郵便法免責規定の違憲性 · 2016-07-04 · 憲法...

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郵便法免責規定の違憲性

長 尾 英 彦

はじめに

1. 問題の視角

2. 判決の内容

3. 検 討

おわりに

は じ め に

郵便物に事故があった場合の国の損害賠償責任を大幅に免除・制限し

ている郵便法��条, ��条の規定 (今回の違憲判決を受けて, 平成��年法

律第���号により改正される以前のもの。 以下, 本稿中においては, と

くに別段の断りをしない限り, 同旨) について, 最高裁判所大法廷は,

平成��年9月��日, これらの免責・責任制限の範囲が広汎に過ぎ, 国家

賠償責任を定めた憲法��条に違反するとする, 重要な判決を下した (民

集��巻7号1頁。 判例時報���号��頁。 判例タイムズ���号��頁。 以下,

中京法学��巻1号 (��年) �(�)

論 説

「本判決」 という)。

本判決は, 現行の法令の条文そのものを違憲と判示する, いわゆる

「法令違憲」 の判決としては, 「森林法違憲判決」 (最大判昭�������民集

��巻3号���頁。 判例時報����号��頁) 以来のものとして注目されたも

のであり, すでに解説, 評釈等もいくつか公表されているところである

が(1)

, 本稿においては, とくに国家賠償制度の中におけるこのような免責

規定の位置づけ・意味合いという観点を軸として検討を加えてみたく思

われる。 また, 本判決にはいくつかの補足意見及び意見が付されている

が, その中で, 筆者は特に, 横尾裁判官意見及び上田裁判官意見の両者

を比較することは, 郵便制度全体の趣旨・構造をどのように理解するか

という点にもかかわって, 興味深い問題を提起しているように思われる

ので, 併せて言及したいと考えている。

1. 問題の視角

郵便法��条は, 1項において,

「郵政事業庁長官は, この法律又はこの法律に基づく総務省令の規定

に従つて差し出された郵便物が次の各号のいずれかに該当する場合に限

り, その損害を賠償する」

とし,

1号 書留とした郵便物の全部又は一部を亡失し, 又はき損したとき。

2号 引換金を取り立てないで代金引換とした郵便物を交付したとき。

3号 小包郵便物……の全部又は一部を亡失し, 又はき損したとき。

との規定を置いており, さらに, �条において,

「損害賠償の請求をすることができる者は, 当該郵便物の差出人又は

その承諾を得た受取人とする」 と規定していた。

これらの規定を文理通り解釈すると, 差し出した郵便物に事故があっ

た場合でも, 損害賠償請求の可能性があるのは, ① 「書留」 又は 「小包

郵便法免責規定の違憲性 (長尾)� (�)

郵便物」 に限られ (2号のものは, やや文脈を異にすると思われるので,

本稿では, 以下, 言及を省く), ②当該郵便物を 「亡失」 するか又は

「き損」 した場合に限られ, ③以上のことは, 郵便配達担当職員に故意・

重過失がある場合でも変わらず, ④損害賠償請求主体も, 当該郵便物の

「差出人」 か又は 「その承諾を得た受取人」 に限定される, という結果

になる。

公務員が不法行為により国民に損害を与えた場合, 今日では国家賠償

法が存在し, 同法により一般的に救済されると考えられている。 しかし,

国家賠償法4条は, 損害賠償の問題について 「前3条の規定によるの外,

民法の規定による」 とし, さらに同5条が, 「民法以外の他の法律に別

段の定があるときは, その定めるところによる」 としているため, 郵便

物の事故に関しては件の郵便法��条, ��条が適用されることとなり, 結

果, 損害賠償請求の可能性が極めて狭く限定される (逆に言えば, 国の

損害賠償責任は大幅に免除ないし制限される) こととなっていた。

以上のような制度が, 国家賠償責任を定めた憲法��条に違反しないの

かどうか, は, 以前より議論のあったところであり, 諸説が存在してい

た (後述) が, そのような状況の中で本事例が発生し, 今回の判決を迎

えることとなったのである。

2. 判決の内容

[事実の概要]

X社 (原告) は, 訴外Aに対して債権を有しており, 裁判所は, Aの

被差押債権について差押命令を発付した。 ところが, Aの預金債権のあ

るB銀行に対して差押命令を送達すべき郵便局職員が, 重大な過失によ

り, 同特別送達郵便物を自局内のB銀行の私書箱に投函してしまい [こ

の点は原告の主張に基づく], その結果, 送達が遅延し, その間に, 差

押を察知したAがB銀行から預金を引き出してしまったため, 差押は功

中京法学��巻1号 (����年) �(�)

を奏さなかった。

X社は, 上記の郵便局職員の過失により損害を被ったとして, 国家賠

償法1条1項に基づき損害賠償を求めて提訴した。

1審 (神戸地尼崎支判平���3���) は, 郵便法��条, ��条はいずれも

憲法��条に違反せず, これらの規定からしてもX社の主張は失当である,

と判示した。 2審 (大阪高判平���9�3) も1審の判断を支持し, 加え

て, 郵便職員に故意・重過失がある場合でも郵便法��条, ��条の適用は

排除されない, と判示した (1・2審とも公式判例集未搭載。 内容につ

いては判例時報����号��頁の記述による)。 X社が上告。

[判 旨] (各項目の見出しは, 筆者が便宜上付したものである)

