薬物乱用・依存の予防 - 名城大学 ·...

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鍋島 俊隆 名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO) 薬物乱用・依存の予防 名城大学比較認知科学研究所 所長 薬学部薬品作用学研究室 教授 NPO J-DO 医薬品適正使用推進機構 理事長 名古屋大学・ルーマニア アレキサンドル イワン クザ大学 名誉教授 鍋島 俊隆

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

薬物乱用・依存の予防

名城大学比較認知科学研究所 所長

薬学部薬品作用学研究室 教授

NPO J-DO 医薬品適正使用推進機構 理事長

名古屋大学・ルーマニア アレキサンドル イワン クザ大学 名誉教授

鍋島 俊隆

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鍋島 俊隆

この講演のコンセプト 薬物乱用なんて自分とは関係のない話だよ(無関心的)

麻薬や覚せい剤は、社会の敵だ(道徳的)

薬物に手を出すヤツは、意志が弱いヤツだよ(根性的)

薬物にハマるヤツは、自分が悪いんだ(自己責任的)

•薬物乱用は、誰にでも起こりうる健康問題であり、実は想像以上に身近に差し迫っている健康問題である。

世の中にはいろんな人がいて、いろんな考えがあるけど・・・・

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鍋島 俊隆

1.薬物乱用はどうして怖いのか?

2.乱用されている薬物の正しい情報

3.薬物乱用者の実態は?

4.薬物乱用に対してみんなが

できることは?

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鍋島 俊隆

1.薬物乱用はどうして

怖いのか?

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鍋島 俊隆

乱用→依存症→精神障害

犯罪・社会秩序の破壊

家庭の崩壊

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

薬物乱用とは

「医学的・社会的なルールから外れた方法や目的で大

量の薬物を繰り返し使うこと」

WHOにおける定義

すなわち

①医薬品をある種の満足感を得るため病気や傷の治療

以外の目的に使用する。

②酒・タバコなどの嗜好品を健康や社会生活を破綻

させるほどに摂取する。

③覚醒剤など違法薬物を使用する。

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鍋島 俊隆

“薬物乱用”とはルール違反のこと

• ドラッグを使うことを禁止する法律があります。

• 法律で禁止されているドラッグを使うことを薬物乱用と言います。

• 一度でも薬物乱用をすると、罰せられます。

薬物乱用とは、ルール違反のこと。

サッカーのレッド・カードと一緒。

一発で退場となります。

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鍋島 俊隆

薬物乱用:ルール違反(法律で薬物を使うことが禁止されている)

薬物依存:やめようと思ってもやめられない状態、ハマった状態

慢性中毒:幻視(見えないものが見える)・幻聴(聞こえないものが聞こえる)・妄想(すれ違う人がみんな警察官だと思い込んでしまう)

急性中毒:急に、大量に使うことで体に現れる症状

出典:和田清、依存性薬物と乱用・依存・中毒(星和書店)

乱用のくり返し

薬物探索行動

(ドラッグを手に入れようと、探し回ること)

ドラッグが体から抜けてくる

ドラッグが欲しくてたまらない

ドラッグが体から抜けてくる

ドラッグがないと体がツライ

カラダの依存 ココロの依存

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鍋島 俊隆

“急性中毒”とは、カラダの急激な反応

• ドラッグを急激に、大量に使うと・・・

– 心臓がドキドキする、呼吸が早くなる

– 頭痛、吐き気、食欲がなくなる

– 意識を失ったり、呼吸ができなくなることも

– 時には死にいたることも

• アルコールの一気飲みを考えてみてください。

• 一気飲みにより、急性中毒となる恐れがあります。

このような行為は大変危険です。

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鍋島 俊隆

“薬物依存”とは、ドラッグをやめたくても、

やめられない“地獄”のような状態

• 薬物乱用を繰り返していくうちに“薬物依存”になります。

• ドラッグに支配され、コントロールできない状態

• 頭の中は、ドラッグのことでいっぱいで、他のことが考えられなくなります。

• ドラッグという深い穴にハマって、抜け出せない状態だと思ってください。

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鍋島 俊隆

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鍋島 俊隆

ドラッグにハマったサルの話

• サルは何千回もレバーを押し続けるまであきらめない

• 一晩中、エサも食べず、水も飲まず、ひたすらレバーを押し続けている

表1比率累進法による精神依存性の強さニコチン 800-1600ジアゼパム 950-3200アルコール 1600-6400モルヒネ 1600-6400アンフェタミン 2690-4530コカイン 6400-12800モルヒネ(身体依存) 6400-12800

出典:柳田知司:1.薬物依存-最近の傾向.A.基礎的立場.現代精神医学大系年間版89-B.中山書店

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鍋島 俊隆

カラダとココロの両方が支配される

• 身体依存:カラダが支配された状態

– 手がふるえる、冷や汗が出る、眠れない

• 精神依存:ココロが支配された状態

– ドラッグを使うこと以外に何も考えらない

– ドラッグがないと落ち着かない、イライラする

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

覚せい剤検挙者の再犯率

44

46

48

50

52

54

56

58

H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19

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鍋島 俊隆

耐性:同じ量では、もう効かなくなること

• カラダがドラッグに慣れてくると、同じ効果を得るためには、よりたくさんのドラッグを使わなければならない状態となります。

『注射をし始めてから2,3回目のときだったと思うが、量が多かったためか、とても気持ちがよくなり、こんなにすばらしい物があったのかと感じた。そのうちに量も増え、間隔も2週間に1回だったのが、1週間おきになり、2日おきになり、そして最後には毎日、それも1日に5回から10回も打つようになった。』(元薬物依存症者、男性)

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覚せい剤の乱用による覚せい剤精神病

韓国 Kim先生より

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名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

岩手県病院薬剤師会発行資料より

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鍋島 俊隆

“慢性中毒”による幻覚(幻視、幻聴)・妄想

• 幻聴(聞こえないはずの声や音が聞こえてくること)

『幻聴が酷くてね。夜中に、冷蔵庨の音が気味の悪いうめき声に聞こえてね。冷蔵庨に向かって土下座していたよ。「お願いだから、家族にだけは迷惑を掛けないで下さい」って、泣きながらね。思えばあの頃が、俺のどん底だったな。』(元薬物依存症者、36歳、男性)

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鍋島 俊隆

“慢性中毒”による幻覚(幻視、幻聴)・妄想

• 幻覚(見えるはずのないものが見えること)

『行き交う人はみんな刑事に見えたし、組織からも追われるように「全国どこへ逃げても追いかけていくぞ」という声が何度も聞こえた。もうそのときは私にとって生きることはどうでもよかった』(元薬物依存症者、男性)

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• 妄想(誰かに追われていると思い込んだり、誰かに命令されているように思ってしまうこと)

“慢性中毒”による幻覚(幻視、幻聴)・妄想

『そして、とうとう今まで楽しく付き合ってきた幻聴や幻覚が僕に命令し始めたのです。「手をカッターで切れ、熱湯に入れ、ガラスを割れ」など、さまざまなことを命令してきました。』(元薬物依存症者、男性)

