観光開発のあり方と地域の持続可能性repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/180054/1/kronso... ·...

20
査読付き論文 観光開発のあり方と地域の持続可能性 ――台湾におけるメディア誘発型観光の発展についての考察―― はじめに 近年,国家や地域の発展政策に,国際観光を 取り入れる傾向が強まっている。発展途上国, とりわけ東・東南アジア諸国の国家発展計画は, これまでより経済効果が高く,より多くの雇用 機会を作り出せる製造業に重点を置き,目に見 える経済統計数値を上昇させることに専念して きた。しかし,ここ20 年ぐらいの間,外部経済 環境の変化及び自然環境悪化の影響により,一 部の国の国家発展政策はその基本方針を転換し つつある。その発展方向は, GDP や GNP の 増大に直接つながる産業政策だけではなく,労 働者の所得向上を重視すること,さらなる高 い「生活の質」を追求すること,環境保護や 持続可能な発展などを志向するものである。こ れらの方向性を満たすものとして,観光産業が 着目されている。 観光産業は,国際観光に関する需要が年々増 大していくと見込まれていることもあり 1) ,外 貨を獲得できる有望な産業として,国家発展政 策の中に取り入れられつつある。たとえば,日 本では 1995 年より観光客の誘致を国家発展政 策に取り入れ,「ウェルカムプラン21 2) 」を策定 した。観光産業を台湾の国家発展計画として最 初に取り入れたのは,陳水扁政権であり,具体 的には 2002 年5月に発表した「挑戦 2008:国 家発展重点計画」の「観光客倍増計画 3) 」であっ た。また,国家レベルだけではなく,地方レベ ルにおいても産業の空洞化が進み,経済の基盤 が緩んでいく懸念から,各地方政府が,地域に 存在している自然環境や文化などを観光資源に 生かし観光客を誘致することによって,地域経 済を振興する動きが現れてきた。こうした背景 から,国際観光の誘致に関わる政策について考 察する重要性が高まってきたと考えられる。 自然観光資源と人文観光資源はともに,その 国や地域における固有の資産であり,海外の観 光客を引き寄せる競争優位をもつ資源である。 そこで,政府が観光政策を策定する際に,自然 観光資源だけでなく当該地域の人文観光資源の 重要性をも重視しなければならない。 本論文の対象である台湾の場合,人文観光資 源の発展に関して,文化的には中国と同じルー ツから発展してきており,中国と類似した文化 をもつがゆえに,国際観光市場においては中国 と競争することは避けられない状況に置かれて 経済論叢(京都大学)第 184 巻第4号,2010 年 10 月 受理日 2010 年9月3日,採択日 2011 年9月6日 シニアエディタ:渡辺純子 1)世界観光機関(WTO)の統計データによると, 1990 年における国際観光客到着数は4億 3900 万 人,2000 年は6億 8700 万人(対 1990 年比 56.49%) であった。そして,2010 年は 10 億 6400 万人(対 2000 年比 54.88%),2020 年 15 億 6110 万人(対 2010 年比 46.72%)の国際観光客到着数が予測され ている。 2)「ウェルカムプラン 21」において,2005年までに 外国人観光客を 700 万人誘致することが目標であ る。 3)「観光客倍増計画」において,2008年までに外国人 観光客を 500 万人誘致することが目標である。

Upload: others

Post on 11-Oct-2019

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

査読付き論文

観光開発のあり方と地域の持続可能性――台湾におけるメディア誘発型観光の発展についての考察――

蔡 美 芳

Ⅰ はじめに

近年,国家や地域の発展政策に,国際観光を

取り入れる傾向が強まっている。発展途上国,

とりわけ東・東南アジア諸国の国家発展計画は,

これまでより経済効果が高く,より多くの雇用

機会を作り出せる製造業に重点を置き,目に見

える経済統計数値を上昇させることに専念して

きた。しかし,ここ 20 年ぐらいの間,外部経済

環境の変化及び自然環境悪化の影響により,一

部の国の国家発展政策はその基本方針を転換し

つつある。その発展方向は,⑴ GDPや GNPの

増大に直接つながる産業政策だけではなく,労

働者の所得向上を重視すること,⑵さらなる高

い「生活の質」を追求すること,⑶環境保護や

持続可能な発展などを志向するものである。こ

れらの方向性を満たすものとして,観光産業が

着目されている。

観光産業は,国際観光に関する需要が年々増

大していくと見込まれていることもあり1),外

貨を獲得できる有望な産業として,国家発展政

策の中に取り入れられつつある。たとえば,日

本では 1995 年より観光客の誘致を国家発展政

策に取り入れ,「ウェルカムプラン 212)」を策定

した。観光産業を台湾の国家発展計画として最

初に取り入れたのは,陳水扁政権であり,具体

的には 2002 年5月に発表した「挑戦 2008:国

家発展重点計画」の「観光客倍増計画3)」であっ

た。また,国家レベルだけではなく,地方レベ

ルにおいても産業の空洞化が進み,経済の基盤

が緩んでいく懸念から,各地方政府が,地域に

存在している自然環境や文化などを観光資源に

生かし観光客を誘致することによって,地域経

済を振興する動きが現れてきた。こうした背景

から,国際観光の誘致に関わる政策について考

察する重要性が高まってきたと考えられる。

自然観光資源と人文観光資源はともに,その

国や地域における固有の資産であり,海外の観

光客を引き寄せる競争優位をもつ資源である。

そこで,政府が観光政策を策定する際に,自然

観光資源だけでなく当該地域の人文観光資源の

重要性をも重視しなければならない。

本論文の対象である台湾の場合,人文観光資

源の発展に関して,文化的には中国と同じルー

ツから発展してきており,中国と類似した文化

をもつがゆえに,国際観光市場においては中国

と競争することは避けられない状況に置かれて

経済論叢(京都大学)第 184 巻第4号,2010 年 10 月

受理日 2010 年9月3日,採択日 2011 年9月6日

シニアエディタ:渡辺純子

1)世界観光機関(WTO)の統計データによると,

1990 年における国際観光客到着数は4億 3900 万

人,2000 年は6億 8700万人(対 1990 年比 56.49%)

