入院前から退院後までの地域の現状...

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特集 病院紹介 当院は,埼玉県の二次保健医療圏におけ る,人口約78万人を有する西部地区の狭山 市にある。1987年4月1日に開院した当院 は,断らない医療を基本理念として,救急 医療を軸とした急性期医療を提供する地域 医療支援病院である。2003年に外来を分離 し,隣接するクリニックが一般外来の機能 を果たしている。一方病院は,救急医療と 入院治療の機能に特化し,急性期治療を必 要とする患者を積極的に受け入れている。 2017年11月に増床新築移転し,現在は高 度急性期および一般急性期医療を提供する ICU12床,CCU10床,HCU17床,一般急性 期病床(7対1)351床と,亜急性期医療 などを提供する回復期リハビリテーション 病棟40床,緩和ケア病床20床の計450床を 有する病院となった。また,移転後には4 つのセンター(ER総合診療センター,低侵 襲脳神経センター,心臓血管センター,入 退院センター)が開設された。ER総合診療 センターは,ドクターカーやドクターヘリ ポート機能を持つ救急部門として生まれ変 わり,低侵襲脳神経センター,心臓血管セ ンター,入退院センターには新たに外来が 新設された。 高齢化を背景に,地域包括ケアシステム の構築が推進され,医療提供の中心が病院 から在宅へと変化している。その中で当院 の役割は,急性期治療を必要としている患 者を迅速に受け入れ,集中的に治療を行 い,安心して退院後の生活ができるような 支援体制を地域と共に構築することである と考える。そのためには,在宅療養を支援 する場である外来からの入退院支援マネジ メントが重要となる。そこで本稿では,新 病院移転に伴い当院が取り組んだPFM (Patient Flow Management)による入退院 支援における外来看護について,入退院セ ンター副センター長の立場から紹介する。 PFMによる 入院前から退院後までの 支援における 外来看護の役割 社会医療法人財団石心会 埼玉石心会病院 入退院センター 副センター長 看護副部長(地域連携担当) 認定看護管理者  小林比呂子 1989年防衛医科大学校高等看護学院卒業,防衛医科大学校病院勤 務。1996年埼玉石心会病院入職。外科病棟,救急外来, ICU・CCU, 循環器病棟を経験。循環器病棟主任,救急外来・回復期リハビリテー ション病棟科長を経て,2016年より現職。2018年4月より入退院セ ンター副センター長を兼務。2019年認定看護管理者の資格を取得。 病院概要(2018年度実績) 病床数:450床(急性期病床390床〈ICU12床,CCU10床, HCU17床〉,回復期リハビリテーション病床40床,緩和ケ ア病床20床) 診療科数:31科 指定施設:地域医療支援病院,臨床研修指定病院(基幹型), 埼玉県がん診療指定病院,救急告示医療機関,第二次救急 医療輪番制病院ほか 施設基準:急性期一般入院基本料1,超急性期脳卒中加算, 特定集中治療室管理料3,ハイケアユニット入院医療管理 料1,緩和ケア病棟入院料1,回復期リハビリテーション病 棟入院料1 職員数:医師115人,看護職員540人,事務・コメディカルほか 254人 1日平均入院患者数:400.5人 平均病床利用率:91.3% 平均在院日数:14.1日(全病棟含む) 救急車受け入れ台数:8,061台 継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1 003

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  • 病院の顔を明るくする!

    外来看護マネジメント実践事例集

    特集1

    病院紹介

     当院は,埼玉県の二次保健医療圏におけ

    る,人口約78万人を有する西部地区の狭山

    市にある。1987年4月1日に開院した当院

    は,断らない医療を基本理念として,救急

    医療を軸とした急性期医療を提供する地域

    医療支援病院である。2003年に外来を分離

    し,隣接するクリニックが一般外来の機能

    を果たしている。一方病院は,救急医療と

    入院治療の機能に特化し,急性期治療を必

    要とする患者を積極的に受け入れている。

     2017年11月に増床新築移転し,現在は高

    度急性期および一般急性期医療を提供する

    ICU12床,CCU10床,HCU17床,一般急性

    期病床(7対1)351床と,亜急性期医療

    などを提供する回復期リハビリテーション

    病棟40床,緩和ケア病床20床の計450床を

    有する病院となった。また,移転後には4

    つのセンター(ER総合診療センター,低侵

    襲脳神経センター,心臓血管センター,入

    退院センター)が開設された。ER総合診療

    センターは,ドクターカーやドクターヘリ

    ポート機能を持つ救急部門として生まれ変

    わり,低侵襲脳神経センター,心臓血管セ

    ンター,入退院センターには新たに外来が

    新設された。

     高齢化を背景に,地域包括ケアシステム

    の構築が推進され,医療提供の中心が病院

    から在宅へと変化している。その中で当院

    の役割は,急性期治療を必要としている患

    者を迅速に受け入れ,集中的に治療を行

    い,安心して退院後の生活ができるような

    支援体制を地域と共に構築することである

    と考える。そのためには,在宅療養を支援

    する場である外来からの入退院支援マネジ

    メントが重要となる。そこで本稿では,新

    病院移転に伴い当院が取り組んだPFM

    (Patient Flow Management)による入退院

    支援における外来看護について,入退院セ

    ンター副センター長の立場から紹介する。

    PFMによる 入院前から退院後までの支援における 外来看護の役割

    社会医療法人財団石心会

    埼玉石心会病院入退院センター 副センター長看護副部長(地域連携担当)

