孔内回転せん断試験(bstゾンデ) 試験マニュアル(案)...3.1...

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ため池等の盛土斜面の簡易な強度調査方法 孔内回転せん断試験(BSTゾンデ) 試験マニュアル(案) 第1回改訂版 平成25年11月 (独)農研機構農村工学研究所

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  • ため池等の盛土斜面の簡易な強度調査方法

    孔内回転せん断試験(BSTゾンデ)

    試験マニュアル(案) 第1回改訂版

    平成25年11月

    (独)農研機構農村工学研究所

  • 1. 簡易な強度調査法(現位置せん断試験)の必要性

    土の強度は、土に作用する圧力(拘束圧)により変化するという特性があります。つまり、土

    は土圧が大きい深い位置の方が浅い位置よりも強度が高くなります。このため、土の強度は、内

    部摩擦角(φ)と粘着力(c)という二つのパラメータで表されます。c とφは、外観の調査で調

    べることは不可能であり、通常はボーリングによって不攪乱試料を採取して、室内三軸圧縮試験

    によって求めます。したがって、調査には、比較的大きなコストがかかるのが現状です。

    また、ボーリングによる標準貫入試験やサウンディング試験により、N 値を求め、表 1 のよう

    に、N 値から強度定数(c、φ)を推定する手法があります。しかし、この方法では、c またはφ

    のどちらかの推定しかできません。ため池のように比較的小さな盛土では、φのみを用いて安定

    計算を行った場合は結果がかなり安全側となり、過大な改修設計となる可能性があります。c の

    みを用いる換算式もありますが、精度に問題があり、多くは危険側の評価となるため、推奨でき

    ません。

    本マニュアルでは、主に、ボーリングに代わる方法として、農村工学研究所と大北耕商事の共

    同研究(「地震時のため池堤体の簡易な安定性評価手法の開発」)で開発された「自動式スウェー

    デンサウンディング試験機による孔内回転せん断試験」について説明します。この調査方法は、

    ため池の現地で室内三軸圧縮試験と同様なせん断試験を行う方法であり、短期間かつ低コストに

    堤体の安定計算に必要な強度定数を調べることができます。この方法により、ボーリング・室内

    三軸圧縮試験と比較して、堤体強度の調査コストを約1/2に縮減できます。また、この調査法

    は、豪雨の場合だけでなく、耐震診断にも有効です。

    表 1 N 値からφへの換算式

    道路橋示方書 ∅ = 4.8ln (170𝑁

    𝜎𝑣′ + 70

    ) + 21 (𝑁 > 5)

    鉄道構造物等設計標準 ∅ = 1.85 (𝑁

    0.01𝜎𝑣′ + 0.7

    ) + 26

    港湾施設 ∅ = 25 + 3.2√100𝑁

    70 + 𝜎𝑣′

    建築基礎構造設計指針 ∅ = 20 + √20N (3.5 ≤ 𝑁 ≤ 20 )

