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修士論文 超伝導接合へのスピン軌道相互作用の影響 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 学籍番号 35-126113 東河 指導教員 勝本 信吾 教授 2014 1

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Page 1: 超伝導接合へのスピン軌道相互作用の影響 - ISSP, Iye Group ......2.2.3 界面付近のポテンシャル乱れと Andreev 反射 2.2.4 近接効果 2.3 超伝導接合におけるスピン軌道相互作用

修士論文

超伝導接合へのスピン軌道相互作用の影響

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻

学籍番号 35-126113

尹 東河

指導教員 勝本 信吾 教授

2014年 1月

Page 2: 超伝導接合へのスピン軌道相互作用の影響 - ISSP, Iye Group ......2.2.3 界面付近のポテンシャル乱れと Andreev 反射 2.2.4 近接効果 2.3 超伝導接合におけるスピン軌道相互作用

目次

第1章 序論

第2章 研究背景

2.1 スピン軌道相互作用

2.1.1 スピン軌道相互作用

2.1.2 スピンホール効果

2.2 超伝導接合

2.2.1 超伝導体 / 常伝導体接合における Andreev 反射

2.2.2 超伝導体 / 常伝導体 / 超伝導体接合の超伝導電流

2.2.3 界面付近のポテンシャル乱れと Andreev 反射

2.2.4 近接効果

2.3 超伝導接合におけるスピン軌道相互作用

2.3.1 Rashbaスピン軌道相互作用を持つ 2次元電子系と超伝導体の接合

2.3.2 Andreev 束縛状態への横方向電流の影響

2.4 本研究の目的

第3章 実験手法

3.1 試料作製

3.1.1 2 次元電子系基板成長

3.1.2 微細加工

3.1.3 絶縁破壊回路

3.2 測定手法

3.2.1 低温測定

3.2.2 測定回路

第4章 実験結果と議論

4.1 界面のコントロール方法

4.2 非反転構造の基板を用いた試料 (試料#2)

4.2.1 試料構造

4.2.2 絶縁破壊前後の伝導度特性

4.2.3 磁場中での超伝導接合の導電特性

4.2.4 横方向電流による超伝導接合の導電特性

4.3 反転構造の基板を用いた試料 (試料#5)

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4.3.1 試料構造

4.3.2 絶縁破壊前後の伝導度特性

4.3.3 SNS 接合微分伝導度の電圧-温度依存性

4.3.4 磁場による超伝導接合の伝導度特性

4.3.5 横方向電流による超伝導接合の伝導度特性

第5章 結論

謝辞

参考文献

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第 1章 序論

2つの超伝導体で非超伝導体(絶縁体や常伝導体)を挟んだ超伝導接合では、電気抵抗有

限の物質を介しているにもかかわらずゼロ電圧で超伝導電流が流れる Josephson 効果が

生じることが知られている。この超伝導電流の起源は、非超伝導体中に形成された Andreev

束縛状態を伝播する準粒子によるもの、非超伝導体中を Cooper 対そのものが伝播するこ

とによるものの 2つがある。前者は Andreev 束縛状態を通じ準粒子が位相を伝えることで

超伝導体間に位相コヒーレンスが生じるためであり、これは位相を乱すような擾乱によっ

て阻害されると予想される。一方後者はトンネル効果や非超伝導体中に Cooper 対が染み

出す近接効果によって Cooper 対が直接伝播するため、磁場や磁性不純物のような対破壊

をもたらす擾乱でなければ破壊できない。

そこで本研究ではスピン軌道相互作用に注目した。スピン軌道相互作用と非平衡状態と

を組み合わせることで磁性体を用いることなくスピンに起因した現象を引き起こすことが

できる。電流によってゼロ磁場で純スピン流が生じるスピンホール効果はその一例である。

スピン軌道相互作用は狭ギャップ半導体で顕著に現れ、さらに非対称超構造と組み合わせ

ることでさらに強くできる。狭ギャップ半導体の代表である n 型 InAs は金属との界面に

ショットキー障壁ができにくいため、超伝導体との接合において盛んに使用され常伝導 /

超伝導接合やその界面におけるコヒーレントな相関を中心に様々な物理が展開されてきた。

一方、n-InAs 2次元電子系はスピン軌道相互作用の強い系であるため、これに起因するス

ピン干渉効果の研究の舞台ともなってきた。ところが、超伝導接合中のスピン軌道相互作

用に注目した研究は多くない。そのためスピン軌道相互作用と非平衡状態を生じる有限電

流によって超伝導接合特性、特に Andreev 束縛状態や Josephson 効果がどのように変調

を受けるのかについては大変興味深い物理的問題が残っている。

しかし、この実験には技術上の大きな問題が存在している。それは、InAs のヘテロ接合

2次元電子系と超伝導金属との良好な接合が得られにくい、ということである。バルクの n

型 InAs には最表面に 2 次元電子系が自然形成されており、上述のようにショットキー障

壁が形成されず、超伝導体との良好な接合が得やすいが、スピン軌道相互作用の増幅、高

移動度化、複合超構造の形成などを考慮してヘテロ接合構造を選択すると、良好な接合形

成は不可能ではないが難しい技術となる。特に再現性を得ることが困難であり、形状的に

は作製できても、特性は冷却して測定するまで予測できず、実験効率や系統性が大きく阻

害されている。InAs の量子井戸と超伝導体の接触面積が極めて小さいことも良好な接合形

成上での困難となる。そこで、本研究では、職人芸的な微妙なノウハウを駆使しなくても

再現性良く良好な接合を得るための技術開発を、取り組むべき第一の問題とした。その結

果、界面状態をプロセス後に改善する方法を見出した。

本研究の先行研究として InAs 2 次元電子系を用いた超伝導体 / 常伝導体 / 超伝導体接

合への横方向電流の効果を議論したものがある[1]。そこではゼロバイアスに生じた超伝導

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電流に起因する極めて高く鋭い微分コンダクタンスのピークが、ごく小さい横方向電流に

よって抑制されることが示された。これは横方向電流がスピンホール効果によって引き起

こした純スピン流が常伝導体 / 超伝導体界面で反射されることで界面付近にスピン定在波

が形成され、これによって Andreev 束縛状態が破壊されたためであると解釈された。しか

しこの研究では微分コンダクタンスのバイアス依存性しか測定されておらず、臨界電流が

横方向電流によってどのように抑制されるかは自明ではない。そこで本研究では超伝導臨

界電流の横方向電流に対する応答を実験的に答えるべき第二の問題とした。

また、先行研究では超伝導電流が Andreev 束縛状態に起因するものであると解釈された。

その根拠としては、Cooper 対のトンネルや近接効果に由来したものである場合、先行研究

のように微小な横方向電流で抑制が生じるとは考えられないことが挙げられる。Andreev

束縛状態は近接効果による染み出しが十分大きくなると消えてしまうと考えられるが、こ

れまでそのような Andreev 束縛状態から近接効果へと遷移する振舞いを実験的に観測し

た例はない。そこで本研究では超伝導接合の伝導度から、近接効果と Andreev 束縛状態と

の関係を調べ、Andreev 束縛状態と近接効果の横方向電流に対する応答を明らかにするこ

とを第三の課題とした。

本研究において、この第一の問題に答えるべく開発した方法によって界面状態をコント

ロールした超伝導接合を用いて、第二の問題である臨界電流の横方向電流に対する応答や、

第三の問題である Andreev 束縛状態と近接効果の移り変わりとみられる伝導度のピーク

構造の変化を観測することができた。

以下、本論文は次のように構成されている。続く第 2 章において、上で述べた研究背景

について更に物理的な詳細を述べ、3つの問題を再定義する。第 3章においてこれらの問題

にアプローチする実験手法の詳細を示す。ただし、第 1 の問題は実験手法に関するもので

あり、その研究結果に関しては次章に述べる。その第 4 章では、実験結果を提示し、それ

に基づき、これらの物理的問題に対する本研究において答え得た範囲での解答を示す。第 5

章において研究全体を結論する。

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第 2章 研究背景

本章では、まず本研究の主要な柱の一つ、スピン軌道相互作用の基礎事項及び、スピン

ホール効果について述べる。続いて、本研究の中心的な舞台となる超伝導接合における基

本的な物理現象である Andreev 反射と Andreev 束縛状態、近接効果について概観する。

次にこれら 2つを組み合わせた、超伝導接合系でのスピン軌道相互作用の影響についての

研究の現状を述べ、先行研究についても触れる。最後に本研究で取り組む問題について総

括する。

2.1 スピン軌道相互作用

2.1.1 スピン軌道相互作用

原子でのスピン軌道相互作用

本研究の舞台である半導体中のスピン軌道相互作用を議論する前に、原子におけるスピ

ン軌道相互作用について簡単に述べる。図 2.1(a)のように、電子 (電荷e ; ) が電荷

の原子核から距離 のところを速度 で回っているとする。一方、図 2.1(b)のような

電子が静止した座標系では、電子の周りを原子核が速度 – で回っているように見える。

原子核の運動の作る環状電流が電子の位置に作る磁場は、Biot–Savart の法則により

(2.1)

であり、ここで は透磁率、 は角運動量である。一方、 は Bohr

磁子、g 因子を 2とすると、電子のスピン は磁気モーメント

(2.2)

を持つので、磁場中の電子の Zeeman エネルギーとして

(2.3)

を得る。この結果は Dirac の相対論的量子力学の結果とは 2倍だけ異なり (ただし、その

図 2.1 (a) 原子におけるスピン軌道相互作用のモデル。(b) 電子が静止した座標系で

は原子核の正電荷が円運動をし、それが作る有効磁場を電子のスピンが感じる。

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原因は「古典論であるから」ではなく加速度系への相対論の適用法に誤りがあるからであ

る)、正確なスピン軌道相互作用は次のように与えられる。

。 (2.4)

これは、電子の感じる電場

(2.5)

を用いると、

(2.6)

となる。ここで √ は光速、 は Pauli 行列 ( ) である。この形から、

スピン軌道相互作用は、あたかも に比例する磁場のようにスピンに作用すること

がわかる。すなわち一種の有効磁場を生ずると考えることができる。

原子軌道におけるスピン軌道相互作用の効果は、吸収などのスペクトルにおいて微細構

造の形で現れる。式(2.5)の形からわかるように、原子番号 Z が大きい程その効果は大きい。

以上のような単一原子の場合に限らず、電場中において電子のスピンは有効磁場を感じ、

スピン軌道相互作用が働く。

半導体中のスピン軌道相互作用 (価電子バンド)

GaAs、InAs などのⅢ-Ⅴ族化合物半導体では、価電子バンド頂上付近の電子の波動関

数は主として構成原子の p 軌道 (角運動量 ) からなるため、原子由来のスピン軌道相

互作用(式 (2.4))バンド構造等に強く影響する。

まず孤立した原子の p 軌道を考える。 は 、 とは可換であるが、 、 と

は可換でないため、これらによって固有エネルギーを指数付けできない。全角運動量

を導入すると

[ ]

(2.7)

となるので は 、 と可換であり、エネルギー準位はそれらの量子数で分類される。

すなわち、p 軌道は 、 、

の 2つの多重項に分裂する。

Ⅲ-Ⅴ族半導体の 点付近のバンド構造は、 摂動[2]によると図 2.2のように与えら

れる。価電子バンドは 点 ( の点) でスピン軌道相互作用のために

、 の 2つに分れ、 は split–off バンドと呼ばれる。 は 点を離

れると、 (heavy–hole バンド)、 (light–hole バンド) の 2つに分れる。

これに対して、伝導バンドの底付近では電子の波動関数は主として構成原子の s 軌道

( ) から成る。原子由来のスピン軌道相互作用の影響は少なく、通常無視されるが、実

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際にはこの伝導バンドの底付近にドープされた電子にはバンド間の軌道の混じりによって

スピン軌道相互作用が大きく効いてくる。

半導体中のスピン軌道相互作用 ( 伝導バンド )

電子のフェルミ波長など、考える空間スケールは原子スケールよりもずっと大きく、有

効質量近似が成り立つことを仮定する。スピン軌道相互作用は真空中電子では原子核付近

のように強い電場がない限り大きな効果ではないが、結晶中のブロッホ電子では、バンド

の効果によって有効スピン軌道相互作用が見かけ上大きくなる。 摂動によると、式(2.6)

