイシン C)

サンラピン(エノシタピン)

ピリミジン代謝措抗剤 5 -FU協和 (フルオロウラシル)

キロサイド (シタラピン)

葉酸代謝措抗剤 メソトレキセー ト (メトト レキサート)

白金製剤 ランダ (シスプラチン)

蛋自分解酵素阻害剤FOY (メシル酸ガベキサー ト)

フサン (メシル酸ナフ ァモスタット)

l吸着率(%)=1-(輸液フィ ルタ一後 AUC/輸液フィルター前 AUC)x100

AUC:濃度(%) 時間曲線下面積

2 )吸着なし

量(時) 平均吸着率(%)

10 0.43

20 0.82

20 0.50

40 0.16

2 1. 08

4.5 0.52

80 0.09

150 0.06

4 0.01

200 0.003

750 O

100 O

100 O

10 O

1000 0.17

10 0.12

n= 2 ~ 3

3 )各注射剤のili市液フ ィルターに対する吸着率を表3

に示す。 /ピリミジン代謝措抗剤

・抗悪性腸傷斉Ij- 1メトト レキサート

アントラキノン系、アン トラサイ クリン系、アルカ

ロイド系及びマイトマイシン C及び蛋自分解酵素阻

害剤には、吸着が認められた。オンコピンで1.08%、

アクラシノンで0.82%と比較的大きな吸着率を示 した

が、その他は 1%未満であった。

ピリミジン代謝措抗剤、メソト レキサート、シスプ

ラチンは吸着を認めなかった。

考 察

1 )吸着あり (約 1%以下)

/アルカロイド系

・抗悪性腸傷剤-1アントラキノン系

¥アントラサイクリン系

.蛋自分解酵素阻害斉IJ

VOL. 7 NO. 1 MARCI-I 2002

¥シスプラチン

フィ ルター前後において濃度低下が認められた薬剤

が多く見られた。 しかし、その濃度低下は約 I分以内

にほぼ100%回復する。

|吸着は初期にのみ認められる現象であり 1愉液フィル

ターへの吸着は開始から約 l分後には飽和状態になる

と考えら れる。有色の薬剤ではi慮、過開始直後のフィル

タ一穂過液に退色が観察された。 しかし、その退色は

櫨過開始後20秒程で元の色調に回復した。

よって、吸着に よる臨床効果への影響は少ない と推

察 される。

輸液フ ィルターへの薬剤l吸着状況に関する検討 93

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A Study of Drug Adsorption to the Infusion Liquid Filter

Yae MATSUSHIMA'), MaYllmi OKUBOil, Rika YANOil, KaZllnOri YAMAKA W A')

KaZllhiko KURAMOTOil, Shiro ISHIDN), Mami SUGIMOT02¥ Yoshiro OKAN02)

1) Division of Pharmacy, Tokllshima Red Cross I-Iospital

2) Faclllty of Pharmacelltical Sci巴nces,Tokllshima Bllnri University

Concerning antin巴oplasticdrllgs ancl protease inhibitors freqllently llS巴clat Ollr institlltion. a stlldy was made

of changes with tim巴 inconcentrations and aclsorption rate observecl befor巴 andafter llse of the filter. Sample

Sollltion was col!ectecl immecliately before and after the llse of filter, and m巴aSllrementwas macl巴 byI-IPLC or

sp巴ctrophotometry.

Some of the antineoplastic drllgs were adsorbecl to th巴 filter.I-Iowever, the inflll巴nc巴 ofthe aclsorption on a

decrease in pot巴ncyis consiclerecl to b巴 little

Key worcls: infllsion flllicl filter, drllg adsorption, antineoplastic drllgs

Tokllshima Red Cross Hospital Medical JOllrnal 7: 91-94, 2002

94 ili命液フィ ルターへの薬剤l汲新状況に|刻する検討 Tokushima Red Cross I-Iospital lVIedical ]ournal