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学校と関係機関等との連携事例

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Page 1: 学校と関係機関等との連携事例 - NIER事例1〔教育相談所等と連携した生徒指導上の課題がある児童への対応事例〕 【事例のポイント】

第2章

学校と関係機関等との連携事例

Page 2: 学校と関係機関等との連携事例 - NIER事例1〔教育相談所等と連携した生徒指導上の課題がある児童への対応事例〕 【事例のポイント】

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掲載事例一覧

学校種 事例番号 事 例主 な 連 携 先

教育関係 警 察・司法関係 福祉関係 保 健・

医療関係 そ の 他

1教育相談所等と連携した生徒指導上の課題がある児童への対応事例

○ ○ ○ ○

2校区内児童養護施設から通学する児童の問題行動への対応事例

○ ○

3保護者や児童相談所等と連携した授業妨害を繰り返す児童への対応事例

○ ○ ○

4地域のセーフティーネット構築による児童虐待への対応事例

○ ○ ○

5虐待を受け家庭裁判所の審判で児童養護施設に入所した児童への対応事例

○ ○ ○ ○

6特別支援学校やフリースクールと連携した不登校への対応事例

○ ○

7町内会と連携した薬物乱用(カセットコンロ用ガス吸引)への対応事例

○ ○ ○

8地域やスポーツ施設と連携した暴力行為を繰り返す生徒への対応事例

○ ○ ○

9いじめや暴力行為を繰り返す生徒への対応事例

○ ○ ○

10サポートチームによる問題行動を繰り返す生徒への対応事例

○ ○ ○ ○ ○

11サポートチームによる問題行動を繰り返す生徒集団への対応事例

○ ○

12PTAのネットパトロールによりネットいじめ等の予防に取り組んだ事例

○ ○

13家出などのぐ犯行為で家庭裁判所の試験観察となった生徒への対応事例

○ ○ ○ ○

14自殺未遂の経験のある生徒とその母親を支援した事例

○ ○ ○ ○

15 学校の通告による児童虐待への対応事例 ○ ○ ○

16進路変更により不登校生徒が大学進学を果たした事例

○ ○

17保護観察所と協働して高等学校の中途退学を防いだ事例

18地域連携と学校間連携により高校生の飲酒・喫煙等の防止に取り組んだ事例

○ ○ ○

19児童虐待を迅速に通告し生徒を保護した事例

○ ○

20指導マニュアルを作成して発達障害のある生徒に対応した事例

○ ○

※ 掲載事例は、関係者のプライバシーに配慮して、複数の事例を組み合わせたり、表現を一部変更したりした場合がある。

Page 3: 学校と関係機関等との連携事例 - NIER事例1〔教育相談所等と連携した生徒指導上の課題がある児童への対応事例〕 【事例のポイント】

第1節

小 学 校

Page 4: 学校と関係機関等との連携事例 - NIER事例1〔教育相談所等と連携した生徒指導上の課題がある児童への対応事例〕 【事例のポイント】

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事例1〔教育相談所等と連携した生徒指導上の課題がある児童への対応事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先

教育相談所適応指導教室通級指導教室

警察 児童相談所民生委員・児童委員家庭児童相談室

病院保健所

b)連携の状況特別な教育的ニーズがあると思われる児童についての教育相談所との情報交換関係機関等の職員を招いてのケース会議の開催教育相談所等の臨床心理士を招いての校内研修の実施c)連携の成果学級の規律の回復学級内の人間関係の改善d)残された課題教育相談所とのよりきめ細かな情報交換のため時間の確保

【事例の概要】

・本校は、ひとり親家庭や外国籍児童の割合が比較的高い。また、保護者の学校教育への関心は2極化してきているほか、落ち着きがなかったり、基本的な生活習慣が身に付いていなかったりして、集団生活になじめない児童が増加している。・生徒指導、教育相談、特別支援教育担当の代表で組織する校内委員会を立ち上げ、連絡調整を行うだけでなく、研修の場となるよう運営を工夫した。・月例の校内委員会で、 生徒指導上課題があり特別な教育的ニーズがあると思われる児童についての理解と支援方法について綿密に協議し、共通理解を図った。同時に、教育相談所と連携して支援を行う児童についての共通理解を図り、必要に応じて学年毎に関係機関等の職員を招いてケース会議を開いた。・保護者の理解の下、教育相談所において教育相談の場を設定するとともに、必要に応じて心理検査等を依頼した。さらに、教育相談所の臨床心理士に、授業や給食等の様子の参観を踏まえて、児童理解と有効な支援方法について助言してもらうとともに、必要に応じて、個別の指導計画を作成した。また、ケースによっては、通級指導教室や適応指導教室のほか、警察や福祉、保健・医療の関係機関を紹介してもらい、より適切な連携を図ることができるようにした。・特別な教育的ニーズがあると思われる児童の理解と支援の方法について、教育相談所等の臨床心理士を招き、事例をもとに校内研修を計画的・継続的に行い、教職員の指導力の向上を図った。・教育相談所との連携を密にしたことにより、課題がある児童への対応の仕方が教職員に理解され、学級の規律が回復するとともに学級内の人間関係が改善し、いじめや不登校を防止することができた。

Page 5: 学校と関係機関等との連携事例 - NIER事例1〔教育相談所等と連携した生徒指導上の課題がある児童への対応事例〕 【事例のポイント】

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第2章

学校と関係機関等との連携事例

事例2〔校区内児童養護施設から通学する児童の問題行動への対応事例〕

【事例のポント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先県・市教育委員会中学校

児童養護施設児童相談所

b)連携の状況県・市教育委員会と連携した生徒指導支援会議の設置「関係機関合同ケース会議」(年10回)での情報交換、行動連携県教育委員会からの臨床心理士や特別配置教員の配置市教育委員会からの心の教室相談員の配置c)連携の成果児童の暴言や暴力行為などの減少d)残された課題未然防止の視点からの「関係機関合同ケース会議」の継続

