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2012/8/20 1 子どもの発達に関する課題(心理学) 岐阜大学教育学部 月元 平成24年度 岐阜県教員免許状更新講習 講習の範囲学校適応の理解と支援 子どもたちの学校適応 子どもの発達と発達上の課題 学習を支える脳のメカニズム 時間的展望と適応

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2012/8/20

1

子どもの発達に関する課題(心理学) 岐阜大学教育学部 月元 敬

平成24年度 岐阜県教員免許状更新講習

講習の範囲―学校適応の理解と支援

子どもたちの学校適応

子どもの発達と発達上の課題

学習を支える脳のメカニズム

時間的展望と適応

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学校適応のための援助サービス(p.62)

1次的援助サービス 2次的援助サービス 3次的援助サービス

対象 すべての児童・生徒 一部の児童・生徒 特定の児童・生徒

内容

入学時の適応

学習スキル

対人関係スキル等

学習意欲の低下

登校しぶり等

不登校

いじめ・非行

LD等

方法 自助資源開発の援助 問題状況の早期発見とアセスメント

自助資源と周囲の援助資源の発見と統合

通常のサービス “普段”の観察が鍵 “真の味方”の発見

子どもの自尊心を優先させる

担任以外の

協力的人材

との連携

同僚教師

医療機関

子ども相談

センター 警察

スクール

カウンセラー

教師自身が“Help!”と

言いやすい状態が大事

個人内ハードル

個人間ハードル

を低くする取り組み

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発達課題―ソーシャル・スキル―(p.62)

児童期:「同年齢集団の一員として行動できる」

初歩的なソーシャル・スキル

青年期:「親しい友人を作り,親密な話ができる」

個別対応のソーシャル・スキル

自身の内面的理解

少子化とメディアが一因と言われる

「外遊び」「仲間遊び」の機会の減少 (→運動能力格差の発生)

資料:平日にTVゲームをする時間

出典:厚生労働省『(平成18・19年)第6回21世紀出生児縦断調査』 文部科学省『平成20年度 全国学力・学習状況調査』

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補足:アサーション・トレーニング

Assertion:自分も相手も大切にした率直な(=誤解を生まない)自己表現やコミュニケーション(平木, 1993)

学校におけるトレーニングの導入の試み

渡辺弥生・山本弘一 (2003). 中学生における社会的スキルおよび自尊心に及ぼすソーシャルスキルトレーニングの効果―中学校および適応指導教室での実践 カウンセリング研究, 36, 195-205.

堀川徳子・柴山謙二 (2006). 現代の大学生に対するアサーション・トレーニングの効果について 熊本大学教育学部紀要(人文学科), 55, 73-83.

高橋 均 (2012). 幼児教育・保育におけるアサーション・トレーニングのイメージ 山口芸術短期大学, 3, 33-39.

例:順番に意見する場合のリーダーの役割

今は君の番じゃないよ。

もう少し待っててね。

(笑顔)

うるさいな!

勝手なことしないでよ!

う~ん・・・ (何も言えず苦しむ,

泣く,落ち込む)

1. 望ましくないスキルと望ましいスキル及びその結果を対比させる。

2. 教職員等が演じてみせる(モデリング)。

3. 発見学習として子どもの気づき,感想の交換により,他者の気持ちに触れさせる。

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心理教育的アセスメント(p.63)

スクールカウンセラーの行う「心理教育的援助サービス」の1つ

その他,(学校組織・教師や家族への)コンサルテーション,コーディネーション,カウンセリングがある

援助サービスの立案のために必要となる情報を得るための検査・面接

行動記録,各種心理検査(知能,性格,学力,適応など)

アセスメントの流れ

主訴

問題点

課題

質的情報の収集

観察・面接・記録等

量的情報の収集

心理検査

情報の

整理・統合 解釈 援助・指導

計画立案

援助・指導

実施

援助・指導

結果の評価

問題点の明確化が重要

できる限り行動のレベルで記述する

Assessment See

Plan

Do

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“情報の整理と統合”=照合

対象者の典型的な心理・行動の特徴が得られる中心的情報

しかし良い意味でも,悪い意味でも教師の“主観・経験”が介入する余地がある

→客観性を高める努力が必要

客観性のある測定方法ではあるが,あくまでも“道具” 短時間のサンプルに過ぎず,結果は仮説的

→検証が必要

• 一致:対象者の特徴の可能性大

• 不一致:さらなる検討の必要性

質的情報と量的情報の照合

実証に基づく指導(evidence-based intervention) →有効な指導法の開発,適切な評価へ

教育システムという環境での発達上の課題(p.65)

小1プロブレム

中1ギャップ

高1ドロップ

時限の区切り

自己管理の増大

親の養育態度 (過介入・生活リズム・ 感情次第の対応)

発達課題未消化

ソーシャル・スキル(アサーティブ含む⇔単なる自己主張)