    ∅ = 40 (20

  • 2. 調査方法の概要

    調査は、表 2 のように、ため池の堤高により、ボーリングと自動式スウェーデンサウンディン

    グ試験機で手法を変えて行います。「自動式スウェーデンサウンディング試験機による孔内回転せ

    ん断試験」は、堤高(天端高さ)が 20m 程度の堤体で想定すべり面の深度が 4~5m までの調査

    に限られます。したがって、堤高 20m 以上ではボーリング・室内三軸圧縮試験、堤高 20m 未満

    では「自動式スウェーデンサウンディング試験機による孔内回転せん断試験」を行うこととしま

    す。

    表 3 に、ボーリングと自動式スウェーデンサウンディング試験機(空圧式)の比較表を示しま

    す。また、図 1 の左側に堤体土の強度調査のフローを示します。

    表 2 堤体強度の調査手法

    分類 手法

    堤高 20m 以上のため池 ボーリングによる不攪乱試料採取+室内三軸圧縮試験

    堤高 20m 以下のため池 自動式スウェーデンサウンディング試験機による

    孔内回転せん断試験

    表 3 調査・試験方法の比較

    ボーリング+室内三軸圧縮試験

    自動式スウェーデンサウンディング試験機

    (空圧式)による孔内せん断試験

    適用地盤 玉石や礫を除くあらゆる地盤に適

    用可能 玉石や礫を除くあらゆる地盤に適用可能

    N 値測定適

    用深度

    一般の地盤調査では、基本的に深

    度に制限はない。

    砂礫地盤でも貫入可能深さは 20m 程度であ

    り、粘性土であればそれ以上である。砂礫

    地盤では測定精度の限界はロッドの周面摩

    擦により深度 15m 程度と考えてよい。

    機械搬入

    普及度が高いが、アクセスの悪い

    ため池では、モノレール等の間接

    費が大きくなる場合がある。

    ボーリングよりも機械が軽量(約 70kg)で

    あり、モノレールが必要ない。

    斜面での

    作業性 強固な作業台が必要。

    簡易な傾斜台を用いて設置が可能。傾斜測

    定も可能。

    強度測定

    不攪乱試料を採取し、室内三軸圧

    縮試験により求める。

    礫混じり粘性土の堤体では不攪乱

    試料の採取が困難な場合が多い。

    現位置の孔内回転せん断試験により求め

    る。

    N 値 4 以下で深度 4~6m までのすべり面に

    適用可。

    礫混じり粘性土の堤体でも試験は可能であ

    るが、測定精度が落ちる場合がある。

    コスト (天端・下流

    斜面の 2 箇所

    の測定)

    堤高 10m-150 万円

    堤高 20m-200 万円

    堤高 10m-60 万円

    堤高 20m-90 万円

  • 3. ボーリングと室内三軸圧縮試験による堤体強度調査(堤高 20m 以上のため池)

    堤高 20m 以上のため池では、ボーリングにより不攪乱試料を採取した後に、室内三軸圧縮試験

    により、堤体土の強度定数(c、φ)を求めます。

    3.1 ボーリング調査

    ボーリングにより、標準貫入試験で N 値を求めるとともに、基盤の深さを調査します。また、

    不攪乱試料を採取します。豪雨時の堤体のすべりは、ほとんどの場合で下流斜面の法先からのす

    べりであるため、不攪乱試料の採取位置は、すべり面の深さが最も深くなる下流斜面の中腹を中

    心に採取します。堤高 20m 以上のダム級のため池では、天端・下流斜面の3か所程度でボーリン

    グを行うことが望ましいと考えられます。耐震診断等も行う場合には、基盤を確認する必要があ

    ります。

    図 2 ため池でのボーリング調査

    図 3 斜面でのボーリング調査

    斜面では仮設足場やモノレールが必要になる

    図 4 ボーリング調査の位置

  • 3.1 三軸圧縮試験

    ボーリングで採取した試料を用いて、三軸圧縮試験(CD 試験または CU バー試験)を行いま

    す。一般に砂質土では CD 試験、粘性土では CU バー試験を行います。安定計算には、粘着力(c)

    の精度が大きく影響するため、拘束圧は想定されるすべり面の最大深度から決定します。堤高 20m

    の堤体の場合、すべり面深度は最大でも 10m 未満であるため拘束圧は最大でも 100kPa 未満とし

    ます。

    図 5 三軸圧縮試験

    不攪乱試料3本以上を用いたせん断試験が必要

  • 4. 自動式スウェーデンサウンディング試験機による調査方法(堤高 20m 未満のため池)

    農村工学研究所と大北耕商事の共同研究で開発された簡易な現位置調査法です。始めに、自動

    式スウェーデンサウンディング試験機(空圧式)による換算 N 値の測定を行います。次に、換算

    N 値の測定孔に、特殊せん断刃付きのバルーンを挿入して、「孔内回転せん断」を行います。ため

    池堤体の安定性を評価するために不可欠な強度定数(c,φ)を簡便かつ低コストに推定すること

    ができます。

    4.1 自動式スウェーデンサウンディング試験機(空圧式)

