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酵素分解したエラスチン由来ペプチド による血圧降下作用
国立大学法人九州工業大学
准教授 前田 衣織
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動脈硬化の薬物療法 ー薬物による危険因子の緩和ー
『病気がみえる vol. 2 』(メディックメディア社)より
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実用化されている血圧降下剤
〈血圧降下剤の種類〉
・血管を広げて血管の抵抗を少なくするタイプ
カルシウム拮抗薬、ARB、α遮断薬、
ACE阻害剤(血圧を上げる働きをするアンジ
オテンシン変換酵素の活性を阻害)
・心臓から送り出される血液量を減らすタイプ
利尿薬、β遮断薬
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従来のACE阻害剤とその問題点
・既に実用化されているACE阻害剤
カプトプリル、エナラプリル、アラセプリルなど
利点:降圧に加え臓器保護効果あり
問題点:いずれも有機合成化合物であり、
空咳、血管浮腫などの副作用を持つ
・ペプチド性のACE阻害剤は開発されていない
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新技術の基となる研究成果・技術
〈エラスチンとは?〉
• 生体内でコラーゲンに次いで多く存在するタンパク質
• 大動脈などの弾力性が必要とされる組織に分布
• 不溶性であるため研究が遅れている。
肺
大動脈 項靭帯
皮膚
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最近の報告
〈エラスチンの効果〉
• 動物由来の組織を可溶化した「水溶性エラスチン」をウサギに与えることで、動脈硬化の予防効果あり。
→健康食品としての可能性大
〈疑問?〉
• 水溶性エラスチンは分子量が1万以上と高分子であり、そのまま生体内で吸収されることはない。
• エラスチンがどのように生体内で分解され、利用されているのかは未解明。
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新技術の概要
① ブタ大動脈由来の組織より水溶性エラスチンを調製し、エラスターゼを用いることで低分子化の反応を行った。
② 酵素消化で得られた低分子のエラスチン由来ペプチド群について、動脈硬化の予防につながる血圧降下作用を検討した。
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害
→血圧降下
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エラスターゼによる水溶性エラスチンの分解
ブタ大動脈由来水溶性エラスチン
酵素分解反応
(37˚C-24時間)
Sep-Pak C18を用いた精製
(塩類の除去)
水溶性エラスチン分解物
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エラスターゼによる分解反応のようす
M 水溶性エラスチン
(Blank) (エラスターゼ処理)
0 h 24 h 3 h 6 h 24 h
97.4
66.2
42.4
30.0
20.1
14.4
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エラスターゼによる分解の収量及び収率
〈原料:ブタ由来水溶性エラスチン〉
1回目:18.8 mg→15.9 mg (84.6%)
2回目:45.8 mg→27.7 mg (60.5%)
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アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害実験
〈測定条件〉 • 測定温度: 37℃ • 反応系: 全量 3 ml (基質 2 ml + ACE 500 μ l +阻害剤 500 μ l) • Buffer: 0.2 M Tris-HCl pH 8.0 + 0.02 M NaCl • Enzyme: Rabbit ACE (sigma) 9 munit each assay • 基質濃度: 0.5 ppm • 阻害剤濃度: 3 mg/mlを500 μ l加える(0.5 mg/1 ml)
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水溶性エラスチン分解物によるACE阻害
-5
0
5
10
15
20
25
0 200 400 600 800
時間[秒]
Std
水溶性エラスチン
分解物
蛍光変化量
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水溶性エラスチン分解物によるACE阻害
0
20
40
60
80
100
120
1 2 3 Blank 水溶性エラスチン 水溶性エラスチン分解物
比A
CE活性
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まとめ
① ブタ大動脈由来の組織より水溶性エラス
チンを調製し、エラスターゼを用いた分解反応
により、エラスチンの低分子化処理を行った。
② 水溶性エラスチン及びその分解物はアンジオ
テンシン変換酵素(ACE)の活性を阻害した。
→血圧の低下に寄与
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今後の予定
• 各種酵素(プロテアーゼ)を用いて、水溶性エラスチンを効率的、量的に酵素処理する方法の検討を行う。
• 水溶性エラスチン分解物の中で、血圧降下作用を有するペプチドを単離・精製し構造を決定する。
新規な機能性食品・薬剤への応用
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実用化に向けた課題
• 今回、水溶性エラスチンを酵素消化し、その分解物がACE阻害能(血圧降下作用)をもつことを発明した。しかし、どの分解物(ペプチド)がその作用をもつかについては未明である。
• 今後、水溶性エラスチン分解物をHPLCで分離するなどの操作を行い、どのペプチドが生体に有効な作用をもつかを探索する必要がある。
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企業への期待
• ACE阻害能(血圧降下作用)をもつ水溶性エラスチンの分解物の調製方法を発明した。食品由来の材料であるため、生体に対して安全
⇨健康食品として利用
• 未解決の生理活性ペプチドの同定については、ペプチドやタンパク質を高度に分離、精製することのできる技術を持つ、企業との共同研究を希望。
⇨有効なペプチドを合成し、医薬品として利用
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想定される用途と業界
①利用者・対象
高血圧を治療及び予防する人
(動脈硬化の予防を目的とする健康食品などを
開発中の企業には、本技術が有効と思われる。)
②市場規模
高血圧症治療薬市場:
2018年には世界規模で1兆400億円 (富士経済)
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エラスチンの効用
〈エラスチンの効果〉
• 水溶性エラスチンをウサギに与えると動脈硬化の予防効果あり。
• エラスチンを摂取することで肌の弾性が向上する。
日本食品科学工学誌(2011年)、日本ハム
健康雑誌『わかさ』(2011年)、岡元孝二ら
→健康食品としての可能性大
〈課題〉
• 材料調製のためのコスト及び時間
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総合健康食品としてのエラスチンの利用
エラスチン
酵素分解
エラスチン分解物
ACE阻害
コレステロール低下
血管機能向上
それぞれの活性を示すペプチドの探索
+α ?
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本技術に関する知的財産権
〈特許出願中〉
• 発明の名称 :
アンジオテンシン変換酵素阻害剤およびその用途
• 出願番号 :特願2010-201353
• 出願人 :九州工業大学
• 発明者 :前田 衣織