財政再建による...

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16 回 公共選択学会 「財政再建による日本経済再生」 東洋大学経済学部 中澤ゼミナール 3 Part K 1 16 公共選択学会 学生の集い 「日本経済再生のために、 いかにマクロ経済政策を運営すべきか」 5 財政再建による 日本経済再生の実現 1 10 東洋大学経済学部総合政策学科 中澤ゼミナール 3 Part K 浅見真理子 小野寺春花 下津隆明 矢作将武 15 1 本稿は、2013 11 910 日に中央大学において開催される公共選択学会「第 16 回学生の集い」のた めに作成したものである。本稿の作成にあたっては、中澤克佳先生(東洋大学)や矢尾板俊平先生(淑徳 大学)、諸先生方から有益かつ熱心なコメントを頂戴した。また、中澤ゼミナールの諸先輩方、第 7 期の仲 間からは応援と有益なアドバイスを頂き、本稿を完成させる上で欠かせなかったものである。ここに記し て感謝の意を表したい。しかしながら、本稿にあり得る誤り、主張の一切の責任は東洋大学中澤ゼミナー ル第 7 期生 Part K に帰するものである。

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第 16 回 公共選択学会

「財政再建による日本経済再生」

東洋大学経済学部 中澤ゼミナール 3 年 Part K

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第 16 回

公共選択学会 学生の集い

「日本経済再生のために、

いかにマクロ経済政策を運営すべきか」 5

財政再建による

日本経済再生の実現1

10

東洋大学経済学部総合政策学科

中澤ゼミナール 3 年 Part K

浅見真理子 小野寺春花 下津隆明 矢作将武 15

1本稿は、2013 年 11 月 9、10 日に中央大学において開催される公共選択学会「第 16 回学生の集い」のた

めに作成したものである。本稿の作成にあたっては、中澤克佳先生(東洋大学)や矢尾板俊平先生(淑徳

大学)、諸先生方から有益かつ熱心なコメントを頂戴した。また、中澤ゼミナールの諸先輩方、第 7 期の仲

間からは応援と有益なアドバイスを頂き、本稿を完成させる上で欠かせなかったものである。ここに記し

て感謝の意を表したい。しかしながら、本稿にあり得る誤り、主張の一切の責任は東洋大学中澤ゼミナー

ル第 7 期生 Part K に帰するものである。

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「財政再建による日本経済再生」

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要旨

本稿の目的は、現実的な財政再建案とそれを確実に運営するルールを策定することで、

財政の健全化を図り、「日本経済再生」へと繋げることである。「日本経済再生のために、

いかにマクロ経済政策を運営すべきか」というテーマと解題に対して、私たちの回答が「財

政再建による日本経済再生」である理由は以下の 2 点である。第 1 に日本の財政は危機的5

状況にあり財政破綻の可能性があること。そして第 2 に財政再建が経済成長に寄与するか

らである。つまり、本稿は喫緊の問題である財政破綻の回避を行うことを第一歩として、

財政再建を経済成長へとつなげることで日本経済再生を達成する、という立場から政策提

言を行う。そこで、公共選択論をベンチマークに財政が拡大してきた要因とこれまで財政

再建が失敗に終わってきた問題点について明らかにし、それらを踏まえ財政再建に関する10

先行研究を参考に、日本が財政再建を達成するための政策を提言する。なお、ドーマー条

件を用いて政府債務の持続可能性とプライマリーバランスを独自に算出し、安倍政権のマ

クロ財政政策を評価した点、試算を踏まえて財政再建案の数値目標を明確に定めた点、そ

して段階的歳出削減ルールの設定を行い、一連の政策として提案した点が、本稿の独自性

であり貢献である。本稿の提言を導入することにより、財政再建を果たし、規律ある財政15

運営が可能になると主張する。本稿の構成は以下の通りである。

第1章では財政再建の必要性を説明していく。現在の日本はプライマリーバランスが

1990 年代以降継続して赤字である。一人当たりの国債残高も年々増加している。そして急

速な少子高齢化によって社会保障給付費が増大し、財政を圧迫する可能性が高い。また高

齢化は貯蓄率を減少させる要因でもあり、それによって安定した国債の消化が維持できな20

くなる可能性が高い。上記の理由により日本の財政は危機的状況であり、財政破綻の回避

のためにも財政再建は必要であることを示す。さらに、莫大な国債残高は経済成長を阻害

する要因であり、財政再建を行うことは非ケインズ効果を通じて経済成長に寄与すること

が指摘されている。つまり「経済成長からの財政再建」ではなくて、「財政再建からの経済

成長」を行なうのが望ましいと私たちは考える。続く第2章では現在の安倍政権が行なっ25

ている政策によって財政再建が可能かを、ドーマー条件を用いて検証し、アベノミクスが

想定している数値プランは楽観的であり、財政再建は困難であることを示す。

第3章では国債残高が累増してきた理由を公共選択論の視点から考察する。日本財政が

危機的状況に陥った理由は、国債発行に関して財政錯覚があったことを述べる。また、同

時にこれまでの財政健全化への取り組みについても整理し、その問題点を明らかにした上30

で、海外の事例を参考に財政再建を実現するために必要な政策を検討する。最後に、第4

章で政策提言を行う。国債残高対 GDP 比を均衡させるために、歳出削減を中心としたプラ

イマリーバランスの均衡と国債残高対GDP比を減少させるための中長期マクロ財政運営ル

ールの導入を提案し、その条件と実現可能性について検討を行う。

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「財政再建による日本経済再生」

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目次

要旨 ..................................................................................................................................... 2

序章 論題解釈 ...................................................................................................................... 5

第 1 章 日本経済再生と財政再建 ......................................................................................... 6

第 1 節 日本財政の現状と財政再建の必要性 ................................................................... 6 5

第 1 項 プライマリーバランスの推移........................................................................... 6

第 2 項 国債の残高の増加 ............................................................................................. 7

第 3 項 社会保障関係費の増加 ..................................................................................... 8

第 4 項 国民貯蓄額の減少 ............................................................................................. 9

第 2 節 財政再建による日本経済再生 ............................................................................ 10 10

第 2 章 財政再建視点でのアベノミクスの政策評価 .......................................................... 13

第 1 節 アベノミクスとは .............................................................................................. 13

第 1 項 金融政策 ......................................................................................................... 13

第 2 項 財政政策 ......................................................................................................... 13

第 3 項 財政再建へのスタンス ................................................................................... 14 15

第 2 節 ドーマー条件 ...................................................................................................... 15

第 3 節 アベノミクスの政策評価 ................................................................................... 15

第 1 項 アベノミクスのシミュレーション結果 .......................................................... 15

第 2 項 名目経済成長率 3%の実現性 .......................................................................... 17

第 3 項 歳出削減のみで財政再建するケース .............................................................. 17 20

第 4 節 結語 .................................................................................................................... 18

第 3 章 公共選択的視点からの財政再建案の検討 .............................................................. 19

第 1 節 なぜ国債残高は増加したのか ............................................................................ 19

第 2 節 過去の日本の財政への取り組みと問題点 .......................................................... 21

第 1 項 過去の財政規律への取り組み......................................................................... 21 25

第 2 項 過去の財政政策運営の問題点......................................................................... 22

第 3 節 財政再建に成功した諸外国の取り組み .............................................................. 23

第 4 節 結語 .................................................................................................................... 25

第 4 章 政策提言 ................................................................................................................. 26

第 1 節 政策提言の概要 .................................................................................................. 26 30

第 2 節 政策の理念 ......................................................................................................... 28

第 3 節 ルールの詳細 ...................................................................................................... 28

第 1 項 シーリングの方法 ........................................................................................... 28

第 2 項 景気変動への対応 ........................................................................................... 29

第 3 項 国債発行の条件 .............................................................................................. 30 35

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第 4 節 中長期的に財政ルールを守らせる方法 .............................................................. 31

第 1 項 法律の導入 ...................................................................................................... 31

第 2 項 公約の遵守 ...................................................................................................... 31

第 5 節 結語 .................................................................................................................... 31

参考文献・参考 URL............................................................................................................ 33 5