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フラッシュバック

フラッシュバック:ドラッグを使わなくても

精神病症状が現れる現象のこと

出典:薬物乱用防止「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ

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鍋島 俊隆

大切なのは一発目を避けること

• 薬物依存は、一生苦しむ恐ろしい病気です。

• 脳に受けたダメージは、回復することが非常に

困難で、取り返しのつかないことになります。

• 大切なことは、薬物乱用の一発目を避けることです。

• 薬物依存から立ち直ろうと必死に努力しているダルクの人たちの姿から、ドラッグの怖さを考えてみてください。

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鍋島 俊隆

依存性薬物の作用点

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鍋島 俊隆

タイプ 精神依存 身体依存 耐性 催幻覚 乱用時の症状

①中枢神経系興奮薬

1.覚醒剤 +++ - + - 興奮・不眠・食欲低下

(アンフェタミン類)

2.コカイン +++ - - - 興奮・不眠・食欲低下

3.幻覚薬 + - + +++ 瞳孔散大・感覚変容

(LSD、メスカリン)

4.その他(ニコチン) ++ ± ++ - 鎮静或は発揚・食欲低下

②中枢神経系抑制薬

1.有機溶剤 + ± + + 酩酊・脱抑制・運動失調

(シンナー、エーテル)

2.抗不安・抗痙攣・睡眠薬 ++ ++ ++ - 鎮静・催眠・運動失調

(バルビツール酸・ベンゾジアゼピン誘導体)

3.アルコール ++ ++ ++ - 酩酊・脱抑制・運動失調

4.オピオイド系薬物 +++ +++ +++ - 呼吸抑制・傾眠・鎮痛

(麻薬性鎮痛薬:モルヒネなど)

5.大麻(マリファナ) + ± + ++ 感覚変容・情動変化

+ - : 有無および相対的な強さを表す。

依存性薬物の特徴

(精神医学レビュー No.34 薬物依存 和田清 2000年 一部改変)

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鍋島 俊隆

①中枢神経系興奮薬

・覚醒剤(アンフェタミン類):アミン(特にドパミン)作動性神経系の興奮

・コカイン:アミン(特にドパミン)作動性神経系の興奮

・幻覚薬(LSD、メスカリン):アミン(特にセロトニン)作動性神経系の抑制

②中枢神経系抑制薬

・有機溶剤:脳幹網様体賦活系の抑制

・抗不安・抗痙攣・睡眠薬:ベンゾジアゼピン・GABA・バルビツール酸受容体に結合

・麻薬性鎮痛薬(モルヒネ):オピオイドμ受容体に結合

・大麻:カンナビノイド受容体に結合

依存性薬物の脳における作用点

モルヒネは、中枢神経系に広く存在するオピオイドμ受容体に結合するが、依存形成には大脳辺縁系のμ受容体を介したドパミン神経の脱抑制(興奮)が関与している。

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1. 中脳線条体系

2. 中脳辺縁系皮質系

3. 中脳青斑核系

4. 中脳縫線核系

5. 中脳手綱核系

3

1

2 4

5

青斑核

背側縫線核

手綱核

扁桃体 海馬 側坐核

尾状核

帯状回

皮質前部

前部前頭葉皮質

中脳被蓋・黒質から投射するドパミン作動性神経系 (金野, Clin Neuroscience 10: 59, 1992)

腹側被蓋

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鍋島 俊隆

ラットにおける脳内報酬系

脳内報酬系(中脳辺縁系ドパミン作動性神経系)

腹側被蓋野

側坐核

前頭葉皮質

線条体 扁桃体

腹側被蓋野から側坐核を経て前頭葉皮質に至るドパミン作動性神経系が脳内報酬系

といわれ、この興奮が精神的依存をもたらすとされている。特に腹側被蓋野には

オピオイド受容体が存在する。

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軸索

核 髄鞘

ミトコンドリア シナプス

シナプス

細胞体 樹状突起

神経細胞の基本構造

軸索終末部

粗面小胞体

ゴルジ装置

リボソーム

軸索終末

ミトコンドリア

棘突起

樹状突起

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鍋島 俊隆

ドパミン(DA)作動性神経系における

アンフェタミン、コカインおよびモルヒネの作用点

DA MT HVA

DOPAC

アンフェタミン

アンフェタミン

コカイン

チロシン

チロシン

DOPA

DA

MAO DA

DA DA

COMT MAO

D2

D2 D1

ドパミン作動性神経 モルヒネ

μ

GABA

受容体

エンケ

ファリン

エンケファリン 含有神経

GABA

GABA作動性神経

ニコチン

受容体

ニコチン

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薬物依存の形成機序

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鍋島 俊隆

個々の薬物でその薬理作用が異なっていても精神依存とい

う現象そのものの発現には多くの共通点が見られ、その発

現には相通じる精神薬理学的および神経生理・生化学的機

序が介在するものと考えられている。

身体依存についても同様で、その形成機序にある程度相違

があるにしても、身体依存という現象そのものに関しては

いろいろな面で共通点がみられることから、その形成機序

にも共通の基盤があるものと考えられている。

薬物依存の形成機序

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遺 伝 因 子

薬物の初体験

常 習

(学習)

間欠試行

嫌悪効果

報酬効果

(強制的)

間欠試行

(学習)

報酬効果の発見 嫌悪効果への耐性 嫌 悪 効 果

(強化効果の確立)

(脅迫的使用)

精神依存 身体依存

嫌悪効果

環 境 因 子

薬物依存の成立過程

(目でみる精神医学シリーズ 5 薬物依存 洲脇寛 1993年 一部改変)

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精神依存

依存度曲線

反復使用

初期使用

強迫使用

(離脱症状の回避)

促進因子

抑制因子

好奇心・仲間意識

報酬効果

モラル・社会的自我

家庭・健康問題

(快気分,不安,ストレス解消)

薬物依存の形成過程

身体依存

(目でみる精神医学シリーズ 5 薬物依存 洲脇寛 1993年 一部改変)

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鍋島 俊隆

薬物依存成立の3要因

遺伝素因,薬物感受性,性別,年齢,学歴,職業,

性格特性,心理状態

個体の要因 薬物の特性 環 境 要 因

精神作用物質

依存形成物質

家庭環境

教育環境,養育環境,ストレス,経済状態

社会環境

薬物入手難易度,就学・就労状況,仲間集団,

薬物摂取状況,取締状況,社会不安,

ストレス,経済状態

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精神依存の形成機序

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鍋島 俊隆

覚醒剤精神病(ヒト)

覚醒剤による逆耐性(実験動物)

精神異常(幻覚・妄想)

異常行動

異常行動発現への脆弱性

再発への脆弱性

覚醒剤の連用 再使用 ストレスの負荷

(ストレスとの交差性)

覚醒剤精神病と覚醒剤の逆耐性

再発

再燃

(目でみる精神医学シリーズ 5 薬物依存 秋山一文・神崎昭浩 1993年 一部改変)

