誰でも手軽に情報モラル授業が行えるための指 導パッケージの ... ·...

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35実践研究助成───167 研究課題 誰でも手軽に情報モラル授業が行えるための導パッケージの開発 副題 学校名 倉敷市情報モラル教育を推進する会 所在地 713-8102 岡山県倉敷市玉島柏島1548 職員数/会員数 10学校長 滝澤 肇 研究代表者 森山 隆行 ホームページ アドレス http://www.kurashiki-oky.ed.jp/School/tamanishi-j/ 1.はじめに 児童生徒を取り巻く環境の変化は著しく、携帯電話の所持 率は高まる一方である。それに伴い、メールによる嫌がらせ、 学校裏サイトなどの掲示板サイトがきっかけとなるトラブル、 情報漏洩などといった問題に児童生徒が巻き込まれる危険性 も増加している。 このような現状の中、学校現場における“情報モラル教 育”の必要性を訴える声は急速に高まりつつあり、それに答 えるかのように新学習指導要領において、すべての校種に対 して情報モラルについての記載がなされた。 しかし、まだまだ学校現場における位置づけは決して高い とは言い切れず、十分な情報モラル授業を行っている学校は 多くないと思われる。その原因として、「何をどうしていい のかわからない」といった不安を抱える教員がいまだにたく さんいる点が考えられる。 このようなことを受けて、本研究グループでは昨年度本助 成をいただきながら、「効果的な情報モラル教育のためのワ ークショップ型授業」の開発を行った。教師が主体的に進め る授業に比べ、 ・禁止教育に陥りにくい。 ・生徒同士がコミュニケーションを取りながら問題事例を考 えることができる。 ・情報モラル授業が不得意な教員が気軽に授業を行うことが できる。 といった点で、効果を得ることができた。 しかし、児童生徒を取り巻く問題の多様化への対応や、よ り気軽に授業に取り入れるための工夫といった点においては 十分満足のいくレベルに達したとは言い難い。 そこで、より多くの事例に対応でき、誰にでも気軽に授業 に取り入れることのできる、授業パッケージを開発すること が必要であると考えた。 2.研究の目的 先にも述べたように、昨年度開発したワークショップ型授 業を、さらに多くの事例に対応できるように内容を充実させ ること、また、気軽に授業に取り入れるために必要な教材を 揃えた授業パッケージを開発することを本研究の目的とした。 また、事例を学年ごとに分類したものを作ることにより、 児童生徒の発達段階に応じた情報モラル授業が行える。さら に、学校全体での系統的な授業の実施や、学年間、教員間の 情報共有につながることも付随的な効果として期待した。 3.研究の方法 研究の手順を図1に示す。 本研究ではまず、指導モデ ルに用いる問題事例のビデ オ教材やデジタルコンテン ツの精選を行った。先にも 述べたが、この際に児童生 徒の発達段階を考慮するこ とに留意した。 次に、指導パッケージを テーマごとに作成し、授業 実践研究助成 中学校 ビデオコンテンツの精選 仮パッケージの作成 仮パッケージを用いた実践授業 授業分析 授業パッケージの完成 ビデオコンテンツの精選 仮パッケージの作成 仮パッケージを用いた実践授業 授業分析 授業パッケージの完成 図1 研究の手順

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Page 1: 誰でも手軽に情報モラル授業が行えるための指 導パッケージの ... · 2011-10-24 · 第35回 実践研究助成───167 中学校 研究課題 誰でも手軽に情報モラル授業が行えるための指

