高等学校外国語科における 「書くこと」の学習指導...

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研究紀要第279号 G9-03 高等学校外国語科における 「書くこと」の学習指導の工夫 に関する研究 平 成 19 年 1 月 岡山県教育センター

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研究紀要第279号

G9-03

高等学校外国語科における

「書くこと」の学習指導の工夫

に関する研究

平 成 19 年 1 月

岡山県教育センター

研究紀要第二七九号

高等学校外国語科における「書くこと」の学習指導の工夫に関する研究

平成十九年一月

岡山県教育センター

Page 2: 高等学校外国語科における 「書くこと」の学習指導 …...「書くこと」の学習指導に関する課題を整理した上で,情報や自分の考えなどを,場面や目的に

ま え が き

平成17年10月,中央教育審議会から「新しい時代の義務教育を創造する」(答申)が出されまし

た。この答申では,学校の教育力である「学校力」を強化し,「教師力」を強化し,それを通して

子どもたちの「人間力」を豊かに育てることが改革の目標とされています。また,目標設定とその

実現のための基盤整備を国の責任で行った上で,市区町村・学校の権限と責任を拡大する分権改革

を進めるとともに,教育の結果の検証を国の責任で行い,義務教育の質を保証する構造に改革すべ

きであると示されています。入口と出口は国が責任を持ち,プロセスは各学校などに任されること

になり,学校の責任と権限がこれまで以上に拡大します。このような大きな改革の中で,私たち教

師一人一人の資質・能力を高めていくことが求められています。

岡山県教育センターでは,教育に関する専門的,技術的事項の調査研究,教育関係職員の研修,

教育相談,教育情報の収集・蓄積・発信等の諸事業を通して,教師の資質向上を図るとともに,学

校教育の支援を行っています。このうち,調査研究においては,国の教育改革の動向と本県の教育

課題を踏まえ,幾つかの研究主題を設定して共同研究と個人研究を行っています。共同研究では,

大学等の先生方の指導,助言のもと,学校の先生方を協力委員として委嘱し,複数の所員で研究に

当たっています。また,個人研究では,所員一人一人が研究主題を設定し,協力委員の先生方と共

に研究を行っており,所員研究成果発表会やWebページ等により,研究成果の提供と普及に努め

ているところです。

さて,「平成14年度 高等学校教育課程実施状況調査報告書」(文部科学省)において,外国語

科の課題として,「短い文は書けるが,内容的にまとまりのある一貫した文章を書く力が不十分」

であることが指摘されています。

本研究では,高等学校外国語科における「書くこと」の学習指導において,外国語の文字による

「実践的コミュニケーション能力」を育成する外国語の授業改善の方向を探り,学習指導の工夫・

改善に関する考え方や方法を,幾つかの事例を通して紹介しています。

御高覧の上,御意見,御批判をいただくとともに,学習指導要領の趣旨に沿う教育実践のための

資料として御活用いただければ幸いです。

終わりになりましたが,この研究を進めるに当たり,御協力をいただきました協力委員の先生方

並びに関係各位に厚くお礼申し上げます。

平成19年1月

岡山県教育センター所長

岡 部 初 江

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目 次

研究の要旨……………………………………………………………………………………………………1

Ⅰ はじめに…………………………………………………………………………………………………2

Ⅱ 研究の目的………………………………………………………………………………………………2

Ⅲ 研究の内容………………………………………………………………………………………………3

1 「書くこと」の学習指導の課題……………………………………………………………………3

2 「書くこと」の学習指導の特徴……………………………………………………………………4

(1) 和文英訳……………………………………………………………………………………………4

(2) 自由英作文…………………………………………………………………………………………5

3 「書くこと」の学習指導を改善するための留意点………………………………………………6

Ⅳ 「書くこと」の学習指導の改善………………………………………………………………………8

Ⅴ 実践事例について………………………………………………………………………………………8

1 実践事例1……………………………………………………………………………………………8

2 実践事例2……………………………………………………………………………………………9

3 実践事例3……………………………………………………………………………………………9

《実践事例1》………………………………………………………………………………………………10

《実践事例2》………………………………………………………………………………………………16

《実践事例3》………………………………………………………………………………………………20

Ⅵ おわりに…………………………………………………………………………………………………24

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- 1 -

高 外国語

研究の要旨

高等学校外国語科における「書くこと」の学習指導の工夫に関する研究

○ 「書くこと」の学習指導の課題を整理

する。

○ 情報や考えなどを,場面や目的に応じ

て英語で書く力を伸ばすための学習指導

の工夫について提案する。

1 「書くこと」の学習指導の課題

2 「書くこと」の学習指導の特徴

(1) 和文英訳

(2) 自由英作文

3 「書くこと」の学習指導を改善するための留意点

4 「書くこと」の学習指導改善

研究の内容

マインドマッピングの活用と

誤りに対するフィードバック

「聞くこと」と「書くこと」

の関連付け

学校紹介のプレゼンテー

ションの作成

実践事例

研究の目的

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研究の概要

高等学校外国語科においては,実践的コミュニケーション能力を養うことが求められて

いる。しかし,情報や自分の考えなどを伝えるための「書くこと」の学習指導には,課題

が多く,その取り組みの難しさが指摘されている。

本研究では,実践的コミュニケーション能力を育成するという視点から「書くこと」に

ついての指導の工夫・改善を行い,実践事例として提案した。

キーワード 高等学校,外国語,実践的コミュニケーション能力,書くこと

Ⅰ はじめに

平成11年告示の高等学校学習指導要領(以下「学習指導要領」という。)の外国語科の目標に,

「情報や相手の意向などを理解したり自分の考えなどを表現したりする実践的コミュニケーション

能力を養う。」ことが示されている。実践的コミュニケーション能力とは,外国語の音声や文字を

使って実際にコミュニケーションを図ることができる能力のことである。また,外国語の必履修科

目の一つである英語Ⅰの目標には,「日常的な話題について,聞いたことや読んだことを理解し,

情報や考えなどを英語で話したり書いたりして伝える基礎的な能力を養う。」とある。つまり,高

等学校の外国語科では,情報や自分の考えなどを表現して伝えるために必要となる話したり書いた

りできる実践的な能力の育成が求められている。そして,そのための具体的な言語活動を,英語Ⅰ

では「聞いたり読んだりして得た情報や自分の考えなどについて,話し合ったり意見の交換をした

りする。」「聞いたり読んだりして得た情報や自分の考えなどについて,整理して書く。」のよう

に明示している 。1)

これに対して,中学校で実施される外国語の指導については,平成10年告示の中学校学習指導要

領で「聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を培う。」ことが目標とし

て示されており,中学校段階では,「聞くこと」及び「話すこと」による,音声によるコミュニケ

ーション能力の育成が重視されている 。実践的コミュニケーション能力の育成という点から考え2)

ると,「読むこと」及び「書くこと」については,「聞くこと」及び「話すこと」との関連を持た

せた指導を行うことが大切である。

つまり,高等学校では,中学校で音声によるコミュニケーション能力の育成を重視した指導を受

けてきた生徒に対して,音声によるコミュニケーション能力を更に伸長させると同時に,文字によ

るコミュニケーション能力の育成を図る必要がある。平成15年度小・中学校教育課程実施状況調査

における「トピック指定問題」において,まとまった内容の文章を書くことが弱く,前回の調査結

果と同様,無回答率が高いことが指摘されているように,外国語を使って,情報や相手の意向など

を理解したり自分の考えなどを表現したりして通じ合うことができる能力を育成するという視点か

ら「書くこと」の指導を見れば指導上の課題は多い 。3)

