衣料品市場の低迷と北陸産地織物業界の 今年の課題 ·...

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59 繊維トレンド 2008.1・2 月号 国内動向 〔テキスタイル動向〕 1.天候不順に悩む衣料品小売業界 衣料品の内需の動向は、2000 年代に入って、経 済の好不調やファッション動向で消費の増減する 割合が次第に少なくなり、もっぱら気候の動向に 大きく左右されるようになっている。ここ数年間、 アパレルメーカー、衣料品小売業界は異常気象に 悩まされ、これが川中のテキスタイル業界の景気 動向に大きな影響を与えている。 昨年の衣料品の小売状況は、前年に引き続き天 候不順に見舞われ、バーゲンセールが行われた 6 月を除いて、毎月前年比マイナスを余儀なくされ た。参考までに、月ベースの状況を振り返ると、 年初は暖冬、春先には逆に寒い日々が続き、春物 商戦が苦戦、図表 1 に示すように 1 ~ 3 月の小売 店頭の衣料品売上高は、百貨店が前年比 1.5 %減、 チェーンストアが 4.1 %減少した。初夏物の 4 ~ 6 月は、4月が大消費地の東日本の低温が続いて低調、 5 月はゴールデンウイークが天候に恵まれ、やや消 費が持ち直したものの、月末には再び天候不順で ダウン、6 月は気温が上昇して消費が増加、小売業 界の早いバーゲンセールの開始もあって、6 月の百 貨店の売上高は 8 %の増加、チェーンストアは 1.8 %減とマイナス幅が縮小した。しかし、7 月は 梅雨明けが遅れ、台風の上陸や気温が低く、6 月の バーゲンの反動もあって百貨店の売上は 9.2 %減、 チェーンストアは 10.2 %減と最悪の状況になった。 8 月になると猛暑になって夏物衣料の販売がやや回 復、9 月は残暑によって初秋物の売れ行きが不振を 呈し、百貨店が 6.3 %減、チェーンストアが 9.6 % の大幅減と、衣料品の小売状況は気候の変化に敏 感に反応した。そして 10 月も例年より暖かく秋物 衣料の販売が悪く、百貨店が 2.8 %減、チェーンス トアが 4.7 %減少、11 月は中旬から寒波が到来し、 北日本を中心に冬物衣料が動いている。 以上のように、気候の変化と衣料品の小売動向 には密接な関係があり、アパレル・小売業界にとっ て、天候不順をどう読むかがビジネスの最重要の ポイントになっている。一般的な傾向として、6 ~ 7 月に夏らしく暑くなると夏物が売れ、11 ~ 12 月 に冷え込むと冬物の売れ行きが良い。他方、冷夏 とか暖冬になると消費が落ち込み、更に 6 ~ 7 月 が涼しく 8 ~ 9 月が猛暑というように暑さ、寒さ 衣料品市場の低迷と北陸産地織物業界の 今年の課題 ― コストアップ対策とグローバルマーケットの開拓が緊要 ― 小山 英之(こやま ひでゆき) 特別研究員 1970 年社団法人福井県繊維協会入会。1992 年調査部長を経て、2005 年同協会退職。その 間、1992 年に繊維工業審議会臨時委員、1997 年繊維産業審議会専門委員として繊維ビジョ ンの策定に参加。2006 年 2 月から(株)東レ経営研究所特別研究員。 1 北陸産地は、国内衣料品市場が天候不順で低調を余儀なくされている中で、超細番高密度織物の開発と産 業資材分野の拡大によって、昨年は久々に好況になった。 2 今年は、原油価格高騰に伴うコストアップが一段と進むと予想され、価格転嫁問題が正念場を迎える。ま た、東アジア地域の高密度織物の増産から需給問題が心配され、産地業界は先行き危機感を強めている。 要 点

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Page 1: 衣料品市場の低迷と北陸産地織物業界の 今年の課題 · 呈し、百貨店が6.3%減、チェーンストアが9.6% の大幅減と、衣料品の小売状況は気候の変化に敏

59繊維トレンド 2008.1・2 月号

国内動向〔テキスタイル動向〕

1.天候不順に悩む衣料品小売業界

衣料品の内需の動向は、2000 年代に入って、経済の好不調やファッション動向で消費の増減する割合が次第に少なくなり、もっぱら気候の動向に大きく左右されるようになっている。ここ数年間、アパレルメーカー、衣料品小売業界は異常気象に悩まされ、これが川中のテキスタイル業界の景気動向に大きな影響を与えている。昨年の衣料品の小売状況は、前年に引き続き天

候不順に見舞われ、バーゲンセールが行われた 6月を除いて、毎月前年比マイナスを余儀なくされた。参考までに、月ベースの状況を振り返ると、年初は暖冬、春先には逆に寒い日々が続き、春物商戦が苦戦、図表 1 に示すように 1 ~ 3 月の小売店頭の衣料品売上高は、百貨店が前年比 1.5 %減、チェーンストアが 4.1 %減少した。初夏物の 4 ~ 6月は、4月が大消費地の東日本の低温が続いて低調、5月はゴールデンウイークが天候に恵まれ、やや消費が持ち直したものの、月末には再び天候不順でダウン、6月は気温が上昇して消費が増加、小売業界の早いバーゲンセールの開始もあって、6月の百