第35回 実践研究助成───167

中学校

研究課題

誰でも手軽に情報モラル授業が行えるための指導パッケージの開発

副題

学校名 倉敷市情報モラル教育を推進する会

所在地 〒713-8102

岡山県倉敷市玉島柏島1548

職員数/会員数 10名

学校長 滝澤 肇

研究代表者 森山 隆行

ホームページ アドレス http://www.kurashiki-oky.ed.jp/School/tamanishi-j/

1.はじめに

児童生徒を取り巻く環境の変化は著しく、携帯電話の所持

率は高まる一方である。それに伴い、メールによる嫌がらせ、

学校裏サイトなどの掲示板サイトがきっかけとなるトラブル、

情報漏洩などといった問題に児童生徒が巻き込まれる危険性

も増加している。

このような現状の中、学校現場における“情報モラル教

育”の必要性を訴える声は急速に高まりつつあり、それに答

えるかのように新学習指導要領において、すべての校種に対

して情報モラルについての記載がなされた。

しかし、まだまだ学校現場における位置づけは決して高い

とは言い切れず、十分な情報モラル授業を行っている学校は

多くないと思われる。その原因として、「何をどうしていい

のかわからない」といった不安を抱える教員がいまだにたく

さんいる点が考えられる。

このようなことを受けて、本研究グループでは昨年度本助

成をいただきながら、「効果的な情報モラル教育のためのワ

ークショップ型授業」の開発を行った。教師が主体的に進め

る授業に比べ、

・禁止教育に陥りにくい。

・生徒同士がコミュニケーションを取りながら問題事例を考

えることができる。

・情報モラル授業が不得意な教員が気軽に授業を行うことが

できる。

といった点で、効果を得ることができた。

しかし、児童生徒を取り巻く問題の多様化への対応や、よ

り気軽に授業に取り入れるための工夫といった点においては

十分満足のいくレベルに達したとは言い難い。

そこで、より多くの事例に対応でき、誰にでも気軽に授業

に取り入れることのできる、授業パッケージを開発すること

が必要であると考えた。

2.研究の目的

先にも述べたように、昨年度開発したワークショップ型授

業を、さらに多くの事例に対応できるように内容を充実させ

ること、また、気軽に授業に取り入れるために必要な教材を

揃えた授業パッケージを開発することを本研究の目的とした。

また、事例を学年ごとに分類したものを作ることにより、

児童生徒の発達段階に応じた情報モラル授業が行える。さら

に、学校全体での系統的な授業の実施や、学年間、教員間の

情報共有につながることも付随的な効果として期待した。

3.研究の方法

研究の手順を図1に示す。

本研究ではまず、指導モデ

ルに用いる問題事例のビデ

オ教材やデジタルコンテン

ツの精選を行った。先にも

述べたが、この際に児童生

徒の発達段階を考慮するこ

とに留意した。

次に、指導パッケージを

テーマごとに作成し、授業

実践研究助成

中学校

ビデオコンテンツの精選

仮パッケージの作成

仮パッケージを用いた実践授業

授業分析

授業パッケージの完成

ビデオコンテンツの精選

仮パッケージの作成

仮パッケージを用いた実践授業

授業分析

授業パッケージの完成

図1 研究の手順

Page 2: 誰でも手軽に情報モラル授業が行えるための指 導パッケージの ... · 2011-10-24 · 第35回 実践研究助成───167 中学校 研究課題 誰でも手軽に情報モラル授業が行えるための指

168───第35回 実践研究助成

を行う。そして、授業中の児童生徒の会話を柴田ら(1999)

のコミュニケーションカテゴリーを用い分析を行った。分析

については森山(2009)を参考にしていただきたい。

このように、分析を繰り返しながら、パッケージを完成さ

せることとした。

4.研究の内容

(1) 問題事例の精選

現代の児童生徒を取り巻く問題は非常に多様であり、すべ

ての問題を網羅することは当然のことながら困難である。そ

こで、研究グループ内で過去に直面した問題事例を出し合い、

その中で、一般的に適応しやすい事例に絞った結果、以下に

絞られた。

ア 携帯電話を利用する上でのルール(所持の際のルール)

イ 携帯電話を利用する上でのルール(利用の際のルール)