    スウェーデンサウンディング試験とは、スクリューポイントと呼ばれるスクリュー式のコーン

    を先端に付けたロッドに 1000N の重りを載せ、荷重と回転により地盤に貫入させる現位置試験で

    す。

    従来はロッドを手で回して試験を行っていましたが、載荷と回転を自動で行うタイプの試験機

    があります。自動式スウェーデンサウンディング試験機にはロッドの押し込み荷重を空圧で制御

    するタイプとモーターで制御するタイプがあります。本節では、「孔内せん断試験」が可能な空圧

    式のタイプについて説明します。図 6 に示すように、空圧式タイプの自動式スウェーデンサウン

    ディング試験機は、空圧を油圧に変換してロッドに軸荷重をかけ、モーターによりロッドを回転

    させる機構になっています。礫混じりの堤体においても貫入できるように、軸荷重が最大 2500N

    の試験機を用います。

  • 4.2 自動式スウェーデンサウンディング試験機による調査状況と調査の作業性

    図 7 に自動式スウェーデンサウンディング試験機による調査の写真を示します。また、図 8 に、

    ため池堤体への試験機の搬入状況の写真を示します。堤体斜面でも強固な作業台やモノレール無

    しで、搬入・試験が可能です。

    図 6 自動式スウェーデンサウンディング試験機(大北耕商事製 NSWS 試験機)

    回転モーター

    スクリューポイント

    空油圧ピストン(0~2500N)

    回転モーター

    ロッド

    (a) 側面図 (b) 正面図

    図 7 自動式スウェーデンサウンディング試験機による調査の状況

    左:天端での調査 右:堤体斜面での調査

  • 図 8 ため池堤体への自動式スウェーデンサウンディング試験機の搬入

    左:下流斜面への搬入状況 右:積雪時の搬入状況

  • 4.3 自動式スウェーデンサウンディング試験機による換算 N 値測定

    スウェーデンサウンディング試験は、軸荷重によるロッドの貫入とロッドの回転による貫入を

    組み合わせた試験法です。ロッドにかける軸荷重が 1000N までは、ロッドが貫入・沈下するとき

    軸荷重を測定します。1000N の軸荷重をかけてもロッドが沈下しない場合には、ロッドを回転さ

    せ、ロッドの沈下量 25cm ごとの回転数を求めます。これらの値(軸荷重の大きさ、またはロッ

    ドの回転数)から、標準貫入試験の N 値に相当する換算 N 値を求めることができます。

    空圧式タイプの自動式スウェーデンサウンディング試験機は、従来のスウェーデンサウンディ

    ング試験機よりも、軸荷重や回転数を細かいピッチで測定することができ、精度の高い換算 N 値

    測定を行うことができます。図 9 に示すように、空圧タイプの自動式スウェーデンサウンディン

    グ試験機は、試験機本体・制御演算部・圧力制御ユニット・コンプレッサー・発電機(200V)か

    ら構成されています。

    また、ロッドの先端には通常、図 10(a) に示す「スクリューポイント」とよばれるスクリュー

    を装着して、貫入、回転させます。ここでは、「スクリューポイント」の代わりに、コンクリート

    用のドリルビット(φ22mm)をロッド先端に取り付ける方法を推奨します。スクリューポイント

    の場合、礫を多く含む地盤では、貫入できなかったり、貫入してもロッドが曲がって入ったりし

    て、精度の高い換算 N 値測定ができないことがあります。これに対し、ドリルビットの場合、礫

    を多く含む地盤でも貫入能力が高く、ロッドの直進性も高いため、様々な地盤に対して適用性が

    高く、精度も向上します。ドリルビットによる換算 N 値の測定結果はスクリューポイントを用い

    た場合とほぼ同等の結果を得られることが分かっています(図 11)。

    図 9 空圧タイプの自動式スウェーデンサウンディング試験機(換算 N 値測定時)

    の構成図

    回転モーター

    200V発電機 コンプレッサー 貫入制御装置

    試験機本体

    空油圧ピストン

    空圧供給

    電源供給

    ドリルビット又はスクリューポイント

  • (a)スクリューポイント (b)ドリルビット(φ22mm)

    (通常のスウェーデンサウンディング試験)

    (JIS G 4051)