    認定看護管理者 小林比呂子1989年防衛医科大学校高等看護学院卒業,防衛医科大学校病院勤務。1996年埼玉石心会病院入職。外科病棟,救急外来,ICU・CCU,循環器病棟を経験。循環器病棟主任,救急外来・回復期リハビリテーション病棟科長を経て,2016年より現職。2018年4月より入退院センター副センター長を兼務。2019年認定看護管理者の資格を取得。

    ◆病院概要(2018年度実績)病床数:450床(急性期病床390床〈ICU12床,CCU10床,

    HCU17床〉,回復期リハビリテーション病床40床,緩和ケア病床20床)

    診療科数:31科指定施設:地域医療支援病院,臨床研修指定病院(基幹型),

    埼玉県がん診療指定病院,救急告示医療機関,第二次救急医療輪番制病院ほか

    施設基準:急性期一般入院基本料1,超急性期脳卒中加算, 特定集中治療室管理料3,ハイケアユニット入院医療管理料1,緩和ケア病棟入院料1,回復期リハビリテーション病棟入院料1

    職員数:医師115人,看護職員540人,事務・コメディカルほか254人

    1日平均入院患者数:400.5人平均病床利用率:91.3%平均在院日数:14.1日(全病棟含む)救急車受け入れ台数:8,061台

    継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1 003

  • 地域の現状

     当院が立地する二次医療圏内には,46の

    病院(うち200床以上の病院は8施設)が

    ある。このうち特定の医療機能を有する病

    院として,2つの大学病院と2つの地域医

    療支援病院が設置されている。将来人口の

    見通しでは,2025年には2013年と比べて

    4.4%減少することが予測されている一方

    で,75歳以上の人口の割合は10.8%から

    18.8%と増加が見込まれており,急速に高

    齢化が進む地域である。

     主疾患別では,悪性新生物112.6%,心

    筋梗塞を含む循環器系疾患137.5%,脳卒

    中を含む神経系疾患140.1%,肺炎173.6%,

    大腿骨頸部骨折207.9%の増加が見込まれ,

    増悪と改善を繰り返す慢性疾患への対応が

    必要となる。また,病床機能別に見ると,

    高度急性期から急性期病床はほぼ充足され,

    「治す医療」は満たされている。一方で,

    回復期機能や慢性期機能を担う病床が不足

    しており,特に地域包括ケア病床が不足し

    ている1)。

    当院の外来における看護の概要

     当院は,前述した4つのセンターの紹介

    患者(救急を含む)を受け入れ,クリニッ

    クがそれ以外の診療科の紹介患者の診療を

    行っている。そのほか,内視鏡室,放射線

    治療室,外来化学療法室が外来エリアの業

    務となる。当院の地域医療機関からの紹介

    率は71.7%,逆紹介率は94.1%であり,地

    域からの紹介患者は積極的に地域のかかり

    つけ医に戻すという方針である。外来にて

    抗がん剤治療を受ける患者は年々増加傾向

    にあり,1カ月200件ほど行っている。また,

    ER総合診療センターでは365日24時間体制

    で1カ月約2,200人の救急患者を受け入れ

    ており,救急車応需率は99%である。緊

    急入院患者と予約入院患者の割合は,おお

    よそ1対1である。

     当院の外来看護体制は,低侵襲脳神経セ

    ンター外来と心臓血管センター外来は病棟

    と一元管理しており,継続看護の充実や,

    病棟と外来が業務連携を組む上で大きなメ

    リットとなっている。また,ER総合診療セ

    ンターは内視鏡室と放射線室を包含し,救

    急で受けた患者の検査や脳血管・循環器な

    どの専門治療が短時間で円滑に実施できる

    体制を常に準備している。そして,外来化

    学療法室には乳がん看護認定看護師や院内

    認定IVナースを取得した専従の看護師を

    配置し,外来や病棟で化学療法が安心・安

    全に受けられる体制を整えている。

    PFM機能を持つ入退院センターをハブとした看護実践

    入退院センター設置までの経緯 PFMとは,東海大学医学部付属病院が考

    案した,患者の入院コーディネート・ベッ

    ドコントロール・退院支援/退院調整など

    の入退院マネジメントを強化する手法であ

    る。切れ目のない医療を実現するために,

    現在では多くの施設で取り入れられている。

     当院の退院調整の沿革をたどると,1994

    継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1004

  • 年に看護部内に「ディスチャージ」(現・

    入退院調整)部署を設立し,入院から始ま

    る退院調整として先駆的に取り組んできた。

    設立当時は部署に看護師2人を配置し,主

    たる業務はベッドコントロールと退院調整

    であった。この背景を受け,PFMという概

    念は,新しい取り組みというより機能を拡

    充していくものととらえられた。

     そのきっかけとなったのは,2016年6月

    に349床(旧病院の病床数)のうち58床を

    回復期病床へ転換したことである。これに

    より急性期病床が減少し,病床管理と退院

    調整のさらなる強化が必要となった。そこ

    で,現看護部長(当時副部長)が,救急医

    療を行いながら以前と同じように“ベッド

    のやりくりをする”すなわち病床を管理す

    るためには,在院日数の短縮化は必須であ

    り,全職種で取り組む必要があると各部門

    の管理者へ訴えた。そして,看護部では地

    域連携担当の看護副部長(筆者)を配置し,

    緊急入院患者への対応も網羅した,当院に

    おけるPFMの再構築に取り組んだ(図1)。

    運用開始当初は入退院調整部署による介入

    が中心であったが,PFMの必要性が理解さ

    れはじめると,救急外来やクリニックの看

    護師による退院支援の介入が増え,早期介

    入につなげられるようになってきている。

    入退院センターの概要と役割 当院では,新病院移転後の高度急性期,

    一般急性期,回復期,緩和ケア病床の機能

    を最大限に活かすため,PFMによる入退

    院支援の位置づけがさらに重要となった。

    そこで2018年4月,在宅復帰に向けた早期

    からの退院支援/退院調整,病床の効率的

    な運用,患者サービスの向上を目的に,院

    長直下の部門として入退院センターが設置

    された。

     組織化されたことで,それぞれの職種が

    保有する知識や経験を融合させ,病院内の

    異なる職種間の連携だけでなく,地域の医

    療機関,介護福祉施設や行政機関など,異

    なる機能間のより密な連携が可能になった

    と考える。構成メンバーは,センター長を

    地域連携担当副院長,副センター長を腎臓

    内科部長と地域連携担当看護副部長が務

    め,入退院調整専従看護師,医療ソーシャ

    ルワーカー(以下,MSW),救急救命士,

    地域医療連携室事務職員が配置された。そ

    予定入院(クリニック)(センター外来)

    外来受診

    緊急入院(病院)

