高齢者糖尿病患者への療養指導と看護の留意点 高齢...

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高齢者糖尿病患者への療養指導と看護の留意点 東京都健康長寿医療センター 糖尿病・代謝・内分泌内科 荒木 前身は養育院(渋沢栄一、 大久保一翁が設立に関与) 昭和47年に開設 550床 (内科系12科、外科系10科 など計24科) 糖尿病・代謝・内分泌内科 9階西病棟26床医師(常勤7人、シニア1人) 5回兵庫県糖尿病教育看護研修会(神戸) 高齢者糖尿病の療養指導と看護の注意点 1.認知機能の評価と対策 2.身体機能の評価と対策 3.低血糖の教育 4.血糖コントロール目標の考え方 糖尿病と認知症、軽度認知機能障害(MCI)との関連 AD 発症リスク 16 試験) VaD 発症リスク 10 試験) 認知症発症リスク 11 試験) MCI 発症リスク 2 試験) ( ):95% CI 1 0.5 5,700 3,519 5,247 393 36,191 23,026 32,900 2091 1.461.20-1.77糖尿病 非糖尿病 2 3 2.492.09-2.971.511.31-1.741.221.0-1.45発症リスクが低い 発症リスクが高い (Cheng G et al. Intern Med J 2012;42:484-91) メタアナリシス 認知機能低下(注意力、情報処理能力、実行機能、学習記憶)がおこりやすい セルフケアの障害がおこる 高齢(80歳以上)、高血糖、罹病期間が長い程、認知機能低下がおこりやすい 加齢と認知機能低下、認知症 25.5 26 26.5 27 27.5 28 28.5 29 65-69 70-74 75-79 80- MMSE(点) 高齢糖尿病患者907名(J-EDIT研究) 15 25 41 0 10 20 30 40 50 60 65-69 70-79 80- 認知症疑い (MMSE23点以下) 高齢糖尿病患者1135名 (平成9年度長寿科学研究) 年齢 年齢 *** *** 75歳~80歳以上で認知機能低下または認知症が増える ***P<0.001 *P<0.05

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Page 1: 高齢者糖尿病患者への療養指導と看護の留意点 高齢 …高齢者糖尿病患者への療養指導と看護の留意点 東京都健康長寿医療センター 糖尿病・代謝・内分泌内科荒木

高齢者糖尿病患者への療養指導と看護の留意点

東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科 荒木 厚

前身は養育院(渋沢栄一、

大久保一翁が設立に関与)

昭和47年に開設 550床

(内科系12科、外科系10科

など計24科)

糖尿病・代謝・内分泌内科

9階西病棟26床、

医師(常勤7人、シニア1人)

第5回兵庫県糖尿病教育看護研修会(神戸)

高齢者糖尿病の療養指導と看護の注意点

1.認知機能の評価と対策

2.身体機能の評価と対策

3.低血糖の教育

4.血糖コントロール目標の考え方

糖尿病と認知症、軽度認知機能障害(MCI)との関連

AD発症リスク(16試験)

VaD発症リスク(10試験)

認知症発症リスク

(11試験)

MCI発症リスク(2試験)

( ):95% CI

10.5

5,700

3,519

5,247

393

36,191

23,026

32,900

2091

1.46(1.20-1.77)

糖尿病 非糖尿病

2 3

2.49(2.09-2.97)

1.51(1.31-1.74)

1.22(1.0-1.45)

発症リスクが低い 発症リスクが高い(Cheng G et al. Intern Med J 2012;42:484-91)

メタアナリシス

認知機能低下(注意力、情報処理能力、実行機能、学習記憶)がおこりやすい⇒セルフケアの障害がおこる高齢(80歳以上)、高血糖、罹病期間が長い程、認知機能低下がおこりやすい

加齢と認知機能低下、認知症

25.5

26

26.5

27

27.5

28

28.5

29

65-69 70-74 75-79 80-

MMSE(点)

高齢糖尿病患者907名(J-EDIT研究)

15

25

41

0

10

20

30

40

50

60

65-69 70-79 80-

認知症疑い(MMSE23点以下)

高齢糖尿病患者1135名(平成9年度長寿科学研究)

年齢年齢

***

***

75歳~80歳以上で認知機能低下または認知症が増える***P<0.001

*P<0.05

Page 2: 高齢者糖尿病患者への療養指導と看護の留意点 高齢 …高齢者糖尿病患者への療養指導と看護の留意点 東京都健康長寿医療センター 糖尿病・代謝・内分泌内科荒木

情報処理能力や実行機能をみるStroopテスト

高齢糖尿病患者336名に脳MRIで脳梗塞(T2高信号かつT1低信号病変)を評価

(Araki A, et al. Geriatr Gerontol Int 2: 206-214, 2002)

15

20

25

30

*

**

Stroopテスト

糖尿病(+)

