基調講演 不妊治療と 仕事との両立に関する課題基調講演 不妊治療と...

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基調講演 不妊治療と 仕事との両立に関する課題 横浜市立大学 産婦人科 准教授 倉澤健太郎 令和21124不妊治療と仕事の両立に関するシンポジウム 職場・家庭 医療機関 人生

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  • 基調講演

    不妊治療と仕事との両立に関する課題

    横浜市立大学 産婦人科准教授 倉澤健太郎

    令和2年11月24日不妊治療と仕事の両立に関するシンポジウム

    職場・家庭

    医療機関

    人生

  • 本日の内容

    • 現代社会を生きる女性

    • 妊娠に着目した体のしくみ

    • 不妊治療の一般的なスケジュール

    • 働くこと、家族のことを考える

  • 本日の内容

    • 現代社会を生きる女性

    • 妊娠に着目した体のしくみ

    • 不妊治療の一般的なスケジュール

    • 働くこと、家族のことを考える

  • 女性の健康に関する諸課題

    持続可能な産婦人科医の確保

    周産期医療体制の確保女性と子供を守る支援

    啓発・教育

    養子 婚外子

    望まない妊娠お金の心配緊急避妊

    不妊治療健診助成券

    二人目は?

    未婚・結婚

    初産年齢の高年齢化非婚

    流産早産を防ぐ

    卵子凍結保存仕事と治療がん生殖

    ゲノム編集

    特定妊婦への支援

    出生前診断スクリーニング

    分娩場所 無痛分娩周産期医療体制整備

    産後健診・ケアうつ

    待機児童

    性に関する正しい知識の普及

    仕事と家庭の両立

    夫婦別姓

    思春期

    DV

    内膜症、腺筋症、筋腫

    貧困

    性暴力

    アスリート

    メンタルヘルス

    多様性(ダイバーシティ)

    月経困難

    ダイエット

    やせ

    他業種との連携アカデミアの出番行政・政治的マター

    児童虐待

    OC/LEP

    更年期障害

    骨粗しょう症脂質異常症心血管系疾患ウロギネロコモ性機能

    プレコンセンプションHPVワクチン

    キャリア形成

    WoCBA

    女性特有の腫瘍

  • 50歳時の未婚割合の推移

    令和2年版 厚生労働白書

  • 未婚率 婚姻年齢

    令和2年版 厚生労働白書

  • 年齢別出生率

    令和2年版 少子化社会対策白書

  • OECD加盟国の第1子出生平均年齢(2008年発表)

    (備考:カナダ、イタリアは2007年、メキシコ、アメリカ、フランス、イギリスは2006年、オーストラリア、デンマーク、日本、韓国、ニュージーランドは2005年の平均年齢を使用)

    21

    22

    23

    24

    25

    26

    27

    28

    29

    30

    31

    Mex

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    イギリス

    ドイツ

    イタリア

    スペイン

    スイス

    ルクセンブルグ

    韓国

    スロベニア

    オーストラリア

    ポルトガル

    ニュージーランド

    加盟国平均

    ベルギー

    フィンランド

    キプロス

    カナダ

    オーストリア

    ノルウェー

    チェコ共和国

    リトアニア

    ルーマニア

    ブルガリア

    ラトビア

    メキシコ

    ポーランド

    エストニア

    アメリカ

    日本

    オランダ

    ギリシャ

    フランス

    デンマーク

    スウェーデン

    アイルランド

    ハンガリー

    イスラエル

    スロバキア共和国

    アイスランド

    29.1歳日本はOECD加盟国の中でも、遅く子供を産む国である

    齋藤英和先生より

  • 結婚持続期間

    0.97

    1.88 2.09 2.08

    0.66

    1.62

    1.871.92

    0.69

    1.311.5

    1.5

    0.38

    0.77

    1.16

    0

    0.5

    1

    1.5

    2

    2.5

    0 - 4 5- 9 10 - 14 15 - 19

    平均出生子ども数

    20 -24

    25 -29

    30 -34

    35 -39

    妻の結婚年齢別にみた、結婚持続期間別平均出生子ども数

    国立社会保障・人口研究所第14回出生動向基本調査

  • 10 令和2年版 厚生労働白書

  • 妊孕性(妊娠しやすさ)の知識(国・男女別)