    入院待ち期間救急外来受診

    治療 退院準備在宅施設病院

    入院 退院 退院後訪問

    PFM

    入院決定

    図1 当院におけるPFM

    継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1 005

  • して,2019年4月に「地域医療連携室」「入

    退院支援室」「総合支援室」の3室に組織

    再編され,協働しながら組織横断的に活動

    している(図2)。

     入退院センターは1階フロアにあり,移

    転前に見学した伊勢赤十字病院の患者支援

    センターを参考にした構造となっている。

    入院手続きを行う受付カウンターが6つ,

    面談室が3室,相談室が1室設置されてお

    り,その裏のフロアに,前述の3室のスタッ

    フが業務するスペースが設けられている

    (図3)。入退院支援にかかわる職種が同じ

    フロア内に集約されているため,困った時

    にすぐ誰かに声をかけることができ,相談

    しやすい環境となっている。▲

    運用方法地域医療連携室による実践

     「地域医療連携室」は,前方連携を主と

    した医療連携と広報業務を担っている。平

    日は地域医療連携室事務職員6人が配置さ

    れており,紹介患者の診療コーディネート

    を行っている。日曜・祭日・夜間は,EMT

    課(救急救命士)がその役割を担い,24時

    間体制で応需できるようにしている。また,

    EMT課は医師に代わり,当院に空床がない

    (適応ベッドがない場合を含む),高次医療機

    関での治療が必要などの理由で救急外来か

    らほかの医療機関へ直接転院するケースの

    調整業務も担っている。

     このように,長年の前方連携で培われた

    信頼関係を後方連携強化に役立てている。

    一例として,主に一般病床と地域包括ケア

    病床を有する後方医療機関の空床情報を毎

    日連絡してもらい,転院調整に活用してい

    ることが挙げられる。

    入退院センター

    •紹介患者の診療コーディネート

    •患者の受診報告・逆紹介•地域医療機関への広報活動

    地域医療連携室•ベッドコントロール•退院支援,退院調整•入院前準備サポート

    入退院支援室•社会保障制度,福祉制度についての相談•医療費や生活費など経済的な相談•がんの診断から治療までの療養生活にわたる相談

    総合支援室

    図2 入退院センターの構成

    図3 入退院センターの見取り図

    継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1006

  • 入退院支援室による実践

     「入退院支援室」は,ベッドコントロー

    ルによる患者受け入れ機能強化,後方連携

    を主とした転院・退院調整業務,入院前準

    備サポート業務を担っている。入退院調整

    部署が担当窓口となり,MSWと協働しな

    がら運用している。看護師長1人,看護師

    7人,MSW7人が配置されている。

    ①ベッドコントロール

     ベッドコントロールは,入退院支援室の

    看護師長が担っている。土日・祭日・夜間

    はその他の看護師長が行っている。当院で

    は各病棟で主要な診療科は決まっているが,

    全病棟混合化で運用している。急性期治療

    が必要な患者を迅速に受け入れるためには,

    空床を確保することが不可欠であり,入院

    を必要とする患者に対し適切な療養環境を

    確保するため,いつ・どこの病棟のベッド

    が空くかを把握し,調整することが必要で

    ある。そのためには,空床情報だけでなく,

    患者の回復過程や治療経過を把握し,今後

    を予測して必要な対策を行い,退院の流れ

    を停滞させることなく管理することが求め

    られる。入退院支援室の看護師長を中心に

    看護部主導でベッドコントロールを行う意

    義が,この点にあると考える。

    ②転院・退院調整

     入退院支援室のスタッフは,入院から48

    時間以内に病棟看護師が行った退院支援ス