脳梗塞(-)

糖尿病無症候性脳梗塞(+)

糖尿病症候性脳梗塞

(+)

糖尿病(-)

実行機能障害は手段的ADL低下、服薬や食事の管理不良と関連する

MMSE P値 BDS(実行機能)

P値

手段的ADL -2.43 0.016 -4.91 0.000002

服薬管理スコア -1.27 n.s. −2.08 0.039

食事管理(自己申告)

- 0.43 n.s. −1.97 0.050

介護施設入所数 0.113 n.s. −2.53 0.012

外来・救急受診数 0.29 n.s. −2.61 0.01

(Tran D. J Behav Med 37: 414–422, 2014)

実行機能障害とアドヒアランス低下は高血糖の悪循環

実行機能障害

食事の支度の段取りが悪くなる

料理に必要な買い物ができない

治療のアドヒアランス低下

インスリン注射が打てない

内服薬の飲み忘れは多くなる

血糖コントロール不良

(Wasserman RM et al. Curr Diab Rep 15: 622, 2015)(Tran D. J Behav Med 37: 414–422, 2014).

実行機能:目的をもった一連の行動を自立して有効に成し遂げるために必要な機能実行機能障害:行動するための段取りが取れず、実行出来ない検査:Trail-making test, Stroop test, 符号, 言語流暢性、時計描画

認知機能の評価法1.改訂長谷川式認知症スケール) (6-10分):

2.Mini-Cog (2分以内)

3語の遅延再生と時計描画を組み合わせた検査

MMSEと同様の妥当性を有する

3.MoCA(Montreal Cognitive Assessment) (10分)

MCIをスクリーニングする検査(時計描画を含む)

MMSEよりも糖尿病患者の認知機能障害を見出す

4.DASC-21 (地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメ

ントシート) (5-10分)

介護職員やコメディカルでも施行できる21の質問

臨床的認知症尺度(CDR)と相関:重症度判定が可能

5.MMSE (ミニメンタルステート検査) (6-10分)

日本老年医学会ホームページのお役立ちツール(http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/)を参照

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時計描画試験とインスリン手技

高齢糖尿病患者30名(年齢:77.0±1歳、女性16名,男性14名、HbA1c:7.1±0.1%)

インスリン手技 正常 異常

チェックリストOK 5(83.4%) 1(16.6%)

小さな問題 8 (72.7%) 3 (27.3%)

大きな問題 3 (23.1%) 10 (76.9%)

(完全に施行できず) (2)

(p=0.01, Chi-square test)

(Trimble LA et al. CANADIAN JOURNAL OF DIABETES 29:102-104, 2005)

DASC-21:地域包括ケアシステムのための認知症アセスメントシート買い物、食事の準備、金銭管理などのIADLが含まれ、生活機能障害を評価

DASC-21:地域包括ケアシステムのための認知症アセスメントシート買い物、食事の準備、金銭管理などの手段的ADLが含まれている

DASC-21:地域包括ケアシステムのための認知症アセスメントシート

①合計点が31点以上の場合,「認知症」の可能性ありと判定する合計点が31点以上で,遠隔記憶、場所の見当識、社会的判断力、身体的ADLに関する項目のいずれかが3点または4点の場合は「中等度認知症」の可能性ありと判定する。 (http://www.dasc.jp)

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買い物と金銭管理がMCIを最も予測する

(Rodakowski J et al. J Am Geriatr Soc 62:1347–1352, 2014)

買い物+金銭管理

157人の高齢者の中で、38.8%がMCI、61.2%が正常

買い物支払い

金銭管理電話使用服薬管理

重要情報想起

買い物

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

1.1

1.2

1.3 認知正常MCI認知症

5

6

7

8

9

10

11

12

13

歩行速度(m/sec)

MCIの段階から歩行能力速度が低下し、手段的ADLの障害がおこる

*

ANOVAとDunnet 検定*P<0.05

Timed Up & Go(秒)

フレイル外来の高齢糖尿病患者91名(平均年齢77歳)

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

* ** *

高次ADL障害数

認知正常36名(39.6%)、MCI36名(39.6%)、認知症疑い19名(20.9%)

認知機能低下の早期発見のために

スクリーニング検査:MMSE、改訂長谷川式、DASC-21、時計描画、 Mini-Cog、MoCA-J

認知症の診断:認知機能障害+社会生活の障害

物忘れ手段的ADLの障害:買い物、金銭管理、食事の準備、交通機関を使って外出の障害セルフケア(服薬管理など)の障害心理状態の悪化:無気力、無関心、うつ歩行速度の低下

早期治療(運動、心理サポート、介護保険などの社会資源確保、コリンエステラーゼ阻害薬)

外来でできる認知機能低下を疑う3つの質問

1)一人で買い物はできますか?

2) 預金の出し入れや家

賃、公共料金の支払いは一人でできますか?

