腹膜垂炎  Epiploic  appendagi-s

山田　悠史  練馬光が丘病院　総合診療科

Clinical  Ques-on  2015/2/23  JHospitalist  Network

分野：消化器  テーマ：診断と治療

症例：  46歳女性【主訴】右下腹部痛  【既往歴】虫垂炎手術(10歳頃)  【現病歴】来院３日前から緩徐に発症、増悪する右下腹部に限局した持続性の腹痛が出現した。放散痛はなく、改善因子や増悪因子も明らかでなかった。発熱、嘔気、下痢、血便などはなかった。来院当日産婦人科クリニックを受診し、産婦人科疾患は否定的と言われたため、当院内科を受診した。  【身体所見】  体温36.5℃、脈拍80/分、血圧130/80mmHg、呼吸数16回、酸素飽和度98%（室内気）  腹部：平坦、右下腹部に治癒した手術創あり、腸蠕動音正常、McBurney点近傍に圧痛あり、同部位に反跳痛あり、筋性防御なし、肝脾腫なし

症例の続き

【血液検査】血算、生化学、肝酵素、CRPは全て正常範囲内  【尿検査】白血球反応、亜硝酸塩陰性、妊娠反応陰性  【腹部超音波】  明らかな異常を指摘できず  【腹部造影CT】  憩室炎や回盲部炎を疑ったが、腸管に異常なく、腸間膜脂肪織に限局性の濃度上昇あり  →腹膜垂炎と考えられた。  

Clinical  Ques-on

•  腹膜垂炎をどのような時に疑えばよいか？  

•  腹膜垂炎の治療は？  

腹膜垂って何？

全体で50-‐100個ある  と言われている。

Susan  S.  Gray’s  Anatomy  40th  edi-on,  Elsevier,  2008,  p.1138

腹膜垂炎とは？

•  良性の、自然軽快する疾患。  

•  腹膜垂がねじれたり、内部に自然な静脈血栓が生じることで陥る無菌性の虚血状態。  

•  診断の間違いにより、しばしば、不必要な入院、抗生剤投与、手術が行われる。

Am  J  Surg.  1998;176(1):81.

疫学

•  憩室炎が疑われた患者の7%、虫垂炎が疑われた患者の1%程度に含まれる。  

•  平均40歳前後で男性に多い。  •  約半数はS状結腸から直腸に起こる。  •  上行結腸は全体の9%。  •  肥満※と激しい運動がリスクファクター。  

 ※肥満の人は腹膜垂が長いことが知られている。  

Nat  Rev  Gastroenterol  Hepatol.  2011  Jan;8(1):45-‐9.  Epub  2010  Nov  23.

症状と身体所見

症状  •  急性から亜急性の持続性の下腹部痛。  •  まれに嘔吐、下痢、微熱。慢性経過もありうる。  

身体所見  •  全身状態は良好で典型的には熱なし。  •  腹部の限局した圧痛。  •  典型的には反跳痛なし。

Emerg  Radiol.  2004  Aug;11(1):9-‐14.  Epub  2004  Jul  6.

検査所見

•  白血球数、血沈、CRPはすべて正常であることが多い。  

Arch  Surg.  1985;120(10):1167.

診断は腹部CTで可能

Radiology.  1994;191(2):523.

結腸近傍に2-‐3cmで  卵円形の  脂肪織濃度上昇

治療

•  NSAIDsの１週間以内の内服で治癒。  

•  抗生剤は不要。  

•  保存的治療で症状改善がない場合に手術を考慮。

Dig  Dis  Sci.  2004  Feb;49(2):347-‐50.

経過•  3-‐14日間で治癒し、再発はまれ。  •  合併症に、腸重積や膿瘍形成（まれ）。  •  時に腹膜鼠を形成（添付画像参照）。

h^p://www.teramoto.or.jp/teramoto_hp/kousin/sinryou/gazoushindan/case/case137/index.html

Am  J  Gastroenterol.  1981;75(5):382.

Take  Home  Message

•  虫垂炎や上行結腸の憩室炎が疑われる患者の鑑別疾患に腹膜垂炎も挙げられる。  

•  腹膜垂炎の血液検査における異常はまれである。  

•  腹部CTで診断可能である。  

•  NSAIDsで治癒を得られることが多い。