に相当するブロッホ電子に対するスピン軌道有効ハミルトニアンは次のようになる[3]。

[

]

(2.8)

ここで P は伝導バンドと価電子バンド間の行列要素、 はバンドギャップ、 は図

2.2で表した価電子バンドにおける 点での 、 バンド間の分裂エネルギー

である。式(2.8)から、InGaAs、InAs などの狭ギャップ半導体中での有効スピン軌道相互

作用の増大が著しいことがわかる。

式(2.8)は結晶ポテンシャルを繰り込んだブロッホ電子に対する表式であるから、この効

果が生じるためには、このブロッホ電子を定義した際の結晶ポテンシャル以外の に相

当するポテンシャル変化 (電場) が必要になる。これは、バンドを考えた際の結晶の空間対

称性に対して対称性を下げる効果であり、ヘテロ接合などの結晶以外の構造による対称性

図 2.2 化合物半導体における伝導バンド、価電子バンドの概念図[23]。価電子

バンドは heavy–hole (HH) バンド、light–hole (LH) バンド、および

スピン軌道相互作用による split–off バンドの 3つの分裂がある。

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低下と、結晶の反転対称性の欠如によるものの 2種類に分けられる。次に示す Rashba 項

が前者の代表であり、Dresselhaus 項が後者の代表である。

Rashba のスピン軌道相互作用

2次元電子系において、電子の軌道運動方向に対して垂直に に相当する項がある場

合のスピン軌道相互作用が Rashba 項である。 平面内の 2次元電子系に 方向の電場

をかけた場合、Rashba 項は

(2.9)

の形である。は「電場」を含む、Rashbaスピン軌道相互作用の強さを表すパラメーター

である。

電場が 方向にかかった 平面内を電子が移

動している場合、電子の静止座標系を考えると、電

子のいる 2次元面内に環状電流が流れていることと

等価になるので、電子の運動方向と垂直な方向に有

効的な面内磁場が作られていることになる。

しかし、現実の 2次元電子系に全体として垂直電

場がかかれば、垂直方向への波動関数の移動が生じ

るはずでありこの議論はおかしい。あるいは逆に、

Ehrenfest の定理より、2次元電子系が z 方向には

静止している時、垂直方向ポテンシャル勾配 を

方向に積分したものは 0であるので、この素朴な

描像では Rashba 項は現実の半導体超構造中には

存在しない事になる[4]。ところが、2次元電子系に

おいて様々な実験を行うと、Rashba 項が存在する

と説明が容易になる結果が得られ (存在しない、と

いう実験結果もある)、これらが Rashba 項の存在

を示すものなのかどうか、議論がなされてきた。

現在の理解では、実験的に観測されている

Rashba 型スピン軌道相互作用は、やはり上記の素

朴な描像によるものではなく (従って、「存在しな

い」という結果もあり得る)、次のように説明できる。

外部電場が存在する場合、電子に働く有効電場は

(2.10)

図 2.3 外部電場が存在する場合、

量子井戸についてバンドと波動

関数の様子 [5]

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である。この有効電場を表したのが、図 2.3である。伝導バンドの場合、2つの界面でそれ

ぞれ下向き、上向きの 関数的な形であり、井戸内部では一定である。波動関数は左界面

に偏っているので、左の下向きの影響を強く感じ、井戸内の積分値と右の上向きのぶんが

打ち消されて全体として Ehrenfest の定理のように

⟨ ⟩ (2.11)

となる。

一方、価電子バンドの場合は、電場の向きが逆であるから での平均は、

⟨ ⟩ (2.12)

になる。

すなわち、伝導バンドの電場は波動関数閉じ込めに直接関与するため、束縛状態に対し

てはその平均が 0にならなければいけない。一方、価電子バンドの電場は 摂動による

混じりを通して影響が与えられるため、波動関数に対する影響は古典力学の力の表式では

表されない。したがって、束縛状態に対して 0にならないため、Rashba 項が生き残るこ

とになる。

Dresselhaus のスピン軌道相互作用

Dresselhaus 項は半導体の結晶構造に起因する[6]。Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体では空間反転

対称性が破れているため、結晶が作る電場に起因したスピン軌道相互作用が働く。3次元バ

ルク半導体において、 、 、 軸をそれぞれ [ ]、[ ]、[ ] 方向にすると、

Dresselhaus 項は

[ (

)

(

) ] (2.13)

で与えられる。[ ] 方向に成長したヘテロ構造における 2次元電子系を考えて、 方向の

波動関数の広がりについて平均すると、

[ (

⟨ ⟩ ) ⟨

⟩ ]

( ) ( の 次元の項 )

(2.14)

である。ここで ⟨ ⟩、⟨ ⟩ とした。

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2.1.2 スピンホール効果

スピンホール効果とは、電場と垂直方向にスピン流が生成される現象である。スピンホ

ール効果を利用すれば、磁場や磁性体を使わずにスピン注入を行うことができる。スピン

ホール効果の概要図は図 2.4である。図 2.4 (a)は通常ホール効果の概念図であり、電流に

垂直に磁場をかけると、電子はローレンツ力によって横方向に曲げられ、ホール電圧が発

生する。

外因性スピンホール効果

外因性スピンホール効果は、不純物による効果である。外因性スピンホール効果の要因

はスキュー散乱とサイドジャンプ散乱である。その概念図を図 2.5に示した。

まず、スキュー散乱とは、不純物ポテンシャルによる電子の散乱確率が、スピンの向き

に対して異なる現象である。不純物の作るポテンシャル は球対称で格子定数に比べて

滑らかに変化するものとする。電子の感じるポテンシャルは、

[ ] (2.15)

であり、ここで右辺の第 2項がスピン軌道相互作用である。 平面上の 2次元電子系につ

いて式(2.15)は、

[ ] (2.16)

である。したがって、スピン に対して の成分の散乱が増大し、 の

成分の散乱が抑制される。スピン の場合は反対の効果が現れる。

(a) (b) (c)

図 2.4 (a) 通常ホール効果。(b) 外因性のスピンホール効果。(c) 内因性のスピンホ

ール効果。

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一方、サイドジャンプとは、不純物による散乱を受ける際にスピンの向きにより異なる

重心のシフトが起こる現象である。不純物の作るポテンシャル が存在し、系に一様な

電場 がかかる場合、ハミルトニアンは

(2.17)

となる。電子の速度は

[ ]

(2.18)

である。ここでポテンシャル による項から、散乱による重心の移動は、

∫ (2.19)

のようになる。

内因性スピンホール効果

内因性スピンホール効果とは、電子がドリフト運動する際に起こるスピンの変化がバン

ド構造のためスピン流を生じるもので、散乱とは直接関係がない。内因性スピンホール効

果は Rashba によるものと[7]、Luttinger によるもの[8]などの機構が提案されている。

まず、2次元電子系に Rashba スピン軌道相互作用のみが存在するモデルを考える。こ

のときハミルトニアンは

(2.20)

である。また、2次元電子系を 平面上にとり は接合等の構造に起因する有効電場 (式

(2.12)によりバンドの混じりによって生じた効果をこれで代表させる) の向きを表す。

式(2.20)から、分散関係はスピンによって変化して放物線が 2つになる。これを 2次元系

全体について描くと図 2.6のようになる。

また、式(2.20)の固有状態と固有値は

, (2.21)

(2.22)

(a) (b)

図 2.5 (a) スキュー散乱。(b) サイドジャンプ散乱。

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である。ここで、添字の はスピンのアップ、ダウンを表し、 である。また、

固有状態は 方向のスピン固有状態 と平面波の積で表される。

(2.23)

(2.24)

すなわち ( ) によってスピンの向きが異なる。

図 2.6(c)に 3次元的に示した分散関係をフェルミエネルギーでカットすると2つの同心フ

ェルミ円が現れる (図 2.6(b))。ここで波数はフェルミ円の半径方向を向いているため、前

述のスピン軌道有効磁場が波数ベクトルと との外積になる関係より、スピンの向きは赤

色および青色の矢印のような方向を向かう。外側と内側のフェルミ円は同じ向きの波数ベ

クトルに対して、スピンは反対向きである。

式(2.20)の第 2項を Zeeman 項 とみなすと、有効磁場

(2.25)

が によって異なるとみなせる。この電子系に電場 を印加すると電子は

ドリフト運動を行い、 が次のように変化する。

[ ] (2.26)

そのため、各 成分により異なった有効磁場に加えて、 方向の有効磁場が増加する。

[ ]

(2.27)

一方、電場 を印加することにより生じる有効磁場を考えると、式(2.25)

より

(2.28)

となる。この有効磁場により、スピンの 成分が発生する。 の符号にも 方向の有効

磁場は依存しているため、 においてスピンは上向きであり、 においてスピン

は下向きである。そのため 方向にスピン流が流れる。

スピン流の大きさを見積もる。局所スピン s の従うトルク運動方程式は次のように書け

る。

(2.29)

(2.30)

ここで は緩和定数である。式(2.29)の第 1項は有効磁場がスピンに与えるトルク、つま

り歳差運動に対応する項である。第 2項は、通常スピンの向きは有効磁場方向に一致する

ことで安定する事から、緩和は回転軸に近付く向きに働くことから取り入れられた歳差運

動の緩和項である。また、摩擦項のようにスピンベクトルの変化の速さに比例している。

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(2.31)

と表される[7]。 は の に平行な成分を表す。 方向のスピン流は、フェルミ

円に沿って を積分すると得られる。この際に外側と内側のフェルミ円ではスピンの

向きが逆であるので、

外側フェルミ円周

内側フェルミ円周

(2.32)

となる。ここで、 は各フェルミ円の半径である。フェルミエネルギー をとる波数は、

( )

(2.33)

(

) (2.34)

であることから、 となる。したがって、スピン流は

( )

(2.35)

のように電場に比例する形で表される。また、ホール伝導度は

(2.36)

とユニバーサルな値をとることがわかる。

(a)

(b)

(c)

図 2.6 Rashba 項がある場合の分散関係。

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2.2 超伝導接合

超伝導体 / 常伝導体界面では Andreev 反射[9]という散乱機構が生じる。Andreev 反射

では、入射した粒子と反射された粒子で、その電荷、有効質量、速度ベクトルの符号が反

転し、その結果、超伝導体中で新たに Cooper 対が形成される。それに対する概念図は図

2.7である。超伝導ギャップ よりも小さいエネルギーをもつ常伝導体中の電子が入射粒

子なら、反射されて出てくるのは正の電荷をもったホールであり、その有効質量は負であ

る。しかし、半導体物理でのホールとは異なって、ここで扱っているホール的準粒子は伝

導バンドに存在する。また、速度ベクトルの符号が逆になる性質は、反射された粒子が入

射してきた粒子と反対方向に全く同じ道を帰って行くことを意味する。そして反射の際に

超伝導体の巨視的位相をもらう位相伝達も起きるというのが Andreev 反射の主な性質で

ある。

以下では、超伝導接合に対する理論について簡略に説明する。

2.2.1 超伝導体 / 常伝導体接合における Andreev 反射

Andreev 反射の基礎的な性質は Bogoljubov–de Gennes 方程式 (BdG 方程式) で説明

できる[10]。BdG 方程式は、波動関数や超伝導体のオーダーパラメーターの空間変化を取

り込んだ方程式で、簡単のため 1次元モデルを考えると次のように与えられる。

(

) (

) (

) (2.37)

図 2.8(a)のように、超伝導体と常伝導体のフェルミエネルギーの違いを 、界面での

型障壁の存在を仮定する。すると、 と表されて、ポテンシャルは

図 2.7 Andreev 反射の概念図。

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13

(2.38)

になり、 √ は超伝導体中のフェルミ波数である。 障壁の高さ は無次元

のパラメーター によって表現される。入射電子波

( ) (2.39)

の散乱過程は図 2.8(b)のようである。超伝導体中へ輸送される準粒子と反射されてくる粒子

は式(2.40)、(2.41)のように表される。

𝑟𝑎 (

) (

) ℎ (2.40)

𝑟 𝑙 𝑏 ( ) 𝑎 (

) ℎ (2.41)

