人工関節ドットコム これから先の人生を、 どう過ごしたいか 専 … ·...
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01 変形性膝関節症の原因、治療法などについて教えてください
Q1. �膝の痛みは加齢が原因なのですか ?膝関節の軟骨がすり減り、動くたびに痛みが出て、関節の変形が進んで行くのが変形性膝関節症です。特に日本人
では、膝関節の内側がすり減りO脚になりやすく、また女性に多いとされています。
60 歳以上の人はおよそ 80%の人になんらかの膝関節の変形があるといわれています。膝の変形が進むのは、加齢
に加えて、肥満や生活環境、仕事の環境、スポーツや外傷が誘因となると指摘されています。
これから先の人生を、どう過ごしたいか専門医に相談し治療法を探していきましょう
六本木 哲 先生医療法人愛仁会 太田総合病院 副院長
ドクタープロフィール東京慈恵会医科大学卒業資格:日本整形外科学会認定整形外科専門医、東京慈恵会医科大学整形外科講師(非常勤)、日本人工関節学会評議員、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本リハビリテーション医学会認定臨床医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本整形外科学会認定リハビリテーション医
人間、歩けなくなると、筋肉だけでなく全身の機能が衰えてしまいます。膝の痛みは歳だから仕方がないとあきらめないで、専門医の話を聞いてみませんか。「適切な時期に自分にあった治療法を選択してください。」と話す六本木 哲先生に膝の痛みの原因や治療法についてうかがいました。
変形性膝関節症の分類
Q2. �保存療法とはどのような治療ですか ?変形性膝関節症の治療は、基本的には保存療法が中心です。最も重要
なのが、大腿四頭筋の訓練と体重管理です。痛み止めの薬やヒアルロ
ン酸の注射などで痛みを抑えながら、できるだけ減量を試みるととも
に運動を行うように指導しています。
このような方法で筋肉を鍛え、痛みと上手に付き合うことが可能であ
れば、慌てて手術を行う必要はありません。その人のライフスパンを
考えて、今の状態で不自由がなければ、さまざまな保存療法を続けて
いただくようにしています。
Q3. �手術を考えるタイミングはあるのですか ?保存療法を続けても、痛みが改善せず生活に支障が出て困っていれば手術
を考えた方が良いと思います。一番の決め手は、日常生活のレベルがどの
くらい保たれているかということになります。例えば、買い物に行くのも
つらい、夜に寝ていても膝が痛いという状態だと手術を考えた方がいいか
もしれません。膝関節の変形の度合いによっては、将来、手術が必要にな
る可能性が高い場合もあります。手術をしないですめばそれが一番良いの
ですが、手術の必要がある場合は今後の人生を考え、積極的に考える必要
があると思います。
Q4. �手術にも種類があるそうですね ?比較的若い人でO脚があり、関節の内側だけが悪い場合には、
骨切り術という方法もあります。脛の骨に切り目を入れ、荷
重がかかる位置を変えてバランスを調整する、O脚をⅩ脚に
直すイメージの方法です。しかし、手術後に回復するまでに
時間がかかるということもあり、以前は積極的に行われてい
なかったのですが、最近は手術時に使う器具の改良や手術方
法が改良され術後の成績が向上し、再び脚光を浴びてきてい
ます。そのため 70 歳くらいまでの比較的若い方が、膝の内
側のみ悪いけど靭帯はしっかりしている場合は、骨切り術が
適応となるか思います。
さらに膝関節の変形がひどい場合には、痛んでいる表面をきれいに切除して、金属と軟骨の代わりとなるポリエチ
レンに置き換える人工膝関節置換術があります。以前は人工関節の耐用性に問題があり 65 歳以降で行っていまし
たが、人工関節そのものの性能が以前より改善され耐用年数が伸び、また手術方法も進歩したため 60 歳以前の人
に行う機会も増えています。さまざまな手術法がありますが、手術によって痛みが取れるだけでなく、入院期間中
の適切な食事量や塩分量により体重が軽減される人もいらっしゃいます。
ヒアルロン酸注射
変形性膝関節症のレントゲン
骨切り術
術前 術後
02 人工膝関節置換術について教えてください
Q1. 人工膝関節にも種類があるのですか ?膝関節の表面全てを人工のものに置き換えるのを、人工膝関節全置換術とい
います。それ以外に膝関節の変形がそれほど重症でなく、関節の内側だけが
すり減っていて、前十字靭帯や後十字靭帯はほとんど傷んでいない場合は、
傷んだ内側の部分だけを人工のものに替える部分置換術という方法もありま
す。部分置換術は全置換術に比べ侵襲が非常に少ない手術なので、患者さん
への負担も少なく、何より自分の靭帯などは温存するので手術後の膝の屈曲
角度が保たれます。それほど過激に動き回らないやや高齢の人で、まだ関節全部を取り換えるほど進行していない
という場合、最近は部分置換術を行うケースが増えてきています。このように人工膝関節置換術といっても、患者