本研究では,実践的コミュニケーション能力の育成の視点から「書くこと」の学習指導に関する

課題を整理し,生徒の書く力の育成のための学習指導の工夫について,先行研究の成果を踏まえ,

実践授業を通して探ることにした。

Ⅱ 研究の目的

「書くこと」の学習指導に関する課題を整理した上で,情報や自分の考えなどを,場面や目的に

応じて英語で書く力を伸ばすための学習指導の工夫について,幾つかの授業実践事例を通して提案

する。

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Ⅲ 研究の内容

1 「書くこと」の学習指導の課題

ここでは,「書くこと」の学習指導の改善の手掛かりを得るために,平成14年度教育課程実施

状況調査(高等学校)で指摘された外国語に対する生徒や教師の意識,学習状況に関する課題を

整理する。

平成14年度に生徒の学習状況を把握するた

め,全国の高等学校約10万5千人の生徒を対

象とした調査(ペーパーテスト,アンケート

調査)が実施された。

この調査のアンケート調査で,「話されて

いる英語が聞き取れるようになる学習」「自

分の言いたいことが言えるようになる学習」

「教科書などに英語で書かれた内容が読み取

れるようになる学習」「自分の言いたいこと

が英語で書けるようになる学習」という四つの 図1 「書くこと」の調査結果(生徒)

設問に対する生徒の回答を見ると,いずれの設

問に対しても,「よく分からなかった」という

回答が「よく分かった」という回答を上回って

いる。すべての領域で英語の学習が生徒にとっ

て分かりにくいものとして受け取られているこ

とが分かる。特に,「書くこと」においては,

52.2%の生徒が「よく分からなかった」と回答

しており,その割合は他の領域に比べ最も大き

なものとなっている(図1)。

一方,教師の意識においても,「自分の言い

たいことが英語で書けるようになる学習」に関 図2 「書くこと」の調査結果(教師)

して,「生徒にとって理解しにくい」と回答し

た教師が59.2%に達しており,指導する側も実践的コミュニケーション能力の育成という視点で

「書くこと」を指導することの難しさを感じていることが分かる(図2)。

また,「書くこと」に関して,ペーパーテストの結果から,短い文は書けるが,内容的にまと

まりのある一貫した文章を書く力が不十分であることが指摘されている。特に,「トピック指定

問題」や「条件指定問題」のように,内容を表す表現を自分で考えることが求められる問題にお

いて,無回答であった生徒の割合が16%を超える結果となっている。この調査では,このような

結果を踏まえ,「書くこと」についての学習指導の改善のポイントとして,次の2点が挙げられ

ている 。4)

① あるテーマについて,幾つかの質問をしてその答えをつなげてパラグラフにまとめさせる

練習をさせたり,日本語で話し合った後,各自の考えをまとめて英語で表現させる指導をし

たり,読んだ教材をなどを題材にして,あらかじめ必要な語句や文の数を指定して感想文な

どの文章を書かせたりするなど,指導を充実させることが必要である。

② 話したり,書いたりする機会を十分に与え,話す力と同時に書く力を向上させることが必

要である。

自分の言いたいことが英語で書けるようになる学習

52.2

22.3

0 20 40 60 80 100

よく分からなかった

よく分かった

(%)

自分の言いたいことが英語で書けるようになる学習

59.2

8.6

0 20 40 60 80 100

理解しにくい

理解しやすい

(%)

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これらのことから,生徒にとって分かりにくく,教師にとって指導が難しい「書くこと」の指

導においては,自分の考えをまとめて書くことができるよう支援するとともに,書く機会を十分

に保障し,生徒が書く力を身に付けることができるよう具体的な学習指導を工夫する必要がある

と考える。

2 「書くこと」の学習活動の特徴

ここでは,「書くこと」の学習活動として用いられることが多い和文英訳と自由英作文を取り

上げ,それぞれの学習活動の特徴を整理し,学習指導の工夫を行う上で考慮すべき点を述べる。

(1) 和文英訳

昭和26年に告示された中学校・高等学校学習指導要領外国語科英語編Ⅰ(試案)の中で,「書

くこと」の言語活動として「ある国語で述べられている意味をそれにできるだけ近いかまたは無

理のない意味の他の国語に翻訳する」ことが示されて以来,和文英訳は「書くこと」の学習指導

において中心的な学習活動として存在してきた 。5)

小室ら(2001)は,この和文英訳について,次のような長所と短所を指摘している 。6)

【長所】

・既習の日本語の知識が活用できる。

・書く内容について考える必要がない。

・言語材料(特定の語彙,表現,文法事項)の指導・学習に適している。い

・多くの生徒に対しての指導(一斉指導)や評価がしやすい。

これらの長所により,和文英訳は「書くこと」の指導において現在でも広く行われている。し

かし,言語材料の定着を促すための学習活動という面が強く,実践的コミュニケーション能力の

育成という視点から見れば,この学習活動だけでは不十分である。それは,和文英訳には次のよ

うな短所があるためである。

【短所】

・直接的な自己表現につながらない。

・表現する意欲をかき立てない。

・単一文以上のレベルで書くことが少ない。

・模範英文(解答)の暗記学習になりやすい。

・いつも日本語から英語にする習慣が身に付く。

・書く目的や読み手が曖昧であったり欠如しているので,書く活動が不自然になる。あいまい

・本来のライティングの技能ではなく,英訳,翻訳技能だけを身に付けることになる。

これら和文英訳の短所を補い,実際的な書く力を育てるため,平成元年告示の高等学校学習指

導要領からは,「ライティング」の言語活動として,次の3点が示された。

・聞いたり,読んだりした内容について,その概要や要点を書くこと

・聞いたり,読んだりした内容について,自分の考えなどを整理して書くこと

・書こうとする内容を整理して,大事なことを落とさないように書くこと

これら3点に共通しているのは,提示された和文をそのまま英訳するだけの活動ではなく,日

常的な言語の使用場面を想定している点である。

「書くこと」の学習指導として和文英訳を行う際は,その長所と短所を十分考慮し,情報や相

手の意向などを理解したり自分の考えなどを表現したりするための活動を併せて取り入れるなど

の工夫を行うことが大切になる。

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(2) 自由英作文

加瀬(1994)は自由英作文について,「自分の思想感情をはじめ,表現したいことを自由に英文

で書くこと」と説明している 。自由英作文は,「書くこと」の学習指導において,生徒が自分7)

の書きたいことを書くことができる活動である。その意味においては,情報や自分の考えなどを

表現して伝えるため学習活動として適しているように見える。

しかし,この自由英作文は実際の学習場面において,生徒,教師の両者から敬遠される傾向が

ある。その原因を,学習する側である生徒と指導を行う側である教師の立場,それぞれからまと

めると,次のようになる。

【生徒】

・語彙や文法・構文力,そして文章構成力が一定のレベルに達していなければ,自由英作

文と言いながら,自由に書くことはできない。

・どのように書くかだけでなく,何を書くかということも考えなければならない。

【教師】

・誤りへの対処方法が難しく,不十分な対応をすると,生徒の書く意欲を損ねたり奪って

しまったりすることになる。

・形式と内容の何をどのように評価すべきか,客観的に評価しにくい面がある。

・書く能力はもとより,書く内容に関しても一人一人が異なるため,十分な個人指導がで

きないだけでなく全体指導もしにくい。その結果,ただ生徒に書かせっぱなしというこ

とになりかねない。

このような問題点を克服するために,書く形式や内容に一定の制限や条件を設け,英文を書か

せる制限作文を行うことがある。例えば,「発話を聞き取る」「文を並べ替えて適切なパラグラ

フを作成する」「ダイアローグの空白部分を適切な言葉で埋める」「文章を読んでその要約文を

書く」「絵を見てストーリーを作る」などがこれに当たる。

若林・根岸(1993)は自由英作文について,トピックや文の長さなどの制限がないので全く自由

に見えるが,何のためにその文章を書くのかが明らかでない文章は非常に書きにくいものである

ことを指摘し,自由英作文を課す場合に明示すべきものとして,次の4点を挙げている 。8)

