高強度・高靱性鋳鋼材の開発sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/20110117.pdf2011/01/17...

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17 鋳 造 Vol.52 2011No.1 SOKEIZAI 日本鋳造株式会社 素形材事業部 高強度・高靱性鋳鋼材の開発 “1000MPa級”で延・靱性に優れた鋳鋼材を実現 日本鋳造 株式会社 素形材事業部 〒 210 - 9567 神奈川県川崎市川崎区白石町 2 - 1 TEL. 044 - 322 - 3756 FAX. 044 - 355 - 0870 http://www.nipponchuzo.co.jp/ 1.開発の目的 近年、過酷な条件下で使用される車両の足回り部品 及び多様なデザインと大空間を創生するための建築構 造物用部材等において、高強度でかつ延性・靱性に優 れ、形状自由度の高い材料が求められている。材料に 高強度が要求される理由は、いずれも大型化に伴う総 重量の増加を抑えるためである。このような目的で用 いられる構造用鉄鋼材料としては、従来圧延鋼材や鍛 鋼材(以下、鋼材と称す)が用いられてきた。これは、 鋳鋼材は同一強度の鋼材と比較した場合、延性・靱性 が低く、ユーザーの要求を満たすことが難しかったか らである。一方、鋼材はその製造プロセスの関係から、 製品形状の自由度が制限される。最近、軽量化要求が ますます強くなる傾向にあり、薄肉で複雑な部品形状 が求められていることから、鋼材ではこのような要求 に充分対応できないという問題が顕在化している。 そこで、高強度と延性・靱性を併せ持ち、しかも実 用材料には欠かせない鋳造性や溶接性にも優れた鋳 鋼材 TNCM シリーズを開発した。 2.開発の内容 本開発材 TNCM シリーズの機械的性質を表1 に示 す。多様な要求に対応するため、強度 800 ~ 1000MPa 級の 3 種類の鋳鋼材料を商品化した。強度及び延性・ 靱性のバランスが優れているという点が本開発材の大 きな特徴である。 最高強度 1000MPa 級の TNCMX について、以下に 紹介する。シャルピー衝撃値の遷移曲線を図1 に示す。 これにより TNCMX は、極めて良好な低温靱性を有 していることが分かる。 次に、溶接部の硬さ分布測定結果を図2 に示す。熱 影響部(HAZ)の硬化が非常に小さく、ほぼ一定の硬 さを呈している。また、溶接継手部の機械的性質を2 に示す。いずれの測定位置においても強度及び延性 は一定で高く、靱性も良好であることから、TNCMX は溶接性にも優れていることが分かる。 以上、溶接性に優れ、高強度及び延性・靱性を兼備 した鋳鋼材 TNCM シリーズの開発により、用途に応 じた強度の選択が可能となった。 3.開発の成果 本開発材は、車両用足回り部品・建築構造物用部品・ 橋梁用構造部品・一般用構造部品及び低温用構造部品 等に適用可能である。吊り橋用ケーブルバ ンドへの適用例を写真 1 に示す。 写真 1 適用例:吊り橋用ケーブルバンド 1 TNCMX の衝撃値遷移曲線 2 TNCMX の溶接部硬さ分布 (溶接まま) 1 TNCM シリーズの機械的性質測定例 種 類 材料記号 引張特性 シャルピー衝撃特性 降伏点又は 耐力 MPa 引張強さ MPa 伸 び 絞 り 衝撃値 J/cm 2 ノッチ形状 温 度 1000MPa 級 TNCMX 974 1011 16 56 113 2mmU 20℃ 900MPa 級 TNCM1 840 932 19 51 135 2mmU 20℃ 800MPa 級 TNCM2 794 885 19 58 54 2mmV 0℃ 2 TNCMX の溶接継手部機械的性質測定例(溶接まま) 測定位置 肉厚 T=50mm 引張特性 シャルピー衝撃特性 0.2% 耐力 MPa 引張 強さ * MPa 伸 び 絞 り 室温衝撃値 ** J/cm 2 Depo HAZ 1/4T 901 952 15 66 179 127 1/2T 903 951 15 64 160 102 * 破断位置:溶着金属部  ** 2mmU ノッチ

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Page 1: 高強度・高靱性鋳鋼材の開発sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/20110117.pdf2011/01/17  · 鋼材TNCMシリーズを開発した。2.開発の内容 本開発材TNCMシリーズの機械的性質を表1に示