    クリーニングを確認して退院調整介入の必

    要性を判断し,7日以内に病棟看護師とカ

    ンファレンスを行っている。そして,病棟

    看護師と共に退院支援計画を立案し,実践

    につなげている。また,退院後訪問のほか,

    クリニック外来看護師や訪問看護師などか

    らのフィードバックを通して,自分たちが

    行った支援の評価につなげている。

     2019年度からは,転院・退院調整におい

    て,担当者が不在でもチームで補完できる

    こと,MSWと看護師のコミュニケーション

    を促進することを目的として,チーム協働

    型支援体制を導入した。これは,入退院支

    援室のスタッフである入退院調整看護師と

    MSWが2つのチームに分かれてペアを組

    み,担当部署の退院支援リンクナース(副

    看護師長)と連携しながら退院支援を行う

    体制である(図4)。

    ③入院前準備サポート

     現在,当院の入院患者のうち,75歳以上

    の占める割合は63%である。外来・入院患

    入退院調整看護師リーダースタッフ

    MSW

    リーダースタッフ

    Aチーム

    入退院調整看護師リーダースタッフ

    MSW

    リーダースタッフ

    Bチーム

    入退院支援室

    退院調整依頼

    病棟退院支援リンクナース

    病棟退院支援リンクナース

    図4 チーム協働型支援体制

    継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1 007

  • 者の高齢化により,疾病そのものの

    治療だけでなく,独居や老老介護な

    ど在宅復帰に向けてのさまざまな問

    題があり,対応が難しくなっている。

    一方で,入院期間を短縮するため,

    手術当日や前日の入院が増えている。

    そのため,病棟看護師が行う看護展

    開は早くなり,患者の情報収集から

    退院支援までの負担が増している現

    状にある。

     そこで,入退院センターでは2018

    年8月から,心臓血管センター外来か

    らの予定入院患者および周術期外来

    を利用する患者の入院前準備サポー

    トを開始した。目的は,外来業務の

    スリム化によるワンストップサービ

    スの実現と,入院に伴うリスクの抽

    出である。

     医師からの入院前指示書を基にメ

    ディカルクラークが検査予定を組み

    立て,必要書類一式を準備する。そ

    して,業務フローに沿って,予定入

    院患者に対して患者の基本情報収集

    や退院支援スクリーニングとアセス

    メント,検査や手術のオリエンテー

    ション,入院に伴う説明,持参薬の

    鑑別・中止薬の説明などを,多職種

    で分担して行っている(図5)。周

    術期外来では,麻酔科医と手術室看

    護師が診察と問診を行いながら,麻

    酔や手術に伴うリスクを把握し,手

    術を受けるまでの流れ,術前の注意

    総合クリニック

    病院 周術期外来

    病院 PFM外来

    外科医

    術前検査指示

    周術期外来予約

    術前検査予約

    常用薬の確認 術前中止薬の説明薬剤師

    入退院センター(事務) 各面談室に案内

    ①入院に伴う各種案内(入院誓約書・室料・支払いなど)②アメニティセットの説明

    事務 各階中央受付

    外来受付病院

    会計事務 1階総合受付

    X-P,スパイロ,心エコー,採血,歯科 など

    クリニック 入院(手術)決定

    常用薬の確認 術前中止薬の説明薬剤師

    問診,フィジカル手術室看護師

    DVD説明手術室看護師

    総合評価麻酔科

    ALB3.0以下の患者に介入栄養士

    会計外来受付

    ●①入院アナムネ●②病棟オリエンテーション●③検査・手術オリエンテーション●④入院時リスク評価

    入退院センター看護師

    不明な点の再確認●①入院に伴う各種案内(入院誓約書・室料・支払いなど)●②アメニティセットの説明

    入退院センター(事務)