【事例の概要】

・本校は、校区内の児童養護施設から約20名の児童が通学している。こうした児童の中には、特別な教育的配慮を必要とする被虐待経験のある子が多い。・日ごろから児童養護施設と連携し、校長はじめ関係教員が積極的に施設に出向いて児童に関する情報を共有してきた。しかし、児童養護施設から通学している特定の一部の児童が学校内で問題行動を起こすことから、市教育委員会や県教育委員会の指導主事、教員からなる生徒指導支援会議を設けるとともに、校内に特別支援会議をつくり、毎週月曜日に定例の会議を開催し、全教職員が協力して解決に努めた。・問題行動を起こす児童への対応について協議するため、学校と児童養護施設の要請により、児童相談所が「関係機関合同ケース会議」を立ち上げた。会議の構成員は、児童相談所及び小学校、中学校関係者、市教育委員会指導主事とした。教頭が関係機関との連絡調整の窓口となり、会議を定期的に開催し、該当児童への対応策について協議した。・本事例のA男(5年男子)は、2歳のときに虐待を理由に児童養護施設に入所し、4年生のときから、同級生や下級生に対する暴言や暴力、授業妨害などを繰り返してきた。制止する教員に対し、けったり殴ったりして反抗するなど、指導が困難となる場面も見られた。・A男を一日中集団の中で指導することは困難であったため、保護者と本人の了解を得て、週4時間の個別指導と、週2回通級による指導を行うこととした。また、児童相談所と連携を取りながら、母親が近い将来A男を引き取ることができるよう、教頭が中心となって母親を支援した。こうした取組により、A男は少しずつ学校生活に適応できるようになった。

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事例3〔保護者や児童相談所等と連携した授業妨害を繰り返す児童への対応事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先市教育委員会スクールカウンセラー

児童相談所民生委員・児童委員

PTA

b)連携の状況市教育委員会やスクールカウンセラーなどへの相談PTAとの連携c)連携の成果学校への協力の必要性についての保護者の認識の深まり問題行動の改善d)残された課題福祉や医療などの観点からの児童の問題についての分析関係機関等との早期の連携体制の確立の在り方の検討

【事例の概要】

・本校では5年生の学級で、A男、B男のわがままで身勝手な行動に他の児童が同調し、授業がスムーズに進まなかったり、集団行動の規律が維持できなかったりする状況が生じ、対応に苦慮していた。・学級がしばしば混乱し、効果的な対応ができない状況が続き、登校をいやがる児童が出てくるようになり、保護者の間でも学校に対する不信感が生まれ、学級担任に対する苦情の声が高まった。・学校は、校長や教頭、養護教諭、学年主任などを中心として、学級担任を支えるとともに、学級PTAを開き、保護者としての役割や学校への協力の方策について話し合った。その中で、当面、保護者が日常の授業を参観し、子どもたちの問題行動に対する抑止力になることや、地域においても子どもに社会とのつながりを感じさせる声かけ運動を展開することが決まった。・市教育委員会に相談するとともにスクールカウンセラーと連携し、当該児童、保護者のカウンセリングを継続した。また、教頭や学級担任、学年主任が交代で家庭訪問し、当該児童の理解や保護者との信頼関係づくりに努めた。こうした取組の効果もあって、一時的に状況が改善した。・しばらくすると、保護者の授業参観があっても平然と立ち歩いたり、教室を出て行ったりするようになった。そこで、家庭の問題も含めて児童相談所や民生委員・児童委員などと連携して対応した。その結果、A男とB男は徐々に落ち着きを取り戻した。

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第2章

学校と関係機関等との連携事例

事例4〔地域のセーフティーネット構築による児童虐待への対応事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先

町教育委員会 児童相談所町福祉課民生委員・主任児童委員

区長会(地域自治会)地域住民

b)連携の状況民生委員会や区長会での情報交換学校から町教育委員会への報告・相談c)連携の成果児童の安全の確保d)残された課題地域のセーフティーネットの維持

【事例の概要】

・本校は、共働きの家庭やひとり親家庭の児童が多く、保護者が帰宅するまで学校で時間を過ごす児童が全児童の約4分の1にのぼっている。・本事例は、年度初めに転入してきたA子(5年女子)に対する母親による児童虐待(主として心理的虐待)である。母親は激昂

こう

するとA子に激しく暴言を吐き続けるようになるため、A子は助けを求めて警察に通報したり、近所の家に逃げ込んだりしていた。その事実を認知した学校は、民生委員・主任児童委員や町教育委員会に連絡するとともに、民生委員・主任児童委員や区長等と連携を図りながら、対応策を検討した。・A子の安全確保のため、学校が中心となり、A子が生活する地域でのセーフティーネットづくりを行った。例えば、A子の自宅前の保護者の協力を得て、万一の時はその家に逃げ込んだり、そこから駐在所、民生委員・主任児童委員、区長に連絡をしたりするという「助け合いの会」を立ち上げてもらうなどした。・その後も、夫婦げんかの度にA子への虐待が続き状況が悪化したため、6月に学校が児童相談所に相談し、A子は6か月間児童相談所と福祉施設に入所した。退所後は、両親がA子を家庭に戻すよう希望したため、児童相談所、町福祉課、民生委員・主任児童委員、町教育委員会関係者からなるケース会議での協議の結果、A子は両親の下で生活することとなった。・関係機関等や地域住民との連携体制を再構築するとともに、A子の安全が確保できるよう両親への指導・助言を継続したことにより児童虐待を防止することができた。