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鍋島 俊隆

精神分裂病との鑑別点

覚醒剤使用歴 あ り な し 注射痕 多 い な し 他の薬物依存 多 い 尐ない 反社会的生活史(前科,非行,暴力団関係など) 多 い 尐ない 病前性格 精神病質 分裂気質 (爆発,情性欠如,意志薄弱) 病像 意識障害 まれにあり な し 幻視 多 い 尐ない 猜疑心 著 明 あ り 妄想的意味付け 活 発 あ り 妄想内容 状況反応的 しばしば荒唐無稽 作為体験 主に被影響体験 狭義の作為体験 感情鈍麻 な し あ り 疎通性 保 持 障 害 対人反応 打てば響く 不関性 機転 保 持 障 害 経過 多くは一過性 多くは遷延

覚醒剤依存 精神分裂病

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腹側被蓋野 側坐核

中脳辺縁系ドパミン作動性神経系

モルヒネの精神依存形成における神経化学的機序 モルヒネは、①中脳辺縁系ドパミン作動性神経の細胞体である腹側被蓋野における介在神経である抑制性のGABA作

動性神経系上に存在するm受容体を刺激して、中脳辺縁系ドパミン作動性神経を活性化する。活性化された中脳辺

縁系ドパミン作動性神経は、②その投射先の側坐核からドパミンの遊離を促進させる。モルヒネを反復投与することにより、③側坐核での遊離ドパミン量がさらに増加し、これが引き金となりモルヒネによる報酬効果が発現する。

腹側被蓋野 側坐核

m : m 受容体、 D 1 :ドパミン D 1 受容体、 D 2 :ドパミン D 2 受容体

モルヒネ単回投与時

正常時

D 2

モルヒネ

D 2

D 2

モルヒネ

報酬効果

③ モルヒネ反復投与時

ドパミン

ドパミン

ドパミン

m

GABA

m

GABA

m

GABA

情報の伝達

情報の伝達

情報の伝達

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身体依存の形成機序

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鍋島 俊隆

0

0

0

0 興奮

抑制

①生体のバランス

③耐性と依存

②依存性薬物の中枢抑制作用

④離脱症状

離脱症状のメカニズム

依存性薬物

(目でみる精神医学シリーズ 5 薬物依存 田所作太郎 1993年 一部改変)

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鍋島 俊隆

(行動薬理学の実践‐薬物による行動変化‐田所作太郎 1991年)

モルヒネに身体的に依存したサルが示す退薬症状(I)

症状をあらわしていない状態

退薬15~20時間後不安と不穏の症状

初期症状としての陰茎勃起がみられる

退薬24時間以上。嘔吐・鼻血

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鍋島 俊隆

モルヒネに身体的に依存したサルが示す退薬症状(II)

断薬15~20時間後。被刺激性は高まり、意味のない闘争が繰り返される

断薬40時間後。意識消失、脱水症状ときに死亡

(行動薬理学の実践‐薬物による行動変化‐田所作太郎 1991年)

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鍋島 俊隆

モルヒネの身体依存形成における神経化学的機序

モルヒネは、①ノルアドレナリン作動性神経の細胞体である青斑核に存在するm受容体を刺激して、ノルアドレナリン作動性神経を抑制する。これにより、②青斑核からの投射先である大脳皮質からのノルアドレナリンの遊離が減尐する。しかし、モルヒネを反復投与すると、③モルヒネの単回投与時に生じる大脳皮質での遊離ノルアドレナリン量の減尐はみられなくなり、モルヒネの反復投与を中止すると(退薬時)、④大脳皮質での遊離ノルアドレナリン量が著明に増加する。この退薬時におけるノルアドレナリン作動性神経の活性化がモルヒネの退薬症候の発現に関与している。

m m b 1 b 1 b 2 b 2 : 受容体、 : 受容体、 : 受容体

ノルアドレナリン作動性神経系

大脳皮質

青斑核

b 2

モルヒネ m

モルヒネ単回投与時

青斑核 大脳皮質

正常時

モルヒネ退薬時

b 2

m

モルヒネ反復投与時

b 2

m

b 2

m モルヒネ

退薬症候

① ②

ノル アドレナリン

ノル アドレナリン

ノル アドレナリン

ノル アドレナリン

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鍋島 俊隆

薬物依存の分子機序

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鍋島 俊隆

m 受容体

G i アデニル酸

シクラーゼ

cAMP

ATP

cAMP-依存性 プロテインキナーゼA

CREB

CRE

serum- response element

Ser 133

Ser 133 c-fos sis- responsive element

fos AP-1

CBP プロテインキナーゼA 触媒ユニット

遺伝子の転写促進

神経細胞膜

細胞質

モルヒネの慢性投与

プロテインキナーゼA 調節ユニット

DNA

モルヒネの依存形成における分子メカニズム

: 上昇または促進、Gi: 抑制性Gタンパク質、Ser: セリン

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鍋島 俊隆

候補遺伝子 ドパミン受容体(DRD2, D2, D4) ドパミントランスポーター

セロトニン受容体(1A, 1B, 2A, 3)

トリプトファン 2,3-ジオキシゲナーゼ

カンナビノイド受容体

脂肪酸合成酵素

アデニレートシクラーゼ

ホスフォリパーゼD

MAO-A,B

組織プラスミノーゲンアクチベーター

腫瘍壊死因子

シャチ・GDNF

薬物依存には数多くの遺伝子が関与していることが明らかにされている。これらの遺伝子が薬物依存にどのように、またどの程度関与しているかは明確にされていない。こうした研究から薬物依存のキーになる遺伝子が発見されれば薬物依存の遺伝子治療も可能となるであろう。

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鍋島 俊隆

覚醒剤長期使用者のSPECT脳血流画像 (約10年間使用後,7年間中断例)

35歳 健常者(男) 34歳 覚醒剤長期

乱用者(男)

千葉大学 伊豫雅臣先生提供

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鍋島 俊隆

覚醒剤の作用部位

シナプス小胞 トランスポーター

ドーパミントランスポーター (DAT)

ドーパミン

ドーパミン受容体

覚醒剤

モノアミン酸化酵素 (MAO)

ドーパミン 神経終末

千葉大学 伊豫雅臣先生提供

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鍋島 俊隆

覚醒剤の使用とドーパミン神経終末

単回使用

正常 過活動

長期使用 未使用

千葉大学伊豫雅臣先生提供

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鍋島 俊隆

線条体ドーパミン D2 受容体のPET 画像 (トレーサ:[11C]N-methylspiperone,後期画像)

千葉大学伊豫雅臣先生提供

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鍋島 俊隆

線条体D2受容体数 (k3 )

0.05

0

0.01

0.02

0.03

0.04

健常者 覚醒剤長期 使用者

N.S.

