高等学校「家庭科教育」における課題解決型の授業実践の試みy-mihara/2009.2oobashuron.pdf2...

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修士論文 2008 年度(平成20年度) 高等学校「家庭科教育」における課題解決型の授業実践の試み 東北公益文科大学大学院公益学研究科 大場 広子 はじめに 1 研究の目的・意義 ………… 4 2 高等学校における家庭科教育の位置づけ ………… 5 第1章 家庭科教育におけるホームプロジェクト( HP )の導入と学習論の変遷 第1節 家庭科教育におけるホームプロジェクト( HP)の位置づけ 1 導入の経過と変遷 ………… 10 HP の指導上の課題 ………… 15 2 節 課題解決型学習論の変遷 1 学習論の変遷 ………… 17 2 家庭科教育における「課題解決力」育成のための配慮事項 (1)批判的に思考する ………… 22 (2)他教科の実践から学ぶ ………… 23 (3)家庭科における実践から学ぶ ………… 26 (4)学習をどうまとめ評価するか ………… 28 第2章 家庭科教師の「課題解決型授業」観 第1節 山形県内高校家庭科教師の 「課題解決型の学習方法」に関する実態および意識調査 1 調査の目的と方法 ………… 31 2 予備調査による質問項目の整理・検討 ………… 31 第2節 結果とその分析 1 調査結果 ………… 32 2 調査結果から見えること ………… 35 1 1

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修士論文 2008 年度(平成20年度)

高等学校「家庭科教育」における課題解決型の授業実践の試み

東北公益文科大学大学院公益学研究科 大場 広子

目 次

はじめに

1 研究の目的・意義 ………… 4

2 高等学校における家庭科教育の位置づけ ………… 5

第1章 家庭科教育におけるホームプロジェクト(HP)の導入と学習論の変遷

第1節 家庭科教育におけるホームプロジェクト(HP)の位置づけ

1 導入の経過と変遷 ………… 10

2 HP の指導上の課題 …………15

第 2 節 課題解決型学習論の変遷

1 学習論の変遷 …………17

2 家庭科教育における「課題解決力」育成のための配慮事項

(1)批判的に思考する …………22

(2)他教科の実践から学ぶ …………23

(3)家庭科における実践から学ぶ …………26

(4)学習をどうまとめ評価するか …………28

第2章 家庭科教師の「課題解決型授業」観

第1節 山形県内高校家庭科教師の

「課題解決型の学習方法」に関する実態および意識調査

1 調査の目的と方法 …………31

2 予備調査による質問項目の整理・検討 …………31

第2節 結果とその分析

1 調査結果 …………32

2 調査結果から見えること …………35

11

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3 まとめ―家庭科教育をより良くするために …………37

第3章 「課題解決力」を育てる授業の実践と考察

第1節 課題解決型授業の試み(住生活領域)

1 新たな取り組みとそのねらい …………38

2 生徒の学習記憶と住生活観 …………39

第2節 授業の計画と実施

1 「住生活」でつけたい力 …………41

2 単元のねらい …………41

3 生徒観・指導観 …………41

4 指導計画と実施内容 …………42

第3節 授業の反省と課題

1 事後アンケートの結果の分析と今後の課題 …………45

2 次年度の改善点 …………52

おわりに

1 「課題解決力」の育成に必要なもの …………55

2 家庭科教育の目指すべき方向性 …………56

引用文献 …………59

参考文献 …………60

添付資料目次 (※はホームページに掲載しているもの )

1-1 全国高等学校学校家庭クラブ連盟会員数(2008 年度)

1-2 全国高等学校家庭クラブ組織図

1-3 全国高等学校家庭クラブ連盟研究発表評価規定(2008 年度)

1-4 笑顔と工夫で地域貢献:「家庭クラブ」全国V3(2008/9/14・朝日新聞)

2-1 アンケート素案(予備調査)

2-2 予備調査のまとめ

2-3 アンケート調査用紙(本調査)※

2-4 アンケート集計結果(日本家庭科教育学会第 51 回大会口頭発表レジュメ)※

2-5 アンケート集計結果(1)※

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「課題解決型の学習」の題材と取り上げ方および生徒の反応

2-6 アンケート集計結果(2)

「課題解決型の学習」への「今後の取り組み意識」と理由(自由記述)

2-7 アンケート集計結果(3)

「H・P」の学習効果の有無とその理由(自由記述)

3-1 先行研究に見られる「住生活でつけたい力」※

3-2 事前アンケート調査用紙(授業プリント)※

3-3 事前アンケート調査集計結果の一部(グラフ)

3-4 住生活 Introduction クイズ(授業プリント)※

3-5 酒田市で自慢できる点(授業プリント)

3-6 フィールドワーク計画一覧(授業プリント・1 クラス分)

3-7 テーマ見つけチャート(生徒の感想・授業プリント)

3-8 地域の人々を教室に招こう!<講話のポイント>※

(授業プリントと生徒の感想 4 人分)

3-9 発表会、当日!!!(授業プリントと生徒の感想 4 人分)

3-10 事後アンケート調査用紙(授業プリント)※

3-11 事後アンケート調査集計結果の一部(グラフ)

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はじめに

1 研究の目的・意義

いま日本で「不登校」の子供は 18 万 4 千人以上であり、高等学校の「中途退学者数」

は 7 万 7 千人を上回る 1 。半年以上自分の部屋や自宅から外に出てこない「引きこもり」

状態にある若者が 100 万人以上 2 と言われる。

教育社会学の門脇厚司はこの現状を指摘しながら、「人が人とつながり社会をつくる

力」を「社会力」と造語し、「いまある社会の運営に積極的に関わろうとする意思」を

持ち、「社会をもっとよくしよう、もう少しましな状態に変えよう」という意欲と創造

力を育む必要性を主張する 3 。

また、教育方法学や授業研究に詳しい佐藤学は、「日本の子どもが世界でもっとも学

ばない子どもになっている」と、学校以外での学習時間の国際比較によって指摘して

いる。さらにこの打開策として、子どもたちの「学び」を「活動的な学び」「協同的な

学び」「知識や技能を表現し共有し吟味する学び」に転換することを提起している 4 。

そこで今日教育に求められているのは、高度経済成長期のような効率化を求める、

マニュアル化した「学び」ではなく、児童生徒が主体的に「学ぶ意味」をつかむため

の「学び」である。

では、このような主体的な「学び」を支えることをねらいとした授業とは、どのよ

うな授業であろうか。それは、一方的な講義形式ではない、子どもの「考える力」を

揺さぶり、子ども自身が感じた疑問の答えを探し求める力を支える「課題解決型」の

授業であり、その開発が急務であると認識する。

1 文部科学省 .平成 19 年度文部科学省白書 .東京 ,2007.「不登校」を理由に年間 30 日以上

学校を欠席した生徒数(平成 18 年度)。「不登校」の定義は、文部科学省によれば、「何ら

かの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはした

くともできない状況にあるため年間 30 日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由に

よる者を除いたもの」(学校基本調査)である。 2 NPO法人「全国引きこもりKHJ親の会」による調査(2002 年)では、全国 100 万件以

上の家庭(40 件に 1 件)が引きこもり問題を抱えている。「引きこもり」の定義は、同会

によれば、「とくに精神的な障害がきっかけではなく、自宅や自室に6ヶ月以上の長期間

ひきこもって社会参加できないでいる中学卒業段階以降の青年の状態」、現役の小・中学

生の「不登校」は含まない、としている。「ひきこもり」若者の平均年齢は 26.6 歳。20 代

後半~30 代が 6 割を占める。 3 門脇厚司 .学校の社会力 .東京 ,朝日選書 707 朝日新聞社 ,2003,p.8-18 4 佐藤学 .学びから逃走する子どもたち .東京 ,岩波ブックレットNo.524 岩波書店 ,2007,p.57-60

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本研究の目的は、高等学校の家庭科の授業において「課題解決型」の指導方法を探

究することにある。ここでは「課題解決型学習」を、辞典の説明に従って「学習者自

らが学習課題を設定し、自分の知識や諸能力を結集して課題の究明、探究、解決を図

っていく学習」 5 と捉えておくことにする。

高校家庭科教育においては、後述するように「課題解決力」を育てるために「ホー

ムプロジェクト(Home Project 以後 HP と略す)」という学習方法を長年実施してき

た歴史がある。しかし、教育現場では様々な理由でこれに対する困難や問題点を指摘

する声を聞く。家庭科教育の新たな段階にすすむために、本論では従来の HP の方法

でよいのかを検討する。

そのために以下、次のような順序で検討していく。

第1章では、家庭科における課題解決型学習を考える上で、基礎となる二つの事項

を整理する。一つは家庭科教育の変遷を跡付けることである。中でも、半世紀以上に

わたり積み重ねられてきた、高校家庭科教育における HP と、その指導上の課題につ

いて検討する。

もう一つは、課題解決型学習論の概観である。特に「問題」か「課題」か、用語の

使われ方を検討し、家庭科における課題解決型学習に求められるものを、他教科や、

高等学校以外の授業実践からも、参考にできるものについて整理する。

第2章では、「課題解決型学習」が現在の教育現場にどの程度浸透しているのかを明

らかにする。山形県内高等学校の家庭科教師(教諭と常勤講師 107 名全員)を対象に

したアンケート調査について述べる。

第 3 章では、「課題解決力」を育てることを目指したC高等学校での授業実践ついて

検討する。

2 高等学校における家庭科教育の位置づけ

高等学校教育において、家庭科教育はどのような位置にあるのだろうか。他教科と

異なる女子のみの必修から男女共学に変更になったという点と、課題解決型学習を取

り入れてきた背景について確認しておく。

日本の高等学校では、普通教育における 10 教科 6 に属する科目、および専門教育に

5 児島邦宏 ,今野喜清ほか .新版 学校教育辞典 .東京 ,教育出版株式会社 ,2003,p.103 6 国語、地理歴史、公民、数学、理科、保健体育、芸術、外国語、家庭、情報の 10 教科。

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関する 13 の教科 7 ・科目、および「総合的な学習の時間」を含めて 74 単位以上 8 を履

修することが、卒業の条件となっている。「人格の完成」 9 を目指す公教育において各

教科が存在する意義は等しく、大きいはずである。

しかし、現実には教科によって扱いの軽重に差がある。というのは、日本社会にお

ける根強い「性別役割意識」によって、学校教育の現場にも差別的な制度や慣習を残

してきたからである。

高校の家庭科は、40 年にわたり「女子のみ必修」であった。それが見直され、「男女

必修」を規定した学習指導要領が告示されたのは 1989 年(実施は 1994 年)である。

その変更の直接的な契機となったのは、「女子差別撤廃条約」(1979 年国連採択)の日

本の批准(1985 年)に際し、「女子のみ必修」が抵触事項の一つとして指摘されたこ

とにある。

だがこうした「外圧」だけで教育制度の変更が実現したのではない。国内において

は 1973 年に結成された「家庭科の男女共修をすすめる会」を始めとする全国の女性団

体や教職員の運動があったのである。この運動の中心を担った半田たつ子は、これは

単に女性解放運動ではなく、「男性も含めた世話人を中心に、男と女のありようを変え

る運動」となったとその広がりを強調している 10 。四半世紀に及ぶ市民運動と、現場

教師や研究者たちによる様々な自主編成運動の成果によって家庭科の「男女必修」は

1994 年からのスタートをスムーズに実現させた。後に「おおむね順調な滑り出しであ

った。」 11 と記述されたが、その前段には、以上のような運動があったのである。

山形県では、こうした動きに刺激を受けた家庭科教師たちが、高等学校教職員組合

の理解を得て、1985 年に家庭科男女共学推進委員会を発足させている。生徒や保護者、

教員へのアンケートをもとに、討論資料の作成、学習会の開催、さらには教員確保や

普通教科「家庭」では 3 科目の中から 1 科目を選択必修することになっている。 7 農業、工業、商業、水産、家庭、看護、情報、福祉、理数、体育、音楽、美術、英語の

13 教科を指す。専門教科「家庭」には 19 科目が設置されている。 8 現行の学習指導要領では 1 単位時間は 50 分とし、35 単位時間の授業を 1 単位として計

算することを標準としている。 9 新旧「教育基本法」第1条(教育の目的)より。 10 家庭科の男女共修をすすめる会編 .家庭科、男も女も! :こうして拓いた共修への道 .東京 ,ドメス出版 ,1997 年 ,p.241 半田たつ子氏はこの運動の中枢を担い、1996 年に「男女共修家

庭科を実現させた啓蒙活動」によりエイボン女性年度賞・教育賞を受賞している。筆者の

恩師でもある。 11 中間美砂子 .家庭科教育法 :中・高等学校の授業づくり .東京 ,建帛社 ,2005 年 ,p.31

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施設・設備などの条件整備を求めて県教育委員会との交渉を重ね、10 年間にわたり活

動した 12 。

家庭科の「男女必修」が導入され 14 年目に入っている現在、高等学校の家庭科教育

は、共学がスタートした当時とは異なる厳しい状況に晒されている。というのは、2003

年度から実施の現行学習指導要領(1999 年告示)により、普通教科「家庭」に「家庭

基礎」2 単位が選択肢に導入され、4 単位必修の原則が崩れたのである。時間数の変更

は、幅広い家庭生活を総合的に取り上げる家庭科に対し、指導内容の精選や指導方法

の見直しを迫るという大きな課題を突き付けることになった。

次に、現行の学習指導要領 13(1999 年告示・2003 年施行)において、家庭科の「課

題解決型学習」に関してどのような指示がなされているのかを確認しておく。

高等学校家庭科の「ねらい」は、「課題..

意識(傍点は筆者)」を持ち、「実践的・体験

的な学習を通して」「家庭生活の様々な事象の根底にある原理・原則を科学的に理解」

し、「実際上の意思決定や問題..

解決(傍点は筆者)に生かし、男女が協力して、家庭や

地域の生活を創造する能力の育成を図ること」である。さらに、普通教科「家庭」 14 に

おける選択必修3科目 15 の「内容の取扱いについての配慮事項」にはすべて、「生徒が

自分の生活に結び付けて学習できるよう、問題..

解決的な(傍点は筆者)学習を充実す

ること」として、「ホームプロジェクトと学校家庭クラブ活動」が入っている。「課題」

と「問題解決」の語が入っていることを押さえておく。

「ホームプロジェクトと学校家庭クラブ活動」は、家庭科のみで用いられる語であ

るので、ここでは簡単に説明しておく。

HPとは、文部省の学習指導要領解説によれば、「各自の生活の中から課題..

(傍点は

筆者)を見いだし、課題..

解決(傍点は筆者)を目指して主体的に計画を立てて実践す

12 このきっかけとなり、活動を支えたのは自主的に学習会を重ねてきた庄内地区の高校家 庭科教師の有志の集まりである「サークル家庭科」のメンバーたちであった。20 年以上

を経た現在も細々と活動を続けている。筆者も設立当時からのメンバーの一員である。 13 日本の公教育を担当する小、中、高等学校、特別支援学校の小・中・高等部の学校教育

における教育課程編成上の全国的な基準として告示されているもの。 14 高等学校の教育課程の編成においては、文部科学省によって、普通教育に関する教科・

科目と、職業教育に関する教科・科目の二つに分かれる。普通教科「家庭」は、全ての高

校生が履修し、専門教科「家庭」は、家政科等の職業教育や、普通教育における選択科目

として履修することができる。 15 現行の高等学校学習指導要領では、「家庭基礎」(2単位)「家庭総合」(4単位)「生

活技術」(4単位)の3科目から1科目を選択必須することになっている。

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る問題..