    *介入の有無は,栄養士が前日10時までに手術室クラークに連絡

    *手術困難と判断した場合,PFMの介入はせず,帰宅

    *クリニックにて介入していない場合に介入

    図5 周術期外来+入院準備サポートの流れ

    継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1008

  • 事項などについて説明を行うことで,患者

    本人が住み慣れた自宅で手術に向けての準

    備ができるようにしている。

     入退院調整看護師は,予約入院患者だけ

    でなく,退院支援の必要性が高いと判断し

    た緊急入院患者に対しても,可能な限り入

    院当日に患者・家族と面談し,情報収集を

    行っている。これは,入退院センターの看

    護師長がベッドコントロールを行っている

    ため,緊急入院患者の情報をタイムリーに

    入退院調整看護師に連絡することで可能と

    なっている。また,病棟からの退院調整の

    介入依頼がなくても,早期介入の必要な患

    者の情報を入退院支援室内で把握すること

    にもつながっている。

     さらに,入退院調整看護師が退院支援を

    念頭に置いてかかわることで,患者・家族

    の病気や治療に関する理解度や退院後の生

    活のイメージを確認することができ,必要

    な支援を早期から開始することにつながる

    と考えている。これは,突然の入院で不安

    を抱く家族のそれぞれの思いを表出しても

    らい,今後のことを一緒に考え・相談でき

    る場にもなると考える。そして,病棟看護

    師にその思いを伝えることで,外来-病棟の

    継続した看護につなげることが期待できる。

    総合支援室による実践

     「総合支援室」は,社会福祉制度やがんな

    どの相談業務の機能を担っている。MSW

    が担当窓口となって運用しており,相談内

    容によっては入退院調整看護師,緩和ケア

    認定看護師,外来化学療法室看護師などと

    連携を取っている。救急外来看護師が退院

    支援の介入を行うようになり,救急外来か

    らの相談件数が増えている。救急外来を受

    診する患者は,独居高齢者や身寄りのない

    人,生活困窮者など,社会背景の複雑な人

    が多い。入院する患者はもちろんのこと,

    帰宅する患者においても行政や地域包括支

    援センターと連携を取った方がよいケース

    や,経済的な理由で治療を拒否するケース

    などのソーシャルハイリスク患者の情報を

    いち早く把握することで早期介入が可能と

    なり,在宅療養の基盤となる生活を整える

    支援につながっていると考える。

    今後の課題と展望

     高齢化を背景に地域包括ケアシステムの

    構築が推進され,医療提供の中心が病院か

    ら在宅へと変化している。入院期間が短縮

    され,外来では病状説明や病名告知,治療

    の選択をするインフォームド・コンセント

    が日常的に行われている。また,救急の場

    面では,病状説明と同時に治療の選択を迫

    られることがあり,この時に選択した治療

    によっては,患者・家族の生活の質や療養

    場所の選択に影響する可能性を秘めてい

    る。そのため,医師が病態予測・治療の状

    況を踏まえて説明する場面における看護師

    のかかわりは重要であり,外来看護の役割

    の一つと言える。

     宇都宮は2),外来通院中からその人が望

    む暮らしの場で生活し続けることを支援す

    るために,「地域居住の継続(aging in place)

    継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1 009

  • を可能にするために何が必要か考え,マネ

    ジメントしていく」と述べている。高齢患

    者,心不全や慢性閉塞性呼吸器疾患などの

    慢性疾患患者らは,退院後も老いや病気に

    よる生活のしづらさと共に生きること,生

    活することが求められる。看護師が入退院

    時だけでなく,在宅療養を支える外来の時

    点から,病気や治療が生活に及ぼす影響に

    ついて補足説明を行い,共に考えることで,

    患者・家族は主体的に病気と向き合い,受

    けたい治療やケアについて自己決定しやす

    くなると考える。そのため,クリニックと

    連携し,外来中からの支援(在宅療養支援)

    を積極的に行い,PFM機能を充実させると

    共に,地域の看護職との連携強化を図り,

    PFM機能を地域へ拡充していきたいと考

    える。

    引用・参考文献1)埼玉県:埼玉県地域医療構想全文 https://www.pref.saitama.lg.jp/a0701/iryou-keikaku/documents/chiikiiryokoso.pdf(2019年12月閲覧)

    2)宇都宮宏子監修,坂井志麻編:退院支援ガイドブック―「これまでの暮らし」「そしてこれから」をみすえてかかわる,学研メディカル秀潤社,2015.

    3)特集変わる外来看護―「2025年」に向けて看護ができること,看護展望,Vol.43,No.4,2018.

    4)玉上淳子,南波一美:PFMにおける入院前から退院後までの要となる外来役割,看護部長通信,Vol.15,No.1,P.8~16,2017.

    継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1010

  • 特集2 その人らしい人生を支える看護実践! 外来看護師だからできるアドバンス・ケア・プランニング

    病院・看護部紹介

     当院は,北海道中空知地域広域をカバーする地域センター病院とし

    ての役割を担う自治体病院です。「良質な医療,心かよう安心と信頼

    の医療を提供する病院」「地域に根ざし,地域に愛され,貢献する病

    院」という理念を掲げています。また,看護部は,「患者への関心を

    持ち,患者の持てる力を引き出す誠実な看護」を理念として日々看護

    ケアに従事しています。

     当院の病床数は498床,診療科は25科で,地域救命救急センター,

    へき地医療拠点病院,災害拠点病院,地域周産期母子医療センター,

    北海道認知症疾患医療センター,地域がん診療連携拠点病院など,多

    くの役割を担っています。

     当院のある北海道中空知医療圏の人口は,2025年には現在の11万

    人から9万人に減少することが予想され,高齢化率は39%と全道高

    齢化率と比べ高い現状にあります。近隣の診療病床や回復期病床,介

    護施設は,中空知の高齢化率から見ても十分ではなく,7対1入院基

    本料を算定しながら,地域包括ケア病棟も稼働させ,ポストアキュー

    トの役割を担わざるを得ない状況であり,高度急性期から回復期,在

    宅医療まで広い範囲の医療をカバーしなければなりません。

     そのような中,当院は2014年より看護外来を展開し,各分野で認定

    看護師が活動を行っています(表)。慢性心不全は再入院率が高く,た

    どる病みの軌跡から徐々に身体機能が低下していく病気です。そして,

    療養生活の中でのセルフケア能力を高め,再入院を予防していくこと

    心不全看護外来で行う

    アドバンス・ケア・プランニング

    ―その人らしく生きていくための支援

    ◆病院概要(2019年3月現在)病床数:498床 診療科:内科,循環器内科,心臓血管外科を中心とした25科1日平均入院患者数:398人 平均在院日数:12~14日(一般病床)施設基準:急性期一般入院料1(327床),結核病棟入院基本料7対1(6床),精神病棟入院基本料13対1(40床),救命救急入院料1(20床),特定集中治療室管理料2(6床),小児入院医療管理料4(15床),地域包括ケア病棟入院料1(44床),精神科急性期治療病棟入院料Ⅰ(40床)看護師数:515人外来職員数:看護師長2人,主任看護師4人,正規看護師38人,臨時・時間制職員33人(うち歯科衛生士4人を含む)中空知地域センター病院,病院機能評価3rdG:Ver.1.1,DPC対象病院