ウ 著作権、肖像権

エ 掲示板サイトへの書き込み

オ ブログの利用

カ メールによるトラブル

の6事例に対してパッケージを作成することとした(順不

同)。

(2) ビデオコンテンツの精選

授業パッケージの作成に用いるビデオコンテンツの精選に

ついては様々なものを用いることにした。昨年度のワークシ

ョップ型授業に用いた題材は、「事例で学ぶ Net モラル教

材」に限定し、その中の2題材を選んだが、「事例で学ぶ

Net モラル教材」を利用できない学校にも活用できるパッケ

ージづくりを目指したためである。

そこで、この度は「事例で学ぶ Net モラル教材」に加え、

全国の教育機関に無料配布された「春野家ケータイ物語」と、

NHK エンタープライズから発売されている DVD 教材を用い

ることにした。問題事例に対するビデオコンテンツは以下の

通りである。

ア 携帯電話を利用する上でのルール(所持のルール)

春野家ケータイ物語 第2話 「ケータイのルールを家

族で話し合い」

イ 携帯電話を利用する上でのルール(利用のルール)

NHK DVD 教材 ネット社会の落とし穴 第1話

「メールと依存症」

ウ 著作権、肖像権

春野家ケータイ物語 第5話 「情報を発信するのに守

ること」

エ 掲示板サイトへの書き込み

事例で学ぶ Net モラル教材 「掲示板を使うときには責

任を持って書き込もう」

オ ブログの利用

事例で学ぶ Net モラル教材 「私の日記なのに…」

カ メールによるトラブル

NHK DVD 教材 ネットいじめに向き合うために 第

2話 「匿名メール」

さらに、これらのビデオ教材を発達段階に適応する際に、

以下の点に着目して選定を行った。

小学高学年~中学1年生用については、携帯を今後所持す

る人数が増えるということ、他のビデオ教材よりも、低年齢

向けに作成されているという点から、ア、エを。

中学2年生用については、携帯所持率の増加に伴いメール

のやり取りが増えることが予測されるため、イ、カを。

中学3年生用については、携帯所持率がさらに増加し、使

用用途も多様化するとの考えからウ、オとした。

(3) 授業パッケージの内容

昨年度開発したワークショップ型授業では、ワークショッ

プに用いるワークシートと簡単な指導案だけであった。しか

し、学年で統一した授業を行う際、情報モラルの知識が豊富

な担任が授業をするクラスと、苦手な担任が授業をするクラ

スで授業内容に大きな隔たりが生じたのは事実である。

そこで、より統一感のある授業が実施できるよう、また、

苦手な教員でも手軽に授業に導入できるよう、授業パッケー

ジの内容を充実させる必要があった。研究グループで討議し

た結果、まず、ビデオコンテンツとキーシーン、ワークシー

ト、指導案が必要であると考えられたため、それらを仮パッ

ケージとし、授業実践を行った。授業風景を写真1に示す。

それぞれのテーマについ

て授業を行い、前述した

方法で分析を行った結果、

児童生徒のワークショッ

プは非常に活発に行われ

ていた。ここでは、授業

分析は目的ではないので、

結果は割愛させていただ

きたい。

しかし、授業を行った

教員から、より授業をし

やすくするために指導案

の工夫と、板書計画が必

要であるとの意見が多く

出たため、授業パッケー

ジのさらなる改良を行っ

た。

この作業を何度か繰り

返し、授業パッケージを

完成させた。

ここでは紙面の都合上、

携帯電話を利用する上で

のルール(所持のルー

ル)のパッケージを紹介

する。右の図2に指導案

を示す。先にも述べたよ

写真1 授業風景

図2 指導案

Page 3: 誰でも手軽に情報モラル授業が行えるための指 導パッケージの ... · 2011-10-24 · 第35回 実践研究助成───167 中学校 研究課題 誰でも手軽に情報モラル授業が行えるための指

