さらに歩みを進める企業統治改革...年第4四半期末で196.1兆円と,07年第...

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2018.4 4 要約と結論 1.2017 年 5 月のスチュワードシップ・コードの改訂により,国内外 70 余りの機関 投資家が議決権行使結果の個別開示を開始した。「議決権行使結果個別開示元年」 となった 17 年 6 月開催の株主総会の結果を見る限り,主要議案の賛成率は 16 年 6 月と比べ大きな変化はなく,個別開示が機関投資家の議決権行使を厳格化したとは 言い難い。それでも,一部企業の経営トップの取締役選任議案では様々な理由から 賛成率の低い事例が見られている。ただし,企業から見れば反対理由が分かりにく い事例も存在すると考えられる。 2.17 年 6 月の株主総会の結果とその後の動きを見る限り,議決権行使結果を糸口 として対話が活発化している状態とは言い難い。企業側からは機関投資家の議決権 行使が従来に増して「杓子定規」な判断になっているとの懸念が聞かれる一方,機 関投資家側からは議決権行使結果に関する企業側からの問い合わせや説明には大き な変化がないとの意見が聞かれた。個別開示が期待された役割を果たすために,今 後は議決権行使結果の個別開示と対話の深化で両者の相互理解を深めるというプロ セスの構築が課題となるであろう。 3.現政権の重要な政策課題として実施され,これまで一定の成果を挙げてきたコー ポレートガバナンス改革は,残された課題を克服するため,コーポレートガバナン ス・コードの改訂や企業価値協創ガイダンスの活用など,更なる動きが見られてい る。改革が単なる「形式主義」に留まるのではなく,企業と投資家が対話の深化 を通じ相互理解を深めながら中長期的,持続的な企業価値を共同して創り上げる, 「真の実質主義」の実現に向け,歩み続けることが重要である。 さらに歩みを進める企業統治改革 Ⅰ.はじめに 1.企業統治改革は継続中 2.数字に見る改革の「成果」と「課題」 Ⅱ.SS コードの改訂と「議決権行使結果個別開示 元年」の議決権行使状況 1.SS コード改訂で議決権行使結果の個別開示 が要請される 2.主要議案の賛否動向 - 大きな変化は見られず 3.議決権行使結果の個別開示が始まる 4.18 年以降の株主総会の注目点 Ⅲ.企業統治改革における今後の注目点 1.我が国でも始まる集団的エンゲージメン 2.FD ルール制定を対話深化の好機に 3.CG コードの改訂 4.会社法の見直し 5.拡大続く ESG 投資と「対話の深化」 6.「真の実質主義」に向かう企業統治改革 Ⅳ.終わりに 野村資本市場研究所 西山 賢吾

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要 約 と 結 論

1.2017 年 5 月のスチュワードシップ・コードの改訂により,国内外 70 余りの機関

投資家が議決権行使結果の個別開示を開始した。「議決権行使結果個別開示元年」

となった 17 年 6 月開催の株主総会の結果を見る限り,主要議案の賛成率は 16 年 6

月と比べ大きな変化はなく,個別開示が機関投資家の議決権行使を厳格化したとは

言い難い。それでも,一部企業の経営トップの取締役選任議案では様々な理由から

賛成率の低い事例が見られている。ただし,企業から見れば反対理由が分かりにく

い事例も存在すると考えられる。

2.17 年 6 月の株主総会の結果とその後の動きを見る限り,議決権行使結果を糸口

として対話が活発化している状態とは言い難い。企業側からは機関投資家の議決権

行使が従来に増して「杓子定規」な判断になっているとの懸念が聞かれる一方,機

関投資家側からは議決権行使結果に関する企業側からの問い合わせや説明には大き

な変化がないとの意見が聞かれた。個別開示が期待された役割を果たすために,今

後は議決権行使結果の個別開示と対話の深化で両者の相互理解を深めるというプロ

セスの構築が課題となるであろう。

3.現政権の重要な政策課題として実施され,これまで一定の成果を挙げてきたコー

ポレートガバナンス改革は,残された課題を克服するため,コーポレートガバナン

ス・コードの改訂や企業価値協創ガイダンスの活用など,更なる動きが見られてい

る。改革が単なる「形式主義」に留まるのではなく,企業と投資家が対話の深化

を通じ相互理解を深めながら中長期的,持続的な企業価値を共同して創り上げる,

「真の実質主義」の実現に向け,歩み続けることが重要である。

さらに歩みを進める企業統治改革

目     次

Ⅰ.はじめに

 1.企業統治改革は継続中

 2.数字に見る改革の「成果」と「課題」

Ⅱ.�SS コードの改訂と「議決権行使結果個別開示

元年」の議決権行使状況

 1.SS コード改訂で議決権行使結果の個別開示

が要請される

 2.主要議案の賛否動向 -大きな変化は見られず

 3.議決権行使結果の個別開示が始まる

 4.18 年以降の株主総会の注目点

Ⅲ.企業統治改革における今後の注目点

 1.我が国でも始まる集団的エンゲージメン

 2.FDルール制定を対話深化の好機に

 3.CGコードの改訂

 4.会社法の見直し

 5.拡大続くESG投資と「対話の深化」

 6.「真の実質主義」に向かう企業統治改革

Ⅳ.終わりに�

野村資本市場研究所 西山 賢吾

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Ⅰ.はじめに

1.企業統治改革は継続中

我が国で推進されているコーポレートガバ

ナンス(企業統治)改革は,ここまで一定の

成果を挙げてきたといえる。全上場企業対象

の ROE(自己資本純利益率)は 16 年度末で

8.6%(野村調べ)となり,14 年公表の「伊

藤レポート」で示された「日本企業は最低限

8%を上回る ROE をコミットすべき」水準

を上回った。また,16 年度末の配当性向は

32.0%に達し,長い期間多くの企業で目標と

された 30%(同)を超えた。

しかし,これらの数字の達成は我が国企業

の「到達点」ではなく,残された「課題」も

少なくない。残された課題を克服する過程で

我が国企業の持つ潜在的な価値を顕在化し,

企業価値をさらに高める必要があることは論

を待たない。そのためには,コーポレートガ

バナンス改革をさらに進める必要があり,実

際にも,14 年2月に公表された『「責任ある

機関投資家の諸原則」≪日本版スチュワード

シップ・コード≫』(以下,SS コード)は

17 年5月に改訂され,18 年には SS コード

とともにコーポレートガバナンス改革の「車

の両輪」であるコーポレートガバナンス・

コード(以下,CGコード)が改訂される。

2.数字に見る改革の「成果」と「課題」

株主,投資家と企業という観点からコーポ

レートガバナンスが注目されたのは,小泉純

一郎政権(当時)において「小泉改革」が進

められる中,「企業は誰のものか」論が盛ん

になった 05 年~ 08 年頃であった。現在安倍

晋三政権下で進められているコーポートレー

トガバナンス改革について,当時との比較

(招集通知の株主発送前開示比率は除く)で

数字に表れた主な成果を見ると,社外取締役

の選任や総還元額などがその例として挙げら

れよう(表1)。

一方,16 年度の ROE8.6%は,07 年度の

8.5%をわずかに上回っているに過ぎない。

また,企業の保有する現金・預金残高は,17

年第4四半期末で 196.1 兆円と,07 年第

2四半期の 145.2 兆円を大きく上回ってい

る。特に,コーポレートガバナンス改革が始

まった 14 年以降改善した収益の多くが,結

果的に現金・預金という形で企業のバランス

シート上に積み上がってしまい,企業の成長

(設備投資や M&A など)や,株主,従業員

などのステークホルダーに対し適切に分配さ

れる「良いお金の流れ」の構築はまだ道半ば

と言わざるを得ない。こうした課題の克服に

向け,コーポレートガバナンス改革の歩みを

更に進めなくてはならない(表1)。

このような動きを踏まえ,本稿では,17

年の SS コードの改訂により始まった議決権

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行使結果の個別開示などに表れた機関投資家

の動向や,今後の議決権行使の注目点などを

取り上げるとともに,「形式」から「実質」

への移行期に入ったコーポレートガバナンス

改革の現状と今後についても言及する。

Ⅱ.SS コードの改訂と「議決権行使結果

個別開示元年」の議決権行使状況

1.SS コード改訂で議決権行使結果の個

別開示が要請される

14 年に制定された SS コードは,『おおむ

ね3年毎を目途とした定期的な見直しをす

る』とされている。これを受け,金融庁,東

京証券取引所共催の『スチュワードシップ・

コード及びコーポレートガバナンス・コード

のフォローアップ会議』(以下,フォロー

アップ会議)は,SS コードの実効性を更に

高める上での議論をまとめた意見書「機関投

資家による実効的なスチュワードシップ活動

のあり方」を 16 年 11 月に公表,提言を行っ

た。17 年5月に改訂された SS コードはこの

意見書を基に,同共催の『スチュワードシッ

表1 コーポレートガバナンス改革の「主な成果」と「残る課題」

改革前 改革後

主な「成果」

社外取締役選任比率(東証 1部:%) 44.0 07 年 8 月 99.4 17 年 7 月

株式持ち合い比率(広義:%) 21.0 08 年度末 15.0 16 年度末

総還元額(兆円) 12.3 07 年度末 17.2 16 年度末

買収防衛策導入企業数(社) 569 08 年 12 月末 407 17 年 12 月末

親子上場企業数(社) 417 06 年度末 270 16 年度末

招集通知の株主発送前開示比率(%) 2.6 11 年 6 月 81.8 17 年 6 月

残る「課題」

ROE(全上場企業:%) 8.5 07 年度末 8.6 16 年度末

現金・預金残高(法人企業統計,全産業ベース) 145.2 07 年第 2四半期 196.1 17 年第 4四半期

(注)�広義持ち合い比率は,生命保険会社,損害保険会社,上場銀行,上場その他金融,上場事業法人の保有する株式の時価総額の,市場全体の時価総額に対する比率(ただし,子会社,関連会社は除く)。

(出所)東京証券取引所,及び各社開示資料より野村資本市場研究所作成

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プ・コードに関する有識者検討会議』におい

て議論,決定されたものである。

主な改訂内容を表2に示したが,①全ての

機関投資家に対し,利益相反回避の方針と議

決権行使についての方針(行使結果個別開示

など),②議決権行使助言会社に対し,業務

体制や利益相反管理,助言作成プロセス等に

関する自らの取り組み,③運用機関に対し,

指針を含む各原則の実施状況に関する自己評

価,などの公表などが求められたことが特に

注目される。

そして,「コンプライ・オア・エクスプレ

イン」ベースでの,指針を含む原則を実施し

ない場合の説明を改めて要請したのに加え,

実施している場合におけるその具体的な取組

等の説明,すなわち「コンプライ・アンド・

エクスプレイン」ベースでの対応も期待され

ている。「コンプライ・アンド・エクスプレ

イン」ベースでの対応への言及は,機関投資

家が企業価値向上に向けて実施している取組

みを具体的に示すことで,企業との目的を

持った,建設的な対話を進める機関投資家の

表2 スチュワードシップ・コード改訂の主要ポイント

原則 1. スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針の策定,公表

(1-3)アセットオーナーによる実効的なスチュワードシップ活動の確保

(1-4)アセットオーナーが運用機関に求める事項の明示

(1-5)アセットオーナーによる運用機関に対する実効的なモニタリング

原則 2. 利益相反管理の明確な方針の策定,公表

(2-2)運用機関による利益相反の具体的な局面の特定とその対処方針の公表

(2-3)運用機関のガバナンス体制整備(例 : 独立した取締役会,議決権行使に関わる第三者委員会の設置など)

(2-4)運用機関経営陣による運用機関のガバナンス強化・利益相反管理に関する課題への取り組み推進

原則 3. 投資先企業の状況の的確な把握

(3-3)投資先の企業価値等に影響する,ESG要素を含む事業におけるリスクや収益機会,それらへの対応状況の把握

原則 4. 投資先企業との認識の共有,問題の改善への努力

(4-2)パッシブ運用における中長期視点に立った対話や議決権行使への取り組み

(4-4)投資先企業との対話における集団的エンゲージメントへの言及

原則 5. 議決権行使と行使結果の公表方針

(5-3)少なくとも主要議案ベースでの開示

(5-3)コンプライ・オア・エクスプレインベースでの,個別投資先企業及び議案ごとの行使結果の公表

(5-3)議決権行使の賛否理由の対外的説明

(5-5)議決権行使助言会社は,企業の状況の的確な把握等のために十分な経営資源を投入し,本コードの各原則が自らに当てはまることに留意して,適切にサービスを提供すべき