① トピックは何か

② だれに対して書くのか

③ 何のために書くのか

④ どのように(長さ・文体など)書くのか

生徒にとって,限られた言語材料を用いて,情報や自分の考え,気持ちなどを表現することは

易しいことではない。また,教師にとっても,自由英作文を継続的に書かせ,これを基に適切な

学習指導を行うためには,かなりの時間が必要となる。自由英作文の長所を生かし,実践的コミ

ュニケーション能力の育成という視点から「書くこと」の学習指導を行うためには,このような

問題点を克服するための工夫が大切である。

また,学習指導要領において,初めて[言語の使用場面]と[言語の働き]の例が外国語科の

科目すべてに示された。これは,言語は常にある具体的な場面において具体的な働きを果たすた

めに使用されるという認識に立ったものである。学習した言語材料を現実的な使用場面の中でど

のように使うのかを生徒に理解させるためには,「書くこと」の領域においても,生徒の実態に

応じて[言語の使用場面]と[言語の働き]を設定した言語活動を行うことが必要である。

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3 「書くこと」の学習指導を改善するための留意点

実践的コミュニケーション能力の育成を視点として,生徒が情報や自分の考えを伝える書く機

会を保障するためには,自由英作文による学習指導が適していると考えられる。しかし,生徒に

作文を書かせたり,書かせた作文を基に指導したりするためには幾つか留意すべき点があり,こ

のことを考えた改善を行う必要がある。

緑川(1994)は,Raimes(1993)による作文を完成させるために必要な九つの要素を挙げ, (1)統

語法,(2)文法,(3)機械的技術,(4)パラグラフの構成を,形式にかかわる領域とし,(6)書く目

的,(7)読み手,(8)書き手のプロセス,(9)内容を,コミュニケーションのための意味創造にか

かわる領域として,これまでの「書くこと」の指導では後者の(6)~(9)が欠落していると述べて

いる 。前者の形式にかかわる領域を重視した指導では,個々の文の文法的な正しさや綴りの正つづ

9)

確さなど細かい部分にのみ注意が向き,伝えたい内容に焦点が置かれにくい。そのため,後者に

重点を置いた指導を行うよう指導計画を構成することが重要になる。

(1) 統語法(syntax)

(2) 文法(grammar)形式にかかわる領域

(3) 機械的技術(mechanics)

(4) パラグラフの構成(organization)

(5) 語の選択(word choice)

(6) 書く目的(purpose)

(7) 読み手(audience)意味創造にかかわる領域

(8) 書き手のプロセス(the writer's process)

(9) 内容(content)

また,Kaplan(2002)は,Leki(2002)の考えを取り上げ,第二言語としての英語教育の「書くこ

と」の指導においては,書かれた文章そのものから,その文章が作成されるプロセスに焦点が当

てられるようになっていること,第二言語としての英語で文章を書くことに関して次のような結

果が生じていることを指摘している。

・熟達した第二言語としての英語の学習者は,書く際に形式だけでなく,内容に焦点を当て

ている

・第二言語としての英語の学習者の書くプロセスは,個人によってかなり大きな差異がある

・アイディアを生み出したり,第二言語としての英語による複雑な思考を補助するためには

母語の使用も効果的である

自由英作文のような活動を位置付けた学習指導においては,文章を作成するプロセスを重視す

る必要があるが,個人による差異があることを前提として,必要に応じて母語を使用するなどの

工夫も必要である。また,具体的な指導について,生徒にとって書いた文章にコメントをもらう

方が文章の書き方について指導を受けるより大きな動機付けになるとともに,「書くこと」の能

力の伸長につながるとも述べている 。10)

この第二言語としての英語における「書くこと」の具体的な支援については, Johnson and

Johnson(1998)が,次の3点を挙げている 。11)

・文章は,何度も原稿を推敲することにより,完成するものである。学習者は,原稿を書きこう

始める前や,原稿を書いている中で,目標に向かって,アイディアを生み出すものだ。指

導者はアイディアを生み出すヒントを与えたり,原稿の部分よりも全体に焦点を当て,学

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習者が柔軟な姿勢で完成できるよう支援すべきである。

・「書くこと」は教室内で共有される協働的な活動になる。仲間からのフィードバックを通

して読み手の反応が考慮されるようになり,実際の読み手の要求や期待に焦点が置かれる

ようになる。

・生徒の自己評価力は,教師が評価者としてではなく,助言者としてかかわったときに伸長

する。学習者とその仲間が批評したり,アイディアを生み出したりしてくれる。

教師が一方的に「書くこと」を指導するのではなく,生徒が「書くこと」に主体的に取り組む

ことができるよう,仲間や教師から助言が与えられるようにする必要がある。このことは,生徒

が「書くこと」の言語活動に対し興味・関心を持ち,文字によるコミュニケーションにも積極的

に取り組む態度を育成するための要件となると考えられる。

このように考えると,生徒の誤りに対して,どのようにかかわるかが大きな課題となる。生徒

の誤りに対し,効果的なフィードバックを行うことは不可欠である。しかし,すべての誤りを訂

正しようとすることは好ましくない。Hendrickson(1978)によると,生徒の誤りには,語順の誤

りや語彙の間違いのように読み手が誤解をしたり理解不可能となったりするような「全体的な誤

り」(global error)と,主語と動詞の一致の間違い,綴り間違いなど,形式上は間違っているが

その文の意味理解にほとんど影響を与えないような「局所的誤り」(local error)とがある 。12)

したがって,生徒の学習段階に応じて,どのような誤りに対処すべきかを選択する必要がある。

誤りに対するフィードバックの効果として,Fathman and Whalley(1990)は,次の3点を挙

げている 。13)

・文法の誤りに下線を引いて示すことにより,作文の文法的正確さはかなり向上する。書き

直しによりすべての生徒の文法の誤りは減少した。

・励ましのコメントや書き直しを勧めるコメントを与えることにより,書き直し後の内容は

向上する。

・形式あるいは内容へのフィードバックは,単独で与えても同時に与えても,書き直しをし

た形式・内容がともに向上する。

誤りの訂正の仕方については,教師が学習者の誤りを訂正する「直接訂正」(direct correc-

tion)と誤りの箇所を指摘するといった「間接的訂正」(indirect correction)がある。依然とし

て,時間等の制約から直接訂正が多くの教師によって行われているが,最近では,間接的訂正の

方が学習者の「書くこと」の正確さや内容の向上に効果的であるという考えが広がっている。

誤りに対するフィードバックに関しては,指導の初期の段階では,内容と構成を重視したフィ

ードバックを行い生徒の「書くこと」に対する意欲を高めるよう配慮し,最終的な段階では,文

法に関するフィードバックを行い,より正確な自由英作文となるよう指導していくことが有効で

あると考える。

また,「書くこと」による実践的コミュニケーション能力を育成するためには,「聞くこと」

「話すこと」「読むこと」の他の三つの領域との関連を持たせた指導を行うことも大切である。

その理由として,Harmer(1991)は次の二つの理由を挙げている 。14)

・実際の言語の使用場面において,一つの領域の技能だけが単独で使用されることはほとん

どない。

・ある目的を達成するために,一つの領域の技能が単独で使用されることがあったとしても

異なる領域の技能と有機的に関連付けて使用されている。

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例えば,講義を聞くときにメモをとり,その後,メモを基にレポートを書くことは,実際の言