3)自分で、薬を決まった時間に決まった分量のむことはできますか?

家族の情報を得る

定期的な運動は認知症を予防する

0

5

10

15

20

25

運動 週に3回未満 週に3回以上

65歳以上の1740名の6.2年の追跡調査

認知症の発症(人/1000人年) 週3回以上定期的に運動

する人は認知症発症リスクが38%減少

(Larson EB et al. Ann Intern Med 2006;144:73-81, 2006)

70歳以上の糖尿病患者302名の7.8年の追跡調査

ハザード比

95%信頼区間

年齢(10歳増加) 4.00 1.59-10.10

糖尿病罹病期間(5年増加)

1.69 1.24-2.32

末梢動脈疾患 5.35 2.08-13.72

ウエスト・ヒップ比

0.21 0.07 -0.61

運動 0.26 0.09-0.73

(Bruce DG et al. Diabetologia 51:241-248, 2008)

糖尿病患者でも運動は認知症を防ぐ

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高血糖(HbA1c 8.2%以上)と重症低血糖は認知症の危険因子

平均血糖値 (mg/dl)(Crane PK et al. N Eng J Med 369: 540-548, 2013)

平均血糖値190 mg/dl(=HbA1c 8.2%)以上だと認知症

のリスクが1.4倍高まる

140 150 160 170 180 190 200

2.0

1.8

1.6

1.4

1.2

1.0

0.8

0.6

認知症発症のハザード比

糖尿病患者(平均年齢76歳)232例の約6.8年追跡調査

認知症がない糖尿病患者15,404 人(平均年齢64.2歳)の平均3.8年間の追跡調査

認知症のリスク

1

2.76 2.49 2.54

3.74

0123456789

10

なし あり 1回 2回 3回以上

入院を要する重症低血糖既往

(Lin CH et al. J Intern Med 273:102-110, 2013)

認知機能障害が重症になるにしたがって、低血糖のリスクが大きくなる

経口剤

インスリン05

1015202530

認知症認知機能障害

認知障害なし

13

9

6

27

20

16

低血糖頻度(%)

65歳以上の退役軍人497900人のデータベース(2002-2003年)

認知症のHbA1c:6.9±1.3%

認知症の約30%がインスリン治療

75歳以上

認知症の低血糖リスク: 2.4倍認知機能障害の低血糖リスク: 1.7倍

(Feil DG et al. J Am Geriatr Soc 59:2263-2272, 2011)

認知症と重症低血糖は双方向の関係 (メタ解析)

(Mattishent K et al. Diabetes, Obesity and Metabolism 18: 135–141, 2016)

重症低血糖があると認知症は1.68倍

認知症があると重症低血糖は1.61倍

MCI、認知症合併例の治療

1.BPSD(周辺症状)に対する対処:環境の整備、誘因(高血糖、低血糖、炎症、疼痛)の除去、抗認知症薬2.レジスタンス運動を含む運動療法

活動性を高める、転倒の予防3.バランス重視の食事、極端なエネルギー制限を避ける4.心理サポートと社会サポート5.柔軟な血糖コントロール目標6.治療の単純化

服薬数の減量と服薬タイミングの統一化強化インスリン療法⇒インスリン離脱やBOT

GLP-1受容体作動薬

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BPSDに対する接し方

• 一人ひとりの行動には必ず意味がある

• 徘徊:娘時代を過ごした故郷の家に帰ろうとしている」

• 自分が置かれている環境やケアへの反発

• 不可解な行動を叱ったりすることでますます不安感や孤独感を増し、BPSDが悪化するという悪循環に陥る

• 本人の形成している世界を理解し、大切にする

• 怒ったり責めたりごまかしたりしない

• 相手の主張を受け入れる

• 相手の心に寄り添い受容しながら信頼関係を養う

認知機能低下例の運動療法

1. 20の無作為化比較試験(対象:1378人)のメタアナリシ

スでは認知症患者の集中的な身体リハビリは移動能

力(mobility)や身体機能を改善

2. 認知症またはMCIの患者を対象とした研究では6〜12ヶ月の運動は、安静にした患者と比較して、認知機能

を改善(一部は海馬の容積を大きくし、脳萎縮を減少)

3. レジスタンス運動が有効

多要素を組み合わせた運動が有効

(Pitkälä K et al. Exp Gerontol. 2012 Aug 31. [Epub ahead of print]Ahlskog JE et al. Mayo Clin Proc. 2011;86:876-884.)

デイサービスよりもディケア・訪問リハビリの方がいい?