    図 10 自動式スウェーデンサウンディング試験のロッド先端

    図 11 自動式スウェーデンサウンディング試験機による換算 N 値測定結果の例

    1.00 4.275 3.00 6.93

    3.86

    0 5 10 15

    2

    4

    6

    換算N値

    0 5 10 15

    2

    4

    6

    N値(標準貫入試験)

    測定点

    NSWS 鉛直荷重500N ロッド先端-ドリルビット

    NSWS 鉛直荷重1000N ロッド先端-ドリルビット

    NSWS 鉛直荷重500N ロッド先端-スクリューポイント

    NSWS 鉛直荷重1000N ロッド先端-スクリューポイント(通常のスウェーデンサウンディング)

  • 4.4 自動式スウェーデンサウンディング試験機による孔内回転せん断試験の概要

    本節では、「孔内回転せん断試験」による強度測定手法の概要を説明します。この試験を行うこ

    とによって、これまで室内三軸圧縮試験で求めていた土の強度定数(c、φ)を原位置で求めるこ

    とができます。

    ① 試験概要

    始めに、5.5.3 で述べた自動式スウェーデンサウンディング試験による換算 N 値の測定を行い

    ます。換算 N 値測定により、直径 35mm の試験孔ができます。「孔内回転せん断試験」はこの試

    験孔を利用して行います。試験の概要を説明します(図 12)。

    1) 自動式スウェーデンサウンディング試験機のロッドの先端に特殊なせん断刃付きのバルー

    ンを装着し、直径 35mm の孔内に挿入します。せん断刃付きバルーンの写真を図 13 に示

    します。

    2) 孔内でバルーンを膨張させて、孔壁に拘束圧を作用させます。

    3) 自動式サウンディング試験機のモーターを低速回転させます。バルーン表面にはせん断刃

    とよばれる刃が取り付けられており、刃が孔壁に食い込むことによって、回転したときの

    孔壁周辺の地盤をせん断破壊します。このときにロッドに作用する回転トルクを測定しま

    す。せん断刃付きバルーンは、内圧で膨張した状態で、地盤内で回転しても、容易に破損

    しない構造になっています。

    4) ④ ①~③の試験を3回以上行うことによって、地盤の強度定数(c、φ)を算出すること

    ができます。

    図 12 孔内回転せん断試験の概要

    拘束圧

    回転せん断

    Φ35mm孔

    バルーン

    せん断刃

    (サウンディング試験機で削孔)

    トルク計

    自動式スウェーデンサウンディング試験

  • ② 自動式スウェーデンサウンディング試験機による孔内回転せん断試験の機器構成

    図 14、図 15 に示すように、孔内回転せん断試験の機器は、空圧式タイプの自動式スウェーデ

    ンサウンディング試験機(トルク計付きおよびせん断刃付きバルーンを設置)・バルーン水圧制御

    装置・ビューレット・御演算部・トルク計測器・コンプレッサー・発電機(200V)から構成され

    ています。

    図 13 せん断刃付きバルーン

    左:膨張前 右:膨張後

    バルーン

    せん断刃

    図 14 孔内回転せん断試験の機器構成図

    回転モーター

    200V発電機 コンプレッサー 貫入制御装置

    試験機本体

    空油圧ピストン

    空圧供給

    電源供給

    せん断刃付きバルーン

    拘束圧

    回転せん断

    トルク計測器

  • ③ 孔内回転せん断試験の測定原理

    測定原理の説明図を図 16 に示します。バルーンの膨張圧 P とバルーンを回転させたときに測

    定される回転トルク T から、孔壁にかかる拘束圧σnとせん断応力τnを求めます。拘束圧σnを

    変えた試験を同一孔内で 3 回以上行うことにより、クーロンの破壊基準に基づき、強度定数 c、

    φを求めることができます。図 17 は、密度を変えた 3 種類の地盤模型で孔内回転せん断試験を行

    った結果です。孔内回転せん断試験により推定した強度定数と従来方法である三軸圧縮試験によ

    って求めた強度定数を比較すると、良好な整合性が得られています。

    図 15 孔内回転せん断試験の構成写真

    (発電機・コンプレッサー除く)