解決的な(傍点は筆者)学習活動」 16 である。たとえば、住生活ではシックハ

ウスや耐震について調べ、自宅の改善に生かす工夫をしたり、ゴミ問題を学んで、自

宅でエコクッキングや生ゴミの再利用を実践するなどの取り組みである。この学習方

法は、戦後まもなく行われた連合国軍総司令部(GHQ)下の民間情報教育局(CIE)

の指令に基づく教育改革によって導入された。

一方「学校家庭クラブ活動」は、同じく、文部省の解説によれば「ホームルーム単

位又は家庭科の講座単位、さらに学校としてまとまって、学校や地域の生活の中から

課題..

(傍点は筆者)を見いだし、課題解決を目指して、グループで主体的に計画を立

てて実践する問題..

解決的な(傍点は筆者)学習活動」 17 と定義されている。たとえば、

定期的に介護老人福祉施設や保育園を訪問し、利用者との触れ合いの中から生活の知

恵や工夫をやり取りしていくなどの活動である。

「ホームプロジェクトや学校家庭クラブ活動」を推進するための全国組織が「全国

高等学校家庭クラブ連盟(FHJ)」 18 である。FHJは 1953 年に設立され、すでに半世

紀以上の歴史がある。全国の高等学校 1469 校、約 26 万 4000 人の会員数 19 で、各学

校、県、ブロック単位の活動 20 を行っている。

そもそも「課題解決型学習」は、19 世紀末から 20 世紀初頭にアメリカの哲学者で

教育思想家としても世界の教育方法論に大きな影響を与えたデューイ 21 による「問題

解決学習」(problem solving learning)を基としていると推察される。「経験主義教育」

22 を中心にしたデューイの新教育運動は、頭にため込む「知識」ではなく、よりよい

生き方を求め、生活や体験的学習の問題解決過程において活用すべき、「生きて働く知

識」の役割を重視してきた。

デューイが「反省的思考(reflective thinking)」 23 を重視したのに対して、彼の高

16 文部省 .高等学校学習指導要領解説編 .東京 ,開隆堂 ,2000,p.72 17 文部省 .高等学校学習指導要領解説編 .東京 ,開隆堂 ,2000,p.72 18 Future Homemakers of Japan の略称。FHA(Future Homemakers of America)にち

なんで、1953 年に結成。各都道府県連盟及びブロックの連盟では、研究発表大会、指導

者養成講座を主に実施している。 19 添付資料1-1 ,学校家庭クラブ会員数 20 添付資料1-2 ,学校家庭クラブ組織図 21 John Dewey(1859~1952)アメリカの代表的な哲学者で教育思想家、プラグマテ

ィズム(実用主義)の大成者でもある。 22 “経験重視”の教育論の総称。言語主義や教条主義の教育に対して、子ども自身の感覚

や直観に基づいて“事実に即した”認識を発達させる教育論を嚆矢とする。 23 「反省的思考」とは、知識に基づく仮定の仕方や信念について、それを支えている根拠

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弟と言われたキルパトリック 24 は、「行動による問題解決」を重視した「プロジェクト

法(project method)」 25 を提唱した。日本では戦後、これを基に、家庭科教育と農業

教育にHPが導入され、「思考による問題解決」よりも「実践力」をつけることが期待

されたのであった。つまり、家庭生活の充実向上がHPの目的であり、あくまでも家庭

内の問題解決力が求められていたことになる。

及びその結論が向う先に照らしながら、主体的に、永続的に、注意深く熟慮することであ

る。<John Dewey, How We Think,1909> 24 W.H. Kilpatrick(1871~1965)アメリカにおける新教育運動の代表的指導者。1918年にはデューイの難解な教育哲学を方法原理へと高めた論文「プロジェクト・メソッド」

を著して一躍脚光を浴びた。 25 アメリカにおける新教育運動の中で実践に移され理論化された、経験主義に立つ代

表的な教育(方法)論。

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第1章 家庭科教育における HP の限界と学習論の変遷

第1節 家庭科教育におけるホームプロジェクト(HP)の位置づけ

1 導入の経過と変遷

はじめに、高校家庭科教育の変遷を辿りながら、HP 導入の経緯や位置づけの変化を

まとめてみる。

HP の変遷を見るために、ここでは大きく四つの時代に区分する。その一、敗戦直後

の、アメリカ CIA による HP 導入の時代である。二つ目は、その後の 40 年に渡る「女

子のみ必修」の中、学習指導要領の内容項目に明確な位置付けがなされ、授業時間数

などの指定を明確にした時代である。三つ目は「男女必修」導入によって位置づけの

みが残され、授業時間数などの指定が消えた時代、そして四つ目、現行学習指導要領

において充実を目指した「問題解決的な学習」の一つとして、再び明確化された時代

である。

以上の四つの時代についてその特徴的な点を中心に辿ってみる。

まず家庭科におけるHP導入までの経緯について触れておく。国家体制としての教育

制度が日本で成立したのは、明治に入ってからである。1872(明治 5)年学制が発布

され、男女平等教育 26 を謳っていたが、実態としては、「「女子には学問は不要」とい

う根強い女子教育観と子供の労働をもあてにする厳しい経済事情があった」 27 。その

後、各府県は女子の就学督促に取り組み、「良妻賢母」教育、「家事・裁縫」教育によ

って就学率を上げ、明治 40 年代(1907 年~)にようやく男子と同程度に向上したと

言われる。

このように戦前の家庭科教育は、学制発布以来 80 年間に渡り「家事科・裁縫科・手

芸科」と分化したまま指導された。すなわち、戦後の教育改革までは、家事、裁縫、

手芸の技術の習得をねらいとした教育を女子のみに実施してきたということになる。

戦後の教育改革は、連合国軍総司令部(GHQ)下の民間情報教育局(CIE)の指令

に基づいて、民主国家建設を目指して行われた。「家庭科」は新憲法、新民法の理念の

下、新学制の発足によって設置された新教科の一つである。1947 年の学習指導要領(試

案)家庭科篇の「はじめのことば」には、次のように書かれている。 26 文部省 .学制百年史 .東京 ,帝国地方行政学会 ,1972 27 中間美砂子他 .家庭科教育法 :中・高等学校の授業づくり .東京 ,建帛社 ,2005,p.16

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家庭は社会の基礎単位であるので、次の時代にみんなが平和な生活をするか、

戦争を好むか、信頼ある愛情に富んだ豊かな生活をするか、不安な憎しみに満ち

た貧困な生活をするかを決定する男女の性格を培っているのである。

新制「家庭科」の意義がここにある。すなわち、男女が平和で民主的な家庭生活を

築くことを学ぶことが、新しい時代を築くために重要であることを示している。

これを受け、小学校5,6年生は全員が必修で「家庭科」を学んだ。新制中学校で

は「家庭科」は職業科の中の1科目となり、生徒たちは農業、工業、商業、水産、家

庭のうちの1科目または数科目を学習することになった。性による選択指定は無く、

男女共学の理念は理念として、実態としては女子用教科として認識されていた 28 。

また、新制高等学校でも「家庭科」は、自由選択科目であった。新制高等学校の教

科課程の目標(1949 年)には「②個人的能力と特別な興味を 大限に発達させる」す

なわち「望ましい方向へ、個人としての発達を遂げさせる」こととし、「○f 幸福な家庭

生活を招来するような経験を与えなければならない」としていた。自由選択科目とし

たことは、家庭科の価値を以前より低く評価したからではなく、新制高等学校の目標

が「性別によって教育を区別しない」「両性とも民主社会の形成者」「両性とも民主的

家庭の建設者」「女子にも職業教育が必要」を原則としていたからと言われている 29 。

さらに文部省発行学習指導要領家庭編(試案)には、①従来の家事・裁縫教育では

ない、②女子のみの教科ではない、③単なる技能教科ではないという三否定から出発

していることが、明記されている。

HPは 1948 年、CIEの家庭科指導官として来日した、ニューヨーク市立ハンターカ

レッジ家政学部長ルイス(Dora S. Lewis)と、その後任であったコロラド州立大学の

ウィリアムソン(Maude Williamson)によって導入・推進された。文部省は講習会を

開催したり、手引きを配布したりして、その普及に努めた。HPやFHJの指導を研究す

るために4校 30 が文部省の研究指定を受け、ルイス、ウィリアムソン両氏の指導の下、

研究実践が深められた。「各県では生徒の家庭を巡回指導するための指導旅費が予算化

28 三井為友 .日本婦人問題資料集成第4巻:教育 .東京 ,ドメス出版 ,1983,p.993 29 常見育男 .家庭科教育史 :増補版 .東京 ,光生館 ,1976,p.382-383 30 お茶の水女子大学付属高校、東京都立南多摩高校、栃木県立松原高校、奈良県立桜井高

校の4校が研究指定校であった。

1111

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され、家庭科教師は放課時や夏季休暇などに、生徒の個別指導や家庭訪問による指導

を行」 31 った。家族関係、HPの指導に貢献したルイスが 1948 年 6 月から滞在 2 か月

余りの短期間で帰国した後は、農業科担当のネルソン(Ivan Nelson)が指導に当たっ

た。ウィリアムソンは 1949 年 7 月から、約2年に渡り学校家庭クラブの指導を中心に

行った。以上がHP導入の経過である。

二つ目の特徴的な時代は、1949 年ごろから 1989 年ごろまでの女子用教科の時代あ

る。学習指導要領の内容項目に明確な位置付けがなされ、授業時間数の指定を明確に

した、つまり も HP が充実、安定していた時代である。

1951(昭和 26)年の学習指導要領の改訂でも、「家庭科」は自由選択科目の一つで

あったが、1~2学年においては、一般教養としてぜひ「一般家庭」(被服コース 7 単

位、食物コース 7 単位)を選択させるようにとの指導が行われ、大多数の女子生徒が

家庭科目を履修した。1~2学年でそれぞれ 7 単位ずつの標準単位数のうち、5 単位は

学校の授業で、2 単位は家庭学習としてHPを実施し、1956(昭和 31)年の改定まで続

けられた。同年から「家庭一般」4 単位が「全日制普通課程のすべての女子に履修させ

ることが望ましい」とされ、HPは、その単位数の 2 割以内の時間数をあてることにな

った。この間、「各学校におけるHPやFHJ活動の指導を相互に交流し、提携しながら

さらに研究を深めようという機運が高まり、各都道府県連盟がつくられ、1953(昭和

28)年には全国高等学校家庭クラブ連盟が結成された 32 。」FHJはHPの研究発表の場

として、生徒の相互交流の場として生徒と家庭科教師によって充実していった。

1963(昭和 38)年からの改定では、「普通科のすべての女子について「家庭一般」4

単位を必修とする。ただし、特別の事情がある場合には、2 単位まで減ずることができ

る。」とし、職業教育を主とする学科でも「女子について「家庭一般」2~4単位を履

修させることが望ましい」の一項が付け加えられた。「ホームプロジェクトと学校家庭

クラブ活動」については、「全国の家庭科教師の声としてかなり強く要望され」 33 たこ

とを受け、「(1)家族と家庭経営」の「ウ 家庭生活の充実向上」に位置づけられ、そ

の科目の授業時数の 10 分の 2 以内をこれに充てることができる、実施回数は 1 個学年

において 2 回程度実施させることが望ましいとした。

31 青木時子 .高校家庭科とHP・FHJ.東京 ,教育図書 ,1972,p.2 32 青木時子 .高校家庭科とHP・FHJ.東京 ,教育図書 ,1972,p.3 33 青木時子 .高校家庭科とHP・FHJ.東京 ,教育図書 ,1972,p.7

1212

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「ホームプロジェクトと学校家庭クラブの意義と方法」について上記のような詳し

い指示が入ったことに対して、高等学校家庭科教諭から文部省教育課程審議会専門調

査員(1968~1970 年)を務めた青木時子は、「女生徒全員を県連盟や全国連盟に加入

させる義務を生じた」と解するのは「大きな誤りである」とし、「まして、家庭クラブ

の県連盟や全国連盟への加入は、学習指導要領によって拘束されるべきものではない」

と念を押している。連盟はあくまで「自主的な研究組織として生まれた」ものであり、

「やむを得ず加入させられているという意識と、われわれの熱意と要望で連盟組織を

つくり育てているという主体的な姿勢とでは、おのずからその活動の成果も異なる」

と述べ全国の家庭科教師の勢いに対して「家庭クラブ」の初志の確認を布いている。34

その後家庭科の「女子のみ必修」への疑問が高まり、約 30 年を経て男女同一の教育

課程を実現さていくことになる。青木の記述によると、「男女の性差を無視し、同質同

量の教育を是とする社会風潮や、大学入試のための知育偏重教育への傾向はいっそう

強まり」、そうした情勢の中でHPを指導し、学校家庭クラブを運営することは、「ます

ます困難と」 35 なったとある。

その影響を受けて、1970(昭和 45)年の改定では「家庭一般」4 単位が女子必修と

なったが、「家庭一般」における「ホームプロジェクト・学校家庭クラブ活動」の位置

づけは指導内容まで踏み込んではいない。この頃すでに、男女共学をめぐる動きとし

ては、1973(昭和 48)年度から長野で 5 校が共学「家庭一般」を実施し、京都では殆

どの府立高校で「家庭一般」2 単位の男女共学が開始された。その後、北海道、福岡、

岩手、鳥取、大阪などでも共学家庭科が実施されている 36 。

このような動きの中、文部省は 1978(昭和 53)年の改定で「家庭一般」4 単位の女

子必修、男子選択の方針を打ち出し、その内容項目に「ホームプロジェクト・学校家

庭クラブ」が入った。その取り扱いは「授業時間数の 10 分の 2 以内を充てることがで

きる」とし、「一個学年においては 2 回以上実施させることが望ましい」としていた。

「家庭科教育研究者連盟」や「家庭科の男女共修をすすめる会」を発足させた和田

34青木時子 .高校家庭科とHP・FHJ.東京 ,教育図書 ,1972,p.8-9 現在も学校家庭クラブ連盟は任意団体でありながら、学校家庭クラブ活動は学習指導要

領に位置付けられているという矛盾を抱えている。 35 青木時子 .高校家庭科とHP・FHJ.東京 ,教育図書 ,1972,p.3 36山形県ではこれに遅れること 10 年、県立余目高等学校で男子の選択「家庭一般」を、

県立遊佐高校で男子に選択「食物」「被服」をスタートさせた。

1313

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典子は、「国際婦人年を契機として燃え上がった男女平等の要求や教育民主化の運動」

に対抗して「家庭基盤充実」講想をはじめとする一連の婦人、保育、労働政策を下敷

きにしたとき、ようやくその意図を知る手がかりを得る思いがした」として、「女子必

修」と「ホームプロジェクト・学校家庭クラブ」導入の政策意図の関係を明らかにし

ている 37 。

その後、教育課程審議会では 1985(昭和 60)年に批准した「女子差別撤廃条約」と

の関連で、高等学校家庭科では男女が共に学ぶことを原則とし、女子のみ必修の廃止

を決めた。

ここから HP と学校家庭クラブにとっては第三の時代に入っていくことになる。

1989(平成元)年の改訂では、男女が共に学ぶ教科として「家庭一般」「生活技術」「生

活一般」から 1 科目を選択する 4 単位必修となったが、事実上、進路や男女の比率な

どによる学校選択となり、生徒自身が選ぶような体制作りは実現されなかった。「ホー

ムプロジェクト・学校家庭クラブ活動」は3科目ともに位置づけられたが、内容の取

扱いについては「授業時数を十分配当し指導の効果を高めることが望ましい」とし、

具体的な時間配分には触れていない。男女必修の導入は HP の指導に関する時間指定

や実施回数の指定を控えさせる結果となったのである。

そして第四の注目すべき変化としては、現行の学習指導要領 1999(平成 11)年改訂

では、「家庭基礎」(2 単位)「家庭総合」(4 単位)「生活技術」(4 単位)の男女選択必

修となったことである。これは文部省にとっては学校五日制(2002 年度から導入)、「総

合的学習の時間」、新教科「情報」の導入によりスリム化を迫られた苦肉の策 38 であっ

たようであるが、「家庭基礎」の単位数が半減されたことは、家庭科にとっては大きな

問題となっている。

現行の選択必修3科目の指導内容にも「ホームプロジェクトと学校家庭クラブ活動」

が入っているが、授業時数や実施回数についての記述は無く、「各科目の学習を生かし

て、生徒が各自の家庭生活や地域の生活と結びつけて生活上の課題..