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序章 論題解釈

公共選択学会学生の集いのテーマ「日本経済再生のために、いかにマクロ経済政策を運

営すべきか」を受けて、私たちは以下の理由より「財政再建こそが日本経済を再生する条

件である」という立場から本稿を作成することとした。

日本経済は、解題にもあるように「失われた 20 年」と呼ばれる長期的な停滞状態にある。5

バブル崩壊後このような経済の停滞期に入った状況に対し、経済成長や景気回復などを目

指した政策によって、この停滞から脱却しようと政府はこれまで様々な政策を行ってきた。

しかし、現在も「失われた 20 年」からの脱却は果たされていないばかりか、その間に行っ

た様々な政策の弊害として、日本は巨額の累積債務を抱えることとなった。これまで、高

い貯蓄率に支えられて国債は安定的に国内で消化できていたが、高齢化、人口減少の進展10

や貯蓄率の低下は、国債の安定消化の前提を揺るがすものである。今後の人口変動を考え

ると、財政破綻の可能性は急速に高まってきており、財政再建を先送りすることは、財政

健全化へのハードルをますます高くすることを意味する。つまり、財政再建への道筋を付

けることこそが最優先で取り組むべき課題である。

これまでの経済政策の方向性としては、「経済成長をすることが財政再建にもつながり、15

日本経済にとって結果的に良い循環を生む」という議論が主流であり、安倍政権も基本的

にこの考え方を採用し、拡張的な財政・金融政策を行っている。しかし、先進国において

公的債務と経済成長の関係を調査したところ、公的債務が累増すると経済成長を阻害する

ということが実証されている研究2がある。これは、「失われた 20 年」で行なわれてきた、

経済・景気対策ための多額の国債発行を伴う経済政策が、国債発行残高の累増を招き、経20

済成長への効果に繋がってこなかった現状を説明できるだろう。また、現政権が行ってい

る拡張的な経済政策への批判ともなる。

また、緊縮的な経済政策によって非ケインズ効果3が発生し、内需を拡大して経済を成長

させる可能性も指摘されている4。しかし、非ケインズ効果をもたらすには、国民が将来に

対する不安を抱かない状況を実現する必要がある。現在の日本は財政破綻の可能性が考え25

られるほど危機的状況である。財政が破綻すると、国民生活には物価上昇や預金の封鎖、

公共サービスの削減や料金の高騰、社会保障給付の大幅な削減が予想される。経済成長を

促すためには財政を健全化して国民の消費意欲を刺激する必要があるだろう。

以上の理由より私たちは、財政再建を行い国債発行残高を減少へと向かわせることが、

日本経済再生として「失われた 20 年」からの脱却を目指す第一歩であると考える。よって30

本稿は、財政再建が日本経済再生に寄与するという立場から、「日本経済再生のためにどの

ような財政再建政策を構築し、それをいかに運営していくか」をテーマに政策提言を行う。

2 Reinhart, Reinhart and Rogoff (2012) 3非ケインズ効果とは緊縮的財政政策が消費を促進させる効果があるという理論。緊縮財政を行うと国民の

将来不安を払しょくすることができ、消費が増加する。 4 Miyazaki(2013)では、近年の日本では非ケインズ効果が確認できると指摘している。

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第 1 章 日本経済再生と財政再建

本章では、財政再建が喫緊の問題であり、すぐに取り組むべき課題であることを明らか

にする。第 1 節では今日の財政状況について明らかにし、日本経済再生のためには財政再

建が最も重要であることを述べる。続く第 2 節では、財政再建がいかに日本経済再生に寄

与するのか、その関係について示す。また、公的債務の累増が経済成長を阻害すること、5

そして非ケインズ効果により財政再建をすることが経済成長につながることを述べていく。

第 1 節 日本財政の現状と財政再建の必要性

本節では、日本の財政がいかに危機的な状況にあるのかを示す。まず、プライマリーバ

ランス(基礎的財政収支)5と国債発行残高を示し、日本財政の現状を明らかにする。歳出10

の約 3 割を占め今後も増加が予想される社会保障費や国民貯蓄の推移より、将来的に財政

の悪化につながる可能性を述べていく。

第 1 項 プライマリーバランスの推移

日本の財政の現状として、プライマリーバランスが重要な指標の 1 つとなる。、図表 1-1-115

は 2011 年度までのプライマリーバランスの推移を示している。

図表 1-1-1 プライマリーバランスの推移

出典:財務省(2012)「予算決算及び純計」より Part K 作成 20

1990 年代以降、プライマリーバランスは慢性的な赤字が続いており、これは財政運営が

5 税収による収入と国債の利払い費を除いた歳出の差であり、国債に依存した財政運営を行っていないか

を示す指標である。

-50.0

-40.0

-30.0

-20.0

-10.0

0.0

10.0

(兆円)

(年)

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税収だけでは足りず、国債の発行が必要になることを意味する。小泉政権下において、財

政再建を目指すためにプライマリーバランス黒字化の方針を打ち出し、若干の改善を示し

たが、慢性的な赤字体質の改善には至らなかった。小泉政権では、第 1 に国債発行を 30 兆

円以下に抑えること、第 2 に過去の借金の元利払い以外の歳出は新たな借金に頼らないこ

との 2 点を目標に掲げた。しかし、国債による収入は、小泉政権下の 2001 年こそ 30 兆円5

だったが、2001 年以降は 30 兆円を上回り、2 つめの目標であるプライマリーバランスの黒

字化を実現することはできなかった。これらを踏まえると、プライマリーバランス健全化

について議論はなされてはいるものの実現には至っておらず、早急にプライマリーバラン

スを改善しなければ、さらなる国債の増発で政府債務のさらなる拡大が引き起こされるこ

とになる。 10

第 2 項 国債の残高の増加

第 1 項でも述べたように、日本の財政は近年赤字で推移している。つまり、国債による

収入が増加している。図表 1-1-2 は国民 1 人当たりの国債残高のグラフである。

15

図表 1-1-2 1 人当たり国債残高

出典:財務省「戦後の国債管理政策の推移」

政府統計総合窓口「人口推計」より Part K 作成

20

1990 年代と 2000 年代を比較すると、一人当たり残高が急速に増加していることがわか

る。これは、プライマリーバランスの赤字により、歳入における国債の依存度が高まった

ことが要因である。今後、プライマリーバランスの改善を怠ると、一人当たり国債残高は

ますます増加していくことが懸念される。さらに、日本は少子高齢化が進行している段階

であり、総人口は将来大幅に減少すると予測される。つまり、プライマリーバランスの悪25

化と人口減少で一人当たり国債残高はさらに増加することになる。財政再建を先延ばしに

すると、今後将来世代が返済しなければならない額も増加してしまい、一人当たりの負担

0

100

200

300

400

500

600

700

(万円)

(年)

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も増加する。よって、財政再建は先延ばしにしてはならない重要な課題である。

第 3 項 社会保障関係費の増加

社会保障関係費は、2011 年時点で国の歳出の 3 割近くを占める歳出項目であり、財政問

題に大きく関わる歳出項目であると考えられる。社会保障給付費は、基本的に社会保険料5

収入によって賄われる。図表 1-1-3 は社会保障関係費の推移である。社会保障関係費の歳出

は毎年増加する一方であるのに対し、社会保険料収入は 1990 年代後半から横ばいの傾向と

なっている。

図表 1-1-3 社会保障給付費の推移 10

出典:政府統計の総合窓口 社会保障費用統計(2010)「社会保障費用統計」より Part K 作成

今後、社会保障サービスの受給者と負担者はどのような構成になっていくと予想される

のか、受給者と負担者の構成比を見ていく(図表 1-1-4)。 15

図表 1-1-4 高齢者と現役世代の人口比率(過去から未来予測)

年 1990 年 2012 年 2025 年 2050 年

65 歳以上:20~64 歳 1人:5.1 人 1 人:2.4 人 1 人:1.8 人 1 人:1.2 人

出典:財務省(2011)「税制について考えてみよう」より Part K 作成

図表 1-1-4 を見ると、65 歳以上の高齢者 1 人を支える 20〜64 歳の現役世代の人数は将来20

減少していくことがわかる。つまり、現役世代が払う保険料収入だけでは高齢者を支えき

れなくなる状況を意味し、不足分は公費に依存することになる。財政再建という課題を先

送りにすると、今後必ず必要となる社会保障給付費に回す資金がなくなり、それがさらな

る国債の発行を招き、さらに財政赤字を拡大する要因になる。社会保障という観点から見

-

20

40

60

80

100

120

(兆円)

(年)

年金 医療 福祉その他 社会保険料収入

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ても、財政再建は先送りしてはならない重要な課題である。

第 4 項 国民貯蓄額の減少

国民貯蓄の観点からも日本の莫大な政府債務は問題である。国民貯蓄は「民間貯蓄+政

府貯蓄-固定資本減耗」と定義される。ここまでに述べたように、国債の残高は年々増加5

し、社会保障費の拡大も指摘されている。そして、その国債購入の資金源となっているの

が国民貯蓄である。図表 1-1-5 は国民貯蓄の推移を示したグラフである。

図表 1-1-5 国民貯蓄の推移

10

出典:1980 年から 2000 年までのデータは内閣府(2003)「国民経済計算制度部門別所得支出勘定」、

2001 年から 2010 年データまでのデータは内閣府(2011)「国民経済計算 制度部門別所得支出勘定」

より Part K 作成

国民貯蓄は 1990 年代以降減少傾向にある。さらに高齢者が増加する日本では、高齢者は15

貯蓄を切り崩しながら生計を立てるため、今後のさらなる国民貯蓄の減少が発生する可能

性がある。国民貯蓄の減少により、国債を安定的に国内で消化できないという状況に陥る

と、日本の国債の信用は急速に低下する。日本で発行される国債は、ほとんどが国内で消

化される、いわゆる内債である。しかし、国債を発行しても国内消化できないと、外国に

国債を購入してもらうことになり、内債で信用を保っていたものが外債になるため、国債20

の信用は大きく低下することになりかねない。外債に頼ったときに国債の需要が低ければ

金利は上昇してしまう。つまり、政府による利払い費が膨れ上がることになり、財政状況

の悪化へとつながる。また、国債への信用度が極端に不安定化する。このような問題を未

然に防ぐためには、国債に頼らない財政運営を行うために、早急に財政再建という課題に

取り組むべき必要があると考える。 25

-10,000

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

90,000

(億円)