であった。そして,2010 年は 10 億 6400 万人(対

2000 年比 54.88%),2020 年 15 億 6110 万人(対

2010 年比 46.72%)の国際観光客到着数が予測され

ている。

2)「ウェルカムプラン 21」において,2005 年までに

外国人観光客を 700万人誘致することが目標であ

る。

3)「観光客倍増計画」において,2008 年までに外国人

観光客を 500万人誘致することが目標である。

いる。しかし,海外の観光客から見ると,中国

の人文観光資源がもつスケールの大きさに対し

て,台湾における中国文化的な人文観光資源が

見劣りするのは避けられない事実である。した

がって,台湾にとっては,中国文化の縮小版を

打ち出すよりも,むしろ台湾独自の文化資産を

国際観光市場にプロモートすることこそ,競争

力を高める道であると考える。

2008 年北京オリンピックの開幕式のパ

フォーマンスで,多様多彩な中国文化が紹介さ

れた。これを機にさらなる北京観光を振興しよ

うという期待が,中国の観光関係者の企画の背

景にあった4)。台湾でも,翌 2009 年に高雄で行

なわれた「ワールドゲームズ 2009」の開幕式は,

観光を促進するよいチャンスだとみなされ,台

湾独自の文化を代表する「八家将」,「布袋戲」

等などがプロモーションの主役として登場し

た。しかし,これを見て,「これほど地味なもの

が国際的な場面に登場するとは思いもしなかっ

た」という台湾人が多かった。それは,多くの

台湾人がこれらの台湾文化の観光価値に対する

理解が不足しているからだ。したがって,台湾

国民による台湾の文化資産がもつ価値に対する

理解の強化も国際観光誘致の重要な一環である

と言える。前述のように,本研究の目的は,第

一に台湾独自の文化を国際観光市場にプロモー

トすることの重要性とともに,第二に台湾国民

による自国の文化資産のもつ価値に対する理解

を強化することの必要性を,地域の持続的発展

における「メディア誘発型観光」の可能性を探

る視点から明らかにすることにある。

本論文は,第Ⅲ節で台湾が保持する文化資産

の分布,そしてこれらの文化資産が人文観光資

源として利用されている現状について説明す

る。第Ⅳ節では,1950 年代から 2000 年代まで

各時期の,台湾の観光史における意義を論述し,

政府の観光政策と行政,組織面の歴史的流れを,

人文観光資源の発展といった視点から分析する

ことによって,台湾で人文観光資源が発展しな

かった原因について理解する。第Ⅴ節では,近

年最も注目されている地方観光に関する促進政

策である「メディア誘発型観光」を説明するう

えで,台湾で行なわれている「メディア誘発型

観光」の発展状況から政府の人文観光資源に関

する発展政策の問題点を説明する。最後に,第

Ⅵ節で結論をまとめる。

Ⅱ 研究課題と先行研究

上記の目的を果たすために,本研究ではまず,

中国を離れて台湾に渡来した移民が,オランダ

統治時代,明朝・鄭成功時代,清朝,日本統治

時代を経て,この地で生み出した文化を現代に

伝える文化資産として,いかなるものが存在し

ているか,また,これらの文化資産が人文観光

資源として利用されている現状について考察す

ることを研究課題とした。結論を先取りすれ

ば,台湾政府5)が発表した統計データを分析す

ると,台湾における歴史的建造物は人文観光資

源として十分に利用されていないことが明らか

となる。また,台湾における文化資産の保護活

動が本格的に始まったのは,2000 年代であっ

た。この開始時点は東・東南アジア諸国と比べ

て遅れていると言える。大橋[2004]によれば,

韓国は 1960 年代から文化資産の保護に着手し

始めたことが明らかにされており,また,陳

[1986]によればインドネシアは 1970 年代に

それを開始したことが報告されている。

第 184 巻 第4号82

4)北京オリンピック(8月)は当初,集客が期待さ

れていたが,警備・入国管理の厳格化などの影響も

あり,中国への旅行需要は期待されたほど増加しな

かった。北京オリンピックが開催された 2008 年8

月に中国を訪れた外国人旅行者数(香港,マカオ,

台湾からの旅行者数を含む)は,前年同月比 7.0%

減であった(日本政府観光局[2009]3ページ)。

5)行政院文化建設委員会文化資産総管理処,交通部

観光局。

では,なぜ台湾において人文観光資源として

十分に利用されていないのかということについ

ては,未だ解明がなされていないと言える。人

文観光資源の発展と最も関わりの深い政府の観

光政策面と組織面の歴史的流れを追った,台湾

の観光政策史に関する研究文献としては,楊正

寛のものしかないと言える。楊[2000]及び楊

[2001]は,1950 年代以降から 1990 年代まで

の台湾観光に関する政策,行政及び規制を系統

的にまとめている。楊は,同研究の中で,50 年

代を萌芽期,60 年代を成長期,70 年代を転形期,

80 年代を最盛期,90 年代を再造期と称し,政策,

行政,規則といった三者の間の循環性について

論述した。だが,政策や行政に関する歴史は概

説にとどまっており,台湾における人文観光資

源の利活用・発展に関する分析は行なわれては

いない。そこで,本論文では政府の観光政策と

行政,組織面の歴史的流れを,人文観光資源の

発展といった視点から分析を行なうことを第二

の具体的課題としたい。ただし,中央政府の観

光主管機関と地方政府の組織面だけから台湾の

人文観光の促進状況を考察する方法をとるた

め,両者の役割分担に関しては本研究では論述

しないことにする。また,台湾の観光史につい

ての研究は 90 年代までのものしかなく,本研

究では 1990 年代以降 2000 年代にまで対象時期

を延長することをめざす。そのことによって,

台湾の観光史の時期区分の再検討も可能になる

と考える。

第三に,台湾の人文観光資源が発展しない原

因を解明したうえで,現段階において台湾の各

地方政府が人文観光資源を利用して観光客を誘

致するために策定した戦略をどのようにとら

え,そしてその問題点を見出すことが喫緊の課

題である。その際,各地域の文化に富んだス

ポットをメディアコンテンツ(テレビドラマ,

映画や漫画など)に取り入れて観光客を誘致す

る「メディア誘発型観光」が効果的だと思われ

る。先行研究の中で,最初に「メディア誘発型

観光」という現象を取り上げたのは Roger and

van Doren[1992]である。それによって,1990

年代後半から,「メディア誘発型観光」に関する

研究が盛んになった(Roger et al.[1998],

Busby and Klug[2001])。特に 2000 年代後半

から韓国と日本の映画やドラマをきっかけに起

こった「メディア誘発型観光」が大いに注目を

集めている6)。本研究によって,韓国と日本の

成功例に倣い,台湾の地方政府も「メディア誘

発型観光」に期待を寄せ,地方の文化を取り入

れたテレビドラマや映画作品に奨励政策を策定

したことが明らかとなる。本論文では,台湾各

地の地方政府が行なっている奨励政策と「メ

ディア誘発型観光」に関連すると思われる映画

やテレビドラマとの相関性を分析し,その問題

点を検出したいと考える。また,今日国際的に

注目されている観光戦略の中の1つである「メ

ディア誘発型観光」の台湾における発展状況か

ら,その問題点を見出したい。

Ⅲ 台湾における人文観光資源の開発

日本交通公社調査部編[1994]の分類によれ

ば,観光資源には4つの種類がある。すなわち,

①自然観光資源,②人文観光資源Ⅰ,③人文観

光資源Ⅱ,④複合観光資源といった4種類であ

る。溝尾良隆はそれに加え,「無形社会資源(風

俗,衣食住,芸術,言語)」を観光資源に入れ,

5種類の観光資源をまとめた。さらに,これら

の観光資源の将来価値の増減可能性によって,

自然観光資源,人文観光資源Ⅰ及び複合観光資

源に「今後とも価値が減じない資源」という特

性を,人文観光資源Ⅱ及び無形社会資源に「将

来の価値が保証されるとは限らない資源」とい

う特性を付けた。溝尾[1998]によると,狭義

の観光資源は「今後とも価値が減じない資源」

観光開発のあり方と地域の持続可能性 83

6)たとえば,纓坂[2008],内田[2009]及び鈴木[2010]