各波数は、 𝑁 √ 、 √ 𝑁 、 ℎ √ 𝑁

√ Δ

、 ℎ √ Δ

、である ( は

常伝導体中のフェルミ波数)。

また、常伝導体側から入射されたホール粒子を考慮する場合、反射係数を𝑎 、𝑏 、 、

に置換し、 を – に置換することによりすぐ求まる。各反射係数 𝑎 、𝑏 、 、 は、

波動関数の境界条件より導出できる。ここで Andreev 反射確率を 𝑎 𝑎 、通常反

射確率を 𝑏 𝑏 として、BTK 公式[11]

[ ] (2.42)

から伝導度が求まる。ただし、超伝導性がない場合の通常状態抵抗は 𝑁

である。 による伝導度及び IV 特性は図 2.9のようである。

図 2.8 超伝導体 / 常伝導体接合の概念図。[13]

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14

2.2.2 超伝導体 / 常伝導体 / 超伝導体接合の超伝導電流

ここでは界面にポテンシャル障壁および超伝導体と常伝導体間のフェルミ速度のミスマ

ッチをもつ 1次元超伝導体 / 常伝導体 / 超伝導体接合のモデルを考える。図 2.10ではペ

アーポテンシャル と 2つの超伝導電極間の位相差 を表し、ポテンシャル は

型障壁と超伝導体間のフェルミエネルギー差 によるものである。

[ 𝐿 ]

[ 𝐿 ] (2.43)

Josephson 超伝導電流の計算のため、接合に入射する電子的準粒子 とホール的準粒

子 ℎ と接合を抜ける凖粒子 と ℎ との関係を転送行列 [12]によって次のよう

に表す。

(

) (

ℎ) (2.44)

図 2.9 BTK モデルによって計算された系の伝導度 ( 左 ) と IV 特性 ( 右 )。[11]

図 2.10 超伝導体 / 常伝導体 / 超伝導体中のペアーポテンシャル 𝑥 と

ポテンシャル 𝑈 𝑥 の空間依存性.[13]

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15

ただし、ここでは透過チャネルのみ考え、通常の転送行列のように反射チャネルは考えな

い。これは最終的に接合の透過率を求める事を目的とするためである。左超伝導体から常

伝導体への入射を表す転送行列を 𝑰 、反対向きの転送行列を 𝑶 とすると、これらは式

(2.40)の係数を用いて各成分を表し、

𝑰 ( 𝜙 4 ′

𝜙 4 ′

𝜙 4 ′ 𝜙 4 ′

) (2.45)

𝑶 ( 𝜙 4 𝜙 4

𝜙 4 𝜙 4 ) (2.46)

で与えられる。また、電子とホールが常伝導体を通過する転送の間に、各々 𝐿、 ℎ𝐿 だ

けの位相変化をするため、常伝導体中の通過を表す転送行列 𝑷 は、

𝑷 ( 𝐿 ℎ𝐿

) (2.47)

である。最後に、障壁での反射行列 (ここで、「反射行列」と呼んでいるものは、障壁の、

言わば入射チャネル自身への転送行列であり、入射チャネルから出射チャネルへの変換を

表す「散乱行列」(S 行列)ではない) を、常伝導体側からの粒子の Andreev 反射複素振幅

𝑎 、通常反射複素振幅 𝑏 を用いて表すと次のようになる。

(

) (

𝑏 𝜙 𝑎

𝜙 𝑎 𝑏

) (2.48)

上記の過程を表したのが図 2.11であり、常伝導体中の 1つのサイクルを行列 𝑴 とする

と、

𝑴 𝑷 𝑷 (2.49)

であり、左側から右側界面までのすべての輸送プロセスの和は次のようになる。

∑ 𝑴 ∞

=

[ 𝑴 ] (2.50)

図 2.11 超伝導体 / 常伝導体 / 超伝導体接合構造中の転送、反射過程[13]。

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16

従って、接合を通した全体の転送行列 は

(𝐶 𝐷

𝐷 𝐶 ) 𝑶 [ 𝑴 ] 𝑷𝑰 (2.51)

である。

Josephson 超伝導電流 𝐼 は転送行列 を用いて計算できるが、実用的な計算のため

にはギャップ内側 ( ≤ Δ ) の離散 Andreev 準位から生まれた 𝐼𝑑 要素と、ギャップ外

側 ( Δ ) の連続スペクトルから生まれた 𝐼 𝑜 で分ける必要がある。

離散 Andreev 準位は転送行列 の極から得られる。T の極、すなわち共鳴条件は、次

の項の極条件である。

[ 𝑴 ] 𝑴 𝒕

[ 𝑴 ]

𝑴 𝒕

𝛤 (2.52)

𝑴 は随伴行列であり、𝛤 [ 𝑴 ] である。式(2.52)より 𝛤 のゼロ点からエネル

ギー固有値が決められる。

T では電気化学ポテンシャル 以下の離散レベル だけが占有されて、ネット

超伝導電流に寄与する。𝛤 から決められた離散レベルにより輸送される電流 𝐼𝑑 は次のよ

うになる。

𝐼𝑑 ∑

𝐸<

(2.53)

また、連続エネルギースペクトルによる超伝導電流 𝐼 𝑜 は転送行列 から次のように

なる。

𝐼 𝑜

∫ 𝛥0

𝛥0

[ 𝐶 𝐶 𝐶 𝐶 ] (2.54)

連続準位電流は電子的準粒子とホール的準粒子によって輸送される電流で構成される。こ

こでは電流の方向が の符号を反転させることで逆転されることを用いた。要素 𝐶

は式(2.51)によって定義したものである。

短接合 (𝐿 ≪ 𝑁𝛥 ) の場合、連続的準位による電流の寄与は 0であるので、離

散準位による電流のみ全超伝導電流に影響を及ぼす。図 2.12では、Z=0、0.5、1.0 の場合

の位相差 の関数としての Andreev 準位のプロットを表す。

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17

2.2.3 界面付近のポテンシャル乱れと Andreev 反射

1991年 Kastalsky らは InGaAs/Nb からなるN/S接合における微分コンダクタンスを

測定した[15]。Nb は、エネルギーギャップ 1.5 meV と転移温度 9 Kをもつ遷移金属であ

る。図 2.13 に示すように彼らはこの実験でゼロバイアスコンダクタンスピークが現れるこ

とを発見した。また、この幅は Thouless エネルギー 𝐷 𝐿 で与えられる。彼らが

用いた InGaAs は不純物を多く含んだ材料であり、図 2.14のような電子とホールの間の干

渉効果によって理解される。点 a で電子が Andreev 反射と通常反射を受けたとする。通

常反射を受けた電子は散乱を受けて点 b で再び Andreev 反射と通常反射を受けたとする

と Andreev 反射された粒子は同じ道筋をたどり点 a に帰ってくる。このような過程から、

2つのホールの間に位相干渉が起こり、ホールの波動関数を強めあうことで Andreev 反射

が増える。有限電圧では遡及性が壊れるためにこの効果は現れないが、ゼロ電圧では遡及

性が保たれ Andreev 反射確率が増加するためゼロバイアスコンダクタンスピークが現れ

る[16、17]。Volkov らは準古典 Green 関数法を用いて実際に N 中のペア振幅が乱れに

よって増加することを確かめた[18]。

またこの Andreev 反射確率の増加は以下のようにして理解できる[19]。N 側から S 側

へ透過する確率を T とすると、通常 Andreev 反射は 2つの粒子の拡散過程なのでその確

率は T のオーダーである。一方、通常反射確率は 1 回の散乱過程で T で与えら

れる。したがって、多くの場合、通常反射確率は Andreev 反射確率より大きい。しかし汚

れた系では不純物に何度も散乱され、界面に何度も向かうことが出来る。よって、電子は

Andreev 反射によって S に入って行くまで何度も通常反射を受ける。そのようなコヒー

レントな過程による全 Andreev 反射確率 P は通常反射の回数 n が無限大のとき

図 2.12 Z = 0、0.5、1.0 の位相差 𝜙 の関数として短接合 𝐿 ≪ 𝜉 の (a) 規格化

された Andreev 準位と、(b) Josephson 電流[13]。

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18

∑T

T

T T (2.55)

となる。つまり、界面付近での確率 R の複数回の通常反射と、T のオーダーの 1 回の

Andreev 反射のコヒーレントな過程は T のオーダーの Andreev 反射確率を形成する。し

たがって、乱れの効果は界面付近の粒子を閉じ込め、接合系のコンダクタンスを増加させ

ることがわかる。

2.2.4 近接効果

近接効果とは常伝導体 / 超伝導体接合系において、図 2.15 のように超伝導体 (S) 側か

ら常伝導体 (N) 側に Cooper 対が染み込む現象である。N 中に染み込んだ Cooper 対は

コヒーレンス長と呼ばれる長さ程度進んだところで壊れる。コヒーレンス長は

√ 𝐷 で与えられ、Cooper 対の波動関数は距離に対して指数関数的に減少する。こ

こで、𝐷 は N の拡散定数、 は温度である。拡散定数はある点にあった電子が時間の経

過と共にどれくらい広がっていくかを示す量で、たとえば金の薄膜では であ

り、 の時コヒーレンス長は となることがわかる。

図 2.14 干渉効果の模式図。これによって

Andreev 反射確率が増加する[23]。

図 2.13 InGaAs/Nb 接合での微分コ

ンダクタンス[15]。

図 2.15 近接効果の模式図 [23]

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19

2.3 超伝導接合におけるスピン軌道相互作用

2.3.1 Rashbaスピン軌道相互作用を持つ 2 次元電子系と超伝導体の接合

Rashba スピン軌道相互作用が存在する常伝導金属の電子状態を表すハミルトニアンは

(

Δ

Δ

Δ

Δ

) (2.56)

のようになる[20]。ここで、 は Rashba の結合定数、 は階段関数、𝛥 はエネルギー

ギャップ、、 、 である。

x 方向の速度演算子は以下のように与えられる[21]。

(

)

(2.57)

このときの散乱過程は複雑である。2次元電子系側にはスピン軌道相互作用があるため、

図 2.16に示すような反射過程が通常反射と Andreev 反射でそれぞれ 2つずつある。反射

されたときに運動量が変わるので、スピン軌道相互作用によってスピンも回転する。そこ

で、運動量の変化と角運動量の保存を同時に考慮するために、2通りのプロセスの和として

考える。

図 2.16 Rashba スピン軌道相互作用がある 2DEG と超伝導体の接合に

おいて散乱過程の模式図。

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20

一方、超伝導体中にはスピン軌道相互作用がなく、運動量と角運動量は独立であるので、

電子的準粒子とホール的準粒子のプロセスは 1通りで足りる。これを境界条件[21]

(2.58)

(2.59)

(

) (2.60)

を果して解くと、波数 の入射波に対する波動関数は

[

√ 𝑜

(

)

𝑎

√ 𝑜

(

)

𝑏

√ 𝑜

(

)

√ 𝑜

(

)

√ 𝑜

(

)

]

(2.61)

[

√ 𝑜 (

)

√ 𝑜 (

)

√ 𝑜 (

)

√ 𝑜 (

)]

(2.62)

であり、ここで √ , √

,

, √ ( √ 𝛥 ), √ ( √ 𝛥 ), は

準粒子のエネルギーであり、𝑎 と 𝑏 は Andreev 反射係数、 と は通常反

射係数、 , , , は透過係数である。y 方向には並進対称性が成り立ってい

るので界面に平行な方向の運動量は保存する。:

これを用いると、最終的に得られたコンダクタンスは

∫ 𝐶 𝐷 𝐶 𝐷

(2.63)

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21

のようになる。ここで は

(2.64)

で定義される臨界角である。この結果を

(2.65)

というパラメーターで図示したものが図 2.17である。図 2.17 から分かるように Rashba

スピン軌道相互作用がコンダクタンスに与える影響は大きくない。しかしゼロバイアスコ

ンダクタンスの変化の場面から、スピン軌道相互作用のある場合と強磁性交換場がある場

合を比較したのが図 2.18であり、強磁性交換場とは異なる依存性を示す。

図 2.17 規格化したコン

ダクタンス[23]。(a)

Z=10、(b) Z=1、(c) Z=0。

図 2.18 2DEG / S 接合でRashba スピン

軌道相互作用(左図)、F / S 接合で交換

場の関数として(右図)のゼロ電圧での

超伝導状態でのコンダクタンス[23]。(a)

と (d) は Z=10。(b) と(e) は Z=1。(c)

と (f) は Z=0。

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2.3.2 Andreev 束縛状態への横方向電流の影響