(年)

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第 2 節 財政再建による日本経済再生

本節では財政再建が日本経済再生のために最も必要な条件だと説明をする。はじめに国

債残高が一定の水準を超えると経済成長の低下がみられるということを示す。次に財政再

建を達成すると経済成長に寄与する可能性があることを述べる。よって、財政再建がなさ

れていない状態での成長戦略は効果が薄いため、まず財政再建を果たして経済成長を目指5

すことが重要である。

Reinhart, Reinhart and Rogoff (2012) は、国債残高の累積が経済成長を阻害すると主張

している。彼らが先進国の国債残高と経済成長の関係を調査したところ、国債残高対 GDP

比が 90%以上の国はそうでない国よりも成長率が低かったことが述べられている。国債残

高が経済成長を阻害する決定的な要因はわかっていない。しかし、国債残高の累積が経済10

成長を阻害する可能性は高い。このことは日本が 90 年代に行った拡張的な財政政策が景気

に大きな効果与えずに債務だけを増大させ、現在に至っても日本経済が停滞していること

で説明できる。

また、緊縮的財政政策が国民の消費増大を誘い経済成長に寄与する効果を非ケインズ効

果と呼ぶが、Giavazzi and Pagano(1990)が 1980 年代のデンマークとアイルランドで財政15

再建による非ケインズ効果が発生したことを指摘している。日本でも Miyazaki(2013)が近

年の日本において非ケインズ効果が発生したことを指摘している。そして、日本での経済

成長には国内での消費拡大は必要不可欠である。なぜなら、日本の経済成長に寄与してい

るのはほとんどが外需ではなく内需であるからである。図表 1-2-1 と図表 1-2-2 は、それぞ

れ横軸を内需成長率と外需成長率とし、縦軸を名目経済成長率としている。この 2 つの図20

表から内需が名目経済成長率に大きく寄与していることがわかる。よって、緊縮的な経済

政策によって非ケインズ効果が発生した場合、内需拡大を通して経済成長を促進させる可

能性が高いことがわかる。

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図表 1-2-1 内需と名目経済成長率の関係

出典:内閣府「2011 年度国民経済計算確報」より Part K 作成

図表 1-2-2 外需の名目経済成長率の関係 5

出典:内閣府「2011 年度国民経済計算確報」より Part K 作成

また、老後の不安が貯蓄率を高めることは図表 1-2-3 でわかる。この図表は横軸に老後の

生活に不安を持っている人の割合6、縦軸に勤労世帯の家計貯蓄率を使用している。老後の10

生活に不安を持っている世帯の約 7 割は「年金や保険が十分ではないから」と回答してい

る。これらのことから老後の生活に不安があると貯蓄が増加し、その不安の大きな要因と

して社会保障があるとわかる。財政悪化による社会保障給付への不安があると考えられる。

よって、非ケインズ効果により内需を刺激するためには財政健全化による財政への信頼を

得ることが重要である。 15

公的債務が累増している現状で経済成長をするための政策を打ったとしても、効果が薄

6 内閣府「国民生活に関する世論調査」で「日常生活での悩みや不安を感じている」と回答した人の「老

後の生活設定を不安」を理由に挙げた人の割合。国民生活に関する世論調査がなされなかった 1998 年およ

び 2000 年は前年のデータを使用した。

y = 0.7624x - 0.0732

R² = 0.7164

-5

-3

-1

1

3

-5.0 -3.0 -1.0 1.0 3.0 5.0

y = 0.2374x + 0.2662 R² = 0.0198

-5

-4

-3

-2

-1

0

1

2

3

-2.5 -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5

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い。一方、財政再建を行うと将来不安の払しょくから消費が増大して経済成長に寄与する。

よって、本稿では財政再建を果たすことが日本経済再生のための第 1 歩であると考える。

図表 1-2-3 老後の不安と勤労世帯家計貯蓄の相関関係

5

出典:内閣府「国民生活に関する国民調査」 総務省統計局「家計調査」より Part K 作成

y = 0.1688x + 18.586

R² = 0.5962

15

17

19

21

23

25

27

29

31

15 25 35 45 55 65

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第 2 章 財政再建視点でのアベノミクスの政策評価

前章では、財政再建を最優先すべきであると述べた。それでは、現在の安倍政権はどの

ようなマクロ経済政策を採用しているのだろうか。そして、その政策は、私たちが考える

「財政再建」の視点からはどのように評価できるだろうか。本章では、いわゆるアベノミ

クスについて整理し、財政再建の観点からみたアベノミクスの評価を行う。第 1 節では、5

アベノミクスが何を目標とし運営される政策であるのか、またその政策の内容について整

理する。第 2 節においてはアベノミクスの評価や本稿での政策を検討する上で、財政の維

持可能性に関するベンチマークとして用いるドーマー条件について述べる。それをもとに、

第 3 節においてアベノミクスが実施された結果として財政再建は可能なのか、シミュレー

ションを通じて評価を行う。 10

第 1 節 アベノミクスとは

本節では安倍首相が行っているアベノミクスについて確認する。そして、アベノミクス

の第一の矢、第二の矢である金融政策、財政政策を財政再建の観点から検証していく。

15

第 1 項 金融政策

第一の矢である金融政策は量的金融緩和としてマネタリーベースを 2 年間で 2 倍にし、

2%の物価上昇を目標とするものであり、狙いはデフレからの脱却である。さらに、拡張的

な財政政策の原資として発行される国債は日銀が買いオペを行い、市中に出回る通貨量を

増加させる。目的は、銀行からの貸し出し金利の低下を通じて、企業の設備投資や住宅投20

資増加による経済成長を目指すことである。しかし、これら政策は長期金利の上昇をまね

く危険性がある。安倍内閣が日銀による国債の直接引き受けではなく、買いオペにより一

度民間が引き受けること宣言したものの、国債の新規発行されたものを日銀に引き受けさ

せるのであれば、効果は直接引き受けと変わらない。日銀の引き受けが無制限に行われる

と、財政の規律が保てなくなり、さらに金利が上昇するという懸念がある。 25

第 2 項 財政政策

安倍政権は緊急経済対策として公共投資の拡大を主張した。その緊急経済対策の内訳は、

復興・防災に 3.8 兆円、成長による富の創出に 3.1 兆円、暮らしの安心・地域活性化に 3.1

兆円などを含む総額約 10 兆円規模となっており、拡張的な財政政策を志向している。そし30

て、緊急経済対策の財源 5.2 兆円分は国債の発行に頼っている。金融緩和と合わせて考える

と、国債は市場での消化能力を超えての発行は難しく、財政赤字が拡大していく中で国債

を日銀に買いオペという形で引き受けさせることは、国債の信用低下を引き起こしかねな

い。しかし、異次元緩和という状況が続けば、国債の発行は増発を続けることが可能であ

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るため、公共投資の財源が確保しやすい状況が作り出されており、さらなる赤字財政拡大

の懸念がある。

第 3 項 財政再建へのスタンス

アベノミクスの基本的な方針は「強い経済なくして、財政再建も、日本の将来もない」5

である。そのためには民需主導の持続的成長を実現し、今後 10 年間の平均で名目経済成長

率 3%、実質経済成長率 2%を目指している。アベノミクスでは経済成長を遂げるとともに

財政再建を達成しようとしている。つまり、アベノミクスは経済成長先行・優先である。

一方、平成 25 年 8 月 8 日に行われた第 18 回経済財政諮問会議の資料「当面の財政健全

化に向けた取組等について─中期財政計画─」では以下のように書かれている。「民需主導10

の持続的な成長を実現するためには、財政健全化を通じて、家計や企業の財政に対する不

安を払拭するとともに、より多くの民間貯蓄が民間投資に向かう環境を整備し、個人消費

や設備投資の拡大を促すことが不可欠である」7。つまり、財政健全化への方針を明確にし、

家計や企業の不安を取り除かないことには経済成長できないということを述べているので

ある。アベノミクスは成長戦略の前段階として財政政策や金融緩和などを積極的に行って15

いるが、報告書にもある通り、財政再建しないと経済成長はできないという矛盾が生じて

いる。

第 1 節で述べたように財政再建を行わずに経済成長を遂げようとしても効果は薄い。よ

って、アベノミクスによる景気対策も大きく効果を得られない上に、公的債務の累積を招

く可能性も考えられる。アベノミクスのよる経済成長から財政再建ではなく、財政再建か20

ら経済成長が正しい手法であると私たちは主張する。したがって、私たちはアベノミクス

は財政再建も経済成長も遂げられないと考えている。以下がアベノミクスにおける財政再

建目標である。

① 2014 年にプライマリーバランスを 4 兆円削減 25

② 2015 年にプライマリーバランスを 4 兆円削減

③ 2015 年に政府債務対 GDP 比を 3.3%

④ 2020 年にプライマリーバランスを黒字化

⑤ 新規国債発行は 2014 年、2015 年ともに前年を上回らない

⑥ 歳出面での無駄を排除し GDP を増加させることでプライマリーバランス対 GDP30

比を逓減させる

安倍政権における財政再建目標は本当に達成可能なのだろうか。そのことを検証し、財

政再建に必要な数値を具体的に提示するために、ドーマー条件を用いてシミュレーション

7内閣府「第 18回経済財政諮問会議 資料 1 当面の財政健全化に向けた取組等について―中期財政計画―」

http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2013/0808/agenda.html

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を行う。第 2 節ではドーマー条件とシミュレーション方法を提示し、第 3 節では国債残高