1. 憲法��条を具体化する法律の合憲性審査の基準

「憲法��条は……公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害

賠償責任を負うかを立法府の政策判断にゆだねたものであって, 立法府

に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めてい

るものではない。 ……公務員の不法行為による国又は公共団体の損害賠

償責任を免除し, 又は制限する法律の規定が同条に適合するものとして

是認されるものであるかどうかは, 当該行為の態様, これによって侵害

される法的利益の種類及び侵害の程度, 免責又は責任制限の範囲及び程

度等に応じ, 当該規定の目的の正当性並びにその目的達成手段として免

責又は責任制限を認めることの合理性及び必要性を総合的に考慮して判

断すべきである。」

2. 郵便法��条, ��条の目的の正当性

「法は, 『郵便の役務をなるべく安い料金で, あまねく, 公平に提供

することによって, 公共の福祉を増進すること』 を目的として制定され

たものであり (法1条), 法��条, ��条が規定する免責又は責任制限も

この目的を達成するために設けられたものであると解される。 すなわち,

郵便官署は, 限られた人員と費用の制約の中で, 日々大量に取り扱う郵

郵便法免責規定の違憲性 (長尾)� (�)

便物を, 送達距離の長短, 交通手段の地域差にかかわらず, 円滑迅速に,

しかも, なるべく安い料金で, あまねく, 公平に処理することが要請さ

れているのである。 ……

したがって, ……法��条, ��条が郵便物に対する損害賠償の対象及び

範囲に限定を加えた目的は, 正当なものであるということができる。」

3. 本件における法��条, ��条の合憲性如何

(1) 書留郵便物 [一般] について

「書留は, ……当該郵便物の引受けから配達に至るまでの記録をし

(法��条1項), 又は一定の郵便物について当該郵便物の引受け及び配達

について記録することにより (同条4項), 郵便物が適正な手順に従い

確実に配達されるようにした特殊取扱いであ [る]。 ……

……法1条に定める目的を達成するため, 郵便業務従事者の軽過失に

よる不法行為に基づき損害が生じたにとどまる場合には, 法��条, ��条

に基づき国の損害賠償責任を免除し, 又は制限することは, やむを得な

いものであり, 憲法��条に違反するものではないということができる。

しかしながら, 上記のような記録をすることが定められている書留郵

便物について, 郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為に

基づき損害が生ずるようなことは, 通常の職務規範に従って業務執行が

されている限り, 例外的な場合にとどまるはずであって, このような事

態は, 書留の制度に対する信頼を著しく損なうものといわなければなら

ない。 そうすると, このような例外的な場合にまで国の損害賠償責任を

免除し, 又は制限しなければ法1条に定める目的を達成することができ

ないとは到底考えられず, 郵便業務従事者の故意又は重大な過失による

不法行為についてまで免責又は責任制限を認める規定に合理性があると

は認め難い。 ……

……法��条, ��条の規定のうち, 書留郵便物について, 郵便業務従事

者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に, 不法行為に基づ

く国の損害賠償責任を免除し, 又は制限している部分は, 憲法��条が立

中京法学��巻1号 (����年) �(�)

法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわざるを得ず, 同

条に違反し, 無効であるというべきである。」

(2) 特別送達郵便物について

「……特別送達郵便物は, 書留郵便物全体のうちのごく一部にとどま

ることがうかがわれる上に, 書留料金に加えた特別の料金が必要とされ

ている。 また, ……その適正かつ確実な送達に直接の利害関係を有する

訴訟当事者等は自らかかわることのできる他の送付の手段を全く有して

いないという特殊性がある。

……特別送達郵便物については, 郵便業務従事者の軽過失による不法

行為から生じた損害の賠償責任を肯定したからといって, 直ちに, その

[法1条の=引用者註] 目的の達成が害されるということはできず, ……

[したがって] 法��条, ��条の規定のうち, 特別送達郵便物について,

郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づき損害が生じた場合に,

国家賠償法に基づく国の賠償責任を免除し, 又は制限している部分は,

憲法��条に違反し, 無効であるというべきである。」

4. 結論

「……原判決は破棄を免れない。」 [差戻]

[滝井裁判官補足意見]

滝井裁判官補足意見は, 上記判旨1の判示内容が, 憲法��条を具体化

する法律について 「立法府に極めて広い裁量を認めている」 との疑念を

残す余地がある, とする福田・深澤両裁判官意見に対し, そうではない,

と述べるものである。 滝井裁判官は次のように述べる。

「……憲法��条の趣旨は, ……国又は公共団体の責任 [について], ……

それぞれの行為が行われた具体的状況を勘案して, 一定の政策目的によっ

て例外的に加重若しくは軽減し, 又は免除することのあり得ることを認

めたものと解することができる……。」

郵便法免責規定の違憲性 (長尾)� (�)

[福田裁判官・深澤裁判官意見]

福田・深澤両裁判官の意見は, 裁判所の違憲審査は, 憲法��条を具体

化する法律を制定する際に立法府に認められた裁量権の広狭等とは関係

なく, 客観的に行われるべきである, とするものである。 両裁判官は次

のように述べる。

「……立法府が有する広範な 『裁量権』 の存在を前提として司法が限

定的, 抑制的に 『違憲立法審査権』 を行使すれば足りるとするのでは,

最高裁判所が憲法に定める三権による統治システムの一つとして果たす

べき役割を十分に果たしていないとの批判は避けられないことになる。

……裁判官は…… [法律] が立法府の有する 『裁量権』 の範囲内にあ

るか否かを審査することを求められているのではない……。

……本件では, 特別送達郵便物についての損害賠償責任の免除ないし

制限の規定が, そのような郵便物送達の目的と責任に 『釣り合っている』

ものであるか否かを精査すればよい……。

……多数意見の論理構成は, 将来にわたって憲法��条についての司法

の憲法判断を消極的なものとして維持する理由になりかねず, そのよう

な理由付けに同調することはできない。」

[横尾裁判官意見]