Andreev 束縛状態への横方向電流の影響について議論した先行研究について紹介する

[1]。この実験ではスピン軌道相互作用の強い狭ギャップ半導体である InAs 2次元電子系

を常伝導体に用いた超伝導体/常伝導体/超伝導体接合へ横方向電流を流して応答を調べて

いる。その結果ゼロバイアスに生じた超伝導電流に起因する極めて高く鋭い微分コンダク

タンスのピークが、ごく小さい横方向電流によって抑制されることが図 2.19のように確認

された。これは横方向電流がスピンホール効果によって生成した純スピン流が常伝導体 /

超伝導体界面で反射されることで界面付近に定在波が形成され、Andreev 束縛状態が破壊

されたためであると解釈された。

しかしこの研究では微分コンダクタンスのバイアス依存性しか測定されておらず、臨界

電流が横方向電流によってどのように抑制されるかは明らかになっていない。

また、近接効果と横方向電流によるスピン軌道相互作用の効果との関係も調べられてい

ない。

2.4 本研究の目的

2.3.2節で述べたように先行研究として行われた測定では、Josephson 臨界電流の横方向

電流による抑制の様子を調べることができなかった。これは、SNS接合を十分制御して作

製することが困難であったことが大きく影響している。そこで、本研究では、まず容易に

良好な SNS接合を形成する実験手法を確立することを第一の課題とする。

上記課題の解決により、本研究では超伝導臨界電流に対する横方向電流の影響を調べる

ことを第二の課題とする。

同様に、先行研究では超伝導電流の起源として Andreev 束縛状態による移送情報伝達に

よるものが観測されたが、Cooper 対の直接の伝導の結果である近接効果に由来する超伝導

図 2.19 先行研究の実験結果[1]。(a) 試料 1の 0.5K での𝐺 𝑉𝑠𝑑 特性。横方向電流 𝐼𝑡 の

単位は A である。(b) 試料 2の 0.1K での𝐺 𝑉 特性。ここでは 4端子測定を行った。

横方向電流 𝐼𝑡 の単位は nA である。

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電流の振舞いは実験的に観測されていない。そこで、伝導度の高い超伝導接合を作製し、

近接効果による超伝導電流と Andreev 束縛状態による超伝導電流がどのように関係して

いるかを調べ、これら Andreev 束縛状態と近接効果の横方向電流に対する応答について実

験的に調べ議論することを第三の課題とする。

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24

第 3章 実験手法

以下、本研究の実験手法について試料作製および測定に分けて述べる。試料の作製工程

は大きく、

1. 分子線エピタキシー法による 2次元電子系基板成長

2. リソグラフィーを用いた微細加工

の 2つに分けられる。工程 1については技術職員である橋本義昭氏が行い作製した基板を

使っている。工程 2から測定については私自身で行った。

3.1 試料作製

本研究の第一の課題は、超伝導体-半導体の良好な接合を得る事であり、これに対するア

プローチは試料作製技術の一部である。この課題に対する取り組みと結果については、第 4

章で詳しく議論するが、本節ではこの研究で使用した電圧パルス印加回路について述べて

おく。

3.1.1 2次元電子系基板成長

本研究で用いた 2次元電子 (2DEG) 基板は分子線エピタキシー法 (Molecular Beam

Epitaxy、MBE) を用いて作成した。MBEでは、超高真空において加熱された基板上に、

成長させる単体あるいは化合物の入った分子線原から分子を照射し、基板上で反動させ成

長していく。この時、反射高速電子線回折 (Reflection High Energy Electron Diffraction、

RHEED) により成長中の表面の様子をリアルタイムにモニターし、分子線源のシャッター

の開閉により、単原子層オーダーで制御された積層構造の成長が可能である。本研究で使

用した 2次元電子基板は、キャリヤー供給層が 2次元電子系の上部にある通常構造基板 (図

3.1(a)) と下部にある反転構造基板 (図 3.1 (b)) の二種類である。

最初に用いた基板では、 ウェハー上に格子整合した InAlAs をバッファとし

て成長し、図 3.1 (a)のような通常構造を積層した。2次元電子系の 4.2 K での電子密度は

、移動度は 4 、平均自由行程は

√ である。

2つ目の基板は、 ウェハー上に格子整合した 4 A をバッファとして

成長し、図 3.1 (b) のような反転構造を積層した。2次元電子系の 4.2 K での電子密度は

、移動度は 4 、平均自由行程は

√ である。

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3.1.2 微細加工

上記の 2DEG 基板をさらに加工し図3.2の模式図であらわされる超伝導接合素子を作製

した。

加工精度は百ナノメートル以下が要求される。本研究では電子線リソグラフィー技術を

用いた。本研究で行った電子線リソグラフィー技術を用いた基板加工は、蒸着およびエッ

チングの 2種類で以下のようなプロセスで行われる。

図 3.1 本研究に使用した (a) 通常構造 2 次元電子系基板と (b) 反転構造 2 次

元電子系基板。

(a) (b)

図 3.2 作製した S / N / S 接合の概略図。

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1. 基板準備

加工のために 5 mm角に劈開した 2DEG 基板をトリクロロエチレン、アセトン、メ

タノールでそれぞれ 5分ずつ超音波洗浄する。その後、窒素をブローして液をとばし、

さらにホットプレート上で 150 ℃で 5分間加熱する事により完全乾燥させる。

2. レジスト塗布

基板にレジストを塗布する。本研究で用いるレジストは α‐クロロメタクリレートと

α‐メチルスチレンの重合体である ZEP520A (日本ゼオン株式会社) である。ZEP520A

は、分子量が 57000と小さいため、リソグラフィー技術の微細なパターンの描画に適切

である。さらに粘度を下げて膜厚を薄くするため、ZEP520A をアニソールで 3:2 の割

合で希釈した溶液を用いた。このレジスト溶液は洗浄された基板上にスポイトで垂らし

た後、スピンコーターを用いて回転塗布する。

3. プリベーキング

レジスト溶液を固化させるために、回転塗布した基板をホットプレートに乗せ加熱す

る (プリベーキング)。本研究では蒸着工程の場合、150 ℃、5分、エッチング工程の場

合、150 ℃、30分の条件で行う。

4. 露光

電子線描画装置 (Elionix 社製 ELS-7700、 以下 EB) によりレジストを露光する。

ELS-7700 の電子銃は Zr0/W 熱電界放出型の Schottky 放出を利用したフィラメン

トを用いており、電界放出型電子銃に比べて高い電流値と安定度を持つ。

5. 現像

露光されたレジストを現像液に浸けることにより分解して取り除く。本研究では、

ZEP520A の現像のために ZEDN50 レジスト用現像液 (日本ゼオン株式会社製、酢酸

イソアミル 90 % 、酢酸エチル 10 % 混合液) を用いて現像を行う。その後、イソプロ

ピルアルコールで濯ぎ現像を止める。

6. ポストベーキング

電子線描画では、電子線よりも二次電子の方がレジストに対して衝突断面積が大きい

ため、現像後はオーバーカットの構造をとる。これは金属の蒸着のプロセスに関しては

理想的な形である。しかし、ウェットエッチングを行う場合、エッチング液がレジスト

の下に染み込み、レジストが剥がれてしまう原因になる。したがって、レジストをエッ

チングに耐えるように基板に密着させるため、現像後にホットプレートで加熱 (ポスト

ベーキング) を行う必要がある。本研究では本試料と同じ基板を用いてレジストのガラ

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ス転移温度 (ZEP520A の場合 105 ℃) 以上の温度でポストベーク温度および時間の

条件を探した結果、140 ℃、30分間加熱するのが最適であることを見出し、これを採

用した。

7. 蒸着

本研究で使用した物質であるニオブ (Nb)、ゲルマニウム (Ge)、金 (Au)の蒸着には、

イオンビームスパッタリング (IBS) 装置を用いた。IBS での蒸着プロセスを以下に示

す。

1. アルゴン原子をカソードフィラメントによりイオン化。

2. アルゴンイオンに電圧を印加して加速。

3. ニュートラライザーフィラメントによりアルゴンイオンを中性化。

4. 金属ターゲットにアルゴン原子を照射し、それによってはじき出された金属が基板上

に付着。

蒸着された物質はレジストの分解された部分には基板表面に直接付着するが、レジス

トの残留部分にはレジスト表面に付着する。蒸着レートや膜厚は水晶振動子の共振周波

数の変化と密度、Z-Ratio から計算することができる。しかし、水晶振動子の位置や角

度が基板と異なるせいで、測定値と基板に蒸着された実際の膜の厚みとが異なるため、

本研究ではより正確に膜厚を制御するため、ダミーの基板上に蒸着した膜の膜厚を原子

間力顕微鏡で測定することで計算値の補正を行う。

8. エッチング

基板のエッチングには、ウェットエッチングとドライエッチングを用いた。

・ ウェットエッチングは、基板をリン酸と過酸化水素水と純水を混合 ( 4

して作られたエッチング液に浸し、化学的に溶解させる。現像工

程でレジストの残留部分はエッチング液に接触しないため、レジストの無い部分のみ

がエッチングされる。ウェットエッチングは主にメサ構造の形成に用いた。

・ ドライエッチングは Ar+ イオンを加速し基板に衝突させることで基板正面を削りと

る方法である。ドライエッチングは上記の蒸着過程で使用した IBS 蒸着装置の中に

あるアトムソースを用いた。ドライエッチングは超伝導接合のための Nb 電極を蒸

着する前に、基板上の酸化膜を除去するために用いた。

9. リフトオフ

蒸着、又はエッチング後、不要なレジスト及びレジスト上の金属等を除去する作業で

ある。本研究に使用した ZEP520A ではトリクロロエチレンを用いてレジストを溶解

させて除去した。

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28

以上が、各プロセスに共通する描画部分の詳細である。この微細加工技術を用いた試料

作製工程は以下の通りである。

1. 位置合わせ用マーカー蒸着

① 洗浄後、レジスト塗布して、EB によりパターンを描画、現像。

② IBS 蒸着装置を用いて金のマーカー蒸着 (膜厚 800 )。

③ 不要なレジストを除去。

2. メサ作製

① 洗浄後、レジスト塗布して、EB によりパターンを描画、現像。

② ポストベーク。

③ エッチング液に浸してウェットエッチング。

④ 不要なレジストを除去。

3. 2次元電子系とのオーミックコンタクトの作製

① 洗浄後、レジスト塗布して、EB によりパターンを描画、現像。

② AuGe の蒸着 (膜厚 1000 )。

③ 不要なレジストを除去。

④ アロイング装置 MILA3000 (株式会社アルバック) によって、フォーミングガス

( 、 混合気体) 雰囲気中 290 ℃で 5分間加熱。

4. Au 電極作製

① 洗浄後、レジスト塗布して、EB によりパターンを描画、現像。

② Au の蒸着 (膜厚 1000 )。

③ 不要なレジストを取り除く。

5. 超伝導体 / 常伝導体 / 超伝導体接合の作成

① 洗浄後、レジスト塗布して、EB によりパターンを描画、現像。

② IBS 蒸着装置でドライエッチング。

③ 超伝導体(Nb) の蒸着。2次元電子系とコンタクトするため、Nb 蒸着前に薄く

ゲルマニウム (Ge) を蒸着した試料もある。

④ 不要なレジストを除去。

⑤ Ge を敷いた場合は、アロイング装置 MILA3000 によって、フォーミングガス雰

囲気中 290 ℃で 5分間加熱する。

作製完了した試料の電子顕微鏡写真と SEM 写真を図 3.3 に示す。

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29

3.1.3 絶縁破壊回路

接合に対して平行方向に電流やスピン流を流すために、ホールバー形状をウェットエッ

チングにより形成し、その後、超伝導体を蒸着するのであるが、その間常に高真空を保つ

ことはできないので、必然的に超伝導体と 2DEG の界面には酸化膜が形成され、これがバ

リアとなって試料の特性を悪くすると考えられる。この絶縁膜の処理は超伝導接合作製で

最も工夫すべき所である。

これに対する最もよく用いられる解決策は、超伝導体の蒸着前にドライエッチングを行

って絶縁膜を削ることである。しかし、実際に形成される絶縁膜は、作製時の条件 (温度、

湿度、時間など) で異なるため、ドライエッチングのための最適条件はサンプルによって異

なり、最適なバリアの接合を再現性良く作るのは極めて難しい。

先行研究[1]では、この手法で低抵抗の接合を作ることはできず、測定中に回路の発振に

よって接合に印加された電圧パルスによって絶縁膜の破壊が生じて低抵抗になった試料を

用いて図 2.19(a)の結果を得ている。そこで本研究では、ドライエッチングを行って作成し

た試料が最適なバリアの接合でなくても、ある程度の低い抵抗 (室温での界面抵抗 10 k

以下) である場合、とりあえず冷却し、超伝導接合間に適切なパルスを印加する事により、

界面の絶縁膜を破壊する事を試みた。

パルス印加の際に注意すべき点は、絶縁膜の破壊と共に InAs 2次元電子系のメサ部分も

破壊しないようにしなければならない点である。絶縁膜が界面に形成されている場合、高

電圧をかけたとき、比較的高い抵抗を持つ絶縁膜では絶縁膜にほとんどすべての電圧がか

かるが、その後もし絶縁破壊ができて界面の抵抗が 2次元電子系の持つ抵抗より低くなる

と、パルスによる電圧がほぼすべて 2次元電子系へかかり、2次元電子系が壊れる可能性が

ある。実際、後で示すように大きな容量を持つ電圧源より電圧パルスを加えると、相当数

の試料で抵抗低下とともに一部破壊される現象が生じた。

(a) (b)