による。

であり,広義の観光資源はそれに加えて「将来

の価値が保証されるとは限らない資源」を含ん

でいる。

本論文でいう人文観光資源は狭義の観光資源

の中にある人文観光資源Ⅰを指している。岡田

[2004]のまとめによると,それはすなわち史

跡,社寺,城跡・城郭,庭園・公園,歴史景観,

年中行事,碑・像などの「長い時間の経過を経

て,価値が出た資源で,今後とも,その魅力が

減じないもの」である。今現在長い時間を経た

という条件に絞りたいため,戦前まで存在し続

けてきた人文観光資源に限定する。本研究は台

湾の文化資産総管理処の発表した台湾の文化資

産リストに基づいて研究対象を選定する。その

うち,伝統芸術,文献,民俗,信仰,祭り,古

物などの1つのスポットになれない無形の資産

に関しては言及せず,特定の地域に立地し,1

つの観光スポットになりうる歴史的建造物(古

跡・歴史建築,遺跡,集落,産業施設,文化景

観)だけを研究対象とする。

台湾で人文観光資源が重視され始めたのは,

わずか 10 年ほど前のことであり,人文観光資

源の開発は遅れている。2000 年に開かれた「21

世紀台湾発展観光新戦略」セミナーで専門家の

合意した結論に基づき,地域観光を中心とした

「国内旅遊発展方案」が策定された。同方案に

おいて人文観光資源に関する重要な政策である

「各県や市において,最少1カ所の国際級の観

光スポットや地域の個性が溢れた観光スポット

を開発する」とされた。この方案は翌年から実

施に移された。これを機に,地域の歴史文化を

人々に伝える文化資産の鑑定・登録作業が一層

盛んになった。本節では,台湾における文化遺

産の分布及びそれらが人文観光資源に利用され

る現状を考察し,台湾政府による人文観光資源

の開発の到達点を明らかにしてみたい。

1 台湾における文化資産の分布

台湾における文化資産に関する政府の保護

は,1980 年代の初期に始められた。1982 年5

月 26日に「文化資産保存法」が施行され,同法

の施行に伴い,政府は台湾の歴史学,考古学,

建築学などの分野の学者やエキスパートに要請

し,台湾における文化資産を対象とした鑑定作

業を開始した(黃[1998])。最初(1983 年 12 月

28 日)に「第一級古跡(現在の国定古跡)」に定

められたのは,台北県の淡水紅毛城をはじめ,

澎湖県の天后宮や台南県の孔子廟などといった

14 カ所である。それから 2010 年7月 31 日ま

でに,計 1920件の文化資産が登録された。そ

のうち,本論文の研究対象となる歴史的建造物

が 1617件ある。それに加えて,無形文化資産

である「民俗」が 55件,「伝統芸術」が 73件,

「古物」が 162件,「文献」が 13件ある(表1)。

なお,歴史的建造物のうち,古跡・歴史建築が

1557件,集落が4件,遺跡が 36件,文化景観が

19件ある。古跡・歴史建築の多くは台北市(239

件),金門県(189件),台南市(121件),宜蘭

県(97件),彰化県(93件)に存在している。

古跡・歴史建築が最も乏しい地方は連江県(3

件),嘉義県(26件),嘉義市(28件),新竹市

(28),苗栗県(29件)である(図1)。古跡・

歴史建築の多くは日本統治時代に造られたもの

である(計 749件,全体の約半分ぐらい)。その

次に多いのは清朝から残されたものの 480件で

ある。台湾の人文観光資源の中で最も珍しいと

言える明朝とそれ以前から残された 300 年以上

の歴史をもっている古跡・歴史建築は計 98件

あり,その多くは金門県(34件)と台南市(30

件)に存在している(表2)。

第 184 巻 第4号84

観光開発のあり方と地域の持続可能性 85

表1 1983年∼2010年 台湾における文化資産登録の推移

(単位:件)

歴史的建造物

民俗 伝統芸術 古物 文献 合計

1983年 14 0 0 0 0 14

1984年 0 0 0 0 0 0

1985年 189 0 0 0 0 189

1986年 0 0 0 0 0 0

1987年 4 0 0 0 0 4

1988年 20 0 0 0 0 20

1989年 1 0 0 0 0 1

1990年 0 0 0 0 0 0

1991年 14 0 0 0 0 14

1992年 6 0 0 0 0 6

1993年 5 0 0 0 0 5

1994年 2 0 0 0 0 2

1995年 3 0 0 0 0 3

1996年 2 0 0 0 0 2

1997年 10 0 0 0 0 10

1998年 76 0 0 0 0 76

1999年 37 0 0 0 0 37

2000年 31 0 0 0 0 31

2001年 48 0 0 0 0 48

2002年 117 0 0 0 0 117

2003年 264 0 0 0 0 264

2004年 188 0 0 0 0 188

2005年 112 0 0 0 0 112

2006年 162 4 3 0 0 169

2007年 142 6 10 9 0 167

2008年 71 21 22 67 1 182

2009年 65 20 26 83 12 206

2010年 34 4 12 3 0 53

合計 1617 55 73 162 13 1920

構成比(%)

84.22 2.86 3.80 8.44 0.68 100

合計1920件

注)2010年7月31日現在。

出所:行政院文化建設委員会文化資産総管理処籌備處のデータに基づき,筆者が作

成。

2 文化資産の人文観光資源としての利用状況

続いて,台湾における文化資産が観光資源と

して利用されている現状を見てみよう。最近5

年間の観光地の受入者数を観光地の類型別から

見ると,最も観光客の訪問が多い3つの類型は

公営観光区,国家風景区,及び歴史的建造物で

ある7)(表3)。2004 年と 2006 年を除いて,

2005 年,2007年と 2008 年において,歴史的建

造物の受入者数は国家風景区よりも高い。この

データから,台湾における歴史的建造物が人文

観光資源として発展する可能性は高いと言えよ

第 184 巻 第4号86

図1 台湾における歴史的建造物の地域分布

注)2010 年7月 31 日現在。

出所:行政院文化建設委員会文化資産総管理処籌備處のデータに基づき,筆者が作成。

239

43

8197

6746

29 40

93

44 4626

64

43 49 49 50 44 35 28

63

28

121

189

46

49

500

450

400

350

300

200

150

100

50

0

250

台北市 高雄市 台北県 宜蘭県 桃園県 新竹県 苗栗県 台中県 彰化県 南投県 雲林県 嘉義県 台南県

古跡・歴史建築 集落 遺跡 文化景観

239

43

8197

67

29 40

93

44 4626

64

500

450

400

350

300

200

150

100

50

0

250

高雄県 屏東県 台東県 花蓮県 澎湖県 基隆市 新竹市

地方政府

台中市 嘉義市 台南市 金門県 連江県

43 49 50 44 35 28

63

28

121

189

3

歴史的建造物の数(件)

7)交通部観光局の規定によれば,公営観光区とは,

政府が経営する観光地を指す。たとえば博物館,記

念館,動物園,公園などである。次に,国家風景区

は,中央政府が管理責任をもっている自然観光資源

が該当し,「国家公園」と「国家級風景特定区」の二

つに大別される。国家公園は「国家公園法」に基づ

いて設けられたものである。主管機関は内政部営建

署であり,国家の貴重な自然資源や歴史文化資産を

保護することを目的として設けられる。2009 年 12

月 31 日現在既存の国家公園は9カ所ある。最後に,

歴史的建造物とは,宗教・民俗信仰の歴史を経て建

てられた寺廟と歴史的な意義を持つ古跡を指す。

観光開発のあり方と地域の持続可能性 87

表2 台湾における古跡・歴史建築の時代分布

(単位:件)

明朝以前 明朝 清朝 日本統治時代 戦後 合計

∼1662年1662年∼

1683年1683年∼

1895年1895年∼

1945年1945年∼

台北市 1 1 37 153 40 232

高雄市 0 1 13 19 9 42

台北県 0 1 35 37 4 77

宜蘭県 2 0 13 60 19 94

桃園県 0 0 36 19 11 66

新竹県 2 0 22 15 7 46

苗栗県 1 1 4 19 3 28

台中県 2 0 11 6 18 37

彰化県 1 1 48 35 6 91

南投県 0 0 19 11 11 41

雲林県 0 0 9 26 9 44

嘉義県 0 0 9 15 1 25

台南県 1 2 17 21 13 54

高雄県 1 1 14 23 1 40

屏東県 2 1 18 23 3 47

台東県 0 0 3 29 12 44

花蓮県 1 0 0 30 12 43

澎湖県 3 3 18 12 6 42

基隆市 2 0 11 20 2 35

新竹市 0 1 14 11 2 28

台中市 0 1 8 47 6 62

嘉義市 0 1 6 19 2 28

台南市 6 24 38 49 3 120

金門県 21 13 75 50 30 189

連江県 0 0 2 0 0 2

合計 46 52 480 749 230 1557

構成比(%)