対 GDPがどのように推移していくかシミュレーションを行う。

第 2 節 ドーマー条件

ドーマー条件とは、「公債発行が対 GDP 比で一定であれば公債残高は対 GDP 比で一定に5

なり財政は持続可能」という財政の維持可能性を示したものである。ここでドーマー条件

の式を見ていく。

以下に記述する式は内閣府で作成された「平成 18 年度経済財政白書」を基に作成する。

なお、t期の国債残高を𝐵𝑡、政府歳出を𝐺𝐸𝑡、税収を𝑇𝑡、利子率を𝑟𝑡、名目経済成長率を𝑔𝑡、

とする。 10

t 期の国債発行残高を表す式は以下である。

𝐵𝑡 = 𝐺𝐸𝑡 − 𝑇𝑡 + (1 + 𝑟𝑡)𝐵𝑡−1

上記の式を GDP で割ると対 GDP 比となる。

𝐵𝑡

𝐺𝐷𝑃𝑡=

𝐺𝐸𝑡 − 𝑇𝑡

𝐺𝐷𝑃𝑡+

(1 + 𝑟𝑡)𝐵𝑡−1

(1 + 𝑔𝑡)𝐺𝐷𝑃𝑡−1

15

上記の式の左辺は t 期の国債発行残高の対 GDP 比である。右辺は t 期のプライマリーバ

ランスの対 GDP 比と t-1 期までの国債発行残高の利子率と名目経済成長率の関係である。

上記の式から t 期の国債発行残高を一定にするためには、t 期のプライマリーバランスを

改善するか利子率を下げて名目経済成長率を上昇させるという方法がある。しかしプライ

マリーバランスだけを改善したとしても、名目経済成長率を上回る利子率ならば t 期の国債20

発行残高は増加する可能性もある。そして、名目経済成長が利子率を上回ったとしてもプ

ライマリーバランスが赤字であれば国債発行残高は増加する可能性もある。つまり、国債

発行残高を一定にするにはプライマリーバランスと利子率、名目経済成長率を全て考える

必要がある。

25

第 3 節 アベノミクスの政策評価

第 1 項 アベノミクスのシミュレーション結果

本節では、アベノミクスを財政再建という視点から評価する。まず、前提としてアベノ

ミクスが掲げる名目経済成長率 3%を達成し、各年でのプライマリーバランス赤字の削減を

踏まえた財政再建プランについてシミュレーションを行う。第 1 項では、アベノミクスに30

よる財政再建の前提とされている名目経済成長率 3%の実現可能性について検討する。第 2

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項では、名目経済成長 3%達成できなかった場合を想定し、歳出削減によってアベノミクス

と同様の数値目標の財政再建を行う際の必要削減額を検討する。

図表 2-3-1 は、アベノミクスが掲げる国債残高対 GDP 比に関するシミュレーションの結

果のグラフである。

5

図表 2-3-1 国債残高対 GDP 比の推移(アベノミクスのシミュレーション結果)

出典:財務省「戦後の国債管理政策の推移」「利払費と金利の推移」

内閣府「2009 年度国民経済計算(2000 年基準・93SNA)」

内閣府「第 18 回経済財政諮問会議 資料 1 当面の財政健全化に向けた取組等について―中期財政計画―」 10

を用いドーマー条件の式で Part K 独自作成

このシミュレーションは経済成長率 3%を達成し、安倍首相が掲げる財政再建プランが達

成できた場合のシミュレーションである。安倍首相はプライマリーバランスを 2015 年まで

に毎年 4 兆円削減するため、2020 年のプライマリーバランス黒字化に向け 2015 年からは15

残りのプライマリーバランス赤字を 3 兆円の規模で削減していく計算になる。そして目標

に掲げているプライマリーバランスの削減が達成できると経済成長率の高さも相まって、

2015 年からは国債残高対 GDP 比が減少していく。

上記のシミュレーション結果は将来的な国債残高対GDP比の安定的な推移という視点で

見る限り、効果的な政策と言える。しかし、このシミュレーションの前提は、「金利が低金20

利を継続していること」、「名目経済成長率が 3%を達成できていること」である。つまり、

アベノミクスの財政再建の目標をクリアするには名目成長率 3%を維持し続けていかなけ

ればならない。そこで、次項では名目経済成長率 3%の実現性を考えていく。

150%

153%

155%

156% 156% 155%

154%

151%

149%

146% 145%

150%

155%

160%

(%)

(年)

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第 2 項 名目経済成長率 3%の実現性

前項で行ったシミュレーションはアベノミクスの想定に基づき、GDP が毎年 3%成長す

るとしている。GDP が 3%成長していった場合の GDP の総額と一人当たり GDP のグラフ

が図表 2-3-2 のようになる。

5

図表 2-3-2 毎年の名目経済成長率が 3%を達成した場合の GDP の推移

出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」

内閣府「2011 年度国民経済計算(2005 年基準・93SNA)」より Part K 独自作成

10

名目経済成長率が 3%を継続していった場合、約 10 年後には GDP の総額が約 700 兆円

に達していることがわかる。さらに、少子高齢化に伴い生産年齢人口が減少することで、

生産年齢人口一人あたりのGDPは10年で400万円分増加することになる。言い換えると、

国債残高対 GDP 比を維持していくためには一人当たりの所得を 10 年間で倍増しなければ

ならないということである。つまり、高度経済成長時代の池田内閣における「所得倍増計15

画」に等しい設定ということである。近年の成熟経済・低成長という現状を考慮し、人口

減少を踏まえると、継続的な 3%成長は現実味が薄いと私たちは判断する。アベノミクスは

財政再建という視点で見ると実現可能性に乏しい。

第 3 項 歳出削減のみで財政再建するケース 20

それでは、より現実的な想定でシミュレーションを行った場合、どのような結果が得ら

れるだろうか。そこで、近年の低成長を受け、そして経済成長 3%の達成が困難な場合を想

定し、名目経済成長率が停滞したままの状況でのアベノミクスの財政再建の数値目標達成

シミュレーションを行う。前提として経済成長率が近年の金利と同水準(1.2%)で推移する場

合を想定している。3%の経済成長が達成できない場合、プライマリーバランス赤字の削減25

400

500

600

700

800

900

1000(兆円・万円)

(年)

GDP総額(兆円) 生産年齢人口1人当たりGDP(万円)

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で財政再建をしなければならない。成長率が 1.2%というアベノミクスと比較して低成長だ

