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第3回 市大センター病院・薬局間地域連携ワーキング 「肝機能関連の検査値」 横浜市立大学附属市民総合医療センター 薬剤部 外来化学療法室担当 薬薬連携担当 緩和薬物療法認定薬剤師・NST専門療法士 近藤 潤一 平成27年11月10ヨッチー

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第3回市大センター病院・薬局間地域連携ワーキング

「肝機能関連の検査値」

横浜市立大学附属市民総合医療センター

薬剤部

外来化学療法室担当

薬薬連携担当

緩和薬物療法認定薬剤師・NST専門療法士

近藤 潤一

平成27年11月10日

ヨッチー

当院で掲載する予定の検査値

WBC[白血球数]

Neu[好中球]

Hb[ヘモグロビン]

Plt[血小板数]

CK[クレアチンキナーゼ]

AST[アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ]

ALT[アラニンアミノトランスフェラーゼ]

T-Bil[総ビリルビン]

Cr[クレアチニン]

K[カリウム]

CRP[C反応性蛋白]

PT-INR[プロトロンビン時間-国際標準化]

Hb-A1c

Alb[アルブミン]

肝機能をチェックする目的

1. 肝障害患者の禁忌の回避または用量調節

2. 副作用による肝機能障害の早期発見と対処

薬剤性肝障害について発出された緊急安全性情報・安全性情報

商品名 症状

ソブリアート 高ビリルビン血症

ネクサバール 肝不全、肝性脳症

ユリノーム 劇症肝炎

リツキサン B型肝炎の再燃・増悪

パナルジン

重篤な肝障害オダイン

ノスカール

「警告」で肝機能検査が求められている薬剤(内服)

分類 一般名 主な商品名

解熱鎮痛薬 アセトアミノフェン カロナール

疼痛治療薬アセトアミノフェン・トラマドール

トラムセット

精神神経用薬 ペモリン ベタナミン

利尿薬 トルバプタン サムスカ

肺高血圧症治療薬 ボセンタン トラクリア

抗血小板薬 チクロピジン パナルジン

鉄キレート剤 デフェラシロクス エクジェイド

高尿酸血症治療薬 ベンズブロマロン ユリノーム

糖尿病治療薬 メトホルミン メトグルコ

「警告」で肝機能検査が求められている薬剤(内服)

分類 一般名 主な商品名

抗ウイルス薬

アデホビル ヘプセラ

エンテカビル バラクルード

シメプレビル ソブリアート

テノホビル テノゼット

ネビラピン ビラミューン

ラミブジン ゼフィックス

抗真菌薬テルビナフィン ラミシール

ボリコナゾール ブイフェンド

「警告」で肝機能検査が求められている薬剤(内服)

分類 一般名 主な商品名

抗悪性腫瘍薬

エベロリムス アフィニトール

クリゾチニブ ザーコリ

シロリムス ラパチムス

テガフール ティーエスワン、ユーエフティー

パゾパニブ ヴォトリエント

フルタミド オダイン

フルダラビン フルダラ

ホリナート ユーゼル、ロイコボリン

ラパチニブ タイケルブ

レゴラフェニブ スチバーガ

主な肝機能検査項目(市大センター病院 ver.)

検査項目 基準値範囲[単位]

特徴

ASTアスパラギン酸

トランスフェラーゼ

14~32[U/L]

• 肝臓や心臓の組織傷害により上昇する酵素

• 肝疾患(肝炎、肝硬変等)、肝機能障害、心筋梗塞等で高値を示す

ALTアラニンアミノ

トランスフェラーゼ

(男)11~45(女) 9~25

[U/L]

• 肝細胞破壊により増加する酵素• 肝疾患(肝炎、肝硬変等)、肝機能

障害で高値を示す• ASTより肝臓特異性が高い

T-Bil総ビリルビン

0.4~1.8[mg/dL]

• HGBの異化産物、胆汁色素の主成分• 肝胆道系疾患(黄疸等)、溶血性貧

血で高値

ALPアルカリホスファターゼ

109~312[U/L]

• 肝胆道系疾患、骨腫瘍、妊娠時に高値を示す

※ 基準値範囲は、施設、測定法、検査機器等で異なることがある

肝機能検査値の活用法

・禁忌の回避

・投与量の確認

・薬剤性肝障害の早期発見フィードバック

・副作用発現時の早期受診の促進

服薬指導時

処方監査時

禁忌の回避にむけて

一般的に

・AST・ALTが基準値の2倍・ALP・T-Bilが基準値上限 を超える

肝機能障害が疑われる

そんな時は

CTCAE(有害事象共通用語基準)を利用肝機能障害の重症度を推定しましょう

肝機能障害の重症度分類(市大センター病院 ver.)