    ◆著者プロフィール 2005年に砂川市立病院附属看護専門学校卒業後,砂川市立病院循環器内科に勤務。2013年に慢性心不全看護認定看護師の資格を取得。ICU・HCUでの勤務を経て,2019年4月より循環器内科病棟に勤務し,外来など組織横断的に活動している。

    砂川市立病院

     主任看護師

    慢性心不全看護認定看護師

    土田智也

    継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1 069

  • が求められています。心不全看護外来は,

    再入院率の低下を期待し開設されました。

    心不全看護外来の活動内容

     当院の心不全看護外来は,2014年に重症

    心不全のセルフケア強化と精神的サポート,

    末期心不全の緩和ケアなどを目的として開

    設されました。担当は慢性心不全看護認定

    看護師である筆者で,週に1回,循環器外

    来の一室で面談を行い,患者の生活背景を

    詳細に聴取し,心不全増悪につながる因子

    をアセスメントして,疾患管理をベースとし

    た生活改善について指導・相談しています。

     また,疾患を管理していく上で,患者・

    家族は生活のあらゆる面で制限を受けてお

    り,生涯継続していかなければならないこ

    とにストレスを抱えています。看護外来で

    はそのような心的状況も踏まえ,患者・家

    族に対する疾患の理解の促進と,疾患管理

    に関する知識の提供を行い,患者・家族が

    自分で選択し療養を続けていけるよう支援

    しています。

     現在,心不全看護外来に通院している患

    者は約40人で,定期的に受診しています。

    再入院率の低下やセルフモニタリングの実

    施率の向上などに貢献しています。

    ACPを意識した継続的介入の重要性

     ACP(Advance Care Planning)は,「患

    者・家族・医療従事者の話し合いを通じて,

    患者の価値観を明らかにし,これからの治

    療・ケアの目標や選好を明確にするプロセ

    ス」であり,対話を通じて具体化しその実

    現に向けて努力していくものです。

     心不全では,増悪と緩解を繰り返す病み

    の軌跡の特性上,疾患の理解が難しく,患

    者・家族が今後の疾患の経過を考えられな

    いことが多く,人生の最終段階における治

    療・ケアに関しても現実的に考えられてい

    ないケースが多く見られます。したがって,

    患者・家族には継続的に疾患理解のための

    情報提供を行い,疾患を管理するための最

    善を共に考えながら,万が一の時のことを

    考えることが求められます。また,患者個

    人の価値観は,与えられた情報や知識,家

    族との対話によって生まれる感情から常に

    一定ではなく,揺れ動くものです。そのた

    め,患者・家族・医療従事者が定期的に話

    し合いを行い,患者と家族の価値観を確か

    め合うことが重要であると考えます。

     また,ACPを話し合うタイミングとして,

    看護外来名 担当専門・認定分野

    心不全看護外来

    透析予防外来

    慢性呼吸不全看護外来

    周手術期看護外来

    慢性心不全看護認定看護師

    糖尿病看護認定看護師

    慢性呼吸不全看護認定看護師

    集中ケア認定看護師

    表 当院の看護外来 心不全看護外来では患者の生活背景を詳細に聴取している

    継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1070

  • 高田1)は「①心不全の初回入院時,②退

    院後一年ごとの定期外来,③病気の悪化や

    生活の質が低下していると考えられる分岐

    点の時期とし,①②の時期はACPの“心

    づもり”の教育の時期,③具体的な話し合

    いの時期」を推奨しています。当院看護外

    来での介入は主に②に当たり,状態に大き

    な変化がない場合においては,半年から1

    年の間隔で定期的な話し合いを行っている

    状況です。

     ③の状態変化の時期については,入院す

    るタイミングを一つのACPの話し合いの時

    期と考えていますが,入院病棟でのかかわ

    りや外来でのACPのかかわりをどのように

    つなげていくかが課題と感じます。

     一つは,ACPの介入を行う医療従事者と

    の問題です。ACPのような“死”を連想さ

    せる話し合いには,患者・家族と医療従事

    者との信頼関係が求められるため,ACPに

    介入する医療従事者はある程度統一するこ

    とが望ましいと考えます。入院病棟・外来

    においても,相談窓口となり,ACPの話し

    合いを継続的に行える場所や人をある程度

    特定しておくことが大切でしょう。患者の

    ケアを行い,患者との時間を最も長く過ご

    す看護師がその主軸となるのが理想ですが,

    患者・家族が相談しやすければ,理学療法

    士や臨床心理士など,かかわる職種の誰が

    担ってもよいと考えます。

     もう一つは,記録の問題です。ACPは事

    前指示やDNAR(Do Not Attempt Re sus

    ci ta tion)などの意思決定にもつながるた

    め,多職種が把握できるようにする必要が

    あります。当院では,ACPの記録に関し

    て,専用のテンプレートを作成し,継続し

    て更新していけるようにしています。ま

    た,ACPの記録がある患者にはカルテ上

    にアイコンが作成され,医療従事者の誰も

    がACPの記録をすぐに検索できるように

    しています。そうすることで,どのタイミ