2.95 3.34 30.83 48.11 14.77 100

注)2010年7月31日現在。

出所:行政院文化建設委員会文化資産総管理処籌備處のデータに基づき,筆者が作成。

う。だが,全体として見るならば,台湾におけ

る歴史的建造物が人文観光資源の働きを十分に

発揮しているとは言えない現状であることが明

らかである(縣級風景特区,森林遊楽区,海水

浴場及び民營観光区の定義に関しては注を参

照8))。

台湾の「行政院文化建設委員会文化資産総管

理処籌備處」の文化資産リストに登録されてい

第 184 巻 第4号88

8)交通部観光局の規定によれば,縣級風景特区とは,

市政府の鑑定によって,リストアップされた風景区

である。県・市政府が主管するものを指す。森林遊

楽区とは,中央主管機関の鑑定を受け,景観や自然

生態の保護のために,森林の域内に設けられたエリ

アを指す。海水浴場とは,海岸エリアにある休憩区

を指す。民営観光区とは,民間の業者が経営する観

光地を指す。

表3 台湾における各類型観光地の観光客受入者数

2004年 2005年 2006年

受入者数(百万人)

割合(%)

受入者数(百万人)

割合(%)

受入者数(百万人)

割合(%)

国家風景区 26.94 17.93 26.15 17.20 29.18 17.60

国家公園 12.51 8.33 12.05 7.93 16.93 10.21

公営観光区 45.82 30.51 44.40 29.20 45.37 27.37

県級風景特区 6.89 4.59 8.61 5.66 9.43 5.69

森林遊楽区 3.75 2.49 3.90 2.56 4.65 2.81

海水浴場 9.12 6.07 9.31 6.12 11.03 6.65

民営観光区 12.62 8.40 13.24 8.71 14.33 8.64

歴史的建物 23.97 15.96 27.35 17.99 27.12 16.36

其他 8.58 5.71 7.02 4.62 7.74 4.67

合計 150.20 100.00 152.03 100.00 165.78 100.00

2007年 2008年

受入者数(百万人)

割合(%)

受入者数(百万人)

割合(%)

国家風景区 26.79 16.23 26.82 16.41

国家公園 14.82 8.98 15.31 9.37

公営観光区 49.42 29.94 46.16 28.24

県級風景特区 9.23 5.59 9.89 6.05

森林遊楽区 4.66 2.82 4.48 2.74

海水浴場 11.11 6.73 10.99 6.73

民営観光区 12.35 7.48 11.71 7.17

歴史的建物 28.35 17.18 29.41 17.99

其他 8.32 5.04 8.66 5.30

合計 165.04 100.00 163.41 100.00

注1)「古跡・歴史建築」という項目は「寺廟」を含んでいる。

注2)2008年12月31日現在。

注3)「国家風景区」と「国家公園」の内容は,表5 台湾における国家公園及び

国家風景区を参照。

出所:中華民国交通部観光局[1986-2008]に基づき,筆者が作成。

る 1617件の歴史的建造物のうち,公有の件数

は 988件あり,実に半数以上に達している。そ

れにもかかわらず,それらが同時に観光局の観

光スポット統計リストに現れている件数はわず

か 28件にとどまる(表4)。言いかえれば,台

湾において現に人文観光資源として利用されて

観光開発のあり方と地域の持続可能性 89

表4 台湾の人文観光スポット

(単位:万人)

人文観光スポット 所在 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年

民俗村 金門県 9.39 8.10 8.98 7.79 6.85

清水祖師廟 臺北県 1.18 0.89 0.96 0.93 1.39

林安泰古厝民俗文物館 臺北市 13.65 14.14 11.38 15.41 18.46

北投溫泉博物館 臺北市 13.66 15.13 18.16 14.94 21.43

龍山寺 臺北市 167.21 178.31 235.85 212.82 181.64

臺北故事館 臺北市 ― 11.06 11.23 8.63 8.65

淡水紅毛城 臺北県 4.70 6.83 31.97 34.03 33.83

林本源園邸 臺北県 9.55 10.48 10.71 11.82 12.71

滬尾砲臺 臺北県 1.13 8.06 5.19 5.36 4.30

前清淡水關稅務司官邸 臺北県 ― 1.93 5.07 4.29 5.43

萬和宮 臺中市 23.02 27.80 27.82 29.03 30.79

中臺禪寺 南投県 53.15 62.79 103.25 85.39 79.56

北港朝天宮 雲林県 585.30 561.57 563.55 568.61 611.85

佛光山 高 県 84.22 139.23 169.46 100.23 106.74

北埔遊憩区 新竹県 ― ― ― 105.94 100.29

鹿港龍山寺 彰化県 38.42 34.74 31.10 41.66 42.50

彰化孔子廟 彰化県 5.96 9.89 5.13 3.95 3.29

延平郡王祠 臺南市 6.60 9.82 8.65 8.75 13.02

赤嵌樓 臺南市 42.44 50.06 53.42 63.06 68.77

億載金城 臺南市 24.17 22.99 24.02 29.58 28.71

臺南孔子廟 臺南市 32.74 25.08 20.75 19.36 21.33

祀典武廟 臺南市 22.19 23.28 25.73 30.62 34.62

五妃廟 臺南市 2.45 2.81 2.53 2.47 3.49

大天后宮 臺南市 23.53 27.18 29.53 35.33 40.20

安平古堡 臺南市 46.41 51.13 53.16 66.20 63.27

四草砲臺 臺南市 ― ― 1.14 1.31 1.31

南鯤鯓代天府 臺南県 841.24 1,072.81 903.90 1,009.23 1,083.47

麻豆代天府 臺南県 354.48 366.97 343.84 301.39 289.30

注1)2008年12月31日現在。

注2)金門県の民俗村は台湾の文化資産リストに登録された「山后中堡中書第」を中心とした十八

棟の歴史的建造物からなった観光スポットである。

注3)清水祖師廟別名艋舺清水巖,北投溫泉博物館別名北投溫泉浴場,龍山寺別名艋舺龍山寺,臺北

故事館別名圓山別莊,前清淡水關稅務司官邸別名前清淡水總稅務司官邸,億載金城別名二鯤鯓

砲臺大天后宮別名寧靖王府邸,安平古堡別名台灣城殘蹟安平古堡殘蹟,四草砲臺別名鎮海城。

出所:中華民国交通部観光局[1986-2008]に基づき,筆者が作成。

いる文化資産が公的に所有されている文化資産

に占める割合は非常に低い(2.83%)。また,表

1によれば,「国内旅遊発展方案」が実施された

2001 年から 2010 年7月 31 日にかけての十年

間に,文化資産リストに登録された文化資産の

件数は 1506件である。これは全体の 1920件の

8割近く占めている。第2回目の文化資産の鑑

定作業が終了した翌年の 1986年から「国内旅

遊発展方案」が実施された前年の 2000 年まで

の 15 年間に文化資産の鑑定作業によって登録

された文化遺産はわずか 211件(全体の1割超)