MCI、認知症患者の運動療法

• 認知正常またはMCIの患者の場合

市町村の運動教室(筋力トレーニングを含むもの)

ジム、エルゴメーター

水中ウォーキング

ヨガ、太極拳

• 軽度以上の認知症の場合

介護保険の認定(市町村)

デイケア 週2回以上を勧める

認知症疑いの糖尿病患者はエネルギー摂取量、脂

質エネルギー比が少ない (J-EDIT研究)

P=0.01

P=0.07

P=0.017

P=0.003

P=0.001女性 男性

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男性のビタミンB2、カロチン、パントテン酸の摂取低下は6年間の認知機能低下と関連する(JーEDIT)

-3

-2.5

-2

-1.5

-1

-0.5

0

ビタミンB2(mg/day)

-3

-2.5

-2

-1.5

-1

-0.5

0

カロチン(μg/day)

<0.96 0.97-1.10 1.11>

-3

-2.5

-2

-1.5

-1

-0.5

0

パントテン酸(mg/day)

MMSEの低下 MMSEの低下MMSEの低下

<5.01 5.02-5.57 5.58> <3919, 3920-5899 5950>

***

* b

(Araki A et al. Geriatric Gerontol Int 2016)

高齢糖尿病患者365名(登録時の平均年齢72歳)

*P<0.05, **P<0.01

9.3 8.9

18.3

33.3

0

5

10

15

20

25

30

35

認知機能低下と低血糖と複数回の転倒の要因高齢糖尿病患者168名 (平均年齢:76歳) と糖尿病がない対照43名

DM(-) DM (+) DM(+) DM(+)0 1~2 3 回/年

低血糖*P < 0.005

複数回の転倒頻度(%/年)

複数回の転倒OR (95% CI) P

MMSE ≦ 25 3.63 (1.23–10.73) 0.020

転倒リスク

スコア1.20 (1.01–1.43) 0.039

低血糖あり 3.62 (1.24–10.53) 0.018

多重ロジスティック回帰分析*

(Chiba Y, Araki A et al. Journal Diabetes Complications 29: 898–902, 2015 )

年齢、性、GDS15、Timed Up & Go Test を補正

高齢者糖尿病における3段階の認知機能評価の意義

ADL自立 手段的ADL低下(広義のフレイル)

基本的ADL低下(要介護)

死亡リスク

低血糖リスク

認知機能正常

軽度認知障害(MCI)

認知症(中等度以上)

転倒リスク

歩行速度低下

認知機能の早期発見(手段的ADL低下、歩行速度低下、DASC-21など)MCIの段階から運動、食事評価、心理サポート、適切な血糖コントロールを行う

高齢者糖尿病の療養指導と看護の注意点

1.認知機能の評価と対策

2.身体機能の評価と対策

3.低血糖の教育

4.血糖コントロール目標の考え方

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高齢者の身体機能をどのように評価するか?• 要支援、要介護

• 機能的自立か機能的依存

• 視力、聴力、コミュニケーション

• 基本的ADL(BADL):入浴、更衣など

• 手段的ADL(IADL):買い物、調理、金銭管理など

• 歩行能力、バランス能力、転倒歴:

4m歩行速度、Timed Up & Go test、片足立ち時間

• サルコぺニア(筋肉量、握力、歩行速度)

• フレイル:CHS基準、老研式活動能力指標、

基本チェックリストなど

Timed Up & Go test

手段的ADLと基本的ADL

• 手段的ADL:高次のADLで買い物、食事の準備、服

薬管理、金銭管理、交通機関を使っての外出などのより複雑で多くの労作が求められる動作

• 基本的ADLとは入浴、トイレの使用、更衣、移動、階段昇降、食事、排泄などの基本的な日常活動動作

• メタ解析:糖尿病患者は手段的ADLが1.65倍、基本的ADLが1.82倍低下しやすい (Wong E et al, Lancet Diabetes Endocrinol 1: 106–14, 2013)

• ADL自立、手段的ADL低下、基本的ADL低下の順に死亡のリスクが高くなる

加齢と高次ADL(手段的ADL)の障害数

0

0.5

1

1.5

2

2.5

65-69 70-74 75-79 80-

高齢糖尿病患者947名(J-EDIT研究)

高次ADL障害数 高次のADL:老研式活動能力指標IADL (手段的ADL)①バスや電車を使って外出②日用品の買い物③食事の用意④請求書の支払い⑤銀行預金・郵便預金の出し入れ知的能動性⑥年金などの書類が書ける⑦新聞を読んでいる⑧本や雑誌を読んでいる⑨健康についての記事や番組に関心社会的役割⑩友達の家を訪ねる⑪家族や友人の相談にのる⑫病人を見舞う⑬若い人に自分から話しかける

80歳以上で高次のADLが障害数が増加

手段的ADL低下、基本的ADL低下と身体機能が悪化するにつれて死亡のリスクが大きくなる

1

1.94

2.91

0

1

2

3

4

5

6

7

8

ADL自立 手段的ADL低下あり 基本的ADL低下あり

*死亡のハザード比

高齢糖尿病患者958名で手段的ADL低下(=買い物、食事の準備、預金管理、友人訪問の1個の障害)や基本的ADL低下(Barthel index1個以上の障害)と6年間の死亡を比較