    ングにおいても患者・家族の価値観や意向

    を知ることができ,それに沿った治療やケ

    アの提供を行うことができます。

     ACPは,話し合いをすることが目標で

    はなく,話し合いを継続していき,患者や

    家族のその時々の価値観やそれに至った経

    緯を知ること,またそれを治療・ケアに生

    かすことが目標であると考えます。

    当院におけるACPの取り組み

     当院は,2018年11月よりACP委員会を設

    置し,ACPの普及を行っています。がんの

    分野では意思決定支援としてACPへと発展

    しています。しかし,特に非がん患者にお

    けるACPは,慢性疾患,認知症を含め,た

    どる病みの軌跡から取り組みは足踏みをし

    ています。そこで,非がん疾患へのACP

    普及のため,専門・認定看護師がワーキン

    ググループを結成し活動を行っています。

    院内の看護師を対象に行ったアンケート調

    査により,ACPを理解している人は3割

    程度にとどまっていることも明らかとなっ

    ており,ACPの継続的介入を行っていく

    上でも,ACPの知識普及は課題です。

    継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1 071

  • 慢性心不全患者の事例

    患者:A氏,60代,男性

    主訴:呼吸困難,浮腫

    既往歴:2016年に心筋梗塞#6にて冠動

    脈形成術施行。その後,2017年に初回

    心不全を発症して入院。

    家族構成:妻と2人暮らし。3人の子ども

    がいる(3人とも遠方在住)。

    経過:2017年に3回の心不全の増悪により

    入院となってからは,過負荷となってい

    た仕事も辞職し,安定して自宅療養を継

    続していた。2018年,EF20%と低心機

    能であったため,心不全看護外来への通

    院が開始となった。2018年12月にCPXに

    て高度な運動耐容能の低下を認めたが,

    A氏本人に自覚症状はなく,逆に体調は

    良くなったとの印象を持っていた。2019

    年5月に腎機能の低下を認め,泌尿器科

    にコンサルトすることとなり受診。透析

    が必要になる可能性が高いとのことで,

    透析できる状況であるかの検査が開始さ

    れた。同月,心不全看護外来を受診し,

    介入となった。

    ■A氏の病状認識の確認 心不全看護外来は前回介入時から約2カ

    月が経過しており,大きく状況が変わった

    ことにA氏自身がどう感じているのかを確

    認していきました。A氏は「俺,透析が必

    要なんだって。検査をするんだって。こん

    なに元気なのに,どうしてなんだ?」と話

    し,現状に対する理解が追いついていませ

    んでした。A氏は心不全で再入院を繰り返

    した後,1年半近く入院することなく生活

    できており,負担の少ない仕事に再就職で

    きたことから自信もついてきた時期でした。

    A氏には,心不全の病期の説明や,腎機能

    の問題と透析を行うことでのメリットやデ

    メリットなどの知識提供が必要であると考

    えました。

    ■A氏が知っていることと 知りたいことの確認と病状の説明

     A氏にどこまで理解しているかを確認し

    ました。A氏は「心不全は治らない病気。

    年齢を重ねるごとに悪くなっていくのは分

    かっている。でも,今回は心不全が悪く

    なったわけではないんだろう?」と話しま

    した。もともとA氏は先天性に片腎であっ

    たこともあり,心不全が悪化傾向になった

    ことで腎機能にも負担がかかったことを説

    明する必要がありました。

     A氏にどこまでを知りたいかを確認する

    と,「突然のことで整理がつかない。今回

    のように突然悪いことを告げられても混乱

    するだけ。できれば一つひとつ分かるよう

    に説明してもらいたいと思っている」と話

    しました。そこで,心不全のため低心機能

    であり,半年前に運動耐容能の低下も起

    こっており,身体機能が低下してきている

    こと,それに伴い,もともと片腎で腎機能

    が良くなかったところに負担がかかってし

    まったことを説明しました。すると,A氏

    は「こんなふうに説明してくれれば,しっ

    かり考えることもできる。透析をするとい

    うことは,自分はどうなっていくってこと

    継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1072

  • なんだい?」と,さらなる疑問を表出しま

    した。

     A氏は,低心機能であることからすでに

    血液透析をすることは不可能であることを

    医師から告げられており,腹膜透析を行う

    かどうか検討がされていたため,腹膜透析

    を行うことについてのメリットとデメリッ

    トを説明しました。あくまで情報提供に

    とどめ,より詳しい話は泌尿器科や循環

    器内科の主治医からしてもらうことを勧

    めました。

    ■A氏が望む生活と治療・ケアの意向 A氏は透析の説明を聞くと,「俺には死

    ぬまでにやらないといけないことがある。

    父親の墓を整理するために行かないといけ

    ないところがある。それができれば,もう

    人生でやり残したことはないんだ」と話し,

    自分の今後の人生についての意向を明らか

    にしました。A氏は透析を行うことで,自

    分の行いたいことができなくなることを懸

    念しており,「それがかなわない可能性が

    あるのであれば,透析は受けず,今できる

    内服でのコントロールで現状をつなぎとめ