しかなかった。これらのデータによれば,台湾

において文化資産が存在しているにもかかわら

ず,それに対する関心が薄かったと言える。

前述したように,台湾の「行政院文化建設委

員会文化資産総管理処籌備處」の文化資産リス

トに現在登録されている歴史的建造物の8割近

くは 2001 年以降登録されたものである。これ

によって,台湾における本格的な文化資産保護

活動は 2000 年代初頭から始まったことが分か

る。これをアジアにおいて文化保護の発展が注

目されている韓国及びインドネシアと比較しよ

う。GDP が台湾と同レベルぐらいの韓国の場

合は,1960 年代の前半に「韓国文化財保護法

(1962 年)」が制定され(大橋[2004]),同年代

の後半から慶州における仏国寺をはじめ,古跡

の復元作業が開始された。また,台湾より

GDP が低いインドネシアでも,政府は 1970 年

代の前半から人文観光資源の発展に力を注ぎ,

バリ島の住民文化を保護してきた。その中で,

ボロブドゥール寺院の修復作業がよく知られて

いる(陳[1986])。台湾政府の人文観光資源に

関する保護政策への着手はアジア諸国と比べ

て,30 年近く遅れている。

Ⅳ 政策史及び組織面から見る政府の人

文観光の促進

前節で述べたように,台湾における歴史的建

造物が人文観光資源として十分に利用されてい

ないうえに,台湾政府の人文観光資源に対する

関心は薄く,人文観光資源の保護政策への着手

も遅れていると言える。本節では国際観光の推

進と深く関わっている政府の政策,行政及び組

織の形成過程を中心に検討することによって,

その原因について明らかにしてみたい。

1 台湾政府の観光政策及び行政に関する歴史

的流れ

国民党政府(蒋介石)が拠点を台湾に移転し

た 1949 年から5年後の 1954年に,元総統蒋介

石は「国家総動員会報」において,観光名所,

ホテル,旅行会社に関する改善の必要性を指摘

した。これを受け,台湾の交通部(当時は交通

処)は2年後の 1956年に「台湾省観光事業委員

会」を政府組織の中に取り入れ,「台湾観光事業

発展計画」を立てた。1950 年代において台湾政

府が観光産業の重要性を意識し,観光産業に力

を注ぎ始めた。

台湾においてさらに具体的な観光政策が政府

によって定められたのは 1960 年代のことであ

る。1968 年に,交通部が日本の観光事業協会か

ら7人のエキスパートを招聘し,台湾の観光事

業の発展計画に関する意見交換を行なった。そ

の後,『観光事業発展強化方案概要』を制定し,

「発展観光条例」を 1969 年より実施し始めた。

同条例に基づいて 1970 年8月に,中華民国「交

通部観光事業委員会」が「台湾地区観光事業綜

合開発計画」の制定プロジェクトをアメリカに

委託した。同計画では,台北市,日月潭,阿里

山,恆春,墾丁といった五カ所が優先開発観光

地区とされた。これにより,台湾における観光

資源の開発に関して,大きな一歩が踏み出され

たように見える。しかし,そのほとんどは自然

第 184 巻 第4号90

観光資源であり,人文観光資源の開発に関する

動きは観察されなかった。その一方で,「国家

公園法」の制定が着手され始めたのもこの時期

の 1961 年である。その前身は日本統治時代

(1935 年 10 月)に実施された「台湾国立公園

法」だと思われる(陳他[2008])。しかし,同

法の実施が決定されたのはそれより 10 年後の

1972 年(6月 13 日)である。

最初(1956年 11 月)に運営を開始した「台湾

省観光事業委員会」は,その後に何回かの改組

や合併が行なわれ,1971 年の6月に現行の組織

に定着した。2010 年現在,台湾における観光事

業の中央政府最高主管機関は中華民国交通部観

光局である。1970 年代は,行政組織が定着する

時期であるほか,台湾政府が海外に対する台湾

観光のプロモーションに力を注ぎ始めた時期で

あるとも言える。当初アメリカと日本からの訪

台観光客が最も多かったため,1970 年にサンフ

ランシスコ弁事処の観光チーム(台北經濟文化

辦事處觀光組,4月)と東京弁事処の台灣觀光

協會日本東京事務所(6月)が海外に対する台

湾観光の最初のプロモーション拠点として設立

された。その後はおもにアメリカとヨーロッ

パ,アジアでは日本を中心に,国際観光客の誘

致活動を行なってきた。1970 年代に,フランク

フルト弁事処(駐德國台北觀光辦事處,1971 年

7月),ニューヨーク弁事処(駐紐約台北經濟文

化辦事處觀光組,1978 年4月),シンガポール

弁事処(台灣觀光協會新加坡辦事處,1978 年7

月)が設立された。続いて,1980 年代にシド

ニー弁事処(1982 年4月)が設立された。香港

弁事処(台灣觀光協會有限公司,1995 年 11 月),

大阪弁事処(台灣觀光協會日本大阪事務所,

1999 年5月)の設立は 1990 年代のことである。

東南アジアで初めて設立されたのはつい最近の

2007年 10 月に設立されたマレーシアのクアラ

ルンプールオフィス(台灣觀光協會吉隆坡辦事

處)である。

台湾政府では 1960 年代にすでに自然観光資

源の保護に取り組み始めていたが,本格的にそ

の管理に力を注ぎ始めたのは 1980 年代以降の

ことである。1980 年代に入り,1972 年に「国家

公園法」が正式に実施されて 10 年以上を経て,

墾丁国家公園(1984年)が台湾における最初の

国家公園として誕生した。それから 2009 年 12

月現在まで,台湾では9つの国家公園と 13 カ

所の国家風景区が登録された(表5)。この時

期にはこれまでに確立した観光政策を実施し,

観光資源の管理をさらに強化するほか,政府は

新しい観光資源を開発し(観光スポット整備),

観光事業を発展させるために交通システムの整

備に着手し始めた。人文観光資源に関する具体

的な保護政策である「文化資産保存法」の実施

は 1982 年である。公的機関が主催する文化的

イベントもこの時期に大いに開催され始めた。

その結果,訪台観光客数は 1985 年のマイナス

成長を除き,1956年からほとんどの年の成長率

は右上がりとなった。この時期はまさに台湾観

光産業の安定成長期だったと言える(図2)。

公的機関が主催する文化的イベントが盛んに

開催され始めたのは 1980 年代である。その一

方で,さらなる国際的大型イベントが台湾に誘

致されたのは 1990 年代のことだった。2000 年

代に国際観光客を誘致するために,2002 年に

「観光客倍増計画」が制定された。台湾政府は

台湾特有の文化を観光資源に統合し,国際マー

ケティングに力を入れている。なお,1990 年代

後半から実現された週休二日制が呼び起こした

台湾国内旅行の活性化に加え,台湾新幹線の運

営開始(2007年1月5日)による交通システム

の大幅な改善などは,台湾の観光産業において

好影響を及ぼしたと考えられる。

観光開発のあり方と地域の持続可能性 91

第 184 巻 第4号92

表5 台湾における国家公園及び国家風景区

国家公園 設立時期 国家風景区 設立時期

墾丁國家公園 1984年1月 東北角暨宜蘭海岸國家風景區 1984年

玉山國家公園 1985年4月 東部海岸國家風景區 1988年

陽明山國家公園 1985年9月 澎湖國家風景區 1992年

太魯閣國家公園 1986年11月 大鵬灣國家風景區 1997年

雪霸國家公園 1992年7月 花東縱谷國家風景區 1997年

金門國家公園 1995年10月 馬祖國家風景區 1999年

東沙環礁國家公園 2007年1月 日月潭國家風景區 2000年

海洋國家公園 2007年10月 参山國家風景區 2000年

台江國家公園 2009年10月 阿里山國家風景區 2001年

計9カ所 茂林國家風景區 2001年

北海岸及觀音山國家風景區 2002年

雲嘉南濱海國家風景區 2003年

西拉雅國家風景區 2005年

計13カ所

注)2009年12月31日現在。

*出所:中華民国交通部観光局のウェブサイトに基づき,筆者が作成。

図2 1956年∼2008 年訪台観光客数

注)2008 年 12 月 31 日現在。

出所:中華民国交通部観光局[1986-2008]に基づき,筆者が作成。

4,000,000

3,500,000

2,500,000

2,000,000

-0.2

0

0.2

0.4

人数成長率

0.6

0.8

1

-0.4

1,500,000

1,000,000

500,000

0

3,000,000国際観光客数(人)

成長率(%)

‘56‘58‘60‘62‘64‘66‘68‘70‘72‘74‘76‘78‘80‘82‘84‘86‘88‘90‘92‘94‘96‘98‘00‘02‘04‘06‘08年