(5-5)議決権行使助言会社は,業務の体制や利益相反管理,助言のプロセス等に関し,自らの取り組みを公表すべき

原則 6. スチュワードシップ責任遂行状況の定期的な報告

・特になし

原則 7. 企業との対話,スチュワードシップ活動遂行のための実力の具備

(7-2)スチュワードシップ責任を実効的に果たすための,機関投資家経営陣の適切な能力・経験の具備(経営陣は系列金融グループ内部の論理などに基づいて構成されるべきではない)

(7-2)機関投資家経営陣によるスチュワードシップ活動の実行,そのための組織構築・人材育成に関する課題への取り組みの推進

(7-4)運用機関によるスチュワードシップ・コード実施状況の定期的な自己評価,評価結果の公表

(注)改訂内容のみを抜粋した(出所)金融庁資料より野村資本市場研究所作成

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姿勢や考え方が顧客・受益者にとって明確に

なることを期待したものと考えられる。

今回の SS コード改訂項目の中で最も注目

されたのは,機関投資家に対する個別企業,

個別議案ベースでの議決権行使結果の開示で

あろう。2以下では,実質的に「議決権行使

結果個別開示元年」となった 17 年6月開催

の株主総会において,主に流動性が高く,時

価総額の大きな企業で構成される Russell/

Nomura�Large�Cap インデックス組入企業

のうち,17 年6月に株主総会を開催した 280

社�(以下,分析対象企業)を中心に,主な議

案に対する賛否結果を概観してその特徴など

を紹介するとともに,機関投資家による議決

権行使結果の個別開示の状況や今後の注目点

などについて述べていく。

2.主要議案の賛否動向 — 大きな変化は

見られず

表3は分析対象企業が臨時報告書で開示し

た主要議案の賛否結果の集計結果である。機

関投資家の議決権行使個別開示が始まること

により,議決権の行使基準が従来以上に厳し

くなることも想定されたが,買収防衛策や退

職慰労金贈呈議案に対する賛成比率が他の議

案に比べ相対的に低い一方,他の主要議案の

賛成比率は 90%を超えているなど,賛否の

動向は 16 年6月開催の株主総会時と比べ,

大きな変化はなかったように見える。

⑴経営トップの取締役選任議案の賛成比率の

低い事例が増加

しかし,より詳細に見ると注目すべき変化

がいくつか見られる。まず注目されるのが,

会長や社長等の「経営トップ」の取締役選任

議案への賛成比率である。16 年6月株主総

会では,経営トップの取締役選任議案の賛成

比率が 80%未満であったのは 286 社(16 年

6月総会での分析対象企業数)中7社であっ

たが,17 年6月総会では 280 社中 17 社に増

加している。その主な事例を表4に示した。

さらに詳しく見ると,前回も 80%未満で

あった例も見られるが,多くは,前回は

80%台,90%台の賛成比率であり,それぞれ

表3 主要議案の賛否状況

議案

17 年 6 月総会 16 年 6 月総会

平均賛成�比率(%)

賛成比率80%未満の議案数の割合(%)

平均賛成�比率(%)

賛成比率80%未満の議案数の割合(%)

取締役選任 95.1 2.2 95.5 1.5

監査役選任 93.5 4.8 93.2 9.4

監査等委員選任 95.1 1.8 91.0 10.9

剰余金処分(配当など)

97.1 1.0 96.9 1.0

定款変更 97.9 0.0 97.4 1.2

役員賞与支給 95.4 2.4 96.7 0.0

役員報酬額の改定 96.7 2.3 96.8 0.0

ストックオプション関係

94.6 5.5 93.8 6.4

役員退職慰労金の贈呈,打ち切り支給

79.6 42.9 84.8 14.3

買収防衛策 67.0 100.0 70.8 90.0

(注)�対象は 6 月に株主総会を開催した 3 月決算 Rus-sell/Nomura�large 構成企業で,16 年 6 月総会が286 社,17 年 6 月総会が 280 社。定款変更議案は,総会直前に 1件上程撤回があった

(出所)各社開示資料等より野村資本市場研究所作成

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の企業に賛成比率の低下要因があったと考え

られる。買収防衛策更新を株主総会に上程せ

ず取締役会で決定する企業や,ROE が相対

的に低い企業など,理由が推察できる事例も

あるが,必ずしも外部からは明確に把握でき

るわけではない。

⑵監査等委員会委員選任議案の賛成率は上昇

しているが…

15 年6月の会社法改正により認められる

ようになった監査等委員会設置会社の監査等

委員の選任議案への賛成比率は 16 年に比べ

上昇している。また,監査等委員会設置会社

への移行のための定款変更議案に対する反対

もあまり見られない。

しかし,これは,監査等委員会という機関

が多く支持されていることを必ずしも示して

いない。17 年6月株主総会を経て 800 社を

超えた監査等委員会に関しては,同制度への

移行が真にコーポレートガバナンスの向上に

結び付くのかについて疑問視する投資家は少

なくない。機関設計上認められるようになっ

てほぼ3年経過し,採用企業も増えてきたた

め,同制度への移行がコーポレートガバナン

スの向上につながるかどうかを検証する時期

に差し掛かってきたといえるであろう。

⑶非継続(廃止)を選択する企業が増え,平

均賛成率が低下した買収防衛策

買収防衛策関連議案については,上程社数

が 16 年の 20 社から7社に減少するととも

に,平均賛成比率も,16 年の 70.8%から

67.0%に低下した。買収防衛策関連の上程議

案数が 16 年に比べ大きく減少したのは,買

収防衛策を非継続とした企業が増えたためで

ある。17 年6月に買収防衛策の更新期を迎

える企業は分析対象企業中 19 社あったが,

そのうち 12 社が非継続とした。今回で分析

対象としているのは時価総額の大きな企業が

相対的に多いが,国内外の機関投資家の買収

防衛策に対する見方が従来以上に厳しくなっ

ており,それらの投資家が多いこれらの企業

群にとっては買収防衛策関連議案の賛成比率

低下,さらには否決リスクが高まってきたた

めと考えられる。今後も時価総額の相対的に

大きな企業を中心に,買収防衛策を非継続す

る企業が増えるであろう。

表4� 社長,会長等の取締役選任議案で賛成比率の低かった事例

該当企業所属業種�(東証 33 業種分類)

役職賛成比率(%)

参考:前回賛成比率(%)

前回総会�開催年

石油・石炭製品 社長 61.1 52.3 16 年

精密機器 社長 68.1 94.5 16 年

小売業 社長 68.8 94.5 15 年

情報・通信業 会長 69.8 86.4 16 年*

金属製品 社長 73.3 76.6 16 年

その他製品 社長 73.3 82.5 16 年

輸送用機器 会長 75.4 94.0 15 年*

医薬品 CEO 75.5 86.4 16 年

電気機器 会長 75.6 95.3 15 年*

海運業 会長 75.9 75.0 16 年

(注)1.�対象は 6 月に株主総会を開催した 3 月決算Rus�sell/Nomura�large 構成企業で,16 年 6 月総会が 286 社,17 年 6 月総会が 280 社