    Bunting L at al. Hum Reprod 2013; 28:385-397

    日本はトルコの次に知識レベルが低い

    設問例:・加齢による妊孕力の低下・体重増加による妊孕力の低下・タバコ、性感染症など

    13の設問

  • 本日の内容

    • 現代社会を生きる女性

    • 妊娠に着目した体のしくみ

    • 不妊治療の一般的なスケジュール

    • 働くこと、家族のことを考える

  • 器質性月経困難症に対する適正なホルモン療法などに関する研修 講義スライドより

  • 器質性月経困難症に対する適正なホルモン療法などに関する研修 講義スライドより

  • 器質性月経困難症に対する適正なホルモン療法などに関する研修 講義スライドより

  • 700

    卵子の数(万)

    胎生期

    3 6 9胎児(ヵ月) 年齢(歳)

    5 10 20 30 40

    思春期 性成熟期 更年期

    50

    出生

    初経

    閉経

    閉経時には数はゼロに近づく

    卵の数は胎生20週まで急増約700万個

    出生時には約200万個まで減少

    思春期には20万から30万個に減少

    卵子の数の変化

    600

    500

    400

    300

    200

    1006030

    卵子は排卵しなくてもどんどん減少する

    Baker TG: Am Jobstet Gynecol; 110: 746, 1971齋藤英和先生より

  • 母体年齢と流産 周産期医学 vol. 21 no. 12, 1991-12

    母の年齢と自然流産率

    虎ノ門病院産婦人科 1989.1.~1991.7.データ

    年齢区分 妊娠例数 流産例数 流産率(%)

    24歳以下

    25~29歳

    30~34歳

    35~39歳

    40歳以上

    合計

    90

    673

    651

    261

    92

    1,767

    15

    74

    65

    54

    38

    246

    16.7

    11.0

    10.0

    20.7*

    41.3*

    13.9

    * 25~29、30~34歳の群と比較して有意差あり(p<0.01)

    資料:

    妊娠適齢期

    齋藤英和先生より

  • Hum Reprod Update 16: 65-79, 2010

    妊娠に至るに要する期間(月)

    挙児を希望した時点での男性の年齢

    男性が若いと相手が早く妊娠する

    20歳代約6カ月、30歳代約10カ月

    齋藤英和先生より

  • (Habbeman et al. Hum Reprod. 30; 2215-21 2015)

    ほしい子どもの数別・達成確率別にみた、妊活を開始するべき上限年齢

    齋藤英和先生より

  • 本日の内容

    • 現代社会を生きる女性

    • 妊娠に着目した体のしくみ

    • 不妊治療の一般的なスケジュール

    • 働くこと、家族のことを考える

  • 少子化対策

    生殖医療は救世主か?

  • 早期に不妊治療を開始することが望ましい方・35歳以上のもの・明らかな排卵障害のあるもの・子宮外妊娠、子宮内膜症性嚢胞等の手術既往のあるもの・夫が以前に乏精子症、精子無力症を指摘されているもの

    生殖可能な年齢にあり、一組の夫婦が結婚後正常な性生活を続けると、1年で80%、2年で90%のカップルが妊娠します。

    1年間妊娠しなかった場合、不妊症と定義されています。

    一般的には全夫婦の10%が不妊症であると考えられています。

    不妊症とは

    横浜市大センター病院生殖医療センター

  • 妊娠成立の機序

    メディカルノートより

  • 原始卵 卵胞成熟 排卵 黄体 黄体の退化

    月経 増殖期 分泌期 月経

    エストロゲン

    LH

    FSH

    プロゲステロン

    低温期

    高温期

    卵巣周期

    ホルモン分泌

    子宮内膜周期

    基礎体温

    月経周期とホルモン分泌の関係

    横浜市大センター病院生殖医療センター

  • 不妊治療の流れ

  • 不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル(厚生労働省)