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事例5〔虐待を受け家庭裁判所の審判で児童養護施設に入所した児童への対応事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先

市教育委員会 警察家庭裁判所

児童相談所市児童家庭課児童養護施設民生委員・主任児童委員

県健康福祉センター市保健センター

b)連携の状況日常レベルでの市教育委員会、児童相談所、市児童家庭課、児童養護施設との連携ケース会議の開催による情報交換と対応協議主任児童委員や地域の民生委員・児童委員との情報交換や見守り依頼c)連携の成果児童虐待から児童を守るための法的な手続きの進展d)残された課題子どもたちの児童養護施設入所に伴う生活保護費の減額に不満をもつ母親への対応

【事例の概要】

・A男(5年男子)、B子(3年女子)の兄妹は幼少時に父親を亡くし、児童養護施設に入所していたが、出所して母親と暮らすようになった。母親は情緒不安定で就労意欲もなく、生活保護を受けていた。内縁の夫が、母親や児童に暴力を振うことなどから、児童たちは2人とも感情の起伏が激しく、基本的な生活習慣も身に付いていなかった。・学校は、日ごろから市教育委員会、児童相談所、市児童家庭課、児童養護施設と連絡を取りながら家庭支援に取り組んだ。そうした中で、市児童家庭課が中心となって、警察、主任児童委員、県健康福祉センター、市保健センターの関係者を加えたケース会議を開催した。・内縁の夫による児童たちへの身体的虐待が発生したため、学校が児童相談所に通告した。母親も養育困難を認めたことから、児童相談所が一時保護の措置をとった。しかし、一時保護が終了して家庭に戻ると、児童たちは再び不安定になり、学校でもトラブルが多発したため、児童相談所が一時保護委託により児童養護施設に入所させた。児童養護施設に入所したことにより、児童たちの状況は安定した。・児童相談所は、安定した状態を保持するために、母親に児童養護施設への同意入所を求めたが、生活保護費が減額となることから同意を拒否したため、家庭裁判所の審判により、児童養護施設への入所が承認された。

Page 9: 学校と関係機関等との連携事例 - NIER事例1〔教育相談所等と連携した生徒指導上の課題がある児童への対応事例〕 【事例のポイント】

第2節

中 学 校

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事例6〔特別支援学校やフリースクールと連携した不登校への対応事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先スクールカウンセラー特別支援学校

フリースクール

b)連携の状況特別支援学校と連携した就学相談臨床心理士等のスタッフを置くフリースクールとの情報交換c)連携の成果ほとんど欠席することなくフリースクールへ通所中学校卒業後の進路についての自覚d)残された課題学習の遅れの回復と集団への適応

【事例の概要】

・A男は、中学校に入学してから友人をつくることができず、学級にもなじめないでいた。本校のスクールカウンセラーは、毎年1年生の各教室で生徒と一緒に昼食を食べながら、生徒との人間関係を築いたり生徒相互の人間関係を観察したりしていた。A男が1年生のとき、スクールカウンセラーは、校内の生徒指導委員会でA男を1年生の中で最も気になる存在であると報告していた。・A男は、学級内での人間関係のトラブルもあり、次第に遅刻や欠席が増え、1年生の3学期になると、ほとんど登校しなくなった。・A男が2年生の1学期の半ばころ、学校は、保護者の同意のもと、A男の就学相談を特別支援学校に依頼するとともに、市教育委員会が相談・指導を受けた日数を指導要録上出席扱いとすることを認めているフリースクールを紹介した。・A男は、フリースクール見学の翌日から通所するようになった。毎月のフリースクールからの報告では、ほとんど欠席することもなく通所していた。・A男は、2年生の2学期に大学病院で「広汎性発達障害」と診断された。・3年生になっても、A男はフリースクールに通っており、中学校卒業後は、通信制の高等学校への進学を考えるようになった。・本校では、以前からフリースクールの臨床心理士等のスタッフとの情報交換に努めており、A男の指導においてもスムーズな連携を行うことができた。

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第2章

学校と関係機関等との連携事例

事例7〔町内会と連携した薬物乱用(カセットコンロ用ガス吸引)への対応事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先

近隣の中学校 警察 町内会青少年健全育成連絡協議会少年補導センターPTA販売業者

b)連携の状況学校と町内会との情報交換警察の支援の下での町内会によるパトロールの実施c)連携の成果問題行動の改善地域連携の重要性の再認識地域の教育力の向上d)残された課題地域での生徒の様子が日常的に学校に届くようにするための、地域との連携の在り方の検討

【事例の概要】

・地域住民の高齢化に伴い、中学生が地域で問題行動を起こしても直接注意をすることができないなど、地域の教育力の低下が危惧

されていた。・中学生がカセットコンロ用のガスを吸引しているという地域からの情報をもとに、学校において当該町内会長と情報交換を行った。・近隣の中学校長、生徒指導主事、青少年健全育成連絡協議会関係者、警察及び少年補導センターの担当者が協議し、それぞれ役割分担をして行動連携を図った。・町内会は警察の協力の下、パトロールを実施するとともに、学校はPTAと連携し、啓発文書を作成し、保護者や地域に配布した。また、ガスボンベ販売業者にも地域の中学生の実態を理解してもらい、薬物乱用につながらないように協力を依頼した。・連携の結果、中学生のガス吸引がなくなるとともに、地域の情報が学校に入りやすくなり、他の問題行動への対応が迅速になったり、防止につながったりした。また、地域の人々のつながりが生まれ、高齢化している町内会の結束も強まり、地域の子どもは地域の力で守ろうという機運が生まれてきた。

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事例8〔地域やスポーツ施設と連携した暴力行為を繰り返す生徒への対応事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先

