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平成30年度琴浦町寿大学2019.3.8
鳥取県埋蔵文化財センター 坂本 嘉和
たたら製鉄の源流を探る
本日の内容1.はじめに.
2.たたら製鉄とは?
3.発掘された古代・中世の製鉄遺跡
・製鉄
勝負谷製鉄遺跡(倉吉市関金町)
下市築地ノ峯東通第2遺跡(大山町下市)
赤坂小丸山遺跡(大山町赤坂)
・精錬鍛冶(大鍛冶)
新屋宮ノ段遺跡(日南多里)
殿河内ウルミ谷遺跡(大山町殿河内)
・鍛錬鍛冶(小鍛冶)
坂長第6遺跡(伯耆町坂長)
4.まとめ 古代伯耆の鉄生産
鉄づくりの工程
①製鉄(製錬) ②鍛冶
1.はじめに
2.たたら製鉄とは?・日本独自の製鉄技術 江戸時代中期ごろ(18世紀)に成立。
・高殿(製鉄炉を覆う巨大な建物)+天秤鞴(ふいご)+鉄穴流し
高殿とは?・菅谷たたら(雲南市吉田町)
高殿が唯一現存
田部家が経営
・吉たたら(日南町印賀)
近藤家が経営
米子市立図書館所蔵
たかどの
床釣とは?保温・防湿のためにつくられた大規模かつ複雑な地下構造
とこつり
木炭を敷き詰めた本床 + 両側にあるトンネル状の小舟
鉄づくりの開始はいつか?・弥生時代か?古墳時代の終わりか?
→本格化は古墳時代終わり頃(6世紀頃)か。
・中国地方、とくに吉備が中心。
・小型の箱形炉
→朝鮮半島にはない日本独自の炉形?
青谷上寺地遺跡
弥生時代の鉄製品
鉄づくりの普及 ~奈良・平安時代~
・律令国家のもと列島各地で大規模な鉄づくり
・製鉄炉の2つのタイプ
箱形炉(西日本を中心)と竪形炉(東日本を中心)
→箱形炉は大型化。
箱形炉 竪形炉
鍬(=鋤鍬先)
伯耆町坂長村上遺跡
・伯耆国は鉄(調鉄)を都に納める国
→『延喜式』平安時代(10世紀)に編纂
筑前・伯耆・備後・備中・美作
雲南市寺田Ⅰ遺跡
鉄(=割鉄)
鉄づくりの普及 ~奈良・平安時代~
鉄づくりの発展~鎌倉から戦国時代~
・年貢として鉄を納める荘園
伯耆・出雲・隠岐・備中・安芸
中国山地に限られる。
・箱形炉はさらに大型化。小舟状遺構の出現。
3.発掘された古代・中世の製鉄遺跡
下市築地ノ峯東通第2遺跡
赤坂小丸山遺跡
勝負谷製鉄遺跡
上寺谷遺跡
モクロウジ﨏遺跡
製鉄炉が発見された遺跡
大河原遺跡
新屋宮ノ段遺跡
・鍛冶炉の調査事例は多いが、製鉄炉はごく少ない。
精錬鍛冶炉が発見された遺跡
福島城跡
炉地下構造の規模
長さ2.8m、幅0.5m
箱形炉の大きさ
内法:長さ1.2m、
幅35cm前後
炉の時期:8世紀後半
出土した炉底塊
勝負谷製鉄遺跡—奈良時代の箱形炉—
下市築地ノ峯東通第2遺跡—平安時代の箱形炉—
大山町下市
須恵器窯
炭窯
製鉄炉
下市築地ノ峯東通第2遺跡—平安時代の箱形炉—
下市築地ノ峯東通第2遺跡—平安時代の箱形炉—
炉跡
流出溝
排滓場
3D測量
下市築地ノ峯東通第2遺跡—平安時代の箱形炉—
炉跡
流出溝
排滓場
流出孔につまった滓
炉底塊
炉壁基部
下市築地ノ峯東通第2遺跡—平安時代の箱形炉—
下市築地ノ峯東通第2遺跡—平安時代の箱形炉—
地下構造に敷き詰められた木炭
下市築地ノ峯東通第2遺跡
いったい、なぜ、炉床に炉底塊が完全な形でとり残されていたのか?