自己効力感(信頼感,有能感,有用感)

メタ認知,発展的な原因帰属

学習でのつまずき

心身の発達・思春期が絡んだ人間関係の複雑化

不登校児童生徒数(平成22年) 小学6年:7433人

中学1年:22052人

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7

資料:自己に対する認識

14.6

49.5

6.6

40.9

39.8

28.0

34.5

5.9

47.9

6.8 2.2

15.6

3.2

2.5

0.8

0% 20% 40% 60% 80% 100%

中国

アメリカ

日本

よく当てはまる やや当てはまる あまり当てはまらない 全然当てはまらない 無回答

Q. 私は多くの良い性質を持っていると思う。

9.2

12.8

19.1

16.2

19.2

37.3

28.8

21.6

29.6

42.0

43.3

13.2

3.7

3.1

0.7

0% 20% 40% 60% 80% 100%

中国

アメリカ

日本

よく当てはまる やや当てはまる あまり当てはまらない 全然当てはまらない 無回答

Q. 時には,私は役に立たない人間だと思うことがある。

出典:日本青少年研究所『中学生の生活意識に関する調査』(平成14年)

取り組み例

ピア・サポート・プログラム

人の役に立つ体験を通して,子どもの自己効力感を育てる

例:小学1年生に遊びを伝える(小学校高学年)

教師の価値観:“役立つこと”を強調しすぎていないか?

役立たないこと=悪というイメージの植え付け

“直接的な処方箋しか求めない態度”の伝染

創意工夫,“学びの専門家”としての教師

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脳から教育を語るにはまだ時期尚早

“刺激と報酬・罰との随伴性の学習に関与しているのは,脳の内側前頭皮質である。”(p. 66)

“…を行うのに重要な部位”(p.66)

“…を観察したり模倣するとき,視覚野,上側頭回,…など,複数の脳部位が互いに連結しながら活動している”(pp.66-67)

行動・状況 脳活動(部位)

脳イメージング研究=神経相関研究

脳活動→行動という因果関係を扱える段階ではない

教育への直接的提言にはまだまだつながらない

「最新」よりも「細心」―脳科学リテラシーへ

Weisberg et al. (2008). The seductive allure of neuroscience

explanations. Journal of Cognitive Neuroscience, 20, 470-477.

論理的におかしな説明文であっても,脳科学の専門用語が散りばめられると,「信用できる説明文だ!」と判断しやすい

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補足

報酬=“その行動は適切だ,正しい”というメッセージ

褒める:有能感や動機づけにつながる情報的報酬

あげる:行動の目的が「したい」から「報酬を得る」に変わる

指導する内容が「動作・やり方」といった手続き的知識の場合は,教師や熟達者が見本を示すことで,必要な所作は体得されやすくなる

ミラー・ニューロンの働き(?)

⇔宣言的知識の指導

時間的展望(p.67)

過去経験の

見解

現在の

状況・事態

未来の

希望・願望

個人の行動 t

past

future

発達過程で展望幅が広がる

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資料:早く大人になりたいか?(高校生)

34.3%

56.6%

9.1%

そう思う

そうは思わない

どちらとも言えない,分からない,無回答

出典:NHK放送文化研究所 (2003) . 中学生・高校生の生活と意識調査

大人になりたくない理由 %

子どもでいる方が楽だから 32.9

大人になることがなんとなく不安だから 18.2

大人になって仕事や家のことをちゃんとやっていける自信がないから

16.6

周りの大人を見ていると,ずるい人や自分勝手な人が多いから

13.2

大人になると働かなくてはいけないから 8.2

大人になっても,特にやりたいこともないし,夢もないから

6.3

わからない,無回答,その他 8.3

資料:早く大人になりたいか?(中学生)

33.1%

57.7%

9.2%

そう思う

そうは思わない

どちらとも言えない,分からない,無回答

出典:NHK放送文化研究所 (2003) . 中学生・高校生の生活と意識調査

大人になりたくない理由 %

子どもでいる方が楽だから 34.9

大人になることがなんとなく不安だから 18.4

大人になって仕事や家のことをちゃんとやっていける自信がないから

13.9

周りの大人を見ていると,ずるい人や自分勝手な人が多いから

11.2

大人になると働かなくてはいけないから 7.2

大人になっても,特にやりたいこともないし,夢もないから

6.1

わからない,無回答,その他 8.3

Page 11: 講習の範囲 学校適応の理解と支援 - Gifu Universitytaka_t/20120820.pdf · 2014. 3. 5. · The seductive allure of neuroscience explanations. Journal of Cognitive Neuroscience,

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“夢を持たない”ことは悪ではない

希望も不安も,時間的展望の発達過程で自然に生じる

=避けることはできない

多様な価値を認める“身近な社会”としての学校・学級づくり

悩みや不安に対し,揺らぎながらも向き合うことを許容する環境の提供

乳児期に限定されない基本的信頼感の形成