警察保護司

子ども家庭センター(児童相談所)民生委員・主任児童委員

ボクシングジム地域組織

b)連携の状況こども家庭センターから講師を招いての研修A男(3年男子)が信頼するボクシングジムの会長との綿密な情報交換c)連携の成果A男の問題行動の減少A男を受け入れる学年集団の変化d)残された課題A男の集団の中における自己をコントロールする能力のさらなる向上

【事例の概要】

・A男(3年男子)は、小学校低学年の頃から、暴力行為を繰り返し、中学校に入ると、授業妨害、暴力行為、脅迫、恐喝、器物損壊等を繰り返してきた。2年生の時に起こした暴力行為では、警察に被害届が出された。・長期にわたって問題行動を繰り返しているため、子ども家庭センター(児童相談所)から講師を招き、より効果的な指導方法について助言を受け、共通理解を図り全教職員が指導に当たる体制を整えた。また、被害届が出された暴力行為については、警察と綿密な連携を図った。・A男が通っているボクシングジムの会長と連絡を取り合い、A男の状況について情報連携を図った。本校の正門前であいさつ運動をしている地域組織や民生委員・主任児童委員、保護司と連携し、生徒の見守りと日常の声かけを強化した。・A男は、2年生までは問題行動を繰り返してきたが、3年生になる頃には地域の大人の声かけに対して素直に返事を返すようになるなど、落ち着いた学校生活を送るようになったほか、A男が所属する学年集団も、A男に対する受容的な態度が多く見られるようになった。

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第2章

学校と関係機関等との連携事例

事例9〔いじめや暴力行為を繰り返す生徒への対応事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先

市教育委員会 警察家庭裁判所少年鑑別所保護司

児童相談所民生委員・児童委員

b)連携の状況日ごろからの市教育委員会、警察、児童相談所との連携ケース会議における協議c)連携の成果警察・司法関係の機関との連携による暴力行為の抑止d)残された課題日ごろからの保護司や警察、児童相談所とのより効果的な情報共有の在り方の検討問題発生時の早期連携の在り方の検討

【事例の概要】

・A男(2年男子)は、入学後ほどなく同級生に因縁をつけ暴力を振うとともに授業放棄や校内のはいかいを繰り返し、1年生の2学期になるとますます抑制がきかなくなり、上級生や教員にも暴力を振うようになった。・家庭は母親と父親(内縁の夫)、本人、兄妹3人の6人家族である。父親は威圧的であり、A男は家では父親が怖く目立ったことはしなかったが、学校では暴言や暴力、いじめを含めた威圧的な行為、器物損壊など反社会的行為を繰り返し、学校が様々に工夫し繰り返し行う指導や支援にも応じる姿勢が見られなかった。・家庭訪問をして話し合おうとしても、両親は本人の行為を真剣にとらえようとはせず、教員に対する苦情で話をそらし、時として恫

どう

喝的な態度を見せた。・初期の段階では1年生ということで関係機関等との連携が遅れたため、状況が悪化し、1年生の終わりの頃、児童相談所、警察署、民生委員・児童委員、市教育委員会関係者からなるケース会議を開催した。その中で、日々の問題行動への対応などについて協議を重ねた結果、児童相談所が家庭裁判所へぐ犯事件として送致した。家庭裁判所で観護措置がとられ、少年鑑別所へ入所し、最終的に保護観察処分となった。その結果、暴力行為が収まった。・現在、学校は、保護司、児童相談所、警察署と連携し、本人の生活状況についての情報を共有し、卒業後の進路を含めた相談活動に取り組みながら、本人の自己指導能力の育成に努めている。

Page 14: 学校と関係機関等との連携事例 - NIER事例1〔教育相談所等と連携した生徒指導上の課題がある児童への対応事例〕 【事例のポイント】

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事例10〔サポートチームによる問題行動を繰り返す生徒への対応事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先市教育委員会 警察・少年サ

ポートセンター保護司

児童相談所民生委員・主任児童委員

産婦人科医 地区青少年生活指導協議会

b)連携の状況生徒指導に関する情報交換のための推進会議の開催問題行動を繰り返す生徒への対応のためのサポートチームの編成c)連携の成果多様な意見や情報を踏まえた的確な指導による生徒の変容子どもへの接し方等に関する保護者の意識の変容d)残された課題年度当初からの計画的な会議運営と日程調整家庭環境の改善のための支援の在り方の検討

【事例の概要】

・本校区の地域的な特色として、おおらかな気風があり、少々の暴力行為等についてはあまり気に留めないことから、生徒も問題行動に対する罪悪感が薄い面が見られる。・問題行動等の抑止に向けて、生徒及び保護者の規範意識を高めるとともに、より実効性のある取組を進めるため、警察署や児童相談所をはじめとした関係機関等との連携を強め、サポート体制を強化し、問題行動を繰り返す生徒ヘの継続した指導を行った。・市教育委員会がコーディネート役となり、警察・少年サポートセンター、児童相談所、保護司、民生委員・主任児童委員、地区青少年生活指導協議会、産婦人科医等による推進会議を年間4回程度開催した。また、事案に応じ5~6人の構成員からなるサポートチームを編成し、問題行動を繰り返す生徒等への対応を行った。・深夜はいかい、万引き、性の逸脱行為、飲酒、喫煙等を繰り返すA子(3年女子)については、警察、児童相談所、保護司、産婦人科医でサポートチームを編成し、A子及びその保護者に対する面談等を定期的に行った。・関係機関等からの専門的な助言により、A子やその保護者に対する学校側の理解が深まり、的確な指導・支援ができるようになったことから、一定の成果が見られた。・A子の保護者が関係機関等と関わりを持ったことにより、子どもへの接し方や考え方を変えようとする意識の高まりが見られた。