った場合に、安倍首相が想定する財政再建を達成するために必要なプライマリーバランス

赤字の削減額を示した表が図表 2-3-3 である。

図表 2-3-3 アベノミクスの国債残高対 GDP 比の維持を歳出削減だけで達成する場合 5

達成年 2014 年 2015 年 2016 年 2017 年

必要削減額 13.8 兆円 4.5 兆円 7.1 兆円 0.3 兆円

達成年 2018 年 2019 年 2020 年 2021 年

必要削減額 5.7 兆円 2.8 兆円 2.6 兆円 削減なし

出典:財務省「戦後の国債管理政策の推移」「利払費と金利の推移」

内閣府「2009 年度国民経済計算(2000 年基準・93SNA)」

内閣府「第 18 回経済財政諮問会議 資料 1 当面の財政健全化に向けた取組等について―中期財政計画―」

を用いドーマー条件の式で Part K 独自に作成

10

2014 年に消費増税による歳入を考慮すると、赤字削減額が 13.8 兆円から 7.5 兆円に減額

されるものの、その年以降も大幅な削減が必要になる。この結果からわかることは、アベ

ノミクスの財政再建案であるプライマリーバランス削減額 4 兆円という数値は、日本の経

済状況、人口変化から見て現実味が薄い経済成長率を想定したものであるということであ

る。経済成長を 3%の維持は確実に達成できる保証はなく、不安定なものである。つまり、15

経済成長は 3%よりも低く、厳しい設定でプライマリーバランスの削減を考えていくべきで

ある。また、削減額に関しても、今後の社会保障費の増加などを加味して、現実的な目標

を設定していくべきであると考える。

第 4 節 結語 20

安倍政権の財政再建目標に対して、ドーマー条件を用いたシミュレーションを行なった。

安倍政権の財政再建は名目成長率 3%の維持と低金利の継続という、実現可能性に疑問が付

く楽観的な条件を前提としており、実際にはその達成は困難である事を示した。毎年の経

済成長 3%や、歳出 3 兆円から 4 兆円の削減など数値的に現実的ではない前提のもとでの財

政再建は実現されない可能性が極めて高いと私たちは判断し、本稿はアベノミクスを財政25

再建の観点から適切ではないと評価する。そして本稿では、無理な想定に基づいた財政再

建ではなく、将来的に国債残高対 GDP 比安定を図ることを目的とする方が得策である。そ

のためにも実現可能な歳出削減額でプライマリーバランスを均衡させることが現実的であ

る。財政再建を議論する前提として、第 3 章でこれまで財政赤字や国債発行が肥大化して

きた要因を公共選択的に分析し、日本が財政再建するために何が必要なのか検討していく。 30

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第 3 章 公共選択的視点からの財政再建案の検討

第 1 章において示した通り、日本の財政状況は大変悪化しており、財政再建が必要とな

っている。そして第 2 章で述べたように、現行の政策であるアベノミクスについても経済

成長に重きを置いた機動的な財政政策が行われており、厳しい財政にさらに大きな負担を

強いている。そして、アベノミクスの経済成長による財政再建への流れは、設定条件から5

考えて現実的ではないと考えられる。そのため、実現可能で現実的な財政再建案を提示す

る必要がある。

それを考える上で重要なのは、ここまで財政が悪化してきた原因を検討し、その知見に

基づいた政策案を検討することである。そこで本章では、公共選択的な視点から財政が肥

大化し国債残高が増加してきた理由を検討する。そして、これまで肥大してきた財政に対10

してとられていた対策を検討する。そしてそれらを踏まえ、日本の財政再建に参考とする

ため財政再建に成功した諸外国の例を考察する。

第 1 節 なぜ国債残高は増加したのか

日本の財政は、政府が現在に至るまで行ってきたケインズ的な立場からの裁量的な財政15

政策や、財政の政治的配分により、拡大し赤字が累積してきた。民主主義を採用している

日本において、実行される経済政策はその政策形成に政治的な決定過程が含まれている。

そのため、民主的な政治過程においてそれぞれのアクターがどのような選択や意思決定を

し、それが財政支出の決定にどのように影響しているのかを分析する必要がある。

そこで本稿では、各アクターは効用の最大化を追求する合理的な存在であるという公共20

選択的アプローチ方法を用い財政が拡大し悪化した理由を説明する。

まず、国民は自らの効用を最大化するために選択行動を行う。つまり、小さな負担のも

とで多くの便益を得たいと考え、それを実現してくれそうな政治家や政党に投票する。こ

れは、現在の政策の傾向でいえば、増税などの国民の負担の増加を伴う政策なしに景気対

策や手厚い社会保障を望むとういようなことが考えられる。また、国民はそれらの将来的25

な影響よりもその政策の直接的な便益により関心がある。そして、投票する時点での景気

がよければその後のことは考えずにその当時の政権をとる政党に投票する。つまり、国民

は異時点間の最適な行動を必ずしも選択できない近視眼的な特徴を持っており、長期的な

将来の経済状態を考慮して投票することは難しいと考えられる。また、近視眼的ではない

場合でも、自身が将来の負担増加(増税)に加わらないことを合理的に期待して、現在の30

レントを追求する場合もあるだろう。

一方、政治家は当選による自己のレントを追求し、政党としては政権の維持や獲得、そ

の政党の政策目標を果たすために行動する。そのため、国民から支持を集める必要がある。

つまり政治家や政党は、国民が望む少ない負担で多くの便益をもたらすような政策を公約

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し、投票者に負担がかかり反対が出ると考えられる政策は公約しない。また、国民の特徴

として述べたように、与党が政権を維持するためには、その選挙時の景気についても重要

となる。そのため、選挙が行われるたびにその選挙が行われる時期に向けて景気を刺激す

るような拡張的な財政政策をとり、選挙に勝利することを目指す。日本の財政赤字拡大、

国債残高の大幅な累増の大きな要因の 1 つは、政府が現在に至るまで行ってきたケインズ5

政策を通じたバラマキなどの裁量的な財政政策や、政治的配分の結果であると考えられる。

以上のような国民と政治家のそれぞれの行動は、相互作用または相乗効果として財政に

以下の 3 点のような影響を与えると考えられる。

① 国債発行によるケインズ的政策 10

国民は小さな負担で多くの便益を得られる政策を好み投票する傾向があり、当選し政

権を獲得したい政治家や政党は、そうした国民の意向に沿った政策を公約することで選

挙に勝利しようとする。これにより、積極的な政策関与を行い歳出規模が増加するにも

関わらず、増税など負担を要求する政策は行えないため税収は増えない。そして、国債

発行によりそれらの費用負担を賄うことになる。 15

② 財政錯覚

①のように国債発行による費用負担が行われることで、国民は自身の知覚する費用負

担に対しより多くの便益を受けられるため、その便益のコストについて評価を実際より

も低く考える錯覚がもたらされる。

③ 転位効果 20

選挙前に行う景気対策の一環として、一時的に予算化された社会保障関係費などの政

府支出は、選挙後や景気の回復後も削減されず恒久化する。よって、政府支出は増大し

たままとなる。つまり、ピーコック=ワイズマンの転位効果と同様の効果が、選挙に向

けて再選を目指す政党が選挙対策を行う過程でも起こるといえる。

25

本来ケインズ的な政策は、マクロ経済において景気の安定などの公的な目的を達成する

手段として行われる政策であるが、しかし、民主主義的な政策決定と各アクターの相互作

用の中で財政錯覚や転位効果が起きることによって、財政赤字の累増に繋がる政策となり

それらが行われ続ける。つまり、現実の民主主義における政府は、ブキャナンが指摘する

ように、慈悲深い専制君主ではない。 30

また、最近の日本では、衆議院の解散による選挙が頻繁に行われるようになり、これら

の循環の頻度が高まり更なる財政の肥大化を起こしていることも考えられる。また、内閣

総理大臣が頻繁に変わることによって一貫した経済政策の運営が難しくなり、それにより

財政が悪化している可能性が考えられる。これについて、選挙をひとつの期間とした政治

的景気循環を起こしているとも考えられる。 35

つまり国民、政治家が共に近視眼的な行動をとっているため、または合理的な選択とし

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て「負担を将来へ先送り」し続けてきたため、その相互的な影響で裁量的な政策が行われ

ることになり、民主主義的な政治決定過程のもとでは財政は拡大するばかりの政策が継続

して行われると考えられる。これが日本財政の国債残高を累増させてきた原因であると考

えられる。

5

第 2 節 過去の日本の財政への取り組みと問題点

第 1 節において述べた構造的な要因による財政拡大や国債残高累増に加え、バブル崩壊

後の「失われた 20 年」といわれる不況の時代の始まりである 1990 年前半では、税収が減

少するなかで景気対策として合計 6 回の総合経済対策が行われた。これは、財政にとって

は深刻な負担であり国債依存へと繋がった。このような財政の悪化を受けて、これまで日10

本でも財政健全化に向けた取り組みも行われてきたが、財政は現在も悪化を続けている。

そこで本節では、政策提言に向けて、これまでの財政規律に関する政策や法律にはどのよ

うな問題があったのかを整理する。

第 1 項 過去の財政規律への取り組み 15

過去の財政赤字に対する政策について、田中(2004)は日本の基本的な財政ルール・目標と

過去の財政政策をまとめている。以下、それを参考にこれまでの日本の財政再建に向けた

取り組みとその問題点を整理する。

日本には、最も基本的な財政ルール・目標として財政法第 4 条の規定が挙げられる。こ

れは、国の歳出は公債または借入金以外の歳入を財源としなければならないが、公共事業20

や出資金、貸借金の財源については国会の決議を経た金額の範囲内で公債発行や借入金で

賄うことが可能とする規定である。このような均衡予算ルールは現在も存在するが、1996

年から継続的に財政法第 4 条の効力を停止するための法律が制定され、特例公債が発行さ

れてきた。これより、この財政法第 4 条に規定される均衡予算ルールは、財政規律を保つ

ことに寄与していないといえる。 25

また、上記のような特例公債からの脱却を図るために、1983 年以降には概算請求基準と

いわれるシーリングの仕組みが強化され、「マイナス・シーリング」が導入された。この規

定も、日本においては最も重要な支出ルールの 1 つであり、現在も存在するルールである。

しかし、この規定は当初予算をコントロールすることはできても、補正予算には適用され

ないため当初予算では組めない経費を補正予算に回すことによって歳出を拡大することが30

可能となっている。そのため、「マイナス・シーリング」という財政ルールもシーリング機

能は弱められており、財政規律を保つことに寄与していないといえる。

1990 年代以降で財政の健全化が目指されたのは、バブル崩壊後の不況から回復に向かい

だした橋本内閣である。橋本首相は、1997 年には増税や社会保険料の引き上げ、公共投資

の削減などを行い、「財政構造改革法」を成立させた。この財政構造改革法に基づき編成さ35

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れた 1998 年度の当初予算は歳出が抑制され緊縮型の予算編成となっていたが、同時期に金