貨店の売上高は 8 %の増加、チェーンストアは1.8 %減とマイナス幅が縮小した。しかし、7 月は梅雨明けが遅れ、台風の上陸や気温が低く、6月のバーゲンの反動もあって百貨店の売上は 9.2 %減、チェーンストアは 10.2 %減と最悪の状況になった。8月になると猛暑になって夏物衣料の販売がやや回復、9月は残暑によって初秋物の売れ行きが不振を呈し、百貨店が 6.3 %減、チェーンストアが 9.6 %の大幅減と、衣料品の小売状況は気候の変化に敏感に反応した。そして 10 月も例年より暖かく秋物衣料の販売が悪く、百貨店が 2.8 %減、チェーンストアが 4.7 %減少、11 月は中旬から寒波が到来し、北日本を中心に冬物衣料が動いている。以上のように、気候の変化と衣料品の小売動向

には密接な関係があり、アパレル・小売業界にとって、天候不順をどう読むかがビジネスの最重要のポイントになっている。一般的な傾向として、6~7 月に夏らしく暑くなると夏物が売れ、11 ~ 12 月に冷え込むと冬物の売れ行きが良い。他方、冷夏とか暖冬になると消費が落ち込み、更に 6 ~ 7 月が涼しく 8 ~ 9 月が猛暑というように暑さ、寒さ

衣料品市場の低迷と北陸産地織物業界の今年の課題―コストアップ対策とグローバルマーケットの開拓が緊要―

小山 英之(こやまひでゆき)特別研究員

1970 年社団法人福井県繊維協会入会。1992 年調査部長を経て、2005 年同協会退職。その間、1992年に繊維工業審議会臨時委員、1997年繊維産業審議会専門委員として繊維ビジョンの策定に参加。2006年 2月から(株)東レ経営研究所特別研究員。

1 北陸産地は、国内衣料品市場が天候不順で低調を余儀なくされている中で、超細番高密度織物の開発と産

業資材分野の拡大によって、昨年は久々に好況になった。

2 今年は、原油価格高騰に伴うコストアップが一段と進むと予想され、価格転嫁問題が正念場を迎える。ま

た、東アジア地域の高密度織物の増産から需給問題が心配され、産地業界は先行き危機感を強めている。

要 点

Page 2: 衣料品市場の低迷と北陸産地織物業界の 今年の課題 · 呈し、百貨店が6.3%減、チェーンストアが9.6% の大幅減と、衣料品の小売状況は気候の変化に敏

の時期が 1 カ月遅れると、消費者は買い控えに動き、小売業界は焦って早くからバーゲンセールを行い、売れ残り在庫を抱え、収益の悪化を招くというパターンが繰り返されている。したがって、アパレル、小売業界にとって、予

測が難しい異常気象や売れ筋が読みにくい需要動向に、いかに対処するかが、最大の課題になっている。そのために、商品企画を可能な限り消費シーズンに引きつけ、生地の手当てや縫製工場に対する発注は、シーズン直前・期中発注にするというクイックビジネスを一段と強化している。しかし、国内衣料市場の海外品の割合が 9 割を超える現状では、クイックビジネスに限界があり、また、国内縫製用もテキスタイルの生機が備蓄していないと極端なクイックデリバリーの対応は難しく、行き過ぎた期近発注・期中発注はビジネスチャンスを逃す結果を招いている。加えて、アパレルメーカーの商品企画は、異常気象のリスクを回避するために、例えば秋・冬・初春の 3 シーズン着用可能な薄地テキスタイルを求める傾向が強くなり、

川中のテキスタイル生産は、近年、合繊、綿、毛ともに、薄く、軽く、暖かいという薄地高機能織物の生産比率が高まっている。しかし、これが商品の同質化を生み出す原因となっており、消費意欲の低下をもたらすマイナス面も表れている。加えて、中国縫製基地の人件費のアップ、増値税の還付率引下げ、生地・資材の値上がり、物流費のアップ等のコストアップ問題もあり、アパレル・小売業界は、収益改善の有効な対策が打てず、苦悩の色を深めている。

2.深刻化するテキスタイル業界のコストアップ問題

川中のテキスタイル業界にとって頭痛の種は、原油価格高騰に伴う重油、電力料金、原糸、サイジング糊材、染料、薬品、紙管等の資材、輸送費用の高騰である。原油価格は、世界人口の 4 割強を占める BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の目覚ましい経済成長によって石油需要が拡大、イランの核問題等の中東情勢の不安定化、投機資金の石油市場への流入、OPEC の需給調整対