Page 15: 学校と関係機関等との連携事例 - NIER事例1〔教育相談所等と連携した生徒指導上の課題がある児童への対応事例〕 【事例のポイント】

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第2章

学校と関係機関等との連携事例

事例11〔サポートチームによる問題行動を繰り返す生徒集団への対応事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先警察 PTA

地域の健全育成関係者

b)連携の状況PTA、地域の健全育成関係者、警察等と協働しての「少年サポートチーム」の編成「少年サポートチーム」内でのそれぞれの役割の明確化問題行動を繰り返す生徒の保護者間のネットワークづくりc)連携の成果警察との連携体制の充実保護者、地域、学校の信頼関係の構築問題行動の減少d)残された課題より多くの参加者によるPTA活動や地域活動の実施

【事例の概要】

・問題行動を繰り返す生徒たちは、小学校時代に学級崩壊を経験していた。中学校入学後は、授業妨害や授業エスケープ、校内での喫煙や暴力行為を繰り返していた。・PTA、地域の健全育成関係者、警察などにより「少年サポートチーム」を編成し、役割を明確にした行動連携を図った。学校 … 魅力ある学校にしよう。(分かる授業の展開、生徒指導体制の充実、相談活動の

充実、小・中連携の充実など)PTA… 様々な場面で生徒に声をかけよう。(朝の声かけ運動、下校時の地域パトロール

など)警察 … 普段の関わりを深めよう。(未然防止、立ち直り支援、相談活動など)地域 … 積極的に関わっていこう。(地域行事への参加に関する啓発、子ども主体の行事

の実施など)・問題行動を繰り返す生徒の保護者間のネットワークをつくり、保護者が悩みを共有するとともに、協力して問題解決を進めることができるような環境整備を行った。・「少年サポートチーム」のメンバーや保護者による授業参観などにより、他の生徒や保護者に安心感が生まれた。関係機関、PTAや地域との連携を深めたことにより、教職員に対する保護者等の信頼感が高まった。こうしたことが教員としての責任感の自覚を一層深め、より効果的な指導の展開へとつながり、問題行動も少しずつ減少してきた。

Page 16: 学校と関係機関等との連携事例 - NIER事例1〔教育相談所等と連携した生徒指導上の課題がある児童への対応事例〕 【事例のポイント】

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事例12〔PTAのネットパトロールによりネットいじめ等の予防に取り組んだ事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先

警察(サイバー犯罪相談窓口)

PTA市青少年センター地域の店舗

b)連携の状況学校が進める学校ネットパトロールへのPTAの参画c)連携の成果地域住民や保護者からのネット上のトラブルに関する情報の学校への積極的提供インターネットや携帯電話利用時のトラブルに関する生徒や保護者の認識の深まり子どもを見守ることに対する市民の行動の芽生えd)残された課題「パスワード設定による閲覧不可能」の事態への対応などネットパトロールの技術上の限界協力者である保護者等の意識の高揚と活動の継続

【事例の概要】

・本校で起こったネット上のいじめの解決に向け、生徒の携帯電話の所持やその活用の在り方について、保護者と共に考える機会を持つことを重視して取り組んだ。そうした中、PTA組織の校外指導部による「ネット見守り隊」の活動が始まった。・学校非公式サイトの確認や問題のある書き込みを監視するネットパトロールとして、PTA校外指導部の役員が、自宅でネット巡視を行い、問題を見付けたら学校へ連絡することとした。(巡視すべきサイトについては、学校と役員で情報の共有を図る。)こうした取組として、自宅で行う「自主パトロール」とともに、日時・期間を設定して行う「特別パトロールⅠ」、長期休業中やトラブル発生が予想される場合に集中的に行う「特別パトロールⅡ」を実施した。また、問題か所の削除等、技術的なことは、学校から市青少年センターや警察(サイバー犯罪相談窓口)に相談し、プロバイダー等のサイトの管理者に削除を依頼した。・ネットパトロールの取組を効果あるものとするため、専門家を招いて、生徒向けの「情報モラル講演会」を実施し、IT社会に生きる生徒の自覚と責任を促した。また、「学校通信」や「生徒指導通信」を通じて、子どもを見守るべき保護者や地域の在り方について、啓発活動を実施した。・PTAの校外指導部の取組は、学校非公式サイトの確認や問題のある書き込みをパトロールするだけでなく、子どもを見守るべき保護者等への啓発や問題の解決を図る際に、専門機関と連携した活動を展開するなど、地域全体に働きかける取組までに高まった。市教育委員会や地域の量販店には、「ネットパトロール中」ののぼり旗を設置し、本活動を積極的にアピールし、市民の意識を高め、犯罪等の抑止につなげている。

Page 17: 学校と関係機関等との連携事例 - NIER事例1〔教育相談所等と連携した生徒指導上の課題がある児童への対応事例〕 【事例のポイント】

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第2章

学校と関係機関等との連携事例

事例13〔家出などのぐ犯行為で家庭裁判所の試験観察となった生徒への対応事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先スクールカウンセラー隣接する中学校

警察・少年サポートセンター家庭裁判所

児童相談所 産婦人科医

b)連携の状況問題行動発生時における警察・少年サポートセンタ―、家庭裁判所との情報交換、行動連携家庭裁判所調査官との役割分担と連携c)連携の成果問題行動の改善d)残された課題問題行動の予兆時における関係機関等との連携の在り方の検討