第35回 実践研究助成───169

中学校

うに、情報モラルが苦手な教員にとっても見やすいように、

極力深入りせず、ポイントを絞る形でまとめた。また、授業

の流れについても「導入」「展開」「まとめ」の3つに分け、

それぞれに要する時間を示した。

次に図3に板書計

画を示す。本授業は、

ワークショップ型で

行う。本来ならば、

各グループで出た意

見を発表する時間な

どを取るのが理想で

あるが、それではワ

ークショップを行う

時間を短縮せざるを

得なくなるため、教員による板書によって、グループの意見

が紹介できるように工夫した。

これらによって、授業の狙いの共通理解が図れ、授業展開

や板書が統一されるだけでなく、ビデオコンテンツの視聴時

刻が統一されるという利点も得られる。このことについては、

特に DVD を使用する場合には重要となる。なぜならば、

DVD は各校に1枚しかないため、全クラスで同時使用する

場合、放送室から一斉に流さなければならない。今までこの

ようなケースの場合、授業開始から5分後に流すなどして、

合わせていたが、授業の流れの中で流したい場合には使えな

いのである。

意外な利点であるが、授業実践を行った中で、もっとも好

評だったのはこの点で

ある。

後に、ワークショ

ップに用いるワークシ

ートを図4に示す。こ

れについては、昨年度

から大幅な改良はなく、

それぞれのテーマにつ

いて小テーマを設定し

たのみにとどまった。

ワークショップ型授業

の進め方については森

山(2009)に詳しく記

載しているので、参考

にしていただきたい。

5.研究の経過 本研究では、上記したように、6つの問題事例に対応する

授業パッケージを開発した。その大きな目的は、より多くの

学校で、情報モラルの得意不得意に関わらず、取り入れても

らうことである。そのためには本授業パッケージを広く知っ

てもらう必要がある。

そのための活動として、岡山県総合教育センターの研修講

座に参加し、授業実践の様子や、授業パッケージを紹介した。

また、倉敷市の情報担当者会などでも紹介するなどの広報活

動に励んでいる。今後は、本研究論文を近隣の学校に配布す

るなどし、本授業パッケージをより多くの学校で活用してい

ただけるよう努めていきたい。

6.研究の成果と今後の課題

本研究では、児童生徒が主体となるワークショップ型授業

をより手軽に、また、学年ごとに統一で行うための授業パッ

ケージの開発を行った。情報モラルに不得手な教員にも授業

実践をしてもらい、そこから得られる意見などを元に改良を

加えていった結果、授業の準備に時間をかけず、手軽に導入

することができるパッケージができたことは大きな成果であ

る。

また、先にも述べたように、6つの問題事例に対応し、そ

れらを発達段階に応じて分類した結果、学年統一だけでなく、

学年が上がるにつれて段階的な情報モラル授業の実施が可能

になった。これにより、情報モラル授業があまり定着してい

ない学校への手助けとなれば幸いである。

今後は、本パッケージをより効果的に活用するために、学

校内での意思の統一が必要不可欠である。私は本年度転勤し、

現任校で情報モラル授業を行った際、学年間の情報交換が皆

無であったことに驚いた。このような問題に対応するために

も、校内研修を定期的に行い、授業パッケージの紹介や、授

業公開及び反省会、学年間の情報交換などを行うことが必要

である。そのための校内研修プログラムを整えていくことが、

当面の課題と考えている。

7.おわりに

本研究では、ワークショップ型の情報モラル授業を手軽に

導入するための授業パッケージの開発を行った。発達段階に

応じた事例について、児童生徒が主体となり、活発に討論し

ながら課題解決していくという、まったく新しい形の授業パ

ッケージができたという点において、大きな成果があったと

言える。今後は、このパッケージをより多くの学校で活用で

きるよう、さらなる普及啓発活動を行っていきたい。

参考文献

柴田好章、南部昌敏、中野靖夫、釜田聡、赤堀侃司

(1999)「学習者相互のコミュニケーション過程における内容

と機能の分析」、『上越教育大学研究紀要』18 巻2号、

p.901-916

森山隆行(2009)「効果的な情報モラル教育のためのワー

クショップ型授業の開発及び保護者への啓発」、『パナソニッ

ク教育財団平成 21 年度成果報告集』、p.156-158

図3 板書計画

図4 ワークシート