繊維トレンド 2008.1・2 月号60

区 分 全国百貨店 全国チェーンストア

衣料品計 紳士服 婦人服 子供服 衣料品計 紳士服 婦人服

単位:%

2001年 -1.0 -3.6 0.2 -1.1 -7.6 -7.3 -6.02002年 -2.6 -4.8 -1.6 -1.5 -5.5 -5.9 -4.72003年 -3.0 -3.2 -2.8 -1.1 -4.1 -5.5 -4.12004年 -5.0 -5.2 -4.7 -6.5 -7.3 -7.5 -7.02005年 -0.8 0.6 -0.3 -7.1 -1.7 -1.2 -2.52006年 -1.2 -1.6 -0.6 -3.6 -4.6 -7.1 -4.62005年 1~3月 -5.2 -4.4 -5.5 -7.2 -5.9 -5.8 -7.7 4~6月 -0.8 0.3 0.0 -7.4 -2.6 0.0 -2.0 7~9月 0.6 1.1 1.8 -9.1 -2.0 -1.2 -2.1 10~12月 2.5 4.6 3.2 -5.1 3.5 1.6 1.62006年 1~3月 0.8 -0.6 2.4 -4.1 -2.7 -5.7 -0.6 4~6月 -2.7 -2.5 -2.5 -2.5 -5.0 -8.8 -7.6 7~9月 0.3 1.3 0.6 -1.3 -2.5 -4.7 -4.6 10~12月 -3.1 -3.3 -2.7 -4.4 -7.5 -8.4 -5.32007年 1月 -1.0 -0.1 -0.9 -2.9 -4.3 -5.0 -3.6 2月 0.3 2.7 0.5 -1.3 -2.8 0.1 0.0 3月 -3.1 -0.1 -4.1 -3.1 -5.4 -4.3 -4.5 1~3月計 -1.5 0.6 -1.7 -2.6 -4.1 -3.6 -3.0 4月 -2.3 -0.6 -2.5 -2.2 -3.6 -0.7 -2.5 5月 -1.3 -1.7 -0.9 -4.5 -3.5 -2.0 -2.7 6月 8.0 6.3 8.8 17.3 -1.8 0.1 0.0 4~6月計 -2.7 1.4 1.4 1.8 -3.0 -0.8 -1.8 7月 -9.2 -9.8 -8.7 -16.6 -10.2 -11.0 -1.5 8月 -0.3 0.0 -0.1 -2.3 -1.2 0.0 -0.1 9月 -6.3 -4.7 -7.0 8.5 -9.6 -9.9 -9.8 7~9月計 0.3 -5.9 -6.0 -10.5 -7.3 -7.6 -7.7 10月 -2.8 -2.2 -3.7 -1.9 -4.7 -3.5 -5.5

(注)店舗調整後のデータ。 出所:日本百貨店協会、日本チェーンストア協会

図表 1 全国百貨店・チェーンストアの衣料品販売額の対前年比推移

国内動向

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61繊維トレンド 2008.1・2 月号

衣料品市場の低迷と北陸産地織物業界の今年の課題

策等の要因が輻湊して、小刻みのアップダウンを繰り返しながら、じわじわと高騰している。合繊メーカーは、PTA、EG、カプロラクタム等の合繊原料の急騰を受けて、原糸価格の値上げを進めており、ポバール、アクリル等のサイジングの糊材も値上りしている。また、染料、薬品については、中国太湖周辺地域が公害問題の深刻化で化学メーカーの操業率が落ち、一部の染料で入手できない事態も起こっており、価格が著しく高騰している。川中のテキスタイル業界のコスト対策は、主要

染色工場が重油から都市ガスへの転換を進め、織布工場では徹底した工場内の節電に努め、もはやコストダウンは乾いたタオルを絞るようなもので、これ以上の努力は困難になっている。残された対策は、川下業界への価格転嫁しかなく、昨年 7 月以降、テキスタイル価格の値上げ交渉が行われているが、商品力の差によって値上げ率が異なり、大勢として川下アパレル・小売業界、自動車等の産業資材のユーザーの値上げへの抵抗が強く、価格転嫁が遅れている。化学原料、ガソリン、食品関係の値上げラッシュ

が続いているが、テキスタイルの価格転嫁がスムーズに進まない要因の一つとして、小売業界のオーバーストアによる過当販売競争が指摘されている。図表 2 は、国内衣料品(外衣+下着)の供給量を示したものである。衣料品の国内供給量は、近年、

38 億点前後で推移しており、昨年 1 ~ 9 月の国内衣料品供給量は 29 億 4,008 万点、前年同期とほぼ同量で推移している。ちなみに、2006 年の国内供給量は、国産が 2億 3,173 万点、海外から輸入した衣料は 36 億 3,462 万点、国内供給量合計は 38 億6,635 万点であり、衣料品の輸入比率は 94 %、国民 1人当たり点数が年間 32.2 点となっている。さて、現実に国民が 1 年間に 1 人当たり 32 点の

外衣と下着を購入しているかというと疑問がわく。バブル期の最も衣料消費が活発であった 1992 年当時でも 1 人当たり 20 点であり、これには靴下、手袋、ネクタイ、寝着、補正着等が含まれていない。例えば夫婦と子供 2 人の 4 人家族で平均年間 128点の衣料品を購入したとは考えられない。バブル崩壊後の価格破壊で消費点数は増加しているのは間違いないが、32 点は余りにも多すぎ、業界内では 25 ~ 28 点が実際に購入している点数と推定する意見が多い。当然、売れ残りの衣料品は小売店頭で在庫となり、不良在庫は各種の方法で処分されている。この結果、供給過剰・過当競争販売によって、日本の衣料品市場は世界で最も良質で、最も低価格のマーケットになっているのである。このように慢性的なデフレ現象を抱えているのが日本の衣料品市場の特徴であり、そのためプライスレンジが低い価格で固定され、消費者への価格転嫁は難しい構造になっている。