通常、箱形炉は操業毎に壊し、炉底にできた鉄を取り出す。
—平安時代の箱形炉—
銑(ずく)と鉧(けら)
銑:炉外に流れ出る鉄炭素量が多い。
鉧:炉底に生成される鉄塊炭素量が少ない。
製鉄炉内の温度は1200~1400度
銑押しと鉧押し砺波たたら(明治)→銑0.8t:鉧2.8t
価谷たたら(明治)→銑4.5t:鉧0.3t
鉧
復元された製鉄炉の規模:長さ2.6m×幅45cm前後(内法)
鞴
鞴
炉底塊
下市築地ノ峯東通第2遺跡
砺波たたら
(明治時代)
内法長2.967m
幅0.755m
下市築地ノ峯東通第2遺跡
(平安時代)
内法長2.6m
幅0.45m
下市築地ノ峯東通第2遺跡
使用された炭コナラ・クヌギなど
下市築地ノ峯東通第2遺跡伏せ焼き大型炭窯
製鉄場
赤坂小丸山遺跡—平安時代末頃の箱形炉—
大山
大山町赤坂
粘土採掘坑製鉄炉・製鉄炉(箱形炉)
・粘土採掘坑
・道路遺構
炉に使う粘土を採取
作業用道路
道
時代:平安時代10~12世紀頃
赤坂小丸山遺跡—平安時代末頃の箱形炉—
→製鉄場の施設配置が明らかにできた重要な遺跡。
鉄塊の小割り場
製鉄炉地下構造
砂鉄置き場
赤坂小丸山遺跡
鉄塊の小割り場
製鉄炉
赤坂小丸山遺跡
製鉄炉地下構造
赤坂小丸山遺跡
—平安時代末頃の箱形炉—
・地下2m近くの白色粘土を採掘。
粘土採掘坑
下原重仲著
『鉄山必用記事』
(1784)
白い粘土が最適
赤坂小丸山遺跡
赤坂小丸山遺跡製鉄遺構の発掘調査
赤坂小丸山遺跡復元された製鉄場の作業空間
補修された炉壁
箱形炉における補修技法
・4割近く(重量比)に補修痕跡。
・補修回数は最大で3回。
→箱形炉は操業毎に壊されるとされた従来の見解に見直しを迫る重要な成果
赤坂小丸山遺跡
赤坂小丸山遺跡
復元された箱形炉の補修技法
新屋宮ノ段遺跡 日南町町多里
中世の精錬鍛冶炉 覆屋(建物)とセットで見つかる。
新屋宮ノ段遺跡中世の精錬鍛冶炉板屋型精錬鍛冶炉:竪形炉の系譜を引く。
→東日本の製鉄技術
炉跡
排滓土坑
金床石
新屋宮ノ段遺跡中世の精錬鍛冶炉
炉跡炉壁(前壁)
排滓土坑
作業面
新屋宮ノ段遺跡中世の精錬鍛冶炉
炉跡
排滓土坑
排滓孔
殿河内ウルミ谷遺跡
大山
平安時代後半の精錬鍛冶関連遺物
大山町殿河内
年代:平安時代10~11世紀
殿河内ウルミ谷遺跡平安時代後半の精錬鍛冶関連遺物
板屋型羽口 簀巻き技法を用いた、大形の鞴羽口
殿河内ウルミ谷遺跡
簀巻き痕跡
坂長第6遺跡
大型建物跡
鍛冶工房
会見郡衙(郡役所)
の鍛冶工房
伯耆町坂長
奈良時代の鍛錬鍛冶炉
都に納める調鉄を生産か。
鍛冶工房調査前
鍛冶工房調査後
大型金床石
鍛冶工房→斜面に立地
坂長第6遺跡
鍛冶炉
鍛冶炉坂長第6遺跡奈良時代の鍛錬鍛冶炉
多量の鉄滓や鞴羽口などが出土
大規模な排滓場
坂長第6遺跡
鞴羽口:50個体以上
(鍛冶炉に風を送る粘土製の管)
坂長第6遺跡
150㎏近くの大型金床石
坂長第6遺跡
鉄片が多く付着
坂長第6遺跡鍛冶作業復元図
粘土
鞴羽口
鍛冶炉金床石
石槌
鉄槌 原料鉄
足入れ穴できた製品
鉗
4.まとめ 古代伯耆国の鉄生産
・飛鳥時代(7世紀後半)以降各地で盛んに行われるようになった。特産物(税)として都に納められた。
・良質な砂鉄が豊富に採れたことがその背景にある。古代から中世は川砂鉄や浜砂鉄を使用。
・古代から中世にかけて箱形炉が大型化を遂げる。
→背景に送風力の向上・鞴の改良
→製鉄遺跡は山間部だけではなく、海浜部にも営まれた。
・琴浦町も重要な役割を担った可能性。
・古代末から中世初頭に精錬鍛冶が分業化。→近世の大鍛冶につながる。
→大量生産が可能に。近世たたら製鉄を生み出す。
→『鳥取県生産遺跡分布調査報告書』には、江戸から明治にかけてのたたら場が9カ所掲載。