  • 最初の数か月

    不妊症治療に理解を深めるとともに、基本的な検査で不妊原因を明らかにします。排卵日を確認し性交のタイミング指導をします。

    基本検査 基礎体温測定、一般精液検査、頚管粘液検査 、フーナーテスト 、子宮卵管造影、経腟超音波検査→不妊原因を検索

    タイミング指導 排卵日を予測し妊娠の可能性の高い日に性交を持つよう指導します。

    横浜市大センター病院生殖医療センター

  • 次の数か月から1年程度

    卵巣からの過排卵と精子の卵管内への遡上を促

    進し卵と精子の出会う確率を高めます。

    過排卵刺激 HMG-HCG療法

    人工授精(AIH) 洗浄精子による人工授精

    横浜市大センター病院生殖医療センター

  • 精液と培養液を混和し遠心分離すると精子が下層に沈殿します。不良精子や細菌などが上層に残り比較的良好な精子が下層に含まれます。

    上層を除去し下層の部分を子宮腔内へ注入します。さらに、運動精子のみを選別するためには培養液を重層し、その中に遊泳してくる精子のみを採取することもあります。

    精子の洗浄濃縮

    スイムアップ

    人工授精

    横浜市大センター病院生殖医療センター

  • 人工授精(AIH, IUI)

    2nd

    体外受精(IVF, ICSI)

    3rd

    精子にトラブル頚管粘液不全

    抗精子抗体陽性

    精子に重大なトラブル両方の卵管が閉じている

    重症子宮内膜症高齢

    タイミング療法(自然の夫婦生活)

    1st

    原因精査 および その治療(手術適応・薬物療法)

    不妊治療のステップ

    横浜市大センター病院生殖医療センター

  • 生殖補助医療の適応

    ● 卵管閉塞など、手術では治療ができない場合

    ● 男性不妊で、人工授精によっても妊娠しなかった場合

    ● 免疫性不妊症で、通常の治療で妊娠しない場合

    ● 難治性不妊(排卵障害・内膜症・長期不妊・原因不明不妊など)

    本法はこれ以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断されるもの,および本法を施行することが,被実施者またはその出生児に有益であると判断されるものを対象とする.

    日本産婦人科学会 体外受精・胚移植に関する見解より

    横浜市大センター病院生殖医療センター

  • ARTの歴史

    1978年 SteptoeとEdwardsらが世界初の体外受精・胚移植による妊娠・分娩に成功(ルイーズ・ブラウン)

    1983年 東北大学 鈴木らにより日本で初めて体外受精での分娩に成功

    1980年代後半 ~難治性男性因子不妊患者への治療方法の研究がすすむ1983年 オーストラリアで凍結胚移植による初の妊娠・出産例の報告

    1992年 ベルギー PalermoらはICSI(卵細胞質内精子注入法)による初めての妊娠例を報告

    1993年 TESE- ICSIによる妊娠例の報告1994年 日本で初めてICSIによる分娩例が報告される

    1990年代後半~ 胚盤胞移植が行われるようになる2000年以降 vitrificationによる胚盤胞凍結技術の進歩

    横浜市大センター病院生殖医療センター

  • 写真左の女性は、イギリスのブリストルに住むルイーズ・ブラウン(38歳)。彼女は1978年に、両親の体外受精により生まれた。2006年に自然妊娠で出産。

    そして世界で初のその体外受精を成功させた人物が、写真右のイギリス生理学者、ロバート・G・エドワース(2013年死去)。彼は後にノーベル生理学・医学賞を受賞した。

    出典 http://www.dailymail.co.uk

    http://www.dailymail.co.uk/

  • 年別 治療周期数

    0

    50,000

    100,000

    150,000

    200,000

    250,000

    300,000

    350,000

    400,000

    450,000

    500,000

    1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 20092010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

    症例数

    西暦

    FET周期 ICSI周期 IVF周期

    日本産科婦人科学会 登録・調査小委員会

  • 年別 出生児数

    0

    10,000

    20,000

    30,000

    40,000

    50,000

    60,000

    1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 20092010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

    症例数

    西暦

    FET出生児 ICSI出生児 IVF出生児

    日本産科婦人科学会 登録・調査小委員会

  • ART治療周期数 2018

    0

    5,000

    10,000

    15,000

    20,000

    25,000

    30,000

    35,000

    40,000

    周期数

    年齢(歳)