区 分 衣料品供給合計 国産衣料品 輸入衣料品 国産比率 輸入比率 千点 前年比(%) 千点 前年比(%) 千点 前年比(%) (%) (%)

2001年 3,564,537 -0.4 424,096 -16.9 3,140,441 2.4 11.9 88.1 2002年 3,348,319 -6.1 363,221 -14.4 2,985,098 -4.9 10.8 89.2 2003年 3,558,337 6.3 311,692 -14.2 3,246,645 8.8 8.8 91.2 2004年 3,749,484 5.4 282,122 -9.5 3,467,362 6.8 7.5 92.5 2005年 3,804,333 1.5 246,248 -12.5 3,558,085 2.6 6.5 93.5 2006年 3,866,346 1.6 231,728 -5.9 3,634,618 2.2 6.0 94.0 2005年 1~3月 915,924 -0.5 64,969 -11.9 850,955 0.5 7.1 92.9 4~6月 1,007,107 4.7 62,896 -15.5 944,211 6.4 6.2 93.8 7~9月 991,568 1.6 60,377 -11.3 931,191 2.5 6.1 93.9 10~12月 889,734 -0.1 58,006 -11.9 831,728 0.8 6.5 93.5 2006年 1~3月 944,530 3.1 58,061 -10.6 886,469 4.2 6.1 93.9 4~6月 1,025,808 1.9 59,227 -5.8 966,581 2.4 5.8 94.2 7~9月 978,351 -1.3 57,787 -4.3 920,564 -1.1 5.9 94.1 10~12月 917,659 3.1 56,655 -2.3 861,004 3.5 6.2 93.8 2007年 1~3月 917,310 -2.9 53,995 -7.0 863,315 -2.6 5.9 94.1 4~6月 1,036,255 1.0 55,255 -6.7 981,000 1.5 5.3 94.7 7~9月 986,511 0.8 53,581 -7.3 932,930 1.3 5.4 94.6

(注)国内市場投入計=国産衣料品+輸入衣料品、国産衣料品は従業者30人以上の工場の生産量。   国産衣料品の年計は確定値、四半期は確定前のデータであり、年計と四半期合計に若干の差異がある。

出所:経済産業省「繊維・生活統計月報」、財務省「日本貿易月表」

図表 2 国内衣料品(外衣、下着)市場規模の推移

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したがって、川中のテキスタイル業界の川下業界への価格転換は、ユニフォーム、実用衣料等の継続商品においては難しくなっており、一方、商品開発によって頻繁に品番が変わるテキスタイルは、プライスレンジを意識した開発を進めれば、ある程度の対応が可能になっている。

3.景気の短サイクル化が進む北陸産地

北陸産地の繊維景気は、天候不順に悩む国内アパレル、小売業界の動向と、国際合繊長繊維織物市況の悪化の影響を受けて、近年、短い景気サイクルで好-不況を繰り返している。参考までに、過去 10 年間の北陸産地の景気サイ

クルを振り返ると、1998 年~ 2003 年の戦後 10 回目の不況は、中国合繊長繊維織物業界の大増設に伴う東アジア地域の激烈な国際競争の影響を受けて、足かけ 6 年の最長かつ最も深刻な不況になった。国際競争力の弱い工場、高齢者工場を中心に織物工場数は同期間中に 721 件減、39 %減少、織物生産量も 28 %減少した。産地業界は不況打開の方策として、高機能商品の開発、高感性複合繊維織物の開発、産業資材、イテンリア等の非衣料分野への転換、不採算品種からの撤退等を果敢に進め、ようやく 2004 年の春先に国際分業がほぼ確立、

それと同時に産地の景気回復が始まり、年末には 7割の工場が採算ラインに復帰した。北陸産地の織物生産量も図表 3 に示すごとく、2003 年以降減産幅が縮小し、産地に落ち着きが出始めた。しかし、その回復もつかの間のことで、05 年 2

月から再度不況に突入、戦後 12 回目の不況を迎えた。この不況は、04 年 12 月~ 05 年 1 月の異常な暖冬によって、アパレルメーカー、小売店が冬物衣料在庫を大量に残すところとなり、先行き危機感を感じた商社、合繊メーカーの織物手当てに急ブレーキがかかり、衣料用織物の受注量が減少したことに端を発した。同年 4 ~ 6 月はウィンタースポーツ衣料、ダウンジャケット用等の高機能織物の重要な生産シーズンにもかかわらず、冬物衣料の在庫問題もあって受注量が低調に推移した。他方、日本経済は順調に回復、同年 7 ~ 9 月は猛暑でクールビズ関連の綿衣料が好調な販売を記録、太平洋側綿織物産地の景気回復が伝えられ、北陸産地内でも自動車内装資材、情報家電資材、土木建築資材等の産業資材やハイテンションニットが堅調に推移しているのに対して、同年 10 ~ 12 月の衣料用合繊長繊維織物の受注は、2006 年 SS の女性ファッション衣料分野のポリエステル離れが深刻になり、低迷を余儀なくされた。