(傍点は筆者)を

見出し、解決法を考え、計画を立てて実践できるようにし、問題..

解決能力(傍点は筆

37 和田典子 .4.家庭科不要論を克服する理論と実践 (3)「家庭基盤充実」政策と家庭科 . 和田典子著作選集編集委員会編 .和田典子著作選集 .東京 ,学術出版会 ,2007,p.198-210

38 「今回の改訂においては「国の基準上、履修すべき単位の総数が縮減できるように、各

教科において必修となる科目として、可能な限り小さい単位数の科目を設ける」という教

育課程審議会の答申に基づき、標準単位数を 2 単位とする「家庭基礎」を設けた。」<文

部省 .高等学校学習指導要領解説家庭科編 .東京 ,開隆堂 ,2000,p.23>とある。

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者)の育成を図ろうとするものである。」 39 との記述がある。

この指導要領改訂の根拠である、教育課程審議会答申の「改善の基本方針」には「環

境に配慮して主体的に生活を営む能力を育てるため」「問題解決的な学習の充実を図

る」 40 ことが示されている。ここで問題解決的な学習は、「基礎・基本的な知識・技術

を確実に身につける」ことと並行して充実させる必要があることを前提としている。

しかし、2単位の「家庭基礎」の中で HP を実施することは極めて難しい。山積し

た生活課題に気付かせ、理解させるだけで終わるか、一部を犠牲にして HP に取り組

むか、どちらかを選ぶことにならざるをえない。現場教師は苦渋の選択を迫られてい

るのである。

ここまでは高校家庭科教育の変遷を辿りながら、「ホームプロジェクト」導入の経緯

や位置づけの変化を中心に整理した。

2 HP の指導上の課題

ここで HP の指導上の課題についても触れておく。

HPと深く関わる「学校家庭クラブ活動」の運営にも多くの課題が存在した 41 が、こ

こでは触れないことにする。

青木は、1970 年代に示した著書において「ホームプロジェクト実施上の諸問題とそ

の解決策」として以下の 4 点を取り上げ、解決策を述べている 42 。

(1) 教師が生徒の家庭生活の実態を把握し難いので実情に即した指導が困難である。

(2) HP について家庭の理解度が低いため、その実施に際して家族の協力を得ること

が難しい。

(3) 生徒の HP に対する興味・関心度が低く、適切な題目の選択が困難である。

(4) 少数の教師で多数の生徒を指導しなければならないので、個別指導が困難である。

現在とは教育現場の状況や課題も全く異なる時代の記述でありながら、上記は、今

39 文部省 .高等学校学習指導要領解説家庭科編 .東京 ,開隆堂 ,2000,p.106-107 40 文部省 .高等学校学習指導要領解説家庭科編 .東京 ,開隆堂 ,2000,p.5 41 和田典子 .4.家庭科不要論を克服する理論と実践 (3)「家庭基盤充実」政策と家庭科 . 和田典子著作選集編集委員会編 .和田典子著作選集 .東京 ,学術出版会 ,2007,p.198-210

42 青木時子 .高校家庭科とHP・FHJ.東京 ,教育図書 ,1972,p.71-72

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も指導を担当する教師が共通に抱えている課題と言える。つまり、家庭内の工夫、改

善だけでは面白くないのである。青木はそれぞれの課題に対する解決策として、生徒

の生活実態の把握の重要性と方法論、家庭科への理解を得るための信頼を得る必要性、

生徒の興味関心を知りそこから題材を例示するなど も切実感を持っている問題に取

り組ませる動機づけの工夫、グループや学級単位の取り組み、前年度までの成果の活

用や一斉指導の充実など、課外の個別指導を減らす工夫などを指摘している。

しかし、HP は主に家庭内の良くないところを工夫したり改善したりすることでしか

ない。つまり、学習内容の吟味が為されていない。家庭科の学習で何を問題として取

り上げ、どう改善するべきなのか、教師の家庭科観が問われなければならない。

次に、全国家庭クラブ連盟の研究発表大会における、「ホームプロジェクト、学校家

庭クラブの評価基準 43 」についても触れておく。その理由は、これまでこの基準に則

って各学校、地区、県大会の評価が行われ、教育現場のHP指導がこれに縛られて社会

問題化している生活課題の扱い方に手を拱いているのではないかという疑問があるか

らである。

評価基準は現在では「5」項目に分かれたうちの、「1」の「課題設定が適切であっ

たか」に対して 50 点中 10 点の配点がなされている。その評価内容は「課題の選択が

明確であるか」、「目標がはっきりしているか」と、「今日的な社会状況を視野に入れて

課題を設定したか」の三項について評価することになっている。ホームプロジェクト

は「自由題目による個人研究」であり、学校家庭クラブ活動は「自由題目による共同

研究」である。

「今日的社会状況を視野に入れて」いれば、様々な社会問題や矛盾に繋がるはずで

あるが、その先は個人の努力や家族の協力だけでは解決が難しいからであろうか、テ

ーマは家庭内という狭い範囲に限られている。ここ数年の全国大会で優秀者(文部大

臣賞)は、以下のような微笑ましい、家族愛に満ちたテーマであった。勿論、家庭科

で学んだ知識を科学的に追求し、IT を駆使した発表ではある。

53 回(2005 年)福井県 勝山高等学校 3年 淺井麻衣 「広がれ!みずなワールド~春を楽しむ旬の味~」 54 回(2006 年)沖縄県 沖縄工業高等学校 3年 大房真理亜 「アトピッコ料理大作戦!!~食物アレルギーでも大丈夫!安全・安心な料理~」

43 添付資料1-3家庭クラブ連盟研究発表評価規定

1616

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55 回(2007 年)大分県 大分商業高等学校 3年 田﨑友也 「じいちゃん、ずっと元気でね~オリジナルのじぃ助具作りに挑戦~」 56 回(2008 年)北海道 札幌北高等学校 3年 佐藤菜々子 「大食い父さんメタボ脱出大作戦!」

また、「学校家庭クラブ活動」の発表では、このところ3年連続して福島県の双葉高

等学校家庭クラブが優勝(文部大臣賞)を獲得している 44 。そのテーマは以下の通り、

「日本型福祉」の担い手育成に貢献しているとも言うべき、社会問題や政治とは無縁

なものとなっている。

54 回(2006 年)「共に見つめあい明日につなぐ!!~高校生パワーで地域支援~」 55 回(2007 年)「真綿のようなぬくもりを!!~スローライフで快適介護~」 56 回(2008 年)「いのちにやさしいハートフルライフ!! ~あんしんおくるみで共にリフレッシュ!~」

授業の中で福祉や環境、消費者問題などの社会問題化している生活課題の解決に手

を触れないで生徒の興味関心を引き付けることは難しい。男女必修の導入によって、

今を生きるすべての高校生にどのような力をつけるべきかを改めて真剣に論議するこ

となしに、HP と学校家庭クラブを現状のままで維持し続ける意義はますます希薄であ

る。

第2節 課題解決型学習論の変遷

1 学習論の変遷

この節では「課題解決型学習」論の変遷について論ずるが、はじめに「問題..

解決学習(傍

点は筆者)」と「課題..

解決学習(傍点は筆者)」について検討する。

前述したように「課題解決型」の学習は、19 世紀後半にアメリカの哲学者であり教

育学者のデューイによって生み出された「問題解決学習(problem solving learning)」

を起源とすると推察される。これは教育用語辞典では「生活の中で子ども自身が学習

課題に気づき、その課題解決をめざして子ども自身が能動的な学習を展開する学習方

法」と説明されている 45 。

44 添付資料1-4 ,新聞記事 .笑顔と工夫で地域貢献:「家庭クラブ」全国V3.東京 , 朝日新聞 2008,9,14,

45 小野擴男 ,山﨑英則 ,片上宗二編 .教育用語辞典 .東京 ,ミネルヴァ書房 ,2003,p.507

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この問題解決学習は、「デューイの反省的思考(reflective thinking)の過程を実際

的な問題解決のための学習過程におきかえたもの」であり、その過程は5段階 46 から

なり、このような学習は、「既成の固定的な知識を静的な形式論理の順序で学習させる

ものではない。知識はあくまで子どもたちの直接の興味・関心の対象である社会生活

から生じる現実的問題を解決するなかで、その解決に有効な手段として習得される。」

47 と、解説されている。

これは子どもたちの直接興味関心のある、人間の生活そのものから生じる現実的問

題を解決する中でその解決に有効な手段として習得される必要がある。そのためには、

直接的な経験を重視する方法論のみに注視するのではなく、学習内容が吟味されなけ

れば「はいまわる経験主義」に陥ってしまうのである。

日本においては、専らこの「問題..

解決学習(傍点は筆者)」が使われ、「課題..

解決学

習(傍点は筆者)」という用語は長く登場しなかった。したがって、まず「問題..

解決学

習(傍点は筆者)」がどのように日本の教育に影響を与えているのかを追求してみたい。

ここで注目すべきは、戦後すぐのアメリカによる教育改革によって新設された「社

会科」における「問題解決学習」の導入と、同時期の新生「家庭科教育」への HP の

導入が類似していることである。その背景には HP が、デューイの高弟と言われたキ

ルパトリックによって確立された「プロジェクト学習」を導入しているということが

ある。彼らは共に 1920 年代のアメリカ教育における進歩主義教育(経験主義教育)の

隆盛を担っており、その影響を受けたという点で共通している。キルパトリックは、

デューイの「問題解決学習」を理論的に深化させ、教育の原理(理念)へと高めたと

言われている。

キルパトリックは、学習者の生活と結びついた教育を主唱し、そのためには社会的

環境における目的的活動が教育課程の基礎単位となるべきと説いた。この単位を「プ

ロジェクト 48 」と定義し、目的の設定、計画の立案、実行、判断という四段階におい

て定式化した。これは学習者が手工、農業、理科と言った作業や実験を伴う領域にお

46 ①問題の把握、②事実を観察し、問題構造を整理する、③予想や仮説を考える、④解決

のための情報や知識を集め、吟味しながら予想を精錬していく、⑤証拠によるまとめや結

果を他の人へ向けてプレゼンテーションをする、という学習過程として捉えている。 47 日本教育方法学会編 .現代教育方法事典 .東京 ,図書文化社 ,2004,p.321 48 自ら目的を立て、実現を目指して前進する活動が、他者との共同のもと、自発的・

主体的に展開される。それを通してDeweyのいう反省的思考を働かせて知識や技能が

取得され、望ましい性格形成や態度の育成も可能になると主張した。

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いて自ら目的を立て実現を目指して前進する活動が、他者との共同のもと、自発的・

主体的に展開される、技術習得の実習方法として確立された 49 。彼の理論は今日でも

アメリカやイギリス、ドイツの教育においてproject based learning 、cross-curricular

projectという用語で問題解決的な学習を意味することが一般化している。

これに対して「系統主義」の教育論は、教育内容を段階的に配列し順序立てて教え

る「系統学習」を中心とする。これは 19 世紀後半、ヘルバルト主義の教育学者チラー

(Tuiskon Ziller)とライン(Wilhelm Rein)の教育学の影響を受け、「ドイツ、フラ

ンス、イギリス、アメリカ、日本の学校教育の制度化と授業の定型化を推進した中心

的な理論であった」 50 と言われる。この指導方法によれば、一度に大量の子供に効率

よく学問の論理的系統性を伝授することはできる。しかし、教師主導型であるため、

知識・理解、練習などを一方的に詰め込み注入することになり、子供自身の関心や興

味、生活経験を重視した「問題解決学習」とは対立軸上に位置することになる。

日本においては戦後脚光を浴びて登場した「問題解決学習」だが、1960 年代には「問

題解決学習か系統学習か」が、社会科の学習論の大きな争点となった。デューイの経

験主義教育論について、直接的経験や日常的経験の極端な重視は、近視眼的な目先の

必要に応ずる断片的な学習、「はいまわる経験主義」に堕落し、基礎学力低下の起因と

なったと批判された。

ここで、「基礎学力」、「基礎・基本」とは何か、に関心が及ぶところであるが、今回

はこれに触れないことにする。

「問題」と「課題」の違いについては、幾つかの論文にあたってみたが「違う」と

論じている人たちはいる。そのうちの一人、梅根悟は 1951 年の著書 51 において、「課.

題.」を「現在実現されないで、将来において、それが実現されることを目指している

一つの生活場面である」と定義し、「問題..

」を「常に「どうしたらいいか」ということ

であり、方法の選択に関わっている事柄」と定義した。さらに、「問題解決は、常に課

題達成のためのものであり、課題は問題に先行する」とし、「学校教育において」「課

題のよき達成のために」「大小一連の課題に子どもたちを直面させ、その達成のために

必要な問題解決にいどませ、科学的な疑問解明による、的確な問題解決にたちむかわ

49 佐藤隆 ,今野喜清他。新版学校教育辞典 .東京 ,教育出版 ,2003,p.624 50 佐藤学 .教育方法学 .東京 ,岩波書店 ,2005,p.16 51 梅根悟 .問題解決とは何か .カリキュラム ,1951,7 月 ,梅根悟教育著作選書7 :問題解決学習 .東京 ,明治図書出版株式会社 ,1977,p.195-207

1919

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せる必要がある」としている。

また、山崎保寿 52 は「課題..

解決学習」を用い、これを「知識の体系を重視しながら

問題解決学習の方法を取り入れた学習形態」とし、「特定の課題を様々な角度から追及

したり、問題解決の遂行、創造活動などを行う学習」と定義している。問題解決学習

が、「児童生徒が.....

(傍点は筆者)自らの興味関心に基づいてテーマを決定し追求するこ

とを基本とする」のに対して、題解決学習は「教師が...

(傍点は筆者)学習目的遂行の

ために設定したテーマについて学習する」こととしている。これは、「はいまわる経験

主義」と批判された問題解決学習の活動主義的な方法に対して、系統的知識の学習を

重視した方法として取り入れられたものである。

この他には、要するにあまり違いは明確にされてはいないのである。

ところで「課題..