覚醒剤長期使用者におけるD2受容体密度 ( 2ヶ月以上の覚醒剤使用中断例)

千葉大学伊豫雅臣先生提供

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鍋島 俊隆

Methamphetamine(MAP; 4mg/kg, ip, 1日1回x7日) 反復投与後のラット線条体D2受容体数の変化

0

10

20

30

40

50

最終投与翌日 4週間後

p<0.05 N.S. [3

H]

raclo

prid

e b

indi

ng

(fm

ol/

mg

pro

tein

)

生理食塩水群

MAP群

n = 5 bars, SEM

千葉大学伊豫雅臣先生提供

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鍋島 俊隆

Caudate/Putamen 尾状核/被殻

Prefrontal Cortex 前頭皮質

Nucleus Accumbens 側坐核

Cerebellum 小脳

Region of interest (ROI) setting

千葉大学伊豫雅臣先生提供

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鍋島 俊隆

健常者 覚醒剤長期使用者

ドーパミン トランスポーター(DAT)のPET 画像

([11C]WIN‐35,428をトレーサとした後期画像)

千葉大学伊豫雅臣先生提供

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鍋島 俊隆

覚醒剤使用者における DAT 密度 -健常者との比較から-

線条体 側坐核 前頭前野

0

0.1

0.2

0.3 *

DA

T 密

度 (結合能:

k 3/k 4)

* *

0

2

3

4

5

6

DA

T 密

度 (結合能:

k 3/k 4)

健常者(9名) 覚醒剤使用者(10名)

* p < 0.05

千葉大学伊豫雅臣先生提供

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鍋島 俊隆

DAT密度の時間経過 (6-9 ヵ月)

1回目 2回目

1

2

3

4

5

DA

T密

度 (結

合能

:k 3

/k 4

)

DAT密度減尐の持続性

同一被験者を対象とし、

2回PET検査を施行した.

1回目と2回目のPET検

査の間は、定期的な尿検

査により覚醒剤を使用し

ていないことを確認した.

千葉大学伊豫雅臣先生提供

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鍋島 俊隆

DAT 密度と臨床所見 線条体

側坐核

* p < 0.05 **p < 0.01

最終使用からの期間(月)

1

2

3

4

5

0 5 10 15 20

DA

T密

1

2

3

4

5

0 5 10 15 20

DA

T密

覚醒剤使用期間(年)

r = 0.75*

r = 0.85**

覚醒剤使用期間(年)

精神

病症

状尺

5

10

15

20

25

0 5 10 15 20

r = 0.89**

1

2

3

4

5

5 10 15 20 25

精神病症状尺度

DA

T密

r = 0.90**

r = 0.74*

千葉大学伊豫雅臣先生提供

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鍋島 俊隆

覚せい剤使用とドーパミン神経終末

精神病状態 (フラッシュバック)

覚せい剤 使 用 後

正常

未 使 用

ストレス ストレス

千葉大学伊豫雅臣先生提供

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鍋島 俊隆

覚醒剤長期使用者の精神病と神経生物学的変化

覚醒剤使用 ストレス

不可逆的 (CBF、DAT)

精神病

可逆的 (D2受容体)

遷延・持続型 (1ヶ月以上)

早期消退型 (1ヶ月以内)

千葉大学伊豫雅臣先生提供

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鍋島 俊隆

Plasminogen

Plasmin

DA

Rewarding effect/psychological dependence

GABA interneuronORs

ORs

ORs

Morphine

Morphine

MicrogliaNeuron

PAI-1

A10 (VTA)

Astrocyte

Neuron

DARs

DATMETH

PAR-1

Plasmin

tPA-plasmin systemは依存形成を促進する

DA, dopamine; DARs, dopamine receptors; METH, methamphetamine; NAc, nucleus accumbens; tPA, tissue plasminogen

activator; VTA, ventral tegmental area;

Laminin

Plasmin

Nicotine

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鍋島 俊隆

TNFαは依存を抑制する

TNF- a

TNFR1

D1-R D2-R

DAT

Dopamine

MAP (+)

MAP (+) (+)

TNF-a

Normal condition Effect of MAP Effect of TNF-a

TNF-aはドパミンの再取り込みを促進することによりメタンフェタミン誘発精神依存および細胞毒性を抑制すると考えられる.

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鍋島 俊隆

inactive nose-poking

赤ランプ点灯せず ↓

マウスが穴をつつく ↓

メタンフェタミン注入せず

active nose-poking

赤ランプ点灯 ↓

マウスが穴をつつく ↓

マウス頚静脈内へ メタンフェタミン注入

active inactive

2. 薬物再投与による薬物探索行動

1. メタンフェタミン自己投与行動

3. 薬物関連刺激の提示による薬物探索行動

active iactive

active inactive

active inactive

野生型

あっ、メタンフェタミンがもらえる赤ランプが点いた!

メタンフェタミン欲しい!

たくさん穴をつつこう!

依存症になるまで

約15日

赤ランプ点灯 ↓

マウスが穴をつつく ↓

メタンフェタミン注入せず ↓

マウスが激しく穴をつつく

薬物自己投与行動 ↑

薬物探索行動 ↑

あっ、メタンフェタミンだ!

もっとメタンフェタミン欲しい!

たくさん穴をつつこう!

依存症になるまで

約20日

あっ、メタンフェタミンがもらえる赤ランプが点いた!

メタンフェタミン欲しい!

まだ穴をつつこう!

どうせメタンフェタミンもらえない。もう、穴をつ

つくのをやめよう。

薬物探索行動持続

薬物探索行動 ↑

GDNFは依存を抑制する。

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鍋島 俊隆

我々の研究成果が、朝日新聞朝刊38面に掲載されました (2007.5.3)。

Yan et al., FASEB J, 2007 Mar 13; [Epub ahead of print].

Niwa et al., Biol. Psychiatry, 2007, 61: 890-901.

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鍋島 俊隆

MOR

opioid

receptor

ventral tegmental area

(VTA)

GABA

neuron

dopaminergic

neuron

nucleus accumbens (NAc)

TNF-

GDNF

D1-R

D2-R

TNF

receptor

DAT (+)

DA TH

(+)

Leu-Ile

(+)

METH

(+)

(-)

(Cen et al., J. Neurosci. 26; 3335-

3344 (2006))

(Messer et al., Neuron 26; 247-257 (2000))

(Nakajima et al., J. Neurosci. 24; 2212-2225 (2004))

Hsp90

Hsc70

NF-κB

CREB

Akt

(-)

Leu-Ileは、 GDNFおよびTNF-αの産生誘導を介して、MOR によって引き起こされる側坐核での細胞外DA量の増加を抑制し、 MOR誘発場所嗜好性の形成と自発運動亢進において抑制効果を示すことが明らかとなった。

Leu-IleがMORおよびMAP依存の新規治療薬になりうる可能性が示唆された。

TNFαとGDNFを産生するLeu-Ileは依存を抑制する

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鍋島 俊隆

【論文】

Niwa et al., Biol. Psychiatry, 61: 890-901 (2007).

Niwa et al., Biol. Psychiatry, 2007 Jan 8; [Epub ahead of print].