さんの膝の状態や年齢によって選択肢があります。
Q2. �低侵襲手術やアライメントとはどういうことですか ?手術はできるだけ身体を傷つけない低侵襲な方法で行っています。そのため、膝を支え
る筋肉の 1 つである内側広筋(ないそくこうきん)という筋肉を切らないアプローチで
行っています。
しかし傷の大きさよりも一番大事なのは、きちんとしたアライメントを整え、正しい位
置に正しいバランスで人工関節をいれることです。また多くの施設では、セメントとい
われる医療用の接着剤で人工関節を固定するのですが、ほとんどのケースでセメントを
使わない方法で手術しています。セメントを使わないほうが、人工関節を入れた後に、
入れ替えをしないといけない事態が起こっても、土台となる骨の欠損が少なく、再置換
の手術が有利にできると考えています。
Q3. �感染を起こすことがあるのですか ?どんなにしっかり人工膝関節が入っても、感染が起こるケースは全くないとはいえません。
私達の施設でも最近の 10 年で 0.3%以下ですが、ゼロではありません。手術中においても感染予防になると考え
られることは労を惜しまずするようにしています。また、手術中の 1 つ 1 つの操作を丁寧かつ迅速に、こだわりを
もって行うことが重要と考えています。退院して長い年月がたってから感染が起こる場合もあるのですが、なぜ起
きるのか原因はよく分かっていません。必ずしも虫歯や原因になりそうな病気があるから、感染を起こすわけでは
ないのです。万が一、感染になったとしても、異変に早く気付けば、内視
鏡を使って洗浄するなどで対処でき、大事に至らない場合もあります。異
常はなるべく早く見つけることが大事ですので、異変を感じたらすぐに受
診するようにしてください。感染以外にも年月が経って、軟骨の役割をす
るポリエチレンがすり減り、人工膝関節が緩むということがあります。そ
のためにも定期的に受診いただき、人工関節の状態を確認することは大切
です。万が一、ポリエチレンがすり減ってきたりした場合、早期発見でき
れば部分的に新しいものに取り換えるだけで済む場合もあります。
人工関節部分置換術と全置換術
人工膝関節全置換術後のレントゲン(両側)
半置換 全置換
内側広筋
03 手術後のリハビリや退院してからの注意点を教えてください
Q1. どのくらいで退院できるのですか ?入院期間は平均 3 週間ですが、その間に行うリハビリが重要です。普通の
生活ができるように、例えば、自宅の玄関の段差を上がれるか、家の中の
動きはもちろん、外出も普通にできるように、そこを目指してリハビリを
していただいます。
もっとリハビリをしてから帰りたい人は、リハビリ病棟に移って、4 週間
くらい入院する人もいます。膝の曲がりが悪い人は、特にしっかりリハビ
リを続けてから帰っていただきます。退院後にも、自宅で行う練習方法を
指導しています。
Q2. 退院されてからはどのようなことをされていますか ?日本は超高齢化社会になっており、女性の 50%が 90 歳まで生きるといわれる時代です。
人工膝関節の耐用年数は向上しており、一度いれたら一生使える可能性は高いと思います。
しかし活動性など人によってまちまちですので、定期的に受診いただき人工関節の状態を
把握することが大切です。
退院後は転ばないように気を付けさえすれば、自分のやりたいことをしてください。ただ、
車の運転は、しばらく控えて。脚に力を入れてブレーキを踏めるようになったら運転も可
能です。強い衝撃が加わるようなスポーツはしないほうがいいのですが、日本では 75 歳でバレーボールやハンド
ボールの競技をやる人はそうたくさんはいないでしょうし、マラソンやトライアスロンをする人もいないと思いま
す。ゴルフやウオーキングを楽しむのはむしろ勧めています。
膝が悪くなったためにゴルフができなかった患者さんが、両膝を人工膝関節にし、手術後痛みがなくなって、ゴル
フを続けている方も数人います。
Q3. 膝の痛みに悩んでいる方へメッセージをお願いしますこの先、自分はどういう人生を送ってどういうレベルで生活をするかを、きちんと考え
てほしいと思います。今の状態だと将来、確実に車いすの生活になるけど手術は嫌だと
いうなら、仕方ないと思います。また、痛みはあるけど、痛みと上手く付き合っていく
ことができればそれも選択肢の一つだと思います。大事なのは自分がどのレベルを求め
ているのかです。
糖尿病や心臓の疾患がある人などのリスクがあっても、その持病が安定していれば人工
膝関節置換術を行うことができます。痛みなくどんどん歩けるようになると、全身の健
康状態も良くなっていきます。2足歩行をする人間は、平地をきちんと歩けることが基
本だと思います。歩けなくなると全身の機能が衰えるので、認知症が引き起こされることもあるかもしれません。
さまざまな選択肢はありますが、あくまでその人本人が主体となり、考えていただきたいと思います。
不安なことや分からないことがあれば、躊躇なく専門医に相談して下さい。
医師としても健康寿命の延伸を目指し、努力していきたいと思います。