高大接続改革シンポジウム分科会 教科レポート 地理歴史・公民 · 出...
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はじめに
地理歴史および公民は、人の営みに関わることを学ぶ教科であり、人と社会とのつながりについて主体的に考
え、行動できるようにすることを学習目標としている。このことは、現行学習指導要領が策定されるにあたって
示された基本方針の中で、「社会的事象に関心をもって多面的・多角的に考察し、公正に判断する能力と態度を
養」うことと、「社会的な見方や考え方を成長させる」という表現で明示されている。
「社会的事象に関心をもって多面的・多角的に考察」とは、ある時代、もしくはある国や地域で起きているこ
とに着目したり、さらには起きていることの相互関係や特質に着目するなど、さまざまなアプローチが考えられ、
それが歴史や地理、現代社会や倫理、政経といった各科目の特性となる。もちろん、これらの事象について自分
なりに客観的な解釈を見出すことや、現在の自分および身近に起こる課題として置き換えて考えられるようにな
ることが重要という点は、共通である。そして「公正に判断する能力と態度を養」い、「社会的な見方や考え方
を成長させる」ためには、知識や技能が必要であることや、これらの学びを通じて思考力・判断力・表現力が育
成されるのは、いうまでもないだろう。
高大接続システム改革会議「最終報告」(2016年3月31日公表/以下「最終報告」という。)において、「複
数の情報を統合し構造化して新しい考えをまとめる思考・判断の能力や、その過程や結果を表現する能力は、今
後、社会のどのような分野においても主体性を持って活動し、活躍するために特に重要」ということが述べられ
ているが、これらは上記で述べた地歴・公民の思考力・判断力・表現力と同義である。言い換えれば今回示され
た能力は、本来、地歴・公民の教科で学ぶ際に最も必要な能力なのである。
以上をふまえ、本シンポジウムでは、地歴・公民の各科目の特性に触れつつ、2015年7月のシンポジウムで
「汎用的な思考力・判断力・表現力」として提示した項目(下図) に照らしながら、各サンプル問題をご紹介
した。
大学入学希望者学力評価テスト(仮称)マークシート式問題イメージ例より
文部科学省は、2016年2月17日に「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」(以下「学力評価テスト」とい
う。)で評価すべき能力とマークシート式の問題イメージ例を公表した。
世界史の問題イメージ<例3>は、歴史資料をよみとき、複数の歴史事象を関連付けながら、多面的・多角的
に考察して仮説を設定し、論拠に基づいてその適否を判断する問題であった。
既存の問題とは以下のような観点で異なると述べられている。
①異なる地域の長期変動に関する歴史資料をよみといたうえで、関連する出来事を多面的・多角的に考
察する必要がある点。また、正答選択肢が一つに限られず、複数存在する点。(問1・問2)
②歴史的事象に関する仮説を立てて話し合う場面において、その仮説を裏付ける論拠を問う点。(問3
・問4)
参考:【文部科学省】高大接続システム改革会議(第11回)配布資料 資料3-2 P.24~31
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/033/shiryo/1367231.htm)
高大接続改革シンポジウム分科会 教科レポート 地理歴史・公民
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世界史Ⅰ. 既存入試にみる「思考力・判断力・表現力を測る問題」とは
大学入試センター試験(以下「センター試験」という。)世界史Bは、用語そのものの判定ではなく、その
内容を判定させる問題など、単純な用語暗記では対処できない問題を従来から多く出題している。
また、国公立大二次試験や一部の私立大入試では、思考力・判断力を必要とする問題が増加しており、論述
問題や一部の記述問題では、高度の表現力を必要とする。
サンプル問題 No.1
テーマ:イギリスにおける立憲王政の確立
出 典:2016年度大学入試センター試験(本試)世界史B 第2問
問題概要:
年表を使っているので、「イギリスで立憲王政が確立した」年の暗記を求めているようにみえるが、そう
ではない。どの事象をもって「イギリスで立憲王政が確立した」とするのかを考えたうえで、それが年表の
どの時期にあたるのかを判断すればよい。オラニエ公ウィレム夫妻が、議会の提出した「権利の宣言」を承
認してウィリアム3世・メアリ2世として即位し、その後、「権利の宣言」を「権利の章典」として発布す
ることで、イギリス立憲王政が確立するという一般的な歴史の流れから考える。
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Ⅱ. 大学入学希望者学力評価テスト(仮称) 教科・科目型問題
本シンポジウムでは、学力評価テストでどのような出題の可能性が考えられるのかを複数のサンプル問題とと
もにご紹介した。ここでは、センター試験問題を改作したサンプル問題をご紹介する。
サンプル問題 No.2
テーマ:ヨーロッパ各国の軍事費の推移
出 典:2000年度大学入試センター試験(本試)世界史B 第1問 問4を改題
問題概要・コメント:
帝国主義時代におけるヨーロッパ各国の軍事費の推移を示したグラフを読み取って、それぞれのグラフが
どの国を示したものであるかを思考し、判断させる。そのうえで、Iでは、軍事費増減の要因や背景となる
当時の政治・社会の動きを正しく選択させる。Ⅱでは、さらに発展させて、軍事費の推移が歴史を動かす一
因となったことを理解させる会話体の文章を読んだうえで、関連する歴史的事象を選択させる。
Iではグラフと歴史上の出来事との関係を、Ⅱでは歴史上の出来事と政策の因果関係を考察しなければな
らない。
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日本史Ⅰ. 既存入試にみる「思考力・判断力・表現力を測る問題」とは
センター試験日本史Bでは、「最終報告」が「マークシート式問題の改善」に際しての留意点として掲げる、
「複数のテキストや資料を提示し、必要な情報を組み合わせ思考・判断させる」、即ち「思考力・判断力」を必要と
する問題を従来から少なからず出題している。歴史用語の丸暗記では対処できない問題を作成するには、図版・
地図・グラフ・表・文献史料など資料を利用するのが有効であると思われるが、2006年度以降、とくに資料を利
用する傾向が強く出ている。また、資料は使っていないが、歴史的因果関係を問う、即ち「歴史的思考力」を必要
とする年代配列問題も出題されている。
私立大入試は単語の丸暗記で対応できそうな印象があるが、実はそうではない。資・史料問題では資・史料に
対する読解力・判断力が、正誤問題や年代配列問題では理解力・判断力が必要とされる問題が多く、一部短文記
述問題や論述問題では表現力が要求される。また、国公立二次では、思考力・判断力を必要とする問題がほとん
どであり、その多くは論述問題で、高度な表現力が必要とされる。
サンプル問題 No.1
テーマ:1929年から1934年にかけての時期の日本経済の特徴
出 典:2010年度大学入試センター試験(本試)日本史B 第6問
問題概要:
1929年~34年の時期の日本経済の特徴を、ジャンルが異なる3種類の指数を示した表を用いて問うている。
a・bは事実関係を中心に扱っているが、c・dは数字の変化から「影響」の有無を問うており、思考力・
判断力が必要な問題となっている。
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Ⅱ. 大学入学希望者学力評価テスト(仮称) 教科・科目型問題
本シンポジウムでは、学力評価テストでどのような出題の可能性が考えられるのかを複数のサンプル問題とともにご紹介した。ここでは、国立大二次試験の記述問題を記号選択式に改作したサンプル問題をご紹介する。
サンプル問題 No.2
テーマ:近現代の日本における食生活の変化と20 歳男子の平均身長の推移
出 典:2015年度千葉大学 前期日程 改作
問題概要:
日本人の食生活の変化と平均身長の推移との相関関係をグラフと図を用いて考察させる問題を、ここでは
記号選択式に改作した。まず、問1で情報の読み取りや考察の方法を体験させた上で、問2では、戦中・戦
後の時代状況についての知識を前提に、参考文の文脈に沿わせる形で図1・図2の読み取りとそれに対する
考察を求めた。
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地 理Ⅰ. 既存入試にみる「思考力・判断力・表現力を測る問題」とは
地理は、自然環境と人間生活の両面から地域の特徴を捉える教科であり、自然環境の理解には理科的な知識
と技能が求められ、人間生活の理解には歴史的背景の知識も必要となる。また地域の特徴を理解するために地
図や統計を多用し、さまざまな事象を地図やグラフなどを使って表現することも多いため、これらを的確に使
いこなすスキル(地理的技能)も求められる。
入試問題でも、受験生にとっては初めて目にするような図表を用いた問題も少なくないが、このような場合
には、与えられた情報から図が何を示しているかを的確に読み取ることが必要である。図表の判読などの地理
的技能に関する問題は、単なる経験値によるスキルではなく、思考力そのものが試されており、これまでのセ
ンター試験でも多く出題されてきた。
また、「最終報告」では、マークシート式問題の一層の改善を図るとしており、その際の留意点として、い
くつかの項目を挙げているが、「問題に取り組むプロセスにも解答者の判断を要する部分が含まれるよう工夫
すること」、「複数のテキストや資料を提示し、必要な情報を組み合わせ思考・判断させること」といった工
夫は、すでに国公立大の二次試験の記述式(論述式)問題でさまざまな取り組みがなされており、こうした内
容がマークシート式でどこまで可能なのか、次項で検討してみた。
サンプル問題 No.1
テーマ:アフリカ大陸の降水量の季節変化
出 典:1997年度大学入試センター試験(本試)地理B 第5問 問2
問題概要・コメント:
アフリカ大陸を東西または南北に並ぶ13の観測地点について、縦軸に地点、横軸に月別降水量をとった等
値線図で示し、コースを判定する。
図2は縦軸に地点、横軸に月をとった等値線図(アイソプレスグラフ)で、教科書には掲載されておらず、
多くの受験生には初めて目にする図である。グラフの読み取りのポイントを的確に判断する力が求められる。
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Ⅱ. 大学入学希望者学力評価テスト(仮称) 教科・科目型問題
