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雪崩の基礎知識・積雪時の雪崩対策
防災科学技術研究所雪氷防災研究センター
伊藤 陽一
雪崩:斜面に積もった雪が重力により肉眼で識別できる速さで流れ落ちる現象
雪崩の発生:積雪にかかる駆動力と抵抗力のバランス
駆動力:重力積雪荷重
抵抗力:雪粒同士の結合雪と斜面の摩擦
駆動力
抵抗力
地盤
雪
1. 気象・積雪と雪崩の関係
①柔らかい・かさばった状態 → 硬い・縮んだ状態(融けなくても自重で体積が小さくなる)
②とがった枝がなくなり、丸い粒になる
③雪粒同士が結合する
雪は積もった後に形状や強度が変化する
⇨丈夫になる
しまり雪新雪
なぜ雪粒同士が結合するか?
自然界の雪は、融点(0C)に近く融けかかっているから
粘土を窯で焼くと結合して丈夫な焼物になるのと同じ(焼結)
氷球の焼結(−5°C)雪は融点付近で赤熱した物質に近い
雪の結合が弱いと雪崩が発生しやすい(抵抗力小)
雪の結合が弱い場合 ①短時間大量降雪(ドカ雪)
雪の結合が進んで強度が増す前に、上載荷重の増加に耐えきれずに雪崩が発生する
遠藤(1993)による計算例
朝9時~翌朝9時までの降雪深ランキング防災科学技術研究所(長岡)過去48冬期
24時間降雪深(cm)
観測日
1位 111.0 1986/01/09
2位 87.0 1984/12/28
3位 86.0 1973/12/23
4位 83.2 2016/01/24
5位 80.5 2018/02/05
6位 80.0 2005/01/11
7位 80.0 2010/01/13
8位 76.0 1986/01/25
9位 75.0 1984/12/25
10位 73.0 2005/01/31
雪板
最近も記録的なドカ雪が降る
降雪時の風も要注意点
降雪量が少なくても、強風で風下側に雪がたまることがある
局所的なドカ雪に相当する
雪庇
吹きだまり
雪の結合が弱い場合 ②低気圧性の降雪結晶
結合しにくく崩れやすい形状の結晶が降ることがある(南岸低気圧通過時など)
冬型 南岸低気圧
Kikuchi et al
(2013)
Kikuchi et al
(2013)
雪面から80cm下に低気圧通過時に降った崩れやすい結晶が存在
2015年1月17日妙高市 燕温泉で雪崩多発前山・粟立山で雪崩事故発生
広域で多発同一斜面で複数発生
雪の結合が弱い層を弱層という
弱層より上側の積雪全体が崩れる「表層雪崩」の原因となる
注意点:
弱層の存在は見た目ではわからない
安全な場所で雪を掘って確かめる
雪の断面を指で突いて
硬い部分は結合が強く丈夫
柔らかい部分は結合が弱い
弱層
ぬれざらめ(0C) 乾きざらめ(< 0C)
雪の結合が弱い場合 ③雪が融けた場合
気温上昇や日射で雪が融けると「ざらめ雪」に変化する
雪粒同士の結合も融けると強度が弱くなる(ぬれざらめ)
気温が下がって再凍結すると丈夫になる(乾きざらめ)
しもざらめ雪
雪の結合が弱い場合 ④積雪内に霜が形成される
積雪内に温かい部分(≈ 0C)と冷たい部分が存在する場合
温かい部分から出た水蒸気が冷たい部分で固体化する
新しく雪粒(しもざらめ雪)ができるので結合が弱い
しまり雪
霜が成長した部分
2. 地形や植生と雪崩の関係
斜面に積もった雪は、肉眼でわからない程度にゆっくり下方に移動している(グライド)
斜面上の積雪
尾根や平地にある雪は動かないので斜面上方の雪には引張力、斜面下方の雪には圧縮力が働く
ここの雪は動かない
引張
圧縮
積雪は引張力に弱いので,傾斜が急になる箇所では引張力で雪が破断して雪崩が発生しやすい
グライド速度が大きくなると雪が引張破壊されクラックが生じる
雪の結合が無くなり抵抗力が減少 →「全層雪崩」が発生しやすくなる
クラック(割れ目)
・斜面上の笹・萱などの下草が雪の重みで寝た状態
・雨水・融雪水が積雪と地表の間を流れる状態
なども抵抗力減少につながる
クラック(雪の結合が無い)
横だけでなく縦方向にも注意
斜面傾斜角35~40で発生多
30以下、60以上は少ない
斜面傾斜角が大きいほど駆動力が増加するが、雪が積もりにくいので雪崩発生は少なくなる
斜面傾斜角と雪崩
雪崩到達距離の経験則(高橋の法則)
・表層雪崩:見通し角18以内(水平距離が落差の約3倍)
・全層雪崩:見通し角24以内
発生点
見通し角18
24
雪崩の最大到達距離
雪崩が橋梁に衝突し、谷側にずれた
平成18年豪雪 福井県
樹木を皆伐した後に大雪(平成18年豪雪)となり雪崩が発生した例(福井県)
植生(樹木)と雪崩
3. 様々な雪崩
大地震で雪崩が多発した事例長野県北部地震(2011年3月12日)
湿雪表層雪崩が同時多発(十日町市)
斜面崩壊
国道 353号線
積雪を巻き込みながら流下
道路上に積雪が大量堆積
流された作業小屋
地震時の斜面崩壊にともなう雪崩(津南町)
雪により流動性が高くなった可能性?
雪崩による河川閉塞(長岡市濁沢)
融雪期の注意事項-雪泥流(せつでいりゅう)
融雪期の急激な気温上昇・大量降雨↓
雨水や融雪水が河川流路内にたまった雪にせき止められる↓
雪と水の混合流体が一気に流下する
・冬期の河川工事に注意
4. 積雪斜面の観察
現地調査 無雪期 地形調査
植生調査
既存対策工の設
置状況調査
:雪崩の発生しやすい地形かどうか調査
雪崩流路の推定
:雪崩の発生しやすい植生かどうか調査
雪崩跡の推定
:既存対策工の雪崩対策効果の確認
(設計条件との適合性等)
積雪期 植生調査
斜面積雪・雪崩
発生状況調査
対策施設の効果
確認調査
:植生の雪崩発生予防効果の確認
:斜面における雪崩発生状況の確認
斜面積雪の観測
:積雪期における雪崩対策効果の確認
なにはなくとも現地を見る ことが基本
積雪深増加にともなう斜面平滑化・機能低下
予防柵があっても注意
予防柵
道路
どこが危険?・周囲の雪と結合していない・下まで流下しやすい