横尾裁判官の意見は, 「特別送達郵便物以外の書留郵便物」 について

は, 現行の損害賠償の方式でよい, とし, 多数意見が, 書留郵便物一般

についての 「郵便業務従事者の故意・重過失による不法行為に基づく損

害に関し, 国の損害賠償責任を免除・制限している部分を憲法��条に違

反する」 とする箇所には賛成できない, とするものである。 横尾裁判官

は次のように述べる。

「…… [書留 (一般) の] 損害賠償の方式は, ……簡便な手続で賠償

がされるという利点を提供するとともに, 郵便事業の運営面では, 定型

的な事故処理を行い, また, 賠償に要する総費用の見通しを得ることを

中京法学��巻1号 (����年) �(�)

可能にしているものである [から, 法��条, ��条の免責・責任制限規定]

は, 郵便法の目的達成の観点から合理性及び必要性があり, 憲法��条が

立法府に付与した裁量の範囲を逸脱するものではない……。

ただし, 特別送達には, 書留の取扱いとしての役務に加え, 裁判書類

等を送達し, 送達の事実を公証する公権力の行使であるという側面があ

り, 一般の郵便物におけるのとは異なる利益の実現が予定されている

[ので] ……特別送達郵便物が書留郵便物全体のうちのごく一部にとど

まるかどうかを問うまでもなく, 軽過失に基づく場合を含め, 国の賠償

責任が肯定されるべきである。」

[上田裁判官意見]

上田裁判官の意見は, 特別送達郵便物も, 他の書留郵便物と区別する

必要はなく, 郵便業務従事者の故意・重過失に基づく損害についてのみ

損害賠償責任を負えば足りる, とするものであり, 多数意見が, 「特別

送達郵便物については, 軽過失による損害であっても国の賠償責任が肯

定される」 と判示している部分には同調できないとするものである。 上

田裁判官は次のように述べる。

「……特別送達郵便物も書留郵便物の一種として郵便制度を利用して

配達されるものであり, そうである以上, 郵便の役務をなるべく安い料

金で, あまねく, 公平に提供することにより, 公共の福祉を増進しよう

とする郵便制度の目的を達成することとの調和が考慮されなければなら

ない。

……したがって, 特別送達郵便物についても, 郵便業務従事者の故意

又は重大な過失により損害が生じた場合に不法行為に基づく国の損害賠

償責任を免除し, 又は制限している部分 [のみ=引用者註] が, 憲法��

条に違反し, 無効であると解すべきである。」

郵便法免責規定の違憲性 (長尾)� (�)

3. 検 討

(1) 憲法��条の法的性格

憲法��条は, 公務員の不法行為に基づく損害について国・公共団体の

損害賠償責任を規定する。 同条は, 明治憲法下の 「国家無答責」 の考え

方を否定し(2)

, 現憲法の採る人権尊重主義の表明の一環としての規定と考

えることができるが, 条文中に 「法律の定めるところにより」 と記され

ていることから, かつては, これをプログラム規定と解する説と, 抽象

的権利と解する説との間の争いがあった(3)

しかし, 両説のいずれを採るかは, 現在ではさほど重大な問題ではな

いように思われる。 すなわち, いずれの説を採るとしても, 国家賠償請

求の具体的要件は法律により定められることとなるわけであるし (現に,

国家賠償法が制定されている), 同条はあくまでも 「国家賠償制度を創

設する」 ことを立法者の責務として要請している [のみな] のであって(4)

,

同条の趣旨を全くないがしろにするような法律の規定を置くことは許さ

れない, ということで, おそらく多くの論者の一致が得られるであろう

からである(5)

もっとも, 「プログラム規定説」 を採った場合に, そのことが結果的

に立法府の極めて広汎な裁量の容認を導くことになるのであれば, これ

は強く忌避するべきである(6)

。 明治憲法下の郵便制度は 「官業」 としての

色彩が強く, それゆえに旧郵便法には, いかにも国の特権的な権限遂行

を擁護するための規定が随所に見られた(7)

。 今日, そのような考え方を支

持することができないのは当然としても, 現在の郵便法の規定には, 旧

法のそれを (基本的に) 継承したとみられる部分がなお存在する(8)

。 今回

の判決で問題となっている条項も, そうした文脈で捉えられるべきであ

ろう。

福田・深澤裁判官の意見は, 多数意見中の 「憲法��条 [が] ……立法

府の政策判断にゆだねたもの……」 という部分について, 「将来にわたっ

中京法学��巻1号 (����年) �(�)

て憲法��条についての司法の憲法判断を消極的なものとして維持する理

由になりかね [ない]」 との批判を呈している。 筆者は, 率直に言って,

多数意見の論理構成が, 立法府の広汎な裁量への途を開いているように

は読めないが(9)

(多数意見は 「法律に対する白紙委任を認めているもので

はない」 と述べている), 他の諸分野で, 裁判所特に最高裁の, 「政治部

門の裁量の尊重――司法消極主義」 の傾向は夙に指摘されているところ

である(��)