2 地方政府の組織面から見る台湾の人文観光

促進

前述したように中央政府における観光主管機

関の組織が 1970 年代に入り,現行の「中華民国

交通部観光局」に定着した。次に,人文観光の

促進と地域経済の振興に最も関わりが強い地方

政府の組織形成を理解する。

台湾各地の観光資源保護や観光事業を推進す

るために,中央政府機関の「中華民国交通部観

光局」だけでなく,地方政府においても観光主

管機関が設けられている。その中で,台北市政

府が最も早い 1966年4月に建設局の下に観光

科9)を設立した。その次に,台北県においても

1971 年に観光課が設立された。他方で,台北市

と台北県以外の地方政府で観光に関する主管機

関(観光課あるいは風景特定区管理処10))が設

立されたのは,8年後の 1974年以降のことだ

と言われる。だが,実際に各地方政府から筆者

が回収したアンケートをまとめた結果による

と,台南市政府と彰化県政府だけが,1974年に

観光主管機関を設立していた。第Ⅲ節第1項で

述べたように,台北市,台南市及び彰化県は,

台湾において歴史的建造物を最も多く所有して

いる自治体であることを考えれば,これらの地

方政府組織において観光主管機関が早期に設立

されたことが分かる。しかし,表6によると,

歴史的建造物を2番目に多くもっている金門県

における観光主管機関が設立されたのは 2003

年であり,4番目に多くもっている宜蘭県は

2000 年である。金門県と宜蘭県は貴重な歴史

的建造物を多く所有しているにもかかわらず,

その観光主管機関の設立が遅れたことに留意し

たい。古跡・歴史建築に絞ってみると,台湾に

おける最も古い(明朝とそれ以前から残された

300 年以上の歴史をもっている)古跡・歴史建

築のわずか 98件のうち,金門県が最も多く(34

件,3分の1近く)所有していることが分かっ

ている。それにもかかわらず,同県における観

光主管機関の設立は大幅に遅れたのである。ま

た,アンケートに回答した全 25県市の内訳を

見ると,観光主管機関の設立時期に関しては,

1960 年代に1つ,1970 年代に3つ,1980 年代

に4つ,1990 年代に3つ,2000 年代に7つが設

立されたことから,地方政府における観光主管

機関の設立もたち遅れていたと言える(残りの

6県・市政府は返答無し)。

Ⅴ 台湾における「メディア誘発型観光」

の発展

近年,台湾において人文観光資源が注目され

る中,地方政府が「メディア誘発型観光」の促

進を観光客誘致戦略に取り入れ,地方に観光客

を誘致する動きが広がっている。本節では,こ

の「メディア誘発型観光」というべき現象と台

湾における「メディア誘発型観光」の発展につ

いて述べる。

1 「メディア誘発型観光」とは

鈴木[2010]によると「1990 年代以降の現象

としての『メディア誘発型観光』11)は,映画や

テレビドラマなどの知的生産物が都市や地域に

もたらす経済効果を示す手掛かりの一つとして

注目されるようになった」。地方の文化がテレ

ビドラマや映画の撮影に取り入れられることに

よって,地方に観光の経済効果がもたらされる

現象は,最近になって初めて観察されたもので

はなく,実は 1940,50 年代から存在していたも

のである。たとえば,1942 年に撮影された「カ

サブランカ」は北アフリカのメディナとモロッ

観光開発のあり方と地域の持続可能性 93

11)“Media-induced tourism,”“Film-induced tourism,”