  � 2.�前回と今回で役職が異なっている場合は*を付した

(出所)各社開示資料等より野村資本市場研究所作成

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⑷インセンティブとの観点から注目される役

員報酬関連議案

役員退職慰労金贈呈議案への反対が多いこ

とや役員賞与支給議案や役員報酬額改定議案

の平均賛成比率は高い傾向にある。ストック

オプション(株式報酬型報酬制度を含む)に

ついては,昨今のインセンティブ報酬の導入

増加を受けて議案が増加している。役員報酬

にインセンティブの仕組みを取り入れること

について機関投資家も概ね好意的であり,賛

成比率は高い水準にある。

しかし,社外取締役や社内外の監査役への

付与には反対のスタンスをとる投資家も少な

くないため,付与対象に入っている場合に賛

成率の低い事例が見られる。また,権利が付

与されてから実際に行使できるまでの期間が

短いものについては,事実上業績を向上させ

るインティブにつながらないとして賛成比率

が低位に留まる事例も見られている。

⑸可決事例のあった株主提案とそのインプリ

ケーション

株主提案で注目されるのは,今回の分析対

象企業外ではあるが,ファンドとその共同保

有者から出された社外取締役の1名選任議案

が賛成多数で可決されたことである。提案者

側は総議決権数の約 37%を保有していたが,

当日の行使比率(約 90%)を考えると,彼

らだけでは株主提案を可決させるまでには至

らなかったはずである。同社の大株主には機

関投資家が実質株主と見られるカストディが

多いことから,機関投資家が中心と考えられ

る実質株主の一部が賛成に回ったと考えられ

る。

株主提案に関する動向について,海外に目

を向けると,投資ファンドの行動に変化が見

られる。財務状況や資産効率性の観点から増

配や自社株買いを求めることだけではなく,

企業の経営上の課題に対する対応(例えば事

業の売却や再編など)とそれを解決する施策

を提案する。そして,それらの提案は当該

ファンドだけに資するというものではなく,

年金など「メインストリーム」の投資家から

も賛同を受けやすい内容となっている。当該

ファンドそのものが保有する株数は決して多

くはない。

この場合,企業は「ファンドだから」,「短

期志向,かつ自分の利益だけを考えて行動し

ている」という理由ではその提案を排除する

ことはできない。従来のような「少数の大株

主」ではなく,賛同する株主を多く集め,

「同じ考えを持った多数の少数株主」からの

意見として,これらを受け入れる動きが見ら

れている。「なぜその議案に賛成(反対)し

たのか」についても説明が求められる局面が

ある

上述のような海外での変化が日本に波及し

てくれば,例えば株主提案において,議案提

出者の株式保有割合が小さいとしても,その

内容が多くの株主の賛同を得られるものであ

れば,当該議案への賛成比率は高まるであろ

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う。さらに,議決権行使結果の個別開示の始

まりで株主提案に対する賛否の動向が明らか

になると,一般的に投資家,株主,ひいては

(彼らの目線からは)企業にも資すると考え

られるにもかかわらず当該議案に反対した場

合,その反対理由について説明が求められる

ことも想定されるため,米国のように,多く

の株主が支持するような株主提案が提出され

るのであれば,より多くの賛成を集め,状況

によっては可決に至る可能性が高くなると考

えられる。

3.議決権行使結果の個別開示が始まる

⑴ 70 超の機関投資家が個別開示を実施

SS コードの改訂を機に,多くの機関投資

家が個別企業,個別議案ベースで議決権行使

結果の個別開示を始めた。金融庁が 17 年 12

月 21 日に公表した『スチュワードシップ・

コード改訂への対応状況ついて』によれば,

17 年 12 月 11 日時点で,スチュワードシッ

プ・コード改訂に伴う公表項目の更新を行っ

た旨の連絡があった 178 機関のうち,70 を

超える機関が議決権行使結果の個別開示を

行った。

個別開示を見送った機関では,日本生命保

険が,対話活動への悪影響への懸念,企業の

長期的な成長の阻害への懸念,彼らが反対し

た企業の株式を売却するとの憶測による株価

下落懸念,などの理由を開示している。それ

でも,17 年から従来の賛否結果の事例開示

から主要議案ベースでの開示を始めるなど,

より進んだ開示が行われるようになった。

個別開示の開始による機関投資家の議決権

行使動向の変化を見ると,確かに,業績や資

本効率性の基準厳格化等により剰余金処分議

案の反対比率が上昇した機関投資家や,独立

性や業績,資本効率性の基準厳格化等で取締

役選任議案に対する反対比率が上昇している

機関投資家が見られた。例えば,ニッセイア

セットマネジメントの剰余金処分議案に対す

る反対割合は,16 年の 5.0%から 22.0%に上

昇している。また,日興アセットマネジメン

トでは取締役選任議案に対する反対比率が

16 年度の 8.6%から 18.5%に上昇した。

一方,集計期間や集計方法を変更(例えば

従来の5-6月の集計から4-6月への変更

や,取締役選任議案の集計を従来の個別の取

締役候補者ベースへ変更など)した機関投資

家も見られるため単純比較は難しいが,全体

的に見れば,個別開示を機に議案の賛否結果

が大きく変化したとは言えない機関投資家も

ある。例えば,りそな銀行の全会社提案議案

に対する反対比率は,16 年が 17.1%なのに

対し 17 年は 17.5%である。これは,機関投

資家の議決権行使方針は過去からの変更を積

み重ねてきたため,現状では見直しの必要に

迫られる内容が少なくなってきたことが要因

と考えられる。

⑵「反対理由」の説明は十分と言い難い

一方,各機関投資家による個別開示の方法

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を見ると,多くは,証券コード,社名,総会

開催日,会社提案と株主提案の区別,議案の

項目,賛否結果の記載となっている。また,

不統一行使をした議案を明示したり,今回の

個別開示は利益相反対応の意味もあることか

ら,所属する金融グループの持ち株会社に対

する議決権行使の手法(例えば,議決権行使

助言会社の方針を採用したり,賛否の意思表

示をしない(棄権)など)を明示している機

関投資家も見られた。さらに,三井住友信託

銀行では,議決権行使した企業が主要取引先

である場合,それを明示するなど,一定の工

夫をしたところも少なくない。

また,改訂されたスチュワードシップ・

コードにおいて,「議決権の行使結果を公表

する際,機関投資家が議決権行使の賛否の理

由について対外的に明確に説明することも,

可視性を高めることに資すると考えられる」

と言及されたが,議案の反対理由について

は,主要議案ごとに概要を説明し,かつ説明

の分量を従来と比べて拡充した機関投資家が

多い。また,反対理由について,その概要を

1行程度で示したりするなどの工夫を行う機

関投資家も見られた。ただし,紙幅の制限も

あり,反対理由については詳細な説明がなさ

れているとは必ずしも言えず,特に企業側か

らは反対理由が不明確との印象を抱くところ

もあるのではないかと思われる。

⑶開示結果をベースにした対話の深化が期待

される

今回の個別開示で期待されるのは,議決権

行使の透明性をさらに向上させることと,個

別議案ベースでの結果開示を機に,機関投資

家と企業との「目的を持った対話」へ深化さ

せることであろう。その意味では,議案の賛

否が対話のテーマとして取り上げられるケー

スも増えると考えられる。

前述のように,17 年6月の株主総会にお

いて取締役選任の賛成比率が 16 年に比べ低

下するとともに,社長や会長といった経営

トップの取締役選任議案の中で賛成比率が低

い事例が増えている。経営トップの取締役選

任議案の賛成比率が低下することは企業に

とっては大きな問題と考えられるが,上述の

ように,今回示された個別開示による反対理

由説明では必ずしも十分とは言えないと考え

る企業が少なくないことも想像される。

コーポレートガバナンス・コードの補充原

則1-1①では「取締役会は,株主総会にお

いて可決には至ったものの相当数の反対票が

投じられた会社提案議案があったと認めると

きは,反対の理由や反対票が多くなった原因

の分析を行い,株主との対話その他の対応の

要否について検討を行うべきである」とされ

ていることから,企業側は反対比率の高い議

案に対する反対理由の詳細な説明を投資家に

求める機会が増えることが期待される。

企業の中にはこれまで「反対理由を聞いて

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も教えてくれない」との不満も聞かれていた

こともあり,投資家側も反対理由を丁寧に説

明することが望まれる。

⑷議決権行使個別開示への「期待」と「不安」

議決権行使個別開示を通じ,「議決権行使

結果を巡る企業と投資家との対話」が深化す

るかどうかが今後の注目点である。しかし,

今回議決権行使個別開示が始まったことによ

り,企業側からは,機関投資家の議決権行使

がこれまで以上に「杓子定規」になったとい

う意見が聞かれた。一方で,機関投資家側で

も,個別の事情を勘案して議決権行使をする

ことが難しくなったとして,「杓子定規化」

をある程度認める声が聞かれた。

一般に,主要機関投資家の議決権行使は一

定の基準に沿って行われるが,個別企業の状

況,事情を勘案,反映できるよう,解釈の余

地を持つような形で決められていることが少

なくない。しかし,個別開示をするのであれ

ば,そのような解釈の余地をなるべく狭め,

基準に対する考え方を明確にする必要がある

との考えもある。例えば,ほぼ同一の内容の

議案が A 社,B 社に出ていた場合,個社の

状況を勘案し,A 社の議案に賛成し,B 社

の議案に反対すると,「なぜ行使結果が違う

のか」という理由説明を,当該企業にだけで

はなく,広く行う必要が生じる。

多くの人の納得するような説明をすること

は容易ではないため,そのような説明をしよ

うとするのであれば,却って解釈の幅が広が

らないように,基準の判断基準をより精緻に

する方向に進むことが考えられる。従来より

企業側の一部には「機関投資家の議決権行使

は杓子定規である」という意見もあるため,

今回の議決権行使の個別開示によって「議決

権行使に係る対話を投資家としても意味がな

い」として対話に消極的な姿勢を示す企業が

増えてしまうことにつながることになると,

議決権行使の個別開示は,その期待した効果

とは逆の方向に働いてしまうという「不安」

がある。

一方,機関投資家側からは,株主総会後の

企業等からの行使結果の問い合わせが「あま

りなかった」という意見が比較的多く,議決

権行使結果が両者の対話の糸口として生かさ

れていないことも「不安」として挙げられ

る。

そのような事態を避けるためには,繰り返

しにはなるが,投資家側からは個別議案の反

対理由を企業側に丁寧に説明する姿勢が特に

求められると考える。

一方,企業側でも,機関投資家の判断が難

しいと想定される議案は,なるべく早期に開

示し,説明を行うことが肝要と考えられる。

個別の事情を勘案し,当該議案への賛否を表

明するには機関投資家側も時間を要する。こ

のため,早期に議案が開示されていないとそ

の内容等を検討する時間を十分とることがで

きず,結果として企業側から見れば「形式

的」と思われる判断をせざるを得なく可能性

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が従来よりも高くなることが懸念される。

このような「対話」と「説明」の深化とい

うプロセスを経て,議決権行使を介在して企

業と投資家との相互理解が先行き深まること

になれば,議決権行使結果の個別開示はその

「期待」された役割を果たしたということが

できるであろう。

⑸更に高まる議決権行使の位置づけ

SS,CG の2つのコードが求める「目的を

持った対話」が重視されるようになると,議

決権行使の位置づけは低下するとの見解があ

る。しかし,対話を経て投じられた議案への

賛否は形式,表面的ではない意思決定と考え

られる。スチュワードシップ・コードの導入

とその改訂を経て,個別議案への賛否に込め

られた投資家の意思はこれまで以上に強くな

るはずであり,「目的を持った対話」の深化

はむしろ議決権行使の重要性を高めることに

つながるであろう。

すなわち,企業側では上程議案が単に可決

されれば良いのではなく,株主,投資家から

の信任を対話により深めて,いかに賛成比率

を高めるか(反対比率を低くするか)が重要

な課題となるはずである。投資家の議決権行

使において,「情報,説明不足」が議案への

反対に結び付くことがさらに増えると想定さ

れる中,一定の反対が見込まれる議案を中心

に,企業側の考え方を積極的に開示,説明

し,理解を求めることがより重要になるであ

ろう。

一方,投資家は上述のように,議案の反対

理由を企業に丁寧に説明することが肝要であ

る。議決権行使結果の個別開示と対話の深化

で両者の相互理解を深めるというプロセスの

構築が課題となるであろう。(注1)

4.18 年以降の株主総会の注目点

⑴議決権行使助言会社の助言方針改定

① ISS

a. 指名委員会等設置会社及び監査等委員会

設置会社の取締役会構成要件の厳格化(19

年2月より)

19 年2月から,取締役の3分の1を社外

取締役とすることを求める。株主総会後の取

締役会に占める社外取締役の割合が3分の1

未満である場合,経営トップ(社長,会長)

である取締役選任議案への反対助言を行う。

ただし,社外取締役の独立性は問わない。ま

た,適切な社外取締役を選任できる時間を確

保するために,実施まで1年余りの猶予期間

を置く。なお監査役会設置会社については従

前通り2名以上の社外取締役を求める。

b.�買収防衛策(事前警告型)への総継続期

間要件の導入(18 年2月より)

買収防衛策を初めて導入した時から現在ま

での導入期間を「総継続期間」とし,3年を

超えるものには原則として買収防衛策更新議

案に反対助言を行う。買収防衛策は現在新規

の導入はほとんどなく,大部分が更新議案で

あることから,この助言方針の導入により,

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ISS が賛成助言を行う買収防衛策関連議案は

ほぼなくなくなると見られる。

②グラス・ルイス

a. 定款変更議案関連(18 年2月より)

剰余金の配当等の決定を取締役会のみと

し,株主総会による決議を排除する定款変更

には反対の助言を行う。ただし,既にこのよ

うな定款変更がされている場合は,特に経営

トップへの反対などの代替的な助言は行わな

い。剰余金配当を「株主総会によらず」決議

ができると定款記載されている場合,事実上

配当に関する株主提案が不可能になることが

反対助言の理由と考えられる。

b. 買収防衛策関連(18 年2月より)

独立性基準を満たした社外役員数を従来の

取締役総数の3分の1以上から過半数にする

ことを求める。実質的には基準の厳格化であ

る。

c. 取締役,監査役の兼任企業数(18 年2月

より)

上場グループ会社(原則,連結子会社と持

ち分法適用の関連会社などが該当)におい

て,取締役または監査役を兼任している場合

は,グループとして1社として計算する。兼

任社数基準(業務執行を行う役員は2社ま

で,非業務執行のみの役員は5社まで)は不

変であるが,実質的には基準の緩和である。

d.女性役員に関する数値基準(19年2月より)