【事例の概要】

・本校は地方都市の郊外に位置し、近年、校区内の人口増加に伴い、ひとり親家庭や経済的に困難な家庭も増えている。・本校では、日ごろからスクールカウンセラーも含め組織上の役割分担を定めて生徒指導体制を整えている。問題行動の発生時には生徒指導主事がコーディネーターとなって、学校内での個別の支援会議を設けて対応している。・本事例のA子(2年女子)はひとり親家庭で、父親と暮らしていた。2年生に進級したころから欠席が増え、深夜はいかいするようになった。保護者からの連絡を受けA子の指導に当たるものの、十分な改善が図られないうちに隣接する中学校のB男(2年男子)と行動を共にするようになり、性的関係も心配された。保護者との連携を密にするとともに、隣接する中学校とも情報を共有し、学校間の連携を図った。・児童相談所や警察・少年サポートセンターとも連携し、問題行動の防止に努めた。しかし、A子はB男と家出を繰り返すため、警察は家庭裁判所へぐ犯事件として2人を送致した。・家庭裁判所の試験観察となり、学校と家庭裁判所調査官との連携した指導によって、B男との関係が解消した。この間、養護教諭が保護者の協力の下でA子に産婦人科医の診察を受けさせるなど、関係機関との連携を計画的に進め、A子の立ち直りに努めた。

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事例14〔自殺未遂の経験のある生徒とその母親を支援した事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先

市教育委員会 保護観察所警察・少年サポートセンター保護司

保育所 保健所

b)連携の状況サポートチームの会議の開催(原則毎月1回)保護観察官による母親への連日の支援保健師による家族療法を定期的に行うなど医療面からの母親の支援c)連携の成果学校がA子(3年女子)の居場所となるd)残された課題中学校卒業後の支援の在り方

【事例の概要】

・A子(3年女子)は、窃盗事件で少年院に入院していた。退院するに当たり、少年院入院前に、感情の起伏が激しい母親とよくけんかをして何度か自殺を図っていたことから、退院後の対応のために、市教育委員会の支援の下、市教育委員会指導主事、保護観察官、警察、保護司、臨床心理士からなるサポートチームを組織した。・サポートチームでは、A子の仮退院後の対応策を検討する中で、まず、母親との接触が必要であると判断し、保護観察官と保健師が母親との面接を継続的に行い、A子への対応についてのアドバイスを行った。・A子は、夏休み前に仮退院したが、1週間経過後、A子の些細な言動に母親が逆上して責め立てたことが原因で自殺を図った。幸い発見が早く生命の危機はなかった。緊急にサポートチームの会議を開き、夏休み中のA子の支援方針を様々な角度から再検討した結果、A子が少年院在院中に、保育実習に熱心に取り組んでいたことに着目して、保育実習をさせることで母親との距離を保つこととした。そこで、保護司が受け入れ可能な保育所を探した。A子は、夏休みの期間を通して保育実習に熱心に取り組んだ。こうした支援により、母親との葛藤も収まり、母子ともに安定した生活を送ることができた。・2学期からA子は毎日登校したが、教室に入ることにためらいを見せたため、別室で学習することとした。A子は卒業の日までほとんど欠席することもなく、朝一番に登校し、下校時間ぎりぎりまで学校にいるなど落ち着いた学校生活を送った。一方、家庭では、学校から帰るとすぐに外出し、母親が就寝する深夜まで帰宅せず、保護司の家や地域の友人の家を転々として過ごしていた。・母親に対しては、保護観察官がほぼ毎日接触して心の安定を図ったほか、保健師は家族療法という形で、母親の心の安定を図るなど、継続して様々な支援を行った。

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第2章

学校と関係機関等との連携事例

事例15〔学校の通告による児童虐待への対応事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先

市教育委員会小学校スクールカウンセラー

警察 児童相談所県総合福祉センター民生委員・児童委員

b)連携の状況日ごろからの市教育委員会、児童相談所、民生委員・児童委員との連携緊急時に備えた児童相談所や警察との情報の共有c)連携の成果児童相談所の一時保護による父親の暴力行為の抑制関係機関等との連携推進に伴う小・中学校間の連携の緊密化d)残された課題一時保護が解除された後の子どもたちの支援保護者と学校が話合いを継続するための手立て

【事例の概要】

・A子(3年女子)、B男(1年男子)、小学生のC男(小1年男子)の3人姉弟のうちA子が長期の不登校、B男、C男は欠席しがちな状況にあり、中学校は小学校と連携しながら家庭訪問するなど、不登校状況の改善に向け努力していた。・ある日、父親がA子とB男に暴力を振っていると地域住民から学校へ連絡が入ったため、学校は家庭訪問を行った。しかし、家では話しにくい状況を考慮し、A子とB男を学校へ連れて帰り、スクールカウンセラーとともに事情を聞き、状況を詳しく把握したうえで児童相談所に通告した。・通告を受けた児童相談所からすぐに職員が来校し、A子とB男から事情を聞き、児童相談所への一時保護を勧めたが2人には迷いが見られた。そこで、中学校から小学校に連絡をとり、児童相談所で小学生のC男も含めて改めて検討することとした。C男は小学校の教頭と県総合福祉センターの保健師に連れられて児童相談所に来所し、中学校から移動してきたA子とB男と合流した。再度、児童相談所の職員が3人から事情を聞いたうえで、一時保護については姉弟3人の判断に委ねることとした。・最終的に、3人は児童相談所に一時保護されることになった。しかし、約2週間後、父親が児童相談所へ行き、子どもたちに対し暴力を振ったことを詫び、子どもたちも帰宅の意思を示したので一時保護は解除された。・父親は、学校が自分に何の相談もなく、児童相談所に通告したことを不満として、その後、学校との話合いに応じていない。子どもたちの状況については、今後も注視していく必要がある。