語の使用場面においてよく行われていることである。「書くこと」の指導においても,四つの領

域の技能をバランスよく組み合わせながら,[言語の使用場面]と[言語の働き]を意識した指

導を行うことが大切である。

Ⅳ 「書くこと」の学習指導の改善

ここでは,これまで述べてきた「書くこと」の課題や特徴を基に,実践的コミュニケーション能

力の育成を視点とした,「書くこと」の学習指導の改善について整理する。

これまで「書くこと」の領域における学習指導においては,和文英訳が中心的な学習活動として

存在してきた。しかしながら,実践的コミュニケーション能力の育成を視点とした「書くこと」の

学習指導の改善を目指すためには,生徒が情報や自分の考えなどを表現することができる自由英作

文を取り入れていく必要がある。しかし,主に次の3点が要因となり,生徒は自由英作文に対して

苦手意識を持っている。

① 書く内容が思いつかない。

② 書くための言語材料が理解できない。

③ 書く目的を明確に持つことができない。

そこで,この3点から学習指導の改善の方向を整理すると,まず,①の「書く内容が思いつかな

い」という要因に対しては,様々な発想法の中から適切な方法を用いて生徒の発想力を伸ばしアイ

ディアを持ちやすくしたり,母語を利用して書く内容について整理したりすることが必要であると

考える。

次に,②の「書くための言語材料が理解できない」という要因に対しては,和文英訳により言語

材料の定着を図ると同時に,生徒の誤りに対するフィードバックの工夫をしていくことで解決でき

ると考える。その際,教師が誤りを直接訂正するのではなく,生徒が自らの力で誤りを訂正する力

を育てたり,教師だけでなく,生徒からの助言が得られる機会を設け,生徒の「書くこと」に対す

る意欲を高めたりしていくことが大切である。

③の「書く目的を明確に持つことができない」という要因に対しては,「書くこと」の学習活動

においても,学習指導要領で述べられている[言語の使用場面]と[言語の働き]を十分考慮し,

生徒が現実的な言語の使用場面の中で,現実的な働きを持たせて言語材料を使用することを最大限

配慮した指導を行う必要がある。

Ⅴ 実践事例について

本研究では,3名の協力委員により各学校の実態に合わせて授業実践を行った。ここでは,それ

ぞれの実践事例を通して,「書くこと」の学習指導の工夫・改善点を紹介する。

1 実践事例1

マインドマッピングを活用し生徒の発想力を伸ばし,自由英作文に取り組んだ実践である。マ

インドマッピングとは,イギリスの Buzanが提唱した,図解表現技法の一つである。表現したい

概念の中心となるキーワードやイメージを図の中央に置き,そこから放射状にキーワードやイメ

ージをつなげていくことで,発想力を伸ばしていく技法である。また,学習者の誤りの訂正につ

いては,教師が学習者の誤りを直接訂正するのではなく,誤りの箇所を指摘する間接的訂正を試

みている。教師は,誤りの種類別に,波線,破線などの下線を用いて生徒に誤りの種類と箇所を

示し,生徒自らの力で誤りを訂正することにより,書く力の伸長を目指している。

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2 実践事例2

「書くこと」の活動に相手意識を持って取り組むことができるよう,学校紹介のプレゼンテー

ションの作成を行った実践である。[言語の使用場面]や[言語の働き]を考慮に入れ,プレゼ

ンテーションの対象を明確に意識することにより,生徒の「書くこと」の活動に対する関心・意

欲が高まっている。また,コンピュータ等の情報機器を活用することにより,「書くこと」の言

語活動を,より現実に近いコミュニケーションを体験する機会を設けることができるよう配慮し

ている。

3 実践事例3

「書くこと」の言語活動を,「聞くこと」の言語活動と関連を持たせて実施した学習活動の実

践である。学習指導要領の「ライティング」の「内容の取扱い」にも,「聞くこと,話すこと及

び読むこととも有機的に関連付けた活動を行うことにより,書くことの指導の効果を高める工夫

をする。」ことの効果が示されている 。聞いたことを書く,話されたことについて書く,読15)

んだことについて書く,書かれたことについて話す,書かれたことについてさらに話すなど,書

くことを中心とした多様な活動が考えられる。本実践では,聞いたことの要点のメモをとり,そ

のメモを基に聞いたことの要約を書くという活動を通して,「書くこと」の指導の効果を高める

よう工夫している。

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《実践事例1》 マインドマッピングを活用し発想力を伸ばし,誤りに対する教師からの

フィードバックを工夫した「書くこと」の指導

1 学習指導の改善の視点

これまでの「書くこと」の指導においては,ある特定の言語材料を用い,与えられた日本語を

英語にするという和文英訳の活動が多く,自分の思いや考えを自由に表現する活動まで発展させ

ることが少なかった。したがって,自分の思いや考えなどを書く活動を行った場合,多くの生徒

が「書くこと」に抵抗感を持ち,「書くこと」の言語活動に意欲的に取り組むことができなかっ

た。その主な原因として,①書く内容を思いつかない,②書きたいことがあっても英語での表現

の仕方が分からないことが考えられる。そこで,これらの実態を改善するために,pre-writing

の活動としてマインドマッピングを活用して生徒の発想力を伸ばし,post-writingの活動として

誤りに対する教師からのフィードバックの方法を工夫した。そして,生徒が自分の思いや考えを

表現することに対する抵抗感を和らげ,自分の思いや考えを的確に表現する力を養うことを目指

した。その際,まずは内容の充実に指導の重点を置き,その後,内容と正確さの両方が向上する

ように段階を追った指導を行った。

2 生徒の実態

自分の思いや考えを書く際に,生徒の大部分が「面倒である」「書く内容が何もない」という

理由で言語活動に意欲的に取り組むことができない。以下は実践前の自分の思いや考えを自由に

書く活動である自由英作文に関するアンケート集計結果の抜粋である。

(1) 対象 岡山市立岡山後楽館高等学校 第2学年 英語Ⅱ選択者 26名

(2) 結果

①「自由英作文は好きだ」

そう思う 15% やや思う 23% あまり思わない 20% 思わない 42%

②「自由英作文は役に立つと思う」

そう思う 26% やや思う 46% あまり思わない 8% 思わない 15% その他 5%

③「自由英作文のどのような点に抵抗を感じるか」

書きたいことはあっても英語で表せない 61% 書く内容を思いつかない 20%

文法の誤りが気になる 15% その他 4%

以上の結果から,生徒は自由英作文は役に立つと考えているが,非常に抵抗を持っていること

が分かった。その主な理由として挙げられている「書く内容を思いつかない」という課題にはマ

インドマッピングの指導を,「書きたいことはあっても英語で表せない」「文法の誤りが気にな

る」という課題には教師のフィードバックの方法を工夫することにより指導の改善を試みた。

3 指導計画

(1) 対象 岡山市立岡山後楽館高等学校 第2学年

(2) 指導の概略

① 科目 英語Ⅱ

② 計画 全7単位時間

③ 目標 ・マインドマッピングを活用して,発想を整理し,文章にすることができる。

・教師からのフィードバックを基に,自分の力で誤りを訂正することができる。

・場面や状況に応じた表現を用いて,まとまりのある文章を書くことができる。

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- 11 -

④ 評価規準

評価の観点 学習活動における具体的な評価規準

ア.関心・意欲・態度 【言語活動への取り組み】

【書くこと】 ①マインドマッピングの活動において,できる限り多くの内容

を自由英作文の題材にしようとしている。

②自由英作文において,間違いを恐れず自分の思いや考えを書

いている。また,必要に応じて辞書などを活用している。

イ.表現の能力 【適切な筆記】

【書くこと】 ①内容を整理し,必要な分量を書くことができる。

【正確な筆記】

②文法に従って正しく書くことができる。

③伝えたい情報や考えなどを正確に書くことができる。

エ.知識・理解 【言語についての知識】

【書くこと】 ①場面や状況に応じた表現を知っている。

⑤ 計画 全7単位時間

時期 トピック 活動内容 指導内容

4月 自己紹介 英語で自己紹介文を書く。 表現の仕方につい

5月 好きなもの 音楽,本,町,人物など,自分の マインドマッピン

好きなものを具体的に紹介する。 グについて

6月 自分の高等学校 自分の学校を英語で説明する。 段落構成の仕方に

ついて

9月 夏休み 夏休みの生活の中で,最も印象に 時間の移行を示す

(本時) 残ったことについて紹介する。 接続詞について

10月 文化祭,体育祭 文化祭,体育祭の思い出について 感情を表す形容詞

紹介する。 について

11月 自分の尊敬する人 身近な人,歴史上の人物,目標と 理由を述べる表現

する人,尊敬する人について紹介す について

る。

1月 将来の夢 卒業後,目標とする職業に就くま 効果的な表現の仕

での予定について作文する。 方について

⑥ 学習指導案(本時)

本 時 案

○学習目標 ○夏休みの出来事について,マインドマッピングを利用してまとまった文章を書

こうとする。(関心・意欲・態度)

○時間の移行を示す接続詞を用いて,夏休みの出来事についてまとまりのある文

章を書くことができる。(表現の能力)