TOPIX100 構成企業において女性の取締

役(監査役会設置会社では監査役も対象)が

存在しない場合,監査役会設置会社または監

査等委員会設置会社では会長(いない場合は

社長)の,指名委員会等設置会社では指名委

員会委員長の取締役選任に反対助言を行う。

ただし,女性取締役がいない場合でも,企業

が女性取締役選任の現状,今後の対応策,予

定などを明確に説明,開示している場合はこ

の規定を適用しない場合もある。我が国企業

で女性のマネジメント層の厚みを増すことに

対する企業の取り組みの促進を企図している

と考えられる。

⑵機関投資家の議決権行使基準

議決権行使助言会社の助言方針について

は,後述する CG コート改訂議論などを参考

にすると,国内系を中心とした機関投資家に

よる 18 年以降の議決権行使基準の改訂ポイ

ントとしては,次のようなものが挙げられ

る。

a. 社外取締役の増員

ISS の議決権行使助言方針や CG コードの

改訂議論などから考えると,現在多くの機関

投資家が2人以上の社外取締役の選任を求め

ているが,これを3分の1に増員するかどう

かが検討されるであろう。外資系の機関投資

家では既にこの基準の導入例も見られている

が,国内系に関しては,今後の状況を注視し

つつ,18 年よりもむしろ 19 年以降の検討項

目になることが考えられる。その際には,我

が国上場企業の約4分の3を占める監査役会

設置会社の多くのように,執行と監督が分離

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していない「マネジメントボード」型の機関

設計をとる企業にも同じ基準を求めるかどう

かは議論の余地があるだろう。

社外取締役の増員とともにポイントとして

は取締役会の独立性であろう。現在社外役員

の独立性は個別に判断するところが多いが,

取締役会に一定数を独立社外取締役が存在す

れば個別の独立性は取締役選任議案の判断に

用いないといった動きも将来的に増える可能

性があるだろう。

b. 剰余金処分

剰余金処分は一部企業を除いては賛成率が

非常に高い。しかし,保有現預金対自己資本

比など一定の「キャッシュリッチ基準」を設

定,参考にしつつ,状況によっては同議案へ

反対の意思表示をする投資家も増えてきた印

象がある。そのような動きがさらに進むかど

うかが注目される。

c. 役員報酬関連

コーポレートガバナンス改革が注目される

中,役員報酬に企業価値向上へのインセン

ティブをつけるために報酬制度に対する関心

が高まっている。そうした中,株式報酬型制

度に対する考え方,例えば希薄化,待機期

間,付与条件などを精査する動きが進むであ

ろう。特に付与対象者について,現状社外取

締役への付与には反対のスタンスが多いが,

ある程度のインセンティブの付与について柔

軟に考える機関投資家も見られており,こう

した動きの進捗にも注目したい。

d. 買収防衛策

機関投資家は買収防衛策に対する賛成基準

を厳格化する中で,例えば充実したガバナン

ス体制が構築されていると認められれば「例

外的」に賛成をするケースが増えるかどうか

にについても併せて注目したい。

e. 株主提案

コーポレートガバナンス改革の進捗で,い

わゆる投資ファンドによる我が国企業への関

心も高くなってきている。そのため,株主還

元等を求めるような株主提案が増える可能性

がある。ただし,国内外の多くの機関投資家

からの賛同を得るためには,資本政策や経営

戦略等の提案を伴った,多くの他の投資家か

らの賛同を集めやすいものが増えない限り,

株主提案に対する賛成比率の上昇は難しいと

考えられる。それとともに,我が国ではまだ

事例はあまりないものの,ESG 関連,特に

環境,社会関連の株主提案上程の可能性と,

投資家の反応も併せて注目される。

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Ⅲ.企業統治改革における今後の注目点

1.我が国でも始まる集団的エンゲージメ

ント

⑴企業年金連合会が集団的エンゲージメント

に言及

企業年金連合会(以下連合会)は改訂版

SS コードへの対応を目的に,17 年 11 月1

日,「スチュワードシップ責任を果たすため

の方針」を改定した。主な変更点は同コード

で言及された「議決権行使結果個別開示」と

「集団的エンゲージメント」の2点である。

まず,議決権行使個別開示については自家運

用分について行い,公表する予定である。

一方,集団的エンゲージメントについて

は,「他の機関投資家と協働して投資先企業

との建設的な『目的を持った対話』に取り組

む」との文言が付加されるとともに,10 月

に設立された集団的エンゲージメントを支援

する一般社団法人機関投資家協働対話フォー

ラム(以下,対話フォーラム)の「機関投資

家協働対話プログラム」に参加した。同プロ

グラムには連合会の他,三井住友アセットマ

ネジメント,三井住友信託銀行,三菱 UFJ

信託銀行,りそな銀行が参加している。機関

投資家との協働により,連合会は企業との対

話を重視する姿勢を一段と明確にしたといえ

る。

⑵何をテーマとし,何を成果とするかが課題

連合会と一部機関投資家による今回の動き

は,我が国での集団的エンゲージメントの始

動と捉えることができ,コーポレートガバナ

ンス改革の進捗につながることが期待される

ものとして興味深いが,「何をテーマとし,

何を成果と捉えるか」が課題と考える。

集団的エンゲージメントの手法としては,

事業活動の重大な変更を求めることや,特定

の議案に対する議決権行使での協調行動など

もあるが,同プログラムではこれらは実施せ

ず,特定の課題について企業と対話を深め,

両者の認識ギャップを埋めることが主な目的

と考えられる。既に集団的エンゲージメント

が行われている英国でも,企業に具体的な

コーポレートアクションの実施を促したこと

がエンゲージメントの成果との考えもあれ

ば,対話により共通認識を得られることが成

果との考えもある。

また,我が国の場合,対話のテーマとして

は政策保有株式や資本政策などが考えられる

が,これらに対する機関投資家の考え方は大

筋では一致しているものの,細かな点では異

なることが少なくないため,対話フォーラム

などがいかに機関投資家間での共通見解を纏

められるかなども課題となるであろう。

⑶「ビジネスモデルの持続性に関する重要な

課題の特定化と開示」を求めレターを送付

対話フォーラムは,18 年1月 15 日,主催

する機関投資家協働対話プログラム(以下,

対話プログラム)に参加する企業年金連合会

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及び4機関投資家とともに,企業に対し「ビ

ジネスモデルの持続性に関する重要な課題

(マテリアリティ)の特定化と開示」を要請

するレター送付を開始したと公表した(送付

先名は非開示)。これは,対話フォーラムの

事実上初めての活動となる。

要請に当たり,対話フォーラムは,「重要

課題(マテリアリティ)」の開示について,

いわゆるマルチステークホルダーを意識した

CSR(企業の社会的責任)に焦点を置いた

社会貢献的な活動に関する情報の開示ではな

く,投資家としての立場から重要となる「組

織の短・中・長期の価値創造能力に実質的な

影響を与える事象に関する情報」の開示と位

置付けている。

往々にして企業と投資家が用いる「マテリ

アリティ」の定義が異なり,対話がかみ合わ

ないことがあるため,価値創造の源泉,競争

優位の源泉という投資家が企業価値評価を行

う上で重視する観点からの説明を求める姿勢

を明確にしたと考えられる。さらに,ビジネ

スモデルの持続性に関するマテリアリティの

特定について,成長機会とリスクの2つに分

けて整理し,開示することを求めるととも

に,これを投資家との協働対話のテーマとす

ることを求めた。このように,用語の定義を

明確にすることは,両者の対話を建設的に進

める上で重要であろう。

対話プログラム参加者による今回の動き

は,日本における集団的エンゲージメントの

端緒と位置付けられる。対話フォーラムによ

れば,今回レターを送付したのは,これまで

積極的に CSR や ESG(環境・社会・ガバナ

ンス)に取り組むとともに ESG に関する非

財務情報の先進的かつ統合的な開示に取り組

んでいる企業の中で,今回対話フォーラムの

求める取り組みを行うことで,長期投資家か

らの持続的成長に対する確信が一層高まる可

能性のある企業とのことである。

その点から考えると,レターの送付先企業

は,相対的に投資家との対話に前向きと推察

される。また,要請内容も,中長期的な企業

価値向上に向けた企業の取り組みであり,抵

抗もあまり大きくないと考えられる。レター

の送付を受け,対話フォーラムの求める開示

が企業側にどの程度広がるか,また,対話

フォーラム,対話プログラム参加投資家との

間にどのような対話が展開されるかが注目さ

れる。

2.FDルール制定を対話深化の好機に

「フェア・ディスクロージャー・ルール」

(以下 FD ルール)とは,「公表前の内部情報

を発行者が第三者に提供する場合に当該情報

が他の投資家にも提供されることを確保す

る」ルールのことで,FD ルールガイドライ

ン 18 年4月1日より適用された。

投資家のスチュワードシップ,エンゲージ

メント活動の観点から FD ルールに関し注目

されるのは,決算発表前の一定期間,アナリ

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スト等への取材対応を企業が控える,いわゆ

る「沈黙期間」を企業側がどのように取り扱

うかである。FD ルールガイドラインでは,

「重要な情報」について特に明確化されてい

ない。この「重要とされる情報」の不明瞭さ

が企業の「沈黙期間」の運用を従来に増して

保守化させ,その結果,「沈黙期間」にはど

のような内容であってもアナリストや投資家

には会わないという姿勢を打ち出す企業が一

段と増え,その結果,本来の目的とは逆に対

話を消極化させてしまう危惧がある。

従って,FD ルールガイドラインにおける

「重要な情報」の明確化や発行体・投資家双

方の「重要とされる情報」への的確な理解,

それに基づく「沈黙期間」の短縮を含めた慣

習の見直しが肝要と考える。さらに,「通常

エンゲージメントを目的とした対話において

は『重要な情報』が存在する可能性が低いの

で,例え『沈黙期間』中であっても企業は

(合理的な範囲で)積極的に投資家との対話

に応じるべきである」といった内容を,例え

ば CG コードに盛り込むなども検討に値する

と思われる。

現在でも「沈黙期間」中にエンゲージメン

ト目的の対話まで排除する必要は本来ないは

ずであるが,保守的な姿勢をとる傾向がある

我が国企業や投資家に対しては,「言わなく

ても分かっているはず」のことであっても明

文化することで,安心して「目的を持った対

話」を積極的に行えるような土壌を作ってい

くことが望ましいと考える。

3.CGコードの改訂

⑴「対話ガイドライン案」と「CG コード改

訂案」

SS コードの改訂が一段落したことから,

次は CG コードの改訂が議論されている。

CG コードにおいては,特定の期間は示され

ていないものの,定期的な見直しを行うとい

う言及がある。こうしたことを背景に,16

年 11 月以降事実上休会状態であったフォ

ローアップ会議が 17 年 10 月より再開され

た。そして,この席において事務局から示さ

れた,「コーポレートガバナンス改革を巡る

指摘」として,「投資と内部留保」や「政策

保有株式」等5点を中心に議論を重ね,18

年3月 13 日開催の 15 回会議において「投資

家と企業の対話ガイドライン」(以下,対話

ガイドライン)案と,ガイドライン策定に伴

うCGコード改訂案が示された。

対話ガイドラインの位置づけは SS,CG 両

コードの付属文書であり,「SS コード及び

CG コードが求める持続的な成長と中長期的

な企業価値の向上に向けた機関投資家と企業

の対話において,重点的に議論することが期

待される事項を取りまとめたものである」と

されている。

対話ガイドライン案で,「経営環境の変化

に対応した経営判断」や「CEO の選解任・

取締役会の機能発揮等」,「政策保有株式」な

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ど5項目に関し,それぞれの対話の論点が示

されている(表5)。

さらに,対話ガイドライン策定に当たり,

CG コードの改訂も行われる。改訂案の概要

は表6に示した。

今回の対話ガイドラインの策定や CG コー

ド改訂は,現行の CG コードの内容を大きく

変えるというよりは,これまでも CG コード

表5 投資家と企業の対話ガイドライン(案)の概要

1. 経営環境の変化に対応した経営判断

(1-1)企業価値向上実現に向けた経営戦略・計画等の策定と公表

(1-2)経営陣による自社の資本コストの的確な把握

(1-3)�環境変化等に見合った果断な経営判断の実施,事業ポートフォリオの見直し方針の決定,実効性のある見直しプロセス

2. 投資戦略・財務管理の方針

(2-1)持続的成長と中長期的企業価値向上に向けた設備投資・研究開発・人材投資等の戦略的・計画的な実施

(2-2)経営戦略・投資戦略等を踏まえた財務管理の方針等の適切な策定・運用

3.CEOの選解任・取締役会の機能発揮等

〇CEOの選解任・育成等

(3-1 ~ 3-4)�CEO に求められる資質についての確立した考え方,独立した指名委員会の活用,後継者計画の適切な策定・運用,客観性・適時性・透明性のある選解任手続きの確立

〇経営陣の報酬決定

(3-5)�経営陣のインセンティブとして機能するような報酬制度設計,報酬委員会の活用などによる適切な報酬額決定プロセスの透明化,報酬制度やその適切さについての分かりやすい説明

〇取締役会の機能発揮

(3-6,3-7)�持続的成長と中期的企業価値向上に向けた適切な知識・能力の具備,ジェンダーや国際性の面を含む多様性の確保,取締役として女性が選任されているか,取締役会実証性評価の適切な実施とその結果の分かりやすい開示・説明

〇独立社外取締役の選任・機能発揮

(3-8,3-9)�適切な資質を有し,持続的成長,中長期的企業価値向上への寄与に必要な知見を備えた者の十分な数の選任,選解任に対する適切な対応,経営陣に対する独立社外取締役からの適切な助言・監督の実施

〇監査役等の選任・機能発揮

(3-10,3-11)�適切な知識・経験,能力を有する者の選任,適正な会計監査の確保に向けた実効的な対応,監査業務の適切な実施と適正な会計監査の確保に向けた実効的対応,監査役等に対する十分な支援体制の整備と内部監査部門との適切な連携の確保

4. 政策保有株式

〇政策保有株式の適否の検証等

(4-1)�ステークホルダーへの保有目的,保有銘柄の異動を含む保有状況に関する分かりやすい説明,個別銘柄に関し,保有の適否に関する資本コストが保有の便益,リスクに見合っているかなどの精査と取締役会での検証,その内容の開示・説明,適切な議決権行使基準の策定と分かりやすい開示,策定した基準に基づく適切な議決権行使