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【コラム】児童養護施設との連携

校区内に児童養護施設がある学校では、児童養護施設と連携協力して、施設から通学してくる子どもの教育と発達支援を図らなくてはならない。ところが、近年児童養護施設に入所する子どもは、虐待を受けてきた子どもが多くなり、学校における指導にも困難が生じるようになっている。そのため、児童養護施設とより緊密に連携しながら、指導を行うことがますます必要となってきている。ここでは、長年にわたって小・中学校と協力関係を保持して指導を進めてきた、ある児童養護施設の実践を紹介する。

A児童養護施設と小・中学校との連携の状況A児童養護施設に入所する子どもの家庭環境は年々悪化しており、虐待を受けた子どもが増加している。被虐待児は大人への不信感が強く、生活指導にはより多くの困難が伴うので、学校と協力・協働の態勢で指導する必要がある。A児童養護施設の子どもが通学する学校は、小学校1校、中学校3校、高等学校5校である。これらのうち、小・中学校とは定期的に生徒指導協議会を開催し協力関係を築いている。小・中学校との連携に当たっては、児童養護施設と入所してくる子どもに対する理解を深めてもらうことが大切であると考え、施設から学校に、次の5点を常に確認している。①児童養護施設への理解を深めてもらうこと、②児童養護施設で生活する子どもたちへの理解を深めてもらうこと、「困らせる子ども」のように見えていても、実は「困っていて、どうしてよいのか分らない」状態である子どもたちであること、③子どもの指導に当たっては、子どもたちの大人不信感を解消させることが大切であるので、施設と学校関係者が、まず子どもとの信頼関係を構築することを重視すること、④家庭・家族の支援を受けられない子どもであるからこそ、児童養護施設と学校が協力・協働して、健全発達を保障していく視点を忘れてはならないこと、⑤施設と学校では、暴力や虐待を受けることはなく、人格も否定されず、安全で安心な場所であることを保障することで子どもたちの対人不信感を解消し、自己肯定感を育むことができること、である。生徒指導協議会は、小学校は年間3回、中学校は年間2回開催している。協議会には、施設からは児童生徒の担当職員が、学校からは学級担任や生徒指導担当教員等が出席しているほか、双方の心理専門職や管理職も参加し、守秘義務を遵守しながら、率直な意見交換を行っている。協議会では、施設から、各児童生徒の生育歴や家庭環境などとともに、問題を起こした場合には、 その原因や背景について説明してもらうようにしており、児童生徒の生育歴から始まる事例研究会として進められている。学校からも率直な意見が出され、時には、見解が対立することもあるが、その都度「子どもの健全な発達をどう支援するのか」という原点に立ち返り、共通認識を深めてきている。こうした取組の中で、施設に対する学校の理解が深まり、協力関係が維持されてきた。今でも、子どもの問題行動は断続的に発生するが、生徒指導協議会で関係者の間に共通理解が図られており、その都度、施設の担当者と学級担任や生徒指導担当教員等が協力して対処し、問題を早期に解決している。

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第3節

高 等 学 校

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事例16〔進路変更により不登校生徒が大学進学を果たした事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先 出身中学校 精神科医

b)連携の状況医療機関との適切な連携と情報共有c)連携の成果不登校・いじめに対する教職員の認識の深まりA子(1年女子)のQOL (生活の質)の向上d)残された課題学校全体としての生徒指導・健康相談活動の一層の充実

【事例の概要】

・A子(1年女子)が1学期の途中から不登校状態になった。ホームルーム担任は「少しおとなしい真面目な子」という印象しか持っていなかった。学年主任が家庭訪問で本人と面談したが、理由を尋ねても返事がなかった。出身中学校に問い合わせたところ、中学1年の時にいじめを受け、以後卒業まで保健室登校をしていたことが分かった。・頭痛等の身体症状も認められたため、思春期・青年期を専門とする精神科医を紹介し、受診に至った。事前に学校から病院に情報を伝えることや、重要事項はその都度情報交換をすることについて、A子と保護者から了承を得た。数回の受診の後に、主治医から「中学校時代のいじめの後遺症(トラウマ)が残っていて、集団の場に適応するまでには相当長い期間の治療と自宅療養が必要」との診断が出た。・医師の判断を受け、学校がA子や家族と相談を繰り返した結果、休学を何年間か続けるのではなく、退学して個別学習をすることができる学習塾へ通い、高等学校卒業程度認定試験を受け、大学入学を目指すこととなった。・A子の退学に伴い、本校のかかわりはなくなった。退学後もA子は、医療機関での受診を続けていた。3年後にA子から「高校卒業程度認定試験と希望していた大学に合格し、今は大学生活を満喫している」という手紙が当時の学年主任宛に届いた。

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第2章

学校と関係機関等との連携事例

事例17〔保護観察所と協働して高等学校の中途退学を防いだ事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先保護観察所保護司

b)連携の状況保護観察所と連携した高等学校継続に関する説得c)連携の成果通学の意欲を取り戻すことによる中途退学の防止d)残された課題日ごろからの関係機関との連携の在り方の検討