    図 16 孔内回転せん断試験の測定原理

    地盤

    スウェーデンサウンディング試験孔

    σn τn

    : トルク :ゴムの張力に関する補正係数r :バルーン半径 l :せん断刃長さP : バルーン内圧

  • 図 17 孔内回転せん断試験結果と三軸圧縮試験結果との比較

    図1・・・・・・・・・・・・・

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    140

    0 25 50 75 100

    回転応力

    τn(

    kPa)

    σn(kPa)

    中詰め

    緩詰め

    密詰め シンボル:提案する手法

    破線:三軸圧縮試験

  • 4.5 孔内回転せん断試験によるため池堤体強度調査の概要

    ① ため池における換算 N 値測定の方法と調査位置

    ため池堤体は、決壊や改修を繰り返していることが多く、図 18 のように、内部に旧堤体など軟

    弱な層がある場合があります。始めに、天端及び下流斜面中腹で、自動式スウェーデンサウンデ

    ィング試験機による換算 N 値の測定(軸荷重 1000N)を行い、堤体内の強度分布を概略的に推定

    します。

    堤体全体が極端に軟弱な場合(例えば、換算 N 値が堤体全体で 2 以下)は、1000N 以下の軸荷

    重で回転なしに貫入(回転させない状態でロッド自沈)することがあります。ロッドが自沈する

    領域が大きい場合は、すべり破壊だけでなく、堤体内部でパイピング破壊が進行する可能性があ

    ります。また、地震時に液状化が発生する可能性もあります。このような場合は、弱層の状態を

    より詳細に識別するために、軸荷重 500N でロッドを回転させ、再度、貫入試験を行うことをお

    薦めします。軸荷重 500N で回転貫入し、回転数を測定することで、通常の方法(1000N までは

    静的貫入、1000N で回転貫入)よりも、弱層を明瞭に識別することができます。

    ② ため池における孔内回転せん断試験の方法と調査位置

    自動式スウェーデンサウンディング試験の換算N値測定により堤体内部の構造が把握できたら、

    次に孔内回転せん断試験を行います。図 19 のように、天端と下流斜面中腹において、下流斜面の

    すべり面付近と想定される深度で孔内回転せん断試験を行います。また、換算 N 値測定で、極端

    な弱層が発見された場合は、その層で孔内回転せん断の調査を追加します。

    また、孔内回転せん断試験は、浸潤線以下で試験を行うと、非排水せん断強度(cu、φu)が得

    られます。一方、浸潤線以上で試験を行うと、排水せん断強度(cd、φd)が得られます。豪雨を

    対象とした安定解析では、有効応力強度(c’、φ’)に近い排水せん断強度(cd、φd)が必要なの

    で、浸潤線より若干高い位置で試験を行うようにします。地震を対象とした安定解析では、CU

    強度が得られる浸潤線以下の試験を行います。

    図 18 自動式スウェーデンサウンディング試験機による換算 N 値測定

    簡易な傾斜台

    換算N値

    旧堤体等の軟弱層

  • c、φを推定するためには、拘束圧を変えたせん断試験が3回以上必要です。このため、図 20

    のように、深度を少しずつずらし、バルーンにかける圧力を変えて、孔内回転せん断試験を行い

    ます。次に、図 21 のように、回転トルクから算定したせん断応力(図 16 参照)のピーク値(図

    中の白抜き矢印)を求めます。図 22 のように、拘束圧(バルーンの圧力)とせん断応力のピーク値

    の関係をプロットすることにより、せん断強度 c、φを算定することができます。図 22 の近似曲

    線(赤い点線)の勾配が内部摩擦角φ、切片が粘着力 c となります。

    図 19 孔内回転船団試験の試験位置

    簡易な傾斜台

    想定されるすべり面

    図 20 深度・拘束圧を変えた 3 回以上の孔内回転せん断試験

    拘束圧100kPa

    回転せん断

    拘束圧75kPa

    拘束圧50kPa

  • 図 21 拘束圧が異なる孔内回転せん断試験結果

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    0 50 100 150

    せん断応力(

    kP

    a)