繊維トレンド 2008.1・2 月号62

国内動向

全国織物生産量

北陸産地織物生産量 区 分 合計 (福井産地) (石川産地) (富山産地) 数量 前年比 数量 前年比 数量 前年比 数量 前年比 数量 前年比 2001年 2,457,794 -7.1% 978,353 -4.8% 477,760 -4.9% 397,531 -4.6% 103,061 -5.2%2002年 2,164,330 -11.9% 858,712 -12.2% 430,255 -10.0% 339,970 -14.5% 88,633 -14.0%2003年 2,031,182 -6.2% 820,970 -4.4% 400,943 -6.8% 331,189 -2.6% 88,826 0.2%2004年 1,973,864 -2.8% 826,896 0.7% 395,174 -1.4% 334,156 0.9% 97,566 9.8%2005年 1,837,167 -6.9% 793,604 -4.0% 377,385 -4.5% 327,060 -2.1% 89,159 -8.6%2006年 1,736,816 -5.3% 738,670 -6.9% 353,110 -6.4% 301,749 -7.7% 83,811 -6.0%

2007/1 138,102 -1.2% 59,064 -0.2% 28,244 0.8% 24,530 0.7% 6,290 -7.5%2007/2 142,640 -1.0% 61,727 0.9% 29,297 -0.5% 25,655 4.1% 6,775 -4.2%2007/3 146,310 -3.4% 64,095 -0.7% 30,596 -1.7% 26,336 2.0% 7,163 -5.6%2007/4 143,211 -3.8% 62,569 -0.2% 29,045 -3.7% 26,256 2.7% 7,268 4.5%2007/5 139,291 -2.9% 60,681 0.6% 28,623 -1.0% 25,135 2.1% 6,923 2.3%2007/6 143,181 -3.8% 63,789 1.0% 29,929 -1.0% 26,711 3.5% 7,149 0.6%2007/7 145,873 -0.1% 64,093 2.3% 29,955 2.0% 26,458 2.0% 7,680 4.7%2007/8 135,736 -0.4% 62,355 6.8% 30,725 9.8% 24,871 4.0% 6,759 4.3%2007/9 138,732 -3.5% 63,850 3.7% 31,929 8.0% 25,369 1.6% 6,552 -7.1%

1~9月計 1,273,076 -2.3% 562,223 1.6% 268,343 1.3% 231,321 2.5% 62,559 -0.9%

(注)上記データは、合繊、綿、毛等の全繊維を含む織物生産量である。年計は確定値、月別データーは確定前のデータである。

出所:北陸三県情報統計室(課)

単位:1,000㎡

図表 3 全国及び北陸産地の織物(生機)生産推移

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63繊維トレンド 2008.1・2 月号

衣料品市場の低迷と北陸産地織物業界の今年の課題

ところが、05 年 12 月~ 06 年 2 月は、予想外の寒波到来で冬物衣料の在庫が底をつく程の売れ行きを示し、北陸産地合繊長繊維織物業界の景気回復の期待が高まった。しかし、06 年 1 ~ 3 月は、石油価格の高騰に伴う原燃料コストアップが押し寄せ、合繊メーカー、商社の決算対策もあって北陸産地への発注が抑制され、織布工場の稼働率は10 %低下した。北陸産地の景気の底入れは同年 4月以降で、高密度織物、カジュアル織物の需要が順調に増加、産地景気は一進一退の中でわずかながら回復が進み、同年 11 月になると北陸産地が得意とする薄地・軽量・ハリコシの高密度織物が世界のファッションの流れに乗り、織布工場に回復の確信が持てる状況になった。しかし、06 年 12 月~ 07 年 2 月は再び暖冬傾向が強まり、冬物衣料の在庫問題が表面化、産地業界は景気ダウンへの警戒を高めたが、07 年 1 ~ 3 月は予想外に薄地高密度織物を主体に堅調に推移、4~ 6 月は久々に織布工場の操業率がフル稼働になった。下半期に入ると、冬物衣料の在庫問題の後遺症

が産地の受注面にも現れ、スポーツ衣料用高密度織物の切り上げが早く、前述の原燃料コスト、原糸価格、染料・薬品、糊材のコストアップの問題が再燃、価格転嫁問題が深刻となり、昨年 11 月以降、産地の景気は調整局面を迎えている。