【事例の概要】

・A男(3年男子)は、知り合いの成人に頼まれて、商品販売を手伝っていたが、そのうちに商品が盗品であることに気付いた。しかし、優柔不断なA男は、手伝いを断れないでいるうちに共犯者として逮捕され、少年鑑別所に収容された。・家庭裁判所は、A男にはそれまで非行歴がなく、今回の事件もだまされて手伝わされたものであったため、保護観察を付し、保護観察所の指導を受けさせ、交友関係の改善と高校教育を継続させようとした。・A男も保護者も高校教育の継続を希望していた。しかし、少年鑑別所に1カ月間の観護措置となっていたために授業日数が足りず、留年は避けられない状況であった。ホームルーム担任は、A男の性格から、留年後に登校できるか心配をしていた。・A男の担当保護観察官や保護司は、本人の更正のためにも高校への通学を認めて欲しいという意見であった。学校では、保護観察官や保護司の意見を参考にして、留年を決定し、A男が登校をためらうようであれば、保護観察所と連携を図り、指導することにした。・A男は、3学期の復学当初から年度末まで、欠席もなく登校した。しかし、留年して新年度になり、後輩と席を並べるようになると登校をしぶり始めた。担任は、個別面接を繰り返して指導を行った。保護観察所も、A男のカウンセリングを行ったり、少年鑑別所で書いた反省文などを振り返らせたりした。その結果、A男は、5月の連休明けからは、進んで登校するようになった。夏休み前には学習意欲も高まり、大学進学を希望するようになっていた。A男は、自宅から通学可能な私立大学を受験し、見事合格を果たした。

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事例18〔地域連携と学校間連携により高校生の飲酒・喫煙等の防止に取り組んだ事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先市内の全高等学校

警察 地区防犯協会

b)連携の状況合同研修会における活動状況に関する意見交換防犯ボランティアチームの編成と活動c)連携の成果高校生の防犯意識の高まりと非行件数の減少地域住民の防犯意識の高まりd)残された課題活動の維持と広がり

【事例の概要】

・本地域は、昔から祭りの時期などに、未成年者の飲酒、喫煙を容認する風潮があり、有職・無職少年と高校生による非行が多発していた。・こうした状況を改善するため、地区防犯協会の支援のもと、市内の一部の高校が共同し、地域の治安や文化を自らの手で守るための防犯ボランティアチームが組織された。その後、市町村合併により参加する学校数が増え、最終的には市内の全高等学校が連携して防犯活動に取り組むに至った。・主な活動として、駅周辺の安全点検、自転車やオートバイの施錠調査や自作の防犯チラシの配布、地域安全マップを作成し保育所や幼稚園、小・中学校、公民館へ配布するといった安全安心の街作りを進める取組、未成年者への酒類等の販売防止運動などを、学校と警察や防犯協会、関係機関等と連携して行った。・市内の全高等学校の代表生徒による合同研修会を毎年開催し、各警察署管内での活動状況の報告や今後の活動について意見交換等を重ねてきた。・高校生の防犯運動に対する地域の理解が進み、祭りでの未成年者の飲酒・喫煙等の防止については、祭りの運営主体である各自治会の協力が得られるようになるなど、市民全体の防犯意識の高まりが見られるようになった。

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第2章

学校と関係機関等との連携事例

事例19〔児童虐待を迅速に通告し生徒を保護した事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先転校先の高等学校

児童相談所市福祉課児童養護施設

b)連携の状況児童相談所への速やかな通告c)連携の成果一時保護による虐待の防止関係機関等との連携の成功体験による信頼関係の強化d)残された課題高等学校を離れた生徒に対する長期的な支援

【事例の概要】

・本校では、養護教諭を中心として、日ごろから健康相談活動に熱心に取り組み、その中で「児童虐待の防止」についての教職員への啓発も行ってきた。・以前より体調不良を訴えて保健室をしばしば利用していたA子(1年女子)から、養護教諭に父親からの近親姦

かん

を示唆する相談があった。養護教諭はすぐに校長に報告し、校長を中心に校内体制を速やかに整え、対応について検討した。その結果、A子に向き合う役割を養護教諭が、市福祉課・児童相談所に通告し調整を図る役割を教頭が、保護者に向き合う役割をホームルーム担任と校長が、それぞれ担うこととし、児童虐待の通告に至った。・児童相談所による面接の結果、性的虐待が繰り返されるリスクが高いことが判明し、A子の同意を得た上で、その日のうちに一時保護することとなった。・児童相談所が児童養護施設の入所を決定し、本校の在籍を継続することが難しくなり、協議の結果、通信制の高等学校に編入することになった。

Page 26: 学校と関係機関等との連携事例 - NIER事例1〔教育相談所等と連携した生徒指導上の課題がある児童への対応事例〕 【事例のポイント】

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事例20〔指導マニュアルを作成して発達障害のある生徒に対応した事例〕

【事例のポイント】a)主な連携先(※ゴシック体は中心となった連携先)

分 野 教育関係 警察・司法関係 福祉関係 保健・医療関係 その他

主な連携先出身中学校 発達障害者支援

センター

b)連携の状況 発達障害者支援センターと連携した個別支援委員会の設置 外部の専門家を招いての教職員研修会の実施c)連携の成果 アスペルガー症候群に対する認識の共有 詳細な指導マニュアルの作成とそれに基づく対応d)残された課題 障害特性への気付きの遅れ等により対応に苦慮する状況の継続 保護者の理解・協力 周囲の生徒への説明 卒業後の進路

【事例の概要】

・中学校卒業の間際に、「アスペルガー症候群」と診断されたA男が本校へ入学してきた。入学後まもなく、級友に対する暴力行為があり、保護者との面談で上記の診断を受けていたことが分かった。・その後も突発的なパニック・暴力行為が頻発したため、全校的対応と外部専門機関との連携が不可欠となり、校内に個別支援委員会を設置した。・発達障害者支援センターに依頼して、個別支援委員会へのアドバイスを受けたり、教職員対象の研修会などに専門家を派遣してもったりして、全教職員の共通認識を深めるとともに、協力体制を整備した。・様々な工夫をしてA男に対応してきたが、3年生になっても暴力行為はなかなか収まらず、強いこだわりや教科間の成績にも大きなアンバランスが見られるため、詳細な指導マニュアルを作成したり、校内の連携体制を強化したりしながら対応を続けている。医療機関への相談は保護者の理解が得られず、実現していない。卒業後の進路決定が課題となっている。