学習活動 ・生徒の主な活動,○教師の支援 評価規準 評価方法

1.あいさつ ・“How are you?”という教師の問いに対し,“I'm

fine thank you, and you?”以外の自分の気分を表

す表現を探す。

2.導入 ・教師の夏休みの過ごし方についての英語によるスピ

ーチを聞き,質問に答える。

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・ワークシートにあらかじめ書かれた質問を理解し,

スピーチを聞きながら答えを書く。内容を簡単に把

握できる質問に対し,書くことよりも聞くことに集

中し話の内容を理解する。

○生徒が自分の夏休みについて書く際に使用できる表

現を多く盛り込む。

3.情報交換 ・夏休みにどのようなことをしたか,グループに分か

れて紹介し合う。

4.マインド ・長い文章を書く際には,pre-writingの段階で書く アの① ・ワークシート

マッピング 内容をまとめることの重要性を意識する。 と活動の観察

の作成 ・夏休みについて思いついたことをできる限り英語で

書く。その際,関連している事柄を線でつなぎ,ア

イディアの塊を作っていく。

○分からなければ日本語でもよいことを告げる。

○制限時間を設定して,思考の活性化を促す。

○アイディアが出にくい生徒には机間指導をし,ヒン

トを与える。

・時間が来たら書いた内容の中から必要な情報を取捨

選択し,文章に書く内容と順序を整理する。

5.接続詞を ・first, next, and then, finally など時間の推移

使った文章 を示す接続詞を把握し,これらを利用して文章を作

の作成 成する。

6.英語での ・マインドマップを基に段落構成を考え,第三者にも

作文 理解できるように夏休みの生活,出来事,イベント

などについて英語で作文をする。

・設定された制限時間内にできる限り多く書く。

・local error(局所的誤り)を恐れることなく,書

く内容を重視するよう心掛ける。

7.作文の修 ・誤りの種類別に分けた赤線の意味を理解し,どう直 イの③ ・ワークシート

正(後日) せば正しい文になるかを自分で考えて直す。

・global error(全体的誤り)など,自分の力で直せ

ないものに関しては,質問をしてヒントをもらい,

もう一度考える。

・自分で直したものをもう一度提出する。

○提出させたマインドマップと文章を照らし合わせな

がら,文章の中の間違いを種類別に赤で線を引いて

いく。

○実線,破線,波線を用いて,local errorとglobal

errorの違いを分かりやすく示す。

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写真1 マインドマッピングを活用して自分の考えをまとめている生徒の様子

4 指導の実際

(1) マインドマッピング

第一回目のトピック「自己紹介」では,マインドマッピングや接続詞の指導を全く行わず,罫けい

線を引いた用紙を配布した。

これに対して,第二回目のトピック「好きなもの」では,マインドマッピングの指導を行った

上で文章を書かせ,マインドマッピングを行わずに書いた第一回目のものと,マインドマッピン

グにより考えを整理してから書いた第二回目のものとを生徒自身に比較させ,生徒がマインドマ

ッピングの効果を実感できるよう配慮した。また,マインドマッピングを行う際には,はじめは

アイディアが出てこない生徒のために積極的に机間指導を行い,どのような内容が考えられるか

などをヒントとして与えた。

さらに,マインドマッピングでは,浮かんだアイディアをすべて書くように指導した。

(2) 英作文

はじめは間違いを恐れ,一文書くごとに「ここまで間違いないか」「これで意味は通じるか」

と教師に確認を求める生徒が多かった。マインドマッピングの時間とは違い,自由英作文の活動

では,教師は机間指導を控えて生徒から距離をとるようにした。こうすることで,書いた英文に

ついてすぐに教師に確認を求めに来る生徒は減った。また,質問に来る生徒には,「辞書を使っ

て調べてみよう」「間違えてもよいから自分の力で書き進めてみよう」などと助言するようにし

た。

(3) 誤りの訂正

添削をする際には誤りを教師が訂正するのではなく,誤りのある箇所に誤りの種類に応じて下

線を引き,誤りを指摘するにとどめた。単純なlocal errorに関して,文法のミスは実線,綴り

のミスは破線というように区別し,内容にかかわるglobal errorに関しては波線を用い,赤色の

ペンでそれらを使い分けて示した。教師が間違いを直接直すのではなく,生徒に誤りの箇所と種

類を指摘することで,誤りを意識できるよう配慮した。また,最初からすべての誤りに下線を引

くと,赤色の下線が際立ち,添削済み用紙を受け取った生徒がやる気を失うことが予想された。

そこで,文法的な間違いが気になって書けないという抵抗感を和らげるため,最初からすべての

誤りに線を引くのではなく,生徒が自らの力で訂正できる local errorを中心に誤りを指摘し,

回を重ねるごとにlocal error からglobal errorの指摘を行うようにしていった。

5 結果と考察

この活動を通じて最も印象的だったのは,生徒自身が誤りを訂正している過程で,「あ,そう

か」と気付いている様子が表情から読み取れたことである。しかし,中には下線の引かれた誤り

を自分で考えても訂正することができず,「なぜだろう」と悩んだ末にあきらめて教師に尋ねに

来る生徒もいた。このような生徒も,「時制は」「三人称は」などと問い掛け,ヒントを与える

ことによって,下線の引かれた部分の誤りに気付きそれを訂正することができた。最初から正し

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く直された添削を受け取る場合と違い,どこが間違っているのかを考えて自分で誤りを訂正する

姿勢が見られた。

また,マインドマッピングに関しては,最初は何を書けばよいか思いつかない生徒もいたが,

何度かマインドマッピングを繰り返したり,机間指導によって手掛かりを与えるなどの支援をし

たりすることによって,限られた時間の中で,マインドマッピングを終えることができるように

なった生徒が多く見られた。練習前には,語彙も似通ったものが多く,発想の広がりが見られな

かったが,練習後には,自由英作文を意識し,語彙にも多様性が見られ,マインドマップの中に

英語を用いる生徒も出てきた。生徒が作成したマインドマップを図3,4に示す。

文章を書く活動においては,最初は,書くことがなく時間をもてあましす生徒も多く見られた

が,制限時間内に書きたいことを書き終えることができず,家庭に持ち帰って最後まで書き,後

日提出するという生徒も出てきた。多くの事柄を短い文章で紹介することしかできていなかった

生徒も,回を重ねるうちに,マインドマップの材料をすべて使うのではなく,内容を一つか二つ

に絞って詳しく書くことができるようになった。また,生徒に,より整理された文章を書かせる

ためには,徐々に新しい接続詞を紹介していくなど,文章構成についても,段階を踏んだ指導を

行うことが大切であると感じた。マインドマップと段階を踏んだ文章構成の指導により,生徒の

作品も,語数が増えただけでなく,読み手に自分の意向が正しく伝わるよう,文章構成も工夫さ

れたものに改善されていった(図5,6)。

本実践の課題としては,global errorの訂正の方法が挙げられる。local errorに関しては,

下線の引かれた箇所に着目し,ほとんどのすべての生徒が誤りを自分自身の力で直すことができ

るようになった。しかし,global errorに関しては,下線が引かれていても,その誤りをどのよ

うに直せばよいのか分からない生徒が多かった。しかし,その際にも,すぐに教師が正しい表現

を書いて返却するのではなく,使える単語や日本語の簡単な言い換えを書くなどの支援を行い,

それを基にして既習の簡単な表現を使って同じ意味の内容が書けるように指導していくべきだと

考える。今後も,生徒が自分の作成した文章を「直される」自由英作文ではなく,自分の力で直

す力をつけることができる自由英作文の学習指導をしていきたい。

図3 生徒が作成したマインドマップ(練習前)

図4 生徒が作成したマインドマップ(練習後)

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図5 生徒が作成した文章(5月)

図6 生徒が作成した文章(9月)

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《実践事例2》 学校紹介プレゼンテーションの作成を目指した「書くこと」の指導