融システム不安やアジア経済の混乱などの影響を受け景気が後退したことで批判が高まっ

た。そうして 1998 年 5 月には減税や公共投資の増加を盛り込んだ補正予算が成立した。そ

の後、同年 7 月には小渕首相に代わり、財政再建は当面延期とし景気回復を優先させると

いう方針から、財政構造改革法の効力を停止するために「財政構造改革の推進に関する特5

別措置法停止法」が成立し、再び財政赤字が拡大する政策がとられるようになった。そし

て、翌 1999 年には財政構造改革法は廃止されることとなった。その後も景気回復を謳った

政策が行われ国債発行残高は累増していった。

その後、2001 年に小泉首相の政権時に「構造改革なくして成長なし」としてプライマリ

ーバランスの回復など財政健全化の方針がとられるようになった。小泉首相は、中長期的10

なプライマリーバランスの黒字化や歳出総額を一定にする上限制を示したものの、具体的

な策は示されなかった。経済情勢を配慮するあまりに財政運営の具体策に関しては曖昧な

ものとなっていた。そして、この財政再建路線の方針も景気の後退や首相の交代などによ

り継続されることはなかった。

15

第 2 項 過去の財政政策運営の問題点

過去の財政健全化への取り組みについて、第 1 節で述べた公共選択論的視点からの財政

の肥大化や国債残高の累増の理論と合わせて、日本が財政再建を行う上で問題となる点を

明らかにする。これまで、日本においても幾度となく財政健全化に向けた取り組みが行わ

れてきた。具体的には、第 1 項で述べたように予算均衡ルール、マイナス・シーリングが20

挙げられるが、これらは景気の影響や政治的な要因によって失敗に終わってきた。そのた

め、これまでの政策がなぜ失敗に終わってきたのか、政策提言を行うに向けてその問題点

を明らかにしていく。

まず政策の内容ついて、予算均衡ルールについては国の歳出は国会の議決を経れば国債

を発行し続けることが可能となっている点が問題である。国会による国債発行の議決は、25

政治家の当選を目指す行動や官僚の予算最大化行動などの利害関係の影響を受けて、容易

に発行が許される結果となり、国債発行残高は累増してきたと考えられる。そして、シー

リングについては予算の概算請求の範囲を限定するものであり、財政に上限を設ける仕組

みであるが、これが適用されるのは当初予算についてのみであり、補正予算はコントロー

ルできない点が問題であった。この仕組みでは、予算均衡ルールと同様に当初予算に組め30

ない経費も補正予算に回すことで上限以上の予算を組むことができてしまうため、予算均

衡ルールと同様に政治家や官僚の利益追求行動の影響を受けて財政は肥大化してきたと考

えられる。

このように、財政健全化に向けた仕組みに関しては穴が多く、財政が肥大化し国債残高

を累増させる要因である政治家や官僚の行動を制限できていないことが明らかである。つ35

まり、政治的決定過程でなされる財政決定について、それに関わる各アクターの恣意的な

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決定を招く要因を排除できていないという点が問題であるといえる。

次に政策の運営については、景気の変動や首相・政権の交代などの変化に大きな影響を

受けてしまい、中長期的に安定した運営ができてこなかったことがあげられる。これまで

の政策運営を振り返ると、景気に配慮するあまりに一貫した財政健全化の取り組みが実現

されていないと考えられる。景気が上向きだすと財政健全化の動きが起こるものの、いっ5

たん景気が悪化するとすぐに財政再建路線の政策は停止または廃止され、景気回復を目指

した裁量的な財政政策に切り替えられ国債残高は累増し続けてきた。これも、政策の内容

における問題点と同様に、再選や政権与党を維持するために、国民から支持されるように

景気に配慮する恣意的な行動によるものと考えられる。そして、財政の健全化と景気の回

復・上昇のどちら優先するのかは、それぞれその時点の首相や政権によって自由に経済目10

標を設定できる。これは、民主主義を採用している日本において国民に選ばれた政治家や

政権が政策を決定し実行するという点では重要なことである。しかし財政については、た

とえ政権が変化してもリセットされることなく積み上げ式に継続されていくなかで、これ

程までに危機的な状況に面していることを考えれば、良いことばかりではない。第 1 章や

第 2 章で述べてきたように、財政がこれほど逼迫した中で財政再建を行うことは容易では15

ない。このように財政の持続性が危ういなかで、その運営や方針について一貫した財政目

標を掲げ実行することが難しい運営制度であることは問題であるといるだろう。

また、これまでの財政への取り組みの問題点について、内閣府も「中期的な財政運営に

関する検討会 論点整理のポイント」として経済的な見通しの甘さと景気変動の考慮につ

いて以下のように指摘している。これまでの財政再建プランにおいては、楽観的な経済見20

通しを前提として、必要な歳出削減や歳入改革について、正直なことを国民に伝えず責務

を小さくしようとしてきたことが財政健全化を成功できなかった大きな理由である。また、

景気変動を考慮せずに過度に硬直的な財政再建プランを設定してきたことも、景気の変動

や経済ショックに対応できずに財政再建が頓挫し続けてきた理由である。

以上の点を受けて、甘い経済的な見通しの上に、各アクターの恣意的な決定を招く要因25

を排除できていないこと、景気や政権などの変化に対する対応が取られていなかったこと

が、日本の財政再建に向けた取り組みの問題点であったと私たちは考えた。そこで、本節

で明らかにした問題点の改善とともに、財政再建を実現するために日本が行うべき政策と

その運営について検討するため、次節において財政再建に成功している海外諸国の事例に

ついて整理することとする。 30

第 3 節 財政再建に成功した諸外国の取り組み

本節では、第 2 節で明らかにした日本の財政に対する取り組みの問題点とあわせ、日本

が財政再建を実現するために行うべき政策とその運営について検討するために、財政再建

に成功した海外諸国の事例について整理することとする。田中(2011)では、アメリカやイギ35

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リスなど 10 カ国について分析を行っているが、それを参考として、本稿では歳出削減を中

心に行い財政再建を行ったニュージーランドとカナダに注目し以下にまとめる。

① ニュージーランド

ニュージーランドは 1984 年の総選挙による政治的混乱が為替に大きな変化をもたらし、5

経済的な混乱を招くことになった。これを背景に財政再建を進めていくが、ニュージーラ

ンドは景気が減速、悪化する状況の中での財政再建を強いられた。ニュージーランドでの

財政再建で大きな軸となった内容が財政責任法と財政ルールである。まず、財政責任法は

政権を担う政府が透明性の高い財政運営をさせることを目的にしている。具体的には財政

ルール・目標を設定させ、その達成状況を評価する報告書を作成させる。これにより、政10

府に説明責任を課すことで、恣意的な運営が困難になる。目標は「責任ある財政運営の 5

原則」に従い設定しなければならない。この目標は毎年の予算政策書で発表されるが、こ

の原則から外れた政策をとることも可能になっている。このような例外的な政策をとる場

合についても細かく規定されていて、政策は一時的でなければいけないとともに、原則と

異なることを行う理由、原則に戻るためにとる方法や時期を明確にしなければならない。15

これは景気変動や財政が直面するリスクに対応したものである。

ニュージーランドの支出に関するルールはでは、支出キャップが重要である。支出キャ

ップは 3 年間の歳出上限値を決めるもので、単年度予算ではなく、長期的な政策運営をし

なければならない。これにより、総債務は対 GDP 比で 38%から 30%へと減少した。しか

し、2002 年にこの支出キャップは廃止され、「新たなアプローチ」が導入された。「新たな20

アプローチ」では、支出の上限は設定されていない。その理由として、財政黒字の状況で

支出キャップを維持すると政治的な圧力が強くなったからである。支出の上限がなくなる

と政策の自由度は増すが、政治的な力が介入すると財政規律が弱まる恐れがある。

② カナダ 25

カナダは 1970 年代の石油危機で経済成長が低下し、景気後退、法人税率の引き下げで歳

入が減少した。その一方で歳出は増加する財政運営になっていて、慢性的な赤字状態とな

った。しかし 1997 年には財政収支が約 30 年ぶりに黒字になり、2000 年代半ばまではほぼ

黒字を保っている状況になっている。カナダの本格的な財政再建は 1990 年代に入って開始

された。まず大きな枠組みは中期財政フレームとプログラム・レビューである。 30

中期財政フレームの前身は PEMS(Policy and Expenditure Management System)とい

う仕組みである。PEMS は国防、経済開発などの主要政策分野別に支出枠を設定し、その

枠ごとに政府が支出する限度額を決めるシステムである。そして、ある政策を行おうとす

る場合は、その枠内で他の政策の支出を減らすことで予算を確保しなければならない。支

出枠は複数の省庁に跨って設定されているため、省庁間での予算の再分配も行えるが、官35

僚は他の官僚に財源を取られる恐れがあるため、再分配は機能しなかった。また、割り当

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てられた予算も楽観的な経済状況を前提に決められていた。これを改善するために中期財

政フレームが導入された。中期財政フレームは 2 年間の歳出歳入の見通しを立てる。PEMS

で経済状況の見通しが甘かったことから、中期財政フレームでは経済予測を慎重に行い、

不測の事態に備えるため予備費が予算に組み込まれた。予備費は不使用の場合、債務の削

減に充てられる。 5

歳出削減の仕組みはプログラム・レビューが重要だ。プログラム・レビューは全政策を

一律で歳出削減するのではなく、政策に優先順位をつけ、優先度の低いものを削減、廃止

するシステムである。優先順位をつける基準は「マッセの 6 つの基準」と呼ばれている。

基準の内容は以下の通りである。

10

① 公共性の基準(その業務が公共の利益に資するか)

② 政府の役割基準(政府がその活動を行う正当性と必要性があるか)