*年齢、性、HbA1c、重症低血糖、SBP、合併症

数、血清アルブミン、MMSE、GDS-15、身体活動量を補正

(荒木ら 第59回日本糖尿病学会シンポジウム発表)

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狭義と広義のフレイルの概念加齢に伴う機能低下(予備能力低下)によって健康障害(要介護、死亡)に対する脆弱性が増加している状態

狭義のフレイル(Friedら)(体重減少、疲労感、筋力低下歩行速度低下、活動性低下)

全介助

身体活動低下低栄養サルコペニア

基本的ADL低下

手段的ADL低下

転倒せん妄要介護

入院施設入所

種々の疾患や機能障害などの欠損の蓄積(Rockwoodら)

広義のフレイル

死亡

認知機能低下うつ

社会サポート低下

+ストレス(感染、低血糖など)

広義のフレイルの指標:CSHA Clinical Frailty Scale

1 Very Fit:元気で、活発で活力にあふれる

2 Well:病気の症状がなく、しばしば運動をする

3 Managing Well:病気は治

療で落ち着いているが、通常歩行以上には活発でない

4 Vulnerable:日常生活に支

援は必要がないが、疲れやすい、歩行が遅くなった

5 Mildly Frail:手段的ADL(買い物、金銭管理など)の障害

6 Moderately Frail: 基本的ADLの障害、外や家の活動に介助を要する

7 Severely Frail:原因が何であれ完全に介助を要する

8 Very Severely Frail:完全に介助を要し終末期に近い

9 Terminally ill:終末期平均余命6ヶ月以内

フレイルの段階が進むと死亡しやすい=平均余命が短い

(Rockwood K et al. CMAJ 173:485-490, 2005)

-------------------------------------------

糖尿病とフレイル

• 糖尿病患者はフレイルをきたしやすい(Ricci NA et al. 2014, García-Esquinas E et al. 2015)

• 糖尿病とフレイルとの関連は生活習慣(身体活動量低下や栄養)、血糖や脂質のコントロール不良、腹部肥満、合併症で説明できる (García-Esquinas E et al. 2015)

• 高血糖(HbA1c 8.0%以上)の患者はフレイルをおこし

やすい (Kalyani RR et al. 2012)

• 低血糖もフレイルをきたしうる (Pilotto A et al. 2014)

• 大血管障害を合併するとフレイルがおこりやすい(Espinoza SE et al.2012)

糖尿病はサルコペニアをきたしやすい

• 未治療の糖尿病患者は四肢の除脂肪量が減りやすい(Lee CG et al. Diabetes Care

34: 2381-2386, 2011)

• HbA1c8.0%以上の患者は筋肉の質(筋力/筋肉量)が低下

(Park S W et al. Diabetes 55:1813-1818, 2006)

• 36か月間の追跡調査:HbA1c7.0%以上の患者はSPPBで評価した身体能力が低下しやすい

(Wang CP et al. Diabetes Care 34:268-273, 2011)

バランステスト

歩行速度

椅子から立ち上がり

SPPBで評価した身体能力筋肉量低下かつ筋力低下または身体能力低下

Page 10: 高齢者糖尿病患者への療養指導と看護の留意点 高齢 …高齢者糖尿病患者への療養指導と看護の留意点 東京都健康長寿医療センター 糖尿病・代謝・内分泌内科荒木

糖尿病患者は歩行能力、バランス能力などの身体能力が低下し、転倒のリスクになる

9.6

15.5

1213.2

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

Timed Up & Go 握力

糖尿病(-)(n=43)糖尿病(+)(n=168)

***

18.6

36.6

0

5

10

15

20

25

30

35

40

1年間の転倒(%)

**

**P<0.01, ***P<0.001

高齢糖尿病患者168名 (平均年齢:76歳) と糖尿病がない対照43名

2.05

0

1

2

3

4

5

Timed Up & Go

糖尿病患者の年齢、性、低血糖を補正した転倒リスク

13秒以上(Chiba Y, Araki A et al. J Diabetes Complications 29:898-902, 2015)

歩行の評価ーフレイル、サルコニアの共通の評価

Timed Up & Go test(TUG)