解決学習」であるが、これを提唱したのは広岡亮蔵と言われる。彼

は日本における「発見学習」の 初の提唱者である。

広岡は 1960 年代に活発化した「問題解決学習か系統学習か」の学習論の論点を整理

し、両者を統合し高める形で「課題解決学習」という用語を使用したが、間もなく 1964

年のアメリカでブルーナーらの現代化運動の影響があって、「発見学習」に変えられた

53 。「発見学習」や「探究学習」などは、科学の方法論や考え方を学習させることに重

点を置く教育であった。

これらのことが 1968 年の学習指導要領の改訂に繋がり、「人間形成における基礎的

な能力」「国民育成の基礎を養う」ことが強調されたが、結果的に「落ちこぼれ」「落

ちこぼし」を産むことにもなってしまった 54 と、言われている。

他方、高山博之 55 は、広岡の「発見学習」やこれを継承した水越俊之の「探究学習」

(1970 年代)の方法を取り入れながら、「学校現場のさまざまな条件や生徒の実態を

踏まえ、多様な授業実践を想定」して「課題解決的.学習(傍点筆者)」を提唱する。彼

は、「生徒が主体的に学習課題を追求し、課題解決に至るという学習活動とその過程を

52 山崎保寿 .こども主体の授業をつくる .東京 ,ぎょうせい ,1997 53 高山博之 ,谷田部玲生 .課題解決力を育てる授業の設計:中学社会・公民 .

大阪 ,日本文教出版 ,2004,p.10 54 角友清志 .学習指導要領は「基礎・基本」をどう考えてきたか . 子どもの未来社編集部 .【基礎・基本】の大研究 :これからの授業づくり . 東京 ,子どもの未来社 ,2002,p.29

55高山博之 ,谷田部玲生 .課題解決力を育てる授業の設計:中学社会・公民 . 大阪 ,日本文教出版 ,2004,p.11

2020

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重視し、さらに学んだ結果としての知識の蓄積をも重視」する。学習課題については

「生徒の生活経験からとらえたものだけではなく、直接は経験していないが、学習に

よって得た知識内容から引き出された」「多様に知的広がりを持った課題であることが

多くなろう」としている。

つまり、学問研究の場では、特に社会科教育を中心に「系統学習」と「問題解決学

習」の対立の狭間で、子ども自身の経験と発想を生かした学習方法論の確立を目指し、

真剣な探究が行われてきた。しかし、「問題」か「課題」かの関係性については、殆ど

明確化されていない。

一方、行政レベルでは「問題」と「課題」を明確に使い分けずに「学習指導要領」

等に著し、教育現場に下しているといえる。

紆余曲折を経て、今デューイによる「経験主義の教育」を基礎とした「問題解決学

習」が、現行学習指導要領において再び重視されていることに注目したい。その理由

となるのは、「いじめ」「不登校」「学級崩壊」「少年犯罪」などの増加であり、詰め込

み教育からの脱却を目指していると言われている。

「自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決

する資質や能力を育てること。」「学びやものの考え方を身に付け、問題の解決や探究

活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるよ

うにすること。」をねらいとして「総合的学習の時間」が設定されたことは、教師の授

業観を大幅に変更させることになった。

また、教科指導においてはすべてを一方的に系統立てて教え込む授業から脱却し、

子ども一人一人の「わからない」「できない」に寄り添う指導・援助を充実させるため

に「教科構造の質的改造」が不可欠であり、問題解決学習の指導法と合わせて追及す

る必要があるだろうと言われている。

2 家庭科教育における「課題解決力」育成のための配慮事項

ここでは家庭科の授業で育みたい「課題解決力」について検討することにする。題

材の選択において他教科との重複が避けられないことは、家庭科という教科の特徴の

一つであるが、人間の生活の中に「課題解決力」を生かすための学習の際に考慮すべ

き点について先行研究や授業実践を参考に考える。

まず「課題解決力」とは何かを考えるとき、ここでは「問題解決力」と同様に考え

2121

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ることにする。先のページで「問題」か「課題」か、について整理を試みたが明確な

区別は少なく、重複しているものが多かったことを理由とする。

教育方法論の事典によれば、「問題に直面し、その問題の解決を迫られ、問題化―解

決のための仮説設定―解決可能性の推論―仮説検証、という一連の問題解決過程に発

揮される諸能力」 56 を「問題解決力」としている。

一方、家庭科では「HP」の学習過程として See(問題発見・テーマ決定)―Plan(計

画)―Do(実践)―See(評価・発表)を踏襲してきた経過がある。問題解決の過程

は多様であり、典型的なプロセスを理解し、応用力をつけることも重要であろう。

ここでは、家庭科の授業で「課題解決力」を育む際に考慮すべき点をいくつか整理

して行きたい。

(1)批判的に思考する

まず、問題に気づくためには「思考」への訓練が重要である。「何事も無批判に信じ

込んでしまうのではなく、問題点の背景や現状を多面的に検討し、判断する」意味で

の「批判的思考(critical thinking)」、これは「適切な基準や根拠に基づく、論理的で、

偏りのない思考」 57 である。

「批判」という言葉に込められた、あら探しや人を責めることを目的とはしない、

他人やものごとを正確にきちんと理解し誤解しない為の考え方である。そしてこの思

考には、① 問題に関して注意深く観察し、じっくり考えようとする「態度」、② 論理

的な探究法や推論の方法に関する「知識」、③ それらの方法を適用する「技術」とい

った三つの主要な要素が含まれている。

心理学などの分野でも深く追及されているこの用語は、問題解決力をつける「学び」

の場にも重要視されている。例えば看護過程の振り返りにおいて反省的思考(reflective

thinking)として、事例研究の過程で有効とみられている。

メディア・コミュニケーション論が専門の鈴木健は「現在の日本の教育界における

クリティカル・シンキングの重要性」として、以下の三点を挙げている。 58

56 金丸晃二 ,日本教育方法学会編 .現代教育方法事典 .東京 ,図書文化社 ,2004,p.299 57 E.B.ゼックミスタ ,J.E.ジョンソン .クリティカル シンキング入門編 . 京都 ,北大路書房 ,2007,p.4

58 鈴木 健他 .クリティカル・シンキングと教育 :日本の教育を再構築する . 京都 ,世界思想社 ,2007,p.ⅱ -ⅲ

2222

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1 前向きな人生の実現 「批判的思考」より「創造的思考」と捉えられるほど、建設的なものであるから。 2 現実に対応する術を身につける 「具体的な状況で、問題をどう解決するか」のシミュレーションの役割を果たす。 3 問題解決のステップを学ぶ 「現状分析」「原因の把握」「対策」「実行」および「評価と見直し」のプロセスに必要。

また、彼は米国の教育学におけるクリティカル・シンキングのルーツの一つとして

デューイの「熟考方式(reflective thinking)」つまり「反省的思考」を挙げている。

アメリカの二人の心理学者E. B. ゼックミスタと、J. E. ジョンソンも、「彼の省察的

思考という概念は、本書で我々がクリティカルな思考と呼ぶものとほとんど同じもの

と考えてよい 59 。」と述べている。

つまり、物事を批判的に見る訓練は、問題解決のプロセスのすべての段階に不可欠

であることを忘れてはならないということである。「本当にそうか?」「思い込みや先

入観が入っていないか?」を注意深く思考する訓練を初期の教育から取り入れるアメ

リカの教育学に見習うべきものがあることが指摘されている。

家庭科に求められる問題解決力を考える上で、更に検討したいことは、「課題」を認

識し、「何が問題か」を具体的につかむこと、つまり「テーマ設定」の在り方について

である。そのためには、「現状はどうなっているのか」、「その背景、原因は何か」、「な

ぜそれが問題か」の情報を十分に吟味し、探究することが必要である。このような十

分な吟味無しに、家庭内の創意工夫による目先の効果に留まる HP では限界があるの

である。つまり HP に欠けていることは、この批判的思考の訓練と、課題の十分な吟

味である。

(2)他教科の実践から学ぶこと

次に、社会科や総合的学習の時間における「課題解決学習」「問題解決学習」から、

家庭科が学ぶべき点について触れておく。

ここでは社会問題化している題材を中学校ではどのように扱うのかを参照する。実

59 E.B.ゼックミスタ ,J.E.ジョンソン .クリティカル シンキング≪実践編≫ . 京都 ,北大路書房 ,2000,p.242

2323

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践例として取り上げられたものはいずれも中学校での授業実践であり 60 、特に家庭科

と重複する内容が多いものを取り上げた。

*「高齢者福祉―人にやさしいまちづくり―」(「総合的な学習」の事例) 後藤 博

高齢者の不安や悩みを考え、じぶんがこだわりを持った問題を学習課題として

設定し調査活動を行い発表する。続いて「高齢者疑似体験」から学級学習テーマ

を設定し、話し合う。民生委員の方の話を聞き、「人にやさしいまちづくり」を提

案する。

*「身近な経済を疑似体験しよう」 三枝 利多

家計のシュミレーションゲームと車や住宅購入などの模擬商談を体験し、経済

活動の原則に気付かせる。

*「ハンバーガーの値下げは国民生活にとってプラスかマイナスか考えてみよう」

(暮らしを支える経済のしくみ) 二川 正浩

ハンバーガーの値下げが企業、家計、政府に与える影響を予測し、それぞれの

グループでたてた仮説を検証し市場経済のしくみやインフレ、デフレについての

知識・理解を深める。

*「ゴミ問題の解決には何が必要だろうか」((国民の生活と福祉の向上) 館 潤二

ゴミ問題の解決に必要なものを考え、財政の仕組みと意義と役割を知らせ、限

られた財源の配分を検討する。

*「まちづくりと住民参加について考えよう」(くらしに身近な地域の政治)小山茂樹

水道や道路などの身近な社会資本から住民自治を考えさせる。住民参加のまち

づくりでは、地元の事例を調べ、「オンリーワンのまちづくり」の視点から、自分

たちのプランを考え発表し、「地方分権」の必要性を考えさせている。

*「バナナやエビをテーマに NGO や NPO の活動を考える」 石井良明

バナナや養殖エビを中心とした日本とアジアの国々との関係と問題を NGO の

活動を中心に考える。

これらの実践は、中学校の社会科公民的分野の学習指導要領を根拠としている。つ

まり、「公民的分野の導入部として」「調査や討論など多様な学習活動」を「適切かつ

60 高山博之 ,谷田部玲生 .課題解決力を育てる授業の設計:中学社会・公民 . 大阪 ,日本文教出版 ,2004

2424

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十分な授業時数を配当」して学習を展開することが求められている 61 。6つの実践に

共通することは、中学生の暮らしに身近な題材から社会の仕組みを見通し、課題を認

識し、解決方法を探りながら、基本的な知識を蓄積しようと試みられている。

これらの学習を土台に、高等学校公民科の「現代社会」では、「課題を設け追求させ

る学習指導については、一定の方法があるわけではないが」とした上で、「①課題の設

定」では、現代社会の諸問題としてあげられている「地球環境問題」、「資源・エネル

ギー問題」、「科学技術の発達と生命の問題」、「日常生活と宗教や芸術とのかかわり」、

「豊かな生活と福祉社会」などのうちから、地域や学校、生徒の実態に応じて「二つ

程度」を取り上げることになっている。その際に、「生徒が自己とのかかわりにおいて

主体的に追求できるような「課題」を設けることが必要である」としている 62 。

以上のように同じ社会問題を扱う場合でも社会科教育では、「広い視野に立って“公

的領域”から社会のあり方や理念、制度などの社会的な事象を学」んでいる。一方家

庭科は「生活する側つまり“私的な領域”から出発して、現在の社会のあり方や制度

を見直し、それを変えていく力を実践的・体験的に育てる教科」である 63 。下図はそ

のことを明確に示している。

[図1 ]

<出典:鶴田敦子・伊藤葉子編著 .授業力 UP 家庭科の授業 .東京 ,日本標準 ,2008,p.34>

他教科と重複するから扱わないのではなく、それだけ学ぶべき重要な課題を家庭科

61 文部省 .中学校学習指導要領解説:社会科編 .東京 ,開隆堂 ,1999,p.128 62 文部省 .高等学校学習指導要領解説:公民編 .東京 ,開隆堂 ,2000 63 鶴田敦子・伊藤葉子編著 .授業力UP 家庭科の授業 .東京 ,日本標準 ,2008,p.34

2525

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では、生活者や消費者、高齢者や乳幼児などの多様な“私的な領域”からの問題認識

を拡げる役割を担っていると言える。つまり、「生活の中から論理を紡ぎだし」「他者

に共感し協働しつつ」「社会を主体的に作り上げようとする」意欲や行動力を育み、多

様な人々と「市民的公共性」を模索する、市民性(シティズンシップ)の育成を目指

し、生活者の視点から社会を問い直すことが家庭科の独自性である 64 。

(3)家庭科における実践から学ぶこと

ここでは、家庭科の授業実践をいくつか取り上げ、課題解決や問題解決のプロセス

における「実践活動」の際に配慮すべき点をまとめる。

*ゴミ問題(時得実践 65 )

東京都立大島高等学校の 2 年生の食物学習「好きなものを食べたいだけつくる」調

理実習で出た大量のゴミをきっかけに、グループで地域のゴミ問題を調査・研究し、

大島町への提案をまとめ、行動を起こすことをねらいとした実践である。生徒たちが

考え出した提案は、町長に伝わり、広報誌を通じてアピールされ、町のゴミ分別収集

の方法を変えることに繋がっていく。

この実践に学ぶことは、問題解決学習に取り組み、提案したことから「地域を変え

る」手応えを得たことによる生徒の達成感と自信である。初めから意図的に「地域を

変える」ことを目指して実践された授業ではなくても、課題に取り組み、互いに深く

学び合い、その成果として提案したことが、地域の大人たちを動かして行ったのであ

る。

問題解決学習による生徒の提案は、すべてがこのような反響を得られるとは限らな

いが、ポスターや作品を作ったり感想を書いたりして終わるだけでは、このような達

成感は得られない。若者の視点が生み出すものの中には、課題を掴み、解決策を真剣

に探した結果として、大人を動かし「地域を変える」だけの可能性が潜んでいる。一

方的な提案に終わらない、地域の様々な人々の課題や思いを共有する、つまり教室と

64 荒井紀子 .3章 家庭科における「シティズンシップ」の学びの展開 .日本家庭科教育学

会編 .シリーズ生活をつくる家庭科:第3巻 実践的なシティズンシップ教育の創

造 ,2007,p.47 65 時得捷子 .ゴミ問題:私たちから大島町へのアピール .家庭科教育研究者連盟 ,子どもの生

活を真ん中においた総合学習:家庭科からのアプローチ ,芽ばえ社 ,月刊家庭科研究 2003 年

9 月号別冊 ,p.80-89

2626

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社会を繋ぐ役割が授業者には求められていると言えるのである。

*人権教育(藤井実践 66 )

本実践は、家庭科教育に留まらず、総合的な学習の時間やLHRでも使えるワーク

シートを開発・編集したものである。そのテーマは「人」「生きること」「人間関係」

であり、自分の人生における「主体づくり」を目指した人権学習を目指している。こ

の実践で藤井は「高校生にとって「エンパワーメント」の学習を行うことは、自己の

持つ権利を知り、これまで当たり前と思ってきたことを見直す力、自ら相対化する力、

物事を思慮し批判する力を、協調する力をつけることにつながります。そしてそうし

た力は社会を変革する力をも生み出すことができる」としている。

これは問題解決力の根本となる力である、「見直す力」「相対化する力」「批判する力」

「協力する力」をどうつけるかを人権教育の視点から研究されている実践である。

*高齢者関連学習(高間実践 67 )