    総治療周期数 454,893

    移植周期数 250,513

    妊娠周期数 80,036

    生産周期数 55,499

    日本産科婦人科学会 登録・調査小委員会

  • ART妊娠率・生産率・流産率 2018

    0%

    10%

    20%

    30%

    40%

    50%

    60%

    70%

    80%

    90%

    0%

    5%

    10%

    15%

    20%

    25%

    30%

    35%

    40%

    45%

    50%

    26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48

    流産率

    妊娠率・生産率

    年齢(歳)

    妊娠率/総ET

    妊娠率/総治療

    生産率/総治療

    流産率/総妊娠

    日本産科婦人科学会 登録・調査小委員会

  • メディカルノートより

  •  Day 22 23 24 25 26 27 28

    点鼻薬開始

    通院①

     Day 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

    採卵

    23時HCG 黄体補充開始

    注射

    通院  ② ③ ➃ ⑤ ⑥ ⑦

     Day 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

    新鮮胚 妊娠移植  判定

    黄体補充

    通院 ⑧ ⑨ ⑩ ⑪

    採卵周期

    前周期

    *例えば・・ 生理周期28日の方がLong法-新鮮胚移植をした場合

    排卵 7日目

    刺激の注射開始

    横浜市大センター病院生殖医療センター

  • 採卵

    経膣超音波

    採卵針

    横浜市大センター病院生殖医療センター

  • 卵細胞質内精子注入法 ICSI(IntraCytoplasmic Sperm Injection)

  • 横浜市大センター病院生殖医療センター

  • 胚の移植初期胚移植

    胚盤胞移植

    2段階移植

    凍結融解胚移植

    横浜市大センター病院生殖医療センター

  • 本日の内容

    • 現代社会を生きる女性

    • 妊娠に着目した体のしくみ

    • 不妊治療の一般的なスケジュール

    • 働くこと、家族のことを考える

  • 仕事・家族

    • 男性も女性も、女性の働き方を考える

    • 女性が働きやすい=男性も働きやすい

    • 誰でも制約の中で働いている

    • 仕事の評価は会社が、人生の評価は家族が

  • 子供がいる夫婦の夫の休日の家事・育児時間別にみたこの12年間の第2子以降の出生の状況

    厚労省「第13回21世紀成年者縦断調査」(2014)注:1 集計対象は、①または②に該当し、かつ③に該当する同居夫婦である。ただし、妻の「出生前データ」が得られていない夫婦は除く。

    ①第1 回調査から第13 回調査まで双方から回答を得られている夫婦②第1 回調査時に独身で第12回調査までの間に結婚し、結婚後第13回調査まで双方から回答を得られている夫婦③出生前調査時に子ども1 人以上ありの夫婦

    2 .家事・育児時間は、「出生あり」は出生前調査時の、「出生なし」は第12 回調査時の状況である。3 .12年間で2 人以上出生ありの場合は、末子について計上している。4 .総数には、家事・育児時間不詳を含む。

  • 働き方改革

    介護 保育居宅介護可能。効率よくデイサービスと訪問介護を利用。

    通常保育時間内にお迎え可能。延長保育が減少、保育士の離職低下、待機児童対策にも。

    年金 医療

    育児介護との両立が可能であれば、労働力となる人口が維持。高年齢でも就労可能。年金のもらい手の年齢を後ろ倒しに。

    少子化対策

    夫を含めた家族での育児参画。第二子の増加。専業主婦とならずに就労継続可能ならば生涯賃金も保障、経済的な不安の解消。子供が増えれば将来的な年金の払い手が増加。女性活躍、一億総活躍の実現。

    個別の政策も大事だが、構造変革を促すことが重要

    倉澤:第43回日本産婦人科医会学術集会シンポジウム

  • 本日の内容(まとめ)

    • 現代社会を生きる女性

    -男性も女性も女性に配慮を。不妊治療はそのうちの一つ。

    • 妊娠に着目した体のしくみ

    -年齢や性周期に対する理解を。過酷な環境で頑張っている。

    • 不妊治療の一般的なスケジュール

    -通院や通院に伴う体調不良は予定が立たない

    • 働くこと、家族のことを考える

    -働きやすい職場は企業にとってもメリット