4.北陸産地の景気の問題点と今年の課題

昨年の北陸産地の景気動向を整理すると、業種間に若干の明暗の差はあるものの、総じて上半期が回復、下半期が踊り場となった。織物工場、染色工場は 1~ 6 月がフル操業、7~ 9 月期は染色工場の染料、薬品の高騰問題と、実需の悪化から織物染色加工量の減少が表面化、また、7月から合繊メーカー各社の原糸値上げが実施され、サイジング糊材の値上げも大幅となるなどマイナス要因が続出、10 ~ 12 月は高密度織物の受注量が減少、11月から産地全体にスペースが軟調になり、調整局面で越年した。経編業界は一昨年が好調でフル操業になった。昨年はカーシート等の車両内装材等が堅調に推移したものの、インナー等の衣料関係の低迷によって景況がスローダウンした。丸編業界は一昨年のやや苦戦の状態から昨年は脱し、スポーツ、レディースアウターの好調、車両資材の需要増加、貼布材の堅調等、操業率の回復が順調に進んでいる。編レース業界はカーテン分野が需要期の昨年 3 ~ 5 月が予想外に悪く、その後も住

宅着工件数の低迷もあって低調、インナー、アウターの衣料関係も全般的に低調な状態で推移している。主力の織物業界の景気動向を詳細に見ると、北

陸産地の 1~ 9 月の織物生産量は、前年比 1.6 %増であり、図表 4 に示すごとくポリエステル織物の生産は、福井産地 2.2 %増、石川産地 1.7 %増、ナイロン織物は福井産地 1.9 %増、石川産地は 7%増となった。スポーツ、ダウンジャケット、アウトドアー、コート、カジュアル等の高密度織物の前倒し発注が一昨年秋から活発に入り、昨年も期を追うごとにWJ織機製織のポリエステルならびにナイロンの細番高密度織物、AJ 織機製織の細番の経ポリエステル緯綿交織織物及び経ナイロン緯綿交織織物の増産が進んだ。その結果、北陸産地の織物の平均目付けが 4 ~ 5 %減少、薄地化により織機 1 台当たりの生産性が低下し、産地の革新織機の織物工場は一部の品種を除いてフル操業となった。薄地高密度織物は、4~ 6 月が生産シーズンのため、最も高稼働率になった。下半期に入ると、スポーツ用の切り上げが早かったものの、アウトドアー、カジュアル関係の注文が入り、10 月まで生産スペースは順調に埋まった。特筆すべきことは、高密度製織可能な WJ 織機、

AJ 織機のダブル幅織機は、大手・中堅工場に集中しており、大手・中堅工場が高密度薄地織物の生産に傾斜すると、それ以外の中肉織物の発注が中小織物工場に回り、郵政等のユニフォームの特需もあり、昨年秋口までは、久々に北陸産地の織布業者に笑顔が見られた。他方、レディススーツ用等の高級ファッション・テキスタイルのトリアセテート・天然繊維交織織物は、東京市場の低迷、米国向け輸出の低調によって、レピア織機に若干のスペース空きが生じた。また、裏地分野は紳士用の高機能裏地が堅調であったものの、婦人用裏地は精彩を欠き、北陸産地では採算の合わないポリエステル定番裏地の需給が逼迫して海外からの輸入が増加した。カーテン等のインテリアは椅子張り、ロールカーテンが堅調に推移、一般のカーテンはオーダー関係がまずまずで推移したのに対して、既製カーテンは海外品の輸入増加によって減産した。加えて、問屋のブック帳販売が減り、前売りが伸びるなど販売ルートの変化もあり、住宅着工件数の低迷も表面化して、全般に悪い状態で推移した。なお、産業資材関係の操業は、自動車資

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材、土木建築資材、工業用メッシュ資材、農業資材等総じて堅調に稼働し、特に自動車資材はエアバッグの受注が順調であり、カーシートも織物へのシフトが見られ、受注量が増加した。しかし、順調に回復してきた北陸織物業界の景

気は、昨年 10 月に入ると情勢に変化が起こり、北陸産地への原糸投入量がポリエステル FYを中心にやや減少傾向を示し、サイジング工場の稼働率がやや下がり、この流れを受けて 11 月以降のWJ 織機の生産スペースが若干軟調になった。ただし、カジュアル用の経ナイロン緯綿交織織物の需要が増加し、ダブル幅の AJ 織機はフル稼働となり、エアバッグ等の自動車資材関連の動きも良く、ナイロンの堅調、ポリエステルの軟調という素材間の格差が生じている。さて、今年の北陸産地織物業界の見通しである

が、先行き警戒すべき要因が多く、やや緊張した年明けになっている。大手・中堅織布工場の経営者の見方は、原油価格の一段の高騰に伴うコストアップ問題の深刻化、円相場の不安定な推移、東アジア競合国との競争の激化、米国のサブプライム問題の深刻化による世界経済の減速等によって、産地景気のスローダウンを心配する意見が多く、昨年好調であった高密度織物の先行きに危機感を持つ経営者も多い。まず、価格転嫁問題であるが、主力織布工場の

経営者の考えは次の通りである。新開発の提案商品については、新たな価格体系の構築と製造方法

のコスト合わせで、それなりに対応が可能な面があるが、ユニフォーム、裏地・芯地の衣料資材、車両資材・電気資材・土木建築資材、カーテンのブック帳販売等の継続商品に関しては、企業経営の存続のために値上げが不可欠となっており、不採算品の全面撤退を覚悟して、ユーザー業界への協力要請を強力に行わなければならないと述べている。次に、今年の重要課題として、円高基調を憂慮