図 3.3 作製完了後、(a) レーザー顕微鏡観察と (b) 接合部分の SEM 写真。

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30

これを避けるために作製した自作の電流制限回路が図 3.4(a)である。速いパルスに応答す

るため、高周波用トランジスタのみをアクティブ素子として使用している。図 3.4(a)の回路

の設計では R3 抵抗により、制限電流を調節できるようにした。たとえば であ

る場合 5 mA、 である場合 1 mAが電流の上限となる。絶縁破壊によって抵抗

が降下したとしても、メサ部分に流れる電流は制限され、メサに損傷が起こることが回避

できる。

パルス源として Wave Factory の WF1943 を用いる。正弦波の波形を基準として、オ

フセットと位相調節により図 3.4(b)のような正側の波形を印加する。印加時間はパルスの周

波数および個数で決めることができる。

図 3.4 (a) パルス印加に用いた電流制限回路。(b) パルスの概念図。

(a)

(b)

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31

3.2 測定手法

3.2.1 低温測定

本研究では主に 3つの低温測定装置を用いた。

第一のものは、He ベッセル挿入式の簡易的な低温測定プローブであり測定温度は 4.2 K

である。

第二のクライオスタットはガラスデュワー式液体 4He 用クライオスタットで、ポンピン

グより到達温度はおよそ 1.2 Kである。このクライオスタットは回転機構を有するマグネッ

トを取り付けることで使用に印加する磁場を回転させることができる。常伝導マグネット

であるため高磁場側ではコイルで生じるジュール熱のために水冷機構を有している。最高

磁場はバイポーラ―電源を用いた場合でおよそ0.3 T、モノポーラー電源を用いた場合で0.9

Tである。

第三のものとして、パルス管冷凍機 (大陽日酸製) を使用した。パルス管方式を採用して

いるため、液体 4He を必要とせず、到達温度はおよそ 3.5 Kである。また、ヒーターを備

えており PID 制御することにより最低到達温度から約 0.1 mKの精度で温度の調節が可能

である。磁場は TM–YS6 型電磁石 (株式会社玉川製作所製) を用いて試料に対して面直方

向へ印加する。このモデルの電磁石の場合、磁極間隔の調節により試料に印加する磁場の

強さが決まる。本研究では間隔 600 mm を採用し、最高印加磁場はおよそ 0.78 T である。

3.2.2 測定回路

本研究では図 3.5のように超伝導接合とメサに独立に電流を印加する。このことにより、

超伝導接合の伝導度の、横方向電流、およびスピン流に対する応答を調べることができる。

この測定では接合部分の電位に注意しなければならない。超伝導接合の伝導度測定と共

に接合方向に対して垂直方向 (メサ方向) へ電流、又はスピン流を流すことを行うため、超

伝導接合には複数の電流端子が接続している。そのため、超伝導体に直行するように流す

電流が超伝導体に流れ込んでしまう、あるいはその逆がある。そのため、超伝導体とメサ

の交差点での電位が、超伝導体あるいはメサから見て一致するようにする必要がある。

そのために本研究で作成した回路を図 3.6に示す。この回路では正負対称な電圧を印加す

ることが出来る。実際の試料および測定装置では完全に対称抵抗を持つ回路はできないの

で、図 3.6(a)の 20 k (or 50 Ω) の抵抗を用いて正負電圧の比を変え、交差点での電位を

0に合わせることが出来るようにした。また、トランスを用いて直流成分に交流成分を重畳

させることで、ロックインアンプを用いて微分抵抗および微分コンダクタンスを直接測る

ことも可能である。図 3.6(b)はメサに電流を流すための回路である。メサ両端に電圧源があ

り、独立に電圧を変えることで交差点での電位を接合から見た電位と合わせることができ

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る。超伝導接合と同じ対称回路にしなかったのは、熱起電力のために交差点での電位を合

わせるためには、両方の電圧をシフトしなければならないためである。実際、本研究で接

合に電流を流さない (バイアス 0 V) 時に、メサに電流が流れないようにするには両端の電

圧を約-2 mVにしなければならない。

図 3.5超伝導接合とメサに独立に電流を印加する事により現れる (a) 横方向電流、

(b) スピン流、(c) スピン蓄積流の概念図。

(a)

(b)

(c)

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図 3.6 (a) 正負対称な電圧を印加する回路図。(b) メサに対する測定系の概略図。

(a)

(b)

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34

第 4章 実験結果と議論

第 1章、第 2章で掲げた三課題について、得られた実験の結果を示し、議論を行う。

まず、第一の課題である SN 界面特性の制御法についての実験結果を示す。第二の課題

の臨界電流の横電流依存性、であるが、「臨界電流」には Andreev 束縛状態によるものと、

近接効果によるものがある。通常構造で積層した 2 次元電子系を使った実験では、後者に

ついての実験を行うことができた。Andreev 束縛状態による臨界電流の横電流依存性、及

び、第三の課題である Andreev 束縛状態から近接効果への遷移の様子の観測は、反転構造

2次元電子系の資料において行った。以下、この順番で結果を提示し、議論する。

4.1 界面のコントロール方法

SN 界面のコントロールする方法として本研究では、

① 超伝導体蒸着前のウェットエッチングと雰囲気コントロール

② 超伝導体蒸着直前のドライエッチング

③ Ge 層の挿入と熱処理

④ パルス電圧印加による絶縁破壊

をそれぞれ、および組み合わせて試みた。

①はグローブボックスを用いて窒素雰囲気中でウェットエッチングを行い真空容器に入

れた後蒸着装置に入れ、なるべくエッチングした表面を大気にさらさずに蒸着を行う方法

である。この方法では側面というよりもエッチングによってさらに細いメサを形成するよ

うな形になり、エッチング後のメサ形状は図 4.1.1(b)のようになる。ウェットエッチングの

ためのレジストをつけたまま蒸着するので、超伝導接合の断面構造は図 4.1.2(a)のようにな

る。

②は第 3章で述べたアトムソースを用いて蒸着直前に表面を削る方法である。その際、メ

サの側面を削るため図 4.1.1(a)のように角度を変えてアトムソースを照射した。アトムソー

スによってメサは若干削れるが、①のように新たなメサを形成するほどではなく、図4.1.1(c)

に示すように、あくまで表面に存在すると思われる酸化膜を削り取るにとどめた。この場

合の超伝導接合の断面構造は図 4.1.1(b)(c)のようになる。この工程はすべての接合に対して

行った。

③は InAs の 2DEG と Nb との間に Ge を挿入し、熱処理を行うことで Ge をドーパ

ントとして InAs に拡散させ導電性を上昇させる方法である。熱処理の条件は第 3 章に述

べたように 290 ℃ 5分間で、Nb を酸化しないよう還元雰囲気中で行った。

④は最終的にできた試料にパルス電圧を印加し無理やり電流を流すことで絶縁破壊を引

き起こし導電パスを形成する方法である。

表 4.1.1 に①~④による試料界面コントロールの結果の一部を示す。試料#1 と#4 を比較

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35

すると、ウェットエッチングは抵抗が下がるものの、温度依存性から金属的な界面にはな

るほどではないことがわかる。また、Ge 層の挿入と熱処理の効果であるが、ここには記載

していないもの歩留まりの面ではかなり改善した。ただ Ge の拡散によって超伝導接合の

性質そのものが変化している可能性は考慮する必要がある。

またパルスの印加ではメサに損傷が生じることが頻発した (試料#2、3)。この場合は必ず

メサの抵抗が上昇していた (1~2 kΩ程度だったものが 10 以上になる)。従って、第 3章

で述べた電流制限回路を自作し、試料に過度な電流が流れないようにした。その結果、試

料#5 のようにパルスによる抵抗改善の後もメサの抵抗が変わらないような示量を得ること

ができた。これは電流制限回路の効果であると考えられる。しかし、試料#6 のようにパル

ス印加前の抵抗がある程度高い場合は、電流制限回路を通したパルスでの絶縁破壊であっ

ても試料のメサが壊れた。これは絶縁破壊に要した電圧が非常に高く、電流制限回路を用

いても試料に流れる電流が大きすぎたためであると考えられる。

(a)

(b) (c)

図 4.1.1 SN 界面のコントロール方法 (a) ②のドライエッチングかけ方.(b)

①を行った後のメサ構造 (c) ②を行った後のメサ構造

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36

試料

番号

基板

特性

界面コントロール方法 接合

抵抗

(室温)

接合

抵抗

(4.2

K)

界面コントロール

方法

パルス

印加後

接合

抵抗

(4.2 K)

最終的な試料状態

① 蒸着前の

N2雰囲気中

Wet Etching

② 蒸着前の

Dry Etching

③ Ge 層

の挿入と

熱処理

④ パルス電圧

印加

備考 SEM

写真

# 1 通常

基板

Ⅰ Etching

77 nm

∘ 0.7 nm

∘ 0.7 nm

∘ 0.7 nm

無 0.2 k 1.5

k

無 - 冷却と共に抵抗が上昇

# 2

§4.2

通常

基板

Ⅰ Etching

77 nm

∘ 0.7 nm

∘ 0.7 nm

∘ 0.7 nm

無 0.7 k 2.1

k

矩形波 3.0V、

1回目で抵抗降下

10 パルス印加後にメサの抵抗

が上昇。メサに損傷のような

ものあり。

# 3 通常

基板

Ⅰ Etching

77 nm

∘ 0.7 nm

∘ 0.7 nm

∘ 0.7 nm

無 0.8 k 3.0

k

正弦波 0.1V、

85回目で抵抗降下

38 パルス印加後にメサの抵抗

が上昇。メサに損傷のような

ものあり。

# 4 通常

基板

Ⅱ 無 ∘ 2 nm

∘ 2 nm

∘ 2 nm

無 1.7 k 8.4

k

無 - 冷却と共に抵抗が上昇

# 5

§4.3

反転

基板

Ⅲ 無 ∘ 2 nm

∘ 2 nm

∘ 2 nm

Ge 4 nm

290 ℃

5 分間

2.0 k 2.3

k

電流制限回路使用

正弦波 0.01V、

5回目で抵抗降下

11 パルス印加後もメサの抵抗

は変化せず。

# 6 反転

基板

Ⅲ 無 ∘ 2 nm

∘ 2 nm

∘ 2 nm

Ge 4 nm

290 ℃

5 分間

15.7 k 𝟒 𝐌𝛀

以上

電流制限回路使用

正弦波 10V、

6回目で抵抗降下

30 パルス印加後にメサの抵抗

が上昇。メサに損傷のような

ものあり。

表 4.1.1 界面コントロール方法による SNS 接合の抵抗変化及び電子顕微鏡写真.