(4-2)保有縮減に関する方針・考え方の明確化とそれらに沿った適切な対応

〇政策保有株主との関係

(4-3,4-4)�取引縮減の示唆などによる売却妨害の有無,取引の経済合理性を十分検証せずに取引を継続するなど,会社や株主共同の利益を害するような取引の有無

5. アセットオーナー

(5-1)�自社の企業年金がアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるようにするための人事面や運営面での取り組み(こうした取り組みが利益相反の適切な管理の下で行われいるかについて留意が必要)

(出所)�スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第 15 回)事務局提出資料を基に野村資本市場研究所作成

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で言及されていながらも,説明や開示が必ず

しも十分ではない点の改善が目的と考えられ

る。そうした観点からは,次の4点に特に注

目したい。

第一に「資本コスト」への言及が随所に見

られることである。例えば,「経営陣が(中

略)資本コストを的確に把握しているか…」

(対話ガイドライン案1-2),「(前略)中長

期的に資本コストに見合うリターンを上げる

観点から…」(同2-1)との言及が見られ

る。さらに政策保有株式の適否の検証に当

たっても「(政策)保有に伴う便益やリスク

が資本コストに見合っているかなどを具体的

に検証し…」(同4-1)との言及があり,

企業に資本コストに対する意識を高めてもら

うことが企図されている。

第二に,経営陣がリスクの所在と収益機会

の存在を明確に意識し,中長期的に健全,か

つ持続的に企業価値を高める上で,取締役会

の構成や,社外取締役の役割,インセンティ

ブとしての報酬の重要性が強調されている点

も注目できる。

中でも,独立性の高い社外取締役の人数に

ついて,CG コードの改訂案では,従来通り

「2名以上選任すべき」とされた。これに関

しては,適任と考えられる社外取締役の候補

者が現在十分に存在するのかという点や,Ⅱ

章の4⑵(15 ページ)でも言及したように,

指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会

社のような「モニタリングボード」型ではな

表6� 対話ガイドライン策定に関連するCGコード改訂の主要論点

原則 1-4 政策保有株式

縮減方針・考え方等を政策保有に関する方針を含めた保有方針の開示,個別銘柄の保有の適否の検証とその内容の開示,議決権行使方針の具体的な基準の策定と開示など

補充原則 1-4 ①:政策保有株主からの売却を妨げない

補充原則 1-4 ②:政策保有株主との間で会社や株主共同の利益を害するような取引を行わない

原則 2-6 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮(新設)

自社の企業年金がアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるようにするための母体企業の取り組み内容の開示(取り組みに当たっては利益相反の適切な管理)

原則 3-1 情報開示の充実

CEO や経営陣の選任だけではなく解任に関する事項の説明,開示など

補充原則 4-1 ③ (取締役会によるサクセッションプランの適切な監督)

取締役会による後継者計画や育成への主体的な関与,後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて行われるよう取締役会は適切に監督

補充原則 4-2 ① (インセンティブとして機能するような経営陣報酬の設定)

取締役会による客観性・透明性ある手続きに従った報酬制度の設計と,具体的な報酬額の決定

原則 4-3 取締役会の役割・責務(3)

補充原則 4-3 ②,4-3 ③:CEO 選解任に関する取締役会の役割

原則 4-8 独立社外取締役の有効な活用

少なくとも 3 分の 1 以上の独立社外取締役の選任を必要と考える上場会社は,十分な人数を選任すべき

原則 4-10 任意の仕組みの活用

補充原則 4-10 ①:独立した任意の指名・報酬酬員会の設置(監査役会設置会社,監査等委員会設置会社)

原則 4-11 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件

取締役会はジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模で構成,監査役等が適切な経験・能力・知識を有するべき

原則 5-2 経営戦略や経営計画の策定・公表

資本コストを的確に把握した上での収益計画や資本政策の基本的方針の提示

経営資源の配分等の事例として事業ポートフォリオの見直しや設備投資・研究開発・人材投資を例示

(出所)�スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第 15回)事務局提出資料を基に野村資本市場研究所作成

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く,監査役会設置会社の多くで採用されてい

る「マネジメントボード」型の場合,社外取

締役の増員が取締役会の活性化につながるか

どうかなど,議論の残る点が考慮されたもの

と推察される。(注2)

しかし,改訂 CG コード案の原則4-8で

は,「少なくとも3分の1以上の独立社外取

締を選任することが必要と考える上場会社は

(中略)十分な人数の独立社外取締役を選任

すべき」とされており,増員を促す方向に進

んだということはできるであろう。

また,取締役会の多様性という観点では,

企業の置かれている状況や課題に適切に対応

しているかどうかがが非常に大切である。改

訂 CG コード案4- 11 では,ジェンダーや

国際性の面を含む取締役の多様性に言及され

ている。また,対話ガイドライン案3-6に

おいて女性取締役を置くことにも言及されて

いるが,これについては,企業が形式的な対

応に陥らないようにするため,特に現状まだ

女性役員の存在しない企業に対し,今後女性

役員(部長等のミドルマネジメントを含む)

を置くための社内の教育体制や経営陣の考え

方の説明,いわゆる「アクションプラン」求

め,投資家は企業の提示した「アクションプ

ランの内容を吟味しつつ,対話や議決権行使

を行うことが肝要と考える。

第三に,政策保有株式について,縮減方針

や資本コストを勘案した個別銘柄ベースでの

保有の適否の取締役会における検証や,いわ

ゆる株式を「持たせている側」の問題として

政策保有株主との関係に言及されており,従

来よりも一歩踏み込んだ内容になっていると

いえるであろう。

第四に,企業年金のスチュワードシップ活

動についである。企業年金がアセットオー

ナーとして期待される機能を発揮できるよう

母体企業に取り組みを求める原則(2-6)

が CG コードに新設されることになる。企業

年金基金の SS コード受入れが少ないことが

インベストメントチェーン上の一つの課題と

されていた。このため,母体企業に対し,企

業年金基金がスチュワードシップ活動などに

取り組みやすいような環境を整えることを促

すものと考えられる。

⑵ 18 年6月株主総会シーズンまでに正式公

表へ

対話ガイドラインの策定と CG コードの改

訂は 17 年 12 月8日に閣議決定された「新し

い政策パッケージ」で示された「18 年6月

の株主総会シーズンまで」の実施を目指して

いる。18 年3月 13 日のフォローアップ会議

で対話ガイドライン案,CG コート改訂案に

ついて概ね意見の集約がなされたことから,

今後は,①4月上旬ごろまでに対話ガイドラ

イン案,CGコード改訂案の最終案を公表し,

②各々(対話ガイドラインは金融庁,CG

コードは東京証券取引所)1か月程度のパブ

リックコメントを求めた後に,③5月下旬~

6月初旬にも,⑷東京証券取引所による CG

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コードの改訂と,金融庁による対話ガイドラ

インの正式決定,及びそれらの公表が実施さ

れると見られる。

⑶コンプライ・アンド・エクスプレイン」ベー

スでの対応を期待

現在のところ CG コードは補充原則まで含

めると 73 ある。東京証券取引所が 17 年6月

の株主総会終了後にまとめた CG コード対応

のコーポレート・ガバナンスに関する報告書

による開示状況を見ると,73 の原則全てを

受け入れ(コンプライ)ている企業は,対象

とされている東証1,2部上場企業合わせて

全体の 25.9%,そして 90%以上の原則を受

け入れている企業は 63.0%に上る。

このように対象企業の大部分がほぼすべて

の原則を受け入れているにもかかわらず,受

け入れた諸原則について実際にどのようなこ

とをしているかの説明は,東証で開示が求め

られる政策保有株式など 11 原則を除いては

あまりされていない。CG コードの改訂に伴

い,原則の数の増加が見込まれるが,これを

機会に,改訂版 SS コードでも考え方が取り

入れられた「コンプライ・アンド・エクスプ

レイン」ベースでの対応への移行にも期待し

たい。

4.会社法の見直し

05 年7月に施行された現行の会社法は 15

年5月に監査等委員会設置会社制度導入など

一部改定がなされているが,現在,見直しに

向けた議論が行われている。法務大臣の諮問

機関である法制審議会会社法制(企業統治関

係)部会は 18 年2月 14 日,「会社法制(企

業統治等関係)の見直しに関する中間試案」

を取りまとめた。これは2月 28 日より4月

13 日までパブリックコメントを募集して広

く意見を募る。

今回の中間試案に示されている見直しの項

目は表7に示したが,この中で,特に現在進

められているコーポレートガバナンス改革に

関連が深い項目としては,以下のものが挙げ

られる。

a. 株主総会資料の電子提供制度の創設

株主の承諾なく株主総会資料のウエブ開示

を可能とし,上場会社はこの制度の利用を義

務付け,書面での交付を希望する株主は企業

表7 会社法見直しの主要論点

第一部:株主総会に関する規律の見直し

 〇株主総会資料の電子提供制度

 〇株主提案権

第二部:取締役等に関する規律の見直し

 〇取締役等への適切なインセンティブの付与

 〇社外取締役の活用等

第三部:その他

 〇社債の管理

 〇株式交付

 〇その他

   ・責任追及等の訴えに係る訴訟における和解

   ・議決権行使書面の閲覧等

   ・株式の併合等に関する事前開示事項

   ・株式予約権に関する登記

   ・�株式会社の代表者の住所が記載された登記事項証明書

   ・会社の支店所在地における登記の廃止

(出所)�「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案(法制審議会会社法制 ( 企業統治等関係)部会)」より野村資本市場研究所作成

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へ請求することなどが検討されている。

b. 株主提案権の濫用的な行使を制限するた

めの措置の整備

株主提案議案数を 10 または5を上限にす

るするとともに,不適切な内容の株主提案に

対する制限の新設が検討されている。

c. 取締役の報酬に関する規律の見直し

取締役の報酬の内容に係る決定に関する方

針についての株主総会における説明義務の新

設,及び,株式報酬等に関する株主総会の決

議事項の見直し,�事業報告による情報開示の

充実などが挙げられている。

d. 社外取締役を置くことの義務付け

表2でも示したように,大部分の上場企業

で社外取締役が置かれるようになったが,中

間試案では,社外取締役の設置の義務付けを

する案としない案の両論が併記されている。

会社法改正に向け現在想定されるタイムス

ケジュールとしては,パブリックコメントの

募集後,その内容の検討等を行ない,18 年

度中に見直しの要綱をまとめると見られる。

その後,19 年以降の通常国会に会社法改正

案が提出され,審議の後改定に至ることにな

るであろう。

5.拡大続く ESG投資と「対話の深化」

⑴残高は 136 兆円超に

NPO 法人�日本サステナブル投資フォーラ

ム(以下 JSIF)が公表した「第3回サステ

ナブル投資残高アンケート調査」(回答機関

数 32,回答機関はアセットオーナーとイン

ベストメント・マネージャー)によると,17

年3月末時点での我が国のサステナブル投資

(ESG 投資とほぼ同義)残高は 136.6 兆円,

17 年3月末時点でのドル円レート 111.8 円

で換算すると約 1.22 兆ドルとなった。前回

(残高集計時期 16 年3月末,回答機関数 31)

は 56.3 兆円であったから,残高は約 2.4 倍

となった。また,回答機関の運用資産残高に

占める割合も,16 年3月末 16.8 %から

35.0%に拡大した。この比率上昇の理由とし

て,JSIF は社内で整理が進んだことにより

ESG インテグレーションに該当する資産を

見分けられるようになったことと,エンゲー

ジメントの広がりを挙げている。

運用資産残高に占める割合 35.0%を国際

比 較 す る と, 欧 州 の 58.0 %(16 年 The�

Global�Sustainable�Investment�Alliance 調

べ,以下同じ)には及ばないが,カナダ

(37.8%)とほぼ同水準で,米国(21.6%)