本実践は中学3年生を対象にした「高齢者にとって住みよいまちづくり」を題材に

授業設計を行い、その評価を分析したものである。この結果、「『老人を支える』こと

に関する生徒の意識に変化がみられ、行動的、問題解決的意識が増加し、社会的視点

や担い手意識もより強まる傾向がみられた。また高齢者関連学習への意欲・関心が学

習しない生徒に比べ増加し、授業の有効性が確認された。」と報告している。高齢者疑

似体験や車いす体験を土台に「まちづくり」に繋いでいく実践は、家庭科における領

域横断的な授業展開の可能性を示していると言える。

*住環境づくり(吉川実践 68 )

本研究は高等学校「家庭一般」住生活領域の学習において問題解決の基本プロセス

66 藤井徳子 ,高等学校における人権教育:エンパワーメントのための教材開発 , 家庭科教

育研究者連盟 ,子どもの生活を真ん中においた総合学習:家庭科からのアプローチ ,芽ばえ

社 ,月刊家庭科研究 2003 年 9 月号別冊 ,p.58-68 67 高間由美子・荒井紀子 ,家庭科の高齢者関連学習:福祉教育の理念に基づいた問題解決

型授業設計とその評価 ,日本教科教育学会誌第 19 巻第 2 号 ,1996.9,p.15-23 68 吉川智子 ,荒井紀子 .住環境づくりへの主体的意識を育てる高等学校の授業開発:(第 1報)授業の全体構造と学習プロセス .日本教科教育学会誌第 22 巻第 3 号 ,1999.12,p.63-72 (第 2 報)授業の分析と評価 .日本教科教育学会誌第 22 巻第 4 号 ,2000.3,p.55-63

2727

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を体験し、フィールドワークによる現状把握から教室の設計計画(個人編)、具体的な

公共施設の設計提案(地域住民プロジェクト)までの学習を組み込んだものである。

地域に暮らす年齢、性別、職業など様々な住民(小学生、若者、乳児を連れた母親、

高齢者、車いすを使う人、主婦、サラリーマン)の代表の立場からまちづくりを提案

する。フィールドワークを基にゾーニングから平面図作成、立体模型づくりまで 20 時

間の授業である。この実践からは、多様な市民の立場に立って、「みんなにとって良い

こととは何か」を追求しながらまちづくりを提案している点にある。異なる考えを認

め合意形成の方向性を模索する経験に導く方向性は、非常に興味深く参考になる実践

である。

まちづくりに限らず、住民としての多様性を配慮し、主体性を育てる意味での「市

民的公共性」を育む授業展開は、家庭科でこそ有効であろう。「ジェンダー」や「人権」

「平等」などをめぐって、身近な家庭や地域の課題を取り上げる可能性は無限である。

問題解決にとりくみ、共に話し合い、考え、判断し、行動できる力を育てることは「市

民性」を育てることにも通じる。「市民」とは広辞苑によれば「広く公共性の形成に自

律的、自発的に参加する人々」である。

ただし、ここで配慮すべきことは、固定的な理想像を押し付けるような授業展開に

ならないための注意が必要である。家庭や地域の在り方は、かつて家族制度の道徳観

を強く引き摺り、教育によってこれを再生産してきた。地域の人々の中にはこれをそ

のまま引き受けて生きる人もいるだろう。そのことへの配慮も含め、何を引き継ぎ、

何を変えていくべきかを、「なんとなく」ではない、根拠ある選択ができるよう、広く

深く考える力をつける必要がある。

(4)学習をどうまとめ評価するか

ここでは家庭科に求められる「課題解決力」の育成への配慮事項の 後に、学習を

どうまとめ評価するかについて述べてみたい。

鈴木敏江は、プレゼンテーションによって終わりではなく、「社会からの評価」を得

るために、プロセスが見えるような「ポートフォリオ」をまとめ(凝縮ポートフォリ

オ)、「成長」を振り返る(成長エントリー)ことができるようにする。この一連の流

れによって「総合的な学習」は「意志ある学び」として結実することができると述べ

2828

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ている。 69

ここで取り上げる「ポートフォリオ(portfolio)」とは、「書類綴じ込みケース」のこ

とである。「自分が自発的に学びの伸びや変容を多面的多角的かつ長期的に評価し新た

な学びに生かすために学習物を集めたもの」を指す。つまり、「実際の授業において児

童(生徒)が表した文章や絵、創作物などのあらゆるものを集積し保管するための入

れ物」である。これを評価に取り入れることで暗記力だけに頼らない、一人一人の思

考過程や行動したことを適切に評価し(「本物の評価(authentic assessment)」)、「本

物の学び(authentic learning)」を評価しようとするものである 70 。

この他にも、「パフォーマンス評価」など評価を見直す新しい視点が研究されている

が、要するに「課題解決力」をつけるための学習には、ペーパーテスト中心の評価と

は別の観点で評価を考える必要があるということである。

次に取り上げるのは、ロジャー・ハートによる「アクション・リサーチ」のプロセ

ス 71 である。彼は「環境の問題を批判的に評価して、それを行動の指針とする能力を

身につけることは、環境に対してしっかり責任がとれるようにするための基礎である」

として、「子どもたち一人ひとりがある程度は研究の基本的手順を知る必要がある」と

いう理由から、子どもに理解できるように示した図である。

[図2 ] アクション・リサーチのプロセス

<出典:ロジャー・ハート .子どもの参画:コミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画

のための理論と実際 .東京 ,萌文社 ,2004,p.91>

69 鈴木敏恵 .これじゃいけなかったの!?総合的な学習 .東京 ,学習研究社 ,2002 70 安藤輝次 .ポートフォリオで総合的な学習を創る:学習ファイルからポートフォリオへ .東京 ,図書文化 ,2000 高浦勝義 .問題解決評価:テスト中心からポートフォリオ活用へ .東京 ,明治図書 ,2002 71 ロジャー・ハート .子どもの参画:コミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画のた

めの理論と実際 .東京 ,萌文社 ,2004,p.91

2929

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この図では「問題を特定する」段階から子どもたちが自分たちを含めたコミュニテ

ィのいろいろな人々の視点からの分析に関わることを推奨している。つまり、環境や

まちづくりについて「問題を特定するためにはコミュニティに関わる必要がある」こ

とを強調している。

一人の教師が暮らしに関するすべての領域の 新情報を集めて生徒に伝えるには限度

がある。そこで盛りだくさんに情報を積み上げるよりも、地域の人材や、保護者との連携

を調整し、子どもや生徒が自ら問題を発見できるように支援することが重要であり、家庭

科学習にも柔軟に取り入れるべきであると考える。そのような方向で家庭科への理解を拡

げることは有意義であり、生徒の学習効果を高めることにも通じるだろう。

さて、この章では家庭科で育みたい「課題解決力」についても検討するつもりであった。

しかし、その結論は第 3 章に譲ることにする。その理由は、「課題解決力」とは何か、が

明確にできないままにここに至っている。つまり、教育現場における高校生たちとのやり

取りの中でこそ見えてきたものを本稿の結論部にまとめたい。

3030

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第2章 家庭科教師の「課題解決型授業」観

第 1 節 山形県内高校家庭科教師の「課題解決型の学習方法」に関する

実態および意識調査

1 調査の目的と方法

ここでは、山形県内の高校家庭科における「課題解決型学習」の実施状況を把握す

るための調査研究についてまとめることにする。

高校家庭科では 1994 年からの「男女必修」以後、それまでの「女子のみ必修」の時

代に比べ指導内容が増加し、一方で 2003 年度より実施の現行学習指導要領の改訂によ

り「家庭基礎」2 単位が導入され、教育現場では教員数減や、短時間での指導の難しさ

などの問題を抱えている。

また高校家庭科では、歴史的に HP の形で課題解決学習を行ってきたという経緯が

あり、そこでは「自ら課題を見出し、解決を図る問題解決的な学習の充実」が求めら

れてきた。

そこで、山形県内の高等学校家庭科教師が、「課題解決型学習」として何をどのよう

に取り上げているか、「地域の生活課題」や「HP」との関連性はどうか、「家庭科教育

を取り巻く課題」をどのように捉えているのかを明らかにすることを目的に山形県内

の公立、私立のすべての家庭科担当教諭と常勤講師 107 名を対象に、アンケート調査

(郵送)を実施した。実施期間は、2007 年 11 月~12 月、回収率は78 .5%、84 名

からの回答を得ることができた。

2 予備調査による質問項目の整理・検討

調査に先立ち、予備調査として県内 4 地区ごとに各 2 名ずつ、合計 8 名の教師をラ

ンダムに抽出し、面接ヒアリングを実施した。ここでは、アンケートの「素案」 72 に

対して、教育現場の課題を十分に吸い上げるものになっているか、「HP」の指導の在

り方や、「地域の生活課題」の扱い方についての考え方はどうか、を中心にヒアリング

を行い 73 、アンケートの基本構成を以下のとおりとした 74 。

72 添付資料2-1 ,アンケート素案 73 添付資料2-2 ,予備調査のまとめ

3131

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Ⅰ 基本属性 Ⅱ 「課題解決型の学習」について Ⅲ 「ホームプロジェクト(HP)」「課題研究」などについて Ⅳ 「家庭科教育」全体の課題について

第 2 節 調査結果とその分析

1 調査結果 75

Ⅰ 基本属性

ここでは勤務校の実態、回答者の年齢・性別・職種・経験年数・担当科目と授業時

間数を尋ねた。「年齢構成」では、40 才代が約 39%と も多く、ここ 10 年の採用数の

激減によるアンバランスが顕著であった。以下、30 才代が約 27%、50 才代が約 22%、

20 才代は約 6%である。

「担当科目」では、普通教科「家庭」の選択必修三科目の担当割合では、「家庭基礎」

が約 42%、「家庭総合」が約 38%、両方を担当が約 8%、その他の科目が約 8%であっ

た。山形県では「家庭基礎」担当者が約半数ということで、「家庭総合」担当者の割合

を上回っており、基礎科目を2単位しか学ばない生徒の方が多い現状が伺える。

「担当科目および授業時間数」では、一人当たりの担当科目数は1~6科目、LHR

(ロングホームルーム)を除く授業時間数は 10~19 時間と、学校別・学科別の差が大

きいことが分かった。

Ⅱ「課題解決型の学習」について

「課題解決型の学習」についてはここでは言葉の定義を提示せず 76 、家庭科教師の

捉え方の傾向を見ることとした。

(1) この 5 年間の実施状況

「この 5 年間の(課題解決型の学習の)実施状況」は、全体の 56%が「かなり」また

は「ある程度は」実施してきたと答えている。

74 添付資料2-3 ,アンケート調査用紙(本調査) 75 添付資料2-4 ,アンケート集計結果

(日本家庭科教育学会第 51 回大会口頭研究発表レジュメ) 76 アンケート調査用紙(本調査)には、「「課題解決型の学習」には様々なやり方・考え方

があり、これまでの「ホームプロジェクト」に限りません。自分なりの解釈でお答えくだ

さい。」と、付け加えた。

3232

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(2)「課題解決型の学習」の傾向

a)「地域の生活課題」 77 への意識

「地域の生活課題」への意識は、「課題解決型の学習」の「実施」に比べやや少ない、

46.5%が「かなり」または「ある程度」意識してきたと答えている。また、このうち

の半数近くが「地域の生活課題」を「あまり」または「全く」意識していないことが

分かった。 [図3 ]

b)「題材」「取り上げ方」「生徒の反応」

領域 78 ごとに「どんな題材を」「どのよう

に」実施したのか、の質問では、記入され

た 166 例 79 のうち 「食生活」「HP」「高齢

者」の領域が多く取り上げられていること

が分かった。また、少ない領域は「住生活」

「衣生活」「消費生活」であった。

「題材」と「生徒の反応」程度のクロス

集計 [図3 ]では、「食生活」の反応が良く、

次いで「高齢者の生活と福祉」の領域であ

った。「あまり良くない」と感じているものとして、「HP」をあげた家庭科教師が 5 名

いた。

「題材」による「生徒の反応」程度(166例中)

78

5

14

45

45

89

17

28

6

3

8

12

23

01 1

21

5

0

5

10

15

20

25

30

家族 子ども 高齢者 食 衣 住 消費 H・P

(例)

「題材」

良い

まずまず

あまり

(3)家庭科教育における「課題解決型の学習」

a) つけたい力

複数回答可で「情報を取捨選択する力」98.8%、「問題意識」96.4%、「実践力や行

動力」95.2%、「暮らしを前向きに変える力」88.1%が「そう思う」または「ややそ

う思う」を選択した。

b) 生徒の実態

77 「地域」については定義をせずに、「生活課題」を「生活の実際場面に生じている諸問

題」とした。 78 ここでは学習指導要領における「家庭総合」の8つの「領域」に区切り、他の科目でも

関連のあるところに記入するように指示した。 79 添付資料2-5 ,「課題解決型の学習」の題材と取り上げ方および生徒の反応

3333

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生徒の実態については、「意欲差が大きい」70.2%、「一方的な授業より意欲的」

57.1%、「コンピュータを使って調べたりまとめたりすることができる」53.6%、「家

庭科で学んだことを生かすことができる」については 52.4%の教師が、「そう思う」ま

たは「ある程度そう思う」を選択した。

(4)「課題解決型の学習」への「今後の取り組み意識」

「課題解決型の学習」への「今後の取り組み意識」 80 については、「大いに」または

「できるだけ」増やしたいと答えた教師は約4割で、「現状のままでよい」または「減

らさざるをえない」が多く半数以上であった。その主な理由では、「時間不足」を挙げ

る人が 53.5%と も多い。その背景としては、単位数減の影響や、多忙化が原因と推

察される。

Ⅲ「HP」または「課題研究」について

(1) 今年度の実施状況

普通教科「家庭」における選択必修 3 科目における「ホームプロジェクト(HP)」

の実施割合は、約4割に留まり、「課題研究」を含む選択科目では約 3 割、その他(「総

合的学習の時間」や「部活動」など)における研究活動は、わずか数%に留まった。

(2) 実施内容

実施内容については、以下の 4 点についても調査したが、ここではデータが少ない

ため省略した。

a) 授業時間数 b) TT(ティーム・ティーチング) c) 評価 d) 評価の基準

(3) 実施していない理由

「HP」を実施していない理由(複数回答可)では、「生徒の実態を考慮」(51.0%)

「時間数不足」(44.9%)を選択した教員が多かった。また、Plan, Do, See の手順を

踏んで「定義どおりに取り組むことは難しい」、家庭科の授業の「別の領域で課題解決

型の授業を取り入れているから」を選択した教師も 20.4%いた。

80 添付資料2-6 ,「課題解決型の学習」への「今後の取り組み意識」と理由(自由記述)

3434

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(4)5年間の指導経験 [図4 ] この5年間ぐらいの「HP」指導経験で

は「0年」44 人(52.4%)が も多く、

以下「5年」18 人(21.4%)「2年」7 人

(8.3%)の順であった。

ここで「課題解決型の学習」の実施状

況と「5年間の H・P」指導経験年数の

クロス集計 [図4 ]では、過去5年間の

「HP」の指導経験が「全くない(0 年)」

教師のうち、6割以上(28名)が「課題

解決型の学習」を「あまり」または「全く」

実施していないことが分かった。このよう

な状況から「自ら課題を見出し主体的に生活を営む能力」や「課題意識」の育

「課題解決型の学習」の実施状況と「5年間のHP指導経験」年数

15

28

14 2 0

61 02 0 0

41 0

14

40

051015202530

人数(人)

