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特 月U寄 稿

こうした文章を私が記 して以来,第 1の原子力時

代はその道程の大半を過ぎようとしている。日本や

韓国,台湾, フランスなどではまだ何基かの原子炉

の新規発注があるものの,米国では1976年以来,原子炉の発注は途絶えている。そしてロシアや ョー

ロッパの大半の国で,原子力は立ち往生の状態に

至っている。我々は今,原子力技術と社会とが,原子力に関する「 ファウス トの取引き」におけるそれぞ

れの役割をどこまで満たしてきたかを,よ り明確に

判断できるところにきた。我 「々原子力屋」は本当に

無限で,安 く,環境汚染を生 じないエネルギー源を

提供 したのだろうか? そして社会は広範囲での原

子力利用が要求する「不寝番」的警戒や安定性を示 し

えたのだろうか? もしこれ らの質問への答えが

「 ノー」であるとすれば,1953年の米国化学会におけ

る会長スピーチでジェイムズoコ ナント韓 が予言 し

たように,原子力は結局のところ失敗に終わろうと

しているのであろうか? それとも我々はまだ,核分裂がエネルギー源として永続的,かつ発展的に寄

与できる第 2の原子力時代の到来を期待 しうるので

あろうか ?

第 1の原子力時代 にお ける

技術の成功 と失敗

第 1期原子力時代は,次の 2点で成功をおさめて

いる。すなわち第 1に,非増殖型の原子炉で経済的

に優れた発電技術を達成 したこと,そ して第 2に ,

増殖炉によって無限のエネルギー供給の可能性を実

証したことである。

経 済 性

1990年 初めの時点で,全体で約318ギ ガヮット

(GWe)の発電容量を持つ426基の原子炉が世界の発

電網につながれている。更に,約 79GWeの容量を

『`

社 会 制 度 と原 子 力 (その 2)Socjαι IEsιじι

ιιo■sαれα u゙Cιοαr Enο=gy一

Ⅱ*

オス免業ヱノ帯9参雷笠裂条募質チ

員 A市 in M.WEINBERG**(動燃事業団・河田東海夫 訳)

本稿は戦後50年を記念して寄稿されたものである。

米索黎来来来来来来*来紫黎来*黎x紫来黎来黎黎黎黎索X索黎黎黎索黎黎紫来黎黎来x黎黎黎黎*来索来来来来来黎来糸来黎紫来索来

フィラデルフィアで開かれたAAAS会議薫*で初

めて原子力をして「 ファウス トの取引」であるといっ

て以来20年が過ぎた(D。 このスピーチで私は次のよ

うに述べた。

我々原子力屋は,社会 と「 ファウス トの取引

き」を行 った。我々は,触媒的原子炉,す なわ

ち増殖炉で無限のエネルギー源をもたらした。

短期的に見ても,我々は通常の非増殖型原子炉

で化石燃料よりも安いエネルギーを提供 してい

る。 しかもこのエネルギーは扱い方を間違えな

ければほとんど環境を汚すことがない。化石燃

料の燃焼は炭酸ガスや窒化物,硫化物などを放

出するが,原子力は廃熱とわずかな放射能を除

いては原理的に環境汚染物を放出することがな

い 。

その一方で, この魔法のエネルギー源と引替

に我々が社会に求める対価は,「不寝番」のよう

に一時も気を許すことのない警戒と永遠の存続

を課せ られた, これまでにない社会制度であ

る。

*本稿は,本会「英文誌」σ Ⅳ

“l Scグ ルε力ποZ,Vo1 32,No.11,

p1071~ 1080(1995))の翻訳である。**Distinguished Fellow,Oak Ridge Associated Universities,

P O Bοχゴゴ40αたRグ1懸a rσηπassιι θZθθ2-θ′fzじSA.

'1971年のAAAS(American Association for the Advance‐

ment of Science)会議で, ヮインパーグ博士は原子核の発

見者ラザフォード卿の生誕100年を記念 してこの講演を行っ

た。その講演内容を後に「サイエンス」誌(Vo1 177,1972年 )上

に「社会制度と原子力」というタイトルで発表 した。 本稿の

タイトル「社会制度と原子力(そ の 2)」 |ま その20年後の続編と

いう意味が込められている。(訳者注)

豪叢コナントは1933年から約20年間にわたリハーバード大学総長を務め,戦時中はカーネギー研究所長のヴァネヴァー・プッシュと共にマンハッタン計画立ち上げの中心的役割を果たし

た。戦後もAECの一般諮問委員会委員などを務め,原子力

行政に貢献した。(訳者注)

Vol.38,No.1(1996) (3)

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特 別 寄 稿 (A.M wEINBERG)