を上回っている。上述のように,機関投資家

側での分類の整理等により統計上残高が増加

している面も確かにあるが,それを差し引い

ても,国際的に見ても,我が国でも ESG 投

資が普及,定着してきたといえるであろう。

また,運用手法別にみると,欧州を中心に

グローバルベースではネガティブ・スクリー

ニングが多いのに対し,我が国ではコーポ

レートガバナンス改革の中で ESG 投資への

関心が高まったことから,議決権行使・エン

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ゲージメントが多い。今後,我が国でも

ESG インテグレーション等他の運用手法も

拡大するであろうが,当面は議決権行使・エ

ンゲージメントが中心となるであろう(表

8)。

このような状況を踏まえ,投資家と企業の

対話のテーマとして,環境や社会に関連した

話題が取り上げられる機会が増えている。表

9はその際取り上げられると考えられる課題

例である。こうした ESG に関連したテーマ

も「対話の深化」の上で重要である。

⑵投資家にとって「企業のリスク把握状況」

の把握が重要

ESG 関連した対話で重要なのは,「ESG

への取り組みが企業価値といかに結びつく

か」である。そして,「企業価値に結び付く」

という点には,「企業価値の向上」と「企業

価値の毀損防止」という2つの側面がある。

前者は投資家の関心も非常に高いと推察さ

れるが,後者の視点も非常に重要である。最

近は ESG の中でも,ガバナンスだけではな

く,環境や社会に関する諸問題への関心が高

まる傾向にある。こうした動きは海外発の話

題であることが非常に多いため,ともすれば

我が国企業,あるいは我が国の投資家にとっ

てはなじみが薄く,看過してしまう可能性も

ある。しかし,特に海外展開をしている企業

表8 運用手法ごとのサステナブル投資残高

金額�(10 億円)

前回比

ESGインテグレーション 42,966 +201.7%

ポジティブ(ベスト ・ イン・クラス)・スクリーニング�

6,693 +121.6%

サステナビリィ・テーマ型投資 1,385 +33.6%

インパクト・コミュニティ投資� 373 +0.8%

議決権行使・エンゲージメント 143,045 +310.0%

ネガティブ・スクリーニング 14,310 +536.0%

国際規範に基づくスクリーニング 23,909 +254.6%

(注)重複を含む(出所)�NPO 法人社会的責任投資フォーラム,及び�

Global�Sustainable� Investment�Review�2016(The�Global�Sustainable�Investment�Alliance)より野村資本市場研究所作成

表9 ESG関連の対話テーマの例

全体

パリ協定や SDGs といった持続可能な社会構築等を目的とした国際協調に資する要素への対応

環境

地球温暖化(脱炭素社会)エネルギー効率性水資源自然災害生物多様性サプライチェーン(原料調達関連)

社会

ダイバーシティ(女性の活躍など)労働者の健康,平等な配分,安全性(「働き方改革」など)サプライチェーン(労働管理関連)児童労働,奴隷的労働汚職(賄賂)コンプライアンス(不祥事)

ガバナンス

取締役(会)関連 ・�取締役の構成(ボードダイバーシティ等がある

が,ジェンダーや国籍だけではない) ・�監督と執行の分離に対する考え(アドバイザリー

ボード型かマネジメントボード型か) ・�社外取締役の属性(独立性,多様性など),企業

が社外取締役に期待するもの ・�社外取締役の活動状況,社外取締役のバックアッ

プ体制(取締役会で議論,発言等ができるような情報の提供)

 ・取締役会の活動状況(取締役会評価を含む) ・経営トップの後継者計画監査,内部通報体制(不祥事,訴訟等への対応)ステークホルダーへの対応

(出所)�インベストメントチェーンにおける Win-Win 環境の構築を目指して~スチュワードシップ責任と ESG の観点から~ (2016 年 12 月 GPIF)などを基に野村資本市場研究所作成

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にとっては,こうした環境や社会に関連する

潜在的なリスクは小さくないであろう。ま

た,環境や社会の観点からサプライチェーン

マネージメントの重要性も増しており,これ

は国内を中心とした企業にも影響が生じうる

ものである。

こうした各種のリスクへの対応状況を把握

することが投資家にとっても重要になってい

る。特に,企業がリスクの存在を把握してい

るが,まだそれに対する対応に未着手であ

る,あるいは取り組んでいる途上である項目

があれば,投資家にとってそれは最も有用な

情報であると考えられる。我が国の企業は

「対応途上」という開示をあまり積極的には

行なわず,対応が終了して初めて開示する傾

向が強い印象がある。しかし,投資家から見

れば,「どのようにリスクに対応しようとし

ているのか」という情報がむしろ有用,かつ

把握したい情報であると考えられる。

投資家にとっては,リスクの存在を企業が

把握していない,あるいは把握していてもそ

れに対応しようとしないことこそが当該企業

の大きなリスクと考えられる。投資家から見

た当該企業に該当すると考えられるリスクの

所在を把握していない,あるいは把握してい

ても対応する必要がないと考えている課題は

重要な対話のテーマとなるだろう。

6.「真の実質主義」に向かう企業統治改革

⑴価値協創ガイダンスと伊藤レポート 2.0

ESG に関する情報やビジネスモデル,経

営戦略といった非財務情報の充実は,企業と

投資家との「対話の深化」にとって重要では

あるものの,それらの情報開示は必ずしも十

分とは言えないのが現状である。そうした問

題意識から,経済産業省は 16 年8月,「持続

的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産

投資)研究会」を立ち上げ,そして,そこで

の議論を基に 17 年5月 29 日,「価値協創の

ための統合的開示・対話ガイダンス」を作

成,公表した。

ここでは,①価値観(企業理念やビジョン

等,自社の方向・戦略を決定する判断軸),

②ビジネスモデル(事業を通じて顧客・社会

に価値を提供し,持続的な企業価値につなげ

る仕組み),③持続可能性・成長性(ビジネ

スモデルが持続し,成長性を保つための重要

事項,ESG やリスク等),④�戦略(競争優

位を支える経営資源や無形資産等を維持・強

化し,事業ポートフォリオを最適化する方策

等),⑤成果と重要な成果指標(財務パフォー

マンスや戦略遂行の KPI 等),⑥ガバナンス

を考慮すべき基本的な枠組みとし,このガイ

ダンスが企業と投資家との「共通言語」とし

て機能し,かつ活用されることを企図してい

る。そして,企業側(企業経営者)は経営理

念やビジネスモデル,企業経営者が,自らの

経営理念やビジネスモデル,戦略,ガバナン

ス等を統合的に投資家に伝える際の手引とし

て,投資家が,中長期的な観点から企業を評

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価し,投資判断やスチュワードシップ活動に

役立てるための手引として活用されることが

期待されている。また,前述の「投資家と企

業との対話ガイドライン」が策定されれば,

このガイドラインと併せ,企業と機関投資家

との対話と相互理解の深化に寄与すると期待

される。

さらに,17 年 10 月 26 日には,経済産業

省から伊藤レポート 2.0(「持続的成長に向

けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究

会」報告書)」として,同研究会での議論を

まとめた報告書を公表した。そこでは,企業

価値協創ガイダンスの活用をはじめとした8

項目の提言がなされた(表 10)。

なお,伊藤レポート 2.0 では 14 年8月公

表の「伊藤レポート」で示された「ROE

8%」への言及が見られなかったことから,

一部では,この数値を取り下げたのではない

かとの見方もされた。しかし,冒頭に述べた

ように我が国企業の ROE が8%台まで上昇

してきたことから,「伊藤レポート 2.0」で

は,「ROE 8%」という数字を取り下げたの

ではなく,「8%以上のROEを今後とも(中

長期的にも),かつ持続的に実現するため」

に,「企業と投資家の協創による持続的な価

値創造」が重要であることを強調したという

ことができるであろう。

⑵真の実質主義では「形式」も「実質」も重要

現在進められているコーポレートガバナン

ス改革は「コンプライ・オア・エクスプレイ

ン」を基本とした原則主義(プリンシプル・

ベース)を基本にしている。ところが,細か

い規則やガイドライン等を設定して事実上強

制的に実施を促す実現主義(ルールべース)

が中心であったこれまでの諸改革とは大きく

異なる。

ただ,ここまでの改革を見る限り,プリン

シプルベースではあるもののルールベース的

な色彩を持つコーポレートガバナンス・コー

ドやスチュワードシップ・コードの「受け入

れ」や社外取締役の増員といった,形式的に

対応しても,見かけ上実施したことが明確に

分かるものを中心に進められた印象もぬぐい

きれず,「とりあえず実施した」という「ア

リバイ」作りのための,形式的な対応に終始

してしまう懸念もある。

一方,原則主義ベースの「説明」に関して

も,「言い訳」に終始している事例もないと

表 10 「伊藤レポート 2.0」での提言概要

1.�企業と投資家の共通言語としての「価値協創ガイダンス」策定

2.�企業の統合的な情報開示と投資家との対話を促進するプラットフォームの設立

3.�機関投資家の投資判断,スチュワードシップ活動におけるガイダンス活用の推進

4.開示・対話環境の整備

5.�資本市場における非財務情報データベースの充実とアクセス向上への取組

6.�政策や企業戦略,投資判断の基礎となる無形資産等に関する調査・統計,研究の充実

7.�企業価値を高める無形資産(人的資本,研究開発投資,IT・ソフトウェア投資等)への投資促進のためのインセンティブ設計

8.持続的な企業価値向上に向けた課題の継続的な検討

(出所)�経済産業省「伊藤レポート 2.0(「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」報告書より野村資本市場研究所作成

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は言えない。一例として,ROE が低い水準

に留まっている理由として,企業から「長期

的な視点から経営をしているのであり,短期

的な視点で ROE を上げることは却って企業

価値を損なうことにつながる」,という意見

を聞くことがある。

もちろん,「ROE さえ上げてくれればよ

い」と考える投資家も存在するであろうが,

企業との「目的を持った対話」を標榜する投

資家は,投下する資本をいかに効率的に利用

して中長期の企業価値を高めるのかという観

点から資本政策,そして ROE の動向に注目

しているのである。「形式」から「実質」へ

の移行が標榜されるコーポレートガバナンス

改革をこのような「見せかけの実質主義」に

留めてはならない。

他方,仮に実質が整っていても,株式市場

においてそれらが「見える化」されていなけ

れば,投資家がそれを評価することは容易で

はない。「形式主義」に陥るのは確かに問題

であるが,「形式」もまた重要である。「形式

も実質も」充実することこそが,「真の実質

主義」への転換であるといえるであろう。

Ⅳ.終わりに

本稿で述べてきたように,我が国のコーポ

レートガバナンス改革は第一ステップともい

える「形式面での整備」は概ね完了し,第二

ステップである「真の実質主義への転換」に

進む局面に移行したということができるであ

ろう。「真の実質主義への転換」にあたって

必要なことは,経営者が必要かつ適切なリス

クをとりつつ,持続的,長期的な企業価値向

上を図る方向にかじ取りをしていくこと,投

資家(アセットオーナー,アセットマネー

ジャー)は企業と協働してその実現を後押し

することである。

我が国のコーポレートガバナンス改革は成

長戦略の重要な柱とされた点がユニークであ

ることから,国内外で高い期待と関心を集め

ている。これらに応えるためには,本稿でこ

こまで述べてきたように,改革が単なる「形

式主義」に留まるのではなく,「真の実質主

義への転換」をどのように図るかが重要な鍵

になる。コーポレートガバナンス改革は我が

国経済,株式市場にとって引き続き関心の高

い,息の長いテーマであり,その歩みを止め

ることなく,「真の実質主義」に向けた動き

がさらに進むことが期待される。

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《注》

1.16 年6月1日開催の第8回フォローアップ会議

において,議決権行使をめぐる利益相反(ケース

スタディ)の1つとして「企業から取引先証券会

社に対し,子会社の運用機関が賛成の議決権行使

を行うよう働きかける可能性」に言及した。

  そのようなケースが存在する可能性は現状高く

ないであろうが,議決権行使結果の個別開示が企

業と投資家との相互理解を深めるともに,議決権

行使が,真に企業価値向上という観点から行える

ようにするためには,例えば CG コードに,上述

のようなケースが利益相反に相当することを示す

ことで企業に理解してもらい,議決権行使担当者

が「このような議決権行使を行ったらどこからか

何か言われるのではないか」との懸念から完全に

自由になれるような環境を整えることも有用と考

える。

2.東京証券取引所は 18 年1月「相談役・顧問等

の開示に関する「コーポレート・ガバナンスに関

する報告書」記載要領の改訂」を公表し,企業が

東証等に提出するコーポレート・ガバナンスに関

する報告書に,以下の記載を求めた。

①「代表取締役社長等を退任した者の状況」として,

代表取締役社長等であった者が,取締役など会社

法上の役員の地位を退いた後,引き続き,相談役

や顧問など何らかの役職に就任している,又は何

らか会社と関係する地位にある場合には,それぞ

れの者ごとに氏名や役職・地位,業務内容,勤務

形態・条件(常勤・非常勤,報酬有無等)及び代

表取締役社長等の退任日,相談役・顧問等として

の任期を記載するとともに,その合計人数を記載。

②「その他の事項」の欄に,相談役・顧問などの存

廃に係る状況(「すでに廃止済み」,「制度はある

が現在は対象者がいない」など),相談役・顧問

等に関する社内規程の制定改廃や任命に際して

の,取締役会や指名・報酬委員会の関与の有無,

相談役・顧問等の報酬総額などを記載。

  これらは,相談役・顧問を一律に否定するもの

ではないが,同制度を持つ企業ではその在り方や

役割の確認,再検討を始めるところが見られてい

る。こうしたことも,経営経験者など企業経営に

深い知見を持つ者が,社外取締役として活動する

ことを促進すると期待される。

《参考文献》

・旬刊商事法務 No.2160,公益社団法人商事法務研

究会,2018 年3月

・円谷昭一編著「コーポレート・ガバナンス�「本当

にそうなのか ?」— 大量データからみる真実 —」

同文舘,2017 年 12 月

・西山賢吾「スチュワードシップ・コードの改訂と

機関投資家の対応」証券アナリストジャーナル

2018 年3月号,公益社団法人日本証券アナリスト

協会

・水口剛「ESG 投資 新しい資本主義のかたち」日

本経済新聞社,2017 年9月

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ディスクレイマー 本資料は表紙に記載されている野村グループの関連会社により作成されたもので、表紙などに従業員やその協力者が記載されている1社あるいは複数の野村グループの関連会社によって単独あるいは共同で作成された資料が含まれます。ここで使用する「野村グループ」は、野村ホールディングス、およ