「課題解決型の学習」

0年

1年

2年

3年

4年

5年

成を急

[

実態」が浮き彫りにされたことになる。

かにするために、この点についても質問を行ったが、「課題解決型の学習」からは外

れるので、ここでは省略する 82 。

がなければならないと痛感する。

図5 ]

(5) 学習効果についての認識

「HP」の学習効果 81 については、「大い「H・P」の学習効果についての認識

にある」「ややある」を合わせると、78.5%

3.6 

1.2 

11.9 

57.1 

21.4 

0.0  10.0  20.0  30.0  40.0  50.0  60.0 

その他

ない

あまりない

ややある

大いにある

(%)

(66 名)と、多くの教員が学習効果を認め

ており、「実態」と「認識」の差が大きいこ

とが分かった [図5 ]。つまり、「学習効果」

は認めているが、「実施」に至らないという

Ⅳ「家庭科教育」を取り巻く課題

現在家庭科教育が抱える緊急の課題を明

81 添付資料2-7 ,「H・P」の学習効果の有無とその理由(自由記述) 82 添付資料2-4 ,アンケート集計結果(学会発表レジュメ)を参照

3535

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2 調査結果から見えること

①166 の題材例から見られる「課題解決型学習」の姿

今回の調査によって明らかになった、家庭科教師がとらえる「課題解決型の学習」

姿を、以下のような8点について分析した 83 。

C)課題レベル…生徒

D)情報収集の方法…

)グループ 9 例(5.4%)

2.4%)

H) 発表…30 例(18.1%)展示・掲示 12 例(7.2%)

A) 取り組む主体…生徒個人 77 例(46.4%)グループ9例(5.4%)

B) 課題設定者…生徒個人 51 例(30.7%)グループ 8 例(4.8%)

個人 42 例(25.3%)家庭 33 例(19.9%)

地域 38 例(22.9%)社会 /環境 4 例(2.4%)

生徒自身の体験、実習等 50 例(30.1%)

人に尋ねる 29 例(17.5%)道具使用 21 例(12.7%

E)解決方法の検討…生徒個人 39 例(23.5%

F)目標・計画の設定…有 32 例(19.3%)

G) 解決に向けた実践…家庭 24 例(14.5%)授業 4 例(

これにより、「課題設定者および取り組む主体は生徒個人であることが多い。地域の

生活文化や生活課題も取り上げているが生徒個人や家庭内の課題に限られ、生徒自身

の体験、実習等で終わっているものが多く、課題解決に向けた吟味は生徒個人に委ね

られ、家庭での実践を前提とし、これを発表・展示している」という傾向が分かった。

HP の流れに沿った展開方法をそのまま「課題解決型の学習」と捉えてしまっているこ

が明らかである。

ついては上記のような傾向を確認できたが、細部につ

②「課題解決型の学習」実践上の課題

「課題解決型の学習」の姿に

ての確認が不足であった。

生徒の実態や時間数不足が原因と考えられるが、教師が課題設定し、その背景や解

決策を探ることから始めている例も見られた。限られた時間内で解決まで導くにはこ

83 添付資料2-5 ,「課題解決型の学習」の題材と取り上げ方および生徒の反応

3636

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のようなやり方も必要であるだろうが、子ども自身の疑問や発想を取り上げる余裕が

習」を、どのような内容で扱い、どう指導するべきかを追求しなければならない。

徒の実態」や「時間数不足」を理

に、取り組みができていないことが分かった。

き課題を明らかにすることができた。ここでは論旨から外れるので、省

した 84 。

師自身の行動

にあり、新たな展開を模索するべき段階に至っている

とをここに指摘しておく。

いことが気に掛る。

また、課題解決の方法や目標の検討を十分に行い、そのためにどんな実践を行うか

の吟味まで踏み込んだものが少ない。特に社会や環境に対して生活者の視点から働き

かけるような取り組みは、まだ少数であり、ここを充実させるには「課題解決型の

③「HP」の実態

「HP」については学習効果を認めながらも、「生

④「家庭科教育」を取り巻く課題

「教育課程編成」「教員の研修」「社会的認識」「教育条件整備」の 4 つの項目ごとに

も重視すべ

3 まとめ―家庭科教育をより良くするために

「課題解決型」の授業についてアンケート調査を行ったことで、個人や家庭に留ま

らない課題を誰がどのように設定するのか。解決に向けた実践にできるかぎり生徒の

発想を生かし、協働のチャンスをとらえ、社会に向かって発信する、教

やコーディネート力が問われることに気づくことができた。

教育現場では多くの教師たちが、日々「教科指導」以外の業務に追われ多忙を極め、

教材研究の時間と余裕を奪われていることが今調査の結果に、もっともよく表れてい

た。家庭科教育が半世紀以上にわたり積み上げてきた「HP」の指導による「課題解決

型の学習」が、実施し難い状況

84 添付資料2-4 ,アンケート集計結果(学会発表レジュメ)を参照

3737

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第3章 「課題解決力」を育てる授業の実践と考察

第1節 課題解決型授業の試み(住生活領域)

1 新たな取り組みとそのねらい

ここ C 高等学校で 2008 年度に実施された『家庭総合』における「住生活」領域

の授業実践を基に、家庭科教育における「課題解決型の学習」の可能性や課題を明らかに

する。

まず、この授業ではこれまでの研究成果を生かし、「課題解決型の学習」を取り入れるた

めに、授業者にとって「住生活」領域では初めての大掛かりな授業改革を試みた。C 高等

学校には家庭科教師は教諭1名のみの配置であり、細部を検討、相談できる相手や機会は

少なく、十分な準備ができたとは言い難いが、はじめに「新たな取り組み」の内容

とそのねらいを以下のように整理しておく。それぞれの実施状況は、第2節にまとめた。

(1) 授業者の事前準備と教材開発

① 先行研究により、「住生活」学習のねらいを再確認し、単元のねらいを設定した。

② 生徒の学習の記憶や住生活観を調査 ートを作成し、実施した。

③ 生徒のレディネス(学習に対する適合と成熟の状態)を把握し、「住生活」への興

味・関心を引き付けるために 住生活 Introduction クイズを作成し、実施した。

④ 基礎知識を復習確認するために、「住生活」の 低限押えるべき基礎・基本の検討を

行い、これを実施した。

⑤ 授業に対する率直な感想を集め、改善に生かすために、授業プリントに「本音コー

ナー」を設置し、使用した。

⑥ 学校周辺で地域の人々の声を集め、住環境を実際に見るために、フィールドワーク

の計画・準備を行い、実施した。

⑦ 「まちづくり」に取り組む地域の人々の話を聞くために「地域の人々を教室に招こ

う!」の企画・準備を行い、実施した。

⑧ 学習の経過を整理し、評価するために、ポートフォリオ評価を実施した。

⑨ 住生活」領域における「課題解決型」学習の成果と課題を明らかにするために、事

後アンケートを作成・検討し実施した。さらに、集計と結果分析を行った。

では、

極めて

するため、事前アンケ

3838

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⑩ 以外の評価方法の在り方を検討し「期末テスト」非実施による学期末

価を行った。

(2

① めることを目指して、住生活の課

② 行う前段で、フィールドワークの準備・リハー

③ の検討の手掛かりをつかむために「テーマ見つけチャート」による検討を行

④ 決方法を探ることを目指して、グループ研究「ま

ちづくりの提案」に取り組んだ。

月の期末テスト明けに実施、回答数は 149 人中

30 人(回収率 87.25%)であった。

る記述があった者は小学校 13 名(10.0%)、中学

校 名(15.4%)と、少ない。

ペーパーテスト

) 生徒の取り組み

住生活の現状を新聞記事やインターネットから集

題収集を、夏休みの課題として取り組んだ。

実際に地域の人々に聞き取り調査を

サルを行い、事後にまとめをした。

テーマ

った。

地域の住生活課題を取り上げ、解

2 生徒の学習記憶と住生活観

ここでは生徒の住生活観や、レディネス(学習に対する適合と成熟の状態)につい

ては「事前アンケート」 85 および「住生活Introductionクイズ」 86 によって調査を行

ない、結果をまとめた。この調査は7

1

1)小・中学校での「住生活」学習記憶

まず明らかになったことは、「住生活」領域の学習記憶の少なさである。中学校での

学習内容は、殆ど記憶に残ってはいない。辛うじて記憶に残っていることを書いた生

徒は 19 名(14.6%)、その他は「覚えていない」または未記入であった。また、「総合

的学習の時間」でも地域学習に関す

20

2)「地域」の認識

高校生にとって「地域」とは、どのような範囲を指すのであろうか。アンケートに

85 添付資料3-3 ,事前アンケート調査用紙 86 添付資料3-4 ,住生活Introductionクイズ

3939

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よると、「歩いて行ける範囲」50 人(38%)、「自転車で行ける範囲」44 人(34%)で

った。

生活できない」34 名(26.2%)、「冬は出歩けな

」32 名(24.6%)であった。

)、「できれば住みたい」31 人(24%)、「あまり思わない」26

(20%)であった。

・近所づきあい><暮らし>に関わる日

6

公共施設・病院>な

>などの楽しめ、集まれる「若者文化」

った 88 。

3) 子ども・高齢者、障がい者にとって不便だと思う点

子ども・高齢者、障がい者にとって不便だと思う点を複数回答可で尋ねたところ

「公共交通が不便」54 名(41.5%)、「買い物が不便」46 名(35.4%)、「病院が遠

い」46 名(35.4%)、「車が無いと

4) 将来、「地域」で暮らしたいか

将来、生まれ育った「地域」で暮らしていきたいかを尋ねたところ、「わからない」

が も多く 49 人(38%

5)「酒田市」で自慢できる点

「酒田市」で自慢できる点については、<自然><空・空気・水・食べ物>が多く、

<交通・港・空港><治安・平和>をあげる者も多かった。<祭り><観光>などの

非日常を取り上げる者もいたが<人づきあい

的な面を挙げる生徒も僅かであった 87 。

)「酒田市」をもう少し住みやすくするために

さらに「酒田市」をもう少し住みやすくするために課題となることについては、<

店・商店・大型店><交通整備・公共交通・渋滞対策・バス><

「買い物」や「移動」「公共施設」に関するものが多かった。

一方で<中町>や<駅前>の商店街の疲弊ぶりや、<パチンコ店>の乱立について

も問題と感じ、<映画館>や<高校生・若者

の居場所がないことが明らかにな

*住生活 Introduction クイズ

87 添付資料3-5 ,地域(酒田)で自慢できること ,地域(酒田)をもう少し住みやすくす

るには(授業プリント) 88 同上。これらの点からテーマを選択し、すぐに課題解決学習に取り組めばよかったと、

後に反省することになった。

4040

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「住生活」に関する基礎事項や一般常識的な事項、現在話題になっている事項につ

いてクイズ形式で事前調査を行った。13 問中正解数は、全体の平均で 6.08 問、 高は

10 問であった。目立った傾向としては、中学校の教科書に出てくるような基礎的なこ

とから分かっていない。当時ニュース等で騒がれた「サブプライムローン」について

、正解が多かった。山形県内の状況は、殆ど知らないことが明らかになった。

居できる権利と、そのための政策を提案していく」

「自分は何ができるのか」を考え行動し

どう捉えるのかが重要

あると考え、単元の「ねらい」を以下のとおり設定した。

住生活を中心に「地域」の住生活について課題を発見し、「課題解決型学習」に取り組むことで、「住むこと」

や「暮らすこと」の意義を考え、市民としての参画意識と能力を育てる。

第 2 節 授業の計画と実施

1 「住生活」でつけたい力

授業に先立って、「住生活でつけたい力」 89 について先行研究を確認した。家庭科教

育を研究する武藤八重子は、「人と住生活のつながり(人と環境の関わり)を理解させ

る。」「生存権のひとつとしての住宅問題を、他国との比較のもとに考えていく。」「適

正規模の住居に、適切な負担で入

をつけたいと述べている 90 。

また、工学が専門の田中勝は、「快適な住生活を実現し、環境に配慮した持続可能な

社会を創造していくために、消費者として住まいに関する幅広い知識や情報判断能力

を身につけ、「何をしなければならないのか」

いくことが重要である。」としている 91 。

これらのことからも「住まい」の外側と暮らしとの繋がりを

2 単元のねらい

1 多様な住居の基本的機能と人権との関わりについて知る。

3 生徒観・指導観

C高等学校は、百年の歴史に支えられた山形県酒田市に位置する県立の商業高等学

校である。地域や国内外に優秀な人材を輩出し続けているが、少子化の影響を受け、

89 添付資料3-2 ,住生活でつけたい力 90 武藤八重子 .授業を創ろう:見つめ、考え、行動する生徒を育てる .東京 ,教育図書 ,2002 91 田中勝 ,内藤道子 .生活を創るライフスキル:生活経営論 .東京 ,建帛社 ,2002

4141

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すいものに変えていく「市民」としての意識と能力(市民性)

育てたいと考えた。

置いたが、当初 15 時

間で計画したものが、実際には(23 時間)を費やしてしまった。

導計画

(1)住生活の現状と課題……3時間

(2)テーマ設定・計画……1時間

(3)地域の生活課題を考える……8時間

・フィールドワーク

・ゲストティーチャ―を招く

・テーマの見直し

・まちづくりを提案する

(4)発表とまとめ……3時間

⇒ (1)住生活の現状と課題……6時間

①来年、どこで暮らし

一人暮らしのアパート探し

②住生活アンケート・ ズ

③人間にとって「住まい」とは何か

④居住の権利を考える

⑤自然環境への適応 世界の住居(VTR学習)

⑥自然環境との共生 エコロジーハウス(VTR学習)

(2)地域の住生活課題を考える……14時間

① グループ編成・仮テーマの設定(1時間)

② フィールドワーク実施計画 (2)

③ フィールドワーク実施とまとめ (2)

④ テーマ見つけチャ 設定(1)

⑤ 地域の人々を教室 (2)

⑥ まちづくりの提案 レポート作成 ) (6)

(3)発表とまとめ……3時間

年後に市内三校との大規模な合併が決定している。

生徒の構成としては、3年生4クラス149名の男女比はおよそ4対6の割合で女

子が多い。学力的には地域内で中位の生徒が多く、商業科の学習を生かした資格を

得することや、部活動に熱心に取り組むことにプライドを持っている生徒も多い。

バブル崩壊以降の長期的な不況により、かなりの生徒が卒業後地元を離れて進学・

就職する。そういう生徒たちにとって「地域」への思いはどのようにあるのだろうか。

そして、どこに根を張ろうとも、その「地域」で主体的に課題を見つけ、力を合わせ

て住みやすく、暮らしや

指導計画と実施内容

まず初めに住生活の基本的な機能とゾーニング、平面表示記号などの基礎事項を確

認した。次に、「課題解決型学習」を取り入れ、これを実施した。生徒が自ら課題を発

見できるように「地域」の住生活課題を考えさせることに重点を

[表1 ]「人間らしく住む」指 [表2 ]実施内容

ていたい?