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わ が 社 の 素 形 材 技 術 最 前 線

鋳 造

Vol.52(2011)No.1 SOKEIZAI

日本鋳造株式会社 素形材事業部

高強度・高靱性鋳鋼材の開発“1000MPa級”で延・靱性に優れた鋳鋼材を実現

 日本鋳造株式会社 素形材事業部     〒210-9567 神奈川県川崎市川崎区白石町 2-1    TEL. 044 -322 -3756 FAX. 044 -355 -0870    http://www.nipponchuzo.co.jp/

1.開発の目的

 近年、過酷な条件下で使用される車両の足回り部品及び多様なデザインと大空間を創生するための建築構造物用部材等において、高強度でかつ延性・靱性に優れ、形状自由度の高い材料が求められている。材料に高強度が要求される理由は、いずれも大型化に伴う総重量の増加を抑えるためである。このような目的で用いられる構造用鉄鋼材料としては、従来圧延鋼材や鍛鋼材(以下、鋼材と称す)が用いられてきた。これは、鋳鋼材は同一強度の鋼材と比較した場合、延性・靱性が低く、ユーザーの要求を満たすことが難しかったからである。一方、鋼材はその製造プロセスの関係から、製品形状の自由度が制限される。最近、軽量化要求がますます強くなる傾向にあり、薄肉で複雑な部品形状が求められていることから、鋼材ではこのような要求に充分対応できないという問題が顕在化している。 そこで、高強度と延性・靱性を併せ持ち、しかも実用材料には欠かせない鋳造性や溶接性にも優れた鋳鋼材TNCMシリーズを開発した。

2.開発の内容

 本開発材TNCMシリーズの機械的性質を表 1に示す。多様な要求に対応するため、強度 800 ~ 1000MPa級の 3 種類の鋳鋼材料を商品化した。強度及び延性・靱性のバランスが優れているという点が本開発材の大

きな特徴である。 最高強度 1000MPa 級の TNCMXについて、以下に紹介する。シャルピー衝撃値の遷移曲線を図1に示す。これによりTNCMXは、極めて良好な低温靱性を有していることが分かる。 次に、溶接部の硬さ分布測定結果を図 2に示す。熱影響部(HAZ)の硬化が非常に小さく、ほぼ一定の硬さを呈している。また、溶接継手部の機械的性質を表2に示す。いずれの測定位置においても強度及び延性は一定で高く、靱性も良好であることから、TNCMXは溶接性にも優れていることが分かる。 以上、溶接性に優れ、高強度及び延性・靱性を兼備した鋳鋼材TNCMシリーズの開発により、用途に応じた強度の選択が可能となった。

3.開発の成果

 本開発材は、車両用足回り部品・建築構造物用部品・橋梁用構造部品・一般用構造部品及び低温用構造部品

等に適用可能である。吊り橋用ケーブルバンドへの適用例を写真 1に示す。

写真 1 適用例:吊り橋用ケーブルバンド

図 1 TNCMXの衝撃値遷移曲線

0

20

40

60

80

100

120

-50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30

衝撃

値(J/cm

2)

試験温度 (℃)

2mmUノッチ

0

100

200

300

400

500

-20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20

ビッカース硬

さ(荷

重10k g)

Bondからの距離(mm)← →溶着金属 母材

図 2 TNCMXの溶接部硬さ分布(溶接まま)

表 1  TNCMシリーズの機械的性質測定例

種 類 材料記号引張特性 シャルピー衝撃特性

降伏点又は耐力MPa

引張強さMPa

伸 び%

絞 り%

衝撃値J/cm2

ノッチ形状温 度

1000MPa級 TNCMX 974 1011 16 56 113 2mmU20℃

900MPa 級 TNCM1 840 932 19 51 135 2mmU20℃

800MPa 級 TNCM2 794 885 19 58 54 2mmV 0℃

表 2  TNCMXの溶接継手部機械的性質測定例(溶接まま)

測定位置肉厚

T=50mm

引張特性 シャルピー衝撃特性

0.2%耐力MPa

引張 強さ *MPa

伸 び%

絞 り%

室温衝撃値 **J/cm2

Depo HAZ

1/4T 901 952 15 66 179 127

1/2T 903 951 15 64 160 102

           * 破断位置:溶着金属部  **2mmUノッチ

重量 4トン,最大肉厚 306mm,長さ 3.45m

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