びその関連会社と子会社を指し、また、日本の野村證券(「NSC」)、英国のノムラ・インターナショナル plc (「NIplc」)、米国のノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル・インク (「NSI」)、インスティネット LLC (「ILLC」)、香港の野村国際(香港) (「NIHK」)、韓国のノムラ・フィナンシャル・インベストメント(韓国) (「NFIK」) (韓国金融投資協会(「KOFIA」)に登録しているアナリストの情報は KOFIAのイントラネット http://dis.kofia.or.kr でご覧いただけます)、シンガポー

ルのノムラ・シンガポール・リミテッド (「NSL」) (登録番号 197201440E、 シンガポール金融監督局に監督下にあります)、オーストラリアのノムラ・オーストラリア・リミテッド (「NAL」) (ABN 48 003 032 513) (オーストラリアのライセンス番号 246412、オーストラリア証券投資委員会(「ASIC」)の監督下にあります)、インドネシアのP.T.ノムラ・セキュリタス・インドネシア (「PTNSI」)、マレーシアのノムラ・セキュリティーズ・マレーシアSdn. Bhd. (「NSM」)、台湾のNIHK 台北

支店 (「NITB」)、インドのノムラ・フィナンシャル・アドバイザリー・アンド・セキュリティーズ (インディア) プライベート・リミテッド (「NFASL」)、 (登録住所: Ceejay House, Level 11, Plot F, Shivsagar Estate, Dr. Annie Besant Road, Worli, Mumbai- 400 018, India;電話: +91 22 4037 4037、ファックス: +91 22 4037 4111; CIN 番号:U74140MH2007PTC169116、SEBI登録番号(株式ブローカレッジ): BSE INB011299030、NSE INB231299034、 INF231299034、 INE

231299034, MCX: INE261299034、SEBI登録番号(マーチャントバンキング):INM000011419、SEBI登録番号(リサーチ):INH000001014)、スペインの NIplc マドリッド支店 (「NIplc, Madrid」)が含まれます。リサーチ・レポートの表紙のアナリスト名の横に記載された「CNS タイランド」の記載は、タイのキャピタル・ノムラ・セキュリティーズ・パブリック・カンパニー・リミテッド (「CNS」)に雇用された当該アナリストが、CNS及び NSL間のアグリーメントに基づき、NSLにリ

サーチ・アシスタントのサービスを行っていることを示しています。リサーチ・レポートの表紙の従業員氏名の横に記載された「NSFSPL」は、ノムラ・ストラクチャード・ファイナンス・サービシーズ・プライベート・リミテッドに雇用された当該従業員が、インタ-カンパニー・アグリーメントに基づき、特定の野村の関連会社のサポ―トを行っていることを示しています。リサーチ・レポートの表紙のアナリスト名の横に記載された「BDO-NS」(「BDO ノムラ・セキュリティー

ズ・インク」を表します)の記載は、BDOユニバンク・インク(「BDOユニバンク」)に雇用されBDO-NSに配属された当該アナリストが、BDOユニバンク、NSL及び BDO-NS間のアグリーメントに基づき、NSLにリサーチ・アシスタントのサービスを行っていることを示しています。BDO-NSはBDOユニバンクと野村グループのジョイント・ベンチャーで、フィリピンの証券ディーラーです。 本資料は、(i)お客様自身のための情報であり、投資勧誘を目的としたものではなく、(ii)証券の売却の申込みあるいは証券購入の勧誘が認められていない地域における当該行為を意図しておらず、かつ(iii)野村グループに関するディスクロージャー以外は、信頼できると判断されるが野村グループによる独

自の確認は行っていない情報源に基づいております。 野村グループに関するディスクロージャー以外は、野村グループは、本資料の正確性、完全性、信頼性、適切性、特定の目的に対する適性、譲渡可能性を表明あるいは保証いたしません。また、本資料および関連データの利用の結果として行われた行為(あるいは行わないという判断)に対する責任を負い

ません。これにより、野村グループによる全ての保証とその他の言質は許容可能な最大の範囲まで免除されます。野村グループは本情報の利用、誤用あるいは配布に対して一切の責任を負いません。 本資料中の意見または推定値は本資料に記載されている発行日におけるものであり、本資料中の意見および推定値を含め、情報は予告なく変わること

があります。野村グループは本資料を更新する義務を負いません。本資料中の論評または見解は執筆者のものであり、野村グループ内の他の関係者の見解と一致しない場合があります。お客様は本資料中の助言または推奨が各自の個別の状況に適しているかどうかを検討する必要があります。また、必要に応じて、税務を含め、専門家の助言を仰ぐことをお勧めいたします。野村グループは税務に関する助言を提供しておりません。 野村グループ、その執行役、取締役、従業員は、関連法令、規則で認められている範囲内で、本資料中で言及している発行体の証券、商品、金融商品、またはそれらから派生したオプションやその他のデリバティブ商品、および証券について、自己勘定、委託、その他の形態による取引、買持ち、売持ち、あるいは売買を行う場合があります。また、野村グループ会社は発行体の金融商品の(英国の適用される規則の意味する範囲での)マーケットメーカーある

いはリクイディティ・プロバイダーを務める場合があります。マーケットメーカー活動が米国あるいはその他の地域における諸法令および諸規則に明記された定義に従って行われる場合、発行体の開示資料においてその旨が別途開示されます。 本資料はスタンダード・アンド・プアーズなどの格付け機関による信用格付けを含め、第三者から得た情報を含む場合があります。当該第三者の書面によ

る事前の許可がない限り、第三者が関わる内容の複製および配布は形態の如何に関わらず禁止されております。第三者である情報提供者は格付けを含め、いずれの情報の正確性、完全性、適時性あるいは利用可能性を保証しておらず、原因が何であれ、(不注意あるいは他の理由による)誤りあるいは削除、または当該内容の利用に起因する結果に対する一切の責任を負いません。第三者である情報提供者は、譲渡可能性あるいは特定の目的または

利用への適性の保証を含め(ただしこれに限定されない)、明示的あるいは暗黙の保証を行っていません。第三者である情報提供者は格付けを含め、提供した情報の利用に関連する直接的、間接的、偶発的、懲罰的、補償的、罰則的、特別あるいは派生的な損害、費用、経費、弁護料、損失コスト、費用(損失収入または利益、機会コストを含む)に対する責任を負いません。信用格付けは意見の表明であり、事実または証券の購入、保有、売却の推奨を

表明するものではありません。格付けは証券の適合性あるいは投資目的に対する証券の適合性を扱うものではなく、投資に関する助言として利用することはお控えください。 本資料中に含まれる MSCIから得た情報は MSCI Inc.(「MSCI」)の独占的財産です。MSCIによる事前の書面での許可がない限り、当該情報および他の

MSCIの知的財産の複製、再配布あるいは指数などのいかなる金融商品の作成における利用は認められません。当該情報は現状の形で提供されています。利用者は当該情報の利用に関わるすべてのリスクを負います。これにより、MSCI、その関連会社または当該情報の計算あるいは編集に関与あるいは関係する第三者は当該情報のすべての部分について、独創性、正確性、完全性、譲渡可能性、特定の目的に対する適性に関する保証を明確に放棄

いたします。前述の内容に限定することなく、MSCI、その関連会社、または当該情報の計算あるいは編集に関与あるいは関係する第三者はいかなる種類の損失に対する責任をいかなる場合にも一切負いません。MSCIおよび MSCI指数は MSCIおよびその関連会社のサービス商標です。 Russell/Nomura 日本株インデックスの知的財産権およびその他一切の権利は野村證券株式会社およびFrank Russell Company に帰属します。なお、野

村證券株式会社および Frank Russell Company は、当インデックスの正確性、完全性、信頼性、有用性、市場性、商品性および適合性を保証するものではなく、インデックスの利用者およびその関連会社が当インデックスを用いて行う事業活動・サービスに関し一切責任を負いません。 本資料は投資家のお客様にとって投資判断を下す際の諸要素のうちの一つにすぎないとお考え下さい。また、本資料は、直接・間接を問わず、投資判断に伴う全てのリスクについて検証あるいは提示しているのではないことをご了解ください。野村グループは、ファンダメンタル分析、定量分析等、異なるタイプの数々のリサーチ商品を提供しております。また、時間軸の捉え方や分析方法の違い等の理由により、リサーチのタイプによって推奨が異なる場合が

あります。野村グループは野村グループのポータル・サイト上へのリサーチ商品の掲載および/あるいはお客様への直接的な配布を含め、様々な方法によってリサーチ商品を発表しております。調査部門が個々のお客様の要望に応じて提供する商品およびサービスはお客様の属性によって異なる場合があります。 当レポートに記載されている数値は過去のパフォーマンスあるいは過去のパフォーマンスに基づくシミュレーションに言及したものである場合があり、将来のパフォーマンスを示唆するものとして信頼できるものではありません。情報に将来のパフォーマンスに関する示唆が含まれている場合、係る予想は将来のパフォーマンスを示唆するものとして必ずしも信頼できるものではありません。また、シミュレーションはモデルと想定の簡略化に基づいて行われており、

想定が過度に簡略化され、将来のリターン分布を反映していない場合があります。本資料で説明のために作成・発行された数値、投資ストラテジー、インデックスは、EU金融ベンチマーク規制が定義する"ベンチマーク"としての"使用"を意図したものではありません。 特定の証券は、その価値または価格、あるいはそこから得られる収益に悪影響を及ぼし得る為替相場変動の影響を受ける場合があります。

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金融市場関連のリサーチについて:アナリストによるトレード推奨については、以下の 2通りに分類されます;戦術的(tactical)トレード推奨は、向こう 3 ヶ月程度の見通しに基づいています;戦略的(strategic)トレード推奨は、向こう6ヶ月から 12ヶ月の見通しに基づいています。これら推奨トレードについては、経済・市場環境の変化に応じて、適宜見直しの対象となります。また、ストップ・ロスが明記されたトレードについては、その水準を超えた時点で推奨の対

象から自動的に外れます。トレード推奨に明記される金利水準や証券のプライスについては、リサーチ・レポートの発行に際してアナリストから提出された時点の、ブルームバーグ、ロイター、野村のいずれかによる気配値であり、その時点で、実際に取引が可能な水準であるとは限りません。 本資料に記載された証券は米国の 1933 年証券法に基づく登録が行われていない場合があります。係る場合、1933 年証券法に基づく登録が行われる、