歩行速度

13秒以上は転倒しやすい

• 4mまたは5m歩行速度• 海外の歩行速度低下のカットオフ

値は0.8m/s• 日本人は1.0m/sをカットオフでもい

いという意見がある• 横断歩道は1.0m/sで歩行すること

に青の信号の時間を設定• 「横断歩道を渡りきれない」は歩行

速度の低下を示す

診察室の椅子からの立ち上がり、歩行状態に注意

1.つまずくことがある

2.手すりにつかまらず、階段の上り下りが出来ない

3.歩く速度が遅くなってきた

4.横断歩道を青のうちに渡りきれない

5.1キロメートルくらい続けて歩けない

6.片足で5秒くらい立っていることが出来ない

7.杖を使っている

8.タオルを固くしぼれない- - - - - - - - - - -- - - - - - - - - - -16.毎日おくすりを5種類以上のんでいる

17.家の中で歩くとき暗く感じる

18.廊下、居間などによけて通るものがおいてある

19.家の中に段差がある

20.家で階段を使う

21.生活上、家の近くの急な坂道を歩く

転倒リスクの評価が大切:転倒リスクスコア

転倒歴または

転倒リスクスコアが

10点以上の場合は

転倒予防の対策を

(鳥羽研二他:日老医誌42:346-352, 2005)

過去1年に転んだことがありますか?

(tentou.terumo.co.jp)

糖尿病患者における転倒要因とその予防対策

糖尿病合併症• 末梢神経障害• 起立性低血圧• 腎症• 脳卒中• 虚血性心疾患• 不整脈

筋力・バランス能力低下• バランス能力低下• 筋力低下• 歩行速度の低下

身体機能低下• ADL低下• うつ状態• 認知機能低下• 視力低下

血糖コントロール• 高血糖• 低血糖• HbA1c低値インスリン治療

その他

• 薬物数の増加• 転倒しやすい環境

• 肥満• 膝関節疾患• 前庭機能低下

転倒

転倒予防対策適切な血糖コントロール、レジスタンス運動、バランス運動、環境整備、薬剤数を減らす、ヒッププロテクター(マモリーナ®)、転倒防止靴下(アップウォーク®)

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レジスタンス運動の重要性• レジスタンス運動はインスリン抵抗性

を改善

• 段階的高強度のレジスタンス運動(PRT)を16週間行うと、除脂肪量(筋肉量)が増え、ADLやQOLが改善(Castaneda C, et al Diabetes Care 25:2335-

2341, 2002)

• GREAT2DO trial:RPTを週3回12ヶ月行い、 RPT群は骨格筋量が増加。骨格筋量が増えたPRT群では筋肉量の増加とHOMA-IRとHbA1cの改善度が相関(Mavros Y et al. Diabetes Care 36:2372-2379, 2013)

運動の指導者を養成する必要

糖尿病女性の標準体重当たりのエネルギー摂取、タンパク質摂取と高次のADL障害数

0

0.5

1

1.5

2

2.5

エネルギー摂取(kcal/kg)

0

0.5

1

1.5

2

タンパク質摂取(g/日)

年齢、HbA1c、脳卒中、網膜症を調整した高次のADL障害数

高次のADL障害数

-61.5 61.6-68.6 68.7--29.0 29.1-34.7 34.8-

*** **P<0.05***P<0.001 vs 最大3分位群

J-EDIT研究に参加した高齢糖尿病患者837名(年齢72±5歳)

身体機能(フレイル、サルコペニア)を考慮した食事療法

1.バランス重視の食事を

糖質60%、蛋白15-20%、脂質20-25%

食物繊維やビタミン摂取を充分とる

腎機能が問題なければ充分な蛋白をとる(70g/日以上)

低栄養のリスクがある高齢者の蛋白質は1.2-1.5g/kg体

重以上/日が望ましい(Pedersen AN et al. Food Nutr Res 58, 2014)

2.極端なエネルギー制限を避ける

理想体重×28~30kcal

肥満の人は25をかけることもあるが、1200kcalが下限

十分なエネルギー量を確保する

体重減少(筋肉量の減少)に注意する

フレイル、ADL低下を合併した患者の治療

1.レジスタンス運動(Singh NA, et al。2012;13:24-30)、

多要素の運動( Binder EF et al. 2002):は転倒減少、歩行能力、

バランス能力、筋力の改善 (Cadore EL, et al. Rejuvenation Res 2013)

2.充分なエネルギーとタンパク質摂取:体重減少を避ける3.安全な薬物治療:フレイルの患者でのGLP-1、メトホルミン、SGLT2阻害薬、ピオグリタゾンの使用は注意を要する4.柔軟な血糖コントロール目標5.治療の単純化:脱強化療法

強化インスリン療法⇒①インスリン離脱②持効型インスリン(BOT)③週1回GLP-1受容体作動薬

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手段的ADLの質問票1.Lawtonの尺度:買い物、食事の準備、金銭管理、服薬管理、電話をする能力、家事、洗濯、移動の形式2.老研式活動能力指標:手段的ADL(買い物、食事の準備、請求書の支払い、交通機関を使っての外出など)、知的能動性(本・雑誌を読むなど)、社会的役割(友人への訪問など)の13項目3.DASC-21:21の質問の中に、手段的ADLの買い物、食事の準備、金銭管理、交通機関を使っての外出、などが含まれている