しつつも、輸出振興に力を入れるという経営者が多い。産元商社が中小規模の織布工場で委託生産する小ロットのオリジナル高感性の中肉ファッション織物は、昨年来、東京市場が冷え込んでおり、今年は EU、中国、韓国、台湾等の富裕層への輸出が緊要となっている。また、オイルマネーに潤う中東市場にも注目が集まっている。昨年秋以降、中東向け商売がやや低調になっているが、北陸産地の産元商社、染色工場の中で、中東向け商品の開発で収益が伸びている企業もあり、今年は中東市場開拓に力を入れるという産地企業が多い。周知の通り、中東向け民族衣装用織物は、長い間、本腰を入れた開発が行われておらず、中国品・韓台品・インドネシア品では飽き足らない高所得層が多いと言われており、北陸産地の真剣な富裕層向けの開発が行われれば、輸出が伸びると期待される。大手・中堅工場の高密度高機能織物、カジュアル織物も中国縫製活用の欧米向け輸出開拓の余地がまだ十分にあり、今年はグローバル販売の強

繊維トレンド 2008.1・2 月号64

国内動向

ポリエステル長繊維織物 ナイロン長繊維織物 全 国 福井産地 石川産地 富山・新潟・その他 全 国 福井産地 石川産地 富山・新潟・その他

数量 前年比 数量 前年比 数量 前年比 数量 前年比 数量 前年比 数量 前年比 数量 前年比 数量 前年比 2001年 834,461 -3.5% 363,634 -4.6% 294,399 -0.7% 176,428 141,855 -4.6% 49,262 -8.7% 63,187 -6.8% 29,406 2002年 731,078 -12.4% 322,962 -11.2% 249,944 -15.1% 158,172 -10.3% 130,194 -8.2% 46,728 -5.1% 54,964 -13.0% 28,502 -3.1%2003年 673,507 -7.9% 294,487 -8.8% 241,619 -3.3% 137,401 -13.1% 128,600 -1.2% 44,036 -5.8% 55,473 0.9% 29,091 2.1%2004年 679,960 1.0% 296,262 0.6% 243,439 0.8% 140,259 2.1% 133,935 4.1% 44,451 0.9% 58,147 4.8% 31,337 7.7%2005年 648,459 -4.6% 280,977 -5.2% 240,872 -1.1% 126,610 -9.7% 132,319 -1.2% 44,687 0.5% 55,539 -4.5% 32,093 2.4%2006年 592,859 -8.6% 258,119 -8.1% 218,319 -9.4% 116,422 -8.0% 131,424 -0.7% 43,741 -2.1% 54,387 -2.0% 33,296 3.7%2007/1 48,082 0.1% 20,748 -0.3% 17,917 0.7% 9,417 -0.4% 10,431 3.3% 3,516 11.5% 4,269 -1.1% 2,646 0.7%2007/2 49,861 1.5% 21,342 -1.1% 18,476 3.1% 10,043 4.7% 11,025 5.0% 3,797 9.3% 4,773 9.7% 2,455 -8.4%2007/3 51,518 -0.3% 22,655 -0.8% 18,650 -0.4% 10,213 0.7% 11,504 1.6% 3,680 0.5% 5,062 10.2% 2,762 -10.1%2007/4 50,375 0.0% 21,337 -3.7% 18,864 2.3% 10,174 3.9% 11,295 0.6% 3,657 -3.9% 4,801 3.8% 2,837 1.6%2007/5 49,054 1.7% 21,008 -1.0% 18,006 1.1% 10,040 8.8% 11,224 4.5% 3,571 1.7% 4,707 6.4% 2,946 5.1%2007/6 51,334 3.2% 22,008 -0.2% 19,194 4.2% 10,132 9.5% 11,675 3.5% 3,891 -0.6% 5,008 4.6% 2,776 7.8%2007/7 53,878 8.5% 22,013 2.9% 18,912 1.0% 12,953 35.9% 11,900 6.0% 3,716 -0.1% 5,123 9.8% 3,061 7.7%2007/8 50,577 7.9% 23,219 14.6% 17,807 3.4% 9,551 1.7% 11,102 2.7% 3,474 -4.4% 4,802 10.4% 2,826 -0.1%2007/9 51,308 4.0% 23,772 10.8% 18,137 0.4% 9,399 -4.4% 11,427 4.6% 3,900 5.0% 4,819 9.1% 2,708 -2.9%1~9月計 455,987 2.9% 198,102 2.2% 165,963 1.7% 91,922 6.6% 101,583 3.5% 33,202 1.9% 43,364 7.0% 25,017 0.0%