あるいは当該登録義務が免除されていない限り、米国内で、または米国人を対象とする購入申込みあるいは売却はできません。準拠法が他の方法を認めていない限り、いかなる取引もお客様の地域にある野村の関連会社を通じて行う必要があります。 本資料は、NIplcにより英国および欧州経済領域内において投資リサーチとして配布することを認められたものです。NIplcは、英国のプルーデンス規制機構によって認可され、英国の金融行為監督機構とプルーデンス規制機構の規制を受けています。NIplc はロンドン証券取引所会員です。本資料は、英国の適用される規則の意味する範囲での個人的な推奨を成すものではなく、あるいは個々の投資家の特定の投資目的、財務状況、ニーズを勘案したもの

ではありません。本資料は、英国の適用される規則の目的のために「適格カウンターパーティ」あるいは「専門的顧客」である投資家のみを対象にしたもので、したがって、当該目的のために「個人顧客」である者への再配布は認められておりません。本資料は、香港証券先物委員会の監督下にある NIHKによって、香港での配布が認められたものです。本資料は、オーストラリアでASICの監督下にあるNALによってオーストラリアでの配布が認められたもの

です。また、本資料はNSMによってマレーシアでの配布が認められています。シンガポールにおいては、本資料はNSLにより配布されました。NSLは、証券先物法(第 289 条)で定義されるところの認定投資家、専門的投資家もしくは機関投資家ではない者に配布する場合、海外関連会社によって発行された証券、先物および為替に関わる本資料の内容について、法律上の責任を負います。シンガポールにて本資料の配布を受けたお客様は本資料から発

生した、もしくは関連する事柄につきましては NSLにお問い合わせください。本資料は米国においては 1933年証券法のレギュレーション Sの条項で禁止されていない限り、米国登録ブローカー・ディーラーである NSIにより配布されます。NSIは 1934年証券取引所法規則 15a-6に従い、その内容に対する責任を負っております。本資料を作成した会社は、野村グループ内の関連会社が、顧客が入手可能な複製を作成することを許可しています。 野村サウジアラビア、NIplc、あるいは他の野村グループ関連会社はサウジアラビア王国(「サウジアラビア」)での(資本市場庁が定めるところの、)「オーソライズド・パーソンズ」、「エグゼンプト・パーソンズ」、または「インスティテューションズ」以外の者への本資料の配布、アラブ首長国連邦(「UAE」)におい

ては、(ドバイ金融サービス機構が定めるところの、)「専門的顧客」以外の者への配布、また、カタール国の(カタール金融センター規制機構が定めるところの、)「マーケット・カウンターパーティー」、または「ビジネス・カスタマーズ」以外の者への配布を認めておりません。サウジアラビアおいては、「オーソライズド・パーソンズ」、「エグゼンプト・パーソンズ」、または「インスティテューションズ」以外の者、UAEの「専門的顧客」以外の者、あるいはカタールの「マー

ケット・カウンターパーティー」、または「ビジネス・カスタマーズ」以外の者を対象に本資料ならびにそのいかなる複製の作成、配信、配布を行うことは直接・間接を問わず、係る権限を持つ者以外が行うことはできません。本資料を受け取ることは、サウジアラビアに居住しないか、または「オーソライズド・パーソンズ」、「エグゼンプト・パーソンズ」、または「インスティテューションズ」であることを意味し、UAEにおいては「専門的顧客」、カタールにおいては「マー

ケット・カウンターパーティー」、または「ビジネス・カスタマーズ」であることの表明であり、この規定の順守に同意することを意味いたします。この規定に従わないと、サウジアラビア、UAE、あるいはカタールの法律に違反する行為となる場合があります。 カナダ投資家へのお知らせ:本資料は個人的な推奨ではありません。また投資目的、財務状況、あるいは特定の個人または口座の特定のニーズを考慮したものではありません。本資料はオンタリオ証券委員会の NI 31-103のセクション 8.25に基づいてお客様へ提供されています。 台湾上場企業に関するレポートおよび台湾所属アナリスト作成のレポートについて:本資料は参考情報の提供だけを目的としています。お客様ご自身で投資リスクを独自に評価し、投資判断に単独で責任を負っていただく必要があります。本資料のいかなる部分についても、野村グループから事前に書面で承認を得ることなく、報道機関あるいはその他の誰であっても複製あるいは引用することを禁じます。「Operational Regulations Governing Securities

Firms Recommending Trades in Securities to Customer」及びまたはその他の台湾の法令・規則に基づき、お客様が本資料を関係者、関係会社およびその他の第三者を含む他者へ提供すること、あるいは本資料を用いて利益相反があるかもしれない活動に従事することを禁じます。NIHK台湾支店が執行できない証券または商品に関する情報は、情報の提供だけを目的としたものであり、投資の推奨または勧誘を意図したものではありません。 本資料のいかなる部分についても、野村グループ会社から事前に書面で同意を得ることなく、(i)その形態あるいは方法の如何にかかわらず複製する、あるいは(ii)配布することを禁じます。本資料が、電子メール等によって電子的に配布された場合には、情報の傍受、変造、紛失、破壊、あるいは遅延もしく

は不完全な状態での受信、またはウィルスへの感染の可能性があることから、安全あるいは誤りがない旨の保証は致しかねます。従いまして、送信者は電子的に送信したために発生する可能性のある本資料の内容の誤りあるいは欠落に対する責任を負いません。確認を必要とされる場合には、印刷された文書をご請求下さい。 日本で求められるディスクレイマー レポート本文中の格付記号の前に※印のある格付けは、金融商品取引法に基づく信用格付業者以外の格付業者が付与した格付け(無登録格付け)です。

無登録格付けについては「無登録格付に関する説明書」https://www.nomura.co.jp/retail/bond/noregistered.html をご参照ください。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大 1.404%(税込み)(20 万円以下の場合は、2,808 円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等

の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内 REIT、国内 ETF、国内 ETN を含む)の売買取引には、約定代金に対し最大 1.404%(税込み)(20万円以下の場合は 2,808 円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。

国内 REIT は運用する不動産の価格や収益力の変動により損失が生じるおそれがあります。国内 ETFは連動する指数等の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大 1.026%

(税込み)(売買代金が 75万円以下の場合は最大 7,668円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失

が生じるおそれがあります。 信用取引には、売買手数料(約定代金に対し最大 1.404%(税込み)(20万円以下の場合は 2,808円(税込み)))、管理費および権利処理手数料をいただきます。加えて、買付の場合、買付代金に対する金利を、売付けの場合、売付け株券等に対する貸株料および品貸料をいただきます。委託保証金は、売

買代金の 30%以上(オンライン信用取引の場合、売買代金の 33%以上)で、かつ 30万円以上の額が必要です。信用取引では、委託保証金の約 3.3 倍ま

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で(オンライン信用取引の場合、委託保証金の約 3倍まで)のお取引を行うことができるため、株価の変動により委託保証金の額を上回る損失が生じるおそれがあります。詳しくは、上場有価証券等書面、契約締結前交付書面、等をよくお読みください。 CBの売買取引には、約定代金に対し最大 1.08%(税込み)(4,320円に満たない場合は 4,320円(税込み))の売買手数料をいただきます。CBを相対取引

(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。CBは転換もしくは新株予約権の行使対象株式の価格下落や金利変動等によるCB価格の下落により損失が生じるおそれがあります。加えて、外貨建てCBは、為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 債券を募集・売出し等その他、当社との相対取引によってご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。債券の価格は市場の金利水準の変化に対応して変動しますので、損失が生じるおそれがあります。また、発行者の経営・財務状況の変化及びそれらに関する外部評価の変化等により、投資元本を割り込むことがあります。加えて、外貨建て債券は、為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 個人向け国債を募集によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。個人向け国債は発行から 1年間、原則として中途換金はできません。個人向け国債を中途換金する際、原則として次の算式によって算出される中途換金調整額が、売却される額面金額に経過利子を加えた金額より差し引かれます。(変動 10 年:直前 2 回分の各利子(税引前)相当額×0.79685、固定 5年、固定 3 年: 2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685) 物価連動国債を募集・売出等その他、当社との相対取引によって購入する場合は、購入対価のみをいただきます。当該商品の価格は市場の金利水準及び全国消費者物価指数の変化に対応して変動しますので、損失が生じるおそれがあります。想定元金額は、全国消費者物価指数の発行時からの変化率に応じて増減します。利金額は、各利払時の想定元金額に表面利率を乗じて算出します。償還額は、償還時点での想定元金額となりますが、平成 35

年度以降に償還するもの(第 17回債以降)については、額面金額を下回りません。 投資信託のお申込み(一部の投資信託はご換金)にあたっては、お申込み金額に対して最大 5.4%(税込み)の購入時手数料(換金時手数料)をいただきます。また、換金時に直接ご負担いただく費用として、換金時の基準価額に対して最大 2.0%の信託財産留保額をご負担いただく場合があります。投資信

託の保有期間中に間接的にご負担いただく費用として、国内投資信託の場合には、信託財産の純資産総額に対する運用管理費用(信託報酬)(最大5.4%(税込み・年率))のほか、運用成績に応じた成功報酬をご負担いただく場合があります。また、その他の費用を間接的にご負担いただく場合があります。外国投資信託の場合も同様に、運用会社報酬等の名目で、保有期間中に間接的にご負担いただく費用があります。 投資信託は、主に国内外の株式や公社債等の値動きのある証券を投資対象とするため、当該資産の市場における取引価格の変動や為替の変動等により基準価額が変動します。従って損失が生じるおそれがあります。投資信託は、個別の投資信託ごとに、ご負担いただく手数料等の費用やリスクの内容や性質が異なります。また、上記記載の手数料等の費用の最大値は今後変更される場合がありますので、ご投資にあたっては目論見書や契約締結前

交付書面をよくお読みください。 金利スワップ取引、及びドル円ベーシス・スワップ取引(以下、金利スワップ取引等)にあたっては、所定の支払日における所定の「支払金額」のみお受払いいただきます。金利スワップ取引等には担保を差入れていただく場合があり、取引額は担保の額を超える場合があります。担保の額は、個別取引によ

り異なりますので、担保の額及び取引の額の担保に対する比率を事前に示すことはできません。金利スワップ取引等は金利、通貨等の金融市場における相場その他の指標にかかる変動により、損失が生じるおそれがあります。また、上記の金融市場における相場変動により生じる損失が差入れていただいた担保の額を上回る場合があります。また追加で担保を差入れていただく必要が生じる場合があります。お客様と当社で締結する金利スワップ取引等

と「支払金利」(又は「受取金利」)以外の条件を同一とする反対取引を行った場合、当該金利スワップ取引等の「支払金利」(又は「受取金利」)と、当該反対取引の「受取金利」(又は「支払金利」)とには差があります。商品毎にリスクは異なりますので、契約締結前交付書面やお客様向け資料をよくお読みください。 クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)取引を当社と相対でお取引いただく場合は手数料をいただきません。CDS取引を行なうにあたっては、弊社との間で合意した保証金等を担保として差し入れ又は預託していただく場合があり、取引額は保証金等の額を超える場合があります。保証金等の額は信用度に応じて相対で決定されるため、当該保証金等の額、及び、取引額の当該保証金等の額に対する比率をあらかじめ表示することはできません。CDS取引

は参照組織の一部又は全部の信用状況の変化や、あるいは市場金利の変化によって市場価値が変動し、当該保証金等の額を超えて損失が生じるおそれがあります。信用事由が発生した場合にスワップの買い手が受取る金額は、信用事由が発生するまでに支払う金額の総額を下回る場合があります。また、スワップの売り手が信用事由が発生した際に支払う金額は、信用事由が発生するまでに受取った金額の総額を上回る可能性があります。他の条

件が同じ場合に、スワップの売りの場合に受取る金額と買いの場合に支払う金額には差があります。 CDS取引は、原則として、金融商品取引業者や、あるいは適格機関投資家等の専門的な知識を有するお客様に限定してお取り扱いしています。 有価証券や金銭のお預かりについては料金をいただきません。証券保管振替機構を通じて他の証券会社へ株式等を移管する場合には、数量に応じて、

移管する銘柄ごとに 10,800 円(税込み)を上限額として移管手数料をいただきます。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第 142 号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会Copyright © 2018 Nomura Securities Co., Ltd. All rights reserved.