    回転角度(度)

    σ = 150kN/m2

    σ = 105kN/m2

    σ = 60kN/m2

    図 22 せん断強度算定結果

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    140

    0 50 100 150 200 250 300

    せん断応力のピーク値

    τ

    (kN

    /m2)

    拘束圧 σ (kN/m2)

    c = 19.0 kPa

    φ = 29.2° 内部摩擦角 φ

    粘着力 c

  • 4.6 堤体強度調査の具体的手順

    ① ため池への試験機の搬入

    ため池堤体までのアクセスの状態によって、搬入方法を変えます。

    自動式スウェーデンサウンディング試験機(空圧式)は試験機側面に車輪を取り付けるこ

    とで、人力で転がして搬送することができます。調査位置まで距離が遠くない場合は、こ

    の方法で搬入します。(図 23)

    調査位置まで距離(100m 以上)がある場合や坂道が多い場合は、クローラを用いて搬送

    することもできます。

    積雪時には、自動式スウェーデンサウンディング試験の側面に車輪の代わりにソリを付け

    て、搬送することができます。(図 24)

    試験機および制御装置等の調査機材全体は、ため池現場付近まで軽トラック等で搬送が可

    能な量です。

    ② 試験機の設置

    試験機の設置で最も注意しなければならないことは、試験機の鉛直性です。傾いて設置すると、

    ロッドが鉛直に地盤に貫入しなくなり、換算 N 値測定および孔内回転せん断試験の結果の精度が

    大きく低下します。レーザー墨出し機等で、試験機フレームの鉛直性を確認しながら、アンカー

    で試験機を地盤に固定し、貫入に対する反力のための重り 120kg(20kg×6 個)を試験機に取り

    付けます。斜面に設置する場合は、まず専用の架台を設置し、架台の水平を確認してから、架台

    の上に試験機を設置します(図 25)。

    自動式スウェーデンサウンディング試験機は、200V 電源と空気圧で作動します。発電機とコン

    プレッサーは、試験機を搬送してきたトラックの近くに設置し、電源ケーブルと空気圧チューブ

    を試験機まで伸ばすことができます。

    図 23 人力での搬送方法

    図 24 積雪時の搬送方法

  • ③ 換算 N 値の測定

    自動式スウェーデンサウンディング試験機本体に N 値測定用のロッドを設置し、ロッド先端に

    ドリルビット(またはスクリューポイント)を取り付けます。ロッドの鉛直性を水平機やレーザ

    ー墨出し機等で確認しながら、ドリルビットを地盤表面にゆっくり貫入させます(図 26)。地表

    面から 30cm 以内でドリルビットが礫に当たった場合は、貫入を止め、礫を取り除いてから再貫

    入するか、もしくは設置場所を変えて試験をやり直します。 貫入中、時々、ロッドの鉛直性を

    確認します。

    スウェーデンサウンディング試験では、地下水位以下で塑性が高い粘性土の地盤では、ロッド

    にフリクションが発生して、計測される換算 N 値が過大に評価される場合があります。このよう

    な場合は、貫入試験を行う 2m ごとに孔壁を直径 1cm 程度拡径してから、次の深度 2m 分の貫入

    試験を行うようにします。

    ④ 堤体の強度分布の推定・孔内回転せん断試験位置の決定

    換算 N 値の結果を評価します。堤体内に弱部がないかを調べ、想定されるすべり面の深度も考

    慮して、孔内回転せん断試験を行う深度を決定します。排水せん断強度 cd、φdを求める場合は、

    堤体内水位の深度を推定し、水位よりも上で試験を行います。非排水せん断強度 cu、φuを求める

    図 25 試験機の設置

    図 26 ロッド貫入開始

  • 場合は、堤体内水位の深度を推定し、水位よりも下で試験を行います。すべり面深度と異なる位

    置に弱部がある場合は、弱部の深度でも孔内回転せん断試験を行います。(図 19 参照)