    るだけでよい」と話し,筆者はその情報を

    ACPとして記録に残し,泌尿器科や循環

    器内科の主治医へ提供しました。

    ■家族の価値観と意向 A氏の意向について,A氏とは共有でき

    ましたが,家族に伝えているのかを確認し

    ました。妻は仕事が多忙であり,疾患に関

    しては,以前に入院した時を最後に話し

    合っていないとのことでした。透析が検討

    されていることに関しても,簡単には伝え

    たと話していましたが,妻からは何の返答

    もなく,A氏と同様,現状を把握できてい

    ないと感じました。また,A氏の行いたい

    ことについてもしっかり共有できていな

    かったため,家族にも自分の意向を伝える

    ことを勧めました。

     A氏は妻と話し合い,妻からは「夫の希

    望をかなえてあげたい。ただ,透析を行わ

    ないという選択をした時にどのようなリス

    クがあるのか,透析を行っても夢をかなえ

    る道はあるのか,しっかり医師から説明を

    受けたい」との希望があり,泌尿器科・循

    環器内科の主治医による説明の場を設定し

    ました。

    ■A氏・妻・医師による話し合いから 出た結論

     A氏と妻との話し合いの結果,透析は受

    けず,できるところまで内服でコントロー

    ルすることとなりました。A氏の夢がか

    なった後,まだ透析の道が残されているの

    であれば受けようと思うが,その時に手遅

    れであれば受け入れるという判断でした。

    妻もしっかりと説明を受け,A氏や子ども

    たちと話し合った結果,A氏の意向に沿う

    という結論に至りました。

     また,透析の話がきっかけとなり,心不

    全の状況についても再度,妻を交えて話が

    できたことで,心不全増悪のリスクと万が

    一の時についても話すことができ,A氏の

    つらい治療はしたくないという思いを共有

    し,DNARの取得へとつながりました。

    継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1 073

  • ■本事例から見えた展望と課題 本事例では,看護外来という定期的に話

    し合いの場をつくることができる環境が

    あったことで,A氏の意向を知り,それを

    他科の医師に伝えることができました。低

    心機能で末期状態と考えられる患者こそ,

    残りの人生をどのように生き,最期をどう

    迎えたいのか,本人の価値観を共有するこ

    とが大切です。そのような意味では,看護

    外来という専門的な相談の場を活用した

    ACPの普及は有効だと考えます。

     また,当院では先述のとおり,ACPの記

    録システムとして院内で共通のテンプレー

    トを使用し,記録をするとアイコンになり,

    カルテ上に表示されるシステムを採用して

    います。患者の情報が一元化されたことも,

    ACPを行う上で有意義だと思います。

     心不全は,その臨床経過の特性として,

    増悪と緩解を繰り返しながら進行し,事例

    のように心不全のみならず,関連した臓器

    不全を招き,最期には急速的に悪化すると

    いうことが多く見られます。A氏において

    も,緩解期を維持できていたことにより,

    身体的な状況と自覚が乖離を起こし,状況

    を受け入れられないまま,治療が先行して

    しまっていました。また家族も,A氏が入

    院せずに経過することで安心や慣れが生じ,

    通院に付き添うことも減っていきました。

    当然,家族内でも疾患についての情報共有

    は減り,患者・家族共に心理的な準備がで

    きていないということが起こりました。

     低心機能の患者であっても,安定してい

    れば,定期的な外来通院の間隔が延びるた

    め,おのずと医療従事者とACPの話し合い

    の場は少なくなっていきます。本事例では,

    看護外来という場を用いて,筆者が定期的

    な面談を組み,時間をかけて話し合うこと

    で,方向性を導き出すことができました。

    しかし,一般外来においては,数少ない受

    診のタイミングで定期的に,かつ意図的に

    話し合いの場をつくっていくことが必要に

    なります。

     そのためにも,医療従事者はACPにつ

    いてより理解することが求められますし,

    患者・家族,ひいては罹患していない一般

    市民がACPの理解を深め,日頃から自分

    の価値観や意向を話し合うことができる雰

    囲気づくりが必要だと考えます。

    まとめ・今後の課題

     本稿では,心不全看護外来におけるACP

    実践の事例を用いて,ACP介入について検

    討しました。看護外来のような特殊な外来

    では,すべての患者に介入することは難し

    いため,いかに一般外来との連携を強化し

    ていくかが課題となります。心不全患者や

    家族にとって少しでも質の高い医療・ケア

    が実践できるよう,職種や病棟・外来の垣

    根を越えて協働していきたいと思います。

    引用・参考文献1)高田弥寿子:心不全患者のアドバンス・ケア・プランニング,看護技術,Vol.64,No.12,P.45,2018.

    2)木澤義之:ACPの基本的な考え方とガイドライン解説,日本看護協会機関誌,Vol.71,No.8,2019.

    3)厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン,2018.

    4)人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン解説編,2018.

    継続看護を担う体質強化 外来看護 Vol.25 No.1074