。 仮に立法裁量の問題として考える場合であっても, かつて憲法

��条との関連でプログラム規定説が唱えられた際のように, 立法府の極

めて広汎な裁量権を容認することはできないはずである(��)

。 生存権保障を

実現するための社会保障・社会福祉制度の具体的なあり方が法律に委ね

られている, という場合と, 国に不法行為があった場合の損害賠償責任

の範囲・程度の問題とでは, 自ずから性質が異なっていると言わざるを

えないからである(��)

しかし, 本稿では, 立法裁量の広狭の問題そのものには立ち入らない

こととする。 ここでは, むしろ, 国家賠償法4条が, 同法に規定のない

事項については民法の規定に依るとし, さらに5条が, 民法に対する特

別法の規定がある場合は特別法の方を優先して適用する旨を定めている

ことから, 国家賠償法が定める賠償責任についての特別法としての規定

がある場合, とりわけ, 国等の責任を免除し又は制限するような規定が

ある場合に, それらが憲法��条に違反しないものかどうか (憲法��条の

趣旨を没却するものかどうか) が問題となってくるであろうからである(��)

(2) 免責・責任制限規定の合理性

先に見たとおり, 郵便法��条, ��条は, 国家賠償法上の賠償責任 (一

般) の場合と比較すると, 国等の賠償責任の範囲を極めて狭く限定して

いる。 もとより, そのこと自体は, 郵便業務が, 郵便物をなるべく安い

料金で全国どこへでも配達しなければならない, という責務を負ってい

ることから, いちおう必要性・合理性を肯定することができるであろう。

郵便法免責規定の違憲性 (長尾)�� (��)

しかし, その 「制限」 の具体的内容が妥当なものであるかどうかは別に

考察する必要がある。

公共的な事業において, 同様の理由で, 事故があった場合の事業主体

(国等) の免責・責任制限を定める例は少なくないが(��)

, 事業担当 (遂行)

者に故意・重過失があった場合には免責・責任制限をしないとする例も

みられる(��)

。 ここからも, 郵便法��条, ��条について憲法上疑義あり, と

する見解は従来より数々見られた(��)

。 しかし, 判例は一貫して合憲の立場

を維持しており(��)

, 中には, 「重過失」 のみならず 「故意」 があった場合

をも含めて, なお免責・責任制限規定は合憲, と明示するものもあった(��)

他方, 違憲論の論者の主張も, 全ての郵便物の事故について損害賠償

責任を認めさせようという趣旨ではなく, 少なくとも書留・小包といっ

た, 差出等について記録を取る郵便物の事故, それも郵便局員の故意・

重過失に基づく 「亡失・き損以外の事故」 による損害, また, 差出人・

受取人以外の者に発生した損害についてまで免責を定めているのが憲法

��条に違反する, とするものであるように思われる(��)

。 違憲論の主要な論

拠をまとめると, ①書留等については, 通常料金に加算して相応の特別

取扱い料金が支払われており, 適正・確実な送達が特に強く期待されて

しかるべきである, ②書留郵便物は, 郵便物全体のごく一部であり, こ

の事故について責任を負うこととしても, 郵便法1条所定の法目的の達

成が害されるとはいえない, さらに, ③私法上の約款であれば, 故意・

重過失の場合にまで免責を定めるのは, 公序良俗に反するとされるので

はないか()

, などの諸点が挙げられ, 筆者も, 違憲論の方が説得力がある

ように思われる。

今回の事例でも, 事故内容は 「亡失・き損」 ではなく 「配達の遅延」

であり, また, 損害を被ったのは差出人・受取人以外の第三者であり,

従前の判例に従えば国家賠償請求は否定されるところであったものと推

測されるが, 大法廷は件の免責・責任制限規定を違憲と判示し, 原判決

を破棄差戻とした。

中京法学��巻1号 (�年) ��(��)

ところで, 今回の事案で直接に問題となっているのは, 書留郵便物の

中でも 「特別送達郵便物」 の免責の範囲であるから, 最高裁としては,

たとえば, 郵便配達業務担当者に故意・重過失ある場合には例外的に国

は免責されない, とする, いわゆる 「合憲限定解釈」 の手法を用いると

か, 今回の事案の特殊性に着目して, 「(免責規定が) 本件の事案に適用

される限りで違憲となる (=したがって本件については免責されない)」

とする 「適用違憲」 の手法を用いることにより, 法令違憲の判決をしな

くともすんだのではないか (あるいは, むしろ, そうすべきだったので

はないか), との見方もあるが, この点については後述する。

(3) 書留郵便物・特別送達郵便物

横尾裁判官の意見, 上田裁判官の意見は, いずれも, 多数意見と比較

すると国の免責の範囲をより広く容認することとなる (つまり, 立法府

の裁量をそれだけ広く認めることとなる) ものである。 筆者は, 結論か

ら述べると, 両意見については支持できないと考えるが, この点につい

ても少々検討を加えておきたい。

まず, 横尾裁判官の意見は, 基本的に書留郵便物一般と特別送達郵便

物とを峻別し, 本件で問題となったような特別送達郵便物については

「公権力の行使」 としての要素があり, 通常の郵便物一般とは違った利

益を実現する側面がある旨を強調することにより, 「特別送達郵便物に

ついては軽過失による事故でも免責されない」 とする多数意見に同調す

るが, 他方, 書留郵便物一般については, 郵便法1条所定の目的を達成

するためには現行の損害賠償システムでよい, とするものである。

筆者は, この前半部分の主張については支持するが, 後半部分につい

ては, 横尾裁判官は結局のところ 「簡便な手続による賠償」, 「定型的な

事故処理」 という理由しか示し得ておらず, 先述の違憲論の論拠, 特に

①②に対する有効な反論とはなっていないように見受けられる。 国家賠

償制度のあり方について, 立法府に極めて広汎な裁量を容認する, とい

郵便法免責規定の違憲性 (長尾)�� (��)