検査項目(正常範囲)

[単位]

肝機能障害の重症度

Grade1(軽度)

Grade2(中等度)

Grade3(重度)

Grade4(生命を脅かす)

AST(14~32)

[U/L]

32~96 96~160 160~640 640<

ALT(9~25)

[U/L]

25~75 75~125 125~500 500<

T-Bil(0.4~1.8)

[mg/dL]1.8~2.7 2.7~5.4 5.4~18 18<

ALP(109~312)

[U/L]

312~780 780~1,560 1,560~6,240 6,240<

Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) ver.4.0 を参考に一部改変

薬剤性肝障害・肝疾患時の血液検査の変動

薬剤性肝障害慢性肝炎 肝硬変

肝細胞障害型 胆汁うっ滞型

AST↑↑ →/↑ ↑ ↑

ALT

ALP →/↑ ↑ ↑ ↑

T-Bil 高度障害で↑ ↑ ↑ ↑

プロトロンビン時間 ― ↑

血小板数 ― ↓ ↓↓

白血球数 ↑(アレルギー性を示唆) ― ↓

自覚症状 軽度 中等度~高度 ― ―

薬剤性肝障害の自覚症状

頻度が高い

全身症状 倦怠感、発熱、黄疸など

消化器症状 食欲不振、悪心、嘔吐、腹痛など

皮膚症状 発疹、蕁麻疹、掻痒感など

初期症状に多い

用量調節のための肝機能指標

肝機能低下時の薬物排泄能を反映する指標は確立されていない

PK変化と相関性の高い肝機能指標を

明確にするのは困難(米国FDA)

Child-pughスコアによる重症度分類

を指標にしてもよい(米国FDA)

肝硬変の診断用いる急激な肝機能の変化は反映しにくい

薬剤性肝障害の自覚症状

(検査)項目スコア(ポイント)

1 2 3

肝性脳症 なし 1,2度(軽度)

3,4度(時々昏睡)

腹水 なし 少量 中等度

T-Bil <2 2~3 3<

Alb 3.5< 2.8~3.5 <2.8

プロトロンビン時間(いずれかの指標で評価)

延長時(秒) <4 4~6 6<

活性値(%) 70< 40~70 <40

INR <1.7 1.7~2.3 2.3<

Child-Pughスコア

日本肝癌研究会編「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 2009年6月(第5版補訂版)」(金原出版)より一部改変

【各項目のスコア合計値による肝機能障害の重症度分類】

5~6:分類A(軽度) 7~9:分類B(中等度) 10~15:分類C(重度)

肝機能をチェックする目的

1. 肝障害患者の禁忌の回避または用量調節

2. 副作用による肝機能障害の早期発見と対処

肝障害患者の禁忌の回避または用量調節

2015/11/11 37歳 男性(仮想症例)消化器病センター

高コレステロール血症と診断

リピトール錠10mg 1錠 1日1回朝食後14日分

検査項目 WBC Neu HGB PLT AST ALT T-Bil

検査値 5300 2250 14.1 26.7 124 111 1.2

検査項目 CK Cr K CRP PT-INR HbA1c Alb

検査値 72 0.77 4.0 0.2 1.05 5.7 4.0

肝障害患者の禁忌の回避または用量調節

検査項目(正常範囲)

[単位]

肝機能障害の重症度

Grade1(軽度)

Grade2(中等度)

Grade3(重度)

Grade4(生命を脅かす)

AST(14~32)

[U/L]

32~96 96~160 160~640 640<

ALT(9~25)

[U/L]

25~75 75~125 125~500 500<

T-Bil(0.4~1.8)

[mg/dL]

1.8~2.7 2.7~5.4 5.4~18 18<

ALP(109~312)

[U/L]

312~780 780~1,560 1,560~6,240 6,240<

肝機能障害の重症度分類(市大センター病院 ver.)

Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) ver.4.0 を参考に一部改変

肝障害患者の禁忌の回避または用量調節

2015/11/11 37歳 男性(仮想症例)消化器病センター

高コレステロール血症と診断

リピトール錠10mg 1錠 1日1回朝食後14日分

検査項目 WBC Neu HGB PLT AST ALT T-Bil

検査値 5300 2250 14.1 26.7 124 111 1.2

検査項目 CK Cr K CRP PT-INR HbA1c Alb

検査値 72 0.77 4.0 0.2 1.05 5.7 4.0

肝機能障害はGrade2に相当中等度肝機能障害の状態と考えられる。

肝障害患者の禁忌の回避または用量調節

肝障害患者の禁忌の回避または用量調節

2015/11/11 37歳 男性(仮想症例)消化器病センター

高コレステロール血症と診断

リピトール錠10mg 1錠 1日1回朝食後14日分

検査項目 WBC Neu HGB PLT AST ALT T-Bil

検査値 5300 2250 14.1 26.7 124 111 1.2

検査項目 CK Cr K CRP PT-INR HbA1c Alb

検査値 72 0.77 4.0 0.2 1.05 5.7 4.0

中等度肝機能障害の状態と考えられるため、初期投与量を5mg1錠へ減量しては

どうかと医師に疑義照会

肝機能障害はGrade2に相当中等度肝機能障害の状態と考えられる。

肝機能をチェックする目的

1. 肝障害患者の禁忌の回避または用量調節

2. 副作用による肝機能障害の早期発見と対処

副作用による肝機能障害の早期発見と対処

201●/03/28 72歳 女性乳腺甲状腺外科

乳癌患者 疼痛目的にて入院中

入眠障害の訴えありセロクエル錠25mg 1錠 1日1回寝る前

を処方提案し開始となった。

検査項目 WBC Neu HGB PLT AST ALT T-Bil

検査値 3500 1900 11.0 22.7 13 23 0.2

検査項目 CK Cr K CRP PT-INR HbA1c Alb

検査値 65 0.43 3.7 0.1 1.03 4.8 3.2

副作用による肝機能障害の早期発見と対処

201●/04/01 73歳 女性乳腺甲状腺外科

乳癌患者 疼痛目的にて入院中

セロクエル錠25mg 1錠 1日1回寝る前3日間内服

軽度の倦怠感の訴えあり

検査項目 WBC Neu HGB PLT AST ALT T-Bil

検査値 4200 1700 10.9 22.0 238 192 1.2

検査項目 CK Cr K CRP PT-INR HbA1c Alb

検査値 45 0.45 4.0 0.3 1.12 4.8 3.1

肝機能障害はGrade2~3に相当肝細胞障害型の肝障害が出現したと考えられる。

主な起因薬と肝機能障害発現までの期間(参考)

種 類 肝障害発現までの期間※

健康食品 70日(30,216)

抗菌薬 13日(6,22)

精神神経科用薬 30日(15,87)

解熱・鎮痛・抗炎症薬 13日(7,46)

漢方薬 76日(20,105)

OTC 11日(4,20)

消化器用薬 37日(19,96)

造血・血液凝固系薬剤 70日(21,95)

痛風・高尿酸血症治療薬 90日(54,110)

※中央値(25%点,75%点)

多くの薬剤性肝障害は服用開始後60日以内に起こることが多い。

滝川一,他:薬物性肝障害の最近の動向―2002~2006年の366例の検討.肝臓,48(10):517-521,2007 より引用改変

副作用による肝機能障害の早期発見と対処

201●/04/01 73歳 女性乳腺甲状腺外科

乳癌患者 疼痛目的にて入院中

セロクエル錠25mg 1錠 1日1回寝る前3日間内服

軽度の倦怠感の訴えあり

検査項目 WBC Neu HGB PLT AST ALT T-Bil

検査値 4200 1700 10.9 22.0 238 192 1.2

検査項目 CK Cr K CRP PT-INR HbA1c Alb

検査値 45 0.45 4.0 0.3 1.12 4.8 3.2肝機能障害はGrade2~3に相当

肝細胞障害型の肝障害が出現したと考えられる。セロクエルによる薬剤性肝障害の可能性あり。被疑薬の中止および代替薬への変更を提案。

Take Home Message

肝機能検査値を理解・評価し、日常の薬剤管理業務に御活用ください。

肝機能検査値を確認して、安全な薬剤管理および副作用の早期発見を御願い申しあげます。

患者情報を薬局および病院間で共有することで、患者さんにより質の高い医療を提供してきましょう。