(VTR学習)

Introduction クイ

ートでテーマ

に招こう

(

ここで指導計画通りに進まなかった原因について考察してみたい。

4242

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その原因の一つは「事前アンケート」、「住生活」クイズの結果を受けて、基礎的な

事項(上記の(1)①~⑥)を入れてしまい、6 時間を費やしてしまった点にある。

さらに二点目は、グループ分け、テーマ設定を慎重にやりすぎて時間がかかってし

まった。「住生活」に関する課題を広い視野で認識し、現状を知り、その原因や背景を

掴むために「フィールドワーク」 92 や「テーマ見つけチャート」 93 を試みたが、途中、

クラス全体での「振り返り」 94 をじっくりやらなかったため、「何のためにやっている

挙句、結果的には実施できなかったクラス

か」を見失うような進め方になってしまった。

三点目に、初めての取り組みの一つである「フィールドワーク」の準備と実施に手

間取ったことがあげられる。週に、50 分ずつ2時間の授業であるため、中間テストや

行事、授業者の出張のために授業が潰れ、「フィールドワーク」は天候に左右されるた

め、3週間近く延期せざるを得なくなった

も一クラス(3年4組)出てしまった。

授業の流れとしては、まず「仮のテーマ」を設定させ、フィールドワークで地域の

人々の生の声を集めることを提案してみたところ、教室を出て調査を行うことに対す

る反応は良く、意欲を見せる生徒が特に男子に多くいた。ところが、初めてフィール

ドワークを行うことになり、様々な心配と、外部に対する手続きが必要になった。生

徒の安全への配慮はもとより、平日の日中に人が集まるところで調査を行うのに書類

による許可が必要な所が出てきた。観光名所や、市内唯一のデパート前、学校近くの

大型スーパー前などのべ 10 数ヶ所である。「JR駅前」では、事前に新潟本社の許可

が必要で、当日には間に合わなくなるため、「駅前通り」に切り替えた。電話だけで許

してくれたところもあるが、買い物客に失礼があってはと、気を遣った。

フィールドワークを何のためにやるのか、突然見知らぬ高校生にインタビューされ

る人の気持ちを考え、校内の教職員を相手に練習も実施してみた。これほどの厳重な

準備をして臨んでも、当日、「数名にしか会えなかった」、「答えてもらえなかった」、「平

日、これほど(まちに)人がいないとは思わなかった」、という結果・感想になって

まったグループがいくつかあった。50 分の授業内での実施は厳しいものがある。

92 添付資料3-6 ,フィールドワーク計画一覧 93 添付資料3-7 ,テーマ見つけチャート 94 鈴木敏江 .これじゃいけなかったの!?総合的な学習の時間 .東京 ,学習研究

社 ,2002,p.32 これを鈴木は「思考の時間」と呼んでいる。

4343

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「テーマ見つけチャート」は、いわゆるイメージマップ法の応用である。ここでは、

フィールドワークの結果を土台に、もう一度テーマの見直しを、個人ごとに実施した。

しかしこれは、もっと早く導入部で実施するべきであった。教科書や資料集から、住

生活の課題を拾わせ、その中から「あまり大きなテーマを選ばない」ように、ポイン

た。「まちづくり」に関わる、違う分野の方の話をそれぞれ聞き、感想をまと

[表 “地 を考える を教室に招こう! < 室> 日 ーマ

トを絞るために実施したものである。

四点目として、「地域の人々を教室に招く」時間も、準備に追われる日々となった。

当初同一の時間帯に生徒がテーマと講師を自由に選んで話を聞くように設定したいと

考えたが、学年全体を一度に動かす時間割変更ができず、2クラスずつ4回に分けて

実施した [表3 ]。結果的に一つのクラスが2回ずつ、ジャンルの異なる講義を受けるこ

とになっ

めた。

3 ] 域の生活課題 ” 地域の人々 於:被服

時 対象クラス 講師(所属) テ

11 月 4 日(火) 4校時

3 年2 ,3組 (74 名)

西村修 氏 (酒田まちづくり開発(株))

心豊かで繁栄のある

地域興し」 「まちづくり会社が描く、

11 月 6 日(木) 1校時

3 年1 ,4組 (75 名)

企画調整主査 前田繁男 氏 (酒田市 企画調整課 )

酒田市総合計画について

11 月 7 日(金) 4校時

3 年3 ,4組 (73 名) )

生)

「公益大生が取り組むまちづくり」 渡辺晶洋 氏(4年生) 漆沢 望 氏(3年生

高橋宏市郎 氏(2年

武田真理子 准教授 (東北公益文科大学 )

11 10 日

(月)4 校時 3年 1,2組 (72 名)

福祉課長 相蘇清太郎氏 (酒田市 健康福祉部 )

みんなで支える福祉のまちづくり 月

その後クラスによる偏りが出ないようにすべての講義の要点を授業者が1枚のプリ

ントに整理し 95 、共通認識を促した。生徒の感想の中には、地域を何とか元気にしよ

うとする人々との出会いによって、大学卒業後に地元に帰って来る意義を見出した者

数名いたことは嬉しい成果であった。

この後、いよいよ「まちづくりの提案」(グループレポート)に取り組む際も、期末

テストが近付いていたため、身軽な小人数グループの方が動きやすいとの意見で、グ

ループ編成替えを行ったクラスもあり、窮屈な日程になってしまった。予定した6時

間のうち、2時間を「情報処理室」を使用し、インターネットによる調べ学習を行っ

た。残りの4時間を図書館での調べ学習と模造紙へのまとめを並行してグループ活動

95 添付資料3-8 ,地域の人々を教室に招こう!<講話のポイント>

4444

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を行った。評価のポイントを [表4 ]に示した。この時点で 2 学期の期末テストは実施し

ないこと

ものになった。具体的な発表テーマは添付資料の生徒による評価表に示した

96

ての授業改善の資料とすることを目的とした。調査内容は添付資料 97

較して、生徒の意識や行動の変容を確認できなかった点は、

きな反省点の一つである。

うか」を、4

段階尺度によって回答を求めたところ、以下のような結果となった。

を決めた。

[表

さらに、この「発表会」

を行い、ようやくまちづく

] 評価のポイント

の「まとめ」を行った。

様々な苦労はしたが、生

徒が提案したまちづくりに

は、多様なテーマが取り上げられた。特に誰でもが気づく<中町商店街>と<駅前>

の改善が多かった。しかし提案内容には、生活者の視点、例えば高齢者や、子どもの

視点、地域の農業、周辺の町との関係などを入れて提案したものが殆どで、発表会は

充実した

第3節 授業の反省と課題

1 事後アンケートの結果の分析と今後の課題

ここでは一連の授業後に実施したアンケート調査を基に、授業を振り返ることにする。

調査は、「発表会」終了後(12 月)に全員を対象に授業時間内に実施した。回収率は 146

名(97.98%)である。この調査の目的は「課題解決型」の授業の有効性を確認するため

であり、次回に向け

のとおりである。

しかし、事前アンケートと比

①今回の授業でついた力

はじめに「住生活」の課題解決学習で「つぎのような力がついたと思

(1)テーマや取組に対する<関心・意欲>が見える。

(2)これまでの<学び>が見える。

・・・どんな人にも居心地のよい、暮らしやすい場所、施設、地域とは?

(3)まとめや発表に<工夫・オリジナリティ>が見える。

(4)提案の<根拠>が明確である。・・・主体的な調べ学習

(5)<表現力>・・丸写しでない、自分の言葉で、誰にでも分かるように。

(6)課題を解決できる<見通し・説得力>があるか。

96 添付資料3-9 ,発表会 ,当日!!!(生徒用評価表) 97 添付資料3-10,事後アンケート<住生活アンケート(2)>

4545

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予測よりも少ない結

となった。

影響を与えた学習内容と学習方

[図6 ]

12 項目の中で も多くの生徒が

「そう思う」と回答したものは、「提

案には根拠が必要であることが分か

った」であり、以下「実際に見る・

聞くことの大切さを感じた」「人の考

えを聞く力がついた」が上位である。

「課題解決力がついた」を選択した

生徒の割合は、

4646

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次に①「ついた力」を判断した根拠となる(であろう)学習内容と学習方法を、複

数回答可で選択を求めたところ、以下のような結果となった。

[図7 ]

①「ついた力」の根拠となったものは、学習内容では1学期に行った「高齢社会と福

祉」の授業であり、学習方法では「フ

ィールドワーク」「地域の人々を教室に

招こう」「レポート作成(まちづくりの

提案)」の順であった。

学習方法では、殆どが体験的な参加

型の学習であり、一方的な講義は殆ど

入っていない。講義授業は前半に 低

限のものを短時間で実施した。その中

では居眠りや、授業に関係のない課題

などをやる者は殆どなく、長い2学期

を飽きさせないで引きつけて来られた。

しかし、 後のレポート作成や発表

会は、試験の替わりということでなん

とか取り組めたが、多少飽きが見られ

た者、グループ内で人任せにしている者、集中して発表を聞けない者も若干見受けら

れた。

①「ついた力」と②「影響を与えた学習内容・方法」のクロス集計を行ったところ、

以下のような特徴的な結果が見られた [図8 ]。つまり、「実際に見る・聞くことの大切

さを感じた」と、その原因として「フィールドワーク」による影響を選択した者が多

く、意図せざる結果として「フィールドワーク」の体験ができずに終わったクラス(3

年4組)を除いても殆ど同様な結果となった [図9 ]。

4747

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[図8 ] [図9 ]

③印象的な学習内容

ここでは、一連の住生活学習

で取り上げたテーマや語句等、

20 項目について4段階尺度によ

って「印象」的な学習内容につ

いて回答を求めた。

「印象的」と評された上位の

項目、「自然との調和、気候風土

に合わせた住まい」「一人暮らしのアパート探し」「釘を一本も使わない金山杉の家」「エ

コロジーハウス」は、いずれも VTR 学習によって基礎事項をまとめた授業に出てくる

言葉であった。

VTR 授業で気をつけて来たことは、受身の学習にならないよう、また小論文対策

としても、要点を一定量メモしながら視聴し、直後に感想を7行以上書くことをその

都度添削評価し、習慣づけてきたことである。

[図10 ]

4848

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さらに「換気」の重要性の説明の時、8月末の午後の教室での授業で、天窓やカー

テンを全部開けたら涼しい風が一気に入ってきたことへの驚きの表情は「なるほど」

と、頷ける瞬間を殆どの生徒にもたらしたエピソードを体験したためである。

「酒田市の課題は「雇用」と「人口減」」は、酒田市役所からの出前講座によって説

明された言葉である。就職・進学の分かれ道にいる3年生にとって、地元の抱える課

題が明確になった印象深い言葉であったことであろう。

「若者がまちづくりに参画する、非営利での活動、提案する意義」「地域コミュニテ

ィの一員として」は、一連の「住生活」学習で、授業者が も強調した内容であった。

④「地域の生活課題」を考えたか、「まちづくり」に興味を持ったか

「地域の生活課題」という言葉は、非常に曖昧であり、「住生活」に限ったものでは

ない。捉えどころのないこの言葉からスタートした「課題解決的学習」は、生徒の興

味関心を引きつけたと言えるのであろうか。その調査結果は以下の通りである。

[図 11] [図 12]

⑤2年時の「ホームプロジェクト」との比較

この学年の生徒は、2年時の「家庭総合」で「ホームプロジェクト」を体験してい

る。この経験を頼りに、「課題解決型学習」との比較(昨年の「HP」に比べてどうで

したか?)を求めたところ、「よいと思う」「ややよいと思う」合わせて 114 名(79.2%)