うのであれば話は別であるが (それは, 前述のとおり判旨において否定

されている), そうでないのであれば, 「法1条所定の目的の達成」 のた

めに, 何故, 現行制度よりも賠償の範囲を拡げてはならないのか, 拡げ

たとしたら具体的にどの程度の支障が生ずるのか, を, より説得的な論

拠で以て立証する必要があろう。

これに対して, 上田裁判官の意見は, 書留郵便物一般と特別送達郵便

物とを 「同じく郵便制度を利用して配達されるもの」 として, 両者を特

に区別せず, 「特別送達郵便物」 についても――他の書留郵便物一般と

同様に――故意・重過失に基づく事故の場合 [のみ] に賠償責任を負え

ば足りる, とするものである。

しかし, これに対しては, まさしく先述の横尾裁判官意見の前半部分

が反論として用いられよう。 「特別送達」 は, 裁判所が訴訟当事者等に

訴訟関係書類を送達するものであり(��)

, その過程に一般市民はそもそも関

与できず, また, 別に自ら (自分の責任で) 採りうる手段もない。 その

点からも, 特別送達郵便物については, 国はその適正・確実な送達につ

いて絶対的・全面的な責任を負う必要があり, 事故がたとえ軽過失によ

るものであっても免責されるべきではない, と思われる。

(4) その他の論点

[1] 違憲審査の範囲

本件の事例は, 書留郵便物の中でも少数の 「特別送達郵便物」 にかか

わるものであり, 事案としてもかなり特殊なものであった。 先に判決要

旨の項で見たように, 今回の判決は, ①書留郵便物一般については, 郵

便職員の故意・重過失による損害までもが免責されることが違憲である

とし, ②特別送達郵便物については [さらに] 郵便職員の軽過失による

損害を免責することも違憲, という判示になっているが, 上記①の部分

は不要なのではないか (横尾裁判官意見は, 「不要」 と言明してはいな

いが, 結論としては同じようになる), という疑義もありうるところで

中京法学��巻1号 (����年) ��(��)

ある。

多数意見は, 特に断りなく, 「書留郵便物一般」 の場合の検討から始

めており, 「特別送達郵便物」 もあくまでも書留の一種との前提を採っ

ていることが推測される (横尾裁判官のような両者の峻別はしていない)。

裁判所, 特に最高裁の通常の 「司法消極主義」 (本件の場合に限っては,

「違憲判決」 なのであるから, 「消極」 ではないが) 的態度からすれば,

「違憲」 の部分はなるべく小さく (狭く) 取るような判決の構成になり

そうなものであるが, そうはなっていない(��)

。 あるいは, 郵便法上の損害

賠償システム [全体] について, 最高裁の中にも, もともと何らかの問

題意識があったのであろうか。

郵便職員に 「故意・重過失」 がある場合は例外的に免責されない, と

いう解釈を加える 「合憲限定解釈」 も全く考えられなくはないが, ��条

の文言からいって, そのような限定を加える余地は見出せず, そのよう

な限定解釈は 「文理を超えるもの」 との批判を受けることになるであろ

う(��)

「当該事案に限って, 免責すると違憲になるので, 免責しない」 とす

る 「適用違憲」 の処理はどうか。 郵便物の事故の態様は極めて多種多様

であることが予想され, 「判決が出てみないと結論は判らない」 という

弱点をもつ適用違憲の手法は, この分野ではあまり適切とはいえないと

いうことになるであろうか(��)

加えて, 本年 (平成��年) 4月1日より, 郵政事業庁は郵政公社へ移

行し, さらに信書の送達事業は民間業者の参入を許すこととなりつつあ

る。 そうした事情を背景として, いくら附合契約的なものとはいえ, 損

害賠償責任をばっさりと免除させるような特権的な感覚の業務遂行では,

将来的な見通しは暗い。 そうした思慮が本判決の根底にはなかったか,

と推測するものである(��)

郵便法免責規定の違憲性 (長尾)�� (��)

[2] 「郵便物」

今回の判決は, また, 書留以外の郵便物の損害賠償の範囲の問題につ

いても明言するところがない。 郵便物の引受・送達等について記録を取

る点に関していえば――郵便法令上の法条は別であるが――小包郵便物

(ゆうパック) も共通である。 筆者は, 今回の多数意見の趣旨に依拠す

れば, 小包郵便物についても当然, 書留郵便物一般と (少なくとも) 同

等に解釈するべきと考えるが(��)