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37

上記のことから、方法①~③は SN 界面の質は改良できるが、メタリックな温度依存性

を持つ抵抗の歩留まりを上げるのは限界があり、むしろ適度なパルス電圧を印加する事に

よって界面コントロールをすることが歩留まりを上げるのに効果的であることがわかった。

しかし、パルス電圧印加する場合でも印加前の界面状態によってはメサに損傷を与えてし

まうようであり、方法①~③を用いてできる限り界面の質を良くして、パルス電圧印加で絶

縁破壊するのがメサ構造に損傷を与えずにメタリックな温度依存性を持つ低抵抗試料の歩

留まりを上げる最良の方法であろう。

パルス印加では矩形波 (試料#2) や正弦波 (試料#3) など様々な波形が考えられるが、矩

形波のような急激な立ち上がりと正弦波のような滑らかな立ち上がりのどちらが適切かは

本研究だけでは判断できない。また、矩形波を用いたとしても、電流制限回路や回路全体

のインダクタンスのせいで試料にかかる電圧がどの程度急峻に立ち上がっているかを見積

もるのは困難である。また、パルス電圧印加のパラメーターは波形だけでなく、ピーク電

圧や周波数、周期など多岐に及び、絶縁破壊により良い条件が存在する可能性がある。た

だ今回の研究では、いずれの試料においても各パルス電圧毎に 100 回印加し、その間に絶

縁破壊が生じなければ電圧を上げ再びパルスをかけることを繰り返して最大で 10 Vまでか

け、最後の 10 Vでは 1000 回パルスを印加した。その結果、今回絶縁破壊の生じた試料で

はいずれも 100 回以内のパルスで絶縁破壊が生じており周期については一つの目安とする

ことができる。

今回のパルス印加によって得られた 2種類の試料(#2および#5)については、その導電

特性を詳しく調べた結果、本研究の目的である Andreev 束縛状態や近接効果の横方向電流

に対する応答を調べることができた。4.2章および 4.3章でその詳しい内容を記す。

(a) (b) (c)

図 4.1.2 試料作製完了後、超伝導接合の断面図。(a) コントロール方法①と②を行っ

た試料の様子。(b) コントロール方法②を行った試料の様子。(c) コントロール方法

②と③を行った使用の様子。表 4.1.1で各構造に対する試料を示した。

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4.2 非反転構造の基板を用いた試料(試料#2)

試料#2 ではパルス印加による抵抗改善によって超伝導電流の観測できる試料を作ること

ができた。ここではこの試料の導電特性について詳細を議論する。

4.2.1 試料構造

本試料の 2 次元電子系基板は非反転構造の InAs 量子井戸で移動度が 4

cm2V/s であり、電子密度 cm-2 である (図 3.1(a))。ウェットエッチングによ

る界面制御を用いたため、メサの構造は図 4.1.2(a)のようになっている。測定前の試料の顕

微鏡写真と SEM写真をそれぞれ図 4.2.1(a)、(b)に示す。

4.2.2 絶縁破壊前後の伝導度特性

絶縁破壊前の試料の電気抵抗の温度依存性を図 4.2.2(a)に示す。冷却は He ベッセル挿

入式プローブを用いて 4.2 Kまで徐々に下げた。測定はサンプルに対して十分大きい標準抵

抗 (1.2 M) を介して電圧をかけることで定電流化し、試料に生じる電圧を測定した。

温度を下げると、抵抗は室温での 700 から徐々に増加し、超伝導転移温度である

の直上では約 になった。4.2 Kでの電流電圧特性は図 4.2.2(b)のように線型

で超伝導に起因した非線形な構造は見られなかった。

そこで 4.2 Kで矩形波のパルスをかけることで絶縁破壊を試みた。1 mVから徐々に電圧

を上げていった結果、3.0 V のパルスをかけた時に絶縁破壊が生じ、抵抗が 程度まで下

がった。この後すぐに電流電圧特性を測定したところ図 4.2.2(c)のように明らかなゼロ抵抗

領域が観測された。すなわちパルスの印加によって有限の超伝導電流の流れる超伝導接合

図 4.2.1(a) 試料#2の顕微鏡写真と(b) SEM写真。

(b) (a)

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試料を作成することができた。しかしながらホールバーの抵抗を調べると、絶縁破壊前に

は 4.2 Kで 0.6 だったものが、絶縁破壊後には 11 kΩ程度とかなり増大していた。これ

は絶縁破壊によってホールバーに損傷が生じたことを示唆している。実際、測定終了後に

電子顕微鏡で接合部分を観察したところ、図 4.2.3のようにメサの一部に損傷のようなもの

が見られた。メサの抵抗が絶縁破壊後に増加したのは、この損傷によりメサの導電経路が

狭くなったためであると考えられる。

図 4.2.3測定後の SEM写真。上部 Nb

とメサの間に損傷が存在。導電パスと

して上部 Nb との界面は側の方のみ

である。

図 4.2.2 (a) 絶縁破壊前の電気抵抗の温

度依存性。挿入図は 6.8 Kでの超伝導転

移を示す。(b) 4.2Kでの絶縁破壊前の電

流電圧特性。(c) 4.2K での絶縁破壊後の

電流電圧特性。

(a)

(b)

(c)

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40

一方で、これを見ると上の Nb 電極は 2DEG との接点が全て壊れているように見える。

しかしながらこの試料はウェットエッチングを行った試料であるため、接合部分のメサ構

造は図 4.1.1(b)のように Nb の形状に合わせて削られた形をしている。そのため、Nb 電極

の向かい合う辺だけではなく、横の辺も 2DEG に接している。そこで図 4.2.3のような導

電パスが生き残っていて、そこを通じて超伝導電流が流れていると考えられる。

4.2.3 磁場中での超伝導接合の導電特性

図 4.2.2(c)のような明らかなゼロ抵抗領域

が観測されたので、ポンピングによって試料

温度を 1.3 Kまで下げ、交流法によって微分

抵抗の電流依存性の測定を行った。その結果、

図 4.2.4に示すようにゼロ抵抗領域をより明

瞭に観測することができた。

次にこの臨界電流が超伝導接合の臨界電

流であるのか、それともバルクの臨界電流で

あるのかを明確にするため、磁場中での微分

抵抗バイアス依存性を調べた。磁場方向は図

4.2.5 に示すように、面直方向 ( ⊥) と面内

方向 ( ∥) の 2通りである。この磁場依存性

を、横軸を接合に流れる電流、縦軸を磁場と

し、微分抵抗をカラーで示したものを図 4.2.6(a)(b)に示す。

図 4.2.4 ゼロ磁場中での微分抵抗の電流依存性。

0

20

40

-90 -60 -30 0 30 60 90

RJ

()

IJ ( A)

図 4.2.5試料構造と磁場方向の模式図。

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41

図 4.2.6(a)の面直磁場依存性を見ると磁場に対してほぼ対称な振る舞いを示している。赤

い領域はバルクの Nb が常伝導状態の領域であり、緑と赤の境界がバルク Nb の臨界磁場

に相当している。また、ゼロ電流付近に黒い領域があるがこれがゼロ抵抗領域である。こ

れを見ると 200 Oe程度の磁場によってゼロ抵抗領域がほぼ消えている。より詳細な磁場依

存性の測定 (図 4.2.6(c)) から、約 160 Oeであることがわかる。また、面直磁場と面内磁場

の比較が図 4.2.6(b)である。これを見ると面直磁場に対してゼロ抵抗領域は速やかに抑制さ

れるが、面内磁場に対してはゼロ抵抗領域が約 2 kOe の比較的高磁場まで残っていること

がわかる。

図 4.2.6 (a) 接合に流れた電流と面直磁場に対する接合の微分抵抗のカラーマッ

プ。(b) 接合に流れた電流と正方向面直磁場と面内磁場に対する接合の微分抵抗

のカラーマップ。(c) 接合の臨界電流に対する面直磁場依存性。

(a) (b)

0

5

10

15

20

0 20 40 60 80 100 120 140 160

I c (

A)

H (Oe)

(c)

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42

この面直磁場および面内磁場への応答はバルクではなく超伝導接合の磁場応答とよく一

致している。一般的に幅のある接合の臨界電流は、図 4.2.7(b)で示されるような、磁場に対

して振動しながら減衰する振る舞いを示す[22]。これは Fraunhofer パターンと呼ばれる。

この時の周期は接合を貫く磁束の数で決まる。磁束の数は磁場に垂直な接合面積に比例す

るため、面直磁場によって速やかに超伝導電流は抑制される。接合を貫く全磁束は

で表される。ここでλは超伝導体の磁場侵入長であり、純粋な超伝導体では λ である。

面直磁場の場合、d は接合間距離、L は超伝導体の幅である (図 4.2.7(a))。

ところで本試料では減衰する振る舞いは観測できたが振動は観測されなかった。その理

由としては、磁場の解像度が振動に対して粗い点が挙げられる。本試料では接合間距離 0.6

m、Nb の幅 1.3 m であり、磁束量子 Φ h であることから 27 Oe

程度の周期を持つと予想される。しかしながら本研究での磁場のステップは 100 Oeでそれ

に比べてかなり大きい。従って振動構造が見えないのは特にこの試料が超伝導接合として

働いているとしても矛盾しない。

またここで今回使用したバルク Nb の臨界磁場について言及しておく。図 4.2.6 の磁場

依存性から求まる上部臨界磁場 (Hc2) は 8 kOe以上となっており、 の綺麗なバ

ルク Nb で報告されている 2 kOe よりかなり高い。不純物の多い超伝導体の は綺麗

な場合比べて上昇することが知られているが、今回の試料の Nb は が 6.8 K と綺麗な

試料の 9.23 Kに比べて低く、Hc2 が高いことと矛盾しない。

Φ ≡ λ L (4.1)

図 4.2.7 (a) 幅の広い超伝導接合の模式図。 (b) 接合を貫いている磁束に対する、

接合を流れる最大の超伝導電流の依存性。[22]

(a) (b) (a) (b)

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43

4.2.4 横方向電流による超伝導接合の導電特性

次に接合の導電特性の横方向電流依存性

を調べた。図 4.2.8に横方向電流の模式図を

示す。測定は一定の横方向電流 It を流した

状態で、Nb間の微分抵抗の電流依存性を測

定した。

横方向電流による微分抵抗のバイアス依

存性の変化を図 4.2.9(a)に示す。横方向電流

によってピークが縮小し、ゼロ抵抗の領域

も小さくなっていく様子がわかる。この様

子をより明確にするため、横軸を接合に流

す電流、縦軸に横方向電流をとった微分抵

抗をカラーマップ図 4.2.9(b)に示す。明らか

に横方向電流で臨界電流が抑制される様子が観測できる。一方で、横方向電流による臨界

電流の現象は途中で鈍化し、比較的大きな横方向電流まで有限の超伝導電流が観測されて

いる。また、横方向電流を増加させると臨界電流の減少が抑制されること、および、IJの高

電流側での抵抗が横電流の増減に対してほとんど変化がないから、これが発熱による超伝

導の抑制ではないことがわかる。

この横電流に対する応答の起源を考える時、図 4.2.3にあるメサの損傷を考慮する必要が

ある。先述したように、今回の試料ではメサ損傷のために、向かい合う InAs/Nb を通じて

超伝導電流が流れるのは難しい。そのためこの接合では超伝導電流が図 4.2.3中の黄色い矢

印のパスを通して流れていると考えられる。しかしながらこれでは接合界面が向かい合わ

ないため、直接的に Andreev束縛状態は形成されない。

束縛状態の形成されるような準粒子の経路はホールバー中の不純物で散乱されるような

ものになると考えられるが、基板の平均自由行程は 0.93 であり、メサの幅は 2.1 で

あるため、不純物を経由した経路の数はそれほど多くないと考えられる。そのため Andreev

束縛状態が起源の Ic は非常に小さくなると考えられる。しかしながら実際の Ic は Aと

非常に大きい。これはすなわちこの超伝導臨界電流の起源が近接効果によるものであるこ

とを示唆している。

ところで臨界電流が近接効果によるものとすると、臨界電流は横電流にそれほど応答し

ないことが予想される。しかしながら図 4.2.5(c)に見られるように、横方向電流で臨界電流

はある程度抑制される。これはおそらく横電流によってスピンホール効果が引き起こされ、

それによって生じたスピン流とスピン蓄積によって抑制されたものだと考えられる。

磁場依存性から約 160 Oeでこの接合の超伝導電流はほぼ完全に抑制されるが、これに相

当する Zeeman 分裂は である (|g|=14.9とした)。これと、スピン

図 4.2.8 本試料構造と横方向

電流対する模式図。

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44

40

0

図 4.2.9 (a) Nb間の微分抵抗の電流依存性。見やすさのため、横方向電流に応じ

て Ωのオフセットをつけてある。(b)横軸を電流、縦軸を横方向電流としたときの、

微分抵抗のカラーマップ。(c) (b) の 0 抵抗領域 (黒領域) の境界 (臨界電流値)