1 学習指導の改善の視点

生徒は,ふだんから授業の中で英語を「書くこと」を学んでいる。しかし,授業の中で,生徒

が伝える相手を意識しながら内容を考えて書くことを構成するという活動は,十分に行われてい

るとは言えない。そのため,[言語の使用場面]と[言語の働き]を考慮し,生徒が伝える相手

を意識しながら無理なく,楽しく書いて情報を伝えることができるような取り組みが必要である

と考えた。本実践では,自分たちの学校を英語で紹介するプレゼンテーションをグループで作成

して発表する授業を試み,その成果と課題について考察することにした。

「学校紹介プレゼンテーション」をテーマに選んだ主な理由は次の四つである。①学校という

身近なテーマであるため,興味・関心を持ちやすい。②米国にある姉妹校で上映するという設定

にすることで,プレゼンテーションを見てくれる相手を意識しながら取り組め,意欲が湧きやすわ

い。③コンピュータ等を利用して楽しく学習できる。④生徒相互が協働して学習に取り組むとい

う視点から,グループワークの形式が活用しやすい。これらの4点を考慮しながら,学校紹介の

プレゼンテーションの作成を行うことにした。

2 生徒の実態

本実践は,「英語表現」を履修した第1学年の生徒133名を対象にしている。実践前にアンケ

ートを実施したところ,96名中89名(93%)の生徒が「英語を書くことは難しい」と回答した。し

かし,96名中77名(80%)の生徒が「英文を書くことができると嬉しい」と回答している。英語をうれ

読んだり,聞いたり,話したりすることと同様に「書くこと」を難しいと感じているが,関心は

比較的高いことが分かった。

3 指導計画

(1) 対象 岡山県立倉敷鷲羽高等学校 第1学年

(2) 指導の概略「英語で学校紹介のプレゼンテーションを作成しよう」

① 科目 英語表現

② 計画 全10単位時間

③ 目標 ・姉妹校の生徒や後輩に紹介することを意識して,学校紹介のプレゼンテーションを作

成する。

・学校に関する語句及び表現を知り,それらを用いて簡潔な英語の文章を作成すること

ができる。

④ 評価規準

評価の観点 学習活動における具体的な評価規準

ア.関心・意欲・態度 【言語活動への取り組み】

【書くこと】 ①自分の紹介したい学校の内容について,適切な情報をスライドに盛り

込もうとしている。

②英和辞書等を活用し,英文を書こうとする。

【コミュニケーションの継続】

③生徒同士や教員からの助言を参考にスライドを説明する英語の文章を

修正し,よりよい語句や表現を用いようとしている。

イ.表現の能力 【適切な筆記】

【書くこと】 ①内容を整理し,スライド1枚につき一文以上の英文を書くができる。

②最後のスライドに,自分の意見や感想を書くことができる。

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【正確な筆記】

③内容を整理し,できるだけ正確に,正しい文法で書くことができる。

エ.知識・理解 【言語についての知識】

【書くこと】 ①学校に関する語句や,自分の意見及び感想を述べるのに必要な語句を

知っている。

②学校に関する語句や,自分の意見及び感想を書くことに必要な文法を

知っている。

⑤ 計画 全10単位時間

第1・2時:グループとテーマを決定し,グループごとにマインドマッピングを利用してプレ

ゼンテーションの内容を推敲する。

第3・4時:プレゼンテーション内容を整理し,写真を集め,文章を考えながらスライドを作

成する。

第5・6時:ALTによる学校紹介プレゼンテーションを見て,レイアウトや内容を再度推敲

を重ね修正する。(本時)

第7・8時:ALTとJTEのコメントを基にスライドを修正,完成し,発表の練習をする。

第9・10時:プレゼンテーション発表会を行う。グループは教室の前に出て発表する。他の生

徒は相互評価を行う。

⑥ 学習指導案(本時)

本 時 案

○学習目標 ○学校紹介のプレゼンテーションを作成する際に,語句や表現を意欲的に調べな

がら作成に取り組もうとしている。(関心・意欲・態度)

○学校紹介に必用な語句や表現を調べ,スライドに合った自分の意見及び感想を

書くことができる。(表現の能力)

学習活動 ・生徒の主な活動,○教師の支援 評価規準 評価方法

1.あいさつ ・Sam Cookeの“Wonderful World”を聞き,history,sci-

と,歌 ence,studentといった学校に関する語を聞き取り歌う。

・聞き取った語句をスライド作成に用いるよう意識する。

2.ゲーム ・Wake up/go to sleepゲームを行う。まず,全員机に伏せ

ておき自分の番がきたらスライドを見る。次に,スライド

に映写された語句を見て暗記して再び伏せる。最後に全員

が起きあがりグループで各自が覚えた語句をつないで一つ

の文章にする。

3.ALTに ・ALTによる学校紹介のプレゼンテーションを見る。

よるモデル ・内容が正しく読みとれているか確認するためのQ&Aに,

プレゼンテ 口頭で答える。

ーションへ ○写真や文字の大きさなど,見やすく分かりやすくするため

の質問 の工夫に言及し,自分たちのプレゼンテーションに反映す

るよう伝える。

4.学校行事 ・ペアでschool surveyプリントに取り組み,各自意見を述 イの② ・プリン

や授業につ べる。“Which is the most interesting subject at our ト

いての意見 school?”や “Which is the best special event at our

・感想 school?”といった質問を出し合い,答えとその理由を英

語で考えて発言し,それを書き留める。

5.スライド ・プレゼンテーション作成ソフトを起動させ,前時の作業の アの③ ・活動の

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の作成・修 続きを行う。 観察

正 ・3で見たALTのプレゼンテーションを参考に,写真の配

置や文字の大きさなど自分たちのスライドを加工する。

・4で考えた意見・感想をスライドに合うように作文する。

○読み手を意識したスライドになるよう助言する。

6.プレゼン ・返却されたスライドに書き込まれたALT,JTEの助言 イの①② ・印刷ス

テーション を基に,プレゼンテーションの内容を修正する。 ライド

の修正

(後日)