, 本違憲判決を受けた法改正により, 「引

受け及び配達の記録をする郵便物」 について賠償責任が明定された (註

��参照)。

普通郵便物の事故の場合についても, 言及するところはない。 もっと

も, 通常の封書・葉書などは, そもそも差出しの事実を証明すること自

体が難しい場合が多いであろうし, そういう意味で, 賠償責任が免除さ

れてもやむをえない面はあろう。 しかし, これまでにも何件か例がある

ように, 郵便職員が配達が嫌になって郵便物を遺棄したり隠したりして

いた場合のように, 故意 (・重過失) ある場合については, 差出しの事

実が証明できた分に限ってでも, 何らかの救済 (慰謝料?) を認めても

よいように思われる。 これについては, 少なくとも 「故意」 がある場合

には, それは郵便職員としてではなく 「個人」 として行動しているので

あるから, 本人が民法の規定に従って不法行為責任を負う, という説明

の仕方もありうるであろう(��)

[3] 損害賠償額の上限

書留郵便物 (一般) については, 国が損害賠償責任を負う場合でも,

賠償額には上限が定められている(��)

もとより, これらの限度額の設定が適切かどうかも議論があろうし,

また, 事故があった場合に, 損害の実額が限度額以下であれば実額しか

賠償しないのに, 限度額を超えたら限度額しか賠償しないとする方式が,

国民のための制度といえるかどうか, また公平といえるかどうか, なお

中京法学��巻1号 (����年) ��(��)

検討の余地はあろう(��)

[4] 「差出人の承諾」

��条によると, 受取人 (又は, 受け取るはずであった人?) が損害賠

償を請求する際に, 「差出人の承諾」 が要件となっているが, 「承諾」 と

は何か? 何を 「承諾」 するのか? 何のために 「承諾」 を要件として

いるのか? いずれも不明である(��)

お わ り に

以上のように, 筆者は, 今回の判決について, 結論においてはおおむ

ね支持できるし, また, 残された問題点や明確な判示のなかった部分に

ついても, 興味深い検討課題としてなお考察を続けていけばよいし, ま

た, そうするべきであると考える。

今回の判決は, 久々の法令違憲の判決であり, しかも, 郵便制度とい

う, 市民の日常生活に極めて密着した問題であるゆえもあって注目され

た。 そのこともあってか, 冒頭に記した通り, 国会は今回の違憲判決を

受けて直ちに郵便法の関係法条の改正作業に取り組み, すでに平成��年

内に改正を行った。 これは, 裁判所の違憲判決の趣旨を政治部門が真摯

に受けとめ, 迅速な改正を実現させたという望ましい事例として記憶さ

れるべきであろう(��)

郵政公社として新たにスタートした郵便事業は, なお様々な問題に直

面しているが, まさしく市民の日常生活に密接に関連した事業として,

いっそうの改善・充実が今後期待されよう。

[註]

(1) 本判決の解説・評釈として, 「6件目の法令違憲判決」 ジュリスト����

郵便法免責規定の違憲性 (長尾)�� (��)

号��頁, 市川正人・月刊法学教室���号��頁, 安西文雄・判例セレクト

����� 3頁, 井上典之・平成年度重要判例解説�頁など参照。

(2) 明治憲法下のわが国においては, 今日の国家賠償法のような法律は存在

せず, また, 行政裁判法 (明治��年法律第�号) �条は, 「行政裁判所ハ

損害要償ノ訴訟ヲ受理セス」 と定めており, 結局, 行政活動のうち, 民法

の適用のあるものに限り, 民法上の損害賠償請求ができるにすぎなかった。

(3) プログラム規定説を採るものとして, 例えば, 古崎慶長 『国家賠償法』

(有斐閣, 昭�) ���-��頁, 東京高判昭���9���下民集5巻9号��頁

など参照。 古崎判事は, 「綱領規定」 ( �����������������) の語を用い

ている。

抽象的権利説を採るものとして, 小林孝輔・芹沢斉編 『別冊法学セミナー

基本法コンメンタール憲法 [第四版]』 (日本評論社, 平成9) ��頁以下

[��頁] (莵原明執筆), 野中俊彦他共著 『憲法Ⅰ [第三版]』 (有斐閣, 平

成�) ���頁 [野中執筆] など参照。

(4) 阿部泰隆 『事例解説 行政法』 (日本評論社, 昭��) �頁 [�頁]。

(5) 前掲 (註3) 『基本法コンメンタール憲法』 ��頁 (莵原明執筆) は, 「本

条の法的性質は, プログラム規定か抽象的権利を定めた規定かと理解する

よりもむしろ, 国民の権利侵害があったとき, その救済に欠けるところの

ないよう, より完全な権利救済・権利保障国家をめざすドイツ憲法学に言

ういわゆる国家目標規定を意味すると捉え [る]」 と述べる。

(6) 憲法��条の法的性格について, プログラム規定性を強調する見解がある

が, そうした考え方は, 「朝日訴訟最高裁判決」 (最大判昭��5��民集�

巻5号��頁。 判例時報�号9頁), 「堀木訴訟最高裁判決」 (最大判昭���

7�7民集��巻7号���頁。 判例時報��号��頁) などの判示と結びつい

ているであろう。

(7) 旧郵便法 (明治��年法律第�号 [昭和��年法律第��号により, 同��年

1月1日廃止]) 1条は, 「郵便ハ政府之ヲ管掌ス」 とし, 3条は, 「運送

営業者ハ郵便官署ノ要求アルトキハ其ノ運送方法ニ依リ郵便物ノ運送ヲ拒

ムコトヲ得ス」 とし, また, 職務執行中の郵便逓送人・集配人・郵便専用

車馬について, 4条は, 「道路ニ障碍アリテ通行シ難キ場合ニ於テ……宅

地田畑其ノ他ノ場所ヲ通行スルコトヲ得」 と定め, 5条は, 「事故ニ遭遇

シタル場合に於テ……助力ヲ求メラレタル者ハ正当ノ事由ナクシテ之ヲ拒

ムコトヲ得ス」 と定め, 6条は, これらの者に対しては, 「渡津, 運河,

道路, 橋梁 [等ノ] ……通行銭ヲ請求スルコトヲ得ス」 と定めていた。 さ

らに, 7条においては, 郵便専用の物件・郵便の用に供する物件について,

1項では 「差押フルコトヲ得ス」 と定め, 2項では 「賦課ヲ受クルコトナ

中京法学��巻1号 (����年) ��(��)