Niwa et al., Behav. Brain Res., 179: 167-171 (2007).

Niwa et al., J Pharmacol Sci. Review., revised.

【特許】

特願2003-279070; 抗薬物依存形成薬

特願2005-51829, 国際PCT/JP2006/301326; Akt刺激薬

我々の研究成果が、中日新聞朝刊29面に掲載されました (2007.3.14)。

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鍋島 俊隆

MHCGPPDMVC ETKIVATEDH EALPGAKKDA LLVAAGAMWP PLPAAPGPAA APPPAAGPQP HGGTGGAGPP EGRGVCIREF RAAEQEAARR IFYDGILERI PNTAFRGLRQ HPRTQLLYAL LAALCFAVTR SLLLTCLVPA GLLALRYYYS RKVILAYLEC ALHTDMADIE QYYMKPPGSC FWVAVLDGNV VGIVAARAHE EDNTVELLRM SVDSRFRGKG IAKALGRRVL EFAMLHNYSA VVLGTTAVKV AAHKLYESLG FRHMGASDHY VLPGMTLSLA ERLFFQVRYH RYRLQLREE

A

A. The sequence of shati. The red character showed homology modeling of shati. The underlined character

showed GCN5-related N-acetyltransferase (GNAT) motif.

B. Homology modeling for C-terminal domain of shati.

C. Homology modeling and motif analysis of shati. Shati has the sequence of GNAT. Red ribbon, homology

model of shati; sphere, acetyl-CoA analyzed by x-ray crystallography; green ribbon, N-acetyltransferase.

名古屋で見つけた新奇蛋白shatiは依存を抑制する

B

C

Nagoya castle

Shati

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鍋島 俊隆

(+)

(+)

shati

VMAT-2

DAT Dopamine

METH

Postsynaptic

target neurons

D1-R D2-R

shati

Presynaptic

dopaminergic neurons

Inhibition against

METH-induced

dependence

Behavioral sensitization

Place preference

D1: dopamine D1 receptor

D2: dopamine D2 receptor

DAT: dopamine transporter

VMAT-2 : vesicular monoamine

transporter

A novel molecule ‘shati’ is involved in the development of METH-induced

hyperlocomotion, sensitization, and CPP. The functional roles of shati in METH-

induced behavioral alternations are likely to be mediated by its inhibitory effects on the

METH-induced increase of DA overflow in the NAc and the METH-induced decrease in

DA uptake in the midbrain.

(-) (-) (+)

(-)

(-) (+)

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鍋島 俊隆

2.乱用されている薬物の

正しい情報

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鍋島 俊隆

どんなドラッグが乱用されているか?

• 正式名称だけなく、乱用者の間で呼ばれている名前(ストリート・ネーム)も覚えておく

• どんな形や色をしているかを知る

• どのような健康被害(急性中毒や依存性)があるかを知る

覚せい剤 ヘロイン 大麻

覚せい剤(錠剤) 向精神薬 LSD

出典:薬物乱用防止「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

呼び方が違っても乱用薬物です。 いろいろな俗称

有機溶剤: アンパン

覚せい剤: スピード、エス、アイス、クリスタル、シャブ

大麻、大麻樹脂: ハッパ、クサ、ガンジャ、マリファナ、ジョイント、

グラス、チョコ、ハシシュ

ヘロイン: ペー、チャイナホワイト、ジャンク

MDMA(麻薬): エクスタシー、エックス、EX、バツ(X,罰)

LSD(麻薬): ペーパー、アシッド、エル

PCP: エンジェルダスト、ピースピル

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

大麻・マリファナ

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

大麻樹脂

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

MDMA

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

あへん

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

麻薬:コカイン

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名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

麻薬:ヘロイン

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名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

麻薬:LSD

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

ペーパーLSD

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

覚せい剤

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

覚せい剤錠剤

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鍋島 俊隆

• 麻薬や覚せい剤などの法律で禁止する成分とは異なり、法律の規制を逃れている“脱法ドラッグ”と呼ばれるドラッグがあります。

• テレビやインターネットでは「合法ドラッグ」と呼ばれることもあります。

• 「ビデオヘッドクリーナー」などと称して、アダルトショップやインターネットで販売されてます。

• 口から摂取するタイプや、鼻から吸引するタイプなど種類はさまざまです。

“脱法ドラッグ”とは、安全なドラッグか?

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鍋島 俊隆

• こうした製品は、犯罪に悪用されたり、乱用による死亡事故も発生しており、大変危険なドラッグです。

• かつて、脱法ドラッグであったものも、麻薬に指定

され、取締りの対象になってます。つまり、使用することは当然、持っているだけでも犯罪となります。

• 近年、麻薬に指定されたドラッグ

– MDMA(エクスタシー)

– マジックマッシュルーム

– 5MeO-DIPT(ゴメオ)

“脱法ドラッグ”も取り締まりの対象に

→違法ドラッグとして規制されるようになりました。

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鍋島 俊隆

ヒトに対するマリファナの作用

系 マリファナ乱用による作用

一般 弛緩/多幸感 瞳孔散大

結膜充血 粘膜の乾燥

口渇およびのどの渇き 食欲の増加

鼻炎/咽頭炎

神経 認識能力障害 知覚変化

巧緻な運動性活動の障害 早口(不明瞭な言い方)

循環器 仰臥状態での収縮期血圧の上昇 頻脈

起立状態での収縮期血圧の減少

精神 フラッシュバック 離人感

不安/錯乱 幻覚/錯覚

洞察力の喪失

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鍋島 俊隆

大麻

①大麻が原因で精神病院で治療を受けている人がいる(幻覚、

妄想、錯乱)

•精神科に入院している薬物依存症患者の2.4%が「大麻が主たる薬物」

•精神科に入院している薬物依存症患者の27.7%は「大麻使用歴がある」

②大麻は、他の薬物のゲイトウェイ(入口)となり得る

・喫煙→大麻(ゲイトウェイ)→依存性・中毒性の高い規制薬物

・大麻を経由せず、依存性・中毒性の高い規制薬物の使用が始まること

はまれ

・喫煙経験を経由せず、大麻の使用が始まることはまれ

「でも、大麻は、タバコより害が尐ないって噂あるじゃん。

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清酒

九州錦

マリファナ

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鍋島 俊隆

当事者の声を実際に聞いてみる

• ダルク(薬物依存症のリハビリ施設)に入寮している男性の話。

• ①大麻を初めて吸ったのが中学1年生

– きっかけは、友達の兄貴が持ってた

• ②本格的に吸うようになったのは18~19歳

– 吸うと調子がいい。

– 大麻→覚せい剤、シンナー

• ③回路がおかしくなってきて・・・

– テンパってきて・・・(外とつながっている。歩いている音が言葉に聞こえたり)