出所:北陸三県情報統計室(課) (注)年計は確定値、月別は確定前のデータであり、年計と月別の年合計に若干の差異がある。

単位:1,000㎡

図表 4 全国及び北陸産地ポリエステル・ナイロン長繊維織物(生機)生産推移

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65繊維トレンド 2008.1・2 月号

衣料品市場の低迷と北陸産地織物業界の今年の課題

化が最も重要な課題と言えよう。なお、今年は織物需給の動向を注意深くウォッ

チすることが必要である。図表 5 は、合繊長繊維織物の後染め織物の出荷状況のデータを示したものである。この表の織物出荷量は、染色工場の加工量を出荷とし、輸出量は通関実績であり、出荷量から輸出量を引いて、染色工場の加工済織物の在庫増減を調整して内需量を算出している。昨年 1~ 9 月のデータを見ると、出荷合計(染色加工量)は 7 億 8,924 万㎡、前年比 1.4 %増、輸出向けは 4億 757 万㎡(タイヤコードを含まず)、同 8.1 %減、内需向けは 3 億 8,378 万㎡、前年比 14.4 %と、内需向け出荷が異常に増加している。昨年の内需向け出荷は、郵政等のユニフォームの特需や車両資材等の産業資材が増加したが、一方では内需向けの小ロット高感性のファッション織物や撚糸織物が減少、インテリアもやや減少し、加えて表 2 に示すごとくテキスタイルを潰す国内縫製の衣料生産が 7 %減少している。このような状況において、合繊長繊維織物の内需向け出荷が 14.4 %の高い伸びを示したことは、内需の需給面に何かしら問題が生じた可能性があり、昨年 11 月以降の北陸産地の生産調整局面は、このような需給面の背景のもとに生じたものと考えられる。したがって、今年 1

~ 3 月もやや調整局面で推移し、4~ 6 月は秋冬物用織物の生産シーズンで心配無いが、ポイントは下半期がどうなるかであろう。最後に、北陸産地の景気の牽引車である高密度

織物の国際競争激化の問題について記述する。中国合繊長繊維織物業界の量から質への転換がいよいよ本格的に始まっている。昨年は、中国のダウンジャケット用高密度織物の生産拡大と品質アップが進み、そのため台湾の FTC 社、エベレスト社等の大手織布工場は、中国との競合を回避する対策を強化して 30 デニールの細番高密度までレベルアップしている。そのため、北陸産地の主力織布工場は 20 デニール以下の超細番織物へシフトして国際分業を行っている。20 デニール以下となるとサイジングの張力管理技術が高度になり、受注量も小ロットで今後とも国際分業は可能と思われる。しかし、高密度織物のマクロの需給状況となると、中国、台湾、韓国、日本がこぞって生産を増加したために、国際需給に問題が出ており、中国、台湾情勢に詳しい経営者は危機感を高めている。本稿の最初に述べたごとく、繊維の商売は気候

頼みの要素が極めて大きい。今年 1 年間、夏は暑く冬は寒く、季節の変わり目が早めに到来することを心から祈念して本稿の結びとする。

生機生産 供給~A 輸出~B 在庫増 推定内需

輸内比率 (生産統計) (染色加工統計) (通関実績) ~C (A-B-C) 数量 数量 前年比 数量 前年比 (染上品) 数量 (前年比) (内需比率) (輸出比率)

2001年 1,073,167 1,257,575 -6.3% 751,904 -3.4% -4,709 510,380 -10.3% 40.4% 59.6%2002年 943,685 1,131,869 -10.0% 697,828 -7.2% -6,947 440,988 -13.6% 38.7% 61.3%2003年 884,328 1,070,409 -5.4% 638,441 -8.5% -11,045 443,013 0.5% 41.0% 59.0%2004年 896,393 1,032,013 -3.6% 611,503 -4.2% 4,343 416,167 -6.1% 40.5% 59.5%2005年 855,325 1,010,114 -4.8% 584,378 -4.4% 354 407,254 -2.7% 41.1% 58.9%2006年 797,899 1,042,552 3.2% 601,337 2.9% -1,396 442,611 8.7% 42.4% 57.6%2007/1 64,068 84,731 7.4% 32,066 -11.3% 650 52,015 24.6% 61.9% 38.1%2007/2 66,821 83,710 4.2% 34,311 -20.7% 1,401 47,998 30.5% 58.3% 41.7%2007/3 69,496 90,164 4.6% 43,923 -2.9% -1,274 47,515 11.5% 52.0% 48.0%2007/4 67,721 89,512 3.0% 44,476 -17.2% -1,088 46,124 38.4% 50.9% 49.1%2007/5 66,397 88,149 -0.6% 49,161 0.0% -377 39,365 -3.3% 44.5% 55.5%2007/6 69,102 91,812 1.3% 59,775 -1.9% 296 31,741 5.8% 34.7% 65.3%2007/7 71,906 92,093 2.8% 56,164 -3.2% -1,827 37,756 22.9% 40.2% 59.8%2007/8 67,313 84,407 -4.1% 46,945 -5.3% 1,259 36,203 -3.3% 43.5% 56.5%2007/9 68,392 84,659 -4.9% 40,752 -14.1% -1,158 45,065 6.8% 52.5% 47.5%1~9月計 611,216 789,237 1.4% 407,573 -8.1% -2,118 383,782 14.4% 51.6% 48.4%

(注1)上記データは、タイヤコード織物を含まず。輸出には生機および先染織物輸出を含む。 (注2)年計は確定値、月別は確定前のデータであり、年計と月別の年合計に若干の差異がある。 出所:経済産業省「繊維生活統計月報」

単位:1,000㎡

図表 5 わが国合繊長繊維織物(後染)の出荷推移