シ」 と定め, 3項では 「海損ヲ分担セス」 と定めていた。 また, 9条では,

郵便物の検疫は 「他ノ物件ニ先チテ直ニ……受ク」 と定め, ��条では,

「郵便取扱ニ関シ無能力者ノ郵便官署ニ対シテ為シタル行為ハ能力者ノ為

シタルモノト見做ス」 と定めていた。

(8) 旧郵便法��条1項は,

「成規ニ依リ差出シタル郵便物ノ取扱ニ関シ郵便官署ハ左ノ場合ニ限

リ其ノ損害ヲ賠償ス

一 書留通常郵便物ヲ亡失シタルトキ

二 書留小包郵便物若ハ価格表記郵便物ヲ亡失又ハ毀損シタルトキ

(三号、 四号略)」

と規定していた (下傍線は引用者)。 現行法��条の規定は, 基本的に

これらを継承しているものと理解されよう。

(9) なお, 井上・前掲 (註1)評釈 [��頁] は, 「多数意見の指摘にはある種

の不安が残るが」 としながらも, 「評価に値する」 と述べている。

(��) そもそも, 最高裁の違憲判決, とくに法令違憲判決の極端な少なさから

も明らかとなるであろう。

(��) 安西文雄・前掲 (註1)評釈参照。

(��) 安西文雄・前掲 (註1)評釈参照。

(��) 佐藤幸治 『憲法 [第三版]』 (青林書院, 平成7) ���頁は, 「およそ国家

賠償制度の核心にかかわる領域については, 法律の定めがなくとも, 直接

本条によって賠償請求権が発生すると解すべきであろう」 と述べる。

(��) 郵便為替法��条, 郵便貯金法�条, 郵便振替法��条など参照。 なお,

[旧] 公衆電気通信法 (昭和��年法律第号。 昭和��年4月1日施行の

「電気通信事業法」 [昭和�年法律第��号] 附則3条により廃止された)

��条は, 故意・過失の要件を不要とする一方で, 電報の所定の時間内の

不着については料金の5倍, 電話の不通については電話使用料・付加料金

の5倍に相当する金額を限度として賠償する旨の特則を規定していた。 こ

の点について, いわゆる 「世田谷通信ケーブル火災事件」 損害賠償請求訴

訟控訴審判決 (東京高判平2�7���判例時報����号3頁) は, 件の規定に

基づく賠償額が実損との比較上著しく低額とは言い難いし, 賠償額の制限

も 「やむをえない措置」 とて是認しうると述べ, 地元住民らの請求を棄却

した。 評釈として, 小幡純子・平成2年度重要判例解説��頁など参照。 因

みに, 民営化されたのちのNTT電話サービス約款���条は, 利用者の故

意・過失なくして��時間以上不通となった場合に, 基本料金返還を定める

とともに, NTTの責に帰すべき理由がある場合には, 最近6ヵ月間の平

均使用通話料金の日割分を損害とみなす, とし, さらにNTT側に故意・

郵便法免責規定の違憲性 (長尾)�� (��)

