高機能アルマイト処理技術の開発...第15回熊本県工業大賞受賞...

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第15回 熊本県工業大賞 受賞 高機能アルマイト処理技術の開発 ~株式会社熊防メタル~ §1. はじめに 熊防メタルでは3種類の新しいアルマイト技術を自社開発した。 いずれも皮膜の硬さがビッカース硬度300(以降、数字の前 に”Hv”の記号を示し、Hv300のように表記する)以上の硬 質アルマイトで、硬度のみならずその他優れた特性を持ってお り、以下に紹介する。 §2. アルマイトとは? 最初にアルマイト処理の技術について簡単に説明する。 純アルミやアルミ合金(以降、アルミ と称する)を硫酸などの電解液中に浸 漬し、外部電源の陽極側に接続して電 解するとアルミの表面が酸化され、酸 化アルミの膜が生成する(右図参照)。 このアルミの酸化膜は単純にアルマイ ト呼ばれ、身近な例ではサッシの外枠 などに用いられている。またアルマイ トは、低硬度の普通皮膜と、高硬度の ①アルミ ②対極 ③電解液 ④外部電源 硬質皮膜に分けられ、後者を硬質アルマイトと呼ぶ。 §3. 開発の背景 熊防メタルでは主に機械装置部品の表面処理を行っており、お 客様より部品の長寿命化のため、磨耗しにくい硬い皮膜のご要 望が多く、今回の開発に繋がった。 技術の開発は、アルマイトに使用する電解液組成をはじめ、電 解液の温度や電解条件を検討することで実現できた。 最初に開発した技術は、硬度は従来同様だが皮膜の割れが無い 「イーマイトCL」、硬度を上げた「イーマイトSH」で、その 後さらに硬度を上げた「イーマイトUH」を開発した。

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Page 1: 高機能アルマイト処理技術の開発...第15回熊本県工業大賞受賞 高機能アルマイト処理技術の開発 ~株式会社熊防メタル~ 1. はじめに

第15回 熊本県工業大賞 受賞

高機能アルマイト処理技術の開発~株式会社熊防メタル~

§1. はじめに熊防メタルでは3種類の新しいアルマイト技術を自社開発した。いずれも皮膜の硬さがビッカース硬度300(以降、数字の前に”Hv”の記号を示し、Hv300のように表記する)以上の硬質アルマイトで、硬度のみならずその他優れた特性を持っており、以下に紹介する。

§2. アルマイトとは?最初にアルマイト処理の技術について簡単に説明する。純アルミやアルミ合金(以降、アルミと称する)を硫酸などの電解液中に浸漬し、外部電源の陽極側に接続して電解するとアルミの表面が酸化され、酸化アルミの膜が生成する(右図参照)。このアルミの酸化膜は単純にアルマイト呼ばれ、身近な例ではサッシの外枠などに用いられている。またアルマイトは、低硬度の普通皮膜と、高硬度の

①アルミ②対極③電解液④外部電源

① ②

硬質皮膜に分けられ、後者を硬質アルマイトと呼ぶ。

§3. 開発の背景熊防メタルでは主に機械装置部品の表面処理を行っており、お客様より部品の長寿命化のため、磨耗しにくい硬い皮膜のご要望が多く、今回の開発に繋がった。技術の開発は、アルマイトに使用する電解液組成をはじめ、電解液の温度や電解条件を検討することで実現できた。最初に開発した技術は、硬度は従来同様だが皮膜の割れが無い「イーマイトCL」、硬度を上げた「イーマイトSH」で、その後さらに硬度を上げた「イーマイトUH」を開発した。

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§4. クラックレス硬質アルマイト ~イーマイトCL~一般的な硬質アルマイトは、処理工程中の各処理液の温度差によるアルミの熱膨張の収縮にアルマイトが追従できず、クラックと呼ばれる皮膜の割れが発生する(写真右)。イーマイトCLは従来の硬質アルマイトと同等の硬度で、クラックの発生を無くした処理である(写真左)。このクラック部分は腐食の起点となるため、イーマイトCLは従来の硬質皮膜に比較し優れた耐食性を得ることができる。

§5. 超硬質アルマイト ~イーマイトSH~一般的な硬質アルマイトの硬度Hv350に対し、最大Hv500

を得ることができる超硬質アルマイトである。イーマイトCLにも言えることだが、これらの特性は従来の硬質アルマイトに比較し、皮膜の規則制に優れているためと推測している。

§6. 超硬質アルマイト ~イーマイトUH~’09年度「ものづくり補助金(試作開発等支援事業)」を受け開発した技術で、表面硬度をHv600まで高めており、これは焼入れ鋼の硬さに相当する。またCL同様クラックの発生も無く耐食性にも優れている。処理受託開始と同時に電子部品メーカー様の搬送用ローラーに採用頂き(右写真)、’11年の イーマイトUH処理した製品例

「中小企業優秀新製品・新技術大賞」の優秀賞を受賞した。

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§7. 今後の展開これらの自社開発したアルマイト技術については、当社のホー

ムページや展示会などを通じPRを行っている。各種イーマイト処理は、県外、九州外のお客様にもご採用頂いているが、まだまだ認知浸透は不十分で拡販の余地はあると考えられる。また、関西圏より東北部のお客様については、製品のやり取りに往復とも中1日を要し短納期対応が困難になるため、採用に消極的なられる場合もある。そのため当社では図面を頂き、近隣のお客様と協力し、加工⇒処理まで実施し納入する対応を行い、採用への推進を行っている。各種イーマイトの処理カタログを次ページ以降に示す。イーマイトCL、UHは硬度以外のメリットとして、優れた耐食性を示すことは前述の通りだが、それ以外の特性として、耐電圧にも優れている。硬度以外のこれらの特性を組合せることで、当社の主な取り扱い品である装置部品をはじめ、これまでアルミが使用されなかった部品や、他の市場への展開も期待できる。特に上述のような特性が改善できることで、これまでステンレスや鉄を使用していた部品をアルミに置き換えることができれば、単純にそれらの比重から1/3の部品の軽量化が可能になり、各部品が軽量化できれば、装置全体または製品の軽量化ができ、これらを輸送するためのエネルギーが削減できる。特に稼動部品が軽量化できれば、この動力エネルギーの削減、ランニングコストの低減に繋がると考えられ、今後もこのメリットを強調しながら、PRと拡販を図っていきたい。

株式会社熊防メタル(〒861-8037 熊本市東区長嶺西1-4-15)技術的なお問合せ:技術課,生産技術課 Tel:096-382-1340お見積りのご依頼:業務課,営業課 Tel:096-382-1302(代)熊防メタルホームページ(お問合せフォーム有) www.kb-m.co.jp

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