4949

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であった。その理由の主なものは以下の通りであった。

・(グループ)みんなで協力しながら、楽しみながらできたから。 ・積極的に意見が出せたから。

・グループでまとめたことが、自分にもみんなにもプラスになったと思う。 ・現実的に考えることができた。

・一人で考えるより多数で考える方がよい案が出た。 ・地域のことだから課題を見つけやすい。

・(地域の)課題や現状がはっきり分かった。 ・調べる力がついたから。 ・視野を広げることができた。

・地域について知ることも必要だから。 ・H・Pよりやりがいがあったから。 ・時間がたくさんあったので。

・体験的、実践的なものが多いから。 ・将来に向けて知識を身につけることができた。

・より深く広い視点で調べられたから。 ・楽しくできるし考える力がつくのでよいと思う。

・2 年時よりもまとめ方が上達したから。 ・パターンが違って飽きなかったから。

また、「あまりよいと思わない」「よいと思わない」は、合わせて 30 名(20.8%)で

あり、その理由の主なものは、以下の通りである。 ・そんなに変わらない。 ・課題が(まちづくりに)限定されたから。 ・あまり違いがわからない。

・(H.Pで、自分の)家庭の問題点が見えた。 ・H・P の方が自由でレベルの高い調べ学習だった。

・調べる時間が短く、内容が薄かったから。 ・H・Pの方がやりがいを感じたから。

・いまいち身にならない気がした。 ・H・Pの方が現実的な取り組みができる。

以上の結果により、今回の「まちづくり」による「課題解決型学習」は、一応の成

果が見られたと判断した。

さらに、この「課題解決型学習」の評価について触れておきたい。

授業者にとって、149 名の授業を指導し、基礎科目でペーパー試験を実施せずに長

い2学期の評価を出したことは、初めての経験であった。見通しの甘さに反省すべき

点がかなり多い。生徒の感想にも、「一度はテストを入れるべきだったのでは。」と書

いた者も数名いたが、殆どの生徒は「テストなし」を歓迎していた。暗記力だけで評

価されないことは、「まちづくりの提案」への取り組み意識を刺激した。

2 学期の 終的な評価をどのように算出したかは、以下の通りである。教師の主観だ

けで評価しないことを心掛けた。

[表5 ] 2学期の評価方法 <提出物>25点満点

a) 夏休み課題(「住生活」の課題を探そう:新聞記事探し) /10 点

b) 調理実習まとめ(ノート提出)2 回分で /10 点

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c) 2学期前半の自己評価表と平常点 /5 点

<まちづくり>100点満点

d) 発表会の生徒の評価 /35 点+教師の評価(「評価のポイント」のとおり) /35 点

e) 根拠となるデータの量と質(調べ学習の成果を含む) /10 点

f) グループへの貢献度・やる気・一人での頑張り /10 点

g) 各ワークシート、学習記録、発表会評価表などの提出状況・ポートフォリオ /10 点

上記の合計を 100 点満点で換算し、65 点前後の平均点となるようにした。2学期も

1学期に続いて、全員合格点(35 点以上)を出した。「根拠」となるデータが上手く提

示できなかったグループは、生徒同士の評価も低く、思いつきだけでは説得力が弱い

ことを、発表会によって学んだようである。もちろん同一グループ内の d)の評価はメ

ンバー全員が同じ点数とした。ただし、グループへの貢献度や、一人でも黙々と努力

したものには f)で加点、減点した。

「ポートフォリオ評価」については手探りであり、これまでの学習の経過が整理さ

れているかを評価した。これに関しては、保護者や教職員を巻き込んで、評価や意見

を集める取り組みを考えていたが、そこまでは実施できなかった。

終りに、一連の「課題解決型学習」について課題となる点をまとめて考察した。

(1)「課題」を設定する際の手立て

「課題」設定については、「課題解決力」において入り口となる関門である。

今回の実践において重視したのは「問題意識を育てる」ということである。しかし、

慎重になり過ぎ、時間の無駄が出てしまったのでこれに注意して次回は取り組みたい。

特に「テーマ見つけチャート」は導入部で行い、住生活領域学習終了後にイメージの

広がりを比較することも念頭に入れるべきであった。

(2)「調べ学習」を充実させる手立て

「調べ学習」の場である図書室は、学校においては重要な学習環境の一つである。

活字離れが深刻な課題となっているが、C高等学校では、朝のSHR前の 10 分間を「朝

読書」の時間に設定している。一切の図書管理とアドバイスを担当する「司書」の存

在は大きく、常に近隣の高等学校や公立図書館と連携し、必要な資料を集めてくれる

協力なしでは、「調べ学習」は成功しない。さらに、インターネットによる検索システ

5151

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ムとの共存を、より充実した形で整える必要もある。

(3)「まちづくりの提案」をまとめる合意形成への手立て

多様な考えを吸い上げ、合意へ導く手法は、総合的学習や生涯学習などの場で「ワ

ークショップ型(参加型)の学習」として展開されている。これを授業に取り入れる

ことも意義あることである。今回の授業では、1学期に「ブレーンストーミング」や

「KJ 法」を取り入れた。このような学びをリードする「ファシリテーター」の役割を

これからの教師は担う必要があるし、積極的にこの手法を学ぶ機会を求めたい。

また、生徒たちの「まちづくりの提案」を無駄にしないために、何らかの形でまと

め、社会の評価を受けさせてやりたい。未完成でも、不十分でも、精一杯やったもの

には、それなりの反響があることを 後に生徒に伝えたい。提案をまとめて授業を終

わることは、課題解決の手応えが得られず、言いっ放しで良いのかという批判もある。

直ぐには解決不可能でも、取り組むことに意義を見出し、「オープンエンド」を積み重

ねる中から優れた提案が生まれる可能性を信じたい。

(4)「生活者」の視点を入れる意義について

「まちづくり」の取り組みは、全国至る所であらゆる年代層で、あるいは多様なセ

クターで盛んに取り組まれている。この授業について他教科からは「単位数の少ない

「家庭科」で、敢えて取り上げなくても」と、アドバイスをもらったこともあった。

しかし、この国が経済優先で走り回って来たことの結果が、今の社会問題の数々に

繋がっていることは明白である。それは経済活動そのものを否定する訳ではなく、消

費者や生活者の視点を軽く扱い過ぎて来た、という結果ではないだろうか。つまり、

これまで多様な価値を認め合意形成に工夫と努力を重ね、バランスの取れた真の「公

共」や「公益」に対して思考を重ねて来なかった為とも言えよう。

これからは、「持続可能な低炭素社会」の範囲内で、地域に根差した活動と、仕事を

両立できるような、真の「ゆとり」ある「暮らし」、「ワーク・ライフ・バランス社会」

の形成が必要である。その視点を開かせるために家庭科教育がやるべきことは、大き

な意義がある。「観光客だけのためにまちづくりを考えるのはおかしい」と感想を書い

た生徒に、自信を持って発言できる力をつけることも重要な課題である。

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(5)生徒の「本音」とどう付き合うか

「一人一人の我儘に付き合っていたのでは収集がつかなくなる。」という言葉は、良

く教師が使う言葉である。だが、この言葉を言い訳に、よりよい授業づくりの 大の

パートナーの口を塞いで、自己流を極めても教師の成長は望めない。むしろ双方向の

議論ができる関係づくりに集中したい。そのことを改めて気付かせてくれた生徒たち

の「本音コーナー」の言葉を、今後も大切にしていきたい。

2 次年度の改善点

以上の授業実践と課題意識に基づき、次年度への改善点をまとめておきたい。

まず、授業後のアンケートに現れた、「次年度への改善点」に提案されたものの中か

ら「前向きな改善点」を整理してみたい。( )内は同一の意見を書いた人数である。

・何のためにやっているのかをもっと説明したら、みんな取り組みやすいと思う。

・フィールドワークはとても良かったが、時間をもっと取って欲しい。(4)

・フィールドワークをやれないクラスがあるのはおかしい。 ・調べる時間がもう少し欲しかった。

・フィールドワークから同じ班で取り組むべき。1学期から始めるべき。 ・締まりが必要。

・もっと計画的に考えてからやるべき。(2) ・もっと行動した方がいい。 ・感想を書くことが多すぎる。

・まとめるじかんが短くてたいへんだった。レポート作りの時間をもっと増やして。

・流れを分かりやすくプリントにまとめてもらいたかった。次にやることが分からないことがあった。

・説明は短く、率直に、分かりやすく。 ・生徒に対してもっと厳しく。 ・プリントが多い。

・黒板にまとめて、ノートを取らせる。(集中度アップ、私語が減る。)(2)

・こういう授業は2年時にやるべきでは?

・グループで協力しない人がいる。 ・調べ学習を計画的にやるべき。 ・テスト前後の課題提出は大変。

・グループは途中で変えない方がよい。・個人でやる方が自分の考えをまとめやすい。

・ひとつの課題を長くやることも、色々な課題に取り組むことも必要だと思う。

・もっと調べ学習や調理実習を増やせば実践的な力がつくと思う。 ・地域のお年寄りの話も聞くべき。

・生徒がうるさい時にそのまま流さずしっかり怒ったほうがいいと思う。先生は優しいので生徒もゆっくりしちゃ

うときもあるので、怒るときは怒って生徒と向き合ってください。まー、自分が言うのもなんですが、これからも

頑張ってください。

このような温かい批判を無駄にせず、次年度の授業に生かしていきたい。

*「領域」の枠を超えたテーマ設定

この度は「住生活」を取り上げたが、他領域でも様々な題材が考えられる。例をあ

げるとすれば、「食糧輸入・自給率と農業」「輸入衣料と不要衣類」「安全でおいしい水

を確保するには」「生活排水から水環境保全を考える」「車社会と環境問題」などが考

えられる。

5353

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総合科学を自負する家庭科は、すべての教科指導の土台であり、すべての教科の力

を、実生活や人生に生かす応用力を鍛える教科でもある。今後はこの利点を生かし、

他教科との連携を試みてみたい。その際も「生活者の視点」でクリティカルに「学び」

を創造できる力を持ちたい。さらに家庭科から発信できるものを見極めることを目指

した、指導内容の見直しが必要である。

*指導計画の再編

以上のような反省・考察を基に、次年度に向けた指導計画を練り直した結果は以下

の通りであり、テーマは「高齢者・子ども・すべての人のためのまちづくり」である。

これまでの教師としての経験において、自分なりに確立してきた授業のパターンを大

きく一度崩してみて、見えて来たことや生徒たちからの声を頼りに、次の一歩を踏み

出したいと考える。

さらに、住生活と他の領域(特に高齢者・子ども)を「まちづくり」に取り入れた

授業の実施時期を3年の1学期からスタートし2学期前半ぐらいまでに終了するよう

な計画にしたい。次年度の中心的課題としては、地域・保護者・他教科との連携、評

価のあり方の検討などである。

[表6 ] (1)住生活の現状と課題―4時間

①住生活アンケート・ Introduction クイズ

②来年、どこでどんな風に暮らしていたい?<一人暮らしのアパート探し(VTR学習)>

②人間にとって「住まい」とは何か<世界の住居(VTR学習)>

③居住の権利を考える

④自然環境への適応・共生<エコロジーハウス(VTR学習)>

(2)地域の生活課題を問う(高齢者・子ども・すべての人のためのまちづくり) ―12時間

①グループ編成・仮テーマの設定 テーマ見つけチャート・理想の「まち」には何が必要?(2時間)

②フィールドワーク実施計画 (2)

③フィールドワーク実施(2)とまとめ(1)

⑤地域のあの人にヒアリング (2)

⑥まちづくりの提案 (レポート作成 ) (6)

(3)発表とまとめ ―3 時間

5454

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おわりに

(1)「課題解決力」の育成に必要なもの

本稿において追求してきたことの中心課題は、高校家庭科教育における「課題解決

力」を育む指導方法はどうあるべきかについてであった。

まず、「課題解決力」の中身について、具体的に挙げれば、第3章の授業実践後の生

徒アンケートに列挙した、「批判的に考える力」「調べる力」「話し合う力」「人の考え

を聞く力」「実際に見て、聞いて感じる力」「課題を見つける力」「要点をまとめる力」

「根拠をもって提案する力」「発表する力」「他教科で学んだ力を生かす力」ではない

だろうか。

これらの力を育むために、可能な限りの参加型の授業を取り入れ、生徒と共に考え

ながら前進できるものに変えることができた。この一連の取り組みに参加した高校3

年生は、進路決定の重要な時期にも関わらず、殆ど居眠り、雑談、他教科の宿題など

に陥らず、前向きな態度で取り組んでくれた。

本研究で明らかになったことは、以下の六点に絞られるだろう。

第一に、「HP」が日本では戦後に導入され、家庭科教育において重要な教育方法と

して扱われてきたことを明らかにしたことである。歴史に学ぶことは今を問い直す重

大な作業であった。

第二に、現在の「HP」の指導上の課題を確かめ、困難にしている背景を検討した。

長年継続されることにはそれなりの理由がある。しかしその変化の歴史に学びながら、

何を引き継ぎ、何を変えていくべきか、課題に気づいた者から問いかける必要がある。

それが歴史を創る作業の原点であろう。その初めには何よりも実態を確かめる作業が

不可欠であった。

第三は、課題解決型学習論を概観し、特に「問題」と「課題」の違いについては整

理されずに殆ど違わない意味合いで使われていることが分かった。その上でむしろ、

21 世紀に求められる「学力」論議は盛んに行われていることを垣間見ることになった。

第四は、家庭科教育に「課題解決型学習」を取り入れる際に参考となる先行的な授

業実践を整理した。他教科と重なる部分を、協働の種に変えて共に追及できる可能性

を探りたい。また、家庭や地域の人々の協力を得ながら、暮らしを問い、生徒たちの

心を揺さぶる授業によって主体的に社会に参画する意欲を育てたい。

5555

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第五は、「課題解決型学習」が現在の教育現場にどの程度浸透しているのかを明らか

にするため、山形県内の高校家庭科教師全員にアンケート調査を実施した。多くの家

庭科教師が「課題解決型の学習」の必要性を自覚しながらも、従来のような HP には

取り組む時間が足りないと考え、新しいやり方を模索していることを感じ取る結果と

なった。

以上の研究の成果を土台として、第六に、「課題解決力」を育てることを目指して住

生活領域の授業実践を行い、生徒の実態や反応を分析・検討した。その結果、多くの

課題が浮き彫りにされたが、住まいの内と外の関わりについて学ぶことは、高校生に

とって有効な教材であるということを生徒の自己評価によって確かめることができた。

本稿で明らかにできたことは以上であるが、課題(わからなかったこと)もたくさ

ん残されている。その一つは、「課題解決型学習」で「課題解決力」がついたことを、

生徒による自己評価以外に、どのように判断し、分析できるのか、である。多様な評

価方法が提案されているが、詳しく検討できればと考える。

また、今回の授業実践のように、大がかりに設定しなくても領域によっては数時間

単位で学期に1度ぐらいの割合で「課題解決型学習」を設定できないか、学習内容と

学習方法の一致点をどのように高めていくかを追求したい。

さらに、基礎事項の精選と「課題解決型学習」における配置について明確にしてい

きたい。

後に「まちづくり」の提案を社会に問う試みも、次なる自分自身の「課題」とし

て考慮している。

(2)家庭科教育のめざすべき方向性

終りに、本稿第2章で実施した山形県内の高校家庭科教師へのアンケートについて、

触れておきたい。本論では、主題から外れることを考慮して省略した部分である。

日本家庭科教育学会では、2007 年に 50 周年を記念して、「高等学校男女必修の成果

と課題」について、家庭科教員を対象に全国調査を実施している。その中の「今後の

課題」に対する「自由記述」を参考に、具体的な選択肢を設け、 も重視すべき課題

を尋ねたところ、多くの家庭科教師が指摘したのは、「教師自身の教材研究の時間確保」

(70.2%)であった。以下、「教員配置の増員」(60.7%)、「2 単位の「家庭基礎」では

不足」(59.5%)である。

5656

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さらに、「今、緊急に取り組むべきことは何か」を自由記述で求めたところ、「家庭

科教師自身が取り組むべきこと」には、「授業の充実、教材研究、生徒の実態把握、研

修の時間確保」を求める前向きな言葉を、58 名中 41 名が記入していた。山形県内の

家庭科教師は前向きである。前向きに教科指導に取り組みたいと語り、現状において

精いっぱいのことをやっている。そのことは、このアンケートにも自明であり、アン

ケートに先駆け実施した予備調査でも、目の当たりにすることができた。

そして、教材研究の時間確保を七割以上の家庭科教師が求めていることを、本論の

後に記しておきたい。この国の教育に関わる全ての方々に重く受け止めていただき

たい。

家庭科教師は既にそのつもりはなくても、一般社会には古い技術教育や職業教育の

イメージを引き摺り、払拭しきれずにいる。男女必修を導入して 14 年を経ようとして

いる今こそ、その中で探ってきたものを洗い出し、家庭科の教育的価値を外に向かっ

て伝え続けなければならない。相手が誰であろうと、どんな教育を受け、どんな価値

観を持つ人であろうと、納得できる言葉を持たなければなければならない。

その伝え方を追求し続けなければならないことを、二年間の研修によって学ぶこと

ができた。それは、これまで家庭科教育に関わりの少なかった本学教授陣はじめ、出

会うことができた仲間たち、地域の人々、そして書物の中から語りかけてきた数々の

言葉との出会いによるものである。

今この国に生れ育つ子どもたちの「全面的な発達」を保障する教育を真剣に追求し

なければ、未来は来ないかもしれない。そうならないために、生活者・消費者として

の視点をすべての子どもが発達段階に応じて学ぶ必要がある。その土台があってこそ

他者の暮らしや文化を尊重し、共感し合える幅広いアイデンティティを備えた人材を

世に送り出すことができる。教育現場にある者は、日々これを感じている。そして、

せっかく授かった命を何歳になっても、精一杯輝かせて生き抜いて欲しいと願う。

そのために、自立して暮らすことの意味を理解し、政治や経済といった社会的な営

みにまで繋がりを見極め、「何が問題か」を発見し、主体的に変えていく力を備えた人

材を育てる必要がある。「個人的な問題は社会的な問題」である。両者を繋いで見通せ

るコーディネート力と行動力を備えたい。一時間毎の授業に集中と興奮のある授業を

創る授業力を追求したい。そしてその準備と振り返りを楽しめる仕事がしたい。

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無謀な挑戦に 後まで手を抜かず、厳しく導いていただいた、三原容子教授との出

会いは、多くを学び、自分に足りないものに気づくチャンスを与えられた。さらに、

教育者のあるべき姿を伝え、歴史に学ぶ体験の奥深さと、面白さに気付かせていただ

いたことにも、心からの感謝を申し上げます。

教育現場に戻ってから 1 年間、暗中模索の日々に付き合ってくれた酒田商業高等学

校の三年生 149 名の一人一人に、感謝とエールを送りたい。

職場の同僚、「サークル家庭科」の意欲溢れる仲間たち、そして仕事と研究の両立の

ために物心両面で常に支えてくれた家族にも、伝えきれない感謝の気持ちを捧げたい。

そして、この論文に何らかの動機で関心を持ち、手に取っていただけたすべての方

に、感謝を申し上げたい。

心から、ありがとうございました。 (2009/01/17)

5858

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