• ④9ヶ月間やめている今でも大麻を吸いたいと思うか

– 吸いたい。夢に出てくる。

•薬物乱用防止ドキュメント・DVDビデオ教材「薬物依存」:製作APARI

•http://www.apari.jp/npo/

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鍋島 俊隆

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鍋島 俊隆

0%

10%

20%

30%

40%

1993 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006

大麻による精神障害

薬物による精神障害者で大麻乱用歴をもつ者

大麻による精神障害及び

薬物による精神障害者で大麻乱用歴をもつ者

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鍋島 俊隆

MDMA(エクスタシー、エックス、バツ)

• ナイトクラブや音楽イベントで乱用されることが多い錠剤型のドラッグ

• 激しいダンスをしながら使うことで、体温が異常に高くなり、腎不全になるといったダメージがあります。

• 覚せい剤に非常に似た性質を持っています。

• 興奮作用と幻覚作用を併せ持ち、依存性が強い

• 死亡事故まで発生しています。

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鍋島 俊隆

マジック・マッシュルームという毒キノコ

• 平成18年7月:大阪府○○市のワンルームマンションで10日夜、脱法ドラッグを服用していた○○大学2年の男性(19歳)が4階から転落、11日朝に死亡が確認された。

• 男性はこの薬物の服用後に錯乱状態に陥っており・・・また、一緒にいた友人の男子学生から粉末1袋を押収。違法薬物の幻覚キノコ「マジックマッシュルーム」だった疑いも強く、同署は麻薬取締法違反の疑いで調べを進めている。

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鍋島 俊隆

医薬品も使い方を間違えると怖い

• 薬局やドラッグストアで売っている咳止めや風邪薬、病院で処方される睡眠薬を乱用している人もいます。

• 医薬品は、医師や薬剤師の指示を守って使うことが大切

です。

最初は遊びで使ったわけじゃなくて、本当に風邪を治そうと思って使ったんですよ。で、瓶のヤツがあって、30錠入ってるヤツを6箱。つまり180錠ね。 (それを一気に飲んじゃうの?)いや、そうじゃなくて1回に1瓶(30錠)飲んで、1時間ごとに、つなぎ、つなぎ、つなぎって感じ。で、6時間くらいかけてMAXに行く感じ。覚せい剤で、キマってるような状態になってしまうんです。そのかわり、薬がキレたときは、半端なくキツいっすよ・・・ (ダルクに入所中の男性、風邪薬の依存症)

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鍋島 俊隆

3.薬物乱用者の実態は?

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

大麻事犯検挙者の年次別推移

・快活、陽気、おしゃべり

・時間・空間感覚の変容

・五感鋭敏化

・集中力欠如

・精神錯乱

・恐怖、不安、錯乱状態

・フラッシュバック:妄想、幻覚

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鍋島 俊隆

読売新聞 平成21年2月20日

2008年

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鍋島 俊隆

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

20歳未満 20代 30代 40代 50歳以上 全体

2007年

2008年

大麻取締法違反行為での年代別検挙人数

179 220

1,391 1,516

452

682

179 224

70 136

2,271

検挙人数

2,778

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鍋島 俊隆

0

50

100

150

1997 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

大学生の最近の大麻事犯

件数

21

91

66

101

115

61

81

94 100

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

MDMA等合成麻薬事犯検挙者の年次別推移

検挙者

押収量

・レクリエーション・ドラッグ

・多幸感や他者との共有感

・睡眠障害、気分の障害、不安障害

・衝動性の亢進

・記憶障害、注意集中困難

・体温・血圧上昇

・横紋筋融解、腎不全

平成

2007 2005 2000

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

覚せい剤事犯検挙者の年次別推移

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

覚せい剤の第三次乱用期の特徴

• 乱用の低年齢化

中・高校生の間で乱用

• 供給源の多様化

外国人密売人の登場等

• 密売場所、密売方法の変化

街頭販売型から、配達型へ

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鍋島 俊隆

名城大学比較認知科学研究所・薬品作用学研究室・特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構(NPO J-DO)

覚せい剤事犯における未成年者の比率と中高生の

検挙人員推移

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鍋島 俊隆

データの出典

• 全国調査(2004年) – 兵庫教育大学 教育・社会調査研究センター

– 層別1段集落抽出法

– 有効回答数:44722人

– 無記名自記式質問紙調査

• 定時制高校調査(2006年) – 国立精神・神経センター 精神保健研究所 薬物依存研究部

– A県内の公立高校3校の定時制課程

– 有効回答数:247人

– 無記名自記式質問紙調査

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鍋島 俊隆

①薬物乱用の実態

1.身近な薬物乱用者(友人・先輩・家族)

2. 薬物乱用に誘われた経験

3.これまでの薬物乱用経験(生涯経験率)

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1.身近に薬物乱用者がいるか?

(友人・先輩・家族)

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鍋島 俊隆

男子の23人に1人がシンナーを

男子の34人に1人が大麻を

女子の25人に1人がシンナーを

女子の42人に1人が大麻を

対象 シンナー 大麻 覚せい剤 MDMA

男子 4.4% 2.9% 1.4% 1.2%

女子 4.0% 2.4% 1.5% 0.7%

友達・先輩・恋人などが薬物を乱用している

乱用している友人・先輩・恋人などが身近にいる

全国高校生調査

1.身近な薬物乱用者(友人・先輩・家族)

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鍋島 俊隆

対象 シンナー 大麻 覚せい剤 MDMA ガス ラッシュA県定時制高校生(合計) 6.8% 12.8% 7.8% 5.5% 8.3% 1.4%A県定時制高校生(男子) 5.6% 12.4% 6.9% 6.2% 7.5% 1.9%A県定時制高校生(女子) 10.3% 12.3% 10.5% 3.4% 10.5% 0.0%

表3.身近に次の薬物を乱用している人がいるか?

男子:大麻> ガス>覚せい剤

女子:大麻>覚せい剤・ガス

約8人に1人は、周りに大麻を乱用している人がいる

男子<女子

女子は男子に比べて、薬物と関わりがある人周りにいるケースが多い

定時制

1.身近な薬物乱用者(友人・先輩・家族)

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2. 薬物乱用に誘われた経験があるか?

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鍋島 俊隆

男子の37人に1人がシンナーに

男子の48人に1人が大麻に

女子の55人に1人がシンナーに

女子の83人に1人が大麻に

対象 シンナー 大麻 覚せい剤 MDMA

男子 2.7% 2.1% 1.0% 0.7%

女子 1.8% 1.2% 0.7% 0.4%

次の薬物乱用に誘われたことがある高校生

誘われた経験がある

全国高校生調査

2. 薬物乱用に誘われた経験

シンナー>大麻>覚せい剤

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鍋島 俊隆

男子:大麻>シンナー>ガス

女子:シンナー>大麻>ガス

約10人に1人は、シンナーや大麻に誘われた経験がある

全体的に男子>女子

(ただしシンナーについては男子<女子)

対象 シンナー 大麻 覚せい剤 MDMA ガス ラッシュA県定時制高校生(合計) 9.6% 9.2% 4.1% 4.1% 6.0% 2.3%A県定時制高校生(男子) 8.1% 9.3% 4.3% 5.6% 6.3% 2.5%A県定時制高校生(女子) 14.0% 9.1% 3.6% 0.0% 5.5% 1.9%

表2.次の薬物乱用に誘われたことがある

定時制のみ

2. 薬物乱用に誘われた経験

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鍋島 俊隆

3.これまでに薬物乱用の経験

があるか?