    ⑤ 孔内回転せん断試験のための孔の整形

    換算 N 値測定においてドリルビットで掘削した孔には、凹凸があります。孔内回転せん断試験

    の精度を向上させるため、直径 42mm のコーンを用いて試験位置の直上まで孔壁の拡径を行い、

    その後、直径 42mm のシンウォールサンプラーで不攪乱試料を採取しながら、せん断試験用の孔

    壁を整形します(図 27)。

    貫入試験の場合と同様に、軟弱な地盤で地下水位以下の場合は、孔壁が自立しにくく、せん断

    試験で計測されるトルクが過大になる場合があります。このような場合は、直径 40mm 以上の試

    験孔を拡径して、ケーシングを挿入します。

    ⑥ 現場密度試験

    せん断試験用の孔壁の作成と同時に、直径 38mm(外形 42mm、内径 38mm のサンプラー)の

    不攪乱試料を採取できます。この不攪乱試料を用いて、湿潤体積単位重量を測定します。不攪乱

    試料は調査後、持ち帰り、含水比を測定することによって、乾燥単位体積重量を算出することが

    できます。これにより、c、φと並んですべり安定解析に必要な土の密度を算定することができま

    す。

    ⑦ 孔内回転せん断試験の準備(せん断刃付きバルーンの飽和)

    回転トルクからせん断応力を求める際に、せん断刃付きバルーンの直径で補正する必要があり

    ます(トルクは半径に比例して大きくなるためです)。そこで、バルーン内部を水で飽和し、地上

    に設置したビューレットでバルーンに出入りする水量を測定することにより、バルーンの直径を

    図 27 整形された孔壁

  • 求めます。バルーンに注入した水の量からバルーンの直径を求めるためには、図 28 のように予め

    バルーン定数(バルーンに注水した水量からバルーン直径を求めるための係数)を定めておく必

    要があります。

    また、バルーンにかける内圧を段階的に上昇させ、そのときのバルーンの直径の拡大量を求め

    ることにより、孔内水平載荷試験と同様に、堤体土の降伏応力や変形係数を求めることができま

    す。(図 29)

    ⑧ 孔内せん断試験

    自動式スウェーデンサウンディング試験機に、飽和したせん断刃付きバルーン(図 30)とトル

    ク計(図 31)を設置します。整形した孔内に所定の深度までバルーンを挿入します。バルーンに

    段階的に水圧をかけ、そのときのビューレットの水位変化を記録し、バルーンの直径を求めます。

    図 28 バルーン定数

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    6

    0 20 40 60

    バルーン直径

    (cm)

    バルーンに注水した水量(cm3)

    1.0

    0.259

    バルーン定数 0.259

    図 29 降伏応力の測定例

    3.0

    3.5

    4.0

    4.5

    5.0

    5.5

    6.0

    6.5

    7.0

    7.5

    8.0

    10 100 1000

    バルーン直径(

    cm)

    バルーン圧力(kPa)

    緩詰め砂 密詰め砂

    102 111

  • ビューレットの水位変化が止まったら、回転せん断を開始します。回転速度は 1/12rpm 以下と

    なるように設定します。回転せん断中のトルクおよびビューレットの水位を記録します(図 32)。

    トルク値から孔壁に作用するせん断応力を算定します(図 21 参照)。

    同様の試験を深さ 15~20cm ずつ変えて、3 回以上行います(図 20 参照)。バルーン内圧から

    孔壁に作用する拘束圧を求め、せん断応力のピーク値とプロットすると、試験深度でのせん断強

    度 c、φが算定できます(図 21 参照)。

    ⑨ 孔内回転せん断試験結果の整理

    孔内回転せん断試験で計測されるデータは、バルーンの圧力 P、ビューレットの水位変化 h、

    回転トルク T です。これらのデータは、データ収録機で自動計測されます。

    始めに、バルーンに所定の水圧をかけたときのバルーン直径を求めます。バルーンに水圧をか

    ける前のビューレットの読みを h0、所定の圧力をかけた後の読みを h1 とすると、ビューレット

    の水位変化量 h は以下の式で算定できます。

    h = h1 − h0

    図 30 バルーンの設置

    図 31 トルク計

    図 32 トルク計測器(左)とビューレット(右)