重過失がある場合には, 責任制限条項は適用されない, としている。

(��) 鉄道営業法 (明治��年法律第��号) ��条の2 [昭和4年法律第��号によ

る追加] 第1項は, 「要償額ノ表示アル託送手荷物又ハ運送品ノ滅失又ハ

毀損ニ因ル損害ニ付賠償ノ責ニ任スル場合ニ於テハ鉄道ハ表示額ヲ限度ト

シテ一切ノ損害ヲ賠償スル責ニ任ス」 とし, 損害額が表示額に達しないこ

とを証明できない限り 「支払ヲ免ルルコトヲ得ス」 と定め, さらに, 第3

項は, 賠償額の制限について, 荷物等が 「鉄道ノ悪意又ハ重大ナル過失ニ

因リテ滅失又ハ毀損シタル場合ニハ之ヲ適用セス」 と定めている。 また,

荷物等の延着の場合についても, 同��条4項が, 「鉄道ノ悪意又ハ重大ナ

ル過失ニ因リテ延著 (着) シタル場合」 には, 賠償額の制限は 「之ヲ適用

セス」 と定めている。

(��) 阿部泰隆・前掲書 (註4)���頁以下 [���頁] 参照。 また, 園部敏・植

村栄治 『交通法・通信法 [新版]』 (有斐閣法律学全集��-Ⅰ, 昭��) ���

頁は, 「現行の憲法�条の精神に照らして問題があるように思われる」 と

する。 諸学説の整理については, 西埜章 『注解法律学全集� 国家賠償法』

(青林書院, 平9) とりわけ��-���頁, 宇賀克也 『国家補償法』 (有斐閣

法律学大系, 平9) とりわけ���-���頁など参照。

(�) 東京地判昭��5��判例タイムズ��号��頁, 高松高判昭��2��高民集

��巻2号���頁, 東京地判昭��5��ジュリスト���号7頁 [判例カード],

山形地判昭��7��判例時報���号�頁, 水戸地判昭������判例タイムズ

��号���頁, 大阪高判昭������判例時報���号��頁, 東京高判昭��6��

判例時報��号��頁, 最二小判昭��1��判例時報���号��頁, 東京地判昭

������判例時報����号���頁, 奈良地判平58��判例タイムズ���号�

頁, 大阪高判平63��判例時報����号�頁など参照。

(��) 今回の判決の原審・大阪高判平��93, あるいは, 電報の不着に関す

る事案であるが, 広島高判昭�2�高民集��巻2号���頁 (なお, 原審

の山口地判昭��4��下民集��巻4号��頁は, 公社側に故意・重過失が

ある場合には免責されない旨の考え方を示していた [本件に関しては重過

失はないとした]) など参照。

(��) 今回の事件における上告人上告理由は, 仮に当該免責規定が違憲でない

としても, 郵便職員の故意・重過失ある場合に適用することは違憲である,

と述べる。 判例時報����号��頁 [��頁]。

(��) 阿部泰隆・前掲書(註4)���頁以下 [���頁] 参照。 商法�条以下では,

運送人が運送品を故意に滅失・毀損する等の場合は, 免責の理由が全く無

いので, 明告がなくとも運送人は賠償責任を負うものとされる。 また, 渋

谷泉・ジュリスト���号���頁 [高松高判昭��2��(前掲註�) の評釈]

中京法学��巻1号 (����年) ��(��)

は, 「賠償責任は利用関係において発生するのであるから, 他の私法上の

関係, とくに大企業により営まれる運送契約と比較して, これを論ずるこ

とは, 決して不当ではない」 と述べる [���頁]。

(��) 今回の事件における上告人上告理由は, 「原判決の結論は, 右正本送達

において, 唯一損害を負った者が国に対して全く損害賠償 [請求] できな

いとするものであり, まさしく国家無答責の原則を現代によみがえらせた

極めて不合理, 不公平なものである」 と述べる。 判例時報����号��頁 [��

頁]。 特別送達については, 郵便法��条, 郵便規則 (総務省令)��条, ���

条参照。

(��) 市川・前掲 (註1)評釈 [��頁] は, 最高裁の立場について, 「厳格な意

味で当該事件の処理に必要最低限度の憲法判断をすることに限定されない」

ということである, と理解している。

(��) 市川・前掲 (註1) 評釈 [��頁] は, 本件のような 「法令の意味上の一

部違憲という手法」 の方が, 「より無理がないものであった」 とする。

(�) 市川・前掲 (註1)評釈 [��頁] は, わが国の違憲審査制の運用は, (ア

メリカ型の 「本件に適用される限りで違憲」 とする手法ではなく) 法令そ

のものをより客観的・一般的見地から問題にするものと指定されてきた,

と述べる。

(��) 市川・前掲 (註1)評釈 [��頁] は, 「規制緩和, 民営化が進む中で, 国

の事業に関して広く国の損害賠償責任を限定する法律が時代遅れになって

いる, ということであろう」 と述べる。 また, 井上・前掲 (註1)評釈 [��

頁] は, 「郵便事業が性質において民間の運送事業と性質を同じくするも

のであるとの最高裁の認識」 を指摘する。

(��) 郵便法��条2項5号は, 賠償がなされる場合として, 「小包郵便物の全

部又は一部を亡失し, 又はき損したとき」 とし, その賠償額は, 「総務省

令で定める額を限度とする実損額」 と規定している。

(��) 阿部泰隆・前掲書 (註4)��頁以下 [��頁], 真柄久雄 「公務員の不法

行為責任」 『現代行政法大系第6巻 国家補償』 (有斐閣, 昭��) ���頁以

下 [��-�頁] など参照。

(��) 郵便規則�条の2によると, 現金を内容とするものについては限度額��

万円, 現金以外のものを内容とするものについては限度額���万円となって

いる。

(�) 渡辺洋三 「公法と私法 (十) ――契約を中心として」 民商法雑誌�巻4

号 (昭�) ��頁以下 [��-��頁] など参照。

(��) 渡辺洋三・同前 [��頁]。 渡辺教授は, 郵便物の事故においては, しば

しば, 差出人よりも受取人の方が大きな損害を被るものであるゆえに,

郵便法免責規定の違憲性 (長尾)�� (��)

「受取人の利益保護を十分に考えるべきであろう」 とし, 「差出人の承諾」

という要件は, 「不必要且つ無益な規定」 であると述べている。

(��) 「郵便法の一部を改正する法律」 (平成��年法律第���号) により, 郵便

法��条において, 新たに第3項として,

「郵政事業庁長官は, 郵便の業務に従事する者の故意又は重大な過失に

より, 第1項各号に規定する郵便物その他この法律又はこの法律に基づく

総務省令の定めるところにより引受け及び配達の記録をする郵便物……に

係る郵便の役務をその本旨に従つて提供せず, 又は提供することができな

かつたときは, これによつて生じた損害を賠償する責めに任ずる [但書略]」

との文言が付加された。

また, 特別送達郵便物に関する規定中の 「重大な過失」 とある部分につ

いては, 「過失」 と改められた。

(以上, 平成��年��月4日官報号外第���号3頁)。

中京法学��巻1号 (��年) ��(��)