③ 民営化の基準(その活動をすべてあるいは部分的に民間に移管できるか)

④ 連邦政府の基準(その活動は地方政府でなく、連邦政府の役割として適切であるか)

⑤ 効率性の基準(その活動を引き続き行った場合、どのようにして効率性を改善するこ15

とができるか)

⑥ 費用負担の基準(結果として残った活動は、財政制約下での実行のために資金的に余

裕があるか。余裕が無い場合、どの活動を廃止すべきか)

上記の点に関して、まず各省庁で検討し、それを踏まえ財務省と国家財政委員会事務局20

がトップダウンで削減額を決定する。これらの取り組みにより、カナダの慢性的な赤字は

解消され、2000 年代半ば以降は黒字を続けることが可能になっている。

第 4 節 結語

本章では、国債残高の累増の原因と、財政再建案の検討として過去の日本の政策におけ25

る失敗例と、海外の財政再建の成功事例をまとめた。財政悪化とそれに対する改善のため

には、民主主義のもとで発生する財政錯覚、各アクターの意思決定における恣意性、中長

期的な政策運営が必要であることが明らかになった。また、海外の事例より、財政再建の

ための歳出削減の方法について検討した。それをふまえて、第 4 章において日本が財政再

建により日本経済再生を達成するための政策を提言する。 30

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第 4 章 政策提言

前章を受けて、第 4 章では日本経済再生に向けた財政再建案を提言する。図表 4-1-1 が政

策の概要である。以下の概要をもとに政策提言の詳細を示す。

第 1 節 政策提言の概要 5

本節ではプライマリーバランス赤字削減期間と黒字化期間にわけて政策提言する。

図表 4-1-1 政策期間のイメージ図

Part K 独自に作成 10

第 1 期 国債残高対 GDP 比の収束に向けて

・2026 年まで歳出を毎年 1 兆円削るためにシーリングを設ける。

・各省庁に政策の優先順位リスト作成を義務化し、その情報を国民に公開する。

・政府が新たな政策を行う場合は Pay-as-you-go で行う。

・名目経済成長がマイナスの場合 Pay-as-you-go8国債発行による景気対策を可能とする。

第 2 期 国債残高対 GDP 比の減少に向けて

・プライマリーバランスを均衡させるために前年の歳出額に社会保障費自然増分の

1 兆円を上乗せした額でシーリングを設ける。

・政府が新たな政策を行う場合は Pay-as-you-go で行う。

・プライマリーバランスが黒字になった場合はその黒字分を国債償還に充て国債残高

対 GDP 比を自動的に減少できるようにする。

・経済成長が伸び悩み、プライマリーバランスが赤字になったら赤字補填のために

Pay-as-you-go で国債を発行する。

8 Pay-as-you-go とは政府が新規の歳出拡大・減税を行なう際に必ず予算組み替えや増税でその分の財源を

確保することである。

0

1

2

3

4

5

6

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

国債残高対

G

D

P

第2期

プライマリーバランス

黒字化期間

←プライマリーバランス均衡

2027年(予定)

第1期

プライマリーバランス

赤字削減期間

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第 1 期の政策目標は毎年の歳出削減を達成し国債残高対 GDP 比を収束させること、第 2

期の政策目標はプライマリーバランスを黒字化し、国債の償還を行うことで国債残高対

GDP 比を低下させていくことである。

第 1 期における削減額は以下のように設定する。シミュレーションは第 2 章と同様のド

ーマー条件と前提を合わせる。プライマリーバランスの均衡を考えていく上で考慮しなけ5

ればならない点は、経済成長による税収の増加と社会保障費の増加分である。前提となる

経済成長率は 1.2%、経済成長による税収弾性値9は 1.1、社会保障費の増加は 1 年で約 1 兆

円10として計算している(図表 4-2-1)。これは国民の将来の不安を払しょくし、非ケインズ効

果を発生させるため、税収の自然増でまかない社会保障費の自然増分は削減はしない。ま

た消費税は 1%当たり 2.5 兆円11の税収増加として計算した。 10

図表 4-1-1 プライマリーバランスの将来推計

出典:内閣府「第 18 回経済財政諮問会議資料 当面の財政健全化に向けた取組等について-中期財政計画-」

財務省「経済成長による財政収支の改善」 15

財務省「日本の財政を考える」 より K Part 独自に作成

経済成長分の税収増と毎年の社会保障費の増加分を考慮した場合、毎年 1 兆円を削減額

として設定することで 2027 年にプライマリーバランスが均衡する計算になり、赤字が解消

される。 20

9 税収弾性値は経済成長 1%のとき税収は何%増えるかを示した値であり、1.1 という数値はバブル崩壊以

降の平均で、財務省「経済成長による財政収支の改善」を参考にした。 10 財務省「日本の財政を考える」より引用 11 横田信武(2013)「消費増税における逆進性緩和策」

プライマリーバランス赤字額

消費税増税分 社会保障費増加分 削減額 (兆円)

2013 43.1 66.1 -23.02014 51.3 7.5 66.1 1 1 -14.82015 57 5 66.1 1 1 -9.12016 57.8 66.1 1 1 -8.32017 58.5 66.1 1 1 -7.62018 59.3 66.1 1 1 -6.82019 60.1 66.1 1 1 -6.02020 60.9 66.1 1 1 -5.22021 61.7 66.1 1 1 -4.42022 62.5 66.1 1 1 -3.62023 63.3 66.1 1 1 -2.82024 64.2 66.1 1 1 -1.92025 65 66.1 1 1 -1.12026 65.9 66.1 1 1 -0.22027 66.7 66.1 1 1 0.62028 67.6 66.1 1 1 1.52029 68.5 66.1 1 1 2.42030 69.4 66.1 1 1 3.3

年税収(兆円) 支出(兆円)

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第 2 節 政策の理念

本稿は、第 3 章を受けて「民主主義のもとで財政拡大を防ぐための恣意性を排除したル

ール作りと、景気や首相・政権の変動を受けても継続的に一貫した政策が行われる運営方

法を策定する」という理念のもと日本経済再生のための財政再建案の提言を行う。

日本の財政を健全化するためには、「民主主義のもとで財政拡大を防ぐ」という点を意識5

する必要がある。これまで、国債発行によるケインズ的なマクロ政策を行うことで、国民

には財政錯覚が起こっていた。そして、民主主義的な政策決定過程を含む財政において、

転位効果をもたらし国債発行残高は累増してきた。つまり、民主主義のもとでは財政が拡

大するような各アクターの恣意性とその相互作用を排除した政策が運営される必要がある。

これは、過去の日本の財政への取り組みからも明らかである。財政に関するルールを定め10

るも、景気の考慮などの名目のもと抜け穴が多く存在し、民主主義の過程で生じる各アク

ターの恣意性を排除しきれておらず、実際には効力のない政策となっていた。

また、「景気の変動や首相・政権の交代に対応し一貫した政策運営がされていない」こと

について考慮する必要がある。これまでも述べていたように、現在の日本の財政状況は非

常に悪化しており、数年の間に財政再建を実現することは不可能である。そのため、財政15

再建を行う場合は複数の首相や政権にまたがって中長期的に行う必要がある。しかし、こ

れまでは選挙対策として国民の支持を集める政策を行う過程で、国民に負担を求める再建

路線の政策は頓挫してきた。

これらの経緯より日本の財政再建には、民主主義のもとで財政拡大をふせぐための恣意

性を排除したルール作りと、景気や首相・政権の変動を受けても継続的に一貫した政策が20

行われる運営方法を策定することが必要であると考え、上記の政策理念を定めることとし

た。

第 3 節 ルールの詳細

本節では、第 1 期と第 2 期に適用されるルールの詳細を述べる。ルールは①予算のシー25

リング、②景気変動による歳出削減額の柔軟的な変動、③国債発行ルールの 3 つである。

第 1 項 シーリングの方法

第 1 期の具体的な削減方法として、予算の要求・編成方法を検討する。現在は各省庁が

必要な額を算出し、財務省との折衝・承認を得て、内閣で予算案として審議される。この30

方式では、各省とも政策の重要性を主張して予算の確保・増大を要求するため予算削減の

インセンティブがなく、公共選択論的に見ても歳出は拡大する一方である。歳出を自動的

に削減するには、各省庁が要求する額にシーリングをかけることが必要である。これまで

のシーリングは当初予算にのみかけられ、当初予算に組み込めなかったものは補正予算に

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入れていた。このため、シーリングは初期段階での形式的なものとなっていて、効果は薄