の横方向電流依存性。

(b)

(a)

0

10

20

0 1 2 3

I c (

A)

It ( A)

(c)

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45

ホール効果によるスピン蓄積による化学ポテンシャルの差を比較することを考える。たと

えば文献[24]によれば、拡散的な細線に電流を流した場合、端におけるアップ・ダウンスピ

ンの化学ポテンシャルの差は

となる。ここで jx は電流密度、D はスピン拡散長、Ch はスピンホール伝導度、C は伝導

度である。ここで、jx=109 A/m2、 D=10-6 m、Ch/C=10-2、C=107 (Ωm)-1とすると、化学ポ

テンシャルの差は となり、Zeeman 分裂から見積もられる近接効果超伝導の抑制に

必要な分裂には満たない。そのためスピンホール効果が原因であるとするならば拡散系に

おけるスピン蓄積の値よりもはるかに大きなスピン蓄積が今回の試料で起きていると考え

る必要がある。

そのような巨大なスピン蓄積の起源として、メサのエッジで反射したスピン流の干渉や、

エッジにおける巨大なスピン軌道相互作用が考えられる。一般にバリスティックな系にお

いて、壁に入射したスピン流と反射したスピン流が干渉し定在波を形成することで、巨大

なスピンサブバンドの振動が生じることが知られている[25, 26など]。これは拡散系におけ

る平均的なスピン蓄積に比べてはるかに大きな振幅を持ち、巨大なスピン蓄積をもたらす。

本試料は平均自由工程とメサの幅が同じオーダーであり、このような系になっている可能

性がある。また、エッジではポテンシャルの急激な変化が生じるためスピン軌道相互作用

が大きく、それによって巨大なスピンホール効果が生じることも報告されている[27]。これ

ら巨大なスピン蓄積は電流の増加とともに増大するが、いずれにせよエッジ近傍でのみ生

じているというのが特徴的である。すなわち、電流をいくら増大させてもメサから離れた

点ではそれほど大きなスピン蓄積は生じていない。これは図 4.2.9(c)に見られるように、横

電流を増大させると臨界電流の減少が鈍くなることと対応していると考えられる。

Δ jx𝐷Ch

C (4.2)

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46

4.3 反転構造の基板を用いた試料(試料 #5)

4.3.1 試料構造

2 次元電子の移動度が 4 、電子密度 である反転構造

InAs 2 次元電子系基板を用いた(図 3.1(b))。メサ構造は図 4.1.2(c)の構造であり、Nb と 2

次元電子系の間に Ge を 4 nm 積層し、290℃ 5 分の熱処理を施した。試料の光学顕微鏡

写真を図 4.3.1(a)に示す。この試料は走査電子顕微鏡 (Scanning Electron Microscopy、

SEM) による撮影で接合がダメージを受けることを避けるため、測定前に SEM 撮影は行

っていないが、同構造の試料の写真を図 4.3.1(b)に示す。この試料では Nb 接合と 2 次元

電子系による量子細線が交差する点を接近させて配置しており、両側の交差点に Nb 細線

と平行に相互に逆方向の電流を流し、スピンホール効果で SNS 接合と直角方向にスピン

流を流すことを試みた。

4.3.2 絶縁破壊前後の伝導度特性

絶縁破壊前のNb-InAs-Nb接合の電気抵抗の温度依存性を図 4.3.2(a)に示す。冷却はパル

ス管冷凍機を用いて 3.8 Kまで行った。測定は、AVS4端子抵抗ブリッジを用いた。接合の

抵抗値は室温で であるが、25 K から温度低下とともに増加し、超伝導転移温度

では に到達した。 での抵抗の急落は、電極の Nb の超伝導転移によるも

のである。

3.6 Kより抵抗値が温度低下により急激に増加する。3.6 K付近での伝導度電圧特性は図

4.3.2(b)のようにゼロバイアス付近で微分コンダクタンスが下がるディップ構造を示す。こ

図 4.3.1 (a) 試料完成後の顕微鏡写真。(b) 使用した試料と全く同構造の試料の

SEM写真。

(b) (a)

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47

のディップは、超伝導体のギャップのため、反射確率が増大することから、抵抗が増大し

ていることに起因する。

この試料に電流制限回路を介して高さ 0.01 V、幅 10 sの電圧パルスを印加し絶縁破壊

を行った (図 4.3.2b(a))。その結果、 程度まで抵抗が下がり、接合の伝導度電圧特性に

は図 4.3.3(b)のようにゼロバイアスにピークが現れた。これは絶縁破壊によって絶縁界面の

抵抗が減少したことによると考えられる。

図 4.3.2(b)の微分伝導度ディップは超伝導体のギャップの構造を示すものであるが、幅が

10 mV程度と極めて広くなっている (BCS理論より 2Δ ≈1.5 meV)。ところが、図 4.3.3(b)

では、ギャップに関連すると思われるディップ構造の位置が 3.8 mVになった。

このことから、この試料は SNS 接合の界面に絶縁膜 (I 層) が存在する図 4.3.4 のよう

な状態になっていると考えられる。I 層での電圧降下により、電流電圧特性が電圧軸方向に

引き伸ばされたような形状が得られる。絶縁破壊による I 層の抵抗低下により、「引き伸

ばし」倍率が下がると共に、SN 界面の抵抗低下により式(2.38)で導入した障壁パラメータ

ーZも減少し、ゼロバイアスの伝導度ディップがピークに変化したと考えることができる。

2.0

2.2

2.4

2.6

2.8

0 5 10 15 20 25 30 35

RJ (

k)

T (K)

2.2

2.4

2.6

2.8

3.0 4.0 5.0 6.0

RJ (

k)

T (K)

0.42

0.44

0.46

0.48

-25 -20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20 25

GJ (

mS

)

VJ (mV)

図 4.3.2 (a) Nb-InAs-Nb 接合の電気抵抗の温度依存性。挿入図は低温部分の拡

大。(b) 絶縁破壊前の伝導度電圧特性。

(a)

(b)

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48

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

0 1 2 3 4 5

RJ (

k)

Number of Trials

5

10

15

20

25

-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 10

GJ (

mS

)

VJ (mV)

(a)

(b)

図 4.3.3 (a) 絶縁破壊による接合抵抗降下の様子。横軸はパルス印加回数。(b) 絶

縁破壊後の微分伝導度電圧特性。

図 4.3.4 超伝導体/絶縁膜/常伝導体/絶縁膜/超伝導体(SINIS)接合の概念図。

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49

4.3.3 SNS 接合微分伝導度の電圧-温度依存性

図 4.3.3(b)の微分伝導度の電圧依存性には複雑な構造が現れている。微分伝導度電圧

(GV) 特性の温度依存性を測定した結果を図 4.3.5(a)、(b) ((a)のカラープロット) に示す。

特に目につく構造として、①とマークしたゼロバイアスの伝導度ピーク、②とマークし

たやや高バイアス側の伝導度ディップ、③とマークした更に高バイアスの伝導度ディップ

がある。

図 4.3.5 (a) コンダクタンス-バイアス電圧 (GV) 特性の温度依存性 (0.1 K刻み)。

見やすくするため,最高温のデータより 2 mSずつのオフセットを付けて表示して

いる。(b) (a)の連続温度変化による GV 特性の温度依存性のカラーマップ。

(a)

(b)