(生涯経験率)

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鍋島 俊隆

シンナー(0.9%):111人に1人が経験

大麻(0.6%):166人に1人が経験

覚せい剤(0.3%):333人に1人が経験

MDMA(0.2%):500人に1人が経験

乱用経験は、全体的に男子の方が女子より多い

対象 シンナー 大麻 覚せい剤 MDMA いずれか

全国高校生(男子) 1.1% 0.9% 0.5% 0.4% 1.9%

全国高校生(女子) 0.5% 0.3% 0.2% 0.1% 0.8%

全国高校生(合計) 0.9% 0.6% 0.3% 0.2% -

次の薬物を一度でも乱用したことがある高校生

無記名のアンケート、実際にはもっと多いはず

本人が薬物乱用を経験している

全国高校生調査

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鍋島 俊隆

シンナー(約15人に1人)

大麻(約15人に1人)

ガス(約20人に1人)

ラッシュ(約30人に1人)

覚せい剤(約55人に1人)

MDMA(約70人に1人)

対象 シンナー 大麻 覚せい剤 MDMA ガス ラッシュ いずれか

A県定時制高校生(合計) 6.4% 6.4% 1.8% 1.4% 4.5% 3.2% 8.6%A県定時制高校生(男子) 7.4% 7.4% 2.5% 1.8% 4.9% 3.1% 9.8%A県定時制高校生(女子) 3.4% 3.5% 0.0% 0.0% 3.5% 3.5% 5.2%

表1.次の薬物を一度でも乱用したことがある者の割合

乱用経験は、全体的に男子の方が女子より多い

定時制のみ

3. これまでの薬物乱用経験(生涯経験率)

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鍋島 俊隆

国名 対象 調査年 いずれかa 有機溶剤b 大麻c 覚せい剤d MDMAe

日本f 中学生 2006年 1.2% 0.9% 0.4% 0.4% -

日本g 高校生 2004年 - 0.9% 0.6% 0.3% 0.2%

日本h 定時制高校生 2006年 8.6% 6.4% 6.4% 1.8% 1.4%

日本i 大学生 2006年 1.9% 0.4% 0.4% 0.2% 0.2%

米国j grade8(中学2年相当) 2006年 29.2% 16.1% 15.7% 2.7% 2.5%

米国j grade12(高校3年相当) 2006年 51.2% 11.1% 42.3% 4.4% 6.5%

米国k grade9-12 2005年 - 9.7% 39.2% 3.7% 5.6%

フランスm 平均15.8歳 2003年 38.0% 11.0% 38.0% - 3.0%

ドイツm 平均15.7歳 2003年 30.0% 11.0% 27.0% - 3.0%

オランダm 平均15.7歳 2003年 29.0% 6.0% 28.0% - 5.0%

英国m 平均15.8歳 2003年 38.0% 12.0% 38.0% - 5.0%

表1.各国の思春期における薬物乱用生涯経験率(Lifetime Prevalence, これまでに一度でも乱用経験がある割合)

出典:嶋根卓也、森田展彰:思春期における健康問題-薬物乱用-,小児内科39(9),1371-1374,2007.

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鍋島 俊隆

国 調査年 対象年齢 Project 大麻 有機溶剤覚せい剤(ATS)

MDMA(Ecstasy)

コカイン ヘロイン

日本 2006 13 厚労省調査 0.3 0.8 0.3 - - -

2006 14 厚労省調査 0.4 0.8 0.4 - - -

2006 15 厚労省調査 0.5 1.0 0.5 - - -

2006 16 JSPD 0.4 0.7 0.4 0.3 - -

2006 17 JSPD 0.5 0.8 0.6 0.3 - -

2006 18 JSPD 1.0 0.9 0.5 0.4 - -

2007 18-22 JSPD 1.4 1.2 0.5 0.5 - -

JSPD: Japanese School Survey Project on Drug Abuse 勝野眞吾他 兵庫教育大学教育・社会調査研究センター

我が国における最近の青尐年の薬物乱用の実態(生涯経験率:Recent school surveys: lifetime prevalence)

厚労省調査:和田清他 「薬物乱用に関する全国中学生意識・実態調査2006」

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鍋島 俊隆

我が国における青尐年の薬物乱用の実態

(生涯経験率推定人数)

厚労省調査:和田清他 「薬物乱用に関する全国中学生意識・実態調査2006」

JSPAD: Japanese School Survey Project on Alcohol and other Drugs 勝野眞吾他 兵庫教育大学教育・社会調査研究センター

年齢 大麻 有機溶剤 覚せい剤MDMA

(エクスタシー)コカイン ヘロイン

13-15歳 中学生 15,956 31,187 15,231 - - -

16-18歳 高校生 24,516 28,842 18,026 17,305 - -

18-22歳 大学生他 105,644 90,552 37,730 37,730 - -

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鍋島 俊隆

どんな理由で薬物乱用を始めるのか?

出典:千葉県警察ホームページ

http://www.police.pref.chiba.jp/safe_life/overuse_drugs/qa.php

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鍋島 俊隆

薬物乱用への甘い誘い

• イライラがとれてすっきりするよ

• 肌がきれいになるよ

• 眠気が取れて、勉強ができるよ

• ただの栄養剤だよ

• くすりでちょっと遊ぼうよ

• 最高の気分が味わえるよ

• 面白いくすりがあるんだけど

• 皆やっているよ(やっていないのは君だけ)

• ちょっとだけ試してみない

• 1回だけなら平気さ

• とりあえず、預かってよ

• お金は次でいいよ

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覚せい剤取締法

毒物及び劇物取締法

大麻取締法

麻薬及び向精神薬取締法

あへん法

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4.薬物乱用に対してみんなができることは?

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鍋島 俊隆

薬物乱用のリスクファクター

薬物乱用の経験 各ライフイベント

年齢、性別、両親の存在

独立変数 従属変数

亣絡因子

多変量解析(ロジスティック回帰分析)によって、亣絡因子の調整後も、有意差が確認された項目を表示

調整 調整

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鍋島 俊隆

1.薬物乱用経験者全員に当てはまること

• 13歳以前にタバコを始めている

• 無断外泊の経験がある

①外に向かう暴力性

– 停学・退学経験

– 万引き経験

– 親の許可無く、友人・恋人を自宅に泊めた

– 誰かをいじめた経験

– 誰かに暴力をふるったことがある

2.多くの薬物乱用経験者に当てはまること

②内に向かう暴力性

– 携帯メールがやめられない

– 過食が続いた経験

– 拒食が続いた経験

③ライフスタイル

– 13歳以前に飲酒を開始

– 13歳以前に、仲間内だけでの飲酒を経験している

– 深夜時間帯に仕事をしている

3.薬物乱用とは結びつきがみられないこと

• 不登校経験

• 誰かにいじめられた経験

• 自傷行為(リストカット)

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鍋島 俊隆

あなたは、いくつ当てはまりますか? • タバコやお酒のこと

– 13歳以前にタバコを始めている

– 13歳以前に飲酒を開始している

– 13歳以前に、仲間内だけでの飲酒を経験している

• 生活上のこと

– 無断外泊の経験がある

– 親の許可無く、友人・恋人を自宅に泊めたことがある

– 深夜時間帯にアルバイトをしている

– 携帯メールがやめられないことがある

– 停学・退学の経験がある

– 万引きの経験がある

• いじめや暴力

– 誰かをいじめた経験

– 誰かに暴力をふるったことがある

• 摂食障害

– 過食が続いた経験

– 拒食が続いた経験

当てはまる項目が多い人ほど、薬物乱用のリスクは高まります

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薬物乱用に対してみんなができることは?