本シンポジウムでは、学力評価テストでどのような出題の可能性が考えられるのかを複数のサンプル問題とともにご紹介した。ここでは、センター試験の問題を改作したサンプル問題をご紹介する。
サンプル問題 No.2
テーマ:世界の自然災害
出 典:2016年度大学入試センター試験(本試)地理B 第1問(改題)
問題概要・コメント:
世界の地震について震源の分布とその深さをプレートテクトニクスと関連づけて判定するとともに、各地
で起こった地震災害の内容を選択する。さまざまな火山災害を考え、先進国と発展途上国における被害状況
の違いをその根拠とともに示す。火山の恩恵を多面的にとらえる。
この問題は、センター試験問題を、学力評価テストの「世界史のマークシート式問題イメージ例」の形式
に合わせ、「連動型複数選択問題(仮称)」や会話文形式を取り入れて改作したものである。地震や火山活
動という自然現象が災害につながるかどうかは、人の営みとも関わるもので、同じ現象であっても災害の規
模は異なる。センター試験でとられてきた「一つ選べ」に比べ、解答がいくつあるかわからない「すべて選
べ」は選択肢からすべての可能性を検討する必要があり、難易度は高くなる傾向がある。
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現代社会、倫理、政治・経済Ⅰ. 既存入試にみる「思考力・判断力・表現力を測る問題」とは
「最終報告」で示されている、学力評価テストの「具体的な仕組み」や、個別大学における入学者選抜の「
基本的な考え方」で述べられているタイプの設問は、現行のセンター試験においても出題されている。本シン
ポジウムの冊子では、それらを以下の5つに分類してご紹介した。
①公民的思考力を測る設問
②学習内容を日常生活と結びつけて考える設問
③資料を活用する設問
④複数の段階にわたる判断を要する問題
⑤ディベートなどを想定しうる設問
ここでは、⑤ディベートなどを想定しうる設問について、サンプル問題を紹介する。
サンプル問題 No.1
テーマ:原子力発電をめぐるディベート
出 典:2009年度大学入試センター試験(追試)現代社会 第5問
問題概要・コメント:
ディベートにおける賛成意見と反対意見を分類させる設問。ア~オはいずれも、一つの意見としては筋が
通っていて、誰もが異論のないような形で当否を判別することはできない性質のものであろう。
この設問では、これを肯定論と否定論とに区分するわけだが、ディベートにおいては相手が何を主張して
いるのかを客観的に判断し、議論の前提としなければならない。すなわち、相手の意見を勝手にすり替えて
的外れな反論をすることは不適切であるし、自分の意見が明確ではなかったり、たとえば否定陣営にいるの
に肯定論を展開してしまうことも不適切である。その点からすれば、合理的・客観的に肯定論と否定論を区
分することは、必要な能力である。
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Ⅱ. 大学入学希望者学力評価テスト(仮称) 教科・科目型問題
「最終報告」ではこれまでと異なった形式の設問についても触れられている。具体的には、「正解が一つに限
られない問題とすること」や「連動型複数選択問題(仮称)」の採用などである。
本シンポジウムの冊子では、そうした形式の設問として、現行のマークシート多肢選択式を前提としながら、
どのような出題の可能性が考えられるのかを、以下の3つの観点からサンプル問題とともに検討した。
①正解が一つに限られない問題
②連動型複数選択問題(仮称)
③複数の段階にわたる判断を要する問題
ここでは、①~③の要素を組み合わせて河合塾が試作したサンプル問題をご紹介する。
サンプル問題 No.2
テーマ:需要供給曲線
出 典:河合塾作成
問題概要・コメント:
需要供給曲線の使い方を試す設問。このサンプルではどのような条件が均衡価格(それに相当するもの)
を引き上げるのかということについて、均衡価格上昇という結論に至る理由にあたる、いわば需給曲線の移
動の「前段階」から順序立てて判断することを求めている。また、「最終報告」に掲げられていた「連動型
複数選択問題(仮称)」を意識して、複数の正解が成立するように作成した。
解答を求めるポイントを複数にしていくつもの解答の組合せが考えられるようにしたという点では、形式
的な目新しさはあるが、どのような場合に均衡価格が上昇するかという設問自体は定番の問題であり、試さ
れている知識・技能・理解度そのものに新しい事柄が発生しているというわけではない。ただ、このサンプ
ル問題は任意の一つの組合せを解答する形式で作成したが、これをたとえば「すべての組合せを解答せよ」
という指示にしたとすれば、受験生の負担はきわめて大きなものとなり、それに伴って難易度も格段に高く
なると考えられる。
なお、今回は経済理論を取り上げたが、経済ではさまざまな要因が複雑に絡み合っていることが常である
ことから、はたしてこのような形式で「正しい/正しくない」を一意的に確定できるのかという懸念もある。
今回は試作としてイメージを示したものであるが、解答として例示したもの以外にも、いわば「風が吹けば
桶屋が儲かる」的な関係から、「成り立たないこともないわけではない」組合せが発生してしまう可能性も
あろう。作問および採点の上で、同様の問題が生じる可能性もありえよう。
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