“Movie-induced tourism”等を含む。

9)地方政府によって観光主管機関の組織名称(課或

いは科)が違う。

10)当初は主に各地方にある森林遊楽区を管理するた

めに設立された。

コの観光を促進し,1953 年に撮影された「ロー

マの休日」はイタリアのローマに観光効果を及

ぼしたことがその事例にあたる。台湾の各旅行

会社のホームページを観察した結果,メディア

コンテンツによって現れた「メディア誘発型海

外観光(台湾人がメディアコンテンツの影響を

受けて行なう海外観光)」は表7の通りである。

また,日本でも大河ドラマの放映によって発生

した「メディア誘発型観光」が注目を集めてい

る。中村[2003]は 1987年∼1997年に放映さ

れた大河ドラマよって発生した「メディア誘発

型観光」を表8の通りにまとめた。

メディア誘発型観光に関しては,上述のよう

なメリットもあれば,デメリットも勿論ある。

鈴木[2010]の研究によれば,観光地に観光資

源を発展させるための環境整備を,観光客が訪

問する以前に済ませておかなければ,キャパシ

ティー(環境収容能力)問題に直面する恐れが

あるという。

第 184 巻 第4号94

表6 台湾の地方自治体における観光主管機関の設立

自治体 観光主管機関 設立時期 自治体 観光主管機関 設立時期

台北市 建設局観光科 1966年4月 高雄県 觀光交通処 2001年

高雄市 ― 不明 屏東県 建設処観光科 1997年8月

台北県 建設局観光課 1971年 台東県 文化暨観光処 1981年12月

宜蘭県 工商旅遊処 2000年 花蓮県 観光旅遊処 1999年12月

桃園県 観光行銷処 1989年 澎湖県 ― 不明

新竹県 観光旅遊処 1987年2月 基隆市 ― 不明

苗栗県 国際文化観光局 2000年1月 新竹市 観光処 2000年2月

台中県 ― 不明 台中市 新聞処観光科 1994年*

彰化県 城市暨觀光發展處 1974年11月 嘉義市 文化観光処 2001年1月

南投県 観光処 2000年7月 台南市 工務局観光課 1974年11月

雲林県 ― 不明 金門県 交通旅遊局 2003年

嘉義県 観光旅遊局 2001年4月 連江県 ― 不明

台南県 観光旅遊処 1988年10月

注1)台中市の観光主管機関の設立時期に関して,現段階で最も早期の資料は1994年分の資

料しかない。

注2)2010年7月31日作成。

出所:各地方政府の回答したアンケートに基づいて,筆者が作成。

表7 メディア誘発型観光が発生した地域

タイトル 分類 放映年 関係する地域

UndertheTuscanSunトスカーナの休日

アメリカ・イタリア映画 2003年 世界文化遺産・アマルフィ海岸

アメリ フランス映画 2002年 パリの北に位置するモンマルトル

大長今 韓国ドラマ 2003年 ソール近郊,済洲島,全羅道

冬のソナタ 韓国ドラマ 2002年 江原平昌郡,ソール,南怡島

出所:台湾の旅行会社各社のホームページに基づいて,筆者が作成。

2 台湾における「メディア誘発型観光」の発

鈴木[2010]が指摘するように,「1970 年代以

降,消費者行動論の枠内で,観光客の意志決定

過程や地域イメージについて行なわれた豊富な

事例研究の結果によると,メディアが観光客の

目的地に対するイメージを誘導する力をもって

いることは間違いない」と考えられる。そのう

え,第Ⅴ節第1項で述べたように,メディアコ

ンテンツの公開に伴う波及効果が確かに観察さ

れたことを踏まえ,台湾の地方政府も,近年「メ

ディア誘発型観光」に対する期待を強めている。

地域のイメージアップを促進することを意図し

て,台湾の地方政府は映画・ドラマなどのメディ

アコンテンツに対する補助金制度を積極的に拡

充している。たとえば,高雄市政府は 2003 年

から「高雄市獎 電影片製作者至高雄市取景實

施要點」を実施した。これは台湾で最も早い時

期から「メディア誘発型観光」の発展に力を注

いだ地方政府だと思われる。高雄市政府は

2008 年から「補助國產及本國電影片作業要點」

と「協助影視業者拍攝影片住宿補助要點」の実

施を開始した。その影響を受け,その他の地方

政府も次々とメディアコンテンツの製作に関す

る補助金政策を策定した。本項では,台湾にお

ける各地方政府のメディア誘発型観光の促進政

策について説明する。

台湾では国内観光において,映画の撮影ロケ

観光開発のあり方と地域の持続可能性 95

表8 「大河ドラマ」(NHK番組)撮影地・主たる舞台への訪問者数の変化

ドラマ 撮影地・主たる舞台 放映年 3年前 2年前 1年前 放映年 1年後 2年後 3年後

独眼流政宗 仙台市 1987年 89.4 97 100 142 102 113 120

春日局 埼玉県川越市 1989年 99.5 104 100 134 138 135 138

飛ぶが如く 鹿児島市 1990年 97.4 98.6 100 123 119 115 98.8

太平記 栃木県足利市 1991年 ― 103 100 204 118 108 109

信長岐阜市

1992年94.1 95.1 100 120 112 113 113

名古屋市 167 96.1 100 103 114 109 102

琉球の嵐 沖縄県 1993年 93.9 95.6 100 101 101 104 110

炎立つ

岩手県江刺市

1993年

103 108 100 325 243 215 255

岩手県平泉町 101 103 100 109 104 87.1 82.4

盛岡市 97.9 103 100 99.3 98.7 98.7 102

八代将軍吉宗 和歌山市 1995年 68.2 67.6 100 103 94 86 79.5

秀吉

名古屋市

1996年

111 107 100 102 91.3 99.4 104

兵庫県姫路市 116 118 100 115 107 113 123

滋賀県長浜市 85.5 98.1 100 183 124 125 137

毛利元就

山口県防府市

1997年

95.1 97.8 100 149 116 110 105

広島県吉田町 44.9 44.5 100 289 45.8 30.4 21.1

広島市 98.3 95.2 100 108 97.5 101 97.5

武田信玄

八ヶ岳とその周辺地域

1998年

91.8 96.5 100 139 105 107 107

甲府昇仙峡地域 98.3 97.7 100 129 103 104 103

峡東果実温泉郷 96.9 98.7 100 116 101 103 104

注)表中数値は放映開始前年の訪問者数を100とした指数。放映3年後までの訪問者数を取り上げたため,1997年

放映の「毛利元就」までを分析対象としている。

出所:中村[2003]95ページ。

地の舞台である九份と内湾における観光発展が

代表的なメディア誘発型観光だと言われてい

る。これら地域の歴史的社会背景を取り入れた

のは侯孝賢が監督した「戀戀風塵」(1987年・内

湾)と「悲情城市」(1989 年・九份)だった。し

かし,これらの映画の製作年代において公的補

助金制度はまだ存在していなかった。台湾にお

いて,地方政府が補助金制度を実施し始めたの

は最近のことである。表9は筆者の独自調査に

よってまとめた各県市がメディア誘発型観光を

促進するために実施する補助金制度のリストで

ある。

侯孝賢監督の作品のほかにも,観光の波及効

果が期待される映画があった。本研究ではそれ

第 184 巻 第4号96

表9 台湾の地方自治体におけるメディアコンテンツ補助金制度

自治体 年 各年度補助金総予算 補助金を受けている作品(補助金額)

台北市

2009年

前期900万元

蔡明亮 臉陳駿霖 一頁台北瑞典跨合作影片 霓虹心台北飄雪

後期900万元

鈕承澤 艋舺

張作驥 當愛來的時候朱家麟 瑪德第二代卓立 獵豔

2010年前期1000万元

殺手-歐陽盆栽阿輝的女兒有一天乘著光影旅行蜂秘大便近在咫尺實習大明星

後期1000万元 未定

台北県 2010年 総予算1000万元 未定

桃園県 検討中

新竹県 補助金制度無

苗栗県 2010年 総予算2000万元 未定

彰化県 2010年 総予算300万元 未定

南投県 2010年 総予算300万元 未定

雲林県 補助金制度無

嘉義県 補助金制度無 梁修身 戀戀阿里山*

台南県 2011年 総予算100万元 未定

高雄県

2008年 260万元林靖傑 最遙遠的距離薛少軒 2分20秒張作驥 爸,你好嗎

2009年 660万元

張作驥 爸,你好嗎

戴泰龍 彈簧床鄺盛 魚狗霍達華 夏日啟示之棒球風雲林福清 不倒翁何東興 平民英雄

屏東県 補助金制度無 王小隸 酷馬*

らがロケ地に及ぼす観光の波及効果を明らかに

するために,中村[2003]の分析方法を用いて,

それらの映画のロケ地における放映前後6年間

の受入観光客数の変化を表 10 の通りに作成し

た(「戀戀風塵」のロケ地である内湾の受入観光

客数統計は 2005 年以降分しか存在しないため,

表 10 には含めなかった)。台北県は「悲情城市」

によって観光が盛んになったと言われている。

しかし,表 10 によれば,同映画が放映された直

後の台北県の受入観光客数が逆に減少し,「悲

情城市」の観光誘発効果は観察されなかった。

いっぽう,「悲情城市」と同じく台北県の九份の

景観や文化を映画場面の1つに取り入れた日本

映画の「千と千尋の神隠し」を見てみると,同

映画が放送された1年後,2年後の 2002 年の

受入観光客数の伸び率は 42.12%,1年後の

2003 年 は 171.98%,2 年 後 の 2004 年 は

208.39%,3年後の 2005 年は 182.70%である。

このデータによれば,「千と千尋の神隠し」の放

映によって,台北県の受入観光客数が大幅に増

加したことが分かる。台湾映画の中で,最も観

光の波及効果をもたらしたのは澎湖県をロケ地

とし,2003 年に放映されたテレビドラマ「海豚

灣戀人」である。同映画が放映された直後から

その3年後の 2006年までのデータによれば,

受入観光客数の指数は 135.16から 178.61へと

観光開発のあり方と地域の持続可能性 97

台東県2009年 35万4100元

程仁偉 Discovery旅遊生活頻道(瘋台灣)黃朝亮 向日葵王瑋 再見全壘打

2010年 計画毎に50万 未定

花蓮県 補助金制度無

澎湖県

2007年 資料無摩托車週記(バラエティ番組,6万元)大特寫(バラエティ番組,6万元)小三的金瓜雜煮(ドラマ,30万元)

2009年 資料無

雙心石滬-愛無界(映画,30万元)星光下的童話雙心石滬-愛無界(映画,30万元)星光下的童話(映画,30万元)

2010年 総予算500万元 未定

新竹市 補助金制度無

台中市

2009年 600万元愛你一萬年(250万元)近在咫尺 (200万元)超完美男人(150万元)

2010年 300万元命運化妝師(150万元)就是要香戀(150万元)

嘉義市 未実施・検討中

台南市 補助金制度無

金門県検討中。2011年より実施する予定。

未定

注1)2010年1月4日の日本円対台湾元のレートは1:0.3432。

注2)現段階,宜蘭県,台中県,基隆市,連江県の返答はない。

注3)嘉義県と屏東県はまだ補助金制度が存在していないが,「戀戀阿里山」と「酷馬」

の撮影に関しては,行政上の支援や一部の経費で補助した。

注4)2010年7月31日作成。

出所:各地方政府への訪問によって,筆者が作成。

着々成長した。「千と千尋の神隠し」と「海豚灣

戀人」がロケ地に「メディア誘発型観光」をも

たらしたことが観察されたが,これらのメディ

アコンテンツは補助金制度が実施される前に製

作された作品である。いっぽう,高雄市の風景

を映画に取り入れために「高雄市獎 電影片製

作者至高雄市取景實施要點」に基づき,高雄市

政府より 1000万元の奨励金を受領した「天邊

一朵雲」(補助金制度を活用し製作資金を唯一

受領した作品)は 2005 年に放映された後は,表

10 から観察する限り,期待された効果を及ぼし

てはいないことが分かった。

こうした誘発効果の差は以下2つの問題点か

ら生じたと考えられる。第一に,補助する対象

(メディアコンテンツ)の内容に問題がある。

韓国と日本で発生した「メディア誘発型観光」

を観察すれば,ロケ地に観光効果を及ぼした作

品の多くは地域の独自文化や風景を取り入れて

いるのに対して,「天邊一朵雲」は特に高雄市の

独特な風景を取り入れる場面が少なかった。

「悲情城市」と「千と千尋の神隠し」の生み出

した誘発効果の差にもこの問題があった。第二

に,メディアコンテンツの放送(上映)に伴う

観光のプロモーションが必要である。台湾の地

方政府が行なう補助対象のメディアコンテンツ

の放送(上映)に伴う観光のプロモーションは

不足していた。

Ⅵ 結論

本論文を通して明らかになったように,台湾

では人文観光資源として発展する可能性の高い

歴史的建造物があるが,それらは人文観光資源

としてまだ十分に利用されていない現状にあ

る。その原因の1つとして,中央政府が人文観

光資源に対して無関心であるうえに,人文観光

資源の発展に深く関わる地方政府における観光

主管機関の設立が遅れていることなどが考えら

れる。

台湾において,1956年の「台湾観光事業発展

計画」,1969 年の「発展観光条例」及び 1970 年

の「台湾地区観光事業綜合開発計画」を経て,

台湾観光事業の政策は徐々に安定してきた。

1970 年代から 2000 年代までの 30 年間,政策面

では特に大きな変動はなかったが,組織面にお

いて地方自治体における観光事業の主管機関の

設立が次第に定着した。台湾政府は 1950 年代

から観光産業の重要性を意識し,観光産業に力

第 184 巻 第4号98

表10 台湾の観光資源を取り入れた映画による波及効果

ドラマ・映画 撮影地 放映年 3年前 2年前 1年前 基準年 1年後 2年後 3年後

悲情城市(台湾映画)