かった。本稿のシーリングは自動的に歳出削減する仕組みを導入する点が、以前との違い

である。この取り組みはニュージーランドの事例にもあるように、歳出上限額を財務省か

らのトップダウンで決める方法である。これにより、各省庁は決められた額の範囲内で要

求額を決めなければならない。また、財務省は各省庁から要求された額に対して、十分に5

審議する。カナダの例を参考にすれば、各省に政策に優先順位をつけて予算要求すること

を義務化することで、優先度が低い政策を財務省の判断で削ることが可能になる。このよ

うに、省庁ごとに歳出上限設定と政策の優先度を明確にすることが必要である。そして財

務省の行動を透明化するために、政策の優先順位を国民に公表させることを義務づける。

第 1 期、第 2 期の共通ルールとして、各省庁が新規の政策を行う場合、Pay-as-you-go の10

もと新たな財源を確保しなければならない。方法は予算の組み替えにより新たな財源を見

つけるか、国債発行を行う。ただし、この国債は増税など、国民の負担によって償還させ

ることを義務化する。しかし政治家は増税により国民からの支持が下がることを恐れると

考えられるため、特に第 1 期においては極力予算の組み替えのみで財源を確保することが

予想できる。 15

第 2 項 景気変動への対応

景気変動を考慮しなければ財政再建ルールが途中で頓挫する可能性がある。もしくは途

中で中止できないルールを設定した場合、より大きな景気の悪化を招く可能性がある。一

方で、景気を過度に考慮すれば財政規律が緩み、財政再建までの期間が長くなる問題も考20

えられる。本項では第 1 期の歳出削減期において、名目経済成長率を基準に景気変動への

対応を考えていく。

経済成長率に依存して毎年の削減額を弾力的変動させる方式は、財政規律の弛緩や恣意

的な運用を招き、プライマリーバランス均衡達成は後回しになると考えられる。よって、

本稿では経済成長率が 1.2%以上のときは弾力的に行い、1.2%を下回る場合は 1 兆円の削25

減をするルールを提案する。

経済成長率が 1.2%を超えた場合の削減額を以下に示す。左辺は経済成長率に対する税収

である。右辺のgはその年の名目経済成長率、xは削減額である。式より経済成長率が 1.2%

を超えた場合は経済成長率を 1.2 で割った額を削減する。民主主義では国民の支持により政

治家は当選する。そのため、政治家は国民に反対されない政策を行う。本来、不況期は公30

共事業などで歳出を増やす一方、好況期に増税等を行い不況期の借金を返済するはずであ

る。しかし、追加的な負担を嫌う国民の支持を政治家は得たいため、政治家は好況期の黒

字分をプライマリーバランスの赤字改善に充てることができない。好況期の歳出削減を政

治家が裁量的に行うと、削減は困難であるため、恣意性にとらわれないよう自動的に歳出

削減額を決定する制度を導入すべきである。 35

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30

1.2:1=g:x ⇒ x=𝑔

1.2

経済成長率が 1.2%以下の場合は 1 兆円を削減する。ただし名目経済成長率がマイナスに

なった場合は国債発行を伴う Pay-as-you-go によって経済対策を可能とする。

図表 4-1-2 削減額の決定方法 5

名目経済成長率(g) 削減額

g > 1.2 g/1.2

1.2 ≥ g ≥ 0 1 兆円

0 ≥ g 1 兆円

(国債発行による景気対策を可能とする)

Part K 独自に作成

第 3 項 国債発行の条件

第 1 期において、プライマリーバランスの赤字分以外に、景気対策として国債を発行す

る場合のルールを設定する。名目経済成長率が 0%を下回ったときは国債発行による景気対10

策を行なうことを可能にする。ただし、この景気対策は Pay-as-you-go で行なう。この景気

対策で発行された国債は 10 年以内に償還をしなければならない。この 10 年の期間設定は

10 年国債を想定しているからである。

国債発行は内閣府が発表する四半期の GDP 速報を用いて、マイナス成長であれば発行を

可能にする。発行する場合は、①発行する金額、②何によって償還するか、③返還期間、15

を明示しなければ発行はできない。

②の「何を財源として国債を償還するか」は政治家の行動によって次のような最適な優

先順位になる。まずは現行で行われている歳出の削減によって財源を賄う。それが不可能

であれば増税を行う。政治家は初めに歳出の削減を行うインセンティブを持つ。なぜなら、

歳出削減から財源を得られなければ増税をすることになり、国民への追加的な負担を要請20

することになる。つまり、国債を発行する条件として Pay-as-you-go を設定することで政治

家は歳出削減を得られるインセンティブを持つ。

第 2 期において、プライマリーバランスが均衡した後の期間は、経済成長による税収の

伸びで社会保障関係費の増加分をまかなわなければならない。もし税収が社会保障費の伸

びより低かった場合、プライマリーバランスの赤字が発生する。この場合、国債発行によ25

ってプライマリーバランスの赤字を補填させることを可能にする。ただし、この国債は

Pay-as-you-go の原則で、第 1 期と同様のルールを用い、①発行する金額、②どこを増税し

て返還するか、③返還期間を明示しなければ発行できない。

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第 4 節 中長期的に財政ルールを守らせる方法

財政再建は中長期にわたる改革であり、数年で達成はできない。政策を中長期的に行お

うとすると、その間に選挙を通して首相の交代や政権交代などが必ず行われる。政権が交

代しても、どの政党も必ず財政再建という路線から外れてはいけない。本節では、各政党

が財政改革を継続する制度について述べる。 5

第 1 項 法律の導入

第 3 章で述べたように民主主義では政府規模は大きくなるが、それに見合った国民負担

は実施されない。財政再建のためのルールを作成したとしても、それが効力を持たなけれ

ば効果は十分に発揮されない。つまり財政再建ルールは政府の目標としておくのではなく、10

法律として厳格に設定されるべきであり、拘束力を持たせることで選挙における政治家や

政党の恣意的な影響が及ぶ決定によって、政策が頓挫することを防ぐ必要がある。特に財

政法にある国債発行ルールは、現行のままだと国債の増発を生みかねない。これらの法律

を強化し Pay-as-you-go 原則を盛り込むなどの改善が必要になる。

15

第 2 項 公約の遵守

現在、政党は選挙の度に公約を掲げ、それをもとに国民からの支持を集める。しかし、

公約通りに政策を行わなくてもよいというのが現状である。財政再建にかかわる政策やル

ールが継続されるためには、政治家や政党は財政再建ルールの予算の枠内で公約を作らな

ければならない。さらに、公約を破ることができない法律を組み込む。これにより、政権20

交代が起きても各政党は財政再建を行う。また、各政党や政治家から財政規律を保った公

約が掲げられるため、選挙の度に国民も財政再建への意識を高めることができる。

第 5 節 結語

本章では財政再建に向けての財政ルールを政策提言として述べた。国債残高対 GDP 比を25

収束させる期間は歳出削減を、国債残高対 GDP 比を減少させる期間は自動的にプライマリ

ーバランス黒字分を国債の償還に充てるルールを定めた。さらに法律を導入することや政

治家に公約を守らせることで、これらのルールは中長期的に守られる。これにより財政再

建を達成でき、日本経済再生への足がかりにする。

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終章

私たちは、公共選択学会学生の集いのテーマ「日本経済再生のために、いかにマクロ経

済政策を運営すべきか」を受けて、財政再建を行い国債発行残高を減少へと向かわせるこ

とが、日本経済再生として「失われた 20 年」からの脱却を目指す第一歩であると考え、本

稿を作成した。そして、国債残高対 GDP 比を均衡させるために、歳出削減を中心としたプ5

ライマリーバランスの均衡と国債残高対GDP比を減少させるための中長期マクロ財政運営

ルールの導入を提案し、その条件と実現可能性について検討を行った。

日本は国債残高が諸外国に比べて大きく、対 GDP 比でみてもその値は高い水準だ。財政

再建をせずに、財政錯覚などで今後の政府の国債発行による歳出が増加していくと、財政

問題はより深刻になっていく。2013 年の時点でのプライマリーバランスは約 23 兆円の赤10

字であり、この赤字を解消することが財政再建への第 1 歩になる。本稿は毎年の歳出削減

額を景気考慮した上で設定し、削減をルール化することで政治家の恣意的な行動により歳

出規模が拡大してしまうこと避けることができる。さらに、毎年の歳出削減を達成しプラ

イマリーバランスが黒字へ転換して以降は収支均衡ルールを導入することでプライマリー

バランスの赤字発生を抑えることができる。今まで国債発行に関するルールは存在したが、15

十分に機能していたとは言い難い。償還財源などの見通しを十分に立てないまま国債を発

行してきたことが国債残高の累増を招いた。このことから、Pay-as-you-go の原則で国債を

発行する制度を構築する必要があるため、収支均衡ルールを提言した。これらの提言をす

ることで、過去 20 年近く続いてきたプライマリーバランスの赤字は解消、そして黒字に転

換した状態をすることで累増してきた国債残高の減少も可能となる。 20

このように財政再建をすることで、公共選択学会学生の集いのテーマにある「日本経済

再生」を達成できる環境が整う。特に財政再建による非ケインズ効果による経済成長が日

本でも発生すると言われていて、「失われた 20 年」から脱却できると考えられる。

しかしながら、この政策を実施するにあたって課題も残された。政策の大枠として毎年

の歳出削減を提言したが、歳出削減に向けて、社会保障費や地方交付税など、どの分野で25

削れるか、どの分野を効率的にできるかという点には触れてこなかった。特に社会保障費

は歳出のうち最も大きな割合を占めており大幅な制度改革が求められるだろう。本稿での

歳出削減目標を達成するためにも、各事業における効率化は必要であり、各分野における

効率化や制度改革は今後の研究課題としていく。

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2013 年 10 月 21 日

東洋大学中澤ゼミナール 3 年

Part K

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