持つ96基の原子炉が建設中であり, これを加えれば

全体の発電容量は約 400 GWeに 達する。60%の稼

働率でlGWeの発電は0.05 quads/年 の 1次エネル

ギーを消費す るか ら,世界全体の原子炉 は約 20

quadsの熱エネルギーを電気に変換 したことにな

る。これは世界の 1次エネルギーの約 6%に相当す

る。これら世界の原子炉のうち,あ るものは経済的

に破綻を来 しているものもあるが,大半は経済的に

成功をおさめている。世界を平均 してみれば,非増

殖型の通常の原子炉に基づ く原子力は,最 も高い化

石燃料 (石油)よ りは安価であり,場合によっては石

炭よりも安 くなっているケースすらある。

増 殖 炉

第 1期原子力時代において,い くつかの大型液体

金属冷却型高速炉と,軽水冷却の熱中性子増殖炉に

おいて「増殖」が実証された。例えばフランスの高速

炉 PHENIX(250 MWe)で は,実際に炉内で燃えた

プル トニウム原子 1個 当たり1.13個 の新たな Pu―

239原子が回収された。 この種の高速炉における究

極の燃料は普通のウランで, プル トニウムはその リ

サイクルによってウランの燃焼を促進する,あ たか

も触媒のような役割を果たしている。 したがつて,

通常の軽水炉では約 2%し か燃やせない天然ウラン

を,高速炉では50%ま で燃やすことができる。高速

炉は,理論上はもとより,実際問題として,地球上

の花商岩中に存在するトリウムやウランから人類が

すべての,そ して無尽蔵のエネルギーを取 り出すこ

とを可能にする。「岩を燃やすこと」*は

今や単なる

理論上の可能性ではない。

永年,原子力開発の切 り札と見なされていた増殖

炉の実証が,(フ ランスの増殖炉計画を指揮 したG

ヴァンドリ(G.Vendryes)氏がその業績によつて

「フェル ミ賞」と「 日本賞」を受賞 したものの)ほ とん

ど無視 されることになったのは何故であろうか ?

その一つの理由は,高速増殖炉があまりにも高 くつ

くことにある。我々はウランの価格が相当高騰 しな

いかぎり,増殖炉は経済的に太刀打ちできないこと

に大分前か ら気付いている。 ウランが大量にあり,

摯“Burning the rocks"。 ワインバーグ博士は1959年 のPbsづ Os

Tοααy誌 (Vol 12,No ll)上 に, “Energy As An Uitimate

Ra、v NIateria1 0r‐ Problems of Burning The Sea And

Burning The Rocks"と いうタイ トルの論文を発表 し,超長期

にわたるエネルギーの安定供給源 としての核融合 (burning

the sea)と 増殖炉(burning the rocks)の 重要性を論 じている。

(訳者注)

値段がたとえば15$/kgと 安 く留まるかぎり,建設

費の高い増殖炉は勝ち目がない。 しかし, もしウラ

ンの価格が上昇すれば,やがて増殖炉は非増殖型の

原子炉と競合できるようになるだろう。ただ,我々

はいつ そ うな るか は明言 で きな いので あ る。

LMFBRは在来型の非増殖型軽水炉に比べて建設費

が25%高いと仮定 してみよう。LMFBRで は,非増

殖型軽水炉に比ベウラン鉱石を1/25し か必要としな

いので,そ の建設費の割高分はやがては燃料費の安

さで取 り戻せるはずである。こうした議論は,1,000

MWeの軽水炉の建設単価が $400/kWeで あった

1972年当時にはなんとか説得力を持っていた。その

当時,我 々の評価ではLMFBRの建設費は $500/

kWeで あった。 この $100/kWeの 差を埋めるため

には, ウラン価格は恐 らく$75/kg(1971$)ま で上

昇 しなければならないと考えられるが,実際の現在

の価格はおよそ $15/kg(1991S)で ある。 しか しな

がら1991年までに軽水炉の建設費は約 5倍に上昇 し

ており,LMFBRと 軽水炉の建設費の差は,現在で

は約 $500/kWeに な って い る と予想 され る。

LMFBRが競合できるためのウラン価格はこの場合

$500/kg以 上になって しまう。 こうした価格であ

れば,海水から回収されるウランを通常の軽水炉で

燃やすことで無限のエネルギー源とする可能性 も出

て くる。要するに,無限のエネルギー源としての

LMFBRの 夢はその建設費の高さゆえに色あせてし

まっているのである。

この点,増殖炉は太陽エネルギーと似ている。原

理的には無尽蔵で,燃料費が安いかあるいはただで

あるが,建設費が高いという欠点を持っている。増

殖炉や太陽エネルギー,あ るいは核融合エネルギー

など,無尽蔵のエネルギー源については設備投資費

が高いというのはやむを得ない欠点なのだろうか ?

いまは私はそうとは思わない。増殖炉については,

技術が進展すれば建設費は下がると期待 されてい

る。更に,溶融塩増殖炉, または高温ガス冷却熱中

性子増殖炉などの他の形式の増殖が, 今主流の

LMFBRよ りも安いことがやがて証明されるかも知

れない。

現在の原子炉の寿命の30年から40年に対 し,増殖

炉が100年 あるいはそれ以上持つことが証明されれ

ば,非常に長い目で見て建設費の高さはそれほど重

要ではないのかも知れない。 ェネルギー生産設備

は,一たんその原価償却が済んでしまうと,そ の後

(4) 日本 原 子 力 学 会 誌