台北県 1989年1986年 1987年 1988年 1989年 1990年 1991年 1992年

― 262.3 100 104 91.09 57.67 128.36

千と千尋の神隠し(日本映画)

台北県 2001年1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年

139.96 111.30 100 142.12 271.98 308.39 282.70

海豚灣戀人(台湾ドラマ)

澎湖県 2003年2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年

62.87 94.32 100 135.16 160.37 159.53 178.61

天邊一朵雲(台湾映画)

高雄市 2005年2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年

61.00 66.33 100 82.00 84.35 87.26 94.57

注1)表中数値は放映開始前年の訪問者数を100とした指数。

注2)「千と千尋の神隠し」は日本の映画であり,2001年の年末から台湾で放映されたため,基準年を

2002年にした。

注3)2010年7月31日作成。

出所:台湾観光局が公表した各県市の観光客受入人数に基づいて,筆者が作成した。

を注ぎ始めた。続いて,観光資源を開発するた

めに 1960 年代に具体的な観光政策を定めたこ

と,1970 年代から開始した海外に対するプロ

モーション活動なども積極的な動きだと考えら

れる。ただ,これらの政策で改善しえた点とし

て,以下3点を指摘することができる。第一に,

初期の観光資源開発といった段階で,人文観光

資源の開発が意識決定からはずされたことであ

る。第二に,政策の策定は遅くはないが,それ

に関する本格的な実施が遅れていた。たとえ

ば,自然観光資源の保護に関する動き(国家公

園法の制定)はすでに 1960 年代にはあったが,

その実施は十年後の 1972 年のことであった。

また,本格的にその管理に力を注ぎ始めたのは

1980 年代以降のこと(最初の国家公園の設立は

1984年)である。最後に,人文観光の促進に最

も強く関わる地方政府における地方観光の管理

組織に関して,その多くの設立時期が遅いこと

である。

近年,注目されている「メディア誘発型観光」

に関しても,台湾の地方政府が補助したメディ

アコンテンツは必ずしも期待された誘発効果を

もたらしたわけではない。その原因は第一に,

補助対象のメディアコンテンツに取り入れられ

た地域の独自性に対する要求が薄いこと。第二

に,メディアコンテンツの放送(上映)に伴う

観光のプロモーションが足りないことである。

本来,「メディア誘発型観光」の促進は,地方の

人文観光資源を発展させる絶好の機会である。

しかし,多額の資金を投入したあげく,期待し

た効果は予想通りにもたらされなかった場合

は,ただの無駄になってしまう。

台湾における「メディア誘発型観光」の促進

に関する補助の事例はこれまで少なかったた

め,事例による研究には限界がある。今後,補

助金が無駄にならないように,各地方政府の実

施した補助金制度により補助金を受領したメ

ディアコンテンツ(表9)を事例に,それらが

ロケ地にもたらす経済波及効果を詳細に観察す

る必要がある。また,各地方政府の補助金制度

によると,現在補助対象とされているメディア

コンテンツは映画,テレビ番組,及びテレビド

ラマ等がある。これらのメディアコンテンツの

種類によってもたらされた誘発効果の差につい

て観察することも補助金制度の制定に役立つと

考えられる。さらに,有形の文化資産である歴

史的建造物だけでなく,観光客に地方の独自の

魅力を感じてもらえる無形の文化資産である

「民俗」,「伝統」をメディアコンテンツに取り

入れられるように補助金制度を修正しなければ

ならない。

参考文献

【日本語文献】

内田純一[2009]「フィルム・インスパイアード・ツー

リズム:映画による観光創出から地域イノベー

ションまで」『CATS叢書:観光学高等研究セン

ター叢書』第1巻。

大橋敏博[2004]「韓国における文化財保護システムの

成立と展開」『綜合政策論叢』第8号。

岡田伸之[2004]『観光学入門:ポスト・マス・ツーリ

ズムの観光学』有斐閣アルマ。

纓坂英子[2008]「韓流と韓国・韓国人イメージ」『駿

河台大学論叢』第 36 号。

鈴木晃志郎[2010]「メディア誘発型観光現象後の地域

振興に向けた地元住民たちの取り組み:飫肥を事

例として」『観光科学研究』第3号。

永田智章[2008]「ブータン王国における栄財開発と国

民総幸福量:GNH追求政策をめぐる経済学的考

察」『経済研究論集』第 30巻第 3・4 号。

(中村哲[2003]「観光におけるマスメディアの影響

――映像媒体を中心に」前田勇編『21世紀の観光

学:展望と課題』学文社。)

日本交通公社調査部編[1994]『観光読本』東洋経済新

報社。

日本政府観光局[1998-2009]『JNTO国際観光白書』。

Mastny, L.[2002]「増大する国際旅行の持続可能性を

高める(“Redirecting international tourism” State

of the World)」『ワールドウォッチ研究所 地球

白書 2002-03』家の光協会。

溝尾良隆[1998]「『観光・観光資源・観光地』の定義」

観光開発のあり方と地域の持続可能性 99

『観光研究』第9巻第2号。

【中国語文献】

黃栢鈴[1998]「古蹟與觀光」『中華民國建築師雜誌』

第 162号。

中華民国(台湾)交通部観光局[1986-2008]「観光統

計年報」。

陳水源[1986]「古蹟之觀光價值」『交通建設』第 417

期。

陳俊玄・陳玟陵・趙國斌[2008]「台灣國家公園發展之

歷史系譜與社會考察分析」『2008 年國際體育運動

與健康休閒發展趨勢研討會專刊』呉鳳技術学院。

楊正寛[2000]『観光政策,行政与法規』揚智文化事業。

楊正寛[2001]「戦後台湾観光政策,行政与法規発展史」

『台湾文献』台湾省文献委員会,第 52巻第2期。

【英語文献】

Busby, G. and J. Klug [ 2001 ] “Movie-induced Tour-

ism : The Challenge of Measurement and Other

Issues,” Journal of Vacation Marketing, Vol. 7, No.

4.

Roger R., D. Baker, and C. S. van Doren [ 1998 ]

“Movie Induced Tourism,” References and further

reading may be available for this article. To view

references and further reading you must purchase

this article. Annals of Tourism Research, Vol. 25,

Issue 4.

Roger W. R. and C. S. van Doren [ 1992 ] “Movies as

Tourism Promotion : A ‘Pull ’ Factor in a ‘Push ’

Location,” Tourism Management, Vol. 13, Issue 3.

≪ウェブサイト≫

中華民国(台湾)行政院文化建設委員会文化資産総管

理処籌備處

http://www.cca.gov.tw/main.do?

method=find&checkIn=1(2010 年7月 31 日閲覧)

中華民国(台湾)交通部観光局 http://taiwan.net.tw/

(2010 年5月 20 日閲覧)

第 184 巻 第4号100