4 指導の実際

(1) 語彙習得の仕方

学校行事,授業や先生の紹介など,生徒は自分が書きたい内容に沿って語彙を少しずつ増やし

ていった。はじめ,生徒は分からない言葉があると「これ英語でどう言うの」とすぐに尋ねてき

た。最初はALTとJTEが答えていたが,Web上で利用できる辞書を複数紹介し,まずは各

自で調べてみるよう促した。また,複数の生徒から同様の質問があったため,不明な語句をなる

べく全員で共有できるよう,プリントやスライドショーにまとめて提示した。加えて,既習の語

句を復習する機会を増やすために有効な歌やゲームの活動を行った。

(2) 情報機器の活用

すべての作業をコンピュータで行ったため,生徒が作成したもの

を提出させたり,修正したりすることが容易であった。また,作業

中のスライドや英文をその場でスクリーンに映写し,うまく書けた

点をすぐに評価したり,よく見られる誤りの例をタイミングよく提

示したりするように心掛けた。Webを活用して単語調べが手軽に

できたことも,書く作業を円滑に進める上で効果的だった。

(3) 聞き手の存在 写真2 情報機器の活用

聞いてくれる,読んでくれる相手を絶えず意識してスライドを作る

よう毎時伝えた。例えば,「この表現は中学生が読んで分かるかな」と問い掛けるとシンプルな

表現に修正していった。また,「姉妹校の生徒が読みやすいようになっているかな」と促すと,

語句や英文を積極的に改善した。相手を意識させると,生徒は何のためにどんな英語を書くのか

を明確にすることができ,書く意欲も高まった。

また,はじめは“This is LL room.”とか“We have School Festival in September.”とい

うように単なる事実の羅列が多く見られた。そこで,「見ている人は面白いかな」と問い掛け,

“I come here everyday to study English.”“That's exciting!”といった一言コメントを,

スライド1枚につき一つずつ入れるよう指示した。しかし,グループによるスライドの違いがあ

まり見られなかった。そのため,最後のスライドに生徒各自の意見・感想を加えるよう促して,

制作者の気持ちが相手に伝わるプレゼンテーションにしようと伝えた。

写真3 生徒の作成したスライド

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5 結果と考察

学校紹介プレゼンテーションの活動について,本実践を通して感じた主な利点は,次のような

ものである。

第一に,伝える相手の存在を常に意識させることにより,書く意欲を支えることができたこと

である。自分たちの作る学校紹介のプレゼンテーションは,後輩へのメッセージである。また,

姉妹校でも見てもらうという場面設定により,生徒に英語を書く必要感を持たせることができた。

文章の量が少ないものもあったが,履修した生徒全員がスライドを提出し,他の生徒の前で作成

したプレゼンテーションを基に発表することができた。

第二に,Web上の辞書を利用できる,プレゼンテーション

作成ソフト上で英文の加筆や修正等が容易にできるなどの手軽

さが,書く作業に対する負担を軽くしたことである。その結

果,生徒全員が自分の言いたいことを英語に直すことができ,

それが学習への充実感につながった。また,オンラインで生徒

の学習状況をモニターすることで,生徒が持っている疑問や不

明な単語をすぐに提示したり,頻出する間違いやうまく書けて

いる例をスクリーンに投影したりして知らせた。その結果,そ

れらを生徒に共有させることができ,学習を進める上で効果的で 写真4 スライド作成の様子

あった。

第三に,グループで作業内容を分担することで,一人一人の書く作業量を無理のないものに

することができたことである。ただし,情報リテラシーや英語力の差が作業に取り組むスピード

を大きく左右したので,生徒相互で教え合える雰囲気づくりをしたり,机間指導や放課後指導を

頻繁にしたりするよう心掛けた。また,スライド1枚につきコメントを一つ入れる,一人6枚の

スライドを作る,最後のスライドには自分の意見・感想を書く等,条件を付加していくことによ

り段階的に目標を高くしていった。

以上のように,伝える相手を意識し,仲間と一緒に活動することにより,英語を意欲的に書く

生徒の姿が見られるようになった。

課題としては,語彙が十分でないために伝えたいことが表現できないもどかしさが,生徒の書

く意欲を減退させた点である。語彙リストを提示したり,辞書を活用するよう促したりしたが,

結果的に単語を並べるにとどまる例も多かった。また,相手が十分に理解できる内容に至らない

例も散見された。必要な語彙は調べることができても,それを正しい文章に構成できず,結果と

して伝わりにくいものになった。生徒の習熟度に合わせて,段階を踏みながら繰り返し語句や表

現に触れ,英語の文章の構成の仕方を指導する必要があると感じた。

また,伝える相手の存在が書く意欲をもたらしたが,読者が不特定多数の場合,表現や内容が

曖昧になる傾向にあった。中学生,姉妹校の高校生と限定することで,読み手を意識し,語句や

表現が少しずつ精選されていった。英語の文章を書くことが難しいと感じている生徒には,読み

手を明確に意識させた方が書きやすい。本実践を通して,「書くこと」の指導において,読み手

が存在することの大切さを実感した。

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《実践事例3》 「聞くこと」と「書くこと」を関連付けた「書くこと」の指導

-聞いた内容を自分の英語で表現することを目標として-

1 学習指導の改善の視点

相手が言ったことを自分の言葉でまとめる力は,実際のコミュニケーションの場面で大変重要

な力である。本実践では,平成17年度に第2学年,平成18年度に第3学年の授業において,「聞

くこと」と「書くこと」を関連付けた「書くこと」の言語活動を工夫することにより,聞いたこ

との要点をつかみ,自分の言葉でまとめる力を育成することを目標とした。

2 生徒の実態

生徒の大半が4年制大学への進学を希望している。英語の学習については,大切だと考えてい

るが,その学習が好きであると考えている生徒の数は少ない。また,和文英訳,自由英作文,読

んだり聞いたりしたことを自分の言葉でまとめる力を身に付ける学習活動が役立つと答えた生徒

の数は多かったが,それらを好きだと答えた生徒の数は少なかった。生徒の実態に関して,4件

法によるアンケート調査を行ったところ,次のような結果が得られた。

(1) 対象 岡山県立高梁高等学校 第2学年 英語Ⅱ選択者 70名

(2) 結果(「そう思う・どちらかといえばそう思う」と回答した生徒の割合だけを示す。)

①「英語の学習は大切だ」

そう思う・どちらかといえばそう思う 64%

②「日本語を英語にする学習は役に立つ」

そう思う・どちらかといえばそう思う 64%

③「日本語を英語にする学習は好きだ」

そう思う・どちらかといえばそう思う 17%

④「あるテーマについて自由に作文することは役に立つ」

そう思う・どちらかといえばそう思う 62%

⑤「あるテーマについて自由に作文することは好きだ」

そう思う・どちらかといえばそう思う 19%

⑥「読んだり聞いたりした内容を自分の言葉でまとめる力は役に立つ」

そう思う・どちらかといえばそう思う 64%

⑦「読んだり聞いたりした内容を自分の言葉でまとめることは苦にならない」

そう思う・どちらかといえばそう思う 17%

自分の言葉でまとめる力の重要さは多くの生徒が認識している。しかし,授業の中で,要約を

作成したり自分の考えを自分の言葉で発表したりする活動をあまり経験していないため,自分の

言葉でまとめる力は十分に身に付いておらず,このような学習に苦手意識を持っている生徒が多

い。

3 指導計画

(1) 平成17年度の実践

対象 岡山県立高梁高等学校 第2学年

① 科目 英語Ⅱ

② 計画 全2単位時間

③ 目標 ・聞いた内容を適切な英語で表現できるようになる。

④ 授業展開

・教科書を閉じさせる。

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・教材の音声を3回聞かせる。

※できるだけ多くの内容(話の流れ・登場人物の行動・心情など)をメモにとるよう指示す

る。

・教材についての質問を英語で行い,生徒を指名して答えさせる。

・自分がとったメモや記憶に基にして英語で話の内容を要約させる。

※時間は5分程度与え,B5サイズの半分程度の用紙に,3~4行程度の分量の英文を書く

よう指示する。

⑤ 結果と考察

本文にあまり難解な文法を含まない会話で構成されている教材を選び,聞いた内容を日本語に

訳すことなく要約する活動ができるよう配慮した。

本実践では,内容理解を確認するために英語での質問を口頭で行った。英語が得意な生徒も,

即座に「わかりません」という返答をしたのが気になった。決して難しい表現を要求する質問で

はなかったのだが,英語を用いて表現することには抵抗感が大きいことが分かった。また,要約

については,白紙及び記憶できていた1文のみを書いたと思われる生徒が3分の1に達した。

この結果から,口頭による質問だけでは内容把握とその後に行う要約は難しく,また,聞きな

がら要約をするためのメモをとることも難しかったことが考えられた。

(2) 平成18年度の実践

対象 岡山県立高梁高等学校 第3学年

① 科目 リスニング(学校設定科目)

② 計画 全10単位時間

③ 目標 ・聞いた英語の内容を適切な英語で要約できるようになる。

④ 評価規準

評価の観点 学習活動における具体的な評価規準

ア.関心・意欲・態度 【言語活動への取り組み】

【聞くこと】【書くこと】 ①集中して聞く活動に取り組んでいる。

②聞いたことの要点のメモをとろうとしている。

イ.表現の能力 【適切な筆記】

【書くこと】 ①自分の言いたいことを工夫して表現できている。

【正確な筆記】

②話のポイントを把握した要約を書くことができる。

エ.知識・理解 【言語についての知識】

【書くこと】 ①用いている語彙・表現の選択が適切である。

⑤ 学習指導案

本 時 案

○学習目標 ○本文を聞き,その要点のメモをとる。(関心・意欲・態度)

○メモを基に,話のポイントを把握した要約を書くことができる。(表現の能力)

学習活動 ・生徒の主な活動,○教師の支援 評価規準 評価方法

1.本文を聞 ・教材の設問を読み,未知の語句の意味を確認する。

き設問に答 ・どのような話題であるか予想を立てる。

える。 ・本文を1回聞き,設問に答える。

2.本文を聞 ・本文の内容把握のためのワークシートを受け取る。

き空欄を補 ・本文を聞きながら,空欄を補充する。 アの② ・活動の様

充する。 ○途中にポーズをおかず,自然なスピードで話された本文 イの① 子

を3回聞かせる。

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・空欄に入る語句の確認をする。

○指導者の発話は英語で行うが,他の表現で内容を言い換

えながら説明することで,内容の理解を助ける。

3.英語で要 ・用紙を半分に折り,空欄に入れた語句の部分が見えない イの② ・ワークシ

約を作成す ようにして,英語で要約を作成する。 ート

る。 ○制限時間を5分とする。書くスペースはB5横長の用紙

を更に半分に折ってできる程度のものとし,書く分量が

生徒にとって負担に感じさせないようにする。

4.要約を修 ・用紙を提出し,添削を受けた後,再度要約を作成する。 イの①② ・提出物

正する。 エの①

(事後)