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50

ピーク①は特に低温側で顕著で、最低温側でビーク両側に伝導度のディップ構造を伴っ

ており、更にゼロバイアスの非常に近傍でやや鋭い構造が急に成長してくる様子が見える。

接合が図 4.3.4に示した状態になっているとすると、I 層のトンネル抵抗は、合計してノー

マル状態での接合の抵抗以下のはずである。 c 近傍でのゼロバイアス異常がない高バイア

ス側の抵抗からこれを見積もると、130 (8 mS) 程度である。ところが低温側でのゼロバ

イアスのピーク伝導度は、接合全体で見ても 20 mSを超えており、常伝導状態の伝導度の

2倍以上の値になっている。これは、障壁の抵抗を無視し、完全な Andreev 反射が生じて

いると仮定しても説明することはできず、2つの超伝導体間の何らかのコヒーレントな効果

によってコヒーレント電流が流れていると考えざるを得ない。すなわち、完全なゼロ抵抗

電流ではないものの、一種の超伝導電流により伝導度ピークが生じている。

実際、ピークの両側にディップがある GV 特性を積分して電流電圧 (IV) 特性に直して

みると、図 4.3.6(a)に模式的に示したようになる。Josephson 接合の理想的電流電圧特性

(赤線) に対してインコヒーレントな電圧降下が加わることで青線のような IV 特性となり、

実験に現れた IV 特性が、Josephson 超伝導電流に対するインコヒーレントな効果の混じ

りによって生じていることがわかる。

このインコヒーレンスの要因を単純な直列抵抗に求めることはできない。単純な直列抵

抗であれば、その値はゼロバイアスの抵抗であるはずだが、これは低温で強い温度依存性

を示し、固定直列抵抗ではあり得ない。図 4.3.4の構造を取っているとすると、インコヒー

レンスは I 障壁層内で生じていると考えられる。特に弱結合的な Josephson 接合は低温

で臨界電流の温度変化が大きく、同様の事が生じているとすると、温度低下とともにコヒ

ーレンスが強くなり、伝導度が上昇することがあり得る。

既に述べたように、SNS 接合で超伝導電流を流しうるメカニズムには、Andreev 束縛状

態 (Andreev bound state、ABS) と、近接効果の 2種類が考えられる。4.2節においては、

近接効果による超伝導電流の観測を示したが、そこでは、実際にゼロ抵抗電流が観測され

ていた。実際、近接効果によるものであるとすると、I 層をクーパー対がコヒーレントにト

ンネルしているはずで、インコヒーレンスによって有限抵抗が出ることは考えにくい。従

って、ここで見えている超伝導電流は ABS によるものと考えるのが妥当である。

次に、ディップ構造②であるが、これも、積分して図 4.3.6(a)のような IV 特性が得られ

ることを考えると、むしろ、共鳴電流ピーク構造がピークになり切れずにショルダー構造

になったものと見ることができる。したがって、これはこのディップの低バイアス側にあ

る共鳴ピークを反映したものと考えることができる。

この、むしろ電流値の低下によって特徴付けられる共鳴ピークは、2 重障壁ダイオード

(Double Barrier Diode、DBD) の共鳴ピークに類似しており、類似点のあるものと考えら

れる。DBD の IV 特性は、障壁に侵入する電子の運動量分布を考え、バンドの底が井戸内

の共鳴準位に一致した時に急激な電流低下が生じる。この試料でも類似現象が生じている

とすると、このディップはフェルミ準位から有限エネルギー位置にある共鳴準位によると

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51

解釈できる。ディップ構造③も同様であり、特に③は、 付近で発生し、ギャップの成長

と共に電圧位置が広がっていることから、片方の電極のフェルミ準位が ABS と一致する

位置で生じているものである。②は、 よりかなり下で発生し、これは超伝導ギャップの

成長に伴い、新しい ABS が生じたことによる共鳴と見ることができる。

以上の解釈の整合性をチェックする。ゼロバイアス伝導度ピークは、ディップ構造②が

現れる温度付近以下で急速にピーク高が高くなる。ABS によるゼロバイアス超伝導電流は、

ABS に凖粒子がエネルギー不確定性で許される有限時間滞在することで得られる 2次の効

果であり、ゼロバイアス近傍に新しい ABS が生じれば増強される。この点は整合してい

る。

また、実際に図 4.3.6(b)のようになっているとすると、上行下降の掃引でディップ位置に

ずれが出るはずであるが、図 4.3.5(a)を見ると、その通りのずれが生じている。

次のチェックとして、伝導度ディップの電圧位置を考える。ゼロバイアスピーク幅より

大きなバイアス電圧下では、Josephson 接合がそうであるように (また、ピーク両脇の伝

導度ディップからもわかるように)、I 層の直列抵抗を低下させていたコヒーレント効果は

失われ (あるいは、直流の特性に表れない交流効果となり)、I 層の常伝導状態の大きな直

列抵抗が復活する。また、微分伝導度には現れないが、電流の絶対値にはゼロバイアスで

流れた大きな電流がそのまま加算されるため、I 層にかかる電圧はゼロバイアス伝導度ピー

クが高くなるほど大きくなる。②と③のディップ位置がかなり超伝導ギャップより大きな

位置にあり、かつ温度低下とともに高バイアス側へ移動するのは一部このためであると考

えられる。実際、②のディップが現れゼロバイアスピークが急に高くなる温度付近で③の

ディップ位置の温度変化に変曲点のような構造が現れている。 近傍での電圧位置の温度

依存性には超伝導ギャップの温度変化も寄与していると思われるが、低温・高バイアス側

での強い温度依存性は、主にこの接合を流れる電流の増大効果が支配的であろう。すなわ

ち、残念なことにディップの電圧位置は、ABS の相対位置程度の情報しか与えていないこ

とになる。以上、解釈と実験が相互間で整合していることを確認した。

他に可能性のある現象としては、Josephson 接合の Shapiro 階段や Scalapino 階段の

ように、交流 Josephson 効果と高周波の共鳴現象が考えられる。しかし、伝導度ディップ

位置の電圧は極めて高く (I 層の電圧降下が入っていたとしても、超伝導体同士の位相差は

当然これも加えた形で時間変化する)、テラヘルツに達しており、接合中にこれに共鳴する

温度変化の大きい構造や現象が存在するとは考えにくい。

以上から、主な三構造については ABS によるものとして説明することができる。その

他にも多数の構造が見られ、超伝導体の凖粒子状態密度を反映したマッチングピークその

他によるものと考えられるが、十分に解釈できていない。

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52

図 4.3.6 測定された GV 特性に対して,V での積分により IV 特性に変換した場

合に、実験で現れ得る曲線形状を模式的に描いた。(a) ゼロバイアス付近の伝導度

ピーク。赤線は理想 Josephson 接合 (現実に微分測定法で下の特性を得ることは

できない)、青線はこれがインコヒーレンス要因により鈍化した形状。(b) 有限バイ

アスでの電流ピーク (緑線が「本来の」形状) に対し出力抵抗有限の回路で測定し

て現れるヒステリシス曲線 (赤、桃色線)、及びこれが温度やリークにより鈍化した

曲線 (青、水色線)。矢印は電圧掃引の方向を示す。

(a) (b)

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53

4.3.4 磁場による超伝導接合の伝導度特性

次に、試料に垂直磁場を印加 (図 4.3.7)し

ての特性変化測定を行ったが、残念ながらそ

の際、試料に外部より静電気等の原因によっ

て何らかの電圧パルスが加わったと考えら

れ、ゼロバイアス試料抵抗は 30 程度に低

下した。従って、ここで測定した試料は、

4.3.3 節とは同構造で類似現象が期待される

が、パラメーターの異なるもの、ということ

になる。

測定結果を図 4.3.8に示す。低抵抗化によ

りインコヒーレント過程の影響が弱まり、ピ

ーク、ディップ両構造ともに大きく明瞭になっている。また、ゼロバイアスの非常に近傍

にある細いピークも明瞭になってきている。後者は近接効果の表れと考えているが、それ

については次節で議論する。先行研究でも見たように、蒸着 Nb 薄膜の超伝導ギャップは

4 T近くまで開いているが、ABS による超伝導電流は、垂直磁場によって一桁小さい磁場

で消えてしまう。超伝導電流の現象に伴い、有限バイアス側にあったディップ構造は急速

にゼロバイアス方向へ収束される。これらの振舞いは、すべて前節での解釈と整合してい

る。

図 4.3.7 試料構造と磁場印加

の模式図。

(a)

図 4.3.8 (a) 3.8 Kでの GV 特性の垂直磁場依存性。磁場の値に対して色変化をつけた。

0.25 kOe刻みでプロットし、見やすくするため、最高磁場 3.5 kOeのデータより 1 mS

ずつのオフセットを付けて表示している。

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54

(b)

(c)

図 4.3.8 (b) (a)と同じデータを、バイアス電圧対磁場の平面上にカラープロットした

もの。(c) (b)と同じデータを、見やすくするため、磁場のカラープロット領域を 10 mS

から 20 mSに変えた。10 mS 以下のデータはすべて 10 mS、20 mS 以上のデータ

はすべて 20 mSの値としてプロットした。

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55

4.3.5 横方向電流による超伝導接合の伝導度特性

最後に横方向電流に対する応答実験

(図 4.3.9) に移ったが、この際にも再び

静電気パルスの影響と思われる試料特

性変化があり、ゼロバイアス伝導度は

さらに高くなった。図 4.3.10 に示した

ように、電圧掃引で見るとゼロバイア

スで非常に鋭いピークと小さなヒステ

リシスを持っており、ゼロ抵抗電流が

生じている。また、有限バイアスでの

ディップ構造は、IV 特性の三角形状の

電流ピークを反映して鋭く、ほとんどゼロ伝導度を示すようになり、やはりヒステリシス

を生じている。すなわち、IV 特性で図 4.3.6(b)に示したような電流ピーク構造に起因する

ジャンプを示している。

まず、1 mV付近にあるディップ構造であるが、これは ABS 超伝導電流による常伝導状

態への転移による電圧ジャンプを反映したものである。有限バイアスであることからこの

プロセスではまだ、インコヒーレント過程が影響していることがわかる。それに対して、

ゼロバイアスの細いピークは全く別にゼロ抵抗電流とヒステリシスに起因するゼロバイア

スのピーク構造を持っており、ABS と異なる機構による超伝導電流が流れていることを示

している。すなわち、課題三に挙げた、ABS 超伝導電流と近接効果超伝導電流との共存状

態を観測することができたことになる。

図 4.3.9 試料構造と横方向電流

対する模式図。

図 4.3.10 更に変化した GV特性。

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56

いずれにしても、接合状態が大きく変化していたため、温度依存性を再度測定した。結

果を図 4.3.11に示す。図 4.3.5と類似してはいるが、上記解釈に整合してはっきりと異なる

点が存在する。(1) 近接効果によるものと思われるゼロバイアスピークはこの測定での最低

温度付近で現れ、急激に高くなる;(2) やや太いゼロバイアスピークと、その外側のディッ

プ構造はほぼ同じ温度 (4 K程度) で現れる (図 4.3.5ではディップが高温で現れていた);

(3) 3 mV付近のディップ位置の温度変化は弱くなっているが、これは、1 mV 3 mVの伝

導度が高く、電流量が多いために、中央ピークが高くなることによる影響が少なくなって

いるためである。

上記(1)は、明らかに我々の解釈と整合する。また、(2)も、本節の試料パラメーターにつ

(b)

(a)

図 4.3.11 図 4.3.10の接合の GV 特性の温度依存性。(a) 温度をカラーで表現した

もの。0.1 K刻みでプロットし、見やすくするため、最高温 5.2 Kのデータより 2 mS

ずつのオフセットを付けて表示している。(b) バイアス電圧対温度平面に伝導度を

カラープロットしたもの。

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57

いては、ピークサイドに出てくるディップ構造は図 4.3.5で最初に出てきたディップとは素

性の異なるものであるから、当然である。(3)もこのような素子の直列特性的な起源である

とすれば当然の変化である。

最後に、この接合に横電流を加えて測定した結果を図 4.3.12 に示す。先行研究同様、横

電流 t によって GV 特性のピーク・ディップ構造は抑制される。ただし、その感度は先

行研究に比べて桁違いに鈍く、最も感度の良い近接効果ゼロ抵抗ピークを抑えるのにも、

先行研究の最低 5倍の電流を必要とした。

大きな電流を流しているため、まず温度効果に注意する必要がある。図 4.3.11 に示した

ように、近接効果によるゼロ抵抗ピークは、最低温度で他の構造にほとんど変化がない状

図 4.3.12 図 4.3.10の接合に 3.7 Kで横電流を加えて GV 特性の変化を測定したも

の。(a) 横電流量をカラーで表現したもの。 μA 刻みでプロットし、見やすくする

ため、最高横電流 μA のデータより 0.005 S ずつのオフセットを付けて表示して

いる。(b) バイアス電圧-横電流平面に伝導度をカラープロットしたもの。

(b)

(a)

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態でありながら急激にその高さを高くしている。従って t A での近接効果ピークの高

さ減少は、温度効果の可能性を否めない。逆にこれより t の大きな領域では、温度を上げ

ることによっては得られない GV 特性が現れており、少なくともジュール加熱効果以外の

横電流の影響があることは明らかである。

特に大きな変化は、ABS 超伝導電流の抑制である。 t A では、ABS が急激に抑制

され、これに伴って高バイアス構造が原点に収束してくる現象が見られる。ABS 超伝導電

流がほぼ完全に消滅した後も、ゼロバイアス近傍の構造から順に抑制される傾向は続き、

内部から順に消滅することで図 4.3.12の構造が得られていることがわかる。

この結果は、先行研究における横電流による ABS の抑制効果の説明とも整合する。す

なわち、Andreev 反射は電荷を保存せず、スピンを保存するから、接合方向にスピン流が

生じると、スピンは試料端と同じように通常反射される。これによって SN 界面には図

4.3.13[26]に示したように、スピンのみのスピンフリーデル振動が生じる。今の試料の SN

界面は Ge ドープによってかなり乱れていると考えられるので、フリーデル振動は乱れて

一種のランダム磁場を発生する。このランダム磁場の効果によって ABS は形成を妨げら

れ、レベルはブロードになって構造を失う、というシナリオである。図 4.3.13 の計算に従

って見積もると、今回の実験の電流ではランダム磁場の大きさもかなり大きく、20 A で

0.1 Tのランダム磁場が生じていると見積もることができる。図 4.3.8の磁場応答で、0.2 T

程度で ABS が大きな影響を受けていることを考えると、このシナリオが再び成立してい

ると考えて良い。

以上から、ABS に対するスピン軌道相互作用の効果を横電流の効果を通して調べること

ができた。

図 4.3.13 スピンホール効果によって試料端に生じるスピンフリーデル振動の計

算例。[26]より。

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第 5章 結論

中間的な接合抵抗の Nb-InAs-Nb 接合の伝導度-バイアス電圧特性を、温度依存性、磁

場依存性、横電流依存性について詳細に測定した。その結果、

(1) ゼロバイアス付近において、近接効果によるゼロ抵抗超伝導電流と、Andreev 束

縛状態を介した有限の電圧を伴う超伝導電流の共存状態を観察することができた。

この両者が共存すること自体は、下の図のように模式的に考えて理解することがで

きる。すなわち、超伝導ギャップは N 層中にしみ出し、左右からのオーバーラッ

プを生じて、全体として超伝導電流を流すことができる。しかし、一方、この超伝

導ギャップは空間変調を伴っており、SNS 接合全体では緩やかな閉じ込めポテン

シャルを形成している。Andreev 束縛状態はここに存在し、超伝導電流、および

有限バイアス共鳴電流に寄与する。

(2) 横電流によって生じるスピン流は、界面のランダムポテンシャルによってランダム

なスピン蓄積、従ってランダムな磁場を生じ、Andreev 束縛状態の形成を阻害す

る。これによって Andreev 束縛状態由来の超伝導電流や電流ピーク構造が抑えら

れる様子を検出できた。

ABS

barrier

S N S

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謝辞

本研究を遂行し、論文を執筆するに当たり、多くの方のお世話になりました。

勝本信吾教授には、興味深い研究テーマと恵まれた環境を与えていただき、また指導教

官として懇切なるご指導を賜りました。深く敬意を表し、心から感謝いたします。

家泰弘教授には、様々な局面において貴重なご助言とご協力をいただきました。深く御

礼申し上げます。

中村壮智助教には、測定機器や解析手法、研究生活に至るまで様々な局面で面倒を見て

いただきました。

遠藤彰助教には、研究手法についてご助言とご協力をいただきました。

橋本義昭技術専門職員には試料作製、評価、測定に至るまで全面的に協力していただき

ました。

川村順子秘書には、研究生活を送るうえで大変お世話になりました。

家 勝本研究室の OB である藤田和博氏、高橋侑一氏、桑原優樹氏、小早川修平氏、そし

て現在籍生である金善宇氏、小池啓太氏、高井久弥氏、設楽渡氏、岩崎優氏には研究につ

いて様々な助言をいただくとともに、研究生活を楽しいものにしていただきました。

最後に、研究生活を支えてくれた家族・友人に心から感謝いたします。

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