1.薬物乱用・依存に関する正しい情報を知る

2.規則正しい生活を送る(ライフスタイル)

特に、早寝・早起き(朝食がきちんと食べられるような生活習慣)

3.一つでいいから、打ち込める趣味を持つ

部活、楽器、スポーツ(できれば仲間と一緒にできるもの)

4.悩み事を相談できる仲間を作る

5.タバコ、酒に手を出さない(ゲートウェイ・ドラッグ)

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薬物乱用の1次予防、2次予防

• 1次予防

– 対象者:薬物乱用の経験がない者

– 目的:薬物乱用を予防する

– 方法:リスクの認知、リスクに対する対処行動を学習する

• 2次予防

– 対象者:既に薬物とのかかわりがある者

– 目的:薬物乱用者が依存症になるのを予防する(早期発見、早期治療)

– 方法:相談機関や相談方法の提示

【参考】3次予防(薬物依存症者のリハビリテーション、自立支援)

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薬物乱用の開始

薬物依存症

慢性中毒(幻覚・妄想)

のため精神病院へ入院

警察に逮捕

死亡 (事故・自殺を含む)

←乱用の繰り返し→

警察に逮捕

警察に逮捕

急性中毒 (オーバードーズ)

入院治療→逮捕

死亡

薬物乱用の行く末

1次予防:まず、薬物乱用の第一歩を防ぐことが大切

2次予防:すでに、関わりを持ってしまっている場合は、早期に専門家に相談することが大切

1次予防

2次予防

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1次予防

薬物乱用から身を守るには?

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鍋島 俊隆

喫煙・飲酒

• 喫煙や飲酒の機会をなるべく減らす(できればなくす)ことが、結果的に薬物乱用の予防となる

– 低年齢での喫煙・飲酒

– 仲間内での飲酒

喫煙・飲酒 大麻

有機溶剤

覚せい剤

その他の薬物

友人・先輩・家族など身近な存在からの誘い、プレッシャー

未経験

ゲイトウェイ ゲイトウェイ

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鍋島 俊隆

もし、あなたが友達から薬物に誘われたら?

次の方法で、薬物から自分の身を守ってください。

1.理由をつけて断る

ただ、「イヤだ」というのではなく、「ドラッグをやって体をボロボロにしたくないから、絶対にイヤだ!」と、理由も言う。

2.同じ言葉を繰り返す

相手がしつこく誘ってきても、「とにかくドラッグはイヤだ。」、「とにかくドラッグは・・・」と、壊れたテープのように同じ言葉をひたすら繰り返す。

3.話題を変える

相手がしつこく誘ってきたら、「ところでさ、昨日の○○(テレビ番組)すげぇ面白かったけど、見た?」と話題を変えてしまう。

4.逃げる

道の広い方に、明るい方に、人がたくさんいる方に逃げる。

出典:インターネットメディカルアドバイザーを一部変更

http://contest.thinkquest.jp/tqj2000/30069/japanese.html

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鍋島 俊隆

ロール・プレイを取り入れることも有効

• 薬物を誘う役、薬物に誘われる役にわかれて、断る練習を実際にしてみることも効果があります(ロール・プレイ)。

• 最初はバカバカしいと感じるかもしれないが、自分の言葉で断るという体験をさせることは、実際に誘われた際に、生きてきます。

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鍋島 俊隆

ライフスタイル

• 生活においては、次の2点に注意する

– 無断外泊をしない、させない

– 深夜時間帯の仕事を避ける

こころの問題

• 以下の問題を早期に解決することが、結果として薬物乱用の予防につながる

– いじめ

– 暴力行為

– 摂食障害(拒食、過食嘔吐)

– 何らかのアディクション(例えば携帯メール依存)

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2次予防

早期に発見し、専門機関につながるには?

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• 薬物依存症の患者さんの話を聞くと、心に深いキズを持った人たちだということがわかる

• 全国の精神病院の薬物依存症患者さんを対象にした調査によると

– 覚せい剤患者の28.6%:虐待(ぎゃくたい)経験あり

– 覚せい剤患者の22.4%:いじめられ体験あり

– 覚せい剤患者の35.7%:不登校経験があり

心の傷口が大きいほど、その傷口から薬物が入ってくると言います

まず、人はどうして薬物乱用をするのか?について考えてみよう

出典:尾崎茂、和田清:全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査.平成18年度厚生労働科学研究費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業)研究報告書「薬物乱用・依存等の実態把握と乱用・依存者に対する対応策に関する研究」:93-140,2007

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薬物のことって相談しにくいけど・・・

• あなたの友達が薬物のことで悩んでいるなら、薬物のことで友達を否定するのではなく、その背後にある心の痛みに気が付いてあげることが大切。

• まずは、きちんと話を聞いてあげることが問題解決の第一歩。(あなたという存在は、価値がある)

• 相談のできる大人を探そう。担任に相談しにくいのであれば、保健室の先生はいかが?

• SOSを出すことは、恥ずかしいことじゃないし、勇気がある行動。”I NEED HELP”が言えるかどうかが、大切。

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もし、あなたが薬物を使用してしまったら?

• 薬物依存の恐ろしさを思い出してみてください。

• 自分だけの力で、ドラッグをやめることは非常に難しいですから、相談のしやすい先生を探してください。

• 最初からドラッグの話をする必要はありません。

• 自分が今悩んでいること(親とのトラブルや友達とのトラブル)を相談するところから、話を始めてみましょう。

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薬物乱用を予防するために

愛知県医薬安全課(Tel:954-6305)、

愛知県精神保健福祉センター(Tel:962-5377)、

名古屋市精神保健福祉センター(Tel:483-2095)

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参考資料: ・厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課(2008)

・兵庫教育大学 教育・社会調査研究センター(2004,2006,2007)

・国立精神・神経センター精神保健研究所

薬物依存研究部(2004,2006)

・埼玉県公式ホームページ

・岩手県薬剤師会

・岐阜薬科大学 勝野眞吾

・九州保健衛生大学 山本郁男

・関東信越地区麻薬取締官事務所 長野健一 より

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