⑥ 指導の実際

前年度の実践の結果,英語の文章自体が難解でなくても要約を書かせることは難しかったこと

を受け,補助教材を用いて段階的な指導を行うよう工夫した。今回は,補助教材として2種類の

ワークシートを作成して,実践を行った。

まず,本文の中から内容把握のためのキーワード,発音上注意すべき箇所を空欄にしたディク

テーション用のワークシートを作成した。生徒にワークシートの空欄に語句を補充させ,正しい

語句が補充されているかを確認した後,ワークシートを見ないで要約を書くよう指示した。この

とき,聞き取って記入した語句は板書に残しておき,必要に応じてその語句を参考にして,綴り

を確認したり内容を思い出したりして要約を作成することができるようにした。

次に,ディクテーションの代わりに,本文を要約するためのメモ形式で空欄補充を行うワーク

シートを使用し,同様の活動を行った。聞き取った語句を書き取るだけの作業から,聞いた内容

を整理して記入する活動にすることにより,やや難易度を上げた。空欄に入れるべき語句を確認

する際には,指導者がすべての発話を英語で行い,要約する本文の内容について本文とは違う表

現を交えながら解説した。これは,教師の発話が,要約を作成するときの補助となるよう行った

ものである。なお,ディクテーションのときと同様に,空欄に入る語句は板書に残しておく。

⑦ 結果と考察

まず,使用した2種類のワークシート別の生徒の記入の結果について簡潔に報告する。

ア ディクテーションタイプのワークシートでの実践結果(69名中)

無記入 6名 1文のみ 14名

2文以上 49名(24名の生徒は3文以上を用いてほぼ適切に要約できていた)

イ 空欄補充タイプのワークシートでの実践結果(69名中)

無記入 6名 1文のみ 13名

2文以上 50名 (24名の生徒は3文以上を用いてほぼ適切に要約できていた)

今回ワークシートを使用したことで,前年度に比べ内容把握の点でレベルの高い要約の数が増

えた。また,英語を苦手としている生徒も,単に本文の表現を忠実に再現しようとするのではな

く,自分で考えた表現を用いて英語で文章を書こうとしていた。題材とした英文は昨年より難し

いものであったが,要約した文章は向上しており,今回の指導上の改善が生徒の要約を作成する

能力を高めることにつながったものと考えられる。生徒のワークシートを図7,図8に示す。

本文を要約するためのメモ形式で空欄補充を行うワークシートは,本文と要約をつなぐ段階と

して効果があることを期待したが,実践の結果を見る限り大きな効果はなかった。本文と要約文

をつなぐためには,ワークシートに示す内容をもう少し吟味する必要がある。

今後の授業においては,生徒自身がメモをとることができるようになるための段階的な指導に

ついて検討を行い,試行錯誤を繰り返しながらより効果的な指導法を探っていきたい。

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図7 生徒のワークシート

図8 生徒のワークシート

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Ⅵ おわりに

本研究では,高等学校における「書くこと」の学習指導の課題や特徴を整理するとともに,「書

くこと」に対する生徒の意識を探り,「書くこと」によって実践的コミュニケーション能力を育成

するための学習指導の工夫について,具体的な言語活動を授業実践の形で提案した。自由英作文へ

の苦手意識を生む要因の一つである「書く内容が思いつかない」に対しては,マインドマッピング

の手法を活用し,生徒の発想力を高めた。また,「書くための言語材料が理解できない」という要

因に対しては,最終的に書かれたものだけでなく,書く過程に焦点を当てて誤りに対するフィード

バックを工夫するなどした。さらに,「書く目的を明確に持つことができない」という要因に対し

ては,[言語の使用場面]と[言語の働きを]を十分に考慮し,実際に言語を使用することを意識

した言語活動を行うことで,生徒の「書くこと」に対する意欲は向上し,書く力を向上させること

ができた。

現在,岡山県においても,スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクールにおいて,中

学校における「音声によるコミュニケーション能力を重視した英語学習」から,「四つの領域の言

語活動を統合した英語学習」への円滑な移行を図り,実践的コミュニケーション能力を育成するた

めの指導方法及び評価方法の研究・開発が行われ,「書くこと」に関しても,他の領域を統合した

言語活動の研究・開発に取り組んでいる。

このような,先進的な取り組みにも注目しながら,英語でコミュニケーションを図りたいという

生徒の気持ちにこたえ,日々の授業の改善に努めていくことが,「英語が使える日本人の育成」に

つながっていくものと考える。

○引用・参考文献

1) 文部省:高等学校学習指導要領解説外国語編,開隆堂出版,1999

2) 文部省:中学校学習指導要領解説外国語編,東京書籍,1998

3) 国立教育政策研究所:平成15年度小・中学校教育課程実施状況調査(中学校),国立教育政策

研究所教育課程研究センター,2005

4) 国立教育政策研究所:平成14年度教育課程実施状況調査(高等学校), 国立教育政策研究所教

育課程研究センター,2002

5) 国立教育研究所内戦後教育改革資料研究会:文部省学習指導要領外国語科編,日本図書センタ

ー,p305,1980

6) 小室俊明ほか:英語ライティング論,研究社,2001

7) 前掲書6), p.52

8) 前掲書6)

9) 前掲書6)

10) Kaplan, R.B.:The Oxford Handbook of Applied Linguistics, Oxford University Press,

2002

11) Johnson, K and H.Johnson:A Handbook for Language Teaching, Blackwell Publishers

Ltd, 1998

12) 前掲書6)

13) 前掲書6)

14) Jeremy Harmer:The Practice of English Language Teaching,Longman,1991

15) 前掲書1), p.73

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FAX用紙(所員研究係行き)

岡山県教育センター研究紀要をお読みくださり,ありがとうございました。皆様の御意見

を,今後の所員研究や学校支援の改善のための参考とさせていただきますので,次のアンケ

ートに御協力ください。

岡山県教育センター研究紀要に関するアンケート

本書のタイトル:研究紀要第279号 高等学校外国語科における「書くこ

と」の学習指導の工夫に関する研究

1 あなたの所属はどちらですか。

県内:小学校,中学校,高校,盲・聾・養護学校,大学,教育機関,その他( )ろう

県外:小学校,中学校,高校,盲・聾・養護学校,大学,教育機関,その他( )

2 本書を何で知りましたか。

(a) 岡山県教育センターからの送付 (b) 岡山県教育センターの所報(c) 岡山県教育センターのWebページ (d) 岡山県教育センターの研修講座(e) 岡山県教育センター所員研究成果発表会 (f) 他の先生等からの紹介(g) その他( )

3 本書の内容についての御意見・御感想をお聞かせください。

(1) よかった点,教育実践に役立つと思われる点について記述してください。

(2) 工夫,改善すべき点について記述してください。

4 外国語科に関する研究に,今後どのような内容を取り上げてほしいですか。

御協力ありがとうございました。

このページの写しをファクシミリで下記へお送りください。

FAX 086-272-1207 岡山県教育センター所員研究係

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平成17・18年度岡山県教育センター個人研究

高等学校外国語協力委員会

協力委員

田 上 俊 幸 岡山県立倉敷鷲羽高等学校教諭

坂 口 真 二 岡山県立高梁高等学校教諭

守 屋 陽 子 岡山市立岡山後楽館高等学校教諭

なお,岡山県教育センターでは,次の者が本研究に当たった。

小 寺 邦 彦 教科教育部指導主事(主任)

平成19年1月発行

研究紀要第279号

高等学校外国語科における

「書くこと」の学習指導の工夫に関する研究

編集兼発行所 岡山県教育センター

〒703-8278 岡山市古京町二丁目2番14号

TEL (086)272-1205 FAX (086)272-1207

URL http://www.edu-c.pref.okayama.jp/E-MAIL [email protected]

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