  • このときのバルーンの直径は、バルーン定数を a,b(これらの値はバルーンに添付されている)と

    すると、バルーン直径 2r は、

    2r = a ∙ h + b

    次に、孔壁にかかる拘束圧σ は、バルーンの圧力 P から次式で求めます。K はバルーンの張力に

    関する係数(バルーン膨張係数)で、バルーンに添付されています。

    σ = K ∙ P

    回転せん断時の孔壁に作用するせん断応力 τ は、回転トルクから次式で求めます。

    τ =𝑇

    2𝜋𝑟2𝑙

    回転せん断中の回転角度に対して、τ をプロットすると、図 21 のグラフが得られます。τ のピー

    ク値を求め、σ に対してプロットすると、図 22 のグラフが得られます。3 回のデータの近似曲線

    を求め、切片と勾配を算定することにより、強度定数 c、φが得られます。

    実際の試験結果の整理は、図 33、図 34 のように、エクセルのマクロで算出できるようになっ

    ており、ノートパソコンがあれば、現場で c、φの算定が可能です。

  • 図 33 孔内回転せん断試験整理シート

    図 34 孔内回転せん断試験の結果出力

  • 4.7 自動式スウェーデンサウンディング試験機による攪乱試料の採取方法

    自動式スウェーデンサウンディング試験機に、図 35 に示すサンプラーを設置することによって、

    図 36 のように所定の深度の攪乱試料を採取することができます。サンプラーは、図 37 に示すよ

    うに、ロッドの長手方向に溝が切ってあり、ロッド正回転時にはロッド内に土が入らず、ロッド

    逆回転時には土が入るように、ツバが付いた構造となっています。サンプラーを所定の深度まで

    下ろすときには正回転させ、所定の深度に達したら逆回転して土を採取します。サンプリングに

    よりロッドを逆回転するときには、ロッドの接合部にピンを打って、ロッド間の接合がはずれな

    いようにします。このサンプラーで、粒度試験が可能な 150g 以上の攪乱試料を採取することが

    できます。

    図 35 攪乱試料採取サンプラー

    図 36 バルーン直径の測定

    図 37 サンプラー(攪乱試料)の構造(平面図)

    サンプラー逆回転

    地盤

    孔壁

  • 5. 透水係数の推定

    5.1 自動式スウェーデンサウンディング試験の試験孔を利用した現場透水試験

    透水係数は、自動式スウェーデンサウンディング試験機を用いた掘削した孔を用いて、「単孔を

    利用した透水試験(JGS 1314-2003)を実施し、現場透水係数を算定します。詳細は、「地盤調査

    の方法と解説 p378~393(地盤工学会)」を参照してください。

    孔内せん断試験を行った後、VP30 の塩ビパイプを試験孔に挿入します。塩ビパイプには、管

    内に水が入ってくるように穴もしくは溝を開けておきます。

    ① 非定常法

    比較的、堤体土の透水係数が小さい場合(コア土等)の試験法です。パイプ内の水を汲み上げ

    て一時的に水位を下げるか、または水を注水して一時的に水位を上げて、その後の水位変化を経

    時的に測定します。横軸に時間(秒)と縦軸に水位差(元の地下水位-測定中の水位)をプロット

    します。プロットの直線部分の勾配から透水係数を算出します。

    ②定常法

    比較的、堤体土の透水係数が高い場合(サヤ土等)の試験法です。パイプ内に水を注入し、パ

    イプ内水位が一定になるときの注水量を測定し、透水係数を求めます。

    5.6.2 粒度試験の結果から算出する方法

    攪乱試料の粒度試験と乾燥密度から求めた間隙比から、次式を用いて算定することもできます。

    (土質試験の方法と解説(地盤工学会)を参照)

    𝑘 =𝜌𝑤𝑔

    𝜂𝐶

    𝑒3

    1 + 𝑒𝐷𝑠

    2 (cm/s)

    𝜂 : 水の透水係数 (Pa・s)

    𝜌𝑤 : 水の密度 (g/cm3)

    C : 定数

    e : 間隙比