日本老年医学会ホームページのお役立ちツール(http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/)を参照

1.Barthel Index:入浴、更衣、トイレの使用、移動、排便、排尿、整容、食事、起居移乗、階段の10項目からなる2.Katz Index: 入浴、更衣、トイレの使用、移動、排尿・排便、食事の6つの領域のADLに関して7段階の判定を行う3.DASC-21:21の質問の中に、基本的ADLの入浴、更衣、トイレの使用、移動、整容、食事が含まれている

基本的ADLの質問票

基本チェックリスト(厚生労働省作成)ー介護予防検診手段的ADL(高次ADL)

交通機関を使って外出買い物預金の管理

フレイル・サルコペニア階段昇る椅子から立ち上がり歩行(15分)転倒歴体重減少

認知機能障害物忘れ見当識

高齢者糖尿病における3段階の身体機能評価の意義

ADL自立 手段的ADL低下(広義のフレイル)

基本的ADL低下(要介護)

死亡リスク

低血糖リスク

認知機能正常

軽度認知障害(MCI)

認知症(中等度以上)

転倒リスク

歩行速度低下

手段的ADL、基本的ADL、歩行の評価、転倒リスクの評価を行う手段的ADL低下の段階から運動、食事療法、適切な血糖コントロールを行う

高齢者糖尿病の療養指導と看護の注意点

1.認知機能の評価と対策

2.身体機能の評価と対策

3.低血糖の教育

4.血糖コントロール目標の考え方

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高齢者糖尿病における低血糖の影響

1.神経糖欠乏症状として認知機能障害 (Warren & Frier 2005)

2.うつ症状や糖尿病負担感の増加、QOLの低下(Araki et al. 2004, Laiteerapong et al. 2011)

3.(複数回を含む)転倒と転倒関連の骨折(Johnston et al. 2012、Chiba, Araki et al. 2015)

4.フレイル (CGAに基づいた) (Pilotto A et al. 2014)

5.重症低血糖: 認知症や認知機能低下の危険因子(Whitmer et al. 2009, J-EDIT研究)

6.心血管疾患の危険因子 (Goto A et al. 2013)

7.死亡の危険因子 (ADVANCE研究, J-EDIT研究)

低血糖症状は氷山の一角

低血糖無自覚または

見逃されている

非典型的で微妙な症状

=神経糖欠乏症状

頭がくらくらする、体がふらふらする、

めまい、脱力感、ぼやけて見える、言語

不明瞭、動作がぎこちない、眠気、集中

困難、仕事の能率が落ちる、混乱、せん

妄、意欲低下

⇒いつもと違った症状がある場合はブドウ糖をとる

一角

自律神経症状の発汗、動悸、ふるえは消失

高齢者糖尿病では重症低血糖のリスク評価が大切

糖尿病関連因子

インスリン

SU薬(とくに長時間作用)

HbA1c低値(7.5%未満)

HbA1c高値 (インスリン治療)

合併症 (蛋白尿, 神経障害,

脳卒中, IHD, 心不全)

長期罹病期間

無自覚性低血糖

加齢と関連する因子

認知症、認知機能低下

ADL低下、フレイル

うつ病

低栄養 (BMI20未満)

腎機能障害(eGFR 45ml/

min/1.73 m2未満)

炎症(感染症)

肝機能障害

多剤併用と薬物相互作用

社会サポート不足

低血糖症状、対処法、炭水化物の量を一定に、食事摂取低下、下痢・嘔吐時の対処⇒SU薬中止、インスリン減量

低血糖の高リスクの患者に対する教育

空腹時血糖、HbA1cと低血糖プライマリケアの40歳以上の糖尿病患者3810人を対象に低血糖を調査インスリンやGLP-1受容体作動薬使用例は除く

70歳以上で空腹時血糖110mg/dlで未満で低血糖がふえる

60歳以上でHbA1c7.0%未満で低血糖がふえる

(Bramlage et al. Cardiovascular Diabetology 11:122, 2012)

60歳未満

60歳未満

70歳以上70歳以上

60-69歳

60-69歳

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SU薬とインスリンの低血糖は午前5~6時が多い

(Rajendran R, et al. BMJ Open;4:e005165, 2014)

インスリン

SU薬

5~7時

12時 16時22時

低血糖を防ぐための高齢者の血糖測定のポイント

1.1日4回血糖測定(毎食前血糖+眠前血糖) 週1回が理想

2.夜間低血糖の評価:朝5~6時の血糖をチェック

3.同じ時間に血糖100mg/dl未満が2回連続した場合には

SU薬や責任インスリンを1~2単位減量ができないかを考慮

4.血糖の変動が大きいか評価

日内変動・日差変動はあるか?

重症低血糖を防ぐための療養指導

1.低血糖の予測

HbA1c 7.0%未満、SMBG (朝5時も)

食前血糖100mg/dl未満の連続

2.重症低血糖の高リスク患者

3.低血糖教育を患者と介護者に

①低血糖の非典型的な症状とその対処法

②欠食や食事の炭水化物摂取量の変化を少なくする

③運動しすぎた時の対処法:

間食またはあらかじめインスリン減量

④食事摂取が低下した際や下痢・嘔吐の際の対処法:

SU薬中止、インスリン減量

高齢者糖尿病の療養指導と看護の注意点

1.認知機能の評価と対策

2.身体機能の評価と対策

3.低血糖の教育

4.血糖コントロール目標の考え方

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血糖コントロールと脳卒中発症(J-EDIT研究)

インスリン治療を行っていない糖尿病患者664名を対象にHbA1c 7.0-8.4%の患者の脳卒中発症のリスクを1とすると、

HbA1c8.5%以上の患者の年齢

性を補正した脳卒中発症ハザード比は2.63(95%CI:1.11-6.02)

HbA1c7.0%未満の患者の脳卒中発症ハザード比は2.35(95%CI:1.02-5.42)

脳卒中発症の

ハザード比

(荒木 厚,井藤英喜:日本老年医学会雑誌52:4-10, 2015)

HbA1c8.5%以上

HbA1c7.0%未満

HbA1c7.0-8.4%

HbA1c低値(7.0%未満)は転倒・骨折と関連

75歳以上の111人の後向き調査:転倒と1年間の転倒と関連した因子

相関係数

P値

VES-13(機能低下)

0.29 <0.001

VES-13(自己評価健康度)

0.20 0.02

VES-13(身体活動)

0.48 <0.001

HbA1c7.0%未満 0.24 0.011

神経障害 0.24 0.006

(Nelson et al. J Am Geriatr Soc 55: 2041-2044, 2007)

3.03

2.38

1.181

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

<6.0% 6.1-7.0 7.0-8.0 ≧8.0

*大腿骨頸部骨折のオッズ比

HbA1c (%)(Puar TH et al. J Am Geriatr Soc 60:1493-1497, 2012)

大腿骨頸部骨折で入院した糖尿病患者558名(平均年齢77歳)と年齢

性、人種、罹病期間、併発症をマッチさせた対照558名

HbA1cと老年症候群、合併症、死亡

HbA1c 7.0%未満脳卒中、転倒、骨折、重症低血糖のリスク

HbA1c9.0~10%以上急性合併症、感染症、死亡のリスク

重症低血糖

死亡、心血管疾患、認知症

転倒、骨折、フレイルのリスク

HbA1c 8.0%以上認知症、うつ、転倒、骨折、サルコペニア、フレイルのリスク

7.0-7.5%が最も安全

日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会

高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)の基本的な考え方

①血糖コントロール目標は患者の特徴や健康状態、とくに認知機能やADL、併存疾患、重症低血糖のリスクなどを考慮して設定

②重症低血糖が危惧される場合は、目標下限値を設定し、より安全な治療を行うこと

③これらの目標値や目標下限値を参考にしながらも、患者中心の個別性を重視した治療を行う観点から、それらを下回る設定や上回る設定を柔軟に行うことが可能

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高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)

治療目標は、心理状態、社会・経済状況(家族のサポート体制)、患者や家族の希望などを考慮し、再度考えてみる

SU薬、インスリンで治療

後期高齢者(75歳以上)または前期高齢者+(カテゴリーⅡ)

手段的ADL低下/MCI~軽度認知症*

HbA1c 8.0%未満(下限値7.0%)

(カテゴリーⅢ)中等度以上認知症または基本的ADL低下、または多くの併存疾患

HbA1c 8.5%未満(下限値7.5%)

前期高齢者+(カテゴリーⅠ)認知機能正常、ADL自立

HbA1c 7.5%未満(下限値6.5%)

Yes

Yes

Yes

No

Yes

従来の糖尿病学会の目標値下限値なし

No

No

チームでできること:高齢者総合機能評価領域 評価項目、評価ツール例

手段的ADL、基本的ADL

老研式活動能力指標(外出、買い物、調理など)Barthelの指標

サルコペニアフレイル視力・聴力

歩行速度、Timed Up & Go Test、握力、四肢筋肉量(DXA法・BIA法)、Clinical Frail Scale 眼科、耳鼻科

認知機能DASC-21、Mini-Cog、MMSEまたは改訂長谷川式知能検査、MoCA

うつ 高齢者うつスケール(GDS-5、GDS-15)

低栄養 体重減少、摂食量低下、MNA-SF

薬物重症低血糖のリスク評価、腎機能評価、多剤併用、薬物相互作用、アドヒアランス

社会・経済状況キーパーソン、独居、社会サポート、社会ネットワーク、経済状況、介護サービスの利用